本稿は『季節』2023年秋号(2023年9月11日発売号)掲載の「老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則等の改正案等に対する意見公募について」との長い名のパブコメが8月4日まで実施された。

◆長期施設管理計画審査基準の問題点

なかでも「実用発電用原子炉の長期施設管理計画の審査基準の制定について」には、以下が定められている。

「30年を経過した原発は、10年毎に事業者が長期管理計画を決めて規制委に提出しなければならない」

長期管理計画には、通常点検及び劣化点検の実施の考え方及び方法が適切に定められていること、技術評価に用いる点検等の結果が明らかにされていること、劣化の状況を把握する点検または検査がない場合には、劣化点検を実施しなくとも技術評価が可能であることが示されていること、将来の劣化の予測・評価をどのように行うかの予測と評価の結果が示されていること、劣化を管理するための具体的な措置が示されていること、が記載されなければならない。

これで原発事故を未然に防ごうというのは、言うは易く行うのは困難だ。

例えば、長期管理計画において劣化を確認し基準への適合性を立証する責任は事業者に課せられている。それをクリアできなければ運転はできなくなる。しかし適合性を審査し、判断する規制委が事業者の見落としや不適合などを審査等で未然に見つけ出す能力がなければ、この規制は機能しない。規制委に、そのような技術的能力が存在するとは、これまで実証されていない。

実際の審査会合においても、規制側にそのようなことができるのか、疑問の声が委員から上がっていたのである。

原発は極めて複雑な構造物であり、全部の専門家などはいない。金属材料やポンプなどの専門知識があっても炉物理の専門ではないとか、地震について知見があっても津波はまた別とか、5人の委員で審査をこなすなどとても難しいと誰もが思うのではないか。

◆中性子照射脆化(ぜいか)とは何か

「中性子照射脆化」とは、鋼鉄製の圧力容器に中性子が当たり材料中の元素を叩いて格子結晶構造を変質させることから起きる。中性子照射を受けると金属材料がもろくなる現象で、規則的に並んでいた原子がはじき飛ばされたり、核変換により新しい原子が生成して原子配列が不規則になり、格子欠陥、ヘリウム気泡、析出物などが生じ、材質が硬化する。

照射が進むと、材料はさらに硬くなっていき降伏応力が上昇し、材料の伸びが少なくなる。

金属材料が照射を受けて脆化すると低温での衝撃荷重に対して著しく弱くなるが、高温になると、脆化は回復して再び粘りけが生じる。このような延性・脆性遷移現象は原子炉圧力容器にとって重要であり、照射が進むにつれてこの延性・脆性遷移温度は高温側にシフトするので、監視試験片を原子炉の中に入れて定期的に調べ、材料の安全性を確認している(ATOMICA他)。

この脆性遷移温度が高くなっているのが老朽化した原発である高浜1、2、美浜3号であり、これらはすでに危険領域を超えていると多くの専門家は考えている。

◆脆性遷移温度が危険域に達した高浜1号

高経年化対策上抽出すべき主要6事象として挙げられている中性子照射脆化で最も厳しい状態にあるのは運転開始49年に達する高浜1号だ。

運転中に原子炉の圧力容器が急激に破断する「脆性破壊」の危険性が高いのが高浜原発だ。

圧力容器の健全性を調べる方法は「原子炉構造材の監視試験方法」に規定されている。原子炉内に装着する監視試験片のシャルピー衝撃試験や、脆化予測式から脆性遷移温度を求める。

「原子力発電所用機器に対する破壊靭性(じんせい)の確認試験方法」では破壊靭性試験(CT試験)をもとに破壊靭性遷移曲線を求め、熱衝撃PTS遷移曲線と比較して、圧力容器の健全性を評価する。

この方法には問題がある。2011年の保安院・高経年化意見聴取会において脆化予測式、反応速度式の誤り、次元の不1致が指摘され、改訂が求められたにもかかわらず、日本電気協会は10年以上経っても改訂案を作れていない。

規制委は間違った規程のまま圧力容器の安全性審査を行っていることになる。

評価上は、高浜1号でも破壊靱性遷移曲線とPTS状態遷移曲線は交わっていないので、破壊が起きないとされる。しかしこの評価自体、正しいとはいえないのだ。

高浜1号では、監視試験で99℃という高い温度(その温度以下では鋼が変形せずに割れてしまう目安の温度)が観測されている。(つづく)

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆原発の運転延長は重大事故を準備する行為

「脱炭素電源法案」による原発の運転期間再延長を含めた「利活用推進の趣旨」は「安定電源の確保」が理由だという。そうすると、これから起きることは、原発をなるべく止めずに使う方式を導入することになる。

最初に行われるのは、定期検査期間の短縮と定期検査間の延長だ。まず、定期検査項目を絞り込み、現在90日程度で行っている検査を30日未満で終わらせる。さらに定期検査の間隔も、現在13カ月程度のところ、最長24カ月まで延ばす計画がある。これらは経産省が進める原発の稼働率向上対策としてすでに検討されていることだ。[*1]

[*1]定期検査の間隔については法令上、3つの区分(13カ月以内、18カ月以内、24カ月以内)が規定されている。現在は全部13ヵ月以内と区分されているが、これを変更して24カ月運転を目指そうとしている。

その次には、出力調整も視野に入る。現在運転している原発は、フル出力運転をすることが最も経済的とされている。しかしこれは、運転期間が最長60年に限られているからで、これが事実上無制限(上限が定められていない以上、無制限というしかない)となれば、電気出力を電力需要に合わせて変動させても経済性を確保できることになる。

加圧水型軽水炉は、最大50%までの出力調整運転が可能とされており、沸騰水型軽水炉でも75%まで下げられるとされる。

これに加えて所内単独運転[*2]が可能な原発ならば、事実上ゼロ出力から100%まで可変可能だ。

[*2]所内単独運転とは、原発が送電線のトラブルなどで送電線と切り離されたときに、原子炉を停止せずに原発の冷却ポンプなどの構内負荷にだけ電気を供給する状態を指す。発電に使わない蒸気はタービンバイパスを通じて復水器に送られる。所内単独運転は非常時の運転であり、タービン建屋温度上昇など問題が多い。運転制限時間は15分程度とされている。また、原発の所内単独運転では、負荷は通常の定格出力の5~10%である。

そうまでして原発を活用する場合、想定されるのは過酷事故の発生確率の上昇だ。

福島第一原発事故の教訓など、法律の条文の飾り程度にしか考えていない原発漬けの議員と官僚によって、再び過酷事故がどこかで起きる。

西日本の原発で起きれば、日本列島全域が「風下地帯」になるだろう。福島第一原発事故では75%の放射能は海に出て陸域の汚染は25%の放射能によるものだったが、西日本の原発は、偏西風が日本列島を縦断している時に過酷事故が発生したら、100%近くの放射能が日本中に降り注ぐことにもなりかねない。そうなってから悔やんでも遅いことだけは誰もが理解できることだ。

◆原発推進で日本は滅びる

多くの裁判では原発事故に対する国および東電の責任は、明確にされていない。

国が行ってきた原発推進に対しては、最高裁判所も責任を認めようとしなかった。地裁ではいくつもの優れた判決が出されているときに、国の方針に従うだけの最高裁の姿勢と呼応して、裁判で差し止められた原発の再稼働を促進しようとするのが、この国の行政だ。

電気事業法改訂の一つに司法が差し止めなどの決定を行った際に、上級審で取り消された場合は、その決定や判決がなかったものとして、停止していた期間を原発の運転期間の延長に組み込めるとする規定が盛り込まれている。これは司法権に対する介入であり許されない。

電力の安定供給を実現するのに必要なのは、いまある火力設備を更新し、無駄な廃熱を出さないシステムに変換することでエネルギーを有効活用することだ。地域温水供給で熱源としての利用を可能にすれば、火力の出力を3分の2に減らしても、いまより電力などのエネルギー回収効率は高まる。特に大都市はこうしたシステムと蓄電システムとの組み合わせで自然エネルギーの不安定な分を補うこともできる。

また、主に廃熱として捨てられる「未利用エネルギー」(下水道廃熱や工場廃
熱や冷暖房廃熱)を回収すれば、都市廃熱による環境悪化(ヒートアイランドやそれに起因する都市型豪雨災害)を低減できるし、しなければならない。(完)

◎原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点[全4回]
〈1〉福島の反省も教訓も存在しない
〈2〉原発は電力の安定供給に役立たない
〈3〉原子力産業振興法と化した原子力基本法
〈4〉原発推進で日本は滅びる

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◆原子力産業振興法と化した原子力基本法

改訂原子力基本法は、その趣旨が大きく変わった。原子力基本法は原子力開発利用の基本方針を定めており、原子力関連法の根拠法になっていることから、「原子力の憲法」とされてきた。特に「自主」「民主」「公開」の原子力平和利用三原則は学術会議により提唱されたものを取り入れた。原子力基本法に基づき原子力利用の目的や基本方針、原子力委員会及び原子力規制委員会の設置と役割を規定している。

原子力基本法の改定趣旨(法律の改訂についての法律案要綱)では「電気の安定供給の確保、我が国における脱炭素社会の実現に向けた発電事業における非化石エネルギー源の利用の促進及びエネルギーの供給に係る自律性の向上に資する」ことが推進の理由だとしている。

そのうえで原発を60年を超えて運転できる期間を定め、それに基づいた運転延長を申請する根拠法として電気事業法の改訂を行うのだが「原子炉を運転することが、我が国において、脱炭素社会の実現に向けた発電事業における非化石エネルギー源の利用の促進を図りつつ、電気の安定供給を確保することに資する」ためと趣旨を記述した。

原発を再び推進する理由を「エネルギー安定供給、自律性の向上に資する」としているが、嘘である。大規模集中型の電源である原発の事故やトラブルは電力供給に大規模で長期的影響を与えることは福島第一原発事故や、その後の地震でも繰り返し示されたことだ。

また、ウラン燃料は100%輸入に依存しており国産エネルギー源ではない。地域紛争の影響を強く受けるのは石油と変わらない。

加えて国の責務としてさまざまな施策を実施するとし、国が直接税金を投入することにも道を開く規定を設けている。それを原子力基本法で行うのは、法律の趣旨を1切無視する暴挙としかいいようがない。

◆審査で劣化は発見できない

改訂法では、炉規法で30年を超える原発の劣化評価を規定することで、むしろ安全規制は強化されるとしている。しかしすでにこれまでも30年を超える原発に対して10年ごとの劣化評価が「高経年化技術評価」として行われてきた。これを法律に格上げするのだが、実際には検査体制などは変わらない。従来の制度の延長線上であり新しい制度というわけではない。

運転期間を延長する電気事業法で認められてしまうと、規制委の権限で廃炉とすることはできない。運転許可を出さない場合は、何年でも何回でも、規制委に対して審査を受審することができてしまう。これは現在の40年ないし20年の延長に対しては、日時を切って期限を過ぎれば廃炉になることに対する大幅な規制緩和である。

劣化に対する審査はいまでも欠陥が見えている。圧力容器の劣化は予測に基づく評価が現実に合わなくなっているし、今年1月に発生した高浜4号機の制御棒落下事故は、関電は数カ月前に特別点検を行ったところが破損しており、これを誰も見つけていない。

そもそも検査の範囲はごく限られたところだけで、そこから外れた劣化に対しては無力である。もちろん未知なる劣化を審査により見つけることなど不可能であり、事故が起きてから発見される。このような事態を避けるために、一定の年限で退場させる現在の規定は理に適ったものであり、それを廃してしまう合理性はない。

◆「運転停止期間の除外」にも合理性がない

電気事業法に運転期間の延長に関する認可が移管されたことで延長申請は、行政処分、行政指導、裁判所による仮処分命令、その他事業者が予見しがたい事由によって運転停止を行っていた期間を運転期間から除外し後付けできるとしている。

これは電力会社の利益を確保するための制度。震災後の法令改訂により原発が稼働できなくなったことによる損失を補填するためだ。

原発が老朽化すれば、事故を起こす危険性が高まることは自明だ。即ち、住民の安全と電力の利益を天秤に掛けて電力会社を優先することを法制化する。東電福島第一原発事故は原発の運転を優先して地震津波対策を先送りしたことが原因の一つである。それがまた再現されようとしている。(つづく)

◎原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点[全4回]
〈1〉福島の反省も教訓も存在しない
〈2〉原発は電力の安定供給に役立たない
〈3〉原子力産業振興法と化した原子力基本法

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ―― 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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◆原発は電力の安定供給に役立たない

経産省は原子力基本法の改訂理由で、60年を超える運転に道を開く「原発利活用」について「安定供給」を理由に挙げている。

ウクライナ戦争と円安の影響で急激に値上がりした天然ガスなどの輸入エネルギー。電力改革に背を向けて自社の利益を最優先に違法カルテルを大規模に行い、競合他社の保有情報を盗み出すなどした大手電力会社の行為に加え、国の無策が招いた電力価格の高騰を奇貨として、国民のあいだに蔓延する「値上げへの嫌悪感」を利用しての原発利活用政策の導入は、盗人に追い銭の典型である。

電力安定供給についても、原発には重大な欠陥があることを無視している。地震や台風災害時に発生する大規模な停電は、原発の再稼働などではなく電力システムの改革によってしか解決できない。

現在の日本は大規模な発電所が中心のシステムで成り立っている。この電力供給体制こそ改革しなければならないのに、原発の稼働を増やせば安定供給になるとの発想そのものが、災害時の電力不足を深刻なものにする。

昨年6月や今年3月に起きた東電管内での「ひっ迫」は、電力需給がアンバランスになって起きる通常時の「ひっ迫」だが、これは電力系統の問題であって発電所の出力の問題ではない。原発を増やしたところで解決などしない。

電力会社は原発の再稼働を進めて原発依存度が高まると、火力を廃止する。以前は待機電力として稼働可能な状態で休止する場合が多かったが、「脱炭素」のかけ声のもとで次々に廃止している。

大手電力の経営状態も悪化しているので、なおさら原発を代替できる火力設備を持ちたがらない。その結果、100万キロワット級原発が止まれば即座に電力がひっ迫する危険性が高まる。それを回避するために送電網を整備して他電力からの送電を円滑に行おうと考えている。再生可能エネルギーの広域運用を送電網整備の理由に挙げているが、実態は原発の電力を大都市(特に東京)に持っていくのが目的だ。

◆事故を起こせば国を滅ぼす原発

原発が事故を起こせば広大な地域を汚染し、人々の生活や生業を破壊してしまう。チェルノブイリ事故37年、東電福島第一原発事故12年、いずれも収束にほど遠い現状だ。

東京地裁朝倉裁判長は東電株主代表訴訟において原発の事故は国を滅ぼすことにつながると指摘し、福井地裁樋口裁判長は高浜原発の差し止め判決で原発事故で失われた国土は「国富の喪失」と指摘した。

震災以前には日本では原子力防災が事実上存在すらしていなかった。1999年のJCO臨界被曝事故は、東海村の燃料加工工場JCOで「むき出しの原子炉」が出現し、65センチの遮蔽もない容器内でウランが臨界状態になって従業員2名が死亡する世界中でも例がない異常なものだった。

事故直後から中性子線や各種放射性物質が拡散していったが、収束作業の手段さえ見つからず、周囲350メートルに避難指示、周囲10キロ圏に屋内退避が発令された。立ち入り禁止措置も取られ、国道6号や常磐自動車道が閉鎖された。常磐線も止まった。あらかじめ計画されたものではなく、その場での判断の積み重ねだった。住民避難を指示した東海村の村上村長は孤独な決断を強いられた。日本の原子力災害史上初の避難指示も独自の判断だった。

当時の原子力安全委員会は「今回の事故においては国の初動対応が必ずしも十分でなかったため、結果的には非常に適切な措置であった避難要請は国や県の指導助言なしに東海村長の判断で行われた」(ウラン加工工場臨界事故調査委員会報告の概要1999年、原子力安全委員会)と、村上氏の判断の適切さと国の初動対応の不適切さを認めている。

しかしこの教訓は震災時も生かされなかったし、今に至るも本質は何も変わっていない。大規模な放射性物質拡散事故が起きた場合、収束に当たる人々、避難を誘導し先導する人々、刻々と変わる放射性物質の拡散経路を見極めて住民避難を計画する機関などは依然として地元自治体の業務であり、国は助言し支援する立場である。しかし自治体には余りに重すぎる任務だ。

過酷事故は国を滅ぼすほどの災害になるとの認識はない。むしろ、規制基準適合性審査を通っているから安全性は確保できるとする、昔ながらの安全神話をそのまま引きずっている。これに加えて老朽原発を60年以上動かすことができるとする改訂は、さらに悪化した安全神話の姿だ。(つづく)

◎原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点[全4回]
〈1〉福島の反省も教訓も存在しない
〈2〉原発は電力の安定供給に役立たない

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本稿は『季節』2023年夏号(2023年6月11日発売号)掲載の「原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

原発の60年超運転を可能にする束ね法案「GX(グリーン・トランスフォーメーション)脱炭素電源法案」が4月27日に衆議院本会議で可決された。

世界でも例のない60年を大きく超える運転を可能にし、新型炉の開発と原発へ国が投資を行うことを法律で裏付ける「原発推進法」。原発依存からの脱却どころか推進する政策へと大転換を強行するものだ。

改訂される主な法律は原子力基本法、電気事業法、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)、原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施に関する法律(再処理法)、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(再エネ特措法)だ。

さらに所得税法、地方税法、法人税法、消費税法などの法律も一部改訂される。

特に原子力基本法の目的は、「原発依存からの脱却」を永遠にできなくするための法的縛りを、事業者だけでなく国や地方を含む行政全体にも及ぼそうとするものだ。

なお「再処理法」の改訂理由は、原発を廃炉にするために必要な費用を積立金方式で拠出金する改訂(電気事業法)と、その拠出金の管理を使用済燃料再処理機構で行うことを規定するためのもの。この目的のため機構の名称を「使用済燃料再処理・廃炉推進機構」に変更する。

「再エネ特措法」の改訂は、送電線の整備計画を経済産業大臣が認定し、認定を受けた整備計画のうち工事に着手した段階から系統交付金を交付するもの。電力システム改革が一向に進まないことから、電力事業者任せにできないということで国が推進するとの仕組みだが、多くの電力を東京圏などの大消費地に集中するためのものだ。名目は再エネの利活用といいながら、実態は東電の原発の出力が再稼働をしても柏崎刈羽原発6、7号機だけで震災前より大幅に減ることから、他電力からの原発の電力を送るためのものだ。

特にリニア新幹線などのような大電力を使うシステムを動かすには、東西の連系が重要になる。北海道の原発が定格出力運転をしていると電力が余剰になるため東京など大都市に送電することも想定している。

これらを「束ね法案」の形式として一つの改訂法にまとめて国会に提出し成立を図った。

しかし原発の利活用、原発の安全規制、運転期間のさらなる延長、廃炉費用積み立て、送電網の整備の支援の多岐にわたる変更点をひとくくりにした束ね法として国会で議論をすることから、分かりにくく論点も深まらない。

政府の思惑通り、議論も深まらないうちに衆議院の委員会審議は25時間程度で終わり衆議院本会議でも可決された。

◆福島の反省も教訓も存在しない

東電福島第一原発事故は現在収束どころか、原子炉圧力容器の真下の土台部分でコンクリート材が消失していることが分かるなど、次々に新しい問題が見つかっている。人類が経験したことのない3基の原発の同時メルトダウンと、溶け落ちた核燃料、大量の放射性物質からの放射線が作業を困難なものにし、デブリから生ずる汚染水発生を12年経っても止めることさえできないでいる。

敷地内のタンクに溜まっている汚染水は、今年夏にも海洋放出される計画で、放出設備は7月末までに完成する予定だが、地元漁協はもちろん、全国漁業協同組合連合会も反対の姿勢を変えていない。(※東電は8月24日から海洋放出を開始)

住民の多くも反対の意思を表明し、運動も続いている。国と東電は「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」と口ではいいながら夏にも放出開始を強行するつもりだ。

「帰還困難区域」と呼ばれる広大な土地は今も立ち入り制限されており、居住も生産の場にも使えない。チェルノブイリ原発事故から学ばなかった日本は、犠牲を被災者に押しつけたまま、新たな原発推進への道を突き進もうとしている。(つづく)

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
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龍一郎揮毫

◆「次世代革新軽水炉」と称する原発の正体

「今後、地域理解や安全向上に係る取組、次世代革新炉の開発・建設の進展や、国際的な基準の確立、安定供給に係る社会的な情勢の変化等を継続的に確認しつつ、制度に係る予見性確保等の観点から客観的な政策評価を行うこととする。また、仕組みの整備から1定の期間を経た後、必要に応じた見直しを行うことを明確化する」と書かれている。

これは震災後に比較的早期に再稼働をしている原発もあることから、停止期間を加えても採算性が悪い、特に関電と原電の原発を念頭に置いたものであろう。

さらなる運転期間の延長を目論むこと、そして延長しても2050年頃には期限が切れる日本原電東海第2と敦賀2号機への対応で加圧水型軽水炉を2基、敦賀原発3・4号機として敦賀市に建設することを想定しているものと思われる。

震災前から計画中の敦賀原発3・4号機は、ウェスティングハウス社製のAP1000型で計画されており、この建設を推進すると思われる。

このタイプを「次世代革新軽水炉」と呼ぶのだが、すでにフランスのアレバ社が欧州加圧水炉(EPR)として世界で6基建設を進め、そのうち中国で建設された2基が運転を開始している。しかし残りの4基はいずれも建設期間が大幅に延び、中には訴訟も絡んで、極めて高価な原発だ。

そのうちフィンランドのオルキルオト3号機は2005年に建設が開始されたものの、現在も建設は終わらず、総額1兆4千億円もの費用がかかり、2022年12月217日に営業運転を予定していたが3台すべての2次系給水ポンプの羽根車に亀裂が生じる欠陥も生じ、運転開始時期も見通せない。

フランスのフラマンビル3号機も2012年運転開始予定が2022年を過ぎても稼働できず、2024年にまで延びるという。そのため建設費の総額は1兆8千億円を超える。

イギリスのヒンクリーポイントCは、2基を計画しているが合計で約4兆~4兆1700億円に達するという。運転開始時期も1基は2027年頃を想定しているもののさらに大幅に遅れるという。

すでに稼働している中国の台山1・2号機は、運転直後に1号機の燃料損傷が見つかった。しかし中国はすぐに原発を止めず、運転を継続しようとしたためEPRを建設したフランス・フラマトム社が中国の頭越しに燃料損傷が起きていることを米国のメディアにリークした。批判が高まったこともあり、中国は運転を止めて損傷燃料を交換した。EPRは日本の定義では次世代革新炉だ。しかし余りに費用がかかり、建設期間も長期化している。

◆原発の利用政策拡大はさらなる原子力災害を生み出す

政府は原発に加え、再処理工場を含む核燃料政策を推進するという。これでは第2、第3の原子力災害のリスクが増えるだけだ。

原発の利活用推進と同時に、核燃料サイクル政策の推進も資源エネルギー庁の「原子力利用に関する基本的考え方」で1章を割り当てる課題だ。核燃料サイクル事業は国の政策であり電力会社が勝手に行っているものではない。

中心のプルトニウム・ウラン混合燃料(MOX燃料)の価格は輸入ものでもウラン燃料の10倍、六ヶ所再処理工場を稼働させてMOX燃料加工工場で生産すれば30倍に達するとの試算もある。しかも燃料の燃焼性能はウラン燃料の75%ほどしかなく、合わせて燃料としての価値はウラン燃料の40分の1ほどだ。

この計算を炉心全部でMOX燃料を燃やすとする電源開発大間原発(青森県大間町で建設中)に当てはめると、MOX燃料を国内で製造するとした場合、一炉心の燃料体価格はウラン燃料の500億円程度に対して1兆5000億円にもなる。しかも性能は通常の燃料より短いので、3年しか燃やせない。

言い換えれば、毎年5000億円規模の燃料費がかかる。原発が1基建設できるほどの値段だ。ウラン燃料価格の30倍ではきかないとしたら、さらに金額は上振れし、到底競争力がない発電システムになってしまう。

プルサーマル計画は当初、 「高速炉燃料サイクルへの繋ぎ」としてしか存在しなかった。しかし高速炉計画が消滅したためプルトニウムを燃やせるのは原発しかなくなり、この計画が主になった。

その時点でドイツなどのように、核燃料政策の見直しと再処理事業の中止が最も合理的な判断だった。

MOX燃料の炉心安定性はウラン燃料よりも悪いこともあり、性能も悪くリスクも高い計画をプルトニウム利用政策と核燃料サイクル政策と称して推進することに今も合理性はない。

さらに日本は公約として使うあてのないプルトニウムを持たないとしている。原子力委員会によれば、分離したプルトニウムは47トンを上限として、これ以上保有しない。毎年プルサーマル計画により原発で燃やすプルトニウムは2トン弱にすぎないから、20年以上もプルトニウムを取り出す必要はない。

六ヶ所再処理工場の建設を取りやめ、現在存在する使用済燃料をできるだけ安全な方式、敷地内乾式貯蔵に移行することをまず進めるべきである。(完)

本稿は『季節』2023年春号(2023年3月11日発売号)掲載の「『原発政策大転換』の本命 60年超えの運転延長は認められない」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◎山崎久隆「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない
〈1〉唐突に原発推進が目玉政策に
〈2〉原発の運転延長の狙うものはなにか
〈3〉規制委も「規制の虜」に
〈4〉原発の利用政策拡大はさらなる原子力災害を生み出す

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ── 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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世界の原発は、スイスのベツナウ原発が53年運転しているなど、長期間運転は普通だといった認識が原子力関係者にはあるらしい。確かに米国には原子力規制委員会が最長80年まで運転できる許可を出している原発がある。

しかし実際に60年以上も運転している原発は存在しない。80年の許可を得ているのに経済性がないなどで早期廃炉になった原発もある。

日本の原発は、当初は輸入品だった。米国から「ターンキー方式」で導入された原発が福島第一原発であり、1号機から3号機まで連続してメルトダウンを起こしたのは偶然ではない。

加えて、今から40年以上も前に建設された原発は、今では使用できない可燃性のケーブルが使われていたり、地震想定などが極めて甘かったり、圧力容器や格納容器やコンクリート材の材質が悪いなど、安全性に重大な問題がある原発ばかりである。

これをさらに長期運転するとしたら、安全性はどうやって確保するのか。その責任を負うのが規制委だ。しかし、原子炉等規制法に定める運転期間を超える運転を経産省が許可しても、規制委が厳しく審査するというのだが、信じることはできない。

新たな規制方針は30年目に高経年化評価を行い、その後は10年ごとに稼働できるかどうか審査するとしている。しかしこの方法は震災以前に行っていた高経年化評価と同様のサイクルである。内容はいまだ分からないが、今の20年延長運転許可でさえ、可燃性ケーブルのままだったり地震・津波・火山対策の評価が甘いなどの問題がある。これが抜本的に変わるなどは、今の規制委の姿勢では考えられない。

一方、運転期間の延長に際し、諸外国では運転期間の制限を設けていないと主張する人には、では日本ほど地震や津波の脅威がある原発が世界にどれだけあるのかと問いたい。また、日本の原発はすべて海に面して建てられており、海沿いの原発では常に塩分の影響を強く受けているので、劣化も早い。一度海水が炉心まで浸入すれば使用不能になる。

日本以外でも海岸立地の原発はあるが、加えて地震の影響を受けている原発はほとんどない(台湾くらい)。

原発から30キロ圏内に90万人を超える人々が住んでいる原発もない。さらに日本海側の場合、豪雪の影響も受ける。これは避難路を断ち、外部電源系統を遮断し、救援も阻むリスクがあるが、これらがすべて重なっている原発は日本以外には存在しないのである。

このような現状に対し、規制委は60年超の規制緩和について予め反対しないことを決めていた。

原子炉等規制法には明確に40年+20年を原則として明記されているにもかかわらず、それを超える期間運転することを認める経産省の方針を、利活用を決めるのは規制委ではなく経産省であるとして、規制委は関与しないとしているのだ。

安全神話により原発震災を引き起こしたことを反省して運転期間を最長でも60年に制限することで老朽原発の持つリスクを減らそうとしたにもかかわらず、これが規制ではなく利活用方針の変更であると勝手に決めて更なる延長を認めること自体が規制側の責任放棄だ。

現在でも規制委が「規制の虜[注]」(国会事故調委)となり、機能不全に陥っているのに、さらに運転期間を延長することを認めてしまうのだから、その姿勢は厳しく批判されなければならない。(つづく)

[注]「規制の虜」とは、規制当局の側よりも規制される側が専門知識や情報を有していることで、規制側が事業者の言いなりになり、規制そのものが機能しなくなることを指す。それを排するためには、規制側にも高い知識と能力が求められるが、20年運転延長問題の時にも審査書及びそれに至る審査会合で事業者の主張がまかり通るケースをしばしば見てきた。

本稿は『季節』2023年春号(2023年3月11日発売号)掲載の「『原発政策大転換』の本命 60年超えの運転延長は認められない」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◎山崎久隆「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない
〈1〉唐突に原発推進が目玉政策に
〈2〉原発の運転延長の狙うものはなにか
〈3〉規制委も「規制の虜」に

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ── 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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目玉政策の「原発の運転延長」とは、どのような仕掛けだろうか。それは2022年12月23日付けの原子力関係閣僚会議作成「今後の原子力政策の方向性と行動指針」に記載されている内容で分かる。

まず、「運転期間の延長など既設原発の最大限活用」として、以下の項目が設定されている。

「運転期間の取扱いに関する仕組みの整備」 「立地地域等における不安の声や、東電福島第一原発事故を踏まえて導入された現行制度との連続性、技術的な新陳代謝の確保等にも配慮して、現段階における仕組みとしては、引き続き運転期間に上限を設けることとする」とし40年規制が生きているかの印象を与えている。

これは、原子炉等規制法改正時に20年の延長申請ができる規定を設けた際に、例外的として延長を認めながら、美浜3、高浜1・2、東海第2の延長を次々に許可してきた規制委の現状を見れば形骸化することは明らかだ。

この結果、既存の原発はすべて60年超運転を行おうとする。延長の条件としてあげているのは、「電力の安定供給の選択肢確保への貢献、電源の脱炭素化によるGX推進への貢献、安全マネジメントや防災対策の不断の改善に向けた組織運営体制の構築」だという。

前の2つは、そもそも原発政策の大転換をもたらした所与の条件である。これらの事情がなくなったと認めるときには期間延長を止めるのかというと、そんなことはありえない。一度決めてしまえば、ずっと延長を認めることになるから、条件ではなく延長する理由を書いているにすぎない。

「延長を認める運転期間については、20年を目安とした上で、以下の事由による運転停止期間についてはカウントに含めないこととする」との記載こそが延長期間の定義だが、あまりにもあいまいで、どうとでも導き出せてしまう。

具体的に指摘する。

その1「東日本大震災発生後の法制度(安全規制等)の変更に伴って生じた運転停止期間(事情変更後の審査・準備期間を含む)」について

原子炉等規制法の改正法は2012年9月19日に、条文の多くが施行されているが、特定重大事故等対処施設(特重)については5年間の猶予が設けられていて、その間に短期間再稼働した原発もある。

では基準日は2017年9月以降を指すのか、判然としない。震災で止まったものはその日だとしたら、制度改正までの空白期間はどう考えるのか。

計算可能な最大期間を取れば東海第2が震災で止まって以降動いていないので2011年3月11日を基準日とすると、仮に2024年9月に再稼働をした場合13年6月を加算して実に73年6月も稼働することができるということになる。

その2「東日本大震災発生後の行政命令・勧告・行政指導等に伴って生じた運転停止期間(事業者の不適切な行為によるものを除く)」について

事業者の不適切な行為以外で、行政機関が「運転停止」を命じたり、指示したりするなどあり得ないし、できない。法律の根拠もなく、そのようなことをしたら訴訟になるだろう。

これまでの経過で考えられるのは浜岡原発が民主党政権時代に菅直人首相の要請で停止したことくらいだが、これもその後、炉規法改正によって止まっているのだから、わざわざこんな規定を設ける理由がない。これは意味がわからない規定だ。

その3「東日本大震災発生後の裁判所による仮処分命令等その他事業者が予見しがたい事由に伴って生じた運転停止期間(上級審等で是正されたものに限る)」について

脱原発を目指す訴訟による差止(本訴では勝訴しない限り止められないし、それで止めた例はないが、仮処分の場合は即時止めることができる)への対抗手段として出てきたものだ。しかし上級審で覆されたとしても、いったんは司法の場で差止の判断が成されたことを、遡って事実上訴訟の効力がなかったことにしようとするものであり、三権分立の司法権への侵害で違憲だ。(つづく)

本稿は『季節』2023年春号(2023年3月11日発売号)掲載の「『原発政策大転換』の本命 60年超えの運転延長は認められない」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◎山崎久隆「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない
〈1〉唐突に原発推進が目玉政策に
〈2〉原発の運転延長の狙うものはなにか

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東京電力福島第一原発事故から12年が経過した。岸田文雄政権は、それまでの「原発依存からの脱却」の方針を捨て、原発推進へと大きく舵を切った。原発の安全神話により過酷事故が起きた「福島の教訓」を忘れた暴挙といわざるを得ない。このままでは将来に大きな禍根を残すだろう。

政府は今国会で原子炉等規制法(炉規法)や電気事業法(電事法)を改正する予定だ。(※5月31日、炉規法、電事法、原子力基本法など5法を一括して改正すら「GX脱炭素電源法」が参院本会議で自民、公明、日本維新の会、国民民主の各党の賛成多数で可決、成立した。)

そのうちの最も大きな変更点は、現在最長60年とされている原発の運転年数を事実上無制限化する「原発延命政策」である。これは老朽炉を酷使するだけであり、およそ政策とさえ呼べない乱暴なものだ。しかも、その運転延長年数には「長期運転停止期間」と、世界にも例のない不定形の延長期間を持ち込もうとしている。

◆唐突に原発推進が目玉政策に

「GX実行会議」で原発の新増設や運転期間延長など政策大転換を決定したのは昨年12月22日。

「エネルギーの安定供給と気候変動対策」を名目とするが、その根拠は極めて薄弱。原子力に依存する産業界や原子力ムラへの貢献が最大の理由だ。

国の将来を左右するエネルギー政策の大転換を、非民主的な方法で決めるプロセスにも正当性はない。政府自ら作り出した「エネルギー危機」を理由とするマッチポンプ式でもある。

そして次世代型原発の開発や建設との実現性のない構想を加えて、あたかも「安全な原発による推進」であるかの偽装までしている。2011年の東京電力福島第一原発事故後の「可能な限り原発依存度を低減する」との方針は、事実上放棄された。

この政策は、内閣府の「GX実行会議」という場で決められた。GXとは、「グリーン・トランスフォーメーション」のことだという。

「過去、幾度となく安定供給の危機に見舞われてきた我が国にとって、産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する、戦後における産業・エネルギー政策の大転換を意味する」と、GXは説明されている( 「GX実現に向けた基本方針」より)。

これがどうして原発推進に姿を変えるのか。原発がクリーンエネルギーなど「3・11」以前の安全神話時代の妄想でしかない。

福島第一原発事故で広大な地域が汚染され最大16万4千人余が避難を余儀なくされた。今も傷は癒えず、 「震災関連死」と呼ばれる犠牲は増え続けている。なかったかのような議論の進め方は、あまりにも酷い。

首相が原発政策転換の意思を示したのは8月末、経産省が原子力小委員会などで報告書を急造し、4カ月後のGX会議で方針が決まる。このドタバタの動きは、昨年2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻でエネルギーコストが急上昇し、世界的に原発を再評価する動きが始まった時期に付合し、機会を逃すなとばかり原子力推進派が原発活用政策をねじ込み、GX会議に押し込んだのだ。

GX会議には電力会社や既存の大企業の代表者が中心で構成されており、議論は非公開。不透明極まりない。すでに進行している電力自由のもとで電力市場で競争にさらされる日本の電力会社は、いまさら原発の新増設に投資することは難しい。

さらに、次世代と銘打った原発は、すでにフランスのアレバ社が建設を進めていたが、1基あたり1兆円を超える巨額の建設費と困難な建設工事で、政府が推進方針を示しても進まない状況が続いている。日本で同様の次世代原発を導入しようとしても同じ困難に直面することは明らかだ。

このような「エネルギー危機」は自然エネルギーシステムを中心にした分散型のシステムの開発や電源システム改革で、十分まかなえるものだ。

結局、電力会社にとって最も有利な、既存の原発をできる限り使い続ける方針が政策の本命とみて間違いない。(つづく)

本稿は『季節』2023年春号(2023年3月11日発売号)掲載の「『原発政策大転換』の本命 60年超えの運転延長は認められない」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

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現在、世界で稼働中の原発は434基(2021年)である。2011年の福島第一原発震災後、廃炉になった原発と新たに運転開始した原発の数では、廃炉の方が多い。つまり十年間で基数は減っている(2011年1月時点で441基、2021年1月時点で434基、「世界の原子力発電開発の動向2021年版」原子力産業協会より)。

廃炉になった原発と新規原発では出力が違うので、総出力は史上最大レベルにはなっている。

世界の全電力生産量に占める原発のシェアは2019年には10.4%だが、2010年時点では12.8%だったので、これも大きく減少している。全世界のエネルギー供給量が増大しているのに原発はそれに比して増えていないことを意味している。

現在、運転年数が40年を超える原発が毎年数十基ずつ増えてくる。これを延長するか、代替する原発を建設しない限り、現状維持すら不可能だ。

原発を大量建設した時代、70年代から80年代のツケが、今後は回ってくる。このままだと自然に脱原発になってしまうので原子力産業は運転延長や新規立地の大義名分を大急ぎで作り出さねばならなくなった。

そんな背景があるから、原発を「グリーン」投資の対象となる産業のリストに加えることにしようとしている。

大きなインセンティブを与えなければあまりにリスクが大きいため誰も投資したがらない。

現在の規模を維持する程度に進めるのであれば、それは可能かもしれない。

電力需要の1割程度を原発で賄う。原子力産業の維持目標である。具体的には、80年代に運転開始した原発が40年を超えつつあるから、これらを延長運転して20年ほどは持たせようとしている。また、運転認可の更新回数に制限は設けられていないため(日本の場合は1回限り)さらに20年延長し、80年運転を目指す原発もある。

米国原子力規制委員会は2018年3月22日に、ターキーポイント3・4号機(PWR80万キロワット)の二度目となる20年間の延長運転(SLR)の申請を許可した。最初の80年運転原発を目指している。

米国でも原発の運転年数を40年と定めているが、ほとんどの原発が20年の運転延長申請を行うことで60年運転を推進している。現在、米国で運転中の94基(2021年1月1日現在)の原発のうち60年の延長運転許可を得ている原発は86基に達している(電事連 「海外電力関連 トピックス情報」2018年4月2日)。

米国は大量廃炉時代に入り始めていることから、原発のシェアは急降下することが確定的だ。そのため延長運転の推進と、老朽化や経済性の喪失で廃炉になる原発の代替として、新型炉の建設を進めようという計画もある。

しかし延長運転は大変危険だ。原発の寿命を40年としているのは、交換不可能な原子炉圧力容器などの設備については十分な安全性を維持することが可能な範囲として40年が想定されているからだ。それを60年、80年と延長すれば劣化が進み破損する危険性が高まる。

80年も使える電気ケーブルなどない。最初から全部交換可能な敷設方法でも採っていなければ使えないはずだ。

80年も動かす計画ではなかったのだから、無理に無理を重ねる結果にならざるを得ない。日本も米国も、ケーブルの劣化問題の重大さは変わらない。(完)

本稿は『季節』2022年春号(2022年3月11日発売号)掲載の「原発は「気候変動」の解決策にはならない」を本ブログ用に再編集した全3回の連載記事です。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年夏号
NO NUKES voice改題 通巻36号 紙の爆弾 2023年7月増刊

《グラビア》原発建設を止め続けてきた山口県・上関の41年(写真=木原省治
      大阪から高浜原発まで歩く13日間230Kmリレーデモ(写真=須藤光男

野田正彰(精神病理学者)
《コラム》原子炉との深夜の対話

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》核のゴミを過疎地に押し付ける心の貧しさ

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》司法の危機 南海トラフ地震181ガル問題の重要性
《インタビュー》最高裁がやっていることは「憲法違反」だ 元裁判官樋口氏の静かな怒り

菅 直人(元内閣総理大臣)
《アピール》GX法に断固反対を表明した菅直人元首相の反対討論全文

鮫島 浩(ジャーナリスト)
《講演》マイノリティたちの多数派をつくる
 原発事故の被害者たちが孤立しないために

コリン・コバヤシ(ジャーナリスト)
《講演》福島12年後 ── 原発大回帰に抗して【前編】
 アトミック・マフィアと原子力ムラ

下本節子(「ビキニ被ばく訴訟」原告団長)
《報告》魚は調べたけれど、自分は調べられなかった
 一九五四年の「ビキニ水爆被ばく」を私たちが提訴した理由

木原省治(上関原発反対運動)
《報告》唯一の「新設」計画地、上関原発建設反対運動の41年

伊藤延由(飯舘村「いいたてふぁーむ」元管理人)
《報告》飯舘村のセシウム汚染を測り続けて
 300年の歳月を要する復興とは?

山崎隆敏(元越前市議)
《報告》原発GX法と福井の原発
 稲田朋美議員らを当選させた原発立地県の責任

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山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点

原田弘三(翻訳者)
《報告》「気候危機」論についての一考察

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家)
《対談》戦後日本の大衆心理【後編】

細谷修平(美術・メディア研究者)
《映画評》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈3〉
 わすれてはならない技術者とその思想 ──『Winny』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
《報告》今、僕らが思案していること

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
《報告》亡国三題噺
 ~近頃“邪班(ジャパン)”に逸(はや)るもの
  三重水素、原発企業犯罪、それから人工痴能~

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
《報告》山田悦子の語る世界〈20〉
 グローバリズムとインターナショナリズムの考察

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の全力推進・再稼働に怒る全国の行動!
福島、茨城、東京、浜岡、志賀、関西、九州、全国各地から

《福島》古川好子(原発事故避難者)
福島県富岡町広報紙、福島第一廃炉情報誌、共に現地の危険性が過小に伝えられ……
事故の検証と今後の日本の方向を望んでいるのは被害者で避難者です!
《東電汚染水》佐内 朱(たんぽぽ舎ボランティア)
電力需給予備率見通し3.0%は間違い! 経産省と東電は石油火力電力7.6%分を隠している! 
汚染水の海洋放出すべきでない!
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
運動も常に情報を受信してすぐに発信することが大事
4月5日定例の日本原電本店行動のできごと
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
中電が越えなければならない「適合性審査」と「行政指導」
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」事務局)
団結小屋からメッセージ付き風船を10年余飛ばし続けて
《高浜原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「関電本店~高浜原発230kmリレーデモ」に延べ900人、
「関電よ 老朽原発うごかすな!高浜全国集会」に320人が結集
《川内原発》鳥原良子(川内原発建設反対連絡協議会)
「川内原発1・2号機の九電による特別点検を検証した分科会」まるで九州電力が書いた報告書のよう
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
原発延命策を強硬する山中原子力規制委員会委員長・片山規制庁長官
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『3・11 大津波の対策を邪魔した男たち』(島崎邦彦・青志社)

反原発川柳(乱鬼龍選)

龍一郎揮毫

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