尾﨑美代子
京都の「餃子の王将」社長殺人事件の裁判で無罪判決がでた。この裁判には、私がこれまで取材してきた事件と非常に共通する問題がある。
1つは平野母子殺害事件(「紙の爆弾」2026年3月号掲載)、被告に一審で無期懲役、二審で死刑判決が下された、その後最高裁が1審に差し戻して、無罪となった事件だ。大阪の平野区で若い女性Aとその子供が殺害された。この事件の決め手も現場に残された煙草の吸殻だった。
犯人とされたのは、彼女の義理の父親Mだった。彼女が結婚した男性の母親の再婚相手という複雑な関係だ。殺害現場のマンションの踊り場の灰皿からMの唾液が付着した煙草の吸い殻がみつかった。逮捕されたMは一貫して容疑を否認。一方、当日マンション付近にいたことは素直に認めていた。というのも、A夫妻はあちこちで借金を重ねていたが、一部はMが保証人となっており、Mへの取り立てがきつくなっていたのだ。
A夫婦は、そんなM夫婦から逃げるように転居し,居場所を隠していた。その後MはA夫婦が平野の某スーパー周辺に住んでいると知り、ある地域ときいて、当日Mはその周辺を探していたという訳だ。
裁判で問題になった吸い殻は他の吸い殻と違ってかなり古いものに思われた。弁護団は、かつてAらがM夫婦と同居していた際、Mの携帯灰皿をAに何個も貸していた。実際Aの部屋からMが持っていた別の携帯灰皿も見つかっている。弁護団はAらが転居する際、その携帯灰皿を持っていき、あるとき、その中身を踊り場灰皿に廃棄したものだと主張した。踊り場灰皿には実はほかの吸い殻も沢山入っており、その中にはAが吸っていた銘柄の吸い殻もあった。
一審に差し戻した最高裁は、Aが吸っていた銘柄の吸い殻からAのDNA型唾液が検出されたならば、AがM宅からもっていった携帯灰皿の中身を踊り場灰皿に廃棄した可能性が高いと考え、検察にその鑑定を促した。すると驚くべき事実が判明した。なんとなんと、警察、検察は、非常に重要な踊り場灰皿内の吸い殻を入れた箱を廃棄してしまっていたのだ。なんということか! Mに無期懲役、死刑判決を言い渡すほどの重大事件の、しかも最も重要で、Mを犯人と決めつけた唯一の証拠ではないか! これでAの吸っていた煙草の銘柄の吸い殻から、果たしてAのDNAが検出するかどうかの鑑定は不可能となった。
この時の最高裁の有名な判例が「間接事実に合理的な不条理(被告人が犯人でなければ説明がつかないほどの確実性)がない限り、怪しいと思う事実をいくら積み重ねても有罪にできない」として、男性に無罪判決を言い渡した。


王将事件では 王将社長の殺害現場に犯人とされたTさんのDNA型が検出された煙草の吸殻が残されていた。現場を下見に来た際、落としたものとされた。吸い殻について、弁護団はTさんを犯人にしたい第三者が残したものと反論した。
ほかにもいろいろあったが、判決日ワイドショーに出演した亀井弁護士の解説が興味深かった。Tは確かに一般人を襲撃するヒットマンではあり、当時も別の件で服役中だった。しかし、王将社長は日所に至近距離で一発も玉を外さず命中させていた、プロ中のプロのヒットマンだ。しかし、Tはそこまでプロのヒットマンではないはずだ、というものだ。


もう一つの事件は、昨年高裁でも懲役16年の有罪判決がくだされ、現在最高裁に上告中の「羽曳野路上殺人事件」だ。スーパー勤務の山本さんが逮捕された。羽曳野の路上で駐車場に車を止めた男性が、駐車場から愛人宅に行こうとする路上で、何者かに刺殺された。
偶然だが、殺害された男性の愛人宅と、犯人とされた山本さんの家は隣同士で、しかもちょっとしたトラブルを抱えていた。とはいうものの、植木鉢を巡ったり、男性が山本さん宅に煙草を投げたりしているのではないかというレベルの話だった。
山本さんは、男性が愛人を先に家に下ろし、駐車場に車を止め家に戻る間、玄関に出て駐車場を見たりしていた。その日は、男性がなかなか車から降りてこないこともあり、寒いのですぐに家に入り、娘とテレビみたり、お酒を飲んでのんびりしていた。その時、男性が路上で刺殺されていたのだった。パトカーがかけつけ騒ぎになり、山本さんは事件を知った。
車を止めた男性が愛人宅に向かって男性が路上を歩いていると、前から来た男性Bが男性の顔を覗き込み、顔を確認するようなしぐさをおこなったのち、男性の後方に回り、背中からナイフを骨と骨の間に差し入れ、心臓を一突きし、殺害。男性は倒れた直後「おい、まて!」と犯人に怒鳴っていた。山本さんが前方から来たというなら、男性は山本さんを見ているではないか、ならば「おい、山本!」と怒鳴るはずではないか、と弁護団に聞いたら、男性は歩きながら携帯をみていたという。犯人はその後も慌てふためく様子もなく、ルンルンルンと遠くへかけていく姿が防犯カメラやドライブレコーダーに映っていた。これこそプロの殺し屋ではないか。長くスーパーに勤務し、家に戻って娘とだべったり、酒をたらたら飲むのが好きな山本さんにそんなことが出来ようか?
手紙を書けば「早くビールが飲みたいです」。「娘たちと会いたいです」と呑気(失礼!自分が犯人ではないので、まさか有罪で刑務所に服役する可能性があるとは全く思ってないようで、どなたへの手紙にもこう書いていた)に書いてくる山本さんのどこに、「ニヒルで孤独なプロの殺し屋」の影が見えるだろうか。
本当にこれこそ「裁判官ガチャ」やね。しかし、そんなことがあってはならない。
▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58





























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