◆再処理工場は稼働できない

再処理工場がいつか完成するとしても、今の状況では稼働することができない。それは、日本の国際公約「余剰プルトニウムを持たない」に抵触するからである。

日本のプルトニウム保有量は2022年末現在で45.1トン、そのうち英仏で再処理して分離したプルトニウムが35.9トンである。日本が保有できるプルトニウムは、現在の核燃料サイクルにおいてはMOX燃料として燃やすことが可能なプルトニウムに限られる。MOX燃料体に入れて原発で燃やすしか手段がないからだ。

MOX燃料の製造が可能なのは現時点ではフランスのオラノ社だけ。英国ではMOX加工ができない。日本も日本原燃がMOX燃料製造工場を建設中だが、こちらの審査もいつ終わるか見通しは立っていないし、仮に完工しても費用がフランスの数倍になる見通しで、経済性はないどころの話ではない。輸入MOX燃料でさえ今のウラン燃料体の10倍以上の価格になっているのに、その数倍の費用をかけて日本製MOX燃料体を作る意味がどこにあるというのだろうか。

今から10年先を見通しても、余剰プルトニウムを持たないとの公約を守るかぎりは再処理工場が完成してもプルトニウムを取り出すことはできない。まず英仏のプルトニウムをMOX燃料に加工して消費することが優先されるはずだ。

さらに問題なのは、2007年までに行われたアクティブ試験において発生した高レベル放射性廃棄物のガラス固化が終わっていないことである。346本のガラス固化体を製造した段階で止まり、211立方㍍の廃液は、審査が終わっていないためガラス固化できずそのまま。再処理工場が完工した場合、まずこれのガラス固化処理をしなければならない。

現状について国は「日本原燃から、再処理事業変更許可申請がなされ、現在、新規制基準に係る適合性審査を行っており、当該審査終了後に原子炉等規制法第46条の規定に基づく使用前検査を実施する段階において、高レベル廃液ガラス固化建屋ガラス溶融炉の性能を含めて、再処理施設の性能が技術上の基準に適合するものであること等を確認することとしている」としている(川田龍平参議院議員の質問主意書への回答より)。

しかし先行していた東海村の再処理工場でもガラス固化工程ではトラブル続きで、とうとう2系統あった設備がすべて止まってしまった。現在、2024年度末までに3系統目を建設することになっている。

同様に六ヶ所村再処理工場でも過去にガラス固化工程でトラブルが続いていた。構造はほとんど変わっていないので、再び止まる可能性は高いのである。

ガラス固化体の地層処分とは現在、再処理工場で作られる高レベル放射性廃棄物ガラス固化体をどこに埋め捨てするかが問題になっている。この「ガラス固化体」(ステンレス製容器で覆う構造)の埋め捨てのことを「地層処分」と呼んでいる。ガラス固化体は最初、最長50年間地上で管理する。現在その施設も六ヶ所村にあり、「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」という。これは廃棄物に含まれる放射性物質の崩壊熱と放射線量を減少させるためである。

英仏の再処理工場で再処理したガラス固化体の貯蔵は1995年から始まっているので、最初の固化体が50年を経過するのは2045年である。設備は鉄筋コンクリート造りで地下に設置されたシリンダー構造の容器が並ぶ。貯蔵が終わると深さ300㍍以深に埋め捨てる方針だが、計画では2~3キロ㍍四方の範囲にガラス固化体で4万本以上を埋めるとされる。

この処分地の調査・選定に約20年、建設作業と埋設に約70年、閉鎖するためには約10年かかるとされる。このガラス固化体の立地点では、人間の生活圏から10万年以上の時間、隔離できる条件を持っていなければならないとされる。

立地については、次の3段階で決める。第1段階が「文献調査」(机上調査)で、この調査に手を挙げただけで自治体には20億円の交付金が支給される。第2段階「概要調査」に進むには地域の意見を聞くとされているが、その方法は定められていないため、首長と議会の合意で進められる危険性が高い。

「概要調査」では地点を決めてボーリング調査を行う。4年ほどかかるとされ、交付金が70億円支給される。

第3段階は「精密調査」で地下施設での調査や試験を行い14年かかるとされる。この先の制度については未だ明確にはなっていない。いずれも地元の同意が必要だ。現在の状況は、文献調査に名乗りを上げたのが北海道寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村のみ。交付金は調査対象の隣接自治体にも支払われることになっているが、寿都町の隣接自治体の内7500万円を受け取ったのは岩内(いわない)町のみ。他に蘭越(らんこし)村、黒松内(くろまつない)町、島牧(しままき)村があるが、いずれも核抜き条例を制定するなどして受け取りを拒否した。神恵内村の周辺自治体では、泊(とまり)原発が立地する協和(きょうわ)町と泊村、そして古平(ふるびら)町が7500万円を受け取っているが、積丹(しゃこたん)町は核抜き条例を有して拒否している。

長崎県対馬市は、議会がわずか1票差で文献調査受け入れ請願を採択したが、市長が拒絶している。(つづく)


◎[参考動画]文献調査は「見通し立たない」“核のごみ”最終処分場への調査開始から2年 北海道寿都町のいま(2022/10/10)


◎[参考動画]【速報】長崎・対馬市長が会見 “核のゴミ”処分場文献調査「受け入れない」表明(2023/09/27)

◎山崎久隆 核のごみを巡る重大問題 日本で「地層処分」は不可能だ
〈1〉震災後も核燃料サイクルが残った
〈2〉再処理工場は稼働できない
〈3〉科学的根拠に乏しい経産省「科学的特性マップ」の異常さ
〈4〉放射性廃棄物「地層処分」を白紙にし、本当の議論を

本稿は『季節』2023年冬号掲載(2023年12月11日発売号)掲載の「核のごみを巡る重大問題 日本で『地層処分』は不可能だ」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

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紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫

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震災の後で日本の原発がすべて止まった。2012年5月のことだ。東日本大震災による東京電力(以下東電)福島第一原発事故で、原発の危険性、そして再びどこかの原発が過酷事故を起こしたら今度は国が滅亡するとの危険性を感じた当時の民主党政権は、「2030年代に脱原発を目指す」との政策を決定しようとした。


◎[参考動画]「2030年代原発ゼロ」決定 新設・増設一切認めず(2012/09/14)

しかし巨額の資金を投じて原発と核燃料サイクル事業を推進してきた原子力産業や原子力ムラ、核兵器保有技術を保有しておきたいとの一部政治家などの力で、脱原発政策は潰された。

かつて日本の核燃料サイクル政策にはウランサイクルとプルトニウムサイクルという2つの流れがあった。ウランサイクルはウラン燃料を採掘し、核燃料に加工して原発で燃やし、使用済燃料を再処理してプルトニウムとウランを抽出、これを使ってウラン・プルトニウム混合燃料(MOX燃料)を生産して、また原発で燃やすサイクルを指す。

一方、プルトニウムサイクルは再処理した後のプルトニウムを使って高速炉の燃料に加工し、高速増殖炉を動かしてプルトニウムを再生産するサイクルをいう。

日本はプルトニウムサイクル完成を目指して高速増殖炉「もんじゅ」と「常陽」を建設した。しかし「もんじゅ」は1995年にナトリウム漏洩火災事故を起こして無期限停止、その後廃炉になった。高速炉がなければプルトニウムサイクルは成立しないので、今ではウランサイクルのみの核燃料サイクルを目指している。

核燃料サイクルとは、ウラン採掘から高レベル放射性廃棄物を処分するまでの1連の工程を指したものである。ウランサイクルは鉱山から採掘されたウランを使って核兵器を作る工程だったが、核拡散防止条約(NPT)の下では核武装は原則として禁じられていること、平和利用と称して核兵器開発に転用可能な技術が多々あることで技術移転も厳しく規制されていて、世界で核燃料サイクルを保有する国は核武装国に限られている。

しかし日本だけは、現在も核燃料サイクルを機能させる政策を有している。すでに脱原発を達成したドイツは、以前は核燃料サイクルの完成を目指した時代があったが、今は廃棄物貯蔵施設とウラン濃縮プラントしか存在しない。

◆再処理工場は完成しない

核燃料サイクルのバックエンドとは、原発から再処理工場を経て放射性廃棄物の処分までを指す。使用済燃料の流れである。そのうち、日本国内で計画されている事業は核燃料再処理、MOX燃料製造、放射性廃棄物の貯蔵と処分である。

核燃料は再処理せず、燃料体のままで保管もできるし、処分もできる。実際に軍用ではなく商業再処理を行っている国は現在ではフランスしかない。したがって、米国や英国やドイツなどでも使用済燃料はそのまま貯蔵されている。

日本でもそのまま貯蔵するという選択も可能だが、核燃料は全量再処理し、プルトニウムはMOX燃料に、回収ウランは再利用、高レベル放射性廃棄物はガラス固化体に加工して地下300㍍に埋め捨てとの方針が、法律で決められている。

その中核施設が青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場だ。しかし、着工からすでに30年、1997年に完成する予定だったが、今の計画では「2024年度上半期」とされる。実際には、これまでの審査状況から、来年に終わるなど到底考えられない。審査会合では日本原燃が提出した申請書6万ページのうち約3100ページに、誤記や記載漏れがあったことが明らかになった。これでは何も進むはずがない。(つづく)

◎山崎久隆 核のごみを巡る重大問題 日本で「地層処分」は不可能だ
〈1〉震災後も核燃料サイクルが残った
〈2〉再処理工場は稼働できない
〈3〉科学的根拠に乏しい経産省「科学的特性マップ」の異常さ
〈4〉放射性廃棄物「地層処分」を白紙にし、本当の議論を

本稿は『季節』2023年冬号掲載(2023年12月11日発売号)掲載の「核のごみを巡る重大問題 日本で『地層処分』は不可能だ」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
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反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
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フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

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岸田原発推進に全国各地で反撃中!
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《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
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◆『グレタ たったひとりのストライキ』という本

グレタはその後も気候運動を続けている。

私は最近、書店で『グレタ たったひとりのストライキ』(海と月社)という本を見つけて購入し読んだ。この本はグレタの母親であるマレーナ・エルンマンが、グレタが学校ストライキを始めるまでの背景と家庭環境などについて書いた伝記である。スウェーデンでは2018年に、日本では2019年に出版された。この本の226ページ以降には、学校ストライキを始めたグレタが両親と交わした会話が以下のように紹介されている(下線引用者)。 

グレタはカーペットの上に座っていた。……

「それから、原子力について話す人たち」と彼女は続ける。「あの人たちは、原子力のことしか話題にしない。気候危機や環境危機なんて存在しないかのように、原子力のことだけしゃべりたいの。だから事実を知らない。もっとも基本的なことについても耳にしたことがないんだって。ただ、「じゃあ、原子力についてどう考えるのか? 」って言いたいだけ。そして、未来社会の問題を全部自分の手で解決したかのような笑みを浮かべる。だけど恐ろしいのは、多くの政治家も同じってこと。内心では、原子力ではもう解決できないって知っているのに、同じことを繰り返してる」

「科学者はどう言っているの?」と私が聞くと、スヴァンテが答えた。

「IPCCは、原子力は大きな包括的解決策の小さな部分にはなりうると言っている。でも、エネルギー問題は再生可能エネルギーでしか解決できないとも言っている。どっちにしても、決定するのは科学者の仕事じゃない。気候研究の科学者たちは、政治や現実の条件を考慮しない原子力に置き換えるなら、明日にでも何千もの発電所が必要になる。だけど、原子力発電所は完成までに10~15年はかかる。そんな事実は反映されてないんだ」……

「そう、私たちには新たな非化石燃料が膨大に必要。それも、いますぐ」とグレタは言った。「いちばん安くて早いベストの代替手段に投資する必要がある。それなのに、どうして建設に10年もかかるものに投資しなくちゃいけないの? 太陽光や風力を利用した発電所なら数ヵ月で完成するのに、どうして、どの会社も投資したくないほど費用のかかるものに投資しなくちゃいけないの? 太陽光や風力ならずっと安いし、しかも分単位でコストが下がっている。全然リスクがないものがほかにあるのに、どうしてリスクが高いものに投資しなくちゃならないんだろう? 既存の核廃棄物の最終処分の問題だって解決してないのに。それに、すべての化石燃料を原子力に置き換えるとしたら、今日から毎日ひとつずつ原子力発電所を完成しなくちゃ間に合わない。建設に必要なエンジニアを教育するだけでも100年単位の年月が必要なのに。だから原子力は実現可能な代替手段じゃない。そんなことはとっくにわかってる。なのに、どうしてその話ばかりする人たちがいるの? 私、ほんとうに怖い。政治家って、こんなこともわからないほど馬鹿なの? それとも、時間を無駄にしたいの? どっちがひどいことなのかわからないけど」

「原子力の問題は、多くの人たちにとって、すごく大きなシンボルなんだろうね」とスヴァンテが言い、アイランドキッチンのスツールに座った。「もし気候の話をしたくないんだったら、原子力の話題を持ちだすことだ。そうすれば、そこで話が止まってしまうから。原子力は、気候問題の解決を遅らせたい人たちにとって最良の友だ。自分もそうだったから、よくわかるよ。原子力発電を続けることはいい解決策だと、僕も以前は考えていた。それを完全に閉鎖しろと主張する環境活動家たちに対し、なんて後ろ向きなんだとうんざりしていた。人類は常に問題解決できるんだと、僕は信じたかったんだと思う。これまでだって、どんな解決策だって見つけてきたじゃないかってね。だから、現状の社会秩序を変える必要もないし、行きたい場所に旅行に行けばいいって。こっそり憧れていたレンジローバーも買えるって」……

君は原子力を話題にするのを絶対に避けたほうがいい。人々が完全な解決策について話さないのは、それに興味がないからだろう。5年や10年前だったら、また違ったかもしれない。そのころには、原子力発電の拡大は解決策の一部だという気運がまだあった。でも、べつの危機が起こってしまった

◆グレタの原発観

私はこの本を読んで、グレタさんに手紙を書いた時の自分の認識が誤りであったことに気付かされた。両親との会話の中で、グレタは「全然リスクがないものがほかにあるのに、どうしてリスクが高いものに投資しなくちゃならないんだろう? 既存の核廃棄物の最終処分の問題だって解決してないのに。……だから原子力は実現可能な代替手段じゃない。……私、ほんとうに怖い。」と言っている。

グレタに手紙を書いた時私は、彼女が原発の危険性や害悪についての認識が不十分なために原発を容認するような発言をしているのだと思っていた。しかし、この会話からは、グレタは原発のリスクも害悪も充分認識していることがうかがえる。

しかし父親のスヴァンテは「君は原子力を話題にするのを絶対に避けたほうがいい」とアドバイスする。その後に続く「人々が完全な解決策について話さないのは」以降の父親の発言は、何度読んでも意味がわからない。

彼が「別の危機が起こってしまった」と言っているのはもしかしたら福島原発事故のことを指しているのかもしれない。だとしても、そのことをもってなぜ「原子力を話題にするのを絶対に避けたほうがいい」ということになるのだろうか? そして彼は「原子力発電を続けることはいい解決策だと、僕も以前は考えていた」と言いながら、その考えがどう変わったのかについては具体的に何も語っていないのである。

両親との会話の中でグレタは「それから、原子力について話す人たち……は、原子力のことしか話題にしない。気候危機や環境危機なんて存在しないかのように、原子力のことだけしゃべりたいの。」と言っている。ここでのグレタのコメントは事実に反している。

グレタがここで「原子力について話す人たち」と言う対象が原発反対派のことか推進派のことか、あるいは両者を指しているのかは明確ではない。いずれにしても、原発推進勢力は「気候危機や環境危機なんて存在しないかのように、原子力のことだけ」話してきたわけではない。彼らは地球温暖化が世界的な共通認識になった1980年代以降1貫して、CO2を排出しない原発は温暖化対策に有効であり、気候危機対策のためにこそ原発が必要だと主張し続けてきたのである。グレタはなぜか、その重要な事実をオミットしている。

この本の読者の多くは、グレタは原発に反対だという印象を持つだろう。確かにグレタはこの本の中で原発に批判的な発言をしている。しかしグレタが本当に原発に反対であるなら、日本の一部の環境団体のように「原発にも化石燃料にも反対」と唱えるべきなのだが、彼女は運動の中では原発への反対は1切主張せず、もっぱら化石燃料反対を訴え続けている。彼女は理由不明な父親のアドバイスに忠実に従っているのだ。

2021年9月24日、グレタはドイツに乗り込み、「ドイツは気候変動の最大の悪者の一人だ」と演説した。ここでのグレタには、福島原発事故の教訓に学び脱原発を決めたドイツ政府の功績など眼中にないかのようである。

◆原発の「救世主」となったグレタ

こうして、グレタ・トゥーンベリは原子力発電の「救世主」となった。2011年の福島原発事故によって深刻な打撃を受け息をひそめていた原発推進勢力は、グレタが火をつけた気候運動によって反転攻勢の足掛かりをつかんだ。

グラスゴーでのCOP26開催中の2021年11月9日、フランスのマクロン大統領は「他国に依存せず、温室効果ガスも排出しない電源を確保していくため」福島原発事故以来ストップしていた原発の新設を再開する方針を発表した。

2022年1月1日、欧州委員会はEUタクソノミーに原発を含める方針を打ち出し、7月6日の欧州議会で最終決定した。韓国では2022年5月に発足した尹錫悦政権が、前政権の脱原発政策を転換し、脱炭素推進のためと称して原発回帰にかじを切った。

岸田政権はGX(グリーントランスフォーメーション)を推進して脱炭素社会を実現するという名目で、2023年5月12日にGX推進法を、5月31日にGX脱炭素電源法を、それぞれ国会で可決・成立させた。すべて気候危機対策を謳った原発推進である。

グレタはそうした原発推進の動きに対して反対を表明しない。それどころか2022年10月、ドイツ公共放送ARDのインタビューで、気候保護のために原発は現時点でよい選択かと問われ、「それは場合による。すでに(原発が)稼働しているのであれば、それを停止して石炭に変えるのは間違いだと思う」(『毎日新聞』電子版2022年10月14日付)と答えたことが報じられた。

この発言は原発の積極推進を主張するものではない。しかし世界的な環境活動家グレタが気候危機対策に原発が有用だと改めて認めたことは、世界の原発推進勢力にとって絶大な激励のメッセージとなったはずだ。

2021年に私がグレタさんに1通目の手紙を書いてから2年近くが経つ。返事はまだ来ない。かつて自分自身が語った「原子力は実現可能な代替手段じゃない」という言葉とは真逆の方向に向かっている今の世界の状況を彼女はどう見ているのだろうか。あるいは、これは彼女自身の当初の目論見通りの結果なのだろうか? グレタの運動は、原子力を「実現可能な」代替手段として蘇らせる上で、大きな役割を果たしてきたように見える。

私は折りを見て、彼女に2通目の手紙を書きたいと思っている。「あなたが本当に地球環境を憂うるなら、原発廃絶のためにこそ運動してほしい」と。(完)

気候危機運動の旗手 グレタ・トゥーンベリさんへの手紙
〈前編〉彼女がダボス会議で行った演説内容への疑問
〈後編〉そして彼女は原子力発電の「救世主」となった

本稿は『季節』2023年秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「グレタ・トゥーンベリさんへの手紙」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

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《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで

《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

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◆核兵器禁止条約発効から3年

2024年1月22日。核兵器禁止条約発効からちょうど3年になります。核兵器禁止条約は、市民運動が国際的にスクラムを組んで、国家を動かしてできた条約です。1月15日にサントメ・プリンシペが批准し、70か国が加わる条約となっています。

米露中英仏や印パ、朝鮮、イスラエルの核兵器保有国を市民の横のつながりで包囲していく。その先頭に立たなければならないのは、やはり広島です。最近の広島市の松井市長は、平和記念公園とパールハーバーの姉妹協定など、原爆投下の反省がいまだない米国政府に忖度する方向に走っています。

しかし、広島市がリードする平和首長会議には、ホノルルはじめ多くの米国など核保有国の自治体も参加しており、核兵器禁止条約を推進しています。こうした自治体やそこに住む市民の横のつながりを大事にしたいものです。

◆四国電力側は「爆睡モード」(?!)の弁護士も 原告本人最終尋問

その1月22日、広島地裁では筆者も原告である「伊方原発運転差止広島裁判」の原告本人最終尋問が行われました。

原告を代表して広島市在住の会社員・森本道人さんと福島県南相馬市から京都に避難中の福島敦子さんが出廷し、原告・被告双方の弁護士からの尋問を受ける予定でした。

しかし、実際には、原告側の弁護士による主尋問のみが行われました。その間、被告の四国電力側の弁護士の中には居眠りどころか爆睡モードではないかと疑われる状態の方もおられました。

そして、裁判長に「被告側、反対尋問はありませんか?」と聞かれると、原告側の主任弁護士が「ありません」と答え、あっさり、二人の最終尋問は終わりました。

◆広島市民/フクシマからの避難者 それぞれの立場で熱弁

被告弁護人の一部が爆睡モード(?)だからと言って、原告弁護士による尋問への回答という形での原告お二人の訴えに迫力がなかった、というわけではありません。それぞれの立場で熱弁を振るわれました。

森本道人さんは広島市在住。一部上場の大手化学会社の製造設備の技術者で、2011年3月11日には千葉県市原市で東日本大震災に遭遇しました。地震の翌日、広島に帰る新幹線の中でニュースのテロップで原発の爆発を知ります。そして、屋内退避指示などのニュースを見て「原発とは、放射線とは、恐ろしい、許しがたい」と思ったと振り返りました。

そして、その後、自分なりに勉強され、日本の放射線規制はICRP(国際放射線防護委員会)の勧告をもとにしていて、それは広島のABCC(現・放影研)の調査をもとにしていること、内部被ばくを過小評価していること、欧州放射線リスク委員会などからは見直しを勧告されていることなどを知りました。そして、経産省のエネルギー白書でも電気の消費量が下がり続けていること、使用済み核燃料の最終処分場も決まっていないことなどをあげ、伊方原発の停止を求めました。

福島敦子さんは2011年当時、原発から20kmの福島県南相馬市に在住。下水処理場の水質分析の仕事に従事していました。年収300万円くらいで正社員、職場環境は良好だったそうです。二人の娘は小学生で、福島さんの両親も歩いて15分の所に在住で、5人で仲良く生活していました。

しかし、3月11日に地震が発生。その日は、職場の片づけや、地震で壊れた下水処理場への対応などで帰れず、帰宅は12日の午前0時過ぎに。翌日も午前中は出社し、午後は自宅の片づけをしていたところ、突然、防災無線が鳴り、避難を呼びかけてきたのです。

しかし、屋内退避のほかはどこへ避難しろという指示も行政からはなく、そうした中で、車でその夜には娘二人と両親と5人でまず飯館村へ避難。しかし、飯館村へ向かう道は大渋滞で、同村の道の駅も長くとどまれる状況ではなく、押し出されるように川俣町の警察署へ移動し、そこの駐車場で一夜を過ごしたそうです。

そして、翌13日に福島市の飯坂温泉に避難。そこでは、「死ぬときは死ぬんだ」があいさつ代わりになっていたそうです。

ただ、なぜか、福島さんが避難していた福島市などは放射線量が高かったのです。のちに、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)で、福島第一原発から北西方向の飯館村―福島市に放射能が濃く飛び散ったことが明らかになったのですが、そんなことも知らずに、当時の福島さんたちは放射線が高い地域に長くいてしまったわけです。

その後、14日に3号機爆発、15日に4号機爆発、そして、19日に職場の元上司からプルトニウムが原発敷地外で発見されたことを聞いて、さらなる遠方避難を決断。京都へ移り、南相馬の会社は退職。京都府内で非正規公務員を経て、就活に苦戦しつつも契約社員として働くようになったのです。

両親とは別れ別れになってしまった。子どもたちも祖父母とは別れ別れになってしまいました。

現在、国は避難区域の人たちへの医療補助を削減しようとしています。また、福島さんが原告団長となっている京都での避難者訴訟では、国や東電は、なんと「賠償金を払いすぎたので返してほしい」ということまで言いだしたのです。

だが、現実には、現在でも現地では山火事が起きれば、放射線量が一挙に上がる状況もあります。福島さん自身も一度、南相馬に車で帰り、放射線量を測定し、福島市でも1mSV/年を余裕で超えてしまう場所もあることを確認したそうです。また、能登北陸大震災で北陸電力による志賀原発のトラブル隠しに対して、2011年の東電と同じことを繰り返している、と断罪しました。

二度と、自分と同じ思いをする人が出てほしくない。原告となった理由を福島さんはずばり述べられました。

広島の被爆者が、核兵器に反対するのと同じ理由です。

◆7月17日(水)、最終弁論へ

尋問終了後、大浜寿美裁判長は、原告・被告双方に、新たな主張は4月26日までに提出すること、7月1日を最終準備書面の期日とし、7月17日(水)を最終弁論とする、と言い渡しました。

◆「元日大震災」で破綻明白な地震想定・避難計画 見直し迫る判断を

さて、この間、1月1日には、M7.6の北陸能登「元日」大震災が発生しました。能登半島の広い範囲で地盤が4mも隆起しました。志賀原発の過酷事故は避けられたものの、復旧までに半年以上かかる大ダメージを受けました。能登半島ではもっとも壊滅的な被害が出た珠洲市にも2003年までは原発計画が存在していました。しかし、地元の住民の反対運動で撤回されました。

その原発予定地は、今回の大震災で孤立集落になっています。孤立集落が生じるということは、原子力防災計画も機能しないということです。福島の場合は、そうはいっても道路などは崩れていませんが、能登半島のように崩れていれば避難も出来ません。

また、原発が孤立すれば、震災で原発にダメージがあっても、電力会社の社員も応援に駆け付けられず、それこそ、フクシマを上回る事故になっていた可能性が高かった。

被害に遭われた地元の皆様には心からお見舞い申し上げるとともに、しかし、皆様が「珠洲原発」を阻止したことが、大げさではなく日本を救ったと言わざるを得ません。

今回の「元日」大震災では、3つ以上の向きも角度も異なる活断層が同時に動きました。今までは、向きや角度が異なる活断層が連動するということは国も想定していませんでした。

しかし、そうした地震が実際に起きてしまった以上、地震動についての基準も見直す必要があります。ひずみが近くに溜まれば、あまり注目されていない断層も動いて大地震を引き起こす。そもそも、日本列島自体が、地震で地形ができているようなものである。

当然、伊方原発についても、それは見直される必要があります。国に、伊方原発についても基準を見直すよう迫る判断を裁判所には求めます。

◎伊方原発運転差止広島裁判 https://saiban.hiroshima-net.org/

◎原発賠償訴訟京都原告団を支援する会 http://fukushimakyoto.namaste.jp/shien_kyoto/ 

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年冬号

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年2月号

◆気候危機運動の旗手 グレタ・トゥーンベリの誕生

グレタ・トゥーンベリは、オペラ歌手のマレーナ・エルンマンと俳優スヴァンテ・トゥーンベリの長女として2003年1月3日ストックホルムで生まれた。2011年に気候変動について初めて知り、なぜ気候変動の対策がほとんど行われていないのか理解できなかったため、落ち込んで無気力になり、その後アスペルガー症候群と診断された。

2018年8月、15歳のグレタは「気候のための学校ストライキ」という看板を掲げて、より強い気候変動対策をスウェーデン議会の前で呼びかけを始めた。他の学生も自分のコミュニティで同様の抗議活動に参加し、「未来のための金曜日(Fridays for Future)」の名前で気候変動学校ストライキ(School Climate Strike)運動が組織された。グレタが2018年12月のCOP24で演説して以降、学生ストライキは世界各国に広がり、世界の若者の間に気候危機運動が大きな広がりを見せた。

◆「グレタ・トゥーンベリ 気候変動の最前線をゆく」というTV番組

私は2021年7月18日にBS朝日から放映された「グレタ・トゥーンベリ気候変動の最前線をゆく」という番組を視聴した。この番組はBS朝日のホームページで以下のように紹介されている。

「世界で最も影響力を持つ環境活動家、グレタ・トゥーンベリ。その力強いスピーチで、人々の心を動かしてきた彼女は、次のように打ち明けます。『私の声ではなく、科学に耳を傾けてほしい』。この番組は、18歳を迎えた彼女が、大学を休学して世界中を旅した1年間に密着。各地の国際会議に赴き、演説を行う舞台裏や、気候変動の実態に触れるため、世界中の様々な土地を訪ね、科学者たちと対話を重ねる姿を記録します。……英国BBCが制作した最新の2作を解説情報とともにお届けします。」

番組ではグレタが、①カナダ・ジャスパー国立公園、②カナダ・アサバスカ氷河、③アメリカ・カリフォルニア州パラダイス村、④スウェーデン・ヨックモック、⑤ポーランド・ベウハトゥフ石炭発電所、⑥スイス・ボンド村などの気候変動の現場を訪ね歩く姿が映し出されていた。

⑤ポーランド・ベウハトゥフ石炭発電所の場面についてBS朝日のHPでは「EU域内で最大の石炭発電所であり、最もCO2を排出している施設を訪ね、当事者と対話する。化石燃料からの脱却の難しさを学ぶ。」と紹介されている。

グレタはポーランドの火力発電所を視察し、それに続いて廃坑になった炭坑を訪れ元炭鉱労働者たちと交流する。炭坑の中でグレタは元炭鉱労働者たちに歓待され、「私たちはエネルギー転換のために職を失ったが、私たちはあなたの考えは正しいと思う。今後もぜひ頑張ってほしい」といった励ましの言葉を受ける様子が映し出される。

その後、その体験を踏まえてダボス会議(2020年1月21日)で演説し、以下のように言う。

「先週私は職を失ったポーランドの炭坑労働者の方々と会いました。彼らでさえ諦めていませんでした。むしろ変わらなければならないという事実をあなたたち以上に理解していました。」

私はこの発言に問題を感じた。なぜなら、グレタが訪れたポーランドでは再生エネルギーに加えて代替主力電源として原発の建設が進められており、将来的には代替電源の約5割を原発でまかなう予定になっているからである。その事実と考え合わせると、彼女の発言は代替電源としての原発の推進を擁護しているように聞こえる。

◆グレタ・トゥーンベリさんへの手紙

彼女の発言の背景には、原発の危険性や有害性の認識の不足があると考え、私は彼女に手紙を書くことにした。そして以下の手紙を英文で書いて2021年9月1日に送った。

 グレタ・トゥーンベリ様

 私は日本の東京に住む市民です。

 今回お手紙を差し上げたのは、最近日本で放映された、あなたの活動を紹介するテレビ番組を見て思うことがあったためです。番組の中であなたはポーランドの石炭火力発電所を視察し、続いて廃坑になった炭鉱を訪れ、元炭鉱労働者たちと交流されていました。そしてその体験をもとにダボス会議で演説し以下のように発言されました。「先週私は職を失ったポーランドの炭坑労働者の方々と会いました。彼らでさえ諦めていませんでした。むしろ変わらなければならないという事実をあなた達以上に理解していました。」私はあなたのこの発言に疑問を感じました。なぜならポーランドでは代替電力源として原発の建設が進められており、将来的には代替電源の約5割を原発でまかなう予定だと聞いているからです。その事実と考え合わせると、あなたの発言は代替電源としての原発の推進を擁護しているかのように聞こえてしまいます。

 ご存じのように、日本のフクシマでは2011年に深刻な原発事故が起きました。事故後、放射能汚染から逃れるため何万もの人々が避難生活を余儀なくされ、10年経った今もその多くが故郷に戻れないままなのです。私たち日本人の大多数は、もうあのような恐ろしい事故被害をもたらす原発は使用したくないと思っています。そして私はまた、他のどの国においても原発を推進してほしくないと思っています。なぜなら原発事故がひとたび起きれば、放射能汚染が国境を越えて広がるからです。1986年のチェルノブイリ事故の際そのような事態が起きたことをあなたもご存じのことと思います。

 私はあなたが、地球環境の向上のために勇気ある行動を続けてこられたことを知っています。しかし今私があなたに知っていただきたいと思うことは、日本に住む人々にとって環境への最大の脅威は原子力発電だということです。私は先日のテレビ番組の中であなたが世界各地の気候変動の現場を訪ねて歩く姿を拝見しました。私は、機会があればぜひあなたが日本に来てフクシマの現状を見ていただくことを希望します。そして、原発による環境破壊の実態を直接見ていただき、原発により苦難を味わっている多くの日本人の願いを感じ取っていただきたいと思います。

どうか、今後あなたが活動を進める際、深刻な環境破壊の実例であるフクシマを念頭に置いてください。そして、あなたの発言や行動が原子力発電の推進につながることがないよう配慮してください。そのことを私は日本の一市民として切に望みます。      敬具

(つづく)

本稿は『季節』2023年秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「グレタ・トゥーンベリさんへの手紙」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

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《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
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◆「気候危機」対策の現況と評価

① COP26合意の背景

2021年11月、英国グラスゴーで開催されたCOP26会議で、産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えることで合意、2050年までに世界のCO2排出量を実質ゼロにすることが世界目標となった。この決定プロセスについて、朝日新聞編集委員原真人氏は、以下のように書いている。

 ここ数年、世界を脱炭素の急進路線に一気にかじを切らせた立役者はおそらくグレタ・トゥンベリさんや環境NGOではなく、世界の金融ネットワークである。
 いま欧米金融界を中心に機関投資家、資産運用会社、投資コンサルティング会社などがこぞって脱炭素をめぐる国際的な指針づくりを進めている。企業が脱炭素にどれだけ熱心か情報を詳しく開示させ、市場で適正に評価するためだ。脱炭素市場に巨額の投資を呼び込もうという思惑である。仕掛け人は米投資銀行出身でカナダと英国の中央銀行総裁を歴任し、いまは国連の気候変動問題担当特使を務めるマーク・カーニー氏だ。同氏が提唱して発足した金融・投資家連合は「脱炭素に30年間で100兆ドルを投資しうる」と宣言している。狙うは化石燃料を利用する発電所やガソリン車を排し、代わって再生可能エネルギーや電気自動車への転換を1気に進めること。総とっかえの投資ブームを金融からの強力な締め付けで実現しようというのだ。(中略)
 かつて地球温暖化外交で日本政府の交渉官を務めた有馬純・東大特任教授は「いまや温暖化そのものが巨大ビジネスになった。金融や再エネ業者、環境NGO、学者、そしてメディアも含めて1種の気候産業複合体、『温暖化ムラ』とも言えるような1大勢力ができている」と指摘する。
 世界経済は1970年代はインフレで、80年代以降は政府や民間の借金積み上げで成長を遂げてきた。それも行き詰まり、昨今は中央銀行のお金のばらまきが頼りだ。それでも低成長から脱せないことに危機感を抱く金融・投資家連合が、次なる成長エンジンとして見込んだのが脱炭素マネーということか。(『朝日新聞』2021年12月22日付)

この記事は現代世界における脱炭素の位置付けを的確に描写している。1997年の京都議定書で設けられた排出権取引制度を通じてCO2の金融商品化が進んだことも、欧米金融界が脱炭素を後押しする大きな動機になっていると思われる。

欧州では月間10億~15億トンの排出権が売買され、月間500億~750億ユーロ(約6・5兆~9・8兆円)の巨大市場を形成している(『週刊東洋経済』2021年7月31日号 高井裕之「脱炭素で活況呈するEU排出権市場」)。「気候危機」論が普及し脱炭素対策が進めばこの排出権市場が拡大し、金融資本家にとっての利潤獲得機会が増大する。

脱炭素は、欧米金融資本の利潤獲得に貢献するものである。

② グレタ・トゥーンベリ氏の原発への態度

2021年7月18日にBS朝日から「グレタ・トゥーンベリ気候変動の最前線をゆく」という番組が放映された。この番組は英国BBCが18歳を迎えた彼女が大学を休学して世界中を旅した1年間に密着取材したドキュメンタリーを再構成したものである。

この番組の中でトゥーンベリ氏はポーランドの火力発電所を視察し、それに続いて廃坑になった炭坑を訪れ元炭鉱労働者たちと交流する。その後、その体験を踏まえてダボス会議(2020年1月21日)で演説し以下のように言う。

「先週私は職を失ったポーランドの炭坑労働者の方々と会いました。彼らでさえ諦めていませんでした。むしろ変わらなければならないという事実をあなた達以上に理解していました。」

この発言にはトゥーンベリ氏の原発容認姿勢が表れている。彼女が訪れたポーランドでは、再生エネルギーに加えて代替主力電源として原発の建設が進められており、将来的には代替電源の約5割を原発でまかなう予定になっている。その事実と考え合わせると、彼女の発言は「CO2削減のためには原発を使ってもよい」という主張に他ならない。

彼女は2022年10月、ドイツ公共放送ARDのインタビューで、気候保護のために原発は現時点でよい選択かと問われ、「それは場合による。すでに(原発が)稼働しているのであれば、それを停止して石炭に変えるのは間違いだと思う」と答え(『毎日新聞』電子版2022年10月14日付)、原発容認の姿勢をより明確に打ち出している。 

③ IPCCの原発への肯定的評価

IPCCが2022年4月に発表した第6次評価報告書第3作業部会報告書には「原子力は、低炭素エネルギーを大規模に供給することができる(高い確信度)」と書かれている。

しかしこの認識自体、事実に照らせば誤りである。原発がCO2を出さないのは発電場面のみであり、ウラン燃料の採掘・精錬・運搬、施設の建設、運転終了後の廃炉作業、使用済み核燃料の保管・処理まで含めれば、膨大な量のCO2を排出する。

IPCCが提唱するCO2の排出削減という目的に照らしても、原発は極めて不合理な選択である。IPPCがそのような不合理な主張をしているという事実を見過ごしてはならない。

◆むすび 脱炭素から脱却し本来の環境保護を

メディアはグレタ・トゥーンベリ氏を環境活動家と呼んでいる。しかし、先に見たようにトゥーンベリ氏は「気候危機」対策としての原発を容認している。言うまでもなく原発こそが最悪の環境破壊の元凶であり、それを容認するような運動を環境運動と呼ぶことは適切ではない。「気候危機」論と環境保護を同1視すべきではないのである。

石燃料の無制限な使用が環境に悪いことは誰も否定しえない。化石燃料の資源は有限であり、その使用は大気汚染をはじめ各種の環境汚染の発生を伴う。従って、「化石燃料の使用を抑制しよう」という「気候危機」論のテーゼは、環境保護と共通点がある。

しかし、CO2の排出が気候に悪影響を与えるため脱炭素を進めよう、という点において、「気候危機」論は環境保護とは別物である。CO2自体は汚染物質ではなく植物の生長に必須の物質である。しかし「気候危機」論においてはCO2を出すもの=悪、CO2を出さないもの=善という2項対立が作り出され、実際には環境に最も悪い原発が推進される。

欧米金融資本は脱炭素に利潤の源泉を見出し、強力に脱炭素を後押しし、各種国際機関、各国政府も脱炭素を推進する政策を打ち出している。しかし脱炭素は原発推進を促すため結果として深刻な環境破壊をもたらす。

原発以外の手段で脱炭素を進めればよいという議論もある。しかし化石燃料を一挙に再生可能エネルギーに置き換えることは困難なため、脱炭素を是認すれば「足りない分は原発で」という論理によって原発推進に道が開かれてしまう。そもそも「気候危機」論自体が科学的に不確かな議論である以上、脱炭素に同調すべきではないのである。

脱炭素は端的に言えば資本の論理である。われわれは資本主義社会に生活している以上、それに順応した生活形態を余儀なくされる。例えば生活の糧を得るために営利企業に労働力を提供し賃金を得る必要がある。しかし、だからと言ってわれわれ市民に資本主義体制を強化する義務はない。同様に、市民には脱炭素に加担する義務はないのである。 

市民は、IPCCの見解やそれに追随し無闇に危機感を煽るメディアの報道を額面通り受け取ることをやめ、脱炭素から距離を置くべきであろう。市民は真に環境によいことは何かを自分の頭で考え、大気、水、土地の汚染を防止し自然の植生を守り育てるという、環境保護本来の理念に立ち返るべきである。そうした環境保護の着実な活動こそ、今日の社会で求められている運動だと言える。その意味で、原発の廃絶=脱原発が最優先の課題であることは言うまでもない。(完)
           
◎「気候危機」論とは何か
〈前編〉二酸化炭素の人為排出は本当に気候に甚大な悪影響を与えているのか?
〈後編〉最優先の課題は、原発の廃絶=脱原発である

本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「『気候危機』論についての一考察」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
翻訳者。学生時代から環境問題に関心を持ち、環境・人権についての市民運動に参加し活動している。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CPDMZSST/

人間の歴史は、海岸に打ち寄せる波のように、行きつ戻りつするしかないのでしょうか。科学技術は進歩一途如き様相を呈していますが、技術の進歩を産み出す人間の思想や行動が、進歩を遂げているようには到底思えません。むしろ私たちが目にしてきた二十世紀後半から二十一世紀前半の世界は、 総体ではないにせよ人間の「退行」を示してはいないでしょうか。

自然科学により、完全に解明された 「絶対的な毒性」が明らかな放射性物質に、人間は可能な限りそれらに近づかず、環境へ漏れ出たならば可能な限り局所に封じ込め、それでも制御できないのであれば避難をする。1986年ソ連ではチェルノブイリ原発事故が起きたあと、その原則は(完全ではないにせよ)履行されました。

他方2011年に日本で起きてしまった福島第一原発爆発事故の後、日本政府は被ばくから国民を守ることを放棄し、被ばくを強要する政策に終始した感があります。今日では「福島第一原発事故などなかったことにしよう」との隠蔽政策に全力を注いでいます。

「東京五輪」は、東北の復興を謳い文句に使い誘致されました。「五輪と復興に何の関係があるのか」本来招致活動が起こった時点で国民は疑問を強く持つべきでしたが、政府・マスコミ・経済界一丸となっての東京五輪はCovid-19の爆発的感染拡大により一年延期されたものの、ご記憶の通り強行開催されました。

そして 「汚染水」 はいつのまにか 「処理水」と呼び変えられています。異常以外のなにものでもありません。

福島第一原発事故後の「被ばく」強要は、明確な意図に起因しているのではないか、との疑問。その明確な証拠がついに明かされました。事故後「福島県放射線健康リスク管理アドバイザー」に着任し、福島県民を欺く役割を果たした山下俊一を井戸謙一弁護士が法廷で証人として尋問したのです。その結果極めて重要かつ驚くべき数々の事実が明らかになりました。今号の井戸弁護士へのインタビューは必見です。日本の商業新聞・雑誌の中でこの事実を採り上げるのは本誌だけでしょう。

昨年のロシアによるウクライナ侵攻に続き今年はイスラエルによるパレスチナ侵略・大虐殺が進行しています。いずれも歴史の文脈を直視することなしには理解しえず、また分析のできない戦争です。そして戦争には常に偽りの扇動や報道が旗頭の役割を担います。

原発を基軸に時代や世界を凝視すると根源に巣食う文明の病があぶり出されます。2023年は益々文明の病が顕在化した年であったようです。世界も日本国内も相変わらず「脱炭素」との虚言に踊り、日本ではGX法(原発推進法)まで成立してしまいました。闇の深い時代に、本誌はあえて闇の深淵に足を踏み入れ、光明を発掘します。

2023年12月 季節編集委員会

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
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『季節』2023年冬号

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紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
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【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

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《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
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原発賠償関西訴訟 提訴から10年
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《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
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このところ月刊『紙の爆弾』『季節』と発行がほぼ重なり、また来年のカレンダーの頒布とも重なり、それらの膨大な量に本社・東京編集室ともに一時は占拠され、発送が幾分遅れ気味になっていましたが、昨日でほぼ終了いたしました。

いましばらくお待ちください。週明け11日にはほぼ到着すると思います。

例年のように定期購読・会員の皆様方には書家・龍一郎揮毫の2024年鹿砦社カレンダーを一緒に送らせていただきました。

下は『季節』冬号の巻頭を飾っている龍一郎揮毫の書です。(松岡利康)

龍一郎揮毫

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
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『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
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2023年12月11日発行 770円(本体700円)

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「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
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瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
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関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
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原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
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「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

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「気候危機」論の起源を検証する

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反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

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◆はじめに

岸田政権は今年2月に「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を閣議決定したが、その中で二酸化炭素(CO2)を出さないエネルギー源として原発の活用が提唱されている。この背景にはCO2の人為排出が気候に危機をもたらしている、とするいわゆる気候危機論がある。そこで「気候危機」論とは何か、それはどのような意味を持つのか、発生以来の経過をたどりつつ検証してみたい。

◆「気候危機」論の概要

本稿において「気候危機」論という用語は、20世紀半ば以降の温暖化が人為起源のCO2などが主な原因で起き、それにより地球環境が危機に瀕しているとする考え方を指す。国際連合の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次報告書は、20世紀半ば以降の「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と述べている。そして、世界の平均気温が上昇していくにつれて、北極海の海氷面積の縮小、海面水位の上昇、洪水の多発、食料生産力の低下、サンゴ礁の消失などが起こるとされる。

「気候危機」論の高まりを受けて、「脱炭素」に向けた取り組みが世界的に推進されている。脱炭素とは、代表的な温室効果ガスであるCO2の排出量をゼロにしようという取り組みである。日本では2020年10月に、当時の菅義偉首相が「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と所信表明演説の中で述べた。これを受けて、環境省では「2050年までに年間で12億トンを超える温室効果ガスの排出を実質ゼロにすること」を目標として、産業構造や経済社会の変革に取り組むこととした。

◆「気候危機」論の歴史

1896年、スウェーデンの物理学・化学者スヴァンテ・アレニウスが石炭などの大量消費によって今後大気中のCO2濃度が増加すること、CO2濃度が2倍になれば気温が5~6℃上昇する可能性があることを述べた。この説は、社会の一部には浸透していた。しかし1970年代頃までは、「地球寒冷化」の方が学会の主流を占めていた。

1979年、スリーマイル島原子力発電所事故の発生後、アメリカ合衆国大統領行政府科学技術政策局から「気候に対する人為起源CO2の影響」について諮問を受けた全米科学アカデミーがこれらの学術報告をまとめ、「21世紀半ばにCO2濃度は2倍になり、気温は3±1.5℃(1.5~4.5℃)上昇する」とするチャーニー報告を発表した。

1988年6月23日、アメリカ上院エネルギー委員会の公聴会において、NASA所属のジェームズ・ハンセンが「最近の異常気象、とりわけ暑い気象が地球温暖化と関係していることは99%の確率で正しい」と発言した。この後雑誌やTV放送等のメディアを通して、地球温暖化説が一般に広まり始めた。そして同年8月には、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が設立された。

1992年6月にはリオ・デ・ジャネイロで環境と開発に関する国際連合会議(地球サミット)が開かれ、気候変動枠組条約(UNFCCC)を採択した。UNFCCCでは定期的な会合(気候変動枠組条約締約国会議、COP)の開催を規定した。

1997年のCOP3では、初めて具体的にCO2排出量の削減を義務づける内容を盛り込んだ京都議定書が議決された。

2006年5月、元米国副大統領アル・ゴア氏が出演するドキュメンタリー映画『不都合な真実』が公開された。翌2007年10月、人為的な気候変動問題の啓発に対してアル・ゴア氏がノーベル平和賞を受賞することが発表され、同年12月にIPCCと共に受賞した。

2015年12月12日、COP21においてパリ協定が採択された。この中で2020年以降の地球温暖化対策を定めている。産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑え、加えて平均気温上昇「1.5度未満」を目指すことが合意された。

2018年8月、15歳のスウェーデン人グレタ・トゥーンベリ氏が「気候のための学校ストライキ」という看板を掲げて、より強い気候変動対策をスウェーデン議会の前で呼びかけを始めた。他の学生も自分のコミュニティで同様の抗議活動に参加し、「未来のための金曜日(FridaysforFuture)」の名前で気候変動学校ストライキ運動が組織され、世界の若者の間に気候危機運動が大きな広がりを見せた。

◆「気候危機」論への疑問

「気候危機」論について筆者はいくつかの理由から疑問を持っている。以下にその要点をのべる。

① 『不都合な真実』における誇張

アル・ゴア氏は2006年の映画『不都合な真実』への出演を通じた「気候危機」問題の啓発によってノーベル平和賞を受賞した。しかしこの映画は2007年、イギリスで学校での上映に反対するグループによって上映差し止めを求める提訴を英国高等法院に起こされている。その結果裁判所は、上映差し止めの請求を退けたうえで、誇張がみられる9つの問題点を指摘し「注釈をつけて」上映するようにとの判決を下した。

例えば、映画ではグリーンランドの氷床が融解し海面上昇が「近い将来」20フィートに及ぶとしているが、科学者の合意では数千年かかり「近未来に海水面が上昇するというのは極端な主張で、人騒がせである」としている。

② ツバル水没の原因

京都議定書の採択と同時期、気候変動の影響による海面上昇でツバルという国が沈む、という報道が相次ぎ、ツバルは「温暖化で沈む国」として世界の注目を集めた。しかし、2021年に環境ジャーナリストの石弘之氏は、現地取材を踏まえてツバルは沈んでおらず陸地面積はむしろ拡大している、と伝えている。(『東洋経済ONLINE』2021年7月27日付 石弘之「『温暖化で沈む国』は本当か? ツバルの意外な内情」)

石氏のレポートによれば、1971年から2014年まで、少なくとも8つの環礁と、約4分の3の岩礁で面積が広くなっており、同国の総面積は73.5ヘクタールも拡大(国土面積約26平方キロメートルに対し2.9%の増加)していたという。これは波によって運ばれた砂が堆積して、浜が広がったことによる。ではなぜツバルで水没が起きていたのか。ツバルの首都の人口は、独立前の1973年には871人だったが、独立した5年後の1979年には2,620人に急増している。これが湿地や低地に多数の住居や行政施設の建設、井戸からの地下水汲み上げの増加と下水の垂れ流しを引き起こした。

同じ太平洋上の島でもハワイは水没していないことと考え合わせると、ツバル水没の原因は地球温暖化による海面上昇ではなく、人口増加と地下水利用に伴う地盤沈下と考えるのが妥当であろう。

③ 温室効果ガス以外の気候変動要因の捨象

地質学上「縄文海進」と呼ばれている事象がある。海岸沿いにあるはずの貝塚が、関東平野のかなり内奥部で多数発見されている事実から、縄文時代に属する6000年前には現在の関東平野の相当部分が海面下にあったことがわかった。気温も1~2度高かったことが判明している。

また、「マウンダー極小期」という事象もある。1645年~1715年の70年間は、それ以前にくらべて地球の平均気温が0.2度下がったことが判明しており、当時のロンドンではテムズ川が凍りつき、氷の上を人が歩いて渡っていた。またヨーロッパ全土で食糧生産が減少し、大規模な飢饉が発生した。この寒冷化の原因は太陽黒点の活動減少と考えられている。(『エコノミスト』2021年6月22日号、鎌田浩毅「太陽黒点の変化も気温に影響」)

「縄文海進」も「マウンダー極小期」も、人間活動の結果起きた事象ではない。したがって、気温上下や海面位の上下は過去数百年、数千年の時間軸では人間活動とは全く無関係に起きていたのであり、同様のことは今後も起こりうる。しかしIPCCは温室効果ガスの人為排出以外の気候変動要因を1切捨象して、温室効果ガスのみを問題視しそれへの対策を論じている。

CO2の人為排出が気候に影響を与えている可能性はないとは言い切れない。しかし、上記の諸事実から、CO2の人為排出が気候に甚大な悪影響を与えているという説には大きな疑問がある。したがって、CO2の排出を早急に削減すべきだという主張は合理的根拠を欠くと言わざるを得ない。(つづく)

本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「『気候危機』論についての一考察」を本通信用に再編集した全2回の連載記事です。

▼原田弘三(はらだ・こうぞう)
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『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
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『季節』2023年冬号

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《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

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《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫

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本稿は『季節』2023年夏秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆設計の古さを問題としているが具体性はない

老朽原発を廃炉に導くはずだった新規制基準の運転年数制限が事実上撤廃されてしまい、これにともない古い原発の70年を超える運転がこれから可能になろうとしている。

設計が古いと建設時の知見も乏しく、地震や津波想定は甘く、さらに材料も悪い。良いことなど一つもない。複雑な構造物である原発では、いくら部品を交換し、耐震補強や防潮堤で繕ってみても土台の悪さを解決することはできない。例えば基礎杭を打ち直すことなどできないし、塩害で損傷している建屋を建て直すわけにもいかない。

規制委の長期管理施設計画では、交換可能な設備、装置を交換するためにサプライチェーンの維持を確保するとしている。それ以外に設計の古さを具体的に対策する方法は書かれていない。規制委は、現在でも「バックフィット」(遡って規制基準を適用すること)により安全性を維持する取り組みをしていることで、新知見に照らして安全上重要な対策を施していない原発は40年超運転を許可していないことから、設計の古さに起因する問題については現在でも規制しているとし、新たな規制基準を設ける必要はないと考えている。

結局、本当は重要だった運転期間の制限が撤廃された結果、老朽化した原発を一定の期限で確実に廃炉にする仕組みがなくなってしまった。

改訂法では、長期管理施設計画が認可されなければ次の10年は動かせなくなる。規制は厳しくなっていると規制委はいう。しかし運転は止まるかもしれないが廃炉にはならず、審査は延々と続けられてしまう。現在の敦賀2のように、見通しがなくても、書類を偽装しても、審査を受けたいと書類を出し続ければ廃炉にできないのだ。こんなところに巨額の電気料金(敦賀2の場合は原電の原発なので、関西、中部、北陸、中国電力の消費者がそれぞれの電気料金から負担している)が湯水のごとく使われているのである。

◆規制する側とされる側で検討する規制案とは何か

新・新規制基準の具体的な審査方法(規則等)を検討する「高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チーム」という会議体のメンバーに「ATENA」(原子力エネルギー協議会)が入っている。この団体は、電力会社とメーカーの協議体で、いわば原子力ムラそのものである。

規制側と机を並べて検討しているのは原発の安全審査の根幹に関わる「規則」だ。つまり法規制される側とする側が、どんな規制が良いですかと話し合っている。これで厳格な審査体制が作れると本気で思っている人がいるのならば愚かすぎよう。

ATENAは、BWRやABWRは冷却水投入(ECCSの作動など)でも加圧熱衝撃は発生しないので「評価不要」であると主張している。この主張に基づき、すでに試験片を使い果たして本来は圧力容器の健全性を評価できなくなった東海第二の運転継続ができるようになってしまうのである。

震災後に設置された国会事故調の報告書で黒川清委員長が指摘した「規制の虜」。これを打破しない限り、原発再開はあり得ないと指摘した黒川氏。ところが今起きているのは、規制される側が規制する側を取り込み、都合の悪い基準を作らせない目論見だ。

「規制の虜」とは、規制当局が国民の利益を守るために行う規制が、逆に企業など規制される側のものに転換されてしまう現象をいう(黒川清「原発事故から学ばない日本……『規制の虜』を許す社会構造とマインドセット」2021年3月8日付け読売新聞)。

GX法で定められた「新・新規制基準」は、法律が制定されても、それだけでは何もできない。規制の方法や基準を決めなければ実務ができない。新規制基準から、どう繋げていくのかが課題だが、その一つが現在議論されている「長期管理施設計画」だ。これを検討する会議で規制する側が規制される側と詰めの議論をしている。この場に第三者の専門家や、高い知見を持ち批判的な立場の科学者がいるというのならばまだしも(過去の耐震基準を決める会議ではあったし利活用を巡る原子力小委員会にもそういうメンバーは存在した)、この会議体は規制庁と、電力会社やメーカーなどのATENAしかいないのだ。

しかも、知見はほとんどATENA側にあり、規制庁が独自に検証し、実験するなど不可能。せいぜい文献調査くらいしか能力のない規制側が、大勢の技術者と実機を持ち、圧倒的な資金力を有するメーカー側に太刀打ちできるわけがない。対等な議論さえ望めないのである。

このような悲劇的な規制側の現実を国民の多くは知るよしもなく、一方的に決められた規則で事実上無期限に老朽原発が動き出す。それを止める力があるのは、市民だけである。(完)

◎老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由[全4回]
〈1〉脆性遷移温度が危険域に達した関電高浜1号
〈2〉運転実績や想定を超えている原発の「60年超運転」
〈3〉試験片が枯渇し、中性子照射脆化を評価できなくなった原発は直ちに廃炉にすべきである
〈4〉一方的に決められた規則で無期限に動き出す老朽原発を止める力があるのは、市民だけである

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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