核の影は、いまも行政の奥底に潜んでいる 高橋博子先生「核へのレジスタンス」を聴いて

さとうしゅういち

◆核の影は、いまも行政の奥底に潜んでいる

広島が一年で最も静かに、そして深く息をする日が来た。
だが、静けさの底には、いまだ言葉にされない「構造」が沈んでいる。

今年の「8.6ヒロシマ平和の夕べ」で、高橋博子・奈良大学教授(元広島市立平和研究所研究員)は「核へのレジスタンス」と題して講演した。
その内容は、私たちが知っているつもりで知らされてこなかった“戦後日本のかたち”を、史料の裏付けとともに突きつけるものだった。

◆ミクロネシアは“解放”されていないまま核実験場にされた

米国は1944年、日本の委任統治領だったミクロネシアを占領した。
だが国連の信託統治領となったのは1947年。
つまり、国際法上の手続きが整う前に核実験を開始したことになる。

ビキニでの1946年の原爆実験。
住民は「解放」ではなく「軍事利用」の対象となり、米兵すら除染作業で被ばくした。
核の影は、戦争が終わった瞬間に消えたわけではない。

◆第五福竜丸だけではない。高知の漁船も、全国の漁民も被ばくした

1954年のビキニ水爆実験。
第五福竜丸の名は広く知られるが、実際には 高知県の漁船を含む多数の船が被ばくしていた。
延べ千隻規模とも言われる。

だが、米国は情報を隠し、日本政府は追随した。
高橋教授によれば、米側資料に基づく情報公開請求を外務省に行っても、「文書が存在するかどうかも答えない」という。
これは、広島県庁呉支所の虚偽公文書作成・公益通報つぶし事件での「存否応答拒否」と同じ構造だ。

核の影は、行政の奥底に沈殿し、今も形を変えて現れる。

◆戦前は“原爆投下は国際法違反”と抗議し、戦後は“残留放射能は大したことない”へ

1945年8月10日、日本政府は米国に対し「原爆投下は国際法違反」と抗議した。
ところが戦後になると、残留放射能の影響を過小評価する立場へ転じた。

理由は単純だ。
米国が残留放射能を認めれば国際法違反が確定する。
だから米国は否定し、日本政府は追随した。

その結果、被爆者の被害認定は極端に狭められた。
そして、広島のデータを基準にした国際的な被ばく基準は、福島第一原発事故の評価にも引き継がれた。

核の影は、基準となり、制度となり、いまも人々の生活を左右している。

◆戦犯の大量釈放と核被害の過小評価は同時進行だった

1950年代、日本の戦犯は次々と釈放された。
同じ時期、ビキニ事件は「政治決着」とされ、米国の法的責任は棚上げされた。

戦犯助命のために、核被害が軽んじられた。
高橋教授の史料は、その構造を裏付ける。

核の影は、政治の取引材料にされ、被害者の声は置き去りにされた。

◆広島の行政にも残る“核の影”

本紙が経験した、広島県庁呉支所の虚偽公文書作成・公益通報つぶし事件についての情報公開請求に対する「存否応答拒否」。
これは、核被害の資料をめぐる外務省の対応と同じ構造だ。

核の影は、行政の奥底に沈殿し、
「都合の悪い事実は存在しないことにする」という文化を生み続けている。

◆広島は、核の影を見つめ続ける街であるべきだ

広島は、核の影を最も深く知る街だ。
だが、その影は過去のものではない。
行政の構造に、国際政治の力学に、そして被害者の声の扱われ方に、いまも潜んでいる。

高橋博子教授の講演は、
「核へのレジスタンス」とは、
過去の記憶に向けてだけではなく、
現在の政治・行政の構造に向けてこそ必要だ
ということを教えてくれた。

広島が静かに息をするこの日、
私たちはその影を見つめ直す責任がある。

※本稿は、さとうしゅういちブログ(2026年8月6日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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【お知らせ】

来る11月1日(日)午後1時より高橋博子さんの講演会が、母校の同志社大学にて開催されます。会費無料、同志社OB/関係者でなくてもご自由に参加できます。多くのご参加をお願いいたします。

時:2026年11月1日(日)午後1時より

所:同志社大学京田辺キャンパス
  知真館3号館(TC3)202教室

講師:高橋博子さん(同志社OB)

テーマ:反原発問題の現在(仮)

主催:同志社大学学友会倶楽部
   ホームカミングデー講演会実行委員会
  (連絡先:鹿砦社・松岡まで)

※具体的な内容は後日お知らせいたします。
よろしくお願いします。

ロシア高官が言及した「日本がロシアにもたらす脅威」の高まり

アンドリュー・コリブコ

ロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官が、日本の安全保障政策に対する警戒感を強めている。米国の短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」の日本への一時配備や、ウクライナとのドローン技術協力が進めば、千島列島やサハリン、太平洋艦隊司令部のあるウラジオストクが脅威にさらされる可能性があるとの見方だ。こうした動きは、ロシアと中国、北朝鮮の軍事・安全保障協力を加速させる可能性もある。一方で、日露関係改善の余地も残されている。日本をめぐる北東アジアの新たな安全保障構図と、その行方を左右する米国の思惑について、アンドリュー・コリブコが解析する。

※   ※   ※   ※

日本が米国の短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」を一時的に配備していることに加え、ウクライナの最新鋭ドローン技術に関心を示していることは、千島列島(クリル諸島)、ウラジオストクにあるロシア太平洋艦隊司令部、そしてエネルギー資源が豊富なサハリンにとって、大きな脅威になり得る。

アジア太平洋地域を担当するロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官は7月下旬、タス通信のインタビューに応じ、日本がロシアに与える脅威が高まっているとの認識を示した。

プーチン大統領の側近であるニコライ・パトルシェフは昨年末、「日本はアジアにおける米国の政策を推進するうえで、これまで以上に大きな役割を担うようになる」との見方を示していた。また6月上旬には、「日本とフィリピンは中国を封じ込めるうえで、より大きな役割を担うことになる」との分析も示されている。その役割には、米国のミサイルを国内に配備することも含まれる。

こうした動きに関連してルデンコ氏は、米国との演習の際、日本が短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」を一時的に配備したことを非難した。こうした配備はすでに2度目だとして、

「これに対して、われわれが対抗措置を取らないということは決してない」と警告した。

さらに、「われわれは、アジア太平洋地域の平和維持をめぐり、中国との連携を強化している」とも述べた。

ただし、ここではロシアと北朝鮮の緊密な軍事関係については触れられていない。両国は相互防衛を定めた条約も新たに結んでいる。

ルデンコ氏はさらに、「日本のドローンメーカーと、ウクライナの戦闘用ドローン開発企業との協力がどのように進展しているか、われわれは注視している」と語った。

この発言の1週間足らず前には、ジャパン・タイムズが、日本がウクライナのドローン生産能力の拡大に投資する可能性があると報じている。その見返りとして、日本がウクライナの最新ドローン技術を利用できるようになる可能性があるという。

こうした能力は、おそらく主として中国や北朝鮮を念頭に置いたものだろう。しかし、ロシアにとっても深刻な脅威になる可能性がある。

というのも、日本は第二次世界大戦後にロシアが実効支配している島々について、ロシアが「南クリル諸島」と呼ぶ一方、日本は「北方領土」と呼び、ロシアによる領有を認めていない。この領土問題は、日露両国が平和条約を締結できていない大きな理由となっている。

さらに、日本海を挟んだ対岸には、ロシア太平洋艦隊の司令部が置かれているウラジオストクがある。

したがって、日本がウクライナからドローン技術を獲得すれば、千島列島、ウラジオストク、そして豊富なエネルギー資源を持つサハリンが、その攻撃可能範囲に入る可能性がある。

記事の見方では、日本が将来、米国のタイフォン・ミサイルシステムを交代制で受け入れるようになり、さらにウクライナから取得したドローン技術を本格的に導入すれば、日本はロシアを取り囲む「防疫線(cordon sanitaire)」の北東アジア方面を担うことができる。

【黒薮注】防疫線:本来は衛生学上の用語で、ここでは軍や警察など公権力が出入りを制限する線を意味する。

筆者は、この「防疫線」を第2次トランプ政権が過去1年間にロシア周辺に構築してきたものだと捉えている。

これに対してロシアは当然、中国や北朝鮮との軍事・安全保障面での二国間関係をさらに強化する必要があると考えるだろう。地域の脅威が大幅に高まれば、ロシア・中国・北朝鮮の3か国による安全保障協力の枠組みを模索するところまで進む可能性もある。

一方でルデンコ氏は、日露関係を修復するためには、まず日本側が行動を起こすべきだというロシアの立場も改めて示した。

日本にとっても、そうする理由はあるかもしれない。前述のようなロシア・中国・北朝鮮の軍事協力強化が現実になれば、日本自身の安全保障にとっても、日本がロシアにもたらそうとしているのと同程度の脅威になり得るからだ。

この記事が6月にも指摘していたように、ウクライナ紛争が政治的な形で終結し、それに伴って対ロシア制裁が段階的に解除されることになれば、天然資源が豊富なロシア極東への投資機会が、日本や「Quad(クアッド)」諸国に開かれる可能性がある。それが日本にとって、ロシアとの関係改善を進める経済的な動機になるかもしれない。

【黒薮注】Quad(クアッド):日本、アメリカ、オーストラリア、インドで構成

ただし、日本の外交政策は米国の方針から強い影響を受けているため、米国の了承なしに日露関係が現実的に改善する可能性は低い、と筆者はみている。

そのため最終的な問題は、米国がどちらの道を選ぶのか、という点に行き着く。

米国は、日本に北東アジアで積極的にロシアを封じ込める役割を担わせるのか。その場合、ロシア・中国・北朝鮮の軍事・安全保障協力がさらに強化されるという代償を伴う可能性がある。

それとも、そのような事態を未然に防ぐため、日露関係の改善を促すのか。

米国がどちらを選択するにせよ、その影響は今後数十年にわたって続くことになるだろう。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月15日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/a-top-russian-diplomat-touched-upon

釜ヶ崎 ── 野宿者排除をどうして笑って見れていたのか?

尾崎美代子

2019年3月31日、釜ヶ崎のあいりん総合センターが(以下「センター」、労働者の就労場所、野宿者、生活困窮者らが昼間安心して寝たり、シャワー使ったり、洗濯したりできた場所) 2019年3月31日シャッターを閉め閉鎖されそうになった。シャッターを閉めるため、昼間センター内で横になって休んだり、シャワー浴びたり、洗濯していた野宿者らが強制的に排除されそうになった。労働者や支援者が多数集まり、「シャッター閉めるな」と声をあげ、当日の閉鎖は叶わなかった(その後自主管理を続けたが、4月24日強制排除され、現在は解体工事が進む)。

その際、センター敷地内の外側には多くの「見物人」がいた。もちろん「おっちゃんら、どうなるんやろ」と心配した人もいただろう。その中に明らかにニヤニヤ笑っている人たちがいた。一般の人ではない。普段、釜ヶ崎労働者の生活や権利を守ろうと主張する人たちだ。

この間、釜ヶ崎で起きたある問題をきっかけに、あのとき彼らが笑っていたのか、笑ってなかったのかが問題になったそうだ。その話し合いに私は出席していないため詳細はわからない。ただ、話し合いに参加した一人が私の店にきて「尾崎さんはあの時どう思った?」と聞いてきた。「どう思うも何も、だから私は怒ってちゃんと彼らの顔を撮影してもらったわよ」という。「ええ?」と驚く彼女。そして「どうゆうこと?」

中で「シャッター閉めるな」と声を上げる労働者、野宿者、そして私たち支援者を、センターの外から笑ってみている人たちがいた。怒った私は、16ミリ映画「月夜釜合戦」を撮った佐藤零郎監督の傍に行って、「レオ君、彼ら酷いやろう?撮影してくれない?」と頼んだ。レオ監督も「ひでえな」と言って「はなまま、カメラは彼が回している」とある男性を指さした。その男性が、レオ監督の「月夜釜合戦」で撮影を担当した板倉善之さんだった。私は板倉さんの傍に行って、「あそこでニヤニヤ笑っている人たちを撮影してて」と頼んだ。その後、私は板倉さんがとった映像を確認することはなかった。見るのも嫌だったし、それを何かに使うとか、当時は関係なかったから。

その様子が、今、問題になっているという。あの日ニヤニヤ笑っていた人たちが、「笑ってない」と否定したそうだ。だったら……と私は板倉さんに連絡した。「板倉さん、あの日の映像をチェックしてみて。でも相当長いからゆっくりでいいよ。今使うとかいう話ではないから」と伝えた。「了解しました」と板倉さん、それから数時間後、その箇所を切り取った映像が送られてきた。

ばっちり笑ってますやん。

まあ、それ自体がどうのこうのではない。その他多数の人も映っているため、ネットで公開するとかではない。ただ、何かの時には証拠で出せるのではないか。

彼らが、「よそもの」と呼び続ける私たち支援者を「ばかなことやっている」と笑うのは勝手だ(ちなみに30年近く釜ヶ崎で店をやってる私も「よそもの」認定。長くいるか、来たばっかりかが活動の正当性を決める訳ではないが)。いくらでも笑ってくれ。しかし、そこには野宿者も労働者もいるのだ。何故あんな風に笑えたのか。野宿者や生活困窮者が生活の場を失うことがそれほど面白おかしいことなのか? 彼らも闘いの場では、「労働者が安心してくらせる釜ヶ崎を作ろう!」などのスローガンを掲げていたではないか! しかし、そこに彼らと意見が違って、大阪維新の会が進める西成特区構想に反対しようと訴える私たちがいると邪魔だというのか? 大笑いして闘いを否定しろとでもいいたいのか!それこそ、絵にかいたようなダブルスタンダードではないのか!

まあ、笑っていたとはいえ、竹中直人の芸(竹中直人の代表的な持ちネタ「笑いながら怒る人」は、顔は満面の笑顔でありながら、声や言葉づかいは「バカヤロー!」「ふざけるな!」と激しく怒るという、表情と感情のギャップが強烈なインパクトを与える伝説の芸)と同じで「笑いながら怒ってるんですわ」と言われたらそれまでだが……。

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

KorybkoからMAGAへ ―― 重要な論点に関するロシアの政策を手短に整理する

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

MAGA支持者の間で「ロシアは自分たちが反対する勢力を支持している」との見方が広がっているとして、地政学アナリストのアンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)氏が反論する。中国やイラン、イスラエル、ウクライナなどを例にロシア外交の実際の立場を整理し、その誤解が生まれた背景について自身の見解を示している。

※   ※   ※   ※

私は、トランプ氏がエスカレーターを降りて出馬を表明した頃から(いくつか政策面で意見の違いはあるものの)MAGAの支持者であり、同時に「ロシア人ではない親ロシア派」であることにも誇りを持っている。そのため、MAGAの仲間に向けてロシアの政策に関する事実を整理し、新たに広まりつつある誤った認識を正したいという特別な責任を感じている。

ローラ・ルーマー氏のウクライナ訪問とゼレンスキー大統領へのインタビューは、この18か月ほどMAGAの間で進んできたロシア離れとウクライナ支持の流れを象徴する出来事だった。(黒薮注:ローラ・ルーマー=米国の保守派の政治家・コメンテーター)

彼女の行動には、タッカー・カールソン氏やキャンディス・オーウェンズ氏との対立といった個人的な動機も多少あったのかもしれない。しかし、ウクライナを強く批判する立場から熱心な支持者へと転じたことは、トランプ氏がウクライナを前面に立てた新たな「消耗戦」を通じて、ロシアに対して「エスカレートしてから緊張緩和を図る」という戦略を進めていることと軌を一にしている。つまり、もっと大きな変化が起きているということだ。

私は以前、「MAGAの一般的な支持者は、プーチン大統領やその周囲の人々が、自分たちの反対するもの――左派思想、イスラム主義、イラン、そして『MAGAの異端派』など――を支持していると考えるようになった」と指摘した。その理由は別の記事で説明している。しかし、この認識は事実ではない。ロシアとアメリカはすべての問題で一致しているわけではないが、ロシアはアメリカと和解できない敵でも、まして現在そのように描かれているような潜在的な敵国でもない。

そこで本稿では、MAGAにとって重要な論点について、ロシアの政策を手短に整理する。目的は、MAGA支持者にロシアの政策を支持してもらうことではない。実際にロシアがどのような政策を取っているのか、そして、なぜそれが場合によってはアメリカの政策と食い違うのかを理解してもらうことにある。

この記事でMAGA全体の対ロシア観が変わるとは思っていないし、トランプ氏が最近の対ロシア強硬姿勢を改めるとも考えていない。それでも、事実を知っておくことには意味がある。

◆中国

ロシアと中国は戦略的パートナーだが、相互防衛同盟を結んでいるわけではない。両国は、西側以外の国々がより大きな発言権を持つ国際秩序を目指しており、そのため、そうした流れを阻止しようとするアメリカの政策に共に反対している。

とはいえ、両国の立場が完全に一致しているわけでもない。ロシアは地域の勢力均衡を保つため、中国への牽制の一環としてインドに武器を供給している。一方、中国は西側による対ロシア制裁の一部を非公式に順守しながら、ウクライナにはドローンやその部品、光ファイバーを供給している。

◆イラン

中国と同様、イランもロシアの戦略的パートナーだが、相互防衛同盟を結んでいるわけではない。実際、ロシアは2015年から2024年まで続いたシリア作戦に先立ち、イスラエルと軍事的な調整協定を結んだ。この協定により、イスラエルはロシアの妨害を受けることなく、イラン革命防衛隊(IRGC)、ヒズボラ、シリア・アラブ軍、およびその同盟勢力を空爆することができた。これもロシアによる地域の勢力均衡政策の一環だった。

ロシアはこれまでイランに武器を売却したことがあるが、その目的は抑止力の維持に限られており、戦闘が続いている最中に供給したことはない。

◆イスラエル

ロシアとイスラエルは、ときに互いを厳しく非難し合いながらも、現在も緊密な関係を維持している。その証拠に、イスラエルはロシアが公式に指定する「非友好国」にさえ含まれていない。これは、イスラエルが西側による対ロシア制裁への参加を拒否したためである。

プーチン大統領自身も、生涯を通じてユダヤ人に好意的な立場を取ってきた。2000年から2018年までのクレムリン公式サイトに掲載された発言からも、それはうかがえる。また、ロシア人とイスラエル人はディアスポラ(離散共同体)による結びつきがあるとして、両者を「真に一つの家族」と表現したこともある。

◆ハマス/パレスチナ

ロシア政府は、2023年10月7日のハマスによる攻撃を公式にはテロ行為と位置づけている。一方で、同組織の政治部門との関係は維持している。またロシアは、国連安全保障理事会の関連決議に基づき、1967年の境界線に沿った独立したパレスチナ国家の樹立を支持している。これは世界でも広く見られる立場である。

さらに、イスラエルは他国と比べてもロシアのこうした姿勢を比較的好意的に受け止めており、ナフタリ・ベネット元首相は2021年、プーチン大統領を「イスラエル国家の真の友人」と評した。

◆湾岸諸国

アラブ首長国連邦(UAE)は、この地域におけるロシア最大の貿易相手国であり、対外取引の仲介役として、西側の制裁圧力を和らげる代替の利かない存在と広く見られている。ロシアはサウジアラビアとも緊密な関係を維持しており、OPECプラス(OPEC+)を通じて世界の原油価格の調整で協力している。そのほかの湾岸君主国とも良好な関係にある。

こうした事情から、ロシアは戦闘が続いている間はイランに武器を供給しようとはしない。自国の兵器が湾岸諸国との戦闘に使われ、築いてきた関係を損なうことを望んでいないからだ。

◆ウクライナ

「アンカレッジの精神(Spirit of Anchorage)」と呼ばれる構想では、トランプ氏がゼレンスキー大統領にドンバスからの撤退を受け入れるよう働きかければ、プーチン大統領は停戦に応じる意向を示していたと報じられている。

それ以前、プーチン大統領は、係争地域すべてからウクライナ軍が撤退しない限り停戦には応じないとしていたため、これが事実であれば和平に向けた大きな譲歩だったことになる。しかし、トランプ氏は何らかの理由で、この非公式の約束を撤回したという。

また、プーチン大統領は最近、NATO領内にあるウクライナの兵站拠点への攻撃を求める強硬派の意見も退けた。その結果、第三次世界大戦につながりかねない事態は回避されたとしている。

◆EU/NATO

ロシアは、EUがウクライナと連携し、トランプ氏に働きかけて「アンカレッジの精神」に基づく合意を撤回させたと考えている。ロシアはEUを攻撃したり、まして敵対的な住民を占領・支配したりすることを望んでいない。

その主な目標は二つある。一つは、制裁を解除してエネルギー分野の関係を回復すること。もう一つは、NATOとロシアの間で第三次世界大戦が起こる危険を減らすため、欧州の安全保障体制を見直すことだ。ロシアは、自国の政治体制や価値観をEUに押し付けようとはしていない。それに対し、EUはロシアに自らの価値観を押し付けようとしている、というのが私の見方である。

◆北朝鮮

地政学に関する最後の論点として、ロシアと北朝鮮は2024年、長年にわたる相互防衛同盟を改めて確認した。その後、北朝鮮軍はロシアのクルスク州からウクライナ軍を排除する作戦を支援した。この協定はアメリカやその地域の同盟国への脅威になると警告する声もある。しかし、北朝鮮はこの協定以前から、すでにそれらの国々に対する脅威だった(北朝鮮自身は、その軍事力は抑止目的だと主張している)。

むしろ、この協定によって北朝鮮の中国への依存が弱まるのであれば、それはアメリカの利益にもかなう。

◆天然資源

ロシアは、アメリカが「アンカレッジの精神」に沿って行動すれば、資源を軸とした戦略的パートナーシップを築けると本気で期待していた。その構想は以前の記事でも詳しく説明したが、要するに、アメリカとの資源協力によってロシアの中国依存を減らす一方、中国がロシア国内のあらゆる資源鉱区(エネルギー資源や鉱物資源)へアクセスすることを防ぐというものだった。

それらの鉱区には、アメリカだけでなく、インド、日本、韓国といったアメリカの近しいパートナー国も投資することが想定されていた。この構想は、理論上は今でも実現可能な選択肢として残っている。

◆左派思想

プーチン大統領は共産主義やスターリン時代の「大粛清」を批判している。一方で、ソ連が「大祖国戦争」と呼ぶ対ナチス・ドイツとの存亡を懸けた戦争に勝利するうえで、スターリン体制が果たした役割については認めている。

ロシアは近年、「ソヴィンテルン(Sovintern)」と呼ばれる現代版コミンテルンのような枠組みを立ち上げた一方で、右派系の運動とも関係を築いており、全体としてバランスを取っている。ロシア国営メディアが積極的に取り上げる著名な「ロシア人ではない親ロシア派」の中には左派が多い。しかし、それは意図した結果ではなく、単なる偶然にすぎない。

◆イスラム主義

ロシアは、各国がどのような社会・政治体制を採用するかには干渉しない立場を取っている。国際的なイスラム共同体(ウンマ)については、インドとともに、中国への過度な依存を減らすための重要な均衡勢力と位置づけている。

国内では、チェチェン共和国は、テロ・分離独立紛争を終結させた合意に基づき、イスラム法(シャリーア)の適用を認められている。その一方で、ロシア刑法第282条は、民族的・宗教的な憎悪をあおる行為を厳しく禁じている。西側の一部のイスラム主義勢力が行っているような扇動行為も、その対象となる。

◆「第三世界主義」

「第三世界主義」という言葉にはさまざまな意味がある。しかし、「植民地主義への報復として、非西側諸国が西側を破壊しようとする運動」という批判的な意味で使うのであれば、ロシアはそのような考え方を支持していない。むしろ、安全保障を強化し、発電所などのインフラを整備することで各国の主権を強め、国家を安定させることが、結果としてEUへの不法移民の減少につながると考えている。

サヘル地域では、ロシアの影響によってフランスが一部の資源開発事業を失ったものの、その損失は致命的なものではなく、他の西側諸国にまで悪影響を及ぼすものでもない。

◆「MAGAの異端派(MAGA Dissidents)」

ロシアのメディアが、ときどき「MAGAの異端派」を好意的に取り上げたり、その対立相手であるローラ・ルーマー氏らを、特にX(旧Twitter)上で批判的に扱ったりするのは、アメリカの読者の関心を引き、オンライン上で話題を集めるためにすぎない。

多くのMAGA支持者から見れば、それは誤ったやり方であり、結果的にはMAGAとの関係でも逆効果だったかもしれない。しかし、それがロシア側の本当の狙いだった。

また、タッカー・カールソン氏やキャンディス・オーウェンズ氏らがロシアに招かれたのも、彼らがロシアに敵対的ではなかったからで、それ以上の意味はない。

◆保守主義

プーチン政権下のロシアは、EUや民主党が目指すアメリカと比べれば保守的である。しかし、MAGAが目指す保守主義と比べると、一部の点で保守的であるにとどまる。それでも、EU全体よりは保守的だと言える。

また、他者の権利を侵害しない限り、公の場で宗教的信念を表明することを抑圧するような圧力はない。中絶は合法だが、政府はそれを推奨せず、代わりに出生率の向上を促す政策を進めている。

合法的な移民は受け入れているものの、国家は移民に同化を求めている。一方で、民族自治共和国には、それぞれ独自の文化的権利が認められている。

◆結び

MAGA支持者の多くは、自分たちにとって重要なこれら十数項目についてのロシアの実際の政策を知れば、驚くかもしれない。その理由は、彼らが私の言う「ポチョムキン主義(Potemkinism)」というロシアのソフトパワー戦略の影響を受けてきたからだ。

私のいう「ポチョムキン主義」とは、「戦略的目的」のためにロシアの政策について現実とは異なるイメージを作り出すこと、あるいは、誤った前提に基づいて人々にロシアへの好感を抱かせようとすることを指す。

その一例が、「プーチン大統領は反シオニストで、イスラエルを嫌っている」という、すでに事実ではないことが明らかになっている認識である。

私は、この手法は逆効果だったと考えている。ロシアに対する誤った期待を生み、それが支持者の失望につながっただけでなく、「ロシアはMAGAが反対するものをすべて支持している」という誤った認識まで広めてしまった。その結果、MAGAの間でロシアへの反感が強まるという、皮肉な結果を招いた。それでも、この手法は今も続けられている。

私はロシア外務省系のモスクワ国際関係大学(MGIMO)で国際関係学の修士号と政治学の博士号を取得した。だから、ロシアの外交政策については理解しているつもりだ。

私は、トランプ氏がエスカレーターを降りて出馬を表明した頃から(いくつか政策面で意見の違いはあるものの)MAGAの支持者であり、同時に「ロシア人ではない親ロシア派」であることにも誇りを持っている。だからこそ、MAGAの仲間に向けて、ロシアとその政策について新たに広まりつつある誤った認識を正したいという特別な責任を感じている。

私は「ポチョムキン主義」に一貫して反対してきた。そのため、「ロシア人ではない親ロシア派」として知られる著名なインフルエンサーたちから「キャンセル(排除)」されたこともある。このことについては、以前の記事でも書いた。だから、この問題は私にとって単なる政治論争ではない。極めて個人的な問題でもある。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月1日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/korybko-to-maga-heres-a-quick-clarification?utm_id=97757_v0_s00_e0_tv2_a1dennhawh9pwx&fbclid=IwY2xjawTaC0JleHRuA2FlbQIxMQBzcnRjBmFwcF9pZBAyMjIwMzkxNzg4MjAwODkyAAEe5NHrLhYyoQns7v7FxJRKA12JR_fZKF3EYn2DnxXTjwlaCEFuheSXjh-pKXQ_aem_VnXB02ZGd00zYz6cmd9URA

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/

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戦争が‟対岸の火事“ではなくなった2026年8月──今こそ〈反戦〉の意味を考える〈3〉ある無名教師の記録

鹿砦社代表 松岡利康(龍一郎 揮毫、竹内護画)

平和への祈りを込めて 書家・龍一郎揮毫

先日、母親から古びた文集のコピーをもらいました。5年前に亡くなった従兄の竹内護(まもる)さんが書いたものでした。護さんは長年宮崎県下で小学校の教師をし、これを全うされました。

護さんの文の冒頭ページ

護さんが終戦後朝鮮半島から命からがら栄養失調の状態で帰還されたことは生前聞いていました。

「先の大戦では、国民のみんなが何等かの形で戦争の悲惨さを味わったと思います。
わたしの体験も六才で孤児となり祖国日本へ向けて朝鮮半島を縦断するというありふれたものです。しかし、一面では特異なものかも知れません。」

こうしたことが「ありふれたもの」だった時代、護さんも幼くして戦争に巻き込まれます。

1943年(昭和18年)、護さんが4歳の時、一家3人は住み慣れた熊本の地より北朝鮮に渡ったそうです。北朝鮮で父は人造石油会社の社員として比較的裕福で「幸福に暮らしていました」。

◆突然の敗戦の宣告、そして祖国への逃避行

「そんなわたしたちの家族に不幸が訪れたのは、昭和二十年の八月でした。」

「そして、八月十四日、会社の方より『明日から一晩泊りで社員ピクニックを催す』との連絡がありました。」

「何も知らないわたしたちは歌など歌いすっかりピクニック気分にひたっていました。
それが、八月十五日のことでした。ところが、社宅より相当離れた所まで来た翌朝、会社の幹部の人より『ピクニックに参加した人たちに話があります。』と告げられ、みんながやがや言いながらも一か所に集まりました。
その時の話は、『実は日本は、昨日戦争に負けました。そこで、これから日本へ向けて避難します。』と言う意味のことでした。
話を聞いたみんなはびっくりしました。楽しいピクニック気分も一度にふっとんでしまいました。」

そうして、日本へ向けて「避難」が開始されます。

長い逃避行の中で、身重だった母(注:私松岡の母の実姉。私の叔母)と、突然閉鎖された鉄橋で離ればなれになってしまいます。その後、母はなんとか故郷・熊本へ辿り着いたということです。

父と二人で逃避行を続け、興南で引揚船が出るというデマに乗って興南に行くと、そこは収容所でした。

収容所では強制労働の日々で、そのうち父は酷い凍傷にかかり、ますます酷くなり父は自殺を図り亡くなりました。

祖国へ祖国へ向けて逃避行開始 竹内護画

◆収容所にて

収容所では、時折軍用トラックがやって来て、
「髪の長い人、つまり女の人を連れ去って行くのでした。女の人の悲鳴がいつも聞こえました。このようにして連れて行かれた女の人たちは、二度と帰って来ませんでした。」

「母と離別し、父とは死別して名実ともに孤児になったわたしは、お年寄りのグループに入れてもらい、収容所をぬけ出し再び祖国日本に向けて南下の旅を始めました。」

そうして何度も三十八度線を越えることを試みるも失敗を繰り返しますが、
「おとしよりたちが、色のついた大きな紙のお金を何枚か漁師に渡し」
「ヤミルートを通して、やっとのことで三十八度線を越えることができたわけです。」

一方、離別した母親は、身重だったところ途中で産気づき、双子の女の子(つまり護さんの妹)を山の中で生みましたが、1人はすぐに亡くなり、もう1人は1カ月ほど生きて亡くなったそうです。

「そんな時、母は心の中で、『たとえこの子が死んでも護は必ず生きて帰る』と信じて疑わなかったそうです。母のこの願いで、わたしは生きて帰れたのかもしれません。」

そうして、三十八度線を越えた護さんらはソウルの孤児院に入れられ、院での粗末な食事では耐えられず、時々街に物乞いに出たそうです。

物乞いは「子供心にも、みじめで恥ずかしい気持ちになったものです。」

「そんな中で、時々、夜になると孤児を慰問に来てくれるアメリカ軍の将校さんに会うのが、唯一の楽しみでした。
なぜかと言うと、チューインガムやチョコレートなどの美味しいお菓子やおもちゃを持って来てくれるからです。」

「地獄に仏」ということでしょうか。──

収容所にて 竹内護画

◆悲願の祖国へ帰国、母との再会

そうして、なんとか引揚船に乗ることができ、「なつかしの祖国日本の山々を見ることができ」たのです。

時に1946年(昭和21年)6月11日のことでした。すでに終戦から10カ月も経っていました。

引揚船が博多港に着くと、孤児らは本籍地別に分けられ、両親の名前と本籍地を言うと熊本行きとして送られることになり、熊本に着いたらまた孤児院に入れられました。

「熊本市は、両親の出身地だし、母は元気で帰国したことを知っていましたので、母にはすぐ再開できると思っていました。
しかし、敗戦の混乱のせいかなかなか会えませんでした。」

ある子供のいない学校の先生が護さんを養子にもらいたいという申し出があり、この期限の日の昼すぎに母が孤児院にやって来たのです。実に11カ月ぶりの再会でした。

◆護さんの遺志を受けて

「思えば苦しい旅でしたが、そんな中で、私が無事帰国できたのも、名も知らぬ多くの人々の善意のおかげだと思います。」

そうして、

「敗戦という未曽有の混乱のさなか、人間の醜さを嫌という程に見せつけられた中で、きらりと光った同胞愛と人間性を、これら恩人たちのためにも知ってもらいたく、また、一人の一人の子どもが受けた戦争の悲惨な体験をも知ってもらいたく、そして、二度と再びこのような事が起こらないように念じペンをとった次第です。」

その後、護さんは鹿児島大学に進み、卒業後は宮崎で小学校の教師となります。在学中に60年安保闘争のデモにも参加したと聞いています。それは、

「これから先は戦争そのものは勿論、それにつながることへも常に反対し、教え子たちには、ずっと私の体験を語り継いでいきたいと思います。
それが、残留孤児として親探しもせず、幸せに暮らしているわたしの義務だと思うからです。」

正直、護さんがここまで苦労されたとは知りませんでした。この文集のコピーで初めて知った次第です。貴重な戦争の記録です。生前もっといろいろ聞いておけばよかったと悔いています。

私ごとになりますが、1972年夏、この年の2月に学費値上げ反対闘争で逮捕・起訴され、私なりに将来に向け苦悩していたところ宮崎の護さんを訪ねました。「お母さんも心配しとらしたぞ」と言って、宮崎の観光地をあちこち連れて行ってくれました。護さんなりの激励だったかもしれません。途中サボテン公園に行くと父兄が声を掛けてきました。朝も早くから子供らが家に来て騒いでいました。父兄や子供らに慕われた先生だったようです。

なお、護さんは1939年(昭和14年)4月生まれ、1943年(同18年)北朝鮮阿吾地に渡り、1946年(同21年)帰国。1963年(同38年)鹿児島大学卒業、以後宮崎県下で小学校教師を務める。この文集は戦後39年の1984年(昭和59年)に作成されました。

(松岡利康)

※本稿は昨年8月15日付けの原稿に一部加筆、修正したものです。

【著者略歴】梓 加依(あずさ・かえ)。児童文学・子どもの生活文化研究家。1944年長崎生まれ、小学校から高校まで広島市内に在住。公共図書館司書、大学非常勤講師、家庭裁判所調停委員などの仕事を経て、現在は物語を書く会「梓の木の会」主宰。

核先制不使用(NFU)こそ、核拡散の連鎖を止める唯一の現実的戦略

さとうしゅういち

今年は被爆81周年。そして、原爆ドーム世界遺産登録から30年です。核兵器の脅威が世界で高まり、中堅国家が次々と核武装を検討する今、核拡散を止めるために必要なのは、複雑な軍縮交渉でも、巨額の予算を伴う兵器削減でもありません。必要なのは、「核先制不使用(NFU)」という、ただの“言葉”です。

秋葉忠利・前広島市長は、8月5日の原水爆禁止世界大会広島大会の分科会でこう語りました。

「核の先制不使用は、言葉だけでできる。兵器を減らす必要も、態勢を変える必要もない。」

NFUは、核保有国が「核で先に攻撃しない」と宣言するだけで成立する。これほど簡便で、これほど効果が高く、これほど政治的に実現可能な核軍縮手段は他にない。

◆しかし日本政府は、そのNFUを“妨害した”

NFUは簡単にできます。中国もインドもすでに採用しています。米国もオバマ政権が踏み出しかけました。そして、地域限定ですが、東南アジアやアフリカ、中南米、中央アジアやモンゴルの非核兵器地帯はNFUが実現しているとも言えます。

にもかかわらずNFUが世界に広がらなかった理由は、核保有国の頑迷さではなく、
被爆国・日本政府の構造的矛盾にあります。秋葉氏はこう指摘しています。

「オバマが核先制不使用に踏み出そうとしたとき、日本の外務省が反対した。」

被爆国でありながら、核兵器の非人道性を訴えるべき立場でありながら、日本政府は米国の核使用を“正当化”し、NFUの採用を妨害しました。この矛盾が、NFUという“安全装置”を世界から奪い、核拡散の連鎖を加速させています。

◆トランプとプーチンの暴走が、中堅国家の核武装を正当化した

NFUが存在しない世界では、核保有国は「いつでも先に核を使える」。その状態で、トランプは核態勢強化を進め、核使用のハードルを下げた。プーチンは核威嚇を繰り返しながらウクライナへ侵攻した。この二大国の“例外主義”は、世界に危険な教訓を広げた。

「核を持たない国は侵攻される」
「核を持てば抑止できる」

こうした“合理的恐怖”が、中堅国家の核武装検討を一気に加速させています。

韓国、トルコ、サウジ、エジプト、インドネシア、ベトナム――。いずれも地域の不安定化と大国の暴走を見て、核武装の正当性を手に入れてしまった。NFUが存在しない限り、彼らの核武装は“合理的選択”になってしまいます。

◆日本が核武装すれば、世界のタガは完全に外れる

秋葉忠利は強い言葉で警告しました。

「日本が核武装すれば、一挙にタガが外れ、中堅国が核武装し、人類は滅亡に向かう。」

被爆国である日本が核武装に向かえば、世界はこう考える。

「被爆国ですら核武装するなら、我々も核武装して当然だ」

NFUが存在しない世界で、日本の核武装は核ドミノの“引き金”になります。

◆だからこそ、日本はNFUを“世界に広げる側”に回らなければならない

NFUは、核拡散の連鎖を止める唯一の現実的手段だ。そしてNFUは、言葉だけでできる。では、どうNFUを世界に広げるのか。秋葉忠利がこの日示した答えは、理念ではなく、現実の国際政治を動かす“戦略”でした。

◆日本が呼びかけ、中堅国家で徒党を組み、トランプに迫れ

秋葉はこう提案しました。

「日本が呼びかけて中堅国家でグループを組む。その上で、トランプらに迫ればいい。」

中堅国家は核武装を検討している。つまり、彼らは“核武装カード”を持っている。日本が彼らを束ねれば、そのカードは“交渉力”に変わります。

トランプは理念では動かない。しかし、ディール(取引)なら動く。だからこそ、中堅国家連合はトランプにこう迫るべきです。

「我々は核武装を検討している。しかし、あなたが核先制不使用を宣言するなら、核武装はしない。」

これは、トランプにとって“核拡散の危機を防ぐための取引”になる。NFUは言葉だけでできる。だからこそ、このディールは現実的なのです。

◆被爆国・日本は、核廃絶の“理念”ではなく“戦略”を持て

秋葉忠利がこの日、広島で示したのは、被爆国が道義的立場だけでなく、戦略的な外交プレイヤーとして核軍縮を動かす方法だった。日本が核武装すれば世界は滅亡に向かう。

しかし日本が中堅国家を束ね、NFUを世界に広げる側に回れば、核拡散の連鎖を止める“最後の防波堤”になれる。

被爆地・広島から発するべきメッセージは、もはや「核廃絶を願う」ではない。

「核先制不使用を宣言せよ。それができなければ、世界は滅亡する。」

これが、秋葉忠利がこの日、示した“戦略的核軍縮論”の核心である。

◆イラン核問題もNFU(核兵器先制不使用)で打開を

イランのペゼシュキアン大統領は8月7日、X(旧ツイッター)でこう述べた。

「広島と長崎への原爆投下は、人類に対する最悪の犯罪の一つだ」 「二度と繰り返してはならない」

大統領は国民の直接選挙で選ばれる。したがって、この発言は イラン市民の反核世論を反映した民主的な声 と理解するのが自然だ。

さらに大統領は、トランプ米政権がイランへの大規模攻撃を示唆していることを念頭に、「米政権は国家を滅ぼし、民間インフラを破壊しようとしている」と非難した。この発言は、イランの核問題を「市民の反核」と「国家の核開発」という二重構造の中で理解すべきだ という重要な示唆を含む。

◆イランは世界最多の「平和首長会議」加盟国

イランは1016都市が広島と長崎が主導する平和首長会議(Mayors for Peace)に加盟している。これは世界最多であり、市民社会レベルでは世界屈指の反核・反戦ネットワークを持つ国だ。

つまり、「イラン=核で暴れる国」という西側の粗雑な言説は、市民社会の実態とはまったく異なる。イランの市民は、広島・長崎と同じ方向を向いている。

では、なぜイランは核開発を進めるのか。理由は単純で、そして深刻だ。

● 米国はNFU(核先制不使用)を採用していない
● イスラエルもNFUを採用していない
● トランプは「イランを石器時代に戻す」と発言
● プーチンは核威嚇を繰り返す

つまり、NFUが存在しない=核保有国が先に核を使う可能性が残る。

この構造のもとで、イランは核開発を“合理的自衛”として進めざるを得ない。
市民は反核。国家は核開発。この二重構造こそ、NFUが欠落した世界の危険性を象徴している。

◆NFUがあれば、イラン核問題は「構造的に」解決できる

NFUは、核保有国が「核で先に攻撃しない」 と宣言するだけで成立する。兵器削減は不要/予算も不要/軍事ドクトリンの大幅変更も不要。秋葉忠利が言った通り、NFUは“言葉だけでできる”最も簡便で効果の高い核軍縮手段だ。NFUが広がれば、イランはこう考える。

「核保有国は先に核を使わない」
「ならば核武装の必要性は下がる」
「核開発の正当性が消える」

つまり、NFUはイラン核問題の“原因”に直接作用する唯一の政策 だ。

さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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「花田郵便局強盗事件」再審請求審で、「犯人」とされたナイジェリア人男性に有利な証拠が出てきた

尾﨑美代子

25年前の2001年に起きた「花田郵便局強盗事件」(兵庫県姫路市)で、「犯人」とされたナイジェリア人の男性Aさんの第二次再審請求審(非公開)で、Aさんが犯人でない可能性を示す証拠が出てきた。

事件の概要はこうだ。地元の特定郵便局に午後4時過ぎ、目出し帽に雨合羽姿の黒人男性2人が強盗に入り約2000万円を強奪、日産シルビアで逃走した。地元にはナイジェリア人など黒人が多く住み、地元の工場などで働いていた。Aさんもその一人。強盗に入ったのはAさんも知っているBとCだったが、なぜAさんが疑われたか? 実は捜査中の警官が、目撃者の通報を受け、Aさんの倉庫内にシルビアがあるのを確認したからだ。警官が倉庫に行った際、倉庫の扉には鍵がかかっていて入れなかった。鍵で開けることができるのはAさんだけ、だからAさんが犯人だとされ、Aさんは警察に連行された。Aさんは犯行を否認したが、翌朝逮捕された。そのニュースを知り驚いたのはCと共に強盗に入ったBだ。「強盗は自分とCがやったのに、Aさんが逮捕されるなんて」と弁護士と共に出頭し、「強盗をやったのは僕とCだ」と自供し逮捕された。しかし、警察はCを探しきれず、Aさんを犯人だとした。

さっき書いたが、警察がAさんを逮捕したのは、倉庫には中央に大扉があり、そこは内側から南京錠がかけられ開けれなかった。その脇に小さな扉があるが、そこには外側から鍵がかけられ、やはり入れなかった。そして鍵を持つのはAさんだけだから、Aさんが犯人と決めつけられた。しかし、今回再審請求審で新たに証拠開示されたのは、扉に鍵などついていない、事件当時の倉庫の写真だ。

Aさんは、倉庫には昼間鍵はかけてなくて誰でも入れたと供述した。Aさんはナイジェリア人仲間のBらと午前中は倉庫近くの工場で働き、午後からは倉庫内で中古車などを扱う貿易の仕事をしていた。Aさんは、日本人女性と結婚し子供ももうけ、更に当時日本の永住権も取得していた。また以前地元で黒人による痴漢事件があった際、仲間が次々と取り調べられることを危惧し、地元の警察と協力し、犯人を逮捕したこともある。そのため、事件当日も地元警察から問い合わされるほど信頼されていた。いわばナイジェリア人仲間にとって何でも相談できる「兄貴的存在」だった。

「Aさんは犯人でない」と自首したBは、実は、そう親しくないCにしつこく誘われ、強盗に関わってしまっていた。しかもCは「そんな大金は取らない。行員らを暴行しない」とBを説得したのに、郵便局から出てきた際には大金を持っていた。怖くなったBは、どうしたら良いか困り、「兄貴的存在」であるAに相談しようと倉庫に行った。しかし、Aが不在だったため、倉庫内に金などを置いたまま逃げていた。

不可解なことが一つある。倉庫にかけつけた警官がかけつけた際、倉庫には鍵がかけられ閉まって入れないはずだった。なのに何故警官は倉庫内のシルビアを確認できたのか。

警官・赤井はこう証言している。シルビアが倉庫に入るのを見たという桂という一般男性に案内され倉庫に到着。しかし鍵がかかって入れない。隙間から覗くとシルビアが見えた。中に犯人が潜んでいるはずだ、と考えた赤井。「誰かおるか? でてこい!警官だ」と声をかけた。ここで「はい、犯人ですが、なにか?」と出てくる犯人がいるだろうか? もちろん返事はない。警察の情報では、犯人は複数の黒人、拳銃を所持しているようだ。ならば早く検挙しないと第二の犯行がおきるかもしれない。赤井はそう考え、本署に連絡。「中にいるようなので確認したい」と申し出ると本署が同意したという。見ると扉の横の少し高い位置に窓がある。「あそこから入れるのではないか」と赤井は、もう一人の警官と桂に手伝ってもらい中に入り、シルビアを確認。では、赤井は外から鍵のかかっている大扉をどうやって開けて外に出れたか。赤井の証人尋問調書にはこう書かれている。
「大扉の内側には南京錠で鍵がされておりましたけれど、この南京錠自体に、それを開ける鍵が付いておりましたので、すぐに開きました」と。そして倉庫の外に出た赤井は、本部の捜査員が来るのを待っていたと。

その高い位置にある小さな窓がこれだ。先日Aさん、青木恵子さんと現地へ行って確認してきた。窓のある位置の半分は2階へ荷物を運ぶエレベーターが付いており開かない。窓のもう半分には鉄格子が組み込まれていて、入れない。どうやって入ったのだ、赤井は。

現在、倉庫の入口の大扉は綺麗に改造されていた
でも大扉の横の小さな窓は昔のまま。ここから入ることは出来ない

はっきり言おう。赤井は扉脇の小さな窓から入ったのではない。開いていた扉から入ったのだ。令状も取らずに扉を開けて入るのは違法行為だ。でも凶悪犯が中にいるはずだからと、「交通規制係」の赤井は、複数の強盗犯がいると考える倉庫に果敢に一人で突入した。もちろん、それも違法だが、赤井はいうだろう。「第二の事件が起きてもいいのか」と。

しかし、今回その扉に鍵がついてない証拠が出てきた。この証拠が、Aさんを無罪に導いてくれたらと祈るばかりだ。

注・ややこしい事件ですが(冤罪はどれも警察、検察が無理矢理犯人にするため作ったストーリーなのでややこしいし、辻褄があわないですが)私の解説はいかがでしたか? わかりやすかったとか、わかりにくかったとかお聞かせ下さい。

《関連記事》
花田郵便局強盗事件 ── 黒人のナイジェリア人を蔑視し、冤罪事件を作った姫路警察(2026年4月28日)

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

ウクライナがロシア全土の上空でスターリンクやスターシールドの使用を許可される可能性はどの程度あるだろうか?

アンドリュー・コリブコ

ウクライナ戦争の勝敗を握るキーパーソンの一人は、疑いなくイーロン・マスクである。スターリンク(Starlink)とは、マスクが率いる SpaceX社が展開している衛星インターネット通信サービスのことで、スターシールド(Starshield)はStarlinkの軍事情報機関向けバージョンである。ドローン攻撃に不可欠だ。ゼレンスキー は、スターリンクをロシア領内への攻撃にも利用したいと考える一方、マスクは認めない。こうした状況に打開策はあるのか?アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)が解析する。

※   ※   ※   ※

マスクがこの案に難色を示すとしても、それは理解できる。プーチンを刺激し、自衛のためのエスカレーションを招き、その結果として第三次世界大戦の危険を高めたくないと考える可能性があるからだ。ただし、トランプも同じように慎重なのかは、まだ分からない。ポーランドのトゥスク首相の発言によれば、今後100日ほどで状況はかなり明らかになる可能性が高い。

『アトランティック』は先週後半、「ゼレンスキーがトランプに、イーロン・マスクに関する頼み事をした」と題する詳しい記事を掲載した。(【黒薮注】『アトランティック』(The Atlantic)は、米国の総合雑誌)

副題は「ウクライナは、ロシア国内の弾道ミサイル発射装置を攻撃するために、マスクのスターリンクを使い始めたいと考えている」というものだった。報道によれば、ゼレンスキーは先週のホワイトハウスでの会談で、この提案をトランプに伝えたという。入手数が限られているパトリオット迎撃ミサイルを受け取る代わりに、ウクライナに対するロシアの「組織的な攻撃」の発生源そのものを攻撃する案として提示したとされる。

同誌の情報源によると、マスクはこの提案について話し合うためのゼレンスキーからの面会要請を断った。一方、トランプは、マスクにこの案を受け入れるよう圧力をかけるかどうかについて、明確な態度を示さなかった。『アトランティック』はさらに、「ゼレンスキーは、マスクがロシアへの攻撃にスターリンクを使用することを認めない場合、国防総省が同じ目的のためにウクライナへスターシールド・ネットワークへのアクセスを提供できると提案した」と報じている。スターシールドはスターリンクの姉妹システムだが、「より高価で、より複雑であり、[ウクライナの]システムへの統合もより難しい」とされている。

同誌が取材したウクライナ側の情報源の一人は、トランプがゼレンスキーの「プランB」に同意することに懐疑的だった。(【黒薮注】「プランB」は代案の意味)

その人物は次のように述べている。「ウクライナが自国領内でこれを行うことと、ロシア領内で米国の技術を使い、ロシアの防空システムや弾道ミサイル発射装置を破壊することは別の話だ。これは非友好的な行為だ。ロシアがそれにどう反応するのか、私には分からない」。これはもっともな指摘だ。現在、西側諸国がウクライナを通じて進めていると筆者がみるロシアの産業力と軍事力の低下は、非常に大きな危険を伴うからだ。

トランプが最近、「エスカレートすることで緊張を緩和する」という方針を選んだ後、米国がロシアに対して進めていると筆者がみる「消耗戦」は、新たな段階に入っている。これは第二次世界大戦後の歴史でも前例のないものだ。この動きによってロシアの産業力や軍事力が一部でも大きく低下した場合、プーチンが最終的に耐えられなくなり、この作戦によってロシアが立ち行かなくなる前に抑止力を回復するための第一歩として、たとえ象徴的なものであってもNATOに対する行動を承認する可能性がある。その後、状況が簡単に制御不能になる可能性もある。

そのような展開を引き起こすきっかけになり得るのが、ゼレンスキーの提案どおり、ウクライナがロシア全土でスターリンク、またはその姉妹システムであるスターシールドを利用することだ。このような措置によって、戦略的インフラや軍事目標に対するウクライナのドローン攻撃の成功率が大幅に高まる可能性があるためだ。『アトランティック』は、マスクが紛争のエスカレーションにつながるような役割を担うことに消極的だったと指摘している。そのため、マスクはゼレンスキーの提案を拒否する可能性がある。そうなれば、トランプがマスクの判断を事実上覆し、ウクライナによるスターシールドの使用を認めるのかという問題が出てくる。

トランプがこれを避ける可能性がある理由は、エスカレーションを抑えるためだけではない。政治的な理由も考えられる。具体的には、マスクとの関係を悪化させ、11月の中間選挙を前に、あるいは時期によってはその後から2028年の次の選挙までの間に、X上で有力なMAGA系インフルエンサーの投稿が広まりにくくなる事態を避けたいと考える可能性がある。ポーランドのドナルド・トゥスク首相は先週、「今後100日がこの戦争の結果を決める可能性があり、確率は五分五分だ」と述べ、トランプ、マスク、そして「ほかの何人か」が重要な役割を果たすとしている。

この発言は、トゥスクがゼレンスキーの計画を把握しており、マスクがウクライナによるロシア全土でのスターリンク使用を認めるか、あるいはマスクが拒否した場合にトランプがその判断を覆し、代わりにスターシールドの使用を認めれば、ロシアの降伏につながると考えている可能性を示している。

マスクがこの案に難色を示すとしても、それは理解できる。プーチンを刺激し、自衛のためのエスカレーションを招き、その結果として第三次世界大戦の危険を高めたくないと考える可能性があるからだ。ただし、トランプも同じように慎重なのかは、まだ分からない。今後100日ほどで、その点を含めて状況はかなり明らかになる可能性が高い。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月4日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/what-are-the-odds-that-ukraine-is?utm_campaign=post&utm_medium=web&triedRedirect=true

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/

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検察官が関与する政府案 再審法改正は「誰のため」か

足立昌勝(紙の爆弾2026年8月号掲載)

2026年は、袴田巖さんが犯人とされた静岡県旧清水市こがね味噌一家殺人放火事件の発生(1966年6月30日)から60年、前川彰司さんが犯人とされた福井市女子中学生殺人事件の発生(1986年3月29日)から40年の節目の年である。

そのような年にあって法務省は、冤罪被害者の立場を考慮せず、新たな再審法制の原案を自民党の部会に提示したが、一部議員から批判を受け、法務省は数回にわたる原案の修正を余儀なくされた。

これを詳述した『紙の爆弾』6月号の拙稿「『再審制度見直し』に表れた冤罪構造の深層」で筆者は、〈しかし、法務省は、そんなに単純に落ちる組織ではない。最小限の手直しですませようとするだろう〉と述べたが、残念ながら事態はそのとおりに進んでいる。

自民党の一部の反対を「部会長一任」で切り抜けた法務省は、再審開始決定に対する検察官抗告を認める修正案を確定し、国会に提出した。

提出された刑事訴訟法改正法案によれば、裁判所の行なった再審開始決定に対し、検察官による即時抗告を原則として禁止するとしながらも、例外的に許容する規定を残した。すなわち、「当該決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合」には、検察官は即時抗告ができる(445条の2)。

ここでの「十分な根拠」に該当するか否かは裁判所の判断に任されている。すなわち、形式上「十分な根拠」があるとみなされれば、再審開始決定が覆される可能性が強くなったとみることもできる。

◆法務省に対する冤罪被害者の思い

6月9日、衆議院法務委員会で審議されている再審法制に関する参考人の意見陳述が行なわれた。

再審で無罪が確定した袴田巖さんの姉・ひで子さんは、被疑者とされ、被告人とされ、死刑囚とされた巖さんを見守ってきた立場から、心からの叫びを委員らに伝えた。その中で、検察官の抗告と証拠開示について、彼女は次のように訴えた。

「それから検察の抗告についてね。そういうものがあるから、再審開始という、一審で再審開始になっても、それからあと10年経って再審開始になったんですが、そういうものがあるから長引いて58年もかかったんです。私は闘っているうちは、日数なんて考えなかった。それこそ、今日が何日で、何年で、何年かかっているということも、全然考えておりませんでした。おかげさまで、皆様の応援のおかげで、巖は無罪になりました。私と、今は暮らしております」

続けて、証拠開示について、このように述べている。

「証拠開示につきましては、弁護士さんは証拠開示があったおかげで、それまでは再審開始も戸惑っていたんですが、あの証拠開示があって、600点ぐらいのものが出てきました。そしたら弁護士さんがおっしゃるには、巖が無罪になる証拠ばっかりだということでした。それで勢いづきまして、今の結果になっております。(中略)警察は証拠を隠していた。いたというとおかしいけど、隠していたんじゃないかと思います。ですから、いい証拠も悪い証拠も、全部出して裁判をやっていただきたいと思っております」

再審は、裁判所の決定が出てすぐに始まるわけではない。それに対する検察官の不服申立て=抗告により、再審を開始するか否かの裁判が高等裁判所、さらには最高裁へと続けられ、最終判断が出されるまでに数十年かかることもまれではなかった。

また、検察官の証拠隠しにより、多くの事件で真相がわからず、泣き寝入りをしてきた被告人も数知れずいるだろう。

このようなひで子さんの切実な思いが、なぜ実現できないのであろうか。この声を聴いた法務委員会委員は、この思いに応える自覚を持ったのか。

刑事再審法制は、戦後改正されたことはない。不十分ながらも、その改正案が国会に提出され、議論されることになったのを好機ととらえ、冤罪被害者を救済し、二度と発生させないための努力を重ね、法改正の実現に努力すべきである。

このような思いは、冤罪被害者はもちろん、一定の問題意識があれば、誰もが共通して持っているものだろう。

法務省にとっても、自らの立場において、冤罪の元凶である検察官抗告を認める規定を削除することが、今まで被害者に与えてきた苦しみを反省する一助となるのではないのか。

◆自民党内での議論と政府案の決定

5月13日、再審制度の見直しについて、自民党は、法務部会と司法制度調査会の合同会議を開き、法務省が示した検察官による不服申立ての原則禁止を刑事訴訟法の本則に位置づける改正案を了承した。

改正案では、前述のとおり、刑事訴訟法の本則にある再審開始の決定に検察官が不服申立てできるとする部分を削除したうえで、十分な根拠がある場合に限って可能とする条文を新たに設けるとした。

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「デジタル主権戦争」敗戦の先にあるもの 昼間たかし
植草一秀インタビュー「冤罪の真実」中編 小泉・竹中経済政策と三つの冤罪事件の闇
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相次ぐ神社仏閣の火災 その“背景”を考える 早見慶子
LGBT問題の現在⑧ LGBT思想と包括的性教育 益田早苗
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自民党内部文書が示す「しばき隊」利用戦略、「大声をあげていたのは自陣営側の人間」

黒薮哲哉

筆者は、先の衆議院選挙で落選した自民党の杉田水脈氏が、しばき隊による「落選運動」を逆手に取って、支持拡大を図ろうとしていたことをうかがわせる文書を入手した。この文書のタイトルは「第51回衆議院総選挙 総括報告」である。作成者は、水田氏の選挙運動を指揮した大阪市議である。同文書では、選挙敗因の一つとして、しばき隊への対応の失敗を挙げている。

「妨害に集まったプラカードを掲げた人達に囲まれるように自ら入り演説に立つ姿を、(注:杉田氏)自身の公式YouTubeで流した(地域支部からの要請で今は削除)。1月28日夜、塚本駅。なお、大声をあげていたのは自陣営側の人間であることを現地で確認した。」

同文書の記述からは、サクラを使ってまで、しばき隊と堂々と対峙している姿を演出することを意図していたとうかがえる。一種のメディアを使った戦略である。

「さらには、れいわ大石候補やシバキ隊へ敵意むき出しに本人が語る公式動画も流された」

「本来戦うべき相手の維新との対立姿勢が見えず、相手にもならないはずのれいわ新選組や共産党をはやし立てるばかりで、インターネット上の告知もシバキ隊を呼び寄せ、それと戦っている姿を演出するためのものとしか見えない状態であった」

結論として、同文書は、水田氏がしばき隊の暴力的な言動を逆手に取り、危険な現場に身を置きながら、暴力に屈せず正面から立ち向かう姿を演出することで、有権者の支持を集めようとする戦略を試みたが、失敗に終わったと総括している。この文書からは、自民党陣営がしばき隊を政治的な脅威というより、集票のための格好の材料として利用しようとしていたことがうかがえる。

一般の有権者は、罵声を浴びせたり、旗竿を振り回したり、地面に寝転がったりする人々に好感を抱きにくい。そのため、そうした相手と対峙する姿をアピールする戦略が成り立つと考えられていたのだろう。

【緊急報告】演説中に“しばき隊”が出現。選挙妨害を受けたことについて話します。【杉田みお】

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月7日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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