経産省は2021年7月21日、第6次エネルギー基本計画の原案を発表した。2030年度には総発電量のうち、再エネ発電を36~38%に増加させ(現行22~24%)、主力電源化をめざす一方、原子力は20~22%の現行目標を維持するという。(2021年10月22日閣議決定)
この基本計画の根拠は2020年10月、菅義偉首相(当時)が所信表明演説でCO2など温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにすると宣言したことをうけて、4月の気候変動サミットで「30年度に13年度比46%削減」を公約したことである。
国会では2020年11月「気候非常事態宣言」、21年5月「改正地球温暖化対策」をいずれも野党を含めて全会一致で可決。「2050年CO2実質ゼロ」は「挙国一致」の目標となっている。
〈Ⅰ〉「人為的CO2温暖化説」は正しいか
菅前首相の「CO2実質ゼロ宣言」の根拠はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「人為的CO2温暖化説」(以下、CO2説)である。21年8月11日IPCCは第6次報告書で「人間の影響が海洋および陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない」とした。
◆原因と結果を取り違えたCO2説
しかし、まずCO2はそれ自体としては人類に有害ではないし、植物にとってはむしろその成長を促す物質であることを押さえておきたい。確かに19世紀後半以降、温暖化傾向はみられ(150年間で1度程度の上昇)、CO2濃度が上昇してきたことは事実である。しかし、地球はこれまで寒冷化と温暖化を繰り返してきた。
日本史でいえば、縄文時代や中世には今日以上に温暖化した時期があった。その結果、縄文時代には海進が進み、内陸から切り離されて日本列島が形成された。縄文時代や中世温暖期に人為的CO2が増大したとは考えられないが、過去80万年の統計(南極アイスコア分析)によると温暖化したときにCO2が増大している。温暖化により海洋から大気中への放出の結果、CO2は増大するのである。「CO2説」は原因と結果を取り違えている。(近藤邦明『温暖化の虚像』電子書籍)
◆「気候変動」は「温暖化」が原因か
前述のIPCCの報告書はCO2による温暖化のため、熱波や台風・大雨など「気候変動」を引き起こしているとする。しかし「CO2説」が成り立たない以上、「気候変動」は(太陽活動の影響など)自然変動によるものである。そして近年、自然災害が増大しているかについても十分な検証が必要である。
台風を例にとると、池田清彦は「気象庁のデータを全部調べてみたが、日本は台風の数は傾向として徐々に減っているし、被害総額も昔の方がうんと大きかった」(『環境問題の嘘』令和版)とする。このように「気候変動」「気候危機」はデータによる裏付けも乏しい。
〈Ⅱ〉太陽光発電増大の問題点
何より問題なのはこのような科学的根拠に乏しい「CO2説」に基づいて経産省が「脱炭素」を名目に再エネ発電拡大や原発再稼働をすすめようとしていることである。
第6次基本計画は総発電量のうち再エネ発電について、太陽光15%(2019年7.6%)、風力6%(同0.8%)、水力10%(同7.7%)と想定する。梶山前経産相はCO246%削減達成には「現実に太陽光をどれだけ敷設できうるかということだ」(2021年6月28日付け毎日新聞)と述べる。
洋上風力発電の導入には環境への影響評価に8年程度かかるため、2030年には間に合わないためである。そこでまず再エネ発電のうち、太陽光発電増大の問題点について考えたい。
◆メガ・ソーラーによる自然破壊
「国土面積当たりの日本の導入量はすでに主要国の中で最大でパネルの置き場所は限られている」(2021年7月22日付け日本経済新聞)。このように太陽光発電の新たな立地は難しい。太陽光発電の主力であるメガ・ソーラーは自然破壊が著しいためである。今年7月に起きた静岡県熱海市の土石流でも山林を切り開いて設置された太陽光パネルが一因とされた。
静岡県は、直接的な因果関係は確認されていないとしたが、パネルの下は陽がささず、草が生えないため、特に傾斜地では土砂災害を誘発しかねない。土砂災害などの危険を恐れて住民が事業の差し止めを求めて起こした訴訟が2件以上も起きている。(2021年6月28日付け毎日新聞)
太陽光発電の自然破壊について安田陽京都大学特任教授は「山を削り、森を裸にしてパネルを設置することに規制がない一方、長年手つかずの荒廃農地は平地でも農地法の規制で原則的にパネルを建てられない。こうした政策の不調和が問題だ」(同前)。
しかし日本では食料自給率が40%を切っている。私は山村に暮らしているが、「中山間地直接支払制度」によって田畑の草を刈っていつでも耕作可能な状態を保っている。安田氏は日本の農業の現状を見ていない。河野太郎前規制改革担当相は再エネ発電拡大のために規制緩和を進めようとしたが、これ以上の農地潰しは許されない。「山を削り、森を裸にしてはならない」のと同様、農地を潰してはならない。
◆太陽光発電の不安定性・非効率性
太陽光発電は夜や雨の日にはほとんど発電しないので火力発電のバックアップが必要である。常にスタンバイしている火力発電所は急に運転したり停止するためエネルギー効率が著しく下がる。どの程度、火力発電に用いる石炭や天然ガスなどを減らせるか疑わしい。
太陽光と同じく「風まかせ」の不安定な風力発電ではアメリカのコロラド州の2009年の例によると、風の弱い、火力だけの日より風力+火力の日の方が排気ガスが激増した(武田恵世『四日市における自然エネルギー問題』四日市大学)。かえってエネルギーを余分に使いCO2削減にも役立たないというのである。
それに太陽光パネルはほとんど中国産(企業別では世界6位までが中国の工場で生産)で安い石炭火力による電力で製造されている。結局、家庭用の太陽光発電などもCO2排出を中国などに付け回しているにすぎないのである(近藤邦明 前掲書)。(つづく)
本稿は『NO NUKES voice』(現・季節)30号(2021年12月11日発売号)掲載の同名記事を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。文中での全国の原発に関する記述は、2021年当時の状況であること、あらかじめご了承ください。
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高校講師・農業。京都府福知山市在住
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