筆者が住んでいる広島市から最も近い原発は四国電力伊方原発です。同原発3号機の運転差し止めをもとめる裁判を筆者も含めた住民が広島地裁に起こしており、運転差し止め仮処分決定が出たことがありますが、直近の申し立ては残念ながら、却下され、再稼働されています。

一方、広島県北部の住民にとって、最も近い原発は島根県松江市の中国電力島根原発です。松江市は全国で唯一原発がある県都です。

事故が起きた場合は直接の影響がすぐにはなくとも、島根県東部の避難民を広島県北部で受け入れることになります。島根原発1号機は2017年から2045年までの廃炉作業中、3号機は新設ですが稼働の見込みが現在はなく、2号機の再稼働が焦点となっています。

こうした中で、松江市は再稼働を了解してしまいました。島根県知事も近いうちに周辺自治体などの意見を聴いて是非を決める予定です。

その広島県庄原市議会では、島根原発の再稼働に反対する決議が3月23日の市議会本会議において、11対8で可決されました。

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発議第2号

島根原子力発電所2号機の再稼働に反対する決議上記の議案を、庄原市議会会議規則第14条第2項の規定により、別紙のとおり提出する。

令和4年3月23日 庄原市議会議長様
提出者 総務常任委員会委員長 赤木忠德

(提案理由)島根原子力発電所2号機の再稼働については、安全性の確保や避難計画の実効性に関する課題が山積している。住民の命と安全の保証がないままに、原子力発電所を再稼働することに反対するものである。

島根原子力発電所2号機の再稼働に反対する決議

昨年9月、原子力規制委員会は島根原子力発電所2号機が新規制基準に適合していることを示す審査書を決定した。今年2月、松江市は再稼働の可否に関する事前了解権に基づき、再稼働同意を表明した。同じく事前了解権を持つ島根県も、県議会や周辺自治体の意見を聞いた上で、再稼働の可否について判断する見込みである。

原子力規制委員会は、原子炉等の設計を審査するための新規制基準は原子力施設の設置や運転等の可否を判断するためのものであり、これを満たすことによって絶対的な安全性が確保できるわけではないとしている。また、広島県と島根県が締結した原子力災害時等における広域避難に関する協定及び島根県が作成した原子力災害に備えた島根県広域避難計画において、本市は松江市八雲地区から6,810人の避難者を受け入れることになっている。この避難計画は、自力での避難が難しい人への支援や、自然災害で避難経路が使用できない際の対応、避難所での新型コロナウイルス感染症対策など、実効性に関する課題が山積している。

島根原子力発電所2号機が再稼働され、重大事故が起きれば、その被害は計り知れないものとなる。何よりも重視しなければならないのは、住民の命と安全である。その保証がないままに、原子力発電所を再稼働すべきではない。よって、本市議会は、島根原子力発電所2号機の再稼働に反対するものである。

以上、決議する。

令和4年3月23日 広島県庄原市議会

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◆筆者の赴任中からは想像ができぬ反原発決議

庄原市は広島県の北東部にある山間部の自治体です。2002年度から4年間、筆者はこの地域の市町村や介護施設や病院の指導にあたらせていただきました。

2005年に旧庄原市と比婆郡東城町、西城町、比和町、高野町、口和町、甲奴郡総領町が合併して新庄原市となりました。総人口は当時の43,519人から現在は33,218人に激減しています。

正直、失礼ながら筆者が仕事をさせていただいた時代には庄原市議会がこういう決議をするようなことは想像もできませんでした。

祖母が庄原市出身という60代男性も「色々と問題が多かった地域。だからこそ、余計に驚きと喜びを感じる。」とおっしゃいました。

今だから申し上げますが、わたしの在任中、合併される前のある自治体では以下のような惨状でした。

夫が町長で妻が町議兼介護事業者のトップ。妻が経営する介護事業所への利用をことわりづらいような雰囲気の中で町民に利用を勧誘。この影響でこの町の介護保険利用が爆発状態となり、パンク寸前に。その結果、国から「適正化」を求められたのです。どうしようかと悩んでいたら、合併となり、同町は消滅。正直、筆者はほっとしました。一方で、吸収合併された地域の衰退は目立ったのは「いたしかゆし」でした。

◆地域の将来への危機感と新住民の流入効果も

筆者がこの地域を去った後、庄原市では様々な問題もおきました。そのひとつが、バイオマス疑獄です。

当時の滝口季彦市長が2008~2009年ころ、バイオマス事業を推進。しかし、委託された事業者があまりにもずさんで事業が進む見込みがないことが、発覚。事業者は刑事責任を問われ、市は国からの補助金2億3,800万円を返還することになりました。このことに対して市政をただしていこうという住民運動が高揚。庄原市に対して市長個人に補助金返還分を賠償請求するよう命じる判決が2022年3月、出たものです。

一方で、東電福島第一原発事故のあとあたりから、とくに若い女性がこの地域にも移住するようになりました。

2017年の市議選では一人の若手女性が徒手空拳で挑み、惜敗。しかし、2021年の市議選ではなんと二人の新人の無所属の女性議員が誕生。共産党にも女性議員が誕生したこともあり、20人中4人が女性議員ということになりました。日本全国でまだまだ女性議員ゼロの自治体もあることを考えるとこれは大きな変化です。

庄原市議会HP

なお、県北部では女性議員が最近、顕著にふえています。このあたりのことについては今後、詳しく取材して稿を改めていきたいとおもいます。

社民党や共産党のベテラン男性議員も奮闘したし、新人の無所属の女性議員も奮闘した。そうした中で、「原発再稼働に反対」する議員が多数となったそうです。

もちろん、議会内には、当面のエネルギー需要をどうするのだ?という考え方から決議に反対した議員もいらっしゃったのも事実です。しかし、多数は再稼働に反対したのです。

まとめると、地域の将来への危機感、そして新住民の流入。こうしたことも、最近の市政の変化の背景にあるようです。

◆本当に深刻なのは「成功体験」脱却できぬ広島市など南部かも

他方で、筆者が住んでいる広島市。広島県内で最大都市ですが、議員も市民もいまひとつ、危機感が薄いようにも思えます。「伊方原発の再稼働反対」決議を広島市議会が出すかといえば、それは「現時点ではあり得ないだろうな」というのが筆者の実感です。

なんだかんだで、「原発製造企業を軸とした重厚長大産業のおかげで、1975年ころにひとりあたり県民所得3位」となり、「カープが初優勝」した、あの時代の「成功体験」が忘れられない方が多いというのは否定できません。また、中国電力の本店もあるというのも大きい。しかし、だからこそ、めげることなく、従来の「成功体験」への対抗軸を、ガツンと打ち出していかなければならないという決意を改めて表明します。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年5月号!

2022年の3・11。言うまでもなく、あの東日本大震災・福島原発事故がはじまって11年です。

「はじまって」という言い方をしたのは、いまだに現在進行形だからです。公式発表でさえ、3万人以上が福島県外への避難を余儀なくされている。そして「原子力緊急事態」は続いています。

筆者は、もちろん、この11年間、ずっと広島で過ごしました。しかし、今年は、一昨年来のコロナに加えて、世界最大の核兵器保有国に君臨する男が、核兵器という刀の柄に手をかけ、原発が戦争で争奪の対象になるという人類存亡の瀬戸際の危機的状況で3・11を広島で迎えました。

◆「黒い雨」主人公の被爆の場所 横川駅前からスタート

その日に自分はどう行動するか? 最初に選んだのは広島市西区の横川駅前での街頭演説でした。

横川駅は小説「黒い雨」の主人公の閑間重松が1945年8月6日に被爆した場所です。重松は現在の中区千田町の自宅を出発して、広電で横川駅に到着。国鉄可部線の古市橋駅近くの会社に向かうため、当時は横川駅始発だった可部線のホームに行き、そこで被爆します。そのあと、広島市内をさまよった挙げ句、可部線が運転再開していた山本駅(2021年の大水害被災地近くだが、現存しない。)から古市橋駅へ電車でたどり着きます。

筆者が、政治家を志した原点は小説「黒い雨」です。ですから、ここを原点に行動することにしました。


◎[参考動画]さとうしゅういちIN横川駅前 東日本大震災・福島原発事故11周年 ノーモア ヒロシマ・ナガサキ・チェルノブイリ、そしてフクシマ いますぐ停戦

演説で筆者は、ここが、重松被爆の場所であることを紹介。その上で東日本大震災の犠牲者の皆様に弔意をしめすとともに、いまなお避難を余儀なくされている皆様をふくむ被災者のみなさまにお見舞い申し上げました。

その上で、原発が戦場になっている状況に危機感を示し、ヒロシマ・ナガサキ・チェルノブイリ・フクシマを繰り返さないため、プーチン大統領に強く停戦を求めました、

一方で、ヒロシマ・ナガサキ・フクシマを経験した国日本として、イスラエルやトルコを見習って停戦へ向けた外交の努力をすべきだ、と訴えました。安倍元総理に対しても「核共有などということを言っている暇があるなら、動けるなら動いたらどうか」と勧告しました。

さらに、国内の物価上昇に対しては、「輸入物価上昇で庶民ほど打撃のいまこそ、財政出動で負担軽減を」と強調。さとうしゅういちとれいわ新選組の「消費税廃止」「ガソリン税ゼロ」「奨学金チャラ・学費無償化」などを紹介。また、食料安全保障のため、農業だけでなく漁業や酪農など食料生産者にコストの補償を、と訴えました。

維新などによる原発復活論に対しては、「ウクライナ戦争で原発が最大の安全保障上のリスクであることがあきらかになった。原発は廃止を。そして、クリーンで地域分散型のエネルギーを促進すべきだ。大きな発電所でつくって、遠くへくばる、という考え方から転換することが大事。そのためのグリーンニューディールにガツンと財政出動する。」と反論しました。

さらに、国家公務員一般職員の給料カット法案については、「公務員給料カットは、結果として民間労働者の給料を下げてしまう。総理の公約の労働者の給料アップも遠のいてしまう。むしろ民間労働者のコロナによる減収を補填した上で、女性が多い非正規公務員の正規化、介護や保育の労働者の給料10万アップをして暮らしを守るべきだ。格差是正は低いほうを上げることで実現を」などと訴えました。

余りにも熱をいれすぎて、広電の横川駅の駅員の方から、「演説と放送が重なると放送がきこえにくいので」とご注意をいただき、後半は場所をすこしずらしました。

◆古市橋駅前で演説、収賄で略式起訴された市議の支持者に遭遇

筆者は、このあと、可部線に乗車。重松が8月6日夕方にたどりついた古市橋駅前に到着し、上記と同様の内容の演説を行いました。

その後、駅近くの床屋で散髪をしていただきました。丁度、先客の女性が、河井事件で検察審査会が「起訴相当議決」をしたことを受けて辞職した議員の熱心な支持者の方でした。議員にがっかりした、とおっしゃっていました。

「わたしは、中途半端に辞職した人よりは、徹底抗戦する議員の方がスジは通っているとおもいますよ。自分でアウトだと思うならすぐに辞職するべき。無罪と思うなら最後まで裁判で闘うべきとおもいます。」と申し上げると、「まったくそのとおりだと思う」と同意をいただきました。

このあと、筆者は、妻と犬の昼食を買って一時、東区の自宅に帰宅しました。午前中の動画のUPをしていると、14時46分。PCの前で黙祷を捧げました。

 

◆元同僚に公務員給料カット反対と引き換え?に介護や保育の労働者の給料UPを訴える

夕方は17時前から元職場の広島県庁前で街頭演説。元同僚に向けて、さとうしゅういちとれいわ新選組が「国家公務員一般職員の給料カットに反対」であり「現場公務員をふやす」政策であることを紹介。一方で、介護や保育の労働者の給料大幅アップなどの政策へのご協力を、元同僚である県庁労働者に向けて訴えました。

中国電力前に「単独」で乗り込み「さとうしゅういちとれいわ新選組への支持を安心して検討してほしい」

県庁前のあと、NHK前、そして中国電力前でも街頭演説を実施しました。

中国電力は、島根原発2号機再稼働、3号機新規稼働を強行しようとしています。また上関原発の新設もあきらめていません。中国電力前では、退勤中の中国電力労働者の皆様に対して「今回の戦争で原発が最大の安全保障上のリスクであることがあきらかになった。また、原発になにかあれば御社は吹っ飛ぶ。それよりは、原発は廃止をしたほうがいい。さとうしゅういちとれいわ新選組は、原発をなくすいっぽうで、原発関連の部署ではたらくみなさまには、原発廃止を担当する公務員のポストをご用意する。安心してさとうしゅういちとれいわ新選組へのご支持をご検討いただきたい。」とお願いしました。

 

なぜ、中国電力前に単独で乗り込んだか? この日はそのあと、18時から原爆ドーム前で「つながろうフクシマさよなら原発ヒロシマ集会」がありました。しかし、コロナ対策で、例年はあった中国電力前までのデモが中止されていたのです。少数でも、中国電力の労働者に向けて訴えない311、それも原発が最大の安全保障上の脅威となったいま、中国電力前で訴えないわけにはいかない。そう考えて、のりこんだのです。なぜか、年配の女性労働者(ひょっとしたら幹部かもしれない)が最後までじっときいておられました。

なお、写真撮影には男性が自転車で筆者の後を追ってご協力をいただきました。ですから、「単独」という表現は実は不正確です。お礼申し上げます。

◆原爆ドーム前で「つながろうフクシマさよなら原発ヒロシマ集会」そして反戦スタンディング

原爆ドーム前では、「つながろうフクシマさよなら原発ヒロシマ集会」がありました。

幅広い市民団体が参加しました。今年は、ロシアのウクライナ侵攻に抗議するメッセージも出されました。福島からは毎年参加をいただいていますが、コロナ災害発生後は、メッセージの代読になっています。そして、島根原発の地元からの報告をいただきました。報告によれば、もはや、島根原発再稼働を松江市長もあっさり受け入れ、住民投票条例案も否決される危機的な状況です。伊方原発は再稼働されてしまいましたが、島根原発も再稼働されれば、広島はそれこそ、南北から原発の脅威で挟み撃ちになる恰好です。ただ、やはり、デモがないのは寂しいかぎりでした。


◎[参考動画]動画 3・11「つながろうフクシマ さよなら原発ヒロシマ大集会」

一方、同時進行で、れいわ新選組の「改憲阻止チーム」が呼びかけて、最初は平和公園噴水前、そして、「ヒロシマ集会」終了後は、原爆ドーム前へ移動してロシアのウクライナ侵攻に抗議するスタンディングが行われました。

ビートルズの「Give Peace a Chance(平和を我等に)」をうたいながら、反戦をアピールしました。
https://twitter.com/reiwakaikensosi/status/1502240723671736322

若いれいわ新選組支持者の発案で、しゃべるのが苦手な人も参加しやすい運動をという趣旨で数日おきにされています。

◆毎週金曜日はオンライン「定例記者会見」

筆者は毎週金曜日、オンラインで定例記者会見を実施しています。この日は3・11とウクライナ戦争、また、国家公務員一般職員の給料カット法案についてわたしから問題提起をし、参加者で自由にご発言をいただきました。もし、ご興味があればご参加ください。どなたでもご参加できます。入退室自由です。記者会見には、以下からどなたでもご参加いただけます。入退室ご自由です。

さとうしゅういち 定例記者会見
開催日時 毎週金曜日 20時~
Zoomミーティングに参加する
https://us04web.zoom.us/j/4117183285?pwd=bFhrcTlWOUpPRmZhUGFkTVpTZlV4Zz09
ミーティングID: 411 718 3285
パスコード: 5N6b38

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

3月7日、水戸喜世子さんのご自宅で、脱被ばく子ども裁判の控訴審と、被ばくで甲状腺がんを発症した若者6人が東電を訴えた裁判についてお話を伺った。居間に通されるなり、目についたのが水戸さん手作りのプラカードだった。ロシアのウクライナ侵攻から2週間以上経過し(3月7日現在)、世界中で反戦の声が高まっている。

とりわけロシアがウクライナの原発を攻撃したことで水戸さんの怒りが最高潮に達した。こうした事態を予測していたかのように、2017年7月、水戸さんは、日本の原発へのミサイル攻撃を懸念し、運転差し止めの仮処分を提訴した。裁判は敗訴。その苦い経験から、懸念したことが現実となった今、「心配していたことが現実になって寒気がする」と話される。 (聞き手・構成=尾崎美代子)

◆世界中が完全な平和を手にするまでは、原発は眠っていてもらいましょう

 

高槻駅で続けられるスタンディングに立つ水戸さん(写真提供・二木洋子さん)

水戸 去年から、ずっと眩暈がひどくて、家でも何かにつかまって歩いていたのですが、ロシアの武力攻撃を知って、いてもたってもいられなくて、キャリーを引きずってスタンディングに参加するようになりました。

2017年、今頃の季節でしたね。北朝鮮が弾道ミサイルを立て続けに発射したことがありました。その時、私はたった一人で、高浜3、4号機の運転差し止めの仮処分を大阪地裁に提訴したのです。あのときは内閣総理大臣が自衛隊法の「破壊措置命令」、つまりミサイルが飛んできたら撃ち落としていいという指示を発令していたのです。

新幹線を運休したり、東京では地下鉄も止めましたよね。子どもまで学校で真剣に避難訓練をさせられ、登下校時の注意書きまで、学校から家庭にお手紙が配られました。戦時中、警戒警報や空襲警報のたびに防空頭巾をかぶって、机の下にもぐった国民学校時代のドキドキした息の詰まるような記憶がよみがえって、言葉にならない怒りがこみあげてきました。国民学校3年の3月です。家の地下に掘った防空壕では危険だからと、商品取引所の地下室に逃げて、命だけは助かりましたが、家は焼けて、着の身着のまま、弟の手を引いて、逃げた時の記憶は消えないのです。 二度と子どもに、あんな思いはさせないぞと強く願って生きてきましたから。

 

高槻駅陸橋で行われているスタンディング。3月10日、働いている人たちにもアピールしようと、夕方から行われた(写真提供・二木洋子さん)

「原発は、自国に向けた核爆弾だ!」ということは世界の常識。国が知らない筈はないのに原発を動かしたまま、子どもまで動員して避難訓練させる安倍内閣の意図をマスコミも指摘しないという呆れ果てた世情に怒り絶頂だったのです。

そんな時、河合さんから電話があって「水戸さんはどう思う?」と言われたので「訴訟したい!」と二つ返事だったのです。同志に出会えた、と本当に嬉しかった。政府のいかさまを裁判長に見抜いてほしい、万一訴訟に負けても世間に「ミサイルと原発」を意識してもらうきっかけになるし、安倍政権の危険な世論操作に気づいてもらえる、そんな思いでしたね。

本当に危険であれば、真っ先に原発を止めるのが常識だってことを、今度のウクライナ侵略戦争が、世界に示したと思います。キエフの住民たちも、まさかこんな戦争になるとは思わなかったと語っているように戦争はいつの時代も突発的です。世界中が完全な平和を手にするまでは、原発は眠っていてもらいましょう。

◆プーチンも教科書でトルストイを読んでいるはず

 

水戸喜世子(みと・きよこ)さん 子ども脱被ばく裁判の会・共同代表。1935年名古屋市生まれ。お茶の水女子大学、東京理科大学で学ぶ。反原発運動の黎明期を切り開いた原子核物理学者・故水戸巌氏と1960年に結婚後、京大基礎物理研究所の文部教官助手就任。1969年「救援連絡センター」の設立に巌氏とともに尽力。2008年から2年間中国江蘇省建東学院の外籍日本語教授。2011年3月11日以降は積極的に脱原発・反原発運動にかかわる。

── プラカードに書いてある「トルストイが泣いている」に込めた思いは?

水戸 私はヤースナヤ・ポリャーナにあるトルストイの生家に行ったことがあるんです。植民地文学学会の西田勝先生(故人)が「トルストイの旅」という小さな企画をされて連れていって貰いました。

広大なお屋敷にはお孫さんの家族が住んでおられて、小さな女の子が真っ白の馬に乗っていました。私は高3の頃、教科書がきっかけでトルストイを読みふけるようになりました。弱者への目、深い洞察からの非暴力主義に、とても感銘を受けたような気がします。ロマン・ロランやマルタン・デュ・ガールなど長編小説にのめりこむきっかけでした。

彼は貴族の出身ですが、弱い人と共にありたいという思いが強く、晩年は家出をして、どこかで死んでしまったのだと記憶しています。『アンナ・カレーニナ』など時代を超えて、ロシアで一番愛され、読み継がれているのがトルストイです。ロシア人の心のふるさとであり、プーチンも間違いなく少なくとも教科書では読んでいるはずです。トルストイの非暴力主義の前で、トルストイを心のふるさととするロシアの民衆の前で、己の行為を恥じてほしいのです。

◆日本の原発のテロ対策

── ウクライナではザポリージャ原発を守ろうと周辺の住民がロシア軍に抵抗しましたが、日本の原発のテロ対策はどうでしょうか?

水戸 規制委員会が要求している原発のテロ対策工事は、テロなどで飛行機が落ちても大丈夫な程度の工事です。ミサイルで狙われたらどうなるか、3月9日の衆議院経済産業委員会で立憲・山崎誠議員の質問に対して、「放射能の拡散は避けようがない」と規制委員会の更田委員長が答えています。私が仮訴訟を起こした頃は、規制委員会は機密に属することなので、と明言しなかったのですが、はっきり言いきったのは今回が初めてですね。

関電側は耐えられると強弁していましたが。 めったに起きないテロ対策を電力会社に要求したのですから、ミサイル発射に対して、対策工事を規制委員会は電力会社に要求すべきです。無防備衛あることを認めたのですから。

◆福島の被ばくの闇の深さ

── まもなく11回目の3・11を迎えますが。(3月7日当時)

水戸 「子ども脱被ばく裁判」がいま控訴審の最中で、毎日が3・11ですから、特別の感慨はありません。福島を振り返るのはまだずっと先のことのような気がしています。

昨日(3月6日)FoE japan主催の国際集会があって、私はズーム参加しました。基調報告で武藤類子さんが福島の現状として被災者切り捨て、矛盾を地元に押し付けたままの見かけの復興、進まぬ廃炉作業、加害責任を果たさない姿などを具体的に話され、改めて、心が引き締まりました。早急に被害者への補償と原発の後始末をさせる、脱原発を実現すること。頑張らねば、と思います。

類子さんの話で私が衝撃を受けたのは、「この1年で友人が6人亡くなりました」と語っておられたことです。数年前にお会いした時も、「今年一年で5人の友人が亡くなったの」と顔をくもらせておられたことと重ねて、福島の被ばくの闇の深さに言葉を失う思いがしました。一体いつまで、国と御用学者は『被ばく者はいない』とごまかし続けるつもりなのか、闘いの本命です。広島・長崎の被ばく者から学ぶことがとても大事ですね。

少し先ですが、5月21日、地元高槻市の高槻現代劇場文化ホール2階で「黒い雨訴訟」の原告である高東征二さんをお呼びして「切り捨てられる被ばく 黒い雨から福島へ」と題した講演会を行っていただきます。ほかに「子ども脱被ばく裁判」主催の展示・学習会も致します。第一歩を踏みだしました。どうぞみなさまもお集まり下さい。

5月21日大阪・高槻市で開催される講演会「広島・長崎から福島へ続く核被害~内部被ばくの危険性を考える」&写真展「広島黒い雨から福島へ」

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)3月11日発売開始

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌
季節 2022年春号
『NO NUKES voice』改題 通巻31号
紙の爆弾2022年4月増刊

2022年3月11日発売
A5判 132頁(巻頭カラー4頁+本文128頁)
定価 770円(本体700円+税)

事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

《グラビア》福島第一原発現地取材(写真・文=おしどりマコ&ケン
《グラビア》希釈されない疑念の渦 それでも海に流すのか?(写真・文=鈴木博喜

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
原子力は即刻廃絶すべきもの

樋口英明(元裁判官)
原発問題はエネルギー問題なのか

中村敦夫(俳優/作家)
表現者は歩き続ける

井戸謙一(弁護士)
被ばく問題の重要性

《インタビュー》片山夏子(東京新聞福島特別支局長)
人を追い続けたい、声を聞き続けたい
[聞き手・構成=尾崎美代子]

おしどりマコ(漫才師/記者)
事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
犠牲のシステム 数兆円の除染ビジネスと搾取される労働者

森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream〈サンドリ〉代表)
「いつまで避難者といってるのか?」という人に問いかけたい
「あなたは避難者になれますか?」と

鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
沈黙と叫び 汚染水海洋放出と漁師たち

伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈最終回〉
語られなかったものは何か

《講演》広瀬 隆(作家)
地球温暖化説は根拠のないデマである〈前編〉

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
原発は「気候変動」の解決策にはならない

細谷修平(メディア研究者)
《新連載》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈1〉
真の暴力を行使するとき――『人魚伝説』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
機を見るに敏なんて美徳でも何でもない

板坂 剛(作家/舞踏家)
大村紀行──キリシタン弾圧・原爆の惨禍 そして原発への複雑な思い!
 
佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
“騙(かた)り”の国から“語り部(かたりべ)”の国へ
絶望を希望に転じるために いまこそ疑似「民主国」ニッポンの主客転換を!

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈15〉
森友学園国有地売却公文書 改ざん国賠・『認諾』への考察

再稼働阻止全国ネットワーク
国政選挙で原発を重要争点に押し上げよう
7月参議院選挙で「老朽原発阻止」を野党共通公約へ
《全国》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《全国》石鍋 誠(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
《六ヶ所》中道雅史(「4・9反核燃の日」全国集会実行委員会)
《東海第二》野口 修(東海第二原発の再稼働を止める会)
《反原発自治体》反原発自治体議員・市民連盟
《東海第2》披田信一郎(東海第2原発の再稼働を止める会)
《東京》佐々木敏彦(東電本店合同抗議行動実行委員会)
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《伊方原発》秦 左子(伊方から原発をなくす会)
《規制委・経産省》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク/経産省前テントひろば)
《読書案内》天野恵一(再稼動阻止全国ネットワーク事務局)

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◆直接情報が一番の頼り

ロシアがウクライナに軍事侵略を開始して20日以上が経過した。紛争発生時に、自称「国際学者」や「軍事評論家」が言いたいことを無責任に言い放つ様子にはもう飽きた。なぜならば、短・中期的な分析ですら未知の情報を提示してくれる識者は極めて稀だからだ。

そして、ゼレンスキーウクライナ大統領が大手メディアでは英雄扱いされ、日本からも「志願兵」に70名余りの応募があったと在日ウクライナ大使は明らかにした。ゼレンスキー大統領は日本時間の3月16日にはカナダ、米国の国会でリモート演説を行い、日本でも今週、同様のリモート演説の実施に向けて、自民党と立憲民主党が前向きに協議中だと報じられている。私はバイアスのかかったニュースではなく、なるべく情報源に近づき、自らの判断を下そうと試みる。例えばウクライナ政府機関の発信や、ロシア政府の発信などである。中間にメディアが介在すると、いらぬ解釈が加えられるのでそれらは参考程度にしか利用しない。

ゼレンスキー大統領はFacebookとTwitterを利用しながら、かなり頻繁に発信を続けている。そしてキエフやその他のウクライナ国内在住のかたがたも、かなりの数動画を発信している。それらを総合して私は今なにができるのか、なにを考えるべきなのかを模索する。

◆誰がプーチンを擁護して、育てたのか

理由はどうあれ「侵略戦争」には反射的に嫌悪を抱く私は、ロシアの軍事侵略をやはり許すことはできない。そして20年以上実質上独裁者の座にあるウラジーミル・プーチンを支援してきた日本外交や、政治家の名前をしっかりと思いだし、彼らの言動を注視することは無駄ではないだろう。

日本外交の対ロシア最大の課題は「北方領土返還」らしい。私は本気で北方領土返還を実現したいのであれば、ソ連崩壊後独立国家共同体と名乗っていた間隙に机の下で数兆円を渡せば4島返還の可能性はあったと考え、20年以上そのように発信してきた。だが、この期に及んで「北方領土」などにロシアが関心を払わないことは、誰の目にもあきらかであろう。

米国のベトナム、アフガニスタン、イラク侵略に匹敵する、このような惨事を招致するに至った独裁者に世界でも有数の待遇で接していた、この国のかつての最高権力者がいる。安倍晋三だ。安倍は首相在任中あるいは官房長官など在任中にいったい何回プーチンと面会したことであろうか。首相在任期間中には27回と言われているが、非公式な面会を含めた回数は公開されていない。ロシア訪問の際は必ず経済援助の土産を下げて出かけて行き、2016年プーチンが来日した際には安倍の地元、山口県の高級旅館にまで招いて厚遇した。

◆安倍晋三の犯罪性を注視せよ

そして日本は何を獲得したのか? いま安倍は何を発言しているのか。「プーチンと仲の良い安倍にロシアへ行かせて停戦のために働かせろ」との声は政府内外にある。しかし、安倍がそんな役割を担えるような人間ではないことを、首相岸田も外相岸も熟知している。なにより仲良しであるはずのプーチンが核兵器の使用可能性に言及したとたんに、日本の「非核三原則の見直し」と「核シェアリング」(核兵器の共有、あるいは共同利用)との暴論を平気で発言し、岸田を慌てさせた。要するに安倍晋三によって日本はプーチン独裁を確固とさせる栄養を与えてしまい、にもかかわらず安倍にはその認識がまったくないということに、あらためて注目すべきだろう。

◆核兵器は使えない、原発も「地元核兵器」だ

そして私同様に「侵略戦争反対」の立場の人が、ウクライナを支援する気持ちは理解できるものの、それが即「憲法9条改正論」や安倍が唱える程度の「核兵器容認論」にまで結びつくのは、短絡の極みである。

今次のロシアによるウクライナ侵略により明らかになったことは、「核兵器」は実際には使用できない兵器であることと(一度核兵器が使われれば、攻撃の応酬で人類はおそらく破滅近くのダメージを受ける)だ。国連事務総長までが「核戦争の可能性」を憂慮する事態は「何者かが意図的であろうと、ミスであろうと核兵器を使用してしまえば、人類はもうあらゆるコントロールを失い破滅に向かう」ことへの世界的な恐怖に依拠している。

原発の危険性も同様だ。ロシアが侵略直後にチェルノブイリ原発を支配し、その後も主要な原発に手を伸ばしているのは、電力の首根っこを押さえるのではなく「地元の核兵器」を支配下に置くことが目的である。

◆好戦派への警告ゼレンスキ―大統領の言葉

このような状況下、総論ロシアの暴挙は米国によるベトナム侵略戦、アフガニスタン侵略、イラク侵略同様に非難されるのが道理だ。だがここでちょっといきりたち過ぎた日本国内の「好戦派」には警告を発しておこう。私の見解ではなく、米国議会でリモート演説を行いスタンディングオベーションで称賛を受けた、ゼレンスキー大統領の言葉だ。

「真珠湾攻撃を思い出して下さい。9・11を思い出してください」

9・11の実行者はともかく、真珠湾攻撃の当事者は誰でも知っている。日本だ。第二次大戦後の世界の枠組みで東西冷戦構造は崩れても、敗戦国である日本へのまなざしには変化がないことを、ゼレンスキー大統領は明言した。この言葉の含意は重い。どう答えるのだ。安倍晋三とその支持者よ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年4月号!

「作業の過程で事故が起きてしまうことと、汚染水海洋放出の是非は別問題でしょう。本質的に全く別の問題を並べ比べて、陸上でのタンク保管では駄目だと目の前に突き付けているように思います」

電話取材に応じた福島県の市民団体「これ以上海を汚すな!市民会議」共同代表の織田千代さんは「どこから反論したら良いものか…」と呆れた様子で言葉を紡いだ。

「3・11」を想起させる大きな揺れから一夜明けた17日朝、震災・原発事故発生後の2011年9月に野田内閣の環境大臣に就任した細野豪志代議士(現自民党)が、ツイッターに次のように書き込んだ。大地震に便乗して海洋放出への支持を増やそうとしているように映った。

「昨晩の地震で知ってもらいたいのは処理水をタンクで保管するリスク。地震で処理しきれていない水が流出するリスクは常にある。1000基(一基約1億円)超のタンクの水漏れや劣化をチェックする作業は危険を伴う。タンクから転落死もあった。現状を放置するより、処理して海洋放出する方が安全」

汚染水の海洋放出を推す細野豪志氏の投稿。作業事故にも触れながら「タンク保管より海洋放出する方が安全」と書き込んだ

実は細野氏は地震直後にも、こう書き込んでいる。

「宮城・福島の地震被害が心配だ。東電福島第一原発のタンク破損も気がかり。処理が終わっていないものがある。タンク保管のリスクが顕在化しないことを祈る。#処理水」

ほら、こういう大きな揺れが来たらタンクが壊れるかもしれない。「処理しきれていない水」が漏れ出すリスクと背中合わせじゃないか。だから海に流すべきなんだ─。大地震への心配を装いながら、細野氏の持論が「顕在化」した格好だ。

2020年3月11日には「タンクをあれだけ近くで取材しながら、処理水を保管し続けるリスクをなぜ説明しないのか!」と「報道ステーション」への怒りをツイッターに綴り、同年7月13日には「処理水タンクは放射性廃棄物となる。タンク保管を続ければ廃棄物が増える タンクは改良されたが、台風や竜巻によって処理しきれていない水が流出するリスクがある タンクの水漏れや劣化をチェックする作業は危険を伴う。タンクから転落死した作業員もいる。 #タンク保管を続けることに反対します」と書き込んでいる。

織田さんは言う。「地震の直後は、確かにタンク保管を心配する人もいるかもしれません。ただ、細野さんたちが発信するのは影響が大きいので、日頃あまり関心を持っていない人が目にすると『やっぱり海に流すしかないのか』となりかねない。彼らもそれを分かっていて発信していると思う。もうすぐ海洋放出という政府方針決定から1年が経ちます。『地元(大熊町や双葉町)が望んでいるから』などと少しずつ論点をずらしながら放射能を拡散する方向に進んでいます。汚染水は一度流してしまうと回収できません。取り返しがつかないんです。中身のことも学べば学ぶほど恐ろしい。細野さんがいくら長生きしたって海洋放出の影響に責任を取れないということを分かって欲しいです」

福島県内では海洋放出に反対する声が多い。織田さんたちも「陸上保管継続を」と訴え続けている

細野氏の主張を後押ししている人物がいる。初代原子力規制委員長を務めた田中俊一氏だ。昨年2月に発刊された著書「東電福島原発事故 自己調査報告」のなかで細野氏と対談している田中氏は、こう語っている。

「凍土壁の工事では作業員が1人、感電で亡くなっています。貯水タンクを造っている最中にも、タンクから落下して1人亡くなっている。トリチウムの海洋放出を先送りにしたことで、2人が殉職しているんです。そういう人命と、何千億円というお金が費やされている。そういうことも踏まえて判断するのが有識者の使命だと思うんです」

確かに尊い命が失われるような作業事故はあってはならないが、2015年1月に発生したタンクからの転落死亡事故では、安全帯を使用せず単独で作業してしまったことが原因だと報告されている。作業事故を挙げて海洋放出の是非を語るのは全くの筋違いなのだ。

長く原発労働者問題に取り組んでいる狩野光昭いわき市議(社民党福島県連代表)も「それはフランジ型タンクだと思いますが、確かに単独作業で落下し、作業員が亡くなりました。でも、それが『タンク保管を継続したことでの事故』であって『だから海洋放出する方が良い』と結びつけるのは論理の飛躍だと思います。あくまでも作業工程のなかでの労働安全衛生上の問題ですよ。発注者としての東電の責任もあるし、元請け企業の責任もある。それを海洋放出の是非と結び付けるのは暴論というか飛躍しすぎ。そこは納得いかないですね。全くの別問題です」と語る。

タンクでの陸上保管を求めているのは織田さんたちだけではない。ミクロネシア連邦のディビッド・W・パニュエロは昨年4月、汚染水の海洋放出に関して大きな懸念を示す書簡を当時の菅義偉首相宛てに送付。「タンク貯蔵が効果的で緊急性のある解決方法だ」と海洋放出しないよう綴った。

これに対し、資源エネルギー庁・原子力発電所事故収束対応室の福田光紀室長は昨年11月、織田さんたちとの意見交換の場で「陸上でのタンク保管についてはいくつかの論点がある。そもそもタンクから水が漏えいしないのが大前提。漏えいを防ぐために検査をやらなければいけない」などと陸上保管のデメリットを強調していた。

昨年2月の大地震でも今回も、貯蔵タンクから汚染水が漏れ出したとの報告はない。本当に陸上保管より海洋放出の方がメリットが多いのか。

「海底トンネルをつくって30年にわたって海に流す計画なのだから、配管(トンネル)が大きな揺れで破断することだって考えられる」

狩野市議はそう指摘する。しかし、海底トンネルのリスクは語られない。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌
季節 2022年春号
『NO NUKES voice』改題 通巻31号
紙の爆弾2022年4月増刊

2022年3月11日発売
A5判 132頁(巻頭カラー4頁+本文128頁)
定価 770円(本体700円+税)

事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

《グラビア》福島第一原発現地取材(写真・文=おしどりマコ&ケン
《グラビア》希釈されない疑念の渦 それでも海に流すのか?(写真・文=鈴木博喜

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
原子力は即刻廃絶すべきもの

樋口英明(元裁判官)
原発問題はエネルギー問題なのか

中村敦夫(俳優/作家)
表現者は歩き続ける

井戸謙一(弁護士)
被ばく問題の重要性

《インタビュー》片山夏子(東京新聞福島特別支局長)
人を追い続けたい、声を聞き続けたい
[聞き手・構成=尾崎美代子]

おしどりマコ(漫才師/記者)
事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
犠牲のシステム 数兆円の除染ビジネスと搾取される労働者

森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream〈サンドリ〉代表)
「いつまで避難者といってるのか?」という人に問いかけたい
「あなたは避難者になれますか?」と

鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
沈黙と叫び 汚染水海洋放出と漁師たち

伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈最終回〉
語られなかったものは何か

《講演》広瀬 隆(作家)
地球温暖化説は根拠のないデマである〈前編〉

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
原発は「気候変動」の解決策にはならない

細谷修平(メディア研究者)
《新連載》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈1〉
真の暴力を行使するとき――『人魚伝説』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
機を見るに敏なんて美徳でも何でもない

板坂 剛(作家/舞踏家)
大村紀行──キリシタン弾圧・原爆の惨禍 そして原発への複雑な思い!
 
佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
“騙(かた)り”の国から“語り部(かたりべ)”の国へ
絶望を希望に転じるために いまこそ疑似「民主国」ニッポンの主客転換を!

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈15〉
森友学園国有地売却公文書 改ざん国賠・『認諾』への考察

再稼働阻止全国ネットワーク
国政選挙で原発を重要争点に押し上げよう
7月参議院選挙で「老朽原発阻止」を野党共通公約へ
《全国》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《全国》石鍋 誠(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
《六ヶ所》中道雅史(「4・9反核燃の日」全国集会実行委員会)
《東海第二》野口 修(東海第二原発の再稼働を止める会)
《反原発自治体》反原発自治体議員・市民連盟
《東海第2》披田信一郎(東海第2原発の再稼働を止める会)
《東京》佐々木敏彦(東電本店合同抗議行動実行委員会)
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《伊方原発》秦 左子(伊方から原発をなくす会)
《規制委・経産省》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク/経産省前テントひろば)
《読書案内》天野恵一(再稼動阻止全国ネットワーク事務局)

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3月7日、久しぶりに高槻市の水戸喜世子さんのご自宅にお邪魔した。2月14日、仙台高裁で2回目の期日が開かれた「子ども脱被ばく裁判」の控訴審と、1月27日、3・11の原発事故の被ばくにより甲状腺がんを発症した6人の若者が東電を訴えた「311子ども甲状腺がん裁判」について、お話を伺ってきた。 (聞き手・構成=尾崎美代子)

 

水戸喜世子(みと・きよこ)さん 子ども脱被ばく裁判の会・共同代表。1935年名古屋市生まれ。お茶の水女子大学、東京理科大学で学ぶ。反原発運動の黎明期を切り開いた原子核物理学者・故水戸巌氏と1960年に結婚後、京大基礎物理研究所の文部教官助手就任。1969年「救援連絡センター」の設立に巌氏とともに尽力。2008年から2年間中国江蘇省建東学院の外籍日本語教授。2011年3月11日以降は積極的に脱原発・反原発運動にかかわる

◆「子ども脱被ばく裁判」5つの争点

水戸 2月14日の2回目の期日は、私は体調が悪くて行けませんでしたが、井戸謙一弁護士から頂いた期日報告に沿っておおまかに説明します。

1つ目は、国の意見の中に「1ミリシーベルトの被ばくをしない利益が法的保護に値しない」というのがあります。この1ミリシーベルト被ばくしても当たり前という国の言い分に対して弁護団は、1ミリシーベルトがどれだけ危険かと準備書面で反論しました。ICRP(国際放射線防護委員会)は、100ミリシーベルト以上浴びると癌で死ぬ確率が0.5%高まると主張しているので、それに基づいて計算すると1ミリシーベルト浴びると年間350人が死ぬことになる。

一方、日本の環境基本法は、大雑把に言って生涯それを飲み続けた場合に、10万人に1人がん死するようなものを「毒物」と規定しています。東京の豊洲市場の地下水が汚染され、ベンゼンが検出されたが、それをずっと飲み続けると10万人に1人以上が亡くなるということで大騒ぎになった。一方で1ミリシーベルト被ばくすると、10万人中350人の死者が出るという環境を放置していいというのが「法的保護に値しない」という内容で大嘘ですね。

2つ目は、「裁量論」についてです。判決では、安定ヨウ素剤を飲ませなかったのも、スピーディーを公開しなかったのも、授業再開も行政の裁量権の範囲内であるというものでした。つまり、法律で決められていることもあるが、決められてないこともある。放射線に関しては事故を想定してないから、決められてないことのほうが多い、そのときは、行政の裁量権に任すしかないというわけです。

── ヨウ素剤を飲ませる、飲ませないも、各自治体、現場の判断に任せると。

水戸 そう。でもそれは違うでしょう。命に関わる重要なことを行政が勝手に決めていい訳がないというのが、弁護団の言い分です。法の取り決めがない場合、では何を根拠にするかというと、1つは憲法、もう1つは国際法です。 それを準備書面の[5]で提出しましたが、未完成だったので、次回に改めて提出します。

── 国は、控訴人らによる「被災者の知る権利」の主張に対し、反論を拒否したとありますが、反論を拒否するとは?

水戸 「あなたたちは独特の理論を主張しているから、勝手にやってください」という態度だと、井戸弁護士は仰ってました。この裁判は、前に話したように、放射線についての国内法が整備されていないのですから国際人権とか憲法とか、もっと大きな土台の上でやっています。放射線に対する規制がないからなのです。環境基本法にもやっとこの間、放射線の項目をとりこむことはできたが「教室なら、この線量以下で」とかの基準とすべき具体的な数字は、今も一切出ていません。いかに安全神話のうえにあぐらをかいていたかということですよね。

「子ども脱被ばく裁判」裁判前集会(武藤心平さん撮影)

── 3つ目の、控訴人が「国賠訴訟」を追加したというのは?

水戸 子ども人権裁判は義務教育を受けている子どもが原告になって訴訟をおこしたが、もう中学生が4人しかいなくなった。それで裁判が自動消滅したら困るので追加訴訟を加えました。安全なところで義務教育を受けられなかったので損害賠償をしろと。でも、福島市、郡山市、いわき市は、裁判の途中で新たに追加するのは「違法だ」と異議を申し立ててきた。裁判長もちょっと首をかしげてます。次回却下されるかもしれないが、さらにしっかりと反論していくことになります。

4つ目が、危険な環境の施設で教育をしてはいけないという原告の要求に対して裁判長から、地方自治体の学校指定処分とどのような関係になるのか、子どもがいれば学校を作るという規則がある、でも今の学校では線量が高いから教育を行ってはいけないということの関係性はどうなるのですかと聞かれ、次回弁護団から説明することになりました。一時的に線量の低い地域に避難して教育を継続出来るのですから矛盾することではありません。安全な環境で教育をうける権利という教育基本法を根拠に反論していくでしょう。

5つ目は、原告の意見陳述で、Aさんが、無用な被ばくをさせられてしまったため、子どもに何か体調が悪いことがあると、被ばくと結び付けて考えてしまうという苦しさについて述べられました。

「子ども脱被ばく裁判」街頭で訴える(武藤心平さん撮影)

◆「311子ども甲状腺がん裁判」甲状腺がん発症者6人による生身の訴え

 

「311子ども甲状腺がん裁判」報告集会の様子

── 先日、東電を提訴した6人の訴訟ですが、弁護団は子ども裁判とほぼ一緒だそうですが?

水戸 ええ、私たちは無用な被ばくをさせられたこと、安全な環境で教育を受ける権利を争っていますが、6人の訴えは生身の訴えですものね。一見理念的にみえた子ども脱被ばく裁判が突如リアリティを伴って立ち現れた思いがして衝撃でした。6人は実際に甲状腺がんを発症し、全員が2回から4回の手術を受けている。経緯は子ども裁判の主張と完全に一致するので、脱被ばく子ども裁判弁護団は全員入り、ほかに海渡弁護士なども加わり、弁護団がつくられています。17歳から27歳までの若者が自分の人生をかけて法廷に立つのですから、何としても勝利したいと思います。

── 提訴後の報告会に私も出席しました。皆さん、10年間孤立していた。先日、井戸弁護士と河合弁護士が出席した日本外国特派員協会の記者会見で、6人の方々は河合弁護士のところに相談にきたと仰ってましたが。

水戸 崎山比早子さんが代表で河合弁護士に関わっておられる「3・11 甲状腺がん子ども基金」などでも繋がる機会はあったんでしょう。福島県立医大は嫌だからと避難先の病院で見てもらっている人もいるし、患者さんは孤立していて、繋がるのは本当に困難だったと思います。その意味でも氷山の一角ですね。「黒い雨裁判」の原告を足を棒にしてつないで歩いた高東征二さんのご苦労から学ばねばと思います。

── 今後、子ども裁判と6人の裁判はどのように闘われるでしょうか。

水戸 全く別の裁判として展開されるのは当然ですが、私は、子ども裁判には、絶対「黒い雨裁判」の成果を取り込まないと勝てないと思っていて、子ども裁判の通信に書かせて頂きました。まだ弁護団のなかで話しあわれてはいませんが。

「黒い雨裁判」の一番のポイントは、黒い雨には明らかに放射能が含まれていて、降った地域の野菜を食べたり、空気を吸って内部被ばくしたことを認めたこと。広島県がとても偉いと思うのは、アンケート調査を何度もやり、降雨地域で病気になった人が非常に多いという事実をつかんだこと。これは外部被ばくだけでは全く説明がつかない。だから残留放射線を浴びた人、食べ物や空気から放射線を吸った人が内部被ばくしたということを、広島地裁も高裁も認めたわけです。地裁は、国の決めた11の疾病にり患していることを根拠にしたが、高裁は、内部被ばくは晩発性だから、今そういう病気がでていなくても、いつでてくるかわからないから、黒い雨を浴びた人全員被ばく者と認定した。そうしないと、一般のがん患者と放射線によるがん患者の区別は今の医学では因果関係を証明できないと思います。本質の到達出来ない時には、現象から迫るのは科学の手法であると、武谷三男の三段論法論で説かれていますけどね。

6人の裁判は「311甲状腺がん子どもネットワーク」が中心に支援していますが、私たちの子ども裁判も実質的に支援していきます。6億円超の損害賠償を求めていますから、訴状の印紙代だけでも大変な額になります。裁判をおこすということは本当に大変。でも一人1億円なんて、若い人の一生涯のことを考えると、小さな額だと思いますよ。 とくに親はどんなに辛いかと思いますよね。私たちの力不足を若者たちにお詫びしたいです。今回のウクライナもそうですが、私は、大人の愚かさのために、無邪気な子どもたちが犠牲になることだけは本当に耐えられません。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)3月11日発売開始

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌
季節 2022年春号
『NO NUKES voice』改題 通巻31号
紙の爆弾2022年4月増刊

2022年3月11日発売
A5判 132頁(巻頭カラー4頁+本文128頁)
定価 770円(本体700円+税)

事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

《グラビア》福島第一原発現地取材(写真・文=おしどりマコ&ケン
《グラビア》希釈されない疑念の渦 それでも海に流すのか?(写真・文=鈴木博喜

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
原子力は即刻廃絶すべきもの

樋口英明(元裁判官)
原発問題はエネルギー問題なのか

中村敦夫(俳優/作家)
表現者は歩き続ける

井戸謙一(弁護士)
被ばく問題の重要性

《インタビュー》片山夏子(東京新聞福島特別支局長)
人を追い続けたい、声を聞き続けたい
[聞き手・構成=尾崎美代子]

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和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
犠牲のシステム 数兆円の除染ビジネスと搾取される労働者

森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream〈サンドリ〉代表)
「いつまで避難者といってるのか?」という人に問いかけたい
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国政選挙で原発を重要争点に押し上げよう
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《全国》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《全国》石鍋 誠(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
《六ヶ所》中道雅史(「4・9反核燃の日」全国集会実行委員会)
《東海第二》野口 修(東海第二原発の再稼働を止める会)
《反原発自治体》反原発自治体議員・市民連盟
《東海第2》披田信一郎(東海第2原発の再稼働を止める会)
《東京》佐々木敏彦(東電本店合同抗議行動実行委員会)
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《反原発川柳》乱鬼龍

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日本では2011年3月11日にまだ生まれていなかった子どもたちが既に小学校に通っています。同時に大地震の頻発、原発事故からCOVID-19(新型コロナウイルス)のパンデミック、そして20世紀に最大限懸念された「核」戦争の危機に、今日全人類は直面しています。

 

『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)3月11日発売開始

ロシアのウクライナ侵略へ、国際社会が強い非難を浴びせていますが、日本国内では「こんなことになるから核武装をしなければならない」、「憲法9条で国は守れない」、「米国と核兵器をシェアーしよう」などと、火事場泥棒的な猛烈に無茶苦茶極まる発言が元総理安倍晋三や維新の松井一郎代表などから聞かれます。

私たちはこれらの暴論を「ふざけるな」と踏みつぶします。今次のロシアによるウクライナ侵略は、細部にデリケートな要因があるにせよ、間違いなく暴挙です。そしてロシアが侵略後、いち早く「原子力発電危機の象徴」である「チェルノブイリ原発」を支配したのは、「原発」が持つ危険性と、国際紛争にあっては「兵器」として機能する危険な存在であることを示した、と理解すべきではないでしょうか。

このような侵略行為が始まれば「核による抑止力」などは一切通用せず、「原発」が核兵器同様に扱われることが、侵略者ロシアによって明確に示されました。これまで本誌を愛読していただいた皆さんも「まさか21世紀にこんな戦争が起こるなんて」と驚いている方が多くいらっしゃることでしょう。私たちも同様です。ロシアによるウクライナへの全面侵略などは、正直予想できませんでした。

◆戦争がなくても「原発」は危険だ

ただし、私たちは平時においても「原発が核兵器同様に危険である」ことは創刊以来感じていましたし、これまで原稿を寄せていただいた、多くの皆さんに指摘していただいた通りです。福島第一原発の大事故により、290名を超える若者が甲状腺がんに罹患してしまいました。政府・福島県や無恥な政党(自民党・維新・国民民主党)はこの明確な健康被害に、「風評被害」とトンデモない言いがかりで応じていますが、僅か10年ほど前の事実すら理解できない、これらの人々に政治を任せるわけにはいきません。

◆なぜ『季節』と誌名を変えたのか

『季節』と誌名を変更した理由については、本日発売の誌面の中で詳述しております。是非手に取ってお読みください。そしてお知り合い、ご友人に広めてください。

少しだけ誌名変更のエッセンスをご紹介しましょう。世界の多くの国には「季節」が廻り、なかでも日本には四季があります。春夏秋冬、落葉樹はそのいでたちを変えながら次の年を迎えます。冬眠する動物もいます。私たち人間の生は長くとも100年程度ですが、私たちが生まれてくる遙か昔から、いま生をうけた私たち全員がこの世から消えた未来にも、過去と変わらずに春夏秋冬は廻ることでしょう。

このような長大な歴史の中で、人間が地球史的にはごく短時間に、犯してしまった間違いの象徴が「原発」だといえるのではないでしょうか。人間みずからの存続はもとより、生態系を破壊するほどの暴走を、原発(核)は持っている、このことを再度肝に銘じたいと思います。残念ながら原発(核)の廃絶には、その汚染物質の処理を考慮に入れれば、最も希望的な観測に基づいても、現在科学の力では数十万年を要します。

私たちは日本だけでなく、世界中の原発の即時停止、廃炉を求めるものですが、仮にその夢が叶ったとして汚染物質の処理には、気が遠くなるような時間が必要です。その間にも「季節」は幾たびも廻るでしょう。今次の侵略戦争での侵略者による「原発」の扱われ方は、そのことへの再度の警鐘です。

2014年の創刊から8年、『季節』は「原発」を絶えまなく凝視しながら、時代・文明の病・欺瞞を突く総合誌への発展を目指し、本日再出発します。ご支援をお願いいたします。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌
季節 2022年春号
『NO NUKES voice』改題 通巻31号
紙の爆弾2022年4月増刊

2022年3月11日発売
A5判 132頁(巻頭カラー4頁+本文128頁)
定価 770円(本体700円+税)

事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

《グラビア》福島第一原発現地取材(写真・文=おしどりマコ&ケン

《グラビア》希釈されない疑念の渦 それでも海に流すのか?(写真・文=鈴木博喜

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
原子力は即刻廃絶すべきもの

樋口英明(元裁判官)
原発問題はエネルギー問題なのか

中村敦夫(俳優/作家)
表現者は歩き続ける

井戸謙一(弁護士)
被ばく問題の重要性

《インタビュー》片山夏子(東京新聞福島特別支局長)
人を追い続けたい、声を聞き続けたい
[聞き手・構成=尾崎美代子

おしどりマコ(漫才師/記者)
事故はいまも続いている
福島第一原発・現場の真実

和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
犠牲のシステム 数兆円の除染ビジネスと搾取される労働者

森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream〈サンドリ〉代表)
「いつまで避難者といってるのか?」という人に問いかけたい
「あなたは避難者になれますか?」と

鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
沈黙と叫び 汚染水海洋放出と漁師たち

伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈最終回〉
語られなかったものは何か

《講演》広瀬 隆(作家)
地球温暖化説は根拠のないデマである〈前編〉

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
原発は「気候変動」の解決策にはならない

細谷修平(メディア研究者)
《新連載》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈1〉
真の暴力を行使するとき――『人魚伝説』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
機を見るに敏なんて美徳でも何でもない

板坂 剛(作家/舞踏家)
大村紀行──キリシタン弾圧・原爆の惨禍 そして原発への複雑な思い!
 
佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
“騙(かた)り”の国から“語り部(かたりべ)”の国へ
絶望を希望に転じるために いまこそ疑似「民主国」ニッポンの主客転換を!

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈15〉
森友学園国有地売却公文書 改ざん国賠・『認諾』への考察

再稼働阻止全国ネットワーク
国政選挙で原発を重要争点に押し上げよう
7月参議院選挙で「老朽原発阻止」を野党共通公約へ
《全国》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《全国》石鍋 誠(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
《六ヶ所》中道雅史(「4・9反核燃の日」全国集会実行委員会)
《東海第二》野口 修(東海第二原発の再稼働を止める会)
《反原発自治体》反原発自治体議員・市民連盟
《東海第2》披田信一郎(東海第2原発の再稼働を止める会)
《東京》佐々木敏彦(東電本店合同抗議行動実行委員会)
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《伊方原発》秦 左子(伊方から原発をなくす会)
《規制委・経産省》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク/経産省前テントひろば)
《読書案内》天野恵一(再稼動阻止全国ネットワーク事務局)

《反原発川柳》乱鬼龍

季節編集委員会
我々はなぜ『季節』へ誌名を変更したのか

私たちは唯一の脱原発情報誌『季節』を応援しています!

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B09TN1SL8X/

2022年2月24日、ロシアのプーチン大統領は「平和維持活動」と称してウクライナへの侵攻を開始。ロシアが世界最大の核兵器保有国であることを強調しています。プーチン大統領の行動は、核兵器による威嚇という、核兵器禁止条約(ロシアは加入していないが、50ヶ国以上の批准で国際法としては発効している)で禁じられている行動でもあります。相手を切りつけまではいかなくとも、日本刀を抜いて見せびらかしているような話です。さらに、ロシア軍はチェルノブイリ原発を奪取。ウクライナには14の原発があり、万が一「原発戦災」になれば、それこそ地球滅亡にもつながりかねません。

これに対して被爆地の広島と長崎の市民有志がよびかけて、開戦3日目の2月26日、広島の原爆ドーム前と長崎の爆心地公園で同時に以下のプラカードを掲げ、プーチン大統領に侵攻をやめるとともに、威嚇を含めて核兵器を使わないよう求めました。

11時2分、60人の参加者は一斉にプラカードを掲げました。これは、長崎に原爆が投下された時間に合わせたもので、「核兵器使用は長崎で最後にしてほしい」(呼びかけ人のひとりの安彦恵里香さん、写真)との願いをこめてのものです。

2003年のイラク戦争のときは、2ヶ月前からアメリカがイラクを攻撃することが火を見より明らかでしたので、抗議デモも多くの人が参加しました。しかし、今回のロシアによるウクライナ侵攻は急なことです。それでも「どれだけ人が集まるか心配だっただがSNSなどを通じておもったより多くの人が参加」(安彦さん)しました。

今回の行動は「ロシアの人(一般市民)も巻き込まれただけだとおもう。市民同士でつながっていきたい」と、ロシアでもデモなどに参加して戦争に反対する人が少なくないことを念頭に、市民の連帯を重視したものです。

以下はステートメント《日本語》です。

私たちは、77年前に被爆した広島・長崎に暮らす市民です。

2月24日、ロシアはウクライナへの軍事攻撃を開始しました。プーチン大統領は、今回の軍事攻撃開始にあたって、核兵器使用の可能性を繰り返し述べています。また、ウクライナには15基の原発があり、ロシアはすでにチェルノブイリ原子力発電所を占拠したとの報道があります。私たちは、核兵器がもたらす破滅的な被害を知る被爆地の人間として、今回の争いが核による惨事を引き起こさないか憂慮しているとともに、核による脅威を振りかざすロシアに強く抗議します。

被爆から77年、未だ被爆者たちは原爆による健康被害とその不安に苦しみ続けています。被爆者たちはこうした自分達や家族が受けた苦しみから、核兵器を「人間として生きることも死ぬことも許さない」兵器であると訴えてきました。もう二度と、ヒロシマ・ナガサキをくり返してはなりません。

戦争で傷つくのはいつでも力のない市民です。私たちは、ロシアに国際法と国連憲章のもとに、市民の命や生活を脅かす全ての軍事行動を今すぐに停止することを求めます。そして、国際社会に軍事力ではなく、外交努力による平和を追求することを求めます。

NO MORE HIROSHIMA
NO MORE NAGASAKI
NO MORE WAR

2022年2月26日
広島・長崎の有志一同

広島:安彦恵里香、川崎梨乃、田中美穂、高垣慶太、高橋悠太
長崎:林田光弘

以上

◆ウクライナが核兵器を放棄しかったら偶発的核戦争の危険が増大するだけ

さて、今回のウクライナ侵攻をめぐって、日本でも「ウクライナは核兵器を放棄したから、ロシアに侵攻された」「だから、日本も核武装、憲法9条改正を」という意見が強まっています。このことについては、参加者の中からも危機感を感じました。

たしかに、ソビエト崩壊時にウクライナには世界第三位の核兵器が「放置」されました。しかし、中英仏を上回る核兵器を人口が4000万程度いわゆる中進国のウクライナが維持でできるかといえばそれはできないでしょう。核兵器をソビエトの後継国家であるロシアに返すしか、選択肢はなかったわけで「たら、れば」はナンセンスです。

よしんば、核兵器をウクライナが所持していればむしろ全面核戦争の危険はまします。キエフとモスクワはミサイルで数分の近さです。モスクワとワシントン、北京とワシントンの距離なら正体不明の飛翔体が確認された場合、相手国を問いただす時間があります。しかし、モスクワとキエフの距離だと時間はないです。正体不明の飛翔物体がうちあがった場合、「問答無用」で核ミサイルを相手にぶっ放すしか生き残る道はない、という判断を指導者がすることになります。誤解による偶発的核戦争の危険が非常に高まります。

また、そもそも、旧ソビエトが崩壊した時点ではNATOは無用の長物でした。解体するか、ロシアもふくむOSCEを主たる欧州の集団的安全保障の枠組みにするか?また、ウクライナなどについては、中露(つい最近まで国境が確定しないなどかなり緊張関係もあった)に挟まれたモンゴルのような非核兵器地帯にするなどの方策もあったはずです。それをせずに、ロシア抜きのNATOをロシアに接するところまで拡大した西側も調子にのりすぎた感はいなめません。反作用としての、ロシアのウクライナへの圧力を招いたのも否定できません。こうした外交プロセスがどうだったか?検証もせずに、核武装だ、憲法9条改正だ、というのはナンセンスです。

もちろん、だからといって、プーチンが一般市民も巻き添えにし、原発事故の危険すら顧みずにウクライナを攻撃したのは全く正当化できません。今の時点ではとにかく、戦争をやめさせるのが最優先です。ともかく、まるで、核兵器を放棄したのが悪いなどという議論は、一歩間違えれば、核保有国は非核国に対して何をしてもいい、ということになりかねません。あるいは、核戦力の増強に突き進む朝鮮の金正恩総書記を喜ばせるだけです。

◆戦闘停止と核不使用を迫ることが最優先 余計な核武装・改憲議論は核へのハードルを下げるだけ

核兵器の悲惨さは、核保有国も非核兵器国への核兵器の使用を躊躇する背景になってきました。

「こんなひどいものを使えば国際的な非難をあびて自分は失脚するかもしれない。」と思って核兵器の使用をためらった例は少なくありません。有名な例は、朝鮮戦争で当時は非核国だった中華人民共和国(国連的にはまだ中華民国が正統性を認められていた時代)への核兵器の使用をアメリカが検討したが断念した例はあります。あるいは、ブッシュ政権時代のアメリカはイラン、イラクやシリアなどについては「核兵器の使用をふくむ先制攻撃」を国家戦略としていました。イラクやシリアは攻撃しましたが核兵器は結局使いませんでした。核保有国に対してはとくに日本政府も広島・長崎の市民も先頭に立って、核兵器の非人道性をきちんと訴え、使用をあきらめさせる国際世論を維持・強化していくべきです。日本政府があまりやる気がない以上は市民がやるしかないでしょう。 

世界で最初の核兵器被害を受けた日本が、プーチンの土俵に乗って、核武装、憲法9条改正などと言い出せば、核保有国の核兵器使用や、非核国の核兵器開発へのハードルを下げることにもなりかねません。

もちろん、日本には石油などの値上がりの影響も及びます。それについて、たとえば、ガソリン税ゼロとか消費税ゼロなどで市民生活のこれ以上の困窮を防ぐのも大事な議論です。

ロシアでも26日現在でデモが60都市で行われ、1800人以上が拘束されたそうです。日本は事実上の一党独裁下とはいえ、言論の自由はロシアに比べればまだまだあります。しっかり行使をしていきましょう。ロシアの国内外の声でまず、核兵器の使用という最悪の自体を食い止めていきましょう。

◆長崎市民も参加してビキニ・デー講演会 「長年の核被害の軽視がプーチン暴走を後押し」

同じ26日は、午後には広島県原水協の主催で3.1ビキニ・デーの集会がオンライン併用で行われました。オンライン併用という特色を生かして、長崎の市民の方も参加しました。

1954年3月1日のビキニ環礁における水爆実験は、筆者の小学生時代には「第五福竜丸事件」と言われたものでした。しかし、実際には高知県など、多くの日本漁船、そして現地住民が被害を受けたことから、ビキニ・デーという呼称が定着しているようです。この事件を契機に原水爆禁止運動が高まったのは周知の事実です。

2022年ビキ二デーは、元広島平和研究所職員で今は奈良大学教授史学科の高橋博子さんが「封印された放射性降下物~黒い雨・ビキニ水爆被災」と題して講演されました。

40数年にわたる運動の結果、「黒い雨」訴訟は広島高裁でも“全面勝訴”しています。地裁判決をさらに踏み込み、11疾病に罹患していなくても当時その地域に居住し、放射性降下物にさらされた人全員を「被爆者」と認定することを命じています。しかし政府は、11疾病に罹患していることにこだわり、司法の判断を無視しようとしており、広島市もこれに屈しています。ビキニ水爆被災の真相をわずか7億2000万円の見舞金と引き換えに隠蔽・封印、福島原発事故の放射線被害の解明にも後ろ向きの日本政府の責任を厳しく批判する趣旨です。

高橋さんは、1950年に米軍が長崎の西山地区という場所で放射性降下物質を調査したにもかかわらず、全くそれが報告されていないこと、また、仁科博士が同じく1950年の遺稿で「西山地区の放射能は強い」「住民の白血球が高」と書き残していることを紹介。しかし、こうしたことが最近まで隠蔽されてきており、その隠蔽工作を2021年8月9日のNHKスペシャルがあばいたが、政府は現在でも「塩対応」だそうです。

そもそもが、ヒバクについての研究がアメリカ主導で、放射性兵器の開発のために行われてきたわけです。また、民間防衛のためにも行われてきたそうですが、その内容は「6000ミリシーベルトの放射能を浴びても何人か生き残る可能性がある」などというお粗末なものでした。

冷戦が終わったとき、核兵器がなくなるかも、という期待が広がりましたが、実際には「アメリカは力で冷戦に勝った」という神話がひろまってしまった、と高橋さんは、指摘。核の非人道性が十分問題とされないまま現在にきてしまった。日本政府も及び腰の中で、プーチンら旧東側も、バイデンら西側も核兵器の非人道性を十分認識しないまま、今に至っていることが、今回のウクライナの事態の背景にある、と厳しく批判しました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

 

鈴木さんが自費出版した詩集「棄民の疼き」

「ふるさとの復興」
大平山霊園 災害公営住宅建設
「道の駅なみえ」オープン 請戸漁港再建
常磐線全線開通 世界最大水素工場や
県最大酪農牧場計画策定等々
視える確かな復興事業
中には待ち焦がれる帰還を疎外する施策も

2万1000人の町民
避難指示解除4年で帰還者7%
創生小中学校開校
1700人程の児童生徒は26人に
小中学校誰しも抱く心の拠り所
請戸小学校は震災遺構で保存決定
5つの小中学校は
閉校式もなく解体決定
住民意向調査の結果
「帰還しない」は54・9% 過半数を超えた
「要介護認定率」は郡内最大の増加23%超

住んでいない避難町民からも固定資産税や住民税を徴収
まるで核災がなかったかのよう…
余にも理不尽な政府の圧政・収奪
更にコロナ禍での生活困窮
「被災者に寄り添う」?
喜びより恨めしさがつのる
ふるさとの復興
(初出2021年3月「コールサック」第105号)

原発事故発生から間もなく丸11年。確かに浪江町役場周辺の景色は一変した。立派な道の駅が完成し、イオンもできた。常磐線が全線開通した。海側では、津波で壊滅的な被害を受けた請戸漁港が再建され、町立請戸小学校は震災遺構として残された。では、原発事故は「終わった」のだろうか。もはや「過去の出来事」なのだろうか。

自らを含む原発事故の被害者を「核災棄民」と名付けた鈴木さん。2019年5月の第1回口頭弁論では、法廷での意見陳述でこう訴えた。

「福島第一原発の事故は、巨大な人災です。核の人災です。加えて、浪江町は原発隣接地であるにもかかわらず、町民にはバスなどの避難手段も汚染の情報も国から提供されませんでした。浪江町民は皆、国から見棄てられた『棄民』です」

原告団長として先頭に立って国や東電と闘っている鈴木さん(右)。「浪江町民は国から見捨てられた『棄民』だ」と訴える

原発事故後の「棄民政策」は、町のシンボルでもある学校までをも奪う。

詩で触れられている「5つの小中学校は閉校式もなく解体決定」とは、大堀、苅野、幾世橋、浪江の4小学校と浪江中学校のこと。

卒業生から「希望者全員が参加出来るよう校舎見学会と閉校式を行ってください。それまで、校舎の解体を延期してください」と求められたが町は拒否。現在はすっかり取り壊された。背景には、環境省が国費での解体申請に期限を設けたことがあった。原発事故がなければ閉校する必要などなかったのに、加害当事者(国策として原子力発電を推進してきた)である国が「解体費用を出したくなかったら、さっさと解体を決めて申請しろ」と町に迫り、町もそれに従った。そこには原発事故に翻弄された卒業生たちの想いなどなかった。東京五輪の聖火リレーで出発地となった浪江小学校では、解体番号が書かれた看板が一時的に取り外され、復興の〝演出〟が終わるとあっという間に解体された。

2018年11月27日の提訴から今秋で4年。これまでの弁論期日では書面のやり取りばかりで、原告からは「判決はいつになりそうなのか」など、いら立ちとも中だるみとも言える言葉が出てくる。高齢であればなおさら「のんびりと裁判している時間などない」と考えてもやむを得ない面もある。このタイミングで詩集を配る背景には、改めて原告みんなで団結して裁判に臨みたいとの想いがある。

「『4年経っても、ちっとも前に進まないじゃないか』と考えている原告もいると思います。でも、今年は大きなヤマ場を迎えます。原告一人一人の本人尋問が始まります。5月には、現地進行協議という名目で裁判官が浪江町を視察します。その山に向かって、みんなでもう一度心をひとつにして闘いましょうという想いも詩集にはこめられているのです」

詩集の最後のページに収められたのは「歩み固かれ 目は遠く」という詩だ。

「性差別とか人種差別とか、世界中にいろいろな運動がありますよね。われわれの闘いもそれらに含まれるんだよと。われわれの裁判闘争にも希望を持っていただきたいということなんです。『歩み固かれ』というのは、みんなでしっかり団結して一歩ずつ前に進んで行こうという意味です。『目は遠く』というのは、勝利は遠く向こうにあるけれども、しっかり歩いて行けば自分たちの手に入れることができるということ。この言葉は、土井晩翠が作詞した県立双葉高校校歌の4番の一番最後の歌詞なんです。われわれも一歩ずつしっかり裁判を積み重ねて、そして勝利を目指してがんばろう。世界中で多くの人々がこういう運動をやっているんだよ、われわれだけじゃないよという希望をこめて書いたんです」

詩「歩み固かれ 目は遠く」には「浪江町民の闘いも世界中のさまざまな社会運動の1つ。闘っているのは私たちだけじゃない」という原告たちへのメッセージが込められている

60代で震災・原発事故に被災した鈴木さんも71歳になった。

「6月28日で72歳になります。年男です。前町長の馬場有さんは私の誕生日の前日に亡くなったんだよね。詩集を11月27日に発行したのは、提訴日だからです。では、なぜ11月27日に提訴したかというと、馬場さんの月命日に提訴したいという弁護団の想いがあったからなんです。弁護団は馬場さんとずっと一緒に集団ADRをやってきましたからね。それで月命日に提訴しようということになった。馬場さんの奥さんにも『墓前に供えてください』と詩集を贈りました。ちょっとした言葉や数字にも、私なりの想いがこめられているんですよ」

印刷代など全て自費。200部印刷し、弁論期日に駆け付けた原告などに無償で配っている。

「書店などで一般に販売しているものではなくて、個人的に200部印刷して持っているわけですから、電話をいただければ私から直接、送ります。無料で郵送しますよ」

詩集の希望者は鈴木正一さんの携帯電話090(8927)5640まで。

◎鈴木博喜「浪江町民の鈴木正一さんが詩で綴る〝原発事故棄民のリアル〟」
〈上〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=41937
〈下〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=41944

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年3月号!

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』vol.30(紙の爆弾 2022年1月号増刊)

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B09MFZVBRM/
◎鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000689

福島県双葉郡浪江町民が申し立てた集団ADR(裁判外紛争解決)での和解案(慰謝料一律増額)を東京電力が6回にわたって拒否し続けた問題。国や東電を相手取って起こした「浪江原発訴訟」の原告団長として721人の先頭に立って闘っている鈴木正一さん(71)が昨年11月27日、詩集「棄民の疼き」を自費出版した。原発事故で国や東電に棄てられた人々のリアルな怒りが哀しみを言葉で紡いだ背景には、4年前に亡くなった前町長の想いや長引く裁判闘争で疲弊する原告たちの団結を願う気持ちがあった。

 

鈴木さんが自費出版した詩集「棄民の疼き」

「お買い得物件」
東電の社長さん!
お勧め物件のご案内です
廃炉指揮の社宅として
私の終わりの住処いかがですか?

2年以上も前に避難指示は解除
続いて内閣府の行政指導で今年度から固定資産税が課税
よくご存知ですよね
第一原発から10㎞未満の近さ
これからの原発事故にもすぐ駆けつけて行けます
放射線量は原発管理区域の1・5倍
あなた達が言う安全なところです
放射線被曝も毎日体験できますよ
世界の中でもここにしかないお買い得物件です
いかがですか?
(初出2019年9月「腹の虫」第10号)

強烈な皮肉がこめられた風刺詩。

「私の家を買えるかって。安全だと言っているけれど買えないでしょう。そういう想いでつくった風刺詩なんですよ。汚染水の海洋放出問題もありますしね」

避難元自宅のある地域は福島第一原発から北西約9キロメートル。事故後に居住制限区域に指定され、南相馬市内に新たな住まいを確保した。2017年3月末で政府の避難指示が解除され鈴木さんは自宅を修繕して戻った。

「一昨年に改築を始めたんです。亡くなった馬場有町長が『まさかずさん、あそこ(自宅前のため池)を除染したら帰って来てくれるかい?』と言うから、私は『そのつもりでお願いしているんだよ』と答えました。で、汚染も酷かったこともあって一番最初にやってくれた。馬場町長は2018年6月27日に帰らぬ人となってしまったけれど、私は自宅に戻りました。実は、馬場町長がこの裁判の原告団長になるという話もあったんですよ」

浪江の自宅と娘の暮らす南相馬を行き来する生活。浪江で生活する時間が多くなったが、それは馬場町長との約束があったから。被曝リスクへの懸念はある。自宅の庭は3度にわたって除染されたが、3回目の除染後に行われた環境省による測定でも空間線量は毎時1.8マイクロシーベルトに達した。これが、詩で言う「あなた達が言う安全なところ」の現実。2019年5月の第1回口頭弁論で意見陳述した鈴木さんは、こう述べている。

「放射線管理区域の基準である年5.2mSvを上回るのに、国から『年20mSvが基準だ』と説明されて避難指示が解除された。しかも先日、固定資産税の納税通知書が届きました。放射能に汚染されたままで利用出来ない土地や家屋にも、情け容赦なく課税されていくのです。原発事故被害の実態を見ようともしない、政府の非情な政治判断の一例です。これが『被災者に寄り添う』と言っている者の真の姿です」

昨年末の時点で「浪江町に住んでいる人」として町役場が公表しているのは1788人だが、この数字には除染や復興事業の作業員なども含まれている。震災・原発事故発生時に町内で暮らしていて戻った「町民」は1200人を上回る程度。一方、町に戻れていないにもかかわらず、土地や建物へ固定資産税を課されている町民は少なくない。

浪江だけではない。富岡町から神奈川県内に避難した男性も「福島原発かながわ訴訟」の控訴審で同じような意見陳述をしている。各種減免措置の終了は、避難指示区域からの〝強制避難者〟に重くのしかかっているのだ。男性は、法廷で次のような趣旨の意見を述べた。

「原発事故後は減免されていましたが、今年度から満額の固定資産税を請求されるようになりました。評価額が低いから固定資産税といっても年1万円にならない程度だけれど、死ぬまで払い続けなければなりません。本当は処分したいですが、買い手などつきません。売りたくても売れないんです。年齢や放射線量を考えると、改めて自宅を新築するなど難しい。結局、処分できない土地と固定資産税だけが残ったのです…」

国や東電による原発事故後の「棄民」に対する怒りを綴った鈴木正一さん

鈴木さんは「東電に払わせるべきだ」と語気を強める。

「土地を持っていると、浪江に住んでいなくて固定資産税を払っている人もいるわけですよ。本来であれば東電に払わせるべきだと思います。避難しているにもかかわらず浪江で暮らしているかのように税金もとられるようになっていく。これから国保税などの減免もなくなる可能性もあるのです。まったく『被災者に寄り添う』なんて良く言いますよね」

そもそも裁判など起こさなくても良かったのだ。東電が原発事故被害者と誠実に向き合ってさえいれば…。

浪江町民が2013年5月に申し立てた集団ADR(精神的損害に関する賠償の増額など)で、東電は原子力損害賠償紛争解決センター(ADRセンター)が提示した和解案を実に6回も拒否した。ADRセンターが再三にわたって受諾を勧告しても東電の姿勢は変わらなかった。

東電は「3つの誓い」の中で「最後の一人が新しい生活を迎えることが出来るまで、被害者の方々に寄り添い賠償を貫徹する」、「原子力損害賠償紛争解決センターから提示された和解仲介案を尊重するとともに、手続きの迅速化に引き続き取り組む」と〝宣言〟している。しかし和解仲介案に対する振る舞いは、自らが立てた「誓い」からはほど遠いものだった。加害者意識に乏しいと言わざるを得ない東電の態度。2018年3月26日にも東電が受諾を拒否したため、同年4月5日をもって集団ADRは打ち切られた。鈴木さんたち109人は馬場前町長が亡くなってから5カ月後の2018年11月27日、福島地裁に提訴した。国や東電に慰謝料の支払いを求めている。今年は原告本人尋問が始まる。

馬場前町長の命日が6月27日、提訴日が11月27日。そして、詩集の発行日も11月27日。詩集には、集団ADRの先頭に立ち続け、志半ばで逝った馬場有さんの想いも詰まっていた。(つづく)

「憂える帰還」では、汚染水の海洋放出計画に疑問を投げかけている

◎鈴木博喜「浪江町民の鈴木正一さんが詩で綴る〝原発事故棄民のリアル〟」
〈上〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=41937
〈下〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=41944

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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