3月30日、神戸の甲南大学岡本キャンパスで「神戸質店事件」のシンポジウムが開催され、東住吉事件の青木恵子さんと参加してきた。今回のテーマは「目撃証言」。主催は、KONANプレミアプロジェクト「多分野の力を結集して『えん罪救済』に取り組むプロジェクト」。


◎[参考動画]19年前の強盗殺人「神戸質店事件」 大学生らが“冤罪被害を考えるシンポジウム”開催(MBSニュース 2024年3月30日)

◆神戸質店事件とは

「神戸質店事件」とは2005年、神戸市内で発生した質店店主の強盗殺人事件で、緒方秀彦さんが逮捕されたのは、事件から1年10ケ月後。緒方さんは交通違反の反則金を払わずに逮捕されたが、警察で取られた指紋が殺害現場に残されていた指紋と一致したからだ。その後、同じく現場に残された靴底の跡と、現場に残された煙草の吸い殻から採取したDNA型が緒方さんのものと一致した。

逮捕当初、緒方さんはその現場を訪れたことはないと言っていたが、徐々に2年前の記憶を呼び起こす。あの日、緒方さんは仕事途中、煙草を買おうと質店前の煙草の自販機前にいた。

すると自販機を管理する質店店主が緒方さんの車の荷物などを見て「兄ちゃん、電気屋か? 店に防犯カメラを付けられるか?」と尋ねてきた。緒方さんは「弱電ですわ」といい、店主に渡された建築書類などを見ながら、店内外の配線などを見て回った。

その後、店の奥にいる店主に誘われ、一緒にビールを飲んだ。防犯カメラ工事の「商談」が済んでいないこともあった。そのうち店主は自分の女関係の自慢話を始めたうえ、防犯カメラは既に知り合いの店に依頼しているというので、緒方さんはまもなく退去した。その日の夜、店主は何者かに殺害され、翌日家族によって遺体が発見されたという経緯だ。 

当日の夜8時頃、質店付近で不審者を目撃した男性がいた。男性は不審者について、目が鋭く、短髪、顔はある野球選手に似ていると警察に話した、しかし、一瞬のことであったため、警察署での面割(多数の写真が入った台帳から特定の人物を割り出すこと)で不審者を特定することはできなかった。それから1年10ケ月後、逮捕された緒方さんの写真が入った台帳から、男性は緒方さんを「犯人だ」とした。

果たしてこの目撃証言は正しかったのか? 一方、男性は一審で縮れ毛の緒方さんを見て「目の印象は似ているが髪型は違う」と証言した。結局、緒方さんと犯行を結びつける証拠はなく、一審は緒方さんに無罪を言い渡す。

その後、大阪高裁の控訴審は、緒方さんの証言を信用できないとしながら本人尋問も行わないまま、緒方さんに無期懲役の逆転有罪判決を言い渡したのだ(ちなみに裁判長は、検察が起訴したのだから犯人だと決めつけ、有罪判決を下すことで有名な小倉正三氏だった)。

◆厳島行雄教授の講演と甲南大IPJ(イノセンス・プロジェクト・ジャパン)の実験

シンポジウムでは、刑事事件における供述者の供述の信用性を心理学の立場から研究する厳島行雄人間環境大学教授から、目撃証言の取り扱いや問題点などが説明された。

「神戸質店事件における目撃者供述の心理学評価~フィールド実験からのアプローチ」と題して講演を行う厳島行雄教授

その前に、甲南大の笹倉香奈教授らが取り組む「イノセンス・プロジェクト」とは1990年代にアメリカで始まった民間活動だ。そこで、服役中の人たちにDNA型鑑定を行ったところ、370人が無罪と判明、更に調べると、うち7割以上が目撃証言に誤りがあったことがわかった。そこで人間の目撃証言がどれだけ信用できるものか、様々な研究が行われてきた。

シンポでは、甲南大のIPJ(イノセンス・プロジェクト・ジャパン)の学生らが行った実験の結果が公表された。質店事件で男性が不審者を目撃したという場所となるべく似た場所を探して行われた大掛かりな実験だ。

当日、実験の目的を知らされずに集まった学生ら52人が、その現場で不審者に偶然出会ってもらった。しばらくしたのち52人にアンケート調査をすると49人が回答、実験で見た男性はどの人物かとラインナップから選んでもらったところ、立っていた男性を当てたのは7人しかいなかった。

しかも、うち6人は「もしかして目撃証言の実験ではないか」と思って参加したという。そこでこの6人を除くと、52人中1人しか男性を当てられなかったことになる。それほど人間の記憶は時間の経過とともに、様々な事情、環境に「汚染」されてしまうということだ。

緒方さんの弁護団、支援者は再審請求を準備中だが、そこで必要となる新たな証拠の一つに、この実験結果を更に深化させた内容を提出したいと考えているそうだ。

シンポジウムの様子

◆目撃証言の重要性

目撃情報も裁判では非常に重要だ。去年亡くなった桜井昌司さんの布川事件では、一審・二審で、犯行時刻頃、被害者宅の前に桜井さんと杉山さんがいたのを、50CCのバイクで走行中に目撃したとの男性の証言が採用され、有罪判決が下された。

しかし、これとは逆に桜井さん、杉山さん以外の人物を現場で見かけたとの重要な目撃証言が、再審請求審でようやく開示された。証言したのは杉山さんと面識がある女性で、立っていた男は杉山さんとは異なる体型の男性だったと証言していた。そして卑劣な検察は、桜井さん、杉山さんが犯人でないというこの証拠を何十年も隠し続けていたのだ。

警察、検察が刑事事件の目撃者に対して、嘘の証言を行わせていた事実が、3月27日明らかになった。1986年起こった福井市の女子中学生殺害事件で、逮捕、起訴され、有罪判決を受け、7年間の服役を受けた前川障司さんの第二次再審請求を求める三者協議の中でのことだ。

事件の経緯などの詳細は省くが、この事件では、前川さんの周辺の人たちが、前川さんを犯人にするために多数の嘘の証言を行っていた。証言者の中には地元のワルも多数おり、警察などに自分を良く思われたい、自分の非行行為、犯罪を見逃してもらいたいから警察の言いなりになったという人もいた。

27日、三者協議の法廷に出てきた男性は、一審では「事件当日、前川さんと会っていない」と証言したが、二審では証言を翻し「血のついた前川さんを見た」と証言した。前川さんは、神戸質店事件の緒方さん同様、一審では無罪だったが、二審で先のような証言により有罪となっている。

今回男性は「本当は前川さんには会っておらず、血のついた姿も見ていない」と証言したが、証言を翻した理由について、「一審後、自分の薬物犯罪で警察署に出頭した際、警官から『(前川さんの)控訴審で調書通りに話すなら見逃す』と持ち掛けられ、受け入れてしまった」と述べた。(ちなみにこの場合の「調書通りに」とは、警察、検察の見立てに沿って前川さんを犯人とするストーリーに沿ったという意味である)。男性は、控訴審で嘘の証言をしたのち結婚したが、その際警官から結婚祝いに送られた祝儀袋を証拠として提出した。

この男性の勇気ある証言は、前川さんの再審請求を前に進める重要で強力な証拠になることに間違いはない。

それにしても日本の警察、検察、そしてまともに考えず彼らの言い分を鵜呑みにする裁判所はどうしようもなさすぎる。

当日のシンポジウムを準備・開催したIPJの学生たちが最後に集まり記念撮影。近く緒方さんの支援者が岡山刑務所で面会に行き、緒方さんに写真を見てもらうという

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733

拙著『日本の冤罪』が出版されてから数か月、この本がご縁で素晴らしい方々と出会うことができた。

昨年12月24日、出版記念の集まりではないですが、Swing MASAさん(サックス奏者)と冤罪関連の集まりをもった。MASAさんらの演奏、井戸謙一弁護士の貴重な講演、そして4組の冤罪犠牲者の家族、関係者のお話など非常に貴重な時間を過ごせた。終了後の親睦会で「国賠ネットワーク」の方から、2月24日東京での集まりに来てお話してとお誘いを受けた。

2月24日『日本の冤罪』の編集をお手伝い頂いた鹿野健一さんと約1時間対談をさせて頂いた。終了後の親睦会で会員の土屋さんが「3月3日大阪に行くので店に寄ります」と言われた。3月3日は金聖雄監督の新作「アリランラプソディー」の大阪試写会に招待されていたので、店はやってませんとお断りさせていただいた(この映画については、またきちんと書きます)。

だが、その際、数日前ピースクラブのかじさんが話していたことを思い出した。

「3日は大事なパーティーがあるのよ。甲山事件の支援をされていた方々の……」

私はその男性に「もしかして3日来られるのは大国町ピースクラブですか?」

「えっ、なぜ知っているの。だったら、そこへ来れば」と言われた。

が、私は多分あいまいな返事をしていた。

3日日曜日、試写会会場の「いくのパーク」にカオリンズと向かった、ていうか、連れてって貰った。会場は体育館でフラットなので、背の低い私は前の席に座った。入口から金洪仙(キムホンソン)さんがさっそうと入ってきて、隣に座る。

そして、「昨日は4つも行きたいイベントがあったけどどこにも行けなかった」みたいな話をして「今日はこのあとピースクラブに行くの」というので、「えっ?」とどんな集まりなのか説明してもらう。

長く続いている、濃いつながりの仲間の寄りあいのようだ。私はホンソンさんに「東京でお会いした冤罪関係の方に『来れば』と言われてけど」と話し、たぶん辞めておくわと言ったと思う。

私は「アリランラプソディー」を見たあと、どうしてもキムチが食べたくて、鶴橋に寄ったら必ず寄る韓国料理の店で味噌チゲを食べ、「アリランラプソディー」のパンフを見ながらまったりビールを飲んでいた。

するとパーティーの準備などで早めにピースクラブに行っていたホンソンさんから「参加者名簿に『尾﨑美代子』とあるよ」と連絡がきた。「えっ? どうしよう」。

しばらく思案したのち、家に帰れば、東京にもっていった『日本の冤罪』20冊の残り6冊があるはず……急いで帰れば間に合うか。本を売りたい、いや、紹介したいと思ってしまい、急いで帰ってピースクラブに行く。いや、行った目的は本を売りたいためだけではないですが。その日の様子は金洪仙さんのFacebookの投稿を読んでください。

結果、素晴らしい人たちと出会うことが出来た。更に早めに帰るつもりが23時までいてしまった。私が余り知らなかった甲山事件について、甲山事件の弁護人の一人であり、私が大尊敬していた故・片見冨士夫弁護士のお話をたくさんお聞きすることができた。

なお、この寄りあいでは、もうひとつ、驚くような出会いというか、再会場面があったが、それはまた別の日に……。

連絡をくれ、繋げてくれた金洪仙さんに大感謝です!!

写真[左]石橋義之さんが長年作ってきた「ばじとうふう」に執筆してきた仲間の皆さんの寄り合いに参加することが出来た/[中央]3月3日の素晴らしい寄り合いに誘って下さった「国賠ネットワーク」の土屋翼(つちやたすく)さん/[右]3月3日午後から生野区「いくのパーク」で開催された「アリランラプソディ」試写会後あいさつする金聖雄(キムソンウン)監督

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

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横浜副流煙事件の「反訴」で、被告A妻(3人の被告のひとり)の本人尋問が行なわれる公算が強くなった。しかし、A家の山田弁護士は、A妻の体調不良を理由として出廷できない旨を主張している。最終的に尋問が実現するかどうかは不透明で、3月11日に原告と被告の間で裁判の進行協議が行われる。

副流煙の発生源と決めつけられた音楽室と、「被害者」宅の距離を示す現場写真

裁判では、作田医師が被告3人のために作成した診断書が争点になっている。これら3通の診断書は患者が自己申告した病状に重きを置いて、化学物質過敏症、あるいは「受動喫煙症」の病名が付された。それを根拠として、約4500万円を請求する前訴が提起されたのである。従って診断書が間違っていれば、提訴の根拠もなかったことになる。

つまり診断書の作成プロセスが問題になっているのだ。言葉を返ると、患者の希望に応じて作成した診断書に効力はあるかという問題である。

この「反訴」の発端は、2017年の秋にさかのぼる。

横浜市青葉区のすすき野団地に住むミュージシャン藤井将登さんは、自室で煙草を吸っていたところ、副流煙が原因で、化学物質過敏所に罹患したとして、上階の斜め上に住むAさん一家(A夫、A妻、A娘)から、約4500万円の損害賠償請求を受けた。しかし、将登さんが喫煙していた部屋は、防音構造が施されている音楽室で、煙は外部にもれない。しかも、喫煙量は1日に2、3本程度だった。さらに将登さんは留守がちだった。A家が主張する副流煙の発生源に十分な根拠がなかった。

それにもかかわらず原告(「反訴裁判の被告」)は、将登さんの煙草が原因で、化学物質過敏症になったと主張し、高額な金銭を請求したのだ。

裁判所はA家の訴えを棄却した。控訴審でも、A家の訴えは一切認められなかった。

将登さんは勝訴の確定を受けて、2022年3月にA家が起こした裁判はスラップに該当するとして、損害賠償裁判を起こした。これが現在進行している「反訴」である。この裁判の原告には、将登さんの他に、妻の敦子さんも加わった。さらに3人の診断書を交付した作田医師については、被告に加えた。

裁判は順調に進み、証人調べの人選の段階に入った。藤井さん側は、A夫の尋問を求めたが、A夫の山田弁護士は体調不良を理由に出廷はできないと主張した。しかし、藤井敦子さんは、A夫が戸外を歩いている場面をビデオに撮影して、山田弁護士の主張が事実に基づかない旨を主張した。

しかし、平田裁判官は山田弁護士の意見を重視して、A夫の尋問は行わない決定を下した。

これに怒った将登さん側は、平田裁判官に対する忌避を申し立てた。忌避の審理には、上級裁判所での審理も含めて、約1年を要した。結局、忌避そのものは認められなかったが、平田裁判官はA夫の尋問を決めた。

山田弁護士は、やはりA夫の尋問は難しい旨を説明した。医師の診断書も提出した。そこで藤井さんの側は、代案としてA妻の尋問を求めたのである。平田裁判長は、判断に迷ったようだが、最終的にそれを認めた。

こうしてA妻の尋問が実現する公算が高くなったが、山田弁護士はA妻の体調不良を理由に、出廷できないと主張している。既に述べたように、裁判の進行協議は3月11日に行われる。

作田学医師が交付したA妻の診断書。根拠なく副流煙の発生源を特定している

※このところ一部の市民団体が化学物質過敏症の患者数を誇張して報じている。化学物質が人体に有害な影響を及ぼすことは、紛れもない科学的な事実で、規制も必要だが、実際の患者数については慎重に検討しなければならない。誇張があってはならない。横浜副流煙事件のような「冤罪」を生む可能性があるからだ。

たとえば市民団体代表の加藤やすこ氏は、「あたらしい年は香害のないきれいな空気で過ごしたい」(『週刊金曜日』2月9日)の中で、化学物質による被害の実態について次のように述べている。

香害に関する情報発信などを行うフェイスブック「香害をなくそう」は、2022年に移香で困っていることについてWEBアンケートを実施した。

回答者600人のうち、「家の中に入る人や、近隣からの移香や残留で、家の中が汚染される」は、90.9%で、「外出先の空間や人から移香して汚染される」は90.0%……

有病率を明記しているわけではないが、香による被害を殊更に強調している。数値に客観性があるのか否かを慎重に検討しなければならない。

この件については、別稿を準備している。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』(鹿砦社)

2月24日、国賠ネットワーク交流集会が東京・水道橋のたんぽぽ舎で開かれます。詳細は下記の案内をご参照ください。

この日は昨年、本社から『日本の冤罪』を出版された尾﨑美代子さんと、本通信にも執筆している鹿野健一(ペンネーム田所敏夫)さんが招かれ『日本の冤罪』について対談が行われます。ご興味のあるかたは是非お出かけくださいますようご案内いたします。ただし、会場の都合上残席はわずかで、先着順とのことです。

『日本の冤罪』出版に当たっては、昨年12月24日に大阪でも集会が行われ、同書に推薦文を寄せていただきた井戸謙一弁護士をはじめ、冤罪事件被害者のみなさんも集まり、大いに盛り上がりました。当日も尾崎さんと鹿野さんの対談が行われましたが時間の関係で10分ほどでした。今回は約1時間にわたる対談が予定されています。

第33回 国賠ネットワーク 交流集会
『日本の冤罪』を語る : 尾﨑美代子さん & 鹿野健一さん
2024年2月24日(土)13:30~17:00 ■スペースたんぽぽ(たんぽぽ舎)

◎国賠ネットワーク https://kokubai.net/

国賠ネットワーク さまざまな国賠裁判を結ぶネットワークは1989年に立ち上げられました。国賠裁判とは、国や自治体の公務員から不当な被害を蒙った人々が、その責任を追及し、謝罪や賠償を求める訴訟です。無実の罪で逮捕・勾留・起訴された冤罪被害者を中心に、国賠を闘う原告や支援グループの、穏やかな連携と支援交流を目指すネットワークです。

◆交流集会 年に一度、それぞれの国賠の当事者・支援者が集まって、互いに報告し、語り合い、情報や知恵を共有する全国的な交流集会です。①東住吉冤罪国賠、②星野獄中死国賠、③大垣警察市民監視国賠、④湖東病院事件・西山国賠、⑤よど号旅券発給拒否国賠&産経新聞損賠、など当事者から現状についての報告を予定しています。

◆特別対論 最新刊『日本の冤罪』の著者・尾﨑美代子さんに、フリーライター・鹿野健一さんがお話を伺います。尾﨑さんは足を使い、渦中の人に会って話を聞き現場に出向き、更には住み込んでその複雑さの中に身を置き考える。このように肌の感覚をとことん味わい、言葉で伝えようとする人は意外に少ない。集会に多くの諸兄姉が参加し、彼女の話に耳を傾けていただきたい。

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

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◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733

凄いニュースなのに、大きなメディアではほとんど報道されない。既に死刑が執行された飯塚事件の再審請求審で、次々と死刑執行された男性が犯人でない可能性のある証拠が出ているのに。話題にならないとは?

32年前福岡県飯塚市で女児2人が失踪、翌日遺体が発見された飯塚事件、私はこの事件を詳しく見ていなかったが、今回改めて調べてみた。事件発生から2年後久間三千年さんが逮捕。久間さんは一貫して否認していたが、2006年最高裁で死刑が確定、そのわずか2年後2008年に死刑が執行された。

実は同じ年、飯塚事件で用いられたDNA鑑定と同じの手法で実施されていた足利事件のDNA鑑定が間違っているのではないかと問題になっていた。(実際足利事件の菅家さんは2009年4月にえん罪と判明した)。久間氏の死刑執行はそれが判明して1週間後だった。

2009年10月28日、久間氏の遺族は福岡地裁に第一次再審を請求。足利事件のDNA再鑑定を行った大学教授による鑑定書を新証拠として提出した。しかし2014年福岡地裁は再審請求を棄却、2018年福岡高裁も即時抗告を棄却し、最高裁も特別抗告を棄却した。

2021年7月9日、遺族は第二次再審を請求した。新たな証拠として、事件当日、後部座席に女児を乗せた車を目撃した男性Aさん(74歳)の証言が出された。Aさんは、2023年5月31日、非公開の証人尋問のあと、弁護団とともに実名・顔出しで会見に応じた。Aさんは、女児2人が失踪した日、女児を後部座席に乗せた白いワンボックスタイプの車を目撃したと証言した。運転していたのは、久間さんではない、30~40歳位、色白、5分刈の短髪、頬身の体形だったという(当時久間さんは50歳)。女児の一人は恨めしそうな今にも泣きそうな表情だったという(20年あと女児の写真を見たAさんはあの時の子だと確認する)。

実はAさんは、ニュースで女児2人が行方不明になったことを知り、すぐに警察に通報していた。2月26日か27日に事情を聴きにきた警察官に、Aさんが見た白い車と運転していた男の話をした。しかし、警察はAさんに「紺色のワンボックスカーではないか」と聞いたという。

3月2日、女児らの遺留品発見現場の近くで久間さんの車と特徴が似ている車を見たという男性Bさんが現れた。つまり、2月26日か27日にAさんに「紺色の車ではないか」と聞いた警察は、その証言者が出てきた3月2日前から犯人は紺色のワンボックスカーに乗る人物と目星をつけていたことになる。久間さんの車はそれと同種だった。Bさんの供述は3月9日以降「車種はトヨタや日産ではない」「後輪がダブルタイヤだった」「ガラスにフィルムを貼っていた」など、どんどん久間さんの車と細部が似ている供述にかわっていった。捜査員は、最初から久間さんを犯人ときめつけていたのだ(それには理由があるが、ここでは省く)

しかも、そのAさんは気になり、その後久間さんの初公判を傍聴した。前から2列目の席からだ。被告人席には、白い車に乗っていた男とは別人の久間さんがいて、驚いたという。

実は2月15日、再審請求審の三者協議でまたまた新たな証拠が出された。女児2人が失踪した日、通勤途中に登校中の女児2人を見たという、実質、被害者の最後の目撃者だった女性が、当時の証言を翻し、「(女児を)見たのは別の日で、その日は見ていないと伝えたが、捜査員に『いや見たんだ』と押し切られたという事実だ。証言を「翻す」というより、捜査員に見ていないと伝えても『いや見たんだ』と押し切られていたことを明らかにしたということだ。

これは実によくあることだ。京都俳優放火事件で無期懲役を下された平野義幸さんは、自宅の2階で火災が発生、前日から泊まりにきていた彼女が2階にいる。あれこれ消火活動を行った平野さんだが、表に出て周囲に助けを求める。一方、平野さんは何度も燃えさかる家に入り、彼女を助けようとする。

しかし、それ以上中に入ったら、平野さん自身が危ないと考えた近所の人たちが「このままではよし君(平野さん)が危ない」と皆で平野さんの背後から「膝カックン」して倒したりした。よくケンカするなどで、評判がそうそうよくなかった平野さんだが、近所の人たちは必死で平野さんを守ろうとした。そのことを警察に話したが、判決は平野さんが何もせず、彼女を見殺したかのような内容になっている。

あるいは、姫路の花田郵便局強盗事件で犯人とされたジュリアスさんは、ジュリアスさん所有の倉庫は、昼間鍵がかけられず、誰でも入れた状態だったのに、裁判ではジュリアスさんしか鍵を開けれなかった、ほかの人は入れなかった、だから倉庫内に盗んだ現金などを隠せたのはジュリアスさんしかいないとされた。のちに倉庫の貸主の女性が、「入口は開いてて、誰でも入れた」と証言している。

桜井昌司さんが「逆えん罪」と称した、西成の女医矢島祥子さんの不審死事件では、取り調べられた彼女の関係者の話を直接聞いたことがある。仕事を休んで警察にいくと、捜査員から「矢島さんは自殺したんだが……」云々で始まる調書を取られたという。知人女性は矢島さんの死が自殺とは思えないため、何度そう言われても否定していた。しかし、「矢島さんは自殺したんだが……」を認めないと取り調べが終わらない。彼女は何度も警察に呼ばれ、そのたび仕事を休まざるを得ない。仕方なく、最後はその調書にサインしたという。

それにしても、この冤罪事件はどう決着つけるのか? 久間さんはもう国に殺されている。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

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ISF独立言論フォーラム編集長の木村朗さんから、動画出演の依頼を頂いたのは昨年11月だ。元鹿児島大学で教授をされてた木村さんは、その後ジャーナリストとして、様々な平和問題に携われ、同フォーラムでそれぞれの運動に携わる方々を取材した動画を公開している。

私の場合、拙著『日本の冤罪』のなかから、一つ一つの事件について木村さんからインタビューを受けることとなった。ちなみに木村さんは、鹿児島大学に赴任中、冤罪・志布志事件の支援に関わっておられたそうだ。

1回目(昨年)は、『日本の冤罪』の冒頭に掲載された桜井昌司さんとの対談と「布川事件」、そして木村さんからのリクエストで「高知白バイ事件」についてお話させて頂いた。全4回にわかれていますが、何しろこうした取材は初めてなので、不慣れなしゃべりとなっております。

2回目(2月7日収録)では、「湖東記念病院事件」について話して下さいとリクエストを頂いた。その際、木村さんから「ちょっとわかりにくい点があるんです」と何点か質問を頂いていた。木村さんが質問された内容は、たしかに本著では書ききれていない。本著の記事については、湖東記念病院事件の主任弁護士の井戸謙一弁護士に最終確認はしているが、字数の関係などで全て書き切れておらず、なかなかわかりにくい点があった。

木村さんの質問になるべく答えるべく、収録までの数日間、私は必死でそれまでの関係資料を読み込んだ。特に読み込んだのは、動画内で紹介している『冤罪をほどく “供述弱者”とは誰か』(中日新聞編集局 滋賀・呼吸器事件取材班デスク秦融氏)だ。この事件が「冤罪」であると社会的な世論が高まる前に、西山さんのご両親から西山さんの手紙をみせてもらった中日新聞記者らが「彼女は犯人ではないのではないか?」と思ったところから、取材は始まった。

表紙にある「私は殺ろしていません」という文字に表れているように、送り仮名に間違いはあるものの、西山さんは患者さんを殺害していないことを、手紙で必死に綴ってきた。そこから、取材班は家族、弁護団と連携しながら、刑務所内での精神鑑定を実現し、西山さんに軽度の知的障害や愛着障害があることを解明していく。そして、西山さんの自白調書が滋賀県警の山本誠刑事に恣意的に作成されたことを……。山本誠刑事の劇画チックかつ盛りに盛りすぎた調書が全く嘘であったことがばれていく……。

そんなお話をさせて頂きました。ぜひ、ご視聴をお願いいたします。


◎[動画]日本の冤罪(2)湖東記念病院事件~再審無罪後も続く警察・司法の違法な追い打ち~[前半]独立言論フォーラム(ISF)


◎[動画]日本の冤罪(2)湖東記念病院事件~再審無罪後も続く警察・司法の違法な追い打ち~[後半]独立言論フォーラム(ISF)

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

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◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733

1月18日、ある動画がYouTubeで公開され、話題を呼んだ。筆者も初めて見る映像だった。公開されたのは、ある刑事事件で「犯人隠避教唆」の疑いで逮捕され、有罪判決をうけた元弁護士・江口大和氏が、検察で取り調べられている映像だ。

江口氏は、逮捕時から一貫して容疑を否認、取り調べで黙秘した。しかし、横浜地検特別部の川村政史検事は、黙秘権を行使する江口氏に対して、延々と江口氏の人格を否定するような侮蔑的な発言を発し続けていた。動画は21日間約56時間に及んだ取り調べの映像を約13分に編集したものだ。

江口氏はその後、こうした取り調べは、憲法が保障する黙秘権を侵害する違法行為だとして、国に1100万円の国賠訴訟を提訴。動画は国側の証拠として開示されたものだ。

動画は、川村検事の後方から撮影しており、正面に江口氏が映っている。川村検事は机を叩く、怒鳴るなどはしないものの、「がきだよね、あなたって」「ぼくちゃん」「おこちゃま」「もともと嘘つきやすい体質なんだから」「詐欺師的な類型の人に片足突っ込んでる」などと江口氏をひたすら罵倒し続ける。江口氏が取り調べを中断しトイレに行き、席に戻った際には「取り調べ中段してすいませんでしたとか、いうんじゃねえの、普通」「あんた、被疑者なんだよ」などとイヤミをいう。

江口氏の弁護人・趙誠峰弁護士は公開前、ブログで「憲法が黙秘権を保障していることの意味は、権利を行使する人に対して、取り調べと称してこのような罵詈雑言を浴びせることは許されないということではないか」と書き、動画公開に踏み切った理由を「実際に行われている『取り調べ』が、いかなるものかを多くの人にみてもらう必要があると思ったからです。そのなかで、黙秘権を行使することの意味(黙秘権を行使しても、このような取り調べが20日以上も続く現状が、黙秘権侵害といえないのか)を考えてもらいたいと思ったからです」と述べた。


◎[参考動画]取り調べで「ガキ」「僕ちゃん」 検察官発言、法廷で再生 黙秘権巡る訴訟・東京地裁(時事通信映像センター 2024年1月18日公開)

2019年、業務上横領の容疑で逮捕、起訴され、2021年10月28日、裁判で無罪判決を勝ち取った東証一部上場企業プレサンスコーポレーション元社長の山岸忍氏が、国を相手に訴えた国賠訴訟で、同じく取り調べ動画の公開を請求した。

昨年9月19日、大阪地裁は、山岸氏の部下Kを取り調べた録画録音記録約70時間のうちの約18時間分の提出を国に命じた。そこには、検事がKに「あなたはプレサンスをおとしめた大罪人」などと迫った場面が含まれる。裁判では、山岸氏の有罪を立証するKの供述の信用性が問われ、山岸氏は無罪となった。

地裁判決は「違法な取り調べの立証には、検事の口調や動作といった要素も重要。映像は最も適切な証拠だ」として国に提出を求めたが、検察は控訴。1月22日、大阪高裁は、動画の重要部分を非公開とする決定を言い渡した。そこからは、検察官が机を叩いて一方的にKを怒鳴り続けたシーンが削られてしまっているという。山岸氏はこれを不服として、現在、最高裁に不服申し立てを行っている。

現在、筆者が取材を始めたこの事件は、2008年発覚した郵便不正・厚労省元局長事件(村木事件で、村木厚子さんを冤罪犠牲を強いた大阪地検特捜部が新たにつくった冤罪事件だ。学校法人明浄学園の運営する校地の売却代金21億円を、当時の理事長・大橋美枝子氏らが横領した事件で、山岸氏と部下のK氏、山岸氏が懇意にしていた不動産会社社長Y氏も共謀で逮捕、起訴された。

大阪地検特捜部は、K氏・Y 氏の虚偽供述に基づき山岸氏を逮捕した(Y氏はその後虚偽供述の撤回を検察に求めたが叶わなかった)。山岸氏は、個人資産18億円を貸し付けたのはあくまでも学校法人であり、大橋氏らの横領などに関わってないと一貫して無罪を主張した。

山岸氏の逮捕後、弁護団が客観的証拠などを検討してみると、じっさいには学校法人がお金を借り入れるという内容の文書やメールなどが多数存在していた。これはK氏の供述と完全に矛盾するものだった。

では、なぜK氏は世話になった山岸氏を罪人に落とし込めるような虚偽供述をしたのか? その後、弁護団が多くの証拠を開示させていくなかで、K、Y両氏の取り調べの録音録画の内容が明らかになってきた。記録は、K氏で21日間のうち20日計73時間半、Y氏も同じ日数で計69時間にも及んでいた。

接見にきた弁護士が山岸氏に「山岸さん、Kの取り調べで田淵大輔検事が怒鳴っているシーンがあったんだよ」「昨日観た場面では田淵検事がバンバン机をたたいてKを威嚇していたよ」と報告、その一部を書き起こして山岸氏に差し入れた。

田淵検事はKに対して、「ウソだろ。今のがウソじゃなかったら何がウソなんですか」「ウソついたよね」「なんでウソついたの?」「これ以外にもウソいっぱいついているだろ、わたしに。これ以外にもわたしにウソいっぱいついたでしょ。私はあなたの良心にすこしかけてみた。わたしは悪いあなたがでてきたら、今みたいな弁護をすると思いましたよ。でも、あなたがウソをついたことを悔い改めたら、頭をさげると思ってました。でも、あなたはそれどころか逆ギレじゃありませんか。しかも、そんな怖い顔をして。悪びれるどころか、ウソの上塗りをしてきたよ。なんでそんなことができるの?なんでそんなことをするんですか?ほかにもウソをついているだろ」、そして、「あなたは、プレサンス社の評判を貶めた大罪人だ。会社から10億、20億ではすまされないほどの多額の損害賠償請求をされるが、それを背負う覚悟はあるのか」などと脅し、山岸氏の関与を認める供述を強要させていた。山岸氏は、この書き起こしを読み、元々気の弱い部下のK氏がどうして自分を陥れるような嘘の供述をするのかがようやく理解できたという。

一方、Y氏を取り調べた末沢岳志検事について、「悪質さは(田淵と)同等かそれ以上ではないか」と山岸氏はいう。末沢検事はY氏に「何度もいうように、山岸さんの関与が本当にあるんやったら、それ言わへんかったら、今のこの立ち位置だけからしたら、大橋さんと同じくらいYさんすごくこの件に関与した、非常に情状的にはやっぱりかなり悪いところにいるよということ。もう、お金貸して戻すところまで全部わかっているんだから」と、Y氏が山岸氏の関与を否定する供述を続けるならば、主犯の大橋と同じくらいの罪になると恐怖心を煽っている。

 

山岸忍氏の著書『負けへんで! 東証一部上場企業社長vs地検特捜部』(文藝春秋社)

そのうえで、「山岸さんが主導する、プレサンス側の意向があったから、これはもうやらなアカンのやというような話で、今回の件の21億円回して返済するところまでやったんやというんやったら、それはおのずと責任の重い軽いというのは、それは変わってくるでしょ」と、山岸氏の関与を認める「自白」をしたならば、Y氏自身の罪が軽くなると騙している。更にY氏は部下にまで罪が及ぶと脅され、いったん山岸氏が大橋氏個人へ貸し付けたと認める調書の作成に応じた。

その後Y氏は調書を撤回してほしいと検察官に懇願したが、撤回されず、検事からは「そんだけ言うんやったら、法廷でひっくり返したらよろしいやん」などと捨て台詞を吐かれていた。Y氏は公判で、先の虚偽の供述を撤回したうえで、末沢検察官から「山岸さんの関与を認めないと、自分の責任が重くなる。部下も逮捕されるということを仄めかされて事実とは違う内容の供述調書に署名してしまった」とはっきりと証言した。

そこで山岸氏の国賠では、こうしたK氏やY氏への取り調べを録音録画した記録を証拠として提出させることが重要になった。しかし、大阪高裁は最も重要な部分を非公開にするとした。

実は山岸氏の弁護団は、膨大な量の録画録音記録の書き起こしを専門業者に依頼せず、自分たちで行った。書き起こしながら、その取り調べ時の検事の口調、動作などを少しでも知る ためだ。筆者も山岸氏の著書『負けへんで! 東証一部上場企業社長vs地検特捜部』(文藝春秋社)で、その内容の一部は読んでいた。しかし、そこに冒頭の取り調べのシーンのように、音と動作が入ったならば、一層その迫力が増すというものだ。ぜひ、山岸氏の国賠訴訟で、その場面を見てみたい。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
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尾﨑美代子著『日本の冤罪』

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「松本人志」「旧ジャニーズ」で見えた変わらぬ大手メディアの忖度体質
米国マスコミが自主検閲で隠してきた2023年の重大ニュースTop25
シリーズ 日本の冤罪47 鶴見事件

連載
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シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
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裏から世界を見てみよう マッド・アマノ
権力者たちのバトルロイヤル 西本頑司
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1月30日午後3時すぎ、青木恵子さん(東住吉事件冤罪犠牲者)からLineが届く。

「ママ、名張事件が棄却されました。許せないです」。

1961年、三重県名張市の小さな村の公民館で行われた親睦会で、ぶどう酒を飲んだ女性5名が死亡、12名が重軽傷を負う事件が発生。村人の奥西勝さんが逮捕・起訴され、1972年、最高裁が上告を棄却、死刑判決が確定した。その後何度も闘われた再審請求。2015年、奥西さんが無念の獄死を遂げた(享年89歳)のち、妹の岡美代子さん(現在94歳)が請求人となり第十次再審請求を行ってきたが、最高裁は、1月29日付で再審開始を認めない決定を出した。

以前、青木さんとが岡さんと西山美香さん(湖東記念病院冤罪犠牲者)の3人で撮った写真を見せてもらったことがある。2人に囲まれた岡さんは久々に楽しく笑いあえたと、とてもにこやかな表情だった。青木さんは現在、西山さんと1日でも早く岡さんを励ましにいきたいと日程を調整中とのことだ。

◆奥西勝さんは犯人なのか?
 
事件発生から6日後、奥西勝さん(当時35歳)が逮捕された。亡くなった女性の中に、奥西さんの妻と愛人が含まれていたことから、三角関係を解消するために犯行に及んだとされた。奥西さんは厳しい取り調べに何度か「自白」に追い込まれたが、その後は一貫して否認している。

ぶどう酒は、当日会長が住民Aに買いに行かせ、Aは午後5時過ぎに瓶を会長宅に運んだと証言していた。その後まもなく奥西さんが会長宅を訪れ、ぶどう酒を公民館に運んでいたため、会長宅で毒物を混入する時間はなく、毒物を混入できるのは、公民館で奥西さんが1人になった10分しかないとされた。

物証や目撃証言が乏しいなか、警察は、わずか8戸の小さな集落で村人を集め「話し合い」を行い、消去法で奥西さんを犯人とした。しかし、村民の供述は、逮捕された奥西さんの「自白」後、不自然に変遷していた。とりわけAは、当初「午後2時に運んだ」としていたが、奥西さんの「自白」後、午後5時に変えていた。

1964年、こうしたカラクリを「検察官のなみなみならぬ努力の所作」と皮肉を込めて批判し、一審・津地裁は奥西さんに無罪判決を言い渡した。検察は判決を不服として控訴、1969年、名古屋高裁は、「ぶどう酒瓶の王冠に付いていた歯形が奥西さんの歯形と一致した」として、逆転死刑判決を言い渡し、1972年、最高裁で刑が確定した。

ぶどう酒瓶が会長宅に届けられたのは午後2時か、5時か?公民館で奥西さんが1人になった時間があったのか?蓋を開ける際、瓶はどのような状態だったか?供述調書や関連書類が隠されたまま、再審請求が求められた。

再審請求は第一次から第五次まで次々と棄却。その後、日弁連の弁護団が加わり、奥西さん無罪の新証拠を次々と開示させていった。2002年、名古屋高裁に請求した第七次再審請求では、死刑判決の根拠となったぶどう酒瓶の王冠に付いた歯形と奥西さんの歯形が一致したとする鑑定が不正であること、ぶどう酒瓶に混入された農薬と瓶から検出された農薬が別物だという新証拠が提出された。

2005年4月5日、名古屋高裁(刑事1部)は再審開始と死刑執行の停止を決定。検察官が異議を申し立て、2006年、名古屋高裁(刑事2部)は、再審開始の決定を取り消、死刑執行停止も取り消した。2010年、最高裁はその決定を再度取り消し、名古屋高裁に審理を差し戻すなどし、審理は更に続いた。

一方、奥西さんは、2015年10月4日、名古屋高裁に第九次再審請求中に、それまで患っていた肺炎を悪化させ、府中医療刑務所で獄死、享年89歳だった。

その後まもない11月6日、奥西さんの妹の岡美代子さんが請求人となり、名古屋高裁に第十次再審請求が申し立てられた。しかし、名古屋高裁(刑事1部)は、2年もの間、三者協議も開かずに、17年請求を棄却。異議審を審議する名古屋高裁(刑事2部)も三者協議を開かず、事件を放置するという不当な対応を続けた。

弁護団は3度に渡り、裁判官らの「忌避」を申し立てたが、そのさなか裁判長が突然依願退官することがあった。しかし、その後新たに鹿野伸二裁判長が就任するや、面談が実現するなど、裁判が慌ただしく動き出した。

◆名古屋高裁で何が争われていたか?

面談で弁護団は、①請求人が高齢であるから、早急な解決を望む、②ぶどう酒瓶に巻かれた「封かん紙」の裏側に付着する糊に再鑑定を許可して欲しいなどと要求した。さらに弁護団の証拠開示命令の申し立てで、新たに9通の住民の警察官調書が存在することがわかった。これに対して検察は「開示する必要はない」としたが、裁判所が開示を強く求め、事件から59年ぶりに新証拠が開示されることとなった。
それは親睦会に参加していた7名の住民の9通の警察官調書で、奥西さんが「自白」した前の、事件直後の住民の記憶が鮮明なときに作成されたものだった。奥西さんの「自白」では、ぶどう酒瓶に毒物を混入させるため、火鋏で外蓋を突き上げ外したが、その際、蓋の外側に巻かれた封かん紙も破れ、落ちたままだったということだった。つまり、親睦会が始まった際、住民が見たぶどう酒瓶は、内蓋が閉められただけの状態だったはずだ。

しかし、警察官に質問される形で、瓶がどういう状態だったかと聞かれた住民は、それぞれ「ブドウ酒の瓶は裸瓶でありましたが、封をしてるところに紙が巻いてあったと思います」「流しの前に立ててあるとき、王冠の蓋に封した紙を巻いてありました」などと答えている。つまり、親睦会が始まった際、住民が見たたぶどう酒瓶には封かん紙が巻かれていたということ、これは先の奥西さんの自白とは完全に矛盾するものだ。

しかもこの供述は、奥西さん無実のもう証拠ーー封かん紙の裏側に、製造過程で使った糊(CMC糊)とは別の、家庭で使う洗濯糊(PVA糊)の成分が検出されたとの、弁護団の新証拠と合致するものだ。

しかし、最高裁は2024年1月29日付で特別抗告を棄却した。長峰裁判長は「弁護団が主張する鑑定方法で『封かん紙』に付いた物質を特定すること自体、相当難しい。鑑定結果に、何者かが毒物を混入して再び糊付けした可能性を示す証拠としての価値はない」とした。

ただし、5人の裁判官のうちの一人、学者出身の宇賀克也裁判官は「封かん紙に異なる糊の成分が就いているとした鑑定結果は高い信用性があり、犯人性に合理的な疑いが生じる」として、再審を開始すべきだとの反対意見を述べた。長い裁判の中で、初めてのことだった。

岡美代子さんと弁護団は、第十一次再審請求を準備するという。名張毒ぶどう酒事件に今後も注目していこう!

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733

昨年12月24日、大阪ピースクラブで「冤罪と司法を考える集い」が開催された。そこでの井戸謙一弁護士のお話を全4回に分けて紹介する。

井戸謙一さん(ぴのさん撮影)

◆代用監獄問題

今、国際的に日本の刑事司法の何が批判されているかというと、「代用監獄問題」と、それから取り調べへの弁護士の立ち合い問題です。代用監獄問題というのは、ご存じの方もかなりおられるんじゃないかと思いますけど、本来は、被疑者を逮捕したら警察の手元に置いていてはいけない。拘置所に入れなければいけない。しかし今の日本では、98%ぐらいは警察の留置場に入れられるんです。

被疑者と弁護人、それから警察捜査側というのは対立当事者ですから、その一方の警察の手元、警察の留置場に被疑者を置いておくのは根本的に間違えてるわけです。そこでは、警察が自由にいつでも取り調べができる。カツ丼を食わしたりとか色んな利益供与も行える。そんな状況は嘘の自白の温床になるわけで、そんなことはしてはいけないというのが、国際的な常識なのです。しかし日本だけは、警察の留置場に置いている。どこに勾留するかというのは、裁判官が決める事だから裁判官がきちんと拘置所に勾留したらええやないかという話なんです。

しかし、これが実は難しい。なぜかというと警察は予算がついてるし、留置場の設備がとても良い。新しくて冷暖房完備です。それから警察の留置場はたくさんある。例えば私の事務所は滋賀県ですが、滋賀県でも警察署ごとに留置場はあります。

一方で、拘置所には予算がつかない。古い建物で設備が良くない。それから、場所が非常に限られている。今、滋賀県では、滋賀拘置所がJR琵琶湖線の石山から歩いて20分ぐらいの所に滋賀刑務所があって、その中に拘置所があります。彦根にも拘置所がありましたが、今は廃止されました、

最近では石山の拘置所も廃止されて、京都刑務所の方に移されるという話が出ています。そうすると、例えば長浜など滋賀北部の警察で逮捕されると、弁護士はそこの弁護士がつく。しかし毎日接見に行くとなると、長浜警察署の留置所に入れておいてくれたら長浜の弁護士は毎日接見に行けますが、石山とか京都に入れられるとそこまで行かなくてはいけなくて、なかなか弁護士はそんなに時間がとれない。

だから弁護士も警察の留置場を希望する。本人も設備が良いから警察の留置場を希望する。そういう中で裁判官が、いや法律上これはおかしいから拘置所に勾留するという事は中々できない、要するに単なる理屈だけではなくて、拘置所の設備にきちんと予算を入れなくてはいけないし、拘置所をたくさん作らないと、本来「被疑者は拘置所に入れる」という法律の原則が実現できないのです。そういう形で留置場へ入れざるをえないという状況が作られているのです。こうした事も社会的に批判していく必要があります。

◆弁護士の立ち合い問題

取り調べに弁護士が立ち会うというのも、今の日本ではほとんど実現していません。例えば西山美香さんのような供述弱者は、ある意味、自由に警察官の手の上でもてあそばれたような事になりましたが、こういう事を防ぐには、取り調べの時に弁護士が立ち会うしかないのです。これは日本では突飛な話と思うかもしれないけど、国際的には当たり前の話なんです。

今、国連人権理事会で日本政府に勧告されているのは、この代用監獄問題と弁護士の立ち合い問題で、これを改善する事を求められています。だけど、こういう事はメディアもほとんど伝えないし、ほとんどの方は知らないと思います。国際的な人権のレベルからすると非常に遅れているのです。

◆人質司法問題

それから人質司法問題、これは元日産のゴーンさんが逃げ出して、大きな問題、話題にはなりましたけど、(起訴内容を)認めないと裁判所は保釈しない。こんなに酷いことはないのです。

身柄が拘束される。要するに警察の留置場や拘置所から出れない。普通の市民がある日突然逮捕されてから、(留置場や拘置所から)もう出れないというのがどれほど大変な事なのか。会社もダメになるし、家族もばらばらになる。自分の人生がどうなるかわからないわけです。

その時に「認めたら、保釈がきくよ」と言われたら、取り敢えず認めて保釈で外へ出て、仕事の立て直しとか家族との修復などをして、裁判では真実を言ったら裁判官はわかってくれるだろうと思う。それはむしろ普通だと思うのですね。それでもやってない人が否認を続けることは本当に鉄の意志がないとできない。

多くはそう思って嘘の自白をして保釈してもらって、裁判であれは嘘でしたと、本当はやっていませんと言っても、裁判官は「いや、やっていない人間がやったなんて言うはずないだろう」という事で有罪判決をする。こういう形で冤罪がどんどん作り出されているわけです。

だからこの人質司法問題は非常に深刻な問題で、これについては私が刑事裁判をやっていた頃の感覚より、かなり裁判官は後退していると思います。本来、保釈するのが原則のはずなのですが、今は非常に保釈率が低くなっています。これも社会的な批判を強めていかなければいけない。

こうした刑事司法が抱える諸問題を法律家だけの問題意識に留めるのではなくて、広く社会一般の人が認識して、これを変えていかなくてはいけない。こうしたことを変えていかないと冤罪はなくならない、という認識を持つという事が大事です。そのために今の再審法改正運動、まず再審法改正実現するというのが当面の課題ですけれども、それとあわせて刑事司法全体の問題意識を広く社会一般のものにしていくという事が、日本の刑事司法をもう少し良くする。冤罪被害者をなくしていくために一番必要な事だと思っています。

その意味でも今回尾﨑さんが出された『日本の冤罪』は非常にわかりやすく、その事件ごとに尾﨑さんが「これが一番問題や?」と思った事を取り上げて説明してますから、非常に時宜を得た、そして問題意識を広めていく武器にするという意味でも、非常に有益な書物であるという風に思いますので、ぜひこれを皆さん、ご自身が読むだけではなくて、周りにも広めていっていただければと思います。

まあこういう形でまとめると今日の趣旨にぴったりと合うのではないかと思いますので(会場から笑い)、これで終わらせていただきます。ありがとうございました。(終わり)


◎[参考動画]冤罪と司法を考える集い(大国町ピースクラブ)/たぬき御膳のたぬキャス(2023.12.24)

◎井戸謙一《講演》「冤罪」はなぜ生まれるか 元裁判官の経験から
〈1〉80年代、刑事裁判の変質 
〈2〉青法協問題と日本会議 
〈3〉湖東記念病院事件の西山美香さんの場合 
〈4〉代用監獄、弁護士立ち合い、人質司法という問題 

 

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733

昨年12月24日、大阪ピースクラブで「冤罪と司法を考える集い」が開催された。そこでの井戸謙一弁護士のお話を全4回に分けて紹介する。

井戸謙一さん(ぴのさん撮影)

◆湖東記念病院事件の西山美香さんの場合

無実の人が自白することはいくらでもあるのです。湖東記念病院事件の西山美香さんもそうですけれども、(刑事裁判官は)なかなか無実の人間が自白するという事の想像力がないのですね。被疑者が置かれた立場、毎日毎日長時間の取り調べを受けて、脅されたりすかされたり、色んな利益供与を受けたりして、もう精神をずたずたにされて、そして、認めてしまう。そういう被疑者が置かれた過酷な立場に対する理解がない。あるいはそれを中々想像できない。

だから嘘の自白をするという事がありうるんだということ、否認すれば、私は嘘の自白をしましたという風に主張すれば、本当にそうかもしれないという思いで被疑者や被告人の弁解を聞かなければいけないわけですが、そういう姿勢が非常に乏しい。

湖東事件の西山さんの自白を、裁判所がどういう風に判断したかという所を抜き書きすると、なかなか興味深いです。有罪だと言った最初の確定審の大津地裁の一審では、「男性の気を引きたいというだけの理由で虚偽の殺人を告白する事は通常考えられない」と書かれている。非常に表面的な所だけですよね。美香さんはその取り調べ刑事が好きになって、彼に気に入られたい、期待に応えたいという気持ちで、刑事の言う通りの自白をしたわけですけれども、そこだけを抽象的にとらまえて男性の気を引きたいというだけの理由で虚偽の殺人を告白する事は通常考えられないとしました。

そして控訴審の大阪高裁は、「自白は被告人自身が自ら進んで供述したものであって、自発性が高く、その内容も極めて詳細かつ具体的であって信用性が高い」としました。

これはそうなんです、結局その好きになった刑事に気に入られたいという事で自分から進んで供述してるわけなので自発性が高いのはその通りです。しかし、内容が極めて詳細かつ具体的であるというのは、それは警察官の作文能力を示しているだけに過ぎないのです。警察官は自分が作った自白調書を信用性があるという風に裁判所に判断してもらいたいですから、想像であっても具体的かつ詳細に書きます。そういう形式的なところでしか判断していない。

これに対して再審開始決定をした大阪高裁の再審開始決定では、「亡くなった人の死亡への請求人の関与の有無、程度、アラームが鳴り続けたのかどうか、人工呼吸器の管をはずしたのか、はずれたのか等、多数の点で目まぐるしく自白内容が変遷している、この変遷状況のみを取り上げてもその中から真の体験に基づく供述を選別するのは困難である」としている。

これはその自白がどういう風に変遷していったかという事を、裁判官は後付けしてるわけで、これは本当に体験した人間による自白の変遷なのか、それとも捜査側から色々な知恵を与えられたり、あるいは捜査の状況と合うように誘導されて作られた変遷なのか、そういう観点で自白の変遷を見ている。結局この変遷状況だけでも信用できないという風に言ってるわけです。

その自白の内容を具体的にみてますよね。再審無罪判決では「この自白内容は合理的理由なく大幅に変遷している上、自白供述は死亡に至る際のこの亡くなった方の表情変化の点で医学的知見と矛盾する不合理な内容でもあるから本件自白供述の信用性には重大な疑義がある」とした。

亡くなった方が人工呼吸器抜かれてだんだん苦しくなるわけですが、美香さんの自白調書では、その時、目が白目をむいて、口をハグハグさせて非常に苦しそうな表情をしました、で、約2分か3分そういう状態が続いて亡くなりましたという風になっている。

だけど医学的に調べたら、患者さんは既には半年間植物状態で大脳が死んでいたので苦しみを感じない。だから苦しそうに口をハグハグして白目をむいたということは医学的にあり得ないのですね。だから、それは彼女の想像であるか、あるいは取調官からこうだったんじゃないかと誘導されたのかもしれない。だけど医学的・客観的な事実からはあり得ない事実だという事で自白は信用できない。だから、自白だけを見るのではなくて、その周辺の証拠も含めて自白が信用できるのかどうかという事を確定再審無罪判決は検討しているわけです。

だから、その自白が信用できるかどうかをどの局面で見るのか、どういう観点で見るのかで、その評価が180度違うわけです。これはもう本当に裁判官の姿勢ひとつです。裁判官に本当に真実に迫ろうという姿勢があるのか、あるいは「検事が言うてる事やから間違いないだろう」というような姿勢で臨むのかによって全然違う、そういう意味でその裁判官の責任は非常に重いと思います。

◆再審法改正運動

もう1つは、裁判官は「無難な結論に収めたい」という、そういう動機がはたらくということです。例えば、どの裁判でも原発運転の差し止めというのは棄却されてるのに、そういう中で運転の差し止めを認めると、「あの裁判官は変わった奴だ」と裁判所の部内で見られるわけです。だから、そういうのは出来るだけ避けたい、無難な結論にしたいということになっていく。

それは自分自身の人事上の問題とか給与だとか人事とかポスト、そういう事から無難な処遇を受けるためには、無難な判決をしたいという、そういう動機が多かれ少なかれあります。

そうするとやっぱり再審が難しいのは、確定審で一審3人、高裁3人、最高裁5人と合計11人の裁判官が有罪だと判断してるわけです。しかもその中には有名な著名裁判官、著名な刑事裁判官が何人も含まれている。その人たちの出した有罪判決が間違いだというのは、(世間一般ではそうじゃなくても)裁判所の部内ではえらい思い切った特異な判決、特異な判断だという風に見られてしまう。そういう風に部内で周りから評価されるのは避けたいという心理がはたらく。

これは裁判官の保身ですけれども、自分たちに課せられてる職責をどう考えるのかという事で当然批判されるべきものですが、人間というのは弱い面があるからどうしてもそういう側面があるという事は否定はできない。

では、冤罪被害者を救うため、あるいは出さない為にはどうすれば良いのかと言うと、やはり再審問題、それから冤罪問題で個別の冤罪事件に対する社会的関心が高まるという事は何よりも絶対必要です。

今、再審法改正運動が非常に高まりをみせています、日弁連も特別対策本部を作って、各政党に働きかけているし、全国の地方自治体で再審法改正の決議がどんどん上がっています。今は再審法改正の絶好の好機ですけれども、これは単に再審法改正できればいい、そのために良い状況だというのだけではなくて、これをきっかけに日本の刑事司法、冤罪がたくさん生み出されているこの日本の刑事司法に対する問題意識、市民の問題意識を高める、市民にそういう市民庶民に問題意識を持ってもらうという事が、非常に大事だと思います。

裁判官にとって、この事件は再審開始をする、あるいは再審で無罪判決をする事こそが無難な結論だという風に思えば、心理的ハードルはいっぺんに下がるわけです。そういう意味ではAさんが無実だというだけじゃなくて、何が問題になっているのか、この問題でこういう風に考えるのが当たり前だろうという社会的認識を広めるのが非常に大事です。

私は袴田事件は完全に無罪になると思ってますけど、あの味噌に漬けられた衣類に(血痕の)赤みが残っていた。でもそんなに長期にわたって味噌漬けされた衣類に赤みが残るはずがないやないかというのは非常にわかりやすい常識的な感覚ですよね。それに基づいて再審開始が確定したわけです。

これに対して、一年以上味噌の中に置いてても赤みは残るんだという風な判断を裁判所がするというのは、それこそ突飛な判断、変な判断だという事になる。むしろそんなに一年以上も味噌に漬けられていたはずがないというのが無難な判断です。だから「そういう判断の方が無難なんだ」という社会的認識として作れば裁判官はハードルなく無罪判決というものを下す事ができる。

だから単にAさんが無実だというだけではなくて、何が問題になっていて、この問題ではこういう風に市民の感覚、庶民の感覚ではこういう風に考えるのが当たり前だろうという、そういう認識を社会に広げる事が非常に大事だという風に思います。それと同時に、やはり日本の刑事司法が抱える諸問題について社会的認識を高めるという事が大事です。(つづく)


◎[参考動画]冤罪と司法を考える集い(大国町ピースクラブ)/たぬき御膳のたぬキャス(2023.12.24)

◎井戸謙一《講演》「冤罪」はなぜ生まれるか 元裁判官の経験から
〈1〉80年代、刑事裁判の変質 
〈2〉青法協問題と日本会議 
〈3〉湖東記念病院事件の西山美香さんの場合 
〈4〉代用監獄、弁護士立ち合い、人質司法という問題 

 

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

◎鹿砦社HP https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000733

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