最近のマスコミ紙面を賑わせているのは「汚染水放出」「ビッグモーター」「ジャニーズ問題」「風力発電汚職」などである。その一つ一つは、それぞれの問題がありSNS上でも論議されている。しかし何か的はずれの感を否めない。

今、米国は衰退する覇権回復のために米中新冷戦を掲げ、日本をその最前線に立たせるために日本を米国の下に統合する「日米統合」を異常なほどの早さで進めている。

このことを見なければ物事の本質が見えてこないのではないか。米国とその追随勢力は何を狙っているのか。今回は最近の各「事件」を読み解きながらそれを探っていきたいと思う。

◆風力開発収賄事件 ── 米国の狙い、「日本のエネルギー自立は許さない」

先ず、地検特捜部が動いた「風力開発収賄事件」から見ていきたい。地検特捜部は米国の機関というのは常識であり、そうであれば、そこに米国が何を問題視し、何を狙っているのかが分かるからだ。

この事件は、秋本衆院議員が、洋上風力の用地入札を巡って、その入札基準をこれまでの「価格」から「早さ」に替えるように国会質問などで要求したことが、「日本風力開発」に便宜を図った収賄事件であるとして摘発されたものである。

「日本風力開発」の坂脇社長の「自前のエネルギーが日本の安全保障を支える。風力が日本にとっての石油になる」との言葉は日本の国益にもかなった正しい見解だと思う。それ故23年3月に、国交省、経済産業省も評価基準を「安さ」から「早さ」に変更している。

風力発電は脱原発であり、米国は、「それは許さない」ということだ。

何故か? 日本はエネルギーでは米国に依存している。石油もさることながら、原子力も濃縮ウランは米国が供給している。米国は日本のエネルギーを支配することで日本を従属化しているのであり、日本のエネルギー自立を絶対に許さない。それは70年代に田中角首相が「自主資源外交」を唱え、ロッキード事件で失脚させられたことでも明らかだ。

風力発電では中国が世界の先端を走っており、風車などの設備も安価なものが世界を席巻している。日本で風力発電を進めれば、中国との関係が深くなる可能性は高い。

米国は、これを警戒しているのではないか。

米中新冷戦で日本をその最前線に立て中国と対決させようとしている米国にとって、日本が「自前のエネルギー」開発を進めて、「エネルギー自立」を図ることなど許せないことであり、ましてや中国との関係を深くすることなど、わずかな兆候でも許せないことなのだ。

◆汚染水放出問題 ── 米国の狙い、「日本と中国の対決を煽る」

内外の反対を押し切って福島原発で溶解したデブリを冷却した汚染水の海洋投棄が始まった。その結果は安全であるという「処理水安全」キャンペーンが張られている。

しかし放水は、廃炉まで続けなくてはならず、政府が言う、30~40年でなど政府自身も信じておらず、世界の専門家は200年、数百年は掛かるだろうと見ている。それまでの安全性を一体どうやって保証すると言うのか。無責任も甚だしい妄言だとしか言いようがない。

その安全性はIAEAが保証していると言うが、IAEAとは米国の核覇権体制であるNPT体制のための機関であり、実質、米国の機関である。

そのお墨付きで行った汚染水放出強行は米国の後押しで行ったということであり、そうであれば米国は何故、今、汚染水放出を強行させたのかを考えなければならない。他の方法は幾らでもあり、内外の専門家も貯蔵を継続し、その間に安全な他の方法を採用すればよいといっているのに、何故、今、それを強行させたのか。

これも米中新冷戦の下で米国は日本を対中対決の最前線に立たせようとしているという関係の中でこそ見えてくる。

即ち、対中対決のためには中国敵視の雰囲気を高めなくてはならず、そのために汚染水問題をもって、それを煽るということだ。

中国は汚染水放出に反対し、それを強行すれば、相応の措置を取ると明言してきた。だから放出強行に対して中国が日本の海産物輸入禁止などの措置を取ることは当然予想されていたことであり、それを利用して反中国キャンペーンを行うことは既定のスケジュールだったということだ。

汚染水問題では、政府の見解以外は全て「偽情報」とし、マスコミもこれに従えという報道管制が敷かれている。そこでは「汚染水」と呼ぶこと自体が偽情報であり、中国が汚染水放出の停止を要求し日本の海産物の全面禁輸措置をとったことも偽情報によるものとされている。

この戦前を髣髴させる大本営報道の渦の中で、汚染水放出に反対したり疑問を抱くことは非国民にされかねない状況になっており、対中対決の雰囲気が煽られている。

「処理水安全」キャンペーンは、そのためのものだということである。

その上で、「汚染水安全」は、米国の核戦略の上からも絶対必要なものであることを見ておかなければならない。

米国の核戦略は、原発と結びついている。原発稼動の過程で出るプルトニウムが核兵器の原料になるからである。そして原発からは必然的に汚染水が出るのであり、これを海洋放棄するしかない。その「安全性」はIAEAという米国の機関が「保証」するという自分で自分の正当性を「保証」するものでしかない。

米国が核覇権を維持するためには原発がなくてはならず、「汚染水放出は安全」でなければならないのであり、そのためにも「処理水安全」キャンペーンが張られているのだ。

さらには「汚染水は安全」は米中新冷戦で日本を最前線に立て核の共有化という「核武装」させるために桎梏となる日本人の核アレルギーを弱化圧殺するためのものになるということも見ておかなければならない。

今、米国は、日本を対中対決の最前線に立たせ、敵基地攻撃能力を保有させ、それに核を搭載する核の共同保有を狙っている。そこでネックになるのが被爆国日本の核アレルギーである。そこで「汚染水は安全」から「原発は安全」にすることで日本人の核アレルギーを弱化させ解体していく。そして日本人に核戦争の覚悟をさせる。

それは、米軍が指揮権をもつ核の共同保有の覚悟、米軍の指揮によって日本が核の戦場にされるといいうことであり。米国覇権のためにウクライナのような米国の代理戦争、それも核代理戦争をやらされるということである。

◆ビッグモーターとジャニーズ ── 米国の狙い、「日本的システム」は解体する

日本の自動車業界では中古車市場が独特の地位を占めている。日本車は高品質で中古品でも海外で人気があり、多くの輸出が行われている。自動車業界もこれに目を付けて新車を中古車として売るなどしており、これは米国の神経を逆なでする実質ダンピングになっている。

自動車を所有すれば自動車保険に入らなければならない。保険会社にとって自動車保険は大きな市場。そこで損保各社が中古車販売会社に出向して、その保険を取る。そのために中古車会社が意図的に自動車に傷をつけたものも賠償する。そうした持ちつ持たれつの関係を破壊する。それは米国保険のこの分野への進出を図るものになる。

日本的システムの破壊は、日米統合のために不可欠だ。「ビッグモーター」問題で経済産業省が動き「社長の辞任だけでは済まない」と息巻いている背後には米国がある。

今、日本では米国ファンドが「もの言う株主」として様々な業界で、米国式の株主主体の会社にせよと要求しているが、日本的システムもその標的にされている。そうした関連の中で、「ビッグモーター」問題があるということを見なければならないと思う。

一方、ジャニーズ問題は、久しい以前から様々なメディアに取り上げられて来た。それが今になって、世界のメディアも取り上げる大事件、日本のテレビ業界、マスコミ、広告企業も巻き込む大事件として連日のように報道されている。

その報道ぶりに、「何故、今になって」との声も聞くが日米統合のためという観点から見れば、その疑問も解ける。

今ジャニーズは社名を「SMILE-UP」に変更し、タレントと個別にエージェント契約を結ぶ形式を基本にした経営を行う、内部通報制度を改革するなどの方針を打ち出している。

それは、米国式経営だということではないか。

日本の場合、芸能会社が強く、それにテレビ界、マスコミ界が関与して、強固な「芸能村」を形成してきた。この封建的とも言える日本的なシステムを解体し、米国が日本の芸能界や芸能村を指揮し管理する、そうした狙いがあるのではないか。

確かに古めかしい日本的システムを解体することは必要である。しかしそれを壊して米国が日本の芸能界、芸能村を取り仕切るということになってはなるまい。

問われているのは、芸能人や関係者が主体的に時代に合った新しい日本のシステムを作っていくことだと思う。

◆日米統合一体化を促進する「資産運用特区」

9月22日に岸田首相がニューヨークで講演し、「資産運用特区」を創設して、ここに外資を呼び込むという政策を発表した。

岸田首相は、これまでもNISA(小額投資非課税制度)の拡充、恒久化に取り組んできたと述べながら、今後さらに「資産運用の高度化を進め、新規参入を促進し、資産運用特区を始めとした各種の規制緩和を通じて運用能力の高い海外人材の受け入れを積極化する」と表明した。

要するに日米統合一体化を促進し、日本国民の2000兆円もの資産を外資に開放するということである。

その講演では「英語のみで行政対応を完結できるようにする」とある。90年代に規制緩和を要求してきた米国に対し、「これじゃあ、日本語も障害になると言われかねない」と笑い話し的に語られたが、今や笑い話しではなくなったということである。

岸田首相は「日本独自のビジネスルールの是正」にも言及している。上で述べたような「中古車市場」「芸能村」などのルールも日本独自のビジネスルールであって、それをなくして日本を外資が自由に闊歩するような「外資天国」にして、一体どうしようと言うのか。

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魚本公博さん

米中新冷戦で日本を対中国対決の最前線に立たせる、そのために日本の全てを米国に統合する。そこから見てこそ、物事の本質が浮き彫りになる。それは日本国民の財産を米国に売り渡し、ひいては日本の国土を米国の代理戦争、核代理戦争の場に提供するところにまで至るものとしてある。

そのようなことを決して許してはならない。今、日本には様々な問題が山積している。しかし、それを正すのは日本、日本人でなければならず、決して米国やそれに追随する者たちであってはならない。

今ほど、日本人としての主体的な対応が求められている時はないと思う。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『一九七〇年 端境期の時代』

『抵抗と絶望の狭間~一九七一年から連合赤軍へ』

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B08KGGRXRQ/

◆「汚職大国」、ウクライナ

先日、ウクライナで兵役免除と引き換えに賄賂を受け取る汚職が続出し、全州の軍部委員会トップ全員の解任が行われた。

周知のように、今、ウクライナにおいて、成人男子の出国は禁止されている。兵役を免れるため、成人男子が海外に逃亡するのを防ぐためだ。

そのウクライナで兵役免除のための賄賂が横行しているというのだ。

これは、戦争の行方を左右する大問題だ。

だが、今日、ウクライナでは、こうした由々しき深刻な汚職問題が至る所で、日常茶飯事になっている。

兵士らの食料調達や軍服購入が小売価格、通常価格の2~3倍で行われていた事実、国防省の調達責任者が使い物にならない防弾ベストを購入、調達費を着服していた事件、等々、明るみに出た事実だけでも枚挙に暇がない。

一方、政府や軍部高官の特権を使った生活や遊興も目に余るものになっている。高級住宅や別荘、高級自動車の購入や海外行楽地、避暑地での豪遊、等々、国民が戦火の中、家を失い、命を危険にさらしながら飢えに苦しんでいる時、これはあり得ないことだ。

この間、戦争勃発以来その任にあった国防相、レズニコフが更迭になったのをはじめ、少なからぬ政府、軍部の幹部、高官たちが相次いで解任になっているが、その原因も、主としてそのためだという。

そうしたウクライナを指して言われている言葉がある。それは、「汚職大国」だ。

◆「汚職大国」、その原因を問う

これまで、ウクライナと言えば、「苦難に耐え、国民皆が一致団結して、ロシアに抗戦している」、そんなイメージだった。

だが、現実はそうではない。その落差は大きい。

なぜそうなのか。それを説明するものとして出されてきているのが「汚職大国」だ。

もともと「ソ連帝国」にはびこっていた官僚主義、それと一体だった「汚職大国」がこの戦火の中で蘇ったというのだ。

ソ連の一部だったウクライナがロシアともどもそうなるのは必然だ。少なからぬ識者がそう言っている。

それも一理あるかも知れない。人間過去と無縁ではない。かつての悪弊が蘇ることは十分にあることだ。

だが、現実に今生まれている問題の原因を過去にのみ求めるのはいかがなものか。やはり今起きていることの原因は、今ある現実の中に求めるのが基本だと思う。今ある現実を見ようともせず、過去にのみ原因を求めるのは間違っているのではないか。

今ある現実で決定的なのは、このウクライナ戦争が、その本質において、ウクライナとロシアの戦争なのではなく、米欧とロシアの戦争であり、ウクライナは、その狭間で、米欧に押し立てられ、代理戦争をやらされているという事実ではないかと思う。

この戦争が勃発する以前、米英をはじめとする米欧によるロシア包囲は、甚だしいものになっていた。

この30年近く続いてきた旧東欧社会主義諸国のNATO化の締めくくりとして、ロシアと国境を接する大国、ウクライナのNATO加盟が日程に上らされていたこと、米英がその軍事顧問団や大量の米国製最新兵器をウクライナに送り込み、その対ロシア軍事大国化を推し進めてきていたこと、さらには、東ウクライナに多数在住するロシア系住民へのファッショ的弾圧と虐殺が敢行されていたこと、等々。

これらが、米国家安全保障会議で、「現状を力で変更する修正主義国家」だと中国とロシアを名指しで決めつけたのに基づき、中国に対しては、「米中新冷戦」が公然と宣布され、その一方、ロシアに対しては、その包囲殲滅への準備が隠然と推し進められてきたのがこの間の歴史的な事実だ。

この分断と各個撃破の米覇権回復戦略に対して、プーチン・ロシアが米英覇権を中ロへの二正面作戦、引いては「グローバルサウス」など非米反覇権勢力全体を敵に回す戦争に引きずり出し、米英覇権との闘いに決着をつけるため敢行したのが先のウクライナに対する「特別軍事作戦」に他ならないと言えるのではないだろうか。

この戦争において、ウクライナは、米英覇権の矢面に立たされ、米英に代わって代理戦争をやる役を押し付けられている。

この押し付けられた代理戦争の傀儡指導部がどういう精神状態に陥るか、それは推して知るべしだと思う。

事実、2019年、「米中新冷戦」が宣言された年、奇しくもウクライナ大統領に選出されたゼレンスキーが数百万ドルの別荘、十数億ドルに上る預貯金を海外数カ国に分け持ち、自らの親族は、戦争勃発の前にイスラエルに退避させていた事実は、すでに公然の秘密になっている。

なぜウクライナが「汚職大国」になったのか。そのもっとも基本的な原因がどこにあるのかは、余りにも明白なのではないだろうか。

◆問われている日本の選択

「汚職大国ウクライナ」を前にして、今、われわれに問われているのは何か。

それは、何よりも、日本の進路ではないかと思う。

ウクライナの汚職と日本の進路、それは、米覇権の運命を通して、密接に結びついている。

一言で言って、ウクライナの汚職は、米覇権の崩壊を意味していると思う。

ウクライナ戦争でのウクライナの敗北、それは、米覇権の崩壊に直結していると思うからだ。

ウクライナ戦争が始まって以来、米覇権の崩壊は一挙に顕在化した。国連でのロシア非難、ロシア制裁決議、それは、最初のほぼ満場一致から棄権、反対の続出まで、米国の意思は急速に通らなくなっていった。

国際決済機構SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication SC)からのロシアの排除など、ロシアに対する経済制裁は、ロシアの米欧市場からの撤退と中国を含む非米市場への参入から生じる世界的な物価高騰、欧米の経済危機など、むしろ米欧側により大きな被害を及ぼし、ロシアと中国など非米世界の結びつきを強め、その勢力拡大を生み出している。

BRICSやG20など世界的な諸会議でも米欧側の衰勢は顕著で、もはやその意思が影響を及ぼせるのはG7ぐらいしかなくなり、そのG7も、招請した「グローバルサウス」の国々のウクライナ戦争支持を取り付けることもできなくなっている。

ウクライナへのもっとも熱心な支援国、ポーランドまでその軍事支援中止を表明したこと、事態はここまで進展しているのだ。

こうした米欧覇権力の低下にあって、ウクライナ戦争の結果がもたらす影響は決定的だ。ウクライナ戦争での敗北は、すなわち、米覇権の最終的崩壊を意味している。

「ウクライナの汚職」に米覇権の呪縛から解き放たれた脱覇権日本の未来を見る。

それこそが今、日本に問われていることではないだろうか。

その時が近づいていると思う。

小西隆裕さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

◆代理“核”戦争国化の鍵、「有事の際の核使用協議体」

日米韓キャンプデービッド首脳会談を前にした本連載(8月5日付けデジタル鹿砦社通信)で次のように書いた。

“主要議題について「“核の傘”を含む米国の拡大抑止の強化も議論するとみられる」とすでに報道にあるように、日米韓“核”協議体創設について何らかの合意をめざす、これが米バイデン政権の狙いであろう。”

でも今回、このような合意は見送られた、しかし何としてでもこれを実現したい米国はきちんと布石を打ってきた。このことを以下、見てみたい。

なぜこれほど米国は日本の代理“核”戦争国化、そのための「有事における核使用に関する協議体」創設にやっきになるのか? 焦るのか? このことは8月5日付け本連載で詳しく述べたが、重要な問題なので視点を変えて、まずこのことを考えてみたい。

日本の代理“核”戦争国化は、米国にとって米中新冷戦戦略に必須不可欠の死活的課題だ。その理由は、対中対決で米核抑止力、特に戦域核領域、具体的には核運搬手段である戦術ミサイル(中距離ミサイル)分野では質量的に中国、朝鮮に圧倒的に劣り、「抑止」が効かない、つまり「威嚇」になっていない、そして戦争になれば必ず負けるというコンピューターシュミレーションの結果も出ている。

この劣勢挽回の切り札が「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」だ。

米国は戦略核ミサイル、ICBM(大陸間弾道弾)を使えば自国が核報復攻撃で壊滅的打撃を受けるから使う気はない。だから対中対決最前線と位置づける「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」が死活的課題になっている。

すでに岸田政権が閣議決定した「安保3文書」で敵基地攻撃能力保有、自衛隊に地上発射型「中距離ミサイル部隊」新設が決まった。最後に残った課題は、「核共有」論に基づく自衛隊の核武装化、そのためのNATO並みの「有事における核使用に関する協議体」創設だ。その切り札が韓国を巻き込んだ日米韓“核”協議体創設だと米国は考えている。

一言でいって、いまこの“核”協議体創設こそが対中対決で生死を決める最後の課題として残った。だがこれが簡単でないこともわかる。だから米国は必死だ、いやいまは焦っている。

では今回のキャンプデービッド会談でいかにその道筋をつけたか? このことについて見てみたいと思う。

◆「前のめりの米国」と書いた朝日

キャンプデービッド会談を評して朝日新聞(8月20日付け)はこう小見出しに書いた。

「前のめりの米 日韓のズレに懸念も」

「前のめり」ということは事を急いでいる、焦っているということだ。米国は何を急ぎ、なぜ焦るのか?

別の記事の見出しにはこうあった。

「日米韓、核戦略では温度差」

その内容はこうだ-「日本では核関与に前のめりな韓国への警戒心が強い」、首相官邸のある幹部は「(韓国に)取り込まれすぎるわけにはいかない」-要は「北朝鮮の核」対抗に積極的で「有事の核使用に関する協議」に前のめりの韓国に日本が引っ張られることへの警戒心が日本政府内にあるという「日韓のズレ」がある。この問題ではいちばん「前のめりの米」という朝日の評価は、「日韓のズレ」がわかるだけに「日米韓“核”協議体創設」合意を急ぎ焦らざるを得ない米バイデン政権の悪あがきを反映したものであろう。

非核を国是としてきた日本政府はできるなら国民の反発を受けるこの問題を避けたい、しかし岸田政権はこれが避けられない米国の強い要求であることもわかっている。本音は国民を説得する(世論を欺く)時間的余裕がほしいということだろう。

しかし「時間的余裕」はない。日米韓首脳会談を前に「日米韓でも拡大抑止(核)の協議を進めたい」とバイデン政権高官は述べた。そしてすでに4月末の尹錫悦((ユン・ソクヨル)大統領「国賓」訪米時、米韓間には米韓“核”協議グループ(NCG)新設が合意され7月には実務協議も稼働した、これに日本を引き入れ「日米韓“核”協議体」に発展させる、これが米国の最終的狙いだ。

このための仕掛けはすでに準備されている。

◆「仕掛け」役・尹錫悦(ユン・ソクヨル)

米国の狙う日本の対中・代理“核”戦争国化、その仕掛け役に任じられたのが韓国の尹錫悦大統領だ。

周知のように日韓関係「改善」を主導したのは尹大統領だ。彼は元徴用工賠償金問題で最悪化した日韓関係を「打開」すべく「賠償金の韓国立替」という離れ業をやった。このような韓国国民の猛反発を呼ぶ「売国行為」を敢えて犯してまでも日韓首脳会談開催につなげた。

 

『核の傘』日米韓で協議体創設、対北抑止力を強化……米が打診(2023年3月8日付け読売新聞)

尹大統領の「勇断」(バイデンの言葉)によって日韓首脳会談のメドが立った3月6日から二日後の8日、読売新聞は米国が日韓政府にこのような打診をしてきたことを伝えた。

「“核の傘”日米韓で協議体の創設」を! 

これを受けた尹大統領は4月末の「国賓」訪米時の「ワシントン宣言」に米韓“核”協議グループ(CNG)創設を謳った。これが日米韓“核”協議体創設の布石であろうことは明白だ。

今回のキャンプデービッドでの米韓首脳会談ではこのCNG稼働をバイデンが高く評価し、先述の言葉「日米韓でも拡大抑止(核)の協議を進めたい」を米政府高官に言わせた。

すでに韓国は「対北朝鮮・代理“核”戦争国化」に一歩足を踏み入れた。次ぎにこれを日本の「対中・代理“核”戦争国化」につなげる、その「仕掛け」役を「確信犯」尹大統領が果たして行くであろうことは疑いない。

◆「日韓を固定し米国を固定する」の意味

米国の執拗さと焦りの表現としてあるのが、今回の会談で日米韓首脳会談、閣僚級会談の毎年定例化、次官級協議の不定期定例化を「制度」として決めたことだ。

これを「日韓をフィックス(固定)し、米国をフィックスする」ことだと米政府高官は述べた。英語で「フィックス」は「動かないようにする」という概念だ。日本側からすれば「動けないようにされる」、縛り付けられるということになる。

読売社説はキャンプデービッド会談の意義を「今回の合意が極力継続するよう(日米韓)協力の枠組みを“制度化”したこと」としたが、制度化(固定化)しなければ揺らぐほど日米韓協力はもろいものだということの裏返しの表現でもある。

「日韓のズレ」は根強い、今回の日米韓首脳会談を論じる「プライムニュース」出演の日本の識者、政治家は「日韓の壁」「朝鮮半島の軍事は鬼門」「韓国とリスク共有は“?”、つまり疑問」とすべて悲観的だ。米国からすれば、だから日韓を「固定化」(会談の制度化)し「韓国とリスク共有」を渋る日本の尻を叩く必要があるということだ。

また韓国の尹錫悦政権は脆弱だ。大統領選でも僅差でやっと勝った、また国会は野党、共に民主党が絶対多数を占め政権側の法案も否決される場合が多い。それを強権で乗り切っているのが尹錫悦大統領だ。次期、大統領選では政権が変わる可能性が高い。だから政権が変わっても「今回の合意が極力継続するよう協力の枠組みを制度化」(読売社説)したのだと言える。

キャンプデービッドで日米韓「固定化」を強要したのも米国の焦りの表現だ。

今回、日米韓“核”協議体創設合意は見送られたが、「制度化」された首脳級、閣僚級会談、次官級協議で日本をフィックスし、がんじがらめに縛り付けた上で日米韓の「有事に関する核使用に関する協議体」創設は強引に進められるだろう。

◆「無理心中」同盟

いま西の米国の対ロ対決・代理戦争、ウクライナ戦争での米国の敗北は避けられないものになっている。

5月頃から「反転大攻勢」のかけ声勇ましいゼレンスキーだが、最近の「南部戦線でロシアの第一防御線突破」報道はあったが地雷原を越えた程度であり、2.5メートルという深い塹壕戦防御陣形をとるロシア防御線の戦車突破は至難の業だ。新聞報道ではもしこのまま冬が来ればぬかるみになる戦場で戦車も動かせなくなる。だから「戦果」を焦る米国はウクライナ軍を分散配置ではなく南部に集中させることをゼレンスキーに「勧告」、その結果がこの程度の「戦果」だ。ぬかるみが固まる来年春か初夏までゼレンスキーには何の「戦果」も得られない、「反転大攻勢」は空文句に終わる。このままでは来年以降の欧州諸国の「ウクライナ支援」は確実に動揺する、そう報道は伝えている。

ウクライナ国防相解任があったが兵士用の食糧、衣服が市場価格の2~3倍で購入され差額は汚職されたからだ。徴兵募集当局もワイロで「兵役免除」汚職蔓延で更迭改編されるなど醜態の続くゼレンスキー政権が国民から見放される日も遠くはないだろう。こんな代理戦争で誰が愛国心に燃えて「祖国防衛戦争」に命を懸けられるというのだろう。

フランスのマクロン大統領は訪中後、「欧州は対米従属を続けるべきではない」と言明して世界を驚かせた。英国を除く他の欧州諸国も心の中ではそう思っている。

ウクライナ戦争での敗北は米覇権の衰退滅亡を早める。それだけに東の米中新冷戦戦略実現に米国は自己の覇権の死活を賭けてくる。その矛先は対中対決・最前線とする日本の代理“核”戦争国化だ。

いまや「米国についていけば何とかなる時代ではない」どころか「覇権破綻の米国と無理心中するのか否か」が問われる時代になった。

今回のキャンプデービッド会談は日米韓「無理心中」同盟を日本に迫るものになったとも言える。

焦れば焦るほど米国の強引さは苛酷になるのは必至だ。岸田政権にこれを拒む力はないだろう。現在のままの野党政治勢力に期待するのも難しい。では希望はないのか?

◆希望はある

いま国民の間でタモリの「新しい戦前」という言葉が共有されつつある。これは日本という自分の国の運命を憂える心、自身の運命を日本に重ねる憂国、愛国の心の萌芽とも言える。この「新しい戦前」の正体が対中・代理“核”戦争国化、米国と「道連れ心中」の道であることが国民の共有する「身に迫る危険の正体」の認識になって、この憂国、愛国の心が大きな塊になれば、「新しい戦前」阻止の力になるだろう。


◎[参考動画]タモリ「(来年は)新しい戦前 になるんじゃないですかねぇ」(テレビ朝日『徹子の部屋』2022年12月28日放送)

いま政界再編に向けた動きが活発化している。その動きの底流には「新しい戦前」阻止の政治勢力の存在がかいま見える。

最近、岸田派(旧宏池会)古参幹部のハト派、古賀誠氏が次のような発言で岸田政権を批判した。

「日米安保に引っ張られすぎるのは危険だ」と。

古参の自民党政治家には「新しい戦前」の正体が何かはわかっているはずだ。

いま政界再編は二つの「改革」を巡るものになる可能性を秘めている。

一つは親米「改革」、日本の対中・代理“核”戦争国化、そのための日米統合「改革」推進勢力だ。

いま一つはその逆の改革を志向するいわば「新しい戦前」危惧の憂国、愛国の政治勢力だ。それはまだ萌芽にすぎないが、この政治勢力と「新しい戦前」危惧の国民の声が合体すれば大きな力になる可能性を秘めるものになる。

希望はある。だから希望実現に少しでも力になれるよう私たちも「ピョンヤンから感じる時代の風」発信を続けていく。

若林盛亮さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

私は、これまで数回に渡る本連載への投稿で地方問題を取り上げ、岸田政権の地方政策は、地方自治を解体し、地方地域を米国に差し出し日米統合を進めるものであること、これに対して「生活の砦」である地域を守る地域第一主義が台頭するのは必然であり、この力で「日本を変える」ことが問われていることを述べて来た。

こうした中、兵庫県三田(さんだ)市で「三田市長選の衝撃」と言われる出来事が起きた。それはまさに「地域から国を変える」動きとしてある。今回は、このことをもって、日米統合一体化に対し、地域第一主義で闘う重要性について、意見を述べさせて頂く。

◆影の立役者、泉房穂

「三田市長選の衝撃」というのは、7月23日開票の兵庫県三田市の市長選で、元銀行員でまったく無名であった田村克也氏(57歳)が自民、公明、立憲、国民の推薦を受け3選を目指して圧勝すると思われていた現職の森哲男氏(71歳)を破って当選したことである。

選挙の争点は三田市民病院を隣の神戸市の済々会兵庫病院と再編統合問題であり、これに反対する市民団体の公募に田村氏が応募して立候補し、氏は病院統合の白紙撤回を掲げて選挙戦を闘い、それが支持され当選した。

その影の立役者は、明石市の前市長、泉房穂氏である。

三田市は神戸市の北辺にあり、明石市の隣に位置する。その明石市で市民に寄り添う市政を実施し絶大な人気を誇る泉氏が駆けつけ「明石で出来たことは三田でも出来る。市民が主人公」と訴えた。

とりわけ効果絶大だったのが泉氏と田村氏が並んだ選挙ポスター。それを配布すると市民が続々と受け取ったそうである。そればかりか、選挙事務所には多くの市民が駆けつけ、1万5000枚のポスターも2日間で貼り終えたという。

大手マスコミの報道はなかったが、SNSメディアで大きな話題に。SAMEJIMATIMESなどは、「泉流の脱政党の『市民の勝利』」と解説していた。

明石市も他の例に漏れず「人口減」「税収赤字」「駅前の衰退」などの問題を抱えていたが、

泉氏は「弱者に寄り添う政治」「市民のための政治」を掲げ、そのための具体策で「5つの無償化」などを実行した結果、明石市は、中核都市人口増加率No.1、全国戻りたい街ランキングNo.1になった。

泉さんは、4月に任期満了で市長を辞めたが、「明石から日本を変える」と次を見据えている。2025年に兵庫県知事選、神戸市長選があり、この年の参院選が衆院とのダブル選挙になると予想し、それまで全国の自治体にアドバイスしながら支持者を広げ、「25年決戦」で勝利することを考えていると言う。

まさに、「三田市長選の衝撃」は、その第一歩となる衝撃的な出来事であった。

◆統合の行き着く先

この選挙の争点であった病院統合、こうした統合は全国各地で行われている。それは効率第一の新自由主義改革である。

それを大規模にやっているのが維新である。維新は病院の統合だけでなく、小中学校の統合、市大と府大の統合、市と府の水道事業の統合、文化施設の統合などを行っている。

維新の統合政策が問題なのは、こうして統合したものを民営化するという所にある。維新はすでに関空業務の民営化、市営地下鉄の民営化を実施しており、吉村知事は熱心な水道民営化論者である。

民営化が問題なのは、自治体がもつ各種の自治体業務の運営権を民間業者に譲渡するコンセッション方式などを考案したのは米国企業であり、結局、この民営化は、自治体を米国企業に譲渡し米国に売り渡すものになるからである。

それは大阪IR(カジノ)の例を見ても明らかだ。大阪IRは、米国のカジノ運営会社「MGMリゾーツ」がオリックスなどが出資する「IR株式会社」を前面に立てて運営する。

カジノは万博、観光インバウンドと共に維新が大阪の成長戦略とする「エンターテインメント都市 ”OSAKA”」の中に位置づけられている。それは大阪のラスベガス化であり、そこに大阪の真の発展はない。

維新は「改革」政党として人気を得ているが、その本質は大阪を米国企業に運営させるということである。勿論、それを露骨には出さない。IRの例を見ても分かるように表向きは「日本」の企業である。しかし、それを裏で繰るのは米国企業、米国であり、それは大阪のさらなる新自由主義化であり米国化だということをしっかりと見ておかなければならない。

泉さんは、維新のような「改革」ではなく「弱者に寄り添う」「市民のための」改革を目指している。そういう改革こそ人々が望む本当の改革だと思う。

◆統合、その最大の問題は日米統合にある

三田市長選での争点が病院統合であったように、今、統合は時代のトレンドの様相を呈している。しかし様々な統合が言われる中で、最大の問題は、日米統合、すなわち米国の下に日本を完全に組み込む日米統合一体化である。

米国は今、対中新冷戦を打ち出し、日本をその最前線にするために日米統合を躍起になって進めている。

前回の投稿「日米経済の統合、その異常なまでの進展」で述べたように、日米統合は、今、現実に軍事面、経済面で異常なまでの速さと深さで進んでいる。そして、地方地域も米国の下に統合されようとしている。

その手段は、IT・デジタルである。デジタル化において決定的で生命線とされるのはデータである。それ故、データ主権が言われる。しかし、日本はこれを自ら放棄している。

デジタル庁もGAFAMのプラットフォームを使い、地方では、米国IT大手のセンチュリアが手がける「全国共通プラットフォーム」が使われる。こうなれば、地方地域のデータは米国に掌握される。

その上で、地方地域を米国企業が直接、掌握管理することが進んでいる。

以前の投稿で明らかにしたことだが、総務省がIT人材を民間の人材派遣会社と協力して行う方針を打ち出したこととか、統一地方選の低調さをもって「地方議会の活性化」として関連会社員、公務員の議員兼務を禁じている条項をなくして兼務を容認する案や「首長のいない自治体の容認までが取り沙汰されているのも、そのための布石だと見ることが出来る。

すなわち日本の地方自治を解体し地方地域を米国が直接、掌握管理する。こうして地方地域を米国の下に統合する。こうなれば地方から日本は変えられてしまう。

◆地方から日本を変える戦いとして

泉さんは「明石から日本を変える」と言う。それは「地方から日本を変える」ということであり、米国と日本政府による「地方から国を変える」戦略に真っ向から対決するものになるし、そうならなければならないと思う。

地域の衰退は歯止めが掛からない状況である。産業は衰退し少子高齢化が進み、基礎自治体である市町村の中でも弱小自治体は、存亡の危機に直面している。その上、岸田政権による軍事費増大政策のための増税、物価高騰が国民生活を直撃する中で「生活の砦」である地域を守る志向は切実になっており、それは全国的なものになっている。

今や、それは左右のイデオロギーの違いや党派の違いを乗り越えた、地域を自己のアイデンティティとして、これを守ろうという地域第一主義の要求になっている。

地域を守る志向、地域第一主義は、米国による日米統合一体化に反対し日本を守ろうとする意識と結びつくし、そうなってこそ、より広範で力強いものになる。

泉さんが、日米統合一体化に反対しているかどうかは分からない。しかし市民主体、弱者に寄り添う政治を目指せば、必然的に、そうならずにはおかないだろう。

泉さんが想定する「25年決戦」の勝利を大いに期待している。

そのためには、地域の力を如何に結集するかである。私が、これまで地域第一主義として評価してきた、「れいわ」や「共同性の復活」を訴える杉並区の岸本聡子さんの運動、反維新で「住民自治を取り戻す」ことを掲げる「アップデートおおさか」の谷口真由美さん、北野妙子さんのなどとの連携、全国各地で無数に起きている地域を守る運動との連携も当然視野に入っているだろう。

 

魚本公博さん

そればかりではない。維新の馬場代表が「今後、自民が『改革派』と『守旧派』に分裂すれば改革派と合流する」と述べているが、そうであれば、この「守旧派」とも手を組むべきではないだろうか。

地域で生き残りを掛けて地域振興を必死で行っている人たちは多い。今、地方銀行が中心になって地域を振興させる地域商社が注目されているが、こうした動きなどとも連携し地域の力「地元力」を総結集していけば、それこそ日本を変える大きな政治勢力になると思う。

日米統合一体化を阻止し、米中新冷戦、対中対決戦の最前線としての日本の代理戦争国家化を阻止することが何よりも問われている今、「三田市長選の衝撃」を現出した泉房穂氏の運動が発展することを願っている。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『一九七〇年 端境期の時代』

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◆低下した米国人の愛国心

今年3月、ウォールストリート・ジャーナル紙とシカゴ大学の合同最新世論調査結果が発表された。それによると、この間、米国人の愛国心には非常に注目すべき変化があったという。愛国心が極めて重要と答えた人が全体の38%、ある程度重要と答えた人が35%だった。これは、1998年度における同様の調査で、極めて重要と答えた人が70%だったのに比べた時、驚くべき変化だという。

同様の結果は、ギャラップ社の調査からも報告されている。昨年、米国の建国記念日当日、この日を米国人として非常に誇りに思うと答えた人は38%に過ぎなかった。2001年以来、同社の調査で、55%を下回ったことは一度もなかったことを考えた時、この急激かつ大幅な下落は、一体何を意味しているのだろうか。

これまで、移民の国と言われ、多様な人種、宗教などからなる米国を一つにまとめる精神的拠り所として、愛国心は決定的だった。そこにこそ、建国以来、南北戦争など幾多の危機を乗り越えてきた米国のエネルギーの源泉があったと言うことができる。

その愛国心が今なぜこうなってしまったのか。その原因について考えるのは、意味のあることだと思う。

◆なぜ低下したのか、米国人の愛国心

米国人の愛国心低下の原因について考えた時、それは、第一に米国人自身の変化に、第二に米国という国そのものの変化に求めることができる。

第一について言われているのは、米国人の個人主義の深まりだ。

先のウォールストリート・ジャーナル紙は、「多くの人々が自分の権利をより重視するようになり、並行して自分のコミュニティへの関与の度合いが減ってきている。米国人としての共通の価値観よりも、それぞれが持つ異なる人種的、文化的バックグラウンドへ関心が集まり始めている」というある塗装業者(33歳)のコメントを載せている。

それも一理あると思う。だが、個人主義の深まりは、何も今に始まったことではない。

移民の国、米国の共同体としての歴史は長くない。もともと強い個人主義、それが米国の特徴だと言われてきた。

その上に、グローバリズム、新自由主義がそれを一段と促進したのは事実だと思う。「国の否定」、「格差、差別の拡大」、そこから少なからぬ人々が自らの人種的、文化的バックグラウンドに関心を持ち、自分の世界、自分の価値観に引きこもるようになったのは十分に考えられる。

しかし、それだけではない。米国人の愛国心低下の原因として一層深刻に考えられるのは、米国という国そのものの変化だ。一言で言って、米国が米国人にとって、愛し信じて誇るべき国ではなくなってしまったと言うことだ。

今世紀に入りながら、米国の政治は「1%のための政治」と言われ出した。長期に渡る経済停滞と拡大する貧困、産業の空洞化と寂れ行くラストベルト地帯、それとは対照的に、繁栄と栄華の極みを尽くす「金満ウォール街」。

一方、イラク、アフガン、シリアへと続く反テロ戦争の広がりと泥沼化。米国人にとって、それは、「世界の警察」としての虚構が完全に打ち砕かれる過程であったのではないか。

それに加えてさらに深刻なのは、人種、民族が融合しているのではなく、サラダボール状になっていると言われる米国社会のさらに深まり拡大する分裂、分断だ。それは、泥仕合の様相を呈する民主党と共和党の対立激化などと相まって、収拾のつかないものになってきている。

人々が身を委ね、運命をともにする国としての体をなさなくなってきている米国にあって、人々の愛国心が低下するのは必然だと言えるのではないだろうか。

◆戦後日本政治と愛国心

戦後日本の政治にあって、愛国心が主張されたり、人々の愛国心に訴えて政治が行われたりすることがほとんどと言っていいくらいなくなった。極少数の極右の人々を除き、右も左も愛国心は、禁句になった感がある。

「愛国」で始められた第二次大戦は、それへの裏切りで幕が下ろされた。以来、日本の政治において、「愛国」は、軍国主義の代名詞とされ、ほとんど使われないようになった。

もう一つ、戦後日本政治で「愛国」が言われなくなった理由がある。そこに介在していたのは、もちろん「米国」だ。

元来、他国を支配し統制する覇権と愛国は相容れない。と言うより、覇権国家にとって、被覇権国家の国民が持つ愛国の心は邪魔者であり敵対物だ。実際、米国による日本に対する覇権は、日本人の愛国心の抑制の上に成り立ってきたと言っても過言ではない。

だから、米国にとって、戦後日本政治で「愛国」が軍国主義の代名詞になり、禁句になったことは、もっけの幸いだったと言えると思う。

そうした条件の下、米国は、日本をただひたすら「米国化」してきた。その結果、メシからパンへ、石炭から石油へ、日本の社会と経済、政治、軍事から文化に至るまで、そのあり方の総体が米国化されたと言っても決して過言ではない。

そして今、米国は、自らの覇権回復戦略、「米対中ロ新冷戦」を引き起こしながら、その最前線に日本を押し立て、日本に「東のウクライナ」として対中対決の代理戦争をやらせるため、今まさに日本の米国化を全面化してきている。駐日米大使ラーム・エマニュエルがその大使への指名承認公聴会で「日米統合」に力を尽くすことを誓ったのはそのことだと言うことができる。

事態は簡単ではない。もはや日本人の愛国心そのものが風前の灯火となり、完全になくされてしまう時が来たということか。

だが、そんなことにはならないと思う。スポーツなどで、日本人や日本チームを応援する心、その活躍を喜ぶ心は、愛国心ではないのか。科学技術などで、日本の立ち後れを知った時、それを残念に思い悔しい思いを抱くのも愛国の心ではないのか。

自分の国、自分の故郷や家族、自分の集団を思い、気に掛け、愛するのは、社会的で集団的な存在である人間の本質的な特性だと言える。

今、日本に求められているのは、そうした日本人自身が持つ愛国の心に応え、訴える政治をすることだと思う。それこそが日本を「東のウクライナ」への道から救い出す唯一の道ではないだろうか。

◆今、求められる真の愛国政治

戦前、日本政府は、うち続く帝国主義相互間の覇権抗争の中、日本国民の愛国心を利用して、「鬼畜米英」を煽り、帝国主義間抗争に勝ち抜く「愛国心」をたきつけて軍国主義をやり、あの戦争を敢行した。

こうした戦前の政治と今、「米対中ロ新冷戦」を前に日本に提起されている政治、この二つの政治の間には、前者が帝国主義為政者の侵略的野望から出発し、日本国民の愛国心をそれに利用したのに対し、後者が日本国民自身の持つ愛国の心から出発し、為政者がそれに応え訴えることが問われているという本質的な違いがある。

この本質的違いを前に、今の為政者に問われていることは、自分の政治的、政策的目的、意図から出発し、その実現のために国民の愛国心に対するということがあってはならないということではないだろうか。もし、自分の政治的、政策的目的のために国民の愛国心を利用するということがあったなら、それは、戦前の帝国主義者と同じであり、国民の愛国心を奮い起こして米国の策謀を打ち破ることは決してできないと思う。徹頭徹尾、国民大衆の愛国の心から出発し、その実現のために闘うこと、この真心にのみ闘争勝利の鍵があるのではないだろうか。

今は、帝国主義覇権の時代ではない。戦後78年、生き延びてきた米覇権も、国と集団そのものを否定する究極的覇権思想、グローバリズムと新自由主義が破綻する中、覇権生き残りの最後の手段、「米対中ロ新冷戦」にしがみつきながら、ウクライナ戦争とともにその最後の時を迎えているように見える。

覇権VS愛国、時代は、明らかに反覇権・自国第一・愛国の時代になっている。先の広島G7にあって、招待されたグローバル・サウス諸国のゼレンスキー支持拒否の一致した行動は、そのことをこの上なく明瞭に示していた。

この世界に広がる愛国の時代に、日本国民の間に生まれた「新しい戦前」、脱戦後の意識、まさにこうした自分の国である日本を憂いながら、あくまでそこに身を委ね、運命をともにする国民大衆の愛国の意識に応え訴える闘いを起こしていくことこそが今切実に求められているのではないだろうか。

小西隆裕さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

◆キャンプデービッド日米韓首脳会談の目的-日米韓“核”協議体の創設

8月6日は「原爆投下の日」、8月15日は「敗戦の日」(一般には「終戦の日」)としてわが国で全民族的、全国民的な「歴史の記憶」が刻まれた日、その悲惨な記憶の教訓から「非戦非核の誓い」が生まれた日だ。敗戦後の日本はいわゆる「一億総懺悔」と言われるが、これは決して懺悔ではない。そういう意味で8月はわれわれ日本人にとって大切な民族的良心、国民的良心の象徴、「非戦非核の誓い」の月間だと言える。

その8月の「歴史の記憶」の日々直後の8月18日、岸田首相は訪米する。日米韓首脳会談に臨むためだ。それは「非戦非核の誓い」を愚弄するものになるだろう。

今回の3ヶ国首脳会談のためにバイデン大統領は合衆国大統領別荘キャンプデービッドで会談を行うと表明した。キャンプデービッドでの首脳会談はこれまで数々の外国首脳との重要会談が行われ、わざわざ「キャンプデービッド会談」と特別扱いで呼称される。そのキャンプデービッドで行う今回の日米韓首脳会談をいかに米側が重視しているかを象徴するものだ。

主要議題について「“核の傘”を含む米国の拡大抑止の強化も議論するとみられる」とすでに報道にあるように、日米韓“核”協議体創設について何らかの合意をめざす、これが米バイデン政権の狙いであろう。

すでに米韓の間には米韓“核”協議グループ(NCG)創設がG7広島サミットを前にした4月末の尹錫悦(ユン・ソクヨル)「国賓」訪米時に合意されている。このNCGの狙いは広島サミット時の日米韓首脳会談でこれに日本を引き込むことだった。ところがこれはバイデンの国内政治混乱で急遽、帰国という「突発事故」で実現しなかった。8月の派手に演出されたキャンプデービッド会談は広島サミット時にできなかった日米韓“核”協議体創設合意を日本に飲ませること、これがバイデン米国の狙いであろうことは明らかだ。

日米韓“核”協議体、それはNATOのような核使用に関する協議システム、NATO並みの米国と日本との「核共有」システム、有事には自衛隊も米国の核使用を可能にする「拡大抑止」協議システムの創設が米国の狙いだ。

その究極の狙いは、日本の対中(朝)代理“核”戦争国化にある。これが現在の米国の日本への要求、戦後日本の非戦非核の国是放棄を迫る「同盟義務」遂行要求だ。

具体的には、米国の戦術核を自衛隊の地上発射型の中距離ミサイルに搭載可能にすることだ。なぜかと言えば、米国は自国から発射するICBM(大陸間弾道弾)は使わない、相手国の核報復攻撃で自国が壊滅的被害を受けるからだ。だから日本列島を対中(朝)・中距離“核”ミサイル基地化して「拡大抑止力強化」を図る。言葉を換えれば、自分を後方の安全地帯に置いて日本に対中(朝)代理“核”戦争の最前線を担わせる、これが米国の隠された陰険かつ邪悪な企図だ。

対ロシアで米国がウクライナでやっていること、それを対中国で「同盟義務」として日本にやらせる卑劣で危険なこの米国の企図を知ってか知らずか野党もマスコミも誰も問題にしていない。とても危険なことだ。だからこの通信の場を借りて強くその危険を訴えたいと思う。

◆周到に準備された日米韓“核”協議体創設

「日本の代理“核”戦争国化」などというと「ピョンヤンからの極端な見解」「杞憂」と思われるかもしれない。でも現実はそのように動いて来たし、今その実現段階にまで迫っている。そのことを以下、述べたい。

これまで米国は用意周到かつ注意深く推し進めてきた。それだけ日本人の「非戦非核」意識を警戒し、いかに細やかな注意を払ってきたかということ、それは逆に米国の本気度を表しているということではないだろうか。

起源は、2017年末に行われた米国家安全保障戦略(NSS)改訂にまで遡(さかのぼ)る。トランプ政権下で改訂された米NSSの基本内容は以下の二点に集約される。

① 主敵を中ロ修正主義勢力としたこと。

「現国際秩序(米覇権秩序)を力で変更しようとする危険な修正主義勢力」として中国とロシアを「強力な競争相手」、主敵と規定した。ここから今日の対中ロ新冷戦体制づくりが始まったと言える。

②「米軍の(抑止力)劣化」を認め、これ補う「同盟国との協力強化」を打ち出したこと。

このNSS改訂に基づき「同盟国」日本への「同盟義務」圧力を米国は加え始めた。

その「同盟義務」とは、「米軍の劣化」を補う自衛隊の抑止力化(攻撃武力化)、専守防衛という「盾」から「矛」への転換であった。

これはすでに昨年末の岸田政権の国家安全保障戦略改訂、「安保3文書改訂」の要である「反撃能力(敵基地攻撃能力)保有」で現実のものとなった。

しかし単なる「自衛隊の矛化」、反撃能力保有だけが米国の目的ではない、より本質的な狙いは「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」、具体的には「核共有」論に基づく自衛隊の核武装化による日本の代理“核”戦争国化にある。

以下、このためにいかに米国が周到な準備を進めてきたかを見たい。

その先駆けは2021年、米インド太平洋軍が「対中ミサイル網計画」として、日本列島から沖縄、台湾、フィリッピンを結ぶいわゆる対中包囲の「第一列島線」に中距離ミサイルを配備する方針を打ち出したことだ。米軍の本音は日本列島への配備であり、しかも計画では米軍は自身のミサイル配備と共に自衛隊がこの地上発射型の中距離ミサイルを保有することも暗に求めた。

 

2023年1月23日付読売新聞

その2年後の今年、1月23日の読売新聞は大見出しにこう伝えた。

「日本に中距離弾、米見送り」(読売朝刊)と。

その記事はこう続く。

「米政府が日本列島からフィリピンにつながる“第一列島線”上への配備を計画している地上発射型中距離ミサイルについて、在日米軍への配備を見送る方針を固めたことが分かった」

その理由はこう説明された。

「日本が“反撃能力”導入で長射程ミサイルを保有すれば、中国の中距離ミサイルに対する抑止力は強化されるため不要と判断した」と。

「安保3文書」で「反撃能力の保有」、長射程ミサイル保有を決めた日本が米軍の肩代わりをしてくれるなら「在日米軍への中距離ミサイル配備は不要」という論法だ。

「安保3文書」では「反撃能力保有」の要として「陸自にスタンドオフミサイル部隊の新設」が盛り込まれた。この陸上自衛隊の新設部隊が「中国の中距離ミサイルに対する抑止力」として米軍の肩代わりをする役目を帯びることになるということだ。スタンドオフミサイルとは敵の射程外から発射できるミサイル、わかりやすく言えば長射程の中距離ミサイルのことだ。「中距離ミサイル」と言わずにわざわざ日本人にわかりづらい英語表記を使うところにも、国民にわからないように事を進めていくことにいかに神経を使っているかを示すものだ。

なんのことはない、「日本に中距離弾、米見送り」の真意は米軍に代わって自衛隊が対中ミサイル攻撃をやれ! ということだ。

そして次には自衛隊のミサイルへの“核”搭載問題を解決することだが、これは非核三原則など非核意識の高い日本に強要するのは難題と米国は見ており、注意深く巧妙に「拡大抑止力」提供という形で議論を進めてきた。

昨年5月、バイデン訪日時の日米首脳会談で米国が日本への核による「拡大抑止」提供を保証したが、この時、河野克俊・元統合幕僚長は「米国から核抑止100%の保証を得るべき」だが、「それはただですみませんよ」と日本の見返り措置、その内容を示した。

「いずれ核弾頭搭載可能な中距離ミサイル配備を米国は求めてくる、これを受け入れることです」と。

この時点では米軍基地への核搭載可能な中距離ミサイル配備だが、先に述べたように陸自新設のスタンドオフミサイル部隊がこれを肩代わりすることになる。

自衛隊ミサイルへの核搭載を可能にするためには、「米国の核」提供、「核共有」の合意が必要だ。

この頃から安倍元首相が、米国との「核共有」の必要性を執拗に主張し始めた。この主張を実現するのがNATOのような核使用に関する協議システム、「日米核協議の枠組み」、日米“核”協議体の創設が必要となる。

ここで登場したのが、「北朝鮮の核に対抗」に積極的な尹錫悦韓国大統領だ。

尹大統領は「土下座外交」の非難を受ける政治的リスクを伴う元徴用工問題で大幅に譲歩してまで今年4月の日韓首脳会談実現を主導した。

尹大統領の「勇気ある政治的決断」(バイデンの評価)で日韓首脳会談開催が決まるや、即米国は動いた。

 

2023年3月8日付読売新聞

読売新聞(3月8日朝刊)は一面トップ記事で日韓正常化の動きを受け米政府が「“核の傘”日米韓協議体」創設を日韓に打診していることをワシントン特派員がリークした。

この読売記事では、「韓国は有事に備えた核使用の協議に関心を示している」が問題は日本政府だとして岸田首相に「有事に備えた核使用の協議」、すなわち日米「核共有」の議論に踏み込むことを暗に求めた。

この記事を裏付けるように4月末、尹錫悦大統領「国賓」訪米時に日本に先駆けて米韓“核”協議グループ(NCG)創設が合意された。これは7月G7広島サミット時の日米韓首脳会談を念頭に置いたものだったが、上述のような経緯からこの8月のキャンプデービッド会談で日米韓“核”協議体創設が話し合われ合意されることになった。

以上、見てきたように、NATO並みの「核使用に関する協議体」設置を日本との間で合意するために米国は周到に準備し、韓国大統領まで動員してその実現にこぎつけたことがわかると思う。

日本列島の中距離“核”ミサイル基地化、日本の対中(朝)代理“核”戦争国化、それは極論でも杞憂でもない、米国は本気だ。そのことを強調したい。

◆米国の最大の障害は「核に無知な日本人」

バイデンは尹錫悦大統領や岸田首相は容易に操ることはできるだろうが、日本国民の「非戦非核」意識はそう簡単に揺らぐものでないことを知っている。だからこそ米国は「核に無知な日本人」に対する宣伝攻勢を今後、かけてくるだろう。

それはすでに始まっている。

これについてはデジタル鹿砦社通信5月4日号「対日“核”世論工作の開始-G7広島サミット」で詳しく述べたので、ここでは概略のみ述べるに留める。

「日本の最大の弱点は、核に対する無知だ」!

「安全保障問題の第一人者」とされる兼原信克元内閣官房副長官補(同志社大学特別客員教授)が読売新聞主催のG7広島サミット開催記念シンポジウム(4月15日)でこう断言した。

このシンポジウムへのメッセージで川野徳幸・広島大平和センター長は、「今後、核廃絶の理想と、米国の“核の傘”に守られている現実の隔たりが深刻化するかもしれない。それでも、その葛藤から逃げずに議論するべきだ」と現実の核の脅威から「逃げずに核抑止を議論」すべきことを訴えた。これを読売新聞は「広島の声」として掲載した。

こうした議論がすでに起こっているという事態は尋常ではない。

キャンプデービッド会談で日米韓“核”協議体創設の合意は、おそらく日本人の「非核意識」を刺激する「核共有」までは踏み込まない穏便な形でなされるだろう。

しかしその後は「ロシアのウクライナでの核使用の危険」「中国や北朝鮮の核軍拡の危険」という「核の脅威」を煽り、米国からの「核の傘の保証」を得るためには「核抑止力強化の議論」から逃げてはいけないという議論が起こされるものと思われる。

おそらく「非核三原則」を守れ! 式のこれまで通りの受動的な反対論だけでは、米国の本気度には対抗できないと思う。

日本を対中対決の最前線にするのか否か、中ロ(朝)を脅威と見てこれに対抗するという選択肢が日本にとっていいのか否か、究極的には日本の安保防衛政策はどうあるべきか、日米安保基軸を続けていくの否か、非戦非核基軸の安保防衛政策はどのようであるべきか、こうした議論が問われてくると思う。

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若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

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◆株価上昇の中で進む日米経済の統合

今、日本では株価が上昇している。6月8日には33年前のバブル期の最高値を超え、3月下旬から「買い」が「売り」を上回る買い越しになり、買い越し額は6兆円に上り、その後も上昇は続いている。マスコミは、その原因を「外国勢の熱気」とするが、その主役は米国の投資ファンドや機関投資家である。

株価上昇をもってマスコミなどは「日本経済復興のチャンス」と言い、親米アナリストの中には「30年前の黄金時代の到来」などと言う人までいる。しかしバブルは必ず破裂するからバブル(泡)なのであり、30年前のバブルも破裂し、その後の「失われた30年」となったのではないか。

問題は、「失われた30年」に呻吟し、貿易赤字も累積する日本経済の実態を前に、何故、米国勢が「日本買い」を始めたのかである。すなわち、米国が米国ファンドに日本の株を買わせ、株価を上昇させる狙いは何なのかである。

そこで考えられることは、経済の日米統合一体化である。

米国覇権の衰退著しい米国は、追い上げる中国を抑えるために米中新冷戦を仕掛け、ここに「民主主義陣営」を結束させ米国を支えるようにすることで覇権回復を狙っている。

日本は、この最前線に立たされており、EUなどが中国との対決に及び腰な中、日本が決定的になっている。そのために日米経済を統合させる。駐日大使エマニュエルは大使就任の是非を問う米議会上院での公聴会で「世界一位の米国経済と三位の日本経済の統合させる」と明言している。

日米統合は、軍事、経済、教育、地方、社会保障などあらゆる分野で行われている。その中でも社会の基礎である経済の日米統合が異常なまでの速度と深度をもって進んでいる。

最近の際立った動きは、軍需産業と半導体産業での日米統合である。軍需産業は安保政策と関連する重要産業であり、半導体は産業のコメとして経済の基礎を規定する重要産業である。その統合は「指揮と開発」の二つの側面で行われている。それを以下に見て行く。

◆軍需産業の日米統合

軍事での統合、その指揮の統合は、昨年12月に決定された「国家安全保障戦略」で、従来の「統合幕僚監部」が持つ3軍への指揮命令権を新設の自衛隊「統合司令部」に委譲した。そして、この「統合司令部」に米国のインド太平洋軍の将官が常駐配備される。こうして米軍指揮の下での指揮の統合が進んでいる。

その米軍の指揮の下、軍需産業の「共同開発」が進んでいる。

昨年12月には、GNPの2%を目標に27年までに47兆円もの軍事費拡大が決定され、反撃能力(敵基地攻撃能力)装備のための開発なども決定された。

反撃能力とは中距離ミサイルを装備するということであり、米国も持っていない極超音速や変則飛行の最新ミサイルを「共同開発」するということになる。

そのカネは日本が出す。カネばかりではない。米国は日本の固体燃料技術に関心があると言われており、日本の技術も米国との「共同開発」で米国に持って行かれることになる。

先の国会で成立した「防衛財源確保法」は、防衛財源確保を最優先して、他の社会保障などの財源を減らし、後代の負債となる国債を発行するものとなっている。

そして同時に成立した「防衛産業支援法」。ここでは、武器輸出が問題になっている。

米国にとって軍需産業は大きな利潤を生む輸出産業だということだ。共同開発したミサイルや武器も輸出しなければ儲けにならないからだ。

そこで「防衛産業支援法」は、武器輸出を可能にすることに主眼が置かれている。

日本は、これまで「武器輸出三原則」で武器輸出は禁止してきた。これを安倍政権時に「防衛装備移転三原則」に変え、米軍との共同軍事活動で様々な装備品を提供できるようにしたが、今回は共同開発された武器の輸出である。そこで考えだされた口実は、「同志国への輸出は、安保協力になり中国抑止に繋がる」というもの。もう一つの口実は、「共同開発されたものは日本の輸出に当たらない」というもの。

こうして日本は武器輸出国にされようとしている。まさに「死の商人」国家化である。

さらに注意すべきは「防衛産業支援法」で、事業継続が困難な企業を一旦国有化することが検討されていることだ。明治時代の官営工場払い下げを髣髴させるが、今回の払い下げは、米国軍需企業の関連会社になるだろう。国民の税金を使って国有化し、それを米国に安く払い下げるということである。

◆半導体産業での日米統合

半導体は産業のコメと言われ、経済の基礎である。その半導体産業も米国との共同開発になる。米国の半導体生産は、DARPA(米国防高等研究計画局)が指揮しており、日米の共同開発は、その指揮を受けることになる。

今、日米が共同で開発・生産しようとしている半導体は、パワー半導体、ロジック半導体などと言われる新世代半導体であり、EVなどの電力制御用にSIS素材(基礎板素材に炭化ケイソSISを利用)を使った最新の半導体である。

この半導体についてはIBMが一昨年、「開発の目途はついた」として、共同生産を持ちかけていたものだ。即ち、基本設計はIBMなど米国企業が担い、日本は部材、製造装置を使って、新半導体を生産するということである。

広島G7を前に米IT企業トップが来日し、岸田首相が彼らと面談し協力を要請したが、そこでimec副社長マック・ミルゴリは「(日本の)世界最高峰の素材企業は大きな力」「政府の全面的、継続的支援が欠かせない」「人材育成や補助金などが政府の役割だ」と述べている。

すなわち、日本の産業力、技術力、そしてカネも日本に出させ、旨味は米国が持って行くということである。

半導体生産には膨大な資金が必要であり、一つの工場だけでも1兆円になる。それを毎年更新しなければならず、総体的には100兆円が必要だとされている。すでに熊本の(台湾積体電路製造)には6000億円、北海道のラピダス工場建設に3000億円の政府支援が決まっているが、広島のマイクロン・テクノロジー、三重県での米半導体大手のギオクシアなどの工場建設でも同様の支援策が取られるだろう。

こうした中、JSR(東洋ゴムから派生した企業で、フォトレジスト(感光剤)で世界シェア3割)を経済産業省所管の官民ファンド「産業革新投資機構」が1兆円で買収した。CEOのエリック・ジョンソン氏は、「この買収はJSRが持ちかけた」としながら「日本の会社は規模が小さい」「初日から再編に向け始動する」と述べ、買収後、非上場にしてM&Aや事業への大型投資を進めると述べている。

要するに日本にカネや技術を出させ、実利は米国が持って行くということであり、東芝の上場停止などと共に警戒を要する事例である。

◆米国による日本企業支配の動き

株高の中で、見ておかなければならないのは、米国ファンド、機関投資家が「物言う株主」いわゆるアクティビストとして、日本企業の指揮権を握る動きを示していることだ。

それは6月に集中した株主総会での米国勢の動きに見てとれる。これまで株主総会の主役は「総会屋」であった。しかし、今年から主役は米国の投資ファンドや機関投資家になった。彼らの要求の基本は、「企業統治改革」である。そのために「社外取締り役」を増やし、「情報公開」し、現経営陣は退陣しろというものである。しかも、その対象はトヨタやキャノン、セブン&アイ、電力会社など名だたる有名、大企業にまで及ぶ。

こうした米国ファンドは「バリューアクト・キャピタル」など米国の「議決権行使助言会社」の指導に従って動いており、米国が官民一体となって日本企業の指揮権を奪い、直接管理することを狙っていることを示している。

今年の株主総会では、トヨタやセブン&アイ フォールディングス、キャノンなどの経営陣の退陣要求は否決されたが、エレベータ大手の「フジテック」、海上建設大手の「東洋建設」などの現経営陣の退陣は可決された。日産もルノー(大株主はフランス政府)からの外部取締役が解任され、IBM勤務の人物が社外取締り役に選任されている。

今年の総会では沖縄を除く8つの電力会社の経営陣がトラスト価格の問題で矢面に立たされたが、会社の不祥事や個別案件などをもって、株主提案による株主総会開催も増え、米国ファンドによる日本企業の支配は今後一層進むだろう。

米国株主が日本企業の指揮権を握るようになれば、それは最早、日本の会社ではなく米国の会社である。日本の名だたる企業が米国の会社になれば、経済全体が米国のものになる。

経済がそのようになれば、日本社会そのものが米国化し日本人も米国化し、日本という国は米国に溶解された国とは言えない「国」になってしまうだろう。

◆日米統合を支援し促進する「骨太方針」

このような日米経済統合をあろうことか、日本の政権である岸田政権が積極的に支援している。

6月19日に発表された骨太方針は、「時代の転換点といえる課題の克服に向け、大胆な改革を進めることにより新時代にふさわしい経済社会を創造する」と謳う。

その大胆な改革とは「新しい資本主義実行計画改訂版」で示す「労働市場と企業組織の硬直化など日本の構造問題」の改革である。

すなわち、終身雇用、年功序列型賃金に象徴される、日本型の労働や企業統治のあり方を米国式の株主資本主義に「改革」するということである。それは米国ファンドの要求と同じものだ。

その上で見逃せないのは、「経済財政運営と改革の基本方針」で、「2000兆円の家計金融資産を開放し世界の金融センターを目指す」(原案では「資産運用立国」を目指す)としていることである。

日米経済の統合のためには、軍需産業や半導体生産で見たように膨大な資金が必要になる。

岸田政権は、そのために社会保障費を削減し増税や後代に負債を強いる国債発行を準備しているが、それでも不足する。そこで目を付けたのが2000兆円の国民資産である。

そのための「資産所得倍増プラン」では「金融経済教育推進機構」を作りアドバイスすることや「資産運用会社の体制強化」「新規参入の支援、競争促進」が盛り込まれている。これまで日本の資産運用は、日本の銀行や証券会社などが行っていたが、これからは米国系の運用会社にも、それを「開放」するということだ。これも米国ファンドの動きを後押しする。

株式投資は投機でありトバクである。その害毒性は30年前のバブル崩壊、その後の「失われた30年」で骨身に染みたことではないのか。それなのに、なけなしの国民の資産まで投機・トバクに回せなどとは、「売国・棄民」行為以外の何ものでもない。

◆日本の企業を守り、日本を守ることが問われている

 

魚本公博さん

トヨタの豊田章男会長は涙ながら留任を支持した株主への感謝を述べたが、その涙には、米国による日本企業の指揮権掌握策動への忸怩たる思いが込められているように思う。

トヨタは、今年の株主総会で米国の投資ファンドがアクティビストとして、現経営陣の退陣を要求してくるだろうと予想し、その対策を立てていた。

トヨタは、中国との関係が深い。対中新冷戦を提起する米国がこれを快く思っていないことも分かっていた。また、トヨタイズムなどトヨタの企業風土、経営方式が米国の求める株主資本主義と合わないことも分かっていたからだ。

そうした米国の意図に対しトヨタを守れと、退陣要求を否決した日本人株主への感謝。さらには日本の企業を支えるべき日本政府の米国ファンドに加勢するような姿勢への無念さなどが込められた涙ではなかったか。

米国が日本経済を統合し、そのために日本企業の指揮権を奪い、それによって日本という国をなくそうとしており、それに抗すべき日本の政府までもが、その策動を後押ししている中で、日本の企業を守り、日本を守ることが切実になってきている。

すなわち愛国。日本と似た境遇の欧州でも世界的な米国離れの中で、自国第一主義が台頭している。これをポピュリズム、極右と決めつけることはできない。そこに「愛国」の心を見なければならないのではないか。グローバルサウスも自国第一主義であり、愛国ではないのか。

私たち国民にとって国とは何か。その重要さに思いを致し、自国第一や愛国を捉え直す、そうしたことが今切実に問われているように思う。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『一九七〇年 端境期の時代』

『抵抗と絶望の狭間~一九七一年から連合赤軍へ』

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◆「解散・総選挙」騒動

昨年7月、参院選での圧勝により、自民党は、「黄金の三年」を迎えた。向こう三年間、国政選挙なしに好きに政治ができると言うことだ。

一方、長期に渡り続いて来た自民、公明の選挙協力には、ひびが入って来た。自民側の選挙での協力拒否に怒った公明側が東京都での自民との選挙協力について破棄を言い渡してきたのだ。

岸田首相の口から「解散・総選挙」の話が漏れたのは、そうした中でのことだった。

「寝耳に水」とはこのこと。誰もがこの報には耳を疑った。特に慌てたのは、当の自民党だったのではないのか。「こんな時に総選挙をなぜやるのか。敗北必至だ」という声が挙がる一方、親米派第一人者、麻生太郎氏からは、「一人でできない奴は資格がない」という声が挙がるなど、党内は右往左往だ。

自民党、そして全政界を巻き込んだすったもんだの末、「今国会中は選挙はやらない」の岸田首相の言により、ひとまず一件落着。「選挙は秋の臨時国会終了後」ということで収まっているかに見える。

だが、火はまだ完全に消えたわけではない。それより何より岸田首相は、なぜあんなことを言ったのか、疑問はくすぶったままだ。

◆今なぜ「解散・総選挙」なのか

「解散・総選挙」。この岸田発言をめぐって考えられるのは、「様子見」だ。そのように言えば、政界はどう動くか。反応を見ることに目的があったのではないのか。

もちろん、岸田首相自身、「様子見」をすることは有り得る。だが、その場合の、政界、自民党内、あるいは国民の間での反響など、首相にとってのマイナス面は小さくない。

では誰か。岸田氏でないとすれば、誰の意図、誰の要求から、あの発言はなされたのか。そう考えた場合、考えられるのは、やはり「米国」しかない。米国側の何らかの示唆により、岸田首相が「解散」を口にしてみた。これは十分に有り得ることだ。

この辺りから、話は完全に、私個人の独断と偏見になっていくのだが、もし仮にそのようなことがあったとしたなら、米国は一体なぜ、何のためにそうしたのだろうか。

そこで考慮すべきは、今、米国がその覇権回復戦略として、「米対中ロ新冷戦」を敢行して来ており、日本をその最前線に押し立てて来ているという事実だ。

この「新冷戦」にあって、米国は、「民主主義陣営」と「専制主義陣営」、二つに世界を分断し、後者を包囲する一方、前者に属する同盟国、友好国を米国の下に統合することにより闘いを有利に進めようとしている。中でも日本との統合は、あらゆる意味で、その模範として決定的な意味を持つ。駐日米大使に「剛腕」で知られる元大統領首席補佐官、ラーム・エマニュエル氏を据えて来たのもそのためではないのか。

今、鳴り物入りで宣伝されたウクライナによる「5月反転攻勢」が行き詰まり、戦争がロシアペースで長期化の様相を強める一方、「新冷戦」で米国が中ロとの二正面作戦に耐えられず、中国との和解に出ざるを得ず、G7でのインドやブラジルなど、グローバルサウスの国々の引きつけにも失敗して、非米主権国家群が米国との距離をさらに大きくしている今、米国にとって、日本との統合は、一層急を要する切実なものになっている。

こうした時の「解散・総選挙」は、当然、それを促進するものになるはずだ。だが、執権党、自民党にとって、当面の「解散・総選挙」は、先述したように、決して有利ではない。むしろマイナスの面が大きい。自民党内から懸念の声が挙がったのはそのためだ。ではなぜ、米国は「示唆」をしたのだろうか。

◆狙われる「政界再編」

今、「解散・総選挙」があった場合、一番有利だと目されているのは日本維新の会だ。一挙にその議席数は、倍増するのではないか。一方、他の諸党はよくて微増。自民党に至っては、公明党との不調の中、下手をすると大幅に議席を減らす可能性すらある。

こうした中、岸田首相に「解散」を示唆したとするなら、米国の狙いは何か。

それについて、この間、見えてくるものがある。それは、「政界再編」への動きだ。

小沢一郎氏が立憲民主党、国民民主党、そして自民党などの国会議員に呼びかけてつくった「一清会」(15人)、前原誠司氏が国民民主党、日本維新の会、立憲民主党、そして自民党など超党派で募った台湾行きの代表団、この立て続けに現れた政党、党派を超えた動きは何か。これと「解散・総選挙」は連動しているのではないか。

元来、この数年、国政、地方政治を通じて、その選挙をめぐり自民党内の分裂は甚だしいものになっていた。党中央と地元の対立、派閥間の抗争、それが中央の統制を聞かず激化し、党内分裂選挙が常態化してきていた。

こうした中、自公の選挙協力が破綻したらどうなるか。自民党の分裂、さらには立憲民主党や国民民主党の分裂までそれが波及して大きな政界再編にまで発展する可能性はすでに十分すぎるほど熟している。

そこで考慮すべきは、その政界再編が何をめぐって推し進められるようになるかだ。

先述したように、今、日本に提起されている最大の問題は、日本が「米対中ロ新冷戦」の最前線に押し立てられ、それとの連関で「日米統合」が要求されてきていることだ。それを置いて他にない。実際、安保防衛から経済、教育、地方地域、社会保障とあらゆる部門、領域にわたって、日米の統合に向け、各種改革が要求され、敢行されてきている。新設された自衛隊統合司令部やデジタル庁だけではない。すべての大手企業や大学、地方自治体に至るまで、指揮と開発の日米統合が強行されてきている。

それが日米間の激しい摩擦を陰に陽に生み出さないはずがない。事実、トヨタなどで会長職の人選をめぐり、米助言会社の方から豊田章男会長をはずせとの「助言」が入り、それにともなう米系株主の動きが見られるなど、熾烈な日米の攻防が繰り広げられてきている。

この全国、全領域に及ぶ攻防が今起きている政界再編への動きと無関係であるはずがない。

◆内外情勢発展と「解散・総選挙」の早期強行

日本内外の情勢発展にあって米国は、「解散・総選挙」の早期強行とそれにともなう日本政界の根本的な再編を求めている。もはや、これまでの自民党体制では、安保防衛、経済、教育など、日本のあり方をその根本から変える改革など、激動する内外の情勢発展に対応することはできないということだ。そこから、自民党内改革派や「改革」の旗を掲げる日本維新の会、そして立憲民主党、国民民主党内改革派などを結集しての日米統合・改革新党や連合の早期結成、形成が狙われているのは、容易に予測されることだ。

これに対し、中ロと対決する「米対中ロ新冷戦」にはとてもついていけず、米国の下に日本が統合される改革である日米統合の改革にも賛成できない自民党をはじめ各政党内の勢力は、いまだその自覚と目的意識性が明確でなく、その結集軸も定まらず、結集力も弱く未熟な情況にある。この有様で「解散・総選挙」に直面したらどうなるか。彼らがとてもそれに対応できないのは目に見えている。米国が求める日本の政界再編を実現する好機ではないのか。

その上、目を外に転じれば、米英メディアによる「大本営」発表にあっても隠し果せないほど、あのウクライナ戦争の帰趨はますますロシアに有利に転じており、「新冷戦」の趨勢も中ロなど非米の自国第一、国民第一の優勢が一層明確になり、米国内にあっても「米国第一(アメリカファースト)」のトランプの勢いが数々の妨害を乗り越え、それを力にして、増大してきている。

この内外情勢の進展が、日本の「解散・総選挙」のできるだけ早期の実施を要求して来ているのは十分に予測可能なことではないだろうか。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

小西隆裕さん

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

G7広島サミットは「大成功」と議長を務めた岸田首相は胸を張った。だがそれが虚勢であり、今回のサミットを通じ「G7の悪意」、「G7の凋落」が暴露され、「G7の時代は終わった」ことを世界の前に示した。それが5月のG7広島サミットだった。

 

Bob Dylan - The Times They Are A-Changin’

60年前にボブ・ディランがつくった「時代は変る」-“The Times They Are A-Changin’”、その歌詞がそのまま当てはまる時代をいまわれわれは迎えている。

国中のおとうさん おかあさんよ

わからないことは 批評しなさんな

むすこや むすめたちは 

あんたの手にはおえないんだ

昔のやり方は 急速に消えつつある

新しいものを じゃましないでほしい

助けることができなくてもいい

とにかく時代は変わりつつあるんだから

この「国中のおとうさん おかあさん」を「G7」に置き換えればいい。とにかく時代は変わりつつあるのだ。

◆被爆地広島を怒らせた「広島ビジョン」

今回のG7サミットは被爆地、広島で行われたことが最大の「売り物」だった。

G7首脳が原爆資料館を訪れ「被爆の実態」を知っただけでも意義があるとマスコミは持ち上げた。「オバマ大統領は10分だったが、今回は40分」などと言われるが、被爆の悲惨さを伝える当時の生々しい実物資料展示室まで見たか否かは「非公開」と発表された。おそらく館内での「被爆者の声を聞く」時間などを考えれば「オバマの10分」と大差ないものだったであろう。だから資料館で何を見たかは「非公開」にせざるを得なかったのだ。単なるパーフォマンスの場とすることで広島を侮辱したと言える。

被爆地、広島では「G7初めて」となる核軍縮に向けた文書とされる「広島ビジョン」が採択された。広島への冒涜はこの文書に象徴的に示されている。

「広島ビジョン」のポイントは「全ての者の安全が損なわれない形での核軍縮」という文言が盛られたことだ。逆読みすれば「安全が損なわれるような形での核軍縮はやらない」ということだ。ロシアの核使用の危険、核軍拡の中国、「北朝鮮」の危険という「安全を損なう脅威」を煽りつつ「核抑止力の強化」を宣言した「広島ビジョン」、核軍縮に逆行するG7合意だ。

広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之理事長は、「広島ビジョン」がG7各国の核保有や“核の傘”による安全保障を正当化し、「核抑止」を肯定する内容だったことに「まったく賛成できない」と断言し、「ロシアの核の脅しも問題だが、ますます世界を分断させることにならないか」と懸念を表明した。

1991年から8年間、広島市長を務めた平岡敬氏は、「岸田首相が、ヒロシマの願いを踏みにじった。そんなサミットだった」「19日に合意された“広島ビジョン”では、核抑止力維持の重要性が強調されました。戦後一貫して核と戦争を否定してきた広島が、その舞台として利用された形です」と怒りを露わにした。

国内政局がらみのバイデンの「早退」で日米韓首脳会談は顔合わせ程度に終わったが、バイデンは別途、日韓首脳を米国に招き正式会談をやると公表した。ここでの主要議題はNATO並みの「核使用に関する」協議体、「日米韓“核”協議体」創設となろう。米韓はすでに“核”協議グループ創設を4月末の尹錫悦(ユン・ソクヨル)「国賓」訪米時に合意している。

この通信で何度も述べてきたことだが、わが国には「核持ち込み」「核共有」の受け入れが迫られる。すなわち「非核の国是放棄」を迫られる。

「広島の怒り」の火に油を注いだ「G7の悪意」を目撃した広島や長崎の人々、いや日本国民がそれを許さないだろう。

◆グローバルサウスを敵に回したG7

今回の広島サミットの目的の一つが、ウクライナ支援やロシア制裁に距離を置くグローバルサウスと呼ばれる発展途上国をG7側に取り込むことにあった。しかしそれは全く逆の結果をもたらした。

広島サミット後、G7に招待されたグローバルサウス諸国はいっせいに今回のG7サミットを批判した。

「ウクライナとロシアの戦争のためにG7に来たんじゃない」(ルラ・ブラジル大統領)。インド有力紙は見出しに「ゼレンスキー氏の存在に支配されたG7」の記事を配信。インドネシア紙は「世界で重要性を失うG7」との記事を、ベトナム政府系紙は「ベトナムはどちらか一方を選ぶのではなく、正義と平等を選択する」と書いた。

今回のG7広島サミットはゼレンスキー主演の喜劇舞台になった。会議直前に彼の参加が公表され、ウクライナ問題には触れたくないグローバルサウス首脳らにとっては寝耳の水、いわば「嵌(は)められた」(プライムニュース司会の反町隆史発言)恰好になった、怒りを買うのは当然だろう。また「ゼレンスキー劇場」のために、グローバルサウス首脳の発言時間も制約を受けた。「グローバルサウスの日」の日程が「ゼレンスキー劇場」のために大きく時間が割かれたからだ。グローバルサウス首脳はいわばだまし討ちにあった形になった。

「G7先進国」でかつて自分がやった植民地支配をまともに反省した国はない。英国のエリザベス女王国葬の時、あるアフリカの首脳は「彼女は生前、一度たりとも植民地支配への謝罪の言葉を述べなかった」と語った。グローバルサウスは、G7の米国式「普遍的価値観・法の支配」秩序はかつての植民地支配秩序の現代版に過ぎないことを知っている。

ウクライナ支援やロシア制裁を強要する「ゼレンスキー氏の存在に支配されたG7」で、彼らはさらにそれを痛感させられた。グローバルサウスを取り込もうとしたG7は自らの厚顔無恥ぶりをさらしただけの結果を広島で招いたと言える。

米国を筆頭とするG7諸国に対し「もうあんたらの手に負えないんだ」ということをグローバルサウスは世界に知らしめた、そんな意義を持ったとしたら、それはよいことだ。


◎[参考動画]【G7広島サミット】「ウクライナ」テーマに議論 ゼレンスキー大統領も出席

◆虚勢を暴露したウクライナ軍事支援

「戦局を変える」と鳴り物入りで宣伝された「F16戦闘機のウクライナへの供与」も内容はお寒いものだ。

まず供与されるF16は欧州諸国では旧式の余り物、いわば「在庫品一掃」の形。操縦士の訓練は3ヶ月で基礎的な離着陸、空中飛行は修得できるが、空中戦の実戦対処となると数年はかかるだろうとか、また機体の維持管理要員の訓練も数ヶ月いや数年かかるとさえ言われている。

要するに即戦力にはならない。これをゼレンスキーは「F16機の獲得は、ロシアが敗北を喫するだけとの世界からの強力なメッセージの一つ」と虚勢を張った。

こうした実戦的な意味を持たない軍事支援が「戦局を変える」と世界に虚勢を張った、ここにも広島サミットで見せた「G7の窮地」を見ることができる。

案の定、「5月反転攻勢」を叫んだゼレンスキーだが5月も終わりになって「戦車の台数が足りない」と言い訳しだした。なす術がないのが現実だろう。ロシア軍は自らの支配管轄下に置いた東部のロシア人居住地域の最前線一帯に対戦車用の2.5mの深さを持つ塹壕を延々張り巡らすなど二重三重の重厚な防御陣を構築した。欧州から最新のレオポルド型戦車が供給されたというが、いくら戦車が来ても戦車戦などとうてい無理だろう。

欧州諸国、いや米国内部からも「いつまでこんな制限のないウクライナ支援を続けるのか?」、ロシア制裁のあおりを受け穀物などの物価高騰、エネルギー難の生活苦に追い込まれた国民の怒りの声が上がり続けている。

広島サミットで華々しく打ち上げた「ウクライナ軍事支援」は線香花火に過ぎないこと、G7がやっきになってもウクライナ軍の「反転攻勢」は絵空事だと世界が知る日は遠くない。

◆バイデンの会議「早退」── 米国内の分断を露呈

今回の広島サミットは「G7の親玉」、米国の弱体ぶりをも露呈するものになった。

バイデンは、ウクライナへの「無制限の軍事支援」などで膨らむ予算確保のために、債務上限を見直す法案を議会に提出したが共和党の反対で法案が採択できない事態に陥り、これが通らないとデフォルト(債務不履行)宣言を受ける国家的危機に直面、日米韓首脳会談も後日に延ばし会議を「早退」、帰国せざるを得なかった(帰国後、妥協案成立)。さらにバイデンはG7広島訪問後に予定した公式訪問日程、オーストラリア、パプアニューギニア歴訪もキャンセルせざるを得ないという外交失態を演じ赤恥をかいた。

対ウクライナ支援を巡る米国内の意見対立、分断ぶりが、民主党と共和党の「債務上限見直し」を巡る対立として露呈、それが「米国の窮地」を世界に見せることになった。

朝日新聞の望月洋嗣・アメリカ総局長は同紙の「多事奏論」に「突きつけられる二つの正面」と題する文章を寄せた。ここにはロシアのウクライナへの「特別軍事作戦」によって中ロ「二正面作戦」を強いられた「米国の窮地」が書かれている。

「ウクライナ軍事支援は欧州に主導させ、米国も日本も中国への対応に資源を集中すべきである」とのトランプ政権下の国防総省で軍事戦略策定に関わったエルブリッジ・コルビー氏の見解を紹介。

他方でハドソン研究所のジョン・ウォルターズ所長兼最高経営責任者(CEO)の懸念「米国が(ウクライナ)支援から手を引けば、欧州は政治、経済、軍事の各面でワシントンを支持しなくなり、中国は欧州との新たな関係を模索するだろう」を紹介。

この二つの対立する見解を紹介しながら望月総局長は「米国にはもはや“二つの戦闘”に向き合う余力はない」と結論づけた。

「G7の親玉」の足下が揺らいでいる「米国の窮地」をG7首脳はじめ世界に見せるという失態も、バイデンは世界に見せた。

ボブ・ディランの「時代は変る」は最後をこう締めている。

線は引かれ コースは決められ

おそい者が つぎには早くなる

いまが 過去になるように

秩序は 急速にうすれつつある

いまの第一は あとでびりっかすになる

とにかく時代は変わりつつあるんだから


◎[参考動画]Bob Dylan – The Times They Are A-Changin’ 時代は変る

近々、日韓首脳を米国に呼びつけて広島で延期になった日米韓首脳会談が開かれる。そこでは日米韓“核”協議体創設が何らかの形で話し合われるだろう。

わが国に対する「G7の親玉」からの「非核の国是放棄」の強要は、秒読み段階に入ったと言える。これを排撃するためにも「昔のやり方は 急速に消えつつある」という時代を感じとる鋭敏な感覚と、時代の流れを読む目をしっかり持とう!

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

私は3月の本通信への投稿で「地方自治の解体・民営化が狙われている」と題する一文を投稿し米系外資が日本の自治体を管理運営しようとしている危険性を指摘した。

今、それは4月に行われた統一地方選の結果を利用しながら、自治を解体し日本をなくす「改革」として進められている。今回は、そのことについて、述べて見たい。

 

魚本公博さん

◆狙われている「日本の自治」解体策動

4月に行われた統一地方選は「低調」であった。とりわけ議員の「なり手がない」ことによる無投票が増えた。88の市長選の3割近くの25市が無投票。町村はより深刻で125の町村長選では半数の70町村で無投票。373の町村議員選で1250人が無投票であり、そのうち議員定数に満たない「定数割れ」は前回の2.5倍となる20町村であった。

マスコミがこれを「地方議会の問題」とする中、朝日新聞が「自治制度の危機」と題する社説(4月27日)で、議会活性化のための様々な方途を提示しながら、会社員が議員を兼務することを更に進め、公務員が議員を兼務することも容認すべきだ主張した。

これまで地方自治法で会社員、公務員が議員を兼務することは禁止されてきた。自治体と取引のある会社の取り締まり役、監査役などの幹部社員は議員と兼務できないし、自治体職員も議員と兼務できないとなっている。

これは、自治体と取引関係がある会社や自治体職員が議員を兼務すれば、その議員は会社のため動くようになり、住民自治が損なわれる危険性があるからである。なお首長に関しても、この規制は適用される。

会社員の兼務については、昨年12月の法改正で自治体との取引額300万円以下の会社社員であれば兼務できるとなったがまだ自治体職員(公務員)の兼務は禁止されている。

私は貴通信への投稿(2月)で、デジタル人材を人材会社と協力して都道府県に外部人材とし確保させながら、これを市町村に派遣する総務省の方針について、これは基礎自治体である市町村を米系外資の関連人士が運営するためのものではないかと述べたが、このデジタル人材は、自治体職員になる。従って、会社員と公務員の「議員との兼務」容認は、米系外資の関連人士が首長や議員になることを容認し米系外資が日本の市町村を直接管理運営することを容認し促進するものとなるのではないかということである。

岸田首相は1月の施政方針演説で「地方議会活性化のための法改正」を行うと述べている。それは、日本の自治を解体し米系外資・企業が日本の自治業務や自治体そのものを直接管理運営することを容認し促進させるところに真の狙いがあると思う。 

こうした中、5月3日の憲法記念日に際して読売新聞が行った座談会では、「首長がいない自治体も認めるべきだ」との発言もあった。「首長がいない自治体」? 私が思い浮かべるのは、2005年に米国ジョージア州ワトソン郡に作られたサンディースプリング市のこと。この市は、年収1000万円以上の富裕層だけを集め、「安全」を売り物にして企業が管理する人工市である。そこでは市長も市議会議員も企業が任命する社員である。まさに「首長のいない自治体」である。

それは、公共性を否定し自治体の公共事業を民営化して食い物にする新自由主義者にとって、理想の究極的な自治体の形である。岸田政権の「法改正」は、そこまで視野に入れているように思える。

◆維新の「改革」の実態と本質

米系外資・米国企業が地方地域の自治体を直接管理運営する。維新が推し進めている大阪IR(カジノ)を見れば、その実態が見えてくる。大阪IRは、米国のIR運営会社「MGMリゾーツ」がオリックスなどが出資する「IR株式会社」を前面に立てて運営する。これを安倍、菅政権で首相補佐官を勤め、松井大阪市長が推薦して府の特別顧問になっている人物(和泉洋人)が関与する。

この夢洲IRでは、そのインフラ整備は大阪がやる。それを年間25億円という法外に安い値段で貸し出し、儲けの大半は米国企業が持っていく。そして、そこには大きな利権構造が出来る。維新は「既得権層」の打破を言うが、自らは、これまでの利権とは比較にならない巨大利権の「得権層」になるということだ。

もちろん、夢洲IRは一施設であり、それ自体が自治体なわけではない。しかし、問題の本質は、大阪の自治業務の重要な一環を米国企業が管理運営するという所にある。

IRは、「国際エンターテインメント都市 ”OSAKA”」という維新の地域振興策の重要なカナメであり、そのシンボルである。そうであれば、維新は大阪の自治業務を米系外資・米国企業に管理運営させようとしていると見るべきであろう。IRを通じて見えてくる維新の「改革」の本質はそこにある。

維新はすでに、関西空港業務や公営地下鉄を民営化しており、水道事業や文化施設での府市の業務統合、小中学校を統廃合しての小中一貫校、府立と私立の大学統合、公営病院の廃統合を進め、これを民営化しようとしている。

結局、そこでもIRのように、米国は隠れ日本を前面にたてながら米系外資・米国企業がこれらの自治部門を直接管理運営するようになるだろう。こうして、大阪の自治業務の多くが米国企業によって管理運営されれば、大阪の府や市といった自治体そのものも米国企業が管理運営するものとなる。こうして、大阪の富は食い物にされ、住民はその管理物にされる。そのどこが「改革」なのか。

◆米国の新冷戦戦略から見えてくる、日本をなくす「改革」

IRが象徴する維新の「改革」の本質を見れば、岸田政権が進めようとしている「地方議会活性化のための法改正」の意味と悪辣さも分かるのではないだろうか。

米国は今、新冷戦戦略の下、中国ロシアを敵視しながら、その最前線に日本を立てようとしている。それは衰退した米国覇権回復のためであり、そのために日本の全てを米国に統合する日米統合一体化を進める。そのために、地方地域も米国の下に統合する。

しかも、それを急いでいる。広島で開催されたG7を見ても、最早米国の提起する「民主主義対専制主義」に耳を貸す国はない。それに耳を傾けるのはG7諸国だけだ。とりわけ対中新冷戦では、日本が決定的だ。衰えたとはいえ、日本は世界第三のGDPをもち、技術力も高い。その日本の力を米国のものにすれば、新冷戦で中国に勝てる可能性が高まり、それも今しかない、というのが米国の読みだろう。

かくて、日本をすっかり米国のものにする。「地方議会活性化のための法改正」は、日本の自治を解体し、米系外資・米国企業による地方管理を進めるためのものなのだ。

こうして日本の国の形も変る。地方地域を米系外資・米国企業が管理運営するようになれば、日本の地方地域は、国と切り離されてしまい、日本は一つのまとまった国ではなくなり、日本がなくなってしまう。

統一地方選の最中、維新の馬場代表が「自民が守旧派と改革マインドの強い方に割れ、改革保守政党が出来れば、そこへの参画の可能性はないとは言えない」と述べている。

今後の政局で、維新と自民党内部の「改革」派による改革保守政党が出現するとか、改革保守の連立が進む可能性は大きい。そうなれば、米国が狙う、日米統合一体化、日本をなくす「改革」が急速に進められてしまう。

◆強まる地域を守る闘い

今、日米統合一体化が進む中で、新冷戦の最前線に立つための軍拡が行われ、それが増税、社会保障・福祉予算の削減、地方交付税の削減などとして、国民の生活を直撃するようになっている。

そうした中、生活の砦である地域(市町村)の自治を守り地域住民自身の力で守っていくという志向は強まらざるをえない。そして、この志向は、自治と自治体を解体し米系外資・企業が地域を直接管理運営するという米国の地方地域支配の目論見と真っ向から対決する。

今回の統一地方選の「低調」さの中でも、その「芽」は出てきた。「れいわ」は後半戦で東京区議47人を誕生させる健闘ぶりを見せた。「子どもファースト」や「弱者に寄り添う」独自の政策で注目される明石市では、泉穂房市長が後継者に指名した丸太聡子氏が他を圧倒して勝利し泉氏の「明石市民の会」5人が全員当選した。「公共の再生」を唱える杉並区長の岸本聡子氏が自身の区長選はなかったのに連日、区議選の街頭に立つ奮闘ぶりも多くの人の共感を呼んだ。 

「アップデートおおさか」の谷口、北野さんの「住民自治」の訴え、その具体化としてのカジノ反対の住民投票実施の要求は、維新との闘いとして本質的なものを突いていたと思う。今後、IR(カジノ)の実態が明らかになるにつれ、それへの批判も強まるだろう。谷口、北野さんには、今回の敗北を乗り越え頑張ってもらいたい。

各地で「みんなの、みんなの力による○○を」や「子育ての○○」など自分の地域をアイデンティティとし、左右の違い党派の違いを超えた地域第一の動きも各地で見られるようになった。

泉さんや岸本さんは、地域からの運動を全国化し、日本を変えることを目指している。「れいわ」も「自公政権による売国棄民政策……この腐った政治を変えるのは、あなただ」と呼びかけている。

誰もが、日本の改革を求めている。その重要な力は地域にある。こうした地域の力が互いに連携し全国的な力になっていけば、米国に地方地域を売り渡すような政府や維新などの「日本をなくす「改革」を阻止し、日本の政治を変えることができる。

「地方から日本を変える」、生活の砦である地域を守ることが死活的になってきた今、それが切実に要求されている。その力で日本の政治を変え、日本をなくす改革ではなく、日本をつくる改革を実現していかなければならないと思う。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『一九七〇年 端境期の時代』

『抵抗と絶望の狭間~一九七一年から連合赤軍へ』

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