12月13日~19日、大阪十三「シアターセブン」で中村明監督の映画「生きし」の上映が開催されます!

尾﨑美代子

12月13日から十三の「シアターセブン」で中村明監督の映画「生きし」の連続上映がはじまります。毎日監督とどなたかのアフタートークがありますが、12月15日(月)中村監督とのアフタートークで、私も一緒にお話させて頂きます。映画を見にきてください。

1993年におきた「埼玉愛犬家連続殺人事件」をモチーフに、当時報道番組のデイレクターをしていた中村明さんが作った映画です。

「愛犬家」の周辺で次々と関係者が行方不明になる、しかし殺害の証拠がない。のちに殺人で逮捕されたブリーダーの関根元(元死刑囚、2017年東京拘置所で病死、享年75歳)が「ボディを透明にする」と、徹底的に遺体を損壊し、サイコロステーキ状に切り刻み、燃やしたり、川などに捨てたからだ。

事件が何をきっかけに発覚したか?実は遺体を運んだりして事件を手伝わされた部下の男Aが、別件で逮捕された自身の妻を救出したいがために、警察、検察に告白したことからわかりました。その後Aも逮捕されますが、留置場で、妻や元妻に合わせてもらい、2人きりの密室でなんと性行為を行ったなどと裁判で証言して話題になりました。Aは出所後事件の全貌を書いた本を出版しました。私もすぐに買って読みましたが、その後誰かにあげました。まさか、今その本が10倍ほどの値段がついているとは……。(その時点では凄い内容だと信じていましたが、その後虚偽の部分があることが明らかになっています)

映画「生きし」は、事件そのものを追うのではなく、あくまでもその事件をモチーフとした内容です。関根と一緒に逮捕され、関根同様に死刑囚となった元妻・風間博子さんと、実の母親、そして娘の関係、無実を訴える風間さんと支援者らの交流などを描いています。

私が、風間さんが冤罪を主張し、現在3度目の再審(裁判のやり直し)を請求していることを知ったのは約1年前です。当初「風間も共犯だ」と訴えたAは、裁判で「風間さんは殺害に関わってない」「なぜ死刑囚になるんだ」と証言しています。

また風間さんを支援する田口佐智子さんが、別の記事でこんなコメントを寄せてらっしゃいます。「モデルの風間博子さんの交通許可を得て文通しています。事件の立件に問題があり、何の物的証拠もない死刑判決です。再審請求中。」

死刑囚となったら、親族以外なかなか面会が叶わないなか、田口さんのような支援者がおられ、大変心強いことです。しかし、この事件、私も三度目の再審請求が行われていることを知りませんでした。これをきっかけに、この冤罪事件自体へも関心を持っていただけたら幸いです。

再審法改正問題がいよいよ正念場を迎えようとしている昨今、私は、この事件と様々な点で非常に似ている和歌山カレー事件との類似点、そして再審がどのように難しいかなどについて、お話させてもらいたいと考えております。

アフタートークでは毎日違う方が登場致します。詳細や時間などはホームページでご確認ください。

みなさま、劇場でお会いしましょう!

◎「生きし」HP https://ikisi-movie.com/

◎「シアターセブン」HP https://nanageitheater7.sboticket.net/top?type=title

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

総力で年末危機を突破し、唯一の脱(反)原発雑誌『季節』の発行継続、鹿砦社の言論・出版活動継続に圧倒的なご支援を!

 私たちは『季節』の旗を守りたい! 
『季節』を脱(反)原発言論の強固な拠点にしたい! 

『季節』編集長 小島卓 鹿砦社代表 松岡利康

『季節』を愛し、また鹿砦社の言論・出版活動を支持される皆様!

『季節』2025冬号をお届けいたします。実際に寄稿や取材にご協力賜った皆様方、熱心な読者の皆様方、本誌『季節』は創刊10年(いわば“親誌”の『紙の爆弾』は20年)を経過し、発行継続困難な情況に直面しています。今号も発行が危ぶまれましたが、何とか発行に漕ぎ着けました。コロナ禍以降は、毎号発行が困難な中で、『紙の爆弾』もそうですが、心ある方々のご支援を仰ぎ資金を工面しつつ一号一号発行してきました。

私たち鹿砦社は、時代の転換点・1969年の創業以来半世紀余り、当初は時代を反映し裏切られたロシア革命史、また知られざる革命運動史(左翼エスエル、クロンシュタット叛乱、マフの運動など)、社会運動史の発掘に努め、80年代後半、松岡が経営を引き継いでからは社会問題全般、ジャニーズ問題(一昨年の英国BBCによるジャニー喜多川告発には、数年前から水面下で秘密裡に協力)などの芸能関係にまでウイングを拡げ(このことで前経営者からは「俺の顔にクソを塗った」と非難されました)、さらには2005年の親誌『紙の爆弾』創刊以来20年間、「名誉毀損」に名を借りた言論・出版弾圧(実際に松岡が逮捕、長期勾留されています)にも屈することなく、〈タブーなき言論〉の旗を掲げ続けてきました。

そうして、『紙の爆弾』が軌道に乗り経営が安定した2014年、本誌前身の『NO NUKES voice』(31号より『季節』に改題)を創刊し、常に一号一号3・11で被災、原発事故で被ばくされた方々に寄り添い発行を続け、この継続を図るために苦闘してきました。この年末がノルかソルかの正念場です!

本誌のみならず『紙の爆弾』も、あるいは当社の出版物全般もそうですが、コロナ禍を大きな契機として出版業界の情況が大きく変わり、これまでのやり方ではやって行けないことを実感させられました。しかし、いくつか新たな試行錯誤をしながらも、私たちがいまだに苦境から抜け出せずにいるのは、その本質と、想像以上の深度に気づくことができず、よって方途を見失い、具体的な出版企画に結びつけることができないからだと認識はしています。この5年間、突破口を探し模索と試行錯誤を続けています。皆様方に妙案があれば、ぜひお寄せください。

本誌『季節』も、『紙の爆弾』も、幾多の苦難(この最たるものは「名誉毀損」に名を借りた言論・出版弾圧)を乗り越え本誌は昨年10周年、『紙の爆弾』は本年4月で20周年に至り、多くの皆様方に祝っていただき、また厳しい叱咤激励も受けました。多くの雑誌が権力のポチと化し、『季節』や『紙爆』のようにタブーを恐れない雑誌がなくなったからでしょう。以後私たちは、次の10年に向けて歩み始めていますが、遺憾ながらなかなか苦境を打開できずにいます。

そうは言っても、師走に入り、ノルかソルかの勝負所、ここを断固突破しなくてはなりません! 先に発行し送付した『紙の爆弾』の定期購読者、会員の皆様方らにも申し上げましたが、断固突破する決意ですので、ぜひ皆様方のご支援をお願い申し上げます。そして、年を越し、東日本大震災から15年の来年3・11には新たな『季節』を発行し共に迎えようではありませんか!

《表紙》『原子力明るい未来のエネルギー』 紆余曲折を経て 今は文字盤だけが倉庫に眠る(絵=鈴木邦弘)

季節2025年冬号
『NO NUKES voice』改題 通巻44号
紙の爆弾2026年1月増刊
2025年12月11日発行
定価770円(税込み)

《グラビア》キオクとキロク(鈴木邦弘

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《報告》生命体の世界と原子核の世界

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》未来の人々から裁かれないために

井戸謙一(311子ども甲状腺がん裁判弁護団長)
《報告》311子ども甲状腺がん裁判にご支援を

《特集》福島の汚染土と汚染水の行方

山川剛史(東京新聞編集委員)
《報告》被災地の現実はどれほど報道と違うのか

鈴木邦弘(絵本作家/イラストレーター)
《報告》キオクとキロク

まさのあつこ(ジャーナリスト)
《報告》汚染土政策の変遷 「最終処分」から「復興再生利用」

和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
《報告》放射能汚染土の核心的問題

平井 玄(新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会)
《報告》放射能のない新宿「御苑」をコモンズに
 
門馬好春(「三〇年中間貯蔵施設地権者会」会長)
《報告》中間貯蔵施設の汚染土の行方

菅野みずえ(「ALPS処理汚染水差止訴訟」原告)
《報告》ALPS処理汚染水を海に流すな

吉澤正巳(「希望の牧場・よしざわ」代表)
《インタビュー》原発事故の暴虐に「いのち」を対峙
 被爆した牛たちを飼い続けて闘う

水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
《インタビュー》『3・11の彼方から』を読む

村田三郎(医師)
《インタビュー》弱者の側に立ち、反核・反原発を闘う《後編》

末田一秀(『はんげんぱつ新聞』編集長)
《講演》エネルギー基本計画 暮らしへの影響

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》柏崎刈羽原発の再稼働に異議あり!!

後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《報告》原発の技術的特性と裁判の論理〔2〕

古居みずえ(映画監督)
《報告》パレスチナと福島に通い続けて
             
森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
《報告》福島から広島へ 「核被害者の権利宣言2025」が灯した希望と連帯

木村三浩(一水会代表)×板坂 剛(作家/舞踊家)
《対談》民族派と左翼の融合は可能か《前編》

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
《報告》今、我々の置かれた場所から

原田弘三(翻訳者)
《報告》「脱炭素」の不都合な真実

再稼働阻止全国ネットワーク
《報告》危険な東海第二原発を阻止!
 「原発依存社会」へと暴走する高市政権を批判する!
 瀬尾英幸(北海道泊村在住)
 志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
 けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 藤岡彰弘(廃原発watchers能登・富山)
 木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク)

《反原発川柳》乱鬼龍

amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0FTFV57G5/

新聞社の世論調査は本当に信用できるのか ── 収益構造から読み解く支持率報道の裏側

黒薮哲哉

新聞各社が発表する内閣支持率は、政治状況の判断材料として大きな影響力を持つ。しかしその数字は本当に信頼できるのだろうか。高市内閣をめぐっては、批判が強まっているにもかかわらず支持率が上昇するという不可解な傾向が続く。本記事では、世論調査そのものを直接否定するのではなく、新聞社の収益構造──とりわけ「押し紙」による莫大な利益──に着目することで、世論調査の数字が客観的かつ中立なデータとして扱えるのかを検証していく。

日本のメディアが定期的に公表している世論調査に、正確な裏付けはあるのだろうか。10月に新聞各社が公表した高市内閣の支持率は次の通りである。

朝日新聞 68%
産経新聞 75.4%
毎日新聞 65%
日経新聞 74%
読売新聞 71%
共同通信 64.4%

ところがその後、台湾をめぐる発言で国内外から激しい反発を受けたにもかかわらず、支持率は高くなる傾向があるようだ。たとえば11月16日付の毎日新聞は、支持率が69%になったと報じている。国民の約7割は高市内閣を支持しているというのだ。

当然、これらの数字が高市内閣の方向性を支持しているとなれば、強引に日本の右傾化を推し進める根拠になる。世界から批判の的になっている高市首相にとっては、願ってもない数字である。

が、肝心の数字に根拠はあるのだろうか。

この記事では、新聞社の収益構造の観点から数字の信ぴょう性を検証してみよう。数字そのものが信用できないことについては、次の記事を参考にしてほしい。世論動向を推測する目的に最も合致した国政選挙の比例区における各党の得票率と、メディアが公表する数字に整合性がない点を指摘した記事である。

【参考記事】中央紙の年間の「押し紙」収入420億円から850億円──内閣支持率82%? マスコミ世論調査を疑う背景と根拠

◆新聞社の収益構造から見る信ぴょう性

メディアの性質を解析するときに、最も重要な項目のひとつは、だれがメディア企業を運営するための資金の提供者なのかという点である。資金源が枯渇すると、メディア企業が成り立たなくなるからだ。

「押し紙」と呼ばれる新聞がある。これはごく簡単にいえば、新聞社が新聞販売店に対してノルマとして買い取りを強制する新聞のことである。たとえば3000部を3000人の読者に配達している販売店に4000部の新聞を搬入すれば、1000部が過剰になる。新聞の破損を想定して若干の予備紙を必要とするものの、ほぼ1000部がノルマである。この部数が「押し紙」といわれるものである。

改めて言うまでもなく、販売店は「押し紙」の代金を新聞社に納金しなければならない。

※厳密な定義については別にあるがここでは言及しない。

この「押し紙」により、後述するように新聞社は莫大な利益を上げているのだが、「押し紙」は独禁法で禁止されている。ところがおかしなことに、行政機関も裁判所も「押し紙」を容認している。取り締まりの対象にはなっていない。

◆「押し紙」の実態と規模

全国にはどの程度の「押し紙」があるのだろうか。「押し紙」の量を裏付けるデータは、これまで度々明らかになっている。たとえば2004年に毎日新聞の内部資料が社外へ流出し、その中で販売店に搬入される新聞の約36%が「押し紙」であることが判明した。

内部資料をもとに試算した「押し紙」による販売収入は、年間で約295億円になる。詳細については、次の記事を参考にされたい。

【参考記事】国策としての「押し紙」問題の放置と黙認、毎日新聞の内部資料「発証数の推移」から不正な販売収入を試算、年間で259億円に

朝日新聞の「押し紙」の実態も明らかになっている。たとえば2014年に同社が実施した調査によると、「押し紙」率は次の通りである。

・「朝刊・夕刊のセット版」:29%
・「朝刊単独版」:25%

これらの数字が判明したのは、やはり内部資料が外部へ流出したことが原因である。

読売新聞や産経新聞の場合は、この種の内部資料が外部へ漏れたことはないが、これまで新聞販売店が繰り返し「押し紙」による損害賠償を求める裁判を起こしてきた関係で、かなり「押し紙」の実態が明らかになっている。

メディア黒書が行った裁判の取材によると、読売新聞と産経新聞の場合は、おおむね3割から4割が「押し紙」である。

◆中央紙が得ている収入規模

「押し紙」による新聞社の不正な販売収入は、想像以上に巨額である。2025年8月時点で、中央紙(朝日・毎日・読売・産経・日経)の発行部数は約1180万部とされている。

このうち「押し紙」の割合を20%と仮定すると、約236万部になる。新聞1部あたりの卸価格を月額1500円(すべて朝刊単独版と仮定)とすれば、1か月あたりの「押し紙」販売収入は約35億4000万円、年間では約424億8000万円にのぼる。

もし「押し紙」率が40%に達すれば、年間収入は約850億円にもなる。販売店に対して様々な補助金を支出しているとは言え莫大な「純利益」を得ている。

しかも、この試算は控えめな前提条件に基づく。「朝・夕刊」セット版の場合、卸価格が2000円程度に上がるため、収入はさらに増加する。筆者の試算に誇張はないといえる。

◆「押し紙」が広告収入にも影響

しかし、「押し紙」制度の大罪はこれだけではない。

「押し紙」により新聞の公称部数(ABC部数)は水増しされる。その結果、何が起こるのか? 答えは簡単で、紙面広告の媒体価値が上昇することである。それにより広告収入も増える原理になっている。

逆説的に言えば、新聞社は、ABC部数をかさ上げするために、販売店に対して補助金を支出してまで、「押し紙」を買い取らせているのである。

このような手口は、一種のマネーロンダリングではないか?

もっとも最近は、新聞の公称部数に「押し紙」が含まれていることが公けになってきたこともあって、紙面広告の価格交渉で部数の大小が重視されなくなっている側面はあるが、少なくとも広告価格を設定するときの基礎資料になっていることは議論の余地がない。

◆公権力機関はなぜ、「押し紙」を取り締まられないのか

既に述べたように、「押し紙」は独禁法に違反しており取り締まりの対象になる。それを立証するための資料の存在も明らかになっている。が、公権力はこの問題だけは絶対に踏み込まない。弱小な地方紙にメスが入ったことはあるが、中央紙の場合は逆に公権力が「押し紙」制度を保護しているのが実態だ。

なぜ、公権力機関は新聞社を保護するのだろうか。

それは「押し紙」の汚点を把握しておけば、それを新聞社との取引材料として使うメディアコントロールが可能になるからだ。世論誘導に利用できるからに他ならない。

メディアコントロールは、経済のアキレス腱を握ることで可能になる。この原理は、実は戦前・戦中から変わっていない。戦前・戦中、政府は新聞用紙の配給制度を逆手にとって新聞をプロパガンダ機関に変質させたのである。今はそれが「押し紙」の黙認に変わっているに過ぎない。

2025年、高市政権の下でも同じ構図が構築されている。新聞社の世論調査が嘘だとする確証はないが、少なくとも新聞社の収益構造を検証する限りでは、信頼できる数字でない。

ちなみに高市首相は、新聞業界から政治献金を受けていた経緯がある。次の記事を参考にされたい。

【参考記事】高市早苗の政治献金とマネーロンダリングに関する全記事

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年11月22日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

NJKFでIBFムエタイ日本タイトル本格始動、吉田凛汰朗が初陣を飾る!

堀田春樹

亜維二は肩脱臼で敗退。一つ上のタイトルは遠のく。
佐藤界聖と高橋幸光が王座決定戦へ駒を進める。
嵐はまたもボディブローで倒される。
健太が126戦目でラストファイト、愛息と手を繋いでテンカウントゴングを聴く。

◎NJKF CHALLENGER 11 / 11月30日(日)後楽園ホール17:10~21:30
主催:(株)オフィス超合筋
認定:ニュージャパンキックボクシング連盟、IBFムエタイ日本(運営部)
放送:U-NEXT

戦績・経歴はプログラムと過去データを参照し、この日の結果を加えています。

◆第9試合 IBFムエタイ日本ライト級初代王座決定戦 5回戦

NJKFスーパーライト級チャンピオン.吉田凜汰朗(VERTEX/2000.1.31茨城県出身/ 63.2kg)
31戦15勝(3KO)10敗6分
        VS
JKIスーパーライト級チャンピオン.切詰大貴(武勇会/1999.1.5高知県出身/ 63.3kg)
10戦8勝(2KO)2敗
勝者:吉田凜汰朗 / 判定2-1
主審:スイット・サエリム・ランボー
副審:宮沢48-47. 多賀谷47-48. 児島49-46

初回、蹴りからパンチ、ヒジ打ちと多彩に攻め合う両者。互角の展開は差は付き難いが、第2ラウンドはパンチの攻勢強めた切詰大貴が優った。第3ラウンド、落ち着きが出て来た吉田凛汰朗。第4ラウンドには冷静な吉田のパンチヒットが増えた。

終了前には切詰をロープ際に追い込み怒涛のパンチラッシュ。主導権を奪った吉田のリズムは続き、切詰は我武者羅に打って出ても巻き返し成らず。第4と5ラウンドはジャッジ三者揃って吉田が制し、スプリットデジションながら吉田が判定勝利し王座獲得となった。

吉田凜汰郎と切詰大貴の一進一退の攻防。後半は吉田凜汰郎が主導権支配した

吉田凛汰朗は「他団体にも自分の階級には強いチャンピオン沢山居るので、ブッ倒してIBFの世界絶対獲ります!」と動画配信インタビューには応え、似た回答になってしまうので改めて聞くことは無かったが、前日計量で3年前に睦雅と引分けていることについて尋ねてみました。「前回と全く違う感じで、睦雅選手は技術的に凄くレベルアップしている選手なので、3年前と違う最近の動画見て作戦練って行かねばなりませんね。睦雅選手とは団体のチャンピオン同士で、また3年前の決着戦としても戦いたいですね。」と話していた。

最初のIBFムエタイ日本チャンピオンと成った吉田凜汰郎

◆第8試合 NJKFバンタム級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン初防衛戦.嵐(=坂本嵐/KING/2005.4.26東京都出身/ 53.4kg)
20戦13勝(6KO)5敗2分
            VS
NJKFバンタム級3位.山川敏弘(京都野口/1990.6.14岡山県出身/ 53.4kg)
24戦11勝(7KO)11敗2分
勝者:山川敏弘 / TKO 3ラウンド 1分59秒
主審:多賀谷敏朗

開始早々、嵐の突進しての牽制飛びヒザ蹴りはヒットせずも山川敏弘も冷静に躱す。前日計量時から挑発を続けた嵐は試合では冷静に様子見。山川も落ち着いて様子を見ながらも、初回終了間際は嵐が圧力掛けてパンチで攻め印象点を残す。

第2ラウンドも嵐の圧力がやや優ったがこのラウンドの終了間際のパンチの交錯でゴング後も打った嵐に対し、割って入った多賀谷レフェリーを突き飛ばした嵐。多賀谷レフェリーが嵐を赤コーナーへ押し込んだが、これは両者を分けてラウンドを終わらせる為の正当な行為。嵐には減点1が課せられた。

第3ラウンドに入ると圧力掛けて来たのは山川。蹴りを中心に接近しヒザ蹴りを加える。更に首相撲に持ち込みヒザ蹴りでボディーを突き刺すと蹲るようにノックダウンした嵐。立ち上がり、パンチで打ち合うもボディーが効いているのか、山川の大きなヒットも無いのに再び崩れ落ちた嵐。そのままほぼノーカウントのレフェリーストップとなって山川敏弘が第16代チャンピオンと成った。

首相撲からヒザ蹴り突き刺した山川敏弘の前に崩れ落ちた嵐

山川敏弘は試合後、「今日のタイトルマッチを目標にやって来て、目標クリアしたので次に何をしようかと言うのは今のところ無いんですけど、まあ用意された相手を倒すだけなので防衛戦はしっかり勝ちます。今回は初めて緊張しなかったです。それが逆に不安で大丈夫かなとは思ったんですよ。でも練習どおり動けました。」

嵐の挑発については「そこは狙っていまして、勝手に熱くなってハマってくれてるなと。」と冷静に受け止められたと言う。年齢的にも人生の経験値が活きた山川敏弘はこの日のMVPも獲得した。

嵐を下して新チャンピオンとなった山川敏弘。35歳での戴冠。感謝を述べる

◆第7試合 IBFムエタイ日本ウェルター級王座決定4名トーナメント 3回戦

NJKFウェルター級チャンピオン.亜維二(=小林亜維二/新興ムエタイ/2006.神奈川県出身/ 66.9→66.8→66.85→66.75→66.65kg)14戦10勝(6KO)3敗1分
          VS
佐藤界聖(聖域スーパーウェルター級Champ/PCK連闘会/2001年宮城県出身/ 66.35kg)
21戦14勝(6KO)6敗1分
勝者:佐藤界聖 / TKO 2ラウンド 36秒
主審:中山宏美

亜維二は減量はキツかったが、リカバリーは万全で初回はパンチと蹴りの攻防で、亜維二が強い蹴りでプレッシャー掛けて攻勢を維持。第2ラウンド開始から間もなく、亜維二が右ストレートを打つと、右腕に何か異変が起きた様子が窺えたが、そのまま続行。

更に接近戦でパンチがやや交錯した後、両者縺れ合って倒れると亜維二が肩を押さえて立ち上がれない様子を見せた。一旦ノックダウン扱いとなったがすぐレフェリーストップとなった。右肩脱臼による負傷。佐藤界聖のTKO勝利となった。亜維二は更に左眉尻をカットしており、打ち合いの中、ヒジ打ちを受けたと見られる。

肩の脱臼で諦めた形の亜維二。残念な敗退だった

◆第6試合 IBFムエタイ日本ウェルター級王座決定4名トーナメント 3回戦

高橋幸光(元・WMC日本スーパーライト級Champ/飯伏プロレス研究所/神奈川県出身36歳/ 66.45kg)75戦44勝(15KO)25敗5分1NC
          VS
井原浩之(IPCCウェルター級Champ/ハーデスワークアウト/広島県出身41歳/ 66.4kg)
61戦28勝31敗2分 
勝者:高橋幸光 / 判定3-0
主審:スイット・サエリム・ランボー
副審:宮沢30-26. 多賀谷30-26. 中山30-26

パンチとローキック中心の攻防は高橋幸光の積極的な攻めでヒットを増し攻勢を維持。井原浩之は慎重な出だしで、やや劣勢な流れも蹴り返して突破口を開こうとするも、高橋の圧力に圧されるまま。高橋は勢い増し、後ろ蹴りも見せた。

第3ラウンドは井原がパンチ中心に攻勢を強めたが高橋は凌いで、終盤にはパンチでタイミング良い連打でノックダウンを奪って終了し、高橋が大差判定勝利を飾った。

高い後ろ蹴りで井原浩之を後退させた高橋幸光。アグレッシブな攻勢を続けた
来年2月8日に王座決定戦で対決する高橋幸光と佐藤界聖

◆第5試合 64.0kg契約3回戦

NJKFスーパーライト級1位.健太(=山田健太/E.S.G/1987.6.26群馬県出身/ 63.85kg)
126戦68勝(21KO)50敗8分
          VS
同級3位.佐々木勝海(エス/神奈川県出身27歳/ 63.9kg)14戦10勝(2KO)2敗2分
勝者:佐々木勝海 / 判定0-3
主審:児島真人
副審:宮沢28-29. ランボー27-30. 中山27-30

蹴りの様子見から徐々に距離が詰まるが、先に佐々木勝海の蹴りヒットが目立つ。佐々木は自分の距離を維持し、健太はパンチで距離を詰めても攻勢を導けない。静かな攻防は健太が前に出るもヒットは佐々木の方が多い。攻め切れない両者の攻防は微妙な差だが、ラウンドを支配するポイント的には佐々木勝海が大差と言える判定勝利となった。

ラストファイトとなった健太。佐々木勝海と完全燃焼の戦いを終えた

試合後、その場で健太の引退セレモニーが行われ、二人の愛息と手を繋いでテンカウントゴングを聴き、現役を去った。

親子でテンカウントゴングを聴いた健太

◆第4試合 女子フライ級ノンタイトル3回戦

S-1女子世界フライ級覇者.真美(Team ImmortaL/1990.2.19神奈川県出身/ 50.75kg)
26戦18勝(6KO)8敗
        VS
ジョン・アヨン(韓国出身17歳/ 50.3kg)14戦12勝(4KO)1敗1NC
勝者:ジョン・アヨン / 判定0-3
主審:多賀谷敏朗
副審:宮沢27-30. 児島27-30. 中山27-30

開始からジョン・アヨンの首相撲に捕まる真美。これで主導権支配したジョン・アヨン。蹴っても組み合ってもジョンが圧して来た。セコンドの「首相撲に付き合うな!」の声。若干は真美の蹴りで巻き返しを狙うが、ジョンをたじろがせるには至らない。ラストラウンドも激しく打ち合うもジョンの勢い止められず終了。真美もS-1世界チャンピオンの意地で踏ん張ったがフルマークの大差判定負け。

多彩な技持つジョン・アヨンにリズム狂わされた真美だが、懸命に戦った

◆第3試合 スーパーバンタム級3回戦

NJKFスーパーバンタム級6位.王清志(新興ムエタイ/神奈川県出身30歳/ 55.15kg)
26戦10勝(3KO)15敗1分
        VS
祖根亮磨(大和/1997.5.8 沖縄県出身/55.0kg)10戦4勝(4KO)5敗1分
勝者:祖根亮磨 / TKO 2ラウンド 1分43秒
主審:児島真人

第2ラウンドに両者打ち合いになった中。祖根亮磨がパンチ軽いヒットながらノックダウンを奪う。立ち上がった王清志だが、続行しかけて足がフラ付くとレフェリーがストップし、祖根亮磨のTKO勝利となった。

◆第2試合 58.8kg契約3回戦

工藤叶雅(VALLELY/埼玉県出身19歳/ 58.25kg)2戦1勝1敗
        VS
陽平(TAKEDA/ 埼玉県出身16歳/58.4kg)2戦1勝1敗
勝者:工藤叶雅 / 三者三様 延長2-1
主審:宮沢誠
副審:多賀谷28-29(9-10). ランボー29-29(10-9). 児島29-28(10-9)

この試合は勝敗決定のCHALLENGERルール。引分けから延長戦を行なって勝利者は工藤叶雅となった。

◆第1試合 フライ級3回戦

トマト・バーテックス(VERTEX/徳島県出身24歳/ 50.45kg)8戦1勝5敗2分
       VS
竹田奏音(TAKEDA/埼玉県出身16歳/ 49.9kg)2戦2勝
勝者:竹田奏音 / 判定0-3
主審:中山宏美
副審:多賀谷27-30. ランボー27-30. 児島27-30

《取材戦記》

亜維二は前回9月28日に続いて計量一回でパスとならず、リミットまで時間が掛かりました。減量がキツくなったのは確かでしょう。でも王座決定戦を制してから転級は考えると言っていましたが、準決勝の今回は肩を脱臼してのTKO負けしてしまいました。これはもしかして減量が影響しているのか。身体から抜け切った水分が正常に戻るまで2~3日掛かると言われます。それは頭部を打たれた際の脳へのダメージが大きいと言われ、脱臼の影響あるかは不明だが、何か気になる負傷でした。その亜維二は打倒・大田拓真が目標という。階級が違うので戦うことは無いだろうが、存在感や実績での団体エース格への挑戦である。

嵐はチャンピオンに成ってからやって来る試練にぶち当たった感じである。前回6月8日も星拓海にボディーを攻められてKO負けを喫しました。国内に多くあるタイトルは一つ獲っただけでは日本チャンピオンとは言えず、ここからがチャンピオンロードの始まり。本当の試練が始まる。まだまだ戦わねばならない、リベンジしたい相手がいる中、今後の再起戦に期待である。

IBFムエタイはWBC同様にプロボクシング主要認定団体のムエタイ部門で、2017年にタイで発祥した世界タイトルです。2019年には波賀宙也が世界ジュニアフェザー級王座獲得しています。今回から始まったIBFムエタイの日本タイトル戦。WBCムエタイとどう使い分けていくのか。負けが込んでいる選手がいきなり挑戦するようなこと無いよう、NJKFを中心に今後どのように権威を上げて行くのか見届けたいところです。

NJKF 2026年のスタートは2月8日に後楽園ホールに於いて開催されます。興行タイトルが「NJKF CHALLENGER.12」となるかは不明ですが、IBFムエタイ日本ウェルター級王座決定戦が確定しています。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

『紙の爆弾』1月号に寄せて

中川志大 『紙の爆弾』編集長

1月号では、孫崎享・元外務省国際情報局長が高市早苗首相の「台湾有事発言」を分析。すでに日中関係の悪化による経済への影響が各所で顕在化していますが、それにとどまらない本当の「高市リスク」について解説しています。それは、2021年末の安倍晋三元首相の「台湾有事は日本有事」発言と比較するとわかりやすく、両者の違いは現役の首相であるかだけではありません。高市首相の「右翼的ポピュリスト」思想にもとどまらない、今の高市政権そのものが持つ危険性が、孫崎氏の論考から見えてきます。

そもそも、繰り返し強調される「中国の脅威」とは何か。日本国内では、まるで中国がいきなり暴走を始めたかに受け止められていますが、そのタイミングをみれば、アメリカの対中戦略の変化が発端であることがわかります。だとすれば高市発言は、米中対立が次の段階に移行する予兆ととらえることが可能です。そうした現状にあって、果たして日本政府に対中戦略と呼べるものがあるのか大いに疑問で、ひたすらアメリカに追従することしか考えていないように見えます。その先に見えるのが、「日本のウクライナ化」です。ロシア・ウクライナ情勢について前号では東郷和彦・元外務省欧亜局長が、日本でほとんど報道されない欧州各国首脳の過激発言を紹介、ウクライナ情勢の現在と今後の展開について解説しました。そこで見えてきたのが欧米発のプロパガンダにまる乗りする日本の姿で、こと台湾情勢においてはさらなる危機を招くことが懸念されます。

孫崎氏は「目先の一手」に終始する高市政権の対外姿勢を指摘していますが、それは、事実に基づかない発言で“犬笛”を吹きジャーナリスト・西谷文和氏を攻撃しながら、西谷氏の質問状に答えない藤田文武・維新共同代表の言動にも通じます。橋下徹元代表ならば、もう少し考えて話していたのでは。自維まるごと、代を重ねるごとに劣化する、というのは、現代日本の政治に根本的な要因があるように思います。

N党・立花孝志代表の名誉毀損逮捕。パチスロメーカー告発書籍等の出版を理由とした2005年の鹿砦社代表逮捕・長期勾留事件は、名誉毀損の判断は権力・体制側のさじ加減であるとしても、出版物の記載内容(表現)を理由にしながら「証拠隠滅のおそれ」「逃亡のおそれ」を認定した異常なものでした。松岡代表が否認を貫き、それゆえに約200日に及ぶ長期勾留に至ったのに対し、立花氏が早々に罪を認めたなど両事件の展開には違いがあるものの、本誌記事が指摘する内容は、日本の刑事司法を考えるうえで間違いなく重要なテーマです。

ほか今月号では、現地取材・本人取材を通して田久保眞紀・前伊東市長への「メディア総たたき」の真相に迫りました。また“極右の台頭”ばかりが報道される裏で躍進を見せる「欧州左派」と、失速する「日本の左派」の違いを解説。さらに、このところ死亡事故が相次いでいるにもかかわらず、大きく取り上げられない日本ボクシング界の闇にメスを入れました。『紙の爆弾』は全国の書店で発売中です。ぜひご一読ください。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

『紙の爆弾』2026年1月号
A5判 130頁 定価700円(税込み)
2025年12月7日発売

「台湾有事発言」は序章にすぎない 日本を襲う高市リスク 孫崎享
高市首相に食い込んだ米巨大投資ファンド 浜田和幸
日本だけ“真逆”の「令状主義」立花孝志逮捕事件が明かす刑事司法の異常 たかさん
藤田文武維新共同代表「犬笛吹いて逃亡」の責任を追及する 西谷文和
欧州左翼“復活”の時代に 日本の左派が見失った「果たすべき役割」広岡裕児
デマゴーグが闊歩する風土(上)日本的「和」の真相 中尾茂夫
国民を監視し情報を遮断する統制強化装置「スパイ防止法」の正体 足立昌勝
犯罪を裁く司法の犯罪 警察、検察、そして「裁判所の裏ガネ」青山みつお
動物実験を代替する? ヒト臓器チップとは何か 早見慶子
「日露相互理解協力章」受章 日露民間外交がもたらす「国益」 木村三浩
「JBC」トップに高まる退陣要求 ボクシング連続死亡事故の報道されない闇 片岡亮
メガソーラー計画は本当に止まったのか? 田久保眞紀前伊東市長総たたきの真意 高橋清隆
保護者を“カスハラ”扱いする都教委ガイドライン 永野厚男
原発亡国論 佐藤雅彦
食・農と生活を再生する「海洋深層水」の可能性 平宮康広

連載

例の現場【新連載】
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け:西田健
「格差」を読む:中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座:東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER:Kダブシャイン
ニッポン崩壊の近未来史:西本頑司
芸能界 深層解剖【新連載】

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/
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司法の独立・裁判官の独立について〈2〉アメリカによる日本の司法破壊

江上武幸(弁護士 福岡・佐賀押し紙弁護団)

戦後80年にわたって日本がアメリカの事実上の支配下におかれてきたことは、ネット情報により国民に広く知れわたるようになりました。前回述べたとおり、司法の世界(裁判所・検察庁)もアメリカ支配のもとにおかれてきました。

*元外交官孫崎享氏の『アメリカに潰された政治家たち』(河出文庫)をご一読ください。

*グーグルで「日米合同委員会」・「年次改革要望書」を検索して下さい。

日米合同委員会は、在日米軍将校と中央省庁の官僚とで構成する政治家抜きの秘密会議です。日本側参加者の肩書をみると、軍事・外交・防衛問題のみならず立法・司法・行政の国政全般について継続的に協議が行われていることがわかります。

日米合同委員会は月2回程度開催されているとのことで、これまでの開催数は2000回におよぶとの指摘もあります。

そこでの協議内容は、国会に報告されることも国民に公表されることもありません。

* グーグルで「日米合同委員会議事録公開訴訟」を検索ください。

日本のエリート官僚は、戦前は天皇支配のために、戦後はアメリカ支配のために生涯を捧げているといっても過言ではありません。日米合同委員会に各省庁を代表して出席できる地位につくことが官僚としての出世コースの最終ゴールであると考えて日常業務に従事しているとしても不思議ではありません。

大臣や国会議員が短い期間で国政の場から退場していくのに比べると、各省庁の官僚は大学卒業後、定年退官まで人生のすべてをかけて国政の中枢に座り続けるのですから、国を動かしているのは自分たち官僚であると自負するのもあながち無理からぬことかもしれません。しかも、在職中「つつがなく」上司の指示・命令に従って業務を遂行すれば、出世につながり、職を辞したあとは優雅な天下り生活が待っています。

しかし、国家権力が最終的に帰着するところは、最大の暴力装置である軍隊であることは歴史の証明するところです。アメリカの支配下におかれている我が国においては、国家権力は最終的には駐留米軍と自衛隊に帰属します。この点は、冷静に見ておく必要があります。自衛隊の文民統制も究極においては絵に描いた餅になることが必至です。

近時、自衛隊は陸・海・空を問わず米軍との共同訓練を拡大しています。実際に戦争が始まった場合、自衛隊が米軍の指揮下にはいることは避けられません。共同訓練の積み重ねによって、自衛隊員があたかも世界最大の核保有国であるアメリカの軍隊の一員であるかのように錯覚し、米軍に先んじて無謀な軍事行動に出る可能性も否定できません。

防衛大学生が入学直後、大量に退学している情報がネット上散見されます。退学の理由はともかくとして、早々に防衛大学での生活をあきらめ退学を選択した学生達と違い、残った学生は軍事大国としての復活を目指す思想に染まりやすいのではないかと懸念します。

日々、猛烈な軍事訓練に耐えてきた防衛大学卒業の自衛隊幹部が、文民統制という名で上位に立つ同世代の一般大学卒業の文官を内心で軽くみたとして不思議ではありません。

防大生の職業軍人としての自尊心・おごりたかぶりの萌芽は、戦前の帝国陸・海軍人の姿をみるまでもなく、制服姿で靖国神社の参道を行進する姿をみれば容易に想像がつきます。

災害時に被災者を救護した経験のある自衛隊員はともかく、日夜、日本の防衛のためということで人殺しのために厳しい訓練に耐えている血気盛んな若者が、いつしか世界最強の米軍と共に戦場に立つ日が来ることを夢見たとしても不思議ではありません。

◆最高裁と検察庁中枢のアメリカ支配

次に、年次改革要望書は、アメリカ政府の日本政府に対する規制緩和や市場開放を求める要望事項(実際は命令に等しい)を記載した文書です。日本政府はこれを受けて関係省庁の官僚に検討と実行を指示し、官僚は進捗状況をアメリカに定期的に報告する仕組みになっています。鳩山民主党政権時代にいったん終了しますが、その後も形を変えて継続しています。

そこに書かれた要望事項は、建築基準法・独占禁止法・著作権法・労働者派遣法などの基本法の改正や郵政民営化・法曹人口の大幅増加などの具体的かつ詳細で、広範にわたっています。

司法にもアメリカ支配が及んでいることは、米軍立川基地違憲判決(伊達判決)を最高裁判決で取消すための方策を田中耕太郎最高裁長官とアメリカ大使が密談で決めたことを紹介したとおりです。

* 検察庁については、戦後、GHQによる東京地検特捜部の誕生秘話を検索ください。

* 歴史に仮という言葉が許されるならば、当初予定されていた田中二郎氏が最高裁長官に指名されておれば、我が国の司法の歴史はもっと違ったものになっていたことでしょう(岡口基一元裁判官のSNSでの発言)。

司法の独立と裁判官の独立を守るのは裁判官の責任だけではありません。検察官・弁護士を含む法曹三者全体の責任です。

最高裁と検察庁の中枢はアメリカ支配を積極的に受け入れてきた戦前の司法官僚とその後継者たちによって占められてきました。従って、アメリカが裁判所・検察庁については、直接間接に影響力を及ばすことは可能です。

ちなみに、京都大学法学部卒業で検事になった同期の友人は、「就任して6年目に将来同期の誰がどの程度まで出世するかが分かるようになった。」と述懐してくれました。裁判官の世界も同じです。

しかし、弁護士の場合、単位弁護士会と日本弁護士連合会の会長は会員の選挙によって選ばれますし、そもそも民間組織であるためアメリカの支配はおよびません。

弁護士は治安維持法に基づく検察局・裁判所による思想弾圧事件を弁護してきた戦前の歴史から、新憲法のもとで認められた三権分立・司法の独立・裁判官の独立を守ることの重要性を最も強く感じていました。

新憲法施行に伴い「司法研修所」が設置され、司法研修所を卒業するときに裁判官・検事・弁護士のいずれかの道を選択する制度に変わりました。

司法研修所の2年間の生活で法曹の卵たちは法曹三者の一体感を醸成してきました。私達世代は、裁判官・検察官・弁護士の立場の違いを超えて、司法の独立・裁判官の独立を一致協力して擁護しようとする気持ちは同じでした。しかし、アメリカの支配を甘んじて受け入れた戦前の裁判官・検察官は、戦後の司法研修所で培われた次世代の法曹三者の一体感を理解することも尊重することもできませんでした。

石田最高裁長官らによる青法協所属裁判官の脱会工作や再任拒否、修習生の任官拒否による思想統制については、結局、外部の日本弁護士連合会が中心になって反対するほかありませんでした。

1969年 定期総会 司法権の独立に関する宣言
1970年 臨時総会 平賀・福島裁判官に対する訴追委員会決定に関する決議
1971年 臨時総会 裁判官の再任拒否に関する決議
1971年 臨時総会 司法修習生の罷免に関する決議
1971年 定期総会 司法の独立に関する宣言
1972年 定期総会 裁判官の再任・新任拒否に関する決議
1973年 定期総会 最高裁判所裁判官の任命に関する決議
1973年 臨時総会 裁判官の再・新任に関する決議
1975年 定期総会 司法研修所弁護教官の選任および新任拒否に関する決議
1976年 定期総会 司法研修所における法曹教育に関する決議
1977年 定期総会 裁判官新任拒否に関する決議
1978年 定期総会 裁判官新任拒否に関する決議
1979年 定期総会 裁判官新任拒否に関する決議

最高裁の裁判官の思想統制に真っ向から反対する弁護士や日本弁護士会の存在がアメリカや最高裁にとって目障りだったことは疑いようがありません。

アメリカは1997年の年次改革要望書に「日本政府は、1998年(平成10年)4月1日から、最高裁判所の司法研修所の修習生受け入れ数を年間1500人以上に増やすことによって、日本弁護士の数を大幅に増やすべきである。」と記載しました。

翌1998年の要望書には「日本政府は、最高裁判所司法研修所の修習生受け入れ数を可及的速やかに、遅くとも2000年(平成12年)4月1日以降に入所する修習生クラスから年間1500名以上に増やすべきである。」と記載しました。

1999年の要望書には「日本政府はできる限り速やかに、しかし遅くとも2001年(平成13年)4月1日に開始される研修までに、最高裁判所司法研修所による修習生の受け入れ数を年間2000名以上に増やす必要がある。」と記載しました。

2000年の要望書には「米国は、自由民主党司法制度調査会が2000年5月に提言した目標(ある一定期間内にフランスのレベルに到達する)のように、弁護士数をある一定数、大幅に増加させることをもとめる。」と記載しました。

(注):フランスのレベルとは、年間3000人程度の数を意味します。

アメリカ政府が日本政府に司法試験合格者の大幅増員を求めた背景には、日本の弁護士の経済的・社会的地位の低下、裁判官・検察官に対する弁護士の相対的地位の低下、ひいては日本弁護士連合会の政治的影響力の低下を実現する意図が隠されていたと考えざるを得ません。

法曹人口の増大と法科大学院の導入が完全な失敗であったことは誰の目にも明らかになっています。しかし、日本の司法の破壊を目的としたアメリカにとっては大成功だと評価することが出来ます。郵政民営化の成功体験と同じです。

◆法科大学院導入と法曹人口増員が日本の司法をいかに破壊してきたか

次回の投稿は、法科大学院の導入と法曹人口の増員が日本の司法をいかに破壊しているか、その現状を個人的感想を交えて述べさせていただきたいと思います。

(追記)現在の司法の状態をどのように立て直していけば良いのか考えると気が遠くなります。なお、参考のために以下の動画と書籍をご覧頂ければ幸いです。

れいわ新選組の山本太郎氏の参議院文教委員会における質疑(2019年6月18日開催)
「アメリカ様の要求通りは、学問の世界も?
」(ユーチューブ動画)

◎前法務大臣河井克行氏著「司法の崩壊-新任弁護士の大量発生が日本を蝕む」(PHP研究社刊)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年10月12日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

◎「司法の独立・裁判官の独立」について〈1〉

▼江上武幸(えがみ・たけゆき)
弁護士。福岡・佐賀押し紙弁護団。1951年福岡県生まれ。1973年静岡大学卒業後、1975年福岡県弁護士会に弁護士登録。福岡県弁護士会元副会長、綱紀委員会委員、八女市役所オンブズパーソン、大刀洗町政治倫理審査会委員、筑豊じんぱい訴訟弁護団初代事務局長等を歴任。著書に『新聞販売の闇と戦う 販売店の逆襲』(花伝社/共著)等。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

《12月のことば》我が道を行く

鹿砦社代表 松岡利康

《12月のことば》我が道を行く(鹿砦社カレンダー2025より。龍一郎揮毫)
《12月のことば》我が道を行く(鹿砦社カレンダー2025より。龍一郎揮毫)

本年のカレンダーも最後の一枚になりました。一年経つのは本当に速いものです。

本年も厳しかった一年でしたが、月々のカレンダーの言葉に叱咤激励され過ごしました。この一年が厳しかったとは言っても、大きな自然災害、人的災害に遭った方々が受けた被害に比すれば大したことはありません。どんなに苦しい時でも、確固たる信念を持って「わが道」を進んでいけば、「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もある」と信じています

私たちの出版社・鹿砦社は、激動の年・1969年に創業して以来、多岐にわたる領域の出版を行いつつも常に「わが道」を進んできました。そうでなければ、鹿砦社という出版社のレゾンデートル(存在理由)はありません。どこにでも在る中小出版社にすぎません。小さくても毒を持つ出版社を目指してきました。

創業50周年を、創業メンバーでただ一人、生き残り老骨に鞭打って頑張っている前田和男(『続全共闘白書』編纂人)さんを招き、当時の想い出を語っていただき、皆様方に祝っていただいてから、新型コロナという予想もしなかった感染症が世の中を一変させ、いかんせん、これに巻き込まれ、いまだにのたうち回っています。もうそれも、そろそろ打ち止めにしなくてはなりません。

これからも、いかなる苦境にあろうとも、「わが道」を進み続けることに変わりはありません。生来鈍愚なので、今更生き方を変えることはできませんから……。

来年のカレンダーは、『紙の爆弾』2月号と共に明日発送いたします。制作途上で龍一郎は肺がんで片方の肺の半分を取る手術をし、加えて歴史的な猛暑で体力的に厳しい中、気力を振り絞り書き上げてくれました。70代に入り満身創痍の龍一郎をしても、大動脈解離に続き大病で体力的に持たず、東日本大震災-原発爆発から来年3・11で15年を迎え、震災発生から龍一郎と二人三脚で続けて来たカレンダーですが、これを節目として最後にさせていただくことになりました。まことに残念ですが、ご了承ください。闘病中の龍一郎については、その費用をまかなうため次の口座にカンパをお願いいたします。

振込先:郵便振替 01760-0-130407
口座名:井上龍一郎

龍一郎にしても私にしても、大学を離れてから、いろんなことを経験しました。龍一郎は、何と言っても「ゲルニカ事件」、私は「名誉毀損」に名を借りた言論・出版弾圧──けっして安穏な人生ではなかったけれど、それなりにいろいろあった人生でした。人生はまだまだ続きます。私は一時の栄華から転落、このままでは悔いが残りますので、反転攻勢をかけ必ずや再び失地回復を成し遂げます。ご支援をお願いいたします!

六ヶ所再処理工場と大間原発が建設中の青森県こそ反戦反核の拠点に! 12月1日大阪での中道雅史さんの報告集会にご参加を!

尾﨑美代子

去年、大阪で開催された老朽原発再稼働阻止集会で、青森県から参加された中道雅史さんにお会いした。集会での中道さんのアピールをお聞きして、青森県の原発、核関連施設について、私が余りに知ってないことに驚かされた。その中道さんが来週祝島、広島を講演会で回るそうだ。最後の日曜日は、高浜の現地行動へ行くという。以前、店に来られた際、少しお話をお聞きしたが、もっとじっくりお話をお聞きしたいと思ってた。なので、来週いっぱいスケジュールが入ってるようなので、大阪で話して貰うのはまた今度と考えていた。そんな時中道さんから提案された。

「尾崎さん、月曜日でもいいからぜひ皆さんに報告させて下さい」と。私は311以後作った「西成青い空カンパ」の仲間に聞いたら、みなさん、「やろう!やろう!」「お話が聞きたい!」となった。

ということで、12月1日(月曜日)大国町ピースクラブで中道雅史さん緊急報告会をやります。ぜひぜひお集まりを!!

《追記》先日来店された女性2人のお客様、知っている方の女性はキリスト教団体の反原発の催しなどやっていて、数年前、小出さんの講演会に参加させて頂いた。

お二人にチラシを渡すと、もう1人の釜ヶ崎初めての女性が、「私の故郷は青森県です」というのだ。あらま、びっくり。彼女の母親は現在65歳、高校卒業後「集団就職」で関東に出てきたという。えっ集団就職? それってもっと古い昔じゃないの?と思ったが、事実だった(これが最後だったらしい)。

それほど地元で仕事がない。結局彼女のお母さんは千葉で割の良い仕事が探せ、そこで知り合った男性と結婚し、彼の転勤で青森県に戻り、それからずっと反原発を闘ってると。

彼女の地元十和田市は、パチンコ店が乱立しているらしい。山ほどある原発関連施設で働く作業員らが楽しむためだろう。もちろん歓楽街、風俗店も。

青森県にはぜひ行って見たい。中道さんが案内して下さるという。この目で見てみたい。どんな光景が広がっているのだろうか?

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

3・11の彼方から──『季節』セレクション集 Vol.1
https://www.amazon.co.jp/dp/4846315878

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

WMO世界戦、瀧澤博人は戴冠! 睦雅は敗れる!

堀田春樹

2024年7月28日の世界挑戦で2-1判定負けした瀧澤博人は今回、明確に倒して戴冠。
睦雅はベテランの曲者、ペッダムにペースを狂わされ判定負け。
軽量級の二人のライバルチャンピオン、西原茉生はテクニックで圧倒の判定勝利。
細田昇吾は初回早々の圧倒のKO勝利。
治政館の新星、BANKIと西山天晴は揃って勝利。

◎KICK Insist.25 / 11月23日(日・祝)後楽園ホール17:15~21:20
主催:VICTORY SPIRITS、ビクトリージム
認定:World Muaythai Organization、ジャパンキックボクシング協会(JKA)
世界戦スーパーバイザー:ウラチャー・ウォンティエン(タイ)

前日計量は22日14時より水道橋内海ビルにて行われ、全員が一回でパスしています。戦績はプログラムを参照に、この日の結果を加えています。

◆第11試合 WMO世界スーパーライト級王座決定戦 5回戦

3位.睦雅(=瀬戸睦雅/ビクトリー/1996.6.26東京都出身/63.5kg)31戦23勝(14KO)6敗2分
            VS
ペッダム・ペッティンディーアカデミー(1998.5.25タイ国出身/63.5kg)
258戦199勝52敗7分
勝者:ペッダム・ペッティンディーアカデミー / 判定0-3
主審:ノッパデーソン・チューワタナ(タイ)
副審:椎名利一(日本)48-50. 
アラビアン長谷川(タイ)47-49. 
ナルンチョン・ギャットニワット(タイ)47-49

(睦雅はWMOインターナショナル・スーパーライト級チャンピオン/ペッダムは元・WBC・ムエタイ世界フェザー級、元・ルンピニー系バンタム級、元・タイ国《PAT》バンタム級チャンピオン)

睦雅はローキックで様子見。ペッダムは高めの蹴りを返しながら圧力を掛けて出る。パンチの交錯は互角ながら、ペッダムの勢いが強い。

第2ラウンド以降もペッダムの左ミドルキックが時折強く繰り出して来る。更にペッダムの左ハイキックが睦雅の顔面を掠めるようなヒット。睦雅はローキックからパンチ、ハイキックも織り交ぜ突破口を開こうと出ていくが、ペッダムはリズムを崩さない。

ペッダムの左ハイが睦雅の顔面を掠める

その流れが続き、睦雅がパンチ攻勢を強めてもペッダムは凌いで強い左の蹴りで返して来る。第3ラウンド終了時の公開採点が30-29、30-28が二者でいずれもペッダム優勢。これはもう倒しに行かなければ勝利は難しい流れとなった。

しかし、睦雅は攻めても流れを変える勢いは無く、ペッダムの左ミドルキックでの優勢の流れは変えられない。第4ラウンドも取られて各ジャッジとも2~3ポイント開いた差となってしまった。ほぼ勝ち目は無いが倒しに掛かるしかない最終ラウンド、作戦は如何に進めるか。セコンドの声に頷く睦雅。ペッダムは手数は減ったが、出て来る睦雅に対抗して蹴って出た。睦雅は正に無我夢中の攻めも敵わず、頑丈なペッダムに蹴られ続けてしまった流れで巻き返せず、王座奪取は成らなかった。

ペッダムの左ミドルキックは重く強くタイミングよく入って睦雅を苦しめた

睦雅は試合後「戦い難さはちょっとはあったんですけど、僕自身がダメだったので、ここまで整えるまでが未熟だったかなとやってみて思いましたね。ペッダムはそこまで強いとか崩せないというのは無かったので、僕が足りない部分があったというところですね。」と語った。

ペッダムには防衛戦について尋ねると「防衛戦もやりたいですが、これからも実力をアップさせて名声を高めていきたいです。」と、大凡はこのように応えました。タイ語が難しくて捉え難かったですが、キレイに纏めてくれた印象があった回答でした。

判定はペッダムに上がった。睦雅は悔しい瞬間

◆第10試合 WMO世界フェザー級王座決定戦 5回戦

15位.瀧澤博人(ビクトリー/1991.2.20埼玉県出身/ 57.1kg)45戦29勝(16KO)12敗4分
VS
10位.チャイトーン・ウォー・ウラチャー(タイ/ 57.0kg)77戦54勝20敗3分
勝者:瀧澤博人 / TKO 3ラウンド 1分25秒
主審:ナルンチョン・ギャットニワット(タイ)
副審:椎名利一(日本) アラビアン長谷川(タイ)  ノッパデーソン・チューワタナ(タイ)

(瀧澤博人はWMOインターナショナル・フェザー級チャンピオン/チャイトーンはラジャダムナン系スーパーバンタム級5位)

離れた距離での蹴りでの牽制の両者。瀧澤博人は距離を詰め難さが感じられた。ペース掴めず圧され気味の中、第2ラウンドには距離が詰まるとチャイトーンの左ヒジ打ちで瀧澤は右目尻を切られてしまうが、瀧澤も右ヒジ打ちでチャイトーンをグラつかせた。

ヒジで斬られた瀧澤博人はヒジ打ちで返した

蹴りの勢いとタイミングではチャイトーンが優勢の中、第3ラウンド、チャイトーンが瀧澤をロープ際に詰めたところで、瀧澤がカウンターの左ヒジ打ちをチャイトーンの顔面に打ち込むとゆっくりとロープにもたれ掛かって崩れ落ち、カウント中にレフェリーがストップし、瀧澤のTKO勝利となった。

瀧澤博人はカウンターの左ヒジ打ちでチャイトーンを倒した

歓喜に湧く瀧澤陣営。瀧澤も喜びと号泣と、そして最後は元気にマイクで感謝と先の目標を語った。

二人の愛娘を抱き上げる瀧澤博人。人生最高の瞬間。更にもう一つ上へ行けるか

◆第9試合 52.5kg契約3回戦

JKAフライ級チャンピオン.西原茉生(治政館/2003.6.27埼玉県出身/治政館/ 52.4kg)
17戦11勝(5KO)5敗1分
         VS
ローマ・ルークスワン(IMSAスーパーフライ級Champ/タイ/ 52.45kg)68戦41勝26敗1分
勝者:西原茉生 / 判定3-0
主審:椎名利一
副審:勝本30-27. 西村30-27. 少白竜30-27

ジャブとローキックでペース掴み、先手を打ってローマのリズムを崩した西原茉生の上手さが目立ち、倒すに至らなくても終始圧倒。蹴りもパンチも多彩に攻め優り、ジャッジ三者ともフルマークを示した。

ローキックから終始圧倒を維持した西原茉生。細田昇吾の挑戦を受ける日は来るか

◆第8試合 52.5kg契約3回戦

JKAフライ級1位.細田昇吾(ビクトリー/1997.6.4埼玉県出身/ビクトリー/ 52.4kg)
26戦17勝(6KO)7敗2分
         VS
ソッサイ・ウォー・ウラチャー(タイ/ 52.4kg)50戦29勝19敗2分
勝者:細田昇吾 / KO 1ラウンド 48秒
主審:勝本剛司

ローキックで調子を上げていく細田昇吾。ソッサイも応じて多彩に蹴るも、細田の勢いが優り距離感を掴んでパンチ連打で追い込み、左ボディブロー二度ヒットさせるとソッサイは苦しそうに崩れ落ち、テンカウントを数えられた。

細田昇吾は9月20日にタイでジットムアンノンスタジアム・スーパーフライ級王座決定戦で4ラウンドKO勝利し王座獲得。そのチャンピオンベルトを掲げて登場。勝利後も王座戴冠の報告と今後の飛躍を誓った。

最後は左ボディーフックだが、最初のボディブローが活きた細田昇吾。勢いが優った

◆第7試合 66.7kg契約3回戦

ペップンミー・ビクトリージム(元・タイ国イサーン地方フライ級2位/タイ/ 66.0kg)
68戦53勝(16KO)15敗
         VS
NKBウェルター級チャンピオン.カズ・ジャンジラ(Team JANJIRA/1987.9.2東京都出身/ 66.65kg)45戦21勝(4KO)17敗7分
勝者:ペップンミー・ビクトリージム / 判定3-0
主審:西村洋
副審:椎名30-28. 勝本30-28. 少白竜30-28

ローキックで様子見。徐々に距離を詰めていく両者だが、前に出るカズ・ジャンジラと、下がりながらも的確に攻めるペップンミーはヒジ打ちを含め多彩な技を持った上手さで余裕の判定勝利。NKBから参加したカズ・ジャンジラは引退まで残り2戦となった。この日の一戦で得た技で防衛戦と引退試合を勝ち上がりところである。

ペップンミーは落ち着いた試合運びでカズ・ジャンジラの蹴り足を捉える

◆第6試合 ライト級3回戦

ジャパンキック協会ライト級5位.林瑞紀(治政館/ 61.2kg)19戦11勝(4KO)7敗1分
        VS
乱牙(=蘭賀大介/前・NKBライト級Champ/無所属/1995.2.9岩手県出身/ 61.23kg)
14戦7勝(3KO)5敗2分
勝者:林瑞紀 / 判定2-0
主審:少白竜
副審:椎名29-29. 勝本29-28. 西村30-29

蹴りとパンチの互角の攻防。やや乱牙の勢いある蹴りも林瑞紀のパンチヒットで巻き返す。第3ラウンドにはヒザ蹴りに行こうとした乱牙に左ストレートヒットさせた林瑞紀。グラついた乱牙に連打で仕留めに掛るが、乱牙は凌いで蹴りとパンチの乱打戦。ラストラウンドを取った林が辛うじて判定勝利した。乱牙はNKBから離脱し、フリーとなっての参加。前・チャンピオンの意地を見せたかっただろう。

◆第5試合 フェザー級3回戦

JKAフェザー級3位.石川智崇(KICKBOX/神奈川県出身33歳/KICK BOX/ 56.8kg)
10戦5勝4敗1分
          VS
同級5位.海士(ビクトリー/ 56.95kg)7戦5勝2敗
勝者:海士 / 判定0-3
主審:椎名利一
副審:勝本28-30. 少白竜29-30. 西村29-30

◆第4試合 スーパーフェザー級3回戦

青木大好き(OZ/ 58.5kg)15戦7勝8敗
      VS
松岡優太(チームタイガーホーク/ 58.7kg)5戦4勝1分
勝者:松岡優太 / 判定0-2
主審:勝本剛司
副審:椎名28-30. 少白竜28-30. 西村29-29

◆第3試合 フェザー級3回戦

BANKI(=竹森万輝/治政館/2008.2.15埼玉県出身/ 57.0kg)3戦3勝(1KO)
      VS
エイジ(RANGER/ 56.9kg)5戦3勝2敗
勝者:BANKI / 判定3-0 (30-28. 29-28. 30-29)

蹴りが中心の攻防もBANKIは得意の右ハイキックは時折繰り出すが、エイジもハイキックを返し、両者ともハイキックのインパクトを残した。やや圧して出るBANKIが第3ラウンドも攻勢を維持し判定勝利。

BANKIのミドルキックがエイジにヒット。互いの蹴りが交錯する激戦となった

◆第2試合 53.0kg契約3回戦

西澤将太(ラジャサクレックムエタイ/ 52.85kg)2戦2勝(1KO)
          VS
トム・ルーククロンタン(Team S.R.K/ 52.7kg)3戦1勝2敗
勝者:西澤将太 / 判定3-0 (28-27. 30-27. 30-27)

◆プロ第1試合 フェザー級3回戦

西山天晴(治政館/2007.4.25埼玉県出身/ 57.1kg)2戦1勝(1KO)1敗
          VS
石井隆浩(尚武会/ 56.7kg)5戦5敗
勝者:西山天晴 / TKO 1ラウンド 1分8秒

蹴りからパンチへ繋いだ西山天晴の左フックヒットし、石井隆浩がバランス崩した後、右ストレートでノックダウンを奪った。その後もパンチでコーナーに追い込み、連打したところでレフェリーストップが掛かり、西山のTKO勝利となった。

◆オープニングファイト アマチュア -85kg2回戦(90秒制)

石田岳士(SOGA KICKBOXING)vs長曽我部優空(ROCK ON)
勝者:石田岳士 / 判定3-0 (20-18. 20-19. 20-18)

※JKAフェザー級チャンピオン.勇成(Formed)は練習中の怪我により欠場。試合は中止。

《取材戦記》

WMO世界戦2試合は、7月3日に行われたWMO世界スーパーフェザー級タイトルマッチ、オーウェン・ギリス(イギリス)vs馬渡亮太戦でのジャッジ一者の採点不備を踏まえ、オープンスコアリングシステムを採用。各ラウンド毎に集計し公開アナウンスとなりました。

前回はジャッジ一者毎に一枚のジャッジペーパーで、最終ラウンドまで採点し集計してレフェリーに渡すローカルシステムでしたが、ジャッジ一者が集計ミス。これで大きなトラブルに発展した。未だ解決しないこの試合結果。WMOサイトではこの試合の結果は載っておらず、オーウェン・ギリスはチャンピオンのままです。

馬渡亮太に尋ねたところ、一応ジャパンキックボクシング協会には、“そのチャンピオンと認められてはいる”いう曖昧な立ち位置。でも近々決着戦が予定されているという。それが日本かイギリスかは未定で、「出来ればタイで行なうのが中立ですね。」と語られた。いずれにしても“倒して勝つ”と宣言した馬渡亮太。前回のモヤモヤした保留結果は払拭して貰いたいところである。

今回のWMO世界戦2試合は、前回の不祥事ジャッジ(タイ)は外された様子。

瀧澤博人はラジャダムナンスタジアム・ランカーのチャイトーンを倒し、WMOの世界王座は戴冠しても、これを切符にラジャダムナンスタジアムランキング入りと王座挑戦も近づいたという、世界王座の上に殿堂ラジャダムナンスタジアム王座があるという縦構造を示した形。まだ最高峰には達していないという発言にもなった。

試合は距離感掴めない、やや圧された展開からヒジ打ち狙った両者の攻防の中、アグレッシブにぶっ倒してしまう圧倒的勝利は見事だった。“瀧澤やるじゃん”である。

睦雅は1月のONEでの敗戦後4連勝の絶好調の中、何が調子を狂わせたか、ペッダムは左ミドルキックは強かったが、攻略出来ない相手ではないと考えられたが、睦雅は言葉少ないながらも、再挑戦へ向けて立ち上がると窺える表情だった。

2026年のジャパンキックボクシング協会興行は、3月15日(日)後楽園ホール、5月24日(日)市原臨海体育館、7月5日(日)後楽園ホール、9月20日(日)新宿フェース、11月22日(日)後楽園ホールが予定されています。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

「万博」「都構想」「身を切る改革」そして……維新と吉村洋文は何度でもウソをつく

西谷文和(紙の爆弾2025年12月号掲載)

タブーなき月刊誌『紙の爆弾』の最新号記事がnoteで一部公開・購読可能となりました。独自視点のレポートや人気連載の詰まった「紙の爆弾」は全国書店で発売中です(毎月7日発売。定価700円)。書店でもぜひチェックしてください。

◆安倍晋三に学んだ政治家としての処世術

「大阪の男」と「奈良の女」。高市早苗首相と吉村洋文大阪府知事・日本維新の会代表(以下、敬称略)に共通するものは何か? それは平気でウソをつけること、しかも、そのウソを追及されても開き直って責任をとらないという「強靭なメンタル」を持っていることだ。

2023年8月6日、吉村は被爆地・広島には行かず、京セラドーム大阪で開かれた「関西コレクション2023A/W」というファッションショーにモデルとして出演した。その後、女性司会者とのやりとりの中で「大阪万博の上空では空飛ぶ車が自転車のようにぐるぐる回る」「万博には3000万人、主に外国の方が来る。国際交流の場になる」と断言した。しかし、空飛ぶ車は開催中にデモ飛行が実施されたものの、観客の乗車体験は断念。そのデモ飛行も、「ぐるぐる回る」どころか、プロペラの一部が折れて飛行中止。

万博の入場者数は想定以下の2500万人で、来場者は外国人でいっぱいにはならなかった。地方の参加者は少なく、地元の関西人が主だったのも周知のとおり。それでも閉幕後は「黒字になった。大成功だ」とはしゃいでいる。しかしそれは運営費で黒字になっただけで、約2倍に膨れ上がった建設費2350億円や9.7兆円に上る巨額のインフラ整備費を全く考慮に入れない大ウソだ。

実際の収支は大赤字なので、これから巨額の血税が注ぎ込まれていくのだが、「大阪の男」はそんなことお構いなしに、大阪都構想の是非を問う3度目の住民投票に突き進んでいる。ちなみに2020年に2回目の住民投票で敗れた際には「もう僕自身は政治家として都構想にチャレンジしません」と述べていた。この矛盾を突かれると「このままではできない、なので信を問う」との主旨を述べた。つまり辞職して知事選挙と3回目の住民投票を同時に行なうつもりだ。

ウソにウソを重ねて、「勝つまでジャンケン」を繰り返す吉村。冗談ではなく、この人物が知事である限り4度目、5度目があるかもしれない。

一方「奈良の女」は自民党総裁選で「奈良公園の鹿を蹴っているのが外国人旅行者とすれば」と仮定法で、言い逃れが可能なヘイトスピーチを披露した。この発言の直後から「迷惑系ユーチューバーの、へずまりゅう(奈良市議)と同じだ」「総裁候補としてありえないヘイト発言」と批判の声が湧き上がった。実際の奈良公園の動画を見れば、外国人旅行者は鹿に優しく接しているし、一部蹴り上げている過去動画はあるものの、それが外国人かどうかは判別できない。このことを問われた高市は「せんべいをあげようとして焦らすと、鹿は足を踏んで来る。それに怒った英語圏の人が蹴り上げた」と、証拠も示さずに自身の経験談を語るのみ。

注目すべきはいったん「外国人旅行者」と決めつけておきながら、釈明会見では「英語圏の人」と言い換えていることだろう。高市は参政党が進めた「日本人ファースト」にあやかって極右の票を獲得しようとする一方、外国人排斥・排外主義者というレッテルを貼られたくないので、外国人を「英語圏の人」と言い換えて「ヘイト度」を薄めようとしたのだ。

高市は経済安全保障担当相だった2年前にも、安倍政権下の総務相時代、マスコミへの電波停止発言に関する自身の発言を暴いた総務省の内部文書を「捏造だ」と決めつけた。立憲民主党の小西洋之参院議員に「捏造でなければ議員を辞めるか?」と詰め寄られると、「結構ですわよ」と開き直った。後日この文書は捏造されたものではなく本物であったことが判明したが、高市は大臣・議員を辞めるどころか、吉村と組んで今や総理大臣になってしまった。

高市早苗と吉村洋文の2人は第2次安倍政権時代に「政治家の処世術」を学んだのだった。安倍晋三首相が森友学園事件で「私や私の妻が関係していたら総理も国会議員も辞めます」とタンカを切ったものの、本当に関係していたので部下が公文書を改竄して守ってくれた。桜を見る会前夜祭で地元山口県下関市の後援会員を格安で接待したことがバレても、全責任を会計担当者と秘書、領収書を出さないホテルになすりつけて逃げ通した。権力を握れば、つまり「トップに上り詰めればウソも開き直りも許される」ことを学んだわけである。

◆大阪での成功体験

ではこの2人が連立合意した条件、まずは衆議院議員の1割削減について考察してみよう。

これは「企業団体献金の禁止」を求める維新に対し、自民が応じなかったので、それに代わる改革ネタ(馬場伸幸・前代表談)が必要だと感じたのがそもそもの目的である。裏金議員に対する国民の怒りを定数削減にすり替えるという維新お得意の「騙しの手口」なのだが、なぜ唐突に定数削減を言い出したかというと、維新には「大阪での成功体験」があるからだ。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/nb65dca79b73b