8.6を控えた広島にとんでもないニュースが飛び込んできました。

広島市中区に本店のある中国電力が8月1日、山口県上関町の原発予定地の敷地の一部に原発から出た『死の灰』(核のゴミ)の中間貯蔵施設を建設することが可能か、調査するということが各社により報道されました。そして、中国電力は2日に上関町役場を訪問し、関西電力と共同でこの中間貯蔵施設をつくるための調査開始を通告しました。


◎[参考動画]山口県上関町に使用済み核燃料中間貯蔵施設建設を提案 中国電力 会見(テレビ山口)

 

広島市中区の中国電力本店(筆者撮影)

◆上関原発建設は311と住民の力でストップ中

上関町には原発計画が持ち上がって40年余りです。中国電力は上関町の本土側南部の沿岸部を埋め立て、原発をつくる計画です。

しかし、上関町内でも祝島の漁民は反対派が圧倒的に多くなっています。この祝島島民の会を中心とする皆様の反対運動により、計画は進んでいません。また、町長選挙や町議選では賛成派 vs 反対派の得票の比率はほぼ3:2ですが、2003年の県議選で反対派の議員が当選したり、国政選挙でも原発反対を掲げた平岡秀夫さんが2023衆院補選で健闘したりするなどしています。

こうした中、東電福島原発事故があった2011年以降は埋め立て工事が中断しています。中国電力の原子炉設置許可申請に対して10年以上、原子力規制員会は審査会を開いていませんし、今後も開かれる予定がありません。最近では、中国電力側が『祝島島民の会』を訴えるいわゆるスラップ訴訟を提起するなどしています。中国電力側の焦りも垣間見えます。

そもそも、東京電力管内と違い、中国電力管内は、電力の需給には一定の余裕もあります。従って、新規原発建設自体には中国電力単体では大義名分は薄いのです。正直、島根原発すら不要です。

(※なお、筆者は、もちろん、東京電力管内でも例えばスマートグリッドの推進、蓄電技術の推進などで、原発がいらない状態を実現することは可能とみています。東電管内の電力需給のひっ迫は3.11以降12年間の日本政府の無策のつけです。)

◆岸田政権の自称GX法が引き金か?

こうした中で、原発ではなく、中間貯蔵施設の話が持ち上がりました。第一に、前述のとおり、上関原発をつくれる見込みがほぼまったくないからです。

その上で、第二に、安倍政権時になかった要素として以下のようなことも考えられます。すなわち岸田政権による自称GX法で島根原発由来の核のゴミが増える可能性です。いまのところ、中国電力に原発は島根原発しかありません。1号機は2015年4月30日に法的には廃炉(もちろん、現在も廃炉作業中)、2号機が再稼働へ知事のゴーサインも出て向けて準備中、3号機が建設中です。したがって、中間貯蔵施設には当面は島根原発の死の灰=核のゴミが運び込まれることになります。

岸田政権は、2023年の通常国会において、自称GX(グリーントランスフォーメーション)法を強行しました。気候変動対策と称して、実際には60年超の原発も運転可能にする、そのために公費を投入するというものです。これにより、島根原発の運転期間も延長する。そうなると、当然、死の灰・核のゴミも増えます。島根原発内の死の灰の中間貯蔵をしているプールも満杯になってしまう。だから、中国電力としては、原発建設に苦戦している上関に死の灰=核のゴミを押しつけてしまえ、ということなのでしょう。

また、共同で中間貯蔵施設計画を進めている関西電力は美浜原発など福井県に多数の原発を抱えています。したがって、岸田政権の政策転換でさらに死の灰=核のゴミは増え、にっちもさっちもいかなくなります。そこで、原発建設の見込みがなくなった上関に関西電力も目を付けた、ということでしょう。

第三に、過去の経緯から「上関町の原発推進派を納得させるため、ほぼ実現が不可能な上関原発にかわる「地域振興策」(という名のばらまき)の大義名分を中国電力としても得たい。そこで関西電力からも死の灰=核のゴミを受け入れる中間貯蔵施設が進められた」(上関町の事情に詳しい『原発はごめんだヒロシマ市民の会』の木原省治さんによる3日(木)の中国電力前での演説要旨)ということです。

◆最終処分も決まらぬ死の灰

しかし、そもそも、死の灰=核のゴミの最終処分自体が決まっていません。日本は活断層もたくさんあります。正直、安全な場所などどこにもない。そもそも、死の灰=核のゴミが安全なレベルに放射線の発生が提言する何十万年か後に日本政府というものが存在するか、否、人類そのものが今の形で存在するかどうかも怪しいでしょう。

日本政府はいわゆる核燃サイクルを試みてきました。すなわち、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、それをウランと混ぜてMOX燃料として再利用する計画です。だが、フランスに頼んで作ってもらったMOX燃料は、ウラン燃料と比べてもはるかに高価です。日本が独自に青森県六ヶ所村に建設中の再処理施設もいまだ稼働していません。あまりにも高コストなのです。結局、六ケ所村に半永久的に死の灰・核のゴミが山積みになりかねない。それを避けるには、各地に中間処理施設をつくる必要がある、というのがいわゆる原子力村側の言い分です。

しかし、最終処分が決まらない以上、各地に分散したところで、そこが中途半端な形で半永久的な処分場になりかねない。これはこれで危険すぎます。正直、死の灰・核のゴミは発生した場所で、国が責任をもって最終的に保管するのが現時点では最もリスクが低いのではないでしょうか。国が国策で推進しておきながら、電力会社に席に責任を押し付けるのはいかがなものかと思います。

◆『山口に核のゴミ』=旧民主党がブラックジョーク的に提言も真面目な議論はなし

山口県内では、死の灰・核のゴミの中間貯蔵については真面目な議論はなんらされていません。ただし、2014年2月の旧民主党(現・立憲民主党)の党大会で、核のゴミの最終処分場は安倍総理(当時の地元)である山口県にすればいいという趣旨の提言を決めました。しかし、世論の批判により撤回しました。あくまで、当時、絶頂期にあった安倍晋三さんへの当てつけとして、守勢に立たされていた野党によるブラックジョークの域は出ていません。

◆中電・関電に上関中間貯蔵施設NO、地元選出の総理に自称GX法撤回の声を!

 

左が中国電力の吉岡様、右が上関原発止めよう広島ネットワークの溝田さん。奥がマスコミ陣。筆者撮影

山口県はたしかに安倍晋三さんを輩出しましたが、しかし、核のゴミをさらに増やすような自称GXを決めたのは広島の岸田さんです。今回は、広島が山口にご迷惑をおかけしています。この8月6日へ向けた広島に住むものとして、すべきことは中国電力に対しては中間貯蔵施設を上関につくるなどと言う暴挙は止めること、上関原発絡みでのスラップ訴訟は止めること、そして島根原発の再稼働を止めることを求めていくことです。そして、平和記念式典にも出席される岸田総理に対してはガツンと自称GX撤回を求めることです。

8月3日には『上関原発止めよう広島ネットワーク』が中国電力に申し入れを行いました。

また8月6日には市民団体が毎年恒例ですが中国電力前へデモを行います。筆者も、最大限、こうした動きに連帯・参加していきます。

それとともに、原発は電力会社任せではなく国が国有化で責任をもって廃止すべきこと、また、早急に送電網の公営化とスマートグリッド、蓄電技術の普及に国が責任をもって投資し、原発が不要な状態を東電管内の真冬や真夏の繁忙期でも実現することを改めて主張します。

被爆地・広島の周辺の瀬戸内地方が、何度もご報告しているように産業廃棄物のゴミ箱になろうとしている上に、今度は死の灰=核のゴミのゴミ箱になろうとしている2023年の8.6。筆者も含めて正念場です。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年夏号
NO NUKES voice改題 通巻36号 紙の爆弾 2023年7月増刊

《グラビア》原発建設を止め続けてきた山口県・上関の41年(写真=木原省治
      大阪から高浜原発まで歩く13日間230Kmリレーデモ(写真=須藤光男

野田正彰(精神病理学者)
《コラム》原子炉との深夜の対話

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》核のゴミを過疎地に押し付ける心の貧しさ

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》司法の危機 南海トラフ地震181ガル問題の重要性
《インタビュー》最高裁がやっていることは「憲法違反」だ 元裁判官樋口氏の静かな怒り

菅 直人(元内閣総理大臣)
《アピール》GX法に断固反対を表明した菅直人元首相の反対討論全文

鮫島 浩(ジャーナリスト)
《講演》マイノリティたちの多数派をつくる
 原発事故の被害者たちが孤立しないために

コリン・コバヤシ(ジャーナリスト)
《講演》福島12年後 ── 原発大回帰に抗して【前編】
 アトミック・マフィアと原子力ムラ

下本節子(「ビキニ被ばく訴訟」原告団長)
《報告》魚は調べたけれど、自分は調べられなかった
 一九五四年の「ビキニ水爆被ばく」を私たちが提訴した理由

木原省治(上関原発反対運動)
《報告》唯一の「新設」計画地、上関原発建設反対運動の41年

伊藤延由(飯舘村「いいたてふぁーむ」元管理人)
《報告》飯舘村のセシウム汚染を測り続けて
 300年の歳月を要する復興とは?

山崎隆敏(元越前市議)
《報告》原発GX法と福井の原発
 稲田朋美議員らを当選させた原発立地県の責任

——————————————————————–
山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点

原田弘三(翻訳者)
《報告》「気候危機」論についての一考察

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家)
《対談》戦後日本の大衆心理【後編】

細谷修平(美術・メディア研究者)
《映画評》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈3〉
 わすれてはならない技術者とその思想 ──『Winny』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
《報告》今、僕らが思案していること

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
《報告》亡国三題噺
 ~近頃“邪班(ジャパン)”に逸(はや)るもの
  三重水素、原発企業犯罪、それから人工痴能~

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
《報告》山田悦子の語る世界〈20〉
 グローバリズムとインターナショナリズムの考察

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の全力推進・再稼働に怒る全国の行動!
福島、茨城、東京、浜岡、志賀、関西、九州、全国各地から

《福島》古川好子(原発事故避難者)
福島県富岡町広報紙、福島第一廃炉情報誌、共に現地の危険性が過小に伝えられ……
事故の検証と今後の日本の方向を望んでいるのは被害者で避難者です!
《東電汚染水》佐内 朱(たんぽぽ舎ボランティア)
電力需給予備率見通し3.0%は間違い! 経産省と東電は石油火力電力七・六%分を隠している! 汚染水の海洋放出すべきでない! ── 4・5東電本店合同抗議に参加して
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
運動も常に情報を受信してすぐに発信することが大事
4月5日定例の日本原電本店行動のできごと
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
中電が越えなければならない「適合性審査」と「行政指導」
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」事務局)
団結小屋からメッセージ付き風船を10年余飛ばし続けて
《高浜原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「関電本店~高浜原発230kmリレーデモ」に延べ900人、
「関電よ 老朽原発うごかすな!高浜全国集会」に320人が結集
《川内原発》鳥原良子(川内原発建設反対連絡協議会)
「川内原発1・2号機の九電による特別点検を検証した分科会」まるで九州電力が書いた報告書のよう
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
原発延命策を強硬する山中原子力規制委員会委員長・片山規制庁長官
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『3・11 大津波の対策を邪魔した男たち』(島崎邦彦・青志社)

反原発川柳(乱鬼龍選)

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0C6SZ247L/

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

現在、世界で稼働中の原発は434基(2021年)である。2011年の福島第一原発震災後、廃炉になった原発と新たに運転開始した原発の数では、廃炉の方が多い。つまり十年間で基数は減っている(2011年1月時点で441基、2021年1月時点で434基、「世界の原子力発電開発の動向2021年版」原子力産業協会より)。

廃炉になった原発と新規原発では出力が違うので、総出力は史上最大レベルにはなっている。

世界の全電力生産量に占める原発のシェアは2019年には10.4%だが、2010年時点では12.8%だったので、これも大きく減少している。全世界のエネルギー供給量が増大しているのに原発はそれに比して増えていないことを意味している。

現在、運転年数が40年を超える原発が毎年数十基ずつ増えてくる。これを延長するか、代替する原発を建設しない限り、現状維持すら不可能だ。

原発を大量建設した時代、70年代から80年代のツケが、今後は回ってくる。このままだと自然に脱原発になってしまうので原子力産業は運転延長や新規立地の大義名分を大急ぎで作り出さねばならなくなった。

そんな背景があるから、原発を「グリーン」投資の対象となる産業のリストに加えることにしようとしている。

大きなインセンティブを与えなければあまりにリスクが大きいため誰も投資したがらない。

現在の規模を維持する程度に進めるのであれば、それは可能かもしれない。

電力需要の1割程度を原発で賄う。原子力産業の維持目標である。具体的には、80年代に運転開始した原発が40年を超えつつあるから、これらを延長運転して20年ほどは持たせようとしている。また、運転認可の更新回数に制限は設けられていないため(日本の場合は1回限り)さらに20年延長し、80年運転を目指す原発もある。

米国原子力規制委員会は2018年3月22日に、ターキーポイント3・4号機(PWR80万キロワット)の二度目となる20年間の延長運転(SLR)の申請を許可した。最初の80年運転原発を目指している。

米国でも原発の運転年数を40年と定めているが、ほとんどの原発が20年の運転延長申請を行うことで60年運転を推進している。現在、米国で運転中の94基(2021年1月1日現在)の原発のうち60年の延長運転許可を得ている原発は86基に達している(電事連 「海外電力関連 トピックス情報」2018年4月2日)。

米国は大量廃炉時代に入り始めていることから、原発のシェアは急降下することが確定的だ。そのため延長運転の推進と、老朽化や経済性の喪失で廃炉になる原発の代替として、新型炉の建設を進めようという計画もある。

しかし延長運転は大変危険だ。原発の寿命を40年としているのは、交換不可能な原子炉圧力容器などの設備については十分な安全性を維持することが可能な範囲として40年が想定されているからだ。それを60年、80年と延長すれば劣化が進み破損する危険性が高まる。

80年も使える電気ケーブルなどない。最初から全部交換可能な敷設方法でも採っていなければ使えないはずだ。

80年も動かす計画ではなかったのだから、無理に無理を重ねる結果にならざるを得ない。日本も米国も、ケーブルの劣化問題の重大さは変わらない。(完)

本稿は『季節』2022年春号(2022年3月11日発売号)掲載の「原発は「気候変動」の解決策にはならない」を本ブログ用に再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

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龍一郎揮毫

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◆声を上げ始めた市民 「モニタリングポストの当面の存続」

岸田政権が原発回帰を決定した。「東京電力福島第一原子力発電所で事故が起き、この国も世界中も震撼していた時に、一体あなたは日本にいなかったのか! なぜ、あの過酷事故から何も学ばないのか!」と、飛びかかりたくなるほどの怒りが心を渦巻く。

12年間、怒り続ける私たちの心は大丈夫なのか……と思うこともあるが、原子力を手放さない権力者たちは、そんなことはお構いなしに、オンボロ原発を稼働させようとしている。

この余りにも横暴な力の前に、私たちは立ちすくむ思いを何度も経験してきた。私たちは何もできないのか……と顔を伏せたくなる思いにもなる。

しかし、そのような時、「いや、まだまだやれることがあるはずだ……」と、自分を奮い立たせるために思い出すのは、2019年5月29日、第10回原子力規制委員会が決定した「モニタリングポストの当面の存続」だ。

福島第一原発事故後、福島県内に住み続ける子どもの生活環境の空間放射線量を測定し、可視化するために3千台のリアルタイム線量測定システム(通称モニタリングポスト)が設置された。

しかし、2018年3月20日、原子力規制委員会は2020年度末を目途に約2400基を撤去すると発表した。理由は除染により、環境放射線量が低くなったから。そしてもう一つの理由は、2020年度末で復興庁が終了するから。つまり予算がなくなることで、子どもの生活環境の空間線量を計測するモニタリングポストは撤去というわけだ。

私たちは直ちに「モニタリングポストの継続配置を求める市民の会」(以下市民の会)を立ち上げ、4月16日、参議院議員会館で第1回目の原子力規制庁交渉に臨み、原発事故後を生きる福島県民にとってモニタリングポストは、日常的に空間放射線量を目視できる唯一の情報源として最低限度の「知る権利」を保障するものであり、撤去または存続の「決定する権利」は、無用な被ばくを強いられている住民側にある。よって福島県民に問うことなく一方的に撤去することは、私たちの権利を蔑ろにする行為である。また原発事故を起こした国は、廃炉になるまで子どもの生活環境のモニタリングは続ける責任があると繰り返し主張した。

しかし、武山松次原子力規制庁監視情報課課長(当時)は、避難指示区域外の地域の空間線量は十分に低くなっていることから、モニタリングポストによる連続的な測定は科学的に役割を終えていると断言し、私たちの訴えは伝わらないままに、第1回の交渉は終わった。

◆約5週間で7市町の首長に面会し、継続配置を訴えた母親たち

市民の会は県内各自治体に対しても要請行動を開始。その際、市民の会が最も意識したのは、撤去方針に違和感を持った市民、特に母親たちが自らの意志で行動し声を上げられるようにサポートすることだった。

5月14日、会津若松市役所前に集まった母親たちには政治参加の経験はなく、緊張した面持ちだった。しかし、市長室のソファーにニコニコしながら座っている我が子の傍らで、「会津若松は他の地域と比較すれば線量は低いと言われている。しかし、絶対起きないと信じ込まされていた原発事故が起きた今、人工放射性物質が確実に私たちの回りに存在するようになってしまった。だからこそ、モニタリングポストは必要不可欠な装置なのだ。登園途中で毎日数値を確認している。街角にあれば必ず数値を確認する。その時の不安な気持もぜひ理解してもらいたい」と、時には声を詰まらせながら訴えた。ある町では幼子をおんぶした母親が首長に継続配置を求める要請書を手渡すなど、母親たちが声を上げ始め、約5週間で7市町の首長に面会し、継続配置を訴えた。

この動きと連動したのが、各地の住民説明会に参加した市民だ。原子力規制庁は「丁寧な説明で撤去方針を理解していただくこと」を目的として、同年7月から11月まで15市町村18会場で住民説明会を開催。しかし、全ての会場で子育て世代から高齢者までが撤去に反対し、継続を求める声が上がった。そして、市民の会は第3回交渉(2018年12月7日)で原子力規制庁から「目的を住民の声を聞くことに変更した」との言質を取った。

◆モニタリングポストは継続配置へ

市民の会は4回の原子力規制庁交渉を行った。噛み合わないやり取りにジリジリとした思いを抱き、時折飛び出す国の本音に驚いた。緊急事態が起きた際、モニタリングポストの数値を確認して避難するかしないかの判断をするのだと伝えると、「再びの緊急時は無用な被ばくを避けるためにもモニタリングポストを見に行かないでほしい。自分の判断で、勝手に逃げないでほしい」と回答。また「3・11前の福島県はとても空間放射線量が低かった。だから、事故後少しぐらい上がっても問題ない」と発言。私たちは息を呑み、「え? 今、何て言ったの?」と顔を見合わせ、我に返って「それは被害者との危機感と余りにも乖離している」と訴え続けた。

そして先述の通り、2019年5月末、原子力規制委員会は「モニタリングポストの当面の存続」を決定。これは原発核事故被害の当事者である市民の訴えが国に方針の変更をさせた、まさに民主的な決定だった。しかし同時に「当面とはいつまでだろう……」との不安も拭えなかった。

それから2年半後の2021年9月1日、第28回原子力規制委員会は、2022年度の国の予算にモニタリングポストの維持経費の概算を要求し、2021年から10年かけて、毎年300基のペースで線量検出器や電源などの部品交換を行い、部品供給ができなくなった450基については2022年度に新しい機器に取り替える計画が公表された。

これを受けて市民の会は菅義偉首相、更田豊志原子力規制委員会委員長(共に当時)に2019年の当面の存続の決定が具体的に動き出したこと、2021年度からの維持計画を高く評価するとの書簡を送り、今後も注視していくことを伝えた。

さらに2022年12月に閣議決定された2023年度予算案に維持・更新の予算16.6億円が盛り込まれ、部品供給ができなくなる71台が全面更新され、24年度以降、残りの主要部品は交換されていく。

今春、私は福島県猪苗代町の山間部で、色は茶色に変わり、少しコンパクトになった新しいモニタリングポストを見つけた。私たちの声がこの機器の存続を実現させたのだと思うと、ちょっとだけ誇らしかった。

◆間近に迫る放射能汚染水の海洋投棄

そして今、福島第一原発敷地内に保管されている放射能汚染水の海洋投棄が強行されようとしている。高濃度汚染水の流出事故が相次いだ2013年より活動を続けている「これ以上海を汚すな!市民会議」(以下、これ海)はその名の通り、放射能汚染水の海洋投棄を阻止するため、ありとあらゆる行動を続けている。

2020年4月13日、菅政権(当時)が2年後の海洋放出を決定したことに抗議する毎月の「13日スタンディング」は2年間続いている。2年後となった今年4月13日はグローバルアクションとして国内外の市民にスタンディングを呼びかけた。北海道から沖縄、ヨーロッパやアメリカ、カナダ、太平洋諸国、ニュージーランド、そしてアジア諸国の市民がこのアクションに参加し、汚染水の海洋投棄は自分たちの問題でもあると声を上げた。

国が喧伝する「ALPS処理水」の危険性を学ぶ学習会は福島県内各地で行われ、また海外の科学者らを招いたオンライン講演には、海外からの参加者も多く、終了と同時に、仲間と共有するため早くYouTube配信をしてほしいと声が届いた。

内堀福島県知事、伊沢双葉町長、吉田大熊町長に、市民一人ひとりが海洋投棄に反対の声を届ける「ハガキ作戦」は、民の声新聞の報道によれば、5月末現在、約3500通が届いているらしい。

これ海は2020年9月、21年6月、11月と経産省エネルギー庁や東電との交渉を続けてきた。噛み合わない議論の中、毎回要望し続けているのが政府主催の県民公聴会だ。しかし一度も実現していない。なぜ開催しないのか……。私はその理由は2018年のモニタリングポスト撤去を巡る住民説明会での手痛い経験だと考える。原子力規制庁自らが開いた説明会で撤去反対の声が湧き上がり、結果的に存続となった。「当面の存続」が決定された日、河北新報は「市民の声が国を動かした」と速報を出した。

恐らく国は汚染水の海洋投棄を強行するだろう。復興庁が終了する2031年には再びモニタリングポストの大量撤去方針が出されるかもしれない。その度に「やっぱり……」とか「またか……」と落胆もするだろう。でも、それでも私たちは立ち上がり、声を上げ始める。それは、あとから来るいのちのために私たちが果たすべき、せめてもの責任だから、そしてそうできるのは、仲間がいるからだ。汚染水の海洋投棄に反対する声は今日も世界中から届いている。私たち市民は自分の力を信じ、声を上げ続けよう!
 

5.16東京行動 東電本社前での筆者(ウネリウネラ提供)

▼片岡輝美(かたおかてるみ)
モニタリングポストの継続配置を求める市民の会。これ以上海を汚すな!市民会議。1961年福島県郡山市に生まれる。1985年、夫の片岡謁也牧師と共に日本基督教団若松栄教会へ。放射能から子どものいのちを守る会・会津代表、会津放射能情報センター代表。主著に『今、いのちを守る(TOMOセレクト 3.11後を生きる)』(2012年日本キリスト教団出版局)、『クリスチャンとして「憲法」を考える』(2014年いのちのことば社/共著)等。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

龍一郎揮毫

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◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0C6SZ247L/

原発の火力代替性を主張するならば、現在問題視されている石炭火力の電力をすべて原発で置き換えるほどのインパクトが必要だ。それがウラン資源からみて可能か、という問題になる。原発が石炭を代替できるほど普及しなければ、二酸化炭素排出量の引き下げに寄与できたなどとは言えないからだ。

現在世界の石炭火力は、全電力生産の約40%(*)ほど。一方、原発は過去最大の時でも10%程度。つまり石炭との代替とは、世界の電力生産の半分程度を原発にすることを意味する。

そのためには100万キロワット級原発を年間80基ペースで20年にわたり追加
で建て続けなければならない。

(*)全世界の発電電力量は約27000TWh(27兆kWh)、 石炭火力は約10000TWh(10兆kWh)の発電電力量で約40%、原発は約3000TWh(3兆kWh)で約10%。

原発と石炭火力の電力をすべて原発で発電する場合、設備利用率70%で100万キロワット級原発が約2000基必要になる。

一般に原発の建設には立地点を探して許認可手続を経て完成までには十5年くらいはかかる。民主的手続きなど不要な国ならば十年以下で可能かもしれない。

しかし、このペースで原発の資機材を調達するのは不可能だ。人材育成となるとさらに困難だ。原発は自動運転も出来ないし、メンテナンスでも多くの人手が必要だ。1基あたり年間、運転員クラスで20から30人、メンテナンス要因は1000人以上、何基も集中立地して合理化し、ロボットなどで検査、監視を補助しても、半分にも減らせない。そのため運転員を年間数千人、メンテナンス要員を数万人ずつ養成し続けなければならない。それに対して天然ガス火力は年間数十人の要員で100万キロワット級の発電所を動かせる。

もっと重大な問題がある。現在の核燃料サイクル、燃料生産の規模は、世界で400基あまりの原発を稼働させる程度にしか稼働していない。これが2000基に増加した場合、現在の余力を投じても追いつかない。具体的にはウラニウム採掘量を3倍程度に増加させ、核燃料生産量も同様に増やす必要がある。

しかし世界の鉱山開発はほとんど止まっている。また、高品位のものは残り少ない。原発が増えると予測したら、低品位でも開発をするだろうが、汚染もさらに拡大する。

増産をすれば可採年数は急激に減り、おそらく現在の品位の鉱石は十年程度でなくなる。低品位のものを使っても原発の運転年数40年が終わる頃には採算ベースのウラニウムは枯渇するだろう。

残されるのは再処理ウランや濃縮残渣で出た低濃度のウラン(減損ウランや劣化ウラン)である。これらは使えないことはないが、汚染があったり再濃縮に莫大な電力と費用がかかることで採算が合わないだけでなく、様々な汚染事故リスクが急激に増大する。

それが資源的に見た原発の限界点だ。このことを理解するには、小学校の算数の問題を解く程度の知識で十分だ。

なお、これに対しては高速増殖炉を開発すれば良いとの意見が聞こえてきそうだが、何十年も国策として巨額の税金を投入していたもんじゅやスーパーフェニクスさえ、まともに運営できなかったことを忘れてはならない。(つづく)

本稿は『季節』2022年春号(2022年3月11日発売号)掲載の「原発は「気候変動」の解決策にはならない」を本ブログ用に再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年夏号
NO NUKES voice改題 通巻36号 紙の爆弾 2023年7月増刊

《グラビア》原発建設を止め続けてきた山口県・上関の41年(写真=木原省治
      大阪から高浜原発まで歩く13日間230Kmリレーデモ(写真=須藤光男

野田正彰(精神病理学者)
《コラム》原子炉との深夜の対話

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》核のゴミを過疎地に押し付ける心の貧しさ

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》司法の危機 南海トラフ地震181ガル問題の重要性
《インタビュー》最高裁がやっていることは「憲法違反」だ 元裁判官樋口氏の静かな怒り

菅 直人(元内閣総理大臣)
《アピール》GX法に断固反対を表明した菅直人元首相の反対討論全文

鮫島 浩(ジャーナリスト)
《講演》マイノリティたちの多数派をつくる
 原発事故の被害者たちが孤立しないために

コリン・コバヤシ(ジャーナリスト)
《講演》福島12年後 ── 原発大回帰に抗して【前編】
 アトミック・マフィアと原子力ムラ

下本節子(「ビキニ被ばく訴訟」原告団長)
《報告》魚は調べたけれど、自分は調べられなかった
 一九五四年の「ビキニ水爆被ばく」を私たちが提訴した理由

木原省治(上関原発反対運動)
《報告》唯一の「新設」計画地、上関原発建設反対運動の41年

伊藤延由(飯舘村「いいたてふぁーむ」元管理人)
《報告》飯舘村のセシウム汚染を測り続けて
 300年の歳月を要する復興とは?

山崎隆敏(元越前市議)
《報告》原発GX法と福井の原発
 稲田朋美議員らを当選させた原発立地県の責任

——————————————————————–
山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点

原田弘三(翻訳者)
《報告》「気候危機」論についての一考察

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家)
《対談》戦後日本の大衆心理【後編】

細谷修平(美術・メディア研究者)
《映画評》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈3〉
 わすれてはならない技術者とその思想 ──『Winny』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
《報告》今、僕らが思案していること

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
《報告》亡国三題噺
 ~近頃“邪班(ジャパン)”に逸(はや)るもの
  三重水素、原発企業犯罪、それから人工痴能~

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
《報告》山田悦子の語る世界〈20〉
 グローバリズムとインターナショナリズムの考察

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の全力推進・再稼働に怒る全国の行動!
福島、茨城、東京、浜岡、志賀、関西、九州、全国各地から

《福島》古川好子(原発事故避難者)
福島県富岡町広報紙、福島第一廃炉情報誌、共に現地の危険性が過小に伝えられ……
事故の検証と今後の日本の方向を望んでいるのは被害者で避難者です!
《東電汚染水》佐内 朱(たんぽぽ舎ボランティア)
電力需給予備率見通し3.0%は間違い! 経産省と東電は石油火力電力7.6%分を隠している! 
汚染水の海洋放出すべきでない!
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
運動も常に情報を受信してすぐに発信することが大事
4月5日定例の日本原電本店行動のできごと
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
中電が越えなければならない「適合性審査」と「行政指導」
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」事務局)
団結小屋からメッセージ付き風船を10年余飛ばし続けて
《高浜原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「関電本店~高浜原発230kmリレーデモ」に延べ900人、
「関電よ 老朽原発うごかすな!高浜全国集会」に320人が結集
《川内原発》鳥原良子(川内原発建設反対連絡協議会)
「川内原発1・2号機の九電による特別点検を検証した分科会」まるで九州電力が書いた報告書のよう
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
原発延命策を強硬する山中原子力規制委員会委員長・片山規制庁長官
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『3・11 大津波の対策を邪魔した男たち』(島崎邦彦・青志社)

反原発川柳(乱鬼龍選)

龍一郎揮毫

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2000年代の「原子力ルネッサンス」のとき以来、再び「原発回帰」の掛け声が聞こえてきた。主に欧州から、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と、吸収量を均衡させること)を実現するためには原発建設を再始動させる必要があるという主張だ。欧州連合(EU)は「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」というカーボンニュートラルを目標としている。

EUグリーン・ディール政策を達成するために、一部の天然ガスと原発を「グリーン投資(サステナブル・ファイナンス・タクソノミー)」に条件付きで含めることを提案した。

「EUは原発と天然ガス火力を『グリーン』投資の対象となる産業のリストに加える方針を明らかにした。持続可能な投資の分類『タクソノミー』の新しいリストには、企業の情報開示や気候変動に配慮した投資、炭素関連の政府支出について、温暖化対策に役立つ『グリーンな』活動の統一した定義を示すことを意図している。このEUのグリーンリストは、『持続可能性』を金融と関連づけて定義する。」(ニューズウィーク日本版より)

同じ主張は日本でも原子力産業や東電など電気事業者が主張している。経団連や経産省は、その旗振りの先頭に立っている。

それは、現実を無視した、原子力産業の利権拡大と原発推進のための議論でしかない。これに乗ってしまうと、再び福島第一原発事故のような過酷事故を日本のみならず世界のどこかで再発する可能性が高まるだけでなく、本来あるべきエネルギー政策を誤り、途方もない資金を無駄で危険で核廃棄物にまみれた産業に投じる愚を犯すことになる。

では、どこがどれだけダメなのか、具体的に指摘しよう。

原発は今も環境負荷をかけ続けている原発を動かすには核燃料サイクルを回す必要がある。核燃料のままで地下から取り出せると思っている人はいないと思うが、核燃料の生産から使用済燃料の再処理に至るまで、大量の放射性物質が環境中に放出されてきた。

言い換えるならば、通常運転時なら原発から出る放射性物質のほうが、核燃料サイクルから放出される放射性物質よりも相対的に少ない。ただし使用済燃料は除くが。

ウラン採掘国は、カナダ、オーストラリア、カザフスタン、ロシア、ニジェール、ナミビアなどの国々だ。ウラン資源は偏在しており、石油や天然ガス同様、調達においては「地域リスク」(政情不安定などの要素)を伴う地域が多いことは指摘されない。

ウラン採掘時には大量の鉱滓が出る。これは放射性物質の塊であり、これら多種多様の放射性物質で環境は汚染される。地下の「核のごみ」をわざわざ掘り出しているに等しい。

これまでも、これからも周辺住民や環境に大きな汚染の被害をもたらす。

福島第一原発事故の「帰還困難区域」と本質的には変わらない。そんな犠牲の下に核燃料は生産されている。

加工時にも放射性物質は出る。その上、使用済燃料を再処理すればわずか1日で、原発が通常運転時に出す放射性物質の1年分を排出する。再処理をすればするほど、放射能汚染を世界中に拡散させる装置が原発だ。こんなシステムが「環境に良い」わけがない。

炭酸ガスを出す、出さないとの議論など枝葉末節の問題に思えるほどだ。

チェルノブイリ原発事故や福島第一原発事故では、広大な土地が居住不能または耕作不能にされた。また、核兵器開発により同じく汚染され使用できなくなった広大な地域もある。

原発を原子力システムとして見れば、二酸化炭素排出量は現在経産省などが主張する「kWh当たり22から40グラム」ではなく、それよりも遥かに多いと考えられる。

スタンフォード大学のジェイコブソン教授によれば、原発のライフサイクル(ウラン採掘から放射性廃棄物の処分まで)二酸化炭素排出量はキロワットアワー(kWh)当たり68~180グラム(gCO2/kWh)になるという。

一方、天然ガスの場合は、コンバインドサイクル発電により熱効率を52%まで高めた場合、360gCO2/kWhだというから、2倍ほどしか差がない。

発電中に二酸化炭素を出すか出さないかは問題の本質ではない。

この十年、日本では原発がほとんど稼働していない。にもかかわらずメンテナンスや新規制基準適合性審査への対応、使用済燃料の冷却などで膨大な電力をただ消費している。この電力はほとんど火力発電により賄われている。その分は当然、原発が排出した二酸化炭素としてカウントされなければならない。

廃炉作業を行っている福島第一原発などの廃止原発で消費されるエネルギーに対応する二酸化炭素も膨大な量になると考えられる。

原発は運転を止めてもエネルギーを大量に使わなければ安全を維持できない。これらがkWh当たりの二酸化炭素量として、これまで考慮されたことはなかった。(つづく)

本稿は『季節』2022年春号(2022年3月11日発売号)掲載の「原発は「気候変動」の解決策にはならない」を本ブログ用に再編集した全3回の連載記事です。

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5月12日「GX(グリーントランスフォーメーション)推進法」なる実質「原発推進法」が成立してしまいました。重要な法案にもかかわらず、国会内内外で充分な議論がなされず短い審議で成立しました。さらに「GX脱炭素電源法」も本稿執筆時点、参議院で審議されています。「GX脱炭素電源法」は原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理法、再エネ特措法の改正案5つを束ねたものです。

 

6月12日発売 『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

わずか12年前に福島第一原発事故を引き起こし、いまだ「原子力非常事態宣言」を解除できない国が明確な「原発推進」を打ち出すこの国の姿勢は、完全に理性を失っています。福島第一原発事故後は自民党ですらが原発回帰を躊躇っていたにもかかわらず、国の存亡にもかかわる「GX推進法」を大した議論もなく可決させてしまった与野党と、例によって政府と呼吸を合わせたように相応の報道を行わなかった大手マスメディアの劣化し尽くした姿勢に編集部は激烈な怒りを覚えます。

また本誌が発売される頃には、すでに鮮度のないトピックあるいは忘れ去られているかも知れませんが、広島でG7サミットが開催されました。もとよりサミットは「帝国主義者の戦争準備会議」と呼ぶ人がいるほどに、これまでも「軍縮」や「人類平和共存」に貢献したことはありません。

被爆被災地、広島で開催されることに、「核兵器廃絶」など筋違いの期待を寄せる言説も見受けられましたが、それらはもとより的外れ甚だしい妄想でした。案の定、G7期間中にどういうわけかウクライナのゼレンスキー大統領が広島を訪れ、米国などからF-16戦闘機の提供の確約を取り付けました。議長である日本国の首相岸田は「核兵器のない世界実現という理想をG7で共有」したと、功績のように記者会見で語りましたが、これは完全なる虚構です。

そもそも米国を中心とする核兵器保有国が集ったところで「我々は核兵器を放棄します」などと殊勝な宣言が発せられる道理は、最初からありはしないのであり、米国のバイデン大統領は広島入りに際して、これ見よがしに「核兵器発射ボタン」の入ったカバンを随行員に持たせている写真をわざわざ撮影させています。国際平和に貢献する意志があるのであれば、インドなど中立的な国も参加していたのですから、ロシアにも参加を呼びかけ「停戦」の場としたのであれば、それなりの評価に値したでしょうが、日本政府にそのような意思は微塵も見られませんでした。

人間が考えることを人工知能(AI)に代行させることに「G7」各国は熱心なようです。叡智や思索の蓄積を度外視してコンピューターの指示に従いたがる時代にこそ、人間の身体に結び付いた思想と行動の価値が問われているのではないでしょうか。脱原発(反核)・反戦は喫緊の課題です。

2023年6月
季節編集委員会

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《グラビア》原発建設を止め続けてきた山口県・上関の41年(写真=木原省治
      大阪から高浜原発まで歩く13日間230Kmリレーデモ(写真=須藤光男

野田正彰(精神病理学者)
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小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
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菅 直人(元内閣総理大臣)
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鮫島 浩(ジャーナリスト)
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 300年の歳月を要する復興とは?

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佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
《報告》亡国三題噺
 ~近頃“邪班(ジャパン)”に逸(はや)るもの
  三重水素、原発企業犯罪、それから人工痴能~

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
《報告》山田悦子の語る世界〈20〉
 グローバリズムとインターナショナリズムの考察

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の全力推進・再稼働に怒る全国の行動!
福島、茨城、東京、浜岡、志賀、関西、九州、全国各地から

《福島》古川好子(原発事故避難者)
福島県富岡町広報紙、福島第一廃炉情報誌、共に現地の危険性が過小に伝えられ……
事故の検証と今後の日本の方向を望んでいるのは被害者で避難者です!
《東電汚染水》佐内 朱(たんぽぽ舎ボランティア)
電力需給予備率見通し3.0%は間違い! 経産省と東電は石油火力電力七・六%分を隠している! 汚染水の海洋放出すべきでない! ── 4・5東電本店合同抗議に参加して
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
運動も常に情報を受信してすぐに発信することが大事
4月5日定例の日本原電本店行動のできごと
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
中電が越えなければならない「適合性審査」と「行政指導」
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」事務局)
団結小屋からメッセージ付き風船を10年余飛ばし続けて
《高浜原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「関電本店~高浜原発230kmリレーデモ」に延べ900人、
「関電よ 老朽原発うごかすな!高浜全国集会」に320人が結集
《川内原発》鳥原良子(川内原発建設反対連絡協議会)
「川内原発1・2号機の九電による特別点検を検証した分科会」まるで九州電力が書いた報告書のよう
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
原発延命策を強硬する山中原子力規制委員会委員長・片山規制庁長官
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『3・11 大津波の対策を邪魔した男たち』(島崎邦彦・青志社)

反原発川柳(乱鬼龍選)

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0C6SZ247L/

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

樋口英明元裁判官は鹿砦社が発刊する脱・反原発季刊誌『季節』にもたびたびご登場頂いている。このたび女川原発差し止め訴訟仙台地裁判決について樋口元裁判官からメッセージを頂いた。共同通信発で加盟社に配信された原稿は大幅に論旨が削られているとのことで、デジタル鹿砦社通信向けに寄せて頂いた、特別のメッセージである。(田所敏夫)

樋口英明さん

◆5月24日仙台地裁判決について 樋口英明

仙台地裁は、5月24日、東北電力女川原発2号機の再稼働差止めを求めた住民らの請求を退けました。今回の訴訟で原告の住民らは、早期の判決を求めるために、放射性物質が外部に漏れる事故が起きる具体的な危険性を主張せず、「原発事故が起きた場合の避難計画に不備があるから原発の再稼働は認められない」と訴えました。それに対して、仙台地裁は「事故の危険性は抽象的なものにすぎない。事故発生の具体的な危険性の主張立証がない以上、避難計画の不備だけでは差止めは認められない」としました。

2021年3月の水戸地裁判決が「事故発生の具体的危険性が認められないとしても、避難計画が不備であれば運転の差止めが認められる」としたのとは真逆の判断です。

仙台地裁の裁判官は原発の本質が分かっていません。原発の問題は決して難しい問題ではありません。次の二つのことさえ理解してもらえればよいだけです。一つ目は、原発は事故の時も自然災害に遭った時も運転を止めるだけでは収束せず人が管理し、電気と水で原子炉を冷やし続けなければ必ず事故になるということです。二つ目は人が管理できなくなった場合の事故の被害は極めて甚大だということです。現に福島第一原発事故では停電しただけで、「東日本壊滅」の危機に陥りました。

水戸地裁はこのような原発の本質を理解していたから避難計画の不備だけで原発の運転を差し止めたのです。地震大国日本で、避難計画が整備されていない原発を稼働させるということは、何千人もの乗客を乗せたタイタニック号が充分な救命ボートを用意せずに氷山の浮かぶ大海原に乗り出していくようなものです。いつどこで氷山にぶつかるかはわからないとしても、救命ボートは乗客の人数に応じて充分な数を備えるのは当然のことです。救命ボートが不足していることは出港を許さない十分な理由になるのです。

仙台地裁の判決は避難計画の不備は問題にしないとするもので、上の例によれば、救命ボートが一隻もなくてもタイタニック号の出航を認めるということになります。仙台地裁の判決は、「これが福島原発事故後の判決か」と我が耳を疑うあまりにも無責任な判決と言わざるを得ません。

樋口英明さん

◆原発廃絶のために静かに闘う樋口元裁判官

樋口元裁判官は原発に極めて強い危機意識を持ち、講演で全国を行脚し、原発運転差し止め訴訟などにアドバイザーとして関わっている。3月15日には参議院議員会館で国会議員にも向けた講演が実施された。樋口元裁判官は言う。

「原発問題は簡単なことなんですよ」

60分で原発問題の導入から、最先端までを語り尽くす樋口元裁判官の解説は、中立かつ司法の判断者としての経験を踏まえたものであるだけに、極めて訴求力が強いと感じる。

樋口元裁判官は単なる語り部ではなく「聞く側」がどうすれば理解しやすいかも模索されている。本公演は通常スピードで視聴しても決して長くは感じないが、見る人のためには「1.5倍速で再生してください。それが見る人にとっては快適です」とコメントを頂いた。細やかな心配りはなにより「脱原発を実現しなければ将来はない」との危機感に依拠しているのではないかと感じる。是非ご覧いただきたい。


◎[参考動画]院内集会 映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』上映後の元福井地裁 裁判長 樋口英明氏 講演(2023年3月15日)

▼樋口英明(ひぐち・ひであき)
元裁判官。1952年三重県生まれ。京都大学法学部卒。2014年、大飯原発3、4号機の運転差止判決、翌年、高浜原発3、4号機再稼働差止の仮処分決定を出した。2017年8月退官。主著に『私が原発を止めた理由』(旬報社、2021年)。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

6月12日発売開始‼ 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年夏号
NO NUKES voice改題 通巻36号 紙の爆弾 2023年7月増刊

《グラビア》原発建設を止め続けてきた山口県・上関の41年(写真=木原省治
      大阪から高浜原発まで歩く13日間230Kmリレーデモ(写真=須藤光男

野田正彰(精神病理学者)
《コラム》原子炉との深夜の対話

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》核のゴミを過疎地に押し付ける心の貧しさ

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》司法の危機 南海トラフ地震181ガル問題の重要性
《インタビュー》最高裁がやっていることは「憲法違反」だ 元裁判官樋口氏の静かな怒り

菅 直人(元内閣総理大臣)
《アピール》GX法に断固反対を表明した菅直人元首相の反対討論全文

鮫島 浩(ジャーナリスト)
《講演》マイノリティたちの多数派をつくる
 原発事故の被害者たちが孤立しないために

コリン・コバヤシ(ジャーナリスト)
《講演》福島12年後 ── 原発大回帰に抗して【前編】
 アトミック・マフィアと原子力ムラ

下本節子(「ビキニ被ばく訴訟」原告団長)
《報告》魚は調べたけれど、自分は調べられなかった
 一九五四年の「ビキニ水爆被ばく」を私たちが提訴した理由

木原省治(上関原発反対運動)
《報告》唯一の「新設」計画地、上関原発建設反対運動の41年

伊藤延由(飯舘村「いいたてふぁーむ」元管理人)
《報告》飯舘村のセシウム汚染を測り続けて
 300年の歳月を要する復興とは?

山崎隆敏(元越前市議)
《報告》原発GX法と福井の原発
 稲田朋美議員らを当選させた原発立地県の責任

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山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点

原田弘三(翻訳者)
《報告》「気候危機」論についての一考察

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家)
《対談》戦後日本の大衆心理【後編】

細谷修平(美術・メディア研究者)
《映画評》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈3〉
 わすれてはならない技術者とその思想 ──『Winny』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
《報告》今、僕らが思案していること

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
《報告》亡国三題噺
 ~近頃“邪班(ジャパン)”に逸(はや)るもの
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山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
《報告》山田悦子の語る世界〈20〉
 グローバリズムとインターナショナリズムの考察

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の全力推進・再稼働に怒る全国の行動!
福島、茨城、東京、浜岡、志賀、関西、九州、全国各地から

《福島》古川好子(原発事故避難者)
福島県富岡町広報紙、福島第一廃炉情報誌、共に現地の危険性が過小に伝えられ……
事故の検証と今後の日本の方向を望んでいるのは被害者で避難者です!
《東電汚染水》佐内 朱(たんぽぽ舎ボランティア)
電力需給予備率見通し3.0%は間違い! 経産省と東電は石油火力電力7.6%分を隠している! 
汚染水の海洋放出すべきでない!
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
運動も常に情報を受信してすぐに発信することが大事
4月5日定例の日本原電本店行動のできごと
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
中電が越えなければならない「適合性審査」と「行政指導」
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」事務局)
団結小屋からメッセージ付き風船を10年余飛ばし続けて
《高浜原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「関電本店~高浜原発230kmリレーデモ」に延べ900人、
「関電よ 老朽原発うごかすな!高浜全国集会」に320人が結集
《川内原発》鳥原良子(川内原発建設反対連絡協議会)
「川内原発1・2号機の九電による特別点検を検証した分科会」まるで九州電力が書いた報告書のよう
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
原発延命策を強硬する山中原子力規制委員会委員長・片山規制庁長官
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
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反原発川柳(乱鬼龍選)

龍一郎揮毫

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◆岸田首相の原発17基再稼働促進は何が危険か?

昨年(2022年)7月14日、岸田首相は来年(2023年)冬の電力ひっ迫を回避するため、原発9基を稼働し火力による予備電源を確保することを萩生田光一経産相(当時)に 「指示」したと会見で語った。

「電力ひっ迫には原発」とばかりに、前のめりの姿勢を見せたわけだが、これは昨年3月と昨年6月末の電力ひっ迫警報・注意報の発出と軌を一にする、電力不足をテコにした再稼働推進の仕掛けを、さらに強化しようとするものだ。

再稼働を促進するとした原発のうち、すでに再稼働した「9基の原発」とは、関西の美浜3号、高浜3、4号、大飯3、4号、四国の伊方3号、九州の玄海3号、川内1、2号。現時点で再稼働した原発のうち特定重大事故対処等施設の建設が完成していないため法律上運転できない玄海4号以外全部だ。別に首相が指示する筋合いではない。

電力業界の中枢である電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は翌15日の記者会見で、冬の電力不足に対応するために「原発を最大9基稼働させる」とした発言について「ほとんどの原発はすでに(供給力に)織り込」み済と、電力不足対策になどならないことを示している(2022年7月15日付朝日新聞)。

これで定期検査中に発見される損傷や運転中に生じるトラブルに対して、首相の指示だからと無理矢理動かし、重大事故につながることはないのかが本当に心配になる。

昨年8月24日、 官邸で開いたGX(グリーン・トランスフォーメーション)第2回実行会議、岸田首相は原発について大きく3つの検討項目を打ち出した。

(1)福島事故後に稼働した10基に加え、7基を追加で再稼働すること、
(2)次世代革新炉を新増設すること、
(3)原則40年、最長60年と定められている既存原発の期間制限の廃止検討だ。

追加の7基とは、女川2号、柏崎刈羽6、7号、東海第二、高浜1、2号、島根2号だ。そのうち柏崎刈羽と東海第二は、いずれも地元合意はない。

柏崎刈羽原発は東電によるたび重なる違反行為で、現在規制委により「運転禁止措置」が取られ、これを解除する見通しも立っていない。

東海第二も地元6市村の同意がなければ再稼働はできないが、いずれも同意に向けた動きはない。さらに立地・周辺15自治体(水戸市、日立市、常陸太田市、高萩市、笠間市、ひたちなか市、常陸大宮市、那珂市、鉾田市、茨城町、大洗町、城里町、東海村、大子町と茨城県)が定めなければならない原子力防災計画は、9自治体が策定できていない。

水戸地裁は、防災体制の不備を指摘して運転差止の判決を出している。裁判は現在東京高裁で審理中だ。日本原電の広報担当でさえ、来年夏の再稼働など見通すことはできず、最短でも再来年の9月以降と明言している。

◆電力ひっ迫に対する対応方法は何か?

「ひっ迫に対して原発」には、もうひとつ大いなるミスマッチがある。現在の再稼働原発はすべて西日本。冬場の電力需要は東京が最も大きいうえ、北へ行くほど「ひっ迫」しやすい。一方、西は雪もほとんど降らないから条件が良ければ日中は太陽光だけでも需要の多くをまかなえる。九電などはそうだろう。しかし 「電気が余る」 西から「電気が足りない」東への送電は、周波数が異なるため「周波数変換所」を通さなければならない。この容量がわずか210万kWしかない。原発2基分程度だ。

西側の原発の電気で東側のひっ迫に対処するなど、そもそもできない。「同時同量」の原則を思い返せば、対策は唯一、北海道から九州までの連系線を強化することである。これで電力ひっ迫は回避できる。

昨年6月末に発生した東電、東北電のひっ迫に対しては、西日本の電力を送ることができていれば十分まかなえたことは、電力広域的運営推進機関のデータを見れば明らかである。当時予備率が低かった東電は、朝から夕方まで平均的に5%を下回っていたが、このレベルならばひっ迫ではない。しかし最も低い時間帯が16時から17時半の範囲で3%だった。もちろん省エネも効果はあったが、大電力を広域で連系すれば、ひっ迫は十分回避できた。

時間帯は短いので、大規模停電に至る可能性はほとんどない。実際、18時には「電力需給ひっ迫注意報」は解除されている。

なお、今回の電力ひっ迫を口実とした原発利用拡大政策の狙いは「最長60年の運転期間制限」の撤廃ないし延長である。これを詳論するには紙数が尽きた。 次回に詳しく論じることにする。

◆再稼働促進は「原子力安全規制」を侵害する

原子力規制の基本は、原発を推進する行政機関から独立して権限を有した規制当局が、たとえ首相命令であろうとも基準を満たさない原発を運転させないことにある。

原子力規制庁は環境省の外局だが、原子力規制委員会は設置法第1条に「専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置し、もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする」と規定している。電力が足りなかろうと、首相が指示しようと、安全性に問題のある原発の稼働を認めてはならない。

昨年7月13日に東京地裁で言い渡された株主代表訴訟の判決で朝倉佳秀裁判長が、東電旧経営陣5人に対して13兆円あまりの賠償を認めた(但し4人について)。判決にあるとおり、原発事故は「我が国そのものの崩壊にもつながりかねない」(判決骨子より)からである。(完)

本稿は『季節』2022年冬号掲載の「経産省『電力ひっ迫』のからくり」を再編集した全3回の連載記事です。

◎山崎久隆 経産省「電力ひっ迫」のからくり〈全3回〉
〈1〉「電力ひっ迫に備えて原発推進」は正解か?
〈2〉電力ひっ迫に発電設備の増強は正しいか?
〈3〉電力ひっ迫に対する対応方法は何か?

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

◎たんぽぽ舎 https://www.tanpoposya.com/
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『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年春号
NO NUKES voice改題 通巻35号 紙の爆弾 2023年4月増刊

《グラビア》福島発〈脱原発〉12年の軌跡(写真=黒田節子
      東海村の脱原発巨大看板(写真=鈴木博喜

樋口英明(元裁判官)
《コラム》原発回帰と安保政策の転換について

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》戦争は静かに日常生活に入って来る
《講演》放射能汚染水はなぜ流してはならないか

乾喜美子(経産省前テントひろば/汚染水海洋放出に反対する市民の会)
《アピール》放射能汚染水反対のハガキ作戦やっています

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
《講演》懲りない原子力ムラが復活してきた
日本の原子力開発50年と福島原発事故を振り返りながら

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福島第一原発事故 12年後の想い
森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream[サンドリ]代表)
あなたは「原発被害」を本当に知っていますか
黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
フクシマは先が見えない
伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
何を取り戻すことが「復興」になるのか
今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
呆れ果てても諦めない
佐藤八郎(飯舘村議、福島県生活と健康を守る会連合会会長、生業訴訟原告団)
私たちが何をしたというのか
佐藤みつ子(飯舘村老人クラブ副会長、生業訴訟原告団)
悔しさだけが残ります
門馬好春(30年中間貯蔵施設地権者会会長)
中間貯蔵施設をどうするか
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鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
区域外避難者はいま

水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
裏切られた2つの判決
福島原発刑事裁判と子ども脱被ばく裁判

漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
病気になったのが、自分でよかった
311子ども甲状腺がん裁判第3回・第4回口頭弁論期日報告

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家/舞踏家)
《対談》戦後日本の大衆心理[前編]

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
反社はゲンパツに手を出すな!

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
突然のごとき政治的変更を目前にして

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈19〉
2023年に生きる私が、死について考える

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
「規制をやめた」規制委員会に怒り! 山中委員長と片山長官は辞任せよ!

《全国》永野勇(再稼働阻止全国ネットワーク)
総攻撃には総力を結集して反撃を!
「福島を忘れない!原発政策の大転換を許すな!全国一斉行動」の成功を!
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
岸田政権による原発推進政策に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止を!
《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
「環境汚染」から「裁判汚染」まで 多岐にわたる汚染
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東海第二原発差止訴訟・控訴審決起集会に参加して
《東海第二》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東京に一番近い原発=東海第二原発 2024年9月の再稼働を止めるぞ!
《東京》平井由美子(新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会)
環境省が新宿御苑へ放射能汚染土を持ち込もうとしている!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
5月27日反原発自治体議員・市民連盟第13回定期総会へ
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 編
 
反原発川柳(乱鬼龍選)

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◆「電力のひっ迫」とは何か

2022年3月と6月に出された 「電力ひっ迫」注意報。これは東電管内のみに出されたが、理由は「需給バランスが崩れる可能性があった」からである。

電力は溜めることができない。蓄電池や揚水式発電があるといっても、それは物理的に別の形に変えている。常時送電網に流れている電力は需給バランスが取れないと停電する。

「電力」(ワット)というのは、 「電圧」(ボルト)と「電流」(アンペア)のかけ算で、これに時間を掛けると電力量(ワットアワー)になる。一般には 「キロワットアワー・kWh」と表現されているが、これはワットアワーの1000倍という意味。常時1キロワット消費する家電製品を1時間使うと1キロワットアワーの消費電力量になる。

今、問題になっている「ひっ迫」とは短時間で起こる「需給バランスの乱れ」である。キロワットとキロワットアワーの違いを理解できていないと、発電所を沢山造らなければ停電するといった間違った議論になってしまう。

電気には「同時同量」の原則がある。使用している瞬間に、同量の電力を送電していなければならない。もちろん、発電所からだけでなく蓄電池でもかまわないが、いずれにしても同量の電力を送電線に供給していなければならない。

発電量が大きすぎて需要を大きく超えると周波数が上がる。その反対に、需要に対して発電量が足りなければ周波数が下がる。いずれの場合も、機器の損傷を防ぐため変電所単位で送電が遮断される。これが大きな変電所にまで至れば「広域停電」になる。これが2018年に北海道で起きた。「ブラックアウト」の原因だ。

◆北海道ブラックアウトのメカニズムと対策は?

北海道で最大震度6強の地震「北海道胆振東部地震」が起こったのは2018年9月6日3時7分。当時、北海道全域で300万キロワット弱の需要があった。この地震と、それに続く送電システムのアンバランスにともない、3時25分に北海道電力の送電エリア全域におよぶ大規模停電(ブラックアウト)が発生した。

地震発生の直後に北海道で動いていた最大出力の発電所「苫東厚真火力発電所」が停止したことがきっかけであるが、しかしこれが停止したからブラックアウトになったのかというと、それだけではない。地震から数えて17分間で、水力発電所や、風力発電所も次々に停止してしまった(正確に言えば水力・風力発電などのシステムから送電する変電所や変換所が地震の影響や機器損傷防止のため供給を止めた)。

大まかに、以下のような順番でブラックアウトは発生した。

1.苫東厚真火力発電所(2号機・4号機)の停止(116万kW)
2.風力発電所の停止(17万kW)
3.水力発電所の停止(43万kW)
4.苫東厚真火力発電所(1号機)の停止(30万kW)
5.ブラックアウトの発生

苫東厚真火力が止まってしまったのは、地震の震源地に近かったため、機器の一部損傷が原因だった。一方、水力発電所は複数の送電線が遮断されてしまったことが電気を供給できなくなる原因になった。風力発電は周波数の低下により設備を保護するために停止した。このように、それぞれの発電所は、それぞれ異なる理由で停止してしまった。これらについて独自に対策を取る必要があり、単に発電設備を増やしたからといってブラックアウトを防げるという単純な話ではない。

北海道泊村にある泊原発(加圧水型軽水炉3基合計出力207万kW)は現在新規制基準適合性審査中で運転を停止しているが、これが動いていたらブラックアウトを避けられたという説もある。その場合は苫東厚真火力は止まっていることが前提だ。きっかけがなければ起こらないのは道理だ。しかし、そういう議論をするのであれば、苫東厚真火力発電所の直下で地震が起きたように、泊原発直下で地震が起きることを想定しなければならない。その場合、 地震で原発は全部停止する(地震の直撃を受けなくてもおおむね震度5強で自動停止する)。震度6もの地震で止まった原発は、仮に損傷していなくても簡単に再稼働できない。何らかの損傷があれば復帰にも年単位の時間がかかる。万一、地震で大規模放射性物質拡散事故が起きてしまえば、最悪の場合福島第一原発事故のような原発震災を覚悟しなければならない。これでは問題の解決にはならない。

自然災害以外でブラックアウトが起きるとすれば、それは「系統崩壊」と呼ばれる需給バランスの崩れが原因である。

送電系統全体で発電能力不足が発生した場合や、送電線の容量不足で発生する。電力網では送電系統内のすべての発電機が協調して周波数と電圧を維持していなければならない(同時同量)。

もし周波数が一定範囲を外れると発電機は自動的に系統から遮断される。これを「脱落」という。系統内発電機がすべてフル出力運転していた場合、どこかで発電機トラブルが発生し供給能力の不足が生じると、脱落した発電機の分を他の発電機のオーバーロード(出力超過運転)などでカバーしなければならない。間に合わなければ系統全体が周波数低下を引き起こす。

北海道のブラックアウトの場合、本州と北海道をつなぐ「北本連系線」の容量が当時60万キロワットしかなかった。現在は90万キロワットある。

ブラックアウトは、北本連系線から多くの電力を供給できていたら回避できたと考えられる。

大きな発電機が脱落すると、供給が大きく不足するため周波数低下が大きくなり、遮断した先の需要停止だけでは追いつかなくなる。これが「系統崩壊」に至る理由だ。

2022年3月の東京電力管内で約209万戸の停電では、全域が系統崩壊しないようにあらかじめ部分的に負荷を遮断、つまり送電を止めた。送電系統は変電所により地域的に区切られていて、部分的に遮断することができる。2011年3月の震災時の計画停電もこの仕組みによる。

◆電力ひっ迫に発電設備の増強は正しいか?

現在の日本では、電力のひっ迫は長くても数時間程度の範囲である。これを発電電力量の不足と捉えるのは間違いだ。

需給ひっ迫対策は、発電設備の増強では解決しない。原発を増やしたら解決するという問題ではない。原発を増やせば、その分他の発電設備を止めている。電力会社は設備の維持管理に莫大な出費をしているから、原発を動かす場合は、その分火力などの他の設備を廃止したり停止したりすることになる。結局、供給力は変わらない。

日本の電力需要は2007年頃をピークに急激に低下している。

国際エネルギー機関のデータでは2007年に「1077テラワットアワー(以下、テラワットアワーを省略)」あった年間電力消費量は、2021年に「916」と「161」、約15%も低下している。これはウクライナの1年分の「124(2021年)」よりも多い。なお、 日本は1997年が「915」である。23年を経て同程度の電力消費量にまで下がった。

今後も、少子高齢化と人口減少が続くから、2050年にはさらに減少し、「700」前後まで減少すると想定されている。これは現在よりも22から26%も低下する量で、今後も発電設備の増加は必要ないことが分かる。

近年、政府による脱炭素の促進とウクライナ戦争に伴うエネルギー価格の高騰で、電気料金は2割以上も値上がりするなど、省エネルギーへのインセンティブは高まっている。

その対策として、産業も家庭も電力消費量を削減する取り組みが進む。電力会社は縮小する電力料金収入対策として、エネルギーの効率的利用や送電ロスなどの削減、未利用エネルギーの活用が、より1層取り組まれる。この取り組みに逆行するのが、現在の「電力ひっ迫」を口実にした原発の最大限利用政策である。(つづく)

本稿は『季節』2022年冬号掲載の「経産省『電力ひっぱく』のからくり」を再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

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『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い


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季節 2023年春号
NO NUKES voice改題 通巻35号 紙の爆弾 2023年4月増刊

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      東海村の脱原発巨大看板(写真=鈴木博喜

樋口英明(元裁判官)
《コラム》原発回帰と安保政策の転換について

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》戦争は静かに日常生活に入って来る
《講演》放射能汚染水はなぜ流してはならないか

乾喜美子(経産省前テントひろば/汚染水海洋放出に反対する市民の会)
《アピール》放射能汚染水反対のハガキ作戦やっています

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
《講演》懲りない原子力ムラが復活してきた
日本の原子力開発50年と福島原発事故を振り返りながら

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福島第一原発事故 12年後の想い
森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream[サンドリ]代表)
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黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
フクシマは先が見えない
伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
何を取り戻すことが「復興」になるのか
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呆れ果てても諦めない
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裏切られた2つの判決
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《対談》戦後日本の大衆心理[前編]

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反社はゲンパツに手を出すな!

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再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
「規制をやめた」規制委員会に怒り! 山中委員長と片山長官は辞任せよ!

《全国》永野勇(再稼働阻止全国ネットワーク)
総攻撃には総力を結集して反撃を!
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《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
岸田政権による原発推進政策に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止を!
《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
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《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東海第二原発差止訴訟・控訴審決起集会に参加して
《東海第二》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東京に一番近い原発=東海第二原発 2024年9月の再稼働を止めるぞ!
《東京》平井由美子(新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会)
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《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
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◆規模停電の脅しで原発再稼働を推進

昨年の6月21日、梅雨が明けきっていない東電管内で「電力ひっ迫の注意報」(予備率が5%を下回る予想)が経産省により発令された。すぐにも警報に切り替えそうな勢いで、担当課長が緊急記者会見をしていた。

実際には90%台の後半の設備利用率(発電設備に対する電力需要)で、電力ひっ迫は起こらなかった。もちろん、呼びかけに応じて実施された節電も影響している。

14~15時台に最大5254万kW(以下、万kWを省略)の需要に対して供給力は5674で8%上回る程度に準備されていた。警報発出は3%を下回る場合とされているから、まだ余裕があった。東京電力エリア内の2022年最大電力は8月2日の5930で、このときは6440の供給力を用意していた。

6月末のピークは、その後にも来たが、「電力ひっ迫注意報」は30日午後6時で解除されている。この時期に電力がひっ迫するというのは想定外だった。もちろん、地震などで大型火力のいくつかが止まればたちまちひっ迫するし、それは3月22日に実際に起きて経験したことでもある。

東京では毎年夏のピークは、梅雨明けの季節に起きることが多い。梅雨明けで日照が多くなり、気温が急速に上がる一方で、まだ湿度が高いため蒸し暑い。暑さに慣れていないこともあり、冷房需要が急激に高まる。通常は、7月下旬に起きるこの 「梅雨明けピーク」が、今年は例年にない気象で1カ月早まってしまった。これがいろいろなミスマッチを生じさせたのである。

◆「電力ひっ迫に備えて原発」は正解か?

実際には原発で大電力を供給している時に災害が発生したら停電のリスクは高まる。それは東日本大震災と2007年の中越沖地震で起きている。原発も火力も海沿いに多数立地しているから、津波が発生すれば被災する。

地震で発電所に大規模な破壊が生じなくても、高圧送電線や変電所が被災すれば電気は送れない。地震や津波では原発こそが停電のリスクが高い。

自然災害に対処する場合、ひとつひとつが小さくても広く分散して設置され、地産地消の仕組みを基礎として広域連系ができていることが強靱さを発揮する。できるだけ消費地に近いところに立地し、被災しても早期復旧が見込める火力発電がよいだろう。

もう多くの人は忘れてしまったのかもしれないが、東日本太平洋沖地震後の復旧も圧倒的に火力が早かった。被災した原発15基は、未だに1基も稼働していないが、火力は震災の年の7月までにすべて復旧している。近い将来発生する南海トラフ地震では、西日本各地でブラックアウトしたまま復旧に長期間要する。防災対策上も極めて深刻な事態を招くだろう。

夏の節電要請は、震災直後の2012年以来7年ぶりと各社報じた。ではその前はいつだったのだろうか。2007年である。7月16日に中越沖地震が発生し、柏崎刈羽原発が全部止まったため政府から節電要請が出されている(経済産業省関東圏電力需給対策本部決定 平成19年7月20日付け)。

原発が地震に弱いことも実証済だ。被災した柏崎刈羽原発7基のうち、2011年までに再稼働したのは4基に留まっている。過去の「電力危機」は東電管内においてはすべて原発が原因といっても過言ではない。(つづく)

本稿は『季節』2022年冬号掲載の「経産省『電力ひっ迫』のからくり」を再編集した全3回の連載記事です。

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