月刊『紙の爆弾』の最新号記事がnoteで一部公開・購読可能となりました。記事単位での購入も可能になりましたが、『紙の爆弾』はあくまで紙がメインのメディアです。興味を持っていただけましたら、ぜひ書店でお手にとっていただければ幸いです。定価700円(税込)、年間定期購読7700円(1号分お得です)。ここでは12月号(11月7日刊行)の注目記事2本の一部を紹介します。

◆税金を浪費して弱体化する防衛産業 防衛費「GDP比2%」無駄遣いの全実態
 取材・文◎清谷信一

 

 

 低品質の国産装備を不当に高く調達する防衛省

防衛省の調達では、他国よりも性能や品質の劣った国産装備に対して何倍、あるいは一桁高い調達費や維持費を払っている。問題はこのような現実を、防衛省や自衛隊への取材の機会を独占している新聞・テレビ・通信社など記者クラブ会員の媒体がほとんど報じてこなかったことだ。これが防衛以外であれば大問題となっているだろう。

たとえばある自治体が、隣の町では10億円でつくっている小学校を、技術が低い地元の建設会社に50億円や100億円で発注し、しかも手抜き工事で雨漏りや耐震構造もいい加減な欠陥校舎が出来上がれば大問題となるだろう。だが防衛調達では、これが不思議と問題にならない。

国産機の調達をみてみよう。財務省によれば川崎重工が開発した空自のC‐2輸送機の維持費は、ステルス戦闘機で通常の戦闘機の二倍以上するF‐35Aよりもさらに高い。CPFH(Cost Per Flight Hour=飛行時間あたりの経費)も当然高い。

財務省の資料で公開されている、川崎重工製C‐2のCPFHは約274万円。対して米空軍の輸送機のC‐130Jが約61.8万円、C‐17が約150.9万円(※1ドル=112円。平成30=2018年度支出官レート)高コスト・低性能の輸送機「C-2」と哨戒機「P-1」。ともに川崎重工製だ(※参考:再生審議会資料『防衛』平成30年10月24日)。つまりC‐2のCPFHはC‐130Jの4.4倍、C‐17の1.8倍にもなる。

ペイロード(積載量)1トンあたりのCPFHは、C‐2は10.5万円(最大26トン)、C‐130Jは3万円(同20トン)、C‐17(同77トン)は1.96万円である。C‐2はC‐130Jの約3.5倍、C‐17の5.4倍と、比較にならないほど高いのだ。

さらに1機あたりのLCC(ライフ・サイクル・コスト)はC‐2が約635億円、C‐130Jが約94億円、C‐17が約349億円。C‐2はC‐130Jの6.8倍、C‐17の1.8倍である。

ペイロード1トンあたりにするとC‐2は24.4億円、C‐130Jは4.7億円、C‐17が4.5億円。ここでもC‐2はC‐130Jの5.2倍、C‐17の5.4倍となり、これまた比較にならないほど高い。C‐2の調達および維持費が、輸送機としては極端に高いことがわかるだろう。

調達単価、CPFHの面からもC‐2は極めてコストが高い。直近の令和3(2021)年度の補正予算での調達単価は243億円。これはペイロードが3倍近いC‐17と同等以上だ。

この極めて高額なC‐2輸送機を大量に買い、また空自は電子戦機のRC‐2やスタンドオフ電子戦機などもC‐2ベースの派生型として開発している(編集部注・電子戦とは電磁波を使った通信妨害などを伴う戦闘)。

これら派生型は、既存機と整備や訓練などを共用化、効率化できるなどメリットが大きいことはいうまでもない。だが先述のように、C‐2はそのものが調達単価も維持費も超高額であるため、それらのメリットは消し飛ぶ。そもそもC‐2の大きなペイロードは電子戦機に必要ない。

対して米空軍はビジネス機のガルフストリーム550をベースに電子戦機EC‐37Bを開発した。550の調達単価は70~80億円程度にすぎず、C‐2の約3分の1程度だ。維持費も一桁は違うだろう。いったいどちらがまともだろうか。

 欠陥哨戒機P‐1をめぐる海幕と石破茂長官の攻防

同じく川崎重工が開発した哨戒機P‐1も、コストがバカ高い欠陥機だ。現首相の石破茂氏が防衛庁長官だった2002年、彼はP‐1の開発に反対した。P‐1が低性能・高価格となることは必然だったからだ。しかし、内局や海上幕僚監部(海幕)に詰め寄られて、最終的には開発を認めざるを得なかった。官僚たちが一斉に反対することで、彼は孤立無援化してしまった。

海幕は、機体・エンジン・システムすべてを新規に開発する方針をとった。米国ですら既存の双発旅客機である737をベースに開発していたにもかかわらず、新規にエンジンを4発にし、整備コストを大幅に引き上げた。

実はその当時から川崎重工がライセンス生産していきた哨戒機P‐3Cですら、整備予算が足りずに既存の機体からパーツを剥がして使う、いわゆる「共食い整備」をしていた。同機は世界的なベストセラー機として信頼性が高かったのだが、それですらこの有り様なのに、機体もエンジンもシステムも全部専用となれば、調達・維持コストが高騰するのは目に見えていた。

海幕は石破氏に対して「4発の方が双発に比べて生存性が高いです、長官には現場の隊員の気持ちがおわかりになりませんか」と詰め寄った。だが石破氏は「現場は信頼性の低い4発のよりも信頼性の高い双発がいいと言っていたのだが」と筆者に後に語っている。

確かに、同じ信頼性のエンジンであれば、双発よりも4発のほうが信頼性は高い。しかし、信頼性の低いものが4発ではその理屈は通用しない。そして現実にP‐1は低稼働率にとどまっている。主原因はエンジンの信頼性だった。

さらに、4発にすることでコストが高騰し、P‐1は整備用パーツを十分に確保できないことも予想されていた。当時のP‐3Cですら前述のように「共食い整備」を強いられていたので、それよりも維持費が何倍もかかるP‐1ではなおさらだ。果たしてP‐1の調達費は初年度(2008年度)で予定の100億円から157億円に高騰、来年度では421億円と、当初の目論見の4倍以上に膨れ上がっている。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/ne319308be297

◆優生保護法めぐる訴訟が排除した本当の被害者
 野田正彰(構成・本誌編集部)

 

 

2024年7月3日、最高裁は旧優生保護法(1948~96年)を違憲とし、国の賠償責任を認める判決を下した。10月8日には同法の下で不妊手術が強制された被害者に1500万円、配偶者に500万円、人工妊娠中絶手術を受けた人に200万円を支払う「旧優生保護法補償金支給法」が、参院本会議で全会一致で可決・成立。被害者に謝罪や差別の根絶を表明する決議も採択された。

この最高裁判決をもって、今から6年前の2018年1月、宮城県の60代の女性の提訴に始まった旧優生保護法下の強制不妊手術問題は一応の決着をみた、ということになっている。

私も判決は画期的であったと思う。しかし、優生保護法騒ぎには、根本的なごまかしがある。

一連の裁判は「精神障害者への優性手術が違法であると確認された」と報じられた。しかし、そこで対象とされたのは、本当に精神病者なのか。私がマスコミ関係者や弁護士、精神科医など十数人にこの問いを投げかけると、全員が「当然そうです」と答えた。だが、彼らの中には一人として、この法律の主たる対象であったはずの精神分裂病者(現在は「統合失調症」という名に変えられた)が原告団にいないことに気付いた人はいなかった。

各紙が原告と弁護士の喜びの姿を報道した。しかし、そこに長期間、精神科病院に強制入院させられた人らしき姿がないことに気付いた人はいない。先の十数人に聞くと皆、「当然、いるんじゃないですか」と口を揃えた。

実際は、原告は全て知的障害か、何らかの神経疾患である。ただ1人、実名を明かして訴え出た小島喜久夫さんは、精神分裂病と故意に病名を仕立てられて強制手術を受けた人だ。しかし、本誌2019年2月号で詳述したように、彼は10代のころ養父により札幌市内の中江病院に強制入院させられると、何の症状もないのに医者が問答無用で「精神分裂病」と診断して手術を強行した。小島さんは数カ月後に病院を脱走。その後、タクシー運転手として働くなどして70歳過ぎまできちんとした人生を送ってきた。

私は精神科医として彼を診察し、札幌地裁で証言した。彼のケースは素行が悪かった青年を意図的に精神分裂病と診断したものだ。すなわち、そもそも優生保護法の対象に当たらない人への犯罪(傷害)である。

 日本の精神医学の根幹にある優生保護法

私は1973年、「朝日ジャーナル」(2月16日号)に「偏見に加担する教科書と法」、翌74年(9月20日号)にも「偏見改まらぬ教科書――再び精神科医の立場から」を書き、優生保護法は人権抹殺思想であると訴えた。その経緯から、今回の最初の裁判が起こされると、朝日・毎日をはじめ多くの記者が取材に来た。

優生保護法の犠牲者の85%が精神病者であり、その多くは統合失調症者であった。この事実こそ、この問題の根幹であることを私は何度も強調した。なかでも熱心だったのが毎日新聞で、記者らは長時間をかけて私の話を聞いていった。しかし、大きく紙面を割いたインタビュー記事は、この重要な事実に触れなかった。私が抗議しても書かない理由を答えなかった。

毎日だけではない。全メディアが意図的に報道から除外した。毎日新聞グループは新聞協会賞をとり、2019年に『強制不妊――旧優生保護法を問う』(毎日新聞出版)まで出版した。

優生手術の主たる対象が精神病者であるという事実が重要なのはなぜか。そして、なぜマスコミはその事実を報じないのか。

私は1969年に北海道大学医学部を卒業し、精神科医として働きはじめた。当時の私は精神の病理を通して人間の精神全体を研究したいと思っていた。研修を始めてすぐ、戦後の民主化の時期に子ども時代を過ごした人間として、そして安保闘争や大学闘争に関わってきた青年として、日本の精神医学は誤っているという問題意識を強く持った。

医学部学生から精神科医へと進む過程とは、実は自ら人間性を失う過程でもある。たとえば私が通った北大では、すり鉢状の大教室の講義で諏訪望教授が助手に命じ患者を連れてきて、学生の前で意味もなく電気ショックをかけた。助手に押さえつけられた患者の全身が大きく痙攣する様子を、学生は黙って見ていた。

私は授業の後、抗議しなかった自分を責めた。電気ショックがどういうものかを学生に見せるために、患者にかけてみせる。患者はどれほど苦しい思いをし、自尊心を踏みにじられたことか。それに誰一人として無関心となるようにすることが、精神科の医学教育である。

卒業後、札幌市立の静養院を訪れると、板張りの大部屋に置かれた木製の大机で患者たちが昼食をとっていた。その大半はロボトミーやロベクトミーされていた。

ロボトミー手術は、電気ショックで意識を失わせたうえ、眼瞼の上から先の曲がったメス状のピックを差し込み扇状に動かし、前頭葉の周囲の動脈をずたずたに切断し壊死させる。脳には人間の血液の多くが流れ込む。その血管を開頭もせずに当てずっぽうに切り裂くことで、多くの人が亡くなっていった。ある病院では、術後数カ月の死亡率が3~4割に達したという。ロベクトミーは開頭して前頭葉を切除する手術を指す。

「臺(うてな)実験」と呼ばれた、1950年頃に東京都立松沢病院で行なわれた人体実験がある。廣瀬貞雄がロボトミー手術をした患者から生検用の脳組織を切除した。それが学会で問題となると、主導した臺弘は、ロボトミーで大脳皮質を壊死させるのだから問題ないと、まるで廃物利用したかのように言ってのけた。臺はその後に東京大学、廣瀬は日本医科大学の教授となった。廣瀬は札幌医大の中川秀三教授とともに「日本のロボトミスト」と呼ばれる人物である。こんな人がこんな殺人医学で教授になり、その思想を医学生に伝承してきた。

松沢病院に勤めていた吉田哲雄医師が、被害者のカルテを探し出し、記載内容を次のように発表した。

〈手術前、手術台上にて「どれ位切るんですか、かんべんして下さいよ、脳味噌取るんでしょ、どれ位とるんですか、止めて下さいよ、馬鹿になるんでしょ、殺されてしまうんじゃないですか、殺さないで下さい、お願いします、家ヘ帰らせて下さい、先生、大丈夫ですか、本当に大丈夫でしょうか、死なないですか、先生、先生、本当に死なないでしょうか、先生、先生、先生……」といった調子で執劫に情動的な訴えを繰返す。Grazieが全然ない。左側白質切載が終ると途端に自発的に口をきかなくなる。〉

患者は約一週間後に亡くなった。「Grazie(グラチー)」とはドイツ語で「優美」という意味で、精神医学では人間としての精神の自然な流れを指す。殺人医師が殺す人を、死を覚悟する優美さがないとカルテに書く。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/ne23bed47f158

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年12月号

『紙の爆弾』2024年 12月号
A5判 130頁 定価700円(税込み)
2024年11月07日発売

野田正彰
優生保護法をめぐるお祭り訴訟 犯人と被害者のいない殺人事件

清谷信一
税金を浪費して弱体化する防衛産業 防衛費「GDP比2%」無駄遣いの全実態

内海聡(医師)×長井秀和(西東京市議)
日本人と日本社会が罹った薬と政治の「依存症」

広岡裕児
ハマス攻撃「10・7」から一年 ネタニヤフは何を考えているのか 

足立昌勝
袴田巌さん再審無罪判決が切り拓く死刑廃止への道

浜田和幸
拉致問題を「解決させない」のは誰か 日本と北朝鮮の間の語られざる闇 

青木泰
公明党代表・石井啓一は元森友大ウソ国交大臣 

横田一
兵庫県版“石丸現象”で斎藤前知事再選も 兵庫県知事選で問われる“民意”とは何か 

浅野健一
札幌・安倍晋三ヤジ訴訟 最高裁は「憲法の番人」の役割を捨てた 

木村三浩
フィリピンの「キングメーカー」ロドリゲス前官房長官 「アジア版NATO」よりもアジア諸国の団結を 

上條影虎
なぜ世界は戦争を終わらせようとしないのか? アメリカが牽引する歪んだ正義の正体

小西隆裕
終焉するグローバリズムと新自由主義 日米一体戦争体制から日本が脱却するために

片岡亮
ジャンポケ斎藤事件の背景 「観るべきではない」メディアに堕したテレビ現場の惨状 

“嵐”来年3月復活説の背景 NHKも全面協力 ジャニーズ「幕引き工作」

佐藤雅彦
「来た、見た、逝った」架空体験記「SEXPO 2025」 

青柳雄介
シリーズ 日本の冤罪54 袴田巖冤罪事件 

山口研一郎
一九七四年「学園闘争」から半世紀 長崎大学医学部闘争の全資料発掘 

〈連載〉
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER Kダブシャイン
「ニッポン崩壊」の近現代史 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

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◆平塚らいてうと与謝野晶子との違い ──「現実を見る眼」の有無

“時代の現実を見る「眼」は大切”、「時代の現実に背く者は迷走する」が今回のテーマだが、まずは肩慣らしに私たちのwebサイト「ようこそ よど号日本人村へ」の「よど号LIFE」コーナーに書いたものポイント的に述べてイントロダクションに……

似て非なる晶子とらいてう

最近、衛星放送BS1の歴史ドキュメント「英雄の選択」で与謝野晶子をテーマに取り上げた“我は女の味方ならず”を観た。

「京都青春記」の一時期、行動を共にした立命文学部女子に「作家志望の詩人」がいた。彼女は私に言った、「憧れの作家は明治の近代黎明期に彗星の如く現れた平塚らいてうや樋口一葉、でも与謝野晶子はあまり好きじゃない」と。与謝野晶子は“ああ君死にたもうことなかれ”が教科書にも出てくる有名な歌人だから「あまり好きじゃない」という彼女の言葉がちょっと気になった。でも理由は聞きそびれた。

今回観たドキュメント“我は女の味方ならず”で何となくその理由がわかるような気がした。

与謝野晶子は歌人であると共に社会批評もやったが、中でも有名なのが平塚らいてうとの母性保護論争を取り上げていた。

平塚らいてうは女流文芸誌「青鞜(せいとう)」の有名な創刊の辞で「元始、女性は太陽であった。真性の人であった」と高らかに宣言した女性解放運動の先駆者として有名だが、これに共感した与謝野晶子も「青鞜」創刊号のために「山の動く日来(きた)る」という詩を書いて寄稿した。この詩に感動したらいてうは晶子の詩を巻頭に飾った。

そんな互いに尊敬し合う間柄の二人は、やがて「母性保護論争」という激しい論戦を繰り広げることになる。

晶子は男女平等の実践として「女子が自活し得るだけの職業的技能を持つということは、女子の人格の独立と自由とを自ら保証する第一の基礎である」と女性自身の覚醒と努力を説いた。要するに男性に経済的に依存する女性にはなるな、自活しうるだけの職業的技能を持ちなさいと、そんな「女性の自立」の側面を強調した。

更に晶子は「女はあらゆる男子の、知識と筋力と血と汗を集めた労働の結果である財力を奪って我が物の如くに振る舞って居る」と当時の女性一般を批判、ついには「私はまず働かう、私は一切の女に裏切る」とまで宣言。「女性の経済的自立」、たしかに正論ではあるが、「私は一切の女を裏切る」という晶子の宣言は当時の女性の置かれた現実を無視した「唯我独尊」になりかねない。

そんな晶子はついには「我は女の味方ならず」と題した一文を「青踏」に発表した。

このような晶子の主張に8歳年下のらいてうが噛みついた。

「実に人間としての婦人の権利の主張のみならず、女性としての婦人の権利も主張されねばならない」と。

要は男女平等とは言っても男性と女性の違いは厳然とした「現実」であること、「女性としての婦人の権利も主張すべき」こと、特に「母性保護」を婦人の権利として強く主張した。

らいてうは「子供というものは、たとへ自分が生んだ自分の子供でも、自分の私有物ではなく、其の社会の、其の国家のものです」とし、だから国家は婦人の母性を保護する責任があるという論理を立てた。

後に晶子は「(らいてうと)私とは決して目的に於いては異なって居ないのです」とこの論争からは降りるが、らいてうはその後も若き日の市川房枝らと「婦人と母と子供の権利の擁護」を掲げ「新婦人協会」設立に至る。さらに老いては私たち戦後世代と共にベトナム反戦、反安保の闘いにも身を投じ「おかしい現実」を変革する社会運動家としての生涯を全うする。

当時の女性が晶子のような才女、「男に依存しない」自立した職業婦人になれるのはごく希(まれ)で、ましてや男にはない母性保護という婦人特有の問題もかかえている。らいてうはこうした現実の女性問題を解決しようと社会運動に身を投じた。

らいてうと晶子の違い、それは「現実を見る眼」の有無。

長々とらいてうと晶子のことを述べたが、言いたかったのは「現実を見る眼」を持つことがいかに大切かということだ。

らいてうと晶子のそれと同次元で語れないと思うが、「時代の現実」から目を背け、これに挑戦するものはどうなるか? が今回のテーマだ。

いま「覇権の終焉」という「時代の現実」から目を背ける米国の迷走ぶりが目に余るものになりつつある。そしていまだに「米国についていけば何とかなる」戦後日本の悪しき思考方式から抜け出せず、「時代の現実」に挑戦する米国と運命を共にする「日米同盟新時代」という時代錯誤に同調した日本政治も混乱を極めている。

◆「進むも地獄、退くも地獄」── 決断に迷う米国

この連載の8回目、9月30日号で私は「窮鼠、猫を噛む」と題して米国がゼレンスキー「最後の勝利計画」の要求に応えて「米欧提供の長射程ミサイルのロシア領内攻撃に許可を与える」だろう、それは「ウクライナ惨敗=米覇権秩序瓦解の証明」を恐れての「NATOとロシアの戦争への発展」覚悟の窮余の策、米国の意思表示だと書いたが、それも先行き不透明感が出てきた。

10月11日朝日新聞朝刊に「苦境のウクライナ」と題して次のような記事が出た。

「ドイツで12日開かれる予定だった(ウクライナ)支援国による首脳会談は延期になり、来月の開催をめざしていた(ウクライナ)平和サミットも、現時点では実施が見通せない」

ウクライナ軍“突然の撤退”

9月国連総会出席のゼレンスキー訪米時のバイデン大統領との会談ではバイデンは米供与の地対地ミサイル「ATACMS」のロシア領内攻撃に使用許可をまだ与えず渋った。そして上記の記事のように10月のドイツでの支援国による首脳会談でその結論が出るだろうという予想も崩れた。「ハリケーン被害対応のため」のバイデン欠席が首脳会談延期の理由とされたが、これは眉唾ものだ。

おそらく肝心の米国が「ゴーサイン」の決断に迷っているからだ。

決断に迷う米国、それは「進むも地獄、退くも地獄」の米覇権の窮地ぶりを示すものだ。

「NATOとロシアの戦争」はまさに「窮鼠、猫を噛む」窮余の一手だけに何か勝算があるわけではない、一つの大博打に過ぎない。これにも負ければ「家産のぶっ飛ぶ大損(おおぞん)」、「米覇権時代の終わり」を早めるだけだ。

また「NATOとロシアの戦争」になればマスコミが「極右」と呼ぶ台頭著しい欧州内の自国第一主義勢力の反対にあって戦争遂行すらおぼつかないだけでなく、さらには国民の戦争への不満を背景に彼らが欧州各国の政治を握りかねない。事実、フランスではルペンの国民連合が議会選挙の第一回投票で第一党に躍進し、ドイツではAfDが有力州議会の第一党勢力に伸張、国政選挙でも躍進が予想されている。その危険性の高まる独仏はNATOの基軸国家という点もロシアとの戦争をちゅうちょさせる要素だ。そして当然ながらグローバルサウスなど世界の多数派、非米・脱覇権勢力の猛反対に会うのも覚悟しなければならない。

だからといって、これを恐れて手を拱(こまね)いていては「ウクライナ惨敗=米覇権秩序瓦解」は時間の問題となる。

こうして米国が決断に迷っている間にも「ウクイライナ惨敗」の様相はますます色濃くなっている。

ロシア軍との攻防の基本戦線、ウクライナ東部戦線ではウクライナ軍が「撤退戦」に踏み切る窮地に追い込まれている。

ウグレダルというウクライナ軍「最強の要塞」とされる拠点がロシア軍の包囲殲滅作戦の危機を前に撤退戦を余儀なくされるという事態に陥った。ウグレダルはウクライナ式には「ドネツク州」、ロシア式にはロシア系住民が独立を宣言したドネツク共和国内のウクライナ軍占領下にある重要戦略拠点であり、「ドネツク州」の3分の1ほどの再占領地域に築いた要塞化された拠点だ。ウクライナ軍がウグレダルを撤退すれば「ドネツク州」のもう一つの戦略拠点ボクロフスクも崩壊の危機に瀕するだろう。そうなればドネツク共和国はほぼ完全にロシア軍の制圧下となりウクライナ敗戦は決定的になる。

もう一つの独立を宣言したロシア人地域、ルハンスク共和国はほぼロシア軍の支配下にあり、南部のザポリージャ州、ヘルソン州(クリミアに隣接)もほぼロシア軍が制圧しており、最後の不退転の拠点としてウクライナ軍が主要力量を投入しているのが「ドネツク州」3分の1再占領地域だ。

ゆえに「ドネツク州」の攻防がこの戦争の帰趨を決すると言える。「ドネツク州」からのウクライナ軍の撤退、それは米国の代理戦争であるウクライナ戦争の敗戦=米国の敗戦を意味するだろう。それは米覇権秩序の瓦解を全世界に可視化するものでもある。

まさに「進むも地獄、退くも地獄」、それが米国の現在、直面する窮地だ。優柔不断、迷走は許されないところに来ているが、いまだ米国は決断に迷っている。

この迷走は二転三転する米大統領選にも現れている。

◆「確トラ」から「もしリス」、そして再び「もしトラ」へ ──「溺れる者は藁(わら)をもつかむ」

「白紙ばかりのハリス本がベストセラー」というネット記事が送られてきた。

白紙本“カマラ・ハリスの功績”

そのハリス本とは9月下旬に米国で出版された『カマラ・ハリスの功績(The Achievements of Kamala Harris)』という書籍だが「ハリスの功績」についての「経済政策」「教育」「外交」など各章は白紙ばかりという書籍としては「異例の代物」だった。ところがこの「中味のない本」が異様の売れ行きを見せ、アマゾンでの売り上げ急増もあって10月9日時点でベストセラーのランキングでトップ20に入っており、「政治的ユーモア」部門ではトップという異例の事態になっているという。

要は「ハリスの功績」は「白紙」、何もないということに共感する米国民が多いということだ。

また韓国の「中央日報」にワシントン・ポストからの引用記事として「米大統領選終盤“ハリス危機論”拡散」が掲載された。その要は「バイデンとの差別化失敗」論だ。

最近のABCインタビューで「4年間バイデンとは違って行ったことを教えてほしい」という質問に「思い浮かぶことが一つもない」とハリスは答えた。これは事実上、自ら「バイデンのアバター」であることを認めた言葉だと解釈された。

米大統領選終盤戦にこうした「ハリス危機論」が出てきたのは偶然とは思えない。

いまバイデン民主党政権の米国が「進むも地獄、退くも地獄」に直面して決断を下せない混迷に陥っている。特に外交安保政策ではバイデン路線を踏襲する「無能」ハリスではこの危機に対応できない、こう米覇権支配層が考えても不思議ではない。

私は、この連載の前々号に“「確トラ」から「もしリス」へ”(「もしリス」は私の造語、一般には「もしハリ」)というようなことを書いた。

それは老衰懸念のバイデンに代わってハリス が民主党大統領候補になってトランプに肉迫する人気を得ることになった新現象を踏まえ、その背景を考えての推測だった。

その推測は、トランプでなくても「ウクライナ敗戦」で対ロシア戦争はいずれ終結する、その後は「対中国に集中する」が米国の狙いだが、ガザをめぐる中東戦争との二正面作戦を避ける上でイスラエル側に偏(かたよ)るトランプでは終戦は望めない、またトランプはNATO諸国とは折り合いが悪い、対中対決にNATO諸国を引き入れる上でトランプではまずい。このような米覇権支配層の思惑から“「確トラ」から「もしリス」へ”と流れが変わったのだろうと推測を立てた。

ところが上記のように「ハリス危機論」から「もしトラ」へと流れがまた変わりつつある。

以下はあくまで私の推測だ。

バイデンが「進むも地獄、退くも地獄」に陥ったウクライナ戦争終結で「プーチン大統領と話ができる」トランプなら米国にさして損害を与えない「手打ち」交渉も可能だ。

また中東戦争の収拾策でも最近、こんな話も出てきた。「ネタニヤフ首相もトランプの話には耳を傾けるだろう、バイデンやハリスでは話にならない」と。

このようにウクライナ、中東の二正面戦を「無難に」終結した上で「対中対決に集中する」、だからトランプ。

また対中対決でロシアと朝鮮を中国から引き離す上でトランプは使い勝手がある。トランプはプーチン大統領だけでなく金正恩総書記とも話ができる、トランプなら朝米対話も不可能ではない。また「朝露の戦略的パートナーシップ協定締結によって中国と朝鮮が疎遠になった」と日本のマスコミはとらえている。だからトランプ大統領を使ってロシアと朝鮮を米国に引きつけた上で中国を孤立させるという打算が働いてもおかしくはない。

でもこれもあくまで米国の希望的観測、まさに「溺れる者は藁をもつかむ」の類(たぐい)だ。

“「確トラ」から「もしリス」、そして再び「もしトラ」へ”という米大統領選の迷走ぶり、それは米覇権、というより「覇権主義の終焉の時代」という「現実」を受け容れず、この「現実」に背くがゆえの「溺れる者は藁をもつかむ」米国の混乱ぶりを示すものだと思う。

◆石破首相が起こした10月政局の混乱から駒が? 

最後に総選挙に絡む10月の日本の政局の混乱の積極的意味について少し考えてみたい。

この連載の7回目、8月31日号でこう書いた。

うがった見方をすれば次期政権は自民・立民の挙国一致政権、「新政権の課題は9条改憲」、「非核の国是放棄」、これがあながち邪推とは言えない時代が来たと思う。

エマニュエル駐日米大使が岸田国賓訪米時に述べた「一つの時代が終わり、新しい時代が始まる」、すなわち日米同盟新時代が始まる、これを担い推進する挙国一致政権の登場のことを念頭に置いた推論だ。

日米同盟新時代の基本は「日米安保の攻守同盟化」、日本が「国際秩序を護る」戦争、具体的には対中・代理“核”戦争のできる国に変容する、これが米国の要求だ。だから新政権の課題は「9条改憲」(実質改憲含め)、「非核の国是放棄」となる。この難題は国民の理解を得られる政権にしかできない、国民が愛想を尽かした自民党政権では無理、だから与野党連合、「挙国一致政権への変容」でなければならない。

橋下徹「政権変容論」はこの日米同盟新時代を担う「政権変容」を次のように構想した。

「政権の交代というより、野党予備選で候補者の一本化を果たし、本選での与野党逆転を実現した上で、野党側が石破氏など国民的に人気のある自民党有力者を総理に担いで与野党合同とも言える政権への変容を実現する」

この橋下徹の思惑に反していま野党候補の一本化は進まず、総選挙で過半数を占める自公による政権存続の可能性が高いという。でも野田代表の立憲民主党の選挙公約は「外交安保政策は岸田政権のそれを堅持する」だから石破・自公政権にこの点では協力できる、すなわち「日米同盟新時代」の安保外交政策は石破・野田で与野党「挙国一致」体制はできる。当然、維新、国民民主も同調する。これも「政権変容」の一つの形だ。

もし自公過半数割れになってもその逆もまた可能だ。

選挙結果がいずれであっても与野党合同、「政権変容」はできる。

ただここに一つ新たな混乱、波乱要因が加わった。

石破新総裁率いる非安倍派とこの間、政府と党の人事からも選挙の公認からも二階派とともに排除された安倍派との大きく二つに自民党が分裂する可能性が出てきた。

自民総裁選の第一回投票では安倍派の結集軸でもある高市早苗氏が大方の予想を裏切り石破氏を上回る党員票を獲得、石破氏を破って第一位になった。決選投票ではこの事態に慌てた岸田前首相が旧岸田派の議員41票を石破にまわしてかろうじて石破総裁が実現した。この一件で自民党には安倍派を中心にした隠然たる「反石破」勢力の存在の大きいことが浮き彫りになった。党人事や公認を巡る二階派、安倍派の鬱積した不満が相まって「日米同盟新時代」推進の挙国一致政権を揺るがしかねない可能性、不安要素が出てきた。

もう一つは、この間、政権交代「救民内閣」樹立を公言しながら、今、鳴りをひそめている泉房穂さんの存在がある。これも国民的人気を背景にできれば「日米同盟新時代」挙国一致政権をストップさせる侮れない政治勢力になりうる。

安倍派には、国家主義的で対米面従腹背的な側面が多分にある。欧州で台頭する「極右」、自国第一主義勢力のような存在になりうる要素を秘めている。もちろん彼らは「靖国神社参拝」積極派、覇権主義的で「大日本帝国の夢よ再び」の古い軍国主義勢力の側面を持つ。しかし岸田政権が踏み切った「日米同盟新時代」、それは日本が軍事のみならず全ての分野で米国に統合、溶解されること、彼らはこれをよしとしない勢力であることも容易に想像できる。

安倍元首相を使えるだけ使った米国がいまや安倍派を敵視する理由がそこにあると思う。「米国による安倍暗殺」陰謀説さえ語られる所以(ゆえん)だ。

話は少し横道にそれるが、最近、「愛国とロック」という高市早苗礼賛本が出た。デジ鹿連載の「ロックと革命」の剽窃? まさか!? それは冗談として彼女もバンド少女だったのは事実、ロックバンドをやるのはだいたい自己主張人間、何となく高市早苗という人物がわかる本の標題だ。彼女の「愛国」は私のそれとは真逆の方向を向いている。でも彼女の愛国が心からのものなら日本が米国に統合、溶解される「日米同盟新時代」といういまの現実は「愛国とロック」と相容れないはずと私は空想するのだが……

他方、泉房穂氏は岸田国賓訪米時に「いったい誰の顔を見て政治やっとるんや」と批判した人、「日米同盟新時代」をよしとしない政治家だ。

この「救民内閣」樹立の泉氏と高市早苗氏に同調する保守民族派が「日米同盟新時代」推進政権反対で共同歩調をとれないとは誰も断言できないと思う。

いまはあくまで可能性、空想の段階だが、石破首相が引き起こした10月政局の混乱は、その可能性、空想の根拠を与えたのも事実だ。

いまの私たちは吠えることしかできないが、根が楽観主義者だから「ピョンヤンから感じる時代の風」がいつかは必ず日本にも吹くことを信じて引き続き吠えていきたい。

「戦後日本の革命」成就のために!

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

◎ロックと革命 in 京都 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=109

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

月刊『紙の爆弾』の最新号記事がnoteで一部公開・購読可能となりました。記事単位での購入も可能になりましたが、『紙の爆弾』はあくまで紙がメインのメディアです。興味を持っていただけましたら、ぜひ書店でお手にとっていただければ幸いです。定価700円(税込)、年間定期購読7700円(1号分お得です)。ここでは10月号(9月7日刊行)の注目記事2本の一部を紹介します。

◆安倍・岸田軍拡43兆円の無駄遣い 隠蔽主義の「カルト集団」防衛省・自衛隊
 取材・文◎清谷信一

 

 

 整合性なき防衛費倍増

かつて防衛費にはGDP(国内総生産)の1%という枠があったが、故安倍晋三元首相が第2次政権後にGDP2%を目指すとぶち上げて、岸田政権はそれまで5兆円台だった防衛費を5年間で43兆円、1年あたり8.6兆円にする大幅増額に踏み切った。

だが政府与党にも防衛省・自衛隊にも軍事に対する当事者意識と能力が欠陥といえるほどに欠けている。この状態で「大軍拡」を行なうのはむしろ国防を危うくする。

安倍元首相は国債を刷ればいくらでも軍拡が可能だと主張していたが無責任にも程がある。ソビエト連邦は経済力を無視して無謀な軍拡に走って崩壊した。それと同じことになりかねない。

岸田政権は財源が必要との認識を持っている分、まだまともかもしれない。だが、それで建設国債5千億円を防衛費に当てている。これは借金に変わりはない。菅義偉元官房長官が始めたふるさと納税こと「ふるさと脱税」で5千億円以上の税金がダダ漏れしている。防衛費を建設国債で賄うくらいならば、ふるさと納税をやめればいいと思うのだが、筆者が浜田靖一防衛大臣(当時)に質したところ、自民党国防部会では議論にも上らなかったとのことだ。

そもそも安倍元首相の言いだした防衛費GDP2%には何ら軍事的な整合性はない。単にアベノミクスの失敗が明らかになったので、首相の座を菅氏に禅譲し、「強いリーダー」を演出して再び首相の座に返り咲こうとして「国難」を煽っただけだろう。第2次安倍政権時とその後に我が国周辺の緊張が高まった事実はない。

そして防衛費GDP2%への倍増の論拠は薄弱だ。単に米国がNATOに対して要求しているものを「借用」しただけだろう。これを自民党は選挙公約にしたが、防衛費GDP2%の算定をこれまでの我が国の算定方法でいくのか、NATOと同じ算定方法でいくのかすら決めていなかった。両者では当時で約3千億円も違ったのだが、自民党の政治家はそれすら認識していなかったほど「軍事音痴」だった。

防衛省のシンクタンクである防衛研究所の高橋杉雄氏(現防衛研究所・防衛政策研究室長)らが頻繁にメディアに露出して「GDP2%が妥当である」などと言っているが、専門家の発言とは信じられない発言だ。いくら発言は個人の見解だと強弁しても、防衛研究所の見解と読者・視聴者は理解するだろう。自民党は本来政治的な思惑とはニュートラルであるべき防衛研究所を世論操作の道具として使用したのだ。こんなことは以前にはなかった。

この算定基準の問題は筆者が指摘し、その後、財務省の財政制度等審議会の資料でも指摘されて知られるようになったものの、新聞・テレビなどの記者クラブメディアも認識していなかった。大軍拡の「共犯者」は記者クラブだ。彼らは会見やその他の取材機会を独占して、他の媒体やフリーランスを排除し取材を密室化することで利益を得てきた。また単に会社の辞令で配属されるので専門知識はない。

第2次安倍政権では、次年度予算と当年の補正予算を「悪用」し、また概算要求時に金額を入れない「事項要求」を導入することで軍拡が行なわれてきた。たとえば概算要求時、本来5.6兆円の防衛費のうち、3千億円が金額を明記しない「事項要求」であれば発表される金額は5.3兆円となる。これが新聞やテレビのヘッドラインに載るわけで、読者・視聴者は防衛費を過小に認識する。

補正予算は本来、予算編成時に予期できなかった突発的な事態に対処するために組まれる予算である。たとえば大規模な震災や水害で自衛隊が出動して、損耗した装備等を手当する、あるいは急な円安やエネルギー価格の高騰で燃料費が足りなくなって、それを手当するというものだ。ところが第2次安倍政権では輸送機や装甲車、隊舎の建て替えなどといった補正予算の本来の目的を外れた使い方をした。これらはれっきとした違法行為であり、事項要求の例と同様、政府予算の防衛費をそれだけ過小に見せることができる。これは露骨な世論操作だが、それに新聞やテレビ、通信社は加担してきたということだ。

 組織延命のための「トカゲの頭切り」

7月に海自幕僚長が引責辞任したように、防衛省・自衛隊は近年、多くの処罰者を出しているが、これは氷山の一角にすぎない。それは彼らが過度な秘密主義・隠蔽主義によって、国民に対し自分たちが何をやっているのか隠すのが恒常化しているからだ。外部の目が届かないので犯罪行為すら「組織の利益」になれば許されるという歪んだ文化が形成されている。

これはオウム真理教などのカルト集団と大変似ている。自分たちの教義は絶対であり、それを批判する外部の人間は法敵である。また組織内でも組織のやり方に疑問を挟む者は異端として排除される。

筆者は7月9日、木原稔防衛大臣に定例会見で明確なエビデンスを示し、公開情報をあたかも軍事機密のように国民に隠す体質を指摘し、質した。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n57e7cf341f39

◆大屋根リング・会場周辺で〝実測〞 灼熱の大阪・関西万博
 取材・文◎横田 一

 

 

 真夏の「子ども無料招待」

日本維新の会の馬場伸幸代表は8月5日、遠藤敬国会対策委員長ら約100人の維新議員とともに大阪・関西万博の会場を視察した。直射日光が照りつける大屋根リングの上で博覧会協会の石毛博行事務総長からパビリオン建設の進捗状況などについて説明を聞いた後、集合写真を撮影。馬場代表は「情報の発信が機運の醸成につながる」と強調。参加議員に視察の様子を発信するよう呼びかける一方、自身も家族や親戚にチケット購入を呼びかけることも明らかにした。

当初想定から約2倍の最大2850億円となる会場建設費上振れで維新批判が強まった中、万博開催の意義を発信して反転攻勢につなげたい狙いが透けてみえた。そんな馬場代表を大屋根リング上で直撃、熱中症対策について聞いてみた。

まず実測していた熱中症(暑さ)指数の結果について「危険指数31を超えている」と伝えると、馬場代表は「ほー」と驚いてみせた後、「33を上回ったら非常に危険」とつぶやいた。熱中症指数の意味を把握してはいたようだ。気温や湿度、日射・輻射から割り出される「熱中症指数(WBGT)」は、日本気象学会が策定した熱中症予防指針だ。熱中症指数を「危険(31以上)」「厳重警戒(28~31)」「警戒(25~28)」「注意(25未満)」の4段階に区分し、注意喚起をしている。たとえば「危険(31以上)」レベルでは「高齢者においては安静状態でも熱中症が発生する危険性が大きい。外出はなるべく避け、涼しい室内に移動」と呼びかけている。なお環境省は全国各地の熱中症指数と気温と湿度の実測値をネット上で公開している。

そこで私は、熱中症指数が算出可能なデジタル温湿度計を2台用意し、大屋根リング上で実測した。そして結果が危険レベルにあることを馬場代表に伝えたのだ。

続いて私は「危険レベルは31以上。環境省は『31を超えたら外出を控えるように』と呼びかけている。(大阪府市が無料招待する)子どもたちが危ないのではないか」と聞いてみた。高齢者と同じように子どもたちも熱中症に対して弱いためだが、馬場代表は次のようにいくつかの熱中症対策を列挙して事足りるとしたのだ。

「それは、始まる時には、暑さ対策、ミストとか、いろいろなことがあるし、水をまいたり、(千葉の)ディズニーランドも(大阪の)ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)も同じ条件でやっている。閉園していないでしょう」

「そこ(熱中症指数が危険レベルであること)は注意喚起をしたりとか、暑さ対策を(来年4月の)開園までにやらないといけない」

馬場代表は結局、万博会場と同じ大阪湾岸にあるUSJを引き合いに出しながら、子どもたちの入場制限の必要性を否定した。

大屋根リング上で熱中症指数を実測して馬場代表に突きつけたのは、“維新ツートップ”の危機感の乏しさを目の当たりにしていたためだ。大阪府市は万博に子どもたちを無料招待する事業を進めているのに、維新共同代表の吉村洋文・大阪府知事も大阪維新幹事長の横山英幸・大阪市長(両人とも万博協会副会長)も、子どもたちのリスクを真剣に考えているようにみえなかった。「夏季(6月~8月)は無料招待事業を実施しない」とか「熱中症指数が危険レベルになったら子どもと高齢者の入場制限をする」といった具体的対策を打ち出す様子もなかったのだ。

7月10日の記者会見で吉村知事に対して「(大阪府は)熱中症対策として『特別警戒アラートが出たときは不要不急の外出を控える』と言っている。同じ基準を万博についても当てはめるのか。何度以上になったら不要不急の外出に当たるとして(万博会場への)入場制限をするのか」と質問した。

吉村知事は、「そこについては(万博)協会で判断することになるだろうと思う」と回答。府の基準と違っても、万博協会任せの姿勢が露わになった。

 バス駐車場から会場まで800メートル往復

続いて私は、子どもたちが万博会場にバスで行った場合の熱中症リスクについても聞いてみた。「駐車場から会場まで800メートルもあり、かなりの時間を歩く。ここでも『熱中症リスクがあるのではないか』という指摘があるが、専門家の検証は経ているか。すでに検証しているのであれば、『何度以下だったら大丈夫だ』というガイドラインはあるのか」。

対して、吉村知事はこう答えた。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n8df0cca7519c

最新刊! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年10月号

『紙の爆弾』2024年 10月号

『さらば日大!』和田秀樹医師が暴く日本大学と「医学部」「医師界」の闇
旭川女子中学生凍死事件 再調査委員会が隠した社会の病巣 山田寿彦
安倍・岸田軍拡43兆円の無駄遣い 隠蔽主義の「カルト集団」防衛省・自衛隊 清谷信一
日本にも進出する情報統制機関 政府・企業・組織「検閲産業複合体」の脅威 青柳貞一郎
広島市の妨害を民衆が打破 平和記念式典「反戦集会」 浅野健一
“勝ち目”のあるうちに退いた 岸田文雄首相「退陣表明」の裏側 山田厚俊
僚支配・憲法無視・米国追従 「能動的サイバー防御」とは何か 足立昌勝
国民より先に米国に“退職報告”していた岸田首相 
ウクライナの侵攻を「越境攻撃」と呼ぶ欺瞞 木村三浩
兵庫県知事パワハラ疑惑は「維新的」政治家の成れの果て 吉富有治
大屋根リング・会場周辺で“実測” 灼熱の大阪・関西万博 横田一
米大統領選の隠れた争点 日本製鉄のUSスチール買収計画 浜田和幸
子宮頸がんワクチンを打ってはいけない理由 「ワクチン添加物」という“毒” 神山徹
IOCの体質こそ根本原因 パリ五輪ボクシング“染色体問題”の本質 片岡亮
“性加害”補償進まぬウラで 旧ジャニーズと離脱組「TOBE」の明暗
地獄の黙示録1984+40 佐藤雅彦
シリーズ日本の冤罪 52 プレサンス元社長事件 尾崎美代子

連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け:西田健
「格差」を読む:中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座:東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER:Kダブシャイン
SDGsという宗教:西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

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◆秋が大好きだった京都青春時代、そしていまは……

季節はもう秋。

9月に入っても今年の日本はいまだ残暑厳しいようだが、ピョンヤンの9月は涼気を感じる日々の始まりを告げる。9月初旬の日中は30度を上回ったが朝夕は涼しく中旬からはもうすっかり秋の色が濃い。

周辺の協同農場ではトウモロコシの刈り入れが終わり、田圃はたわわに実った稲穂の黄金色に染まり秋風が稲穂を優しく撫でていく、それは稲穂が風の接吻を受けているかのよう。

まさに「ロックと革命in京都」に託したラブソング、Stingの“Fields of Gold”の世界。

きっと君は僕を想う
風が大麦をなでるとき
嫉妬する空の太陽に言うんだ
黄金の世界を歩んだと
輝く世界に生きたと
二人の黄金の世界

「京都青春記」時代の私は季節といえば秋が大好きだった。それも紅葉も終わり落葉の晩秋から初冬の風情、枯れ葉をカサコソ踏みしめながら落葉後の枯れ木立の森を歩く……誰かと語り合いながら、ならもっと様になる。それが私の好きだった「枯れ葉と枯れ木立」の秋のイメージ。

それは枯山水とか「侘び、寂びの世界」とはちょっとちがう。たぶん「飾り立てるのがファッションかもしれないが、人の目を欺いてはいけない」、“悠久の黒”ファッションの山本耀司の感覚に近い。

「戦後日本はおかしい」── 敗戦でアメリカには頭を下げたがアジアには頭を下げなかった戦後日本、「アメリカに追いつけ追い越せ」の「飾り立てた」昼間の日本に違和感を持っていたのが京都時代の私、だから春や夏のように華やいだ季節はどこか肌に合わなかったのだろう。

世間的には「ひねくれ者」、屈折した青春というのかもしれない。でも本人はそんなことは意識もしなかった。当時はそれが私の自然体だと思っていたから。

“裸のラリーズ”水谷孝が夜の世界を歌い、「漆黒の闇にこそ真実と創造がある」というようなことを語っていたが、それと似ている心情世界だった思う。

そんな世界から心機一新、「革命家になる」! と「よど号」で朝鮮に飛んで来てからは四季折々の風情を楽しめるようになった。それだけ前向きになったということだろう。

ちょっとイントロダクションが長くなったが、今年の秋は風情を楽しむといった心境にはなれないというのが本題。

9月に入って不穏な空気を感じる事態が世界で起きている。

◆ゼレンスキー「最後の勝利のための4つの提案」に漂う不穏な空気

「ウクライナ『露に戦争終結を強制』」(2024年8月29日付け読売新聞)

8月27日、ウクライナのゼレンスキー大統領は「4つの最後の勝利計画」を発表、これを9月末の国連総会に合わせた訪米時にバイデン米大統領に伝えるとした。

その勝利計画の第一はロシア領内のクルスク州への侵攻、第二は米欧供与の長射程ミサイルのロシア領内への攻撃使用許可を得ること、第三はロシアに外交的に戦争を終わらせるようにすること、第四はロシアに経済的圧力をかけることとした。

目的は「ロシアに戦争終結を強制すること」だそうだ。これをプーチン大統領が聞いたら、それこそ「へそが茶を沸かす」、ちゃんちゃらおかしい「悪い冗談」と言うだろう。

だが最近の米国の動きを見ていると、それが「悪い冗談」と笑い飛ばせないものがある、いや「窮鼠(きゅうそ)、猫を噛む」の譬(たと)えにあるように「窮鼠」が何をやるかわかったものではない危険な空気を感じさせる。

ゼレンスキーの「最後の勝利計画」の核心は、第二の「ロシア領内攻撃への米欧供与の長射程ミサイル使用許可」を得ることにある。ゼレンスキーは「成否の鍵は彼(バイデン大統領)にかかっている」と米国の決意を促す強気を見せた。この強気は単なる「強がり」ではない根拠のある強気のように思える現実が生まれつつある。

これまで一貫して米欧はこの「使用許可」を与えなかった。ロシアとNATOとの全面戦争に発展することを恐れたからだ。事実、このゼレンスキー発言を受けてプーチン大統領は「もし米欧供与の長射程ミサイルがロシア領内攻撃に使用されたなら、この戦争は新しい次元に入る」、すなわち「ウクライナとの戦争からNATOとの戦争の段階に入る」と強い警告を発した。

にもかかわらず米欧は慎重姿勢を変え「使用許可」にゴーサインをする空気がいま生まれている。

9月13日、バイデン米大統領とスタイマー英首相がホワイトハウスで会談、この問題を協議した。会談冒頭でバイデン大統領は「プーチンは勝利しない。ウクライナが勝利する」と述べたそうだが、会談内容については「支援は必要な限り継続する」とのみ公表された。

この米英首脳会談を伝えたニューヨークタイムス紙は、「英仏が供与した長射程ミサイルでの攻撃を認める見込みだ」と報じた。ただし米供与の地対地ミサイル「ATACMS」使用容認については依然、慎重だと付け加えたが……。

これは米欧が「一線を越えた」ことを意味する。プーチン大統領の言う「新しい次元の戦争、ロシアとNATOとの戦争」に入ることも辞さない挙に出たとも言えるだろう。

この連載で私は米国は敗北確定のウクライナは諦めて「対中対決に集中する」だろうと述べてきた。だがどうも風向きが変わってきたのではないかと思う。

いまやウクライナの敗北は確定的と世界の誰もが見ている。ロシア領内侵攻という「鳴り物入り」のクルスク州一部地域占領も雲行きが怪しくなってきている。ロシア軍がゆっくりと攻勢をかけ始めた。「熊のお尻を蚊が刺した」程度と言われる「侵攻」だから急ぐ必要がないのだろう。でもロシアの発表では空挺部隊と海兵隊とで10部落を解放した。侵攻したウクライナ軍は援軍もなく挟撃の危険にもさらされているという。

昨年5月以来のウクライナ軍の「反転攻勢」は挫折して久しいどころかロシア軍の逆攻勢で後退に次ぐ後退を強いられている。東部の独立を宣言したロシア人居住地域、ドネツク州など、または南部の州もロシア軍が完全掌握するのは時間の問題だろう。兵器も慢性不足、かつ新たな徴兵令も「刑免除取引」に応じた刑務所囚人が応じたのがせいぜいの兵員不足に悩むウクライナ軍にこれを押し返す力はない。政権内の不協和音は拡大、国民の政権支持率も下落一途、徴兵逃れに必死の国民に戦う気力は期待できない。

このままでは「ウクイライナは惨敗必至」とウクライナ擁護の「識者」まで言い始めている。誰の目にもそうとしか映らない事態にまでウクライナは追いつめられている。

ウクライナのゼレンスキー大統領(wikipedia)

しかしながら9月に生じた新しい空気の変化は、米国がこの明確な「ウクライナ惨敗」のままで終わることをよしとしない決意を示したかに見える。なぜなら「ウクライナ惨敗」=「米覇権秩序の崩壊」不可避を意味する、そうなれば「対中対決に集中する」どころの事態ではなくなる、ゆえに敢えて「ロシアとNATOの戦争になる」危険を冒してでも「ロシアに惨敗」という現局面を変える、ここに米覇権死活の活路を求めた、そう見るべきではないのか。

しかしながら「ウクライナ支援」は、米欧日「G7」諸国以外の世界の諸国、特に絶対多数を占めるグローバルサウス諸国の反発を呼んで久しい。そのうえ「ロシアとNATOの戦争」ともなれば世界からの猛反対に合い、さらに国際的孤立を深めるのは火を見るより明らかだ。でもそれを押してでも「一線を越えざるをえない」ところまで「G7」の生命線「米覇権秩序」は窮状に追い込まれている。

まさに「窮鼠」! それが米国を中心とする「G7」グループ、いまや時代の遺物になった旧帝国主義列強諸国の現在位置だと言える。

また空気の変化を示すもう一つの根拠は、「私が大統領になればウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる」、そして「対中対決に集中する」と言っていたトランプが大統領選で急に失速していることだ。9月の大統領選TV討論会でトランプは日頃の鋭気も冴えもなくハリスにいいようにやられた。かつての「いまトラ」「確トラ」から「いまリス(ハリス)」へと急変の事態もどう見ても異常だ。ハリスはバイデン路線の継承者、「ウクライナ支援は継続」論者だ。「確トラ」から「いまリス」への急変も「ウクライナ惨敗」で終わらせてはならない、そのためには「戦争が新しい次元に入る」ことがあろうとも米覇権の命運をここに賭けざるを得なくなった窮余の米国の「決心」の反映と見るべきではないだろうか。

だとすれば、ウクライナのロシア領内攻撃への米欧供与の長射程ミサイル使用を引き金に「ロシアとNATOの戦争」になる。それがどういう形になるかいまはわからない。

例えば、ロシア軍占領の東部、南部への「反転攻勢」にNATO軍が加勢する、少なくとも英仏独軍、在欧米軍が劣勢挽回のための軍事的支援、新鋭航空機と飛行士、新鋭ミサイルを扱える部隊を送るくらいはやらねばならないだろう。これに対してロシアはどう対抗措置をとるか? 英仏独の軍事基地や在欧米軍基地への攻撃だってありえないことではなくなる。

米国がどこまで勝算があってやるのか? おそらくそんなものはないだろう。文字通り「窮鼠、猫を噛む」だからかえって危ない。

この9月に生まれた不穏な空気が果たしてどうなるのか? 

その一つの指標は9月24日の国連総会出席で訪米するゼンレンスキーに米欧がどう回答を出すかだろう。すでに米国は国連総会出席の欧州関係国首脳らと「ロシア領内への米欧供与の長射程ミサイル使用許可」問題を協議するとしている。この結果を注視する必要があるだろう。

◆日豪「準軍事同盟国」化の意味

ウクライナをめぐる対ロ戦争に集中するとはいっても、それは窮余の策ということで「対中対決に集中」は一時棚上げしただけで「中国征伐戦争」を放棄するわけでも放置するわけでもない。米国の覇権秩序瓦解からの回復戦略でその主敵はあくまで中国だということに変わりはない。だからその最前線を担うことになる日本への「国際秩序を護る」戦争国化、対中代理“核”戦争国化要求は強化されることはあっても弱化することはありえない。

9月5日、メルボルンで日豪の外務・防衛担当閣僚会合「2プラス2」が持たれた。

日本は豪州を米国に次ぐ「準同盟国」と位置づけているが、今回は対中対決の「準軍事同盟国」化に大きく一歩を踏みだした。

「『敵基地攻撃』豪と協力 艦艇受注も目指す」(2024年9月6日付け朝日新聞)

その一つは「敵基地攻撃能力」での両国間の協力深化を確認したことだ。

具体的には「敵基地攻撃能力」の核心である敵の射程圏外から攻撃可能なスタンドオフ・ミサイル(中距離ミサイル)活用面での協力、豪州の広大な領土での陸自新設のスタンドオフ・ミサイル部隊の試射を行うことなどに合意した。

また一つは、自衛隊に新設が決まった統合作戦司令部稼働に向けて、11月には現在の自衛隊統合幕僚監部から豪軍の統合作戦本部に連絡官の派遣を合意した。対中戦争時の作戦指揮での連携体制確立によって、在日米軍に新設の統合軍司令部の指揮下で日豪軍が有事作戦行動をとれる体制を築いたということだ。

これは日豪間には日米安保同盟のような軍事同盟関係はないが、実質的には「準軍事同盟」関係に入ったことを意味するものだ。もちろん対中戦争を念頭に置いた「準軍事同盟」だ。

こうした日豪政府の動きの背景には米国の同盟関係転換政策、“ハブ&スポーク状”同盟から“格子状”同盟への転換がある。これについてはこの連載⑥で触れた重要なことだが、とてもわかりにくい概念なので重複を恐れず少し説明させていただく。

“ハブ&スポーク状”同盟とは、自転車の車輪の中心部のハブ、そのハブにつながる無数のスポークが車輪を支える構造に譬(たと)えた同盟構造を指す。ハブとなる中心に米国があってその中心から伸びるスポーク(同盟)で各国がつながる、つまり米国が各国個別に同盟を結び、各国が軍事大国、米一国に依存する同盟関係を指す。

“格子状”同盟とはインド太平洋地域の日韓、日比、日豪が格子状に重なるような同盟構造への取組を行うことだ。もちろん各国は米国と同盟関係にある、だが「米国だけに頼るな」ということ、この地域各国が相互に「独自の同盟関係」を結びアジアでの米覇権秩序を守れということだ。米国の要求は日本が基軸になって各国と「独自の同盟関係」を結ぶことだ。もちろんこの各同盟への指揮権は米軍が握る、そしてこの同盟の矛先は中国だ。

これはいわば「アジア版NATO」に向けた取組と言えるだろう。言葉を換えればアジアにおける対中代理戦争体制だと言えるだろう。余談だが自民党総裁有力候補の石破茂氏は「アジア版NATO」を自己の基本政策課題に挙げている。

今年7月には日本は豪州に続きフィリッピンを「準同盟国」級に格上げし、共同軍事演習への道も開いた。ゆくゆくは日比軍事同盟化が米国の要求だ。しかし日韓、日比、日豪間で軍事同盟を結ぶに当たっては日本の憲法9条がネックになる。有事の際に「戦争のできない日本」、自分と一緒に戦ってくれない日本とは韓国もフィリッピンも豪州も安保軍事同盟を結んでくれはしない。ゆえにこの格子状同盟形成面からも「9条改憲」(実質改憲も含め)が日本に迫られる。これについてはここでは触れない。

何が言いたいかといえば、対ロ戦争に集中するであろう米国だが、アジアにおける対中戦争準備は着々と推進される。

それは4月の岸田訪米以降の日米同盟新時代、「国際秩序を護る」戦争に「最も近い同盟国」日本がアジアで中心的役割を果たすこと、言葉を換えれば「東のウクライナ」の役割を果たすことを迫られることには何の変化もないということだ。

9月の日豪「準軍事同盟国」化に進んだ事実がそのことを証明している。

◆結びとして一言 

今回のテーマは“9月に感じる世界の不穏な空気「窮鼠、猫を噛む」、「国際秩序を護る」戦争”だが、アジアで「国際秩序を護る」戦争の最前線に立たされるのがわが日本だということを強調しておきたい。

いま秋の政局の季節、9月の自民党総裁選、立憲民主党代表選から10~11月に予想される解散、総選挙がある。しかしいまだ岸田首相国賓訪米に始まる日米同盟新時代が迫るわが国の「国際秩序を護る」戦争国化、対中・代理“核”戦争国化が政治争点になることはない。しかし国民の目に見えない形で、あるいは「専守防衛の範囲内」と国民を欺く手法でそれは着々と確実に進められている。

石破茂氏が「アジア版NATO」に触れるとか、高市早苗氏が「核持ち込み容認論」を唱えるとかはあるが、それは断片的な個人的見解の域を出ず、核心をついた議論は避けられている。自民にせよ立民にせよ総裁や代表をめざす政治家なら日米同盟新時代の要求が何かを知らないはずがない。そういう意味で私には既存の与野党政治家は国民を欺いているとしか思えない。

「国際秩序を護る」戦争国になるなど国民が認めるはずがない、ましてやそのための9条改憲や非核の放棄など言えば、国民的反対にあって対中・代理“核”戦争国化などいっぺんに吹っ飛んでしまう。だから政治家はわかっていても正面から国民には問わないで政治家同士で事を決めてしまう。

石破茂氏のTV討論での発言はその典型だ。「9条第二項・交戦権否認、戦力不保持の削除」改憲は必要だが、改憲を問う国民投票にかけるには長い時間がかかるから安全保障基本法でそれに代える(実質改憲をやるということ)、それを国会で審議、採択すればよい」-つまり日米基軸で一致する議会内の政治家同士の談合で決める、国民は適当な説明で欺けるといういまの政治家心理の露骨な表現だと思う。

泉房穂さん式に言えば「いったい誰の顔見て政治やっとるんや」だが、アメリカの顔を見て国民の顔は見ない、それが「日米基軸は不変」が口癖の既存政党の政治家たちだ。もちろん既存の政党(自民も含め)にも良心的な人たちもいるだろうが、その人たちの声は聞こえてこない。「支持政党なし」、無党派層が絶対多数という現実にあって国民の顔を見てアメリカに堂々と「ダメなものダメ」と言える政治家が出る時、いや出なければならない時だと思う。

そんな政治家が各選挙区に出れば、既存の政党、政治家に愛想を尽かした国民、特に無党派層はまちがいなくその人に投票するだろう。政権交代だって夢じゃない。

瓦解に向かう米覇権秩序、それと運命を共にする「国際秩序を護る」戦争とわかればそれに賛成する日本人はいないだろう。

「言うは易し行うは難し」だが、それを国民に明らかにし正面から問う、そして正しい日本の進路を示す、そんな政治家が必ず出てくると信じたい。

「またピョンヤンからの遠吠えか」と言われそうだが、もっと心に刺さる「遠吠え」を私も心がける決意で、これからも吠えつづけていきたいと思う。

客観的には米覇権秩序瓦解の時代、「米国についていけばなんとかなる時代」は終わったのだから、「戦後日本の革命」はすぐ近くまで来ている! このことを確信するから……

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

◎ロックと革命 in 京都 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=109

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

◆イスラエルは自衛のためにガザを爆撃しているのではない

8月9日の長崎平和祈念式典にイスラエル駐日大使を招待しなかったことが問題となり、米国をはじめG7諸国などの駐日大使が参席を拒否した。NHKはイスラエルのことを「ハマスと戦闘しているイスラエル」と繰り返し紹介していた。

冗談じゃない。イスラエルが問題になるのは、ハマスと戦闘していることではなく、ガザ地区に無差別爆撃を繰り返し、4万人をこえる女性と子供、住民を大量虐殺しているからではないか。そんな戦争犯罪国家にたいし長崎平和祈念式典にイスラエルが参席する資格があるというのだろうか。長崎市は「イスラエルが攻撃を続けているパレスチナガザ自治区で危機的な人道状況や国際世論などを踏まえイスラエル大使の不招待を決めた」と言っている。

長崎平和祈念式典にはロシアとベラルーシも招待されなかったという。アメリカなどの言い分は、「イスラエルを招待しなかったら、イスラエルは自衛権を行使しておりロシアと同列におき誤解を招く」ということだ。

イスラエルはパレスチナ民衆をガザという空しかない刑務所に閉じこめ、そのうえハマスの攻撃に対する報復として爆撃による大量虐殺をおこなっている。イスラエルは自衛のためにガザを爆撃しているのではない。自衛のためではなく、パレスチナ民衆を抹殺するために大量虐殺をおこなっているとしかいいようがない。一番、招待すべきでないのはイスラエルである。

◆二重基準の原因はアメリカの例外主義と覇権主義

広島慰霊祭ではパレスチナが招待されずイスラエルは招待された。だから広島慰霊祭にはアメリカ大使なども参席した。その広島市に多くの批判の声もよせられたという。パリ五輪でもロシアとベラルーシは国家として参加させずイスラエルは参加させている。もし軍事侵攻がだめだとする基準ならイスラエルも当然あてはまる。いわゆる二重基準だ。

この二重基準の原因は軍事支援しようがしまいと自国は特別だというアメリカの例外主義がある。アメリカは軍事支援している国に国際イベント参加拒否というようなことは許さないという。例外主義は他国にたいし侵略、内政干渉など何をやってもかまわないという覇権主義そのものだ。

 

赤木志郎(あかぎ・しろう)さん

◆長崎市がG7諸国の圧力に屈しなかった要因

アメリカと長崎市の間に立った岸田首相はおろおろするだけでG7の7カ国での核軍縮の話し合いがすすまないと泣き言を言うだけだった。世界に核兵器を振りかざし恫喝しているアメリカに膝間つき、唯一の被爆国と言いながら核兵器禁止条約にも参加できない日本政府は「核のない世界を」と語ることができないでいる。

その点、長崎平和祈念式典にアメリカ、とくにエマニュエル大使の露骨な干渉、圧力に屈せずイスラエル大使を招待せず毅然とした姿勢を貫いた鈴木史朗長崎市長および長崎市民は立派だと思う。長崎市がG7諸国の圧力に屈しなかった要因には、宣言作成や行事について公開的に論議をすすめてきた経緯がある。広島市の場合、非公開ですすめられた。

イスラエル不招待をめぐる長崎平和祈念式典でのアメリカなどの不参加は、世界の非米諸国とG7覇権勢力との対立の表れだということができる。そして、長崎市のように市民の声を背景に戦争反対の正義の信念をもってそれを貫いていけば、アメリカの圧力も跳ね返すことができるということを示したのではないだろうか。

▼赤木志郎(あかぎ・しろう)さん
大阪市立大学法学部中退。高校生の時は民青、大学生のときに社学同。70年赤軍派としてハイジャックで朝鮮に渡る。以来、平壌市に滞在。現在、「アジアの内の日本の会」会員

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

◆“ノレハジャ キム・ジョンウン”TikTok再生1,100万“大バズリ”!

朝鮮のミュージックビデオがTikTokで260万再生の“大バズリ”!

こんなネット記事が送られてきた。この記事が5月17日付けだったが、朝鮮の労働新聞の「正論」記事には「世界で1,100万回再生」との引用があった。これが7月初旬だから1ヶ月半余で5倍近くに増えたことになる。労働新聞という固い党機関紙に載るほどだから朝鮮でもよほど異例の「事変」だったのだろう。

この歌の題名はキム・ジョンウン総書記を謳(うた)い上げる「チングンハン オボイ」、直訳すれば「親近な父」だが、「慕わしい父」と言った方が実感に近いと思う。

少しネット記事を引用する。

“この曲に合わせてダンスなどをする動画を欧米の若者がSNSに数多く投稿し、中には再生回数が260万回を超える動画もあるということです。SNSでは、「この曲にはグラミー賞が必要」「完璧な曲を出した北朝鮮に行きたい」という声もあがっています。高麗大学ピーター・ムーディ氏は、「この曲はABBAの曲調に似ている。軽快で耳なじみの良いオーケストラサウンドが際立っている」と分析しています”

“ノレハジャ キム・ジョンウン”[左]養老院のオバアちゃんらも“いいね!”/[右]真ん中にはあの女性アナウンサーが

この歌は「ノレハジャ(歌おう) キム・ジョンウン」の「ノレハジャ!」節に来て最高にノレる曲作り、自然にダンスしてしまうようにできている。昔、日本にスマイリー・小原という歌番組で「踊る」指揮者がいたが朝鮮のオーケストラ指揮者も腕をぐるぐる回したりであたかもダンスしてるよう。朝鮮では子供たちも登下校時にこの歌を歌っている。

私がこの曲を視聴したのは、新しい1万世帯ニュータウン入居式典が盛大に行われた際の音楽公演舞台だった。ノリのいい曲調に会場の聴衆は湧きに湧いた、特に若い大学生などはリズミカルに身体を揺すってノリにノッテていた。バックに映る動画も異色のもの、いつもの重大ニュース発表時の日本でも有名なおばちゃんアナウンサーも同僚たちと親指を突き立てる「イイネ」ポーズ、陸海空軍兵士、医者看護婦、スチュワーデス、労働者、農民、子供ら各界各層が次々にそれぞれの「イイネ親指突き立て」! 動画で面白かったのは養老院のお婆ちゃんたち、欠けた歯で笑って「イイネ」ポーズ。TV画面を観て私も思わず笑ったが、踊りたくなるようなアップテンポの曲、たしかにABBAのダンス曲に近いかも知れない。

こんな曲が生まれる空気感がいまの朝鮮の「現住所」だろう。こう書くと宣伝っぽくなりそうだけれど、以下は事実そのままを書く。

首都ピョンヤンでは2025年までに完成のモダンな高層ビル群のニュータウン、5万所帯住宅建設真っ最中、年に1万所帯づつだから超高速度戦、これで市内の住宅問題が解決する。また「日本人村」からほど近いところには「IT化」された超モダンな世界的にも希有と言われる大規模温室農場が1年足らずで完成、これでピョンヤン市民の野菜供給が全面的に解決される。そして農村文化住宅建設が全国で展開されていてピョンヤンのモダンな新築アパート生活と変わりのない住居条件で農民も生活する。むろん光熱費だけで住居費は無料。これが春頃から連日、2件づつほど地方農場の入居式風景がTV放映されているから、もうかなりの数に上るはずだ。

また「20×10」政策と称して今年から全国の200ほどある郡に地方工場コンビナートを20件/年、それを10年で終える、だから「20×10」政策。その地方で消費する食品、衣服、靴、学用品、家庭用品などの軽工業工場地帯をつくる。「地産地消」だから原料確保も技術者、技能工も地方で全て解決する。工事は人民軍の専門部隊が担当する。セメント、鉄骨材、水回り品、そして工場に設置する機械製品など基本資材は中央が保障、他の建材、建具などは地方で解決する。

これで都市と農村、首都と地方との生活条件での格差解消、これを全国の「全面的、均衡的発展」としている。日本の「地方消滅」とは対照的に「地方活性化」をやっている。

「社会主義万歳の声が全国でわき起こるようにする」というのが政府方針だから、実際の「変革実体」を国民が生身の生活体験によって「社会主義のありがたさ」を実感するようにということだろう。

米国による長年の制裁、それに加えてここ数年に及ぶコロナ禍で国境封鎖が続く中、「制裁を奇禍に自力更生で苦難を正面突破!」がスローガン。この自力更生も昔の「土木工事」式の人海戦術的なものじゃなくて、「知識経済時代の自力更生」、「科学技術、人材重視の自力更生」と言われる。中央のセンターからネット網を通じて全国の企業、農場、学校の「科学技術普及室」で、またスマホで適時に双方向での自分に必要な「最先端の科学技術情報」が学べる。また教育革命の一環、「学校前2年教育を含む」12年制義務教育も10年目を迎えて「科学技術人材」も順調に育っている。

国産品もいいのが出てきている。「世界的ブランドをめざせ」がスローガンで、例えば化粧品やスポーツ用品の企業にある見本展示場には“CHANNEL”“Dior”“SHISEIDO”そして“addidas”“NIKE”などの有名ブランド品も自社製品と共に並べられている。有名デパートや大規模商業施設にも世界のブランド品が国産品と共に陳列されている。「朝鮮の地に足をつけ、目は世界を見よ」! これ以上の高品質製品を! 将来は「朝鮮ブランドを世界ブランドにする野心を持て」ということだろう。

望んだことではないだろうが、極論すれば「国連制裁」下で事実上の「鎖国」状態、でもほぼ全部、自分の原料、技術、人材で上記の「社会主義万歳の声が全国に満ちる」ようなことをやっている。

「いまは社会主義全面的発展期」という位置づけだ。

超円安の直撃を受ける日本の「常識」では「そんなバカな!」というところだが、事実だから仕方がない。まさに「事実は小説よりも奇なり」。

「ノレハジャ!」に老いも若きも、男も女も自然に踊り出し、「イイネ」の親指突き立てポーズを決める。こんな曲が生まれる楽しくも自信満々、そんな社会的ムードになっている。

朝鮮はバイデン大統領の言う典型的な「権威主義国家」ということだが、彼は「1,100万再生大バズリ」をどう思うのだろう? バイデン爺さんよ! 朝鮮は核とミサイルだけじゃないんだよ。

以上は本論に入る前のちょっと楽しい「イントロダクション」。これからは「戦後日本はおかしい」が究極に来つつあるという、ちょっとどころじゃない厳しい今後の日本の現実、でも「希望はある」の本論。

◆“老衰度争い”の米大統領選討論会

バイデンの言う「民主主義国家」「普遍的価値観の模範国家」米国で、「老衰度」を争う大統領選を前にした討論会が世界の話題になっている。この討論会以降、民主党内からは「認知症気味のバイデンではダメだ」という大統領候補交代論がわき上がった。だからといって代わる候補がいるかというと、それも見あたらない。どれもこれも「帯に短し襷に長し」。(※バイデン大統領は7月21日、大統領選からの撤退を表明。新たな大統領候補としてカマラ・ハリス副大統領を指名した。)

政策論議よりも「老衰度争い」という大統領選討論会がいまの米国の「現住所」を示しているように思う。

「対ロ対決の主戦場」ウクライナでは自分がケンカを売った相手、プーチンの先制的軍事行動によって米国自身が窮地に陥った。

徴兵から逃れようと多くのウクライナの若者がルーマニア国境越えを試み「山岳地帯で凍死」「河で溺死」の危険を冒してまで軍への参加を忌避。とうとう刑務所の囚人を徴兵するしか手がなくなったゼレンスキー政権。そのゼレンスキーの妻はランボルギーニというイタリアの最高級車を最近、買ったという。誰が何を買おうと自由だが、徴兵忌避の若者の凍死、溺死続出という難局に大統領夫人がそんなぜいたくというのは、どんな神経かと疑われる。

ちなみにロシアは徴兵制ではなく志願制だ。有給制ということもあるが兵役志願の若者で兵員不足とならないのも代理戦争ウクライナに対する祖国守護戦争ロシアの強みだ。

ゼレンスキー人気もこのところ急落し始めている。国民もこの戦争が愛国の祖国守護戦ではなく、米国(NATO)の代理戦争だということを薄々感じ始めているからだろう。

そもそも反転攻勢ができないのは、米欧からの最新兵器支援が足りないからだと「もっと兵器をくれ」と大統領が駄々をこねるような戦争は、民族解放戦争でも祖国守護の愛国戦争でもない。最新兵器物量作戦の米軍を相手に戦った朝鮮戦争やベトナム戦争で指導者も人民も「最新兵器がないから勝てない」などという弱音は一言も吐かなかった。朝鮮では「原子爆弾に歩兵銃が勝った」戦争と言われている。ベトナムも同様だろう。

他方、ガザ戦争でも米欧支援のイスラエルが窮地に陥っている。

「ハマス壊滅までガザでの戦争(民間人大量虐殺)を止めない」とするネタニヤフ首相に対して軍の報道官が「ハマスは思想だから壊滅は不可能だ」と反論した。戦時内閣からガンツ前国防相が離脱、シオニスト極右だけが残ったネタニヤフ政権はますます強硬姿勢を取るしかないが、それが却(かえ)って窮地を招きそうになっている。最近の北部レバノンからのヒズボラの大規模攻撃激化でガザ地区との2正面作戦を強いられるようになった。ヒズボラはハマスよりも装備兵器も兵員数もはるかに優る軍事組織だから、「北部戦線」はイスラエルには多大の負荷になる。米国は軍事支援を継続するというが心中は「おっかなびっくり」というところだろう。

「対中対決に集中する」という「いまトラ」米国だが、それも結果はほぼ明白だ。前号に書いた「長州征伐戦争が“幕府ご瓦解”の前兆になった」、その二の舞になるだろう。

覇権政治も老衰化、覇権軍事も老衰化、そして覇権経済も……それがいまの米国だろう。

◆米国の「例外主義」 もう誰も認めない

戦後世界の「常識」、「パックス・アメリカーナ」(米国による平和)と称する米一極覇権秩序を支えてきた米国の外交理念、イデオロギーが「例外主義」だ。それは次のように規定されている。

“米国は物質的、道義的に比類なき存在で世界の安全や世界の人々の福利に対して特別な使命を負う”

米国は「物質的に豊か」で「自由と民主主義」チャンピオンの国、普遍的価値観の模範国家、まさに「比類なき存在」、ゆえにこの普遍的価値観が世界を支配する世界秩序、米中心の国際秩序維持に「特別な使命を負う」。このイデオロギーが戦後世界を支配してきた。

「米国についていけば何とかなる」が戦後日本の常識、生存方式とされてきたのは、この米国の例外主義を戦後日本が認めてきたからだ。

1947年2月の敗戦直後に生まれた団塊世代の私も子供の頃は米国が憧れの的だった。

TVドラマ「パパはなんでも知っている」や映画で観る米国の豊かな中流家庭、電化製品の整った白亜の瀟洒な二階建てに住み、息子娘たちは週末はオープンカーでデートを楽しむ、そんな子供たちの自由奔放な青春に理解心のある両親、それは敗戦直後の日本の少年にとってはまばゆいばかりのものだった。

アメリカのポップ音楽を聴く姉、それが耳に馴染んだ私は南春男や橋幸男が歌う演歌など日本の歌謡曲はいかにもダサイと思った。

高校生の頃、大統領就任式のケネディ演説が「朝日ソノラマ」で発売されたが、若者に呼びかけた「フロンティア・スピリット」(開拓者魂)などにクラスの多くがしびれていた。日本の首相や政治家はダサイと私も思った。

あの頃はたしかに米国は「比類なき存在」に思えた、いやそう思わせる「魅力」があったのは確かだ。まだ日本は貧しく、軍国主義から民主主義への激変中の日本の大人たちの価値観はまだ混沌としていて、そんな大人たちも米国の大人たちよりダサイと思った。

高三頃になって「米国はおかしい」「戦後日本はおかしい」ことに気づき始めた私だが、昼間の日本社会は「アメリカに追いつき追い越せ」、高度経済成長の日本に浮かれていた。

ベトナム反戦、反安保の闘い、学生運動で私たちは正義感から激烈に闘ったけれど、運動自身の内包する限界性によって、東京万博から一億総中流に向かう「昼間の明るい日本」の波に飲み込まれてしまった。一言でいって「比類なき存在」の米国、「米国についていけば何とかなる」式の生存方式そのものにうち勝つことはできなかった。高度経済成長、お金や立身出世に浮かれる日本社会を批判したり、「反帝」だとか「反対」は叫んでも、こうすれば日本はもっとよくなるという日本人への提案、政治構想が何もなかった。当然の事ながら「革命」は敗北と未遂に終わった。

あれから半世紀を経て世界の様相はがらり変わった。米国の例外主義は地に落ちた。

もう “米国が「比類なき存在」で「特別な使命を持つ」”に誰もが疑問を感じるようになった。その端的表現が今年の米調査会社ユーラシア・グループ公表の「世界十大リスク」のトップに「米国というリスク」、「米国の民主主義の危機」が上げられたことだ。

米国のZ世代と呼ばれる新しい若者たちも自分たちの国が「比類なき存在」だと思えなくなっている。「反ユダヤ主義」と非難されようが「停学処分」で脅されようが、「ガザ虐殺反対」「イスラエル支援糾弾」の抗議運動をやめない学生たちはその一例だろう。トランプ支持の貧しい白人たちは「世界に対し特別な使命」を果たすより「アメリカ国民に対する初歩的な使命」を果たすのが第一じゃないかと「アメリカ第一」のトランプに喝采を送る。

もう米国の例外主義を世界の誰も認めない。

日本では「米国についていけばなんとかなる」から「米国についていけば大変なことになる」に、私式に言えば「戦後日本はおかしい」どころじゃない、「戦後日本は革命すべき」時に来ている。この手記で何度も訴えてきたが、このように問題が提起される時点に来た。

◆「持たず、作らず、持ち込まさせず」から「持たず、作らず、撃ち込まさせず」へ

そんな老衰化一方の米国が覇権秩序の瓦解阻止、「回春」の期待をかけるのが日本だが、それは迷惑千万どころか、わが国にはとても危険なことだ。

兼原信克“持たず 作らず 撃ち込ませず”

フジTVのプライム・ニュース(6月26日)、テーマ「中国・核戦力の実力と核大国化の狙い」に出演した兼原信克・元国家安全保障局次長(現在同志社大学特別客員教授、笹川平和財団特別理事)は番組最後の中国の核に日本がどう向き合うべきかの提言にこう書いた。

「持たず 作らず 撃ち込まさせず」

日本の非核3原則「持たず 作らず 持ち込まさせず」に引っかけたものだが、「持ち込まさせず」からの転換を訴えて「撃ち込まさせず」を提案した。要は「核持ち込みを認めよ」という主張だ。

兼原信克という人物はこの間、「非核の国是見直し」を日本人に説いてきた「安全保障問題の第一人者」だ。

昨年、G7広島サミットを前に持たれた広島での読売新聞主催のシンポジウムでは「日本の最大の弱点は“核に対する無知”だ」と言い切った。そしてあるTV番組でずばり語った。

「非核の国是を守ることが大切か、国民の命と安全を守ることが大切か、議論すべき時が来た。答は明らかでしょう」

産経新聞の今年の元旦社説は「米核戦力の配備や核共有、核武装の選択肢を喫緊の課題として論じる」必要を説いた。

この通信に何度も書いたので繰り返さないが、「老衰化」軍事の米国は対中・劣勢挽回のために日本に「非核の国是」放棄を迫っている。

その狙いは、「対中対決の最前線」と位置づける「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」、その具現として日米「核共有」による「陸上自衛隊のスタンドオフ・ミサイル(中距離ミサイル)部隊の有事の“核”武装化」だ。

昨年5月掲載のこの通信に書いた「対日“核”世論工作」は2年ほど前から執拗に行われている。それだけ広島、長崎の被曝体験者である日本人の非核世論を崩すのが容易でないこと、しかし「老衰化」軍事の米国が対中・中距離“核”ミサイル劣勢を挽回するためには「非核の国是放棄」は譲ることのできない必須条件であることを示すものだろう。

◆「アメリカ以外の国と連携を組んでいく」 そのための憲法改正議論が必要

朝日新聞デジタル版はこのような記事を伝えた。 

“日本、フィリピン両政府は7月8日、自衛隊とフィリピン軍が共同訓練などで相互に訪問しやすくする「円滑化協定(RAA)」に署名した。東シナ海、南シナ海で海洋進出を強める中国に対抗するため、日日本は米国とともにフィリピンとの安全保障面での連携を強化しており、同国との関係を「準同盟」級へと格上げを図る。”

日比両国の国内手続きを経てRAAが締結されれば、日本にとって「準同盟国」と位置付ける豪州、英国に続く3カ国目。締結により、両国共同の軍事演習などに際し相手国への入国のためのビザ取得や、武器弾薬を持ち込む手続きなどが簡略化される。

このところ日本はインド太平洋地域で「準同盟国」を増やす動きを見せている。いずれ「準同盟国」から「同盟国」への格上げが追求される、「準同盟国」形成はその地ならしだと言えるだろう。

こうした日本政府の動きの背景には米国の同盟関係転換政策、“ハブ&スポーク状”同盟から“格子状”同盟への転換がある。

“ハブ&スポーク状”同盟とは、自転車の車輪の中心部のハブ、そのハブにつながる無数のスポークが車輪を支える構造に譬えた同盟構造を指す。ハブとなる中心に米国があってその中心から伸びるスポーク(同盟)で各国がつながる、つまり米国が各国個別に同盟を結び、各国が軍事大国、米一国に依存する同盟関係を指す。

“格子状”同盟とはインド太平洋地域の日韓、日比、日豪が格子状に重なるような同盟構造への取組を行うことだ。もちろん各国は米国と同盟関係にある、だが「米国だけに頼るな」ということ、この地域各国が相互に「独自の同盟関係」を結びアジアでの米覇権秩序を守れということだ。もちろん、この同盟の矛先は中国だ。

このわかりにくい同盟構造をオースチン国防長官は「同盟国や友好国同士が相互に結びつきを強める“新たな集約”に移行した」と説明した。これを小野寺五典・自民党安全保障調査会議議長は「いままではアメリカが後ろ盾になって“俺についてこい”だったのが、“みんなで一緒にやろうよ”に変わった」と表現した。

「老衰化」の米軍事力だけでは国際秩序を支えきれなくなったから「みんなで一緒にやろうよ」だが、各国が米覇権秩序維持のための相互の二国間軍事同盟を結ぶこの格子状同盟の全てに日本が噛まされる。

インド太平洋地域の格子状同盟構築の上で問題はその核になる日本だ。

先の小野寺氏は「アメリカ以外の国と連携を組んでいく、仲間づくりをたくさんやっておく」と述べながら、一つの懸念を表明した。「日本は憲法の制約がある」と。

小野寺氏は従来の「日本の日米安保は片務的」としながら、でも他の国は「片務的同盟」を受け容れてくれないだろう、「だとすると憲法改正の議論が必要」と述べた。これはどういうことなのか?

日米安保同盟は米軍が圧倒的強さで世界を支配できた頃のものだから「軍事は米軍に任せる」片務的同盟関係でよかったが、他の国とはそうはいかない。格子状同盟の要求からすれば、日本が韓国やフィリッピン、オーストラリアなどと安保同盟を結ぶべきだが「戦争のできない」憲法9条が障害になる。韓国やフィッリピン、オーストラリアにとっては、「日本も戦ってくれる」のでなければ軍事同盟を結ぶ意味がない。当然、「日本は戦ってくれない」憲法9条の制約があれば、米国の望む格子状同盟関係構築は不可能となる。

この米国の“格子状”への同盟関係変容要求からも9条改憲が日本に迫られるのは必至だ。

その一方で5月掲載の「戦後日本の革命inピョンヤン」(4)に書いた岸田国賓訪米時に米国と約束した日米同盟・新時代だが、その核となる「日米安保の攻守同盟化」に伴う「国際秩序維持のための戦争」義務を日本が負うこと、つまり「戦争のできる自衛隊」にすること、「交戦権、戦力保有」を憲法9条改訂もなしに岸田首相は米国に誓約した。けれどその本格始動のためには、いずれ9条改憲は必至だ。

「日米安保の攻守同盟化」への転換、「格子状同盟」への転換という二つの必要性から9条改憲は必須課題として日本に迫られる。

◆でも希望はある!

次期自民党総裁候補で国民的人気ナンバーワンの石破茂氏は、あるTV番組で自分の国家観は「主権独立国家だ」と述べながら「重要なのは憲法だ」とのみ語った。石破氏が「重要なのは憲法」と言ったのは「憲法9条第二項の交戦権否認・戦力不保持」の改正の必要があるということを言外に匂わせたのだろう。石破氏は安倍元首相が提起した「9条に“自衛隊合憲”を書き込む」という現自民党政権の姑息な改憲案に対して「9条第二項改憲を正々堂々と国民に問うべき」だと説いてきた人物だ。

気脈の通じるおふたり

また彼は以前、「自主防衛策」として「核武装論」も説いていた人物でもある。当然、「非核の放棄」も念頭に置いている。

上記の米国が日米同盟新時代の要求としてわが国に迫る「9条改憲」と「非核国是の放棄」を石破総裁、そして石破首相が実現すれば彼がそれを実行するであろうことは明らかだ。

他のTV番組では石破氏と野田佳彦・立憲民主党最高顧問は互いに気脈が通じるとしながら岸田政権後の次期政権構想を語り合った。この政権の第一課題として立民の野田氏は「日米基軸」を上げた。石破氏はこれを高く評価した。

また次期立憲民主党代表に立候補意思を表明した枝野幸夫氏は最近、こんなことを言い始めた。

「海兵隊機能、米軍依存でいいのか。自衛隊が持つべき」だと。

枝野氏は沖縄の南西諸島の対中防衛を念頭に置いたものとしているが、海兵隊というのは敵国侵攻の先頭に立って上陸作戦を行う最精鋭部隊、外征戦争の突撃部隊だ。対中・対朝鮮最前線の沖縄に米海兵隊基地が集中しているのはこのためだ。「海兵隊機能を自衛隊が持つ」ということは「戦争のできない」憲法9条を改正するということと一体だ。

うがった見方をすれば次期政権は自民・立民の挙国一致政権、「新政権の課題は9条改憲」、「非核の国是放棄」、これがあながち邪推とは言えない時代が来たと思う。実際、日米基軸という点では与野党に大差はない。

この政治状況ではお先真っ暗に思えるが、希望はある。

先の東京都知事選にその一端を見ることができる。

その第一は、自民党や立憲民主党といった与野を問わず既存の政党に都民が「NO!」を突きつけたことだ。小池百合子都知事も政党色を出さず「東京都政」を全面に出して勝った。二位の石丸伸二さんは既存政党を痛烈に批判し「新しい政治」を押し出して「泡沫候補」から一躍二位に躍り出た人物だ。この人物に関しては厳しい評価もあるが、人物評価は別として注目すべき現象だと思う。

実際、今の政治に、右も左も、与党も野党も、自民党も立憲民主党もない。皆似たり寄ったりになっているではないか。問題は、「われわれが住んでいる東京、日本」だ。東京をよくし、日本をよくしてくくれる人、政党、それがよい人、よい政党、よい政治家だ。都知事選での東京都民の投票行動には、今、世界に広がる「自国第一、国民第一」の流れにも通じるものがあるのではないかと私は思う。 

もう一つ今回の都知事選から見えてきたことがある。

それは、若者だ。若い人たちが重い腰を上げだし投票率を大きく上げた。蓮舫さんを破って165万票を得て二位に躍り出た石丸伸二さんは41歳。今回15万票を集め、5位につけた安野貴博さんは33歳だ。今回の選挙で、この二人がSNSを駆使し、広く若者たちにアピールして、彼らから人気を大きく集めたのは、特筆すべきことだったと思う。これまでの無党派層、選挙にも行かなかった若者の政治への当事者意識が動き始めたというのは大きいと思う。

これらはあくまでいまは「希望的観測」に過ぎないけれど、この「希望」を政治の力にできれば、「戦後日本の革命」は夢ではなくなる。そんなかすかな「希望」が見えてきたわが国、日本に勇気を得ながら、ピョンヤンからの発信を続けていきたいと思う。

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

◎ロックと革命 in 京都 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=109

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

◆右翼の進出が台風の目

EU議会選挙でフランスをはじめ各国での右翼政党の大幅な進出が大きく取り上げられている。とくにフランスでは右翼の国民連合が第一党となり、危機意識をもったマクロン大統領は国民議会を解散し、総選挙を実施した。その結果、第一回目の選挙では国民連合が大きく票をのばし、決選投票でも国民連合が第1位となり過半数を占めるかどうかが焦点になった。国民連合が過半数を占めればマクロン大統領は国民連合党首に首相を指名しなければならず、混乱を避けることができない。ところが、第2位の左翼連合の「新人民戦線」と第3位の与党連合が組んだ結果、第1位は新人民戦線、第2位が与党連合で国民連合は第3位に後退した。左翼連合と与党連合の一人に候補者に絞る作戦が効を奏し、国民連合を封じ込めるのにかろうじて成功したのである。

それは一つの政治劇だった。しかし、政権を握っているマクロンの中道左派が孤立し、右翼の国民連合が支持率で第1党になっていることは変わらない。国民連合の目標は大統領選での勝利だ。

右翼の進出はフランスだけはない。右翼が政権を握っているのはイタリア、ハンガリー、連立で政権に参加しているオランダ、オーストリアなどがある。まずハンガリーでオルバン首相率いる右翼政党「フィデス」が、今回の欧州議会選と地方選の両方で勝利し議席数を増やした。ウクライナ支援に反対し、ロシアとの関係を維持している。

イタリアではメローニ首相率いる「イタリアの同胞」はEU議会選挙で得票率は29%に上り、2022年総選挙での同党の得票を上回った。オーストリアは、右翼の自由党がEU議会選挙で第1党を占め、秋の総選挙で首相になることを狙っている。オランダでも右翼政党が昨年11月の総選挙で第1党となり、連立政権を発足させた。ベルギーでもEU議会選挙と同時におこなわれた選挙で前首相が右翼政党に敗北し首相を辞任した。

ドイツでも今回の選挙で「ドイツのための選択肢(AfD)」は得票率15.9%で国内2位となり、ショルツ首相の「社会民主党」は同13.9%で3位だった。トップは同30%の保守政党「キリスト教民主同盟」だった。

EUから脱退したイギリスは、今回、下院総選挙を実施し、スナク前首相率いる保守党は惨敗し、労働党が大躍進し労働党政権が発足した。ところがここでもファラージ率いる新たな右翼政党「改革党」が移民阻止、環境規制反対など保守党の「イギリス第一主義」の頓挫にたいしその徹底化を主張し、2割の支持を受けており、支持率で政権を握っていた保守党をすでに凌駕している。

スウェーデンでは右翼政党の「民主党」が第2党となり閣外協力をおこなっている。

これらの右翼政党は一様に自国第一主義をかかげ自国の利益を守ることを優先させ、EUのウクライナ軍事支援、環境政策、移民政策などに反対し、ロシア、中国との関係を強めている。それゆえ、右翼の進出がEU支配の欧州を揺るがせる台風の目になっている。ハンガリーのオルバン首相はチェコ、オーストリア、フランスの国民連合と組み、EU議会で3番目に多い「欧州の愛国者」という会派を7月に発足させた。

では、右翼政党が反対するEUとは何か? 欧州各国とEUとの関係はどうなっているのだろうか。

◆グローバリズムの欧州版であるEU

欧州では各国の主権があり、政治もその枠内で各政治勢力が、たとえばフランスでは今回のように国民議会選挙でマクロン派、右翼の国民連合、左翼連合、共和党などが争いながら、一方でEU(ヨーロッパ連合)のもとに各国がありEU議会選挙に参加している。だから5年に一度のEU議会選挙があり、各国ごと大統領制や議会で首相を選ぶ制度など独自的な政治制度がある。

EUは半世紀をかけてECSC(ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体1951年)、EEC(ヨーロッパ経済共同体1958年)、EC(ヨーロッパ共同体1978年)を経て1993年に発足した欧州における超国家機構・共同体だ。域内での市場の単一化、通貨の統合、人の自由な移動、物の自由な移動を実現し、域外からは共通の関税を課し、欧州の経済発展と平和をはかった。EUは機構としてEU議会(比例代表制)、EU理事会(各国の首脳・外相が参加)、そして行政的な指揮をおこなう欧州委員会がある。

EUは上で見たようにグローバリズム(国境を越えた地球統合主義)の欧州地域版である。EUはASEANやAU(アフリカ同盟)のような各国の主権の尊重にもとづいた地域組織ではない。各国はEU委員会の指示を受けて国内政策をおこない、各国の主権は3割しかないと言われている。EUは実質、ドイツとフランスが主導権を握り、欧州の支配層が握った政治機構だということができる。欧州各国は国があっても国の主権がない状態におかれた。関税や通商政策、漁業資源保護はすべてEU基準、エネルギー・環境政策などはEU法が優位。ここから、イギリス、ドイツなどが東欧諸国と移民の安い労働力を使い本国の労働者が雇用を失うという問題が起こったり、農業で欧州委員会の厳しい環境規制を受けて不満を呼び起こす問題などが不可避的に生じ、EUの指示に従うのではなく自国の実情、利益に合わせていこうとする自国第一主義がうまれるようになった。

数年前から各国でEU脱退の要求が起こり、EU本部があるブッリュセルのエリートにたいする激しい反発が生まれた。「渦巻くエリート支配にたいする嫌悪感」、ある新聞の欧州総局長はこう表現していた。今回のフランスでのEU議会選挙で国民連合が第1党に躍り出たとき、パルデラ国民連合党首は「これはブリュッセルに対するメッセージだ」と勝利宣言をした。ハンガリーのオルバン首相は「現在のブリュッセルのエリート層から得られるのは戦争・移民・停滞だけだ」と非難した。

とくにこの間、ウクライナ戦争の勃発を契機に、ウクライナにたいする軍事支援およびロシアにたいする制裁にともなうエネルギー価格、食料価格の高騰による生活難がEUにたいする反発と右翼進出に拍車をかけた。

EUは米軍から司令官をだすNATO(北太西洋条約機構)という軍事組織との密接な関係がある。NATOはアメリカの直接の覇権軍事機構だ。NATOはセルビアにたいする空爆、東欧諸国にたいする政権転覆であるオレンジ革命、イラク、アフガニスタンなどへの介入などアメリカの侵略策動に大きな役割をになってきた。EUは軍事的にNATOの軍事的基礎に築かれた欧州機構だということができる。だから、周辺諸国を経済的利害からEUに加盟させ、最終的にはNATOに加入させ、アメリカの勢力圏を拡大してきた。

今、ウクライナでの戦乱もウクライナをまずEUに加盟させ、つぎにNATOに加盟させようとするところからロシアとの摩擦、衝突が起きてきた。ロシアにとってはウクライナをめぐってアメリカ、NATO、欧州諸国の介入に反対し自国を守る戦いとなる。ロシアがウクライナにたいする軍事行動を起こしたとしてそれを侵略だといえない理由がここにある。NATOがアメリカの覇権のための欧州における軍事組織だとしたら、EUはアメリカの覇権のための政治組織であるといえよう。

EUがもたらしたもの、それは自国第一主義の欧州での台頭だということができる。

◆右翼か左翼かが問題ではなく、自国の主権を守るかどうかが根本問題

欧州で右翼か左翼かが問題にされている。フランスでの国民議会選挙で得票率2位の左翼連合と3位のマクロン派が組んで、決選投票で国民連合を1位から3位に転落させたのは、右翼に政権をとらせないという点で左翼連合とマクロン派が一致したからだ。

日本で進歩的学者として有名な森永卓郎氏が大竹まことのラジオ番組(文化放送)で、つぎのように述べている。「これがもう一つ気になっていることで、実は今日本だけではなくて、世界の先進国がみんな議会選挙で右派勢力が議席を伸ばしているんですよ。世の中が平和なときではないと左派勢力って勢力を維持できなくて。……

第一次世界大戦、第二次世界大戦が起こった原因もみんなが自分の国のことだけを考えるようになったというのが発端となっているわけですよね。だからこういう状態で少し刺激が加わると本当に戦争が起きかねないんですよね……」

果たして森永氏の言う「自分の国を考えることが戦争の原因だ」といえるだろうか。第一次大戦、第二次大戦すべて独占資本家が起こした植民地再分割戦争ではないだろうか。

今回、欧州で右翼が進出した直接の原因は、貧困化した大衆の不満をくみ上げたからだと言われている。貧困問題をとりあげたのが極右と極左といわれる政党だった。新自由主義のもと格差がいっそう広がる中で大衆にとって貧困が耐えがたいものとなっていた。それをウクライナ戦争と移民問題が拍車をかけたのである。従来の左派は中道左派を呼ばれ新自由主義に染まっていって大衆から孤立してしまった。

貧富の格差を拡大してきた根本要因は、EUやマクロンがすすめてきたグローバリズムと新自由主義政策にある。そのもとでフランスをはじめ各国は自分の国そのもの、そのアイデンティティまで失ってきた。パルデラ国民連合党首は集会で「フランスの消滅はすでにさまざまな地域で始まっています。私たちの文明は衰退してしまうかもしれません。……フランスを愛してください。私たちの仲間になってください。私たちと一緒にフランスを守り伝えていきましょう」と訴え、人々の心をとらえていた。

 

赤木志郎(あかぎ・しろう)さん

もちろん右翼の国民連合は、「不服従のフランス」党の最低賃金引き上げなどの政策を拒否しマクロン派に賛成し、パレスチナのハマスの蜂起を反ユダヤ主義として激しく非難するという問題点も有しているが、EUに反対し愛国心に訴え国を守ろうとする主張では正しいといえる。大衆の貧困化、ひいては国の消滅化の根源はEUのグローバリズムと新自由主義政策にあり、その解決の途も各国の主権をとりもどし、国の指導的役割を高めるところにあるはずだ。

フランスの国民連合など欧州の今日の右翼は、かつての右翼とは異なっている。それはEU脱退などのスローガンをおろしソフトなイメージ戦略で臨んだからだけではない。かつての右翼は愛国を掲げて侵略戦争の手先、体制側になったが、今日、愛国を掲げ、国を守れと主張することは反米、反グローバリズム、反体制派になる。それとは反対に国を否定し階級を掲げた左翼の多くがグローバリズムを支持し大衆から遊離していったのと対照的だ。フランスでは社会党がそうだった。

このことは日本の政治を考える上でも大きな示唆を与えているのではないだろうか。

たしかに右翼といえば宣伝カーで大衆の運動を妨害し、侵略戦争の反省を否定し、アメリカの従属に反対せず、体制側の手先の役割を果たしてきた。もし真に愛国をかかげるならば日本の自主独立のために闘っていかなければならないだろう。そのような右翼は日本では少ない。

現在、日本の支配層がアメリカの覇権主義との一体化を機軸に据え、日本という国をなくしていっているもとで、右翼が愛国をかかげるならば日本の自主独立のために闘い、左翼が格差に反対し階級をかかげるならば日米一体化に反対し闘うことだ。右翼か左翼かを区別する意味は久しくなくなっている。重要なのは、底辺の国民大衆の要求に応えるか、国民にとってもっとも重要な国の主権を守りその役割を高めていくかであると思う。そのスローガンは自国第一、国民第一だと思う。

▼赤木志郎(あかぎ・しろう)さん
大阪市立大学法学部中退。高校生の時は民青、大学生のときに社学同。70年赤軍派としてハイジャックで朝鮮に渡る。以来、平壌市に滞在。現在、「アジアの内の日本の会」会員

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

月刊『紙の爆弾』の最新号記事がnoteで一部公開・購読可能となりました。記事単位での購入も可能になりましたが、『紙の爆弾』はあくまで紙がメインのメディアです。興味を持っていただけましたら、ぜひ書店でお手にとっていただければ幸いです。定価700円(税込)、年間定期購読7700円(1号分お得です)。ここでは7月号の注目記事2本の一部を紹介します。

◆本格化する国家総動員体制 進む民間施設の日米軍事拠点化 
 取材・文◎浅野健一(アカデミックジャーナリスト)

 

 

安倍晋三元首相より危険な対米隷従の軍国主義者・岸田文雄首相は今年4月1日の関係閣僚会議で、有事の際の自衛隊や海上保安庁による使用に備えて整備する「特定利用空港・港湾」に、北海道や沖縄など7道県の計16カ所を選び、今年度に整備を始めると決めた。国民保護や戦闘機の離着陸訓練の拠点とするため滑走路延長や港の岸壁整備を促進する。初年度は予算計370億円を充てる。

国家安全保障戦略など軍事三文書(2022年12月16日閣議決定)に記した「公共インフラ整備・機能強化」に基づくもので、文書には「有事の際の展開などを目的とした円滑な利用・配備」という記述がある。整備費は2023年度から5年間で総額約43兆円を投じる軍事費とは別枠で、24年度以降、国交省予算に計上する。

政府は「自衛隊・海上保安庁とインフラ管理者は、国民の生命・財産を守る上で緊急性が高い場合又は航空機や艦船の安全を確保する上で緊急性が高い場合(武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態を除く)であって、当該施設を利用する合理的な必要があると認められるときには、民生利用に配慮しつつ、緊密に連携しながら、自衛隊・海上保安庁が柔軟かつ迅速に施設を利用できるよう努める」と説明している。

しかし実態は、対中侵略戦争と第二次朝鮮戦争を企む米国の「拡大抑止」戦略に沿って、自衛隊などが有事に使用することを前提に国が改修や整備をする「国家総動員体制」作りの一環だ。指定されたのは那覇空港・宮崎空港・長崎空港・福江空港(五島つばき空港)・北九州空港の5空港と、石垣港・博多港・高知港・須崎港・宿毛(すくも)湾港・高松港・室蘭港・釧路港・留萌(るもい)港・苫小牧港・石狩湾新港の11の港。

南西諸島防衛を想定して九州・沖縄が半数近い7カ所に上った。自衛隊部隊が多数配置されている北海道では5港が選ばれた。これまで目立った軍事要塞化がなかった四国でも4港が指定され、物資補給に活用される見通しだ。

林芳正官房長官は4月1日の記者会見で、「抑止力や対処力を高め、日本への攻撃の可能性を低下させ、国民の安全につながる」と述べた。

 県民に知らされなかった高松港の軍事利用指定

私は香川県高松市生まれで、高校を卒業するまで暮らした。高松港は1988年に瀬戸大橋が完成するまで宇高連絡船が就航していた四国の海の玄関口で、本州や離島との海上交通の要衝として経済・物流の中心を担ってきた。

なぜ高松港が軍事拠点に選ばれたのか不思議だった。5月14・15日、高松で県の担当部局・県議・市民団体を取材した。

香川県民が高松港の軍事拠点指定の動きを知ったのは昨年11月だった。四国新聞(岸田派・三代目世襲の平井卓也衆院議員一族が所有)が同20日、県管理の高松港が「特定重要拠点空港・港湾」(昨年12月18日の関係閣僚会議で「特定利用空港・港湾」と言い換え)の候補地になっていると報道した。

国土交通省出身の池田豊人香川県知事は県民や県議会の意見も聞かず、11月20日の定例記者会見で「制度の内容を確認し、できる協力はしていきたい」と表明。池田知事はこの会見で、10月23日、内閣府・国交省・防衛省の担当者が香川県を訪問し、指定候補とするという説明があったと明らかにした。知事部局は国から打診があったことを4週間も隠していたのだ。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n6fd38a7e22b8

◆日本の冤罪〈51〉大川原化工機事件 経済安保法成立とともに起きた公安警察の暴走
 取材・文◎山村勇気(フリーライター)

 

 

「無罪」と「無実」は似て異なる

「逮捕したことは国賠法上、違法である」──。軍事転用が可能な機器を国に無許可で輸出したとして、警視庁公安部が2020年3月11日に大川原化工機(横浜市)の社長ら3人を逮捕した事件について、東京地裁は昨年12月27日、逮捕は違法だったとの判決を下した。

この裁判は、無実の罪を晴らすために大川原化工機が国と東京都を相手取って起こした国賠訴訟だ。起訴についても判決は「必要な捜査を尽くすことなく行われた」と指弾し、約1億6200万円の損害賠償の支払いを国と都に命じた。ところが、今年1月、国と都はこの判決を不服として控訴した。恥の上塗りというほかない。

「無罪」と「無実」は、似ているが異なるものだ。「無罪」とは、法的には罪に問えないということ。たとえ真犯人であっても、それを証明することができなければ「無罪」となる。一方、「無実」とは、そもそも犯人ではないということ。したがって必然的に罪には問えない。

事件の取材をしていると、ときどき無罪判決の裁判に出会う。そんなとき、現場の捜査員が「無罪だけど無実じゃないんだ」と言って悔しがる姿も目にしてきた。しかし「大川原化工機事件」は、無実の市民を捜査機関が意図的に犯罪者に仕立て上げた冤罪事件だった。

同社社長ら3人は、外為法違反の罪で逮捕・起訴されたが、実は、その後に刑事裁判は行なわれなかった。裁判が始まる前に検察が起訴を取り消したためだ。そもそも無実の人を起訴してしまったことに気づいたのだ(被疑者死亡などにより、やむを得ず公訴棄却になることはあるが、起訴の「取り消し」は極めて珍しい)。

しかし、取り消せば済む問題ではない。「ごめん」で許される話ではないのだが、警察も検察も起訴を取り消したことで謝罪すらしていない。

だからこそ大川原正明社長は「せめて謝ってほしい」との思いで、国と都を提訴し、国賠訴訟として裁判で争ってきた。そして今般、判決で捜査の違法性を認められたのだから、警察と検察は速やかに謝罪し、再発防止に努めるべきなのだ。

今回の国賠訴訟の判決をもう少し詳しく見てみると、特に警察について、必要な捜査を尽くさなかったのみならず、「偽計を用いた取り調べ」をし、「原告を欺罔(ぎもう)して供述調書に署名指印させた」(判決文)ことも認定している。

ここまでくると、もはや警察による犯罪行為である。そこで大川原化工機は、国賠訴訟とは別に、取り調べを担当した捜査員2人を警視庁捜査二課に虚偽有印公文書作成・同行使の罪で刑事告発もしている。

判決でここまで踏み込まれているのだから、国と都が控訴したことはどう考えても悪手である。今後、判決が確定するまで(高裁まで争うのか、最高裁まで争うのかわからないがいずれの場合も年単位で時間を費やす)、警視庁と東京地検を批判する報道は出続けるだろう。そのたびに警視庁と東京地検のレピュテーション(信用)は棄損され続ける。これまた恥の上塗りだ。真面目に働くほかの多くの捜査員にとって迷惑極まりない。

繰り返すが、警察と検察がとるべき最善の策は、今回の判決を真摯に受け止め謝罪し、再発防止策を打ち出すことだ。過ちを認めなければ真の再発防止策も打てないではないか。この期に及んでも警察と検察は、捜査に携わった者の名誉や立場を守ろうとしているとしか思えない。いかにして警視庁が冤罪事件を作り上げていったか、本稿でそれを振り返る。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/nc6cff37b407f

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◆ピョンヤンの大使館街 ──「アジアひとりぼっち」の日本

ピョンヤンは大同江をはさんで西ピョンヤンと東ピョンヤンに区分されるが、東ピョンヤンの広大な一角には諸外国の大使館街がある。早くから外交関係を持つロシアや中国は都心部の西ピョンヤンに独自に大使館を持ち、大きな敷地には大使館員子女のための学校、大使館員アパートなど諸施設まである。

 

ASEAN(東南アジア諸国連合)の旗

東ピョンヤンの大使館街に一歩足を踏み入れるとすぐ左手にフィリピンとカンボジアの大使館が並び道路を挟んで右手にベトナム大使館、まずアジアのこの三つが並んでいる。庭にはそれぞれの国旗と共にASEAN旗、この2本の旗が翻っている。それは「自分たちは東南アジア諸国連合-アジアなのだ」と誇り高く自己主張しているように見える。

周知のようにASEANは主権尊重、内政不干渉、紛争の対話による解決を憲章に謳い、この憲章に従って成員国への軍事的威嚇や制裁など力の行使の否定、覇権主義的行動排除の脱覇権地域共同体だ。

ASEAN成員国はじめアジア諸国はみな朝鮮と外交関係を持っているが、大使館がないのは日本だけ。例外的にミャンマーはある事件を契機にいま国交途絶はしているが元来、外交関係にあった国だ。

ピョンヤンの大使館街から見れば、「太平洋ひとりぼっち」ヨットの堀江謙一さんにならえば“「アジアひとりぼっち」の日本”という構図が浮かび上がる。

それは日本にいれば決して感じることのない光景だろう。でもピョンヤンから見れば「アジアひとりぼっち」というのが日本の置かれた位置だという厳然たる事実もあるのだ。

これが「アナザーサイド of 日本」、いや現在の日本のアジアでの位置、日本では目に見えにくい「本当の位置」を雄弁に物語っているのではないかと私は思う。

それはどういうことなのだろう?

◆戦後も「アジアの外の日本」は変わらなかった

敗戦でアメリカには頭を下げたが、アジアには頭を下げなかった日本。これが戦後日本のアジアでの立ち位置を決めた。

明治の近代初期に朝鮮の革命家・金玉均(キムオクキュン)などを助けた福沢諭吉だが、福沢は彼らの「維新革命」失敗を見て、アジア東方の友人に日本のような近代化「維新」断行のできる志士は出ないと結論を下し「脱亜入欧」を唱えた。

それは「アジア東方の悪友を謝絶する」、「西洋の良友と進退を共にし、西洋人の接する風に従ってアジアに処す」というものだった。以後のわが国は欧米帝国主義列強の列に入り、「西洋人の接する風に従って」アジアを植民地支配の対象とする「大日本帝国」として登場、この時からわが国は「アジアの外の日本」になった。

「アジアの外の日本」、それはアジアに頭を下げなかったことで戦後も変わらなかった。

わが国は「アジアで唯一のG7成員国」、欧米と並ぶ「先進国の一員」だということを多くの日本人が誇りと思ってきた。それは戦後、日本は日米安保基軸の下で「軍事は米国に任せ日本は経済に注力する」吉田ドクトリン路線で「軍国主義をやらず平和的経済発展を成し遂げ先進国隊列に入った」とされる「誇り」から来るものだろう。

でも「G7成員国」ということ、それは戦後も「脱亜入欧」、帝国主義列強の列から離れなかった、「アジアの外の日本」であり続けたことを意味し、決して胸を張れることではないと思う。

「軍事は米国にませる」だけではすまなくなった戦後日本の大きな転機を迎えている今日、そのことがますます明確になりつつある。

今年初めのある事件はこのことを考えさせるものだ。

県立公園、群馬の森にある朝鮮人追悼碑「記憶 反省 そして友好」は、群馬県により行政代執行という形で強制撤去された。理由は、日韓、日朝友好の象徴であるべきものが「政治的対立を生むものになっている」からというのが山本一太知事の説明だった。

元徴用工への賠償金支払いなど歴史認識問題が日韓政府間対立の原因になったことを念頭に置いたものだろう。朝鮮への植民地支配の根拠となった韓国併合条約を当時の国際法上は合法とし、慰安婦や徴用工への賠償問題は日韓条約締結時に解決済みという日本政府の立場を代弁するものだ。

山本一太・群馬県知事が言うような朝鮮人追悼碑自体に日韓間の政治的対立の原因があるのではない、歴史認識問題で「アジアに頭を下げない」、「アジアの外の日本」にこそ両国間の根深い対立の原因がある。


◎[参考動画]「群馬の森」朝鮮人追悼碑が撤去に 「記憶 反省 友好」の思いはどこへ【報道特集】(TBS 2024/02/18)

この「アジアの外の日本」を後押しするのが米国だ。朝鮮人追悼碑のような日韓間の政治的対立を生むような歴史認識問題を排除して日米韓軍事同盟強化による対中国、対朝鮮対決の軍事包囲網完成を急いでいるのが米国だ。

昨年、韓国の尹錫悦(ユンソクヨル)大統領が元徴用工への賠償金を日本企業に代わって韓国の財団が立て替えるという形で韓国国民の反発を無視してでも日本政府に譲歩した。結果、日韓政府関係は好転、日韓首脳会談開催にこぎつけたことは周知の事実だ。

日韓首脳会談決定直後、いち早く日韓正常化の動きを歓迎する米政府が「“核の傘”日米韓協議体」創設を日韓に打診していることを読売新聞は一面トップで伝えた。

歴史認識問題を日韓関係の「政治的対立を生むものにするな」というのは他ならぬ米国の要求だということだ。

アジアにおける米覇権秩序のお陰をこうむって海外権益を拡大する「アジアの外の日本」、敗戦後もアジアに頭を下げずアメリカだけに頭を下げることによって、戦前同様の「脱亜入欧」覇権主義を日米基軸・対米従属という形で継続してきたわが国、これが戦後日本の「米国についていけば何とかなる」生存方式となって今日に至っている。しかしこの「アジアの外の日本」はいま大きな軋(きし)みを生じだしている。

4月の岸田首相の国賓訪米、米議会での演説、日米首脳会談での合意事項、またそれ以降の「新しい戦前」への急傾斜と言われる最近の事象はそれをひしひしと感じさせるものだ。

◆日仏共同軍事訓練合意とニューカレドニア暴動を考える

国賓訪米を終えた5月、岸田首相はフランスを訪問、自衛隊と仏軍の共同訓練をしやすくする「円滑化協定」締結に合意した。なぜ自衛隊と仏軍の共同訓練なのか? 「インド太平洋地域の平和と安定に貢献」のためだということだ。

なんでフランスがインド太平洋地域に利害と関心を持つのか? 

岸田訪仏から約2週間後に起きたニューカレドニアでの暴動でその理由の一端がわかる。

暴動の原因は仏マクロン政権がニューカレドニアの選挙で仏系住民の投票権拡大のための憲法改正を企てたことだ。先住民カナク人には独立気運が高まっているが、他方でフランス人の殖民化を進めるフランス政府の選挙制度改変施策によって増加一途の仏系住民にカナク人の発言権を押さえられ独立が遠のくことへの反発から暴動に発展した。現在もカナク人若者による道路封鎖など抗議行動が続いている。仏国内でもこの憲法改正を見送るべきだとの声が上がっている。


◎[参考動画]ニューカレドニアに非常事態宣言 暴動激化で4人死亡(テレ東BIZ 2024年5月16日)

恥ずかしながら私は今回の暴動でニューカレドニアがいまもフランスの植民地だったことを知った。

日本では西南太平洋、メラネシアに属する「天国に一番近い島」だとか観光名所として知られているニューカレドニアだが、いまなお「仏領」、すなわちフランスの植民地ということはあまり知られていない。

調べてみると、鉱物資源が豊富で、特に電気自動車のバッテリーに欠かせないニッケル生産量ではかつては世界一、いまは三位を誇るという。他にクロム、鉄鋼、マンガン、金、銀、鉛の埋蔵が豊富な島なのだ。仏政府にとっては自分の「海外領土」、植民地としておいしい資源豊富な島、だから独立を要求するカナク人の声を抑えたい。それがマクロンをして今回の仏系住民に投票権を拡大する憲法改正を急がせたのだろう。

フランスはいまもこの地域における「植民地帝国」である。南インド洋にはレユニオン、マイヨットなど、そして南太平洋にはニューカレドニア、仏領ポリネシアなど「海外領土」が広く散在する。この植民地群の存在によってフランスはこの地域を含めた自国の排他的経済水域(EEZ)において米国に次ぐ世界第二位の地位にある。フランスはこの広大な水域でポリネシアに太平洋管区司令官、ニューカレドニアに軍高等司令官を置き軍事行動も自由に行っている。

フランスはこの海域に核戦力配備の原子力潜水艦を常時運航させている。フランスの保有する核弾頭は280発、そのうち240発は潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)とされており、フランスの原潜はインド太平洋地域の核抑止力、核威嚇の機能を果たしている。今回の日仏共同軍事訓練「円滑化協定」合意はこうした背景下でなされたものだ。

日仏政府が「インド太平洋の平和と安定に貢献」目的で共同軍事訓練を行う目的は主として対中対決にある。

近年、中国と太平洋島嶼(とうしょ)諸国との関係拡大にこの地域を支配してきた米国は神経をとがらせており、日本を押し立ててこれら島嶼諸国の切り崩しを図るための会議をやらせた。しかし会議に参加した首脳は少なく、ほとんどが外相クラスを送るという「おつきあい」程度の低調なものに終わった。

こうした事態の展開に焦りを募らせているのが米国だ。そんな米国がこの地域に利害関係を持つフランスを巻き込もうとするのは当然だろう。岸田政権はそのお先棒を担いで仏政府と共同軍事訓練を行うための「円滑化協定」を合意したのだ。

新たな日仏政府の軍事協力強化、それは「国際秩序の変更を迫る修正主義勢力」中国に対する米国の新冷戦戦略の一環であることは明確だ。

米国はじめ「G7先進国」グループはかつての帝国主義列強諸国、どの国も自分の植民地主義に対し反省する気はない。それを「パックス・アメリカーナ」と形を変えていまも続けるのが覇権国家の生存方式、宿命だから当然だろう。

ゆえにかつて植民地支配に苦しめられたグローバルサウスと呼ばれる発展途上諸国はG7から離れていく。いまは「G7・先進国」依存の旧弊を脱し脱覇権、主権尊重、内政不干渉に理解を示す中ロに接近、自身もまた各大陸別の地域共同体やBRICsなど独自の国際協力機構を通じ、自主独立傾向を強めていっている。

フランスとの関係では西アフリカのニジェールで若手将校たちによるクーデターで生まれた新政権は駐屯仏軍を追い出した。同様にチャドやブルキナファッソでも反仏政権が誕生した。このようにウクライナやガザ以外の地域でもG7は孤立を深めている。

いまやもういくらあがいても米国の主導する現代版植民地主義の「G7」覇権国際秩序は崩壊の瀬戸際に立たされている。あがけばあがくほどその瓦解速度を早めていくだろう。

◆欧州まで総動員の「中国征伐」、まるで幕末の長州征伐戦争

1960年代中葉、ボブ・ディランは次のように歌った。

線は引かれ コースは決められ
遅い者が つぎには速くなる
いまが 過去になるように 
秩序は 急速にうすれつつある
いまの一番は あとでびりっかすになる
とにかく時代は 変わりつつあるんだから


◎[参考動画]Bob Dylan – The Times They Are A-Changin’ | 時代は変る(1964年)(Sony Music Japan)

若きボブ・ディランを押しも押されもしないプロテスト・シンガーにした”The Times They Are a-Changin'”(時代は変わる)の歌詞の一節だ。当時、「ならあっちに行ってやる」の私の心、「戦後日本はおかしい」に強く共鳴する歌だった。ボブ・ディランが大好きになった歌でもある。

60年前の歌詞「いまの一番は あとでびりっかすになる」、それはいま「衰退一途の覇権帝国・米国のことを歌ったもの」と言ってもちっともおかしくない。

「いまトラ」の言われる中、ある番組で小谷哲男・明海大学教授(アメリカ政治専門)はこう語った。

「トランプは“ウクライナはゼッタイ勝てない、自分が大統領になったらすぐに戦争を終わらせる。そして対中国に力を集中する”と語っている」と。

「対中国に力を集中する」というトランプのこの発言は、いま中国、ウクライナ、ガザの3正面作戦を強いられ為す術のない米国の苦境を物語るものだ。この苦境脱出の戦略が「対中国に力を集中する」だ。

このことと関連して言えば、最近、欧州諸国がインド太平洋地域への対中対決のための軍事的進出を強化する方向で動いている。

 

欧州まで総動員の『中国征伐』

6月1日、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)の会合でフランス国防相は仏領ニューカレドニアを念頭に「太平洋に海外領土を持つフランスは太平洋国家」だと発言したが、この4月に仏海軍のフリゲート艦がフィリピンの南シナ海で米軍と比軍の合同演習に初めて参加、今後は日米比首脳会談での合意に基づき自衛隊もこれに加わる。これに先立ち仏海軍は米軍、オーストラリア軍との合同演習にも参加している。

シャングリラ対話ではオランダ国防相は同国軍のフリゲート艦が台湾海峡を通過したことを表明、元来、台湾海峡通過は非公表が常だったが異例の公表に踏み切った。それは中国にその対決意思を見せつけたということだ。オランダもかつてアジアの植民地帝国だった国だ。

欧州各国による艦艇や航空機のインド太平洋への派遣は活発化の一途をたどっている。

英国は2021年からインド太平洋に常駐させている哨戒艇二隻に加え、今年からは沿岸即応部隊(LRG)、海兵隊を中心に揚陸部隊を初めて展開するという上陸攻撃の実戦部隊派遣をデモンストレーションした。

さらに独仏やスペインの空軍は今夏、戦闘機などを合同で派遣し、日本や豪州、インドとの訓練を予定している。

このように米国は対中対決の軍事包囲網形成をインド太平洋地域に欧州各国の軍事資産を総動員してまでも急いでいる、「中国征伐」のために。

これは私の勝手な推量だが、こうした事態の進展は徳川幕府「ご瓦解」の発端となった長州征伐、幕長戦争を彷彿させる。

 

西洋式軍装に身を包んだ幕府軍(1865年)

幕府側は西国諸藩から征長軍を募り二度の幕長戦争を敢行したが、第二次征長戦争で15万の幕府軍がわずか数千の長州軍に惨敗を喫した。長州防衛、倒幕の意気盛んな長州軍と寄せ集めの幕府軍とでは志気の上でも格段の差があった。

また、大村益次郎の兵制改革による武士団に加えての高杉晋作率いる奇兵隊はじめ「国民軍」の軽装歩兵の重い鎧をまとった幕府軍に対する優位性、また旧式ゲベール銃の幕府軍に対する精密長射程のライフル式スナイドル銃の「国民軍」に対しては武装の上でも「幕府軍」はもはや敵ではなかった。

幕長戦争から類推すれば、インド太平洋地域の日米安保、日米韓、日米比、クアッド(Quad)、AUKUSなどにさらに欧州NATO各国まで加えた寄せ集めの米覇権帝国「幕府軍」は束になっても中国はびくともしないだろう。

志気の上では「祖国防衛」の意気高い中国と「祖国防衛」とは縁遠い「覇権秩序維持」、既得権防衛の打算で動く「寄せ集め」軍では全く相手にならないだろう。また武装の側面でも米「幕府軍」は中国軍に劣る。射程500~5,500kmクラスの中距離ミサル保有量では中国軍に及ばず、質的に見ても中国軍の「空母キラー」地対艦ミサイル、変速軌道を描く極超音速ミサイルなど最新鋭ミサイルは米「幕府軍」にはない。

長州征伐・幕長戦争が徳川幕府「ご瓦解」の前兆になったが、この欧州まで総動員の「中国征伐」企図は、それ自体が米覇権帝国「幕府ご瓦解」の前兆であると私は思う。

◆戦後日本の革命は脱G7・「アジアの内の日本」

「ウクライナはゼッタイ(ロシアに)勝てない」と断言するトランプ(バイデンも内心、そう思っている)だが、だからといって「中国には勝てる」という打算があるわけではない、いや全く自信がないというのが真実だろう。でも「中国征伐」はやらなければならない。「中国、ロシアは国際秩序変更を迫る危険な修正主義勢力」であり、さらにグローバルサウスもこれに同調して事態はますます悪化、「じり貧」一方だ。これを放置することは戦後世界に生き残った現代版植民地主義、「米覇権秩序」・G7主導の国際秩序の瓦解を意味し、それは帝国主義的覇権主義の終局的「死刑宣告」を意味するからだ。

いまや「新しい戦前」のわが国だが、戦後のこれまでは米国による数々の「征伐戦争」への本格参加はない。「憲法9条平和国家」日本の看板は汚れているとはいえアジア諸国からはそれほど危険視されない根拠になっている。また他のグローバルサウス諸国にも日本への警戒心はさほどない。中国、ロシアもまだ「様子見」状態を維持している。これが米国の数々の征伐戦争に手を汚してきた他のG7諸国とわが国の決定的違いだ。

しかしながら米覇権秩序・G7秩序の「ご瓦解」を前に勝ち目のない「中国征伐」戦争への本格参加、ウクライナのように対中代理戦争までやらされてまで無理心中覇権に付き合うのか否か、いまわが国はまさに瀬戸際に立たされている。

いまなら遅くはないはずだ。

いまこそ決断の時、「戦後日本の革命」の時! 「なんであの時、あんなバカなことをやったのか!」と後の世代に糾弾されないためにも、いまが決断の時であると思う。

戦後日本の革命、その基本課題は日米基軸からの転換だが、それは日本が覇権国家であることをやめるという意思表示でもある。その側面から見れば、明治の大日本帝国以来の「脱亜入欧」からの脱却、戦後の今日、それは「脱G7」、「アジアの外の日本」から「アジアの内の日本」への大きな歴史的転換だと言える。

以上のことが、「ピョンヤンから感じる時代の風」に吹かれていま切実に私が思い、かつ半世紀前、共に闘った同世代と何よりも未来を託す日本の若者たちに訴えたいことだ。


◎[参考動画]パレスチナの解放訴え 東大生ら500人が反イスラエルデモ(ANN 2024年5月17日)

いま「ガザ大虐殺」に異を唱え、米主導のG7・覇権主義への疑問が広がり、大学生たちをはじめ若者が新しい闘いを展開している。

希望はある。

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

◎ロックと革命 in 京都 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=109

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

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月刊『紙の爆弾』の最新号記事がnoteで一部公開・購読可能となりました。記事単位での購入も可能になりましたが、『紙の爆弾』はあくまで紙がメインのメディアです。興味を持っていただけましたら、ぜひ書店でお手にとっていただければ幸いです。定価700円(税込)、年間定期購読7700円(1号分お得です)。ここでは7月号の注目記事2本の一部を紹介します。

◆送電線と人脈でつながる「原発とリニア」 リニア新幹線の目的は原発の復活だ!
 ◎広瀬 隆(作家)

 

 

「リニア新幹線の超危険プロジェクト」と銘打った作家・広瀬隆氏の全6回のユーチューブ動画から、今月号では、リニアと原発の一体性を明かした「⑥電力消費激増と原発再稼働(最終回)」を編集し、紹介する。本誌6月号では⑤の電磁波問題を採り上げたが、そこでも広瀬氏が強調していたとおり、最も重要なことは、「リニアが開業延期されても、JR東海の失敗と断念を待っていてはいけない。今すぐ工事をやめさせ、自然破壊を止める」ということだ。動画にはより詳細なデータが満載なので、あわせてご覧いただきたい。(構成・文責/編集部)

 3・11直後の火事場泥棒

リニアをめぐる不条理に枚挙の暇はありません。まず、そもそも計画の進め方が不条理でした。リニア中央新幹線計画の公式の最終答申が出されたのは2011年4月21日です。この日の1カ月ほど前、3月11日に東日本大震災が起こり、東京電力福島第一原発の原子炉が次々と爆発しました。日本破局の大惨事の最中です。
 
そのどさくさに紛れて計画を審議する国土交通省交通政策審議会の中央新幹線小委員会(委員長=家田均東京大学教授)は最終答申案をまとめ、「南アルプスルート」「超電導リニア方式」でのリニア中央新幹線の建設を明記・公表したのです。

もちろん、リニアのプロジェクトは以前からあって、宮崎県では実験線を敷設しています。その際、JR東海は何と言ってこれを進めてきたか?「東海道新幹線の東京―大阪間の輸送能力が限界に近い。バイパス(迂回路)としてリニア中央新幹線を敷設する必要がある」と表明したのです。

自動車ならばバイパス道路は必要ですが、鉄道のバイパスなど、全世界でも例がありません。JR東海はそんな非常識なことを公言したのです。しかもJR東海は御用学者の東大教授たちを連れてきて答申案をまとめながら、国交省鉄道局によるパブリックコメント、いわゆる世論の意見公募を求めました。その結果が2011年5月12日に報告されたのですが、当時は東日本大震災から2カ月後で、「JR東海が言うように中央新幹線を早期に整備すべきだ」を支持した人はわずか106人。対して「リニアに反対、または計画を中止、または再検討とすべき」という人は648人と、パブコメの97%がリニア建設に反対しました。ところが5月26日には整備計画が決定され、営業および建設主体にJR東海が指名されました。

続いて6月7日にはJR東海が中間駅の候補地案を公表して、勝手に話を進めていきます。震災と原発事故の大惨事で日本中があたふたしているその間にJR東海はリニア建設を決定した。まさに火事場泥棒です。

JR東海と行政が住民に初めて説明会を開いたのは計画発表から2年が経った2013年5月。住民にとっては寝耳に水でした。
 
そもそも国交省が環境アセスメント(環境影響評価)なしに計画を決めること自体が、国の法律に違反しています。なぜこんな無理が通るかというと、JR東海が裏で地元の利権者を懐柔したからです。なにしろ巨大なトンネル工事ですから、事業者や建設業者は儲かります。

でも、本当に地元に多大な利益があるのか? 中間駅の建設費5900億円は地元負担が前提です。しかも、リニアの多くの乗客は東京と名古屋の大都市間を迅速に往復するのが多数派ですから、中間駅で降りる客などほとんどいない。つまり中間駅にはほとんど利益をもたらしません。

リニア新幹線は時速500キロという高速走行が売りです。だから、可能な限りまっすぐトンネルを掘るという工事です。しかし、これは自然界から見れば無謀です。しかも、路線の8割がトンネルで外の景色はほとんど見えない。誰がそんな不愉快な鉄道に乗りたいですか? 電磁波まで浴びせられる列車にまともな人は乗りません。

このままではまずいということで、リニア建設に反対する人たちは2016年5月に「ストップ・リニア!訴訟団」を結成しました。そして、「国交省の認可は行政庁の裁量権の範囲を超えている。住民無視の国法違反だ」として行政訴訟を起こしています。

ちなみに2010年12月、中国の新幹線走行実験では、日本の川崎重工業製の従来の新幹線車両をベースにした「和諧号」が、486キロという驚異的な時速を記録しました。リニアの最高時速は500キロの予定ですが、日本企業がつくった「和諧号」が時速486キロを出した時点で、高速鉄道がリニアでなければならない理由・動機はとうの昔に吹き飛びました。

 岐阜県では東濃ウラン鉱山の悪夢再び

岐阜県では、寝ていた子が叩き起こされるような事件が起こっています。

同県内の停車予定駅である中津川には東濃(とうのう)ウラン鉱山(閉山措置中)があります。2003年4月、この近くの可児市の東海環状自動車道トンネル掘削土の処分場から流れ出た酸性汚染水によって、木曽川水系の一級河川である久々利川の水系で、マスやアマゴといった魚が約1000匹も死ぬという事件が起こりました。

この一帯は瑞浪市と御嵩町と土岐市にまたがって東濃ウラン鉱床が分布しています。東濃のウランは岡山県の人形峠と並んで原子力産業にとって最も重要な鉱床です。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n71fc4fb5a95f

◆ウクライナとガザで実行中の「最新戦術」の正体 イスラエルAIは民間人をいかに殺すのか
 取材・文◎青柳貞一郎(医師・軍事ジャーナリスト)

 

 

 ウクライナ代理戦争の総力戦

軍事や戦術はリアリズムに基づいており、大手メディアが作り上げた物語(ナラティブ)に沿って、ウクライナ戦争やイスラエルのガザ侵攻を一方的な善悪の物語で論ずると、ロシアの優勢やイスラエルの失敗が「悪の勝利」でしか語られなくなってしまいます。

本来紛争には双方に言い分(正義)があり、武力を伴う戦争は外交の一手段にすぎません。客観的な事実の積み上げで双方が譲歩できる終結(off ramp strategy=出口戦略)を探ることが、国際政治の基本なのです。

これから論じる内容を理解するうえで、共有したい前提があります。それは約60年前のベトナム戦争が、米欧西側陣営と当時のソ連を中心とする社会主義陣営の代理戦争であったのと同様、今回のウクライナ戦争は同じ資本主義を標榜する米欧を中心とする「グローバリズム陣営」と、ロシア・中国・BRICS諸国など「グローバルサウス」と呼ばれる「多極主義陣営」の代理戦争であるという認識です。

両者の線引きは、ウクライナ戦争が開始された時にロシアに対する経済制裁に加わった国とそうでない国で分けられるとみて差し支えないでしょう。そして、戦争自体は西側諸国全体の経済と、ロシア及びロシアに協力する国々全体の経済をバックにした総力戦(対称戦争)となっています。

NATO(北大西洋条約機構)諸国は東西冷戦終了後、主な戦力を自分たちの兵力・経済力よりも弱い国や武装勢力(テロ組織)に向け(いわゆる「非対称戦」)、軍の態様もそれに適合するよう変化させてきました。ロシア軍も実はアフガン戦争、チェチェン紛争、シリア内戦への介入を経て大規模な総力戦から非対称戦に改めてきたといえます。

しかしウクライナでは、それとは勝手が異なる結果になりました。

 激変した戦術・用兵思想

2022年2月24日、ウクライナからの独立を主張するドネツク・ルガンスク両共和国の保全、ウクライナの非軍事化・非ナチ化を目標とした、ロシアが「特別軍事作戦(SMO)」と呼ぶ侵攻が開始されました。

しばらくの間は、ウクライナとロシア両軍の戦闘団単位の大きな戦闘が行なわれることはなく、戦術としてはロシアが大兵力を用い、ウクライナは小規模兵力単位でゲリラ戦的な戦いを挑む非対称戦であったといえます。

ロシアの犠牲が最も大きかった時期はこの緒戦であり、ウクライナに供与された西側諸国の精巧な武器でロシアの戦闘車両が次々と破壊されました。

双方の犠牲が多大になり、核を用いた大戦争への発展も危惧された開戦1カ月後の3月末、トルコやイスラエルの仲介で休戦合意がまとめられてロシア・ウクライナ双方が合意に達します。しかし、当時のウクライナ軍の善戦に加え、今後の経済制裁などの総合効果で「勝利」を期待した米欧諸国は、一度成立した和平合意を潰しました。

しかも、ロシアが首都キエフ近郊から撤退した後に発見された多数の市民の遺体を「ロシアによる虐殺」として「ロシア悪玉説」を叫び、徹底抗戦が主導されます。

ロシアは一度撤退した後、東部・南部戦線を構築しなおし、9月には予備役の部分動員をかけて兵力増強を図ります。この時期からロシアは戦時経済体制に移行し、非対称戦から総力戦として、経済も24時間体制で砲弾や軍備生産に切り替え、戦術も変更されていきます。

以下に、この2年間で変化・確認された戦術・用兵思想の例を挙げます。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n301e7bc5aa8d

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