◆代理“核”戦争国化の鍵、「有事の際の核使用協議体」

日米韓キャンプデービッド首脳会談を前にした本連載(8月5日付けデジタル鹿砦社通信)で次のように書いた。

“主要議題について「“核の傘”を含む米国の拡大抑止の強化も議論するとみられる」とすでに報道にあるように、日米韓“核”協議体創設について何らかの合意をめざす、これが米バイデン政権の狙いであろう。”

でも今回、このような合意は見送られた、しかし何としてでもこれを実現したい米国はきちんと布石を打ってきた。このことを以下、見てみたい。

なぜこれほど米国は日本の代理“核”戦争国化、そのための「有事における核使用に関する協議体」創設にやっきになるのか? 焦るのか? このことは8月5日付け本連載で詳しく述べたが、重要な問題なので視点を変えて、まずこのことを考えてみたい。

日本の代理“核”戦争国化は、米国にとって米中新冷戦戦略に必須不可欠の死活的課題だ。その理由は、対中対決で米核抑止力、特に戦域核領域、具体的には核運搬手段である戦術ミサイル(中距離ミサイル)分野では質量的に中国、朝鮮に圧倒的に劣り、「抑止」が効かない、つまり「威嚇」になっていない、そして戦争になれば必ず負けるというコンピューターシュミレーションの結果も出ている。

この劣勢挽回の切り札が「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」だ。

米国は戦略核ミサイル、ICBM(大陸間弾道弾)を使えば自国が核報復攻撃で壊滅的打撃を受けるから使う気はない。だから対中対決最前線と位置づける「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」が死活的課題になっている。

すでに岸田政権が閣議決定した「安保3文書」で敵基地攻撃能力保有、自衛隊に地上発射型「中距離ミサイル部隊」新設が決まった。最後に残った課題は、「核共有」論に基づく自衛隊の核武装化、そのためのNATO並みの「有事における核使用に関する協議体」創設だ。その切り札が韓国を巻き込んだ日米韓“核”協議体創設だと米国は考えている。

一言でいって、いまこの“核”協議体創設こそが対中対決で生死を決める最後の課題として残った。だがこれが簡単でないこともわかる。だから米国は必死だ、いやいまは焦っている。

では今回のキャンプデービッド会談でいかにその道筋をつけたか? このことについて見てみたいと思う。

◆「前のめりの米国」と書いた朝日

キャンプデービッド会談を評して朝日新聞(8月20日付け)はこう小見出しに書いた。

「前のめりの米 日韓のズレに懸念も」

「前のめり」ということは事を急いでいる、焦っているということだ。米国は何を急ぎ、なぜ焦るのか?

別の記事の見出しにはこうあった。

「日米韓、核戦略では温度差」

その内容はこうだ-「日本では核関与に前のめりな韓国への警戒心が強い」、首相官邸のある幹部は「(韓国に)取り込まれすぎるわけにはいかない」-要は「北朝鮮の核」対抗に積極的で「有事の核使用に関する協議」に前のめりの韓国に日本が引っ張られることへの警戒心が日本政府内にあるという「日韓のズレ」がある。この問題ではいちばん「前のめりの米」という朝日の評価は、「日韓のズレ」がわかるだけに「日米韓“核”協議体創設」合意を急ぎ焦らざるを得ない米バイデン政権の悪あがきを反映したものであろう。

非核を国是としてきた日本政府はできるなら国民の反発を受けるこの問題を避けたい、しかし岸田政権はこれが避けられない米国の強い要求であることもわかっている。本音は国民を説得する(世論を欺く)時間的余裕がほしいということだろう。

しかし「時間的余裕」はない。日米韓首脳会談を前に「日米韓でも拡大抑止(核)の協議を進めたい」とバイデン政権高官は述べた。そしてすでに4月末の尹錫悦((ユン・ソクヨル)大統領「国賓」訪米時、米韓間には米韓“核”協議グループ(NCG)新設が合意され7月には実務協議も稼働した、これに日本を引き入れ「日米韓“核”協議体」に発展させる、これが米国の最終的狙いだ。

このための仕掛けはすでに準備されている。

◆「仕掛け」役・尹錫悦(ユン・ソクヨル)

米国の狙う日本の対中・代理“核”戦争国化、その仕掛け役に任じられたのが韓国の尹錫悦大統領だ。

周知のように日韓関係「改善」を主導したのは尹大統領だ。彼は元徴用工賠償金問題で最悪化した日韓関係を「打開」すべく「賠償金の韓国立替」という離れ業をやった。このような韓国国民の猛反発を呼ぶ「売国行為」を敢えて犯してまでも日韓首脳会談開催につなげた。

 

『核の傘』日米韓で協議体創設、対北抑止力を強化……米が打診(2023年3月8日付け読売新聞)

尹大統領の「勇断」(バイデンの言葉)によって日韓首脳会談のメドが立った3月6日から二日後の8日、読売新聞は米国が日韓政府にこのような打診をしてきたことを伝えた。

「“核の傘”日米韓で協議体の創設」を! 

これを受けた尹大統領は4月末の「国賓」訪米時の「ワシントン宣言」に米韓“核”協議グループ(CNG)創設を謳った。これが日米韓“核”協議体創設の布石であろうことは明白だ。

今回のキャンプデービッドでの米韓首脳会談ではこのCNG稼働をバイデンが高く評価し、先述の言葉「日米韓でも拡大抑止(核)の協議を進めたい」を米政府高官に言わせた。

すでに韓国は「対北朝鮮・代理“核”戦争国化」に一歩足を踏み入れた。次ぎにこれを日本の「対中・代理“核”戦争国化」につなげる、その「仕掛け」役を「確信犯」尹大統領が果たして行くであろうことは疑いない。

◆「日韓を固定し米国を固定する」の意味

米国の執拗さと焦りの表現としてあるのが、今回の会談で日米韓首脳会談、閣僚級会談の毎年定例化、次官級協議の不定期定例化を「制度」として決めたことだ。

これを「日韓をフィックス(固定)し、米国をフィックスする」ことだと米政府高官は述べた。英語で「フィックス」は「動かないようにする」という概念だ。日本側からすれば「動けないようにされる」、縛り付けられるということになる。

読売社説はキャンプデービッド会談の意義を「今回の合意が極力継続するよう(日米韓)協力の枠組みを“制度化”したこと」としたが、制度化(固定化)しなければ揺らぐほど日米韓協力はもろいものだということの裏返しの表現でもある。

「日韓のズレ」は根強い、今回の日米韓首脳会談を論じる「プライムニュース」出演の日本の識者、政治家は「日韓の壁」「朝鮮半島の軍事は鬼門」「韓国とリスク共有は“?”、つまり疑問」とすべて悲観的だ。米国からすれば、だから日韓を「固定化」(会談の制度化)し「韓国とリスク共有」を渋る日本の尻を叩く必要があるということだ。

また韓国の尹錫悦政権は脆弱だ。大統領選でも僅差でやっと勝った、また国会は野党、共に民主党が絶対多数を占め政権側の法案も否決される場合が多い。それを強権で乗り切っているのが尹錫悦大統領だ。次期、大統領選では政権が変わる可能性が高い。だから政権が変わっても「今回の合意が極力継続するよう協力の枠組みを制度化」(読売社説)したのだと言える。

キャンプデービッドで日米韓「固定化」を強要したのも米国の焦りの表現だ。

今回、日米韓“核”協議体創設合意は見送られたが、「制度化」された首脳級、閣僚級会談、次官級協議で日本をフィックスし、がんじがらめに縛り付けた上で日米韓の「有事に関する核使用に関する協議体」創設は強引に進められるだろう。

◆「無理心中」同盟

いま西の米国の対ロ対決・代理戦争、ウクライナ戦争での米国の敗北は避けられないものになっている。

5月頃から「反転大攻勢」のかけ声勇ましいゼレンスキーだが、最近の「南部戦線でロシアの第一防御線突破」報道はあったが地雷原を越えた程度であり、2.5メートルという深い塹壕戦防御陣形をとるロシア防御線の戦車突破は至難の業だ。新聞報道ではもしこのまま冬が来ればぬかるみになる戦場で戦車も動かせなくなる。だから「戦果」を焦る米国はウクライナ軍を分散配置ではなく南部に集中させることをゼレンスキーに「勧告」、その結果がこの程度の「戦果」だ。ぬかるみが固まる来年春か初夏までゼレンスキーには何の「戦果」も得られない、「反転大攻勢」は空文句に終わる。このままでは来年以降の欧州諸国の「ウクライナ支援」は確実に動揺する、そう報道は伝えている。

ウクライナ国防相解任があったが兵士用の食糧、衣服が市場価格の2~3倍で購入され差額は汚職されたからだ。徴兵募集当局もワイロで「兵役免除」汚職蔓延で更迭改編されるなど醜態の続くゼレンスキー政権が国民から見放される日も遠くはないだろう。こんな代理戦争で誰が愛国心に燃えて「祖国防衛戦争」に命を懸けられるというのだろう。

フランスのマクロン大統領は訪中後、「欧州は対米従属を続けるべきではない」と言明して世界を驚かせた。英国を除く他の欧州諸国も心の中ではそう思っている。

ウクライナ戦争での敗北は米覇権の衰退滅亡を早める。それだけに東の米中新冷戦戦略実現に米国は自己の覇権の死活を賭けてくる。その矛先は対中対決・最前線とする日本の代理“核”戦争国化だ。

いまや「米国についていけば何とかなる時代ではない」どころか「覇権破綻の米国と無理心中するのか否か」が問われる時代になった。

今回のキャンプデービッド会談は日米韓「無理心中」同盟を日本に迫るものになったとも言える。

焦れば焦るほど米国の強引さは苛酷になるのは必至だ。岸田政権にこれを拒む力はないだろう。現在のままの野党政治勢力に期待するのも難しい。では希望はないのか?

◆希望はある

いま国民の間でタモリの「新しい戦前」という言葉が共有されつつある。これは日本という自分の国の運命を憂える心、自身の運命を日本に重ねる憂国、愛国の心の萌芽とも言える。この「新しい戦前」の正体が対中・代理“核”戦争国化、米国と「道連れ心中」の道であることが国民の共有する「身に迫る危険の正体」の認識になって、この憂国、愛国の心が大きな塊になれば、「新しい戦前」阻止の力になるだろう。


◎[参考動画]タモリ「(来年は)新しい戦前 になるんじゃないですかねぇ」(テレビ朝日『徹子の部屋』2022年12月28日放送)

いま政界再編に向けた動きが活発化している。その動きの底流には「新しい戦前」阻止の政治勢力の存在がかいま見える。

最近、岸田派(旧宏池会)古参幹部のハト派、古賀誠氏が次のような発言で岸田政権を批判した。

「日米安保に引っ張られすぎるのは危険だ」と。

古参の自民党政治家には「新しい戦前」の正体が何かはわかっているはずだ。

いま政界再編は二つの「改革」を巡るものになる可能性を秘めている。

一つは親米「改革」、日本の対中・代理“核”戦争国化、そのための日米統合「改革」推進勢力だ。

いま一つはその逆の改革を志向するいわば「新しい戦前」危惧の憂国、愛国の政治勢力だ。それはまだ萌芽にすぎないが、この政治勢力と「新しい戦前」危惧の国民の声が合体すれば大きな力になる可能性を秘めるものになる。

希望はある。だから希望実現に少しでも力になれるよう私たちも「ピョンヤンから感じる時代の風」発信を続けていく。

若林盛亮さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

◆低下した米国人の愛国心

今年3月、ウォールストリート・ジャーナル紙とシカゴ大学の合同最新世論調査結果が発表された。それによると、この間、米国人の愛国心には非常に注目すべき変化があったという。愛国心が極めて重要と答えた人が全体の38%、ある程度重要と答えた人が35%だった。これは、1998年度における同様の調査で、極めて重要と答えた人が70%だったのに比べた時、驚くべき変化だという。

同様の結果は、ギャラップ社の調査からも報告されている。昨年、米国の建国記念日当日、この日を米国人として非常に誇りに思うと答えた人は38%に過ぎなかった。2001年以来、同社の調査で、55%を下回ったことは一度もなかったことを考えた時、この急激かつ大幅な下落は、一体何を意味しているのだろうか。

これまで、移民の国と言われ、多様な人種、宗教などからなる米国を一つにまとめる精神的拠り所として、愛国心は決定的だった。そこにこそ、建国以来、南北戦争など幾多の危機を乗り越えてきた米国のエネルギーの源泉があったと言うことができる。

その愛国心が今なぜこうなってしまったのか。その原因について考えるのは、意味のあることだと思う。

◆なぜ低下したのか、米国人の愛国心

米国人の愛国心低下の原因について考えた時、それは、第一に米国人自身の変化に、第二に米国という国そのものの変化に求めることができる。

第一について言われているのは、米国人の個人主義の深まりだ。

先のウォールストリート・ジャーナル紙は、「多くの人々が自分の権利をより重視するようになり、並行して自分のコミュニティへの関与の度合いが減ってきている。米国人としての共通の価値観よりも、それぞれが持つ異なる人種的、文化的バックグラウンドへ関心が集まり始めている」というある塗装業者(33歳)のコメントを載せている。

それも一理あると思う。だが、個人主義の深まりは、何も今に始まったことではない。

移民の国、米国の共同体としての歴史は長くない。もともと強い個人主義、それが米国の特徴だと言われてきた。

その上に、グローバリズム、新自由主義がそれを一段と促進したのは事実だと思う。「国の否定」、「格差、差別の拡大」、そこから少なからぬ人々が自らの人種的、文化的バックグラウンドに関心を持ち、自分の世界、自分の価値観に引きこもるようになったのは十分に考えられる。

しかし、それだけではない。米国人の愛国心低下の原因として一層深刻に考えられるのは、米国という国そのものの変化だ。一言で言って、米国が米国人にとって、愛し信じて誇るべき国ではなくなってしまったと言うことだ。

今世紀に入りながら、米国の政治は「1%のための政治」と言われ出した。長期に渡る経済停滞と拡大する貧困、産業の空洞化と寂れ行くラストベルト地帯、それとは対照的に、繁栄と栄華の極みを尽くす「金満ウォール街」。

一方、イラク、アフガン、シリアへと続く反テロ戦争の広がりと泥沼化。米国人にとって、それは、「世界の警察」としての虚構が完全に打ち砕かれる過程であったのではないか。

それに加えてさらに深刻なのは、人種、民族が融合しているのではなく、サラダボール状になっていると言われる米国社会のさらに深まり拡大する分裂、分断だ。それは、泥仕合の様相を呈する民主党と共和党の対立激化などと相まって、収拾のつかないものになってきている。

人々が身を委ね、運命をともにする国としての体をなさなくなってきている米国にあって、人々の愛国心が低下するのは必然だと言えるのではないだろうか。

◆戦後日本政治と愛国心

戦後日本の政治にあって、愛国心が主張されたり、人々の愛国心に訴えて政治が行われたりすることがほとんどと言っていいくらいなくなった。極少数の極右の人々を除き、右も左も愛国心は、禁句になった感がある。

「愛国」で始められた第二次大戦は、それへの裏切りで幕が下ろされた。以来、日本の政治において、「愛国」は、軍国主義の代名詞とされ、ほとんど使われないようになった。

もう一つ、戦後日本政治で「愛国」が言われなくなった理由がある。そこに介在していたのは、もちろん「米国」だ。

元来、他国を支配し統制する覇権と愛国は相容れない。と言うより、覇権国家にとって、被覇権国家の国民が持つ愛国の心は邪魔者であり敵対物だ。実際、米国による日本に対する覇権は、日本人の愛国心の抑制の上に成り立ってきたと言っても過言ではない。

だから、米国にとって、戦後日本政治で「愛国」が軍国主義の代名詞になり、禁句になったことは、もっけの幸いだったと言えると思う。

そうした条件の下、米国は、日本をただひたすら「米国化」してきた。その結果、メシからパンへ、石炭から石油へ、日本の社会と経済、政治、軍事から文化に至るまで、そのあり方の総体が米国化されたと言っても決して過言ではない。

そして今、米国は、自らの覇権回復戦略、「米対中ロ新冷戦」を引き起こしながら、その最前線に日本を押し立て、日本に「東のウクライナ」として対中対決の代理戦争をやらせるため、今まさに日本の米国化を全面化してきている。駐日米大使ラーム・エマニュエルがその大使への指名承認公聴会で「日米統合」に力を尽くすことを誓ったのはそのことだと言うことができる。

事態は簡単ではない。もはや日本人の愛国心そのものが風前の灯火となり、完全になくされてしまう時が来たということか。

だが、そんなことにはならないと思う。スポーツなどで、日本人や日本チームを応援する心、その活躍を喜ぶ心は、愛国心ではないのか。科学技術などで、日本の立ち後れを知った時、それを残念に思い悔しい思いを抱くのも愛国の心ではないのか。

自分の国、自分の故郷や家族、自分の集団を思い、気に掛け、愛するのは、社会的で集団的な存在である人間の本質的な特性だと言える。

今、日本に求められているのは、そうした日本人自身が持つ愛国の心に応え、訴える政治をすることだと思う。それこそが日本を「東のウクライナ」への道から救い出す唯一の道ではないだろうか。

◆今、求められる真の愛国政治

戦前、日本政府は、うち続く帝国主義相互間の覇権抗争の中、日本国民の愛国心を利用して、「鬼畜米英」を煽り、帝国主義間抗争に勝ち抜く「愛国心」をたきつけて軍国主義をやり、あの戦争を敢行した。

こうした戦前の政治と今、「米対中ロ新冷戦」を前に日本に提起されている政治、この二つの政治の間には、前者が帝国主義為政者の侵略的野望から出発し、日本国民の愛国心をそれに利用したのに対し、後者が日本国民自身の持つ愛国の心から出発し、為政者がそれに応え訴えることが問われているという本質的な違いがある。

この本質的違いを前に、今の為政者に問われていることは、自分の政治的、政策的目的、意図から出発し、その実現のために国民の愛国心に対するということがあってはならないということではないだろうか。もし、自分の政治的、政策的目的のために国民の愛国心を利用するということがあったなら、それは、戦前の帝国主義者と同じであり、国民の愛国心を奮い起こして米国の策謀を打ち破ることは決してできないと思う。徹頭徹尾、国民大衆の愛国の心から出発し、その実現のために闘うこと、この真心にのみ闘争勝利の鍵があるのではないだろうか。

今は、帝国主義覇権の時代ではない。戦後78年、生き延びてきた米覇権も、国と集団そのものを否定する究極的覇権思想、グローバリズムと新自由主義が破綻する中、覇権生き残りの最後の手段、「米対中ロ新冷戦」にしがみつきながら、ウクライナ戦争とともにその最後の時を迎えているように見える。

覇権VS愛国、時代は、明らかに反覇権・自国第一・愛国の時代になっている。先の広島G7にあって、招待されたグローバル・サウス諸国のゼレンスキー支持拒否の一致した行動は、そのことをこの上なく明瞭に示していた。

この世界に広がる愛国の時代に、日本国民の間に生まれた「新しい戦前」、脱戦後の意識、まさにこうした自分の国である日本を憂いながら、あくまでそこに身を委ね、運命をともにする国民大衆の愛国の意識に応え訴える闘いを起こしていくことこそが今切実に求められているのではないだろうか。

小西隆裕さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

「小出裕章―樋口英明」対談を去る7月20日松本で両氏にお願いした。松本での対談は昼過ぎからはじまり、前半後半あわせると6時間近くに達した。

『季節』は脱・反原発を中心に据えた季刊である。対談の冒頭、小出さんは原発問題の重要性と同様に「戦争」について発言された。戦争についての認識はお二人の間に少し違いがある。そこが対談の妙味である。やや先ではあるが9月11日に発売される『季節』をぜひ手に取ってご覧いただきたい。

◆何が何でも仮想敵国を据えておきたい国

「反戦」と「反核」(あるいは「反原発」)を論じることが困難度を増している。日本が平和主義を謳った憲法を持つ国である実感は、意図的に限りなく希釈されている。

「敵地攻撃能力」、「集団的自衛権」、「秘密保護法」、「盗聴法」、「海外派兵」、「国旗国歌法」……。これらはいまから振り返ってこの20年ほどのあいだに生起した法律ならびに出来事だ。そして2023年8月、ロシアとウクライナの戦争ではロシアだけではなく、ついにウクライナも「クラスター爆弾」(ウクライナがクラスター爆弾を使うに至り新聞はその呼称を急に「集束爆弾」と言い換えている)を使用するに至っている。モスクワ近郊でも無人機による爆撃が相次ぎ、ここへきて国際社会の中にも「停戦」を進める声が高まってきた。


◎[参考動画]米国がウクライナへの「クラスター爆弾」供与の決定に各国から反対の声(TBS【news23】2023/07/11)

他方、日本は軍拡のためには何が何でも仮想敵国を据えておきたいようだ。最近の仮想敵国は中華人民共和国と朝鮮民主主義共和国そしてロシア。そうだ、韓国が尹錫悦政権(保守政権)に代わるまでは、韓国をも敵視していたことも忘れてはいけない。

中国と日本のあいだには「日中平和友好条約」が結ばれている。米国ニクソン政権の中国と国交回復を視野に入れて、日本は「中華民国」(台湾)との国交を断絶し、大陸の政権と手を結んだのだ。けれども、台湾と日本の関係は実態が変わったわけではなく、中国との国交樹立後も台湾、中国双方と懇意にしてきた。国際条約の上で「日本と台湾の間には国交がない」ことは日本の中で案外知られていないのではないだろうか。

かたや中国と台湾の交流は数値化するのが不可能なほど深く結びついている。先富論により経済が資本主義化した中国は、市場があれば世界中何処へでも物を売る。自動車の輸出台数はついに昨年世界一になった。その逆に食糧輸出国から輸入国になって久しい13億人の胃袋は、さらなるタンパク質と美食を求めて、世界中の食物原料確保先を日々捜し歩いている。

勿論言葉も通じるし小さいながらも技術大国、台湾との間には25年以上前から深い人的交流が交わされている。台湾の現政権は民主進歩党(民進党)で、民進党は台湾独立を指向しているが、国民党は前総統馬英九が中国政権と親しい関係を維持している。

わたしの素朴な疑問なのだが、このような中国と台湾の間で「戦争」を起こしたいと当事者が望むだろうか。相互に多大な投資をして、人的にも結び付きが深い中国と台湾が、のっぴきならない状態になるだろうか。もちろん将来の出来事などは予測できない。けれども、もしそのような危機を望む集団がいるとすれば、それは覇権に関しての争いではなく、「軍事産業」の利益に関わることではないだろうか。


◎[参考動画]【総火演】陸自最大「富士総合火力演習」“進化する戦い方”も公開(日テレNEWS 2023/05/27)


◎[参考動画]宮古陸自施設で射撃訓練公開 抗議する住民の姿も(沖縄テレビ 2023/7/10)

◆敗戦の日に考える「平和主義」

2023年敗戦記念日のきょう、日本では憲法で謳われた「平和主義」が、相当に弱っている。逆に根拠なき「好戦論」、「軍事拡張論」、「日本は素晴らしいナルシズム論調」はかつてなく、恥知らずに胸を張っている。戦後に生れた世代のわたしが「次なる戦争」を肌身に感じる居心地の悪さは、既に日本人の頭の中が1930年代初頭同様に洗脳されていると感じるからだ。

当時の情報統制に比べれて洗脳の度合いは情報機器(スマートフォン)の進歩・拡散により、さらに静かに深く進んでいまいか。インターネットにしても決して自由な言論空間だとは思えない。他方マスメディアは、相も変わらず体制の提灯持ちだ。国民が騙される(すでに騙されている)土壌はかつてよりも汚泥のように厄介だ。

平和を指向する意思が弱っている。好戦論が元気だ。なぜだろう。漫然とした虚構が徐々にあまねく言論空間を侵食しているから、このような幻想・妄想がまかり通るのだ。

虚構を振りまく連中の姿が見えるだろうか。奴らは「反戦」や「平和」に、後ろ足で砂をひっかかけて、日銭(といっても驚くほど高額な)を稼いでいる。凝視しよう。見定めよう。敵の本性や氏名を明らかにしよう。そして嘘をつかない、裏切らないひとびとの姿を確認しよう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)

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◆キャンプデービッド日米韓首脳会談の目的-日米韓“核”協議体の創設

8月6日は「原爆投下の日」、8月15日は「敗戦の日」(一般には「終戦の日」)としてわが国で全民族的、全国民的な「歴史の記憶」が刻まれた日、その悲惨な記憶の教訓から「非戦非核の誓い」が生まれた日だ。敗戦後の日本はいわゆる「一億総懺悔」と言われるが、これは決して懺悔ではない。そういう意味で8月はわれわれ日本人にとって大切な民族的良心、国民的良心の象徴、「非戦非核の誓い」の月間だと言える。

その8月の「歴史の記憶」の日々直後の8月18日、岸田首相は訪米する。日米韓首脳会談に臨むためだ。それは「非戦非核の誓い」を愚弄するものになるだろう。

今回の3ヶ国首脳会談のためにバイデン大統領は合衆国大統領別荘キャンプデービッドで会談を行うと表明した。キャンプデービッドでの首脳会談はこれまで数々の外国首脳との重要会談が行われ、わざわざ「キャンプデービッド会談」と特別扱いで呼称される。そのキャンプデービッドで行う今回の日米韓首脳会談をいかに米側が重視しているかを象徴するものだ。

主要議題について「“核の傘”を含む米国の拡大抑止の強化も議論するとみられる」とすでに報道にあるように、日米韓“核”協議体創設について何らかの合意をめざす、これが米バイデン政権の狙いであろう。

すでに米韓の間には米韓“核”協議グループ(NCG)創設がG7広島サミットを前にした4月末の尹錫悦(ユン・ソクヨル)「国賓」訪米時に合意されている。このNCGの狙いは広島サミット時の日米韓首脳会談でこれに日本を引き込むことだった。ところがこれはバイデンの国内政治混乱で急遽、帰国という「突発事故」で実現しなかった。8月の派手に演出されたキャンプデービッド会談は広島サミット時にできなかった日米韓“核”協議体創設合意を日本に飲ませること、これがバイデン米国の狙いであろうことは明らかだ。

日米韓“核”協議体、それはNATOのような核使用に関する協議システム、NATO並みの米国と日本との「核共有」システム、有事には自衛隊も米国の核使用を可能にする「拡大抑止」協議システムの創設が米国の狙いだ。

その究極の狙いは、日本の対中(朝)代理“核”戦争国化にある。これが現在の米国の日本への要求、戦後日本の非戦非核の国是放棄を迫る「同盟義務」遂行要求だ。

具体的には、米国の戦術核を自衛隊の地上発射型の中距離ミサイルに搭載可能にすることだ。なぜかと言えば、米国は自国から発射するICBM(大陸間弾道弾)は使わない、相手国の核報復攻撃で自国が壊滅的被害を受けるからだ。だから日本列島を対中(朝)・中距離“核”ミサイル基地化して「拡大抑止力強化」を図る。言葉を換えれば、自分を後方の安全地帯に置いて日本に対中(朝)代理“核”戦争の最前線を担わせる、これが米国の隠された陰険かつ邪悪な企図だ。

対ロシアで米国がウクライナでやっていること、それを対中国で「同盟義務」として日本にやらせる卑劣で危険なこの米国の企図を知ってか知らずか野党もマスコミも誰も問題にしていない。とても危険なことだ。だからこの通信の場を借りて強くその危険を訴えたいと思う。

◆周到に準備された日米韓“核”協議体創設

「日本の代理“核”戦争国化」などというと「ピョンヤンからの極端な見解」「杞憂」と思われるかもしれない。でも現実はそのように動いて来たし、今その実現段階にまで迫っている。そのことを以下、述べたい。

これまで米国は用意周到かつ注意深く推し進めてきた。それだけ日本人の「非戦非核」意識を警戒し、いかに細やかな注意を払ってきたかということ、それは逆に米国の本気度を表しているということではないだろうか。

起源は、2017年末に行われた米国家安全保障戦略(NSS)改訂にまで遡(さかのぼ)る。トランプ政権下で改訂された米NSSの基本内容は以下の二点に集約される。

① 主敵を中ロ修正主義勢力としたこと。

「現国際秩序(米覇権秩序)を力で変更しようとする危険な修正主義勢力」として中国とロシアを「強力な競争相手」、主敵と規定した。ここから今日の対中ロ新冷戦体制づくりが始まったと言える。

②「米軍の(抑止力)劣化」を認め、これ補う「同盟国との協力強化」を打ち出したこと。

このNSS改訂に基づき「同盟国」日本への「同盟義務」圧力を米国は加え始めた。

その「同盟義務」とは、「米軍の劣化」を補う自衛隊の抑止力化(攻撃武力化)、専守防衛という「盾」から「矛」への転換であった。

これはすでに昨年末の岸田政権の国家安全保障戦略改訂、「安保3文書改訂」の要である「反撃能力(敵基地攻撃能力)保有」で現実のものとなった。

しかし単なる「自衛隊の矛化」、反撃能力保有だけが米国の目的ではない、より本質的な狙いは「日本列島の中距離“核”ミサイル基地化」、具体的には「核共有」論に基づく自衛隊の核武装化による日本の代理“核”戦争国化にある。

以下、このためにいかに米国が周到な準備を進めてきたかを見たい。

その先駆けは2021年、米インド太平洋軍が「対中ミサイル網計画」として、日本列島から沖縄、台湾、フィリッピンを結ぶいわゆる対中包囲の「第一列島線」に中距離ミサイルを配備する方針を打ち出したことだ。米軍の本音は日本列島への配備であり、しかも計画では米軍は自身のミサイル配備と共に自衛隊がこの地上発射型の中距離ミサイルを保有することも暗に求めた。

 

2023年1月23日付読売新聞

その2年後の今年、1月23日の読売新聞は大見出しにこう伝えた。

「日本に中距離弾、米見送り」(読売朝刊)と。

その記事はこう続く。

「米政府が日本列島からフィリピンにつながる“第一列島線”上への配備を計画している地上発射型中距離ミサイルについて、在日米軍への配備を見送る方針を固めたことが分かった」

その理由はこう説明された。

「日本が“反撃能力”導入で長射程ミサイルを保有すれば、中国の中距離ミサイルに対する抑止力は強化されるため不要と判断した」と。

「安保3文書」で「反撃能力の保有」、長射程ミサイル保有を決めた日本が米軍の肩代わりをしてくれるなら「在日米軍への中距離ミサイル配備は不要」という論法だ。

「安保3文書」では「反撃能力保有」の要として「陸自にスタンドオフミサイル部隊の新設」が盛り込まれた。この陸上自衛隊の新設部隊が「中国の中距離ミサイルに対する抑止力」として米軍の肩代わりをする役目を帯びることになるということだ。スタンドオフミサイルとは敵の射程外から発射できるミサイル、わかりやすく言えば長射程の中距離ミサイルのことだ。「中距離ミサイル」と言わずにわざわざ日本人にわかりづらい英語表記を使うところにも、国民にわからないように事を進めていくことにいかに神経を使っているかを示すものだ。

なんのことはない、「日本に中距離弾、米見送り」の真意は米軍に代わって自衛隊が対中ミサイル攻撃をやれ! ということだ。

そして次には自衛隊のミサイルへの“核”搭載問題を解決することだが、これは非核三原則など非核意識の高い日本に強要するのは難題と米国は見ており、注意深く巧妙に「拡大抑止力」提供という形で議論を進めてきた。

昨年5月、バイデン訪日時の日米首脳会談で米国が日本への核による「拡大抑止」提供を保証したが、この時、河野克俊・元統合幕僚長は「米国から核抑止100%の保証を得るべき」だが、「それはただですみませんよ」と日本の見返り措置、その内容を示した。

「いずれ核弾頭搭載可能な中距離ミサイル配備を米国は求めてくる、これを受け入れることです」と。

この時点では米軍基地への核搭載可能な中距離ミサイル配備だが、先に述べたように陸自新設のスタンドオフミサイル部隊がこれを肩代わりすることになる。

自衛隊ミサイルへの核搭載を可能にするためには、「米国の核」提供、「核共有」の合意が必要だ。

この頃から安倍元首相が、米国との「核共有」の必要性を執拗に主張し始めた。この主張を実現するのがNATOのような核使用に関する協議システム、「日米核協議の枠組み」、日米“核”協議体の創設が必要となる。

ここで登場したのが、「北朝鮮の核に対抗」に積極的な尹錫悦韓国大統領だ。

尹大統領は「土下座外交」の非難を受ける政治的リスクを伴う元徴用工問題で大幅に譲歩してまで今年4月の日韓首脳会談実現を主導した。

尹大統領の「勇気ある政治的決断」(バイデンの評価)で日韓首脳会談開催が決まるや、即米国は動いた。

 

2023年3月8日付読売新聞

読売新聞(3月8日朝刊)は一面トップ記事で日韓正常化の動きを受け米政府が「“核の傘”日米韓協議体」創設を日韓に打診していることをワシントン特派員がリークした。

この読売記事では、「韓国は有事に備えた核使用の協議に関心を示している」が問題は日本政府だとして岸田首相に「有事に備えた核使用の協議」、すなわち日米「核共有」の議論に踏み込むことを暗に求めた。

この記事を裏付けるように4月末、尹錫悦大統領「国賓」訪米時に日本に先駆けて米韓“核”協議グループ(NCG)創設が合意された。これは7月G7広島サミット時の日米韓首脳会談を念頭に置いたものだったが、上述のような経緯からこの8月のキャンプデービッド会談で日米韓“核”協議体創設が話し合われ合意されることになった。

以上、見てきたように、NATO並みの「核使用に関する協議体」設置を日本との間で合意するために米国は周到に準備し、韓国大統領まで動員してその実現にこぎつけたことがわかると思う。

日本列島の中距離“核”ミサイル基地化、日本の対中(朝)代理“核”戦争国化、それは極論でも杞憂でもない、米国は本気だ。そのことを強調したい。

◆米国の最大の障害は「核に無知な日本人」

バイデンは尹錫悦大統領や岸田首相は容易に操ることはできるだろうが、日本国民の「非戦非核」意識はそう簡単に揺らぐものでないことを知っている。だからこそ米国は「核に無知な日本人」に対する宣伝攻勢を今後、かけてくるだろう。

それはすでに始まっている。

これについてはデジタル鹿砦社通信5月4日号「対日“核”世論工作の開始-G7広島サミット」で詳しく述べたので、ここでは概略のみ述べるに留める。

「日本の最大の弱点は、核に対する無知だ」!

「安全保障問題の第一人者」とされる兼原信克元内閣官房副長官補(同志社大学特別客員教授)が読売新聞主催のG7広島サミット開催記念シンポジウム(4月15日)でこう断言した。

このシンポジウムへのメッセージで川野徳幸・広島大平和センター長は、「今後、核廃絶の理想と、米国の“核の傘”に守られている現実の隔たりが深刻化するかもしれない。それでも、その葛藤から逃げずに議論するべきだ」と現実の核の脅威から「逃げずに核抑止を議論」すべきことを訴えた。これを読売新聞は「広島の声」として掲載した。

こうした議論がすでに起こっているという事態は尋常ではない。

キャンプデービッド会談で日米韓“核”協議体創設の合意は、おそらく日本人の「非核意識」を刺激する「核共有」までは踏み込まない穏便な形でなされるだろう。

しかしその後は「ロシアのウクライナでの核使用の危険」「中国や北朝鮮の核軍拡の危険」という「核の脅威」を煽り、米国からの「核の傘の保証」を得るためには「核抑止力強化の議論」から逃げてはいけないという議論が起こされるものと思われる。

おそらく「非核三原則」を守れ! 式のこれまで通りの受動的な反対論だけでは、米国の本気度には対抗できないと思う。

日本を対中対決の最前線にするのか否か、中ロ(朝)を脅威と見てこれに対抗するという選択肢が日本にとっていいのか否か、究極的には日本の安保防衛政策はどうあるべきか、日米安保基軸を続けていくの否か、非戦非核基軸の安保防衛政策はどのようであるべきか、こうした議論が問われてくると思う。

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若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『一九七〇年 端境期の時代』

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◆株価上昇の中で進む日米経済の統合

今、日本では株価が上昇している。6月8日には33年前のバブル期の最高値を超え、3月下旬から「買い」が「売り」を上回る買い越しになり、買い越し額は6兆円に上り、その後も上昇は続いている。マスコミは、その原因を「外国勢の熱気」とするが、その主役は米国の投資ファンドや機関投資家である。

株価上昇をもってマスコミなどは「日本経済復興のチャンス」と言い、親米アナリストの中には「30年前の黄金時代の到来」などと言う人までいる。しかしバブルは必ず破裂するからバブル(泡)なのであり、30年前のバブルも破裂し、その後の「失われた30年」となったのではないか。

問題は、「失われた30年」に呻吟し、貿易赤字も累積する日本経済の実態を前に、何故、米国勢が「日本買い」を始めたのかである。すなわち、米国が米国ファンドに日本の株を買わせ、株価を上昇させる狙いは何なのかである。

そこで考えられることは、経済の日米統合一体化である。

米国覇権の衰退著しい米国は、追い上げる中国を抑えるために米中新冷戦を仕掛け、ここに「民主主義陣営」を結束させ米国を支えるようにすることで覇権回復を狙っている。

日本は、この最前線に立たされており、EUなどが中国との対決に及び腰な中、日本が決定的になっている。そのために日米経済を統合させる。駐日大使エマニュエルは大使就任の是非を問う米議会上院での公聴会で「世界一位の米国経済と三位の日本経済の統合させる」と明言している。

日米統合は、軍事、経済、教育、地方、社会保障などあらゆる分野で行われている。その中でも社会の基礎である経済の日米統合が異常なまでの速度と深度をもって進んでいる。

最近の際立った動きは、軍需産業と半導体産業での日米統合である。軍需産業は安保政策と関連する重要産業であり、半導体は産業のコメとして経済の基礎を規定する重要産業である。その統合は「指揮と開発」の二つの側面で行われている。それを以下に見て行く。

◆軍需産業の日米統合

軍事での統合、その指揮の統合は、昨年12月に決定された「国家安全保障戦略」で、従来の「統合幕僚監部」が持つ3軍への指揮命令権を新設の自衛隊「統合司令部」に委譲した。そして、この「統合司令部」に米国のインド太平洋軍の将官が常駐配備される。こうして米軍指揮の下での指揮の統合が進んでいる。

その米軍の指揮の下、軍需産業の「共同開発」が進んでいる。

昨年12月には、GNPの2%を目標に27年までに47兆円もの軍事費拡大が決定され、反撃能力(敵基地攻撃能力)装備のための開発なども決定された。

反撃能力とは中距離ミサイルを装備するということであり、米国も持っていない極超音速や変則飛行の最新ミサイルを「共同開発」するということになる。

そのカネは日本が出す。カネばかりではない。米国は日本の固体燃料技術に関心があると言われており、日本の技術も米国との「共同開発」で米国に持って行かれることになる。

先の国会で成立した「防衛財源確保法」は、防衛財源確保を最優先して、他の社会保障などの財源を減らし、後代の負債となる国債を発行するものとなっている。

そして同時に成立した「防衛産業支援法」。ここでは、武器輸出が問題になっている。

米国にとって軍需産業は大きな利潤を生む輸出産業だということだ。共同開発したミサイルや武器も輸出しなければ儲けにならないからだ。

そこで「防衛産業支援法」は、武器輸出を可能にすることに主眼が置かれている。

日本は、これまで「武器輸出三原則」で武器輸出は禁止してきた。これを安倍政権時に「防衛装備移転三原則」に変え、米軍との共同軍事活動で様々な装備品を提供できるようにしたが、今回は共同開発された武器の輸出である。そこで考えだされた口実は、「同志国への輸出は、安保協力になり中国抑止に繋がる」というもの。もう一つの口実は、「共同開発されたものは日本の輸出に当たらない」というもの。

こうして日本は武器輸出国にされようとしている。まさに「死の商人」国家化である。

さらに注意すべきは「防衛産業支援法」で、事業継続が困難な企業を一旦国有化することが検討されていることだ。明治時代の官営工場払い下げを髣髴させるが、今回の払い下げは、米国軍需企業の関連会社になるだろう。国民の税金を使って国有化し、それを米国に安く払い下げるということである。

◆半導体産業での日米統合

半導体は産業のコメと言われ、経済の基礎である。その半導体産業も米国との共同開発になる。米国の半導体生産は、DARPA(米国防高等研究計画局)が指揮しており、日米の共同開発は、その指揮を受けることになる。

今、日米が共同で開発・生産しようとしている半導体は、パワー半導体、ロジック半導体などと言われる新世代半導体であり、EVなどの電力制御用にSIS素材(基礎板素材に炭化ケイソSISを利用)を使った最新の半導体である。

この半導体についてはIBMが一昨年、「開発の目途はついた」として、共同生産を持ちかけていたものだ。即ち、基本設計はIBMなど米国企業が担い、日本は部材、製造装置を使って、新半導体を生産するということである。

広島G7を前に米IT企業トップが来日し、岸田首相が彼らと面談し協力を要請したが、そこでimec副社長マック・ミルゴリは「(日本の)世界最高峰の素材企業は大きな力」「政府の全面的、継続的支援が欠かせない」「人材育成や補助金などが政府の役割だ」と述べている。

すなわち、日本の産業力、技術力、そしてカネも日本に出させ、旨味は米国が持って行くということである。

半導体生産には膨大な資金が必要であり、一つの工場だけでも1兆円になる。それを毎年更新しなければならず、総体的には100兆円が必要だとされている。すでに熊本の(台湾積体電路製造)には6000億円、北海道のラピダス工場建設に3000億円の政府支援が決まっているが、広島のマイクロン・テクノロジー、三重県での米半導体大手のギオクシアなどの工場建設でも同様の支援策が取られるだろう。

こうした中、JSR(東洋ゴムから派生した企業で、フォトレジスト(感光剤)で世界シェア3割)を経済産業省所管の官民ファンド「産業革新投資機構」が1兆円で買収した。CEOのエリック・ジョンソン氏は、「この買収はJSRが持ちかけた」としながら「日本の会社は規模が小さい」「初日から再編に向け始動する」と述べ、買収後、非上場にしてM&Aや事業への大型投資を進めると述べている。

要するに日本にカネや技術を出させ、実利は米国が持って行くということであり、東芝の上場停止などと共に警戒を要する事例である。

◆米国による日本企業支配の動き

株高の中で、見ておかなければならないのは、米国ファンド、機関投資家が「物言う株主」いわゆるアクティビストとして、日本企業の指揮権を握る動きを示していることだ。

それは6月に集中した株主総会での米国勢の動きに見てとれる。これまで株主総会の主役は「総会屋」であった。しかし、今年から主役は米国の投資ファンドや機関投資家になった。彼らの要求の基本は、「企業統治改革」である。そのために「社外取締り役」を増やし、「情報公開」し、現経営陣は退陣しろというものである。しかも、その対象はトヨタやキャノン、セブン&アイ、電力会社など名だたる有名、大企業にまで及ぶ。

こうした米国ファンドは「バリューアクト・キャピタル」など米国の「議決権行使助言会社」の指導に従って動いており、米国が官民一体となって日本企業の指揮権を奪い、直接管理することを狙っていることを示している。

今年の株主総会では、トヨタやセブン&アイ フォールディングス、キャノンなどの経営陣の退陣要求は否決されたが、エレベータ大手の「フジテック」、海上建設大手の「東洋建設」などの現経営陣の退陣は可決された。日産もルノー(大株主はフランス政府)からの外部取締役が解任され、IBM勤務の人物が社外取締り役に選任されている。

今年の総会では沖縄を除く8つの電力会社の経営陣がトラスト価格の問題で矢面に立たされたが、会社の不祥事や個別案件などをもって、株主提案による株主総会開催も増え、米国ファンドによる日本企業の支配は今後一層進むだろう。

米国株主が日本企業の指揮権を握るようになれば、それは最早、日本の会社ではなく米国の会社である。日本の名だたる企業が米国の会社になれば、経済全体が米国のものになる。

経済がそのようになれば、日本社会そのものが米国化し日本人も米国化し、日本という国は米国に溶解された国とは言えない「国」になってしまうだろう。

◆日米統合を支援し促進する「骨太方針」

このような日米経済統合をあろうことか、日本の政権である岸田政権が積極的に支援している。

6月19日に発表された骨太方針は、「時代の転換点といえる課題の克服に向け、大胆な改革を進めることにより新時代にふさわしい経済社会を創造する」と謳う。

その大胆な改革とは「新しい資本主義実行計画改訂版」で示す「労働市場と企業組織の硬直化など日本の構造問題」の改革である。

すなわち、終身雇用、年功序列型賃金に象徴される、日本型の労働や企業統治のあり方を米国式の株主資本主義に「改革」するということである。それは米国ファンドの要求と同じものだ。

その上で見逃せないのは、「経済財政運営と改革の基本方針」で、「2000兆円の家計金融資産を開放し世界の金融センターを目指す」(原案では「資産運用立国」を目指す)としていることである。

日米経済の統合のためには、軍需産業や半導体生産で見たように膨大な資金が必要になる。

岸田政権は、そのために社会保障費を削減し増税や後代に負債を強いる国債発行を準備しているが、それでも不足する。そこで目を付けたのが2000兆円の国民資産である。

そのための「資産所得倍増プラン」では「金融経済教育推進機構」を作りアドバイスすることや「資産運用会社の体制強化」「新規参入の支援、競争促進」が盛り込まれている。これまで日本の資産運用は、日本の銀行や証券会社などが行っていたが、これからは米国系の運用会社にも、それを「開放」するということだ。これも米国ファンドの動きを後押しする。

株式投資は投機でありトバクである。その害毒性は30年前のバブル崩壊、その後の「失われた30年」で骨身に染みたことではないのか。それなのに、なけなしの国民の資産まで投機・トバクに回せなどとは、「売国・棄民」行為以外の何ものでもない。

◆日本の企業を守り、日本を守ることが問われている

 

魚本公博さん

トヨタの豊田章男会長は涙ながら留任を支持した株主への感謝を述べたが、その涙には、米国による日本企業の指揮権掌握策動への忸怩たる思いが込められているように思う。

トヨタは、今年の株主総会で米国の投資ファンドがアクティビストとして、現経営陣の退陣を要求してくるだろうと予想し、その対策を立てていた。

トヨタは、中国との関係が深い。対中新冷戦を提起する米国がこれを快く思っていないことも分かっていた。また、トヨタイズムなどトヨタの企業風土、経営方式が米国の求める株主資本主義と合わないことも分かっていたからだ。

そうした米国の意図に対しトヨタを守れと、退陣要求を否決した日本人株主への感謝。さらには日本の企業を支えるべき日本政府の米国ファンドに加勢するような姿勢への無念さなどが込められた涙ではなかったか。

米国が日本経済を統合し、そのために日本企業の指揮権を奪い、それによって日本という国をなくそうとしており、それに抗すべき日本の政府までもが、その策動を後押ししている中で、日本の企業を守り、日本を守ることが切実になってきている。

すなわち愛国。日本と似た境遇の欧州でも世界的な米国離れの中で、自国第一主義が台頭している。これをポピュリズム、極右と決めつけることはできない。そこに「愛国」の心を見なければならないのではないか。グローバルサウスも自国第一主義であり、愛国ではないのか。

私たち国民にとって国とは何か。その重要さに思いを致し、自国第一や愛国を捉え直す、そうしたことが今切実に問われているように思う。

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▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

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安倍晋三元首相銃撃事件から1年。いまだ山上徹也被告の裁判も始まっていないなか、複数の“謎”が残されていることは、本誌で指摘してきたとおり。そして、岸田文雄政権下で“安倍以上”ともいわれる軍国化が進められています。今月号では元外務省国際情報局長・孫崎享氏が、安倍政権を総括しつつ、その死にまつわる“謎”とともに、これまで触れられてこなかった安倍元首相の発言についても分析しています。

 

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岸田軍拡と同様、グリーントランスフォーメーション(GX)あるいは環境変動対策の名の下で、加速を続けているのが原発再稼働の策動です。福島第一原発の汚染水は「海洋放出せざるをえない」と説明されていますが、核のごみ問題と同様、そのこと自体が、そもそも原発が人間の手に余るものだということを示しています。海洋放出を語るときには、それを前提とすべきです。既成事実化することで、「いざとなったら海に捨てればいい」との前例にもなるでしょう。流していいかどうかの問題ではありません。

その岸田政権下で起きたスキャンダルが、首相の長男・岸田翔太郎・元首相秘書官の「公邸宴会」と、“官邸の軍師”こと「木原誠二」官房副長官の愛人問題。とくに前者の翔太郎氏は、今回の問題があっても世襲議員の道を閉じたわけではありません。その動向に注目が続けられるべきですが、首相秘書官更迭後の現職は不明です。検察出身の郷原信郎弁護士は、ジョンソン英首相が辞任に追い込まれる原因となった、2022年の公邸「パーティーゲート」と多くの点で共通していると指摘しています。

6月14日、岐阜市の陸上自衛隊日野基本射撃場で起きた銃乱射事件。その“原因”がどこまで解明されるか、あまり期待はできません。仮に、発砲した18歳の候補生自身が何らかの問題を抱えていたとしても、国内の練習場ですらこういう事件が起きたわけで、戦地の極限状況ではどうか。6月号では「イラク戦争20年」を振り返りました。その中でも触れられているとおり、イラク日報はいまだ多くが黒塗りです。そして、戦地に派遣された自衛官には、精神を病む人が多く、自殺に至るケースも少なくありません。

今月号でも複数記事で採り上げたAIをめぐる危険。メディアの「チャットGTP」礼賛を見ていて感じるのは、まずAI導入ありきで、人の生活を良くするような、需要から生まれる発明とは趣が異なることです。本誌で紹介したような、リスクに関する専門家の警告が日本で大きく報じられないのは、すでに社会が実験場となっていることを意味するのでは、とも危惧しています。さらに藤原肇氏は今回の記事で、世界の経済システムが「ポンジ金融」化していると指摘しました。だとすれば、科学技術のイノベーションも、その動機が健全なものばかりではないことがわかります。あるいは、それは科学技術に限ったことではないかもしれません。 そして、神宮外苑再開発に伴う「樹木伐採」問題。6月4日投開票の大田区都議補選で当選した元都民ファーストの会の森愛氏が、会派内で「森喜朗元首相の利権だから終わったこと」との発言があったと暴露。詳細は本誌レポートをお読みください。「紙の爆弾」は全国書店で発売中です。ご一読をよろしくお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

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6月29日、広島市の松井市長はエマニュエル駐日米国大使と会談し、平和記念公園とパールハーバー国立記念公園とが姉妹公園協定を結ぶことを発表しました。筆者は呆れるとともに「来るべきものが来たか」という感想も抱いています。

◆「姉妹都市協定」との違い 米国政府相手の協定

姉妹都市協定と今回の姉妹協定は違います。姉妹都市協定は自治体同士の協定で、例えば広島市とホノルル市は姉妹都市です。これは大昔、広島から多くの移民がホノルルを中心としたハワイに移住したご縁によります。

今回の協定は、平和記念公園を管理する広島市とパールハーバー記念公園を管理する米国政府の間で結ばれる協定です。言うなれば、1945年8月6日に広島市を核兵器で攻撃した米国政府と組む、ということです。

広島平和記念公園

◆日本政府と広島市のスタンスの違い

日本政府は、ご承知の通り、米国政府と日米安全保障条約や日米FTAなどを結んでいます。アメリカを盟主とする従属的な同盟を日本政府は結んでいると言えます。日本政府は核兵器禁止条約には反対しており、米国政府がかつて核兵器先制不使用を打ち出そうとしたときにこれを止めたこともあるくらいです。2023年5月開催のG7広島サミットで岸田総理が発表した広島ビジョンも上記日本政府の立場を一歩も出るものではなく、それどころか、2000年のNPT再検討会議での核兵器廃絶の明確な約束にすら触れぬ核兵器有用論です。

しかし、広島市は世界で初めて戦争により被爆した街として、世界に対して核兵器の惨禍を二度と繰りかえさぬよう、誰も被爆者が二度と同じような思いをすることがないよう、核兵器廃絶と恒久平和を訴えてきました。

明確に日本政府とはスタンスの差があります。

◆ヒロシマとパールハーバーを「おあいこ」にしかねない

だが、今回、広島市は米国政府と協定を直接結ぶことになりました。米国政府は、ヒロシマ・ナガサキで核兵器を使用したことについてこの78年間まったく反省はありません。ヒロシマ・ナガサキへの核攻撃は必要だったというスタンスを堅持しています。

そして、パールハーバー記念公園は平和記念公園と性格が異なります。平和記念公園は、原爆と言う無差別殺戮で犠牲になった方々を悼み、世界恒久平和を願う公園です。パールハーバー国立記念公園は、当時の大日本帝国が米帝国主義に攻撃を仕掛けた、いわば帝国主義国の軍隊同士の戦闘の地です。そして、米国政府の視点で戦死者を顕彰するものです。これは、ヒロシマへの核攻撃を正当化することと地続きです。

この二つにどういう共通点があるのか? 無理に組んだとしても、結局は、ヒロシマへの原爆投下とパールハーバーをおあいこにすることにつながるのではないでしょうか?
 
◆アメリカの戦争責任は追及されていない
 

もちろん、大日本帝国陸海軍がアジア太平洋で行ったことの中には国際法に反することもたくさんありました。評価は分かれるところですが、これらの日本の行為については東京裁判などで裁かれています。

また、不十分な点はあるにせよ、日本政府は第二次世界大戦で被害を与えてしまった国々に対して一定のお詫びは表明しています。

他方でアメリカの戦争責任は全く追及されていません。勝ったからと言ってしまえばそれまでかもしれない。あるいは、日本の先制攻撃に反撃しただけ、と言われればそれまでかもしれない。しかし、いざ戦争が始まったら、侵略側(日本)はもちろん、防衛側(米国)も国際人道法は守らなければ、犯罪を構成することになります。

アメリカが原爆投下でやったことは、日本政府が直後にスイス政府経由で提出した以下の抗議文の通り違法です。

「抑々交戦者は害敵手段の選択につき無制限の権利を有するものに非ざること及び不必要の苦痛を与ふべき兵器、投射物其他の物質を使用すべからざることは戦時国際法の根本原則にして、それぞれ陸戦の法規慣例に関する条約附属書、陸戦の法規慣例に関する規則第二十二条、及び第二十三條(ホ)号に明定せらるるところなり」

違法だけれども、世界最強の国であるアメリカを誰も裁くことができないだけなのです。

◆被爆者は謝罪を求めていないというが

「被爆者は謝罪を求めてはいない。だれにも自分のような思いはさせたくないのだ。」

というのが広島では主流とされていることは、筆者も平和運動の中でも学びました。

しかし、米国政府の側から今回のように「過去を水に流そうぜ」と言わんばかりに握手を求めてくるのは違うでしょう。被害者から握手を差し伸べるのと、加害者から差し伸べるのでは意味が違います。

◆「反省しなくていい」お墨付きを米国政府に与える広島市長

そして、謝罪は求めていないが、当然、反省は求めているわけです。しかし、今回の協定は、米国政府に対して、反省もしなくていいというお墨付きを与えたということになりかねません。

すでに、G7広島サミットにおいて、「広島で核兵器は有用」という趣旨の岸田総理提案の広島ビジョンが採択されてしまいました。そして、今回の広島市長が当事者の協定で米国政府は核兵器使用を反省しなくていいというメッセージが強化されてしまったのではないでしょうか?もっと厳しい方をすれば米国政府の核戦略に広島は利用されてしまいました。

◆広島が与えた「反省しなくていいお墨付き」で核保有国の暴走加速の恐れ

今回の協定は、いわば、広島市が永遠に米国政府に反省しなくていいというお墨付きを与えたということになりかねません。

「アメリカは広島の許しを得たので、もう、原爆投下を反省しなくていい。」

こうなれば、それこそ米国政府の行動も今までよりは抑えが効かなくなるでしょう。

米国政府が今まで以上に開き直るなら、ロシアのプーチン大統領も、中国の習近平国家主席も、朝鮮の金正恩総書記も、インドのモディ首相も、イスラエルのネタニヤフ首相も今まで以上に行動に抑えが効かなくなりかねません。巡り巡って恐ろしいことになりかねません。

◆加速した「米国忖度都市」HIROSHIMA

すでに、広島市教委の平和教育の教材から「はだしのゲン」や「第五福竜丸」などが削除されています。G7サミットを前にバイデン大統領に忖度したと言われても仕方がありません。そして、サミット前後には宮島への法的根拠なき「渡航禁止」(実際はできるけれどもできないかのような報道をマスコミにもさせた)、過剰警備など、米国に忖度して市民の人権や企業活動を過剰に抑制しました。

戦前の広島は脱亜入欧の旧白人帝国主義国家に追随してアジアに派兵する軍都廣島。

そして、原爆投下と、日本国憲法制定に象徴される一定の戦争への反省を経て平和都市ヒロシマへ。

そして、G7広島サミットを経て、米国政府に忖度し、米国政府の核戦略にお墨付きを与える「HIROSHIMA」への変質が今、急速に進んでいます。

◆自民から共産まで県議がサミット誘致評価 広島政治の大政翼賛化に断固抵抗

一方で、このようなサミットの狙いを見抜けずに、統一地方選2023では自民、公明はもちろん、立憲、共産の既成政党の県議候補はことごとくG7広島サミット誘致を評価する、期待する、という趣旨の回答をマスコミや市民団体のアンケートにされていました。筆者と議席を争った共産党県議などは広島ビジョンを見て慌てて批判に転じられましたが、それまでサミット誘致を評価していた事実は消えません。

もちろん、筆者は本稿でも申し上げた理由により「評価しない」「期待しない」と回答しました。今後とも、胸を張って広島政治の大政翼賛化に筆者は断固抵抗する先頭に立ちます。

さて、6月29日は奇しくも広島大水害1999で20人が広島市で犠牲になってから24年です。

「松井市長さん。そんな協定で浮かれている場合じゃない。あなたには平和を考えるセンスはない。〈平和の架け橋〉なんて浮かれて変な協定を結ぶくらいなら、防災対策、きちっとやりましょうよ。あの大水害を思い出す日にしましょうよ。」
こう一市民として申し上げるものです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

私は3月の本通信への投稿で「地方自治の解体・民営化が狙われている」と題する一文を投稿し米系外資が日本の自治体を管理運営しようとしている危険性を指摘した。

今、それは4月に行われた統一地方選の結果を利用しながら、自治を解体し日本をなくす「改革」として進められている。今回は、そのことについて、述べて見たい。

 

魚本公博さん

◆狙われている「日本の自治」解体策動

4月に行われた統一地方選は「低調」であった。とりわけ議員の「なり手がない」ことによる無投票が増えた。88の市長選の3割近くの25市が無投票。町村はより深刻で125の町村長選では半数の70町村で無投票。373の町村議員選で1250人が無投票であり、そのうち議員定数に満たない「定数割れ」は前回の2.5倍となる20町村であった。

マスコミがこれを「地方議会の問題」とする中、朝日新聞が「自治制度の危機」と題する社説(4月27日)で、議会活性化のための様々な方途を提示しながら、会社員が議員を兼務することを更に進め、公務員が議員を兼務することも容認すべきだ主張した。

これまで地方自治法で会社員、公務員が議員を兼務することは禁止されてきた。自治体と取引のある会社の取り締まり役、監査役などの幹部社員は議員と兼務できないし、自治体職員も議員と兼務できないとなっている。

これは、自治体と取引関係がある会社や自治体職員が議員を兼務すれば、その議員は会社のため動くようになり、住民自治が損なわれる危険性があるからである。なお首長に関しても、この規制は適用される。

会社員の兼務については、昨年12月の法改正で自治体との取引額300万円以下の会社社員であれば兼務できるとなったがまだ自治体職員(公務員)の兼務は禁止されている。

私は貴通信への投稿(2月)で、デジタル人材を人材会社と協力して都道府県に外部人材とし確保させながら、これを市町村に派遣する総務省の方針について、これは基礎自治体である市町村を米系外資の関連人士が運営するためのものではないかと述べたが、このデジタル人材は、自治体職員になる。従って、会社員と公務員の「議員との兼務」容認は、米系外資の関連人士が首長や議員になることを容認し米系外資が日本の市町村を直接管理運営することを容認し促進するものとなるのではないかということである。

岸田首相は1月の施政方針演説で「地方議会活性化のための法改正」を行うと述べている。それは、日本の自治を解体し米系外資・企業が日本の自治業務や自治体そのものを直接管理運営することを容認し促進させるところに真の狙いがあると思う。 

こうした中、5月3日の憲法記念日に際して読売新聞が行った座談会では、「首長がいない自治体も認めるべきだ」との発言もあった。「首長がいない自治体」? 私が思い浮かべるのは、2005年に米国ジョージア州ワトソン郡に作られたサンディースプリング市のこと。この市は、年収1000万円以上の富裕層だけを集め、「安全」を売り物にして企業が管理する人工市である。そこでは市長も市議会議員も企業が任命する社員である。まさに「首長のいない自治体」である。

それは、公共性を否定し自治体の公共事業を民営化して食い物にする新自由主義者にとって、理想の究極的な自治体の形である。岸田政権の「法改正」は、そこまで視野に入れているように思える。

◆維新の「改革」の実態と本質

米系外資・米国企業が地方地域の自治体を直接管理運営する。維新が推し進めている大阪IR(カジノ)を見れば、その実態が見えてくる。大阪IRは、米国のIR運営会社「MGMリゾーツ」がオリックスなどが出資する「IR株式会社」を前面に立てて運営する。これを安倍、菅政権で首相補佐官を勤め、松井大阪市長が推薦して府の特別顧問になっている人物(和泉洋人)が関与する。

この夢洲IRでは、そのインフラ整備は大阪がやる。それを年間25億円という法外に安い値段で貸し出し、儲けの大半は米国企業が持っていく。そして、そこには大きな利権構造が出来る。維新は「既得権層」の打破を言うが、自らは、これまでの利権とは比較にならない巨大利権の「得権層」になるということだ。

もちろん、夢洲IRは一施設であり、それ自体が自治体なわけではない。しかし、問題の本質は、大阪の自治業務の重要な一環を米国企業が管理運営するという所にある。

IRは、「国際エンターテインメント都市 ”OSAKA”」という維新の地域振興策の重要なカナメであり、そのシンボルである。そうであれば、維新は大阪の自治業務を米系外資・米国企業に管理運営させようとしていると見るべきであろう。IRを通じて見えてくる維新の「改革」の本質はそこにある。

維新はすでに、関西空港業務や公営地下鉄を民営化しており、水道事業や文化施設での府市の業務統合、小中学校を統廃合しての小中一貫校、府立と私立の大学統合、公営病院の廃統合を進め、これを民営化しようとしている。

結局、そこでもIRのように、米国は隠れ日本を前面にたてながら米系外資・米国企業がこれらの自治部門を直接管理運営するようになるだろう。こうして、大阪の自治業務の多くが米国企業によって管理運営されれば、大阪の府や市といった自治体そのものも米国企業が管理運営するものとなる。こうして、大阪の富は食い物にされ、住民はその管理物にされる。そのどこが「改革」なのか。

◆米国の新冷戦戦略から見えてくる、日本をなくす「改革」

IRが象徴する維新の「改革」の本質を見れば、岸田政権が進めようとしている「地方議会活性化のための法改正」の意味と悪辣さも分かるのではないだろうか。

米国は今、新冷戦戦略の下、中国ロシアを敵視しながら、その最前線に日本を立てようとしている。それは衰退した米国覇権回復のためであり、そのために日本の全てを米国に統合する日米統合一体化を進める。そのために、地方地域も米国の下に統合する。

しかも、それを急いでいる。広島で開催されたG7を見ても、最早米国の提起する「民主主義対専制主義」に耳を貸す国はない。それに耳を傾けるのはG7諸国だけだ。とりわけ対中新冷戦では、日本が決定的だ。衰えたとはいえ、日本は世界第三のGDPをもち、技術力も高い。その日本の力を米国のものにすれば、新冷戦で中国に勝てる可能性が高まり、それも今しかない、というのが米国の読みだろう。

かくて、日本をすっかり米国のものにする。「地方議会活性化のための法改正」は、日本の自治を解体し、米系外資・米国企業による地方管理を進めるためのものなのだ。

こうして日本の国の形も変る。地方地域を米系外資・米国企業が管理運営するようになれば、日本の地方地域は、国と切り離されてしまい、日本は一つのまとまった国ではなくなり、日本がなくなってしまう。

統一地方選の最中、維新の馬場代表が「自民が守旧派と改革マインドの強い方に割れ、改革保守政党が出来れば、そこへの参画の可能性はないとは言えない」と述べている。

今後の政局で、維新と自民党内部の「改革」派による改革保守政党が出現するとか、改革保守の連立が進む可能性は大きい。そうなれば、米国が狙う、日米統合一体化、日本をなくす「改革」が急速に進められてしまう。

◆強まる地域を守る闘い

今、日米統合一体化が進む中で、新冷戦の最前線に立つための軍拡が行われ、それが増税、社会保障・福祉予算の削減、地方交付税の削減などとして、国民の生活を直撃するようになっている。

そうした中、生活の砦である地域(市町村)の自治を守り地域住民自身の力で守っていくという志向は強まらざるをえない。そして、この志向は、自治と自治体を解体し米系外資・企業が地域を直接管理運営するという米国の地方地域支配の目論見と真っ向から対決する。

今回の統一地方選の「低調」さの中でも、その「芽」は出てきた。「れいわ」は後半戦で東京区議47人を誕生させる健闘ぶりを見せた。「子どもファースト」や「弱者に寄り添う」独自の政策で注目される明石市では、泉穂房市長が後継者に指名した丸太聡子氏が他を圧倒して勝利し泉氏の「明石市民の会」5人が全員当選した。「公共の再生」を唱える杉並区長の岸本聡子氏が自身の区長選はなかったのに連日、区議選の街頭に立つ奮闘ぶりも多くの人の共感を呼んだ。 

「アップデートおおさか」の谷口、北野さんの「住民自治」の訴え、その具体化としてのカジノ反対の住民投票実施の要求は、維新との闘いとして本質的なものを突いていたと思う。今後、IR(カジノ)の実態が明らかになるにつれ、それへの批判も強まるだろう。谷口、北野さんには、今回の敗北を乗り越え頑張ってもらいたい。

各地で「みんなの、みんなの力による○○を」や「子育ての○○」など自分の地域をアイデンティティとし、左右の違い党派の違いを超えた地域第一の動きも各地で見られるようになった。

泉さんや岸本さんは、地域からの運動を全国化し、日本を変えることを目指している。「れいわ」も「自公政権による売国棄民政策……この腐った政治を変えるのは、あなただ」と呼びかけている。

誰もが、日本の改革を求めている。その重要な力は地域にある。こうした地域の力が互いに連携し全国的な力になっていけば、米国に地方地域を売り渡すような政府や維新などの「日本をなくす「改革」を阻止し、日本の政治を変えることができる。

「地方から日本を変える」、生活の砦である地域を守ることが死活的になってきた今、それが切実に要求されている。その力で日本の政治を変え、日本をなくす改革ではなく、日本をつくる改革を実現していかなければならないと思う。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『一九七〇年 端境期の時代』

『抵抗と絶望の狭間~一九七一年から連合赤軍へ』

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B08KGGRXRQ/

G7広島サミットが5月19日から21日、開催されました。結論から申し上げれば、「核兵器廃絶」を目的とするならば、「G7サミットを広島に誘致する」という手段が全くの誤りだったことが明白になりました。

 

栃木県警の警察労働者の皆様。建物に入出入りする人は全員検問されていた。広島駅北口で筆者撮影

そして、2万4千人もの警察労働者を全国各地から広島に動員した過剰警備・過剰交通規制で、市民・県民の生活が大打撃を受けただけでした。

もちろん、全国の機動隊の方が押し寄せて儲かったお好み焼き屋さんもあったのですが、全体としては「売り上げが半減した」(ラーメン店主)、「物流が止まって必要な薬が手に入らないということでひやひやした」(持病のある女性)「保育園の給食が止まって、弁当を持たせないといけなくなった」(女性労働者)など影の部分が目立ちました。サミット期間中は、ヘリコプターの轟音が東区の筆者の自宅でも午前2時を過ぎても鳴り響きました。

◆従来の日本政府のスタンスの焼き直し「広島ビジョン」

今回のサミットでは、地元選出の岸田総理が目指しておられた「核なき世界」への前進は全く見られませんでした。

総理が議長として19日に発表した「広島ビジョン」は従来の日本政府のスタンスを一歩も出るものではありません。

第一に、核兵器禁止条約に全く言及していません。これは、従来の日本政府の姿勢を考えれば、当然と言えば当然です。「核保有国と非核国の橋渡しをする」と言いながら、日本政府=ほぼ自民党のことですが=は何もしてこなかった。

第二に、それどころか、核兵器先制不使用にすら触れませんでした。今すぐ、核兵器をなくすのは難しくても、核兵器をこちらからは先に使わない、という約束をすれば、ぐっと緊張緩和の機運も高まります。「先制攻撃されるかもしれない」という恐怖で満ちているからこそ、「抑止力」という名の軍拡で対抗しようと各国は走り出す面が大きいからです。核兵器先制不使用にすら触れないのは残念です。もちろん、これとて、オバマ大統領が2009年頃に核兵器先制不使用を打ち出そうとしたときに日本政府こそがこれを阻止しようとした歴史的経緯もあります。その日本が今回議長国なのだから、そんなことは最初から期待すべくもなかったかもしれません。

第三に、2000年のNPT再検討会議で合意された核兵器廃絶への明確な約束にすら触れていません。この約束は、当時、世界のNGOが核兵器保有国に対してNPT六条を根拠に迫り、実現した歴史的なものでした。まさに、2000年の水準からさえも後退した文書が「広島ビジョン」です。被爆者のサーロー節子さんらが「サミットは失敗だった」と怒るのも当然です。

◆中国包囲網にゼレンスキー参加 緊張激化に広島が利用された

その上、今回は事前の日米首脳会談で「抑止力の強化」と称した軍拡を合意しています。また、いわゆる台湾有事を煽り立てつつ、いわゆる中国包囲網をインドなどグローバルサウスもこの会議に招待することで構築しようというのが今回のサミットの狙いです。

そもそも、国共内戦の延長である台湾問題に日本が軍事介入すれば、日本はロシアを非難する資格を失います。ロシアも、ウクライナ国内問題であるドンパス紛争に介入してロシア系住民を守ると称してウクライナに侵攻したわけです。ドンパス地方におけるウクライナ政府側の非人道的な行為も批判されるべきだし、中華人民共和国も、武力で台湾を制圧するということは絶対に避けるべきです。だが、だからといってロシアがウクライナに侵攻してしまったらそれは侵略です。そして、台湾に日本が軍事介入したら、これも中国に侵略への反撃と称した日本攻撃の口実を与えてしまいます。

さらにサミット終盤にはウクライナのゼレンスキー大統領が参加し、各国に武器支援を要求したとみられます。外交交渉ですから詳しいことはベールに包まれていますが、このタイミングで武器を要求しないわけがありません。広島は、戦争当事者の片方に加担する会議の場となってしまいました。

もちろん、ロシアの核による威嚇は許しがたい。しかし、それに対して、軍拡で答えるアメリカなどにも待ったをかける。そして、ヒロシマ・ナガサキに続く核戦争による悲劇が起こらないよう体験をもとに呼び掛けていく。これが1945年の被爆からいままでの平和都市広島=ヒロシマのスタンスだったはずです。

ゼレンスキー大統領単独で見学に来てもらい、復興支援を求めるメッセージに絞って発言していただくか、あるいは、適当なタイミングでロシアのプーチン大統領と両方呼んで、和平交渉への顔合わせを広島でする、というのであればまだわかるのですが、G7という場に来てもらったのはまずかった。

◆G7首脳の原爆資料館見学のプラス面は少ない

なお、G7首脳が原爆資料館で40分程度勉強したことを成果とする向きもあります。しかし、そのことを差し引いても、トータルではマイナスの結果だったのは明白です。そもそも、核大国の首脳になるほどの政治家はしがらみも多いのです。

政治家に核兵器の悲惨さについて勉強してもらうなら、例えば、核大国以外の国の首脳とか、核大国でもしがらみの少ない一年生議員に広島に来て勉強してもらう方が中長期にも国際世論の喚起や、核兵器保有国内での政策転換に役立つのではないでしょうか?

◆自民から共産まで、全員サミットを評価・期待!? 問われる広島県議の政治センス

筆者は統一地方選挙2003の広島県議選に立候補しました。マスコミや市民団体の政策アンケートでG7広島サミットについての設問では「サミット誘致を評価しない」「サミットに期待しない」という趣旨の回答をさせていただきました。

ところが、自民党、公明党はもちろん、立憲民主党、日本共産党に至るまで、既成政党系の候補者は全員、「サミット誘致を評価する」「サミットに期待する」というご回答をされていました。特に総理の軍拡にあれほど熱心に反対しておられる日本共産党の県議候補お二人がお二人とも「サミット誘致を評価する」スタンスで回答されていたのには腰を抜かすほど驚きました。特に安佐南区で筆者と議席を争った女性候補については、彼女の市議時代は、筆者も公選はがきを百枚単位で書かせていただくなど支援をさせていただいただけに衝撃は大きい。結果として筆者は当選に至らなかったが筆者が立候補しなければ、県民に対して選択肢を示すことはできなかったと痛感しました。

G7広島サミットに被爆者・当事者が僅かなのぞみをかけるのはよくわかります。サミットが行われる以上、そこに来る首脳にガツンと伝えるべきことは伝えないといけない。

しかし、サミットを誘致する立場(総理、知事、市長の行政トップ)、あるいはそれを議会で予算や法律などの面からチェックすべき政治家は「サミット開催が核兵器廃絶に資するかどうか」ということを精査する義務がある。そして残念だが、県議に関していえば、自民から共産まで精査した形跡がないのです。

◆「法の支配」が聞いてあきれる広島・日本の腐敗しきった行政

今回のサミットは、中国に対抗して、「法の支配」を推進するということもテーマでした。

しかし、足元の広島、日本の政治や行政は「法の支配」をえらそうに語れる状態でしょうか?

例えば、広島県の平川理恵教育長。外部の弁護士の調査でも地方自治法違反、官製談合防止法違反を指摘された上、「高すぎる」タクシー代についても虚偽答弁が発覚したにも関わらず、居座っておられます。彼女に代表されるような腐りきった県政は、「法の支配」とは程遠いものがあります。

また、日本の裁判所は住民vs行政の裁判では、ほとんど行政の主張をうのみにする場合が多い。原発、産業廃棄物、労働問題など。これで「法の支配」が行き届いていると言えるのでしょうか?

◆過剰警備や「お願い」に過ぎぬ過剰規制も「法の支配」と程遠く

また、前後を含むサミット期間中の過剰警備・過剰規制には筆者も含む広島都市圏住民は悩まされました。

特に、廿日市市宮島には、識別証を持たない人は入れない、という報道がされていました。ところが、筆者の友人が「規制が始まる」18日12時を過ぎてから宮島に渡ろうとして「規制」とやらの法的根拠を現場の外務省職員に問うたら法的根拠はなく「お願い」をしているだけだというのです。そしてそのお願いに基づいて、宮島ではお店に休業してもらっている。そして補償もしないという。これもまた「法の支配」とは程遠いものがあります。

◆明白だった平和都市としての「ヒロシマ」と旧白人帝国主義国本位の「G7」の「矛盾」

そもそも、戦後の広島という都市は建前では日本政府とも違うスタンスでした。繰り返しになりますが、日本政府は核兵器禁止条約そのものに反対だし、核兵器先制使用禁止をアメリカが打ちだそうとした際にはこれを阻止したのはむしろ日本政府でした。アジアに位置しながら、西側の一員として、日本政府は存在しました。しかし、広島という都市は、陣営を超えて、核というものは二度とわれてはいけん、なくさんといけん、というスタンスで建前はやってきたのです。

一方で、G7は西側=旧白人帝国主義国家に偏った集団です。所詮は旧白人帝国主義国家+脱亜入欧だった日本から構成されるものです。さらに、筆者も市民団体のアンケートでもふれたのですが、日本政府自体が、G7で名誉白人扱いされて舞い上がっているだけの感もあるのではないでしょうか?

こうした背景がある以上、G7はG7の論理で会議を進め結論を出すし、それはどうしても広島の思いとはかけはなれるのはわかりきったことです。

しかし、無理に広島でG7サミットを開催したことで、広島がG7による抑止力という名の軍拡を容認した形になってしまいました。自民から共産までの県議の皆様もそれを結果として後押ししてしまったのです。

また、世界は大きく変わっており、日米欧の世界経済などに占める割合は格段に落ちてきています。今回、グローバルサウスを呼んだのもそのことを日米欧も認めているということです。G7そのものが前世紀の遺物であることを自白しているということです。この点からもG7には期待できないし、広島サミットにも期待できないのは当然です。

◆市民が対抗して声を上げたのが「成果」

G7サミットは毎回そうですが、はっきり言って首脳たちによって庶民にプラスになるような成果はほとんどなかったというべきです。しかしながら、市民がサミットに対抗して声を上げていく(いわば反作用)に意義があったと言えるでしょう。

5月14日に原爆ドーム前で行われたG7サミットに反対する市民集会

 

5月14日の市民集会に参加した筆者

筆者も、G7サミット開催を目前にした5月14日に原爆ドーム前で行われたG7サミットに反対する市民集会に参加しました。グローバルサウスからフィリピンの元国会議員。そして今回、尹大統領も参加される韓国人で広島在住の方。そして台湾有事という名の軍拡合戦で犠牲を強いられることが予想される沖縄から参加、挨拶をいただきました。

また、多くの若者の皆様も、今回のG7サミットをしっかりチェックしていただいています。(https://twitter.com/Kakuwaka

そして、サミットに期待・サミット誘致を評価していたような政党の政治家も、「広島ビジョン」を見て、失望や怒りに変化しています。

筆者は、今後とも、総理の選挙区でもある広島からガツンと為政者(中央政府)に対して物申していく決意です。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

4月23日に投開票された統一地方選とともに、注目されていた衆参補選の5選挙区では、自民・維新が占める結果となりました。一方で、東京都練馬区議選で「大量落選」したのが公明党。これまで当選ラインを狙って候補者数を調整し、完璧に近い票の配分をしてきた同党が“コントロールミス”を犯したような格好です。このことで、公明党の選挙手法の一端が垣間見えてくるようでもあります。

 

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年6月号

この選挙で躍進した維新が肝いり事業とするのが「大阪・関西万博」ですが、今どき万博で人々の共通の未来を語ることが可能なのか。東京五輪が阻害した各種業界のマーケティングの「展示会」の方が、よほど有意義なのではないかと思われます。技術革新・消費のサイクルが早まるとともに、企業の平均寿命がどんどん短くなり、転職斡旋会社の宣伝では、人は人生で平均2回は転職するなどとPRしています。少なくとも今流行りのSDGsが利権づくりや一部の人々にとって「サステナブル」でしかないことが明らかとなりつつある現在、それぞれの個人の未来を確保することこそ必要なことです。しかも、大阪・関西万博は土壌汚染や軟弱地盤の問題、それゆえに上がり続ける整備費など、本誌も指摘してきたようにいくつもの問題を抱えています。政府が認可したカジノとともに「金だけ、今だけ、自分だけ」を象徴すると言っても過言ではありません。

解散・総選挙の可能性も取り沙汰されています。“爆発物事件”が暗い影を落とすのは、それが選挙を妨害するからではなく、議論すべき争点をぼかすことにしかならないからで、解散風とともにこの事件が活用されるのではと、マスコミ報道も気になるところ。自公政権におもねるマスコミこそ選挙妨害に加担しているのではないか、との検証こそ必要です。放送法解釈変更問題とは、その観点から論じられるべきものでしょう。事件については与野党が「民主主義の破壊」と非難する一方、容疑者も過去に起こした訴訟の中で、「安倍国葬」の強行を「民主主義への挑戦」と批判していたそうです。後者はともかく前者については、選挙があれば民主主義なのか、ということも、考えなければなりません。

本誌がシリーズ連載でレポートしている多くの冤罪事件をみても、日本社会のシステムが正常に機能していないことは明らか。ついでにいえば、仕事をこなすように犯罪が行なわれる「ルフィ」事件で、長らく誇ってきた治安の良さも、神話となりつつあるようです。さらに、AI技術が人の意思決定を奪うという今月号記事の指摘も重要です。5月号では、G7広島サミットが日米「核共有」、すなわち自衛隊の核ミサイル部隊化の契機となるとの分析を掲載しました。続いて今月号では、“次の戦争”への導火線としてヒロシマが政治利用される、その無惨な現状を明らかにしています。日本ではほとんど報じられないものの、米国覇権・ドル覇権の終わりが見えてきています。その事実が米国に“次の戦争”を求めさせる…それこそが台湾有事で、それに向けて自衛隊への敵基地攻撃能力の付与に加え、「同志国」に軍事的支援を行なう「OSA=政府安全保障能力強化支援」の創設も日本政府は表明。「新しい戦前」を危惧するどころか、“次の戦争”とその準備がいよいよ整いつつあります。

『紙の爆弾』は全国書店で発売中です。ご一読をよろしくお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年6月号

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