ウクライナ戦争を分析するなどと言うと、戦争好きな元左翼が愉しんでいるように受け取られかねないが、第三次世界大戦を惹起するかもしれない重大事のゆくえは、ひとえにその戦況にかかっているのだ。

すでにプーチンはくり返し、NATOに対して核兵器使用の可能性を口にしているが、新型弾道弾サルマトの実験を行ない「(ロシアは)他国にない兵器を保有しており、必要な時に使う」と強調した。これまでの通常兵器の戦闘で、追い詰められていると見るべきであろう。

戦争が他の手段をもってする政治の延長である(クラウゼヴィッツ)とはいえ、その帰趨は兵器が決する。近代戦争においては兵士の多寡ではなく、兵器の能力によるものだ。

第一次大戦においては戦車と塹壕、毒ガス、飛行機。第二次大戦では巨砲をそなえた戦艦よりも空母が主力艦の位置を占め、ロケット、ジェットエンジン、そして核爆弾と、軍事兵器の「進化」は人類をおびやかすようになった。

核兵器使用の可能性を見据えつつ、ロシアとウクライナの今後の戦況を占おう。

ウクライナ戦争では、ウクライナの数字上の戦力が対ロシア比で10分の1とされてきた。これだけを見れば、侵攻後の数日で決着がつくはずだった。

【兵員数・国防予算】
       現役   予備役   予算
ロシア    90万人  200万人  7兆円
ウクライナ  19万人   90万人  6800億円
※アメリカ85兆円・中国28兆円・日本5兆円

【陸上兵器】 戦車   戦闘車両 火砲
ロシア   13,127輌  13,680台 4,990門
ウクライナ  1,990輌   1,212台 1,298門

【航空兵器】 戦闘機  爆撃機  戦闘ヘリ
ロシア    770機  691機   399機
ウクライナ   69機   45機    35機
※国際軍事年鑑などを参考に概算。

もっとも、軍事ジャーナリストの田岡俊次によれば、ロシア軍の兵員は実際にはもっと少ないという。

「ロシア陸軍はソ連解体時に140万人だったが現在28万人(陸上自衛隊の2倍)で、空挺(くうてい)軍4万5千人、海軍歩兵3万5千人を加えても地上兵力は36万人だ。東シベリアと極東700万平方キロを担当する東部軍管区の総人員は8万人(自衛隊の3分の1)にすぎず、一部はウクライナに投入されている。ロシアは徴兵制で1年の兵役を終えた予備兵を名目上200万人持つが、就職している社会人を召集するのは余程の場合で、シリア人などの傭兵(ようへい)で補充中だ。」(AERA 2022年5月2-9日合併号)

それでもウクライナ軍の2倍の兵員である。兵器は性能はともかく、実数に近いであろう。いずれも10倍以上である。戦わずして、勝敗は見えていたはずだ。

少なくともプーチンは、FSB(連邦保安局)の情報をもとに、こう考えたことだろう。ロシアが大軍を動かしただけで、ウクライナは戦わずしてその軍門に下ると。精鋭部隊を派遣せずとも、訓練名目で動員した新兵でこと足りると。
だが、実際にはそうならなかった。

◆ロシア軍の甚大な損害

イギリス国防省の分析によると、ロシア軍は当初動かした20万の兵力の3分の1を失い、キーウ攻略を断念しなければならなかった。

戦死者は、じつに約1万5000人に上るとの分析を明らかにした。1351人が死亡したとするロシア側の発表を大きく上回る。

前線では数人のロシア軍の将軍が、通信状態の悪さから携帯電話を使うことでその位置を把握されて戦死した。第二段とされた東部戦線でも計画通りの侵出はできず、一部では国境線まで押し返されている。

イギリスのウォレス国防相は、ロシア軍の装甲車両も2000台超が破壊されたか、ウクライナ軍に奪われたと述べている。内訳は戦車が少なくとも530両、歩兵戦闘車が560台など。ヘリと戦闘機は計100機以上を失ったとしている。

損害は正規軍だけではない。士気が低い徴兵兵士に代わって投入された、いわゆる傭兵にも、多数の死者が出ていると報じられている。

すなわち、ウクライナ戦争のファクトチェックを続けている英調査報道機関「ベリングキャット」(クリスト・グロゼフ取締役)は、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」がウクライナに派遣した傭兵8000人のうち、37.5%にあたる3000人が戦死したと考えられると語った(4月21日付、英デーリー・メール)。

◆戦車戦の実態

プーチンの盟友であるベラルーシのルカシェンコ大統領は「自国内で領土や家族、子供のために戦う国民を打ち負かすのは不可能だ」「(ロシアの軍事作戦が)これほど長期になるとは思っていなかった」と語っている。

つまり、ロシア軍がこれほど弱いとは思っていなかった、と云っているのだ。

第二段とされた東部戦線でも計画通りの侵出はできず、一部では国境線まで押し返されている。

とりわけ、ロシアの外貨獲得の目玉商品である戦車の脆弱性が明らかになり、北部戦線ではジャベリンの餌食になったことは、この通信でも解説してきたところだ。

◎[関連記事]「破綻しつつあるプーチンの戦争 ── だが、停戦交渉は軍事作戦の一環にすぎない」2022年4月3日

分厚い装甲と機動力をもった戦車は、軍事侵攻においては圧倒的な力を発揮する。都市制圧では歩兵を護り、敵の機関銃の弾丸を跳ね返す。

だが、精度の高い対戦車兵器には、その上部装甲は弱い。20世紀後半には対戦車ヘリ(空対地攻撃ミサイル装填)の登場で、その歴史的役割は終わったとすら云われたものだ。

その後、装甲がチタンやセラミックによる軽量化のいっぽうで、劣化ウラン(密度が高い重金属)、炸裂システムなどが使われるようになり、その弱点は補われたかに思われたが、今回のウクライナ戦争では歩兵が携行できる対戦車ミサイル(ジャベリン)の餌食になった。

この対戦車ミサイルを破壊するには、歩兵の白兵戦・狙撃をもってしか戦術的には対応できない。戦車はミサイルに弱く、しかしミサイルを抱えた歩兵は、敵の歩兵で狙撃するしかない。しかしその歩兵たちは、ミサイルなしに戦車の装甲を破壊することはできない。

※戦車<歩兵の対戦車ミサイル<歩兵の狙撃<戦車=三すくみのループ。したがって、最前線の兵器の運用が勝敗の帰趨を決める、平野での戦車戦の要諦である。

◆エクスカリバーの脅威

この三すくみのループを破るのが、遠距離から撃てる榴弾砲である。近距離で戦車が撃ち合う徹甲弾とはちがい、いま、東部戦線で威力を発揮しているのが、155ミリ榴弾砲(M777)に装填される砲弾エクスカリバー(M982)である。このエクスカリバーは、衛星利用測位システム(GPS)を用いて標的を正確に狙えるもので、単なる砲弾ではない。

アメリカ陸軍習得支援センター(USAASC)によれば、「エクスカリバーの砲弾は、妨害電波に耐える内蔵GPS受信機を搭載しており、慣性ナビゲーションシステムを改良している。これにより飛行中の正確な誘導が可能になり、射程距離に関係なく、ミス・ディスタンス(標的と実際の着弾点の間の距離)は2メートル以内に抑えられ、劇的に正確性が向上している」という。

さらに、ロシアの152ミリ砲が射程距離20キロ以内であるのに対して、エクスカリバーは40キロと長距離を狙える。通常弾でも30キロを狙える。東京駅から撃ったとして、横浜駅にいる戦車をピンポイントで狙えることになる。

ロシア軍がハリコフを放棄して撤退したのは、エクスカリバーの射程圏外への脱出にほかならない。しかもヘリコプターで空輸できるほど軽く(4トン未満)、ロシア軍の榴弾砲(7トン以上)が機動力を発揮できないのとは対照的だ。

榴弾砲はもともと、敵陣近くまで進出した偵察砲兵の指示で砲撃する。最前線で索敵する偵察砲兵はしかし、上述したとおり敵の歩兵に狙撃されやすい。

そこで問題になってくるのは、敵兵がどこにいて、どういう援護を受けているか。敵の動きを把握する必要がある。最前線の攻防が情報戦になってくるのだ。

緒戦でその必要を満たしたのは、ドローン兵器だった。ロシアのミサイル巡洋艦モスクワの撃沈はネプチューンの直撃とされているが、ドローン(バイラクタルTB2)が先行して撃沈に関与したことが明らかになっている(ロシア軍部に近いSNSのアカウント・Reverse Side of the Meda)。今後もそれは変わらないだろう。

◎[関連記事]「日本政府がウクライナにドローンを供与 ── 戦争を止めるために、何をすれば良いのか?」2022年4月23日 

◆NATO供与の兵器がロシア軍を壊滅させる?

4月26日、ドイツ南西部のラムシュタイン米空軍基地で、ウクライナへの軍事支援強化に向けたアメリカ主催の国際会議が開かれた。これまで兵器供与に慎重だったドイツを含め、西側諸国が一致してウクライナが強く求める大型兵器の供与を本格化させる方針となった。

じつは日本も、この会議に参加している。ここに、ウクライナ戦争を梃子にした日本政府の軍拡への布石、流れがつくられることも見ておかなければならない。NATO軍以上の兵器を供与できるはずはないのだから、医療関連の支援に徹すべきであろう。

それはともかく、ドイツのランブレヒト独国防相は、自走対空砲ゲパルトを50輌、ウクライナに提供すると表明した。ドイツはこれまで、直接の供与を対戦車ミサイルなど比較的小型の兵器に限っていたが、大きく方針転換したことになる。

このゲパルトは、レオパルドⅠ(60~70年代の主力戦車)の車体に35ミリ機関砲を二門搭載した対空戦車である。対空戦車の長所はミサイル攻撃に強いことだ。


◎[参考動画]Germany to supply Ukraine with anti-aircraft tanks

レーザー測距機付きKuバンド捜索レーダー(距離15km)とSバンドの追尾レーダー(距離15km)で機関砲が掃射されるシステムだ。戦車の天敵である攻撃ヘリコプターの射程外(15km以上)からのミサイル攻撃には、スティンガーで対抗する。

ウクライナ東部で今後、予想される戦闘は平野での戦車戦である。

アメリカが榴弾砲(155ミリ)を供与したのは、戦車群を叩くとともに、ロシアのロケット砲陣地や榴弾砲を無力化するのが狙いである。だが、砲門の数で上まわるロシア軍を撃破するには、攻撃の精度の高さがもとめられる。双方ともにドローンを飛ばして敵陣形をさぐり、無駄弾を撃たないほうが勝利を得るはずだ。


◎[参考動画]Report: Germany to deliver ‘Gepard’ anti-aircraft tanks to Ukraine | DW News

◆注目されるアメリカの新兵器

近代戦を決定づけるのは、敵の主力戦闘力をピンポイントで叩ける航空戦力だが、ロシア・ウクライナ両軍ともに制空権を確保できていない。これは半面で地対空ミサイル、対空砲が航空兵力を上まわっているからだ。

ロシア軍が「ウクライナ軍の軍事施設を攻撃した」と喧伝しながらも、じっさいには民間施設や住宅が被弾しているのは、爆撃機があまりにも遠くからミサイルを発射しているからだ。爆撃機の動静は監視衛星で把握されているし、標的に近づけば地対空ミサイルの餌食になる。したがって離陸した段階で動きを母くされるので、目標の上空に達することなく、ほぼ無差別爆撃となってしまっているのだ。野戦においても同じ構造となるであろう。やたらにミサイルを撃つが、当たらない無駄弾が続出するはずだ。

そこで、的確にヒットする無人機の登場となる。上述した戦車と榴弾砲が応酬する、野戦の均衡を崩す。しかもそれは、ロシア軍にはない兵器だ。

NATO諸国が対空ミサイルのスイッチブレードを供与されたのにつづき、アメリカが新兵器のフェニックス・ゴーストの供与を決めた。このフェニックス・ゴーストはロシアのクリミア併合を機に開発された無人自爆飛行体である。

スイッチブレードと同様、弾頭はタングステン炸裂弾だが、スイッチブレードが航続時間15分(300型)~40分(600型)なのに対して、フェニックス・呉ストは6時間という航続力がある。

一部には戦闘機から発射されることで、長時間を稼げるという観測もあるが、垂直離陸方式ではないかとも考えられている。ようするに、軍事評論家も実体を知らない新兵器なのである。ビデオカメラと赤外線センサーで標的を捉えるので、夜間攻撃に向いている。英米の軍事情報スポークスマンにそれば、ウクライナが戦略的な総反攻を準備しているという。

その総反攻には、ロシア本国への攻撃も含まれるであろう。補給路と兵站システムを叩くのも防衛である。

ここ数日、ウクライナと接するロシア西部で弾薬庫や石油関連施設などの爆発が相次いでいる。ウクライナ側は公式には認めていないが、ポドリャク大統領府長官顧問は、自国の攻撃であることを示唆したという。ロシア軍の補給線に打撃を与えるため、無人機(ドローン)などで攻撃を強化しているとみられる。

米シンクタンク「戦争研究所」も、無人機かミサイルでウクライナ軍がロシア西部ベルゴロド、ボロネジ両州で補給拠点を攻撃したと分析し、今後、越境攻撃が拡大すると予測している。ロシアが撃墜したと主張するトルコ製攻撃型無人機の画像も、インターネット上で出回っているという(共同電をもとに編集)。

いま、アメリカとイギリスの軍事顧問団がポーランドほかで、ウクライナ兵に新型兵器の扱いを修得させているともいう。これをもって、さらなる戦争の激化をもたらすNATOの暴走と批評するのは簡単だ。しかし、いまのところここにしかプーチンの暴走を止める術はないのである。


◎[参考動画]英国のNLAW対戦車ミサイルがロシアの戦車を破壊

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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ウクライナ戦争は、ある意味で第二次大戦の残滓でもある。前回明らかにしたとおり、軍事大国(ドイツとロシア)に挟まれた、悲劇と言うべきであろう。

「共産党の過酷な政策からウクライナの住民は、ドイツ軍を『共産主義ロシアの圧制からの解放軍』と歓迎した。とくに東欧の反共産主義者は、ロシア国民解放軍やロシア解放軍としてソ連軍と戦った。プーチンが『ウクライナ民族主義者たちは、ナチスに協力した』とするのは、一面では当たっているのだ。」

「スラブ人を劣等民族と認識していたヒトラーは、彼らの独立を認める考えはなく、こうした動きを利用しようとしなかった。親衛隊や東部占領地域省は、ドイツ系民族を占領地に移住させて植民地にしようと計画し、これらは一部実行された。」

「ウクライナ戦争をどう理解するべきか〈2〉──帝国主義戦争と救国戦争のちがい」2022年5月13日

◆世界は分割された

ファシズム(枢軸独裁国)に対する民主主義世界(連合国軍)の勝利によって、第二次世界大戦は終結した。ドイツは東西に分割され、日本はアメリカの占領下に置かれたのだった。

これを「20世紀の悲劇」(民族分断と従属)と言いなすこともできるが、日本とドイツは戦争を仕掛けた、開戦責任をもって「平和に対する犯罪」として裁かれたのである。

概括すれば第二次世界大戦も帝国主義間戦争だが、開戦した側、侵略した側に全面的な責任が問われる。これは今回のウクライナ戦争においても同様である。

ところで、現在も日独は国際連合憲章において「敵国」なのである。したがって、れいわ新選組の山本太郎が指摘するとおり、独自の核武装は不可能である。安倍晋三が云う「核共有論」もまた、国連憲章の前では意味をなさない。

さて、ファシズムは敗戦によって裁かれたが、戦勝国もまた東西に分裂する。
ソ連(およびロシア共和国を中心にした連邦国家・その同盟国)とアメリカ(および西ヨーロッパ列強・その同盟国)が、ベルリンの壁、北緯38度線(朝鮮半島)、北緯17度線(ベトナム)で睨み合うことになったのだ。東西冷戦である。

◆ソ連はどのような国家だったのか

第二次世界大戦後の冷戦下で、日本の左翼はしばらくのあいだ、ソ連邦支持だった。ロシアではなく、ソ連邦である。ソ連邦の原爆や水爆も、欧米のものとはちがう「きれいな核兵器」だとされたものだ。そのソ連邦とは、そもそも何だったのだろうか?

ソビエト社会主義共和国連邦は、対外的(国際的)には単独の国家でありながら、15もの共和国からなる連邦である。

【旧ソ連邦構成国】
ロシア・ウクライナ・白ロシア(現ベラルーシ)・ウズベク・カザフ・グルジア(現ジョージア)・アゼルバイジャン・リトアニア・モルダビア・ラトビア・キルギス・タジク・アルメニア・トルクメン・エストニア

ソ連邦はロシアを中心としながらも、ソビエト(会議)という社会主義国の連合体であり、共産主義者にとっては世界革命の実質だった。

国民党との内戦をへて成立した中華人民共和国、中米に社会主義の旗を立てたキューバ、フランスの植民地支配をくつがえした北ベトナム、アメリカ軍(国連軍)と渡り合った朝鮮人民民主主義共和国、そして東ドイツをはじめとする東欧社会主義諸国が、ソビエト連邦の同盟国だった。1950年代から80年代にいたるまで、われわれの世界は東西両陣営に分断されていた。

時代は民主主義と科学的な進歩史観が支配し、帝国主義の旧体制は反動とされていた。社会主義・共産主義こそが、人類の未来ではないかと思われたのだ。

昭和30年代までの日本人の文章には「科学的」「進歩的」「反動的」「封建的」という言葉がおびただしく散見される。進歩的知識人とは、左翼系の学者や左派の評論家をさしたものだ。

しかし、スターリンの死去とともに、社会主義神話に亀裂がはいる。ソ連共産党の無謬性に疑義が呈されたのである。1956年のソ連共産党20回大会、フルシチョフの秘密報告、すなわちスターリン批判である。プロレタリア独裁の名の下の行きすぎた専制的支配、おびただしい粛清と収容所。鉄のカーテンと言われた、ソ連邦の秘密が暴かれたのである。

これを機に、東欧でソビエト支配から脱する動きがはじまる。ハンガリー動乱(1956年10月)がその端緒だった。

社会主義体制の閉鎖性、密告と強権的な独裁政治にたいする、自由の抵抗である。60年代後半のプラハの春や70年代後半のポーランド連帯労組の運動、80年代後半の東西の壁崩壊へとつらなる流れだが、ここでは多くは触れない。

◆共産主義運動の病根

今日的には、ソ連邦を中心とした社会主義国の独裁政治、全体主義と称される政治体制の淵源は、歴史的に明らかになっている。

労働者階級の団結がひとつである以上、指導政党である共産党も唯一(単一党)である。分派の自由はない(コミンテルン22年決議)というものだ。

その指導政党は「民主主義以上のあるもの(同志的信頼)」(レーニン『何をなすべきか』)にゆだねられ、選挙は行なわれない。あるいは党公認の候補者にしか投票できない。党という官僚組織が政治と文化のすべてを統括し、正しい指導のもとに国民をみちびくというのだ。

したがって、間違った行動をする者たち、党と政府に反対する者たちは秘密警察に密告される。これが民主集中制による一党独裁である。党と国家は正しいのだから、遅れた部分・間違った道を歩む者を取り締まる。強制収容所で正しく労働教育される。この単純な原理で、一党独裁は盤石なものとなった。ソ連は「収容所群島」(ソルジェニーツィン)と呼ばれたものだ。

スターリンを尊敬するウラジーミル・プーチンによって、いまもロシア連邦は事実上この政体を採っている。

そしてここが肝心なのだが、日本共産党をはじめとする日本の共産主義政党もまた、このレーニン主義・スターリン主義の組織原則を堅持しているのだ。党内選挙を行なわない、労働者階級の党は単一であるから分派の自由を認めない。したがって、党から離反する者は反革命分子とされるのだ。

ここに他党派の主張をみとめない、場合によっては内ゲバ(処刑)を厭わない、左翼の病根があるといえよう。内ゲバは感情や倫理ではなく、組織原理に基づくものなのだ。左翼においては、とくに排除の思想がいちじるしい。

つい最近のことだが、わたしが編集する雑誌「情況」において、「キャンセルカルチャー」を特集したときに、議論を封殺しようとする事件が起きた。

このキャンセルカルチャーとは、差別的な表現や社会運動にとって認めがたい表現は、キャンセル(取り消し)できる、という文化だと措定できる。ところがそのなかで、特定の人物への原稿依頼をもって、情況編集部が差別に加担したというのである。当該の掲載論攷には、直接的に差別的な内容はなかった。

いかに差別的な言動であれ、言論をもって批判・反批判をするのが理論闘争の原則である。言論誌としてのあまりにも当然な編集姿勢について、批判的な人たちは「情況誌をボイコットせよ」と呼びかけるに至ったのだ。このとんでもない主張も言論であるから、情況誌はボイコット運動の呼び掛けをふくむ論文も注釈付きで掲載した。

ここまではまだ、言論空間(雑誌編集・販売)の出来事である。しかるに、批判的な人たちは「情況編集部と関係のある人は、その人間関係を断ってください」なる呼びかけをしたのだ。関係を断たれても痛くも痒くもないとはいえ、日本の社会運動の深刻な病理を見る思いだった。

運動からの排除や人間関係を断てという呼びかけと、内ゲバ殺人のあいだに、それほど距離があるとは思えない。たとえば日本共産党が、彼らの云う「ニセ左翼集団」とはいっさい対話をしないように、無党派の市民運動や学生運動においても、この排他的な運動論は継承されてしまっているのだ。反対派を排除するソ連邦(手法を受け継いだロシア連邦)と同じ政治空間が、そこには現出する。

この話題を持ち出したのは、ほかでもないプーチンとアメリカ帝国主義(およびNATO)の評価において、日本の左翼は米帝を原理的(陰謀論的)に批判するあまり、プーチン擁護にまわってしまうからだ。内容を抜きに、アメリカなら許さないという無内容な決めつけである。おそらく彼らは、民主党政権と共和党政権の差異も論じることは出来ないであろう。国際社会におけるアメリカの役割の正否も、論評することはできないであろう。これを「教条主義」と呼ぶ。

毛沢東の云う「主要側面・副次的側面」(矛盾論)をみとめなければ、そこには「絶対悪」という硬直した思想が表象するのだ。

つぎに日本のとくに新左翼が陥った、民族解放戦争への客観主義について解説しよう。そこにも、硬直した原理主義があった。

◆民族解放戦争

帝国主義間の争闘、あるいはソ連邦とアメリカの覇権主義的な争闘は、第三世界諸国を巻き込んでくり広げられた。とりわけ旧植民地において、その対立は「代理戦争」の様相をおびたものだ。

だがここで注意しなければならないのは、帝国主義の植民地支配の残滓として傀儡政権に対する闘争は、民族解放闘争である事実だ。第二次大戦後の世界は、旧植民地国・従属国の独立と自立をかけた民族運動として顕われたのである。

この世界史的な動きに、マルクス・レーニン主義はじつに冷淡だった。反帝・反スタ思想も民族解放闘争には冷淡だった。

プロレタリアートの階級闘争は、先進国革命によって果たされる。史的唯物論は市民社会の進化によって、大工業化された資本と賃労働の関係において、プロレタリアートの形成が階級関係を高次に変化させ、社会主義革命へといたる(マルクス)。

あるいは、帝国主義段階に至った資本主義は市場再分割の戦争を引き起こすがゆえに、戦争を内乱に転化することで政治危機を社会主義革命に至らしめる(レーニン)。

そもそもヨーロッパ世界のみを研究テーマにしてきたマルクスは、東洋を「アジア的専制」と読んでいた。レーニンは帝国主義の市場再分割が、直接的な侵略戦争ではなく、協調と対立を内包しながらも超帝国主義に至ることを予見しえなかったのだ。

いっぽう、日本の左翼運動は、社会党系のソ連派、新左翼の反スターリン主義派(革命的共産主義者同盟)のほか、家元である日本共産党もソ連・中共と訣別していた。これらの党派は、おしなべて民族解放闘争の背後にスターリン主義がいることをもって、きわめて客観主義的な立場だった。

今回のウクライナ戦争にたいしても、帝国主義間戦争にすぎない、と新左翼の多くは腰が引けている。ウクライナ人民への支援や連帯を訴えるのでもなく、単に原則的な反戦運動(日米安保粉砕)を呼び掛けるだけなのだ。※個人においては、ウクライナ独立戦争を支持する人は少なくない。

◆国際主義の実体とは

かように、左翼は民族解放闘争に冷淡なのである。

60~70年当時、唯一といってもいいだろう。ブント系のみが中国共産党やキューバ共産党に、世界革命の現実性を見ていた。

そして旧植民地国の民族解放戦争が、社会主義革命を内包していることに着目したのである。その政治路線は、組織された暴力とプロレタリア国際主義、三ブロック階級闘争の結合による世界革命戦争と定式化された(ブント8回大会)。

世界的な組織を持っている第4インターや、早くからベ平連をつうじてベトナム反戦運動に取り組んでいた共産主義労働者党(プロ青同)などがこれに続き、やがて民族解放闘争が現代革命のキーワードとなったのだった。じっさいにブントは国際反戦集会に各国の革命組織をまねき、赤軍派においてキューバ・北朝鮮・パレスチナに同志たちが渡航した。

そして1975年4月30日、インドシナ三国(ベトナム・ラオス・カンボジア)の革命戦争が勝利を果たし、世界は民族解放社会主義革命戦争が規定するようになったのである。

にもかかわらず、いやそうであるがゆえに、世界は民族対立と宗教対立のカオスとなったのだ。いっぽうで、ナショナリズムを煽る右翼ポピュリズムの躍進によって、プロレタリアートの先進国革命は彼方に忘れられた。

ウクライナをはじめとする東欧情勢を、国民国家以前と評した評論家がいたが、けだし当然である。民族国家としての独立性を、いまだに問題にしなければならない人類の21世紀なのである。

ウクライナ戦争を理解するために、さらにわれわれは人民民主主義革命と救国戦争の諸相にせまってみよう。20世紀が「戦争と革命」の時代であったのに対して、どうやら21世紀は「民族と宗教戦争」の時代になりそうな気配だ。

◎[関連リンク]ウクライナ戦争をどう理解するべきなのか
〈1〉左派が混乱している理論的背景
〈2〉帝国主義戦争と救国戦争の違い
〈3〉反帝民族解放闘争と社会主義革命戦争

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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一般的に、保守派・右派がウクライナ政府を支援し、左派がロシア連邦を支持している、と思われがちだ。ロシアが社会主義革命の聖地だからだろうか。あるいは保守派のなかにも、アメリカの覇権主義を警戒して、プーチンを支持する人がいる。アメリカのネオコンを中心にした、ディープステートの世界支配を唱える元駐ウクライナ大使馬渕睦夫など、トンデモ系(史実・事実の論拠なし)の著作や発言に飛びつくのは、しかし左右を問わない。

妄想を論拠にしたトンデモ議論に付き合えばきりがないので、ここでは引き続き、左翼の理論的な混乱を解説していこう。右翼にはほとんど合理的な理論指針がないので、メディアの画像をちゃんと見ている人たちは、大きな誤りに陥らないとも言えよう。

前回は、第一次世界大戦に際しての第二インターの分裂をたどってきた。

ウクライナ戦争をどう理解するべきなのか〈1〉左派が混乱している理論的背景

第一次大戦は、それまでの民族的な国境紛争や王家の継承戦争といった、いわば絶対主義王政時代(近世ヨーロッパ)の戦争とはちがう。帝国主義段階の拡張政策・市場再分割がおもな動因であった。

そして兵器の高度化とともに、戦争動員が国民的な経済資源と人的資源にまで及んだ、いわゆる「総力戦」となって顕われてきたのだ。そこで、左派も戦争に対する態度が問われてきた。

第二インターの指導者であるカール・カウツキー自身は戦争に反対の立場だったが、分裂を回避するために祖国防衛の立場をとっている。のちに、レーニンか「プロレタリア革命と背教者カウツキー」としてこき下ろされる。

だが、帝国主義論においては現在のグローバリズム(資本の国際化)が、カウツキーの「超帝国主義論(世界大に発展した帝国主義諸国は、もはや協調に至らざるをえない)」を実証した。ぎゃくにレーニンの帝国主義間戦争の必然性は、第二次大戦以降は証明されていない。もちろん代理戦争と呼ばれる、地域戦争や紛争は後を絶たないが、兵器の発達が帝国主義国同士の世界戦争を回避させているのだ。

◆レーニンの戦争革命論

第一次大戦までの左翼(共産主義者・社会民主主義者)は、帝国主義本国にあって自国の敗北のために闘う路線を採っていれば良かった。自国帝国主義打倒とプロレタリア国際主義である。帝国主義本国においては、これは今日も変らない。

この帝国主義本国内の左翼反対派は、よく「サヨクは反対論ばかりで政策がない」と謗られる原因だ。ある意味ではラクな政権批判であり、対案なき批評なのである。対案がないということは、単なる悪口にすぎない。

新左翼の老舗雑誌といわれる『情況』でも、国防論特集を組んだときに、オールドボリシェヴィキ(団塊以上)から猛反発が起きたものだった。かりに政権交代があったときに、旧民主党の鳩山政権のようにトータルな国防政策を欠いた「沖縄米軍基地撤去」の空公約では、政権は立ちいかない。そのあたりの政策遂行能力の有無は、現在の日本の左派においては、いまだに重大な欠陥となっている。

ともあれ、戦争に疲弊する本国政府の政治危機を衝いて、プロレタリア階級が政治権力を奪取した。これが、マルクスの「窮乏化革命論」「恐慌革命」にたいする「戦争を内乱・革命政権の樹立」として定立された。戦争革命論である。じっさいにロシアでは第一次大戦の疲弊に乗じた革命政権(1907年2月・10月)が成就したのだった。

革命ロシアはひきつづきドイツ革命・イタリア革命で、世界革命を展望できると考えられていた。しかし、そうはならなかった。反革命の国際的な干渉とドイツ革命の敗北によって、レーニン率いるボリシェヴィキは世界革命の展望をうしない、やがてスターリンのもとで一国社会主義の道を歩むことになるのだ。そのかんに、革命ロシアはウクライナをはじめとする周辺国にソビエト政権を打ち立てて、ソビエト連邦へと併呑していく。これは周辺国を内戦の渦に叩き込むことになった。

◆ウクライナ・ロシア戦争

階級問題を軸心としたマルクスの思想と理論が、民族問題の解決を射程に入れていなかったことに、ボリシェヴィキは逢着したのだ。

帝国主義と民族植民地問題において、レーニンが民族自決の原則と、その上での連邦制を主張したのに対して、スターリンはソビエト連邦への上からの吸収を主張していた。この議論が決着を見ないうちにレーニンは没する。ちなみに、米大統領ウイルソンの民族自決の原則(第一次大戦後)は、レーニンの提案を容れたものだ。
現実のソビエトは、周辺諸国の民族派を弾圧し、工業化のための農産物の供出を強要し、膨大な餓死者を強いていたのである。ちなみに、ウクライナ・ロシア戦争は1917年から足掛け5年におよんでいる。ロシアとウクライナの紛争は、いまに始まったことではないのだ。

ともあれ、ロシアにおいてはボリシェヴィキが政権をにぎり、プロレタリアートがソビエト権力を担うことになった。したがって、帝国主義の干渉にたいして「国防」が問われることになったのだ。

プロレタリアートとその党が帝国主義内部にあって、自国帝国主義を打倒する闘争に終始するのとちがい、みずから赤軍を国軍として組織して、防衛戦争を組織しなければならなくなったのだ。

レーニンがブレスト・リトウスク条約でドイツと停戦・講和し、革命政権を保ったのは、革命政権を維持する苦肉の策である。そして戦時共産主義経済と新経済政策で、ソビエト政権は農民を犠牲にした工業化をはかる。とりわけ農業地帯への締め付けは過酷だった。

そしてスターリン革命と称される第二次五か年計画の過程(1932年~)で、ウクライナの農産物は中央政府に徴発された。これは社会主義的原始的蓄積とも称され、同時に農場の集団化・国有化が行なわれた。

これをウクライナでは、スターリンのホロドモール(ウクライナ語でホロドは飢饉、モールは疫病を示す)という。それはまた、スターリンが「ウクライナ民族主義」を撲滅する過程でもあった。

◆ナチスドイツのバルバロッサ作戦

さて、前段で左翼の政策能力を問題にしたが、侵略戦争に遭遇したときほど、その政治能力の有無が問われることはない。

現在のウクライナ政権は、ロシアの侵略戦争に対して、NATOの支援頼みだとはいえ、じゅうぶんにその能力を発揮しているといえよう。はたして、ゼレンスキー政権の戦争継続を批判する日本の左翼は、自分たちが侵略戦争に遭遇したときに、どんな行動をするのだろうか。

非暴力(無抵抗)で虐殺されるのか、それとも降伏して強制移住させられるのか、ぜひとも意見を訊いてみたいものだ。スターリン麾下の革命ロシアも、第二次世界大戦に否応なく巻き込まれた。ナチスドイツの東方侵略である。

ドイツ総統アドルフ・ヒトラーは、ソビエト連邦との戦争を「イデオロギーの戦争」「絶滅戦争」と位置づけ、通常の占領政策をとらなかった。つまり、最初から虐殺のための戦争として発動したのだ。

1941年6月22日、ドイツ軍は「バルバロッサ作戦」としてソ連を奇襲攻撃した。ヨーロッパのドイツ占領地から反共主義者の志願者、武装親衛隊によって徴発された人々がドイツ軍に加わった。外交官加瀬俊一によれば、この反共討伐軍は、ヨーロッパでは人気があったという。

開戦当初、ソ連軍が大敗を喫したこともあり、歴史的に反ソ感情が強かったバルト地方や、共産党の過酷な政策からウクライナの住民は、ドイツ軍を「共産主義ロシアの圧制からの解放軍」と歓迎した。

とくに東欧の反共産主義者は、ロシア国民解放軍やロシア解放軍としてソ連軍と戦った。プーチンが「ウクライナ民族主義者たちは、ナチスに協力した」とするのは、一面では当たっているのだ。

ところが、スラブ人を劣等民族と認識していたヒトラーは、彼らの独立を認める考えはなく、こうした動きを利用しようとしなかった。親衛隊や東部占領地域省は、ドイツ系民族を占領地に移住させて植民地にしようと計画し、これらは一部実行された。

ヒトラーは『我が闘争』において、ドイツ人のための生存圏を東欧・ロシアにもとめ、ドイツ人を定住させることを構想していた。そこではドイツ人が「支配人種」を構成し、スラブ系住民のほとんどを根絶またはシベリアへ移送し、残りを奴隷労働者として使用する構想だった。

◆大祖国戦争

当時、スターリンによる粛軍によって、ソ連軍(赤軍)は弱体化していた。1941年の夏までにウクライナのキーフ、ハリコフが陥落した。ドイツ軍は9月には、モスクワ攻略作戦を発動する。最新鋭の6号戦車(タイガー)を主力にした機械化師団、ユンカース急降下爆撃機の支援で、圧倒的な戦力をほこるドイツ軍はモスクワまで十数キロに達した。ところが、この年は冬の訪れが早かった。戦車隊は雪と泥濘で進撃を止められ、戦局は膠着した。スターリンが「大祖国戦争」を呼号したのは、このときである。

アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトが、ソ連への武器供与を決断したのも、ドイツ軍のモスクワ攻囲が完成した時だった。現在のウクライナ戦争(ロシアの侵攻)とよく似ていることに気付くはずだ。

さてこのとき、左翼(共産主義者)は自国帝国主義(アメリカやイギリス)の武器供与に反対すべきだっただろうか? フランスでは共産主義者をふくむ抗独レジスタンスが、やはり米英の武器供与(空輸)を受けていた。米英の左派は、この武器供与に反対するべきだったのだろうか。史実は反ファシズム戦争として、民族ブルジョワジーから民族主義右翼、社会主義者・共産主義者がこぞって、ナチスドイツの軍事侵略に反対し、民主主義擁護の戦争に参加したのである。

このように、帝国主義戦争においては、かならず民族的な抑圧・虐殺が起きる。帝国主義間戦争のなかに、かならず反侵略の自衛戦争が生起する。このときに、自国の平和だけを唱える者はいない。少なくともマルクス主義左翼は、国際共産主義者として、抑圧民族の自衛戦争を支援・参加するはずだ。

だがなぜか、今回のウクライナ戦争において、日本の新左翼と反戦平和市民運動はそうではないという。やはり革命ロシアの記憶がプーチンを擁護させるのだろうか。それとも「戦争」という言葉それ自体に、忌避反応してしまうのだろうか。次回は民族解放戦争に論を進めよう。

◎[関連リンク]ウクライナ戦争をどう理解するべきなのか
〈1〉左派が混乱している理論的背景
〈2〉帝国主義戦争と救国戦争の違い

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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ウクライナ戦争の勃発いらい、SNSでは一部の人々がプーチンを擁護しているという。かれらはロシアだけが悪いのではないという。ロシアを追い詰めたアメリカをはじめとするNATOも悪いのだ、ゼレンスキー政権は許すべからざるネオナチである、と断じる。

あるいは、ドンバス戦争(ウクライナ東部内戦)の犠牲者1万3000人をすべて、ウクライナのネオナチの仕業だと言いなす人たちもいる。だから、プーチンの「特別軍事作戦=ウクライナ解放」を、支持するべきであると云うのだ。

だが、これらは「事実誤認」に基づいている。事実は市民の犠牲3350人・ウクライナ軍4100人、親ロシア勢力が各5650人というのが、国連人権高等弁務官事務所のレポートである。

それでもプーチンを支持するという。その多くは陰謀論(ディープステート)、影の国家が世界を支配している。というものだ。

[参考記事]実話BUNKAタブー(林克明さんの記事)

「陰謀論者」には自由に空想世界を愉しんでいただくとして、ここでは真面目に米帝(NATO)元凶論や帝国主義間戦争論を論じている「新左翼系」「反戦市民運動」の人たちの誤謬を明らかにしていこう。すでに諸傾向については、先行レポートがあるので参照されたい。

◎[関連記事]「ウクライナ戦争への態度 ── 左派陣営の百家争鳴」2022年4月26日 

ウクライナのNATO接近が戦争の原因であるとする説には、歴史的な経緯について、あきらかな誤解がある。

かれらの主張によると、直接的にはミンスク合意が、ウクライナ側において破られたことが挙げられる。ゼレンスキーの失政であるともいう。

だが、事実はそうではない。

このミンスク合意(議定書)とは、2014年9月5日に、ウクライナ、ロシア連邦、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国が調印したものだ。ドンバス地域における戦闘(ドンバス戦争)の停止の議定書である。しかるに、ドンバス地方で戦火がやむことはなかった。実効性のない、単なる停戦協定にすぎなかったのだ。

◆ウクライナ騒乱の全貌

そもそも、このウクライナ騒乱(ドンバス戦争)は、2004年のオレンジ革命(親ロシアのヤヌコーヴィチ政権への反対運動)、2014年2月のマイダン革命(ヤヌコーヴィチの追放)による内乱の延長にある。ちなみに、マイダンとは「尊厳」を意味する。

この内乱のデモ隊に、アメリカが資金援助したというのが、親ロシア派・プーチン擁護派の主張なのである。

なるほど、映像で見るマイダン革命は苛烈な市街戦に近く、ヘルメットと棍棒、銃器で武装したデモ隊が、ウクライナ治安部隊に襲いかかる。日本の三派全学連・全共闘・三里塚闘争で行なわれたような、ヘルメットと棍棒で武装したデモ隊をほうふつとさせる。

それへの弾圧として、治安部隊が猛威をふるう。苛烈な弾圧シーンが映像として残されている。これまた、日本の機動隊を思わせる激しさだ。双方が一方的に攻撃しているシーンが多いので、激しさが強調されている。

そしてマイダン革命を主導したのが、ウクライナ民族主義者だと、プーチン擁護派は云う。当然であろう。ソ連邦崩壊いらい、ウクライナ国民はロシアの呪縛から逃れようとしてきた。たとえば日米の呪縛を打破したい沖縄県民が、琉球という民族性を前面に押し立てるように。抑圧された民族の民族主義的な顕われは必然なのである。

そのデモ隊にアメリカの資金が流れたというのは、おそらく事実なのであろう。しかし、ロシアの支配を是としないウクライナ国民の独立志向が、はげしい内乱になった原動力であるのは明らかだ。数千・数万の反政府運動デモが「日当」で成り立つと思うのは、大衆運動を知らない者の想像にすぎない。

激しい反政府運動は、しばしば「外国勢力の陰謀」とされるものだ。香港民主化運動しかり、かつてのわが国の反体制運動もソ連や中国から資金が流れていると、公安当局から喧伝されたものだ。たしかにソ連崩壊後、KGB文書から「ベ平連がアメリカ脱走兵の援助を依頼、金銭的援助まで要請した」という事実が明らかになった。ソ連大使館に接触した吉川勇一は「接触した大使館員がKGBかどうかはわからない」と、産経新聞に反論している。接触は事実だったのだ。ここまで掘り下げた「アメリカの資金援助」が明らかにされないかぎり、説得力はない。内乱時には、様々なことが起こりうるものだ。

ともあれ、こうした親ヨーロッパ派(ウクライナ人の多数)と親ロシア派(東部・ウクライナ)の争いに、ロシアが介入したクリミア併合へとつながる。これ以降、東ウクライナは現在まで内戦状態にある。

2015年2月11日にはドイツとフランスの仲介で、ミンスク2が調印されているが、それでもドンバス戦争は止まなかった。

昨年10月末のウクライナ軍のドローンによるドンバス地域への攻撃を機に、プーチンはドンバス地域の独立を承認(2022年2月21日)する。翌22日の会見で、ミンスク合意は長期間履行されず、もはや合意そのものが存在していない、としてロシア側から破棄されたものだ。ミンスク合意を破ったのは、ロシアの軍事侵攻(2月24日)なのである。

◆ウクライナの核放棄がロシアの侵攻を招いた?

慧眼な本通信読者なら周知のことかもしれないが、ウクライナの安全保障をめぐっては、1994年のブタペスト覚書にさかのぼる。ソ連崩壊後、ウクライナには旧ソ連邦の膨大な核兵器が残されていた。ソ連崩壊によって、ウクライナは世界第三位の核保有国になったのだ。

米ロ両国は核不拡散の名のもとに、ウクライナに核兵器を放棄させる。その担保として、アメリカとロシアがウクライナの安全を保障する。それがブタペスト合意である。

しかるに、その後も米ロ双方がウクライナの自陣営への獲得をめぐってせめぎ合い、ウクライナ国内でも親ヨーロッパ派と親ロシア派の内紛が絶えなかった。その激しい顕われが、結果としてのドンバス内戦にほかならない。

クリミア併合へといたるドンバス戦争へのロシアの介入は、ウクライナが核兵器を放棄したからだと、ゼレンスキー政権は言う。今回のロシアのウクライナ侵略は、たしかにNATOの直接の軍事不介入という意味では、核兵器の威嚇効果を立証した。北朝鮮もリビア(カダフィ)とイラク(フセイン)の失敗例にかさねて、今回の核威力を再認識するはずだ。やはり核兵器は厄介な存在だった。

◆戦争は違法であり、戦争を仕掛けたほうに一方的な責任がある

論軸に立ち返ろう。親プーチン派の日本の左派は、ウクライナの親ヨーロッパ派の背後に、アメリカとNATOの暗躍、隠然たる軍事プレゼンス(軍事顧問の派遣)があるという。

しかしながら、これはロシア側においても同様なのである(所属章と階級章のない国籍不明の部隊のウクライナ侵入)。問題はロシアが公然と自国の軍隊を動かし、軍事プレゼンス(侵略戦争)を発動したことなのだ。

あくまでも「帝国主義間戦争」と言い張るのなら、アメリカ(NATO)が軍隊をウクライナに入れたとか、ロシア領内を侵犯したとかの事実を提示しなければならない。それを抜きにした「帝間戦争」規定は、悪質なデマと呼ぶほかない。

プーチン擁護派の人々は、ウクライナへの軍事支援を「違法」「参戦行為」だと云う。そうではない。国際法は戦争を禁止しているが、侵略された国の自衛権は「自然法」として存在する。したがって、国際法における「中立」の権利は、この自衛権の保護を排除しないのだ。戦争を仕掛けた方に、一方的な「非」があるのは自明のことだ。

◆2014年のロシアによるクリミア併合

マイダン革命によるヤヌコーヴィチ大統領の失踪をうけて、ロシアはクリミアを併合した。これは明確に、ロシアによる領土併呑。侵略行為である。日本でいえば、北海道がロシアに併合されたにもひとしい。

多数の民族が混住し、侵略と内戦がくり返されてきた東ヨーロッパにおいて、ドンバス戦争は深刻だが、とりたてて珍しい内紛ではなかった(ユーゴ内戦を見よ)。そこにNATOとアメリカの政治的な介入を危惧したプーチンの命令で、ロシア軍による公然たる軍事侵攻が行なわれたのだ。これがウクライナ戦争の全貌である。

ロシアの軍事侵攻こそが、ここまでに数万人といわれる犠牲者を出した、直接の原因にほかならない。この侵略の事実を前に、いくら戦争の背景を説き起こしても意味はないのだ。

たとえば、1941年の日本がアメリカをはじめとするABCD包囲網の圧力によって、太平洋戦争に踏み切ったとして、日本の開戦責任が免れないのと同じである。ヒトラーの欧州戦争が、第一次大戦の莫大な賠償金にあったからといって、開戦の責任を免罪されないのと同じなのだ。

ところが、わが日本の新左翼運動や反戦市民運動において、アメリカとNATOも悪いのだという。帝国主義間戦争(いや、NATOは参戦していない)なのだから、自国帝国主義(日本)のウクライナへの軍事支援に反対すべき、という議論も少なくない。今回はその理論的な背景について、最後に解説しておこう。

◆第一次大戦とツインメルワルト左派

左翼がスローガンに掲げる「革命的祖国敗北主義」「自国帝国主義打倒」は、第一次大戦の勃発にさいして、第2インター(国際共産主義組織)の大半が、革命的祖国防衛主義の立場に傾いたのに反対する政治スローガンである。

すなわち、資本主義が帝国主義段階に至り、植民地からの超過利潤の獲得のために、領土再分割に乗り出した時代。これが帝国主義間の戦争であり、この戦争に参加してもプロレタリアートには何の利益ももたらさない。金融資本と地主階級を肥え太らせる戦争の災禍は、社会主義革命によってしか避けられない、というものだ。
戦争に対する態度をめぐって、第2インターは分裂する。第2インターの戦争協力に反対して、スイスのツインメルワルトに結集したのは、レーニン、ジノヴィエフ、トロツキー、マルトフらロシア社民党の面々、イタリア、フランス、ノルウェー、オランダ、ポーランド、ブルガリア、ルーマニアからも参加者があった。

ここにおいて、マルクスの「万国の労働者、団結せよ」という『共産党宣言』のスローガンが再確認される。すなわち「プロレタリアに祖国はない」である。のちのコミンテルン(第3インター)につながる流れである。

◆国際主義は国家主義に置き換えられた

将来における国家の死滅(マルクス)を展望しつつ、おなじプロレタリアートとして国境をこえた連帯と団結をむすぶ。

この人類史の明るい未来像は、人々を魅了した。フランスにおける大革命いらいのコミューン(地区共同体)、ドイツにおけるレーテ(評議会)、そしてロシアにおけるソビエト(会議)。資本制のくびきから解放された人々は、新たに自由の地を得たかにみえた。

しかるに、レーニンが提唱した民族の分離ののちの連邦は、スターリンの上からの連邦国家(ソ連邦)によって潰えたのだった。そのスターリンの後継者、ウライジーミル・プーチンがいま、諸民族の国家的統制を、軍隊によって成し遂げようとしているのだ。プーチン擁護派を論破し尽くすべし、である。

次回は中国の抗日救国戦争(国共合作)とインドシナ革命(民族解放・社会主義革命戦争)の評価について、かつての新左翼がいかに先取的な精神を持っていたかを媒介に、マルクス・レーニン主義の原則論者たちを批判しよう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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ウクライナの戦火を日々見ると自然に、かつてよく聴いた反戦歌を思い出します。

まずは『戦争は知らない』。

よく『戦争を知らない子どもたち』と間違えられますが、違います。『戦争は知らない』は、それよりも先にベトナム戦争真っ盛りの1967年にシングルカットされ、発売されます。作詞は、演劇の世界に新たな境地を開拓した劇団『天井桟敷』の寺山修司、歌は『たそがれの御堂筋』で有名な坂本スミ子(古い!)。意外な組み合わせです。寺山修司は、いわゆるアングラ演劇の教祖ともされる人物ですが、彼がこのように純な歌詞を書いたのも意外ですし、また坂本スミ子に歌わせたのも意外、歌謡曲として売り出そうとしたのでしょうか。

その後、ザ・フォーク・クルセダーズ(略称フォークル)が歌いますが、こちらがポピュラーです。いわば「反戦フォーク」として知られています。私は坂本スミ子が歌ったのを知りませんでしたが、『この人に聞きたい青春時代〈2〉』のインタビューの際に、フォークルのメンバーだった端田宣彦(はしだのりひこ)さんから直接お聞きしました。

[左上]坂本スミ子『戦争は知らない』(1967年1月)と[左下]ザ・フォーク・クルセダーズ『戦争は知らない』(1968年11月)のEPレコードジャケット。[右]『この人に聞きたい青春時代〈2〉』(2001年鹿砦社)


◎[参考動画]ザ・フォーク・クルセダーズ 戦争は知らない (1968年11月10日発売/東芝Capitol CP-1035)作詞:寺山修司/作曲:加藤ヒロシ/編曲:青木望

♪野に咲く花の 名前は知らない
だけど 野に咲く花が好き
帽子にいっぱい 摘みゆけば
なぜか涙が 涙が出るの

戦争の日を 何も知らない
だけど私に 父はいない
父を想えば あゝ荒野に
赤い夕陽が 夕陽が沈む

戦さで死んだ 悲しい父さん
私は あなたの娘です
20年後の この故郷で
明日お嫁に お嫁に行くの

見ていてください 遙かな父さん
いわし雲飛ぶ 空の下
戦さ知らずに 20歳になって
嫁いで母に 母になるの

野に咲く花の 名前は知らない
だけど 野に咲く花が好き
帽子にいっぱい 摘みゆけば
なぜか涙が 涙が出るの

なお、下の画像は1970年に反戦活動で逮捕され抗議の意志表示をする女優ジェーン・フォンダ(鹿砦社刊『マグショット』より)。ジェーン・フォンダはべ平連の招請で来日し、今はなき同志社大学学生会館ホールで講演、ミーハーな私も拝見させていただきました。ものすごく輝いていた印象が残っています。

1970年、反戦活動で逮捕され抗議の意志表示をする女優ジェーン・フォンダ(鹿砦社刊『マグショット』より)


◎[参考動画]Jane Fonda in North Vietnam 1972

◎[リンク]今こそ反戦歌を!

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プーチンのウクライナ侵略戦争をめぐって、日本の左派陣営に議論が巻き起こっている。史実・事実関係もふくめて、かなり錯綜したものになっているので解説しておきたい。

◆帝国主義間戦争なのか?

まず、戦争の原因から解き起こし、戦争の性格を帝国主義間戦争(覇権争奪)だとするものだ。

NATO(アメリカ)の東進政策がウクライナにおよび、ゼレンスキー政権のNATO加入方針がプーチンを刺激し、東ウクライナの確保のために軍事行動を起こした。したがってロシアも悪いがアメリカも悪い。したがって、ウクライナ人民と連帯し、帝国主義の両陣営を撤退させなければならない。そのためにプロレタリア国際主義で、各国の人民が自国帝国主義を打倒するべきだと。

レーニンの「帝国主義と民族植民地問題」「革命的祖国敗北主義」「多民族を抑圧するプロレタリアートは自由を獲得できない」「プロレタリア革命によってのみ、戦争は廃絶できる」という、戦争にたいするプロレタリアートの原則的な見地である。

あまりにも原則的なこの見地は、しかし現実にはロシア軍の狂暴かつ残虐な侵略行為を、ただちに押しとどめることは出来ない。原則である「プロレタリア国際主義」の具体性がどこにあるのか。論者は説明できないであろう。かれらの頭の中にしかないからだ。

◆侵略戦争に抗する救国独立戦争は第三次世界大戦を招きかねない

いっぽう、ロシアの領土併呑・侵略戦争であるという見地がある。戦争の遠因はどうであれ、現実に侵攻してきたのはロシアであって、アメリカもNATOも軍事介入はしていない。したがって、ウクライナの戦いは救国・独立戦争であると。

かつて、日本が中国を侵略したとき、中国は国共合作で抗日救国戦争を戦った。あるいはナチスドイツの東方侵略に対して、ソ連は大祖国戦争としてドイツの侵略をくつがえした。ウクライナの戦いは、これらと同じ正当な戦争だというものだ。筆者もじつはこの立場である。

この立場はしかし、危うい側面を抱え込むことになる。ウクライナへの武器供与を、NATO軍の参戦とみなしたロシアによる戦線の拡大である。

チェコの戦車提供につづき、スロバキアも旧ソ連の高性能地対空ミサイルS300を提供したと発表した(4月8日)。S300は射程が非常に長く、航空機や巡航ミサイルを撃墜する能力を持つとされる。

これらの武器供給をもって、ロシアがNATO諸国への攻撃に踏み切った場合、第三次世界大戦の契機となりかねない。これから先、世界は危うい局面をたどることであろう。

◆無抵抗主義で戦争は終わらせられるのか

もうひとつの議論に、侵略軍にたいする無抵抗主義、もしくは人命を守るためにプーチンに降伏せよ、というものがある。日本の市民運動の中で、あるいは平和学研究のなかで練られてきた「非暴力の抵抗運動」である。

「紙の爆弾」最新号(5月7日発行)でも、浅野健一が伊勢崎賢治(平和構築学)の言葉を紹介している。

「国民に武器を与え、火炎瓶の作り方まで教えて『徹底抗戦』を呼び掛けた」のは「一番やってはいけないこと。市民に呼び掛けるのなら、非暴力の抵抗運動だ」と、ゼレンスキー政権の抗露戦争の呼びかけを批判している。

しかし、これはキーウ近郊でロシア軍の大量虐殺が明らかになった今も、有効な抵抗運動と云えるのだろうか。ロシア軍の大量虐殺が、武器を持った抵抗になされたものか、無抵抗の者たちを後ろ手に縛って射殺したのかは、その戦争犯罪が解明されなければわからない。

しかし、現実に大量虐殺(遺体の焼却や埋設)が行なわれ、ウクライナ人の強制連行(ロシアへの強制移住)が行なわれているのは事実だ。そしてキーウを攻囲しようとしていたロシア軍が、ウクライナ軍とキーウ市民の激しい抵抗で押し戻され、撤退したのも事実である。

してみると、日本の市民運動や平和学が説く「無抵抗主義」が何の効力もないことがわかってくる。どこまでいっても、平和な日本における無抵抗不服従にすぎないのではないか。現実には、激しい武力をともなう抵抗がロシア軍を撤退させたのだ。

ウクライナの武力をともなう抵抗運動を、日本の市民運動家は太平洋戦争中の日本になぞらえることがある。いわく「欲しがりません、勝つまでは」「竹槍で戦うのと同じだ」という(「テオリア」への池田五律の寄稿)。

だが、彼らはけっして、ナチスに抵抗したヨーロッパのレジスタンスやソ連の大祖国戦争を引き合いには出さない。引き合いに出せないのであろう。

今回のウクライナ独立戦争(ゼレンスキー)は、日本(侵略国)の無謀な戦争継続とは明らかに違い、むしろナチスドイツへの抵抗戦争と同じ構造なのである。あるいは日本の侵略と戦った、中国人民の抗日救国戦争と同じである。

侵略者殺さなければ虐殺される、あるいは無抵抗のまま強制連行される戦争のなかで、無抵抗を呼び掛けるのは人間の尊厳を欠いたものとは言えないだろうか。抵抗の方法を決めるのは、われわれではなくウクライナ国民なのである。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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◆ナチスの再来を思わせるジェノサイド

「世界の人々は、何か行動を起こしてください」「われわれは化け物と戦っている」(マリウポリのウクライナ軍レポーター)

「国際社会は残虐行為を知りながら見ているだけだ」(ウクライナ大統領側近)

ソ連邦崩壊のトラウマに憑り付かれた独裁者による、独裁維持のための戦争は、新たな段階に入った。

30分に数度の砲撃、1時間置きのミサイル飛来で、ウクライナの東部の町は廃墟と化している。戦争犯罪(虐殺)の痕跡を残さないために、ロシア軍は火葬車を伴っているという。

キーウから撤退したロシア軍はドンバス地方(ウクライナ東部)へと転戦し、最低限の政治目標であるドネツィク州とルハーンシク州(ともにウクライナ語読み)の実効支配確立をめざしている。

この「実効支配」とは、8年間つづいたドンバス戦争(ウクライナ東部の内戦)を最終的に終了させ、ウクライナ住民をロシア各地に移住させることを意味している。ロシア軍が撒いている「極東ロシアが、あなたを待っている」というチラシの呼び掛けがそれを立証した。

そのいっぽうで、ロシア軍が支配下に置いていたブチャなどキーウ郊外の町では、後ろ手に縛られた市民が銃殺されている。侵略者に従わなければ、銃殺する戦争犯罪が行なわれたのだ。いわばロシアによる「同化政策」「民族浄化」が、今回の軍事侵攻の目的なのだと断定するほかない。

したがって、ウクライナの徹底抗戦の意志は、強いられた生存への戦いということになる。それゆえに、日本におけるわれわれの行動は、単なる反戦運動ではなくなるはずだ。

◆救国戦争とは?

地続きの国境線を持たないわれわれ日本人には、なかなか想像できない現実だが、想像力をはたらかせれば理解できる。

やや荒唐無稽な想像だが、ある国が在日邦人を保護するために、軍隊を日本に上陸させたと仮定しよう。上陸しないまでもミサイル攻撃を受けたと仮定しよう。じっさいに、日本はロシアと国境を接し、中国の領海侵犯および北朝鮮のミサイル圏内にある。

かれらは日本の都市を破壊しつくす。そして無防備なわれわれを連行し、移住先への切符といくばくかの準備資金、そして土地を提供(ロシア移住の場合は25万円と1ヘクタールの土地)するという。われわれは、その国の国民にされるのだ。

このような仮定を想像したとき、わたしは間違いなく抵抗するであろう。

ためらわずに武器をとって戦うであろう。かつてナチスの支配に抵抗したフランスやポーランドのレジスタンスのように。あるいは日本の侵略に抗して戦った八路軍のように。戦後日本の民衆も相手の暴力に相応して、コザや三里塚では武器を持って戦ってきた。

侵略者から身を守るために、戦う武器の供与を世界にもとめるはずだ。いまのウクライナのように。

ここに、帝国主義の侵略に反対する反戦の思想が、反侵略の救国戦争においては戦争の思想に変化するのだ。

このことは、80年前後のソ連のアフガン侵攻と中越紛争の時期にも議論されてきたものだ。ソ連のアフガン侵攻のように国境を侵す以上は「侵略」であり、中国のカンボジア支援の国境侵犯は「牽制」にあたるなどと、当時は華国鋒体制を支持する立場から論じられたものだった。

その後、鄧小平政権になってからも、ベトナムとの国境紛争はつづいた。そこで得られた結論は、たとえ反覇権の社会主義中国であろうと、日本を侵略した場合は日本人民の敵であると。革命中国(懐かしい言葉だ)の第五列として、日本革命に転化するという議論は起きなかった。

◆武器供与の問題

さて、現在問題になっているのは、ウクライナへの武器供与である。反戦運動の立場からは、戦争を激化させる武器供与に反対するのが原則だ。憲法9条に拠らずとも、武器供与は違法(防衛装備移転三原則違反)であると。

だがこの原則は、帝国主義の侵略に加担する自国の政府に「武器を供与させない」運動としては有効であっても、侵略された国への支援(供与)は行うべきではないか。少なくとも反対するのであれば、戦争の終わらせ方をも展望したものでなければならない。

すなわち、敗北による強制連行や民族浄化にも、反戦運動は責任を持たなければならない。いま「武器供与に反対」することは、ウクライナの敗北すなわちロシアへの隷属を意味するからだ。それはキーウにおけるロシア軍の敗退という「事実においても、戦わなければ占領・隷属させられることが実証された。

かつてべトナム反戦運動において、反対運動の抗議がアメリカと日本政府に向かったのは、ほかならぬ日米安保体制がベトナム侵略に加担したからである。ベトナムに向かう戦車が国鉄を使用していたし、沖縄米軍基地のB52がベトナムを爆撃していたからなのだ。

したがって、アメリカはウクライナへ武器を送れというスローガンを掲げるかどうかは別(あまりにも右翼的だ)として、ウクライナを見殺しにする武器供与反対も憚られる。人道的な支援として、ウクライナ大使館や民間援助団体への寄付は、積極的に行われるべきであろう。

いま、ヨーロッパ諸国の中で武器供与に消極的なドイツでは、シュルツ首相が与野党の批判を浴びている。シュルツの出身母体が、ロシアと親密な関係にあるSPD(ドイツ社民党)であることも、この批判には含まれていると思われる。

いっぽう、わが岸田政権は防護服や防護器具のほか、ドローンをウクライナに供与するという。


◎[参考動画]【政府】ウクライナに防護マスクやドローンなど提供へ(日本テレビ 2022年4月19日)

◆ドローンが戦況を支配している

いわく「ドローンは市販品であり、武器に使われるものではない」と。供与に反対する立場にはないが、敢えて指摘しておこう。ドローンの存在がロシア軍を苦戦させていることを。

ロシア黒海艦隊旗艦のミサイル巡洋艦モスクワは、対艦ミサイルネプチューンに撃沈されたとされているが、じつはドローンが攻撃に参加していたのではないかという説が、にわかに信憑性を帯びている。

というのも、それを示唆したのがロシア軍部に近いSNSのアカウント(Reverse Side of the Meda)だからだ。

同アカウントが公表したモスクワ沈没の経過によれば、ウクライナ海軍が所有するドローン(バイラクタルTB2)が、ネプチューン到達前にモスクワを攻撃したという。モスクワ搭載の防空システム(S-300F)がドローンに集中している間に、ネプチューンがモスクワに命中したというものだ。

この指摘を受けて、米誌「フォーブス」の電子版が14日に「ウクライナのバイラクタル・ドローンがロシア艦隊の旗艦「モスクワ」を沈めるのに寄与した」という記事を掲載している。いま軍事専門家のあいだでは、ドローンがネプチューンの制御(標的算出)に用いられたのか、防空システムを集中させる標的(囮)になったのか、あるいはドローンに搭載された小型ミサイル(MAM-1)による被弾なのか、さまざまに見解が分かれている。

いずれにしても、飛来した対艦ミサイルがウクライナ当局が主張する2発ならば、対艦防空システムで防げたはずだというのだ。

そもそも、第二次大戦の軍艦とはちがって、現代の艦船は防御装甲がきわめて脆弱である。大戦中の重巡洋艦と現代の巡洋艦が、大砲の射程距離内で撃ち合いをやったら、現代の巡洋艦は数発で撃沈されるという。大戦中の旧戦艦・重巡洋艦には艦測バルジ(装甲突起)があり、容易に沈まないのだ。たとえば雷撃機の攻撃で舵が効かなくなったドイツの戦艦ビスマルクが、英米海軍の砲撃では沈まず、最後はキングストン弁を開けて自沈したことが、最近の調査で明らかになっている。

いっぽう現代の艦船は、近距離で撃ち合う海戦を想定していない。装甲は軽量化(高速化)のために申し訳程度で、もっぱら防空システム(CIWS)と防空ミサイル(赤外線追尾)に依存している。このうちCIWSとは、ガトリング砲(円形に6門の砲身をもつ機関銃)がレーダーとコンピュータ制御でミサイルを撃ち落すものだ。1分間に3000発の掃射が可能だとされている。

ぎゃくに言えば、ドローンや無人機を飛ばしてCIWSをそっちに集中させれば、ミサイルがやすやすと艦体を捉えることが可能になることを、今回のモスクワ撃沈が立証したことになる。

それはともかく、キーウ防衛でドローンと軍事衛星が果たした役割は大きかった。ロシア軍の戦闘車両は的確にその位置を把握され、対戦車ミサイルジャベリンの犠牲になった。市販のものでも、ドローンは近代戦争に不可欠の武器になりつつある。


◎[参考動画]「ウクライナを支えるドローン部隊の実態に迫る!」(日本テレビ【深層NEWS】2022年4月14日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年5月号!

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朝鮮の平壌市内に暮らす、よど号メンバーの魚本公博さんより、次のテキストが届いた。ただし、「依頼のあった」ということだが特に依頼したつもりはないため、今回で最終回としたい。

衛星放送を観ている魚本公博さん

◆「『日米同盟基軸』を問い直す絶好の機会」よど号メンバー・魚本公博さんより

「ピョンヤンからのラブレター」。今回、小林さんから「ウクライナ情勢で東側の言い分」を書いてはどうかとの提言をもらったので、それを考えてみました。題目をつけるとすれば「『日米同盟基軸』を問い直す絶好の機会」とでもなりましょうか。

ウクライナ事態を見る上で重要なことは、それが日本にとってどういう意味をもつのかということだと思います。

今、日本でのマスコミ報道は、「プーチン=悪」のオンパレードです。そして、それを利用して、様々な聞き捨てならない論説が出てきています。その典型は、安倍元首相や維新が主張する「核の共同所有」論でしょう。そして「非核三原則」の廃棄、敵基地攻撃能力保持、専守防衛の見直しなど9条改憲の動きが強まっています。

「核の共同所有」、その論理は「ウクライナは核を放棄したから侵略された。日本は核をもたねばならない。そこで、NATOのような核シェアリングを」ということです。

これを聞いて、私は1980年代初頭の欧州反核運動のことを思いました。当時、私は、欧州でこの取材をしていましたので、ことの外このことが頭をよぎったのです。

ことの始まりは、米国がNATOの未核保有国であるドイツ、ベルギー、イタリア、オランダ、トルコの5カ国に中距離核ミサイル・パーシングIIを配備する計画を発表したことです。それまで、核戦争は米ソ両国がICBMを相互に打ち込むというイメージでしたが欧州に中距離核ミサイルを配備すれば、欧州が核戦争の戦場になる可能性が高まります。そこで、「欧州を核の戦場にするのか」「米国を守るために欧州に盾となれと言うのか」という怒りの声が高まり、空前の「欧州反核運動」が起きたわけです。

安倍元首相らの「核の共同保有」論なるものは、「パーシングII配備」とまったく同じであり、それは、「日本を核の戦場にするのか」「米国を守るために日本は盾になれというのか」という問題だと思います。

このような「とんでも論」が出てくるのは、ウクライナ事態を「プーチン=悪」とのみ見るからです。しかし、その根本要因は「NATOの東方拡大」にあるということを見逃してはならないと思います。

冷戦終結期に米国のベーカー国務長官が「NATOの東方拡大はしない」と約束し、2014・15年の2回のミンスク合意でも約束したことを「俺が約束したことではない」と反故にし、NATOへの加盟、ドネツク、ルガンスク攻撃を強めたゼレンスキーに責任はないのでしょうか。そう仕向けた米国に責任はないのでしょうか。

そして考えるべきは、「米国の核の傘の下での平和」論の虚構性です。本来なら米国は核の脅しで、ウクライナへの侵攻は許さない、撤兵しろと言った筈です。しかし、それをせずに、米国もNATOも武器を送り込み、諜報部員を送りこんで、ウクライナ人に戦わせている。核の脅しなどやれば米国自体が危うくなると踏んでいるからです。

それだけ米国の覇権力が落ちたということでもありますが、そうであるのに、いまだに「米国の核の傘」を信じ、あるいは「核の共同所有」で、これを支えるなど、日本を核戦場にし、日本だけが戦わされるものにしかなりません。

日本は、あの地獄のような戦争を体験し、「もう二度と過ちはくりかえしません」と誓い「非戦、非核」を国是としました。ウクライナ事態は、その正しさを証明しているのではないでしょうか。9条自衛、専守防衛に徹し、対外的に敵を作らず友好国を増やして日本の平和と安全を守り、外交の力で対外問題を解決するということです。

そのためにも、「米国の核の傘の下での平和」。その具体化としての「日米同盟基軸」の国のあり方、そして、米中新冷戦で日本が対中国対決の最前線に立たされようとしていることの危険性などを真剣に考えるべき時です。

ウクライナ事態は、それを契機に起きた物価高騰などの経済混乱を含めて、日本が今まで通り「日米同盟基軸」でやっていくのか、それとも真に日本の平和のために、日本の国益のために、「日米同盟基軸」を見直すのかを問う絶好の機会となっているし、しなければならないと思っています。

◆防衛論の前に意識したい、善悪二元論を疑うこと

「『日米同盟基軸』を問い直す」こと自体は、国内の動きとして見受けられる。バイデン政権が対ロ参戦を否定したことにより、日本の防衛の前提とされていた「核の傘」が危ぶまれたからだ。

マスコミ報道には、変化が見られるようになった。個人的には日頃よりマスコミ報道を懐疑的に見ているが、左派などの間でブチャの虐殺などはデマであるという論調が広まり、それに対する反応も含めて眉唾ものだと考えていた。特に極端なものというのは、左右を問わず内容を疑い、エビデンスを追究すべきではないだろうか。すると、報道の側にも冷静なものが出始めるようになってきた。ただし、冷静を装うようなものもあるし、エビデンスが十分であるともいえない。

現代における情報戦では、情報が速く広く収集できるようになっている。いずれの側も権力者はそれを最大限に活用しようとするだろう。受け取る側も、ポジショントークとはいわないまでも人間であるがゆえ、信じたいものを信じがちだ。極端に走れば、いずれかの「陰謀論」に陥ってしまう。事例が多々見受けられる。このような問題に自覚的であるべきだと、私は思う。そのうえで、「真実」に近づくべきではないか。

「核の共同所有」論や(少なくとも現時点での)9条改憲には反対であり、そもそもアメリカから「独立」して戦争責任も取り直すべきと考えているが、その先に関してここに一度書いたものは消しておく。議論も重ねたいところだ。

ここ数日の間、インターネット上では、護憲派や自衛隊論を述べた共産党に対する批判が見られたり、「プーチンはアイヌ民族をロシアの先住民族に認定している」と危機感を表す人もいる。『ロシアにおける遵法精神の欠如 : 法社会学と経済史の側面から見たロシアの基層社会』という論文も注目された。朝日新聞社編集委員が安倍氏インタビュー記事公表前の誌面を見せるよう週刊ダイヤモンドに要求していたことも報道された。その一方で、日本とロシアの共通点をあげる人もいた。だが、「日本のために戦おうという国民は、ほとんどいないのではないか」と問う人もいる。今こそ「真実」を見極めながら、私たちはこれらのことについて考えるべきだろう。

▼小林 蓮実(こばやし・はすみ)
1972年生まれ。フリーライター、編集者。労働・女性・オルタナティブ・環境 アクティビスト。地域搾取や自然破壊の現場でカウンター活動をしていらっしゃる方、農作業や農的暮らしに関心ある方からのご連絡をお待ちしております。
https://www.facebook.com/hasumi.koba/

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ロシアのウクライナ侵攻による戦闘は長期化しています。最近ではキーウ(キエフ)周辺からロシア軍が後退する一方で、東部の2州での戦闘が激化していると伝えられています。

◆広島でも反戦運動の反面、核武装論も勢いづく

こうした中で広島市でも、ロシアのウクライナ侵攻に抗議する行動が行われています。4月10日には、若者たちの3日程度前の呼びかけにより、原爆ドーム前に多くの人が集まりました。

一方で安倍晋三さんや「維新」による「核共有論」なども物議を醸しました。「核共有論」については、自民党でさえも、正式な党の見解として否定をしています。しかし、最近、「金正恩主義」とでもいうべき主張が街頭で接する有権者の方からも目立つようになりました。

この4月10日も、別の場所で街宣をしたあと、原爆ドーム前にかけつけようとした筆者に対して、以下のような主張をしつこくされる方がいらっしゃいました。「これからはアメリカには頼れないから、日本が独自に核武装して自衛するしかない。」ということです。

これは、そのまんま、朝鮮の金正恩総書記の主張です。金正恩総書記の主張は大まかにいえば、以下のようなものです。

「アメリカにやられないようにするには、我々は核兵器で対抗するしかない。」

アメリカをロシアや中国に入れ替えれば、この「おっさん」の主張とまったく同じになります。

4月10日、若者たちの呼びかけにより、原爆ドーム前に多くの人が集まりました

◆イラク戦争で加速した「金正恩主義」

冷戦崩壊でソビエトや中国の後ろ盾がなくなった以上は、アメリカにやられないようにするには、核兵器をもつしかない。そう金正恩総書記が考えるのも思考回路として「わからなくはない。」

実際、2003年のイラク戦争は、アメリカはイラクに大量破壊兵器がないにも関わらず、「ある」と決めつけて攻撃しました。金正恩総書記の父の金正日が「イラクは核兵器がないからアメリカにやられた」と考えたとしても不思議ではありません。実際、イラク戦争後に朝鮮は核兵器開発を加速させているのは皆様もご存じのとおりです。

◆「5大国はまとも」という国連・NPTの建前と実態のかい離

アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス。この5大国は第二次世界大戦の主たる戦勝国であることを背景に、国連安全保障理事会の常任理事国となっています。また、1968年に発足し、1995年無期限延長が決まったNPT(核拡散防止条約)で核兵器の保有を既得権として認められた国でもあります。両方のことには明らかに密接な関係があるといえます。

この五大国は「ある程度はまとも」だから、拒否権や核兵器の保有といった大きな力をもたせておいてもよかろう。また、大国同士なら、いわゆる核抑止力もはたらくだろう。

上記のような建前で、20世紀後半の国際秩序は動いていた、といって間違いないでしょう。5大国以外の国でとくに北半球の国は多くがアメリカかソビエトかにつき、どちらかの核の傘に入りました。

もちろん、実際にはヒヤリとする場面もありました。たとえばアメリカは朝鮮戦争で核兵器を使おうとしました。また、キューバ危機は有名です。その他にも核兵器という刀の柄に手を掛けたことは、何度かあったことが明らかになっています。実際のところは、たまたま、核戦争が幸運にも起きなかっただけかもしれません。ただ、核兵器の実戦使用は、ヒロシマ、ナガサキにおけるアメリカ。そして、アルジェリア独立戦争における実験と称したフランス軍による使用。これでとどまっているのも事実です。核兵器使用に反対する世論が大きいこと。それを考慮する程度の合理性は5大国の為政者にあったこと。これも事実でしょう。

他方で、冷戦時代、核は使わなくても、集団的自衛権と称した侵略も米ソ双方やっていました。そして、核兵器を独占する5大国への不満もつねにありました。「君たちは非核兵器国の安全を保障してくれるのか?」と。

◆イラク戦争契機に建前と実態のかい離拡大、そして「金正恩主義」の勃興

こうした建前と実態のかい離は、21世紀に入ると拡大していきました。911テロ後、アフガニスタンを侵略したアメリカ大統領のジョージ・W・ブッシュ被疑者はさらにイラクに先制攻撃。これは「大量破壊兵器がある疑い」で一方的に行ったものでした。そして、多くの市民が犠牲になりましたが、大量破壊兵器はありませんでした。「共犯者」の英国首相・トニー・ブレア被疑者は謝罪して政界を引退したものの、ブッシュ被疑者はまったく謝罪もせず補償もされませんでした。そして、中東は荒れ、ISが興隆。ISの鎮圧に手こずった米英は、結局、ロシアによる手荒なシリア空爆作戦を黙認することになります。このことで、プーチンが勢いづいた面は否定できないでしょう。そして、ロシアのウクライナ侵攻です。

そんなこんなで大国の信用は地に墜ちています。そうしたなかで、金正恩主義ともいえる考え方が日本をふくむ世界各地に広がるのも支持はしませんが「理解」はできます。

◆反米・反グローバリズムの一部に食い込む金正恩主義

また、反米主義・反グローバリズムの考え方の皆様の一部にも「金正恩主義」がくいこんでいる感じがします。街頭などリアルでも、筆者の食料安全保障強化や脱原発は支持しつつ、核武装して自衛するべき、という方に遭遇する頻度も以前に比べて増えています。アメリカへの反発の勢いあまって、という感じも受けます。もちろん、過剰なグローバリズムは脱却するべきでしょう。しかし、「金正恩主義」で大丈夫なのでしょうか?

◆収拾がつかなくなる金正恩主義

では、全ての国が「(核兵器をもつ)大国から防衛するために核兵器をもつ」などと言い出したらどうなるでしょうか?

おそらく、大混乱になるでしょう。日本だけがNPT/国連の例外だ、などということを納得する人はいないでしょう。「日本がもつなら俺も」と言い出す。実際に、過去にはアルゼンチンや南アフリカ共和国なども核兵器を開発していました。それを非核地帯条約加入にともない、放棄しているのです。昔のアルゼンチンや南アフリカ共和国のようなことを多くの国がやりだしたらどうなるか?合理的でない指導者が核のボタンをもつ確率もあがる。そして、おそらく、核兵器を使ってしまう国も出てくる。一度使われてしまえば、使用への心理的なハードルが下がる。そして、気がつけば地球滅亡、になりかねません。やはり、核兵器は禁止しかない。5大国も朝鮮などの小さな国も持たないようにしないといけないのです。

◆加害国であった過去 日本は忘れず核兵器禁止条約推進を

そもそも、日本が独自に核武装しようとすれば、国連憲章の敵国条項に抵触します。日本は袋叩きにあうこと必定です。日本は第二次世界大戦の敗戦国であり、アジアへの加害国です。そのことを忘れて独自に核武装など、袋だたき必定です。いわゆる反米や反グローバリズムは構わないのですが、日本が加害国であることを忘れて頂いては困ります。

日本の近隣にはASEAN・東南アジア諸国連合があります。すべて核兵器禁止条約に署名しています。あのミャンマーでさえです。最近では連携して米中両方にモノを言うようになっています。

NPT体制は核兵器廃絶を進めるものではありません。しかし、取りあえず、野球でいえばファウルボールでゲームセットを逃れるイメージで捉えれば良いでしょう。その上で、緊張緩和を、ランナーをコツコツ貯めていくイメージで進めていくべきです。

日本はとりあえず、核兵器禁止条約の締約国会議が6月にあるのですから、ぜひ、参加するべきでしょう。そうなると岸田総理の人気も上がって、参院選で広島の野党は筆者も含めて苦戦はまぬかれませんが、それはそれで仕方がないことです。党利党略ではなく、日本があるべき方向にすすむことが大事なのですから。

◆ウクライナ 1秒でも早い停戦を!

戦闘が長引けば長引くほど、核兵器をふくむ、力で問題を解決しようという考えが広がっていきます。正直、冷戦崩壊後、アメリカが調子にのりすぎて新自由主義グローバリズムで暴走した反動で、アメリカべったりの文脈の力の論理は、かつてほどは力がないかもしれない。

しかし、「金正恩主義」ともいえる「大国に対抗するために核武装」という考えは勢いづく恐れが日本国内はもちろん、世界でもありえます。わたしが街頭でお会いした「おっさん」のような方が一般市民の立場で発言する程度なら、笑い話でまだ済むかもしれない。しかし、朝鮮以外でも、国家の為政者が暴走して核を持ち出すようになってからでは手遅れです。あらゆる手段で1秒でも早くとりあえず、戦闘を停止することが大事です。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◆ウクライナ情勢が浮き彫りにした日本の「好戦」指向

個別の事態が確実なものであったとしても、ではなぜその事態が生じさせられたのか?ある独裁者の思い込みだけが原因だと、断定することは乱暴ではないのか?身近な何人もの識者や学者がロシアによるウクライナ侵略の全体像をどのように考えればよいのか、苦悶している。

まさか21世紀に突きつけられようとは、予想もしなかった隣国へのある意味原始的な手法による侵略。この設問への私的な困惑は深く簡単になにかを断じることができない。ロシアの侵略行為に私は全く同感しないし、承認することはできないが歴史(直近から中長期のそれ)や、現存するNATOと消滅した「ワルシャワ条約国機構」の問題、さらには原発を巡るロシアの一貫しない軍事行動などを耳にすると、これが総体としていかなる現象(現地で痛みを負い無くなっておられるひとびとには失礼な表現かもしれないが)であるかの総体を表現することが極めて困難に感じるのだ。

◆軽すぎ薄っぺらすぎる言説と報道

一方でいまだに「西側」、「東側」という呼称が通用しているのもおかしな話だとしか思えない。ロシアもベラルーシも自称「旧社会主義国」ではあったが、現在経済体制は資本主義であり、その視点を維持すれば「西」対「東」の対決ではなく、帝国主義間の終末的領土・資源収奪争いの側面も、あながち無いとはいいきれないのではないか。

わざわざ「キエフ」を含む複数都市の日本における読み方の変更を政府が発表したら、何の疑問もなく新呼称を採用するのが大マスコミであり、政府専用機で20名の避難者を林外相が連れてきたことが大きく報道される。これまで政治難民申請に冷酷無比と言ってよかった日本政府の入管政策を知るものとしては、強烈な違和感を禁じ得なし、米国が侵略したアフガニスタンやイラクから日本政府は(米国侵略直後)難民を受け入れたか。そもそも「米国」を侵略者と規定する報道があったか……。

難民を受け入れることにわたしが反対なのではない。「日本政府は、ウクライナ情勢の前と後で、やることが全然違うじゃないか」というのが正直な感触だ。

◆強烈な違和感を象徴する「共産党の自衛隊容認姿勢」に迫る

そしてこの違和感は政府・マスコミだけに向けてのものではない。リベラルと呼ばれる層も含め、日本全体がまたしても「次のきな臭い段階」に入ったのではないか、とわたしは感じる。以下に一つの例を挙げよう。4月8日には「有事の際には自衛隊を活用すると訴え」共産党の志位委員長が述べたと報道された。

ことの次第を確かめるべく、4月11日共産党本部に電話で話を聞いた。

田所  報道で拝見しましたが、志位委員長が「日本に侵略があった際は自衛隊を活用して侵略を防ぐ」と発言をなさったと聞いているのですけれども、それは間違いありませんでしょうか。

共産党 共産党は日本国憲法を順守する考えだと理解していますが。

田所  日本国憲法と自衛隊は矛盾しない、というのが共産党の考えですか。

共産党 矛盾します。矛盾するというか今の自衛隊は9条とは相いれないと思っています。ですので将来的には解消を目指す立場です。

田所  憲法と矛盾する自衛隊に国を守らせる、ということですか。

共産党 そうですね。

田所  それがにわかには理解できません。

共産党 順序だてて言いますとね、憲法と相いれないと思っていますが、今すぐには無くせないんですよ。御存知の通り国民の8割、9割は自衛隊に好意というか、評価していますので。

田所  共産党の方々はいかがなのですか。

共産党 私たちだって憲法とは相いれないけど、敵視しているわけじゃないし。災害出動なんか大いに評価していますよ。

田所  災害出動が役に立つのは理解できますが、武装している自衛隊も是認なさっているわけ?

共産党 是認というか、憲法にはやはり相いれない。ですから解消を目指すんですけど、時間がかかるんです。明日政権に入っても国民がこれだけ「自衛隊が必要だ」と言っていると、いきなりは無くせないですよね。そんなことをやったら独裁になっちゃいますから。相当長い期間がかかるんですよ。そうしたら国民が自衛隊がなくても安心できる状態なるかといえば、やはり北朝鮮のミサイル開発ですね。あのようなことが解決するとか、中国の覇権主義的な行動がなくなるとかね、そういうことがないと、なかなかそういう世論にはならないです。平和な東アジアを作る外交を大いに共産党はやって、その条件を作る努力をしていきますけれど、時間がかかる。その前に私たちは「過渡期」と言っていますが、5年10年ひょっとしたらもっとかかると思いますよ。その間に仮に、そういう事態が起きたらどうするのかという話なんです。

田所  万一そう事態が起きたときに共産党は与党であったらという前提で仰ってるわけですか。

共産党 与党であっても野党であっても賛成するってことですよね。

田所  今は野党でしょ。

共産党 今、野党です。

田所  野党であってもあの憲法違反の自衛隊の存在に塩を送ると宣言なさるということですか。

共産党 認めるということですよ。

田所  (あまりの断言にやや間をおいて)日本国憲法の前文をもちろんご存知だと思いますが、その前文と9条は結びついてますね。にもかかわらず9条違反の自衛隊を認めないのに、侵略があった時には自衛隊の活動を認めると。その理屈はなかなか分かりにくいですね。

共産党 わかりにくいですか。さっき言ったように「過渡期」があると。

田所 「過渡期」というのであれば、共産党が自衛隊をなくそうとした時からが「過渡期」なのでしょ。

共産党 はいはい。

田所  今なくそうとするところにも至ってないんじゃないですか。

共産党 いえいえ、だから、なくそうとしていますよ。

田所  誰が?

共産党 私たちが党として。

田所  どういうふうに?

共産党 なくすために努力して、その為に平和な東アジアを作ることが大事なんですよ。

田所  でもあなたさっき仰ったけど、例えば北朝鮮の脅威、中国の脅威がなくなるようにということは外交努力で出来るかもわからない。けれども、今外交する立場に共産党はないわけですよね。いまは外交を司ってるのは自民党と公明党の連合政権でしょ。で彼らの延長線で良いということなんですか。

共産党 いえ、違いますよ。例えば夏に参議院選挙がありますけどそういうことをうちが掲げて……。

田所  いま仮に政権の座にいらっしゃったら、例えばロシアがウクライナに侵攻した。北朝鮮はミサイルを発射する。中国は軍備を増強している。これについてどう対処なさるんでしょうか。

共産党 例えばいま国会をやっていますけど、近々の課題はウクライナ問題ですよ。これは政府に質問をぶつけていますよ。外交的解決をするためにあるいは国際的世論を高めるために、日本政府として大いに努力しろと、いうことは常に言っていますよ。

田所  それは承知しています。ではなくて仮にですよ、いま政権の立場にあればウクライナ、あるいはウクライナがなくても危機と仰った朝鮮、中国に対してどのような外交を展開になさるんでしょうか。

共産党 中国で言えば、いま敵対しているわけですよね。中国とアメリカ、日本、豪州、インドとかなり軍事的な方向でやっているわけです。軍事演習も中国の目の前でガンガンやっているわけです。それではあかんと。たとえばASEANは域内で数十年来紛争しないと努力してきているわけです。ASEANを中心に東アジアサミットという枠組みがありまして、そこには中国もアメリカも日本も入っているわけです。その枠組みを利用して、中国も引き込みながらその中の話し合いで中国に「ちょっとやめとけよ」という話し合いをやって行こうと訴えています。

田所  中国の軍拡をちょっと収めてくれという訴えをするということですか。

共産党 順序がありますので、まずはそう言うところからはじめるというね。大事なのは信頼醸成ですよね。お互いに話し合って同じ方向で解決してゆこうと。急にこんなことはできるものではありませんから。で、最初の話でいうとそういうかなり時間のかかるプロセスがあると思うんです。その時に万が一攻め込まれた時、目の前で日本の国民が殺されかけているときに「自衛隊は憲法違反だからじっとしていろ」と、いう話にはならないですよね。

田所  なるかならないかは共産党のご見解です。憲法違反と言いながら憲法違反のやつらに武力行使を認めるというのが共産党の立場でしょう。

共産党 そうです、そうです。そういうことです。

田所  それを私は個人的には理解できないですね。憲法違反のものは憲法違反。憲法違反の人たちに何でもさせるということであれば、例えば刑法違反の人たちが何かを行っても認めると。刑法はもっと下位法ですから。

共産党 お宅様の立場は、そういう事態になってもじっとしていろと?

田所  日本国憲法に従う限りそうですね、仮に侵略があっても。

共産党 私たちはそれを責任のある政党の立場だとは思っていませんので。

田所  私は別に団体の代表でも何でもなくて個人なので、共産党が今まで自衛隊をすぐにはなくさないということを過去表明された事実も知っています。また国会の開会式には天皇がやってくることを理由にずっと出席をしなかったけれども、ある時期急に天皇が出席する国会の開会式に出席されるに至った経緯も知っています。ということは、どんどん右傾化してるんじゃないですか。共産党は。

共産党 だっていま仰いましたけど自衛隊のことは20年前ですよ。いまの見解を表明したのは……。

田所  だから20年以上前に明確に「転向宣言」出されたんじゃないですか。

共産党 そんなことないですよ。それはなんの絡みで言ったかといえば「9条の全面実施」という流れで言っているわけです。

田所  9条を全面的に実施するのに自衛隊を認められた。

共産党 うん。そういう国民的な疑問も出てきて、その中で改めて表明したわけです。

田所  だって「長沼ナイキ」って古い話ですけど、違憲判決もあったわけですよね。裁判所ですらが。控訴審でひっくり返っておりますけれども、それを共産党は認めるというわけですか。

共産党 何を認めるというのですか?

田所  だから自衛隊というもの自体が憲法違反だということを認めていながら、彼らが、仮に侵略者がいるとすれば武力行使することを認める、というご判断なんですね。

共産党 自衛隊が解消するまでの期間に、万一そういう事態があれば、ということです。

田所  なんでそんなこと今頃おっしゃるんですか。

共産党 だから……あなた自身も前から知っているとお認めになってるじゃないですか。

田所  いえいえ。志位委員長がどうしてこのタイミングで仰るのか。自衛隊をなくす間に、連立政権を実現するために共産党が自衛隊問題については「留保する」判断だと私は理解してたんですけど。

共産党 「留保」ではなく自衛隊が万一の窮迫性の事態の時には自衛隊を活用する、ということですよ。ちゃんと言っています。

田所  そんなことを胸張って言われたら余計にがっかりしますね。

共産党 22年前の22回大会で……。

田所  わたし党員じゃないから詳しいところまで知りません。だけども、22年前からはっきり言えば自民党と同じ主張をしていらっしゃったということですね。

共産党 同じじゃないですよ。違憲だというところは全然違う。

田所  違憲と言いながら、武力行使を認めるわけでしょ。違憲の武装集団が仮に攻撃を受けた場合の武力行使を認めるわけでしょ。それはごく基本的な論理的なところで矛盾じゃないかな。

共産党 個人で矛盾だと言う方々がいるだろうとは思いますけど、お宅様もたぶんそうなんでしょう。ただ私たちは政党ですからね。現実にそういう事態があってその時に自衛隊があって、訓練も積んでいると。スタンバイOKだというときにその出動を待てと。「お前ら憲法違反だから一歩も動くな」というのは政党としてはちょっと無理ですよ。国民の命がかかってるわけですから。

田所  国民の命がかかっている?

共産党 一方でそういう事態が起こらないように努力をしてゆくということです。

田所  分かりました。ありがとうございました。

例によってわたしと共産党のやり取りへの判断は読者諸氏にお任せする。ただし、わたしは共産党の言に強烈な違和感を抱いたことだけは強く述べておく。


◎[参考動画]日本共産党の躍進で日本の前途を切り拓く(日本共産党2022年4月7日)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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