去る6月6日、福島県「県民健康調査」検討委員会は、福島第1原発事故当時18歳以下(胎児を含む)だった県民を対象に実施している2巡目(本格調査)の甲状腺検査で、今年3月末時点で30人が甲状腺がんと確定診断されたと発表した。
右から代表世話人の千葉親子氏(元・会津坂下町議会議員)、河合弘之氏(弁護士)、世話人の牛山元美氏(医師)
2巡目の検査は、約38万人の対象者のうち約27万人で完了。「悪性ないし悪性の疑い」と診断されたのは57人(昨年12月末時点は51人)で、このうち30人が手術により甲状腺がんの確定診断を受けた。
この数字を概観すれば、これより前の平成23年度~25年度前後まで実施されてきた1巡目(先行調査)と合わせると131人の甲状腺がんの確定診断者が出たことになる。
さらにいえば、確定診断とは手術実施者のことで、手術をしていない段階で、甲状腺にあるのう胞が「悪性ないし悪性の疑い」と検出された人数は1巡目、2巡目を合わせ173人と発表されている。福島県検討委は、確定診断が昨年12月末時点の16人から30人に増加した原因を不明としているが、「甲状腺がん発生は原発事故の影響とは考えにくい」との見方を変えていない。以下、本稿は「3・11甲状腺がん家族の会設立会見」詳報の最終となる。
◆質問9=原発事故で被ばくした方に対しても、国は被ばく手帳を作っていただければと思います
【Q9】 広島の原爆被爆者です。6歳の時に被爆して、急性放射能障害、原爆ぶらぶら病、目の障害、甲状腺機能障害による甲状腺全摘出手術、肺がん、と6歳の時から余命宣告を突き付けられて70年間、生きてきました。今、福島の子供たちは、そういう状態で、これからの人生を歩んでいかなくてはならないと思うと本当につらいです。
そんな私が、こうして元気で生き延びてこれたのは、2つ要件があります。一つは、被爆者同士の支え合いです。日本被団協を中心とする各地の被爆者の会に行き、支え合ってきました。もう一つは、国の公的医療保障です。原爆被害者擁護法に基づいて、被曝者健康手帳が交付され私たちは医療を無料で受けることができます。この二つによって、厳しい人生をなんとか元気で生きていくことができたと思います。
今回の家族会設立は、皆さまのこれからの支えになっていくと思います。福島では、子供だけでなく、大人の方の甲状腺がんも発生していると聞きます。私の友人の福島在住の方も、甲状腺がんで摘出手術を受けていらっしゃいます。大きな広がりとなっていくためには、子供さんだけでなく大人の方、そのご家族の方々にも、同じように広まっていっていただきたいと思います。
そして、原発事故で被ばくした方に対しても、国は被ばく手帳を作っていただければと思います。そういった観点で、福島では、世代を超えた人たちとのつながりも持っていくことをお考えでしょうか。
【A】(千葉氏) そういうお話は、会の中でもありました。この会は子供だけでなく、大人も対象にしていく体制を作りたいと思っております。また、原発事故の放射線の影響を考えるならば、福島県だけの問題ではないという話にもなりました。今後、もっと充実した会の方針・中身を作っていきたいと思っております。
【A】(河合氏) この会の設立の意味は、そこにありまして、政策提言をきちんとしていきたい。個人で孤立していては、Aさん、Bさんという形では、ダメなのです。患者さんが結束して申し入れや発言をしたりすると、それが社会的勢力の発言として見なされます。そこで、初めて注視され尊重されるようになります。そのための団体、患者の会ということになります。もちろん、その基礎として情報交換し、慰め合い、団結する必要があり、それが第一目的ですが、そのあとに来るものが、きちんと社会的勢力を作り、申し入れをし、自分たちの要求を政党に反映させていくこと、これがこの3・11甲状腺がん家族の会の目的ということになります。
◆質問10=将来的には訴訟を考えていますか?
【Q10】 将来的には訴訟を考えていますか。
【A】(河合氏) 今の所は、考えていませんが、申し入れをして政策要求をして、きちんと通らない場合には、それを敢えて排除することはないと思いますが、今の所は考えていません。
◆質問11=医学論争、疫学論争で裁判をやっていくことが必要ではないか?
【Q11】 因果関係を追及されても、政府は交渉では絶対認めないと思うので、医学論争、疫学論争で裁判をやっていくことが必要ではないか。それは視野に入れていますか。
【A】(河合氏) 視野には入れていますが、きちんとした社会的勢力を作って、きちんと政府に政策を要求することで、その正当な目的が認められないとは限らないと思っています。先ほど、ご家族が言うように、まずは、因果関係を認めてもらうということが大事だと思います。
因果関係を認めない時、それは、損害賠償ということは大よそない、治療だけはしてやるよ、という、その治療も、恩恵的な、家父長的な治療になると思います。だから、きちんと資料を出して、まずは因果関係を認めなさい、国と東電に責任があることを前提に対策を取って下さいとする。何も、モノを下さい、とかお情けを下さいと言うのではありません。きちんとした正当な要求を通すには、被害者がきちんと団結しないといけない。そのための会になります。
◆質問12=癌宣告の時に、医師の方からセカンド・オピニオンのお話がきちんとありましたか?
【Q12】 癌宣告の時に、医師の方からセカンド・オピニオンのお話がきちんとありましたか。患者には、色々な患者会がありますが、その様な紹介を受けることができましたか。癌の状態について、最初に説明はどのくらい時間として受けることができましたか。
【A】(白い服の方) セカンドオピニオンについては、はっきりなかったという記憶があります。患者会の紹介については、甲状腺がんなど全部を含めた患者会の説明はありました。診察時間は、通常は10分くらいであったと思います。
【A】(黒い服の方) セカンドオピニオンについての説明は、私にはありませんでした。患者会についても連絡はありません。診療時間は同じように10分くらいだったと思います。
◆質問13=福島県立医大に対する不審感?
【Q13】 甲状腺疾患を含めた患者の会の紹介というのは、福島県立医大からだと思います。案内をもらって、参加しようと思わなかったのは、県立医大に対する不審からですか。
【A】(白い服の方) 案内を頂き、妻が話を最初聞きにいきました。患者会というよりは、先生の説明会というような感じで、甲状腺がんの子供の親は、そこでは見受けられなかったと聞きました。
【A】(黒い服の方) 通知がくれば参加したかというと、参加したかもしれないが、そういった患者会があるというのも、家族会ができて初めて知った話です。非常にびっくりしました。
◆質問14=再発や手術後の生活の困難さ
【Q14】 再発や手術後の生活の困難について教えてください。
【A】(牛山氏) 今回の県立医大の手術ですが、片側の甲状腺の手術しかしていません。片方を残すと、うまくいけば薬を飲まずに生活していくことができます。しかし、甲状腺がんが再発している方が既におり、疑いの方もいます。ベラルーシでも、結局、もう一つも手術しなくてはいけないという話を聞いています。手術後は、モノが飲み込みにくくなったり、声がかれることがあったりということがあります。後遺症について、今回は直接は聞いていませんが、事例としてはそういうことになります。
【A】(白い服の方) 薬は毎日飲んでいます。やはり、甲状腺を半分とりまして、何カ所かのリンパ節も取りまして、後遺症的にいうと、モノが飲み込みにくいとか、声がかすれて出ないということかがあります。
◆質問15=何が必要で、何が一番足りていないのか?
【Q15】 何が必要で、何が一番足りていないでしょうか。
【A】(白い服の方) 精神的なケアを充実させていただきたいです。
【A】(黒い服の方) 今後望むのは、メンタルのケアをやっていただきたいと思っています。
◆質問16=がん宣告を受けたときのお気持ちは?
【Q16】 がん宣告を受けたときのお気持ちは?
【A】(白い服の方) 10代で癌と言われ、妻も子供もショックでした。
【A】(黒い服の方) 本人は顔面蒼白となり、立っていられないほどのショックで、数日間はふさぎこんでいました。
◆質問17=甲状腺がん家族の会の活動方針は?
【Q17】 今後は、交流会や相談会ということになると思うが、会の活動方針について。
【A】(牛山氏) 設立するということで、今回ワンステップになったわけですが、具体的にはこれからです。[了]
◎[動画]20160312甲状腺がん患者家族会設立記者会見(UPLAN三輪祐児さん公開)
▼白田夏彦[取材・構成]
学生時代に山谷、沖縄などの市民運動を訪問。その後、9・11同時多発テロ事件をきっかけにパレスチナ問題の取材を開始。第二次インティファーダ以降、当地で起こった非暴力直接行動を取材。以降、反戦や脱原発などの市民運動を中心に取材。現在、業界紙記者。
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