東京電力福島第一原発事故から12年が経過した。岸田文雄政権は、それまでの「原発依存からの脱却」の方針を捨て、原発推進へと大きく舵を切った。原発の安全神話により過酷事故が起きた「福島の教訓」を忘れた暴挙といわざるを得ない。このままでは将来に大きな禍根を残すだろう。

政府は今国会で原子炉等規制法(炉規法)や電気事業法(電事法)を改正する予定だ。(※5月31日、炉規法、電事法、原子力基本法など5法を一括して改正すら「GX脱炭素電源法」が参院本会議で自民、公明、日本維新の会、国民民主の各党の賛成多数で可決、成立した。)

そのうちの最も大きな変更点は、現在最長60年とされている原発の運転年数を事実上無制限化する「原発延命政策」である。これは老朽炉を酷使するだけであり、およそ政策とさえ呼べない乱暴なものだ。しかも、その運転延長年数には「長期運転停止期間」と、世界にも例のない不定形の延長期間を持ち込もうとしている。

◆唐突に原発推進が目玉政策に

「GX実行会議」で原発の新増設や運転期間延長など政策大転換を決定したのは昨年12月22日。

「エネルギーの安定供給と気候変動対策」を名目とするが、その根拠は極めて薄弱。原子力に依存する産業界や原子力ムラへの貢献が最大の理由だ。

国の将来を左右するエネルギー政策の大転換を、非民主的な方法で決めるプロセスにも正当性はない。政府自ら作り出した「エネルギー危機」を理由とするマッチポンプ式でもある。

そして次世代型原発の開発や建設との実現性のない構想を加えて、あたかも「安全な原発による推進」であるかの偽装までしている。2011年の東京電力福島第一原発事故後の「可能な限り原発依存度を低減する」との方針は、事実上放棄された。

この政策は、内閣府の「GX実行会議」という場で決められた。GXとは、「グリーン・トランスフォーメーション」のことだという。

「過去、幾度となく安定供給の危機に見舞われてきた我が国にとって、産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する、戦後における産業・エネルギー政策の大転換を意味する」と、GXは説明されている( 「GX実現に向けた基本方針」より)。

これがどうして原発推進に姿を変えるのか。原発がクリーンエネルギーなど「3・11」以前の安全神話時代の妄想でしかない。

福島第一原発事故で広大な地域が汚染され最大16万4千人余が避難を余儀なくされた。今も傷は癒えず、 「震災関連死」と呼ばれる犠牲は増え続けている。なかったかのような議論の進め方は、あまりにも酷い。

首相が原発政策転換の意思を示したのは8月末、経産省が原子力小委員会などで報告書を急造し、4カ月後のGX会議で方針が決まる。このドタバタの動きは、昨年2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻でエネルギーコストが急上昇し、世界的に原発を再評価する動きが始まった時期に付合し、機会を逃すなとばかり原子力推進派が原発活用政策をねじ込み、GX会議に押し込んだのだ。

GX会議には電力会社や既存の大企業の代表者が中心で構成されており、議論は非公開。不透明極まりない。すでに進行している電力自由のもとで電力市場で競争にさらされる日本の電力会社は、いまさら原発の新増設に投資することは難しい。

さらに、次世代と銘打った原発は、すでにフランスのアレバ社が建設を進めていたが、1基あたり1兆円を超える巨額の建設費と困難な建設工事で、政府が推進方針を示しても進まない状況が続いている。日本で同様の次世代原発を導入しようとしても同じ困難に直面することは明らかだ。

このような「エネルギー危機」は自然エネルギーシステムを中心にした分散型のシステムの開発や電源システム改革で、十分まかなえるものだ。

結局、電力会社にとって最も有利な、既存の原発をできる限り使い続ける方針が政策の本命とみて間違いない。(つづく)

本稿は『季節』2023年春号(2023年3月11日発売号)掲載の「『原発政策大転換』の本命 60年超えの運転延長は認められない」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ── 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

龍一郎揮毫

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8月後半、西日本と東日本、双方で「原発の後始末」で重大な動きがありました。ひとつは、上関町が、核のゴミ=死の灰の貯蔵施設建設へ向けた調査を受け入れ。福島では原発事故の汚染処理水の海洋放出です。

◆上関町は核のゴミ=死の灰 自称「中間貯蔵」へ調査受け入れ

8月18日、上関町の西町長は中国電力に対して、同社と関西電力の共同で核のゴミを自称「中間貯蔵」する施設の建設へ向けた調査を受け入れてしまいました。8月2日に申し入れを受けてからわずか半月余りというスピード決定でした。

岸田政権が強行した自称GX法により関西電力・高浜原発など老朽原発の再稼働が進み、関西電力の死の灰=核のゴミがにっちもさっちもいかなくなることを背景に起きた出来事です。

核のゴミ=死の灰の最終的な行方は全く決まっておらず、今後も決まる可能性はほとんどありません。従って、もし上関町が受け入れてしまえば、中間貯蔵どころか、半永久的に貯蔵されてしまうことは確実です。


◎[参考動画]原発問題で揺れる 瀬戸内海“最後の楽園”上関町【news23】|TBS NEWS DIG

◆フクシマ汚染処理水、海洋放出強行

一方、8月21日、岸田総理は福島を訪問したあと、なぜか、東京に戻って全漁連の会長と会談し、会長も反対姿勢を崩さない中で、東電福島第一原発事故による汚染処理水の海洋放出を伝達し、24日から開始。「数十年に渡ろうとも全責任を持って対応する」と総理は啖呵を切りました。


◎[参考動画]処理水の放出決定 福島県内の漁業関係者は憤りあらわに「納得していないのにおかしい」|TBS NEWS DIG

◆「科学的に安全」と言われた原発が事故を起こしたのに

汚染処理水については、IAEAは国際的な基準に合致していると言ってはいます。しかし、別にIAEAが何か責任を持ってくれるわけではありません。そもそも、2011年の3.11以前、政府も東電もマスコミも「日本の原発は科学的に安全。チェルノブイリ原発のようなことは起きない」と宣伝してきました。従って、汚染処理水の問題で「安全です」と言われても、「安心しろ」というのが無理な話です。

また、岸田総理は数十年にわたろうとも全責任を持って対応する、と言われていますが、総理の任期なんて、安倍晋三さんでさえも8年しか勤めていません。30年後、40年後、人生百年時代ですから、ご存命であったとしても国会議員は辞めておられる可能性が高い。どうやって、責任を取る、というのでしょうか?その時何かあっても「ワシはもう議員でないから知らん」と言われても困ります。あまりにも軽すぎる言葉の使用法がまた、信用を失わせます。

◆モルタル固化などの代案もある 原発事故の後始末は総合的にもっと議論を

なお、汚染処理水をどうすればいいのか?という点については、代案がすでに提案されています

モルタルで固化し、今よりもしっかりしたタンクで保管するという案です。もちろん、これは、地元・福島県双葉町などの同意が必要になってきます。また、もっと言えば、無理にデブリを取り出したりする必要があるのかどうか?強烈な放射線で機械でさえも故障するリスクが高い状況で、将来にわたってできるのかどうか?もっと総合的な議論をすべきではないでしょうか?

◆上関・核のゴミ受け入れ、元自民党代議士の岩国市長も懸念表明

そして、上関町の核のごみの受け入れに対して、21日、岩国市の福田良彦市長も懸念を表明されました。福田市長は、元自民党代議士のご出身です。2008年に岩国基地への艦載機移駐反対派の井原勝介市長を打倒して初当選され、現在4期目です。そんな福田市長でも「近隣自治体とすれば、やはり市民の中にも多くの不安や懸念があることは事実。そういった中での今回の調査、また調査の先には具体的に建設ということになるのかもしれないが、市民、また近隣の方々の安心安全がしっかりと担保されていない、説明が尽くされていないという状況の中では、今回の一連の受け止めについては率直に賛成とは言えない、これが私の考え」とコメントされました。

当然です。岩国市役所までは上関の想定される核のゴミ=死の灰受け入れ予定地からわずか45kmです。上関町だけで、この問題の可否を決める、ということ自体がそもそもの誤りです。

例えば、危険極まりない核のゴミを中国電力島根原発や関西電力高浜原発・美浜原発などからどうやって運搬するというのか? 船は船で、リスクがあります。瀬戸内海では現状でも船の事故は非常に多い。海自の輸送艦「おおすみ」と漁船の衝突事故は記憶に新しいですし、今年に入ってからも山口県沖で護衛艦の座礁事故が起きています。他方で、道路での輸送は交通事故の危険性も高い。海であろうが陸であろうが、岩国市はもちろん、場合によっては筆者の住む広島市も含めて取り返しのつかないことになりかねません。

フクシマの海洋放出に関しては、総理はそうはいっても表に出てきましたが、ご自身の地元(小選挙区=広島、比例区=中国ブロック)に重大な被害が及びかねない上関の問題では何もリーダーシップを取ろうともしない。

◆地域を衰えさせてきた歴代自民党政権

なお、上関町長ら推進派の「上関の持続可能な発展に、可能性がほぼ消えた原発建設に変わる核のゴミが必要」という話も全く筋が通りません。

現実には、原発関係の交付金を受け取ってきた上関町も人口流出で衰えています。他方で、創意工夫で踏みとどまっている自治体もあります。そもそも、原発や核のゴミ受け入れに頼らないといけないように地方を衰えさせてきた自民党政権の経済政策が誤りです。

◆やはり、岸田・自称GX法で老朽原発再開が大問題

岸田総理は、気候変動対策などを大義名分に、自称GX法=老朽原発延命法、原子力村税金投入延命法=を2023年通常国会で強行しました。国民の間でも電気代の値上がりなども背景に「まあ、原発はあるのだから使った方がいいかな」という風潮が広がっています。3.11も、のど元過ぎれば熱さ忘れる、です。

しかし、現実には、汚染処理水問題のように福島原発事故の後始末さえ全くできず、「原子力緊急事態宣言」中です。その上で、核のゴミ=死の灰が増えて、にっちもさっちもいかなくなりつつあるのです。

これ以上核のゴミを増やさないこと。そして、福島のような事故を起こさせないこと。そのためには、やはり原発は止めることです。

再生可能エネルギーについては、九州電力などでは余っていて出力制限をしている状況です。その上で、原発を動かし、4-6月期は過去最高益を出している電力会社はおかしい。

従って、蓄電やスマートグリッドを進めていけば、再生可能エネルギーとの組み合わせで、原発にも旧型石炭火力発電にも頼らずに済む、電力料金も高くせずに済みます。

ただ、根本的には、電力会社よりも原発を国策として進めてきた国の責任が重いのです。GX法を廃止し、原発も国が責任をもって廃止する。蓄電やスマートグリッドにもガツンと財政出動する。そういう方向を示すべきです。

 

筆者勤務先近くの総理の政治活動ポスター

◆ポスターと正反対の政治 「広島の恥」総理を図に乗らせまい

岸田総理は「地域の声で新たな日本へ 所得向上 少子化対策 安全・安心」とおっしゃる。だが、実際には、フクシマの汚染処理水問題では地域の声を軽視し、安心を踏みにじる、上関のような時は国の責任を放棄して地域に対応を丸投げする卑怯な政治です。

そして、原発推進という破綻した「古い日本」を維持するわけです。まさに、実態と真反対のポスターであり、「広島の恥」ではないでしょうか?

総理は恥を知れ、と申し上げたい。残念ながら、前回2021年衆院選では総理は、対立候補に供託金回収さえさせない圧勝ぶりでした。こんな風に圧勝させてしまったことで、岸田総理も図に乗ってしまったということも言えると思います。

広島は平和都市といいながら、実際には爆心地に近いほど保守色が強く総理が強い。そんな状況ですが、次期衆院選こそ、総理をヒヤリとさせ、軌道修正を迫る結果にしなくてはならないと痛感しています。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年9月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

◆冷戦時代以来の逆流の中で迎える

78年目の原爆の日は、(核をなくし、戦争を止めることに対する)冷戦時代以来の逆流の中で迎えました。

第一に、ロシアのウクライナ侵攻を契機に、軍拡競争の気風が世界に広まり、日本の岸田総理も『安倍晋三さんでさえしなかった』軍拡に暴走しています。

第二に、G7広島サミットで、核兵器禁止条約にも核兵器廃絶にも触れず、2000年のNPT再検討会議での核兵器廃絶への明確な約束や、核兵器先制不使用にも触れない「広島ビジョン」が採択されてから最初の原爆の日となりました。また、ゼレンスキー大統領の途中参加で、ほとんどサミットがウクライナ戦争を支援する会議となってしまい、被爆地が戦争支援に悪用されてしまいました。この間、広島市長がパールハーバーとの姉妹協定へ暴走、またサミットを前にして『はだしのゲン』が削除されるなど、アメリカへの忖度ではないかとみられる『事件』が続発しています。

第三に、広島選出の岸田総理が、気候変動対策・GXと称して老朽原発存続を支援する自称・GX法を強行。高浜原発が再稼働されました。さらに、原発維持で核のゴミが増える見通しであることを背景に、中国電力と関西電力が広島からわずか82kmの上関に核のゴミ=死の灰の中間貯蔵施設という名の事実上の永久のゴミ捨て場をつくることを発表しました。

筆者は、8月4日から5日は、原水禁国民会議系の「被爆78周年原水爆禁止世界大会」に参加しました。筆者は、日本共産党を支持していた時期も含めて広島県原水禁の個人会員として一貫して原水禁国民会議系の大会に参加してきました。今年の大会の中で筆者が学習したことをご紹介します。

◆大会に寄せられたメッセージ、立憲・泉さんに脱力

8月4日、開会総会が開催されました。代表や来賓の挨拶、被爆者による被爆証言などが続きます。

開会総会を前に筆者が受付で渡された資料の後ろの方には、各政党を含む各界関係者からのメッセージが寄せられていました。この中でも、立憲民主党の泉健太代表からのお言葉には脱力してしまいました。「『広島ビジョン』を歓迎」という泉代表のお言葉が目に入り、筆者は椅子からずり落ちそうになりました。

広島ビジョンは、冒頭にもご紹介した通り、核兵器廃絶には触れない。西側の核兵器保有は評価する。そういう代物です。そんなものを歓迎とは、どうなっているのか? 泉さんは立憲民主党を滅ぼす気なのか?! がっくりです。

まだ連合の芳野友子会長の方が「『核兵器のない世界』の実現に向けた具体的な道筋は示されず、核抑止を事実上肯定したことは残念でなりません。」と、マシに見えてしまいます。

さらに、れいわ新選組の櫛渕万里共同代表は、「……落胆を通り越して怒りを覚えるものでした。核抑止力を正当化するという、まさに、被爆地、被爆者を冒涜する文言だったからです。」とバッサリと「広島ビジョン」を斬っています。

各政党を含む各界関係者からのメッセージ

◆北東アジア非核地帯で安全保障環境改善し、日本も核兵器禁止条約に

 

8月5日午前中は「平和と核廃絶Ⅰ 世界の核兵器廃絶に向けて」に参加

8月5日の午前中は「平和と核廃絶Ⅰ 世界の核兵器廃絶に向けて」に参加しました。

ピースデポの湯浅一郎さんは、「米ソ冷戦で相互不信の悪循環で核軍拡が進んだ。冷戦が終わると核軍縮が進み冷戦末期と比べると核兵器は7万発から12000発に5分の1になっている。」指摘。「軍事力による安全保障のジレンマ」が典型的に示されている、としました。

「軍事力による安全保障のジレンマ」とは相互に軍拡すれば結果として際限のない軍拡競争を繰り返す悪循環にはまりこむことです。

現在はロシアのウクライナ侵攻がそういう構図を引き起こしています。

一方で、湯浅さんは核兵器禁止条約とNPTという2つのトラックが並走する新たなステージに入った、と希望も示しました。

核兵器禁止条約は核兵器を禁止し非合法化する初の条約です。

そして核兵器禁止条約が始まった今こそ、東北アジア非核地帯条約をと訴えました。

東北アジアには朝鮮半島の分断と中国の海洋進出による米中対立という2つの対立構造があり、日本はこれを「厳しい安全保障環境」だとして核兵器禁止条約に反対している。

しかし、そうであるならば、東北アジア非核地帯をつくることで安全保障環境の改善に踏み出すべきだと湯浅さんは強調します。

北東アジア非核地帯構想は朝鮮戦争集結とともに朝鮮半島と日本に対して米中ロが消極的安全保証(核攻撃をしない)をすることで北東アジアの緊張緩和をしていくことです。

これにより朝鮮半島2国と日本も核兵器禁止条約に入りやすくなります。

◆核放棄が最も早い保有国は英国か?

 

8月5日午後は「被爆78周年原水爆禁止世界大会・国際シンポジウム 核兵器廃絶に向けた道筋を描く」に参加

8月5日午後は、「被爆78周年原水爆禁止世界大会・国際シンポジウム 核兵器廃絶に向けた道筋を描く」に参加しました。

広島市の秋葉前市長は、広島ビジョンに核兵器廃絶も被爆者も核兵器禁止条約もない、と厳しく批判。その上で、そもそも、1945年8月10日に当時の日本政府が原爆投下に抗議したけれども、抗議はその一回だけで、原爆投下の責任者で、東京大空襲で有名なカーチス・ルメイ大将に勲章まで与えてしまう始末で、日本政府にはそもそも核を批判するという発想がないと指摘しました。

イギリスの平和運動CNDは、まず、イギリスが自分から核を手放すことをめざしているそうです。スコットランドが独立(連合王国から離脱)すれば、イギリスの核の主力である潜水艦の基地はスコットランドにあるのでイギリスは核兵器を失います。

一方で、スコットランドの人たちの多くは核を手放すことを望んでいますので、スコットランド独立はイギリスという核保有国が消滅することを意味するそうです。時々ニュースで出てくるスコットランド独立運動というのはこういう意味もあることを確認しました。

韓国の『参与連帯』の方は、G7広島サミットで日韓首脳が韓国人慰霊碑を一緒に参拝して(日本政府がお詫びの姿勢を堅持した)のはよいが、手放しでは歓迎できない、と日米韓の核共同体に「日本による韓国へのお詫び」が使われていることに懸念。

また、そもそも、米韓が軍事演習をストップしていた時期は、朝鮮も核実験やミサイル発射を中断していたということに注目すべき、朝鮮戦争の終戦が大事だ、とおっしゃいました。普段のニュースを見る際も、「北朝鮮怪しからん」一辺倒ではなく、「米韓の威嚇と朝鮮のミサイル発射は裏表だ」ということを押さえておきたいものです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年9月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

2023年の8月6日。78回目の原爆の日です。この日は、日曜日で、快晴でした。

 

平和記念公園

筆者は、自宅前からバスで広島市中区の平和記念公園近くの終点まで乗車。ただ、疲労しきっていたため乗り過ごして運転手さんにたたき起こされる不覚を取りました。

気を取り直して、平和公園へ向かうと、原爆ドーム前では左派の集会を機動隊が取り囲み、その周りから右派の方々が大声で挑発されているのを拝見しました。左派がうるさいとおっしゃる右派の方々ですが、右派のアジテーションの方が音量は大きかったようにも見えました。右派の弁士は「左派に対抗しなければいけないからだ。」と弁解されていたのが印象に残ります。

◆手荷物検査を経て入場 G7で過剰警備常態化?

原爆ドームの脇を抜けると「自民解体」というプラカードを置いている男性がおられました。

そして、平和記念公園に入り、平和記念式典会場へ向かいました。

2019年以前、すなわちコロナ前に今年から規模を回復させた平和記念式典。しかし、安倍晋三さん暗殺事件、岸田総理暗殺未遂などが相次ぐ中で手荷物検査も行われるようになりました。なるべくなら、人々の不満が高まらないような適切な政治を心掛けていただきたいものですが、現実に襲撃事件が起きている状況があるのも事実です。

とはいえ、G7広島サミットを契機に過剰警備・過剰規制に慣らされてしまうのも怖いものがあります。また、警察車両はわかるのですが、なぜか消防車がたくさん止まっていました。まさか、爆弾テロによる火災にでも備えていたのでしょうか?

[左]「自民解体」というプラカード[中央]多数の消防車が並ぶ[右]「警備・手荷物検査にご協力ください」というプラカード

◆広島市長の平和宣言 核抑止否定は良いが「平和文化」とは?

黙とう後、今年で就任後13回目となる松井一実・広島市長が平和宣言を読み上げました。

松井市長の平和宣言は秋葉忠利前市長時代よりも長いのが特徴です。これは、東京から当初は落下傘的に戻ってこられた松井市長が、被爆者らから意見をつのり、その意見を盛り込むようにしたことがあります。松井市長は初期には311福島原発事故を受けて、エネルギー政策の転換を求めるなど、国に対してガツンと物申す面もありましたが、そういう面は最近、薄れています。

松井市長は、G7広島サミットでの広島ビジョンについて事実関係に触れたうえで、「しかし、核による威嚇を行う為政者がいるという現実を踏まえるならば、世界中の指導者は、核抑止論は破綻しているということを直視し、私たちを厳しい現実から理想へと導くための具体的な取組を早急に始める必要があるのではないでしょうか。」と核抑止論を批判。その上で平和文化の重要性を強調しました。

それはそれでいいのですが、松井市長と言えば、どうしても中央図書館をデパートの上層階に移す計画など、文化をあまり大事にしないイメージがあります。ご自身の市政の足元を見つめなおしていただきたいものです。

◆子どもたちの「平和への誓い」最も拍手大きく

子どもたちの平和への誓い。今年も小学六年生二人が読み上げました。すべてのあいさつの中で最も拍手が大きく、かつ長いのはこの「平和への誓い」です。河井事件や深刻な県内の産業廃棄物問題などを背景に他の挨拶している大人の政治家たちへの広島県民の根強い不信感をも感じました。

◆岸田総理、まったく内容が頭に入ってこない

岸田総理の挨拶。正直、全く内容が頭に入ってきませんでした。周りの人の中には総理の挨拶終了を待たずに立ち上がって帰られる方も数人いらっしゃいました。

筆者は筆者で岸田さんの顔を拝見してついうっかり、「勘弁してくださいよ、増税」と思わず言葉が出てしまいましたが、誰にも咎められませんでした。

◆広島県知事 総理を目の前に核抑止論を厳しく批判は良いが、「本業」を真面目に!

岸田総理を目の前に、「核抑止論者は核抑止論が破綻したとき、全人類の命、地球上のすべての命に対して責任を負えるのか」と問い、「核兵器は存在する限り、人類滅亡の可能性をはらんでいるのがまぎれもない現実。その可能性をゼロにするためには、廃絶しかないのが現実なのです」と強く訴えました。毎回の平和記念式典で核抑止論者は厳しく批判する湯崎知事。それはそれでいいのですが、今年に限っては、筆者は複雑な思いです。

特に三原・本郷町の産業廃棄物処理場問題では、知事が許可した処分場から汚染水が出ています。田んぼに水が引けずに困窮している県民がいますが、県は再稼働を容認し、困っている県民には何もしていません。そんなふうに湯崎知事が「本業」をおろそかにしていると、湯崎知事がおっしゃる正論まで、説得力を持たなくなってしまうのではないか、と懸念されます。

 

「反戦タイガース」を名乗る男性が、「六甲おろし」を「原発下ろし」に変えた替え歌を披露

◆中満国連事務次長 さすがの演説

中満泉・国連事務次長は、事務総長自ら出席された年を除き、ほぼ毎年、近年では平和記念式典に参加されます。核兵器禁止条約にも触れられ、100点満点の演説でした。国際公務員を目指される日本人の多くが実は女性。中満さんはそうした優秀な日本人女性の代表的な方でもあります。

ただ、一方で、日本という国があまりにも若い女性にとっては魅力に欠けるから、国際公務員を目指される方も多いということもあるかと思います。広島自体が若い女性を中心に人口流出が多い中で、筆者は複雑な思いで、中満さんによる演説を聞かせていただいています。

◆中国電力前で汚染水放出・核のゴミ持ち込み・岸田自称GXにNO

その後、筆者は、中国電力前で【8.6ヒロシマ平和へのつどい】主催の集会に合流しました。福島の汚染水海洋放出ノーの訴え。そして、上関に核のゴミ=死の灰の貯蔵施設をつくろうとする中国電力と関西電力の暴挙への怒りの声。そして、岸田政権の自称GXによる、老朽原発再稼働にNOの声。

この日は日曜日でしたが怒りの声が上がりました。そうした中で、「反戦タイガース」を名乗る男性が、「六甲おろし」を「原発下ろし」に変えた替え歌を披露し、一座を和ませました。

◆原爆小頭症をご存じですか?

午後は、8.6ヒロシマ平和の夕べに参加。平尾直政さんのご講演が最も印象に残りました。

平尾さんはきのこ会(原爆小頭症被爆者と家族の会)事務局長、でRCC社員を長年務め、現在は大学院生でもいらっしゃいます。

 

原爆小頭症とは?

原爆小頭症は胎児として近距離被爆した方で、被爆が原因で、知的障害やその他の症状が発生した方です。広島で48人、長崎で15人いらっしゃったそうです。意外に少ないと思われる方もおられるでしょうが、そもそも、近距離でお母さんが被爆した場合、即死してしまう場合が多いので、数としてはこれくらいだそうです。しかし、数が少ないがゆえに、実態が伝わらず、当事者や親御さんが苦しんでこられたのです。被爆二世と勘違いされることもあったそうです。

旧ABCC(現・放射線影響研究所)は、原爆小頭症の存在を把握していたが表沙汰にしてきませんでした。戦後二十年、救いの手が差し伸べられず、成育不良は栄養失調ということにされて原爆症に認定されない状態が続いてきたのです。

そして、1965年に親たちが集まり、きのこ会が発足しました。会の名前には親たちの強い思いがあったそうです。きのこ雲の下で生まれた小さな命だがきのこのように元気に育ってほしい。というものです。

会の目標は
1.原爆症認定。
2.終身補償
3.核兵器廃絶
で、1と2が一定程度実現した現在では、核兵器の廃絶が一番の目標です。

原爆小頭症会員は2023年7月末で11人おられます。(厚労省によると当事者は12人です。一人の未加入の方は個人情報保護法により会としてアクセスできない状況です)

きのこ会をジャーナリスト3人が支えたそうで、その一人は、昭和帝に『原爆についてどう思うか』聞いた中国新聞の秋信記者です。親たちは1966年、分裂した平和運動やマスコミの報道に傷ついていた中で、ジャーナリスト3人が窓口になり「盾」になったものです。

原爆小頭症児には地域の厳しい目が向けられてきました。幼女がいたずらをされそうになった事件があった際には、根拠のないうわさで犯人扱いさたそうです。また、善意で縁談を持ち込んだ人に対して、お断りしたところ、「お宅は贅沢言えないでしょう」と言われて傷つく、ということも起きています。

平尾さんは「原爆投下はアメリカがやった。しかし、原爆小頭症の子供と家族に「冷たいまなざし」を向けたのは悪気のない周囲の人たち-私達だ。」と指摘しました。

ヨシカズさんという男性のケースでは、50歳で人工透析により入院し、そのころ、母親も母親は脳梗塞に倒れ入院。母親の願いは息子と一緒に暮らすことでしたが、ヨシカズさんは1998年に死去。納骨を終えた日に母親も死去し、生前に夢はかないませんでした。

2013年67歳で亡くなった女性の場合、戦後すぐに、母親も兄も出て行ってしまい、家族がバラバラになりました。この女性は瀬戸内海の島で父親と二人くらしで、父親が亡くなってから家がゴミ屋敷状態になっていました。

兄が施設入居を薦めるも島の暮らしになれていたので結局、拒んだそうです。お父さんは生前、娘について「自分より早く死んでほしい。」とこぼしておられたそうです。それは娘の将来を心配してのことで重苦しさが伝わってきます。こういうことを繰り返させないためにも核兵器は廃絶しなければならない。それがきのこ会の今の目標だそうです。

最後に平尾さんは「ローソクはいつか燃え尽きるがほかのローソクに火を移せば燃え続ける。わたしはその別のローソクになりたい」と決意を表明し、大きな拍手を浴びました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年9月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

現在、世界で稼働中の原発は434基(2021年)である。2011年の福島第一原発震災後、廃炉になった原発と新たに運転開始した原発の数では、廃炉の方が多い。つまり十年間で基数は減っている(2011年1月時点で441基、2021年1月時点で434基、「世界の原子力発電開発の動向2021年版」原子力産業協会より)。

廃炉になった原発と新規原発では出力が違うので、総出力は史上最大レベルにはなっている。

世界の全電力生産量に占める原発のシェアは2019年には10.4%だが、2010年時点では12.8%だったので、これも大きく減少している。全世界のエネルギー供給量が増大しているのに原発はそれに比して増えていないことを意味している。

現在、運転年数が40年を超える原発が毎年数十基ずつ増えてくる。これを延長するか、代替する原発を建設しない限り、現状維持すら不可能だ。

原発を大量建設した時代、70年代から80年代のツケが、今後は回ってくる。このままだと自然に脱原発になってしまうので原子力産業は運転延長や新規立地の大義名分を大急ぎで作り出さねばならなくなった。

そんな背景があるから、原発を「グリーン」投資の対象となる産業のリストに加えることにしようとしている。

大きなインセンティブを与えなければあまりにリスクが大きいため誰も投資したがらない。

現在の規模を維持する程度に進めるのであれば、それは可能かもしれない。

電力需要の1割程度を原発で賄う。原子力産業の維持目標である。具体的には、80年代に運転開始した原発が40年を超えつつあるから、これらを延長運転して20年ほどは持たせようとしている。また、運転認可の更新回数に制限は設けられていないため(日本の場合は1回限り)さらに20年延長し、80年運転を目指す原発もある。

米国原子力規制委員会は2018年3月22日に、ターキーポイント3・4号機(PWR80万キロワット)の二度目となる20年間の延長運転(SLR)の申請を許可した。最初の80年運転原発を目指している。

米国でも原発の運転年数を40年と定めているが、ほとんどの原発が20年の運転延長申請を行うことで60年運転を推進している。現在、米国で運転中の94基(2021年1月1日現在)の原発のうち60年の延長運転許可を得ている原発は86基に達している(電事連 「海外電力関連 トピックス情報」2018年4月2日)。

米国は大量廃炉時代に入り始めていることから、原発のシェアは急降下することが確定的だ。そのため延長運転の推進と、老朽化や経済性の喪失で廃炉になる原発の代替として、新型炉の建設を進めようという計画もある。

しかし延長運転は大変危険だ。原発の寿命を40年としているのは、交換不可能な原子炉圧力容器などの設備については十分な安全性を維持することが可能な範囲として40年が想定されているからだ。それを60年、80年と延長すれば劣化が進み破損する危険性が高まる。

80年も使える電気ケーブルなどない。最初から全部交換可能な敷設方法でも採っていなければ使えないはずだ。

80年も動かす計画ではなかったのだから、無理に無理を重ねる結果にならざるを得ない。日本も米国も、ケーブルの劣化問題の重大さは変わらない。(完)

本稿は『季節』2022年春号(2022年3月11日発売号)掲載の「原発は「気候変動」の解決策にはならない」を本ブログ用に再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年夏号
NO NUKES voice改題 通巻36号 紙の爆弾 2023年7月増刊

《グラビア》原発建設を止め続けてきた山口県・上関の41年(写真=木原省治
      大阪から高浜原発まで歩く13日間230Kmリレーデモ(写真=須藤光男

野田正彰(精神病理学者)
《コラム》原子炉との深夜の対話

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》核のゴミを過疎地に押し付ける心の貧しさ

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》司法の危機 南海トラフ地震181ガル問題の重要性
《インタビュー》最高裁がやっていることは「憲法違反」だ 元裁判官樋口氏の静かな怒り

菅 直人(元内閣総理大臣)
《アピール》GX法に断固反対を表明した菅直人元首相の反対討論全文

鮫島 浩(ジャーナリスト)
《講演》マイノリティたちの多数派をつくる
 原発事故の被害者たちが孤立しないために

コリン・コバヤシ(ジャーナリスト)
《講演》福島12年後 ── 原発大回帰に抗して【前編】
 アトミック・マフィアと原子力ムラ

下本節子(「ビキニ被ばく訴訟」原告団長)
《報告》魚は調べたけれど、自分は調べられなかった
 一九五四年の「ビキニ水爆被ばく」を私たちが提訴した理由

木原省治(上関原発反対運動)
《報告》唯一の「新設」計画地、上関原発建設反対運動の41年

伊藤延由(飯舘村「いいたてふぁーむ」元管理人)
《報告》飯舘村のセシウム汚染を測り続けて
 300年の歳月を要する復興とは?

山崎隆敏(元越前市議)
《報告》原発GX法と福井の原発
 稲田朋美議員らを当選させた原発立地県の責任

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山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点

原田弘三(翻訳者)
《報告》「気候危機」論についての一考察

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家)
《対談》戦後日本の大衆心理【後編】

細谷修平(美術・メディア研究者)
《映画評》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈3〉
 わすれてはならない技術者とその思想 ──『Winny』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
《報告》今、僕らが思案していること

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
《報告》亡国三題噺
 ~近頃“邪班(ジャパン)”に逸(はや)るもの
  三重水素、原発企業犯罪、それから人工痴能~

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
《報告》山田悦子の語る世界〈20〉
 グローバリズムとインターナショナリズムの考察

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の全力推進・再稼働に怒る全国の行動!
福島、茨城、東京、浜岡、志賀、関西、九州、全国各地から

《福島》古川好子(原発事故避難者)
福島県富岡町広報紙、福島第一廃炉情報誌、共に現地の危険性が過小に伝えられ……
事故の検証と今後の日本の方向を望んでいるのは被害者で避難者です!
《東電汚染水》佐内 朱(たんぽぽ舎ボランティア)
電力需給予備率見通し3.0%は間違い! 経産省と東電は石油火力電力7.6%分を隠している! 
汚染水の海洋放出すべきでない!
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
運動も常に情報を受信してすぐに発信することが大事
4月5日定例の日本原電本店行動のできごと
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
中電が越えなければならない「適合性審査」と「行政指導」
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」事務局)
団結小屋からメッセージ付き風船を10年余飛ばし続けて
《高浜原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「関電本店~高浜原発230kmリレーデモ」に延べ900人、
「関電よ 老朽原発うごかすな!高浜全国集会」に320人が結集
《川内原発》鳥原良子(川内原発建設反対連絡協議会)
「川内原発1・2号機の九電による特別点検を検証した分科会」まるで九州電力が書いた報告書のよう
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
原発延命策を強硬する山中原子力規制委員会委員長・片山規制庁長官
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『3・11 大津波の対策を邪魔した男たち』(島崎邦彦・青志社)

反原発川柳(乱鬼龍選)

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

安倍晋三元首相銃撃事件から1年。いまだ山上徹也被告の裁判も始まっていないなか、複数の“謎”が残されていることは、本誌で指摘してきたとおり。そして、岸田文雄政権下で“安倍以上”ともいわれる軍国化が進められています。今月号では元外務省国際情報局長・孫崎享氏が、安倍政権を総括しつつ、その死にまつわる“謎”とともに、これまで触れられてこなかった安倍元首相の発言についても分析しています。

 

7月7日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年8月号

岸田軍拡と同様、グリーントランスフォーメーション(GX)あるいは環境変動対策の名の下で、加速を続けているのが原発再稼働の策動です。福島第一原発の汚染水は「海洋放出せざるをえない」と説明されていますが、核のごみ問題と同様、そのこと自体が、そもそも原発が人間の手に余るものだということを示しています。海洋放出を語るときには、それを前提とすべきです。既成事実化することで、「いざとなったら海に捨てればいい」との前例にもなるでしょう。流していいかどうかの問題ではありません。

その岸田政権下で起きたスキャンダルが、首相の長男・岸田翔太郎・元首相秘書官の「公邸宴会」と、“官邸の軍師”こと「木原誠二」官房副長官の愛人問題。とくに前者の翔太郎氏は、今回の問題があっても世襲議員の道を閉じたわけではありません。その動向に注目が続けられるべきですが、首相秘書官更迭後の現職は不明です。検察出身の郷原信郎弁護士は、ジョンソン英首相が辞任に追い込まれる原因となった、2022年の公邸「パーティーゲート」と多くの点で共通していると指摘しています。

6月14日、岐阜市の陸上自衛隊日野基本射撃場で起きた銃乱射事件。その“原因”がどこまで解明されるか、あまり期待はできません。仮に、発砲した18歳の候補生自身が何らかの問題を抱えていたとしても、国内の練習場ですらこういう事件が起きたわけで、戦地の極限状況ではどうか。6月号では「イラク戦争20年」を振り返りました。その中でも触れられているとおり、イラク日報はいまだ多くが黒塗りです。そして、戦地に派遣された自衛官には、精神を病む人が多く、自殺に至るケースも少なくありません。

今月号でも複数記事で採り上げたAIをめぐる危険。メディアの「チャットGTP」礼賛を見ていて感じるのは、まずAI導入ありきで、人の生活を良くするような、需要から生まれる発明とは趣が異なることです。本誌で紹介したような、リスクに関する専門家の警告が日本で大きく報じられないのは、すでに社会が実験場となっていることを意味するのでは、とも危惧しています。さらに藤原肇氏は今回の記事で、世界の経済システムが「ポンジ金融」化していると指摘しました。だとすれば、科学技術のイノベーションも、その動機が健全なものばかりではないことがわかります。あるいは、それは科学技術に限ったことではないかもしれません。 そして、神宮外苑再開発に伴う「樹木伐採」問題。6月4日投開票の大田区都議補選で当選した元都民ファーストの会の森愛氏が、会派内で「森喜朗元首相の利権だから終わったこと」との発言があったと暴露。詳細は本誌レポートをお読みください。「紙の爆弾」は全国書店で発売中です。ご一読をよろしくお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

7月7日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年8月号

◆声を上げ始めた市民 「モニタリングポストの当面の存続」

岸田政権が原発回帰を決定した。「東京電力福島第一原子力発電所で事故が起き、この国も世界中も震撼していた時に、一体あなたは日本にいなかったのか! なぜ、あの過酷事故から何も学ばないのか!」と、飛びかかりたくなるほどの怒りが心を渦巻く。

12年間、怒り続ける私たちの心は大丈夫なのか……と思うこともあるが、原子力を手放さない権力者たちは、そんなことはお構いなしに、オンボロ原発を稼働させようとしている。

この余りにも横暴な力の前に、私たちは立ちすくむ思いを何度も経験してきた。私たちは何もできないのか……と顔を伏せたくなる思いにもなる。

しかし、そのような時、「いや、まだまだやれることがあるはずだ……」と、自分を奮い立たせるために思い出すのは、2019年5月29日、第10回原子力規制委員会が決定した「モニタリングポストの当面の存続」だ。

福島第一原発事故後、福島県内に住み続ける子どもの生活環境の空間放射線量を測定し、可視化するために3千台のリアルタイム線量測定システム(通称モニタリングポスト)が設置された。

しかし、2018年3月20日、原子力規制委員会は2020年度末を目途に約2400基を撤去すると発表した。理由は除染により、環境放射線量が低くなったから。そしてもう一つの理由は、2020年度末で復興庁が終了するから。つまり予算がなくなることで、子どもの生活環境の空間線量を計測するモニタリングポストは撤去というわけだ。

私たちは直ちに「モニタリングポストの継続配置を求める市民の会」(以下市民の会)を立ち上げ、4月16日、参議院議員会館で第1回目の原子力規制庁交渉に臨み、原発事故後を生きる福島県民にとってモニタリングポストは、日常的に空間放射線量を目視できる唯一の情報源として最低限度の「知る権利」を保障するものであり、撤去または存続の「決定する権利」は、無用な被ばくを強いられている住民側にある。よって福島県民に問うことなく一方的に撤去することは、私たちの権利を蔑ろにする行為である。また原発事故を起こした国は、廃炉になるまで子どもの生活環境のモニタリングは続ける責任があると繰り返し主張した。

しかし、武山松次原子力規制庁監視情報課課長(当時)は、避難指示区域外の地域の空間線量は十分に低くなっていることから、モニタリングポストによる連続的な測定は科学的に役割を終えていると断言し、私たちの訴えは伝わらないままに、第1回の交渉は終わった。

◆約5週間で7市町の首長に面会し、継続配置を訴えた母親たち

市民の会は県内各自治体に対しても要請行動を開始。その際、市民の会が最も意識したのは、撤去方針に違和感を持った市民、特に母親たちが自らの意志で行動し声を上げられるようにサポートすることだった。

5月14日、会津若松市役所前に集まった母親たちには政治参加の経験はなく、緊張した面持ちだった。しかし、市長室のソファーにニコニコしながら座っている我が子の傍らで、「会津若松は他の地域と比較すれば線量は低いと言われている。しかし、絶対起きないと信じ込まされていた原発事故が起きた今、人工放射性物質が確実に私たちの回りに存在するようになってしまった。だからこそ、モニタリングポストは必要不可欠な装置なのだ。登園途中で毎日数値を確認している。街角にあれば必ず数値を確認する。その時の不安な気持もぜひ理解してもらいたい」と、時には声を詰まらせながら訴えた。ある町では幼子をおんぶした母親が首長に継続配置を求める要請書を手渡すなど、母親たちが声を上げ始め、約5週間で7市町の首長に面会し、継続配置を訴えた。

この動きと連動したのが、各地の住民説明会に参加した市民だ。原子力規制庁は「丁寧な説明で撤去方針を理解していただくこと」を目的として、同年7月から11月まで15市町村18会場で住民説明会を開催。しかし、全ての会場で子育て世代から高齢者までが撤去に反対し、継続を求める声が上がった。そして、市民の会は第3回交渉(2018年12月7日)で原子力規制庁から「目的を住民の声を聞くことに変更した」との言質を取った。

◆モニタリングポストは継続配置へ

市民の会は4回の原子力規制庁交渉を行った。噛み合わないやり取りにジリジリとした思いを抱き、時折飛び出す国の本音に驚いた。緊急事態が起きた際、モニタリングポストの数値を確認して避難するかしないかの判断をするのだと伝えると、「再びの緊急時は無用な被ばくを避けるためにもモニタリングポストを見に行かないでほしい。自分の判断で、勝手に逃げないでほしい」と回答。また「3・11前の福島県はとても空間放射線量が低かった。だから、事故後少しぐらい上がっても問題ない」と発言。私たちは息を呑み、「え? 今、何て言ったの?」と顔を見合わせ、我に返って「それは被害者との危機感と余りにも乖離している」と訴え続けた。

そして先述の通り、2019年5月末、原子力規制委員会は「モニタリングポストの当面の存続」を決定。これは原発核事故被害の当事者である市民の訴えが国に方針の変更をさせた、まさに民主的な決定だった。しかし同時に「当面とはいつまでだろう……」との不安も拭えなかった。

それから2年半後の2021年9月1日、第28回原子力規制委員会は、2022年度の国の予算にモニタリングポストの維持経費の概算を要求し、2021年から10年かけて、毎年300基のペースで線量検出器や電源などの部品交換を行い、部品供給ができなくなった450基については2022年度に新しい機器に取り替える計画が公表された。

これを受けて市民の会は菅義偉首相、更田豊志原子力規制委員会委員長(共に当時)に2019年の当面の存続の決定が具体的に動き出したこと、2021年度からの維持計画を高く評価するとの書簡を送り、今後も注視していくことを伝えた。

さらに2022年12月に閣議決定された2023年度予算案に維持・更新の予算16.6億円が盛り込まれ、部品供給ができなくなる71台が全面更新され、24年度以降、残りの主要部品は交換されていく。

今春、私は福島県猪苗代町の山間部で、色は茶色に変わり、少しコンパクトになった新しいモニタリングポストを見つけた。私たちの声がこの機器の存続を実現させたのだと思うと、ちょっとだけ誇らしかった。

◆間近に迫る放射能汚染水の海洋投棄

そして今、福島第一原発敷地内に保管されている放射能汚染水の海洋投棄が強行されようとしている。高濃度汚染水の流出事故が相次いだ2013年より活動を続けている「これ以上海を汚すな!市民会議」(以下、これ海)はその名の通り、放射能汚染水の海洋投棄を阻止するため、ありとあらゆる行動を続けている。

2020年4月13日、菅政権(当時)が2年後の海洋放出を決定したことに抗議する毎月の「13日スタンディング」は2年間続いている。2年後となった今年4月13日はグローバルアクションとして国内外の市民にスタンディングを呼びかけた。北海道から沖縄、ヨーロッパやアメリカ、カナダ、太平洋諸国、ニュージーランド、そしてアジア諸国の市民がこのアクションに参加し、汚染水の海洋投棄は自分たちの問題でもあると声を上げた。

国が喧伝する「ALPS処理水」の危険性を学ぶ学習会は福島県内各地で行われ、また海外の科学者らを招いたオンライン講演には、海外からの参加者も多く、終了と同時に、仲間と共有するため早くYouTube配信をしてほしいと声が届いた。

内堀福島県知事、伊沢双葉町長、吉田大熊町長に、市民一人ひとりが海洋投棄に反対の声を届ける「ハガキ作戦」は、民の声新聞の報道によれば、5月末現在、約3500通が届いているらしい。

これ海は2020年9月、21年6月、11月と経産省エネルギー庁や東電との交渉を続けてきた。噛み合わない議論の中、毎回要望し続けているのが政府主催の県民公聴会だ。しかし一度も実現していない。なぜ開催しないのか……。私はその理由は2018年のモニタリングポスト撤去を巡る住民説明会での手痛い経験だと考える。原子力規制庁自らが開いた説明会で撤去反対の声が湧き上がり、結果的に存続となった。「当面の存続」が決定された日、河北新報は「市民の声が国を動かした」と速報を出した。

恐らく国は汚染水の海洋投棄を強行するだろう。復興庁が終了する2031年には再びモニタリングポストの大量撤去方針が出されるかもしれない。その度に「やっぱり……」とか「またか……」と落胆もするだろう。でも、それでも私たちは立ち上がり、声を上げ始める。それは、あとから来るいのちのために私たちが果たすべき、せめてもの責任だから、そしてそうできるのは、仲間がいるからだ。汚染水の海洋投棄に反対する声は今日も世界中から届いている。私たち市民は自分の力を信じ、声を上げ続けよう!
 

5.16東京行動 東電本社前での筆者(ウネリウネラ提供)

▼片岡輝美(かたおかてるみ)
モニタリングポストの継続配置を求める市民の会。これ以上海を汚すな!市民会議。1961年福島県郡山市に生まれる。1985年、夫の片岡謁也牧師と共に日本基督教団若松栄教会へ。放射能から子どものいのちを守る会・会津代表、会津放射能情報センター代表。主著に『今、いのちを守る(TOMOセレクト 3.11後を生きる)』(2012年日本キリスト教団出版局)、『クリスチャンとして「憲法」を考える』(2014年いのちのことば社/共著)等。

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原発の火力代替性を主張するならば、現在問題視されている石炭火力の電力をすべて原発で置き換えるほどのインパクトが必要だ。それがウラン資源からみて可能か、という問題になる。原発が石炭を代替できるほど普及しなければ、二酸化炭素排出量の引き下げに寄与できたなどとは言えないからだ。

現在世界の石炭火力は、全電力生産の約40%(*)ほど。一方、原発は過去最大の時でも10%程度。つまり石炭との代替とは、世界の電力生産の半分程度を原発にすることを意味する。

そのためには100万キロワット級原発を年間80基ペースで20年にわたり追加
で建て続けなければならない。

(*)全世界の発電電力量は約27000TWh(27兆kWh)、 石炭火力は約10000TWh(10兆kWh)の発電電力量で約40%、原発は約3000TWh(3兆kWh)で約10%。

原発と石炭火力の電力をすべて原発で発電する場合、設備利用率70%で100万キロワット級原発が約2000基必要になる。

一般に原発の建設には立地点を探して許認可手続を経て完成までには十5年くらいはかかる。民主的手続きなど不要な国ならば十年以下で可能かもしれない。

しかし、このペースで原発の資機材を調達するのは不可能だ。人材育成となるとさらに困難だ。原発は自動運転も出来ないし、メンテナンスでも多くの人手が必要だ。1基あたり年間、運転員クラスで20から30人、メンテナンス要因は1000人以上、何基も集中立地して合理化し、ロボットなどで検査、監視を補助しても、半分にも減らせない。そのため運転員を年間数千人、メンテナンス要員を数万人ずつ養成し続けなければならない。それに対して天然ガス火力は年間数十人の要員で100万キロワット級の発電所を動かせる。

もっと重大な問題がある。現在の核燃料サイクル、燃料生産の規模は、世界で400基あまりの原発を稼働させる程度にしか稼働していない。これが2000基に増加した場合、現在の余力を投じても追いつかない。具体的にはウラニウム採掘量を3倍程度に増加させ、核燃料生産量も同様に増やす必要がある。

しかし世界の鉱山開発はほとんど止まっている。また、高品位のものは残り少ない。原発が増えると予測したら、低品位でも開発をするだろうが、汚染もさらに拡大する。

増産をすれば可採年数は急激に減り、おそらく現在の品位の鉱石は十年程度でなくなる。低品位のものを使っても原発の運転年数40年が終わる頃には採算ベースのウラニウムは枯渇するだろう。

残されるのは再処理ウランや濃縮残渣で出た低濃度のウラン(減損ウランや劣化ウラン)である。これらは使えないことはないが、汚染があったり再濃縮に莫大な電力と費用がかかることで採算が合わないだけでなく、様々な汚染事故リスクが急激に増大する。

それが資源的に見た原発の限界点だ。このことを理解するには、小学校の算数の問題を解く程度の知識で十分だ。

なお、これに対しては高速増殖炉を開発すれば良いとの意見が聞こえてきそうだが、何十年も国策として巨額の税金を投入していたもんじゅやスーパーフェニクスさえ、まともに運営できなかったことを忘れてはならない。(つづく)

本稿は『季節』2022年春号(2022年3月11日発売号)掲載の「原発は「気候変動」の解決策にはならない」を本ブログ用に再編集した全3回の連載記事です。

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      大阪から高浜原発まで歩く13日間230Kmリレーデモ(写真=須藤光男

野田正彰(精神病理学者)
《コラム》原子炉との深夜の対話

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》核のゴミを過疎地に押し付ける心の貧しさ

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》司法の危機 南海トラフ地震181ガル問題の重要性
《インタビュー》最高裁がやっていることは「憲法違反」だ 元裁判官樋口氏の静かな怒り

菅 直人(元内閣総理大臣)
《アピール》GX法に断固反対を表明した菅直人元首相の反対討論全文

鮫島 浩(ジャーナリスト)
《講演》マイノリティたちの多数派をつくる
 原発事故の被害者たちが孤立しないために

コリン・コバヤシ(ジャーナリスト)
《講演》福島12年後 ── 原発大回帰に抗して【前編】
 アトミック・マフィアと原子力ムラ

下本節子(「ビキニ被ばく訴訟」原告団長)
《報告》魚は調べたけれど、自分は調べられなかった
 一九五四年の「ビキニ水爆被ばく」を私たちが提訴した理由

木原省治(上関原発反対運動)
《報告》唯一の「新設」計画地、上関原発建設反対運動の41年

伊藤延由(飯舘村「いいたてふぁーむ」元管理人)
《報告》飯舘村のセシウム汚染を測り続けて
 300年の歳月を要する復興とは?

山崎隆敏(元越前市議)
《報告》原発GX法と福井の原発
 稲田朋美議員らを当選させた原発立地県の責任

——————————————————————–
山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点

原田弘三(翻訳者)
《報告》「気候危機」論についての一考察

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家)
《対談》戦後日本の大衆心理【後編】

細谷修平(美術・メディア研究者)
《映画評》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈3〉
 わすれてはならない技術者とその思想 ──『Winny』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
《報告》今、僕らが思案していること

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
《報告》亡国三題噺
 ~近頃“邪班(ジャパン)”に逸(はや)るもの
  三重水素、原発企業犯罪、それから人工痴能~

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
《報告》山田悦子の語る世界〈20〉
 グローバリズムとインターナショナリズムの考察

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の全力推進・再稼働に怒る全国の行動!
福島、茨城、東京、浜岡、志賀、関西、九州、全国各地から

《福島》古川好子(原発事故避難者)
福島県富岡町広報紙、福島第一廃炉情報誌、共に現地の危険性が過小に伝えられ……
事故の検証と今後の日本の方向を望んでいるのは被害者で避難者です!
《東電汚染水》佐内 朱(たんぽぽ舎ボランティア)
電力需給予備率見通し3.0%は間違い! 経産省と東電は石油火力電力7.6%分を隠している! 
汚染水の海洋放出すべきでない!
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
運動も常に情報を受信してすぐに発信することが大事
4月5日定例の日本原電本店行動のできごと
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
中電が越えなければならない「適合性審査」と「行政指導」
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」事務局)
団結小屋からメッセージ付き風船を10年余飛ばし続けて
《高浜原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「関電本店~高浜原発230kmリレーデモ」に延べ900人、
「関電よ 老朽原発うごかすな!高浜全国集会」に320人が結集
《川内原発》鳥原良子(川内原発建設反対連絡協議会)
「川内原発1・2号機の九電による特別点検を検証した分科会」まるで九州電力が書いた報告書のよう
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
原発延命策を強硬する山中原子力規制委員会委員長・片山規制庁長官
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『3・11 大津波の対策を邪魔した男たち』(島崎邦彦・青志社)

反原発川柳(乱鬼龍選)

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

2000年代の「原子力ルネッサンス」のとき以来、再び「原発回帰」の掛け声が聞こえてきた。主に欧州から、カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と、吸収量を均衡させること)を実現するためには原発建設を再始動させる必要があるという主張だ。欧州連合(EU)は「2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」というカーボンニュートラルを目標としている。

EUグリーン・ディール政策を達成するために、一部の天然ガスと原発を「グリーン投資(サステナブル・ファイナンス・タクソノミー)」に条件付きで含めることを提案した。

「EUは原発と天然ガス火力を『グリーン』投資の対象となる産業のリストに加える方針を明らかにした。持続可能な投資の分類『タクソノミー』の新しいリストには、企業の情報開示や気候変動に配慮した投資、炭素関連の政府支出について、温暖化対策に役立つ『グリーンな』活動の統一した定義を示すことを意図している。このEUのグリーンリストは、『持続可能性』を金融と関連づけて定義する。」(ニューズウィーク日本版より)

同じ主張は日本でも原子力産業や東電など電気事業者が主張している。経団連や経産省は、その旗振りの先頭に立っている。

それは、現実を無視した、原子力産業の利権拡大と原発推進のための議論でしかない。これに乗ってしまうと、再び福島第一原発事故のような過酷事故を日本のみならず世界のどこかで再発する可能性が高まるだけでなく、本来あるべきエネルギー政策を誤り、途方もない資金を無駄で危険で核廃棄物にまみれた産業に投じる愚を犯すことになる。

では、どこがどれだけダメなのか、具体的に指摘しよう。

原発は今も環境負荷をかけ続けている原発を動かすには核燃料サイクルを回す必要がある。核燃料のままで地下から取り出せると思っている人はいないと思うが、核燃料の生産から使用済燃料の再処理に至るまで、大量の放射性物質が環境中に放出されてきた。

言い換えるならば、通常運転時なら原発から出る放射性物質のほうが、核燃料サイクルから放出される放射性物質よりも相対的に少ない。ただし使用済燃料は除くが。

ウラン採掘国は、カナダ、オーストラリア、カザフスタン、ロシア、ニジェール、ナミビアなどの国々だ。ウラン資源は偏在しており、石油や天然ガス同様、調達においては「地域リスク」(政情不安定などの要素)を伴う地域が多いことは指摘されない。

ウラン採掘時には大量の鉱滓が出る。これは放射性物質の塊であり、これら多種多様の放射性物質で環境は汚染される。地下の「核のごみ」をわざわざ掘り出しているに等しい。

これまでも、これからも周辺住民や環境に大きな汚染の被害をもたらす。

福島第一原発事故の「帰還困難区域」と本質的には変わらない。そんな犠牲の下に核燃料は生産されている。

加工時にも放射性物質は出る。その上、使用済燃料を再処理すればわずか1日で、原発が通常運転時に出す放射性物質の1年分を排出する。再処理をすればするほど、放射能汚染を世界中に拡散させる装置が原発だ。こんなシステムが「環境に良い」わけがない。

炭酸ガスを出す、出さないとの議論など枝葉末節の問題に思えるほどだ。

チェルノブイリ原発事故や福島第一原発事故では、広大な土地が居住不能または耕作不能にされた。また、核兵器開発により同じく汚染され使用できなくなった広大な地域もある。

原発を原子力システムとして見れば、二酸化炭素排出量は現在経産省などが主張する「kWh当たり22から40グラム」ではなく、それよりも遥かに多いと考えられる。

スタンフォード大学のジェイコブソン教授によれば、原発のライフサイクル(ウラン採掘から放射性廃棄物の処分まで)二酸化炭素排出量はキロワットアワー(kWh)当たり68~180グラム(gCO2/kWh)になるという。

一方、天然ガスの場合は、コンバインドサイクル発電により熱効率を52%まで高めた場合、360gCO2/kWhだというから、2倍ほどしか差がない。

発電中に二酸化炭素を出すか出さないかは問題の本質ではない。

この十年、日本では原発がほとんど稼働していない。にもかかわらずメンテナンスや新規制基準適合性審査への対応、使用済燃料の冷却などで膨大な電力をただ消費している。この電力はほとんど火力発電により賄われている。その分は当然、原発が排出した二酸化炭素としてカウントされなければならない。

廃炉作業を行っている福島第一原発などの廃止原発で消費されるエネルギーに対応する二酸化炭素も膨大な量になると考えられる。

原発は運転を止めてもエネルギーを大量に使わなければ安全を維持できない。これらがkWh当たりの二酸化炭素量として、これまで考慮されたことはなかった。(つづく)

本稿は『季節』2022年春号(2022年3月11日発売号)掲載の「原発は「気候変動」の解決策にはならない」を本ブログ用に再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年夏号
NO NUKES voice改題 通巻36号 紙の爆弾 2023年7月増刊

《グラビア》原発建設を止め続けてきた山口県・上関の41年(写真=木原省治
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反原発川柳(乱鬼龍選)

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5月12日「GX(グリーントランスフォーメーション)推進法」なる実質「原発推進法」が成立してしまいました。重要な法案にもかかわらず、国会内内外で充分な議論がなされず短い審議で成立しました。さらに「GX脱炭素電源法」も本稿執筆時点、参議院で審議されています。「GX脱炭素電源法」は原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理法、再エネ特措法の改正案5つを束ねたものです。

 

6月12日発売 『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

わずか12年前に福島第一原発事故を引き起こし、いまだ「原子力非常事態宣言」を解除できない国が明確な「原発推進」を打ち出すこの国の姿勢は、完全に理性を失っています。福島第一原発事故後は自民党ですらが原発回帰を躊躇っていたにもかかわらず、国の存亡にもかかわる「GX推進法」を大した議論もなく可決させてしまった与野党と、例によって政府と呼吸を合わせたように相応の報道を行わなかった大手マスメディアの劣化し尽くした姿勢に編集部は激烈な怒りを覚えます。

また本誌が発売される頃には、すでに鮮度のないトピックあるいは忘れ去られているかも知れませんが、広島でG7サミットが開催されました。もとよりサミットは「帝国主義者の戦争準備会議」と呼ぶ人がいるほどに、これまでも「軍縮」や「人類平和共存」に貢献したことはありません。

被爆被災地、広島で開催されることに、「核兵器廃絶」など筋違いの期待を寄せる言説も見受けられましたが、それらはもとより的外れ甚だしい妄想でした。案の定、G7期間中にどういうわけかウクライナのゼレンスキー大統領が広島を訪れ、米国などからF-16戦闘機の提供の確約を取り付けました。議長である日本国の首相岸田は「核兵器のない世界実現という理想をG7で共有」したと、功績のように記者会見で語りましたが、これは完全なる虚構です。

そもそも米国を中心とする核兵器保有国が集ったところで「我々は核兵器を放棄します」などと殊勝な宣言が発せられる道理は、最初からありはしないのであり、米国のバイデン大統領は広島入りに際して、これ見よがしに「核兵器発射ボタン」の入ったカバンを随行員に持たせている写真をわざわざ撮影させています。国際平和に貢献する意志があるのであれば、インドなど中立的な国も参加していたのですから、ロシアにも参加を呼びかけ「停戦」の場としたのであれば、それなりの評価に値したでしょうが、日本政府にそのような意思は微塵も見られませんでした。

人間が考えることを人工知能(AI)に代行させることに「G7」各国は熱心なようです。叡智や思索の蓄積を度外視してコンピューターの指示に従いたがる時代にこそ、人間の身体に結び付いた思想と行動の価値が問われているのではないでしょうか。脱原発(反核)・反戦は喫緊の課題です。

2023年6月
季節編集委員会

6月12日発売 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年夏号
NO NUKES voice改題 通巻36号 紙の爆弾 2023年7月増刊

《グラビア》原発建設を止め続けてきた山口県・上関の41年(写真=木原省治
      大阪から高浜原発まで歩く13日間230Kmリレーデモ(写真=須藤光男

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