『紙の爆弾』も『NO NUKES voice』も、ほぼ毎回紹介記事を書かせていただいているが、提灯記事を書いても仕方がないので、すこしばかり批評を。なお、全体のコンテンツなどは、12月11日付の松岡代表の記事でお読みください。

 

『NO NUKES voice』Vol.26 《総力特集》2021年・大震災から10年 今こそ原点に還り〈原発なき社会〉の実現を

今号は、松岡利康&『NO NUKES voice』編集委員会有志の「ふたたび、さらば反原連! 反原連の『活動休止』について」と富岡幸一郎・板坂剛の対談「三島死後五〇年、核と大衆の今」がならび、ややきな臭い誌面になっている。くわえて、わたしの「追悼、中曽根康弘」、三上治の「政局もの」という具合に、反原発運動誌にしては暴露ものっぽい雰囲気だ。

運動誌の制約は、日時や場所が多少ちがっても、記事のテンションや論調がまったく同じになってしまうところにある。いまも出ている新左翼の機関紙を読めば一目瞭然だが、20年前の、いや30年も40年前の紙面とほとんど違いがない、意地のような「一貫性」がそこにある。これが運動誌の宿命であり、持続する運動の強さに担保されたものだ。

そのいっぽうでマンネリ化が避けられず、飽きられやすい誌面ともいえる。その意味では『NO NUKES voice』も、編集委員会の企画にかける苦労はひとしおではないだろう。

◆記事のおもしろさとは?

暴露雑誌も運動誌も、けっきょくはファクト(事実)の新鮮さ。あるいは解説のおもしろさ、言いかえれば文章のおもしろさだ。

たとえば新聞記事は事件の「事実」を挙げて、その「原因」「理由」を解説する。わかりやすさがその身上ということになる。したがって、事実ではない憶測や主張は極力ひかえられ、正確さが問われるのだ。新聞記事は、だから総じて面白くない。日々の情報をもとめる読者に向けて、見出しは公平性、解説はニュートラルなもの、一般的な社会常識に裏付けられたものが必要とされるのだ。

これに対して、週刊誌は見出しで誘う。新聞やネットニュースの速報性には敵わないが、事件を深堀することで読者の興味をあおる。そして文章においても、新聞記事とはぎゃくの方法を採ることになる。事実ではなく、憶測から入るのだ。事実ではなく、疑惑から入るのだ。文章構成をちょうど逆にしてしまえば、新聞記事と雑誌記事は似たようなものになる。

じっさいに、わたしが実話誌時代に先輩から教えられたことを紹介しておこう。ある事実をもとに、それが総理大臣の親しい人物の女性スキャンダルだったら、見出しは「驚愕の事実! 総理官邸で乱交パーティーか?」ということになる。女性スキャンダルにまみれた人物と総理の関係を書きたて、いかに総理の周辺にスキャンダラスな雰囲気があり、あたかも総理官邸でそのスキャンダルが起きたかのごとく、そしてそれが乱交パーティーではないかという噂をあおる。その噂は「情報筋」のものとされ、最後に事実(他誌の先行記事=多くの場合週刊誌)がそれを裏付ける。

わずかな煙で、あたかも大火災が起きたかのように書き立てるのだ。これをやったら新聞記者はクビになるが、実話誌の編集者(実話誌に記者などいません)は、その見出しの卓抜さをほめられる。もちろん嘘を書いているわけではない。

では、運動誌でそんなことをやってもいいのか、ということになる。ダメです。はったりの実話誌風の見出しは立てられませんし、噂だけで記事をつくるのは読者への裏切りになることでしょう。

だからといって、おもしろくないレポートを淡々と書いていれば良い、というわけでもない。とりわけ市民活動家の場合は、書くことに慣れてしまっているから、ぎゃくに文章を工夫しない癖がついている。できれば、わたしの実話誌崩れの悪文や板坂剛の破天荒な文章から、よいところだけ真似てほしいと思うこのごろだ。

それほど難しいことではない。たとえば「ところで」「じつは」「信じられないことだが」「あにはからんや」という反転導入で、読者を思いがけないところに連れてゆく。いつも読んでいる週刊誌のアンカーの手法を真似ればよいのだ。

◆反原連による大衆運動の放棄

記事の批評に入ろう。

松岡利康&『NO NUKES voice』編集委員会有志の反原連への批判、とくにその中途半端な活動停止宣言への批判は、いつもながら凄まじい。ひとつひとつが正論で、たとえばカネがなくなったから活動をやめるという彼らは、福島の人々の被災者をやめられない現実をどう考えるのか。あるいはなおざりな会計報告、警備警察との癒着という、市民運動にはあるまじき実態を、あますところなく暴露する。

これらのことは首都圏の運動世界では公然たる事実になっているが、全国の心ある反原発運動に取り組む人々に発信されるのは、非常にいいことであろう。少なくとも運動への批判、反批判は言論をつうじて行なわれるべきものであって、絶縁や義絶をもって関係を絶つことは、運動(対話)の放棄にほかならない。

松岡利康&『NO NUKES voice』編集委員会有志「ふたたび、さらば反原連! 反原連の『活動休止』について」(『NO NUKES voice』26号)

◆デマやガセこそが、仮説として研究を推進する

富岡浩一郎と板坂剛の対談「三島死後五十年、核と大衆の今」にある、25年ぶりの対談というのは、文中にあるとおり鈴木邦男をまじえたイベントいらいという意味である。

富岡幸一郎×板坂剛《対談》「三島死後五〇年、核と大衆の今」(『NO NUKES voice』26号)

 

三島由紀夫の割腹自殺を報じる1970年11月27日付けの夕刊フジ1面(板坂剛さん所蔵)

じつは当時、夏目書房から板坂剛が「極説・三島由紀夫」「真説・三島由紀夫」を上梓したことで、ロフトプラスワンでのイベントになったのである。板坂が日本刀を持参し、鈴木邦男の咽喉もとに突き付けて身動きさせないという、珍無類の鼎談になったものだ。

板坂は「噂の真相」誌でたびたび、三島由紀夫の記事を書いていたので、おもしろい! こいつはひとつ、本にしてみたら。というわけで、夏目社長とわたしが岡留安則さん(故人)に連絡先を訊き出し、初台にあったアルテフラメンコの事務所に板坂さん(このあたりは敬称で)を訪ねたのを憶えている。富岡さんはすでに関東学院大学の教授で、イベントそれ自体を引き締める役割だった。

今回の記事は、いまや鎌倉文学館の館長という栄えある役職にある富岡幸一郎が、三島研究においては独自の視角から、いわば暴露主義的な業績を積んできた板坂の投げかける警句に、やむをえず応じながらそれを諫めるという、妙味のあるものとなった。

たとえば、ノーベル賞作家川端康成の晩年には、いくつかの代筆説がある。在野の三島研究者・安藤武が唱えたものだが、「山の音」「古都」「千羽鶴」「眠れる美女」を代筆したのが、北条誠、澤野久雄、三島由紀夫だというのだ。当時、川端康成は睡眠薬中毒で、執筆どころではなかったと言われている。真相はどうなのだろうか?

注目すべきことに、いまや三島研究の権威ともいうべき富岡も「『古都』の最後はそうかもしれない」と、認めているのだ。ガセであれデマであれ、それが活字化されることで、本筋の研究者たちも目を皿にして「分析」したのであろう。それは真っ当な研究態度であり、作品研究とはそこまで踏み込むべきものである。あっぱれ!

わたしの「中曽根康弘・日本原子力政策の父の功罪」は、知識のある方ならご存じのことばかりだが、史料的に中曽根海軍主計少佐の従軍慰安所づくりは、ネトウヨの従軍慰安婦なかった論に対抗するネタとしてほしい。中曽根が原発計画を悔恨していたのも事実である。もって瞑目すべし。

富岡幸一郎さん(右)と板坂剛さん(左)(鎌倉文学館にて/撮影=大宮浩平)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

『NO NUKES voice』Vol.26 小出裕章さん×樋口英明さん×水戸喜世子さん《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

◎鹿砦社HPhttp://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000645

2012年6月、福島の原発事故後、初めて再稼働の是非を審議していた福井県おおい町議会で、議長(当時)が取材陣にコメントを求められた際、ふざけて「一言だけ……『あ』。」と答えたことがあった。議長はその後不謹慎だったと辞任したが、全国から注目される原発再稼働が、こんな人たちに決められているのかと驚いたことを覚えている。


◎[参考動画]一言だけ「あ」とコメントのおおい町議長辞任へ(ANN 2012年6月13日)

再稼働を決める原発立地の町議会、しかしそこには必死で止めようと闘う議員もいる。そのお一人、美浜町の松下照幸議員に、議会について、原発の立地する美浜町の今、そしてこれからについてお話を伺った。(聞き手・構成=尾崎美代子)

◆もんじゅの下請企業の元職員が議長を務める美浜町議会

美浜町議員の松下照幸さん

── 老朽原発の美浜3号機の再稼働にむけて美浜町議会はどう動いたのでしょうか?

松下 美浜町議会は議員が14名います。議長は元もんじゅの下請企業の職員、あと関電OBが一人、土木関係の仕事をしていた議員などがいます。みな行政とつながっています。2年前、僕が3期目の1年頃などは、僕が発言するとすごいヤジが飛びました。その後私の存在が認められたのか、ヤジは飛んでいません。

12月4日に大阪地裁判決がでましたが、12月3日に僕は一般質問で老朽原発である美浜3号機の再稼働には反対と訴えました。地域の人から「松下さん、よかったね。判決が出てからだと後追いと思われるが、出る前にやったので値打があるね」といわれました。各家庭にケーブルテレビが入っていて、議会の様子が放映されます。これが大きい。僕らも一般質問に力をいれて、何日もかけて原稿をつくります。

一般質問への返答は、敦賀に常駐する規制委員会の人と相談して書いているのではないかと推測していますよ。あとややこしい質問の返答は、関電と相談していると思いますね。12月議会は6人やって、僕と河本(猛)議員は1時間びっしり、時間オーバーするくらいやりました。議長もいつもは止めるんですが、今回は少しだけやらせてくれましたね。

雪降る中、再稼働反対を訴えて、美浜町役場前に集まった人びと(写真提供=橋田秀美さん)

◆行政とつながる業者・関係者たちが「再稼働推進」を請願する

── 再稼働推進の請願を出したのはどういう人たちですかね?

松下 原発利権や行政発注工事とつながる業者、観光協会や商工会、区長関係からの請願書を推進側は2本にまとめて出しました。反対側は10本ほどだしました。僕は中嶌哲演さん(小浜市の明通寺住職)、木原壯林さん(若狭の原発を考える会)、全国の議員連盟234人の方の請願、そして美浜3号機の件で規制委を訴えた名古屋地裁での裁判のものが1本。それらを紹介議員として請願ごとに説明しました。

共通点として老朽原発を動かすなということ、あとは関電のコンプライアンス、ガバナンス問題などです。規制委は原発を安全に動かす仕組みをつくるといいますが、名古屋地裁の裁判の内容をみると、かなり手抜きをしていることがわかります。基準地震動も過小評価しているし、圧力容器のデータの問題でも関電のいいなりで、基本となる原データの公開を頑なに拒んでいる。それを認めたうえで再稼働を容認しているわけで、今後大阪地裁の判決が名古屋の裁判にも影響していくと思います。規制委は安全を保証する組織ではなく、福島の事故前の原子力安全保安院とよく似た事態に陥っていると思います。

同上(写真提供=橋田秀美さん)

◆原発があることの不安と、なくなることへの不安

── 町全体は、不安だが再稼働するしかないという感じですか?

松下 いや、ぼくが町を回っている感じでは、原発があることの不安と、なくなることへの不安とが半々だと思うね。ただ、町民の皆さんも大阪地裁の判決には驚いたようですね。判決後、全員協議会で関電と規制委の説明会がありました。本当はそれ抜きに、9日の原子力発電特別委員会で採決の予定でしたが、前日に説明会があり、大阪地裁の被告・規制庁が、議員全員に判決の不当性を訴えていました。判決は本意ではないと。

僕らは、規制委が判断した内容には問題があるし、自分たちが決めたガイドを守らなかったから問題だと判決はいっているので、なぜそれをやらなかったのか?と質問しました。規制委員会は、平均値やバラつきについては検討しなかったが、その他の要因の部分はきちんと検討している。地裁判決はそれをみていないという答弁でした。

── しかし判決の効力は最終的な結論が出るまで発揮されませんね。

松下 彼らは裁判の正当性や是非が問題ではなく、再稼働を続けることが最大の関心ごとだと思う。そのために控訴する。だけど上訴しても、動かすことに関して一定の理由があれば差し止めも可能という判決が、伊方原発の最高裁判決で示されている。彼らは、上訴すれば何年かけても再稼働できるというのを狙っているが、こちら側にも別の方策があるということです。最高裁判決は覆すことができないから。こういう問題があるから、基準地震動の見直しやデータのばらつきの問題を見直さないと、大きな地震がきたときに破壊されてしまうと理論的にやっていく裁判になるといいですね。

12月9日美浜町議会原発特別委員会で、再稼働を求める請願2件が採択され、反対を求める請願10件が否決された。関電原子力事業本部へ向かうため、美浜駅に集まった人たち(写真提供=河本猛美浜町議)

◆「原発には先がない」と知っている地元企業関係者

── あと、使用済み燃料の置き場を県外へ作る問題も決まっておらず、そう簡単には再稼働はできないでしょうね。関電の原発マネー不正還流事件については町の人の反応は?

松下 美浜町は、「あれは高浜の問題で美浜は関係ない」と宣伝しています。美浜原発とつながる地域の大手土木会社が、森山元助役に月50万か払っていたそうです。町は「美浜は関係ないから調査もしない」と言うが、問題ないなら、調べて問題ないというのが筋だが、最初からやらないということは、やっぱり臭いものに蓋をしたいということの状況証拠になりますね。あと美浜には、森山さんのような、関電と直接交渉するようなボスはいなかった。

── 再稼働しないとなると、困る人は多いでしょうか?

松下 困る会社もあるが、ただ田舎は仕事がなくなってもクッションがあってね。僕ら団塊の世代も原発で働いていたが、仕事がなくなって会社が倒産しても、大きな問題にはならなかった。定検短縮などで単価がどんどん切り下げられてきた。ある末端の経営者が僕を探し出し「非常に厳しい」という内部告発をしてくれました。関電の秋山会長の頃ですが、そのあたりから単価が切り下げられ、地元企業もなかなか利益をだせない、そういう状況なのでみんな「原発は先がない」と知っていた。再稼働できなくて、相当ひどい反発があるかといえば、それはない。銀行も調査していますが、そんなに影響はないというようだったようです。マスコミは一部の「困った。困った」という業者は取り上げるが、それ以外は取り上げない。原発に入る業者は設備関係ですが、違う仕事を取りにいくなどしているようですね。

── 私は原発の再稼働には反対ですが、地元の人は困るだろうなと思っていましたが?

松下 もうみんな原発に先はないなと思っていますよ。昔と金のまわり方が違う、どんどん単価を下げている。定検短縮で入れる業者も絞られていく。昔はいい加減な会社も入れたが、被ばくしてなんぼの仕事なので、単純作業が多いからね。

── 私の住む釜ヶ崎から原発の仕事に行った人がいるはずですが、ほとんど聞かない。厳しい緘口令が敷かれているからですかね?

松下 僕らが町で原発の学習会をやったとき、原発の仕事をする知り合いが来てくれた。話のあと、彼が前に出て「自分たちはこういう風にして問題を隠した」と具体的な話をしてくれた。その後、彼は仕事を貰えなくなったからでしょうか、町から出ていきました。これは都会の人が考えているより、相当厳しいですよ。

── 今日はどうもありがとうございました。

美浜町議会は、12月9日、原子力発電所特別委員会で再稼働を求める区長会や推進団体らの請願2件を賛成6、反対1で採決、15日の本会議でも採決された。しかし町には「原発に先はない」と思う人たちが増えていることも事実。一部の人たちの利権のためだけに、末端の被ばく労働者に犠牲を強いて、危険な老朽原発を動かすことは許されない!!


◎[参考動画] 原発廃炉後の美浜町の未来を見つめて 松下照幸さんのお話を聞く会(CNIC 2013年12月13日)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

『NO NUKES voice』Vol.26《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか

『NO NUKES voice』Vol.26
紙の爆弾2021年1月号増刊
2020年12月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 2021年・大震災から10年
今こそ原点に還り〈原発なき社会〉の実現を!

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《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか
小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
樋口英明さん(元裁判官)
水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
[司会]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)

[インタビュー]なすびさん(被ばく労働を考えるネットワーク)
被ばく労働の実態を掘り起こす

[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
どの言葉を使うかから洗脳が始まってる件。「ALPS処理水」編

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
原発災害の実相を何も語り継がない  「伝承館」という空疎な空間

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈10〉 避難者の多様性を確認する(前編)

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈20〉五輪翼賛プロパガンダの正体と終焉

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
東電福島第一原発の汚染水「海洋放出」に反対する

[報告]松岡利康&『NO NUKES voice』編集委員会有志
ふたたび、さらば反原連! 反原連の「活動休止」について

[対談]富岡幸一郎さん(鎌倉文学館館長)×板坂剛さん(作家・舞踊家)
《対談》三島死後五〇年、核と大衆の今

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が放射能汚染水の海洋投棄と原発の解体、
再処理工場の稼働と放射性廃棄物の地層処分に反対する理由

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述家)
中曽根康弘・日本原子力政策の父の功罪

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
やがてかなしき政権交代

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
誑かされる大地・北海道
人類の大地を「糞垂れ島」畜生道に変えてしまった“穢れ倭人”は地獄に堕ちろ!

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈10〉人類はこのまま存在し続ける意義があるか否か(上)

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
原発反対行動が復活! コロナ下でも全国で努力!
《玄海原発》豊島耕一さん(「さよなら原発!佐賀連絡会」代表)
《伊方原発》秦 左子さん(伊方から原発をなくす会)
《高浜・美浜》けしば誠一さん(杉並区議会議員、反原発自治体議員・市民連盟事務局次長)
《規制委・環境省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京電力》佐々木敏彦さん(環境ネット福寿草)
《東海第二》小張佐恵子さん(彫刻家、いばらき未来会議、福島応援プロジェクト茨城事務局長)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団共同代表)
《福島第一》片岡輝美さん(これ以上海を汚すな!市民会議)
《地層処分》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関西電力》老朽原発うごかすな!実行委員会

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

『NO NUKES voice』Vol.26発行にあたって

本年は年頭から新型コロナに振り回された一年でした。いまだにとどまるところを知らない勢いです。

こうした中で、3・11から10年近く経ち必死で生きる福島現地の方々、意に反し故郷を遠く離れて暮らしておられる方々らの存在が忘れられようとしています。

今こそ Look back in anger ! (怒りを込めて振り返れ!) Don’t forget Fukushima ! と叫びたい気持ちです。皆様方には、なんとしてもこの師走を乗り切り無事に年を越していただきたいと願っています。

さて、本誌今号では、お馴染みの小出裕章さん、水戸喜世子さんに加え、かの歴史的な大飯原発再稼働差止め判決を下された樋口英明元裁判官の座談会を実現させることができました。くだんの判決同様、歴史的な座談会といえるでしょう。

「たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の流出である」(2014年5月21日、大飯原発再稼働差止め判決より。裁判長は樋口英明さん。本誌創刊号に判決要旨を掲載)

歴史に残る名判決です。本誌はこの精神を継承いたします。

皆様方、良い新年をお迎えください。そして3・11 10周年を共に笑顔で迎えましょう!

2020年12月11日 『NO NUKES voice』編集委員会

12月11日発売開始!『NO NUKES voice』Vol.26 《総力特集》2021年・大震災から10年 今こそ原点に還り〈原発なき社会〉の実現を

『NO NUKES voice』Vol.26
紙の爆弾2021年1月号増刊
2020年12月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 2021年・大震災から10年
今こそ原点に還り〈原発なき社会〉の実現を!

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《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか
小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
樋口英明さん(元裁判官)
水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
[司会]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)

[インタビュー]なすびさん(被ばく労働を考えるネットワーク)
被ばく労働の実態を掘り起こす

[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
どの言葉を使うかから洗脳が始まってる件。「ALPS処理水」編

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
原発災害の実相を何も語り継がない  「伝承館」という空疎な空間

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈10〉 避難者の多様性を確認する(前編)

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈20〉五輪翼賛プロパガンダの正体と終焉

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
東電福島第一原発の汚染水「海洋放出」に反対する

[報告]松岡利康&『NO NUKES voice』編集委員会有志
ふたたび、さらば反原連! 反原連の「活動休止」について

[対談]富岡幸一郎さん(鎌倉文学館館長)×板坂剛さん(作家・舞踊家)
《対談》三島死後五〇年、核と大衆の今

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が放射能汚染水の海洋投棄と原発の解体、
再処理工場の稼働と放射性廃棄物の地層処分に反対する理由

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述家)
中曽根康弘・日本原子力政策の父の功罪

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
やがてかなしき政権交代

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
誑かされる大地・北海道
人類の大地を「糞垂れ島」畜生道に変えてしまった“穢れ倭人”は地獄に堕ちろ!

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈10〉人類はこのまま存在し続ける意義があるか否か(上)

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
原発反対行動が復活! コロナ下でも全国で努力!
《玄海原発》豊島耕一さん(「さよなら原発!佐賀連絡会」代表)
《伊方原発》秦 左子さん(伊方から原発をなくす会)
《高浜・美浜》けしば誠一さん(杉並区議会議員、反原発自治体議員・市民連盟事務局次長)
《規制委・環境省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京電力》佐々木敏彦さん(環境ネット福寿草)
《東海第二》小張佐恵子さん(彫刻家、いばらき未来会議、福島応援プロジェクト茨城事務局長)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団共同代表)
《福島第一》片岡輝美さん(これ以上海を汚すな!市民会議)
《地層処分》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関西電力》老朽原発うごかすな!実行委員会

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◎鹿砦社HP http://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000645

12月4日、大阪地裁の森鍵一裁判長は、関西電力の大飯原発3、4号機(福井県おおい町)について「規制委の判断には不合理な点がある。審査すべき点をしておらず違法だ」として、国に設置許可の取り消しを命じる判決をくだした。

大阪地裁前の様子(写真提供/松尾和子さん)

この裁判は、2012年福井県など11府県の住民127人が、規制委が大飯原発3、4号機について、新規性基準に適合するとした判断に誤りがあるとして、設置許可の取り消すよう求めた行政訴訟である。

2011年東日本大震災にともなう福島第一原発事故の教訓から、原子力規制委員会は2013年、原発の過酷事故、地震、津波、テロなどへの対策により強い新規性基準をつくったが、これにもとづく設置変更許可を取り消す司法判断は初めてのことである。ただし、原発が即座に停止する仮処分の決定と違い、取り消しの効力は判決確定まで生じない。

◆争点化された原発の耐震性判断基準

裁判の主な争点は、関電が算定した原発の耐震性を判断する目安となる「基準地震動」(想定される地震の最大規模の揺れを数値化したもの)が妥当かどうか、これをもとに原発の設置を許可した規制委の判断が妥当かどうかであった。

英語のバナーを持つアイリーンさんと右端の背の高い弁護士が、私らの住民訴訟の武村二三夫弁護士。しかもこの画期的判決を下した森鍵裁判長は、住民訴訟の裁判長(写真提供/松尾和子さん)

関電は、規制委の審査ガイドによって明示された算定方法にそって、審査前700ガルとしていた基準地震動を856ガルに引き上げ、安全対策工事を行ってきた。その後の2017年5月、規制委は大飯原発3、4号機が新規制基準を満たすとして設置許可を出していた。

これに対して原告側は、関電や国が想定した揺れは、過去に国内外で発生した地震規模の平均値で決めていたものであり、平均値を上回る揺れが考慮されていないと主張。審査ガイドには、基準地震動を定めるにあたって、(過去の地震を参考にした)経験式から導かれる数値は「平均値としての地震規模を与えるものであることから、経験式が有するぱらつき(不確かさ)も考慮されている必要がある」と規定しているが、実際の審査ではこの「ぱらつき」は考慮されておらず、基準地震動は過小評価されて設定されていたとの主張である。

さらに大飯原発の敷地内の断層の長さなどを踏まえると、基準地震動は少なくとも1150ガルであるため、「合理性を欠く規制委の設置許可は取り消すべきだ」と主張していた。

大阪地裁前の様子(写真提供/松尾和子さん)

対して国側は「基準地震動は科学的な知見をふまえ、余裕をもって策定されている。数値は妥当で原発の安全性は担保されている」などと反論していた。

判決で森鍵裁判長は、関西電力は過去に起きた地震の平均値を用いて将来、起こりうる地震の規模を想定したが新しい規制基準は平均値を超える規模の地震が発生しうることを想定しなければならないとしており、「最大規模の地震の揺れである基準地震動を設定する際には数値を上乗せすべきかどうかを検討する必要があった」と指摘、規制委に対して「地震規模の数値を上乗せするは必要があるかどうか検討していない。看破しがたい過誤、欠落がある」と述べ、原発の設置許可を取り消した。

◆「国は自らつくったルールを無視したと、裁判所が指摘した意義は極めて大きい」(武村弁護士)

裁判後の記者会見で原告弁護団の武村二三夫弁護士は「国は自らつくったルールを無視したと、裁判所が指摘した意義は極めて大きい」と語った。画期的なこの判決は、今後全国の原発に適用されなければならないだろう。

判決後、原告団は声明で「原子力規制委員会はこの判決を踏まえて、すべての原発および原子力施設等について、地震規模(地震モーメント及びマグニチュード)の見直しを行うべきである」とし、とりわけ来年1月に再稼働が目論まれている老朽原発・美浜3号炉の耐震性について、「敷地のほぼ直下にあるC断層が現行でも993ガルをもたらすが、『ばらつき』の標準偏差を考慮しただけで1330ガルに跳ね上がる。老朽化に伴う諸問題を抱えながら、このような危険性が放置されてよいはずはない」と、再稼働を中止し、耐震性の見直しを行うべきであると訴えている。

地裁判決後の報告集会(写真提供/Takamichi Negishiさん)

◆明日12月9日福井県美浜町に到着するリレーデモ最終日行動にご参加を!

福井県に入り、のどかな若狭町を歩くリレーデモ隊(写真提供/橋田秀美さん)

11月23日、大阪市内を出発したリレーデモは、沿道で「老朽原発を動かすな」と訴え続けながら進み、明日9日福井県美浜町に到着する。午後13時美浜駅に集合し、市内をデモ行進したあと、美浜町役場前でアピール行動と町議会へ「老朽原発再稼働を認めるな」と申し入れを行う予定だ。老朽原発の再稼働を許さない闘いに注目していこう!

★リレーデモ最終日 12/9(水)の行動予定
13:00 美浜駅前集合 → 美浜町内デモ行進
→ 美浜町役場まえでアピール行動および美浜町長議会へ申入れ → 美浜町内デモ行進
→ 関西電力 原子力事業本部 包囲 抗議行動 16:00 現地解散 
のぼり、旗、パネル、鳴り物など持ってご参加ください

★リレーデモへご支援のお願い
郵便振替からのご入金
加入者名 : 老朽原発うごかすな!実行委員会
口座記号・番号:00990-4-334563
通信欄に「老朽原発うごかすな!行動へのカンパ」とお書きください

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

12月11日発売開始!『NO NUKES voice』Vol.26 《総力特集》2021年・大震災から10年 今こそ原点に還り〈原発なき社会〉の実現を

『NO NUKES voice』Vol.26
紙の爆弾2021年1月号増刊
2020年12月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 2021年・大震災から10年
今こそ原点に還り〈原発なき社会〉の実現を!

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《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか
小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
樋口英明さん(元裁判官)
水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
[司会]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)

[インタビュー]なすびさん(被ばく労働を考えるネットワーク)
被ばく労働の実態を掘り起こす

[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
どの言葉を使うかから洗脳が始まってる件。「ALPS処理水」編

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
原発災害の実相を何も語り継がない  「伝承館」という空疎な空間

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈10〉 避難者の多様性を確認する(前編)

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈20〉五輪翼賛プロパガンダの正体と終焉

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
東電福島第一原発の汚染水「海洋放出」に反対する

[報告]松岡利康&『NO NUKES voice』編集委員会有志
ふたたび、さらば反原連! 反原連の「活動休止」について

[対談]富岡幸一郎さん(鎌倉文学館館長)×板坂剛さん(作家・舞踊家)
《対談》三島死後五〇年、核と大衆の今

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が放射能汚染水の海洋投棄と原発の解体、
再処理工場の稼働と放射性廃棄物の地層処分に反対する理由

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述家)
中曽根康弘・日本原子力政策の父の功罪

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
やがてかなしき政権交代

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
誑かされる大地・北海道
人類の大地を「糞垂れ島」畜生道に変えてしまった“穢れ倭人”は地獄に堕ちろ!

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈10〉人類はこのまま存在し続ける意義があるか否か(上)

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
原発反対行動が復活! コロナ下でも全国で努力!
《玄海原発》豊島耕一さん(「さよなら原発!佐賀連絡会」代表)
《伊方原発》秦 左子さん(伊方から原発をなくす会)
《高浜・美浜》けしば誠一さん(杉並区議会議員、反原発自治体議員・市民連盟事務局次長)
《規制委・環境省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京電力》佐々木敏彦さん(環境ネット福寿草)
《東海第二》小張佐恵子さん(彫刻家、いばらき未来会議、福島応援プロジェクト茨城事務局長)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団共同代表)
《福島第一》片岡輝美さん(これ以上海を汚すな!市民会議)
《地層処分》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関西電力》老朽原発うごかすな!実行委員会

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関西電力は、運転開始から40年足った老朽原発3基について、来年1月美浜3号機、3月には高浜1号機の再稼働を目論み、準備を進めている。

福島県浪江町から兵庫に移住した菅野みずえさん(写真提供=EijiEtohさん)

3基については、すでに原子力規制委委員会の安全審査で最長で20年の延長運転が認められており、焦点は地元同意に移っている。

高浜町では、11月12日町議会の臨時本会議で、高浜原発1、2号機の再稼働を求める請願を賛成多数で採択したが、「立地地域の振興や原発の安全管理の徹底を求める」意見書を議決し、経産省などに提出、25日議会全員協議会で高浜原発1、2号機の再稼働について同意すると表明、野瀬豊町長に伝えられた。

一方、美浜町は、12月9日に原子力安全特別委員会を開き、11月30日開会の議会本会議の最終日(12月15日)に、美浜3号機の再稼動への同意を強行しようとしている。

この12月9日に向け、大阪市内から美浜町まで200キロのリレーデモを行い、沿道の住民たちに「危険な老朽原発動かすな」と訴えるとともに、ルート途中の自治体に申し入れを行っていく予定である。

11月23日、大阪市内の関西電力本社ビル前でリレーデモの出発式を兼ねた集会が開催され、約550人が参集、市民団体、労働組合、全国各地で闘う仲間、そして福島県浪江町から兵庫県に避難する菅野みずえさんからアピールがなされた。

その中から今回は、福井県地元からかけつけたお二人の発言をご紹介したい。

◆中嶌哲演さん(「原発に反対する福井県民会議」)

中嶌哲演さん(筆者撮影)

私は若狭と関西周辺の肩を結ぶ立場から、あまり皆さんが触れられていない2つの問題点に絞ってお話します。

1つは実質的に3基の老朽炉を止めていく上での問題です。昨年私は9月末から12日間断食抗議をしましたが、2つの目的をもっていました。1つは高浜1、2号機に2160億円、美浜3号機に1650円の巨費を投じて安全対策工事を強行していました。私はその工事の中止を求めました。当時工事の進捗率19%ないし20%に過ぎませんでした。一方、廃炉費用は高浜で450億円、美浜で490億円見込んでいますから、工事を中止して残った予算を廃炉の準備費用にまわすべきと訴えました。残念ながら工事は、コロナの影響のある今年のような様子を見せていませんでした。

コロナを通じて皆さんどうでしたか? 国民の命を守ること、そのために経済活動を控えなくてはいけなくなった、しかしそれによって生じる損失は、国の責任で補填するとなった。あれやこれやではなく、両方をむすびつけてやっていく、そういうことが国民の意識に浸透してきた。原発政策も同じではないですか? 原発を止めることによって、まず国民の命と安全を守る。しかしそれによって原子力ムラや地元の経済界が「経済が止めるのでは」と不安を抱える。しかしそうではないということを、昨年の断食の2つめの目的に掲げました。それは国会に上程されている「原発セロ法案」です。それを実質的に審議していけば、老朽炉を廃炉にすることなど実質的に審議していくなかで、様々な問題も十分解決できるという確信があったので、私は断食をやりました。当時すでに2000~3000人の人が高浜、美浜で働いていました。私が抗議の断食をやることが、彼らの生活の糧を奪うのではないかというジレンマを持ったわけですが、「ゼロ法案」の問題があるから私は確信をもって断食をしました。

2つめは、どんなに無茶なことでも横車を押して原子力ムラと行政はゴリ押しをしていました。地元高浜、美浜など立地自治体の議会の承認を得れば大丈夫ということでしゃにむになってやってきた。しかしその土俵の外におかれてきたのが私たち小浜市民や若狭町の自治体、嶺北の自治体です。知事には発言権はありますが。よもや関西の皆さんは全く土俵の外、単なる観客にすぎない。そういう土俵の外に除外された私たちが団結して迫っていく必要があると考えています。最後に私がずっと詠み続けてきた坂村真民の「あとから来る者のために」という詩を読み上げます。

あとからくる者のために
苦労をするのだ
我慢をするのだ
田を耕し
種を用意しておくのだ

あとからくる者のために
しんみんよ お前は詩を書いておくのだ
あとからくる者のために
山を川を海を きれいにしておくのだ

ああ あとからくる者のために
みなそれぞれの力を傾けるのだ
あとからあとから続いてくる
あの可愛い者たちのために
未来を受け継ぐ者たちのために
みな夫々自分で出来る何かをしてゆくのだ

山本雅彦さん(筆者撮影)

◆山本雅彦さん(「原発住民運動福井・嶺南センター/事務局長」)

報道されているように、美浜原発で関電の社員らがコロナに感染するという事態になっています。もし稼働している最中に運転員や機械などの保守にあたっている労働者の方がかかったら、原発は本当に安全に運転できるのか?もうこんな危険な綱渡りの運転はやめるべきではないか、そのことをまずお伝えしたいと思います

40年超えの老朽原発の危険性は皆さんが指摘するとおりです。しかし地元美浜・高浜町議会では、請願を採択するという形で同意しようとしています。まだ同意はしていません。これからもまだ止めることができます。

これまでの経過では、高浜町の商工会議所、自民党高浜支部が推進の請願をだし、これを採択するという形で再稼働を進めようとしています。高浜町議会に原子力政策委員会があり、ここで委員長を務めている元高浜町職員の松岡さんという方がいます。

山崎さんの話の途中「この関電です」のあとに。関電本社ビルに向かって「老朽原発うごかすな!」と訴える参加者(写真提供=EijiEtohさん)

彼は「私は再稼働の是非の議論はしたくない。高浜町に住む多くの人たちがどう思っているか、大方の人は賛成はしていない。また、私は継続審議をしたいといったが、関電の元社員である井上(井上順也)や小幡(小幡憲仁)議員らが『どうしても再稼働する。そしてその意見書をもって国にいき、経済的支援をしてもらうということで進められているのだから、絶対再稼働しないと困る』という圧力をかけてきたそうです。

松岡委員長は『それだったらあなたたちが意見書をつくればいい。私はやらない』と返事をしたそうです。その結果、高浜町の職員や関電の元社員の議員など少数の人たちによって意見書がまとめられ、再稼働の採択がなされたのです。こうしたことが、この間皆さんが抗議や要請行動をしてくださるなかでわかったことです。

皆さん、高浜町や美浜町の町民でさえ再稼働を認めていない、危険な原発は運転しないでと願っている。これに対して再稼働をしゃにむに進めようとしているのが、目の前の関西電力です!!

意見書を見ますと、高浜町の皆さんも本当に悩んでいるのがわかります。最後に再稼働をするにあたって、高浜町民が国民から非難されることがないようにということが書いてある。

再稼働に多くの国民が反対している。高浜町民の多くも止めて欲しいと願っている。賛成すれば国民に批判されるとわかっている。そういう再稼働は本当に止めにしなければいけません!皆さん、ともに頑張りましょう!

★リレーデモ最終日 12/9(水)の行動予定★
13:00 美浜駅前集合 → 美浜町内デモ行進
→ 美浜町役場まえでアピール行動および美浜町長議会へ申入れ → 美浜町内デモ行進
→ 関西電力 原子力事業本部 包囲 抗議行動 16:00 現地解散 
のぼり、旗、パネル、鳴り物など持ってご参加ください

★リレーデモへご支援のお願い★
郵便振替からのご入金
加入者名 : 老朽原発うごかすな!実行委員会
口座記号・番号:00990-4-334563
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▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

NO NUKES voice Vol.25

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

6期24年にわたって〝君臨〟した菅野典雄(かんの のりお)氏が勇退。元役場職員の杉岡誠(すぎおか まこと)氏が新たな村長に就任した飯舘村。原発事故発災から9年半が経ち、放射能汚染や被曝リスクに関する報道は激減。それを表だって口にする人も減った。その流れに抗うように空間線量率や土壌の放射能濃度を測り続けているのが伊藤延由(いとう のぶよし)さんだ。周囲から〝測定の鬼〟と一目置かれる伊藤さんは40代の杉岡村長に何を期待するのか。

「汚染や被曝リスクについて、役場はきちんと情報公開するべきです。われわれ、じじばばと比べると子どもは放射線に対する感受性が20倍も30倍も高いんですよ。そういう話を村民にきちんとして、その上で一人一人が判断するべきなんです。リスクについてきちんと説明して、そこから先は自己判断で良いと思います。だって、あそこで採ったイノハナは1万Bq/kg、サクラシメジは2万3000Bq/kgですよ。もちろん、キノコの種類によっても地形によっても土の種類によっても放射能濃度は異なりますが、それが原発事故から9年7カ月経った飯舘村の実情です」

杉岡村長が初登庁した10月27日朝、伊藤さんは村役場の駐車場で周囲を見渡しながらそう話した。

「新しい村長は放射能汚染と被曝リスクについてきちんと情報発信して欲しい」と期待する伊藤延由さん

震災・原発事故の発生以来、一貫して村政を担って来た菅野典雄氏はこれまで、「放射線に対する考え方は百人百様」と口では言いながら、被曝リスクに正面から向き合って来なかった。

一方で、「全村避難をさせられた我々は被害者。しかし、(加害者側にも)出来ない事はいっぱいある。加害者と被害者という立場だけでは物事は進まない」と公言。原発事故の加害当事者である国や東電についても「道路整備にお金を充てようとするなど、一生懸命に国は考えてくれた」、「東京電力さんは今日も駐車場の整理をしてくれている」(2017年1月の「いいたて村民ふれあい集会」での発言)と口にして来た。

月刊誌『自然と人間』(自然と人間社)2017年5月号に掲載されたインタビューでも、村の復興について「まず住民の被害者意識をどれだけ取り払うことができるか」、「『箱物行政』と批判したければいくらでも言ってください」、「国からも東電からもかなりのことをやってもらっています」と語っている。その時点での村の汚染や被曝リスクについては盛り込まれていなかった。

だからこそ、伊藤さんは「まずは情報公開だ」と語る。

「『放射能に対する考え方は100人いれば100通りある』は前村長の菅野典雄さんの言いぐさ。『伊藤さん、あんたが言っている事が全部正しいってわけじゃ無いんだからね』とも言われたよ。でも、だったら菅野さんが言うのも正しくないよね。要は、この放射能環境をどう見るかという事です。私自身が村で暮らしていて言うのも何だけど、本来、飯舘村には人が住んじゃいけないでしょ。『帰還困難区域の長泥を除染しないで避難指示解除する』という事だけがクローズアップされているけれど、じゃあ、他の19行政区は良いのかとなってしまう」

汚染や被曝リスクに向き合ってこなかった前村長の菅野典雄氏

飯舘村は2017年3月31日、全20行政区のうち長泥行政区を除く19行政区の避難指示が解除された。では「避難指示解除」イコール「被曝リスクゼロ」なのか。伊藤さんは疑問視している。

「長泥を除染しないで解除する、というのは逆の意味で全然問題無いんです。実は他の19行政区の土壌を測ると、汚染レベルは長泥と同じなんですよ。特に山の環境はね。だから飯舘村そのものが汚染されているんです。山を歩いてみてください。学校裏で採れたサクラシメジやイノハナの土を測ると9万Bq/kgですよ。19行政区の平均は4万2000Bq/kg。長泥はさすがに若干高くて4万7000Bq/kg。それくらいの差しか無いんですよ。だから飯舘村の放射能環境って本来、ものすごく悪いんです。今度の村長は『放射線防護の三原則についてはしっかり学んできました』と言っているので、きちんとやってくれると思って期待しています」

もちろん、前村長の言う通り、放射線による被曝リスクについての考え方は人それぞれ。そして、情報の出し方についても様々な考え方がある。ある村民は「俺はあんまりきっちりやってもらいたくねえ。あんまり情報公開されちゃうと、復興が止まっちまうもん。全然進まなくなるもん。悪い情報って本当に伝わりやすいからなあ」と苦笑した。それでも、伊藤さんは「村民の自己判断のためにも現状をきちんと発信するべきだ」と語る。

「『変な情報発信する事によって風評被害を招く』は内堀雅雄知事の決め台詞。『風評被害、風評被害』ってね。でも、やっぱり事実は事実としてきちんと情報公開をするというのが大前提ですよ。その上で『自生の山菜やキノコは食べないでください』、『食べてはいけない理由はこうですよ』と。杉岡村長には、そういう事を役場職員とか村議会議員に教育して欲しいんだ。これまでの村長は『私は放射能については勉強してませんから』と言っちゃう人だったから。だったら勉強しろよって思う。村民は放射能の被害を感じていないんですよ。色も形も匂いも無いから。法に基づいた情報公開をきちんとやって、どう判断するかという知識も住民に与えるというのが原発事故被災自治体の果たすべき責任だと思います。そこから先は自己判断。人それぞれで良いと思う。それすらやらないで、悪い事ばかり言われるから情報を出さないのは違うと思う」

村政を担う以上、被曝リスクばかり重視するわけにはいかない事も理解している。「もし杉岡村長が僕のような考えで進めたら村そのものが成り立たない」と伊藤さん。「ただ、看板などで被曝リスクについて注意喚起をする事は出来るでしょう。杉岡村長の言う『情報公開』の中にはそういうものも含まれると思いますよ」

杉岡村長は役場に初登庁した10月27日、筆者に次のように答えた。

「私は(日本大学理工学部物理学科で)物理学をやってきた人間なので、そこにもの(放射性物質)があるという事をきちんと認識をして、放射線防護の三原則(被曝時間の短縮、遮へい、線源との距離)がありますが、それを皆がきちんと知識として持ちながら、作物への吸収抑制なども知らないでやるのではなくて知った上で自分たちの努力を積み重ねていく事が必要だと考えています。もちろん情報はきちんと出します。もちろん情報公開します。情報を一方的に出すだけだと『どうすれば良いんだ』という話になりますので、情報はしっかり出すが、その情報の捉え方や対策方法なども一緒に発信していきたい」

今日も村の現実を測り続ける伊藤さん。新しい村長は放射能汚染の現実ときちんと向き合うのか。厳しい眼差しでみつめている。

新たに村長に就任した杉岡誠氏は、汚染や被曝リスクに関する情報発信を約束した

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

最新刊!『紙の爆弾』12月号!

NO NUKES voice Vol.25

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原発事故後も福島県双葉郡浪江町の「希望の牧場・ふくしま」で牛を飼い続けている吉沢正巳さんが10月26日夕、福島市の福島県庁や福島駅周辺で「海洋放出断固反対!」と怒りの声をあげた。浪江町には請戸漁港があり、吉沢さんは「汚染水を海に流されたら請戸の漁業はおしまいだ」と危機感を募らせる。県庁前では「内堀知事は国の言いなり。なぜ黙っているんだ」と激しい〝檄〟を飛ばしたが、当の内堀知事は相変わらず「国が国が」と主体性を発揮しないまま。のらりくらりと国の決定を待っている。

◆「知事は国の言いなりだ」

「浪江町の希望の牧場の宣伝カーです。浪江町には請戸漁港があります。福島第一原発からわずか6kmの距離です。汚染水を海に流されたら、請戸の漁業はもうおしまいです。海洋放出断固反対!絶対に認めるわけには参りません」

「内堀知事はいったい何をしているのか。何もはっきりした事を言おうとしません。意見表明をしようとしない。なぜ黙っているんだ。そんな事で福島県の漁業の発展を守る事が出来るだろうか。福島県の漁業を守るべき県知事としてのリーダーシップは発揮されないのではないでしょうか」

夕暮れの福島県庁に激しい〝檄〟が響いた。BGMは映画「ゴジラ」のテーマ曲と牛の鳴き声。庁舎を貫くような怒声が轟いた。

「佐藤栄佐久知事はかつて、プルサーマル計画や東電のトラブル隠しの際、しっかりと意見を表明したではありませんか。なぜ内堀知事は模様眺めなのか。なぜ黙っているんだ。そんな事で福島の海の安全を守る事が出来るだろうか。内堀知事は国の言いなり。リーダーシップを全く発揮出来ていない。そんな事で良いのだろうか。浪江町から言います。海洋放出断固反対!」

福島県庁前で内堀知事に「リーダーシップを発揮しろ」と檄を飛ばした吉沢さん

吉沢さんは福島駅東口から西口にも車を走らせ、原発汚染水の海洋放出反対を訴えた。

「国は27日にも汚染水の海洋放出決定を発表しようとしていましたが、福島県民大勢の反対の声に押されて発表出来ませんでした。当然です。汚染水の海洋放出絶対反対!福島の未来、福島の海を皆で守って行きましょう。漁師の皆さんは不安な気持ちでいっぱいです。福島県民は納得などしていません。なのに、国は強引に海に流そうとしております。とんでもない被害、とんでもない迷惑。今こそ力をこめて反対の声を福島から全国に向けて起こして行こうではありませんか」

「請戸の魚がまた、基準値を超える放射能にまみれた状態で売れなくなる。10年におよぶ私たちの苦労、努力はいったい何だったのでしょう。薄めれば良い?ふざけるなですよ。薄めたって様々な放射性物質は残っています。それは魚に影響をおよぼす。食物連鎖の結果、それは私たちの食卓に上がるのです。海洋放出断固反対!」

吉沢さんは福島駅周辺でも「原発汚染水の海洋放出反対」を訴えた

◆「当事者である国や東電が~」

しかし、当の内堀知事は相変わらず「国が国が」と繰り返すばかりだ。

「先週の政府会合において報告された主な意見としては、処理水の安全性に対する懸念や風評の影響、復興の遅れ、遅延、合意プロセスへの懸念が多くを占めていました。この結果は、処理水についての情報が十分伝わっていない事や風評対策が具体的に示されていない事が主な要因であると考えております。国においては、これまで示された様々な意見や分析結果をふまえ、対応方針を慎重に検討していただきたいと考えております」

26日午前の定例会見。テレビユー福島の記者が「このままだと(海洋放出への賛成、反対で)対立や分断が生まれかねない。県として国との間に入って調整していく考えは無いのか。間に入って調整出来るのは県しか無い」と質したが、知事の答えはまさかの「ご意見として受け止めさせていただきます」だった。

「トリチウムを含む処理水の取り扱いについては、福島県内外で開催された『関係者からの意見を伺う場』において風評に対する懸念などの様々な意見が出されているとともに、福島第一原発の地元の立地町からは『保管継続による復興や住民帰還への影響』を危惧する意見が示されています。処理水の取り扱いにあたって最も重要な事は風評であります。国においては様々な意見や県内の実情を十分ふまえた上で、特に本県の農林水産業や観光業に影響を与える事が無いよう、対応方針を慎重に検討していただきたいと考えております」

原発避難者を主体的に救済しようとしないように、汚染水問題でも主体的に動こうとしない内堀知事。会見では、最後まで「国が~」だった。

「原発事故に伴う廃炉・汚染水対策あるいは中間貯蔵施設の問題、仮置き場設置の問題…。全てがひとつの解をシンプルに出す事が出来ない難しい問題だ、という事をこの9年半あまり経験しております。当事者である国と東京電力が責任をもって、この問題にしっかり取り組んでいただきたいと考えております」

当の内堀知事は相変わらず「国が国が」。定例会見でも意見表明していない

◆「国の〝御発信〟見極めたい」

これまで様々な団体が行った申し入れや緊急街宣でも、「知事は今声をあげないで、いつ声をあげるんですか?内堀知事は自信を持って、きちんと国に意見してください」、「内堀知事は福島県民の代表として、政府が処分方針を発表する前に海洋放出に反対だという県民の声を国に届けて欲しい。決まってしまってからでは、海に流されてしまってからでは取り返しがつかないんです」という声があがった。新地町の漁師は「内堀知事が『海洋放出反対』を表明していません。県民を守る立場の知事ですから、『海に流しては駄目だ』とはっきりと言ってもらいたいです」と怒りを口にしている。

これに対し、内堀知事は定例会見で「これまで福島県として国および東京電力に対し、トリチウムに関する正確な情報発信と具体的な風評対策の提示にしっかり取り組むよう求めて来たところであります。特に風評の関係では、本県の農林水産業、観光業に対する影響を与えないよう訴えている。県として今まで無言で、何も言わずに来たという事では全く無い」と反論した。

河北新報記者の質問に対しても「東電の廃炉・汚染水対策に福島県として様々な観点から幾度も幾度も意見を申し上げております。国、東京電力が当事者として、福島県を含め様々な意見を真摯に受け止めて慎重に対応していただきたいと考えております」と答えた。

一方で「汚染水対策の問題は、あしかけ6年ほど議論しております。原発敷地には一定の限界があって、タンクを保管し続ける事が難しい。そういう動機をもってこの議論がスタートしたと考えております」、「今後、政府としてどういった形で方向性を定めるのか。どういった形でそれを訴えていくのか。注視して参ります。今後、国としてどういった御発信をされるのか、その点をしっかりと見極めていきたい」とも語った内堀知事。当事県が陸上保管継続を否定し、国の発信に「御」を付けているようでは、吉沢さんが「リーダーシップを何ら発揮出来ていない」と怒るのも当然だ。

〝檄〟は知事室にも届いただろう。出発前、吉沢さんは「道行く人々から『うるせえぞ』って言われるくらいの音量で訴えないと駄目」と話していたが、歩道からは文句どころか「そーだ!」、「がんばれよ」との声が飛んだ。多くの県民が海洋放出に反対の声をあげている。次は内堀知事が動く番だ。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

NO NUKES voice Vol.25

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原発事故による高濃度汚染で帰還困難区域に指定された福島県双葉郡浪江町の津島地区。慰謝料支払いと原状回復を求めて国や東電と係争中の住民たち「ふるさと津島を映像に残す会」(以下、残す会)を中心につくったDVD「ふるさと津島 消えゆくふるさと 最後の7つの物語」の第1回自主上映会が10月18日、福島市内で行われた(「ふくしま市女性団体連絡協議会」主催)。11月には茨城県牛久市でも上映される予定だが、津島の住民たちはどんな想いで荒廃と家屋解体で壊れゆくふるさとを映像に残そうとしたのか。何を後世に伝えたいのか。DVDで語られた言葉のごく一部を紹介しながら、住民たちの想いに迫りたい。

福島市内で開かれたDVD「ふるさと津島」の第1回自主上映会

「あゝ津島……ふるさとを思い出すだけで、気づけば数時間過ぎているない」

窪田たい子さんの〝津島弁〟でのナレーションが、観る者を一気に自然豊かな津島地区へと導く。だがしかし、これは単に郷愁を誘うだけの映像では無い。9年半前の原発事故で住み慣れたふるさと、愛するふるさとを奪われ追われた人々の「証言集」なのだ。福島県が53億円もの国費で双葉町に建設した「伝承館」では触れられていない、ふるさと津島への想いと無念さが凝縮されている。

「私たちのふるさと津島はいま、山に飲み込まれようとしています。除染が始まり、家屋の解体も始まりました。なつかしい風景が失われてしまう前に、生きた証が消えてしまう前に、ふるさと最後の姿をここに残しておきたいと思います。これは、福島第一原発の事故で放射能に汚染され、帰る事の出来ないふるさと津島の物語です。どうぞ、おらたちの話を聴いてくれっかい?」

三瓶春江さんは「わが家は父と母の生きた爪痕だと思う」と表現した。

「原発事故によって放置され、朽ちていく。そんな姿であったとしても、自宅は壊したくない。でも、住めるわけでも無い。どれだけの想いで解体するのかという事を皆さんに知って欲しいのです。解体する前になぜ、DVDに残そうと考えたか。津島は私たちが生きてきた『歴史』なんです。解体してしまった後で『ここは津島だったんですよ』、『ここに家があったんですよ』と言ったとしても、誰も信用しません。建物があるからこそ、ここに家があって生活していたと伝えられる事だと私は思います。だから、解体する前に想いを、津島があったんだという歴史を刻む事が一番大事だと考えているんです。本当であれば原発事故前のきれいな状況で撮っていただいた後に、現状を撮ってもらえば一番良かったんだけど、まさか原発事故でこんな事になるとは思っていなかった……」

「私たちは国や東電に何一つ悪い事をしたわけではありません。自然の力(地震や津波)によって原発が破壊されたという事だけでは原発事故は語れません。私たちが住んでいたふるさとを一日も早く返していただきたいと希望しております」

会場を訪れた三瓶春江さんは「原発事故を自分の事として考え、危機感を持って欲しい」と訴えた

「残す会」会長の佐々木茂さんは、 「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」口頭弁論期日のたびに郡山駅前でマイクを握り、道行く人々に原発事故被害の大きさや裁判への理解を訴えてきた。「ふるさとを一日も早く返していただきたい」という切なる願いは、訴訟で「原状回復請求」という形で盛り込まれている。
石井ひろみさんは、横浜から津島に嫁いで来た。

「ここがふるさとになるんだ、ふるさとにしなきゃと思って生活していましたけど、やっぱりここが私のふるさとなんだと一番実感したのが、原発事故後の避難先に自衛隊音楽隊が慰問に来た時ですね。演奏会の最後に皆で『ふるさと』を歌いましょうとなったんですが、一小節目を歌ったら泣けて泣けて、それ以上歌えなくなってしまって…。津島が私にとってそれほどの存在になっていたんだなとつくづく実感しました」

「残念ですね本当に。何でこうなっちゃったのかね……。私はあきらめる事は出来ないですね。無かった事には出来ない。自分で取り戻せるんだったら明日にでも取り戻したいですけど、自分の手の届かない所に行ってしまった気がします」

原告団事務局長を務める武藤晴男さんは、傷みの激しい自宅で涙を拭った。「ふるさと喪失」などという言葉では表せない現実がある。ふるさとも平穏な日常も全てを奪い尽くした原発事故。しかも一方的に、突然に。挙げ句、法廷で「既に相応の賠償金を支払っただろう」、「新たな住まいを確保出来たのだから大人しくしろ」とでも言わんばかりに主張する国や東電の態度にも納得出来るはずが無い。

原告団長の今野秀則さんは、津島地区で「松本屋旅館」を経営していた。「私で4代目だから大切にしたいんだけど、果たして地域として再生出来るかどうか……」と不安を口にしている。

「空間と時間と人との関係。私はそういうものを大事にして、ここで生涯を閉じるというか未来につなげていくという気持ちでいたんですけど、それが突然、原発事故で遮られた。その悔しさがありますね。悔しさも何も、それが本来の自分の姿であるはずなのに……」

訴訟の原告団長を務める今野秀則さんも、涙ながらに悔しさを語っている

DVDは、窪田さんのこんな言葉で幕を閉じる。

「1日も早く家に帰りたい。自分が骨になる前に帰りたい。しかし、その願いは叶いそうにもねえなあ。津島はやがて、地図から消えてしまうのかなあ。ここが私たちのふるさと津島。100年後の子孫へ。この物語を贈ります。またな。さようなら」

DVD「ふるさと津島」は税込1000円で購入出来る

ハンカチで涙を拭いながら観た人もいた。しかし、津島の人々を〝他人事〟にしてはいけない。〝かわいそうな人たち〟と遠くで憐れんでいるだけではいけない。津島の人々が求めているのは同情では無い。だから、上映会場を訪れた三瓶春江さんは「自分の事として考えて欲しい」と力をこめて挨拶した。

「原発事故で私たちが避難を強いられた実情が全然報道されていません。『原発事故はもう終わった』とでも言うような状況です。でも、あの時もしも状況が違っていたら、中通りが私たちのようになっていたかもしれません。今、政府は原発再稼働を進めていますが、いつかはこういう事になり得るという危機感を皆さんに持っていただきたいのです。私たちの現状を観ていただく事が、世界に広めていただく事が被害者としての私たちの責務だと考えています。ぜひ多くの人に広めてください」

DVD「ふるさと津島 消えゆくふるさと 最後の7つの物語」はクラウドファンディングなどで寄せられた資金でつくった。税込1000円。自主上映会の基本料金は1日税込3万円。購入、自主上映いずれも「残す会」のホームページ(https://www.furusato-tsushima.com/)から申し込める。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

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原発事故後、燃料デブリを冷やす過程などで大量発生している〝汚染水〟。国はさっさと海に流してしまいたいと〝地ならし〟を進めており、地元紙・福島民友は10日付で「政府が処分方法を海洋放出に絞って最終調整している」と報道。内堀雅雄福島県知事が反対の姿勢を明確に打ち出さない中、今月中にも「海洋放出」が正式決定されるもようだ。

陸上保管を求める声が高まる中、いよいよ始まった海洋放出へのカウントダウン。「海」で商売をしている人々はどう考えているのか、いわき市小名浜で話を聴いた。

共通していたのは「賛成する人なんていねえ」の想い。陸上保管を求める声が高まる中、「海」で商売をしている人々に話を聴いた。そして、それを封印するかのように重くのしかかる「あきらめ」。口数少なに語られた本音にこそ、国は耳を傾けるべきだろう。

「汚染水? 良く分かんねえんだ」

いわき市小名浜にある「いわき・ら・ら・ミュウ」(いわき市観光物産センター)。魚介類市場でメヒカリなどを売っていた女性に声をかけると、苦笑交じりにそう話した。取材を始めるまでは、声をかければ誰もが汚染水の海洋放出に強く反対し、国や東電への怒りを口にするものだと考えていたが、実際は違った。

地元で水揚げされた〝常磐もの〟が売られている魚介類市場。汚染水の海洋放出について、働いている人々の多くが「賛成などしないが、何を言っても国がやってしまうだろう」とあきらめを口にした

地元で水揚げされた〝常磐もの〟が売られている魚介類市場。汚染水の海洋放出について、働いている人々の多くが「賛成などしないが、何を言っても国がやってしまうだろう」とあきらめを口にした

ある店の男性は、「汚染水を海に流しても良いのかって? まあ、海に流さなきゃ、あそこももう満杯だからね……。現実も見ないといけないし、なかなか簡単には良い悪いと言えないよね」とだけ言って口を閉ざした。別の男性は、俺に聞いてくれるなと言わんばかりに「ふふふ」と小さく笑うだけだった。

ただ、女性の言葉には続きがあった。「良く分かんねえんだ」の裏には、実際は「不安」や「不信感」が渦巻いていたのだ。

「汚染水をこれから流すって、そんな事言ったらさ、今までだって(放射性物質が)海の中にいんだっぺから。うん。だからここに並べてる魚介類だって、こんなに大きくなってんだっぺから。ほれ、すんごくおっきいから。今までだって流してるはずだよ、いろんなものをさ。うん。浜通りに原発がある以上は海がきれいなわけがねえんだから。昔から垂れ流されてんだよ」

そして、最後にこう言った。

「ここの市場の人間はみんな反対する?反対なんかしたってしょうがねえべ。いつかはあれなんだもん。そんな事言ったら。どうせ流すんでしょ」

「いわき・ら・ら・ミュウ」2階には、小学生たちの原発事故後のメッセージが展示されている。汚染水を流して再び海を汚すのか。子どもたちも注視している

別の店の男性は、「汚染水どころじゃないよ」と言い放った。

「震災からもうすぐ10年になるからね、最近は原発事故関連の取材は全然来なくなったね。いろんな事を言ったって(しょうがない)というのが私たちの率直な想いだし、当時の事を思い出したくないというのもあるからね。それより今は新型コロナウイルスのダメージが大きくて……。生き残るためにどうするべきかを考えるのに精一杯で、汚染水をどうするかなんて事を考えてる余裕が無いんです。それが正直なところですよ」

福島第一原発敷地内のタンクに溜め続けている汚染水。東電のサイトによると、貯蔵量は9月に123万トンを突破した。経済産業省は「2022年夏頃には満杯になる見込み」、「燃料デブリの取り出しや放射性廃棄物の一時保管などの廃炉作業を進めるには原発敷地内にこのままタンクを増やし続ける事は出来ない」などと早急な処分の必要性を強調。「海洋放出」を現実的な処分方法として〝地ならし〟を進めている。

一方、福島県内の7割もの市町村議会が海洋放出に反対もしくは慎重な検討を求める決議や意見書を可決。海洋放出への合意形成どころか、反対意見が高まっている。いわき市議会も6月議会で「多核種除去設備等処理水の処分決定に関する意見書」を可決。「丁寧な意見聴取」、「風評対策の拡充・強化」、「国民の理解と合意形成」を求める意見書を国に提出した。それらが出来るまでは「陸上保管を継続すること」も求めている。

しかし、市場では海洋放出に明確に反対する声は聞かれなかった。「賛成などしないが……」と奥歯にものがはさまった物言いばかりだった。なぜなのか。ある男性は、市場の人々の想いを代弁するようにこう話した。

「っていうか結局やっちゃうんでしょ。反対したところで、結局は上からの圧力でやっちゃうんでしょ、海に流しちゃうんでしょって俺は思う。うん。今まで全部そうだったから、特に安倍政権はね。皆あんまりはっきり『反対』って言わない?反対したってどうせやるんだから。みんなもそれを分かっているはず。だからはっきりと反対しないんだよ」

原発事故以降、「被災者の皆さんに寄り添う」という言葉を何度、耳にしたことか。しかし、進められてきたのは公共事業重点型の〝復興〟。五輪招致にまで原発事故が利用された。首相や大臣が来県しても、きれいな施設を訪れて食事するだけ。原発事故被害の実相を見ようとして来なかった。男性には強い不信感が募っていた。

「まあ、菅さんも安倍政権を引き継ぐって言ってるんだけど、俺たちが(海洋放出に)反対したって何したっても自民党がこういう政権だから。結局はやっちゃうと思うよ。関係者の話を聴くって言っても、そんなのはアリバイづくりでしょ。ただ単に『ご意見聴きますよ』というだけ。結論は決まってるんだから、単なるパフォーマンスなんだよ」

「確かに、汚染水をあのまま放置しておくわけにはいかないと思う。でも、海洋放出に賛成する人なんていねえよ。本当に流されちゃったら、うちらは商売になんねえもん。評判悪くなっぺ。宮城だって北茨城だって影響出ると思うよ。海はつながってるんだから。海外からも『日本の魚は買うな』って話にもなるでしょうよ。売り上げが落ちたら補償するって言うけど、そんなものは一定期間だけでしょ。それが過ぎたらうちらはお手上げだよ。北朝鮮の拉致問題だって、やるやるって言いながらやらない。〝やるやる詐欺〟。で、こっちは汚染水を海に流さないって言ったって結局は流すんだから〝流さない流さない詐欺〟だな」

男性は「原発と共存してきたっていう後ろめたさもある」とも言った。実は港の近くで漁網を編んでいた男性が、こんな厳しい事を言っていた。

「流すしかねえんだべ?何言ったって反対したって結局は流しちゃうんだろうしさ。それに漁師たちは賠償金貰ってっからな。船を出せない分の休業補償をもらってっから、この方がいっぞってなってんだ。船出さねえで金もらえんだから、こんな良い事ねえべ。漁連の偉い人は一応は『駄目だ』って言うさ。でも、金をもらってる漁師たちは反対するわけねえよ。補償してもらえば構わないんだから。銭もらってる人は黙ってる。海に出ねえで金もらえるんだから。そりゃ誰だって金にはかなわねえよ。そんなもんだ」

環境大臣だった石原伸晃氏は2014年6月、中間貯蔵施設用の土地買収に関し「最後は金目でしょ」と発言。謝罪と釈明に追われた。今回も札束で強引に丸め込むのだろうか。小名浜で耳にした「結局やっちゃうんでしょ。反対したところで海に流しちゃうんでしょ」が間もなく、現実のものになろうとしている。

国交省・小名浜港湾事務所の入り口には、大漁旗をイメージしたポスターが貼られていた。汚染水を海洋放出すれば、漁港には実害と風評被害の二重の荒波が直撃する

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

月刊『紙の爆弾』2020年11月号【特集】安倍政治という「負の遺産」他

NO NUKES voice Vol.25

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国も東電も、法廷では「100ミリシーベルト以下では被曝リスクは無い」との姿勢を貫いている。

「避難等の相当性の判断に関しては、まず科学的知見の到達点を踏まえる事が重要だと考えており、そうした到達点に立って考えれば、避難指示区域外の原告であっても命にかかわる重大な健康影響を否定出来ない。したがって社会通念上、避難等の相当性は十分に認められると考えております。それが一審原告らの基本的立場です」

「これに対して一審被告らの基本的立場は、『低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書』にあるように『放射線による発がんリスクの増加は、100ミリシーベルト以下の低線量被曝では他の要因による発がんリスクに隠れてしまうほど小さく、放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しい』。結論的には100ミリシーベルト以下の放射線の健康影響を実質的に認めない立場をとっております」

「低線量被曝の健康影響」という観点から避難の相当性について主張を続けている小賀坂徹弁護士

今年7月に広島地裁で言い渡された「黒い雨訴訟」の判決では、内部被曝について踏み込んだ判断がなされた。小賀坂徹弁護士は判決文を引用しながら、避難継続の相当性を判断するにあたっては内部被曝も考慮するべきだと主張した。

「内部被曝に関する重要な知見はいくつもありますが、今回引用したのは『黒い雨訴訟判決』です。より広範な範囲での被爆者手帳の交付を認めた判決ですが、内部被曝について次のように述べています。
『内部被曝には外部被曝と異なり、危険性が高いとする知見がある』
『比較的少量の放射性微粒子を摂取したにすぎない場合であっても重大な障害を引き起こすおそれがあるということができる』
『内部被曝については、低線量であっても細胞に長時間放射線が当たることで大きな障害が起こり得ること、低線量・長時間被曝の方が、一次に大量被曝に遭った場合より健康被害へのリスクが高い等の知見がある』
放射線の健康影響については、内部被曝を十分に考慮する事が非常に重要になってきます。その際にはモニタリングポストに示された空間線量のみを基準に影響を考えるのでは不十分で、外部被曝もそうですが、地表面や土壌からの影響を十分に踏まえなければいけません。より被曝の影響が大きいとされる子どもを中心に考えると、より地表に近い地点での放射線量が重要になってきます。これも疑い無いと思います。既に一審で証拠提出していますが、ほぼ全ての原告の避難元居住地の土壌が放射線管理区域の基準値(1平方メートルあたり4万ベクレル)を大幅に上回る結果となりました」

資料図版「外部被ばくと内部被ばく」。国が証拠として提出した資料でも、内部被曝やLNTモデルについて言及されている。一審原告たちの避難の相当性を判断するには、これらの要素は欠かせない

そして、陳述は「LNTモデル」へ移った。確率的影響にしきい値はなく、わずかな被曝によっても健康影響が生じるとする考え方をLNT(直線、しきい値なし)モデルと呼ぶ。

「放射線による『確率的影響』はガンや白血病など、DNAの損傷によって引き起こされるもので、一般的にはしきい値が無いもの。つまり、わずかな放射線量によっても発症すると考えられております。国の提出した「低線量放射線の人体影響を考察する」(放射線総合医学研究所)でも『100ミリシーベルト未満の低線量でも発生することは否定できない影響であり、しきい値はないと考えられている』とされています」

資料図版「LNTモデルをめぐる論争」。国が証拠として提出した資料でも、内部被曝やLNTモデルについて言及されている。一審原告たちの避難の相当性を判断するには、これらの要素は欠かせない

一審原告側が特に重要視しているのは累積被曝線量だ。避難しない、もしくは避難をやめて避難元に戻るという事は、その後何十年にもわたる被曝を強いられるという事だからだ。原告たちはそれを避けるために避難し、今も神奈川県内での避難生活を続けている。

「原告らが居住地を離れて避難をするという事に関しては、長い間そこに生活するうえでの被曝の健康影響を恐れて避難しているわけですので、本件における避難の相当性、避難継続の相当性を判断するにあたっては、一時期の被曝線量では無くて、生涯そこで生活した場合、避難せずに生活した場合の累積被曝線量を考える事が非常に重要です」

「原爆被爆者の疫学調査からは、50ミリシーベルトの被爆では、ガンによる過剰死亡は0・5%とされています。原告らが避難元の居住地で50年間生活すると仮定した場合、累積被曝線量は最も線量の低い原告であっても概ね50ミリシーベルトです。しかもこれは空間線量のみの話です。土壌汚染を考慮すれば、それ以上の健康影響があると考えられます。したがって、本件事故によって50ミリシーベルト以上の累積被曝をした者のうち、少なく見積もっても200人に1人の割合でガンで亡くなるという事になります」

わが子が「200人に1人」に該当しても構わないと考える親がどこにいるだろうか。

「原爆被爆者の疫学調査ではさらに、年齢が10歳下がると、リスクは約29%増加すると報告されています。わが子をこの『200人に1人』にしないために、事故による健康影響で死亡する事を避けるために避難を選択した事が社会通念上過剰反応と言えるかどうか。それが問われているのです。私たちはこれが極めて合理的な、人として当たり前の判断だと確信しております」

「かながわ訴訟」の一審原告のうち、避難指示区域外から避難した原告は23世帯。子どもを連れて避難したのは18世帯だが、うち7世帯は母子避難。事故以前から母子家庭だった5世帯を含めると、12世帯が母子のみの〝過酷避難〟を選択した事になる。

「区域外から避難を選択した原告らは、子どもの命や健康のために自ら家族がバラバラになるような母子避難を含めて選択せざるを得なかったのです。多くの人が自分が生まれ育った故郷でわが子を育てたいと思っていました。しかし、そうした場所にわが子をとどめておくことが出来るかどうか、その選択によって将来、後悔する事にならないかどうか、親としてわが子に何が出来るのか、何をするべきなのか。そうしたものすごい葛藤を経たうえで、やはりわが子の命を守らなければならないという事で避難を選択した。文字通り苦渋の選択をして避難生活を続けています」

2018年7月に一審が結審した際、横浜地裁で小賀坂弁護士はこう述べている。

「原発事故を今回限りのものとするため、二度と被害者を出さないためには、いったん原発事故が起きてしまった場合の損害の重大さ、深刻さ、そして被害回復の困難さというものを社会全体に刻み込まなければなりません。だからこそ、加害者である国や東電の責任を1ミリたりともあいまいにする事は出来ない。だからこそ、有形無形の損害を一つも漏らさず賠償の対象としなければならない。被告らの責任を明確にし、原告らの損害を完全に賠償する事、これらが一体とならなければ再発防止にはつながりません」

それには、汚染と被曝リスクの問題は避けて通れない。控訴審での意見陳述を次の言葉で締めくくった。

「放射線の健康影響に関しては、様々な議論がある事は承知しております。しかしながら、わずかでも過剰被曝をした場合に健康影響は避けられないというLNTモデルに関しての科学的合理性は明らかではないか。しかも、本件原告の場合はわずか1~2ミリシーベルトというレベルでは無くて、50~70ミリシーベルトという線量での被曝影響を考慮して避難しているわけですから、それが科学的知見を前提とした社会通念に照らして妥当だったかどうか。この事に関してはもう、議論の余地はありません。わが子の命を守るために、『200人に1人』にしないために避難を選択した原告たちの避難の選択に関しては十分な合理性があると考えますし、依然として放射線の汚染が続いています。(避難元に戻れないというのは)単なる不安では無くて、科学的根拠に照らした当然の合理的な判断だと考えています。以上です」

第4回口頭弁論は12月4日、14時から行われる。

◎福島原発かながわ訴訟「低線量被曝」訴え続ける小賀坂弁護士
【前編】「避難強いられた原因を忘れていませんか?」
【後編】「『わが子を200人に1人』にしないための避難は当然」

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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