今、米欧で「もしトランプが大統領になったなら」が、「もしトラ」と縮められて、話題になっているらしい。トランプ旋風は、米国だけでなく、欧州でも大変だということだ。

実際、「バイデン大統領」と「トランプ大統領」とでは大違いだ。

そのトランプが本当に大統領になる可能性が出てきた。

新年になってからアイオワとニューハンプシャー、二つの州で共和党の大統領候補選出のための予備選挙が行われた。そこで、二度ともトランプが圧勝し、全米50州、48州の選挙を残して、早くもトランプの選出が確定的だと言われるまでになっている。

民主党の候補は、現職のバイデンで決まりだと言われる中、11月に予定される米大統領選が4年前と同じ、トランプ VS バイデンの争いになるのはほぼ確定的だと言われている。

77歳のトランプと80歳のバイデン、この前回と同じ二人の老人しか大統領候補がいないのか。そこから覇権大国、米国の黄昏を思わない人はいないのではないか。

◆トランプ人気の秘密 ── 見捨てられた人々の代弁者

それはともあれ、ここで考えてみる必要があるのは、トランプのことだ。

8年前、大統領に選出された時にも、歴代大統領には類例を見ない、型破りの大統領と言われたトランプが今度は、婦女暴行罪まで含めて、様々な罪と裁判まで抱えながら、そうなればなるほど逆に支持を集め、現職大統領バイデンを制して大統領に選出される可能性大だとまで言われている。

なぜそうなるのか。トランプ人気の秘密は何なのか考えてみたい。

それを知るためには、まずトランプを支持している人たちがなぜ支持するのか聞いてみることから始めるのがよいのではないか。

彼の支持者からもっともよく聞かれるのは、彼があんな金持ちなのに、少しも飾らず、彼らと同じように話し、彼らの気持ちを一番よく分かってくれると言うことだ。

言い換えれば、トランプが彼らアメリカ国民の、それもラストベルト地帯労働者など見捨てられた人々の代弁者だと言うことだ。

皆、トランプが大統領になるところに、自分たちの心、気持ちや要求を反映した政治の実現を見ているのではないか。

「偉大なアメリカ」「アメリカ・ファースト」など、トランプが掲げるもっとも基本的なスローガンにそれは象徴的に示されているように思う。事実、インタビュアーの質問に答えて、「あのスローガンがいい」と言う人々が大勢いた。

トランプの政策は、実際、アメリカを第一にし、アメリカ国民を第一にするというものが目に付く。移民、難民の米国への入国を制限。企業の海外進出に反対し、輸入品に対する関税を高くして、米国国内経済の振興を主張し、米国が世界の警察として海外でカネを使うことに反対する。

これらは、米国が世界第一の超大国としてドルや核で世界に君臨し、それによって権力を振るい、カネを儲けている一部特権層にとっては許し難いことだろう。

だから彼らは、国家機関、司法機関を動かし、メディアを動かし、それらと一体になって、トランプを異端とし、悪者にしながら、バイデンを勝たせようとする。

だが、それも今回はうまく行きそうにない。ウクライナ戦争や中東戦争など、勝ち目のない戦争、不正義の戦争にバイデンがカネを注ぐのに米国民は反対だ。

そこで、手がなくなった特権層も、前々回、8年前、キッシンジャーが「一度トランプにやらせてみたらどうか」と言ったように、もう一度トランプにやらせてみようと言うことになるかも知れない。

そうした中、「もしトラ」の声はこれからますます高まるのではないか。

◆「もしトラ」で、日本に問われているのは何か

そこで言えるのは、8年前と今とでは、米国が置かれた位置が大きく異なってきていると言うことだ。

今は、世界中が「ファースト」の時代だ。「ファースト」は、自国第一、自国の上に覇権が来るのに反対する。事実、ウクライナ戦争や中東戦争で米国に従う国は、日本などG7の国々くらいしか見当たらない。

この状況で「もしトラ」になったらどうなるか。本当に米覇権が崩壊する事態になるかも知れない。ならないという保証はどこにもない。なったらどうなるか。米欧の覇権側の人々の腰が定まらなくなるのも分かるというものだ。

「もしトラ」のこの時、米覇権から脱却するための闘いが日本においても、今こそ問われてきていいのではないだろうか。

と思っていたら、いるいる。「もしトラ」は日本にとっての大チャンス。今こそ、真に独立する時だと言う人々が出てきている。

ただ、その理由が問題だ。「もしトラ」の場合、対日軍事援助に消極的だ。だから、日本が独自に軍事力強化して独立だと言う人がいるようだが、それはどうだろうか。

軍事力の強化も真に日本を防衛するためのものならば、独立のためになるだろうが、昔のような侵略のための軍事力強化なら、対中対決戦の最前線に立たされるなど、米覇権のために利用されてしまうだけではないか。

「もしトラ」で、日本に問われているのは何か。それは、米国のファーストの下で生きるのを日本のファーストにするのではなく、米国のファーストの下で生きるのか否かを決定的な問題とし、米国のファーストから脱して生きるのを日本のファーストにすることではないだろうか。そうしてこそ、日本は米国の支配から脱し、真に独立することができると思う。

小西隆裕さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

米国の外交政策を考えるときに、欠くことができない視点がある。それは全米民主主義基金(NED = National Endowment for Democracy)による世論形成のための工作である。

NEDは1983年に当時のロナルド・レーガン米国大統領が設立した基金で、ウエブサイトによると、「海外の民主主義を促進する」ことを目的としている。言葉を替えると、米国流の価値観で他国の人々を染め上げ、親米政権を誕生させることを目的に設立された基金である。そのための助成金を、外国のNGO、市民団体、それにメディアなどに提供してきた。「第2のCIA」とも言われている。

台湾政府とNED(全米民主主義基金)の面々。台湾のIT大臣・オードリー・タンの姿もある

NEDの活動の範囲は広く、毎年100カ国を超える国と地域のさまざまな組織に対して、2,000件を超える助成金を拠出している。NEDの財源は米国の国家予算から支出されるので、助成金の支出先、支出額、支出の目的は年次報告書で公開されている。従って年次報告書を見れば助成金の中身が判明する。(ただし、支出先の団体名までは追跡できない。)

2021年11月18日付けのキューバのプレンサ・ラティナ紙は、NEDによる助成金の特徴について、次のように述べている。

「米国民主主義基金(NED)が2021年2月23日に発表した昨年のキューバ向けプログラムに対して割り当てられた資金についての報告書によると、42のプロジェクトのうち、20がメディアやジャーナリストの活動に関連するものだった。割り当て額は、200万ドルを超えている」
 
NEDが採用したのは、キューバの左派政権を転覆させるための世論形成にメディアを動員する戦略だった。メディア向けのプロジェクトが全体の半数近くに及ぶ事実は、親米世論の形成が米国の外交戦略に組み込まれていることを示している。実は、この傾向は他の地域におけるNEDの活動でも変わらない。

台湾はNEDの活動が最も活発な自治体のひとつである。今年の1月に行われた総統選挙に焦点を合わせ、NEDと台湾政府の間でさまざまな工作が行われた。この点に言及する前に、助成金の支出先と金額をいくつか紹介しておこう。

◆世界各地で親米プロパガンダ

西側メディアは報じていないが、香港の雨傘運動のスポンサーはNEDであった。たとえば2020年度には204万ドルの助成金が、2021年度には43万ドルの助成金を支出している。日本の主要メディアは周庭を「民主主義の女神」と報じていたが、とんでもない話である。

また、中国の新疆ウイグル自治区と東トルキスタンの反政府運動を支援する団体に対しては、2021年度に258万ドルの助成金を提供している。「中国政府によるジェノサイド」というプロパガンダを拡散するための資金だった可能性が高い。

ちなみに少数民族に接近して、親米世論を形成する手口は、わたしが知る限りでは1980年代にはすでに始まっている。83年にNEDが結成されたちょうどそのころ、ニカラグアのサンディニスタ政権が、同国のカリブ海沿岸に住む少数民族・ミスキート族に迫害を加えているというニュースが盛んに流された。そしてサンディニスタ政権に異議をとなれる反政府ゲリラ・コントラが、ミスキート族の若者を軍に勧誘する事態が生まれた。

当時のNEDの年次報告書は確認できないが、最近の年次報告書では、ニカラグアの反政府組織向けの助成金も確認できる。たとえば2018年には約128万ドルが、2020年には157万ドルが支出されている。

ニカラグアでも香港の雨傘運動に類似した過激な「市民運動」が広がり、2018年にはクーデター未遂事件が起きた。ニカラグア政府が首謀者らを逮捕・投獄したところ、今度はニカラグア政府による「人権侵害」がニュースとして世界へ拡散された。

ベネズエラの反政府運動に対しても、NEDは助成金を支出している。2018年は201万ドルが、2020年には、323万ドルが提供された。

ロシアの反政府運動へも多額の助成金が支出されており、2021年の金額は約1,384万ドルである。この中には、もちろんメディア向けのものも含まれており、「反プーチン」の世論形成を意図した可能性が高い。

1979年7月のニカラグア革命。ニカラグアに反米政権が誕生した

◆だれが台湾海峡の火種なのか?

台湾の民進党とNEDは兄弟のように親密な関係にある。2019年、台湾の蔡英文総統は、NEDのカール・ジャーシュマン代表に景星勳章を贈った。これは台湾の発展に貢献した人物に授与されるステータスの髙い勲章である。2022年11月、NEDは台北で世界民主化運動第11回世界総会を開いた。さらに2023年7月には、蔡英文総統に対して、NEDは民主化功労章を贈った。同年、台湾のIT大臣オードリー・タンは、NEDの設立40周年に際して、ビデオでお祝いのメッセージを送った。

しかし、NEDは台湾に対しては、直接の助成金は支出していない。両者の関係は次のような構図になっている。

2002年、台湾外交部は台湾民主基金会(TFD)を設立した。「世界の民主主義ネットワークの強力なリンクになる」というのが、設立目的である。運営予算は台湾の国家予算から支出される。

その見返りとして、アメリカ政府は巨額の資金援助を台湾政府に直接与えている。例えば、日本の代表的な新聞である日経新聞によれば、アメリカ政府は2023年7月、台湾政府に3億4,500万ドルの軍事援助を行った。

1978年の米中共同声明の中で、米国は中華人民共和国が中国の唯一の合法政府であることを承認した。従って中国政府にとって、台湾におけるNEDの活動は内政干渉にほかならない。

中国は世論誘導などしなくても、台湾を統合する自信を持っていると推測される。と、いうのも経済的に台湾が中国に依存しているからだ。台湾の輸出の3割から4割は中国向けであり、多くの台湾人が中国本土で事業を展開している。経済関係が、そのほかの関係も決定づけるのは、自然の理である。

こうした状況に焦りを募らせるのが、台湾政府と米国なのである。

NEDから民主化功労章を授与された蔡英文総統

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

黒薮哲哉のタブーなき最新刊!『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

◆はじめに

この一年を回顧する時期がやって来た。ウクライナ戦争が二年目を迎え、パレスチナ紛争は本格的な「内戦」、シオニズムとパレスチナとの戦争状態(ジェノサイド)に入った。この一年を顧みながら、われわれがどのような世界を生き、どのような時代にいるのかを確認しておきたい。

ウクライナ戦争は6月からウクライナが反転攻勢に出たことで、長期化は必至となった。ベトナム戦争が反仏独立闘争からアメリカの本格介入、そして1975年のサイゴン解放まで30年、ソ連のアフガニスタン侵攻が終結するまで10年、アメリカのアフガン介入が20年、そしてパレスチナ紛争が75年という長いタームを持っていることを考えるとき、ウクライナ戦争は数年、数十年単位の長期化が予想される。いや、すでにドンバス戦争・ロシアのクリミア併合から10年が経っているのだ。

さて、ウクライナの反転攻勢という事態のなかで、われわれが注目してきたのはブリゴジンのワグネルだった。ワグネルという名称は、ヒトラーが好きだったリヒャルト・ワーグナーに由来するという。

勇者たちは地獄に堕ちるのか? ロシアの民間軍事企業「ワグネル」創設者プリゴジンはプーチンに粛清されるかもしれない(2023年5月27日)

今年の5月段階で、ブリゴジンは国防相と参謀総長を激しく批判した。この兆候がロシア軍の崩壊の序曲ではないかと、ナチスドイツのヒトラーとエルンスト・レームの関係になぞらえたのが、この記事である。反乱は起きるであろう。国防軍とナチス突撃隊の関係と同様に、ロシア軍とワグネルは、どちらかが生き残り相手をせん滅するしかない、矛盾した存在だったのである。

そして独裁者は、たとい友情をつちかった盟友であっても、ナンバー2になろうとする者をゆるさない。ましてや国軍を批判する民間軍事組織は、叛乱のファクターとして排除するであろうと、記事で指摘してきた。

あにはからんや、われわれの予測は的中した。ブリゴジンが反乱を起こしたのである。

スターリン流の粛清劇がはじまる プリゴジンの反乱 ── 熾烈な権力闘争の行方(2023年6月28日)

クレムリンで何が起きているのか? 飛び交うプリゴジン死亡説とプーチン逮捕の可能性(2023年7月21日)

◆プリゴジンの反乱 粛清か、政治危機の深化か。熾烈な権力闘争

われわれがブリゴジンとワグネルに注目してきたのは、かれらがロシアの伝統的な人海戦術を体現していたからだ。すなわち、スターリン時代のロシア陸軍(ソ連軍)は、戦車のハッチをハンダ付けすることで乗員の脱出を禁じ、徹底的に戦うことを強要したのである。今回の戦争で、ワグネルはウクライナ兵の位置を知るために丸腰で最前線の標的にされたという(懲役囚捕虜の証言)。

そしてその証言にみられるように、旧ソ連軍が懲役囚を最前線に送り込んだのと同じ動員構造、労働編成であることがわかる。

この構造が崩壊したときに、おそらくロシア軍は組織的に崩壊するであろう。日本でもガダルカナル島の飛行場建設には、この動員構造が用いられた。その後、陸軍組織そのものが崩壊したのだった。

さて、ブリゴジンとワグネルは、われわれが予測したとおり反乱を起こした。

ワグネルの宿営地がロシア正規軍のミサイル攻撃を受け、プリゴジンは報復としてロシアのヘリコプターを撃墜して13名を殺害した。そしてプリゴジンは軍幹部の粛清をもとめて、モスクワ進軍を開始したのだった。

その過程で、ブリゴジンは地域の政治集会を開催し、政治的支持を取り付けることを怠っていない。単なる軍事的反乱ではなく、政治的反乱すなわちクーデターの企てだった。

記事から引用しよう。

このワグネルの「行進」がムッソリーニのローマ進軍(国王エマニエーレ3世による総理指名)、ヒトラーのミュンヘン一揆(失敗・投獄)に倣い、政変をめざしたのは明らかだったが、プーチンに「裏切り」と断じられ、検察当局が捜査を開始した段階で、部下に撤退を命じた。クーデターは未遂におわり、プリゴジンはベラルーシに「亡命」したと伝えられている。

この「亡命」劇は、ただちに粛清に乗り出せないプーチンが、盟友ルカシェンコ(ベラルーシ大統領)と相談の上、収拾策に出たものだ。プーチンの政治力の低下を指摘する声は多い(西側首脳)が、軍事衝突を回避した手腕は独裁者の冷徹を感じさせる。プーチンは政治危機を脱したのだ。

しかし、上記の記事でも明らかにしておいたとおり、独裁者はけっして反乱をゆるさない。血の粛正がいつ、いかなる形で行われるのかが焦点となった。そして、その時がやってきた。

《緊急報》プーチンがプリゴジンを爆殺 やはり独裁者は裏切りを赦さなかった(2023年8月25日)

もはやわれわれは、事実関係を報じた記事において、事件の本質を知ることになる。

モスクワの北西部にあるトベリ州で23日、ビジネスジェットが墜落した。

このビジネスジェットは、ロシアの民間軍事会社ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジンの所有で、タス通信はロシア連邦航空局の情報として、乗客名簿にプリゴジン氏の名前があったと伝えた。

また緊急事態省によると、ジェット機には乗員3人を含む10人が搭乗していたが、全員が死亡したとみられる。連邦航空局の発表は事件の一時間後であり、事前に知っていたかクレムリンからの情報と考えられる。通常、連邦航空局は事件を実地調査しないかぎり、発表しないからだ。

独立系メディアによると、ジェット機はモスクワ郊外から飛行していた。高度8500メートルを飛行中、突然墜落したという。ということは、間違いなくミサイル攻撃である。

このミサイル攻撃という過酷な粛正劇は、政治ドラマの一幕を観ているような気分だった。ヒトラーの「長い夜」を称賛したスターリン。そのスターリンを称賛するプーチンにおいて、現代のナチス政治、ヒトラーの政治手法が再現されたのである。世界史を目撃するとは、こういうことなのだろう。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年1月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年冬号

11月29日は国連が定めたパレスチナ人民連帯デーです。 

 

1947年11月29日、国際連盟によるイギリスの委任統治領だったパレスチナをユダヤ人国家とアラブ人国家に分割し、エルサレムは特別な都市とする決議が採択されました。ところが、アラブ人国家パレスチナはつくられず、ユダヤ人を中心とするイスラエルのみが1948年に成立しました。そして、イスラエルは数度の中東戦争でアラブ人地域とされた地域への侵略を繰り返して今日に至っています。

1993年には米国クリントン政権の仲介により、PLOアラファト議長とイスラエルのラビン首相がオスロ合意を締結し、二国家併存を定めました。しかし、イスラエルの政治はラビン首相が95年に極右青年に暗殺されたことを契機に、混迷・右傾化を加速。それでも労働党のバラク首相が和平へ努力していたのですが、2000年に右派リクードのシャロン元首相がエルサレムの聖地訪問を強行。日本に喩えれば、伊勢神宮や法隆寺に外国の首相が「ここは俺のものだ」と乱入してきたような話です。

当然、アラブ側の反発も強まり、交渉は暗礁に乗り上げました。そして、バラクが2001首相選でシャロンに敗れました。勝ったシャロンも一時はイラクやアフガンでの「対テロ戦争」に専念したい米欧の圧力もあって中道政党・カディーマを結党するなど一時柔軟化も、2006年1月に病に倒れて日本の田中角栄がそうだったように影響力を喪失。パレスチナ側では総選挙でハマスが圧勝(ファタハ側のクーデターで政権交代ができなかったが、ご承知の通り、ガザでは現在まで政府を形成している。)。

イスラエル側では右派権威主義的なネタニヤフ被告人が長期政権を築きました。ネタニヤフはオスロ合意に違反してパレスチナが治めるべき土地にユダヤ人入植という侵略を実施。ガザへも何度も武力攻撃を行い、多くのパレスチナ人を虐殺したり罪名もなしに不当逮捕・投獄したりしました。

そうしたなかでハマスが2023年10月7日に行った大規模な「反撃」を契機に、ネタニヤフはガザに侵攻し、14843人とも言われるガザの人々が殺戮されました。当初は総団結してイスラエルを擁護していた米国など日本以外の西側も、ついにネタニヤフをかばいきれなくなりました。

11月24日には戦闘休止が合意され、ハマスはイスラエル人やタイ人の人質を解放し、イスラエルはパレスチナ人の不当逮捕被害者を解放するという作業が行われている中、11月29日を迎えました。

◆パレスチナの若者からのメッセージ=モノローグを交代で読み上げる

広島では、11月26日に翌日からスタートした核兵器禁止条約締約国会議に合わせて、「NO GENOCIDE IN GAZA NO WAR NO NUKES」のキャンドルナイトが行われました。

こちらは「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」が呼びかけて行われたもので、主には被爆者団体の方が中心となって原爆ドーム前に集まりました。(筆者のXより

そしてこの11月29日は、TEARS FOR PALESTINE が開催されました。原爆ドーム前ではジェノサイドが終わるその日まで、広島市立大学の田浪亜央江准教授など、どなたかが17時半くらいからかならず待機し、スタンディングを行うそうです。この29日は12~19時という長時間でどの時間帯でもいいから参加できるよ、という趣旨でも行われたそうです。

筆者は、自分自身が原告である伊方原発広島裁判の第42回の口頭弁論がこの日のメインの活動であり、法廷が昼休みの時間帯に原爆ドーム前まで自転車を飛ばしてかけつけました。

この日は、広島市立大学の学生(留学生含む)らが、12時過ぎに原爆ドーム前に現れ、横断幕や受付、ハンドマイクの準備を開始されました。

そして、ガザ地区の若者が今回の戦争で体験したことをまとめたメッセージ(モノローグ)を、学生らが代読しました。

「世界でもっとも美しい都市になるのに必要なのは安全だけ」

という悲痛な訴え。モスクが爆撃されたり、街が破壊されたり自分たちの身近な友人が遺体となったり。生々しい、ガザの若者の悲痛なメッセージが原爆ドーム前に響きました。

◆岸田文雄様 イスラエルとの防衛協力を停止し、ジェノサイドを止めさせてください!

筆者は主催者に「何かできることはないか?」と声をかけさせていただきました。「はがきを出してほしい」と主催者がおっしゃるので、それではということでハガキを受け取り、「岸田文雄様」宛に、「イスラエルとの防衛協力を停止し、ジェノサイドを止めさせてください!」というメッセージを書き込み、原爆ドームから見て電車通りをはさんで斜め向かい(真向いは旧広島市民球場)の広島中郵便局の窓口に差し出しました。

窓口の局員の年配男性が「63円です」とちょっと緊張した面持ちでおっしゃっていたのが記憶に残っています。

やはり、広島といえば、岸田総理の選挙区です。総理に地元有権者の一人として物申す。当たり前のことです。

日本とイスラエルは残念ながら、安倍政権下で防衛協力を進めています。そのこと自体は憲法違反の疑いが濃厚であり、嘆かわしいのですが、この局面では「ジェノサイドを止めないと防衛協力を止める」ということは外交カードにはなります。日本はかつてときの福田赳夫総理が「人の命は地球より重い」と言った国です。今は、とりあえず、何でもいいからカードを使って虐殺を止めさせる。G7広島サミットでは「ヒロシマ」の名前を西側の核正当化に利用されてしまった岸田総理ですが、ここはひとつ、汚名を返上していただきたいものです。

◆犠牲者一人一人の年齢と名前を読み上げ、赤い涙を模造紙に描く

 

犠牲者の名前を呼びあげるのに合わせて赤い涙を模造紙に描いていく若者ら。門田佳子市議のXより

筆者が原爆ドーム前を去った後、地元・中区の無党派の門田佳子市議らが入れ替わりに来られました。門田市議は2003年のイラク戦争反対運動に筆者とともに無党派の若者として参加。2023年の広島市議選では市長に批判的な保守系会派の所属で5期つとめられた無所属女性市議の後継として見事当選されました。IT化社会における高齢者の生活支援などの課題に取り組まれているほか、松井現広島市長の市政を厳しくチェックする質問もされています。

犠牲者おひとりおひとりのお名前を読み上げ、そのたびに赤い涙を模造紙に描くという作業が行われました。(写真=門田佳子市議のXより) 
 

お名前が判明している方のみですが、とにかく、殺されたひとりひとりに名前があるのだ、ということを改めて確認していきたいものです。

ハマスのせん滅には市民の犠牲はやむを得ない!と暴走するネタニヤフ被告人の論理に対抗するにはひとりひとりの命の重みを大事にしていくしかありません。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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広島市の松井市長は11月30日からハワイの真珠湾を訪問することを発表しました。これは、今夏、米国政府=エマニュエル駐日大使=との間で締結した真珠湾国立公園との「姉妹公園協定」を具体化するためとのことです。

広島市は9月の定例市議会で「原爆投下に関わる米国の責任の議論を現時点で棚上げし、まずは核兵器の使用を二度と繰り返してはならないという市民社会の機運醸成を図っていくために締結した」と答弁しています。 その答弁を具体化した形です。

◆「原爆投下を反省しない米国政府」と組んで良いのか?

 

真珠湾の戦艦アリゾナ(撮影=広島瀬戸内新聞関西支社の鈴木記者)

筆者は、そもそも論として、広島の平和記念公園とパールハーバー=真珠湾の「姉妹公園協定」に反対です。広島市とホノルル市は姉妹都市であり、ホノルル市は広島市が主導する「平和首長会議」にも加盟しています。平和首長会議は核兵器禁止条約推進の署名活動もしており、広島市とホノルル市はそうした意味で「同志」の自治体であります。その一環として松井市長がホノルルに行かれることには異存はありません。ただし、きちんと平和行政の推進に効果があるかどうか、説明責任を果たしていただきたい、というスタンスです。

だが、米国政府は、いまだに広島への原爆投下を反省していません。「必要だった」というスタンスは崩していません。もはや、原爆投下は戦争の犠牲を減らすためではなく、日本人をモルモットとした「実証実験」であり、戦後に米国の強力な対抗馬になることが確実だったソビエトへのけん制でもあったという議論が主流となった今でも、米国政府はまったく反省していません。オバマ大統領が2016年に広島に来た時もまるで他人事のような挨拶であり、反省や謝罪の言葉はありませんでした。

日本政府についていえば、基本的にはいわゆる村山談話を継承し、第二次世界大戦における加害責任について一定のお詫びをしています。必ずしも十分ではないと筆者は考えますが、それでもまったく反省も謝罪もない米国に比べればすべきことはしています。

そんな米国政府の原爆投下責任を棚上げにして組んで良いのだろうか?そのことは、「核兵器の使用を二度と繰り返してはならない」という国際世論を後退させてしまうのではないか? そう思うのです。

「広島が米国政府を許したのであれば、俺たちが核兵器を使っても構わないよね?」と、米国以外の中露英仏はもちろん、インド、パキスタン、朝鮮、そして今ガザ虐殺で非難を浴びているイスラエルまで言いだしかねません。すくなくとも核兵器使用のハードルを下げる方向に「米国政府の責任棚上げ」はなると思います。

◆G7広島契機に「平和都市ヒロシマ」から「米国忖度都市 HIROSHIMA」への変質

そして、繰り返し指摘したいのは、2023年5月のG7広島サミットを契機に広島が曲りなりも「平和都市ヒロシマ」だったのが「米国忖度都市 HIROSHIMA」に変質しているということです。

すでに、今年度から広島市の平和教育の教材から『はだしのゲン』(小学校)や『第五福竜丸』(中学校)が削除されています。広島市教育委員会はマスコミの取材に様々な弁明をされています。しかし、こんな変更をさせたのは誰か?松井市長以外にあり得ないでしょう。すでに、教育行政については、第二次安倍政権における法改定で首長の「独裁」が事実上可能になっています。広島県の場合は、湯崎英彦知事がお気に入りの平川理恵教育長を任命して彼女に独裁的な教育行政をやらせています。他方で広島市の場合は松井市長が教育長には影が薄い方を任命し、松井市長が強力なリーダーシップを発揮している感があります。

そうした中で、G7で広島にお見えになる米国のバイデン大統領の「お目を汚さない」ようにはだしのゲンや第五福竜丸を削除させたのは、この間の流れを見れば、見え見えではないでしょうか?

そして、G7広島サミットでは、西側の核保有は肯定する「広島ビジョン」が採択されました。

また、対ロシア戦争中のゼレンスキー大統領がまるで「乱入」するかのように途中参加し、まるで対露戦争会議のようになってしまいました。

「平和都市ヒロシマ」は、「米国忖度都市 HIROSHIMA」に変質してしまいました。

◆ガザ虐殺応援団サミットでもあったG7広島、恥ずかしすぎる

あれから半年。ガザでは、ハマス政権の「反撃」に対してイスラエル総理のネタニヤフ被告人が大軍をガザ地区に送り込み殺戮を続けています。そして広島に集ったG7のうち、日本を除く米英仏独伊加や欧州委員長らは核兵器保有国でもあるイスラエルべったりです。ゼレンスキーも核兵器保有国であるロシアによる侵略被害者のはずが、核兵器保有国かつ侵略者であるイスラエルを全面支持する始末です。G7広島サミットはまさに、ガザ虐殺応援団サミットだったことに結果としてなってしまいました。

また、これはサミット広島県民会議を管轄する湯崎英彦知事の暴走になりますが、平和記念公園内にG7広島サミットの常設展示コーナーを5000万円かけて設けるということです。恥ずかしいからやめていただきたい。

広島がガザ虐殺応援団サミットの場に結果としてなってしまった。そのことへの反省も松井市長の現時点での行動からはみじんも感じられません。松井市長には、どうせ訪米するならハワイへ行くよりも、それこそ、長崎市長とも歩調を合わせ、ワシントンやNYに行って、アメリカや国連にネタニヤフの暴走を止めるよう要求したらいかがでしょうか?

◆広島市は米国政府より、まずは市民と連携の「王道」を

ここで強調したいのは、広島市はあくまで自治体であるということです。そもそも、米国政府と組む、というのがおかしな話です。

むしろ、強化すべきは世界各都市(自治体)とそこに住む市民との連携です。11月27日からNYで第二回締約国会議が始まる核兵器禁止条約。この条約も市民運動が各国政府を動かしたのです。米国政府との連携を急ぐ前に、まずは各国市民との連携を密にする。そして、日本政府にもせめて核兵器禁止条約の会議にオブザーバー参加はするよう圧力をかけつつ、核保有国に迫っていく、というのが王道ではないでしょうか?

米国政府のエライ人に一生懸命に胡麻をすったところで、良いように利用されるだけではないでしょうか?

◆「サミット期待・評価」の野党政治家も反省を……平和都市ヒロシマ回復への道

また、くりかえしになりますが、G7広島サミットについては立憲民主党や日本共産党などの国政野党の県議も2023年統一地方選におけるマスコミや市民団体のアンケートに答える形で「G7広島サミットに期待」「G7広島サミット誘致を評価せず」と表明してしまいました。筆者自身は県議候補では唯一「サミットに期待せず」「評価せず」と回答しました。その後の広島ビジョン発表で、日本共産党などの県議はあわてて政府批判に転じましたが、遅すぎました。すでに、松井市長や湯崎知事はアメリカ忖度の方向で暴走を加速した後でした。G7という核保有&イスラエル応援団に悪用され、「米国忖度都市HIROSHIMA」に変質しつつある広島。

一方で、2023年統一地方選でも広島市議選の候補者では、日本共産党や保守系無所属の一部候補でも「サミットに期待しない、誘致を評価しない」という筆者と同じ回答をした方もおられます。

国政野党の皆様にもご反省をいただいたうえで、平和都市ヒロシマを取り戻すため、ともに進んでいただきたいと強く要望します。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◆一帯一路「国際協力フォーラム」

去る10月17日と18日、中国の北京で第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが開かれた。

10年前、習近平主席の提唱でつくられたこの巨大経済圏構想「一帯一路」には、現在、国連加盟国193カ国中約8割の152カ国が参加しており、今回のフォーラムには、20カ国の首脳が登壇した。

だが、2017年、第一回フォーラムの時は、29カ国、2019年、第二回フォーラムでは、38カ国の首脳が参加していた。

それに比べ、今回の首脳参加が減り、特に欧州からの首脳の参加がハンガリーのビクトル・オルガン首相一人だけだったのは事実だ。

これをもって、米欧側は、中国の力の減退を騒ぎ立てている。

◆一帯一路の評価で決定的に欠けていること

一帯一路に対する上記の米欧側の評価には決定的に欠けていることがあるように思われる。

それは、2017年、2019年から2023年、この数年の間には、2019年、米国が中国に対して仕掛けた「米中新冷戦」があったという事実だ。

この「新冷戦」で米国は、全世界に向け、中国に対する包囲を呼びかけた。

クァッド(米、日、印、豪)による包囲、広範な「民主主義陣営」による中国をはじめとする一握りの「専制主義陣営」に対する包囲、その他にも包囲は、ネットや最先端技術など、「経済安保」の広範な領域にまで及んだ。

問題は、こうした包囲の結果がどうなったかだ。

今回開かれた第3回国際協力サミットフォーラムで最も注目すべきは、このことだったのではないだろうか。

だが、残念ながら、日本の大手メディアにあっては、こうした視点からの今回のフォーラムについての分析が何もなかったように思う。

◆「フォーラム」で何が明らかになったか

確かに今回の「フォーラム」への欧州各国からの参加はなかった。

しかし、アジア、アフリカ、中南米、南太平洋地域などいわゆる「グローバルサウス」の国々から、140余りの国々、30余りの国際機関の代表が参加した。

これは、米国によって仕掛けられた中国に対する包囲網が完全に破れていること、すなわち「米中新冷戦」がすでに大きく破綻しているということを見ることができるのではないだろうか。

一方、この一帯一路に対して、米欧側は、「債務の罠」だとの攻撃を強め、一帯一路に基づく中国の援助により途上国、グローバルサウスの国々が借金漬けに陥り、借金の形に中国に隷属化されていっているというキャンペーンを強めている。

実際、これが事実無根の誹謗中傷ではなく、こうした現実があるのは事実のようだ。

今回の「フォーラム」でも習近平主席自身、鉄道や道路建設など大規模投資中心から小規模事業投資優先、人への投資へと援助のあり方の転換を打ち出し、環境問題やきめ細かい支援を重視する姿勢を明らかにしたという。

この発言が単に米欧側の覇権の競争相手、中国に対する「債務の罠」攻撃をかわすための虚言なのか、それとも真に途上国への支援のあり方の改善を考えてのものなのかは、これからの「一帯一路」の進展がどうなるか、その現実によって判定されるのではないかと思う。

その上で、重要なことは、この開発援助こそが、米欧による援助と中国による援助を分ける決定的な違いになっているということだ。

米欧が新自由主義経済の見地から、経済自由化の法整備を強調し、市場メカニズムが貫徹されれば自ずと経済成長が実現されるというカネを出さない「援助」なのに対し、中国による援助が成長の起動力として大規模プロジェクトの必要性を痛感している途上国の要求に応えるカネを出す援助になっているということだ。

ユーラシア全土にわたる広域開発計画で、一帯一路の双方で交通、通信、エネルギー等のインフラの接続などの開発構想を提示しているのなどは、その一例だ。

今日、中国の一帯一路が「シルクロード経済ベルト」(一帯)、「21世紀海上シルクロード」(一路)の枠を超え、アフリカ、中南米、南太平洋地域にまで広がって行っているのには理由があり、この辺に「米中新冷戦」による中国包囲網が完全に破綻した要因があると言えるのではないだろうか。

小西隆裕さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

パレスチナ・ガザ地区では、イスラエルの総理・ベンヤミン・ネタニヤフ被告人※による攻撃で子どもを中心に多数の犠牲者が出ています。こうした中、広島でもネタニヤフ被告人に対してガザでの虐殺を止めるよう要求する行動が行われています。

(※イスラエルの現総理のベンヤミン・ネタニヤフ被告人は、日本の総理だった故・安倍晋三さんとほぼ同じようなことをやって、イスラエル警察に送検され、検察に起訴され、現職総理のまま被告人になっています。妻のサラ被告人も日本の安倍昭恵さんとほぼ同じことをやったとして罰金刑が確定しています。ネタニヤフ被告人は安倍さんと違い、野党共闘に打倒されましたがすぐに返り咲き、イスラエルの司法を日本の司法のように総理=行政府に忖度する司法に改悪しようとしています。)

このうち、11月3日の文化の日=日本国憲法公布記念日には原爆ドーム前でNO WAR NO KISHIDA 11・3ヒロシマ憲法集会2023が行われました。

 

広島市立大学准教授の田浪亜央江さん

各界のアピールの中では、広島市立大学准教授の田浪亜央江さんが中東研究者として発言。

「なんでこれまでもっとガザについて発信してこなかったのか? 後悔している」と振り返りました。

「かろうじてアメリカとは一線を画して中東アラブ諸国との関係を維持してきた日本が安倍政権下で特にイスラエルとの関係強化を図り軍事協力を進めてきた。その日本の責任は本当に大きい。日本のこの間のイスラエルとの軍事協力強化その動きは世界的に見ても突出している。」

「安倍政権で武器輸出3原則が変更され、原則自由、紛争当時国のみは除外するということで日本政府はイスラエルを紛争当事国と認めなかった。しかし今少なくとも、日本政府の立場に立っても今こうやって日々ガザの虐殺を進行しているイスラエルが紛争当事国でないわけはない。」と指摘。

「今私たちがすぐできることとしてイスラエルと日本の軍事協力をすぐに辞めさせることだ。自衛隊とイスラエルはもうすでに軍事協力共同研究を進めてきている。是非この場を借りてこのことを訴えたい。」と強調しました。

田浪さんたちは、毎日17時半、原爆ドーム前でガザ虐殺を止めろとスタンディングを行っておられます。じっと立ってくださるのでも構わないということです。夕方、広島市都心部に来られる方はちょっとでも良いのでのぞいてくださると幸いです。連絡先 tanami1012@yahoo.co.jp 

◆イスラエル=侵略者という原点

たしかに、ハマス政権(2006年のパレスチナ総選挙で勝利している)が、10月7日、ガザに対しては主に封鎖・武力行使、ヨルダン川西岸に対しては主にユダヤ人の入植という形で侵略を続けているイスラエルへの「反撃」を行いました。ただ、この「反撃」は民間人の拉致などを含むもので、国際人道法違反です。東京裁判に当てはめればいわゆるC級戦犯です。国際人道法は、侵略・攻撃側だけでなく、防衛側も守らなければならないものです。例えば、第二次世界大戦において、先に手を出した日本への米国の自衛権はあるが、東京大空襲や原爆投下は国際人道法に反します。ただ、世界最強の国・米国を裁けるような力を持った主体がないというだけです。

ところで、イスラエル自体が1948年の第一次中東戦争以降、とくに1967年のヨルダン川西岸やガザも含めた広範囲を侵略した第三次中東戦争以降、ずっとパレスチナ人を侵略してきました。そして、米国の仲介でパレスチナにおけるイスラエルとパレスチナの「二国家並立」で合意した1993年のオスロ合意以降も、イスラエルは約束を守りませんでした。特に、シャロン元首相が聖地訪問を強行してムスリムを挑発した2000年以降のイスラエルのやったことは酷すぎた。ヨルダン川西岸にはユダヤ人入植を続け、ガザは天井のない監獄状態に置かれてきた。そして、断続的に戦闘が行われ、多くの場合はイスラエルによるパレスチナ人への一方的な殺戮となった。上記の状況がある中で、ハマス政権による反撃が行われたわけです。

イスラエルがこの75年間ないし56年間やってきたことはいわば「平和に対する罪」であり「戦争犯罪」です。もちろん国際人道法にも反しています。東京裁判に当てはめれば、いわゆるA級戦犯、B級戦犯、C級戦犯すべてを含んでいるのが、これまでにイスラエル政府がやってきたことです。

◆G7広島、イスラエル全面支持の「こんな人たち」を集めた黒歴史だった

にもかかわらず、特にハマス政権による「反撃」当初は、米英仏独伊加といった日本以外のG7首脳は一致団結して一方的にイスラエルに与しました。言うなれば旧白人帝国主義国家の醜悪な面を嫌というほど見せつけられました。

ウクライナのゼレンスキー大統領もイスラエルを全面支持してしまいました。ウクライナについていえば、残念の一言です。侵略者イスラエルを一方的に支持したことに一片の正義もない。そして、ロシアに対する「ウクライナ防衛」という大義名分を自ら投げ捨ててしまいました。ゼレンスキー大統領は調子に乗ったのか、最近の「反転攻勢」が上手くいかずに焦っているのか、どちらかわかりませんが、ともかく、自分で自分の首を絞めてしまいました。これで、グローバルサウス諸国の中には、ウクライナーロシア戦争について「白人同士で勝手にやっておけ」という本音になってしまった国も多いのではないかと思います。ゼレンスキー大統領が支持を失うのは自業自得としても、巻き添えを食うウクライナ国民にとってはこのことは悲劇ではないでしょうか。

筆者は改めて「こんな人たち」(米英仏独伊加首脳+ゼレンスキー)を広島に集めたG7広島サミットは、広島にとって「黒歴史」だった、ということを改めて強く確信しました。

さらにこんなサミットの誘致を「評価」したり「期待」したりしてしまった、特に左派野党の政治家たちには反省していただきたいものです。

◆日本も米国の「最初は煽って後から梯子外し」にご注意!

さて、当初、米国は「ハマスは純粋な悪」(バイデン大統領)などと言ってイスラエルを煽りました。それにも支えられてネタニヤフ被告人が調子に乗って虐殺しまくっている面は否定できません。だがその後、国際的なイスラエル批判の世論を見て、だんだん、米国も一時戦闘停止などを言いだすようになりました。これをイスラエル側から見ればある種の梯子外しとも言えます。もちろん、米国でさえも距離を置かざるをえないこんな大虐殺を引き起こしたネタニヤフの自業自得ではあります。それでも、日本にとってはこれを他山の石としなければなりません。

米国の高官やマスコミは、2022年ころから2023年の前半くらいに、特に「台湾有事」を煽り立てました。それに呼応して麻生太郎さんらが「台湾(中華民国)とともに戦う覚悟」などと勢いづきました。

だが、そもそも、米国も日本も中華人民共和国が中国を代表する政府だ、と認めています。台湾を中華人民共和国軍が武力攻撃するような事態は絶対に避けなければならない。中華人民共和国とて、台湾=中華民国=の半導体には大きく依存しています。

しかし、万が一起きたとしても、日本に少なくとも武力で手出しをする権利は全くありません。「日本の安全保障に関わるから」程度で出兵したのならロシアのプーチン大統領によるウクライナへの自称「特別軍事作戦」と変わりません。日本はプーチンに対するのと同様の非難を米国以外のほとんどの国から浴びかねません。そして、「侵略者」の汚名を着た日本は中華人民共和国軍に「侵略への反撃」と称した攻撃の口実を与えてしまいます。そうなると、米国は米国で「俺たちは知らない」と米軍をグアムあたりに退避させることもあり得ます。下手をすれば南西諸島は中国軍の「日本による侵略への反撃」と称したミサイル攻撃にさらされます。またも沖縄は中央政府の捨て石にされる。本土に住む我々も、食料やエネルギーが止まり、下手をすれば日本が経済制裁の対象にでもなったら餓死よりほかなくなります。

今回のガザ戦争拡大における米国によるイスラエルを「最初は煽って後から梯子外し」について、日本人は刮目しておく必要があります。

日本国憲法9条とはまさに手を出して自滅しないようにする安全装置である。9条がありながら、台湾有事という名の中国の内戦にのめりこみ滅亡、などというバカげたことにならないよう、日本政府をチェックしなければなりません。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◆はじめに

 

10月下旬のフジTV「プライム・ニュース」では「“世界動乱の時代” の幕開けか」というテーマを取り上げた。ウクライナ戦争に続くハマスの軍事行動を契機に露わになった世界の現実を「(米国中心の)国際秩序の破綻か」としてとらえたものだった。

2023年は「パックスアメリカーナ(アメリカによる平和)の終わり」を世界が見、なかでも日本の誰もがそのことを知るようになった年になった。来るべき新年は「米覇権秩序の破綻」という現実を前提にこれにどう対処するかが問われるだろう。

とりわけ米国によって「対中対決の最前線」の役割を担わされたわが国にあって、それは明日のわが国の運命に関わる問題、他人事ではない。

◆「G7の孤立」さらした広島サミット

5月末にG7広島サミットが開催された。米国を中心とする「G7=先進国」が世界をリードするという会議だ。ここにはロシア制裁、ウクライナ支援に中立的態度をとるグローバルサウス数カ国首脳が招待され、目玉はゼレンスキー大統領出席の下、ウクライナ支援を世界に訴えるというものだった。

G7の「普遍的価値観、法の支配に基づく国際秩序」はG7会議が自ら認めるように、いま時代の厳しい挑戦を受けている。挑戦者は何も中ロ「修正主義勢力」だけではない、いまグローバルサウスと呼ばれる発展途上諸国が古い国際秩序から離反しつつある。

広島サミット後、G7に招待されたグローバルサウス諸国はこうG7を批判した。

「ウクライナとロシアの戦争のためにG7に来たんじゃない」(ルラ・ブラジル大統領)。インド有力紙は「ゼレンスキー氏の存在に支配されたG7」見出しの記事を配信。インドネシア有力紙は「世界で重要性を失うG7」見出しの記事を掲載、ベトナム政府系紙は「ベトナムはどちらか一方を選ぶのではなく、正義と平等を選択する」と書いた。

広島サミットはグローバルサウス諸国を取り込むどころか彼らの離反を招き、逆に「G7の孤立」を世界にさらす場になった。

8月、南アで開催のBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)首脳会議では新たにサウジアラビア、アルゼンチン、イラン、アラブ首長国連邦、エジプト、エチオピアの6ヶ国の参加が認められ、BRICSはG7とは一線を画する新興国の国際秩序形成の巨大集団になった。

また9月にインドで開かれたG20首脳会議ではG7諸国が求めたウクライナ問題、「ロシアの侵略」明記やロシア非難の文言のない首脳宣言が採択されたことが世界の注目を集めた。また会議ではAU(アフリカ連合:20ヶ国網羅)の加入も決定され、G20でもG7先進諸国は全くの少数派に転落した。

今年、英国エリザベス女王の国葬の際、アフリカのある首脳は「女王は一度も植民地支配への謝罪の言葉を述べなかった」と不満を語った。また5月のチャールズ国王戴冠式の際にはインドと英国の間で若干もめごとがあった。カミラ王妃が即位式でヴィクトリア女王の王冠をかぶるかどうかを巡って起こったものだが、王冠の巨大なダイヤモンドは英国がインドから奪ったインド植民地化の象徴だったからだ。結果はその王冠をかぶらなかったが、インドは不快感を示した。7月に西アフリカのニジェールでは若手将校によるクーデターが起き、駐留フランス軍は年内撤収に追い込まれたが、いまも植民地主義の名残がしこりを残していることを示すものだった。

G7の「米欧日」先進諸国というのはかつての植民地主義者、帝国主義列強諸国だが、「韓国併合」を(当時の)国際法的に合法とする日本だけでなくかつて自分がやった植民地支配をまともに反省総括した国はどこにもない。「反省の模範」とされるドイツにしても「ナチスの残虐性」を反省しただけ、植民地主義に関しては反省も謝罪もない。米英仏「連合国」側の諸国は自分たちが「反ファッショ」正義の「民主主義国」側ということで反省の必要も感じていない。

だから「G7がリードする」米国中心の国際秩序はかつての植民地支配秩序の現代版「覇権秩序」に過ぎないことをグローバルサウス諸国は知っている。 

よって彼らがBRICSやG20でめざす国際秩序は、各国の主権尊重、内政不干渉、紛争の平和的解決といったASEANのような脱覇権の新しい国際秩序形成をめざすものになるだろう、パックスアメリカーナ、米覇権専横の時代は歴史の遺物として排斥される。

◆とどめを刺したハマスの先制的軍事行動

「パレスティナ置き去り-焦り」(読売10/9朝刊)-10月8日のハマスのイスラエルへの先制的軍事行動に対するマスコミの見方だ。サウジアラビアがイスラエルとの国交交渉に入り、UAE(アラブ首長国連邦)はすでに国交を結んだ、こうしたアラブ諸国の動きに「置き去り」にされるとの「焦り」をハマスの今回の軍事行動の理由としたが、果たしてそうだろうか?

そのような消極的なものではなく、パレスティナ国家樹立に向けた主導的、攻勢的、戦略的な観点に基づくものだという見方も可能だと思う。

その根拠は一言でいって、いまは米国の覇権力が衰亡段階にあることが明らかであり、よって米国の支えのないイスラエルなど怖くないとハマスが判断することはじゅうぶんありうることだ。

米国はいま、主戦場の対中対決に加え、ロシアの先制的軍事行動によるウクライナ戦争で「対ロ」の加わった二正面作戦を強いられ青息吐息なのに、このうえ「対中東」が加わる三正面作戦などとうてい耐えられるはずがない。だからいまはイスラエルとの戦争は負けない、いや勝てる-私たちにも想像できることが当事者のハマスにわからないはずがない。

事実、ハマス侵攻からほぼ1ヶ月も経った現在(10/31)、大量の戦車部隊待機のままイスラエルは空爆だけに終始している。イスラエル軍ガザ地区制圧戦争は北部の局地的侵攻に留まり「かけ声」だけに終わっている。「地上侵攻でハマス殲滅、ガザ地区完全制圧」を叫び、やられたら「十倍返し」が通例のイスラエル軍としては異例の事態になっている。米バイデン大統領自身「人質救出まで侵攻を停止するように」とイスラエルに圧力をかけたということだが、「人質救出」は「口実」、本音は「戦争にはするな」にある。最近は「中東地域派遣の米軍が攻撃を受けるから(実際、ヒズボラやフーシ派から無人機、ロケット攻撃を受けた)しばらく侵攻を控えてほしい」などと言い出している。

米国、イスラエルに戦意がなければいずれ停戦合意は成り、パレスティナ問題解決が国連などで上程され、発言権を失った米国に代わってロシア、中国、グローバルサウスの非米諸国が主導する解決案をイスラエルも受け入れざるを得なくなる事態に進むかも知れない。少なくともその可能性を秘めている。宿願のパレスティナ国家樹立も夢ではなくなる。

米ロ代理戦争のウクライナ軍「反転大攻勢」が半年以上も「かけ声倒れ」に終わり、最も軍事支援に積極的だったポーランド大統領が「ウクライナは溺れゆく人、なんにでもしがみつく。危険だ」とまで言うようになったが、ウクライナ事態に続く中東でのハマスの軍事行動は「米国の無力ぶり」を世界が知る上でとどめを刺したと言えるだろう。

◆動揺始まる日本の政界

2023年を通して「国際秩序の破綻」、すなわち「パックスアメリカーナの終わり」は、ウクライナとパレスティナでの戦争を通じて世界が眼にすることになった

米国によって対中対決の最前線を担う決断を迫られているわが国の政治家、政治勢力もこの「時代の潮目の変化」を誰よりも注視しているはずだ。先の鈴木宗男氏の大胆な訪ロ行動と「ロシアは勝つ」発言も「米国の終わり」を見越したものだろう。岸田派古参幹部の古賀誠氏は「日米安保に引っ張られすぎるのは危険だ」と岸田政権を批判した。対中対決を迫る米国との「無理心中」を躊躇する政治家、政治勢力が出てくる、いや、すでに出ていることを示すものだと思う。

新年に持ち越されたが「日本の代理“核”戦争国化」は米国の対中対決、対中“核”抑止力強化で譲れない日本への要求だ。これは何度もこの通信に書いたので詳細は省くがいつか必ずこれを押しつけてくる。「米国の終わり」の見えるいま、「米国との無理心中」を躊躇する政治家、政治勢力が出てくるだろうが、誰かを待つのではなく「無理心中拒否」の闘いを主導する政治家、政治勢力が出るべき時だと思う。

米国も日本国民の非核意識を恐れて虎の尾を踏まないように慎重に事を運んでいる。それは彼らの弱点でもあるということだ。ハマスの先制的軍事行動とまで行かずとも、主導的に非核を掲げ「核持ち込み」「核共有」を許さない「代理“核”戦争国化」阻止の積極的闘いを挑む時、日本人の性根が問われる時に来ている。

ピョンヤンからは「時代の風」を伝えることしかできないが、国内からこのような闘いが起こることを新年は期待している。いまはそのような時だと思う。

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

イスラエルのギラッド・コーヘン駐日大使は10月13日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で記者会見し、その中で10月11日にBS-TBSで放送された「報道1930」で、ジャーナリストの重信メイ氏が出演したことを問題視した。


◎[参考動画]イスラエル「総攻撃に移行する」“天井のない監獄”の現状は?【10月11日 TBS-BS 報道1930】|TBS NEWS DIG

重信メイ氏は、国際テロ組織、日本赤軍を率いた重信房子・元最高幹部の娘である。それゆえコーヘン氏は、メイ氏の番組出演が「市民を暗殺しても構わない」というメッセージを送ることになると主張。「殺人者やテロリストの一族」に発言の場を与えるべきではない、などと話した。

だが、これをウクライナ戦争の現状に例えてみれば、コーヘン氏の主張は珍妙極まりないものになる。現在、複数の日本人がウクライナ戦争および近隣国に「義勇兵」「医療スタッフ」「ボランティア」として参加しているが、誰がかれらを「テロリスト」と呼ぶだろうか?

イスラエルは、1936年のパレスチナ独立戦争を受けたピール委員会裁定(イスラエルはパレスチナの15%を国土とする)いらい、入植地を拡大することでアラブ人を隔離地に追いやってきた、いわば侵略国家なのである。ヨルダン川西岸・ガザ地区を隔離し、いわば「21世紀のアパルトヘイト政策」を行なっているのが、イスラエルなのである。

ロシアのクリミア併合、ドンバス併合が明らかに侵略戦争・領土分割であるとしたら、イスラエルのパレスチナ侵攻も、まちがいなく侵略戦争・領土併呑である。いまわれわれは、人間的な尊厳をかけてロシアと戦うウクライナ人を、英雄的だとすら称賛する。侵略者が占領地のロシア化、強制連行、殺戮やレイプを重ねるがゆえに、ウクライナ人の悲惨な現実に支援を惜しまない。

ロシアの侵略行為を許すならば、東ヨーロッパ(旧ソ連圏)全体が、あるいは極東がプーチンの専制支配に蹂躙される可能性があるからだ。パレスチナで起きていることも、侵略という本質は同じである。


◎[参考動画]イスラエルとパレスチナ双方の大使が都内で会見 互いに非難(2023年10月14日)

◆重信房子のハーグ事件への関与は立証されていない

日本赤軍はPFLP(パレスチナ民族解放戦線)の支援組織として、いわば公募ボランティアから出発し、のちに軍事作戦に従うことになるが、いわば義勇兵的な参加形態であった。

重信房子個人で言えば、ハーグ事件(オランダのフランス大使館襲撃・人質事件)の共同共謀正犯として起訴されたが、事実関係は公判でも明らかにされていない。ライラ・ハリド、カルロス(この事件の主導者)も、重信の関与を否定している。
コーヘン駐日大使は、リッダ事件にも言及している。

「私が尊敬するTBSのニュースで、50年前にイスラエル人を殺害した、重信の娘にインタビューしているのを見た。重信の娘は、日本のテレビでコメンテーターをしていた。これは何だ?」

日本赤軍(当時は赤軍派)は1972年5月、イスラエル・テルアビブのリッダ空港(現ベングリオン空港)で約100人を死傷させた銃乱射事件を起こしている。この点を念頭に置いた発言だが、じつはこの事件は民間人の死者の大半が、イスラエル兵の銃射撃だったことも明らかになっている。

すなわち、当初は管制室を襲撃するはずだったものが、警備のイスラエル兵と銃撃戦になり、民間人を巻き込んだ惨劇となったのだ。そしてこの作戦はPFLPが立案し、奥平剛士と安田安之、岡本公三が「パトリック・アルグレロ隊」(名称の由来は、70年にPFLPの作戦で殉死したニカラグア人)として参加したものだ(重信房子『革命の季節』『戦士たちの記録』幻冬舎刊参照)。当時の重信房子はPFLPの広報部の仕事を手伝っていて、作戦そのものに関与していない。


◎[参考動画]重信房子(元・日本赤軍) 第17回反戦・反貧困・反差別共同行動 in 京都での挨拶(2023年10月15日)

◆ハマスを生み出したのは、イスラエルである

コーヘン駐日大使への我々からのメッセージとして、あえてイスラエルをテロ国家と規定しよう。

なぜならば、遠因がイギリスの二枚舌外交(パレスチナにアラブ国家とユダヤ人国家を約束)にあるとはいえ、入植地の一方的な拡大と、自国民保護の名目で軍事占領、殺戮と隔離政策を推し進めてきたのが、イスラエルにほかならないからだ。
かつてのPFLPの抵抗も、現在のハマスの軍事行動も、イスラエルの侵略に原因があるのだ。

すでに75年にわたって、殺戮と蹂躙、血の報復が行われてきたパレスチナで、イスラエルはガザ地区への地上軍事侵攻、すなわちジェノサイドサイド(大量虐殺による民族浄化)に出ようとしている。そしてわれわれ日本人にとって、パレスチナ紛争はよくわからない問題である。

誰かに訊いてみるといい。パレスチナ紛争が侵略戦争であり、自分の住む家をうしなった難民問題であることを、どれほどの日本人が知っているだろうか。宗教紛争だと思い込んでいる日本人も少なくないはずだ。それゆえに、パレスチナ問題を熟知している重信房子、メイ母娘が解説につとめることが、いまの日本には必要なのだ。


◎[参考動画]【オプエドLIVE】重信メイ【緊迫の中東 戦火の根源を探る】(2023年10月18日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年11月号

 

本日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年11月号

8月24日に始まった、東京電力福島第一原発から発生する核汚染水の海洋放出。1回目が9月11日に終了。第2回が10月5日に始まり、2023年度は4回に分けて予定されています。9月24日付の福島民報は、「廃炉作業に必要な施設整備のためにタンクを撤去する方針だが、タンクの解体で出る廃棄物の減容化や置き場の見通しは立っていない」と報道。政府はこれまで汚染水海洋放出について、「廃炉作業を安全に進めるためには、新しい施設を建設する場所が必要となり、タンクを減らす必要がある」と説明してきました。しかし、そのタンクの処分方法が決まっていないということは、廃炉のプロセスが未定であり、少なくとも現在行なわれている海洋放出は、廃炉にまったく結びついていないということです。本誌9月号では小出裕章・元京都大学原子炉実験所助教が、海洋放出の真の目的を「トリチウムが放出できないとなれば、核の再処理ができなくなるため」と喝破しました。そのとおり、日本政府はとにかく海に捨てたいだけです。

市民団体が9月1日に、海洋放出を強行した岸田首相、西村康稔経済産業相、小早川智明東電社長ら5人を刑事告訴したほか、「ALPS処理汚染水差止弁護団」(共同代表・広田次男、河合弘之、海渡雄一各弁護士)が9月8日、福島地裁で海洋放出を差し止めるため民事で提訴。その詳細を本誌でレポートしています。さらに今月号では、元『科学』(岩波書店)編集者で富山大学准教授の林衛氏に、トリチウムだけではない、「ALPS処理水」の危険性を示す科学的事実を聞きました。福島原発のデブリの処理は100年以上かかるといわれ、ならば汚染水海洋放出も100年を超えて行なわれることになります。これを止めることこそ、私たちが現在向き合うべき課題です。

麻生太郎自民党副総裁に「政権のがん」と言われた公明党。「平和の党」「政権のブレーキ役」を“金看板”として自称する彼らとすればお褒めの言葉となるのでしょうが、公明党は敵基地攻撃能力について専守防衛の立場から反対したことはないとして、麻生発言は「事実誤認」と弁解する体たらく。そして、軍事三文書が昨年末に易々と閣議決定したのは周知の通り。岸田軍拡で日本国民はすでに5年間で43兆円の支出を迫られ、“中国の脅威”でさらに増額となることも予測されます。しかも、日本政府はすでに発表しているウクライナへの総額1兆円の支援に加え、世界銀行からの復興支援金15億ドル(約2230億円)についても保証。国民の命と金を際限なく差し出すのが岸田政権、というより、すでに岸田首相の意図すら関係なく、事態が動いているのかもしれません。

今月号の足立昌勝氏の論考も指摘しているとおり、地域の平和は地域で、つまりアジアの平和を求めることこそ、あらゆる点で理にかなっているということでしょう。そのために、日本の戦後処理を総括する必要があります。関東大震災における朝鮮人虐殺も、もちろんそこに含まれます。ほか今月号では、“被災地”が高い壁に覆われたハワイ・マウイ島火災にまつわる大手メディアが書かない数々の“疑惑”、「XBB対応」のコロナワクチンが日本だけ接種拡大の“現実”など、ぜひ全ての方々に読んでいただきたいレポートを多数掲載しています。ジャニーズ以外にも「マスメディアの沈黙」といえる事例は社会に山積しており、そこに光を当てることこそ本誌の役割です。今月号も、書店でお見かけの際はぜひご一読をお願い致します。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年11月号

『紙の爆弾』2023年11月号

林衛富山大学准教授に聞く原発汚染水海洋投棄 
日本政府「安全」のウソ
原発事故汚染水 西村康稔経産大臣が無視する海洋放出の“損害額”
映画『福田村事件』原作者に聞く朝鮮人虐殺百年 
日本の“現在地”
ジャニーズ性加害問題 マスコミが触れない“本質”
ジャニーズよりも悪影響
創価学会に屈し続ける「メディアの沈黙」
旧統一教会「解散命令請求」めぐり自民党の“出来レース棄却”
辺野古裁判“敗訴”を機に日米地位協定の闇を問い直す
小渕優子・木原誠二起用の裏側
第二次改造内閣にみる岸田政権終焉の予兆
自然災害か、それとも人為的な破壊工作か?
日本企業も関与するマウイ島大火災の“疑惑”
立憲民主党・原口一博衆院議員インタビュー 
コロナワクチン「日本だけ接種拡大」の現実
米国覇権回復に向けた謀略的内実「統合の時代」と日本
アフリカで続く動乱の背景に欧米「新植民地主義」
“アメリカの戦争”への協力体制確立
合意された「米日韓軍事同盟」
茶坊主事務所のアイヒマン——
男色カルト集団を増長させてきた日本“令和の敗戦”
シリーズ 日本の冤罪43 続・日野町事件

連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
ニュースノワール 岡本萬尋
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
キラメキ★東京漂流記 村田らむ
裏から世界を見てみよう マッド・アマノ
権力者たちのバトルロイヤル 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

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