火炎瓶テツさんら経産省前「不当逮捕」が示す安倍ファシズム第二段階本格稼働

5月28日経産省前で3人の市民が逮捕されたという報に接した。「『戦争法案反対国会前集会』を終えた3名が、経済産業省本館の門扉外側のスペースで抗議行動を行っていたところ、警備員の通報を受けた警察官により身柄を拘束されてしまいました」と友人は語っている。経産省の敷地に入った「建造物侵入」が逮捕容疑のようだが、言いがかりであることは明白だ。

◆火炎瓶テツさんと仲間たちの逮捕容疑は明確な意図に基づいた「言論弾圧」

これは明確な意図に基づいた「言論弾圧」である。逮捕された3名の中の1名は、反原発や反戦争など主として経産省前、だが時に応じて文科省前、東電前や米国大使館前などを自在に移動し、「決して逮捕されない」ように細心の配慮を払って活動していた「火炎瓶テツ」さんだ(本名は書かないが事件の性質上彼の「仕事名」は明かした方が良いと考え、顕名とした)。


◎[参考動画]2015.05.28『戦争法案反対国会前集会』終了後?火炎瓶テツと仲間たち【10/10】

私は彼を良く知っている。彼の明晰さと行動力、そして人に訴えかけるアジテーション、即興のラップリズムに乗せた風刺のメッセージ。

東京で抗議行動に参加された方の多くは彼の顔や声を聞いたに違いない。「大丈夫?」と聞くと「何やられても絶対逮捕されませんよ」と昨年語っていた彼は、3・11後大勢が官邸前に集まるのを確認しながら、自分の活動拠点を取り敢えず「経産省前」としたようだ。この点「経産省前テント広場」の方々と着眼点の共通点がある。慧眼だ。

彼のバイタリティーには恐れ入っていた。灼熱の夏の日も、極寒の冬の日も週に最低2、3回は「仲間」とともにどこかで抗議活動を繰り広げている。

そう彼には、彼と共に活動を続ける「仲間」がいる。だから抗議行動の名前は常に「××反対!!火炎瓶テツと仲間たち」となっていた。逮捕された時にも多くの仲間がその現場を確認していたことだろう。

◆下地真樹=阪南大准教授「不当逮捕」と共通する「狙い撃ち」

2012年12月大阪で公安に逮捕された阪南大学経済学部准教授、下地真樹氏(「モジモジ先生」下地真樹さんの声明「警察はウソをついて私を逮捕」)のケースとの共通点も見いだせる。それは彼が単なる「抗議活動参加者」ではなく、優れて自分の言葉で問題の中心部を抉り出し、それを行政なり企業なりに直接ぶつける議論に「ひとりで」対抗できる頭脳と行動力の持ち主と言う点だ。

実は権力にとっては10万人の集会よりも、「個を確立した」10人の方が恐ろしいのかもしれない。党派にも属さず、自分の皮膚感覚と経験、そして学習に依拠して毎度毎度異なるテーマ―で悪政の根本を糾弾する「火炎瓶テツ」は、そろそろ「好きにさせておいてはいけない」と判断されたのだろうか。

彼のニックネームはやや「過激」に聞こえるかもしれないけれども、この時代、心の中に「火炎瓶」を持つぐらいの怒りを持たない方がどうかしている。

◆理性のある人間が戦争に反対し、戦争推進の動きに怒るのは当たり前

国会の中で安倍は一体何を語っているのか? 有事関連法制などというが、その実「どのように戦争を執り行うか」(しかもその前提は極めて根拠が曖昧・希薄である)の技術・解釈論だけであり、呆れるほど結果に対する洞察力を欠いている。戦争が起きたらどんなに非常が待ち受けているかを、真剣に想像している方々がどのくらいいるであろうか。残念ながらそういった懸念なしに過ごすことの出来ない日常が今日の姿だ。政府により戦争への明確な準備が目の前で行われている。

いくら嫌がっても残念ながらそれが現実だ。「人殺し」はいけない。どのような理由があろう避けるべきだ。だが戦争は国家が「お墨付き」を与える「合法的殺戮行為」だ。私的な「人殺し」に反対するのであれば「戦争に反対する」のは明々白々じゃないか。日本の憲法がどうであれ、日本の友好国がどうであれ、もっと言えば自分の親戚や身内が賛成しようとも、理性のある人間は戦争に反対し、それを推し進めようとする動きに怒るのは当たり前ではないか。戦争推進に怒ることなくして、一体何に怒れというのか。

◆「個」を持った「まつろわぬ」人たちがどんどん駆られる島国ファシズム第二段階

国家にとって目障りで邪魔なのは「個」を持った発言者・行動者だ。だから今回の逮捕は「火炎瓶テツ」には気の毒ではあるけれども、とうとう「戦争扇動者」安倍により「こいつは野放しに出来ない」と認められた勲章ともいえる。仮に不当な起訴や重刑が語られれば話は別だが、いくらなんでも大した罪状で罪は問えまい。

私は今日もまた「ついに来たか」と感じた。水際はどんどん迫って来る。影響力はないもののある意味「発言者」である私にとって、「火炎瓶テツ」の逮捕は他人事ではない。彼の主張は私の思想に比べれば余程穏便だったのだから。

これから、どんどん駆られるだろう。「個」を持った人間が、「まつろわぬ」人たちが。この島国のファシズムは第二段階に入った。

◎[参考動画]2015.05.28『戦争法案反対国会前集会』シュプレヒコール【5/10】

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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輸入できても国産化はアメリカに阻止される日本の「無人戦闘機」導入計画

国はそれぞれ独自の事情を抱えており、国情に見合った軍備を整えている。たとえば、陸のないスイスに海軍は不要だ。北朝鮮の南下を恐れる韓国は陸軍を重視する。

日本は海から来る敵と、物資流入を確保するため「シーレーン防衛」を最大目的としている。仮想敵がシーレーンを寸断しようとした場合の最も有効な兵器は潜水艦である。艦上自衛隊の装備は潜水艦排除を重視している。

そのため対潜哨戒機は重要だ。水中の潜水艦を発見し、攻撃する事に特化した偵察機で、鉄で作られた潜水艦を探す磁気探査装置や、音響で位置を特定するソノブイを装備している。ソノブイは高性能のソナーを積んだ浮きで空中から海に投下して使い捨てにする。

以前、対潜哨戒機としてアメリカ製「P3C」を使用していたが、同機の旧式化にともない日本は「川崎P1対潜哨戒機」を独自開発した。一方アメリカでも旧式化は免れず、「ボーイングP8ポセイドン」を開発した。ただしポセイドンは従来型と違い複数のトリトンを空中で指揮運用する前提で設計されている。トリトンの武装は明確にされていないが、最低でも爆雷、対潜魚雷、対艦ミサイルのうえに在来型が搭載する程度の武装は装備して、トリトンだけでも一定の対潜攻撃能力を持つと考えられる。

日本はポセイドンを買う予定はない。なにしろ、「P1」の倍以上する高価な機体である。しかし、補助的にトリトンを運用するのは有効だろう。日本も無人機の研究はしているが、十分ではない。アメリカはここに商機を見つけたのだ。

一方、無人武装機と考えた場合、「その次」に目をやる必要がある。いまや、アメリカ空軍の攻撃機は無人化され、メーカーでもプレデターをジェット化した海軍型を提案している。

◆アメリカが阻止する日本の国産戦闘機開発

となると、いよいよ無人戦闘機である。現在、アメリカの最新鋭戦闘機は「F35」であり十数年の内に西側の戦闘機は「F35」が主流となるだろう。一方、「F35」は有人であるためどうしても飛行限界が存在する。地上の十分の一以下の気圧、氷点下50℃の低温から人間を守らなければならない。

アメリカが開発中なのが「無人攻撃機X47ペガサス」である。速力はマッハ1以下と戦闘機としては遅いが、それでもプレデターの三倍以上。ステルス性は優れ、航続時間に至っては10時間を超える。空対空ミサイルをもち戦闘機としても使用できる。陸軍と海軍の共同プロジェクトであるので空母上の運用が前提で、昨年、完全自律での離着艦の実験が成功した。

日本の技術レベルはまだ無人機を買う状態であるが、陸自は無人偵察ヘリを運用している。空自も開発中の「F3戦闘機」の無人化を計画している。F3が完成したらF35は一気に陳腐化してしまう。そうなる前にアメリカは日本の無人機市場の発展を押さえる、あるいはまたも国産戦闘機開発の阻止を狙っているのである。

「無人攻撃機X47ペガサス」写真はOVAL OFFICE(http://ovaloffice.jp/)より
「無人攻撃機X47ペガサス」写真はOVAL OFFICE(http://ovaloffice.jp/)より

▼青山智樹(作家、軍事評論家)1960年生まれ。作家、軍事評論家。著書「原潜伊六〇二浮上せり」「ストライクファイター」等多数。航空機自家用単発免許、銃砲刀剣類所持許可、保有。HP=小説家:青山智樹の仕事部屋

7日には気をつけろ!──炸裂!『紙の爆弾』!

《未来小説》イスラム国日本潜入!「ISIL VS 自衛隊」もし戦わば…[後編]

緊急シミュレーション:イスラム国日本潜入!「ISIL VS 自衛隊」もし戦わば…(後編)
作=青山智樹(作家、軍事評論家)

暑い。ヘルメットを砂漠の太陽が容赦なく照りつける。だが、脱ぐわけにはいかない。
ヘルメットには国籍マーク、日の丸が描かれているからだ。

ヨルダン自体はイスラム教シーア派の王の元にまとまっているが、立憲化に反対する勢力、反政府勢力、スンニ派ゲリラが入り交じっている。国連に対しては寛容だが、反アメリカ主義のアルカイダ勢力もある。政府軍や、国連軍、アメリカ軍だという理由だけで銃撃される恐れがある。

だが、日本を敵視する勢力は例外的にISがあるだけだ。もし、日本ではないと認識されたら、すぐにミサイルが飛んでくるかも知れない。

日が傾き、一日の作業が終わる。施設隊員たちは輸送車に乗り込み、宿営地に戻る。警備にあたっていた普通科も乗り込む。幸いにして今日も弾は飛んでこなかった。砂漠の中で野営することもできたが、何かの間違いで砲弾が飛んでくるかも知れない。憲法が改正されても、自衛隊が自分から攻撃するのは手控えたい。憎しみは憎しみしか生まない。現場で、凄惨な最前線を見た隊員ならではの実感だった。

だが、帰路、宿営地から工事現場へ戻れという指示が飛び込んできた。

「なんだって?」

「工事中の道路の2キロほど先に村落がある。住人は30人ほどだが、その村を今夜ISが急襲するという情報が入った。その前に住人を救出しろ」

「なんだってそんな小さな村を」

「偶像崇拝だそうだ」

皮肉にも原因は先日、C2が投下したパック飯のイラストだった。

イスラムは偶像崇拝を禁止している。仏像や、キリスト教の十字架、神道の鏡、すべて偶像として排除される。信仰の対象は唯一、クルアーンのみである。特にISの規律は厳しく、紙幣や硬貨などに描かれた人物像すら禁止である。

拾ったとは言え、食料パックにキャラクターが描かれていたら、クルアーンの教えに背いたとして死である。被刑者が女性の場合、原則として輪姦される。処女のまま死ぬと、清らかな存在として次の世界では神に近い位置に生まれ変わるとされる。ISとしては犯罪者を清らかなまま死なせるわけにはいかない。殺す前に念のために犯す。

「アメリカ軍にやらせたらどうなんです。やつらガンシップ持ってきているでしょう」

C130ガンシップ。輸送機の側面にバルカン砲、100ミリ砲を取り付け、遠距離から精密攻撃をする。大型機に高精度の赤外線探査装置を持ち、精密な攻撃が可能だ。

「偵察機は出すらしいが、相手が難民か、ゲリラかどうか判るわけじゃない。下手すると逃げてきた難民が皆殺しだ」

宿営地へ向かっていた隊列は一旦停止した。帰還する施設科と、普通科を分け、普通科は夜を待った。

日が暮れると砂漠では急速に気温が下がる。赤外線スコープで人影がはっきり目立つようになる。

村落のそばまで輸送車を進め、小隊長はどうすべきか考え込んだ。堂々と乗り込んでISが来るから逃げろと言っても信じるだろうか。逆にこちらがゲリラと間違えられて反撃される恐れもある。小さな村とは言え、紛争地帯だ。自衛のため武装してと考えるべきだ。

アメリカ軍ならどうするだろうか? 問答無用でひっくくって、難民キャンプに放り込むだろう。村人のためにはそれが安全だろうが、正解とも思えない。

「普通に突入しましょう。銃を持っている者だけ制圧すれば一時的に村を離れさせられるでしょう」

曹が進言した。昔であれば伍長とか、軍曹と呼ばれる下士官だ。言うなれば現場監督だ。

「静かにいけるか?」

「やります」

突入というと、銃を構えて歓声と共に飛び込んでいく印象がある。だが、それはアメリカ軍のやり方だ。

自衛隊では違う。そっと中の様子を伺い少人数が侵入する。武装している人間だけを抑えれば済む。一つの建物を制圧すると、無言で次の建物に移っていく。訓練でこの様子を見たアメリカ軍は陸上自衛隊を指してニンジャと呼んだ。

部隊は村落の一番端の建物から侵入した。明かりはついていないが、人がいるかも知れない。兵は赤外線探知装置で人の体温を察知して、さらに銃を持っていないのを確かめて寝ていた男に「ISがこの村を狙っている」と告げて、外に連れ出した。村の反対から見えない場所に兵員輸送車を止め自動車の影に保護する。

次々と村人が収容される。

「あと、距離で一キロほどです」

指揮車から報告が入った。小隊長は星空を見上げた。高度二万メートル、アメリカ軍の高々度偵察機グローバルホークが映像情況を送ってきている。ISはまだかなり離れている。

「もし、何事もなければ、村に帰れる」

通訳が村人たちにそう告げたとたん、闇の中に閃光が翻った。榴弾が空気を裂き落下する。遠くからさほど大きくない破裂音が聞こえる。グレネードランチャーの発射音だ。いわば手榴弾を連続発射する対人兵器だ。ISは村を丸ごと焼き払う方法を選んだのだ。

村人たちが悲痛な声をあげる。さっきまで自分たちが住んでいた村が、家が燃えているのだ。

燃える炎の向こうに銃を持った人影が走る。掃討にかかろうとしているのだ。

「逃げよう。怪我人を出すわけには行かない」

小隊長は村人たちを輸送車に乗り込ませると、きびすを返して駐屯地に向かう。到着したら村人たちは難民キャンプに寝床を与えられる。もともとは日本が災害用に準備しておいた仮設住宅だ。不便な生活を強いられることになる。

銃を降ろした曹は頭からショールをかぶった女性がまだ年端もいかない少女であると気がついた。父親らしい男の腕にすがりついている。

「おい、パック飯はないか?」

曹は積んであった赤飯を加熱剤で暖めさせると、少女に差し出した。食べろ、と手真似で告げる。パックには現地語で「ハラール」と書かれている。少女は父親に何事か問いかけるとプラスチックのスプーンで赤飯をひとすくい、口に運んだ。

曹からは目しか見えないが、嬉しそうに笑っているのが見て取れた。

戦争が起きると、被災者が発生する。前線で銃を振り回すだけでなく、逃げ出した人たちを助けるのも、重大な貢献だ。

国が軍事力を持つ最大の理由は戦争に勝つことではない、戦争を起こさないことである。

太平洋戦争から70年。一度も戦争を引き起こしていない自衛隊は世界最強の軍隊なのだ。(了)

▼青山智樹(作家、軍事評論家)
1960年生まれ。作家、軍事評論家。著書「原潜伊六〇二浮上せり」「ストライクファイター」等多数。航空機自家用単発免許、銃砲刀剣類所持許可、保有。
HP=小説家:青山智樹の仕事部屋

 

《未来小説》イスラム国日本潜入!「ISIL VS 自衛隊」もし戦わば…[前編]

緊急シミュレーション:イスラム国日本潜入!「ISIL VS 自衛隊」もし戦わば…(前編)
作=青山智樹(作家、軍事評論家)

警察庁サイバー科。数十台のモニタが並べられ、どれもが常時、流れるような文字を写しだしている。日本中で発進されるメールが一旦、ここに集められフィルタリングされているのだ。事前に登録された「殺す」「爆弾」「FIRE」などのタームが引っかかると、弾き出される。だが、現実には他愛のない内容だ『ハードディスクが死んだ』、『炎の魔法は……』このようなタームも登録され次回から排除される。このようにして警察庁は「危険な言語」の精度をあげていく。

だが、言葉を拾い上げるだけでは本当に危険な情報は吸い上げられない。犯罪者、テロリストたちは自分たち独特の隠語を使っている。拳銃をハジキ、刃物をヤッパと呼び変えるようなものだ。新しく不明な言葉が見つけ出されると膨大なネット情報と比較され意味が解析される。多くの場合、テレビドラマのタイトルであったり、無意味な語である。

若い刑事が画面をとめて上司の警部補を呼んだ。

「数字が来ました」

画面上には無意味な数字の羅列が映し出されている。暗号だ。本当の危険な連中は普通の文章など使わない。暗号を使う。数字を文字列に移し替えて、かき混ぜる。かき混ぜ方を別便で送り再度組み立てる。

「内容を解析に回せ」

解けない暗号を作るためには、大規模なスーパーコンピュータが必要だ。そして、無理矢理解くためにはさらに高性能のコンピュータを使わなければならない。2015年現在、日本には何台もの世界最高水準のコンピュータがあり、科学研究以外にも利用を許可している。

「IPアドレスは判ったか?」

「都内のネットカフェです」

「念のため、人をやってくれ」

警察は定期的なパトロールに見せかけて随時「警察官立寄所」へ警察官を送り込む。最寄りの署か交番からネットカフェへ警官が向かっているだろう。もし、PCを扱っているのが指名手配犯であればそれなりの措置が取られるだろうし、被疑者が席を外していたとしても利用者名簿から特定して、必要であれば監視する。

日本人か、アラブ人かどうかは関係ない。2015年1月、パリの新聞社を襲撃した犯人グループにはフランス生まれ、フランス育ちの人間が含まれていた。イスラム系テロ集団に洗脳されて犯行に及んだのだ。日本でも同じ事態が発生しないとは限らない。

もし、テロ寸前の事態であれば、機動隊が出動する。日本ではここ何十年も機動隊が出動するようなデモは起こっていないが、機動隊は全員が柔道、剣道の有段者から選抜され、いまだ世界有数の暴動鎮圧能力を誇っている。

さらに先年、特殊急襲部隊SAT、スペシャル・アサルト・チームが編成された。銃器や爆発物が使用される大規模テロに対応する部隊で、防弾服を着用し軽機関銃で武装している。部隊の写真は公開されたが、隊員は全員が目出し帽で顔を隠しており、個人名も特定されていない。

SATで対応できない事態が発生した場合、自衛隊が出動する。幸いにしてSATが本格出動したり、自衛隊と共同作戦をとる事態は発生していないが、警視庁ばかりでなく各県警道警府警で共同訓練が行われている。

不幸な事実だが、日本の警察は対テロ経験が豊富だ。古くはよど号ハイジャック事件、日本の警察が介入することはなかったがペルーの日本領事館占領事件では突入訓練が繰り返された。そして、世界で初めての化学テロとなったオウム地下鉄サリン事件。
日本の警察は二度とテロを起こさせまいと努力を怠らない。

やがて、暗号解析の結果が帰ってきた。

「ISかも知れないですが、国内とは関係ないですね。日本国内の自衛隊の情報を問い合わせているようです」

海外での事件はサイバー科の手に余る。

「自衛隊に渡してやれ」

データは専用の回線で市ヶ谷に送達された。

ヨルダン首都、アンマン。航空自衛隊のC2輸送機が離陸した。機首を西に向けシリア国境をめざす。

ヨルダンはイスラエル、パレスチナ、サウジアラビア、イラク、シリアと国境を接する。予言者ムハマンドの子孫を王として戴くイスラム立憲王国国家であるが、内情は不安定である。国民の大半はパレスチナ難民か、パレスチナ難民の子孫である。イスラエルからの圧力ばかりでなく、2010年以降、隣国、シリアで発生した同じイスラムのISISの台頭が激しく、国土をもぎ取られ、もぎ取りしつつある。

アメリカを中心とする「連合」はヨルダン、サウジアラビアに部隊を配備して平和維持活動に当たっている。日本もその一翼を担うのであるが、基本的には後方支援である。普通科(歩兵)も駐留しているが、駐屯地の最低限の警備に限られ、実質的な活動は施設科といわれる土木部隊である。難民のために家屋を造り、道路を整備する。日本国内において施設科の活躍の場はないが、海外派遣されると主力となる。

日本では、やはりあまり活躍の場がないのが給養科、つまり食料担当である。

C2に乗り込んだ給養員はC2の貨物室一杯に積み込んだ携行食二型にアニメのキャラクターを次々書き込んでいる。二型はいわゆる「パックめし」でビニールパックされた何種類かの主食と副食がある。キノコ飯とか、白米、赤飯と日本語で書かれているが、C2が積んだものにはアラビア語で「ハラール」のシールが貼られている。ハラルはイスラム教の禁忌に触れない、という意味で食肉などでは動物が屠畜される際、聖職者が祈りを捧げた食品である。幸いにして日本の米食、キノコ飯などは菜食でありあらゆる禁忌に抵触しない。C2はこれらを紛争地域から脱出してきた難民の上に撒くのである。

アメリカも人道支援物資という名で難民用のハラル食、ベジタリアン食を用意していたが、アメリカ製は味に難点がある上、大量の保存料を使用しているため食べ慣れない人間が食べると腹を下す。栄養状態が悪いと命に関わる。

一方、パック飯は自衛隊員が一年以内に食べきることを前提としているので、加熱殺菌しているだけであり、味もかつてサマーワで各国の軍隊がレーションの食べ比べをした際にフランス、イタリアに次いで三位を獲得した保証付きである。

「おまえ、何しているんだ?」

「だって、子供が拾うかも知れないじゃないですか。少しでも喜んでもらおうと思って」

「まあ、いいけどな」

C2は低空飛行しながら後部カーゴドアからパック飯を撒いていった。本当なら戦車や、空挺部隊員を降ろすためのドアである。だが、紛争地域では銃より、食事の方が喜ばれる。

一方、陸上自衛隊施設部隊はアンマンから、シリア国境へ向けて道路を作り続けていた。砂漠地帯であるため、地面と同じ高さに道を作るとすぐに埋もれてしまう。ある程度の高さが必要だ。単純にアスファルトで固めるだけでも使い物にならない。太陽の熱で溶けてしまう。まさに砂漠を削るような作業だ。しかも頑丈でなければならない。いまは難民が安全な地に逃れ、給水車や輸送車が走るだけだが、ISが侵攻してきたらひょっとしたらパトリオットを引いたトレーラー、自走榴弾砲が通るかも知れないのだ。(つづく)

▼青山智樹(作家、軍事評論家)
1960年生まれ。作家、軍事評論家。著書「原潜伊六〇二浮上せり」「ストライクファイター」等多数。航空機自家用単発免許、銃砲刀剣類所持許可、保有。
HP=小説家:青山智樹の仕事部屋

ひとつの不安が大きな風穴を開ける──イスラム国が仕掛ける乾坤一滴のテロ

どこもかしこもメディアはイスラム国(ISISともISILとも呼ぶ)の悪辣さを報道しており、関係者はコメントでひっぱりだこだ。

イスラム国は「国ではない」。もともとは英名でIslamic State in Iraq and al-Shamと表記される。名称に「ステーツ」を含むため「国」と訳された。USAと同じ基準である。現在では略号としてISIS、ISILと呼称するようになって来た。ある組織が「国」と認定されるには国連の承認を含めいくつかの条件を満たす必要があるがISISは「国」としての体裁をなしていない。

では、実態はなにかというと、無数にあるイスラム系宗教集団の一つにすぎない。特徴としてイスラム回帰主義がきわめて強く、同時に闘争的である。

イスラムというと日本人にはなかなかピンとこないが、歴史的にはキリスト教以前、ユダヤ教から別れた一派である。ユダヤ教では旧約聖書を聖典とするのに対して、キリスト教ではイエスの言葉を集めた「新約聖書」、イスラムではムハマンドが神の啓示によってあらわした「クルアーン」(コーラン)を聖典とする。いずれもアダムとイブが人類の祖であり、呼称は異なるものの、崇める神も同一である。

イスラム教徒が住む地域はアフリカから、中東、アジアにかけて非常に幅広く、様々な宗教集団、主義主張が存在する。インドネシア、マレーシアはイスラム教国であるが、戒律は緩やかで対立も少ない。逆に激しい環境に面しているのがパレスチナであろう。イスラエルと国境を接し激しい戦闘を繰り返している。また、アルカイダなどは反米を掲げ、アメリカを攻撃の対象に据えている。その分、日本に対しては対米共闘を持ちかけるなど、寛容である。

ではISISの目的は何か? 世界中のイスラム教徒をイスラム法の下にまとめ、大イスラム帝国を再編するいわゆる「カリフ制」の復活とムハマンド時代の再建「サラフィーヤ」の実現である。誇大妄想的に聞こえるかも知れないが、現在の中東の国境線は第二次大戦後、戦勝国によって引き直された物であり、その土地に住むムスリムが合併しようとする動きはあり、なにもISISの専売特許ではない。しかし、ここにきてISISが注目されているのは、その軍事力と大きな発展、目的のためには手段を選ばない残虐性である

ISISはシリア内部で発生した。中核は旧イラク・フセイン大統領のスタッフであるという。軍人、政治家など実務経験がある閣僚級の人間が温存していた兵器、兵士を中心にして新興勢力を立ち上げたのである。正規軍として実戦経験を持ち、国家予算並みの資金、正規軍に準ずる装備があれば一時的に圧倒的な発展が期待できる。しかし、一定期間が経てば国内のインフラは不備、海外との交易もなく、経済的に追い詰められる。人心も離れる。国際的に考えても、日本は敵に回すべき国ではない。

軍隊は送ってこない。来るのは金と物資だけ、だが日本にケンカを売ったと言うことは、内部情況が相当逼迫していると見るべきである。いま、ISISは下り坂を転がり落ちている。

そんな苦しい情勢下で、彼らは乾坤一擲のテロを狙っているようだ。

オーストラリアのシドニーでテロを計画していたとして20代の男2人が警察に逮捕されたが、この2人は「イスラム国」関係者だとされている。

これだけでなく、スパイの動きは活発だ。別ラインでは、世界の各国にイスラム国関係者が潜入して、「兵器開発」のための情報を集めているようだ。
エジプトにいる外電記者は語る。

「イスラム国の幹部たちは、アメリカが地上戦を展開する情報を掴んだようです。対抗するためには、仮に自爆するにしても、『核』をもって対抗しないと、もはや空爆してくる連合軍に勝てないと判断したようです。石油でもうけた金を使って、自分たちが生き残る道を画策、あらゆるルートを駆使して探した結果、『北朝鮮の核開発チームが売ってくれる』となったようです」

もし事実なら、現在の勢力図がひっくりかえる話だが、疑問がある。本当に北朝鮮は核兵器を開発したのだろうか。一説には、パキスタンの核開発の父と呼ばれるA・Q・カーン博士が何回も北朝鮮に入り、技術協力していた。「すでに完成している」と見るむきは多い。

また、軍事評論家の青山智樹氏は言う。

「北朝鮮は間違いなく、ウラン濃縮技術を持ってます。イスラム国に供与の可能性もありますが、核兵器自体、高価であり、運用法も限られます。つまり、イスラム国が北朝鮮のようにミサイルを作れないと、普通は無理。ただし、自爆兵器としては、トラックでも使えるのです」

青山氏は、「核兵器よりも、シリアのアサド政権が化学兵器をイスラム国に売っているのではないかという疑念がぬぐえない」とも語る。

今もなお、ヨルダンやアメリカ空軍の空爆は続いているが、「イスラム国の主要なメンバーはもう海外にとっくに脱出している。残っているのは、幹部に見捨てられた若い兵士や、貧しい部族だけ」(外電記者)という情報もある。

怖いのは、「ジハード」の名目で、たとえばニューヨークあたりで、化学兵器をばら蒔かれることだ。「もしイラクの軍隊から技術が伝わっているとすれば、少なくとも1万人くらいは殺傷できる化学兵器を、イスラム国は持っている可能性は強いです」(同)

イスラム国が「石油の密輸で潤っている」と情報を聞きつけて、昨年の11月あたりから武器のブローカーが欧米や中東から大量に「セールス」にやってきていた。そうした中で「化学兵器」や「核兵器」のセールスがゼロだった保証はない。

一見して状況として「完全に不利」に見えるイスラム国は、「最高のカード」で勝負、一発逆転を狙ってくる日は近いのかもしれない。
[ハイセーヤスダ]※取材協力=青山智樹(軍事評論家)

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