駐ロシア中国大使、日本に不穏な警告を発する

アンドリュー・コリブコ

中国とロシアが、日本の急速な軍事大国化への警戒を強めている。駐ロシア中国大使は、日本の「再軍備」が地域の平和を脅かしていると主張し、ロシア側も同様の懸念を示している。筆者は、日米同盟を背景に日本と中露の対立が軍事衝突へ発展すれば、北東アジアが第三次世界大戦の発火点になりかねないと警告する。

※   ※   ※   ※

もし「日本問題」(ほかに適切な呼び方がないので、こう呼ぶことにする)が近いうちに平和的に解決されなければ、北東アジアで第三次世界大戦が勃発する危険性は急激に高まるだろう。

駐ロシア中国大使の張漢暉(ジャン・ハンフイ)は、東京裁判(極東国際軍事裁判)から80年を迎えるのに合わせ、ロシア国営通信社TASSに時宜を得た論考を寄稿した。東京裁判は、いわば日本版のニュルンベルク裁判だが、西側諸国ではそのことを知らない人も多い。

張大使はまず、日本がカイロ宣言、ポツダム宣言、そして日本の降伏文書に反する形で再軍備を進めているとして、いくつかの事実を挙げた。その例として、各種ミサイルや海軍力の強化、武器輸出、そして日本の「2026年版防衛白書」を取り上げている。

これに関連して張大使は、次のように書いている。

「東京はまた、NATOの関連する軍事的枠組みへの参加を積極的に模索し、北大西洋同盟への統合を加速させている」

【黒薮注】北大西洋同盟:NATOの別称で、同じ意味。

さらに、

「日本は自国による植民地支配・征服を正当化し、台湾が中国に返還されたことの正当性を否定している」

とも指摘した。

中国にとっておそらく最も懸念されるのは、歴史的な宿敵であり、筆者の見方で、3500万人の中国人に対する「ジェノサイド」の責任がある日本が、核兵器保有の可能性をちらつかせていることだろう。そして、ひとたび政治的な決断が下されれば、日本には核兵器を大量生産する能力がある、というのである。

日本の急速な再軍備と核兵器をめぐる議論によって、地域的な脅威が再び高まっているとして、張大使は最後に次のように述べた。

「中国とロシアは、歴史的正義と国際法秩序を守ることに尽力する他の国々とともに、第二次世界大戦の歴史に対する正しい認識を断固として守り、日本軍国主義を復活させようとするいかなる試みも断固として抑え、苦難の末に勝ち取った平和を守り、より公正で合理的な国際秩序の形成を促進する用意がある」

この不吉ともいえる警告は、真剣に受け止めるべきだろう。なぜなら、これはロシア側の日本に対する評価とも一致しているからだ。

プーチン大統領の側近であるニコライ・パトルシェフは約1年前、ロシア国内メディアのインタビューで、要するに「日本はアジアにおけるアメリカの戦略を推進するうえで、これまで以上に大きな役割を担うようになる」と主張した。

その後、年末近くには、新首相の高市早苗が台湾有事における日本の軍事的関与について物議を醸す発言をしたことを受け、「日本は予想より早く中国に挑戦するかもしれない」との見方も示された。

先月末には、「ロシアの高官級外交官が、日本がロシアに及ぼす脅威の増大について言及した」。そして8月半ば、プーチン大統領がロシア極東を訪問した際には、「悪化する日露関係についてプーチンが嘆いた」とされている。

プーチン大統領とロシア太平洋艦隊司令官は、「AUKUS+」という言葉そのものは使わなかったものの、実質的には、日本がその中心的な役割を担おうとしていると指摘した。「AUKUS+」とはここでは、中国を封じ込めるためにアメリカが構築しつつある、NATOに似た軍事ネットワークを指している。

黒薮注】AUKUS+:米・英・豪の3か国が、潜水艦や最先端軍事技術を共同で開発・運用し、軍事的な連携を深める枠組み。

したがって、日本の急速な再軍備と核兵器をめぐる議論は、ロシアにとっても深刻な脅威だということになる。

筆者によれば、この脅威を事前に取り除く方法は二つある。一つは、アメリカが「AUKUS+」を抜本的に再編し、その中で日本が中心的な役割を担わないようにすることだ。もう一つは、ロシアと中国が軍事力によって先制的に日本の脅威を無力化することである。

筆者はさらに、日本が国連憲章上の「敵国」とされていることを根拠として、ロシアと中国にはそのような行動を取る国際法上の権利があると主張する。しかし、その場合、日米の相互防衛体制を理由にアメリカが報復をちらつかせる可能性があり、結果として第三次世界大戦につながる危険が生じる。

かつて北東アジアで地域的な危機を引き起こす主な原因とみなされていたのは、北朝鮮の核兵器開発と核実験だった。しかし現在では、日本が再軍備と核兵器保有をめぐる議論によって、その役割に取って代わった、と筆者は考えている。

かつては北朝鮮の核開発が北東アジアの主要な火種だったが、いまや日本の軍備増強のほうが、中国とロシアという二つの核大国を同時に刺激する点で、より危険な火種になっている。そして、その中国とロシアに共通するライバルであるアメリカは、日本と相互防衛関係にある。

したがって、もし「日本問題」(ほかに適切な呼び方がないので、こう呼ぶ)が近いうちに平和的に解決されなければ、北東アジアで第三次世界大戦が勃発する危険性は急激に高まるだろう。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月21日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/the-chinese-ambassador-to-russia

9月のキックボクシング興行予定から何が探れるか

堀田春樹

6日と12日はニュージャパンキックボクシング連盟、主要イベント二つの戦い。
9月末で閉鎖が決定している新宿フェイス。キックボクシングとしてのラストは20日にジャパンキックボクシング協会KICK Insist 28開催。
27日は東京ドーム主催の後楽園ジャンブル初興行。

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

過激なタイトル、基康が中心に来るCHALLENGER 14

CHALLENGER 14 / 9月6日(日)後楽園ホール17:15~
主催:オフィス超合金 /
認定:ニュージャパンキックボクシング連盟(NJKF)

NJKFの主要イベントの一つ、CHALLENGER興行開催。

NJKFは1996年8月の設立時の運営は外部から“ド素人”と揶揄されながらも、今年満30年の年月を経て大きい団体となったものである。関西にNJKF westも存在し、関東ではCHALLENGERシリーズと従来のナンバーシリーズとDUELや絆、女子だけのイベントGODDESSやミネルヴァタイトルの運営も広域に行なわれています。

地道に這い上がって来た中で、4月5日以来となる武田幸三率いるNJKF CHALLENGERシリーズと、6月から復活したナンバーシリーズ(NJKF 1st)から見えるもの。派閥争いではないが、運営方針の違いが感じられます。

試合順未定

◆メインイベント 第6代 NJKFスーパーウェルター級王座決定戦 5回戦
1位.岩本光太郎(誠至会)vs 2位.基康(=岡本基康/TAKEDA)

今年、主戦場をNJKFに移した基康再登場。王座を狙う。

今後、基康が中心に来る“CHALLENGER”となるか

◆64.0kg契約3回戦
NJKFスーパーライト級チャンピオン.佐々木勝海(エス)
        vs
SB日本ライト級3位.基山幹太(BELLWOOD FIGHT TEAM)

佐々木勝海は4月5日に王座獲得してからの初戦。

4月5日、佐々木勝海の涙の戴冠時

◆フェザー級3回戦
NJKFスーパーバンタム級暫定チャンピオン.中島凛太郎(京都野口)
      vs
安河内秀哉(RIKIX)

中島凛太郎は6月14日に認定された暫定的チャンピオン。正規王座を目指し黒星を喫する訳にはいかない。安河内秀哉は6月20日にNKBライト級チャンピオンの山本太一を4ラウンドTKOに下した、チャンピオンを脅かす存在。

◆52.0kg契約3回戦
S-1世界フライ級チャンピオン.優心(京都野口)
        vs
NJKFフライ級6位.愁斗(Bombo Freely)

安定した実力を持つ優心と着実に成長して来た愁斗。優心を脅かす展開に導けるか。

◆フライ級3回戦
S-1世界ミニマム級チャンピオン.庄司翔依斗(拳之会)
      vs
竹田奏音(TAKEDA)

岡山で活躍するNJKF westでチャンスを得た庄司翔依斗。S-1はタイ国発祥の王座ながら世界的には知名度は小さく、まだ通過点として、もう一つ上へ大きな飛躍が期待される。

◆バンタム級3回戦
スック・ワンキントーン・スーパーフライ級チャンピオン.赤土剛琉(D-BLAZE)
      vs
神田大翔(TOP GUN)

赤土剛琉は赤土公彦の御子息二名の次男です。今年2月に下部タイトルながら王座獲得したが、まだ日本の頂点とは言えない。もう一つ上のタイトルまで獲らないと父親に追い付いたとは言えないだろう。

他、3試合。


NJKF 2ndは西田光汰と悠が中心

NJKF 2026.2nd / 9月12日(土)後楽園ホール(開場10:30 / 開始11:00)
主催:NJKF / 認定:ニュージャパンキックボクシング連盟、S-1

9月12日NJKF 2026.2nd昼興行で開催!
寝坊と遅刻厳禁の朝から忙しくなる土曜日。

◆第8試合 NJKFフライ級タイトルマッチ 5回戦
チャンピオンV2戦.西田光汰(西田)
vs
挑戦者1位.悠(=吉仲悠/VALLELY)16戦9勝(4KO)5敗2分

6月14日に谷津晴之(新興ムエタイ)との挑戦者決定戦を僅差判定ながら勝利した悠が西田光汰に挑戦する。西田は2024年9月15日に谷津晴之と引分け勝者扱いで第14代チャンピオンとなって、昨年9月28日に明夢(新興ムエタイ)に判定勝利し初防衛。今回が2度目の防衛戦となる。

2年前の2月でまだ9戦目で4勝4敗1分だった悠がジワジワ上昇して来た中で王座挑戦まで辿り着いた。当時、米田貴志会長が「悠はいずれNJKF王座奪取まで行くと思います。」と語っていたが、ここで戴冠となるか。

6月14日に対戦が決定した西田光汰と悠

◆第7試合 NJKFバンタム級挑戦者決定戦3回戦
3位.中島隆徳(GET OVER)vs 4位.永井雷智(VALLELY)

6月14日に無効試合(当初は中島隆徳の反則勝ち)となった試合の再戦。
開始早々数秒という短い中で、組み合った際に後頭部にヒジ打ち打った永井雷智。一旦は続行出来ない中島隆徳の反則勝ちとなったが、その後の協議で無効試合と発表。だがそれが会場に居た観衆にどれだけ伝わっているだろうか。両陣営の言い分を協議した主催者側のホームページでの発表と一部のマスコミ報道だけでは無理があるだろう。

前回、無効試合となった永井雷智と中島隆徳の終了時

◆第6試合 スーパーウェルター級 5回戦
NJKFスーパーウェルター級10位,風成(エス)vs キム・ジンプ(韓国)

◆第5試合 S-1女子世界ミニマム級王座決定戦 5回戦(2分制)
ノーンレック・クルーダージム(タイ国ムエタイ協会女子ミニマム級Champ/タイ)
        vs
佐藤”魔王”応紀 (女子聖域東北ライトフライ級Chanp/PCK連闘会)

◆第4試合 女子ミネルヴァ・バンタム級3回戦(2分制)
ミネルヴァ・スーパーバンタム級チャンピオン.珠璃(闘神塾)
        vs
小澤聡子(第2代KPKB女子バンタム級Champ/K-1 GYM SAGAMI-ONO KREST)

他、女子2試合、アマチュア2試合予定。


KICK Insist 28新宿フェイスの会場名もここまで

KICK Insist.28 / 9月20日(日)新宿フェイス(開場17:00 / 開始17:30)
主催:(株)VICTORY SPIRITS、ビクトリージム /
認定:ジャパンキックボクシング協会

新宿フェイスは小さな会場ながら20年あまりの活動を行なって来た中で、歓楽街の歌舞伎町という立地条件から知名度がありました。この興行後の新宿フェイスは最終30日までプロレス関連が行われる模様です。

第6試合後、前・ジャパン・ウェルター級チャンピオンの政斗(=黒澤政斗/治政館)の引退セレモニーが行われます。

2024年3月24日に大地フォージャーから王座奪取した時は「これからどんどん盛り上げていこうと思っています!」と宣言していたが、やっぱり辞めるのか。

昨年9月の新宿フェイスでメインイベントを務め勝利後、引退宣言してから早くも1年が経過である。引退セレモニーはどれだけ応援関係者が集まるだろうか。そしてチャンピオンベルト返上の後、セミファイナルのウェルター級王座決定戦に移るのだろう。

◆第8試合 59.0kg契約3回戦
ジャパン・フェザー級チャンピオン.勇成(Formed)vs ペレー・サンライズジム(タイ)

勇成は一昨年11月17日皆川裕哉を倒して王座に就き、昨年5月25日、市原興行で初のメインイベント。今回このKICK Insositと9月いっぱいで閉鎖される新宿フェイスでのキックボクシング最終興行のトリを務める。

2024年11月17日に王座戴冠した勇成

◆第7試合 ジャパン・ウェルター級王座決定戦 5回戦
1位.細見直生(KICK BOX)vs 3位.正哉(誠真)

細見直生は旧・目黒ジムを継承するKICK BOXジムに皆川裕哉以来のベルトを持ち帰りたい。正哉は誠真ジムとして大地フォージャー以来のベルトを持ち帰りたい。

◆第6試合 58.0kg契約3回戦
ジャパン・フェザー級1位.皆川裕哉(KICK BOX)vs 同級3位.海士(ビクトリー)

◆第5試合 ライト級3回戦
ジャパン・ライト級2位.菊地拓人(市原)vs 同級4位.林瑞紀(治政館)

他、4試合


後楽園ジャンブルの舵取りはこの小林米仁氏。これからもリング御登壇は増えるだろう

KORAKUEN JAMBULL / 9月27日(日)後楽園ホール(開場15:00 / 開演16:00)
主催:(株)東京ドーム

4月から各団体での10戦以内、王座未満の新人枠で、出場者決定戦が行われて来た(株)東京ドーム主催のイベント。時代は新しい世代によって大きく変わった感じである。

この後楽園ジャンブルは選手達より主任の小林米仁氏に今後の運営の重圧が掛かります。小林氏は13年程前、田中小兵太(=田中信一)に判定勝利している結構実力ある選手である(田中小兵太はプロボクシングで日本バンタム級王座奪取、キックボクシングでMA日本バンタム級王座奪取)。この小林氏がジャンブルの舵取りとなれば、イベント盛り上げるだけで終わることにはならないよう願いたいものです。

◆60.0kg契約3回戦(ヒジ打ち、首相撲禁止)
髙岩拓(Big Bang/TRY HARD)8戦6勝(4KO)1敗1分
        vs
佐々木未夢(シュートボクシング/GONG-GYM坂戸)3戦2勝(1KO)1敗

◆60.0kg契約3回戦(ヒジ打ち、首相撲禁止)
門脇碧泉(RISE/TARGET)8戦6勝(1KO)1敗1NC
        vs
山本龍平(NJKF推薦枠/拳粋会宮越道場)6戦3勝(3KO)3敗

◆60.0kg契約3回戦
リョウヤ・ハリケーン(日本キックボクシング連盟/テツ)7戦5勝(2KO)2分
        vs
神谷斗夢(スックワンキントーン/Team神谷ぶらざーず)6戦5勝1敗

◆60.0kg契約3回戦
富田エレデネ(KNOCK OUT/クロスポイント吉祥寺)5戦4勝(1KO)1敗
        vs
天晴(ジャパンキックボクシング協会/治政館)4戦2勝2敗

◆60.0kg契約3回戦(ヒジ打ち、首相撲禁止)
工藤叶雅(NJKF/VALLELY) 4戦3勝1敗
        vs
神谷晟丸(新日本キックボクシング協会/伊原)3戦1勝2敗

◆第1試合 60.0kg契約3回戦(ヒジ打ち、首相撲禁止)
利根川仁(日本キックボクシング連盟/TOKYO KICK WORKS)
      vs
岩永勝亮(RISE/OISHI)

出場者決定戦では敗れたが、熱い印象を残した選手の特別試合。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

現実的に修正した「1956年妥協案」なら、北方領土問題を早期に解決できる可能性がある

アンドリュー・コリブコ

ロシアと日本の間で長年の懸案となっている北方領土問題。本稿は、1956年の日ソ共同宣言を土台に、歯舞群島と色丹島の日本への引き渡しと引き換えに、国後・択捉への領有権主張を取り下げる「修正版妥協案」を提唱する。さらにロシア極東の資源開発や日露経済協力を組み合わせることで、両国の対中・対米依存をそれぞれ抑え、地域の安定と日本経済の再活性化につなげられると論じている。

※   ※   ※   ※

この記事で提案する、1956年の妥協案を現実に即して修正した案は、ロシアと日本双方の利益にかなうものであり、おそらく米国の利益にもなる。ただし実現には、まずロシア側が非公式にこの案を持ちかけ、最初の一歩を踏み出す必要がある。

プーチン大統領が択捉島を訪れ、さらにクリル諸島(千島列島)を初めて訪問したことに対し、日本の高市早苗首相は強く非難した。日本は択捉島をはじめとする複数の島々を、現在も「北方領土」として自国領だと主張しているからだ。

ロシアが実効支配し、日本が領有権を主張している地域には、このほか国後島、色丹島、そして無人の歯舞群島がある。背景を説明すると、ヤルタ協定では千島列島をソ連に引き渡すことになっていた。しかし日本側は、その解釈について法的な問題を提起してきた。

日本の立場では、先に挙げた島々は、そもそも法的な意味で「千島列島」に含まれていなかったとされる。一方、1949年の米国務省の覚書では、水産資源の豊富な色丹島と歯舞群島についてのみ、ヤルタ協定上の法的地位に議論の余地があるとの見解が示されていた。

その後、日ソ間の国交を回復した1956年の日ソ共同宣言では、妥協案が盛り込まれた。日本とソ連が平和条約を締結した後、ソ連が色丹島と歯舞群島を日本に引き渡すという内容である。

この妥協が実現しなかった理由を詳しく論じることは本稿の範囲を超えるが、ロシア側では、米国が日本に影響を及ぼしたことが原因だったのではないかと疑う人が少なくない。結果として妥協案は頓挫し、領土問題は今日まで続いている。現在、日本は先ほどの4地域すべてについて領有権を主張している。

プーチン大統領はこれまで、1956年の妥協案を復活させるために、かなりの時間と労力を費やしてきた。その狙いは、日本からロシアへの投資を増やし、日本のエネルギー市場をロシア産資源にさらに開放するとともに、ロシアが中国に過度に依存する事態を未然に防ぐことにあった。

こうした結果は、客観的に見れば日本の国益にもかなう。しかし領土問題は、日本の有権者の一部にとって非常に感情的な問題である。そのため、プーチン大統領が親しい友人とみなし、この問題について何度も話し合った故・安倍晋三首相の時代でさえ、解決には至らなかった。

プーチン大統領は択捉島を訪れる直前、ロシア極東を視察した際に、日露関係が悪化していることへの不満を表明した。筆者の見方では、今回の択捉島訪問は、日露関係悪化の責任は東京側にあると考えるモスクワが、その流れに対して示した意思表示でもある。

先に紹介した別の記事では、ロシアがなぜ日本を自国の安全保障に対する脅威として以前より警戒するようになっているのか、また米国が新たな地域安全保障体制の中で日本にどのような役割を期待しているのかについて、それぞれ別の分析を紹介している。

ここでそれらに触れる目的は、日露関係がさらに悪化した場合の軍事・戦略上のリスクを強調するためである。そして、そうしたリスクを考えれば、日本にとってはロシアとの妥協を目指す方が望ましいという点に注意を向けるためでもある。

何よりも優先されるべきなのは、平和と安定である。東京がモスクワとの間で1956年の妥協案に立ち返れば、それを土台として、日本は経済面でも地政学面でも利益を得られる可能性がある。

その場合、日本が対ロシア制裁を直ちにすべて解除しなくてもよい。まずは、分野と地域を限定する形で段階的に制裁を緩和する方法が考えられる。

そのモデルになり得るのが、約10年前に提案された「北方諸島社会経済共同体(Northern Islands Socio-Economic Condominium=NISEC)」構想である。これはサハリン、千島列島、北海道を経済的に結びつけようという考え方だ。

この構想では、この3地域をより大規模な経済統合プロジェクトの中心とする。そして将来的には、天然資源の豊富なロシア極東全体へと対象を拡大し、日本がそのエネルギー資源や鉱物資源に優先的にアクセスできるようにする。

適切な投資戦略を採れば、日本は不安定な西アジア(中東)からのエネルギー輸入や、政治的なリスクを伴う中国のレアアース加工への依存を減らし、地理的に近いロシアを代替供給源として活用できるというわけだ。地政学的な面でも、ロシアが中国への過度な依存を未然に防ぐことは、日本にとって利益となる。

さらに、日本とインドの関係が緊密であることも重要である。インドはすでに「東方海上回廊(Eastern Maritime Corridor)」を通じてロシア極東への進出を進めている。そのため、日本とインドが共同で、ロシア極東における資源開発や資源加工に大規模な投資を行うことも可能だろう。

ロシア極東には豊富な水力発電資源があり、その結果としてエネルギーコストも安い。このことは、こうした日印共同投資をさらに魅力的なものにする。ここで提案している「修正版1956年妥協案」を改めて整理すると、次のような内容になる。

日本は色丹島と歯舞群島を受け取る。その代わりに、国後島と択捉島に対する領有権の主張を取り下げる。さらに、この交換条件を日本にとってより魅力的なものにするため、「北方諸島社会経済共同体(NISEC)」を創設するとともに、日本にロシア極東の天然資源への優先的なアクセスを認める。

この計画は、おそらく段階的に実施されることになるだろう。全面的に実現すれば、ロシアが中国に過度に依存する事態を未然に防ぐ一方、日本も米国への依存を減らすことができる。その結果、ロシアと日本の双方が、自国の主権と戦略的自立性を強めることになる。

さらに、日本が西アジア(中東)から輸入するエネルギーへの依存を減らせば、仮に南シナ海で紛争が起きたとしても、日本経済がその影響によって深刻な打撃を受けるリスクを小さくできる。同時に、ロシアの「北極海航路(Northern Sea Route)」を利用することで、EUとの貿易もより効率化できる可能性がある。

日本海のすぐ向こう側にあるロシアから、低価格のエネルギーや鉱物資源が大量に日本へ入ってくるようになれば、日本経済は長らく待ち望まれてきた「復興」あるいは「再生」を遂げるかもしれない。それによって、新たに形成されつつある世界経済秩序の中で、日本の競争力も高まる可能性がある。

高市首相自身は、国後島と択捉島に対する日本の領有権主張には十分な正当性があると心から考えているのかもしれない。また、一部の有権者からの国内政治上の圧力に加え、米国から表立たない形で国際的な圧力を受けている可能性もある。

それでも筆者は、高市首相は本稿で提示した妥協案を大胆に検討すべきだと考える。なぜなら、ロシアが中国への過度な依存を未然に防ぐことは、米国の利益にもかなうからである。したがって、トランプ大統領と新たに良好な関係を築いた高市首相が十分に説得力のある説明をすれば、トランプ大統領をこの構想に賛同させることも可能かもしれない。

高市首相の判断には、大きく3つの要因が影響していると考えられる。すなわち、北方領土問題についての高市首相自身の考え、国内からの政治的圧力、そして米国からの非公式な圧力である。こうした事情を考えれば、この提案を実現するためには、まずロシア側が最初の一歩を踏み出す必要があるかもしれない。具体的には、外交ルートや専門家同士の交流、あるいはその両方を通じて、ロシアがこの構想を非公式に日本側へ打診するという方法である。

そうすれば、まず日本政府内でこの案への認知が広がり、次に専門家の間、そして最終的には日本社会全体へと議論が広がっていく可能性がある。その結果、高市首相にかかる国内政治上の圧力が弱まるかもしれない。そうなれば、高市首相もこの構想についてトランプ大統領と話し合うことに、より積極的になれる可能性がある。

また、ロシアが外交ルートや専門家ルートを通じて非公式にこの案を日本側へ提示すれば、日本側の外交官や専門家を通じて、米国の外交官や専門家にもこの構想が伝わる可能性がある。以上を踏まえれば、ロシアが先に動くことには十分な意味がある。

そうなれば、プーチン大統領による今回の史上初の千島列島訪問についても、別の見方が可能になるかもしれない。つまり今回の訪問を、プーチン大統領が新たに用いるようになった「緊張を緩和するため、あえて先に緊張を高める(escalate to de-escalate)」という手法の3例目として捉え直すことができる、ということである。

今回の場合、日本側から見れば、プーチン大統領の訪問はまず「政治的なエスカレーション(緊張の激化)」に当たる。しかし、その後ロシアが現実的な緊張緩和案を提示するのであれば、最初に圧力を高め、その後に妥協案を提示して緊張を下げるという一連の戦略だった、と解釈することも可能になる。クレムリンは、この可能性について検討してみるべきだろう。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月18日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/a-pragmatically-amended-1956-compromise

「倒産31件」では見えない新聞販売店の経営危機 ――『しんぶん赤旗』記事が見落とした「押し紙」問題

黒薮哲哉

8月22日付の『しんぶん赤旗』に掲載された記事には、重大な事実誤認がある。見出しは「新聞販売店倒産 年間50件超えか」「購読者離れに歯止めかからず」である。

この記事は、東京商工リサーチの調査によると、2026年1~7月の新聞販売店の倒産が31件に上り、このままのペースで推移すれば年間50件を超えるおそれがあるとしたうえで、新聞の休刊や廃刊が進む背景として、購読者の新聞離れや広告収入の減少を挙げている。

しかし、この数字だけでは新聞販売店が置かれている実態を十分に捉えることはできない。販売店の経営が行き詰まった結果、店舗や販売区域を残したまま経営者が交代したケースや、倒産という形を取らず自主的に廃業したケースは、「倒産31件」という数字には含まれていないからである。

仮に倒産によって消滅した販売店が31件だったとしても、それとは別に店主の交代は各地で行われている。新聞業界紙を見ても、店主交代の記事が継続的に掲載されている。

では、なぜ店主交代が行われるのか。その背景の一つとして指摘しなければならないのが、「押し紙」の問題である。実際の購読者数を上回る新聞の仕入れを余儀なくされれば、その代金が販売店の経営を圧迫する。資金繰りが悪化し、借入金の返済や金融機関との取引に支障を来すこともあり得る。

その結果、新聞代金の支払いが困難になり、開業時などに新聞社へ差し入れた保証金等との精算を経て、店主が販売店経営から退くケースもある。

現在、大阪地裁で係争中の毎日新聞社を被告とする「押し紙」をめぐる訴訟でも、販売店の経営と新聞の供給部数との関係が争点となっている。

【参考記事】「押し紙」を隠す経理マジック――毎日新聞裁判で判明した日本の新聞社のビジネスモデルに、ジャーナリズムが機能しない客観的な理由

『しんぶん赤旗』が指摘するように、「購読者の新聞離れと広告収入の減少」が新聞販売店の経営を圧迫していることは間違いない。しかし、販売店経営の実態を論じるのであれば、それだけでは不十分である。新聞社から販売店に供給される新聞の部数と、実際に読者へ販売される部数との乖離、すなわち「押し紙」として問題にされてきた過剰な新聞供給が販売店経営に与える負担についても検証する必要がある。

「倒産31件」という数字だけでは、新聞販売店が直面している経営問題の全体像は見えてこないのである。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月24日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

米国は「AUKUS+」を通じて、アジアで「NATO 3.0」構想を実行しつつある

アンドリュー・コリブコ

米国は、中国への抑止力を強化するため、日本やフィリピンなどの同盟国に、これまで以上に大きな防衛上の役割を担わせようとしている。この記事では、米国が欧州でロシアに対して構築してきた安全保障の仕組みをアジアにも応用し、AUKUSや既存の同盟関係を結びつけた「AUKUS+」とも呼べるネットワークを形成しつつあると分析する。日本で浮上している改憲の動きの背景にある事情も、行間から読み取れる。

※   ※   ※   ※

米国は、ロシアに対して用いてきた地域的な封じ込めモデルを、中国に対しても再現しようとしている。

米国のエルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)は8月上旬、東南アジア歴訪の最初の訪問地であるマニラで、重要な演説を行った。この演説は、米国が「NATO 3.0」という考え方をアジア地域に持ち込むことを事実上表明したものだといえる。

【黒薮注】NATO 3.0:ここではNATOの変遷を意味して、NATO 1.0は冷戦期、NATO 2.0は冷戦後、そしてNATO 3.0は、米国だけに負担を集中させず、ポーランド、日本、フィリピンなどの「前線国家」により大きな防衛負担を担わせ、米軍と一体化した地域的な抑止網をつくる段階。

第2次トランプ政権の軍事・戦略政策を設計する中心人物であるコルビーの説明によれば、米国は、現在の地域秩序を維持する責任を、同じ利益を共有する同盟国やパートナー国に、これまで以上に負担させようとしている。この場合、各国が共有する利益とは、コルビーの言葉でいう「特定の国による覇権に支配されないアジア」である。明言こそしていないものの、その狙いは中国を封じ込めることにある、と筆者は見ている。

コルビーは、第2次トランプ政権の政策を正当化する根拠として、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」、そしてピート・ヘグセス国防長官が5月下旬のシャングリラ・ダイアローグで行った演説を挙げた。その政策とは、日本からボルネオ島まで続く「第一列島線に沿って、敵の攻撃を拒否できる態勢を整え、それによって抑止力を維持する」というものだ。

フィリピンは第一列島線のほぼ中央に位置している。そのため、別のところで「AUKUS+」と呼ばれている安全保障ネットワークを構築するうえで、フィリピンは代わりの利かない重要な国となる。

【黒薮注】AUKUS+:米・英・豪の3か国が、潜水艦や最先端軍事技術を共同で開発・運用し、軍事的な連携を深める枠組み。

この構想では、米国の支援を受けた日本とフィリピン(そして場合によってはインドネシア)が中核を担うと考えられている。コルビーは次のように述べた。

「われわれは、『力による平和』という考え方を支え、アジアにおいて長期的に望ましい勢力均衡を維持するため、敵の攻撃を阻止・拒否できる強力な防衛体制を積極的に構築している。

われわれは前方展開態勢を組織的に強化し、拠点の防御力を高めるとともに、相応の負担を引き受ける意思のある重要な国々との軍事的な相互運用性を大幅に高めている。

これは、カメラの前で見せるための象徴的な軍事演習を行うだけの話ではない。現実に起こり得る軍事侵攻を打ち破ることのできる、実戦能力を備えた戦力を配備するということだ。」

この発言からは、米国の意図が明確に読み取れる、と筆者は見ている。つまり米国は、アジア太平洋地域で自らがすべてを直接担うのではなく、同盟国を前面に立たせて支援する「後方からの指導(Leading From Behind)」という形で中国を封じ込めようとしている、ということだ。そのための仕組みが、アジアに「NATO 3.0」型の体制を導入し、「AUKUS+」のネットワークを急速に構築することだと筆者は見ている。

ここで特に重要なのは、コルビーがフィリピンを「模範的な同盟国(model ally)」と呼んだことだ。これは、ヘグセス国防長官が2025年初頭の欧州歴訪でポーランドを訪れた際、同国について使った表現と同じである。そのため筆者は、米国がアジアにおいてフィリピンに、欧州におけるポーランドと似た役割を担わせようとしていると推測している。

したがって今後、フィリピンは米国にとってアジアにおける重要な軍事拠点となり、その地政学的な位置を利用して、中国を封じ込めるうえで中心的な役割を担うようになると考えられる。これは、ポーランドがロシアに対して担っている役割とよく似ている。ポーランドのカロル・ナヴロツキ大統領も最近、この役割を改めて確認しており、いずれの場合も米国との緊密な連携のもとで進められる。

もちろん、フィリピンだけで中国を封じ込めることはできない。それは、ポーランドだけでロシアを封じ込めることができないのと同じである。むしろ両国に期待されている主な役割は、米軍のための兵站・補給拠点となり、必要な場合には米軍が作戦を開始・展開するための足場となることなのである。

実際のところ、筆者によれば、最終的な狙いはフィリピンとポーランドに十分な軍需物資、米軍部隊、ミサイルなどを配備しておき、それによって中国やロシアの軍事行動を抑止することにある。具体的には、中国が台湾に対して軍事行動を起こすことを抑止すると同時に、現在の戦闘が最終的に終結した後、ロシアが再びウクライナに対して同様の軍事行動を取ることを防ぐ、という構想である。それでも中国やロシアが軍事行動に踏み切った場合には、それぞれフィリピンやポーランドが介入し、その後を追う形で米国も介入するという仕組みが想定されている、と筆者は見ている。

日本についても、フィリピンと同じような役割を担えるよう準備が進められている。ただし実際に戦争が起きた場合、日本は最初から直接参戦しない可能性がある。その理由として筆者が挙げているのは、紛争のエスカレーションを抑える必要があることと、もし日本が参戦して中国から直接報復を受ければ、世界経済に大きな衝撃を与える恐れがあることだ。日本経済は、ポーランドはもちろん、フィリピンと比べても世界経済にとってはるかに重要な存在である。

一方、日本、ポーランド、フィリピンの3か国はいずれも米国と相互防衛の関係にある。そのため、想定される紛争において、中国やロシアが台湾やウクライナで活動する日本・フィリピン軍、あるいはポーランド軍だけを攻撃するのではなく、日本、フィリピン、ポーランド本国を直接攻撃した場合、米国の軍事的対応を招くことになると筆者は考えている。

コルビーの演説から読み取れるのは、筆者によれば、米国がロシアに対して構築してきた地域的な「封じ込め」の仕組みを、中国に対しても再現しようとしているということである。つまり欧州では、ポーランドなどの同盟国を前線の重要拠点としてロシアを抑止・封じ込める。一方アジアでは、フィリピンや日本などを重要拠点として、中国に対して同様の体制を構築しようとしている、というのが筆者の見方である。

筆者は、こうした動きが世界の安定に極めて大きな影響を及ぼし、米中・米露の直接衝突、ひいては第三次世界大戦に発展する危険性を高めると警告している。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月16日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

Source:https://korybko.substack.com/p/the-us-is-implementing-the-nato-30

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

「6.23」難波屋ライブで、私が話したこと。

尾﨑美代子

いくつかの重要なミッションが終わりつつあるので、少し前のことだが、6.23、あの日のことを書いておく。

正月明けから問題になっている「2秒の視線」問題に関連して6月23日大阪の難波屋で「反戦ライブ」──6.23沖縄戦犠牲者慰霊の日に沖縄の声に耳を傾け、1.31声明、4.3声明に抗するライブをする宣言──というライブが開催された。宮城善光さん、Swingmasaさんらが演奏し、その間に何人かがアピールした。私も、自分は沖縄や辺野古の活動には直接関わってないので躊躇していた。しかし、「2秒の視線」問題については、直接は関わってないが、非常に関心をもってみてきたので、結果、ライブで発言させてもらった。その内容をかいつまんで書いておく。

2026年6月23日大阪の難波屋で開かれた6.23反戦ライブ

その少し前、一連の問題の中で、どなたかがこんな発言をしていた。「本土の支援の方が手作りのゼッケンも持ってきてくれたら、着てみなければならない。歌を歌ってくれれば手拍子のひとつもしないといけない」と。それがずっと頭にこびりついていた。

本人がよかれと思ってやっていることが、現場で闘う人たちにはどううつるのか。負担になることもあるかもしれない。実はそんな体験を私はしていた。

80年代初め東京の日雇い労働者の街・山谷に支援に入っていた時だ。あれは越冬闘争のときだ。私たちの組織は2班に分かれ、24時間体制で入っていた。前日朝8時に越冬闘争会場の玉姫公園に入ったら、翌日の8時までいて、第2班と交代する。公園の活動は朝食準備、片づけ、掃除、相談業務、公園から争議へ、夕食準備、片づけ、ワッショイデモ等々、一日中忙しかった。

24時間体制とはいえ、支援には夜組合事務所などに寝る場所が確保されていた。そんななか、「なぜ支援者だけ暖かい場所で寝るんだ。労働者と行動を共にすべき」と考えた私は「今日は労働者とここで野宿しますわ」と宣言。労働者がいる焚火の間に入らせて貰った。しばらく話していたが、睡魔が襲ってきて、敷かれていた段ボールに横になったらすぐに寝込んだ。翌日は朝食の準備のため5時頃には起きたのではないか。すると、私が寝ていたダンボールを囲んでいた数人の労働者が口々にいうのだ。「ねえちゃん、寒くなかったか」「よう、寝てたわ。疲れてたんやな」と……。私は何をやっていたんだ。

時が過ぎ、釜ヶ崎で似たことがおこった。2019年、釜ヶ崎で労働者や野宿者が寄り所にしているセンターが3月末で閉まるとなった。結局反対の声が多くて、3月末には閉まらず、最終的に暴力的に閉鎖されたのは4月24日だった。センター閉鎖により、昼間センターで安心して寝たり、夕方閉鎖後も周辺で仲間と寄り添って野宿していた人は、完全に外に放り出された。

私は米などカンパしてもらったので、毎日簡単な弁当を作り、野宿者に配った。1日せいぜい10数個の弁当。センターの北側、JR新今宮駅を降りて横断歩道渡ってすぐの場所に、知ってる人が野宿していた。数年前まで仕事に行っていて、私の店にもときおり寄ってくれた人。相手も気づかれたら嫌だろうと思い、最初は彼がいないときや寝ている時に、こっそり枕元に弁当を置いてきた。

ある日、気が付いていた彼が「ママ、ありがとね」というので、翌日からは普通に置いてくるようになった。彼は年上の知り合いと二人で野宿していた。ある日、相方の彼が「ママさん、俺も羽振りが良かったとき、ママさんの店に数回行ったことあるんやで」というので、その後は二人とよく話すようになった。

センター閉鎖後、京都や福井から、いろんな人が現場を見に来てカンパなどを寄せてくれた。そんななか、当時のTwitter(現在のⅹ)でフォロワー数が多い著名な外国に住む日本人女性が来日し、釜ヶ崎にも来たいと連絡してきた。

その日、私は彼女に、新今宮駅を降りて横断歩道を渡ったところで待っていると告げた。そう、あの2人が野宿している場所だ。彼女は少し遅れて、約束のその場所に来た。と思ったら、すぐに野宿する2人にかけより2人の間に入り込んだ。

皆さん、ご存じだろうか。野宿する人のタイプはいろいろだ。簡単なテントを作る人、地べたに段ボール敷き、その上に野宿する人、どこかからもってきた簡易ベッドで野宿する人……。しかし、その2人は、山積みのゴミの上(とはいえ、そのごみは段ボールだったり、漫画本だったり、衣類だったりする)の間で野宿していたのだ。彼女は2人の間に座り込み、誰かに渡すつもりで持ってきた缶ビールを渡し「イエーイ」とピースサインをしてみせた。缶ビールをもらった2人も彼女に習ってピースサインをした。彼女はその写真を自撮りで撮った。

私は、彼女とはほとんど話もせずに別れた。翌日彼女のTwitterを見たらサムネが2人の野宿者と彼女がピースする写真だった。私は確か彼女に「その写真アップしていいの?」と聞いたと思う。彼女の答えは「おじさんが出していいと言ったから」だった気がする。

翌日の彼女のTwitterにはこんな告知があった。「帰国する前に東京に寄るのでオフ会をしたいと思います。参加できる方、DM下さい」。帰国前のオフ会で、彼女は会った方々にこんな話をしたのではないか。「今回日本にきて釜ヶ崎にも行きました。ええ、野宿しているおっちゃんたちとも仲良くすることができました。その証拠がこの写真です。いえい」とか?

私はあの日、越冬闘争が闘われている玉姫公園で、労働者と一緒に焚火の周囲で野宿した話は、その後一回も人に話した覚えはない。以上、6・23難波屋ライブで発言させてもらったことです。

「本土の人が手作りゼッケンもってきてくれたら、着けてみなくてはならない」「歌を歌ってくれたら、手拍子でもしなければならない」。どなたかのあの言葉が忘れられない。

良かれと思ってやったことが相手の負担になったり、運動の妨げになることがある。もっと言えば、良かれと思ってやっている「フリ」をして、じつは活動家、人権派、正義の味方の貴方を輝かせる、目立たせる「ダシ」に使ってはいないか。弱い立場の人たちに寄り添うというとき、私たちはそのことを忘れてはいけない。

写真は以前daysjapanで取り上げられていた、どこかアジアの貧しい国でゴミ処理をする子どもたちをスタディツアーで訪れた日本の学生が一緒に撮った写真。ツアー代金が子どもたちのためになるから、子どもたちもバカ学生と共にポーズを取る。取らざるを得ない。

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

プーチン大統領、悪化する日露関係を嘆く

アンドリュー・コリブコ

ロシアのプーチン大統領は8月中旬、太平洋艦隊の司令官らとの会合で、近年の日露関係の悪化に懸念を示した。記事は、日本が米国などとの安全保障協力や軍備強化を進め、北東アジアにおける対ロシア包囲網の中心的役割を担いつつあると分析。これに対しロシアも太平洋方面の戦力を増強し、中国や北朝鮮との連携を深める可能性があると指摘している。

※   ※   ※   ※

米国がこの1年間にロシアの周囲に築いてきた「封じ込めの包囲網(cordon sanitaire)」の北東アジア方面を日本が主導するようになるにつれ、日露間の緊張がさらに高まることは避けられないかも知れない。

プーチン大統領は8月中旬、ロシア太平洋艦隊の司令官らとの会合で、日露関係について語った。プーチン氏は、ここ数年で両国関係が悪化したことを嘆き、その原因となるような行動をロシア側はまったく取っていないと主張した。そして、現在では「日本が最新の防衛関連文書で、初めてロシアを主要な脅威の一つに位置づけるまでになった」と述べた。

その後、プーチン氏はクリル諸島(日本でいう北方領土を含む)をめぐる問題について簡単に振り返り、日本の対ロシア政策が、貿易や対話を重視する姿勢から、制裁と対立を重視する方向へ転換したことに不満を示した。

ロシア太平洋艦隊のヴィクトル・リーナ司令官は、日本が地域で形成されつつある新たな政治・軍事的枠組みに加わっており、それらはNATOの一部のような役割を果たしているとの見方を示した。具体的には、次の枠組みを挙げた。

〇日本・韓国・米国の3か国協力
〇日本・フィリピン・米国による「JAPHUS」
〇日本・オーストラリア・インド・米国による「Quad(クアッド)」
〇オーストラリア・日本・米国による「AJUS」

リーナ司令官はさらに、「これらの国々は共同で作戦・戦闘訓練を行っており、その頻度も規模も一貫して拡大している」と述べた。

そして、北東アジアにおけるこうした不安定化の動きの中で、日本が中心的な役割を担っていると指摘した。その理由として、日本が急速に軍事力を強化していること、さらに「非核三原則」を廃止する案が出ていることを挙げた。非核三原則が廃止されれば、将来的に日本が核兵器を保有・製造したり、外国の核兵器を国内に配備させたりする可能性が生じる、と原文は論じている。

こうした動きは、7月下旬の記事「ロシアの政府高官が、自国に対する日本の脅威の高まりに言及した」で論じられた内容を、さらに裏付けるものでもある。

また、8月初旬、エルブリッジ・コルビー米国防次官(政策担当)が東南アジア歴訪の最初の訪問先で重要な演説を行った後に論じられた、「米国はAUKUS+を通じてアジアで『NATO 3.0』構想を実行している」という見方とも一致している。

【黒薮注】AUKUS+:米・英・豪の3か国が、潜水艦や最先端軍事技術を共同で開発・運用し、軍事的な連携を深める枠組み。

【黒薮注】NATO 3.0:ここではNATOの変遷を意味して、NATO 1.0は冷戦期、NATO 2.0は冷戦後、そしてNATO 3.0は、米国だけに負担を集中させず、ポーランド、日本、フィリピンなどの「前線国家」により大きな防衛負担を担わせ、米軍と一体化した地域的な抑止網をつくる段階。

もっとも、リーナ司令官がQuadをNATOの一部のように表現した点については議論の余地がある。インドは独立した外交路線を強く維持しており、現在もロシアにとって重要なパートナーだからだ。しかし、それ以外のリーナ司令官の発言については、先ほど述べた見方とおおむね一致している。

【黒薮注】Quad:日本・アメリカ・オーストラリア・インドの4か国による協力枠組み。

今回の会合で重要なのは、プーチン大統領が日露関係の悪化を嘆き、同時に太平洋艦隊の司令官が「日本によるロシアへの脅威が高まっている」と評価したことである。これは、ロシアが北東アジアの安全保障環境の変化を認識していることを示している。

今年の夏にも述べたように、この1年間でロシアの周辺には一種の「封じ込めの包囲網」が形成され始めている。筆者はその背景に、第2次トランプ政権の「新レーガン・ドクトリン」があり、それによって世界各地でロシアの影響力を後退させようとしているとみている。

その中で日本には、北東アジア方面を主導する役割が与えられているという。それは今後、米軍ミサイルの日本への定期的な配備、海上での挑発的な行動とその頻度の増加、さらには日本の急速な軍備拡大と並行した核武装の可能性という形で現れると考えられる。

ロシア側も、こうした事態に備えつつある。プーチン大統領と太平洋艦隊司令官らとの会合内容は、そのことを示していると筆者はみている。その結果、今後ロシア太平洋艦隊の戦力が増強され、中国や北朝鮮との協力もさらに強化される可能性が高い。

読者が忘れてはならないのは、ロシアは日本を一度も脅したことがなく、むしろ米国との連帯を優先した日本の側が、これまで述べてきた手段によってロシアを脅す道を選んだのだ、という点である――これが筆者の主張である。

この政策は日本自身の経済的利益も損なっていると筆者は考えている。資源に乏しい島国である日本が、地理的に近いロシアのエネルギー資源や鉱物資源を利用する機会を、自らあらかじめ排除してしまっているからだ。ただし、制裁の適用除外となっている大型エネルギー事業「サハリン2」は例外である。

【黒薮注】サハリン2:ロシア極東のサハリン島周辺で天然ガスと石油を開発し、主にアジアへ輸出する大型エネルギー事業。三井物産と三菱商事もこのプロジェクトに出資してきた。

したがって日本には、現在の反ロシア的な政策を見直す経済的な動機もある、というのが筆者の結論である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月17日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:
https://korybko.substack.com/p/putin-lamented-the-worsening-of-russian?utm_campaign=post&utm_medium=web

サラ金・商工ローンの比ではない「押し紙」商法 毎日新聞元販売店主が保証金など約1600万円を没収された経緯を証言

黒薮哲哉

兵庫県の阪神地区にある毎日新聞の元販売店主が起こした「押し紙」裁判で、原告代理人の江上武幸弁護士は、原告の「陳述録取書」を提出した。元販売店主は、「押し紙」によって損害を受けたとして、毎日新聞社に約1億6000万円の損害賠償を求めている。「陳述録取書」の全文は次の通りである。

◎「陳述録取書」https://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2026/08/2608112a_0001.pdf

◆サラ金・商工ローンの比ではない「押し紙」商法

かつて、サラ金や商工ローンによる厳しい借金の取り立てが社会問題になった。幸い、マスコミの追及などを通じて問題にメスが入り、被害者を救済する道が開かれた。コンビニエンスストアの店主に対する親会社の優越的地位の濫用も社会問題となり、これについてもメスが入った。

これらに対して、半世紀にわたって水面下で問題となってきたのが、新聞販売における「押し紙」である。

今回提出された元販売店主の「陳述録取書」には、販売店を開業する際に毎日新聞社に預けた保証金と販売店譲渡代金、合わせて約1600万円が没収された経緯が記されている。これらの預け金は、不動産取引でいう敷金のようなもので、廃業時に返還されるのが原則である。

しかし、元販売店主の場合、「押し紙」によって発生した新聞仕入れ代金の未払いを理由に、これらの預け金が没収された。

サラ金・商工ローンやコンビニをめぐる問題にはメスが入った。それでは、なぜ新聞社の「押し紙」は容認されているのだろうか。それは新聞社が日本の権力構造の「広報部」として組み込まれているからにほかならない。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月12日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu


キックボクシング、リングで有利に導くために

堀田春樹

2021年5月23日に「あまり重要視されないリング幅の駆引き!」に続く、リングに纏わるお話です。

※ここではキャンバス=リング表面を覆う布製生地。マット=キャンバスとフェルトを含む柔軟性ある厚み。フェルト=リング床面基盤に敷かれるクッションと表現します。

◆試合前の最後の仕上げ、リングのチェック

ベストコンディションで試合に臨むも、リングとの相性が合わなければ思わぬ苦戦や、実力を発揮出来ず、怪我に繋がる恐れもあるので事前チェックが必要です。後楽園ホールに於いては慣れた感覚も、地方や海外では何が起こるか解りません。

開場前にリングでウォーミングアップする選手は多くいますが、戦略と共にリング全体のの感触も感じているでしょう。

開場前、リング上でウォーミングアップする選手たち(2025年10月5日)

◆マットの硬さとロープの張り具合

投げ技有る競技はマットが柔らかいのが通常です。平成初期頃の真樹ジム主催の格闘技の祭典では、後楽園ホールで通常のボクシングリングが使われたので、プロレスから参戦したザ・グレート・サスケがリングチェックで受け身を試み、「うわっ!硬い!」と言葉を漏らしたことがありました。その他のレスラーも渋い顔だったことが思い出されます。

タイでは以前の二大殿堂のルンピニースタジアムやラジャダムナンスタジアムのリングはキャンバスを指で押してもへこまない土俵のように硬く、他のスタジアムは比較的軟らかいマットが多かったようです(2017年に私が観たラジャダムナンスタジアムでの記憶は曖昧!)。

石井宏樹も戦ったラジャダムナンスタジアムのマットは硬くて蹴り易い(2000年12月)

日本に於いては「リングで爪先立ちし、マットを圧したり擦ったりして、キャンバスが乾いていて滑り易いともの凄く不安になって焦りました。」という元・選手の意見もありました。

マットが柔らかいと蹴りを出す際に踏み込み難く、タイミングがズレて威力がやや落ちてしまうといった意見があるようです。

プロボクサーはリングに上がる際、リングシューズでリング下にあるマツヤニを踏み込んでリングに上がるので滑り具合はあまり気にならないかもしれません。柔らかいマットだとキックボクサー同様にフットワーク使う選手には不利で、更にはロープの張り具合が緩いとロープ際に詰められた際の攻撃を避けるためのボディーワークには影響が出るかもしれないという元・ボクサーの意見がありました。

キックボクシングでは、ボルネオで試合経験がある鴇稔之氏は「ロープ際に押し込まれた際にタックルされて、ロープが緩くてリング下に落とされて頭打ったが10分程インターバル与えられて、そのまま続行しました。」というロープに纏わる経験談から、ロープの張り具合も戦略に入れる必要がありそうです。

◆レフェリーまで滑りまくったリング

今から20年程前、後楽園ホールでの治政館興行で、ビニール製のキャンバスが敷かれたことがありました。すでに嫌な予感はしていました。これより少し前に別会場でのNJKF興行で同じ素材のキャンバスがあった状況からでした。選手らの汗やインターバルで被った水が滴り落ち、キャンバス上は水浸し状態。タイムストップしてレフェリーや役員がキャンバスを拭きまくった状況がありました。通常の布製キャンバスなら水は浸み込みますが、ビニール製では浸み込むことはありません。

選手は蹴ろうとして滑ってバランス崩す。フットワーク使って滑って転ぶ。レフェリーまで立って居るだけで滑って転ぶ。当時メインイベントの武田幸三氏もやり難かったでしょう。こんなキャンバスは常識的には二度と使われないでしょう。

これは大雑把な水撒き。「満遍なく撒いて」とは他のレフェリーより(2026年7月19日)

古い昭和の時代から、リング上で水が撒かれる光景を見たことある観戦者は多いかと思います。照明による熱で乾ききった布製のキャンバスは滑り易く、赤・青コーナーで選手に被せた水でキャンバスがビショビショに濡れた場合、ここでも滑り易くなります。それで水受け皿が用意された時期もありましたが、現在の後楽園ホールでは使用されていません。

キャンバスの下がゴム製の薄いフェルトで、キャンバスが濡れ過ぎると水の行き場が無く、水浸しになるだけです。乾き過ぎると滑る。濡れ過ぎても滑る。適度に湿った状態がベストで、レフェリー等が水を細かく撒いているのはそのためです。

レフェリー竜矢氏のペットボトルを使った噴射するような上手い水撒き(2025年6月20日)

キャンバスは無地がいちばん良いところ、近年のリングキャンバスは問題点が一つありました。広告等が入るペイント部分は水を弾く(吸わない)場合があります。以前それでスリップした長谷川穂積氏、スリップ気味ながらノックダウン扱いされた徳山昌守氏も災難経験者でしょう。それも問題視され、現在は解消されたペイントキャンバスに改善されていますが、全てのキャンバスが改善されているかは不明なので、リングチェックはしておいた方がいいでしょう。キックボクシングの場合、足の裏に滑り止めスプレーを掛けることは会場内のフロアーを汚す恐れから、団体によっては禁止されています。

◆プロレスのリングは使えるか

近年のキックボクシングではボクシングの規定を満たしているリングが多いものの、細かい規定は無いので、過去には「これプロレスのリングだな!」といった三本ロープでキャンバス上が狭い、見た目で解るリングもありました。

ボクシングルール的に言えば、「条件を満たさない場合でも安全管理上支障が無いと判断した時は試合を許可することが出来る」と柔軟解釈しても、リングは魔物が住む、理不尽な展開も起こり得る戦いの場。対戦相手がリング上でウォーミングアップしていると「早く終わらせろよ!」と思いながら遠くで待っていたという選手も居ましたが、後楽園ホールでは昼夜の入れ替え制で、開場までの時間が少ない中、セレモニーのリハーサルも重要ながら、開場前の選手のリングチェック時間はなるべく長く用意してあげて欲しいものです。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
昭和のキックボクシングから業界に潜入。フリーランス・カメラマンとして『スポーツライフ』、『ナイタイ』、『実話ナックルズ』などにキックレポートを寄稿展開。タイではムエタイジム生活も経験し、その縁からタイ仏門にも一時出家。最近のモットーは「悔いの無い完全燃焼の終活」

ウクライナ紛争で「最大限の勝利」を得られなければ、ロシアは本当に存続できないのか?

アンドリュー・コリブコ

ロシアはウクライナ紛争で「最大限の勝利」を収めなければ、国家として存続できないのか。ロシア指導部が勝利の必要性を強調する一方、米国との交渉では一定の妥協に応じる姿勢も示している。本稿は、ロシアがすべての目標を達成しないまま紛争が終結した場合を想定し、その後に直面する軍事・安全保障上の課題と、国家存続への影響を考察する。

※   ※   ※   ※

ここで最も重要なのは、ロシアが他国との軍拡競争についていけるだけの軍事力を維持し、国民も長期にわたる厳しい状況に耐え続けられるかどうかである。これは、ロシアの著名な専門家ワシリー・カシンが5月下旬に示した見方ともよく似ている。

ロシア前大統領で、現在は安全保障会議副議長を務めるドミトリー・メドベージェフは7月下旬、次のように述べた。

「われわれ共通の課題は、国を守ることだ。国を守る唯一の方法は、特別軍事作戦で勝利することである」

ロシア政府は、プーチン大統領をはじめ、「勝利」の条件として次のことを挙げてきた。ウクライナの非軍事化と「非ナチ化」、憲法上の中立への復帰、そして5つの地域すべてを失ったことをキーウが正式に認めることである。こうした目標をすべて達成する「最大限の勝利」は、ロシアの国益を幅広く守るうえで最善の結果だろう。

しかし、紛争が終わるまでにこれらの目標をすべて達成できなかったとしても、ロシアという国家が存続できなくなる可能性は低い。

ロシアがすべての目標を達成しないまま紛争が終わる可能性も否定できない。セルゲイ・ラブロフ外相は最近、「アンカレッジの精神」を守るというロシアの姿勢を改めて確認した。この構想では、報道によれば、トランプがゼレンスキーにドンバスを譲るよう説得できれば、プーチンは戦闘を停止するとされている。

また、西側諸国、特に米国とフランスは、ウクライナを前面に出した新たな「消耗戦」をロシアに対して進めている。これは民間の物流インフラも標的としており、トランプがロシアに対して「緊張を高めることで、最終的に緊張を下げる」という方法を取っているためだ。この動きが大幅に激しくなれば、プーチンの判断も変わる可能性がある。

ここでこうした可能性を挙げているのは、ロシアが「最大限の勝利」を目指すことについて妥協すべきだと言うためではない。なぜロシアが妥協する可能性があるのかを示すためである。

そこで、メドベージェフの発言を踏まえ、ロシアが「最大限の勝利」を達成できなかった場合にどうなるのかを検討してみよう。

仮に紛争が終わった時点でも、ウクライナが軍事力を維持し、「非ナチ化」されず、憲法上の中立に戻らず、さらに5つの地域すべてを失ったことを正式に認めなかったとしても、ロシアはおそらく存続できる。その理由を簡単に説明する。

まず、ウクライナが軍備を維持・強化し続けるなら、ロシアもそれに合わせて軍備を強化することになる。NATO、特にドイツが軍備を強化し続けた場合も同じである。その結果、軍拡競争が続くことになる。次に、「マイダン」後のウクライナがナチ国家のまま存続した場合、ロシアはそこから生じる思想的な脅威に対抗する必要がある。

【黒薮注】「マイダン」後のウクライナ:マイダンは2013年末から2014年にかけて、首都キーウの独立広場(マイダン・ネザレージュノスチ)を中心に起きた大規模な反政府運動。この運動の結果、2014年2月に親ロシア派とされたヤヌコーヴィチ大統領が政権を離れ、その後ウクライナは極右化した。

そのため、ロシアは、偽情報などを事前に見抜くための対策、メディア・リテラシー、「民主的安全保障」の政策をさらに強化し、民族間の関係を安定させる政策も改善し続けることになる。また、ロシアの元情報機関幹部アンドレイ・ベズルコフが以前提案したように、軍と社会の文化をより一体化することも役立つだろう。

【黒薮注】アンドレイ・ベズルコフ(Andrey/Andrei Bezrukov)は、ロシアの元対外情報工作員で、特に米国で長期間「一般市民」として生活しながら活動していたことで知られる人物。

一方、ウクライナが中立国にならないことで生じる脅威については、ロシアの大陸間弾道ミサイル「サルマト」によって、NATOの部隊配備を抑止することが可能だと考えられる。

最後に、キーウが係争地域の一部を支配し続けた場合の人道上の問題については、第三国の仲介による合意を結び、希望する住民がロシアへ移住できるようにすることで、その影響を減らせる可能性がある。

しかし、そのような合意が成立しなかったとしても、ロシアという国家の存続そのものを脅かすことにはならないだろう。ロシアが軍拡競争で後れを取らず、国民が困難に耐え続けることである。このシナリオは、ロシアの著名な専門家ワシリー・カシンが5月下旬に示唆したものとも似ている。

一方、仮にロシアが「最大限の勝利」を達成したとしても、米国はすでにロシアの周辺に緩やかな「封じ込めの壁」を作っている。北極・バルト海地域では英国が中心となり、中央ヨーロッパではポーランドが中心となっている。ロシア南部の周辺地域ではトルコが、北東アジアでは日本が中心的な役割を果たしている。

これによってロシアはさまざまな脅威に直面している。それらすべてを説明することは今回の分析の範囲を超える。しかし、この状況は、ベズルコフが述べた「ロシアは西側との『新たな戦争』に数十年間巻き込まれる可能性がある」という警告に、一定の説得力を与えている。

◆筆者アンドリュー・コリブコによる注釈

背景を説明すると、プーチンは昨年末、安全保障会議との会合で、ウクライナ紛争を終わらせるために、具体的な内容は明らかにしていないものの、一定の「妥協」に応じたと実際に述べている。

「もちろん、これは秘密ではありません。この問題について公の場ではほとんど議論しておらず、ごく一般的な話しかしていませんが、秘密というわけではありません。

ウクライナ情勢を解決するためのトランプ大統領の和平案については、アラスカでの会談前から話し合われていました。その事前協議の中で、米国側はわれわれに一定の妥協を求め、彼らの言葉で言えば、『柔軟な姿勢』を示すよう求めました。

アラスカ会談で最も重要だったのは、アンカレッジでの協議を通じて、いくつかの複雑な問題や困難があるにもかかわらず、われわれがそれらの提案に同意し、米国側が求めた柔軟な姿勢を示す用意があることを確認した点です。」

また、ラブロフ外相も今年の夏の初めに、同じ立場を改めて確認している。

「私はアンカレッジでの発言を非常に大切にしています。ウラジーミル・プーチン大統領は次のように述べました。

『アンカレッジに関連して、われわれは米国側がまとめた妥協案を受け入れるよう求められました。われわれはそれを検討し、すぐにではありませんでしたが、アンカレッジに到着した際に、同意すると伝えました。』

また大統領は、『本日、つまり2025年8月15日に成立した合意が、ウクライナ問題を解決するための出発点となり、さらに広い意味ではロシアと米国の関係を前進させる出発点となることを期待している』とも述べました。」

ここでクレムリンとロシア外務省の公式ウェブサイトに掲載されているこれらの事実をあらかじめ紹介しておくのは、この記事をめぐって、誰かが私に対する個人攻撃をしてくる可能性がかなり高いと思っているからだ。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月12日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/would-russia-really-cease-to-exist?utm_campaign=post&utm_medium=web