そもそも、国も福島県も、避難指示区域以外からの住民避難に消極的だった。口では「避難者いじめはやめよう」などと言いながら、「避難の権利」を認めて来なかった。

福島県災害対策本部が2011年7月に発行した「今、子どもたちのためにできること~放射能から子どもたちの心身の健康を守るために~保護者の皆様へ」では、「地表には放射性セシウムが沈着していますが、空気中の放射性ヨウ素や放射性セシウムの心配はありませんので、風が強くほこりが舞うようなときを除いて、散歩、洗濯物の外干し、エアコンの使用、部屋の換気、半袖を着るなど、日常生活には影響ありません」と「安全安心」を説いた。

福島県広報誌「うつくしまゆめだより」特別号(2011年8月1日発行)には、こんな表現すらあった。

「今回、原発事故の被災地として『フクシマ』の名は世界中の人々の心に刻まれました。しかし、この災害を乗り越える姿は、被災したことと同じくらいの驚きで世界に受け止められるはずです。ピンチをチャンスに変え、世界に誇れるふくしまとなることを信じて、前を向いて歩んでいきましょう」

ピンチをチャンスに変える。つい最近も似たような言葉が政権内部から聞えて来たことがあった。中日新聞によると自民党の下村博文政調会長は5月3日、改憲派のウェブ会合で「日本は今、国難だ。コロナのピンチを逆にチャンスに変えるべきだ」と述べている。被曝リスクもパンデミックも、チャンスに変えるような事態ではないことは言うまでもない。

福島県は震災・原発事故から丸5年の2016年3月12日、全国で配られる朝刊に全面広告を出して、こうアピールした。

「避難区域以外のほとんどの地域は、日常を歩んでいます」

こうして、初めから「避難の権利」は否定され「出て行くな」と言われ続けて来た。福島県立いわき総合高校の石井路子さんは、雑誌「シアターアーツ」47号(2011年6月25日、国際演劇評論家協会日本センター発行)の中で、次のように綴っている。

「できることなら若い世代は福島から出て、放射線のない世界で生活するべきだと私は考えていた。けれどもそうはならなかった。保護者の仕事の関係、経済的な理由、離郷への拒否感、様々な理由で子どもたちは避難先からこの地へ戻ってきた」

「また、学校の早期再開が避難していた子どもたちを呼び寄せることになった。被曝のリスクを回避させたい。なのに毎日放射線の中を投稿させているジレンマ。国は『直ちに健康に影響はない』と言い続け、学校はその方針に従わざるを得ない。『安全だ』と繰り返されたことで、マスクもせず、雨にぬれることにも躊躇を示さない無防備さ。低線量被曝のリスクについて何の説明も受けていないのだから当然だろう」

避難当事者たちは何年にもわたって訴えているが、帰還一辺倒、避難者切り捨てにばかり注力する福島県の内堀雅雄知事はいまだに避難当事者と面会していない

この動きは福島県に限らず、隣接する宮城県丸森町も2011年3月22日の時点で「3月20日現在、宮城県内における空間放射線は、健康に影響を与えるレベルではありません」、「3月21日に東北大学が町内で測定した1・48μSv/hは、日常生活を行ううえで特に影響を与えるものではありません」と町民に周知している(「3月11日に発生した東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故に関する情報」より)。

「出て行くな」の次は「戻って来い」だ。福島県の職員は、区域外避難者への住宅無償提供打ち切りが決まった頃から「県内における除染が進み、帰還が可能な環境が整ってきている。そもそも大多数の県民が避難していない」と盛んに言いだした。瀬戸大作さんが述懐する。

「福島県議会の各会派を訪問したが、共産党と立憲民主党の一部を除いて、皆一様に『福島に帰ってくれば良いじゃないか』と言う。県議のほとんどが避難者支援継続に反対。福島県選出の野党系国会議員にも会いに行ったが、同行した区域外避難者に向かって『もう帰って良いっぺ』と。都議会の議員たちにも『福島県の県民感情を考えると、区域外避難者だけを支援するわけにはいかないんです』、『自力で国家公務員宿舎を退去した人たちとの公平性を考えたら駄目です』と言われた」

2018年7月11日の参議院「東日本大震災復興特別委員会」。参考人として出席した森松明希子さん(郡山市から大阪府に避難)は、石井苗子参院議員から「何があったら戻ろうかというお気持ちになっていただけますか」と問われ、こう答えた。

「何があったら戻ろうかという御質問自体が、戻ることが前提とした御質問だというふうに私は受け止めてしまう」

「先生の御質問は、何があったら帰ってくれるのかではなくて、どんな被曝防護を考えましょうかという御質問だったらうれしい」

福島県内の首長も「避難者を戻らせる」ことが前提だった。

前福島市長の小林香氏は当選直後、「自主的な避難による人口流出への対応として、県外に避難されている方々に対し、福島市からの情報提供をもっとこまめに行っていく必要がある」(「東北ジャーナル」2014年3月号)と述べ、2017年2月の毎日新聞インタビューでは「当然、自主避難者の方々には戻っていただきたいが、強制するわけにいかない」と語っている。

国も同じだ。「第三文明」2018年3月号に掲載された浜田昌良復興副大臣のインタビュー記事では、「故郷・福島へ戻る被災者にも、県外で自主避難を続ける被災者にも、私たちは引き続き支援を惜しみません」などの美辞麗句が並べられた。

「原発事故直後には放射線に関する十分な情報が届かなかったわけですし、当時の政権のあいまいな説明は人々に大きな不安を与えました。震災から6年以上も他の地域で暮らしていれば、福島に帰りにくい方がいるのもうなずけます」

「2015年8月に改定した『子ども被災者支援法』の基本方針で、福島県外へ自主避難している方々にも支援を続行することを決めました。公営住宅に円滑に入居できるように入居要件を緩和したり、一部の自治体では自主避難者への優先入居枠を設けています。福島県内外で民間賃貸住宅に入る人には、家賃補助制度も作られました」

だったらなぜ、いま〝追い出し訴訟〟などという事態になっているのだろう。「戻って来い」一辺倒で全く寄り添って来なかった結果では無いのか。(終わり)

2016年には19万筆を上回る署名が超党派の国会議員に提出された。しかし、原発避難者から住まいを奪う国や福島県の横暴は止まらない

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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6月6日大阪市内で開催された「老朽原発うごかすな!大集会IN大阪」には、緊急事態宣言下にも関わらず、1300人もの市民が集まった。6月23日予定される美浜原発3号機(福井県)の再稼働に向けた反撃の布陣が大きな広がりを見せている。関西、福井、そして福島からの参加された市民団体、組合、個人の方々からの熱いアピールが寄せられた。何人かの要約を紹介する。

 

中嶌哲演さん(オール福井反原発連絡会)

◆中嶌哲演さん(オール福井反原発連絡会)

昨年の秋以来国と関電は猛烈な攻勢をかけてきまして、関西から駆けつけられた方々には、その実態を如実に見ていただいたと思っています。地方自治体の行政職は公僕―公の下僕、地元住民の奉仕者でなければいけない。議員たちは有権者、市民の代弁者でなければならないのに、それと全く相反する姿を皆さんはご覧になったわけです。

住民の代弁者よりも、関電と政府の下僕と化した若狭や福井県内の状況、木原さんは我々の運動は住民自治、地方自治を取り戻す運動だと仰ってましたが、まさにその通りです。ご存じのように、関電は株式会社で、15~16%の株を有しているのは大阪市、神戸市、京都市など関西圏の主要自治体です。もちろん80数%はメガバンクや生命保険会社の投資で賄われているなかにあって、京阪神の自治体は少数派かもしれないが否定できない事実です。

そして関電が設置している原発は、小さな若狭の地に11基、977万ワット、わずかな6キロ万ワットしか必要としていない若狭に、それだけの原発が集中しています。その実態を関西の皆さんには改めて考えていただきたい。関西の1450万人の命と、その命の水源である琵琶湖を守ることよりも、大手株主や国を優先している電力会社であることも否定できません。

福島の事故から10年、風化するばかりの状況の中で、既に多くの皆さんが関電から離れていっている。この秋、選挙があり、政権をかえるチャンスが与えられている。現政権がブレーキをかけ続けてきた原発ゼロ法案を審議し、制定させる道がこの秋に切り開かれようとしている。3・11直後の沸き立つような市民運動、世論をもう一度思い起こし、「老朽原発止めろ!原発をゼロに!」という広範な動きを作っていきましょう。

◆山下けいきさん(反原発自治体議員・市民連盟関西ブロック)

避難計画ですが、現在30キロ圏内の自治体が避難計画を作るということになっています。なぜ避難計画をつくらないとあかんのか、原発のために、なぜ右往左往しなくてはならないか、本当に許せないと考えています。

 

水戸地裁では、この避難計画が出来てないから原発差し止めるという結果になりました。避難計画の概要ですが、30キロ圏内の自治体は避難計画を作るとなっている。県を超えて避難しないといけない。滋賀県は長浜と高島ですが、事故が起きたら大阪に、福井県、京都府は奈良や兵庫など他府県に避難すると計画になっています。

問題は、避難計画は30キロ圏内でいいのかということです。福島県の飯舘村は原発から40~50キロ離れていましたが、放射能汚染で全村避難になりました。アメリカは福島の事故の際80キロ圏内の人たちに避難しろとなった。イギリスは50キロ圏内となった。ですから今の30キロ圏内が妥当かどうか疑問があります。それから現場の負担が非常に大きい。2018年福井県の教育委員会が各学校毎に避難計画を作れと細かな指示をしているが、何故こんなものを学校で作っていかなければいけないのか。

避難する際の問題点ですが、バスの調達など進んでいない。新潟では昨年11月段階で5キロ圏内でも進んでいない。要介護の人たちの避難は今から具体化するという。コロナがあるのでバスの数も避難所の広さも2倍必要となっているが、こんなことは全く想定されない。複合災害が起こることなど考えられていない。なぜ原発があるために、私たちが避難しなくてはならないのか、ここに尽きると思いますので、原発動かしてはならん、ましてや老朽原発動かしてはならんと一緒に頑張っていきたいと思います。

◆和田央子(なかこ)さん(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)

 

和田央子(なかこ)さん(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)

私は除染と廃棄物の問題にとりくんでいます。先日環境省が汚染土再利用のためのフォーラムをオンラインで開催しました。大熊町、双葉町にまたがる中間貯蔵施設に搬入される1400万立方メートルもの汚染土を再生資材として全国で活用する、そのための全国民的理解の醸成をはかろうというものです。

パネリストとして登壇された東京大学大学院准教授・開沼博さんは、この汚染土問題について、自分のところは嫌だから、よそへ持って行って欲しいという押しつけあいの問題だというのです。

昨年から環境大臣は汚染土の入った鉢植えを、自身の大臣室に飾っているが、これをもっと広めたいと、つい先日「復興庁にも置いて欲しい」と平沢復興大臣に打診したところ、平沢大臣は「小泉大臣の前向きな取り組みに敬意を表したい」と発言、国会議員からも自分のところにも汚染土の鉢植えを置きたいという申し入れがあったということです。

原発敷地内では核廃棄物の取り扱いは発生者責任のもとに集中管理するという原則に基づき運用されている一方で、原発の外側、つまり私たちの生活圏に於いては、その原則が存在していません。

思い起こせば二本松のゴルフ場による除染訴訟で「無主物」判決がありました。その後、コメ農家らによる農地回復訴訟でも、同じような判決が下されました。東電の責任はないとするものです。このように加害者不在のもとに、汚染土がばらまかれ、汚染水が海洋放出され、被害が拡大し、子供たちの未来を奪っていく。このようなことを止めなければなりません。皆さんとともに歩みを進めていきたいと思います。

◆山﨑圭子さん(3・11後千葉県から滋賀県に移住)

私は、3・11の事故により健康被害が生じ、滋賀県に避難してきました。当時私が住んでいたのは、福島第一原発から205キロ離れた千葉県北西部です。この地域は2011年3月21日の朝、大量の放射性物質を含んだ雨が落下したことにより広大に汚染され、「汚染状況重点調査地域」に該当するホットスポットとなりました。

この地図からもわかるように、原発事故の汚染は福島にとどまらず、東北、関東と広範囲に渡って広がっています。原発に何かあれば福井県のみならず、広域に渡って汚染されます。それはイコール被ばくを強いられるということです。関電の榊原会長、森本社長、稼働している原発を直ちに停止してください。危険極まりない老朽原発の再稼働に反対します。

賛成とか反対とかいうより、そもそも原発はこの世にあってはならないものです。核のごみ、死の灰を出すことでしか動かす原発はいりません。全ての命のために、豊かな大地、命の水瓶を何が何でも守りたい。「豊かな国土と、そこに国民が根を下ろして生活していくことが国富であり、これを取り戻すことができなくなるのが国富の消失である」という樋口元裁判長の言葉を、今一度かみしめたいと思います」

山﨑圭子さん(3・11後千葉県から滋賀県に移住)

◆「緊急行動に起とう!」と呼びかける木原壯林さん(老朽原発うごかすな!実行委員会)

 

木原壯林さん(老朽原発うごかすな!実行委員会)

決議にあったように、関電と政府は6月23日に美浜3号機を再稼働させようとしています。断固とした抵抗なくこれを許せば、全国の60年運転へ道を開くこととなり、日本始め全世界の原発の60年運転への口実を与えることにもなります。今、私たちは子々孫々にまで、負の遺産・原発を残すことを許すのか、それとも命の尊厳が大切とされる社会の実現を目指すのか、歴史の岐路に立っているといっても過言ではありません。

「老朽原発動かすな」実行委員会は次の緊急行動を提起します。ご賛同、ご支援、ご参加をお願いいたします。

1つは悪の牙城・関電への抗議行動で、6月11日と18日(共に金曜日)中の島の関電本店前で行います。11日は申し入れも行います。一方、関電が再稼働を画策している23日(水)は、美浜町関電原子力事業本部前及び美浜原発前で抗議行動とデモ行進を行います。当日は大阪、京都、滋賀からバスがでます。以上緊急行動へのご支援と総結集をお願いいたします。老朽原発再稼働阻止を全力で闘い抜きましょう!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

『NO NUKES voice』Vol.28 《総力特集》〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉

『NO NUKES voice』Vol.28
紙の爆弾2021年7月号増刊 2021年6月11日発行

[グラビア]「樋口理論」で闘う最強布陣の「宗教者核燃裁判」に注目を!
コロナ禍の反原発闘争

総力特集 〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉

[対談]神田香織さん(講談師)×高橋哲哉さん(哲学者)
福島と原発 「犠牲のシステム」を終わらせる

[報告]宗教者核燃裁判原告団
「樋口理論」で闘う宗教者核燃裁判
中嶌哲演さん(原告団共同代表/福井県小浜市・明通寺住職)
井戸謙一さん(弁護士/弁護団団長)
片岡輝美さん(原告/日本基督教団若松栄町教会会員)
河合弘之さん(弁護士/弁護団団長)
樋口英明さん(元裁判官/元福井地裁裁判長)
大河内秀人さん(原告団 東京事務所/浄土宗見樹院住職)

[インタビュー]もず唱平さん(作詞家)
地球と世界はまったくちがう

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
タンクの敷地って本当にないの? 矛盾山積の「処理水」問題

[報告]牧野淳一郎さん(神戸大学大学院教授)
早野龍五東大名誉教授の「科学的」が孕む欺瞞と隠蔽

[報告]植松青児さん(「東電前アクション」「原発どうする!たまウォーク」メンバー)
反原連の運動を乗り越えるために〈前編〉

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
内堀雅雄福島県知事はなぜ、県民を裏切りつづけるのか

[報告]森松明希子さん(原発賠償関西訴訟原告団代表)
「処理水」「風評」「自主避難」〈言い換え話法〉──言論を手放さない

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈12〉
避難者の多様性を確認する(その2)

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈21〉
翼賛プロパガンダの完成型としての東京五輪

[報告]田所敏夫(本誌編集部)
文明の転換点として捉える、五輪、原発、コロナ

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
暴走する原子力行政

[報告]平宮康広さん(元技術者)
放射性廃棄物問題の考察〈前編〉

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
新・悪書追放シリーズ 第二弾
ケント・ギルバート著『日米開戦「最後」の真実』

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
五輪とコロナと汚染水の嘘

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈12〉
免田栄さんの死に際して思う日本司法の罪(上)

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク(全12編)
コロナ下でも自粛・萎縮せず-原発NO! 北海道から九州まで全国各地の闘い・方向
《北海道》瀬尾英幸さん(泊原発現地在住)
《東北電力》須田 剛さん(みやぎ脱原発・風の会)
《福島》宗形修一さん(シネマブロス)
《茨城》披田信一郎さん(東海第二原発の再稼働を止める会・差止め訴訟原告世話人)
《東京電力》小山芳樹さん(たんぽぽ舎ボランティア)、柳田 真さん(たんぽぽ舎共同代表)
《関西電力》木原壯林さん(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《四国電力》秦 左子さん(伊方から原発をなくす会)
《九州電力》杉原 洋さん(ストップ川内原発 ! 3・11鹿児島実行委員会事務局長)
《トリチウム》柳田 真さん(たんぽぽ舎共同代表/再稼働阻止全国ネットワーク)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク、経産省前テントひろば)
《反原発自治体》けしば誠一さん(杉並区議/反原発自治体議員・市民連盟事務局次長)
《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)

[反原発川柳]乱鬼龍さん選
「反原発川柳」のコーナーを新設し多くの皆さんの積極的な投句を募集します

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2018年7月11日、参議院の「東日本大震災復興特別委員会」に参考人として出席した熊本美彌子さん(「避難の協同センター」世話人、田村市から都内に避難)は、国会議員に頼み込むように訴えた。

「住宅無償提供打ち切り後の実態調査を福島県に対して、被害者の団体、三つの団体が共同して、きちんと調査をするように、実態調査をするようにという要請を昨年から何度も何度もしておりますけれども、福島県は一度もそれに応じてくれていません」

「私どもは、やはり生活の実態が明らかになるような調査をしていただかないといけない」、「まず、実態を知ることから始めなければいけないのではないか」として、「もし具体的にこういった形で調査をしたいということがあるならば、私どももお手伝いしたい」とまで口にした。熊本さんの言う通り、「避難の協同センター」や「ひだんれん」が何度、福島県に要請しても、生活実態調査は行われていない。

そのくせ、国は「生活実態把握の重要性」を認めて来た。例えば、2018年3月の参議院「東日本大震災復興特別委員会」。吉野正芳復興大臣(当時)は、「避難者も大きな被災を受けた方々という理解で、私は、避難者も被災者も同じく支援をしていきたい、このように考えています。特に、区域外避難者を含め避難者の実態を把握することは重要なことと認識をしております」と答弁している。

「これまで福島県において様々な意向調査をするとともに、戸別訪問も実施し、実態把握に努めてまいりました。また、生活再建支援拠点、いわゆる全国の26か所のよろず拠点等、被災者の生活再建支援に携わっている支援団体を通じ実態を把握していくことは、被災者の生活再建のため、重要と認識をしているところです」

「重要と認識」しているのに一向に調べない。福島県も区域外避難者の生活実態を調べもしないで、追い出しありきの施策を進めた。県民を守るべき福島県が調べずに、なぜか避難先の東京都が2017年夏に、新潟県は昨年にアンケート調査を行っている。

東京都の「平成29年3月末に応急仮設住宅の供与が終了となった福島県からの避難者に対するアンケート調査結果」では、世帯月収10万円から20万円が30・2%と最も多かった。

新潟県の「避難生活の状況に関する調査」では、「困っていること・不安なこと」として「生活費の負担が重い」、「先行き不透明で将来不安」、「家族離ればなれの生活、孤立、頼れる人がいない」などが挙げられた。

避難者団体はこれまで、何度も何度も国や福島県に原発避難者の生活実態調査をするよう求めている。しかし、国も福島県も拒否。福島県の回答も全く正面から答えていない

同上

同上

2017年5月25日の衆議院「東日本大震災復興特別委員会」には、内科医で2014年の福島県知事選挙に立候補した熊坂義裕さん(前宮古市長)も参考人として出席していた。熊坂さんは、震災後に無料電話相談「よりそいホットライン」を運営する一般社団法人社会的包摂サポートセンターの代表理事に就任した経験をふまえ、「被災者の実情を早急に可視化、見える化することが必要」と訴えた。

「孤立を防ぐためにも、今以上に、被災者への見守り支援など、相談にたどり着けない当事者の掘り起こし、アウトリーチを行い、家族にも職場にも言えないことが言えるような安全な場所を地域に設置していく居場所づくりを進めていく必要がある。福島県がこの3月で住宅支援を打ち切ったことは、被災者に深刻な動揺をもたらした。被災は自己責任ではないと政策で示す必要がある。経済的困窮者に対しての就労支援と避難者の住居確保の総合的な支援が求められていると思う」

「福島県だけが震災関連死は自殺も含めて増えている。震災直接死よりも既にはるかに多い。こういったところも光を当てて、なぜなのかというところをやはりもう少し見える化していかなければいけないのではないか」

「先ほどから可視化という話が何回も出てきているが、福島から避難した方、あるいは実際に被災三県で暮らしていて、もう良いんだ、言ってもなかなか分かってもらえないんだというような、あきらめの気持ちみたいなもの。でも訴えたいんだということが私どもの電話にたくさん来ている。そういったニーズに細かく寄り添っていく、要するに一人一人に寄り添っていく政策というのが大事じゃないか」

昨年5月、コロナ禍で原発避難者がどのような苦しみを抱えているか、避難の協同センターなど3団体がインターネット上でアンケート調査を行った。福島県庁で行われた記者会見で、松本徳子さんは「私たち区域外避難者(いわゆる〝自主避難者〟)は2017年3月末でいろいろな支援策が打ち切られ、福島県から棄民扱いされた。私たち区域外避難者はもはや、『避難者』として人数にカウントされていない。国も福島県も避難者の実情を調べようとしない。避難者として、福島県民として扱われていない」と怒りをぶつけるように訴えた。

村田弘さんは「決定的に欠けているのが、避難者の生活状況がどうなっているのかという事。そういう調査は今まで1回もされていない。その中で住宅無償提供が次々と打ち切られていった。昨年4月以降は帰還困難区域の住宅提供すら打ち切られている。避難者がどこでどういう生活をしているのか、という事をきっちりととらえる必要が絶対にあると思う。きちんとした調査をやろうと思えば出来るはず。生活実態に踏み込んだ調査を国としてやっていただきたい」と復興庁に求めたが「復興庁が主体となって実態調査を行う? 正直に申し上げて、現時点では難しい」と拒否された。

まず避難者の実態を調べて新たな施策に反映する。誰でも考えられることがなされない。なぜ、そんな簡単なことさえできないのか。村田さんは言う。

「原発避難者の実態が分かってしまったら救済しなければならなくなってしまうからではないか。実際どうなのか調べちゃうと、自分たちが進めてきた支援策と生活実態との差が歴然としてしまうから、だからやらないんだよ」

調べもせずに切り捨てる。これが国と福島県の10年間だった(つづく)

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

『NO NUKES voice』Vol.28 《総力特集》〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉

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『ヘイト・スピーチとは何か』は、極右/ネトウヨのヘイトスピーチに対する「カウンター」や「しばき隊」の理論的根拠となっているとされる本です(詳しくは『暴力・暴言型社会運動の終焉』7項「危険なイデオローグ・師岡康子弁護士」参照)。「ヘイトスピーチ解消法」が制定されて5年になりますが、師岡弁護士とは異なった見地から、あらためて「ヘイトスピーチとは何か?」について考えてみようと思います。

◆元SEALDsの女性活動家の勝訴判決に思う

6月1日、元SEALDsの女性活動家2人が、極右/ネトウヨと思しき人物からSNSで受けた夥しい暴言による精神的傷、名誉毀損に対して民事訴訟を起こし100万円の賠償金を勝ち取り勝訴しました(東京地裁)。判決後記者会見も行っています。また、かの神原元弁護士も代理人に名を連ねているということです。

確かに極右/ネトウヨによるSNSを使った暴言は酷いので、この判決は妥当でしょう。しかし、忘れてならないのは、当時のSEALDsメンバーあるいは周辺の者による、SEALDs批判者に対する彼ら・彼女らが行った同種・同類の暴言についてです。これは問題にならないのでしょうか? 上記の元SEALDsの女性のケースだけを問題にし、SEALD以外の他のケースも同等に問題にしなければ偏頗なものになるのではないでしょうか?

 

「しばき隊」のドン・野間易通

例えば、韓国から母子で日本に研究に来ている女性、鄭玹汀(チョン・ヒョンジョン。当時京大の研修員)さんがSEALDsについての論評を発表するや、野間易通を先頭に「カウンター」「しばき隊」のメンバーによって、SNSを駆使し激しい誹謗中傷、罵詈雑言が鄭さんに浴びせられました。

あまりにも激しい攻撃に、鄭さんの研究者仲間が立ち上がり鄭さんをサポートしました。鄭さん自身も民事訴訟を準備していたようですが、諸事情で断念しています。韓国から来日し、日本人とは同等の権利を持たない不安定さ、また娘さんがいるのも不安だったものと推察します。異国で訴訟沙汰を起こすのが大変なことは容易に想像できます。ここを見透かして野間らが鄭さんを攻撃したのであれば、さらに悪質と言わねばなりません。

 

合田夏樹さんを脅迫する伊藤大介のツイート

「カウンター」「しばき隊」(そしてSEALDs のメンバーの一部は)は、女性や娘さんらに対しては殊に激しく攻撃する傾向がありました。保守系を自称し私たちと思想信条は異なりますが、四国で自動車販売会社を営む合田夏樹さん(当時はツイッター上ではかなりの有名人でした)も恐怖した一人です。合田さんに対しては、伊藤大介らによって有田芳生参議院議員の宣伝カーを使い、会社、自宅(近く)まで出向き、身障者の息子さんを持つ奥さんに恐怖を与え、また東京に進学し一人暮らしを始めた娘さんに対しても襲撃を匂わすツイートを流したり、卑劣な発信が続きました。やりたい放題です。思想信条の違いがあるとはいえ、私たちは数に頼っての卑劣な攻撃は理解できませんし、ましてやそのような手段は絶対に取りません。過去このような行為を主導した(今回の原告個人が関わったかどうかは、わかりません)SEALDs の“負の歴史”は見過ごされ問題にならないのでしょうか? こうしたことを問題にせず、上記の元SEALDsの女性活動家のケースのみを殊更採り上げるのは偏頗だといえるのではないでしょうか? 

さらには、当時は隠蔽され後に発覚するリンチ事件の被害者М君に対する誹謗中傷や罵詈雑言も同様です。М君に対してのツイートは激しい「ヘイト(憎悪)」が満ち満ちており、これこそ「ヘイトスピーチ」「ヘイトクライム」ではないのか、と思います。

さらには、リンチ事件に疑問を持ち私たちより少し遅れてМ君リンチ事件に対する批判を実名で公表した、ある公立病院に勤める金剛(キム・ガン)医師に対する攻撃、彼にはSNSによる誹謗中傷に加え病院に電凸攻撃がなされました。人の生死に関わる病院への数多くの電凸攻撃など常識では考えられません。日頃「人権」を口にする者がここまでやるとは言葉がありません。
 
◆「ヘイトスピーチ解消法」制定5年……

「ヘイトスピーチ解消法」が制定されて5年が経ちました――。俗に「ヘイトスピーチ、ヘイトスピーチ」と言いますが、では「ヘイトスピーチ」とは何でしょうか? 条文によれば「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」と規定され、これを「解消」する法律が「ヘイトスピーチ解消法」だということです。法務省のホームページを見れば、「特定の国の出身者であること又はその子孫であることのみを理由に,日本社会から追い出そうとしたり危害を加えようとしたりするなどの 一方的な内容の言動が,一般に『ヘイトスピーチ』と呼ばれています」とあります。

これによれば、上記の元SEALDs の原告女性に対する暴言が「ヘイトスピーチ」であるかどうか、法的観点から見れば微妙であると考えられます(「ヘイトスピーチ」ではなく「名誉毀損」であれば法的な合理性はあるでしょう)。原告に浴びせられた言葉が発せられた心因には、暴言=言葉の暴力を喚起させる動機があったのでしょうから、法律によらずとも「ヘイト(憎悪)」に満ちた言葉を発し攻撃するということからすれば、先の合田さんへの攻撃同様に、広義の意味においては「ヘイトスピーチ」「ヘイトクライム」と言っていいでしょう。

他方、鄭さんや金剛医師は「本邦外出身者」「特定の国の出身者」です。SEALDs やリンチ事件に批判的な発言をしたからといって、激しい誹謗中傷、罵詈雑言を受けたことは「ヘイトスピーチ解消法」に照らせば、法的には「ヘイトスピーチ」に分類されはしないでしょうか。私は日本人としてこのような言動に加担した属性であることを(私自身の行為ではまったくありませんが)、人間として恥ずかしく思います。「ヘイトスピーチ」を批判する者が、一方で「ヘイトスピーチ」の手法を用いる――「目的のためには手段を選ばず」との疑念がぬぐえません。なにかおかしくはないですか? 

実は私がSEALDsや、これと連携する「反原連(首都圏反原発連合)」や「カウンター」「しばき隊」に、遅ればせながら疑問を持ったのは、彼らによる鄭さんへの攻撃がきっかけでした。それまで「反原連」には年間300万円ほどの資金援助をするほど親密な関係でしたし、反原発雑誌『NO NUKES voice』の6号までは「反原連」色が比較的濃いものでした。

しかし、同誌6号(2015年11月25日発行)で「解題 現代の学生運動――私の体験に照らして」という拙稿で鄭さんへの攻撃やSEALDsの思想、排除の論理などに疑問を呈するや、「反原連」から同年12月2日付けで一方的に「絶縁」を宣せられました。同誌6号発行からわずか1週間後のことです。同誌6号には、SEALDsの代表的人物、奥田愛基のインタビューも掲載されています(帝国ホテルの高級日本料理屋でインタビューするほど厚遇しました)。この時期「反原連」はまだ勢いがあり、カンパもそれなりに集まっていたので、小うるさい私たちなどどうでもよかったのでしょう。

SEALDs奥田愛基と「反原連」ミサオ・レッドウルフ

 

SEALDsとしばき隊の関係を象徴する画像。左からM君リンチに連座した李信恵、伊藤大介、激しいツイートで有名な木野寿紀、SEALDs奥田愛基

「反原連」の「絶縁」宣言に対し私は同誌次号(7号。2016年2月25日発行)で反論、「さらば、反原連」とのタイトルで「反原連」と訣別し独自の道を歩むのですが、「反原連」は世間の関心も薄れ資金的に苦しくなったからと言って、今年3月末で「活動休止」を発表しました。この11日に発売になった同誌28号にて、やはり「反原連」に苛められた植松青児さんが「反原連の運動を乗り越えるために」という題で長文の記事を書かれていますのでぜひご覧になってください。

ともかく、「反原連」「しばき隊」「カウンター」「SEALDs」「TOKYO DEMOCRACY CREW」「SADL」「男組」等々、いろいろな名称を使い、一人でいくつもの団体に関係し、それらをうまく操ることに長けた者(野間易通、ミサオ・レッドウルフ、こたつぬこ=木下ちがやら)が複数名いて、彼らの号令一下、有機的に動いたことは事実であり、一定期間、大衆を惑わせる効果は持ちました。野間、ミサオら非共産党の者らと木下ちがやら共産党系の者らが巧妙に手を組んだといえるでしょう。メディアも彼らの意向に沿って、なにかしら「新しい社会運動」が発生したかのように報じ、M君リンチ事件のような不都合なことは報じず、綺麗事を報道することに終始しました(メディアの社会的責任放棄です)。

反原連「活動休止のご報告」

彼らは暴力をちらつかせ暴言をSNSで発信し、批判者や対抗勢力を排除していきました。リンチ事件が、2015年という安保法制反対運動の盛り上がりに隠れて表面化しなかった背景にはこのような事情もあったのでしょう。「カウンター」や「しばき隊」「SEALDs」らの勢いの蔭に隠れ、あれだけの被害を受けたM君の心中はいかばかりだったのか、と想起すると、若いM君が憐れに思えてきます。M君は、未だにリンチのPTSDに苦しめられています。一方で、リンチに連座した伊藤大介は再び同類の暴行傷害事件を起こしたり、李信恵は、あたかも何もなかったかのように執筆活動や講演などに奔走したり……考えさせられます。なにかおかしいと思うのは私だけでしょうか。(文中、一部を除き敬称略)(つづく)

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

『暴力・暴言型社会運動の終焉』

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B08VBH5W48/

本日11日、全国の書店やアマゾンなどで『NO NUKES voice』が発売される。本号の特集は「〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉」だ。創刊以来28号を数える本号は、奇しくも〈当たり前の理論〉がますます踏み倒される2021年6月の発売となった。

元福井地裁裁判長の樋口英明さん(『NO NUKES voice』Vol.28グラビアより)

◆理性も理論も科学もない「究極の理不尽」との闘い

 

『NO NUKES voice』Vol.28 《総力特集》〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉

原発を凝視すると、その開発から立地自治体探し、虚飾だらけの「安全神話」構築、そして大事故から、被害隠蔽、棄民政策と、徹頭徹尾〈当たり前の理論〉を政治力や、歪曲された科学が平然と踏み倒してきた歴史が伴走していることに気が付かれるだろう。

南北に細長い島国で、原発4基爆発事故を起こし〈当たり前の理論〉が通用していれば、とうに原発は廃炉に導かれているはずである。が、あろうことか、「原発は運転開始から40年を超えても、さらに運転を続けてよろしい」と真顔で自称科学者、専門家と原子力規制委員会や経産省は「さらなる事故」の召致ともいうべき、あまりにも危険すぎる〈当たり前の理論〉と正反対の基準を認め、電力会社もそちらに向かって突っ走る。

ここには理性も理論も科学もない。わたしたちは原発に凝縮されるこの「究極の理不尽」との闘いを、避けて通ることはできないのである。「究極の理不尽」は希釈の程度こそ違え、もう一つわかりやすい具象を日々われわれに突きつけているではないか。

◆「反原発」と「反五輪」

誰もが呆れるほどに馬鹿げている「東京五輪」である。わたしは「反原発」と「反五輪」はコロナ禍があろうとなかろうと、通底する問題であると考える。それについての総論、各論はこれまで本誌であまたの寄稿者の皆さんが論じてこられた。とりわけ本間龍さんは、大手広告代理店に勤務された経験からの視点で「五輪」と「原発」の相似因子について、詳細に解説を重ねて下さってきた。

絶対的非論理に対しては、遠回りのようであっても〈当たり前の理論〉が最終的には有効であるはずだと、わたしたちは確信する。そのことは、政治や詭弁が人間には通用しても、自然科学の本質にはなんの力ももたないという、例を引き合いに出せば充分お分かりいただけるだろう。

どこまで行っても、新しい屁理屈の創出に熱心な原発推進派には、〈当たり前の理論〉で対峙することが大切なのだ。そのことをわたしたちは多角的な視点と、多様な個性から照らし出したいのであり、当然その中心には福島第一原発事故による、被害者(被災者)の皆さんが、中心に鎮座し、しかしながら過去の被爆者や原発に関わる反対運動にかかわるみなさんとで、同列に位置していただく。

絶対に避けたいことであり、本誌はそのためにも存在する、ともいえようが、たとえば大地震が原発を襲えば(その原発が仮に「停止中」であっても)、次なる福島がやってこない保証はどこにもない。膨大な危険性と危機のなかに、日常があるのだということを『NO NUKES voice』28号は引き続き訴え続ける。本誌創刊からまもなく7年を迎える。収支としてはいまだに赤字続きで、発行元鹿砦社もコロナの影響で売り上げが悪化していると聞く。

原発を巡る状況に部分的には好ましい変化があっても、楽観できる雲行きではない。そんな状況だからこそ〈当たり前の理論〉で〈脱原発社会〉を論じる意味は、過去に比して小さくはないはずだとわたしたちは考える。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

『NO NUKES voice』Vol.28
紙の爆弾2021年7月号増刊 2021年6月11日発行

[グラビア]「樋口理論」で闘う最強布陣の「宗教者核燃裁判」に注目を!
コロナ禍の反原発闘争

総力特集 〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉

[対談]神田香織さん(講談師)×高橋哲哉さん(哲学者)
福島と原発 「犠牲のシステム」を終わらせる

[報告]宗教者核燃裁判原告団
「樋口理論」で闘う宗教者核燃裁判
中嶌哲演さん(原告団共同代表/福井県小浜市・明通寺住職)
井戸謙一さん(弁護士/弁護団団長)
片岡輝美さん(原告/日本基督教団若松栄町教会会員)
河合弘之さん(弁護士/弁護団団長)
樋口英明さん(元裁判官/元福井地裁裁判長)
大河内秀人さん(原告団 東京事務所/浄土宗見樹院住職)

[インタビュー]もず唱平さん(作詞家)
地球と世界はまったくちがう

[報告]おしどりマコさん(漫才師/記者)
タンクの敷地って本当にないの? 矛盾山積の「処理水」問題

[報告]牧野淳一郎さん(神戸大学大学院教授)
早野龍五東大名誉教授の「科学的」が孕む欺瞞と隠蔽

[報告]植松青児さん(「東電前アクション」「原発どうする!たまウォーク」メンバー)
反原連の運動を乗り越えるために〈前編〉

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
内堀雅雄福島県知事はなぜ、県民を裏切りつづけるのか

[報告]森松明希子さん(原発賠償関西訴訟原告団代表)
「処理水」「風評」「自主避難」〈言い換え話法〉──言論を手放さない

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈12〉
避難者の多様性を確認する(その2)

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈21〉
翼賛プロパガンダの完成型としての東京五輪

[報告]田所敏夫(本誌編集部)
文明の転換点として捉える、五輪、原発、コロナ

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
暴走する原子力行政

[報告]平宮康広さん(元技術者)
放射性廃棄物問題の考察〈前編〉

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
新・悪書追放シリーズ 第二弾
ケント・ギルバート著『日米開戦「最後」の真実』

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
五輪とコロナと汚染水の嘘

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈12〉
免田栄さんの死に際して思う日本司法の罪(上)

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク(全12編)
コロナ下でも自粛・萎縮せず-原発NO! 北海道から九州まで全国各地の闘い・方向
《北海道》瀬尾英幸さん(泊原発現地在住)
《東北電力》須田 剛さん(みやぎ脱原発・風の会)
《福島》宗形修一さん(シネマブロス)
《茨城》披田信一郎さん(東海第二原発の再稼働を止める会・差止め訴訟原告世話人)
《東京電力》小山芳樹さん(たんぽぽ舎ボランティア)、柳田 真さん(たんぽぽ舎共同代表)
《関西電力》木原壯林さん(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《四国電力》秦 左子さん(伊方から原発をなくす会)
《九州電力》杉原 洋さん(ストップ川内原発 ! 3・11鹿児島実行委員会事務局長)
《トリチウム》柳田 真さん(たんぽぽ舎共同代表/再稼働阻止全国ネットワーク)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク、経産省前テントひろば)
《反原発自治体》けしば誠一さん(杉並区議/反原発自治体議員・市民連盟事務局次長)
《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)

[反原発川柳]乱鬼龍さん選
「反原発川柳」のコーナーを新設し多くの皆さんの積極的な投句を募集します

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B096HQ5KG5/

わが国唯一の反原発雑誌『NO NUKES voice』28号が明日6月11日(金)に全国の書店で発売になります。

 

『NO NUKES voice』Vol.28 《総力特集》〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉

同誌も、次号で7年になります。創刊は2014年8月でした。速いものです。まだまだ認知度も低く、採算点にも達していませんが、われわれはたとえ「便所紙」を使ってでも発行を継続する決意です。現在発行部数は1万部(実売ではない!)ですが、何としてでもこれを維持していければ、と念じています。

われわれにバックはいません。われわれのスポンサーは読者の皆様方です! 定期購読(直接鹿砦社、最寄りの書店、富士山マガジンサービスなどに)で『NO NUKES voice』の発行継続を支えてください!

今号から、伝説となりつつある大飯原発、高浜原発の運転差止や再稼働差止の判決(決定)を下された樋口英明さんも「応援団」に加わっていただきました。他にも小出裕章さんらが「応援団」として支えてくださっています。

※以下、《巻頭言》NO NUKES voice Vol.28 発行にあたってを転載します。

 世の中には、私たち常人には絶対にかなわない高潔な人たちがおられます。本誌を創刊して以来もうすぐ七年になりますが、この過程でそうした人たちに少なからず出会ってきました。小出裕章さん、脱原発経産省前テントの渕上太郎さん(故人)、元裁判官で弁護士の井戸謙一さん……お名前を出したらキリがありませんので、これぐらいにしておきますが、最近知り合った方では元裁判官の樋口英明さんです。

 樋口さんは、ご存知の通り福井地裁裁判長時代の2014年に大飯原発3、4号機の運転差止判決、次いで翌2015年に高浜原発3、4号機の再稼働差止仮処分決定を下したことで有名です。ほとんどの裁判官は、国の路線に反する、こうした判断を出せば、その人生に大きな不利益を蒙ることに怯み住民敗訴の判断をするのに、みずからの意志と信念を貫く――心から尊敬いたします。

 本誌vol.26で、その樋口さんと、小出裕章さん、水戸喜世子さんとの鼎談は、労働者の町=大阪・釜ヶ崎で小さな食堂を営みながら反原発や冤罪問題などに取り組む尾﨑美代子さんの企画で実現したものです。尾﨑さんの活動も私たちには真似できませんが、くだんの鼎談は、現在の反(脱)原発運動の現況や今後の指針を示す画期的なものでした。

 樋口さんには、今号に於いてもご登場いただき、さらには巻末の「応援団」にも名を連ねていただきましたが、巻末「応援団」の錚々たる顔ぶれに本誌の、雑誌としての主張や雰囲気が垣間見れると思います。

 ありていな物言いですが、頑固な志を持って頑張っておられる方々ばかりです。本誌は、こうした方々と強い絆を持ち、さらに日々各地で粘り強い運動を持続されている無名・無数の方々と共に、どのような困難にあっても継続していく決意を固める者です。

「豊かな国土とそこに国民が根を下して生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」(大飯原発運転差止判決より)

2021年6月
NO NUKES voice 編集委員会

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『NO NUKES voice』Vol.28
紙の爆弾2021年7月号増刊 2021年6月11日発行

[グラビア]「樋口理論」で闘う最強布陣の「宗教者核燃裁判」に注目を!
コロナ禍の反原発闘争

総力特集 〈当たり前の理論〉で実現させる〈原発なき社会〉


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樋口英明さん(元裁判官/元福井地裁裁判長)
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新・悪書追放シリーズ 第二弾
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山田悦子の語る世界〈12〉
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コロナ下でも自粛・萎縮せず-原発NO! 北海道から九州まで全国各地の闘い・方向
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《東京電力》小山芳樹さん(たんぽぽ舎ボランティア)、柳田 真さん(たんぽぽ舎共同代表)
《関西電力》木原壯林さん(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《四国電力》秦 左子さん(伊方から原発をなくす会)
《九州電力》杉原 洋さん(ストップ川内原発 ! 3・11鹿児島実行委員会事務局長)
《トリチウム》柳田 真さん(たんぽぽ舎共同代表/再稼働阻止全国ネットワーク)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク、経産省前テントひろば)
《反原発自治体》けしば誠一さん(杉並区議/反原発自治体議員・市民連盟事務局次長)
《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)

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「避難の協同センター」事務局長の瀬戸大作さんは2019年6月に埼玉県川越市内で行われた講演会で、こんな想いを口にしている。

「僕が貧困問題に取り組んでいて、一番嫌いな言葉が『自立』。原発事故から8年経ったのだから避難者の人たちもそろそろ自立してください、と自立を強制している。国家公務員宿舎からの追い出しはまさにその典型。自立をして出て行けという事。この事を〝加害者〟である国や東電が言うのは絶対に許せない。福島県庁の担当者もこの話ばかりします」

一方的に期限を決めての自立強制。なぜ避難者は避難したのか。国も電力会社も「絶対に壊れない」と言い続けた原発が爆発し、放射性物質が拡散されたからだ。生活圏に被曝リスクが入り込んで来たからだ。それをなぜ、〝加害者〟側に止められなければいけないのか。行政ばかりではない。立憲民主党系の福島県議でさえ「そろそろ戻ってきたらどうか」と口にするほどなのだ。

郡山市から静岡県内に避難し「避難の協同センター」世話人の1人である長谷川克己さんは2018年5月、衆議院議員会館で行われた政府交渉の席上、こんな言葉を口にしている。

「私は避難後に収入が少しだけ増えたので、住宅無償提供打ち切り後に始まった福島県の家賃補助制度を利用することが出来ない。それでも生きていかなければならない。2人の子どもたちを路頭に迷わすわけにはいかない。この流れに飲みこまれるわけにはいかないと必死に生きているし、自分なりのやり方で抜け出そうとしている。でも周囲を見たときに、本当にこれで大丈夫なのか、みんなちゃんと濁流から抜け出せるのかと思う。結果的に抜け出せた側に立って『公平性を保つ』と言うのは、それは違うと思う。私は私のやり方で、目の前の子どもたちを濁流の中から救い出さなくちゃいけないとやってきた。でも、はっと後ろを見た時に、そう出来ていない人もいる。『(生活再建を)している人もいるのだから、この人たちのように、あなた達もやらなくちゃ駄目ですよ』と言われてしまうのは心外だ」

自己責任社会などと言われるようになって久しい。区域外避難者も例外ではなく、インターネット上には「いつまでも支援を求めるな」、「早く自立しろ」などの罵詈雑言が並ぶ。長谷川さんは、それらの言葉を「ある意味正論、もっともだと思う。どこにあっても自立を目指すのがまともな大人の姿だから」と冷静に受け止めている。

「でも…」と長谷川さんは続ける。

「それでも、何らかの事情で自立出来ない避難者がいれば、救済の手を考えるのが本来、政府のするべきこと。加害責任者でもある『政府』が必ず果たすべき責任だ」

避難当事者はこれまで、何度も「追い出さないで」と訴えてきた。しかし、福島県の内堀知事は「自立しろ」との姿勢を貫いている

区域外避難者が常に直面して来た「自立の強制」と「孤立」の問題。それを指摘しているのは瀬戸さんたちだけではない。山形県山形市のNPO法人「やまがた育児サークルランド」の野口比呂美代表は、福島県社会福祉協議会が2012年11月に発行した情報誌「はあとふる・ふくしま」で次のように語っている。

「避難されてきたお母さんにはいくつかの共通点があります。①母子世帯が多い、②経済的な負担感が多い、③健康や先行きに不安が大きい、④孤立傾向にある」

「避難するにしてもしないにしても、福島のお母さんたちは本当に大変な選択を迫られています。私たちは皆さんの選択を尊重していきたいし、それを尊重できる場所が必要なのだと思います」

しかし、国も福島県も孤立する区域外避難者には目もくれず、2020年東京五輪に向かって「原発事故からの復興」演出に躍起になって来た。

「福島原発事故の責任を棚上げにしたまま『日本再生』を演出しようとする政府の方針は、被害者であるはずの原発避難者に対して、有形無形の圧力を加えた。避難者の中には、公的支援や賠償の打ち切りによって生活困窮者に転落していく当事者も少なくない。母子避難者はその典型だ。彼女たちは制度的支援を打ち切られ、社会的に『自己責任』のレッテルを貼られたまま孤立に追い込まれています」と瀬戸さん。

孤立の果てに、避難先で自ら命を絶った女性もいる。そういう事例を目の当たりにしているからこそ、瀬戸さんは国や福島県がただ相談を待っているのではなく、自ら出て行く『アウトリーチ』の必要性を強調する。

「離婚などで家族関係が壊れると相談相手がいなくなります。SOSを受けて僕らが電話をすると、まず言われるのが『こういう話を久しぶりに出来て良かった』という言葉。具体的な要望についてはあまり語らない。『話を聴いてくれる人がいてうれしかったです』、『また電話して良いですか』と。だから、行政にはアウトリーチをやって欲しい。アウトリーチをする中で、何度か会話をする中から本当の苦境が分かってくる」

復興庁は言う。「全国26カ所に相談拠点を設けています」。

しかし、避難者が必死に想いで相談しても、傾聴されて終わってしまうケースもある。行政の福祉部門につなぐだけのこともある。「『相談拠点』への相談件数がなぜ、少ないのか。福島県が避難者宅への個別訪問を行っても何故、大半の世帯が会おうとしないのか。その理由は、福島県からの説明は常に支援終了や縮小ありきで、避難者の事情を考慮できない一方的な説明だからだ」と瀬戸さん。。これでは、避難先での孤立は解消されない。

「確かに相談窓口は拠点化されていますが、とても事務的。そして、仕事を二つも抱えている避難者はなかなか行かれない。だから避難の協同センターに連絡が来る。やはりもう少し、ただ開いているのではなくて、あそこに行けば本当に相談に乗ってくれる、自分の悩みが話せる、本当にその場づくりをもう一度きちっと初めから考え直していただいた方がよいのではないか」

松本さんの願いはしかし、叶えられていない。「結局、〝自主避難者〟は根なし草のような存在なのだろう」という長谷川さんの言葉が重い(つづく)

都内にも原発避難者向けの相談拠点が設けられたが、どこも「待ち」の姿勢。瀬戸さんは行政の側から避難者にアプローチする「アウトリーチ」の必要性を訴え続けている

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』7月号

「避難の協同センター」が設立されたのは5年前の2016年7月12日。避難当事者や支援者、弁護士などが名を連ねた。長く貧困問題に取り組んでいる瀬戸大作さんは、事務局長として参議院議員会館で行われた記者会見に出席。「経済的、精神的に追い詰められて孤立化している避難当事者の皆さんと支援者が『共助の力』で支え合う。『身体を心を温める』支援から始めたい」と話した。本来は国や福島県がやるべきことを民間団体が担わなければいけない。それが区域外避難者支援の現実だった。設立に至る経緯を、瀬戸さんが後に講演会で語っている。

「2016年の5月に入り、自主避難者個々に一斉に福島県から通知文書が届いた。入居している応急仮設住宅の退去通告だった。都内では、都営住宅での個別説明が始まった。団地集会所での個別説明会が計6カ所で開かれた。約1時間、集会所に呼ばれて1人ずつ面談。避難者1人に福島県や東京都の担当者が4人、対応した」

まるで〝圧迫面接〟だった。ある女性は面談後、食事も睡眠もままならなくなり、40日にわたって入院してしまった。母子避難した後に離婚したので行政の区分では『母子避難』ではないので支援対象外。面談では、退去を前提に「改めて都営住宅に申し込まないのであれば、自ら民間住宅を借りて2年間じっくり考える時間をつくったらどうか」などと迫られたという。

しかし当時、この女性が入居していた都営住宅の倍率は160倍に達していた。そもそも、公営住宅はどこも入居希望者が多く、申し込んだところで当選する可能性は低い。国家公務員宿舎からの追い出し支障を起こされた避難者は、これまでに14回も都営住宅の抽選に外れている。それでも、とにかく区域外避難者を追い出そうと福島県は動いていた。

「避難の協同センター」が設立されたのは2016年7月。5年経った現在も、孤立と困窮から原発避難者を救おうと奔走している

瀬戸さんたちの動きも早かった。都営住宅での「個別相談会」で退去を通告され、避難者一人一人が精神的に追い込まれている状況を知り、避難者や支援者有志が急きょ「避難の協同センター準備会」を立ち上げた。同時に相談ダイヤルを開設。別の都営アパート集会所でチラシを配り、何人もの避難当事者と話したという。

「多くの区域外避難者たちが『自主避難者も賠償をもらっているんだろ?いつまで甘えているんだよ』という世間の偏見と中傷の中、東京の片隅で避難生活を送っていた事に気付いた」

瀬戸さんは、事務局長として政府交渉や福島県との交渉に参加するばかりでなく、24時間365日携帯電話に寄せられるSOSに対応し、車を走らせた。時には宿泊費や当座の生活費を手渡すこともある。生活保護申請にも何度も同行した。

「避難者の方々は、様々な公的支援制度について詳しく知らない。自分が置かれた状態であればどういう支援を受けられるのか、分かるはずがない。単独で行政窓口に行って『生活に困っているんです』と言った時、窓口の人は生活困窮者の制度を念頭に置いて対応するから『あなた、車持っていますね。福島には土地がありますね。それならば保護は出来ません』と、まず断られる」。

国や福島県が本当に「避難者一人一人に丁寧に対応」しているのなら、瀬戸さんたちの出番は少ないはずだ。しかし現実には、瀬戸さんの携帯電話が鳴らない日はない。

「寄せられるSOSは、住まいの相談から生活困窮の相談に内容が変化していった。ただでさえ母子世帯の暮らしは厳しい事が分かっていながら一律に住宅無償提供を打ち切り、生活支援策を講じなかった。国も福島県も『一人一人に寄り添う』と言う。寄り添うならなぜ、これまで出会った母子避難のお母さんが『いのちのSOS』を発するのだろう。なぜ放置されているのだろうか」

それは、「寄り添う」だの「ていねい」だのという美辞麗句と真逆の施策が展開されてきたからだ。

「左手で執拗に退去を迫り、『時期が来たら訴えるぞ』と拳を振り上げ、右手では『個別に相談に応じます。住まい相談に応じます』などと振る舞う福島県に、いったい誰が本音で相談出来るだろうか。経済的に厳しいと嘆く避難者に容赦なく家賃2倍請求をし、転居費支援も一切しない。住宅相談にしても、不動産業者につないで『あとは直接、業者に相談してください』で終わり。だから新しい住まいが決まらない。私たちは転居費が不足している避難者への給付金補助、保証人代行もしっかり行っています」

福島県との話し合いでは毎回、厳しい視線を送る瀬戸大作さん

世話人の1人で、自身も田村市から都内に避難した熊本美彌子さんも、2018年7月11日に開かれた参議院の東日本大震災復興特別委員会でセンターに寄せられるSOSの深刻さを述べている。

「川崎市内の雇用促進住宅に入居していた40代の男性は、体を壊して仕事ができない状態でいるときに、『もう住宅の提供は打切りだ』、『出ていけ』と言われた。雇用促進住宅というのは、家賃の3倍の収入がなければ継続入居ができない。とても困って、出ろ出ろと言われるから男性は退去した。退去したけれども職がない、働けない。それで所持金が1000円ぐらいになって、どうしていいか分からないとセンターに相談があった」

2018年7月11日には、「避難の協同センター」として、①区域外避難者が安心して生活できる『居住の保障』、②民間賃貸家賃補助の継続、③希望する避難者を公営住宅特定入居の対象とする(区域外避難者を対象に加える)、④安心して生活できる『居住の保障』が実現するまで国家公務員宿舎の継続居住期間の延長(住まいの確保の制度的保障)の4項目を提起したが、政策に加えられることはなかった。

「そもそも日本の居住政策には、住まいは基本的人権として保障するという考え方が欠けている」と瀬戸さん。2019年1月には、「原発事故被害で苦しみ、家族と自らを守るために避難してきた皆さんの身体と心を少しずつ温める事もせずに、この国は自立を強制し、身体をまた冷えさせている。私たちは『身体と心を温め合う社会』づくりに向けて、少しずつでも活動を続けたい」と語っている。「自立の強制」に抗いながら、今日も奔走している(つづく)

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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5月14日、福島地裁で2件の〝追い出し訴訟〟の口頭弁論が行われた。被告は福島県から区域外避難(いわゆる自主避難)し、国家公民宿舎に入居する福島県民。これで4世帯すべての審理が始まった。人数も生活実態も把握されないまま10年が経った区域外避難者。4年前に住宅の無償提供が打ち切られてから切り捨てが加速している。間もなく設立5年を迎える「避難の協同センター」の活動を中心に、原発事故後の区域外避難者の置かれた状況を確認しておきたい。

2020年9月17日、菅義偉政権の誕生とともに就任した平沢勝栄復興大臣もまた、就任会見で歴代大臣と同じ言葉を何度も口にした。

「被災地に寄り添って、各省庁の縦割りを排して、現場主義に徹して福島の本格的な再生再興、東北の再生再興に取り組んでほしいと、こういうことでございました」

今年3月30日の定例会見でも「私自身が先頭に立って現場主義を徹底し、被災地に寄り添いながら1日も早い復興に全力で取り組んでいきたい」と語っている。前大臣の田中和徳氏も「現場主義」と「被災者に寄り添う」を盛んに強調していた。歴代大臣は皆、判を押したように役人の用意したペーパーを読み上げた。

国だけではない。福島県の担当者も、事あるごとに「内堀(雅雄)知事からは、避難者一人一人の個別の事情をお伺いし丁寧に対応していくよう、常日頃から言われております」と口にしている。では、国や福島県に「寄り添われた」と考える原発避難者はいるだろうか。

2017年5月25日、衆議院の「東日本大震災復興特別委員会」に参考人として招かれた松本徳子さん(「避難の協同センター」代表世話人、福島県郡山市から神奈川県に避難)は、こんな言葉で避難者の思いを代弁した。

「口をそろえて『避難者に寄り添って』など、全て嘘でした。今思えば、私たちは行政、国の言葉を信じ、必ず私たちを守ってくれると夢を描いていました。しかし、それは夢でしかありませんでした。現在の政権を握っているトップは、私たちの苦しみなど何とも思っていないということです」

松本さんのように、被曝リスクを避けるために避難した人々は、避難元が政府の避難指示が出されなかった区域にあるということで〝自主避難者〟(区域外避難者)と呼ばれ、避難指示による強制避難者とは支援や賠償の点で大きく差がつけられた。

公的支援と言えば家賃6万円までの無償化と日本赤十字からの「家電6点セット」くらい。それとて、福島県は積極的に県民に知らせず、それどころか新規申し込み受付を2012年12月28日で一方的に打ち切ったのだ。松本さんは、子どもを被曝リスクから守ろうと保護者が立ち上げたグループのメーリングリストで偶然、神奈川県内の住まいを「みなし仮設住宅」として借りられると知り、動けたのだった。

「あの当時、災害救助法に基づく住宅提供を知り得た家族はどのくらいいたでしょう」と松本さん。実は長女は住宅支援を受けられていない。同じ原発避難でも、動くのに時間がかかったというだけで住まいも何もかもが「自力」。松本さんは国会議員たちを前にその現実を訴えた。

「2016年5月にようやく、家族3人で〝自力避難〟しました。長女夫婦も悩んだあげくの移住だったと思います。長女家族は住宅提供を受けていません。2012年12月末で住宅提供を締め切られていたためです。このように、住宅提供を受けられず避難をしている家族がいます」

唯一の公的支援であった住宅の無償提供もしかし「もはや災害救助法で言う『応急救護』の状況ではなくなった」として2017年3月末で終了。アパートなど民間賃貸住宅への住み替えを促し、収入要件に該当する世帯に限って2年間の家賃補助制度(初年度月額3万円、2年目同2万円)に移行した。国会でも県議会でも十分な議論がないまま、これも一方的に決められた。

福島県から〝追い出し訴訟〟を起こされている男性は、国家公務員宿舎から退去する意思はあるものの都営住宅に当たらない。14回も外れている

「福島原発かながわ訴訟」の原告団長を務める村田弘さん(南相馬市小高区から神奈川県に避難)は、区域外避難者切り捨てが加速した背景に「原発事故後10年にあたる2020年の東京五輪までに『原発事故を克服し、福島の復興を成し遂げた』と世界に宣言するという目標を国が掲げた」ことがあると指摘する。2019年12月20日に東京高裁で行われた控訴審の第1回口頭弁論では、自ら法廷で意見陳述した。

「避難指示が出されなかった地域については大人1人8万円、子ども・妊婦40万円という原子力損害賠償紛争審査会の『中間指針』に依拠した賠償のみで良しとされてきました。唯一、避難生活の支えになっていた住宅の無償提供も、福島県による災害救助法の適用終了宣言によって2017年3月末で打ち切られました」

「避難者は生活の基盤である住宅提供を打ち切られ、『帰還か自立かの二者択一』を迫られているのです。被害者・避難者は、原発事故による癒えない傷を抱えたまま、かさぶたを引き剥がし、塩をすりこむような非情な政策によって二重三重の被害を強いられ続けているのです」

打ち切りを4カ月後に控えた2016年11月30日には、福島市などから多くの人が避難した山形県米沢市の中川勝市長が福島県を訪れ、直接「住宅無償提供の継続」を求めたが、内堀知事は面会すらせず、担当者に要望書を受け取らせただけ。普段は煮え切らない発言の目立つ内堀知事も、区域外避難者切り捨てに関しては決断も動きも早かったのだった。

区域外避難者との面会を拒み続けている福島県の内堀雅雄知事。2017年には1年を表す漢字に「共」を選んだが、実際には避難者に寄り添ってなどいない

住宅無償提供が打ち切られた翌年の秋に実施された福島県知事選挙で圧勝し、再選されたが、公開質問状で「知事に就任した場合、区域外避難者への経済的支援を含む住宅支援の再開などを提案する意思がありますか」と問われると「ない」ときっぱりと答えた。「避難者の方々は、健康、仕事、教育、生活など様々な課題を抱えていると受け止めております」、「避難者一人一人の状況に応じた支援をしっかりしてまいります」とも答えていた。

だが、「一人一人の状況に応じた支援」はやがて「みなし仮設住宅からの追い出し」に姿を変えた。昨年3月には国家公務員住宅「東雲住宅」に入居する4世帯を相手取り、追い出し訴訟を福島地裁に起こした。松本さんの言うように「口をそろえて『避難者に寄り添って』など、全て嘘」だった。国も福島県も見放すばかりの事態に急きょ、民間支援団体がつくられた。「避難の協同センター」と名付けられた。(つづく)

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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新型コロナウイルスの感染拡大が収束しないなか、国は老朽原発再稼働に向け、着々と準備を進めてきた。福井県高浜1、2号機、美浜3号機再稼働について、地元美浜町、高浜町は昨年内に同意、今年に入り杉本知事は、それまで議論の前提としていた、関電が使用済み核燃料中間貯蔵候補地を県外に探すとした約束を棚上げし、県議会に再稼働に向けた議論を要請し始めた。

4月6日、政府が、一原発あたり25億円の交付金を提示したことを受け、県議会は23日の臨時議会で、再稼働を求める意見書を可決、再稼働反対や慎重な議論を求める請願59件を不採決とした。再稼働容認の判断を一任された杉本知事は、27日、梶山経産相や森本関電社長らとオンラインで面談、28日再稼働同意を表明するに至った。

関電は、高浜2号機について5月再稼働を目指していたが、コロナ禍の人員不足などで特定重大事故等対処施設の工事が遅れ、動かしても、工事設置期限の6月9日以降停止しなくてはならないため、当面の間再稼働を断念するとした。

一方、設置期限が10月25日の美浜3号機については、6月下旬の再稼働を目指すとして、5月20日燃料棒の装荷が行われることとなった。当日、現地美浜町には関西を中心に50名が集まり、緊急の抗議行動が行われた。

美浜原発へデモ(撮影=Kouji Nakazawa)

美浜町役場前で発言する木原壯林さん

12時より美浜町役場前で始まった抗議集会で、木原壯林さんの発言。

「福島原発事故から10年たちましたが、未だに大勢の人たちが避難したままです。事故炉内部の詳細は未だ不明で、増え続ける汚染水は海に垂れ流されようとしています。原発は人類の手に負えないものでないことは明らかです。その原発が老朽化すれば、どれだけ危険か、よく御存じのことです。その美浜3号機に今日から燃料棒が装荷されます。
 美浜町や福井県はこの間、関電の事業本部長と会談していますが、美浜町の戸嶋町長は、競争入札をしない『特命受注』などの仕事をやるからと頼まれ再稼働に同意しました。
 杉本知事は、国から美浜原発に5年間で25億円の新たな交付金を貰ったと自慢気に再稼働に同意しました。全て金の亡者です。関電はそれよりもっと酷い亡者で、人々の安全・安心を蔑ろにして原発を動かそうとしている。
 3月18日の水戸地裁の判決でも明らかになったように、避難はとうてい無理です。美浜原発から28キロのところに琵琶湖があり、滋賀県、京都府、大阪府、岐阜県などの人たちは避難できないどころか、関西一円の人たちが放射能に汚染される可能性があります。
 今日はそういう意味でなんとしても燃料装荷に抗議し、6月下旬と言われる美浜原発再稼働に向け、反対の声をあげたいと思います。私たちがもし、ここで大きな行動をしなかったら、日本中の原発の60年運転を唯々諾々と許したことになります。
 日本の原発が60年超えて運転されることになれば、韓国もこれに見習うことになります。今日の闘いは、世界の原発を止める非常に重大な闘いであります。今日の闘いを出発にして、6・6大阪大集会を成功させ、なんとしても美浜原発を止めなければならないと考えます。

町内デモ(撮影=Kouji Nakazawa)

中嶌哲演さん

続いて、小浜市明通寺の中嶌哲演さんの発言。

「今朝、6、7時から美浜原発ゲート前で福井の仲間が抗議行動を行ってきました。今日は50名もの皆さんが関西から参加して下さり、本当に心から感謝申し上げたいと思います。
 昨年9月に美浜3号機、高浜1号機の安全対策工事が完了したとたん、国と関西電力は猛烈な攻勢を県議会、県知事にかけてきました。皆さんもつぶさに見ていただいた訳ですが、もう私は若狭、福井県民として憤ろしく悲しく情けなく、本当に恥ずかしい。関西の皆さんも、同じ感情を共有して頂いていると思いますが、しかし私たち若狭の人間にとっては、彼らの姿というのは半世紀前からあまり変わっていない。私には同じ光景をまた見てしまったという既視感があります。それも麻薬患者化している感があります。
 私はこれまで皆さんに『原発マネー・ファシズム』『国内植民地化された若狭』と訴えてきました。そういう抽象的な表現ではなかなかご理解できなかったかもしれませんが、今回の一連の美浜、高浜町議会、県議会、知事の情けない姿を見て頂いて、少しご理解頂いたのではないでしょうか。これは原発マネー・ファシズムに支配された側の姿です。
 きたる6月6日は、その原発マネー・ファシズム、国内植民地化を福井県に押し付けてきた支配者側の人たちに、どう鉄槌を加えていくのかが問われる集会になると思います。
 私たちは町議や県議、知事を恥ずかしく思っていますが、関西一円の皆さんも、関西電力がやっていることを恥ずかしがり、情けないと考え、なんとかこれを糺して頂きたいと思います。何故ならば、関電は株式会社で、筆頭株主は大阪市、第二か第三に神戸市が入っています。京都市はちょっとランク外ですが、そういう単なる純粋な民間企業ではなく、半官半民の株式会社である、その関電と国が二人三脚でこういうことを展開しています。
 そのことを6月6日に、関西の皆さんと認識を共有し、どういう闘いを展開し、最終的に原発ゼロに追い込んでいくかを一緒に考えていきたいと思います。まずその前哨戦として今日の闘いがあります。実行委員会の中でも『若狭の原発を考える会』の皆さんが、本当に地道に活動を重ねて、若狭と関西の架け橋を益々強く大きく作って頂いていることに心から感謝申し上げたいと思います。ありがとうございました。

美浜町役場(撮影=Kouji Nakazawa)

河本猛・美浜町町議

最後に美浜町町議の河本猛さんの連帯アピール。

「5月17日の全員協議会で関電から再稼働の工程が示されました。原発の安全性を高めるなら、老朽炉にこだわる必要はなく、新型炉の検討をしてもいいと思うんです。しかし、新型炉の検討をすると、美浜原発は活断層にぐるりと囲まれた敦賀半島に立地しているので、新型炉を作ろうとして地質調査などをすると、3次元モデルで地下構造を分析しなければなりません。
 現在は40年以上前の老朽原発が存在しているので3次元モデルで地下構造の分析はしておらず、最新の技術で地下構造を分析すれば、当時わからなかった破砕帯や活断層、地下構造が明らかになる。だから新型炉でやろうとしたら、活断層に囲まれたこの場所では絶対に原発はできません。
 老朽原発より新型の方が安全性は高いに決まっています。そういう議論をしないで老朽原発を動かそうとしている。安全なんて考えていないのです。古くなればなるほど、巨大なエネルギーを制御して運用するコンクリートと鉄の塊は危険になる。重要施設は設備を替えるといいながら、原子炉容器など取り替えができない場所もあるのでつぎはぎだらけの巨大な施設になる。
 安全は何も担保されていない。それなのに言葉だけは『安全・安全』と言って老朽原発を動かそうとしている。それは科学的に間違っていると、私や松下議員は主張し、議会でも再稼働をやめるように訴えています。しかし、町長も議会も原発推進派が多いので地元同意を覆すところまではいきませんが、原発に反対する皆さんの声は、私と松下議員で伝えております。 原発を止める方法はいろいろあると思います。あらゆる手段を講じて原発を止めたい。皆さんとともに一緒にがんばります。」

美浜3号機は6月23日にも再稼働されると報じられている。その前段として、6月6日、若狭の原発の最大の電力消費地・大阪で「老朽原発うごかすな!大集会in大阪」が開催される。多くの皆さんとともに「老朽原発うごかすな!」の声を上げていこう!

6月6日「老朽原発うごかすな!大集会in大阪」開催!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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