戦後日本の革命 in ピョンヤン〈5〉“「アジアの外の日本」から「アジアの内の日本」へ”考 ── “戦後日本の革命は「脱・脱亜入欧」”=脱G7・「アジアの内の日本」 若林盛亮

◆ピョンヤンの大使館街 ──「アジアひとりぼっち」の日本

ピョンヤンは大同江をはさんで西ピョンヤンと東ピョンヤンに区分されるが、東ピョンヤンの広大な一角には諸外国の大使館街がある。早くから外交関係を持つロシアや中国は都心部の西ピョンヤンに独自に大使館を持ち、大きな敷地には大使館員子女のための学校、大使館員アパートなど諸施設まである。

 
ASEAN(東南アジア諸国連合)の旗

東ピョンヤンの大使館街に一歩足を踏み入れるとすぐ左手にフィリピンとカンボジアの大使館が並び道路を挟んで右手にベトナム大使館、まずアジアのこの三つが並んでいる。庭にはそれぞれの国旗と共にASEAN旗、この2本の旗が翻っている。それは「自分たちは東南アジア諸国連合-アジアなのだ」と誇り高く自己主張しているように見える。

周知のようにASEANは主権尊重、内政不干渉、紛争の対話による解決を憲章に謳い、この憲章に従って成員国への軍事的威嚇や制裁など力の行使の否定、覇権主義的行動排除の脱覇権地域共同体だ。

ASEAN成員国はじめアジア諸国はみな朝鮮と外交関係を持っているが、大使館がないのは日本だけ。例外的にミャンマーはある事件を契機にいま国交途絶はしているが元来、外交関係にあった国だ。

ピョンヤンの大使館街から見れば、「太平洋ひとりぼっち」ヨットの堀江謙一さんにならえば“「アジアひとりぼっち」の日本”という構図が浮かび上がる。

それは日本にいれば決して感じることのない光景だろう。でもピョンヤンから見れば「アジアひとりぼっち」というのが日本の置かれた位置だという厳然たる事実もあるのだ。

これが「アナザーサイド of 日本」、いや現在の日本のアジアでの位置、日本では目に見えにくい「本当の位置」を雄弁に物語っているのではないかと私は思う。

それはどういうことなのだろう?

◆戦後も「アジアの外の日本」は変わらなかった

敗戦でアメリカには頭を下げたが、アジアには頭を下げなかった日本。これが戦後日本のアジアでの立ち位置を決めた。

明治の近代初期に朝鮮の革命家・金玉均(キムオクキュン)などを助けた福沢諭吉だが、福沢は彼らの「維新革命」失敗を見て、アジア東方の友人に日本のような近代化「維新」断行のできる志士は出ないと結論を下し「脱亜入欧」を唱えた。

それは「アジア東方の悪友を謝絶する」、「西洋の良友と進退を共にし、西洋人の接する風に従ってアジアに処す」というものだった。以後のわが国は欧米帝国主義列強の列に入り、「西洋人の接する風に従って」アジアを植民地支配の対象とする「大日本帝国」として登場、この時からわが国は「アジアの外の日本」になった。

「アジアの外の日本」、それはアジアに頭を下げなかったことで戦後も変わらなかった。

わが国は「アジアで唯一のG7成員国」、欧米と並ぶ「先進国の一員」だということを多くの日本人が誇りと思ってきた。それは戦後、日本は日米安保基軸の下で「軍事は米国に任せ日本は経済に注力する」吉田ドクトリン路線で「軍国主義をやらず平和的経済発展を成し遂げ先進国隊列に入った」とされる「誇り」から来るものだろう。

でも「G7成員国」ということ、それは戦後も「脱亜入欧」、帝国主義列強の列から離れなかった、「アジアの外の日本」であり続けたことを意味し、決して胸を張れることではないと思う。

「軍事は米国にませる」だけではすまなくなった戦後日本の大きな転機を迎えている今日、そのことがますます明確になりつつある。

今年初めのある事件はこのことを考えさせるものだ。

県立公園、群馬の森にある朝鮮人追悼碑「記憶 反省 そして友好」は、群馬県により行政代執行という形で強制撤去された。理由は、日韓、日朝友好の象徴であるべきものが「政治的対立を生むものになっている」からというのが山本一太知事の説明だった。

元徴用工への賠償金支払いなど歴史認識問題が日韓政府間対立の原因になったことを念頭に置いたものだろう。朝鮮への植民地支配の根拠となった韓国併合条約を当時の国際法上は合法とし、慰安婦や徴用工への賠償問題は日韓条約締結時に解決済みという日本政府の立場を代弁するものだ。

山本一太・群馬県知事が言うような朝鮮人追悼碑自体に日韓間の政治的対立の原因があるのではない、歴史認識問題で「アジアに頭を下げない」、「アジアの外の日本」にこそ両国間の根深い対立の原因がある。


◎[参考動画]「群馬の森」朝鮮人追悼碑が撤去に 「記憶 反省 友好」の思いはどこへ【報道特集】(TBS 2024/02/18)

この「アジアの外の日本」を後押しするのが米国だ。朝鮮人追悼碑のような日韓間の政治的対立を生むような歴史認識問題を排除して日米韓軍事同盟強化による対中国、対朝鮮対決の軍事包囲網完成を急いでいるのが米国だ。

昨年、韓国の尹錫悦(ユンソクヨル)大統領が元徴用工への賠償金を日本企業に代わって韓国の財団が立て替えるという形で韓国国民の反発を無視してでも日本政府に譲歩した。結果、日韓政府関係は好転、日韓首脳会談開催にこぎつけたことは周知の事実だ。

日韓首脳会談決定直後、いち早く日韓正常化の動きを歓迎する米政府が「“核の傘”日米韓協議体」創設を日韓に打診していることを読売新聞は一面トップで伝えた。

歴史認識問題を日韓関係の「政治的対立を生むものにするな」というのは他ならぬ米国の要求だということだ。

アジアにおける米覇権秩序のお陰をこうむって海外権益を拡大する「アジアの外の日本」、敗戦後もアジアに頭を下げずアメリカだけに頭を下げることによって、戦前同様の「脱亜入欧」覇権主義を日米基軸・対米従属という形で継続してきたわが国、これが戦後日本の「米国についていけば何とかなる」生存方式となって今日に至っている。しかしこの「アジアの外の日本」はいま大きな軋(きし)みを生じだしている。

4月の岸田首相の国賓訪米、米議会での演説、日米首脳会談での合意事項、またそれ以降の「新しい戦前」への急傾斜と言われる最近の事象はそれをひしひしと感じさせるものだ。

◆日仏共同軍事訓練合意とニューカレドニア暴動を考える

国賓訪米を終えた5月、岸田首相はフランスを訪問、自衛隊と仏軍の共同訓練をしやすくする「円滑化協定」締結に合意した。なぜ自衛隊と仏軍の共同訓練なのか? 「インド太平洋地域の平和と安定に貢献」のためだということだ。

なんでフランスがインド太平洋地域に利害と関心を持つのか? 

岸田訪仏から約2週間後に起きたニューカレドニアでの暴動でその理由の一端がわかる。

暴動の原因は仏マクロン政権がニューカレドニアの選挙で仏系住民の投票権拡大のための憲法改正を企てたことだ。先住民カナク人には独立気運が高まっているが、他方でフランス人の殖民化を進めるフランス政府の選挙制度改変施策によって増加一途の仏系住民にカナク人の発言権を押さえられ独立が遠のくことへの反発から暴動に発展した。現在もカナク人若者による道路封鎖など抗議行動が続いている。仏国内でもこの憲法改正を見送るべきだとの声が上がっている。


◎[参考動画]ニューカレドニアに非常事態宣言 暴動激化で4人死亡(テレ東BIZ 2024年5月16日)

恥ずかしながら私は今回の暴動でニューカレドニアがいまもフランスの植民地だったことを知った。

日本では西南太平洋、メラネシアに属する「天国に一番近い島」だとか観光名所として知られているニューカレドニアだが、いまなお「仏領」、すなわちフランスの植民地ということはあまり知られていない。

調べてみると、鉱物資源が豊富で、特に電気自動車のバッテリーに欠かせないニッケル生産量ではかつては世界一、いまは三位を誇るという。他にクロム、鉄鋼、マンガン、金、銀、鉛の埋蔵が豊富な島なのだ。仏政府にとっては自分の「海外領土」、植民地としておいしい資源豊富な島、だから独立を要求するカナク人の声を抑えたい。それがマクロンをして今回の仏系住民に投票権を拡大する憲法改正を急がせたのだろう。

フランスはいまもこの地域における「植民地帝国」である。南インド洋にはレユニオン、マイヨットなど、そして南太平洋にはニューカレドニア、仏領ポリネシアなど「海外領土」が広く散在する。この植民地群の存在によってフランスはこの地域を含めた自国の排他的経済水域(EEZ)において米国に次ぐ世界第二位の地位にある。フランスはこの広大な水域でポリネシアに太平洋管区司令官、ニューカレドニアに軍高等司令官を置き軍事行動も自由に行っている。

フランスはこの海域に核戦力配備の原子力潜水艦を常時運航させている。フランスの保有する核弾頭は280発、そのうち240発は潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)とされており、フランスの原潜はインド太平洋地域の核抑止力、核威嚇の機能を果たしている。今回の日仏共同軍事訓練「円滑化協定」合意はこうした背景下でなされたものだ。

日仏政府が「インド太平洋の平和と安定に貢献」目的で共同軍事訓練を行う目的は主として対中対決にある。

近年、中国と太平洋島嶼(とうしょ)諸国との関係拡大にこの地域を支配してきた米国は神経をとがらせており、日本を押し立ててこれら島嶼諸国の切り崩しを図るための会議をやらせた。しかし会議に参加した首脳は少なく、ほとんどが外相クラスを送るという「おつきあい」程度の低調なものに終わった。

こうした事態の展開に焦りを募らせているのが米国だ。そんな米国がこの地域に利害関係を持つフランスを巻き込もうとするのは当然だろう。岸田政権はそのお先棒を担いで仏政府と共同軍事訓練を行うための「円滑化協定」を合意したのだ。

新たな日仏政府の軍事協力強化、それは「国際秩序の変更を迫る修正主義勢力」中国に対する米国の新冷戦戦略の一環であることは明確だ。

米国はじめ「G7先進国」グループはかつての帝国主義列強諸国、どの国も自分の植民地主義に対し反省する気はない。それを「パックス・アメリカーナ」と形を変えていまも続けるのが覇権国家の生存方式、宿命だから当然だろう。

ゆえにかつて植民地支配に苦しめられたグローバルサウスと呼ばれる発展途上諸国はG7から離れていく。いまは「G7・先進国」依存の旧弊を脱し脱覇権、主権尊重、内政不干渉に理解を示す中ロに接近、自身もまた各大陸別の地域共同体やBRICsなど独自の国際協力機構を通じ、自主独立傾向を強めていっている。

フランスとの関係では西アフリカのニジェールで若手将校たちによるクーデターで生まれた新政権は駐屯仏軍を追い出した。同様にチャドやブルキナファッソでも反仏政権が誕生した。このようにウクライナやガザ以外の地域でもG7は孤立を深めている。

いまやもういくらあがいても米国の主導する現代版植民地主義の「G7」覇権国際秩序は崩壊の瀬戸際に立たされている。あがけばあがくほどその瓦解速度を早めていくだろう。

◆欧州まで総動員の「中国征伐」、まるで幕末の長州征伐戦争

1960年代中葉、ボブ・ディランは次のように歌った。

線は引かれ コースは決められ
遅い者が つぎには速くなる
いまが 過去になるように 
秩序は 急速にうすれつつある
いまの一番は あとでびりっかすになる
とにかく時代は 変わりつつあるんだから


◎[参考動画]Bob Dylan – The Times They Are A-Changin’ | 時代は変る(1964年)(Sony Music Japan)

若きボブ・ディランを押しも押されもしないプロテスト・シンガーにした”The Times They Are a-Changin'”(時代は変わる)の歌詞の一節だ。当時、「ならあっちに行ってやる」の私の心、「戦後日本はおかしい」に強く共鳴する歌だった。ボブ・ディランが大好きになった歌でもある。

60年前の歌詞「いまの一番は あとでびりっかすになる」、それはいま「衰退一途の覇権帝国・米国のことを歌ったもの」と言ってもちっともおかしくない。

「いまトラ」の言われる中、ある番組で小谷哲男・明海大学教授(アメリカ政治専門)はこう語った。

「トランプは“ウクライナはゼッタイ勝てない、自分が大統領になったらすぐに戦争を終わらせる。そして対中国に力を集中する”と語っている」と。

「対中国に力を集中する」というトランプのこの発言は、いま中国、ウクライナ、ガザの3正面作戦を強いられ為す術のない米国の苦境を物語るものだ。この苦境脱出の戦略が「対中国に力を集中する」だ。

このことと関連して言えば、最近、欧州諸国がインド太平洋地域への対中対決のための軍事的進出を強化する方向で動いている。

 
欧州まで総動員の『中国征伐』

6月1日、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)の会合でフランス国防相は仏領ニューカレドニアを念頭に「太平洋に海外領土を持つフランスは太平洋国家」だと発言したが、この4月に仏海軍のフリゲート艦がフィリピンの南シナ海で米軍と比軍の合同演習に初めて参加、今後は日米比首脳会談での合意に基づき自衛隊もこれに加わる。これに先立ち仏海軍は米軍、オーストラリア軍との合同演習にも参加している。

シャングリラ対話ではオランダ国防相は同国軍のフリゲート艦が台湾海峡を通過したことを表明、元来、台湾海峡通過は非公表が常だったが異例の公表に踏み切った。それは中国にその対決意思を見せつけたということだ。オランダもかつてアジアの植民地帝国だった国だ。

欧州各国による艦艇や航空機のインド太平洋への派遣は活発化の一途をたどっている。

英国は2021年からインド太平洋に常駐させている哨戒艇二隻に加え、今年からは沿岸即応部隊(LRG)、海兵隊を中心に揚陸部隊を初めて展開するという上陸攻撃の実戦部隊派遣をデモンストレーションした。

さらに独仏やスペインの空軍は今夏、戦闘機などを合同で派遣し、日本や豪州、インドとの訓練を予定している。

このように米国は対中対決の軍事包囲網形成をインド太平洋地域に欧州各国の軍事資産を総動員してまでも急いでいる、「中国征伐」のために。

これは私の勝手な推量だが、こうした事態の進展は徳川幕府「ご瓦解」の発端となった長州征伐、幕長戦争を彷彿させる。

 
西洋式軍装に身を包んだ幕府軍(1865年)

幕府側は西国諸藩から征長軍を募り二度の幕長戦争を敢行したが、第二次征長戦争で15万の幕府軍がわずか数千の長州軍に惨敗を喫した。長州防衛、倒幕の意気盛んな長州軍と寄せ集めの幕府軍とでは志気の上でも格段の差があった。

また、大村益次郎の兵制改革による武士団に加えての高杉晋作率いる奇兵隊はじめ「国民軍」の軽装歩兵の重い鎧をまとった幕府軍に対する優位性、また旧式ゲベール銃の幕府軍に対する精密長射程のライフル式スナイドル銃の「国民軍」に対しては武装の上でも「幕府軍」はもはや敵ではなかった。

幕長戦争から類推すれば、インド太平洋地域の日米安保、日米韓、日米比、クアッド(Quad)、AUKUSなどにさらに欧州NATO各国まで加えた寄せ集めの米覇権帝国「幕府軍」は束になっても中国はびくともしないだろう。

志気の上では「祖国防衛」の意気高い中国と「祖国防衛」とは縁遠い「覇権秩序維持」、既得権防衛の打算で動く「寄せ集め」軍では全く相手にならないだろう。また武装の側面でも米「幕府軍」は中国軍に劣る。射程500~5,500kmクラスの中距離ミサル保有量では中国軍に及ばず、質的に見ても中国軍の「空母キラー」地対艦ミサイル、変速軌道を描く極超音速ミサイルなど最新鋭ミサイルは米「幕府軍」にはない。

長州征伐・幕長戦争が徳川幕府「ご瓦解」の前兆になったが、この欧州まで総動員の「中国征伐」企図は、それ自体が米覇権帝国「幕府ご瓦解」の前兆であると私は思う。

◆戦後日本の革命は脱G7・「アジアの内の日本」

「ウクライナはゼッタイ(ロシアに)勝てない」と断言するトランプ(バイデンも内心、そう思っている)だが、だからといって「中国には勝てる」という打算があるわけではない、いや全く自信がないというのが真実だろう。でも「中国征伐」はやらなければならない。「中国、ロシアは国際秩序変更を迫る危険な修正主義勢力」であり、さらにグローバルサウスもこれに同調して事態はますます悪化、「じり貧」一方だ。これを放置することは戦後世界に生き残った現代版植民地主義、「米覇権秩序」・G7主導の国際秩序の瓦解を意味し、それは帝国主義的覇権主義の終局的「死刑宣告」を意味するからだ。

いまや「新しい戦前」のわが国だが、戦後のこれまでは米国による数々の「征伐戦争」への本格参加はない。「憲法9条平和国家」日本の看板は汚れているとはいえアジア諸国からはそれほど危険視されない根拠になっている。また他のグローバルサウス諸国にも日本への警戒心はさほどない。中国、ロシアもまだ「様子見」状態を維持している。これが米国の数々の征伐戦争に手を汚してきた他のG7諸国とわが国の決定的違いだ。

しかしながら米覇権秩序・G7秩序の「ご瓦解」を前に勝ち目のない「中国征伐」戦争への本格参加、ウクライナのように対中代理戦争までやらされてまで無理心中覇権に付き合うのか否か、いまわが国はまさに瀬戸際に立たされている。

いまなら遅くはないはずだ。

いまこそ決断の時、「戦後日本の革命」の時! 「なんであの時、あんなバカなことをやったのか!」と後の世代に糾弾されないためにも、いまが決断の時であると思う。

戦後日本の革命、その基本課題は日米基軸からの転換だが、それは日本が覇権国家であることをやめるという意思表示でもある。その側面から見れば、明治の大日本帝国以来の「脱亜入欧」からの脱却、戦後の今日、それは「脱G7」、「アジアの外の日本」から「アジアの内の日本」への大きな歴史的転換だと言える。

以上のことが、「ピョンヤンから感じる時代の風」に吹かれていま切実に私が思い、かつ半世紀前、共に闘った同世代と何よりも未来を託す日本の若者たちに訴えたいことだ。


◎[参考動画]パレスチナの解放訴え 東大生ら500人が反イスラエルデモ(ANN 2024年5月17日)

いま「ガザ大虐殺」に異を唱え、米主導のG7・覇権主義への疑問が広がり、大学生たちをはじめ若者が新しい闘いを展開している。

希望はある。

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

◎ロックと革命 in 京都 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=109

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
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送電線と人脈でつながる「原発とリニア」リニア新幹線の目的は原発の復活だ!(広瀬 隆)/ウクライナとガザで実行中の「最新戦術」の正体 イスラエルAIは民間人をいかに殺すのか(青柳貞一郎)『紙の爆弾』7月号の注目記事

月刊『紙の爆弾』の最新号記事がnoteで一部公開・購読可能となりました。記事単位での購入も可能になりましたが、『紙の爆弾』はあくまで紙がメインのメディアです。興味を持っていただけましたら、ぜひ書店でお手にとっていただければ幸いです。定価700円(税込)、年間定期購読7700円(1号分お得です)。ここでは7月号の注目記事2本の一部を紹介します。

◆送電線と人脈でつながる「原発とリニア」 リニア新幹線の目的は原発の復活だ!
 ◎広瀬 隆(作家)

 
 

「リニア新幹線の超危険プロジェクト」と銘打った作家・広瀬隆氏の全6回のユーチューブ動画から、今月号では、リニアと原発の一体性を明かした「⑥電力消費激増と原発再稼働(最終回)」を編集し、紹介する。本誌6月号では⑤の電磁波問題を採り上げたが、そこでも広瀬氏が強調していたとおり、最も重要なことは、「リニアが開業延期されても、JR東海の失敗と断念を待っていてはいけない。今すぐ工事をやめさせ、自然破壊を止める」ということだ。動画にはより詳細なデータが満載なので、あわせてご覧いただきたい。(構成・文責/編集部)

 3・11直後の火事場泥棒

リニアをめぐる不条理に枚挙の暇はありません。まず、そもそも計画の進め方が不条理でした。リニア中央新幹線計画の公式の最終答申が出されたのは2011年4月21日です。この日の1カ月ほど前、3月11日に東日本大震災が起こり、東京電力福島第一原発の原子炉が次々と爆発しました。日本破局の大惨事の最中です。
 
そのどさくさに紛れて計画を審議する国土交通省交通政策審議会の中央新幹線小委員会(委員長=家田均東京大学教授)は最終答申案をまとめ、「南アルプスルート」「超電導リニア方式」でのリニア中央新幹線の建設を明記・公表したのです。

もちろん、リニアのプロジェクトは以前からあって、宮崎県では実験線を敷設しています。その際、JR東海は何と言ってこれを進めてきたか?「東海道新幹線の東京―大阪間の輸送能力が限界に近い。バイパス(迂回路)としてリニア中央新幹線を敷設する必要がある」と表明したのです。

自動車ならばバイパス道路は必要ですが、鉄道のバイパスなど、全世界でも例がありません。JR東海はそんな非常識なことを公言したのです。しかもJR東海は御用学者の東大教授たちを連れてきて答申案をまとめながら、国交省鉄道局によるパブリックコメント、いわゆる世論の意見公募を求めました。その結果が2011年5月12日に報告されたのですが、当時は東日本大震災から2カ月後で、「JR東海が言うように中央新幹線を早期に整備すべきだ」を支持した人はわずか106人。対して「リニアに反対、または計画を中止、または再検討とすべき」という人は648人と、パブコメの97%がリニア建設に反対しました。ところが5月26日には整備計画が決定され、営業および建設主体にJR東海が指名されました。

続いて6月7日にはJR東海が中間駅の候補地案を公表して、勝手に話を進めていきます。震災と原発事故の大惨事で日本中があたふたしているその間にJR東海はリニア建設を決定した。まさに火事場泥棒です。

JR東海と行政が住民に初めて説明会を開いたのは計画発表から2年が経った2013年5月。住民にとっては寝耳に水でした。
 
そもそも国交省が環境アセスメント(環境影響評価)なしに計画を決めること自体が、国の法律に違反しています。なぜこんな無理が通るかというと、JR東海が裏で地元の利権者を懐柔したからです。なにしろ巨大なトンネル工事ですから、事業者や建設業者は儲かります。

でも、本当に地元に多大な利益があるのか? 中間駅の建設費5900億円は地元負担が前提です。しかも、リニアの多くの乗客は東京と名古屋の大都市間を迅速に往復するのが多数派ですから、中間駅で降りる客などほとんどいない。つまり中間駅にはほとんど利益をもたらしません。

リニア新幹線は時速500キロという高速走行が売りです。だから、可能な限りまっすぐトンネルを掘るという工事です。しかし、これは自然界から見れば無謀です。しかも、路線の8割がトンネルで外の景色はほとんど見えない。誰がそんな不愉快な鉄道に乗りたいですか? 電磁波まで浴びせられる列車にまともな人は乗りません。

このままではまずいということで、リニア建設に反対する人たちは2016年5月に「ストップ・リニア!訴訟団」を結成しました。そして、「国交省の認可は行政庁の裁量権の範囲を超えている。住民無視の国法違反だ」として行政訴訟を起こしています。

ちなみに2010年12月、中国の新幹線走行実験では、日本の川崎重工業製の従来の新幹線車両をベースにした「和諧号」が、486キロという驚異的な時速を記録しました。リニアの最高時速は500キロの予定ですが、日本企業がつくった「和諧号」が時速486キロを出した時点で、高速鉄道がリニアでなければならない理由・動機はとうの昔に吹き飛びました。

 岐阜県では東濃ウラン鉱山の悪夢再び

岐阜県では、寝ていた子が叩き起こされるような事件が起こっています。

同県内の停車予定駅である中津川には東濃(とうのう)ウラン鉱山(閉山措置中)があります。2003年4月、この近くの可児市の東海環状自動車道トンネル掘削土の処分場から流れ出た酸性汚染水によって、木曽川水系の一級河川である久々利川の水系で、マスやアマゴといった魚が約1000匹も死ぬという事件が起こりました。

この一帯は瑞浪市と御嵩町と土岐市にまたがって東濃ウラン鉱床が分布しています。東濃のウランは岡山県の人形峠と並んで原子力産業にとって最も重要な鉱床です。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n71fc4fb5a95f

◆ウクライナとガザで実行中の「最新戦術」の正体 イスラエルAIは民間人をいかに殺すのか
 取材・文◎青柳貞一郎(医師・軍事ジャーナリスト)

 
 

 ウクライナ代理戦争の総力戦

軍事や戦術はリアリズムに基づいており、大手メディアが作り上げた物語(ナラティブ)に沿って、ウクライナ戦争やイスラエルのガザ侵攻を一方的な善悪の物語で論ずると、ロシアの優勢やイスラエルの失敗が「悪の勝利」でしか語られなくなってしまいます。

本来紛争には双方に言い分(正義)があり、武力を伴う戦争は外交の一手段にすぎません。客観的な事実の積み上げで双方が譲歩できる終結(off ramp strategy=出口戦略)を探ることが、国際政治の基本なのです。

これから論じる内容を理解するうえで、共有したい前提があります。それは約60年前のベトナム戦争が、米欧西側陣営と当時のソ連を中心とする社会主義陣営の代理戦争であったのと同様、今回のウクライナ戦争は同じ資本主義を標榜する米欧を中心とする「グローバリズム陣営」と、ロシア・中国・BRICS諸国など「グローバルサウス」と呼ばれる「多極主義陣営」の代理戦争であるという認識です。

両者の線引きは、ウクライナ戦争が開始された時にロシアに対する経済制裁に加わった国とそうでない国で分けられるとみて差し支えないでしょう。そして、戦争自体は西側諸国全体の経済と、ロシア及びロシアに協力する国々全体の経済をバックにした総力戦(対称戦争)となっています。

NATO(北大西洋条約機構)諸国は東西冷戦終了後、主な戦力を自分たちの兵力・経済力よりも弱い国や武装勢力(テロ組織)に向け(いわゆる「非対称戦」)、軍の態様もそれに適合するよう変化させてきました。ロシア軍も実はアフガン戦争、チェチェン紛争、シリア内戦への介入を経て大規模な総力戦から非対称戦に改めてきたといえます。

しかしウクライナでは、それとは勝手が異なる結果になりました。

 激変した戦術・用兵思想

2022年2月24日、ウクライナからの独立を主張するドネツク・ルガンスク両共和国の保全、ウクライナの非軍事化・非ナチ化を目標とした、ロシアが「特別軍事作戦(SMO)」と呼ぶ侵攻が開始されました。

しばらくの間は、ウクライナとロシア両軍の戦闘団単位の大きな戦闘が行なわれることはなく、戦術としてはロシアが大兵力を用い、ウクライナは小規模兵力単位でゲリラ戦的な戦いを挑む非対称戦であったといえます。

ロシアの犠牲が最も大きかった時期はこの緒戦であり、ウクライナに供与された西側諸国の精巧な武器でロシアの戦闘車両が次々と破壊されました。

双方の犠牲が多大になり、核を用いた大戦争への発展も危惧された開戦1カ月後の3月末、トルコやイスラエルの仲介で休戦合意がまとめられてロシア・ウクライナ双方が合意に達します。しかし、当時のウクライナ軍の善戦に加え、今後の経済制裁などの総合効果で「勝利」を期待した米欧諸国は、一度成立した和平合意を潰しました。

しかも、ロシアが首都キエフ近郊から撤退した後に発見された多数の市民の遺体を「ロシアによる虐殺」として「ロシア悪玉説」を叫び、徹底抗戦が主導されます。

ロシアは一度撤退した後、東部・南部戦線を構築しなおし、9月には予備役の部分動員をかけて兵力増強を図ります。この時期からロシアは戦時経済体制に移行し、非対称戦から総力戦として、経済も24時間体制で砲弾や軍備生産に切り替え、戦術も変更されていきます。

以下に、この2年間で変化・確認された戦術・用兵思想の例を挙げます。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n301e7bc5aa8d

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ウクライナとガザで実行中の「最新戦術」の正体 イスラエルAIは民間人をいかに殺すのか 青柳貞一郎
国会答弁もアメリカ製AI利用に マイクロソフトに乗っ取られた日本政府のAI構想 浜田和幸
送電線と人脈でつながる「原発とリニア」 リニア新幹線の目的は原発の復活だ! 広瀬隆
静岡県知事選で「リニア問題」は本当に問われたのか 横田一
自衛隊指揮権を米軍に委譲 日米一体化きわまる中で“日本人”を問い直す 木村三浩
公職選挙法に浮上した「別の問題」“裏金沈没”自民党の悪あがき 山田厚俊
“憲法軽視”は政府与党だけではない 憲法違反の法律がつくられる理由 足立昌勝
本格化する国家総動員体制 進む民間施設の日米軍事拠点化 浅野健一
米国覇権の終わりに日米同盟を考える「いまトラ」と岸田自公政権の大罪 小西隆裕
山根明前会長が去っても変わらない日本ボクシング連盟で起きている新たな内紛 片岡亮
続・失言バカ政治家の傾向と対策 佐藤雅彦
シリーズ日本の冤罪50 大川原化工機事件 山村勇気

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ピョンヤンから感じる時代の風〈45〉「国の指示権」それは何のためか 地方自治法改正が意図すること 魚本公博

今、国会で、地方自治法を改正し、地方自治体に対する「国の指示権」を新設する審議が行われている。それは何のためか。それを考えてみたい。

◆「国民の生命等保護のため」の「想定外の事態」とは?

この改正案は、大規模の感染症や大災害などで想定外の事態が起きたとき、国が自治体に対応を指示できるように、地方自治法に「国の指示権」を新設するというもの。

改正の趣旨説明では「国民の生命等の保護のために特に必要な場合に限る」とし、「非常時の危機対策の法制は個別法で大半がカバーされている。それがカバーしきれない『法の穴』を埋めるためのもの」としながら「想定外の事態を具体的に示すのは困難」(田中聖也・行政課長)と言っている。

今、この論議は、国と地方の関係をどう見るかの論議になっている。反対論も2000年の地方分権改革で、「地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない」と規定されたものを「国が地方の上に立つ」「上下関係」の時代に逆戻させようとしているのではないかというものになっている。

しかし、ここで先ず議論すべきは、そもそも政府が言う「国民の生命等の保護のために特に必要な場合」とは何か、「具体的に示すのは困難」とボカす「想定外の事態」とは何なのかを考えることではないだろうか。

「国民の生命等の保護」が問題になるような「想定外の事態」となれば、その最大のものは戦争を置いて他にない。

戦争をやる場合、戦前の「国家総動員体制」のような戦争体制を作らなければならない。地方末端までの全国民、全国土、全資産を戦争に動員する体制作りのために地方自治体に対して「国の指示権」を発動する。

自治法を改正し「国の指示権」を新設する最大の狙いは、そこにあるのではないか。又、そのように見てこそ自治法改正の問題点や悪辣さも浮き彫りになるのではないだろうか。

◆「地域が対中戦争の最前線に立たされる」状況の中で

4月13日、大分県の湯布院で自衛隊のミサイル部隊である「第二特科団」新設の式典があった。第二特科団の本部は湯布院駐屯地に置かれ、沖縄九州に展開するミサイル部隊を統括する司令部になる。そして大分市には、大型の地下弾薬庫2棟が建設中であり、ここには「スタンド・オフ・ミサイル」を保管することができるという。

米国は今、有事には自衛隊を指揮できるように策動している。ハワイにあるインド太平洋軍司令部が持つ指揮統制権限の一部を在日米軍司令部に付与することで、24年度中に作られる自衛隊の「統合作戦司令部」を有事には米軍が指揮できるようにする「緊密な連携」を日本と合意した。

4月には、フリン・インド太平洋軍司令官が「中距離能力を持つ発射装置が間もなく、アジア太平洋地域に配備される」と発言。それは、巡航ミサイル「トマホーク」、新型迎撃ミサイル「SM6」などを搭載するミサイルシステム「タイフォン」を指すものと見られ、有事の際、自衛隊のミサイル部隊は、このミサイル体系の指揮下に組み込まれる。

すでに、昨年10月には、湯布院に隣接する日出生台演習場で国内最大規模の日米共同演習「レジュート・ドラゴン」が離島防衛訓練という名目で行われている。

こうした中、大分では「大分が安全保障の最前線に立たされる」の声が上がっている。

大分ばかりではない。それは全九州的な、更には全国的な声になっている。

今、政府は防衛力強化のために「公共インフラ」を整備するとして、全国38の空港・港湾を「特定利用空港・港湾」に指定しており、3月には、その第一弾として7道県の16の空港・港湾の整備が始まった。

この38施設の内、7割に上る28施設が九州沖縄に集中している。そして、第二特科団の本部が置かれる大分県、その部隊が展開する熊本県、オスプレイ基地を建設中の佐賀県など、「対中戦争の最前線に立たされる」という懸念は深刻さを増して全九州に広がっている。

こうした中、九州では全九州の自治体議員が超党派で「戦争だけは絶対ダメ」という有志の会を作る動きが出ている。

九州以外の地域でも「特定利用空港・港湾」が「有事には攻撃対象になるのでは」との懸念が広がっており、「戦争だけは絶対ダメ」という動きは全国的な動きになっていくだろう。

この5月、米国のエマニュエル駐日大使が与那国島、石垣島を訪れ自衛隊基地を視察した。この時、米軍機を使って与那国空港に降り立ったことに対し、玉城知事が「大変遺憾である」とコメントした。沖縄県は県内の民間空港に米軍機使用を「自粛」するよう要請しており、それを無視し、対中対決の最前線を視察するかのような行為への抗議である。

沖縄県は、空港・港湾の整備でも「運用に不明な点が残されている」と断っている。

今後、対中戦争準備が進められ、戦争が現実化していく中で、地方の「戦争反対」の声は、首長、議会を含む地域ぐるみの声となり、地域を戦争に使わせない条例が各自治体で作られる可能性もある。

まさに「国の指示権」新設は、こうした声を押さえて戦争を遂行するための戦争体制作りのためだと見ることができるだろう。

更には、全国末端までの人員、国土、資産、食料などの動員という戦時体制作りも考えられているのではないか。まさに戦前の「国家総動員体制」であり、「国の指示権」新設の自治体法改正は、その重要な一環と見なければならないと思う。

◆すべては米国との約束から始まった

一昨年の年末に閣議決定した「安保3文書」をもって、翌年早々(1月19日)訪米した岸田首相は、軍事費倍増、敵基地攻撃能力の保持を米国に約束した。そして、今年4月の訪米では、「日米同盟新時代」を謳い、「グローバル・パートナー」として、米国覇権とその覇権秩序を積極的に支えることを約束した。

それは米中対決の最前線に日本を立たせようとする米国に、それをやり遂げますという約束であり、「国の指示権」新設のための自治法改正、「第二特化団」の創設、「特定利用空港・港湾」の整備など地域を「対中戦争の最前線に立たせる」動きも、そこから始まっている。

岸田首相は、訪米で「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と語ったが、ウクライナは米国の代理戦争をやらされているのであり、東アジアでは、日本が中国を相手に代理戦争をやらされるということである。

 
魚本公博さん

代理戦争は、米国覇権回復の重要な手段になっている。しかし、それは中東においても、ウクライナにおいても破産しつつある。ウクライナは防戦一方であり、中東ではイスラエルの「ガザ虐殺」に抗議する米国の大学生から始まった抗議運動が世界的に波及し、米国覇権を揺るがしている。

こうした中で、日本が米国覇権を支えるとして、対中対決、対中戦争準備に熱を上げて一体どうするというのか。何としても、米国ばかりを向いて、地域に、国民に戦争の災禍を強いるような政治を止め、国民に向き合う国民のための政治を実現しなければならないと思う。

そういう意味でも岸田首相の訪米時の態度を痛烈に批判し、「明石から日本を変える」として地域の力を重視し、そうした「国民の味方」チームで選挙に勝って「救民内閣」を作り「令和維新」を断行するという泉房穂さんへの期待は大きい。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』

戦後日本の革命inピョンヤン〈4〉「戦後日本はおかしい」どころじゃなくなった〈日米攻守同盟・新時代〉 ── 人の眼を欺く「9条平和国家」転じて9条否定 「同盟のための戦争国家」に 若林盛亮

◆「いつまで“子分”のつもりや」!── 泉房穂の嘆き

4月の岸田国賓訪米、米議会でのスタンディング・オベーション演説を評して前明石市長・泉房穂さんは「ケンカは勝つ」(『週刊FLASH』2024年5月7・14日合併号)でこう断じた。

「いつまで“子分”のつもりや」!

泉さんは次のように嘆いた。

「今回の訪米で首相は自国よりもアメリカの方を向いていることが判明した」

「日本では拍手されないと自虐ネタを披露する前に、日本国民のためにアメリカにものを言うのが、本来の仕事やったんとちゃうんか。とても日本の首相とは思えん」

その嘆きの根拠を泉さんはこう述べた。

「議会演説では“米国は独りではない。日本は米国と共にある”と強調したが、“共にある”べきは、まず国民のはず。首相の発言はアメリカの要求する防衛費の増額を受け入れ、“貴国のために我が国民の血税を使います”と宣言したに等しい。 だが、日本にはそんなカネはない。岸田首相は日本の事情を説明し、過度に防衛費を使うわけにはいかんと突っぱねるべきやった。 」

長々と泉房穂さんの言葉を紹介したが、野党を含めて岸田訪米、日米同盟・新時代批判をここまでハッキリ言った政治家はいなかったし、とても的をついた評価だと思ったからだ。

「よう言うてくれはった」! というのが私の率直な感想だ。

前回の「戦後日本の革命inピョンヤン〈3〉」で「“無理心中”誓約の岸田・国賓訪米」と書いたが、泉房穂さんの指摘はそれに通じるものを感じる。

私の「京都青春記」、「ロックと革命in京都」で一貫して述べた「戦後日本はおかしい」、それがいまどんどんおかしくなってきている。一極覇権瓦解の米国に「米国は独りではない、日本は米国と共にある」と米国と覇権衰亡の運命を共にする「無理心中同盟」を米議会で誓約するまでに至った。

「戦後日本はおかしい」どころじゃないレベルにまで来ているように思う。

だから私も言いたい、「いつまで“子分”やってるんや」! 


◎[参考動画]【LIVE】バイデン大統領主催の夕食会 岸田首相が国賓待遇で訪米 ホワイトハウスから生中継(ニコニコニュース 2024/04/11)

◆あのコロンビア大学から始まった「“米国の正義”はおかしい」学生運動

いま世界中で「世の中、なんかおかしい」というムードが日を追って広がっている。

かつて1960年代末のベトナム反戦・学生運動を扱った映画「いちご白書」の舞台として有名なコロンビア大学からいままた始まった米国の学生運動はその象徴的出来事だ。

長周新聞(2024年5月1日付)によると事態はこのような展開を見せている。

アメリカのコロンビア大学(ニューヨーク)で4月18日、イスラエルのガザでの大量虐殺に抗議しパレスチナ人と連帯する学生たちの学内での活動に対して、警察を導入して強制排除し150人以上の学生が大量逮捕される事態となった。アメリカ議会の公聴会でミノーシュ・シャフィク学長が学生たちの言動が「反ユダヤ主義」だと認めたその翌日の出来事だ。

大学当局は学生達を停学処分とし、出席するには年間6万ドル(約930万円)以上という途方もない授業料を支払うという条件を付けた。


◎[参考動画]米大学での「反ガザ攻撃デモ」、キャンパス内で何が 学生らの思いは(BBC NewsJapan 2024/04/25)

この事態が報じられるや、ブラウン大学、イェール大学からハーバード大学までアイビーリグ(米東部の主要私立大学)の学生たちはそれぞれのキャンパスでの座り込み、ハンガーストライキ、授業ストライキ、異宗教間の祈りを展開し、米国のイスラエル支援と大量虐殺に学術機関が共謀することをやめるよう訴えている。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校(UNC)の学生も学内にテントを設営し、集会でハーバード大学の学生が発言し、「堅実なコロンビア大学の学生と連帯してストライキをおこなう」と語った。ボストン大学やマイアミ大学、オハイオ州立大学でも緊急抗議活動がおこなわれた。

すでに2000人以上の逮捕者の出ている米国の学生運動は、いまやパリ、ロンドンなど欧州全体に拡散しつつあり、日本でも京都大学、早稲田大学、東大でも集会が持たれたという。

ウクライナ支援に血道を上げる一方で、大量虐殺反対のガザ支援、連帯の運動には「反ユダヤ主義」だと排斥するような政府の口にする「人道や正義」の二重基準の欺瞞、それが自分たちの大学の体質に関わる問題だと学生たちは声を上げたのだ。
これは米国の正義、自国政府の正義への「おかしい」という運動でもあると思う。
50年前、「京都の青春」渦中にあった私も「9条平和国家日本」が日米安保のためにベトナム戦争荷担国家になっている、そんな「戦後日本はおかしい」と思った。そして羽田闘争での「山崎博昭の死」、ジュッパチの衝撃を契機に学生運動に参加するようになり、その延長上に現在の私がある。

いまの日本は50年前の「ベトナム反戦」どころではない、タモリの言った「新しい戦前」という危惧が「日米同盟・新時代」という現実の実体として姿を現しつつある。

かつての私たちの闘いは敗北と未遂に終わった。その結果として現在の日本がある。いまの「新しい戦前」という事態の責任の一端は私たちの世代も負っている。「だからこそ私にはこの道を歩み続ける責任がある」との瀬戸内寂聴さんのお言葉が改めて胸に響いてくる。

これから書くのは「いつまで“子分”やってるんや」ということだが、いまの若い人たちの奮起を促すものになればとの思いも込めたい。もちろん同世代の爺さん、婆さんたちにも。

◆これは本当におかしい!── 9条改憲もせず「同盟のための戦争国家」誓約

岸田首相が米国で誓約した日米同盟・新時代で表面化した「新しい戦前」の実体とはどのようなものだろうか?

一言でいって日米同盟における日本の役割がこれまでの憲法9条の制約を受ける片務同盟、「有事の際、米国は(一方的に)日本を守る義務を負うが日本には米国を守る義務はない」同盟から9条の制約から離れ「日本にも米国を守る義務」が生じる双務同盟に変わったことだ。

その本質をより正確に表現すれば「日米同盟の攻守同盟化」、「同盟のための戦争」義務を日本が受け入れた、日本が「同盟のための戦争国家」に転換することを誓約した。それが今回の岸田国賓訪米で始まった大きな転換、日米攻守同盟・新時代だということではないだろうか。

岸田首相は米議会演説でこう述べた。

「米国は助けもなくたったひとりで国際秩序を守ることを強いられる理由はありません」と。

そして「日本が最も近い米国の同盟国としての役割をどれほど真剣に受けとめているかを知っていただきたい」と続けた。

これを要約すれば、米単独で支えきれなくなった覇権国際秩序を守るために「最も近い同盟国・日本」がその国際秩序を守るための相応の役割を果たす、具体的には対中対決を念頭に「同盟のための戦争」を日本が担う覚悟があるということを約束したのだ。

その具体的表現が岸田訪米直前に公表された、自衛隊の統合作戦司令部と米インド太平洋軍から指揮機能を一部移管された在日米軍司令部との連携を可能にする合意だった。

これは対中有事には在日米軍指揮下で自衛隊が戦争を行う体制を整えたということだ。

自衛隊はすでにスタンドオフ・ミサイル(中距離ミサイル)部隊を陸自に新設するなど敵基地攻撃能力を備え、今回、有事の際の戦争作戦指揮権を持つ「総参謀部」、統合作戦司令部を持つようになった。それも在日米軍司令部の指揮下で。

自衛隊は専守防衛、国土防衛の武力ではなくなり、米覇権秩序を守る「同盟のための戦争」を行う武力、すなわち交戦権、戦力を持つ外征戦争武力に大きく形を変えた。

これは交戦権否認、戦力不保持の日本国憲法9条第二項を否定する違憲行為であり、そもそもが憲法9条改憲なしにはできないことのはずだ。

岸田首相は9条改憲もしないで米国に約束した。つまり国の基本法を無視し国民に何の相談も議論もなしに日本を「同盟のための戦争国家」に変えた、これこそ「日本はおかしい」の最たるものではないだろうか。

◆“人の眼を欺く「9条平和国家」”のなれの果て

「ロックと革命in京都」で述べたこと、「平和と民主主義」で飾り立てられた戦後日本、それは「人の眼を欺くもの」じゃないのか? そんな疑問を抱いたのが私の「戦後日本はおかしい」の芽生えだった。それはいま思えば、小学5年の時、「戦後民主主義教育のリーダー」と言われた教師から「中国人捕虜刺殺要領」を聞かされた違和感から漠然と意識されてきたことだったが、日米安保のためにベトナム戦争荷担国家になった「9条平和国家」の欺瞞を知ってハッキリと「おかしい」と意識した。あれから50数年を経てそれが誰の目にもハッキリ目に見える形になったように思う。

一言でいって、“人の眼を欺く「9条平和国家」”のなれの果てが、“9条改憲なしの9条否定・「同盟のための戦争国家」”=「新しい戦前」に変わろうとする今日の日本の姿なのだと思う。

そもそも「9条平和国家」そのものが「人の眼を欺く」ものだったのだ。

「戦後、自衛隊は一人も人を殺すこともなく一人の戦死者も出さなかった」と言われる。たしかにそうだろう。でも在日米軍基地は「共産主義の脅威を防ぐ」ベトナム戦争、アフガン、イラクへの「反テロ戦争」などの米軍の戦争拠点となり、「反テロ戦争」では特措法をつくって自衛隊は戦争する米軍の後方支援を現地で行った。

それらの米軍の戦争は今日では「間違った戦争だった」と言われており、事実、いずれの戦争でも米軍は無惨な敗退を余儀なくされた。そんな米国の「間違った戦争」に日本は手を貸し続けてきた。けっして「9条平和国家」だと胸を張れなかった。それは日本が“人の眼を欺く「9条平和国家」”だったことの一表現であろう。

その「なれの果て」として今日の日米攻守同盟・日米新時代のわが国がある。

なぜこんなことになったのかをわれわれ日本人は深く考えてみる必要があると思う。

惨めな敗戦国国民になって大人たちは「軍国主義者にだまされた」「もう戦争はこりごりだ」的なことを幼い私たち戦後世代に愚痴ったが、そんな「大人たち」にならないためにも……

◆「日米安保基軸=日本国憲法<日米安保」こそ「戦後日本はおかしい」の元凶

「戦後日本はおかしい」の元凶、それは歴代自民党政権の日米安保基軸路線、口にこそ出さないが「日本国憲法よりも日米安保が上位」という位置づけ、いわば戦後日本では「国体は日米安保」という暗黙の不文律にある。

日米安保基軸を図式化すれば「日本国憲法<日米安保」ということだ。

それを明確に示すものとして戦後日本の安保防衛政策がある。

それは「日米安保・矛の米軍+憲法9条・盾の自衛隊」の二本立てだが、「矛」の米軍が基本、日米安保基軸だとされてきたことだ。

一般に「米軍なしに日本は守れない」と言われるが、それは「矛の米軍」があってこそ日本の防衛が成り立つという考え方から来るものだ。つまり日本の防衛は「矛=攻撃武力」なしには成り立たないということ、ゆえに日米安保軍「矛の米軍」が主で憲法9条・「専守防衛」の制約下にある「盾の自衛隊」は従、つまり日米安保基軸が戦後日本の防衛政策の基本路線とされてきた。

それは「矛=抑止力」、相手を圧倒する攻撃武力なしに国の防衛はないという「抑止力理論」を根拠に置くものだ。

抑止力とは「敵対国に戦争を起こせば、逆に報復攻撃を受けて自国に破滅的結果をもたらすという恐怖を与えることによって、戦争を起こすのをためらわせるだけの相手を優越する攻撃能力」を指す用語だが、「相手を優越する」抑止力、その基本は核武力保有ということになる。この抑止力理論に従えば、日本の防衛は日米安保の米軍によって成り立つ、専守防衛の自衛隊では日本を守れない、という結論になる。

抑止力とは言葉を換えれば、外征戦争能力、侵略武力だが、それは露骨すぎるのでソフトに表現したものだろう。強力な外征戦争能力、侵略武力を持つというのは帝国主義、覇権主義の防衛理論だが、その現代版が「抑止力理論」ということだと思う。

この「抑止力理論」は「利益線の防護」という防衛概念に基づくものだ。

◆帝国主義の遺物「利益線の防護」から「主権線の防護」へ

日本が外征戦争能力を持つことを初めて言い出したのは、「富国強兵」を唱えた山県有朋首相だ。

1890年、史上初の帝国議会で山県有朋首相は軍事費増額を説くに当たり、「主権線」「利益線」という用語を用い、国境という「主権線」だけではなく「その主権線の安危に、密着の関係にある区域」という「利益線」という概念を用い、この「利益線」を保護しなければならず「巨大の金額を割いて、陸海軍の経費に充つる」のはその趣旨からだ、と説いた。

これは当時あった国土防衛軍構想を排除し、外征戦争をも可能にする大規模の軍事拡張路線、「富国強兵」を明確に打ち出したものだった。

この「利益線の防護」という防衛概念は、わが国最初の帝国主義戦争である朝鮮半島権益を巡る清国との戦争、日清戦争を前にして打ち出された概念だ。

「利益線」という概念は、「主権線の安危に、密着の関係にある区域」ということだが、これをわかりやすく翻訳すれば海外植民地という「日本の海外権益線」のことを指す。したがって「利益線の防護」とは「植民地権益の防護」を指す。平たく言えば、列強との植民地争奪戦争に打ち勝つ軍事力、外征戦争能力、侵略武力を保有するための防衛概念だ。

戦後日本にも「利益線の防護」思想は継承されている。

元陸上幕僚長、富澤暉(あきら)氏は自著で次のように述べている。

「既に帝国主義は消滅したわけですが、それにも関わらず、この利益線という考え方は国益を守る上で意味を持ち続けています。一時、マラッカ海峡防衛論といった『シーレーン防護』や『中東の平和(石油)維持』が話題になったことがありますが、これらは『新時代の利益線防護』の思想から出てきたものといっていいでしょう」(『逆説の軍事論』バジリコKK

続けて富澤氏は「(利益線は)もはや一国で守るのではなく他国と協力した共同防衛、集団安全保障の形で守らざるを得ないというのが現在の安全保障に関する考え方の主流になっています」と述べている。富澤氏が言うように、かつての帝国主義的な植民地争奪戦の時代が終わっても「新時代の利益線防護」の思想は生きている。

それは、戦後日本において「米中心の国際秩序」を日本の「利益線」とし、これを日米安保基軸という「集団安全保障の形で守る」、このような防衛路線として具体化された。

「利益線の防護」からすれば「矛」、外征戦争能力保有は不可欠であり、米軍の「矛」基本、日米安保基軸が日本の防衛路線の基本となるのは必然であろう。

憲法9条より日米安保が優先される。これこそが“人の眼を欺く「9条平和国家」” の正体であり、「戦後日本はおかしい」の元凶だと言える。

そして今回の訪米で岸田首相は日本の国会ではなく米議会演説で「米国は助けもなくたったひとりで国際秩序を守ることを強いられる理由はありません」と自衛隊が「米覇権秩序の防護=利益線の防護」を担う「矛」、外征戦争能力を持つことを約束、そのための防衛予算倍増をバイデンから誉められた。

山県有朋は少なくとも日本の国会で「利益線の防護」の必要を唱え、「巨大の金額を割いて、陸海軍の経費に充つる」ことを国民に訴えた。しかし岸田首相は「利益線の防護」の必要というその根拠を国会にも国民にも何も説明しないまま米国の要求(日米同盟新時代の要求)に応え外征戦争能力保有とそれに伴う防衛予算倍増を米国に約束した。

これこそ究極の「おかしい」ではないだろうか。泉房穂さんの言葉を借りれば、「今回の訪米で首相は自国よりもアメリカの方を向いていることが判明した」。

日米同盟・新時代の“9条否定・「同盟のための戦争国家」”という危機的事態を前にしたいま、日米安保基軸の防衛政策からの転換を果たす時が来たのだと私たちは腹を括(くく)る必要があるだろう。

日米安保基軸からの転換は、すなわち大日本帝国の山県有朋演説以降、堅持されてきた「利益線の防護」から「主権線の防護」への質的転換であり、それを具体化する防衛政策を明らかにすることが必須不可欠の課題であると思う。これについては別途、考えていきたい。

◆「自信あるなら正々堂々と9条改憲を国民に問え!」── 先手必勝の攻勢

 
泉房穂×鮫島浩『政治はケンカだ! 明石市長の12年』(講談社 2023/5/1)

泉房穂さんの持論は「政治はケンカ」、そして「ケンカは勝つ」だ。必勝を期すのが政治だということだろう。

攻撃は最大の防御、攻撃の要は敵の弱点を突くこと、これがケンカの要領だ。

岸田政権の弱点は「国民に黙って決める」ことにある。言い換えれば「国民に知られては困る」政治という弱点を持つ。

今回、米国と約束した日米同盟・新時代、「日米安保の攻守同盟化」に伴う自衛隊の「矛」化という違憲の外征戦争能力、「交戦権、戦力保有」を憲法9条改訂もなしに決めた。その憲法9条否定の違憲政治が「国民に知られては困る」からだ。

ならば岸田政権が困ることをやればいい。

国民の側から「自衛隊の矛化は交戦権否認、戦力不保持の9条違憲行為ではないか」、「やるなら正々堂々と9条改憲を国民に問え!」と岸田政権に迫るなら彼らは窮地に陥るだろう。

なぜなら彼らはそれはゼッタイ避けたいことだからだ。閣議決定だけで決めた「敵基地攻撃能力保有」という自衛隊の矛化も「専守防衛の範囲内」という詭弁でごまかし9条論議になるのを避けたことがそれを示している。

9条以外の改憲論議には世論も反対しないようだが、9条については「改憲反対」が絶対多数を占める。「平和主義が崩れる」「戦争に巻き込まれる」と危惧する世論が多数派だ。

閣議決定ですませた「安保3文書改訂」も、米国で約束した「日米安保の攻守同盟化」もいずれも「自衛隊を矛化する」という9条違憲行為だ。

だから「こそこそするな、自信あるなら正々堂々と9条改憲を国民に問え!」の声を国民の側から上げる、ならば岸田政権は窮地に陥る。

こんな先手必勝の攻勢をかければ岸田政権との「ケンカは勝つ」と思う。

ピョンヤンからの「遠吠え」かもしれないけれど、ぜひ検討願いたいと強く思う。

若林盛亮さん

◎ロックと革命 in 京都 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=109

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』

G7広島サミット1周年、バイデン米大統領になめられ放題の広島でいいのか? さとうしゅういち

G7広島サミットから1年が経過した2024年5月19日、広島県の湯崎英彦知事が原爆資料館北側に建設していたG7広島サミット記念コーナーが完成しました。

しかし、この日、サミットに参加し、「核のない世界を目指す」と原爆資料館で記帳したバイデン大統領が14日に三度目の未臨界核実験を強行していたことが発覚。原爆資料館の「平和監視時計」が記念コーナー会館とほぼ同時刻にリセットされてしまいました(撮影は核実験実施後8日後の早朝)。

[左]原爆資料館北側にできたG7広島サミット記念コーナー/[右]原爆資料館の「平和監視時計」(撮影は核実験実施後8日後の早朝)

世界で最初に戦争で被爆した広島は、いまや、世界で最初で最後に核兵器を使った上に、ろくに反省も謝罪もしない米国に完全に舐められています。

結論から申し上げます。広島市長と広島県知事、そして爆心地選出の代議士としての岸田総理は核実験に抗議するとともに、世界で最初で最後に核兵器を使った米国に謝罪と反省を要求すべきです。

松井市長や湯崎知事は、平和宣言やあいさつでそのことに言及すべきです。

◆米国に譲歩を重ねた上にこけにされた広島

そもそも、G7広島サミット自体が、広島が大幅に譲歩したものと言って良いのではないでしょうか?同サミットで採択された「広島ビジョン」自体が、核兵器禁止条約はおろか、核兵器による先制攻撃禁止にすら言及せず、ロシアのによる核威嚇は批判しつつも、米国による核攻撃は批判すらせず、それどころか、米国の核保有を防衛目的と正当化するしろものでした。

それでも核兵器のない世界につながれば、ということで、湯崎英彦知事も松井市長ももろ手を挙げてサミットに期待してしまいました。そして、広島市の平和教材から「はだしのゲン」や「第五福竜丸」を削除するなど米国に忖度する動きも強めました。

また、広島市はサミット後には米国政府からの要求を受け入れ、平和公園とパールハーバーの姉妹協定を締結しました。繰り返しますが、原爆投下=世界で最初の核兵器使用=の加害者で今まで反省も謝罪もない米国政府と広島市が組む、と言うこと自体、屈辱的な譲歩ではないでしょうか?

また、サミット直前の広島県議選2023では、本社社主・さとうしゅういち以外の県議候補は自民から共産まで、ほぼ全員がマスコミや市民団体の候補アンケートに対して「G7広島サミットに期待する」「G7広島サミット誘致を評価する」などと回答してしまいました。さとうしゅういちは、もちろん「期待しない」「評価しない」と回答しました。

そもそも、G7サミット自体が米英仏独伊といった旧白人帝国主義国ともいえる国々で構成されています。そうした会議に何を期待するのでしょうか?しかし、藁をもつかむ思いで期待してしまった方々も多い。だが、残念ながら、広島は米国に譲歩に譲歩を重ねた上、いわば、コケにされたのです。

◆最初で最後に「核」を使った米国の謝罪・反省無くして露中朝批判に説得力なし

2024年現在、世界で最初で最後に核兵器を使った国は米国です。最初に広島、最後に長崎です。

これは動かせない歴史的事実です。しかし、その米国は核兵器使用について反省も謝罪もしていません。その米国を広島市は平和式典に呼んでいます。一方で、広島市の松井市長はロシアが核で威嚇したことを理由に、2022年から三年連続で平和式典から排除しています。この対応は説明がつくのでしょうか? あるいは、朝鮮や中国の軍拡への批判がどれだけ、説得力を持つでしょうか?

米国内や日本国内ならともかく、グローバルサウス諸国の人たちを説得できるように思えません。

また、日本国政府が原爆への謝罪や反省を要求してこなかったことは米国政府にとり「成功体験」になってしまったのではないでしょうか?

そのこと背景に、米国政府は例えばイラク戦争などの侵略戦争を行っているのではないか?

あるいは、イスラエルによるパレスチナ虐殺を全面的に応援するなどしているのではないでしょうか?

ちなみに大日本帝国政府は1945年8月10日に米国政府に対して原爆投下について国際法違反だと抗議しています。しかし、日本国になってからはそういうことはまったくしていません。司法で言えば地裁レベルでNHK朝ドラ「虎に翼」のモデルで有名になった三淵嘉子・東京地裁判事(当時)が1963年に「原爆投下は国際法違反」という判決を出してはいます。しかし、それが政府の政策を変えることにはなっていません。

◆“We American never repeat wrongs “言わせずに8.6に米国政府呼ぶ意味なし

もちろん、今まで、広島市の平和行政、あるいは一部の例外は除いて平和運動団体などの先輩方も被爆者の「自分たちと同じ思いをする人を二度と出したくない」という思いを原点に米国政府への謝罪や反省はぐっとこらえて来られました。それはそれで当時の状況から「あり」だったと思いますし、被爆者でもない筆者があれこれ申し上げる筋合いのものでもありません。

しかし、最近の米国政府の増長ぶりは目に余ります。結果論ですが、長年にわたり、米国政府に対して謝罪や反省要求が弱かったことが響いていますし、松井市長や湯崎知事のすり寄りがそれに拍車をかけてしまったのではないでしょうか?

“We American never repeat wrongs“
(我々米国人はあやまちは繰り返しません)

8月6日にどうせ米国を招くなら、これくらいのことを原爆慰霊碑の前で米国政府の代表に8月6日に言わせようではありませんか?

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年6月号

ピョンヤンから感じる時代の風〈44〉「日米同盟新時代」と「グローバルパートナー」が意味するもの 小西隆裕

◆日米首脳会談のキーワード

去る4月10日、岸田訪米に際しての日米首脳会談、そこでのキーワードは、「日米同盟新時代」と「グローバルパートナー」だった。

実際、このキーワードに先の首脳会談の意味が凝縮されている。そこで問われるのは、その意味だ。

それについて、岸田訪米を前にして、4月4日、同じ日に、米駐日大使ラーム・イスラエル・エマニュエル、そして元米国務副長官リチャード・アーミテージと政治学者ジョセフ・ナイが発表した二つの提言が重要だと思う。

前者は、まず、米国による同盟のあり方の転換について言っている。ハブ&スポーク状の同盟から格子状の同盟への転換、すなわち、米一極を中心に各国が自転車の車輪状に結集した同盟から、AUKUS、日米韓、日米比などの同盟が重層的、複合的に重なり合ってつくられる格子状の同盟への転換であり、その中心には格子が重なり合う日米の同盟が位置するようになると言うことだ。

後者は、日米の統合について言っているのだが、それがこの間深まってきたのを評価しながら、これからは、それが同盟としての統合に深められる必要があることについて言っている。言い換えれば、日米同盟新時代の同盟にふさわしい日米の統合をと言うことなのだろう。

◆在日米軍司令部との連携・指揮の統合

この提言を前後して発表された陸海空三自衛隊を統括する統合作戦司令部の来春新設と米インド太平洋軍司令部の権限の一部が移譲される在日米軍司令部との連携・指揮の統合は、先の提言が何を意味するか、その重大さを証左するものだ。

戦後、日本の防衛はその盾となる自衛隊と矛の役割を果たす米軍の役割分担によっていた。しかしこれからは、日米は攻守をともにするようになり、その領域も日本を超え、インド太平洋全域に広がると言うことだ。

ここには、「日米同盟新時代」が持つ意味が示されており、これまでの「パートナー」から「グローバルパートナー」への転換が何を意味するかが示されている。

それは、一言で言って、あの日本の歴史始まって以来のもっとも悲惨な戦争の総括に基づく戦後そのものの終焉だと言うことができる。それは、不戦の憲法に基づき、非戦非核を国是とした日本のあり方そのものがその根本からが変わると言うことを意味している。

◆「異例の大厚遇」への代価

先の岸田訪米に際しての、米国の国賓待遇での大歓待を岸田政権による「安保防衛費大増額」へのご褒美だと言っていた人がいたが、「異例の大厚遇」への代価はそんなものではすまない。

この計り知れない代価を背負って、「日米同盟新時代」との闘いは開始されることになる。その最初の大事業がこれから行われることになる解散総選挙になるのではないか。

来るべき総選挙を日本と日本国民の命運を危機にさらす先の「日米合意」を一度の国会審議もなく敢行した岸田政権、自民党政権を弾劾し、懲罰する総選挙にするところから、「日米同盟新時代」「グローバルパートナー」との闘いは開始されなければならないだろう。

小西隆裕さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』

ピョンヤンから感じる時代の風〈43〉米国の「自由と民主主義」は日本の国益か 赤木志郎

岸田首相は4月訪米し米議会で、「米国が築いてきた国際秩序は新たな挑戦を受け、自由と民主主義が世界中で脅威にさらされている」と述べ、「日本国民は自由の存続を確かなものにするために米国とともにある。自由、民主主義、法の支配を守る。これは日本の国益だ。……これらの価値を守ることは世界中の未来世代のための大義であり、利益でもある」とし、日本がグローバル・パートナーとして米国とともにその価値観にもとづく国際秩序を守っていく決意を述べた。

はたして米国の「自由、民主主義、法の支配を守る」価値観にもとづく国際秩序を守ることが日本の国益なのだろうか。

今日、世界において「自由と民主主義」の価値観で国を否定し覇権をおこなっていくということが通じなくなっている。ウクライナ戦争もロシアはNATOの東方拡張政策に反対し、祖国とロシアの価値観を守る戦いとして位置づけているゆえに勝利していっている。パレスチナ人民のイスラエル占領に反対し国の主権確立をめざす戦いもかならず勝利していくだろう。そして、アジアでは米国の対中新冷戦も国を守り発展させようとする中国人民により破綻するのは明白だ。

ロシアと中国、イスラム圏だけでなく、インド、ブラジル、南アフリカなどもBRICSや上海機構に結束し、米国の古い覇権的秩序に代わる新しい反覇権多極化秩序の確立をめざしている。この流れにASEAN諸国、アフリカ諸国、中南米諸国が合流している。

そのなかで岸田首相だけが「米国は独りではない、日本というパートナーがいる。共に『自由と民主主義』の価値観にもとづく国際秩序を守っていこう」としたのだ。それは時代の潮流に逆行するものであり、米覇権秩序が崩壊することは避けることができない。

にもかかわらず岸田首相の米国の国際秩序を守ろうとするという覚悟は、あくまで日本が米国を盟主として仰ぎ従い、世界の反覇権勢力に敵対していこうとするものだ。結局、米国のいうがままに日本が利用され使い捨てられていくのではと思う。

「日米同盟の新時代」で米国のもとの統合がすすめられれば、日本の政治、軍事、経済、教育文化と地方のすべての領域にわたって米国に統合し米国式におこなうことが強制され、日本という国が名実ともになくなってしまう。

また、今回の日米会談で統合作戦司令部の発足が決められたように、日本は米軍の指揮のもとで「自由と民主主義」を掲げた米国覇権の軍事外交作戦に動員されていくようになる。かつて日本軍国主義が侵略と戦争の道を突き進んで滅んだとしたら、現在、米国覇権の汚らわしい番犬、駒として世界の自国第一主義の潮流に飲み込まれ滅亡する道を歩んでいるといえよう。

その結果、国民はどうなるのか。中国との戦争で戦禍を蒙るだけではないか。国民にとって戦争を絶対望んでいないし、米国のもとに日本が統合されることを望んでいない。平和で豊かで生きがいある生活をもたらす自分たちの国であってほしいと思っているのではないか。

なぜ日本が米国に統合されていき、米軍の尖兵になるのか?

 
赤木志郎(あかぎ・しろう)さん

それは、先に引用した岸田首相が「自由、民主主義、法の支配を守る。これは日本の国益だ」と述べているように、米国の「自由と民主主義」を日本の国益の上においているからだ。いいかえれば、日本は植民地でも傀儡国家でもないが、無条件降伏した国家として日本の上に戦勝国である米国が君臨しているからだ。そしてそこには、米国に従うことによって自己の利益を得ようとする日本の勢力がいる。侵略戦争をおこなってきた旧支配層は他国を隷従させたので自己が従属してもなんとも思わない。そして、米国の覇権にすすんで加担することなる。単なるかいらい売国勢力ではなく従米覇権勢力ともいうべきか。地検特捜部が米国の指示で動く部署だとしたら、財務省や外務省が従属覇権勢力の巣窟と考えれば分かりやすいかもしれない。

しかし、今や戦後日本を占領し日本を従属させてきた時と異なり、米国の力は著しく弱化している。歴代自民党の首相をはじめ多くの政治家、学者、マスコミは「自由と民主主義が日本の国益」「米国の国益が日本の国益だ」と言ってきたが、今回の岸田首相の発言にたいしては大手マスコミでも必ずしも全面賛成ではなく、疑問を呈している。

米国の力が弱化したもとで日本が「同盟者」として先頭に立って頑張りますよというのが岸田首相の言い分だが、実際は米国の尖兵として肉を切られ骨を切られるまで使い捨てられることを甘い言葉で強要されているのだ。もともと米国の国益が日本の国益になりえないが、米国の国益を日本の国益とするその乖離、軋轢、矛盾が耐えられないほど大きいなものになっている。

もはや日本国民にとって米国の国益が日本の国益ではない。日本の国益はあくまで日本国民の利益を守ることであり、日本を米国に統合し米国の尖兵となって対中戦争をおこなうことではない。

日本国民の利益を守る真の国益を擁護するために、「日米同盟新時代」を掲げた米統合と戦争策動に反対する闘いを起こしていくことが問われているのではないかと思っている。

▼赤木志郎(あかぎ・しろう)さん
大阪市立大学法学部中退。高校生の時は民青、大学生のときに社学同。70年赤軍派としてハイジャックで朝鮮に渡る。以来、平壌市に滞在。現在、「アジアの内の日本の会」会員

『一九七〇年 端境期の時代』

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』

『紙の爆弾』最新記事がnoteで読める! アメリカが狙うアジアの1兆ドル海洋資源/TSMCが熊本の水を殺す 半導体工場がもたらすPFAS汚染

タブーなき月刊誌『紙の爆弾』の最新号記事がnoteで一部公開・購読可能となりました。

記事単位での購入も可能になりましたが、『紙の爆弾』はあくまで紙がメインのメディアです。興味を持っていただけましたら、ぜひ書店でお手にとっていただければ幸いです。定価700円(税込)、年間定期購読7700円(1号お得)。

ここでは6月号の注目記事2本の一部を紹介します。

◆岸田訪米の能天気は害悪だ! アメリカが狙うアジアの1兆ドル海洋資源
 取材・文◎浜田和幸(国際政治経済学者、元参議院議員)

 
 

 岸田「忖度演説」をよそに米中駆け引きの新展開

4月に国賓待遇で訪米した岸田文雄首相は同11日、米議会上下両院合同会議において「未来に向けて~我々のグローバルパートナーシップ~」と題して演説を行ないました。この演説はロナルド・レーガン元大統領のスピーチライターからのアドバイスを基に、国際秩序維持への米国の貢献を讃えつつ、民主・共和両党の分断を助長しないように配慮したもの。

岸田首相は幼少期にニューヨークの公立小学校に通った当時の思い出に触れながら、日本と米国が「最も親しいトモダチとして、世界の未来を創造する責任を分担して果たしていきたい」と訴えました。これまでの米国の指導力を称賛し、引き続き米国が国際問題で中心的役割を果たすように呼び掛けたものです。

とはいえ、これでは岸田カラーが印象に残らないどころか、「アメリカ頼み」の感はぬぐえません。11月の大統領選挙を念頭に、米国内の分裂や分断にはあえて目を向けないようにし、日米両国がAI・量子・半導体・バイオテクノロジー・グリーンエネルギーなど次世代を切り開く最新技術の発展において協力する可能性に焦点を当てることに腐心しただけでした。

注視すべきは、こうした分野で米国は中国との連携にも関心を寄せているということです。

というのも、同じ頃に中国を訪問していたイエレン財務長官は「中国と米国で世界を2分すればいい」との大胆な提案を繰り広げていました。日本はあくまで「捨て駒」としか見なされてはいないのです。

バイデン大統領は岸田首相や「ボンボン」の愛称で知られるフィリピンのマルコス・ジュニア大統領をワシントンに招き、中国包囲網の形成に力を注ぐ姿勢を見せてはいました。とはいえ、アメリカの本音はあくまで自国の産業最優先。中国の脅威をことさらに煽ることで、米国製の武器を日本やフィリピンに大量に売りつけることにあることは疑いの余地がありません。

日本では関心を呼びませんでしたが、ワシントンでの日米比3カ国首脳会談の直前には、アメリカのレモンド商務長官一行がフィリピンの首都マニラを訪問し、同国周辺の海洋資源開発のためのファンドを立ち上げることを明らかにしています。

実は、フィリピン沖合の天然ガスや石油などの資源には、中国も日本も前々から大きな関心を寄せてきました。アメリカ政府はこうした資源を中国や日本の資金と技術で開発し、自国のエネルギー企業の利権に直結するように働きかけているのです。

しかし残念ながら、岸田首相にとっては、フィリピンの資源を巡るアメリカと中国の駆け引きは関心外の模様で、情報収集のアンテナが向けられていないことが歴然としました。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/nda41dedeaeff

◆TSMCが熊本の水を殺す 半導体工場がもたらすPFAS汚染 
 取材・文◎本誌編集部(【特集】隠蔽される「健康被害」より)

 
 

 なぜ半導体工場はアジアに集中するのか

コンピュータやスマートフォン、家電から車まで、多岐に渡る製品に必要な「産業のコメ」と呼ばれる半導体が、世界で深刻な供給不足に陥っているといわれてすでに久しい。

そうした状況下、「世界最大のファウンドリ(半導体委託製造メーカー)」であるTSMC(台湾積体電路製造)が熊本県菊陽町に進出し、第1工場が竣工。2月24日に開催された開所式には齋藤健経済産業大臣や蒲島郁夫熊本県知事(当時)らが出席した。隣接地には2027年の稼働開始を目指し、第2工場の建設も決定されている。

地元では新駅や高速鉄道建設も計画され、「食堂のパートの時給が3000円」「3000万円の庭付き一戸建てが6000万円に爆上がり」といった景気のいい報道が続き、「空前の半導体バブル」ともてはやされている。

ただし、冷静になって考えれば、いくつかの大きな疑問がわく。

まず、半導体製造が、それほど重要で雇用を生み出し、利益をもたらす産業であるなら、なぜ欧米ではなく中国・台湾・韓国、そして日本に集中するのか、ということだ。

国・地域別に見た場合、半導体の生産能力は、トップの台湾が21.6%、韓国が20.9%、日本が16.0%、中国が13.9%(IC Insights、19年)。実に72%をこれらアジアの国・地域が占めている。米国は12.8%でも、欧州は全体で5.8%にすぎない。欧州は1990年代、世界の半導体産業の44%を占めていたとされる。米国も同時期は37%だった。

半導体製造の主要地は、なぜアジアに移動したのか。その大きな原因が、半導体工場に勤務する労働者を襲った健康被害だといわれる。

※記事全文はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n474afde43b23

最新刊! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年6月号

『紙の爆弾』2024年 6月号

岸田訪米の能天気は害悪だ!アメリカが狙うアジアの一兆ドル海洋資源
次期戦闘機の第三国輸出解禁 日本を「兵器産業国家」にする公明・創価学会の“貢献”

【特集】隠蔽される「健康被害」
TSMCが熊本の水を殺す半導体工場のPFAS汚染
がんを引き起こし脳の働きを阻害する遺伝子組換え食品によるこれだけの危険
小林製薬「紅麹問題」で少なくとも言えること
開業延期」ではなく「計画中止」を リニア新幹線「電磁波と白血病」

「議員も記者も排除」で答弁拒否率76% 小池百合子 暴かれた“女帝”の虚像
裏金事件でも自民党で“岸田降ろし”が起きない理由
「大阪カジノIR」の真のリスク 水原一平事件の語られざる本質
一水会50年は、対米自立実現の橋頭堡である
事業者に従業員を監視・排除させる日本版DBS法案の違憲性
“制裁ありき”の駄文判決 岡口基一判事弾劾裁判「多数決で罷免」の異常
ジュリー前社長が手放さないジャニーズファンクラブ巨額の行方
失言バカ政治家の傾向と対策
改憲派2社以外も“軍拡肯定”2025年度中学教科書 防衛省の広報誌化
シリーズ 日本の冤罪50 北方事件

連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け:西田健
「格差」を読む:中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座:東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER:Kダブシャイン
SDGsという宗教:西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/
◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0D33BMRD4/

戦後日本の革命 in ピョンヤン〈3〉「米国についていけば何とかなる」生存方式の究極 ──「無理心中」誓約の岸田・国賓訪米 若林盛亮

◆はじめに

3月31日掲載の「戦後日本の革命 in ピョンヤン②」の結語にこう書いた。

「もしトラ」の逆利用で米国依存の生存方式から目覚め、自己を取り戻すチャンスに変える時、戦後日本の革命成就も夢ではない時に来ている。ピョンヤンにあってこれが夢でないことを祈りながら「戦後日本の革命inピョンヤン」発信を続けたいと思う。

ところが4月10日からの岸田国賓訪米・日米首脳会談は、これと真逆の道を日本に強要するもので、愚かにも岸田首相は破滅に向かう米国覇権と運命を共にすることを誓約した。

日刊ゲンダイは「米国に差し出す自衛隊」の大見出しの批判記事、朝日の「天声人語」は「日本の安全保障が米国と一体化していくことがいかに危険なものか」と危惧を示すなどリベラル系のマスコミは一様に「懸念」を示した。

ここにもいまや「米国についていけば何とかなる」時代ではないことが大方の共通認識になりつつあることが現れているように思う。でも単に「危惧」や「懸念」だけでは米国の強要に抗うのは難しいし非力なことはこれまでの教訓だ。ならば日本の安保防衛はどうあるべきかなど対米一辺倒ではない日本の進路に関する対案、対策がなければならない。

それは別途、考えるとして、今回は「米国についていけば……」という戦後日本の生存方式の究極、その極地とも言える“「無理心中」誓約の岸田・国賓訪米”、そこから見えてくる多極化世界での米覇権の新たな形について考えてみたい。

それは戦後日本の革命のために「もしトラ」の逆利用を考える上でも重要なことだと思う。

◆「日本の魂を伝える演説じゃない」と言った安倍ファミリー岩田明子

今回の日米首脳会談に関するマスコミ報道にはかなりの差があったことが特徴かも知れない。4月12日付け読売朝刊はバイデン政権の広報紙みたいなものだから1面トップは当然ながら、全紙面にわたって日米首脳会談を取り上げた。しかし朝日の1面トップ記事は「政治改革委を設置」、その記事に次ぐ左半面に掲載という扱いで日米首脳会談を取り上げ、読売に比べれば他の面での扱いも地味なものだった。

面白いのはフジ産経グループだ。読売系の日本TV「深層ニュース」や毎日系のTBS「1930」が連日、岸田訪米関連を取り上げたが、フジTV「プライムニュース」で取り上げたのは4月12日たった一日だけ、それも番組の前半だけで後半は韓国総選挙「与党完敗」の報道という扱い、しかも首脳会談での合意内容には触れずに「岸田首相“演説”にこめた決意」を評価、論じるといったもので、それはそれでとても興味深いものだった。

ゲスト評者のデーブ・スペクター氏は米議会「岸田首相“演説”にこめた決意」に触れながら「こんなに親米的な人がいるんだと(米議員達も)驚いただろう」と岸田演説の「親米ぶり」を揶揄した。

 
米議会での岸田首相“無理心中”誓約演説

さらに興味深いのは安倍ファミリーと言われる元NHK解説主幹、いまはフリー・ジャーナリストの岩田明子氏の「岸田演説」評価だ。

岸田首相の演説原稿が大統領演説も手がけるという米国人スピーチライターの手によるものということを取り上げながら、それとの比較で2015年の安倍首相は日本人ライターと相談しながら米議会演説を仕上げたこと、また当時のキャロライン・ケネディ駐日米大使が演説原稿を事前に「ちょっと見せてほしい」と言ってきたのを断ったというエピソードまで紹介しながら岸田演説をもっと痛烈に揶揄した。その一つは「アメリカのやってほしいことの羅列」であること、そして決定打は「(米国人の書いたものだから)日本の魂を伝えるものにはならないですよね」とまで言い切った。

これはフジTVが彼らの口を通じて自分の立場を表明したものと思われる。米国に追随しながら日本の軍事大国化実現を企図するという安倍元首相と同様、「軍国主義的自主派」の立場を代弁するような番組の作り方だったように思われる。同盟強化を迫るにしてもバイデンよりトランプ式の「もっと日本主体で、もっと積極的にやれ」が性に合うのだろう。

◆アーミテージ・ナイ報告「日米同盟、より深い統合へ」の筋書き通り

 
アーミテージ・ナイ報告

日米首脳会談に先立つ4月4日、いわゆる「アーミテージ・ナイ報告書」が公表された。これは米政策研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」が超党派の有識者による日米同盟への提言として発表したものだが、共和党系のリチャ-ド・アーミテージ元国務副長官、民主党系のジョセフ・ナイ元国防次官補が中心となってまとめたもので通称「アーミテージ・ナイ報告書」と呼ばれるものだ。これで6度目の提言だが前回までの外交、安保政策提言はほぼ日本政府によって実現されてきた、いわゆる「ジャパン・ハンドラー」による強い影響力を持つ報告書だ。

今回の報告書は、台頭する中国の抑止を念頭に「より統合された同盟関係への移行」を提唱したものだと読売新聞(4月5日付け)は伝えた。

今回の日米首脳会談での合意事項、岸田首相の演説などは、このアーミテージ・ナイ報告「日米同盟、より深い統合へ」の筋書き通りだと言える。

米議会演説で岸田首相は、「今の私たちは平和には“理解”以上のものが必要だ」としながら「“覚悟”が必要なのです」とまず「平和への日本の覚悟」を強調した。

その「覚悟」の内容は報告書にある「日米同盟、より深い統合へ」実現の覚悟だ。

まず「この世界は米国が引き続き国際問題において中心的な役割を果たし続けることを必要としています」との前提に立ったうえで、「ほぼ独力で国際秩序を維持してきた米国に、そのような希望をひとり双肩に担うことがいかなる重荷であるのか私は理解しています」との苦境にある米国の現状に理解を示した。

そのうえで「米国は助けもなくたったひとりで国際秩序を守ることを強いられる理由はありません」として「日本が最も近い米国の同盟国としての役割をどれほど真剣に受けとめているかを知っていただきたい」との「最も近い同盟国・日本の決意」のほどを述べた。

そして最後に「信念という絆で結ばれ、私は日本の堅固な同盟と不朽の友好をここに誓います」と決意遂行の「覚悟」を米議会で誓約した。

このアーミテージ・ナイ報告書が超党派の手になるものとあったように、バイデンの国賓として行った岸田首相の米議会での誓約は「もしトラ」でトランプ政権になってもそのまま実行される「日米同盟、より深い統合へ」だと思われる。

事実、米議会での岸田演説実現の根回しをしたとされるトランプ政権時代に駐日大使だったウィリアム・ハガティ上院議員(共和党)は、最近トランプとも話し合ったとしながら、日米同盟をトランプも重要だと考えていると読売のインタビューに答えている。

◆自衛隊の統合作戦司令部新設+在日米軍にインド太平洋軍の指揮統制機能付与

 
統合作戦司令部

「日米同盟、より深い統合へ」の基本は対中対決のための日米軍事同盟の強化だ。その基本中の基本が、自衛隊に統合作戦司令部を設置し、これを有事には在日米軍司令部が関与できる作戦指揮体系を整えたことだ。

一言でいえば、自衛隊に戦争作戦を立案、指揮する「総参謀部」ができるということ、自衛隊が戦争を行う軍隊になる体制が整うこと、日本が戦争を行える国になること、更にはそれが米軍の指揮下で行われることになるということだ。

ことの始まりは、2022年末に閣議決定された安保3文書、すなわち国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の3文書改訂だ。国家安全保障戦略改訂で「敵基地攻撃能力保有」が決定され、これに伴って防衛力整備計画に「統合司令部」設置が決められた。

従来の専守防衛の自衛隊ではシビリアン・コントロール(文民統制)下で最高司令官は内閣総理大臣、首相であり、これを補佐する機構として自衛隊統合幕僚監部(陸海空幕僚長を統合幕僚長がまとめる)があったが陸海空3軍を指揮統制する機能がなかった。これは専守防衛の自衛隊では領空侵犯は空自が、領海侵犯の対潜水艦監視などは海自がそれぞれやればことは済んだからだろう。ところが「敵基地攻撃能力保有」が認められ、有事、戦争事態に備えるためには三軍の総合作戦指揮、統制が必要になることから設けられたのが「統合司令部」だ。もちろんそんなことは公然と語られることはない。

‘22年末改訂の「安保3文書」、防衛力整備計画では、この統合司令部に米インド太平洋軍の将官が常駐することが決められた。これは敵基地攻撃のためには「軍事偵察衛星など圧倒的な米軍の情報網に頼らざるを得ない」からなどとされているからだ。

この統合司令部が今回の日米首脳会談を前にして「統合作戦司令部」という「作戦」、すなわち戦争作戦のための司令部であることを明確にした。

また安保3文書に明記された「統合司令部に米インド太平洋軍の将官が常駐」体制は在日米軍司令部に一定の指揮統制権を付与し、自衛隊の統合作戦司令部との直接的連携を可能にする形にした。一言でいって有事には在日米軍が自衛隊を指揮できる体制を整えた。従来は、ハワイにあるインド太平洋軍司令部にしかなかった指揮統制権限の一部を在日米軍司令部に付与する形でそれを可能にした。(3月25日の読売新聞報道による)

こうした有事の自衛隊に対する米軍の指揮体制が日米首脳会談を前に用意周到に整えられたのだと言える。

米国笹川平和財団のジェームス・ショフ氏は「米側が(作戦実行の)大部分の資産を持っている。特定の任務で決定を下す際、米の意向が強まるとの日本側の懸念があることは明らか」と有事においては自衛隊の統合作戦司令部が在日米軍司令部の指揮統制に服することにならざるをえないことを認めている。韓国では朝鮮半島有事の作戦指揮権は在韓米軍司令官の指揮に韓国軍が従う体制になっている。日本では自衛隊と米軍は指揮権が形式上は別々だが実質的には有事には自衛隊が米軍の指揮に従うことにならざるを得ないだろう。

自衛隊の統合作戦司令部は今年度末までに自衛隊法が改正されて正式に発足する。

「日米同盟、より深い統合へ」、それは対中軍事対決という米覇権秩序維持のための戦争ができる国へと日本が変わるということを意味する。言葉を換えれば、日本が米国の対中・代理戦争国家になるということだ。

◆「ハブ&スポーク」式同盟から「格子状」同盟に ── 多極世界での米覇権の形

 
「ハブ&スポーク」同盟から「格子状」同盟へ

日米首脳会談に先立つ4月4日、エマニュエル駐日米大使が今回の首脳会談が「一つの時代が終わり、新たな時代が始まる日米関係の重大な変容を示すものとなる」と「ウォールストリート・ジャーナル」寄稿文で述べた。

その重大な変容とは「時代にそぐわない“ハブ&スポーク”式同盟を“格子状”の同盟構造に変換する取組だ」と定式化された。

“ハブ&スポーク”式同盟とは、自転車の車輪の中心部のハブ、そのハブにつながる無数のスポークが車輪を支える構造に譬えた同盟構造を指す。ハブ、中心に米国があってその中心から伸びるスポークで各国がつながるという、いわば米一極覇権下での同盟関係を指す。

“格子状”同盟とは図式(掲載)を見ればわかるように「日米同盟」を中心にAUKUS(米英豪)、クアッド(米日豪印)、日米韓、日米比といった同盟国、同志国関係が格子状に重なるような同盟構造に変わるということだ。

なぜ米国の同盟構造、いわば米国の覇権支配の構造が変わるのか?

一言でいってバイデン式の対中新冷戦戦略が失敗、破綻したからだ。

バイデンは世界を米国を中心とする民主主義陣営と専制主義陣営の二つに分断し、専制主義陣営とする中国を民主主義陣営の包囲網で孤立圧殺する方法で崩れゆく自己の覇権回復戦略とした。

ところがウクライナへのロシアの先制的軍事行動で対中に加え対ロという二正面作戦を強いられ、さらにはこれにガザでのイスラエル対ハマスを軸とする中東戦争という三正面作戦までが加わって右往左往するばかりで為す術を知らずの醜態を世界に見せることになった。

ウクライナ戦争ではロシア制裁に引き入れようとしたグローバルサウス諸国が反旗を翻し、イスラエルのガザ虐殺を見た世界はイスラエル支持をやめない米国の「自由と民主主義」「人権・人道主義」の欺瞞性をハッキリ見た。この連載で何度も述べた「パックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)の終わり」を世界の誰もが眼にするようになった。

それは米一極支配の終わり、米中心の「G7先進国」がリードする国際秩序の崩壊をもたらした。一極世界から多極世界へ、これが時代の趨勢となった。

これに対処するという“格子状”同盟構造は先に挙げた岸田演説に即して見ればわかりやすい。

まず「この世界は米国が引き続き国際問題において中心的な役割を果たし続けることを必要とする」との前提に立ち、しかしながら「ほぼ独力で国際秩序を維持してきた米国に、そのような希望をひとり双肩に担うことがいかなる重荷であるのか」、つまり米国が中心になって独力で国際秩序を維持できなくなったという時代環境の変化を認める。つまり米一極中心の“ハブ&スポーク”式同盟では国際秩序を維持できなくなったとの時代認識に立つ。

このような時代認識に立てば「米国は助けもなくたったひとりで国際秩序を守ることを強いられる理由はありません」、だから「日本が最も近い米国の同盟国としての役割を」果たすこと、つまり「日米同盟」を中心に“格子状”の多角的な同盟関係、同志国関係を再編成、形成しながら米国中心の覇権秩序を建て直していく。

いまエマニュエルの言う“格子状”同盟への再編渦中にある。

今回の日米首脳会談では、日本と「AUKUS」との連携が新たに強調されるようになった。元来、日本はインド太平洋地域では「クアッド」、米日豪印4ヶ国同盟基軸に行く予定だったが、インドがロシア制裁もやらず中国との軍事対決も避けグローバルサウスの盟主まで自称するようになって、あまり対中対決で当てにならなくなった。そこで元来、対中対決の米英豪・アングロサクソン白人連合である「AUKUS」に無理矢理日本を引き込むことにしたのだろう。

また今回、日米比首脳会談も持たれたが、「ASEAN」の中では親米色の強いフィリピン・マルコス政権をアジアでインドに代わる対中対決「同志国」に取り込もうというのが米国の心算だろう。岸田訪米を前に米太平洋軍陸軍司令官が「インド太平洋地域に中距離ミサイルを配備する」計画があることを語ったが、米国が対中対決線とする日本列島から沖縄、台湾、フィリッピンを結ぶ「第一列島線」への配備を念頭に置いたものだ。すでに日本列島には自衛隊のスタンドオフミサイル部隊という名の「中距離ミサイル部隊」が新設されたので、フィリッピンへの地上配備型中距離ミサイルを念頭に置いたものだろう。米比合同軍事訓練に自衛隊を参加させることもこの3ヶ国首脳会談で決められ、日米比同盟構造もいま形成途上にある。

日米韓同盟はすでに昨年のキャンプデービッド3ヶ国首脳会談で基本形はつくられた。

いま着々と日米中心の“格子状”同盟構造が再構築されつつあるが、これは世界の米一極支配破綻を受け、多極化した世界で米覇権を回復するための必死のあがきだと言えるだろう。

◆“格子状”同盟の未来は暗い、「無理心中」はバカげてる

米国によるこの“格子状”同盟は対中対決のためのものではあるが、「決して中国封じ込め」のためのものではなく「中国を正しく(世界に)関与させる」ためのものだとトーンは落ち、かつての「専制主義・中国を民主主義陣営が封じ込め孤立させる」などという威勢のいい声をあげる力はもう米国にはない。

“格子状”同盟の雲行きも怪しい。韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権与党が総選挙で大敗、レームダック状態の尹大統領が主導した日韓関係改善-日米韓同盟強化にも暗雲が立ちこめている。

AUKUSへの日本の参加と日米比「同盟」もどこまでうまくいくかわかったものじゃない。

なのに岸田首相のように米国人ライターの書いた演説に踊って「日米同盟、より深い統合へ」と進み、統合作戦司令部と在日米軍司令部との合体で対中・代理戦争国への道をひたすら進むなら、それこそ日本には米国と無理心中、破滅の道しかない。

なぜなら一極世界から多極世界への移行は、日本のマスコミが言うような「覇権の一極から多極への移行」ではなく、「あらゆる覇権主義、大国主義から脱する世界への転換」を意味しており、米国覇権の復活の道はもはやないだろう。大国である中国やロシアもそれをじゅうぶん理解しており、だからこそかつて植民地支配に苦しんだグローバルサウス諸国もいまだ植民地支配の反省の言葉のない米国や「G7先進国」よりも中ロに接近しているのだ。

今後、おそらく多くの日本国民、日本の政財界、言論界、防衛関係者らも多大の懸念を持って“「無理心中」誓約の岸田・国賓訪米”後の日本の政治がどこに行くのか、注視していくものと思う。

だから私も「戦後日本の革命 in ピョンヤン」で警鐘を発信し続けていくが、重要なことは「米国についていけば何とかなる」に代わる生存方式を見つけ明らかにすることだ。そんな「戦後日本の革命」についても考えていきたいと思う。

若林盛亮さん

◎ロックと革命 in 京都 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=109

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』

戦後日本の革命 in ピョンヤン〈2〉運命の自己決定権 ── 「もしトラ」に右往左往しない日本に 若林盛亮

◆「もしトラ」と戦後日本の革命

戦後日本の革命、それは私式に言えば「米国についていけば何とかなる」としてきた戦後日本の生存方式を一新する革命、あるいはアイデンティティ確立のための革命だ。

今回のテーマ“「もしトラ」に右往左往しない日本に”は、「もしトランプが大統領になったら」で右往左往するわが国の政界、言論界を目の当たりにして、そろそろ「米国についていけば……」からの方向転換、むしろ「もしトラ」を国の運命の自己決定権を自分の手にする好機にすべきではないのか、このことをピョンヤンから訴えるものだ。

◆「私のかわりに決める権利は、あなたにないわ」

 
『他人の血』(新潮文庫)表紙、ジョディ・フォースター主演で映画化の写真入り

この小題目の言葉、それは小説『他人の血』、最後のシーンで発せられる女主人公の言葉だ。この小説の著者であるフランスの実存主義女流作家ボーヴォワールの基本思想、「運命に対する自己決定権」を主人公に語らせたセリフである。

このような言葉は一朝一夕には出てくるものじゃない。この小説でも人生の窮地を脱し人生のクライマックスに立ってようやく主人公自身が極めた境地だ。

主人公エレーヌはパリに住むごく平凡な駄菓子屋の娘、彼女は大ブルジョアの息子という出自に悩む労働運動指導者、ジャンに恋してしまう。「自分は組織の歯車でいい」という労働者共産党員の恋人に飽き足らない彼女は悩める指導的活動家ジャンになぜか心をひかれる。でもジャンの社会運動にはまったく興味を示さず、自分の恋心に応じようとしないジャンの関心をひくことだけで頭はいっぱい。そんな女の子だった。

他方、ジャンは大ブルジョアの跡継ぎ息子だが共産党に入党、しかし党に引き入れた親友の弟をある闘争で死に追いやった自責の念から社会民主主義者に転向するといった複雑な政治経緯の人物だ。政治や社会運動に何の関心も示さないエレーヌに当惑しながらもやがてジャンも彼女と恋に落ちる。

しかしエレーヌのある行動が二人の恋を決裂させる。

時は第二次世界大戦を前にしたナチス台頭の時期、オーストリアの闘士が反ナチの連帯闘争をフランスの社会民主主義者に求めたが、ジャンはこれを「フランスをナチスとの戦争に追いやるようなことはできない」と拒絶した。しかしこの自分の態度がナチスのオーストリア併合を許すことになり、ついにはナチス・ドイツ軍のフランス侵略という結果を招いた。

そんな自責の念からジャンは対独戦争のフランス軍最前線に志願する。これに驚いたエレーヌが恋人を死地から救う一念で八方手を尽くし、前線から後方の安全地帯に戻れるようにする。しかし彼女のこの振る舞いはジャンの強烈な怒りを買い、二人の愛は破局を迎える。

恋を失いパリまでナチスのものになって、ついに「自分もなくなった」失意のエレーヌは職場の洋裁店の関係で親しくなった占領者であるドイツ人からベルリンに行くことを誘われている。

しかしある事件がそんな彼女を覚醒させる。

幼なじみのユダヤ人娘がナチスのユダヤ人狩りの危険に直面した時、親友を捨て置けないエレーヌは恋人だったジャンの反ナチ・レジスタンス組織を通じて親友の逃亡を助ける。この事件を契機にエレーヌは自分を取り戻す。ついには「あなたと一緒に仕事をしたい」とジャンに申し出る。彼女は危険な任務を引き受け致命傷を負う、そしていまは死の床にある。

「君がこんなになったのは僕のせいだ」と彼女を恋に苦しませ、いままた危険な任務を指示した自分を責めるジャンに対し、死を前にしたエレーヌが毅然(きぜん)として自分自身を主張する言葉、それがこの小題目に引用したセリフだ。

「私のかわりに決める権利は、あなたにないわ」

運命に対する自己決定権とは? を考えさせる名セリフだと思う。

彼女は自らの殻を破った ── 「何ものかのために、誰かのために存在する」エレーヌ、「危険な任務遂行を決めたのは、他の誰でもない、私自身」!

人間の運命同様、国の運命も決定権は誰のものでもない、自分自身にある。

長々と小説の粗筋を紹介したのは、小説の主人公のように一人の人間が自分を取り戻し、自らの運命の自己決定権を獲得するには一定の曲折を経るものだということ、しかしいつかは手にするものだということ、これは国だって同じではないかということを言いたかったからだ。

私の場合も「ロックと革命 in 京都」に書いたように「17歳の革命」に踏みだした頃、「特別な同志」OKから「これ読んでみない?」と言われてこの本を借りたが、当時はこの言葉にたどり着くどころかこの小説自体まったく理解不能のものだった。あれから半世紀もの時間が流れ、還暦を過ぎて『他人の血』を再読して初めてこの言葉の存在を知り、その深い意味に気づかされた。この言葉を理解するには一定の人生体験が必要だったのだろう。

いま「もしトラ」に右往左往する日本、それは戦後日本の「米国についていけば何とかなる」生存方式の長い歴史の結果だが、いまのそれはやはり惨めで見苦しいものだ。これからもそんな生き方を続けていくのか? 

「米国の栄華」を追いかけ日本の繁栄を夢見てきた戦後日本だが、いま「米中心の国際秩序の破綻」を前にして政治も経済も軍事も混乱を極めている。「もしトラ」のいま、そろそろわれわれ日本人は「自分を取り戻す」時に来ているのではないか、このことを考えてみたい。

◆プランB ── 欧州の「もしトラ」策

「もしトラ」でいまウクライナ戦争渦中にある欧州も慌てているが、すでに策は立てている。

いまのバイデン政権時でさえ共和党の反対でウクライナ軍事支援予算が通らず、米国からの兵器供与が滞る事態になっている。このうえ「ウクライナ支援はやめるべきだ」とするトランプが大統領になれば欧州は「米国抜き」を考えておかねばならない。

 
TBS番組「1930」。2024年3月8日放映の「米国抜きの欧州案“プランB”」

そこで出された策が「プランB」だ。

プランBとは“米国の援助抜きでウクライナの敗北を防ぐ”という案だ。

その基本内容は、“①今年のウクライナは欧州からの支援で戦略守勢にまわる②来年の春頃の攻勢に直結するための準備をする”というものだ。

「来年の春攻勢に(兵器を)準備」に成算があるのか大いに疑問だが、大義名分は「ウクライナの敗北を防ぐ」。要は「敗勢のままロシアに勝たせてはならない」、だからウクライナに何とか持ちこたえさせるため取りあえず「欧州からの兵器援助」という泥縄式消極策、それが欧州の「もしトラ」策、「プランB」であろう。

更には欧州全体に拡大する「ウクライナ支援疲れ」で欧州の足並みが乱れる中、英仏独が個別にウクライナと2国間の安全保障協定を結んだ。これはウクライナに「英仏独3大国の保障」を見せることで「ウクライナの敗北を防ぐ」しかない欧州の窮状を表すものだ。

ウクライナの敗勢に慌てる欧州を表すものとして、「冷戦後最大規模のNATO軍事演習」がある。これはNATO加盟32ヶ国(フィンランド、スウェーデン加入で2ヶ国増)の9万人規模で2月から5月まで各地で行われるというものだが、かつての東西冷戦期には毎年、数十万人規模で行われたというからロシアに対して虚勢を張るだけの印象が強い。

結局は、落ち目濃厚の米国の対中ロ新冷戦戦略に欧州は巻き込まれる羽目に陥った。

しかし事態は虚勢を張るだけではすまないものになりそうだ。トランプ政権成立ともなれば、欧州各国のGDP2%以上の防衛予算を組むというNATO取り決めの即時実行を迫られる。この防衛予算増は、ただでさえ国民から「ウクライナ支援より国民にお金を」と迫られている欧州各国の現政権を更に揺るがせ、自国第一政権を産み出す呼び水になることだろう。

「ウクライナ支援疲れ」が「米国の覇権回復同調疲れ」に転化する。欧州の人々も自分と国の運命、自己の運命決定権を考え始めるだろう。

 
産経の2024年元日の年頭社説「“内向き日本”では中国が嗤う」※本画像クリックをすると同記事にリンクします(編集部)

◆「もしトラ」歓迎の産経新聞

「もしトラ」に右往左往する日本の言論界の中で唯一、元気なのが産経新聞だ。

今年2024年の元日、主要新聞各紙の新年社説は混乱の極みだったが、産経新聞だけは元気だった(〈年のはじめに〉「内向き日本」では中国が嗤う 榊原智論説委員長)。それは「もしトラ」対処策をもっていること、むしろ「もしトラ」歓迎の立場にあるからのようだ。

産経社説は“「内向き日本」では中国が嗤(わら)う”と題し、国内政局にとらわれて「対中対決」をおろそかにすることがあってはならないという主張を前面に押し出した。

まず「台湾有事は日本有事」の立場を明確に打ち出した。これは米中新冷戦で対中対決の最前線を日本が積極的に担うという意思表示だ。

そしてトランプ政権誕生を念頭に「米核戦力の(日本への)配備や核共有、核武装の選択肢を喫緊の課題として論じる」必要を強く説いた。その根拠は、もしトランプ大統領になれば、台湾有事には「日本や台湾が前面に立ち防衛」することを求められるからだとした。

そしてこうも強調した。「日本は米中対立に巻き込まれた被害者ではない。米国を巻き込まなければならない立場にある」と。まさにトランプの対日要求を先取りしたもの、アジアの問題である対中軍事対決は日本が主体的に行うべきものだという主張だ。

「欧州やアジアの戦争をなぜ我々(米国)がやらねばならないのか」? 「欧州の戦争は欧州人が、アジアの戦争はアジア人が」 ── これがトランプ路線だ。安倍元首相や産経新聞の立場は、対米従属ではあれ米国とうまくやりながら日本の軍事大国化(軍国主義的「自主」路線)を実現することだから、トランプ路線は大歓迎なのだろう。

産経新聞のような「もしトラ」歓迎の危険性は、「喫緊の課題として論じる」必要を説いた日本の代理“核”戦争国化を自ら「主体的」に担うべきという議論を呼びかけていることだ。

「もしトラ」を前提に、産経社説は「米核戦力の配備や核共有」「核武装」といった選択肢について論議することを呼びかけた。

これらはいま米国が最も日本に要求していることだが、日本の非核国是のため未解決のまま「宿題」として残されている議論だ。それは一言でいって日本列島の地上発射型中距離“核”ミサイル基地化だ。これは米軍の対中拡大抑止戦略の基本、死活的課題だから米国は絶対あきらめない。産経のように日本側が「主体的な課題として論じる」ようになれば、これは米国にとってはありがたいことだろう。

産経が「喫緊の課題として論じる」必要を説くのは以下のことだ。

これについてはデジ鹿通信に何度も書いたので簡単に触れる。

日本列島の地上発射型中距離“核”ミサイル基地化を米軍に代わって担う部隊として「安保3文書」決定で自衛隊スタッドオフ・ミサイル(中距離ミサイル)部隊はすでに新設された。

未解決の課題は、自衛隊ミサイル部隊の核武装化のための「核共有」を実現(当然ながら「核持ち込み容認」)することだ。

この実現のためにNATO並みの「有事における核使用に関する協議体」を設置する。これは昨年、新設された米韓“核”協議グループ(NCG)を発展させ「日米韓“核”協議体」とするか、あるいは二国間の「日米“核”協議体」を創設する。準備は着々と進められている。後は日本の決心次第となっている。

再度強調するが産経のような「もしトラ」歓迎の危険性は、日本の対中・代理“核”戦争国化を米国の強要によってではなく、日本が「主体的に」やるようになることだ。

だから産経のような「もしトラ」歓迎の政権ができるようなことになれば、日本の破滅、「米国と無理心中」にわが国を追いやる結果を招くだろう。これだけは絶対、避けなければならないことだ。

◆「もしトラ」の逆利用 ── 自分を取り戻すチャンスに

産経のような「もしトラ」歓迎は以ての外だが、「もしトラ」逆利用という考え方もあり得る。

トランプの主張は「米国に依存するな、日本が主体的にやれ」だ。トランプの真意は米国の強要を日本が「主体的に」受け入れろだが、彼の言う「主体的に」を文字通りに、名実共に実現するチャンスに変える契機ではある。いわばトランプが「アメリカ・ファースト」を言うなら、日本は「日本第一」で行くという向こうの論理の「逆利用」だ。

第一次トランプ政権時には「米軍駐留費分担金(思いやり予算)を日本が増額しないなら米軍基地を撤収する」と日本を脅かしたが、今度はこれを逆手にとって「ああそうですか、ならお引き取りいただいてけっこうです」と言えばいいのだ。

もちろん在日米軍基地撤収や日米安保解消などトランプの一存でできることではなく、またトランプも日本への「同盟義務」押しつけのための恐喝以上の意味で発言しないはずだから、「どうぞお引き取り下さい」という日米安保同盟を否定するような日本側の要求は受け入れないだろう。またわが国には残念ながら米国と正面激突するだけの政治的力はまだない。

だから「もしトラ」の逆利用のためにはいま実現可能な策略、工夫が必要だと思う。

日本国民として最低限、許してはならないのは、米国の企図する「日本の代理“核”戦争国家化」だ。米国自身も非核の日本国民の世論を前にしてこれが「難題」とは認識している。だからごり押しが難しい。したがってこれ一本に絞って米国による「自衛隊の核武装化」だけは拒否の姿勢を貫くことは最低限やらねばならないし、全く不可能なことではないと思う。

そのための「日本の大義」という「武器」がある。それは非核の国是、「非核三原則」の堅持だ。いわば向こうが「アメリカ・ファースト」なら、こちらは「日本の大義」、「国是第一」で行く、このどこが悪いのかという論法だ。

非核の国是を武器に、米国の企図する「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」、そのための「新設の自衛隊スタッドオフ・ミサイル部隊の核武装化」を拒否する。

具体的には産経が議論すべきとした「米核戦力の日本への配備」のための「核持ち込み容認」、そして「日米核共有」を認めないことが基本となるだろう。

その基本環は、いま米国の要求する有事の際の核使用に関する協議体、「日米韓“核”協議体」(日米だけの場合もある)創設の提起に乗らないこと、非核の国民世論を背景に「それは無理です、できません」と拒否姿勢を貫くことだ。

これは可能か? 可能性はあるけれど簡単なことではない。鳩山・民主党政権時の「最低でも沖縄県外に」と辺野古基地移転再検討を口にしただけで鳩山氏は首相の座を追われた。国民世論の後押しがなかったからだ。米国の意向に逆らうのはよほど時の政権に力がなければならない。その力は国民の支持以外にはない。鳩山政権には国民に訴える力がなかったからできなかった。

 
泉房穂さんの対談本『政治はケンカだ』(講談社)

逆に言えば、国民の支持を背景にすればできるということだ。

非核の国是堅持は絶対多数の国民が支持するものだ。時の政権が「非核の国是堅持」を背景に「核持ち込み」及び「日米核共有」の拒否を広く国民に訴えれば、これを国民は支持するだろう。

しかしいまの岸田・自公政権ではこれはできない。「米国についていけば……」の彼らは国民の顔色より米国の顔を見て動く、だから政権交代によってしかできることでないのはハッキリしている。

いま自民党の「政治とカネ」問題で岸田政権は揺れている、次の選挙で政権交代もありうるとも言われている。いまの政界再編劇については米国の影がちらつくが、政界再編、政権交代は国民自身の要求でもある。そしていま「国民をいじめる側」対「国民の味方」の対決として総選挙に勝ち、「救民」内閣を打ち立てると豪語する人物、泉房穂元明石市長という政治家が国民の注目を集めている。「注目」が「広汎な支持」になるか否かはいまは不明だが、少なくとも希望はある。

支持政党なしが60%を占める国民の政治不信を一掃する国民の信頼に足る政治家、政治勢力が出るならば「救民」政権樹立もけっして不可能とは思われない。だから可能性はある。

いま「パックスアメリカーナ(アメリカによる平和)の終わり」を世界が目にしている。米国の覇権力衰退著しいことの表現が「トランプ現象」でもある。「トランプのアメリカ」は「覇権力弱体化のアメリカ」であり、国民の力を背景にし米国を恐れない政治家、政治勢力が出るならば、「米国についていけば……」を卒業し、わが国が運命の自己決定権を手にすることは可能な時に来ていることだけは確かだ。

「もしトラ」の逆利用で米国依存の生存方式から目覚め、自己を取り戻すチャンスに変える時、戦後日本の革命成就も夢ではない時に来ている。ピョンヤンにあってこれが夢でないことを祈りながら「戦後日本の革命 in ピョンヤン」発信を続けたいと思う。

若林盛亮さん

◎ロックと革命 in 京都 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=109

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』