格闘群雄伝〈27〉戸高今朝明 ── 日本最古のキックボクシングジム「千葉ジム」閉鎖解体と昭和キックボクシングの終焉 堀田春樹

◆81歳最古参、ここが引退の潮時と……

戸高今朝明(とだか けさあき、1941年1月1日、沖縄出身)は1966年(昭和41年)、キックボクシングがまだテレビ放送される前から試合出場していた業界最古参。後に千葉(センバ)ジムを興して現在に至るが、今年4月にジム閉鎖。6月中には51年続いたジム建屋が解体に入るということであった。

平成以降は主要団体での活動は無く、2005年以降でも新木場ファーストリングでのプロ興行や、アマチュア大会を含め年数回開催するほどだったが、この2年はコロナ禍で練習生が離れてしまったことが第一の要因だったという。建屋も老朽化で雨漏りしても修繕も手が付かず、戸高氏も81歳。ここが引退の潮時と踏んだようだった。

やがて解体される千葉ジムで懐かしい話を語ってくれた戸高氏(2022年6月12日)

幼い頃、熊本で育ったという戸高今朝明氏は、高校卒業後は地元で就職も20歳で転職のために上京。「下駄履いて酒かっ食らいながら夜行列車で上京したよ!」と言う風貌が今でもよく似合う。まだ新幹線も無く、寝台列車は高いから4人BOX型自由席だっただろう。寅さん映画に有りそうな光景である。

戸高氏は上京後、空手を始めた縁から品川で自分の道場を持つまでになった頃、野口(目黒)ジムの藤本勲氏と出会う運命を辿ったことからスパーリングでタイ選手と向き合うことになった。空手が一番強いと信じていたが、ムエタイ技に全く敵わなかったことから、キックボクシングの試合に出場することになって数戦。日本で初めてキックボクシングがTBSによってテレビ放映された1967年(昭和42年)2月26日の沢村忠が東洋王座獲得する興行に戸高氏も出場。相手は門下生だったが判定勝ち。当時はセコンドに着ける人が少なかったため、選手は試合を終わってもバンテージ巻いたまま次の試合のセコンドに着いたり、試合前も進行準備が忙しかったという。

指導者は全く居ない時代で、パンチはボクシングから習い、蹴りは空手技を磨き、目黒ジムに訪れてはタイ選手を見様見真似でムエタイ技を盗み取っていった。

新興スポーツのため、ルールが曖昧だったのも初期の話。噛み付き、サミングと股間急所打ちは除いて、頭突きも投げもあった時代だった。

試合会場でリングを組み立てる戸高今朝明氏(1983年5月28日)
愛弟子2人、チャンピオン宮川拳吾とレフェリー古川輝と並ぶ(1983年9月18日)

◆隆盛期の痕跡

品川の空手道場は形式上の品川キックボクシングジムとなったが、手狭さから1969年に千葉市に移転。京成稲毛駅前のビル4階で国際ジムとして始めたが、階下に響く振動や騒音の苦情で、2年後の1971年(昭和46年)に農協が後援会に着いた支援もあって現在の稲毛区小仲台に移転。ジム名も千葉ジムに変更した。

この時期に視力の問題でプロボクシングを断念した松田忠がやって来た。名前は沢村忠と被るから国定忠治に肖って“忠治”と成り、稲毛の地名を取って稲毛忠治となった。

この稲毛忠治は日本ウェルター級新人王を獲って飛躍し、東洋戦では富山勝治(目黒)を衝撃的に倒すなど活躍が凄かった。セコンドに着く小さなオジサン(戸高氏)と“センバ”ジムの名前を全国に広め、千葉ジムが潤ったのも稲毛忠治の飛躍の御陰という。

戸高氏は計5名の名チャンピオンを誕生させた。佐々木小次郎、佐藤元巳、宮川拳吾、中川栄二。それは千葉に移ってから、プロボクシングで60戦を超える戦歴があったという市原敏雄氏が見学に来た縁から煩く指導もどきの野次を飛ばすことからトレーナーを任せて、近年まで興行を支えてくれた陰の存在があったという。分裂低迷期のリングアナウンサーやレフェリーも務めたことがある大正生まれの市原氏は2012年に亡くなられた様子。

そんな隆盛期から千葉ジム前の駐車場には大型トレーラーが停めてあり、常にリング一式が積載されていて、テレビ放映があった全盛期に、場合によっては選手もトランクに載せて全国を回ったこともあったという。荷台トランクには電灯は無い。

「真っ暗の中で寝て行け、何かあったらトランク叩け!」と言って奄美大島にも走った(トレーラーはフェリーに乗せて移動。運転手、選手は普通の乗船)。そんな各地での旅の想い出も懐かしいという。

千葉ジム建屋の中に2階宿舎を増築中の戸高氏(1983年11月13日)
日本キックボクシング連盟では暫定的ながら代表を務めたこともある(1985年6月7日)
ムエタイチャンピオン、サンユットも招聘した戸高氏(1986年6月下旬)

◆先を見据えて

1980年3月にテレビレギュラー放映が終わった時代のキックボクシング業界は衰退の一方。「このままではいけない」とどこのジム会長も考えた。

大々的な団体分裂が始まったのも1981年から。千葉ジムも参加し、日本系から9つのジム、全日本系から9つのジムが脱退して日本プロキックボクシング連盟が出来たのがこの年9月。

華々しかったが翌年には再び分裂が起こった。もう細分化されただけの見通しのつかない現状が残って、テーマの無い少ない興行が続いた。

それでも地方に行けば、戸高氏は活発にリングを組み立て、トレーナー業も大工仕事もプロの業でこなした。

誰も来ない日もあったジムが、また活気付くことを見据えて、ジム建屋の中に宿舎として二階スペースをほぼ一人で作った。

度々話題とする1984年の統合団体、日本キックボクシング連盟も分裂を辿り、1987年に山木敏弘氏が設立した日本ムエタイ連盟へ参加。

どこへ移っても同じなのは分かっていたというが、以前の日本プロキック連盟に似た活動は、半年ほどの興行を経て消滅を辿り、千葉ジムの進む方向が定まって来た時期でもあった。

夜の千葉ジム、古いボクシング漫画に出て来そうな外観(1986年6月下旬)
藤本勲氏と出会ってキックボクシングを始めた戸高氏、50年間のライバルである (2014年8月10日)

◆昭和のキックボクシング終焉

そこからフリーの道を選んだが、一時は隆盛を極めた千葉ジムの存在感は大きく、なかなかフリーでは活動し難い時代でも、交流戦で試合出場を増やしていく手腕も発揮。更には他から参加し易い体制を作る為、日本プロキックボクシング連盟を復活させ、チャンピオンも誕生させたが、大手の団体には敵わなかったのは仕方無いだろう。

キックボクシング界が最も低迷期だった1983年に戸高氏は、「もうこれ以上キックは下がりようがないから、諦めずに続けていればこれから少しずつでも楽しくなっていくんじゃないかな。団体という枠に拘らず、ジム単位で、あちこち戦う場を作っていけばいいムードになっていくと思うよ!」と語っていたが、その後、業界は何度も明るい話題が盛り上がりながら停滞。統一は叶わないどころか、より一層細分化した現在の団体やフリーのジム、プロモーターが増えた。

しかし、団体の敷居は低くなり、協力体制で興行が打てる時代となった。アマチュア大会も増え、若年層の成長によって選手層は厚くなり、テレビ地上波に扱われるほど有名選手が現れるほどにもなった。創生期からキックボクシング界を見て来た戸高氏の昭和期での予想は大凡当たっていたのである。

今回、ジムが閉鎖解体されると聞いて、私(堀田)は6月12日に千葉ジムを訪れた次第。1年前にも戸高氏に電話したことがあるが、その時はまだ閉鎖までの話は出ていなかった。

訪れてみると、昔からある古めかしいリングとサンドバッグはまだ有り、古いポスターは誰かが頂いたか、昭和の物は少なかった。会話中にスコールがやって来て、声が聞き取れないほど大雨がトタン屋根を激しく叩いた。正にタイのようなジムである。雨漏りは激しく、リング上には前もって洗面器が置かれており、ウェイトトレーニングスペースでは靴下が濡れてしまった。でもお金が有ったらこのまま買い取りたいと思うほど味ある千葉ジムだった。

戸高氏は1985年にタイ女性と結婚。娘さんの戸高麻里さんは同・連盟でリングアナウンサーを務めたこと多く、戸高氏は現在4人のお孫さんが居るが、ジムを引き継いで貰うには至らぬ運命だった。2020年1月に目黒藤本ジムが閉鎖され、そして今回の千葉ジム閉鎖は昭和キックボクシングの終焉を迎えたようで寂しい限りである。

古めかしい昭和のリング、貴重である(2022年6月12日)
建屋の前でファイティングポーズをとる戸高氏、TBSの文字も懐かしい(2022年6月12日)

◎堀田春樹の格闘群雄伝 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=88

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年8月号

二部制で女子がメインクラスのDUEL.24開催! 堀田春樹

今回は新大久保駅から徒歩8分ほどのGENスポーツパレスで開催。

小規模イベントではあるが、若武者会と言われたNJKFの新時代のメンバーで運営されて今回で24回目。各ジム後援会、選手仲間応援関係者が占める会場ではあったが、新人戦と女子試合の中堅クラスが会場を盛り上げた。

◎DUEL.24 / 7月3日(日) GENスポーツパレス 18:00~20:55
主催:VALLELY / 認定:NJKF

第2部(女子8~11試合)

◆11 S-1レディース・ライトフライ級3回戦(2分制)

ミネルヴァ・アトム級3位.久遠(=ひさえ・渡辺久江/ZERO/48.85kg)
      VS
ミネルヴァ・ライトフライ級5位.RINA(谷山・小田原道場/48.75kg) 
勝者:RINA / 判定0-3
主審:中山宏美
副審:和田27-30. 多賀谷28-30. 君塚27-30

久遠は2002年4月にMMAでデビューし、女子プロボクシングの経験を持ち、キックボクシングやシュートボクシングにも出場。昨年10月31日のDUEL.22では5年ぶりの復帰をしたが判定負け、今年に入って引分けと、今回も含めまだ勝利は得られず、キック通算戦績はこれで16戦9勝(2KO)5敗1分1NCとなった。RINAはこれで18戦9勝6敗3分。

ローキックとミドルキック中心の攻防からRINAが組み合うと久遠はロープに詰められる展開が増え、RINAがヒジ打ち落としも見せる。RINAはミドルキックなど距離に応じた蹴りで印象付け終了。

久遠を後退させるRINAのハイキック
劣勢でも落ち着いた試合捌きを見せる久遠のヒジ打ちでRINAを圧す

◆10 女子(ミネルヴァ) 49.5kg契約3回戦(2分制)

ライトフライ級1位.佐藤”魔王”応紀(PCK連闘会/49.0kg)
      VS
ライトフライ級8位.紗耶香(BLOOM/49.1kg) 
勝者:佐藤”魔王”応紀 / 判定3-0 (29-28. 30-28. 30-28)

互いにパンチヒザ蹴りローキックと攻防激しいが的確なヒットが少ないが下がらない両者。アグレッシブな前進が優った佐藤。第1ラウンドだけ10-9でジャッジ三者揃った以外は拮抗する展開で終わった。

両者アグレッシブな展開から紗耶香を上回っていく攻撃力の佐藤”魔王”応紀
佐藤”魔王”応紀が9月25日に挑戦するチャンピオン真美を迎えてツーショット

◆9 女子(ミネルヴァ)ピン級3回戦(2分制)

ピン級4位.撫子(GRABS/44.6kg)vs同級6位.斎藤千種(白山道場/45.36kg)
勝者:撫子 / 判定3-0 (29-28. 30-27. 30-28)

撫子は、先日ピン級チャンピオンと成った藤原乃愛には引分けと挑戦者決定戦で敗れる1敗1分だが、アグレッシブな展開を見せる元気な子といったイメージが残る。前進としぶとさ、ヒットの数で撫子が判定勝利。

毎度の前進と手数で圧倒していく撫子の前蹴りで斎藤千種を攻める

◆8 第2部 女子アマチュア50.0kg契約2回戦(90秒制)

堀田優月(闘神塾)vs鍋倉凛音(HARD WORKER)
勝者:堀田優月 / 判定3-0 (20-18. 20-18. 20-19)

以下第1部(1~7試合)

◆7 59.0kg契約3回戦

パヤヤーム浜田(キング/58.7kg)vsコウキ・バーテックスジム(VERTEX/58.9kg)
勝者:コウキ・バーテックスジム / 判定0-2
主審:和田良覚
副審:多賀谷28-30. 竹村29-30. 中山29-29

序盤のローキックでの様子見から徐々にコウキがミドルキックからやや高め、ハイキックへ勢い付いていく。浜田はいつもながら出遅れる展開で反撃が遅い。最後になってやや我武者羅に出るが時間が無く、以前のような怒涛の巻き返しは見られず。ジャッジ三者が揃ったラウンドは無いが、コウキが積極性で上回った印象は残る。

気合いで負けず、奇声を上げていくコウキのハイキックが浜田の勢いを止めた
勝ってリングを降りる際も陽気にアピールするコウキ

◆6 57.0kg契約3回戦

竹添翔太(インスパイヤード・M/56.5kg)vs庄司理玖斗(拳之会/56.5kg) 
引分け 1-0 (29-29. 29-29. 30-28)

両者アグレッシブな蹴りとパンチ、組み合うとヒザ蹴りの採点もジャッジ三者ともに一致したラウンドが無い拮抗した展開で終わる。

男子キックのセミファイナル的位置付けの竹添翔太vs庄司理玖斗は拮抗した展開でドロー

◆5 スーパーフェザー級3回戦

細川裕人(VALLELY/58.7kg)vs山崎尚英(スタートゲート/58.9kg)
引分け 三者三様 (29-30. 30-29. 29-29)

◆4 フライ級3回戦

玉城海優(RKA糸満/50.65kg)vs明夢(新興ムエタイ/50.65kg)
勝者:明夢 / 判定0-3 (29-30. 28-30. 29-30)

◆3 52.5kg契約3回戦

愛輝(ZERO/52.15kg)vs中島隆徳(GET OVER/52.0kg) 
勝者:中島隆徳 / 判定0-3 (27-30. 28-30. 28-29)
           
◆2 57.0kg契約3回戦

島人祖根(キング/56.65kg)vs颯也(新興ムエタイ/56.8kg)
勝者:島人祖根 / TKO 2R 2:28

颯也の蹴りがインパクトあるが、島人のパンチで1ラウンドに2度、2ラウンドにも2度目のノックダウンでレフェリーストップ。

2試合しかしかなかったノックアウト勝利の一つは島人祖根が颯也を倒してKO賞獲得

◆1 53.0kg契約3回戦

悠(VALLELY/52.4kg)vs翼スリーツリー(DAIKEN THREE TREE/53.0kg)
勝者:悠 / KO 1R 1:39 / パンチによる3ノックダウン

第1試合で翼から3ノックダウン奪ってKO賞を獲った悠

《取材戦記》

最終試合の久遠vsRINA戦はヒジ打ち、顔面ヒザ蹴り有効S-1ルール。女子は禁止技となること多いが、それがムエタイやキックボクシングとして基本技に含まれる当然の打撃技である。でもこの日、実際に女子が頭部にヒジ打ちガンガン打ち下ろしているとエゲツなく見えてしまった。斬るというよりゴツゴツ当てているようなヒットだった。試合後の久遠はダメージよりも疲れた表情でファンに笑顔を見せた。近年は出産育児を経て再起する選手も多いが久遠もその経緯がある。これも今時の女子キックボクサーの在り方でしょう。

佐藤”魔王”応紀の勝利後、9月25日に佐藤の挑戦を受けるミネルヴァ・ライトフライ級チャンピオン、真美(team lmmortal)がリングに上がり、佐藤は「真美選手と再戦することになりました。アグレッシブに戦います!」とコメントした後、真美は「相手に何もさせず、全て上回ってベルトを持って帰ります!」と宣戦布告し、ツーショットに収まった。二人は2019年6月9日に対戦し真美が判定2-0勝利している。コメントを求められれば少々過激な発言しなければ盛り上がらないという意識もあったかもしれませんね。

パヤヤーム浜田は昨年10月、KO勝利で2勝目を上げたが、敗戦は12敗を数える。4月24日の春日部では劣勢から盛り返しながらポイント上回れず引分け。昨年のインタビュー上の凄く遠慮がちな発言ながら、「チャンピオン目指します!」と言った浜田は、いつものラストラウンドの我武者羅に盛り返す突進が少なかった。「倒す気持ちが足りなかった、一から出直しです!」と反省しきり。向山鉄也会長は「中盤入ってからも見過ぎだよ。」と語る。

この試合の数日前だが、向山会長に「パヤヤーム浜田はいずれタイトルマッチまで到達しますかね?」と聞くと、「あとちょっと2試合ぐらい勝てばランキングには入るだろうけど、それ以上は難しいな!」と回答。

負け越していても連敗してもタイトル挑戦が有り得る現在の各団体レベルのタイトルマッチ。日本を代表するトップクラス(WBCムエタイ等、同水準日本王座)やRIZIN、KNOCK OUT等ビッグイベント出場には難しいだろうが、1983年11月、神奈川県出身の浜田はリングネームどおり、パヤヤーム(タイ語で努力)を続けていくだろう。

久遠とパヤヤーム浜田は今後負けても、いつの間にか居なくなることなく、どこまで上位進出への挑戦を続けていけるかが注目の一つでしょう。

前回のDUELはカルッツ川崎に於いて、エスジム主催でタイトルマッチ5試合を行なったが、今回は新人戦が中心のイベントで終わった。GENスポーツパレスはK-1GYMも入っているビルの様子。階上の体育館はバスケットボールが行える設備があり、天井も高かった。新人戦はこういった質素な会場で、ランキング以上は後楽園ホールで試合するといったレベル、段階分けも必要でしょう。

NJKF次回興行は9月25日(日)に後楽園ホールでNJKF 2022.3rdが開催予定です。次のDUELは未定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年8月号

格闘群雄伝〈26〉チャイナロン・ゲーオサムリット ── 日本で戦い、指導者として存在感を示したムエタイボクサーの人生 堀田春樹

◆運命の導き

ムエタイトップクラスがスタジアム定期出場の合間を縫って来る1試合のみの数日滞在と、ビザの期限まで滞在して数試合出場するパターンは過去に述べたとおりで、ムエタイトレーナーとしての役割を担っている場合も多かったでしょう。それぞれに出会いがあり、日本に行く決断があり、過去のテーマで述べた国際結婚にも至るなど、人生の運命も変わるものでした。

チャイナロン・ゲーオサムリット(本名チャッチャイ・スカントーン。1973年5月21日、タイ国スラタニー県出身)は初来日はまだ19歳だったが、日本のキックボクサーが乗り越えるべき壁となって立ちはだかる存在でした。

唯一のタイトル歴は1995年1月29日、チェンマイでのIMF世界ウェルター級王座決定戦で欧州ウェルター級チャンピオンにKO勝利で王座戴冠しています。

チャイナロンが日本に来る運命は、1991年(平成3年)5月にOGUNI(小国)ジムの斎藤京二氏が現役引退し、会長に就任した当初から、自身の現役時代に足りなかった部分を補い、選手育成に繋げようと、ムエタイトレーナーの招聘を計画していたことから始まりました。

◆「チャイナロン、日本に行きたいか?」

現在は多くのジムで、比較的取得し易くなったと思われる技能指導のビザで来日していますが、当時、タイ人トレーナーはまだ限られたジムしか呼べなかった時代。その頃、タイに行くこと多かった私(堀田)は、その相談を受けたことが諸々の出会いから繋がっていく因果応報でした。

1992年夏に渡タイした際、親密な関係にあったゲーオサムリットジムのアナン・チャンティップ会長から紹介してくれたのがチャイナロンでした。

「身体の発達が早くて、もう軽量級では戦えないから、トレーナーにさせたんだ!」と言い、更に「試合は出来るし、トレーナーも出来るし、肉体労働も出来るし、ホームシックにも掛からないよ!」と太鼓判。

ジムワークのチャイナロンは蹴りが重そうなテクニシャンで、ミット持ち指導も難無くこなす。当時、フェアテックスジムでトレーニングしていたOGUNIジムのソムチャーイ高津にも来てもらってチャイナロンへのミット蹴りを試して貰う。トレーナーとしては若過ぎるかとは思ったが問題は無さそうだ。

ミット蹴りを受けるチャイナロン、査定は合格(1992年7月)

「チャイナロン、日本に行きたいか?」と聞くと、考え込むことも無く「行きたい!」と応えた。

「日本の冬は寒いし友達も居ないしタイ語は通じない。指導以外に肉体労働もあるかもしれないし楽じゃないよ!」とは伝えたが、そんな苦難まで想像できるものではなかっただろう。

出稼ぎ目的で、あの手この手で来日しようとするアジアの人々は多かった時代。有名ムエタイ選手でもビザ審査は難しい立場にあったが、招聘する日本側、送り出すタイ側も実績に問題無くビザ申請は進行。チャイナロンは同年10月10日に初来日した。

斎藤会長の厳しい視線の中、来日当初のジム風景(1992年11月)

◆日本人選手の壁となった8年間

成田空港に着くとすぐ用意されていた高島平の宿舎に連れて向かった。一般の団地である。19歳の若者が、拉致されて来たかような環境に耐えられるだろうか不安はあったが、夜はトレーナー業での選手との触れ合いは和やかで、慣れるのは早かった。

予定された最初の試合は10月24日、フェザー級ランカーの延藤直樹(東京北星)戦。タイではフェザー級(-57.1kg)だったが、契約ウェイトは57.6kg。日本人の前に立ちはだかる強さを想定していたが、2-0判定負け。1ポンド増しでも環境変化による減量は思うようにいかなかったようだ。

ジムワークではヒジ打ち、ヒザ蹴り、首相撲からの崩しの指導が上手く、ミット蹴り指導は抜群だった。

「指示通りにやるミット蹴りはでなく、どこからパンチを打っても蹴っても選手側がいい感触になるように受けてくれて、こんなフリースタイルは才能ある人じゃないと出来ないと思います!」という当時の所属選手の感想だった。

スパーリングはテクニック全開で指導。「こんな強えーのに何で負けたんだ!?」そんなベテラン選手の声も上がるほど誰も寄せ付けなかった。

翌1993年3月27日には内田康弘(SVG)と対戦。今度は59.0kg契約。体調は万全で初戦とは違った素早い動きと重い蹴りで内田を翻弄しノックアウトで仕留め評価も上げた。

[写真左]初戦は延藤直樹(延藤なおき)に僅差判定負け(1992年10月24日)/[写真右]評価を上げたノックアウト勝利、内田康弘戦(1993年3月27日)

更なる試合は再来日のタイミングで1994年6月17日、全日本ライト級チャンピオン杉田健一(正心館)に判定勝利。その翌年の来日ではウェルター級ランカーの松浦信次(東京北星)に判定勝利。身体の発達が早かった為の階級アップが続いた。その後も勝山恭次(SVG)をヒジ打ちTKOで下し、松浦信次を判定で返り討ち、佐藤堅一(士道館)に判定勝ち。いずれもテクニックで翻弄した展開。その後、青葉繁(仙台青葉)にはヒジ打ちで切られて敗れたが、ノックダウンを奪う攻勢を続けていた。

テクニックで圧倒、杉田健一に大差判定勝利(1994年6月17日)
[写真左]チェンマイで初のベルト戴冠(1995年1月29日)/[写真右]松浦信次とは2戦とも判定勝利(1997年6月27日)

1998年6月にはOGUNIジム後援関係者の縁で出会った女性と結婚。奥さんの父親が経営する配管工事の会社で働き、親方と言われるまでの昇格もあった。後の現役引退後は生活形態が完全に変わってトレーナー業からも離れたが、以前からダウンタウンの松本人志さんから度々呼ばれ、「ガキの使いやあらへんで」などでお笑いタレントを蹴っ飛ばすムエタイ技を見せる番組にも多く出演し人気を得た。

生活環境が変わり、時代の変わり目でもあった1999年4月には、日本キック連盟エース格の小野瀬邦英(渡辺)と対戦。第1ラウンド、チャイナロンの上手さが目立つ中、小野瀬が接近した一瞬のヒジ打ちで額をカットされTKO負け。

[写真左]佐藤堅一が冷静さを失うほど、チャイナロンがテクニックで翻弄(1997年6月27日)/[写真右]小野瀬邦英の圧力は、それまでの日本人とは違っていた(1999年4月10日)

プライド傷つけられたチャイナロンは同年12月、再戦で初回から猛攻、小野瀬の顔をボコボコに鼻も折るも、第2ラウンドにボディーへのヒザ蹴りを受け逆転KO負け。小野瀬の飛躍への踏み台とはなったが、日本に長期滞在、結婚して生活のリズムも変われば、ムエタイの強さを発揮した時期より勘の鈍りは免れなかった。

翌年、中村篤史(北流会君津)をノックアウトで下し、有終の美を飾った。日本での通算戦績は11戦7勝(3KO)4敗。日本選手がこの壁を超えなければ本場タイで通用しないといった一つのステータスとなったのがチャイナロンや、現在も度々試合出場する常連在日タイ選手である。

ウェイトトレーニングで元気いっぱいの現在(2022年4月10日)

◆日本男児

すっかり日本に溶け込んだ2011年の夏、チャイナロンが脳内出血で倒れた。ある日の朝食後、仕事に行こうと立ち上がったところ、急に身体がフラフラし、バランスがとれず倒れてから記憶が無いという。家族が救急車を呼んで緊急搬送され手術で一命を取り止めたが、10日間ほど昏睡状態が続き、幸いにも意識が戻ったが、それまでの記憶が乏しかった。

医者は「後遺症は残るが、まだ若いから普通の生活が送れるほどへの回復の可能性は高い」と言い、リハビリテーションを経て退院後、仕事復帰まで回復。現在も右腕と右足に麻痺は残るが杖無しで歩き、初来日当初や延藤直樹戦もしっかり覚えていた。

当初は日本語は全く話せなかったが、「カラオケで歌詞が読めず歌えないことから日本語を覚えようと思ったこと、結婚して日本で暮らすことになったことがより必要不可欠になった!」という。来日当初は私やソムチャーイ高津らの初級タイ語で会話していたが、現在は完全な日本語のみの会話である。

3人のお子さんは長女、次女、末っ子の長男が現在高校三年生で、「大学に行きたい」と言えば行かせるつもりと言う。急病前までは奥さんには働かせず、俺が働くという振る舞いと、実家があるタイのスラタニー県には両親への家も建てたという昔ながらの日本男児たる大黒柱である。

日本人女性との結婚も多い在日ムエタイ選手。国際結婚は苦労多いが、長く連れ添う奥さん側に忍耐ある人が多い。こんな経緯で日本永住となったムエタイ戦士の一人を紹介しましたが、他にも日本で活躍する元ムエタイボクサーにもそれぞれのドラマが存在するでしょう。

◎堀田春樹の格闘群雄伝 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=88

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年7月号

釼田昌弘、番狂わせの王座獲得。田村聖を破る! 堀田春樹

前チャンピオン(第7代)の西村清吾(TEAM KOK)が王座返上による今回の王座決定戦は、釼田昌弘が田村聖を苦しめ、僅差判定で下すと番狂わせだけに衝撃的メインイベントの終了。これでテツジムからウェルター級の蛇鬼将矢と並んで現役2人目のチャンピオン誕生となった。

笹谷淳は打たれない巧みな試合運びも大きな山場を迎えることなくドローに終わる。
野村怜央は判定勝利も額を切られて終わる辛勝。

◎喝采シリーズ Vol.3 / 6月18日(土)後楽園ホール17:33~20:37
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

◆第12試合 第8代NKBミドル級王座決定戦 5回戦

チャンピオンベルトとお米(粒すけ)10kg獲得の釼田昌弘

1位.田村聖(拳心館/72.45kg/1988.7.23新潟県出身)24戦13勝(10KO)10敗1分
      vs
4位.釼田昌弘(テツ/72.55kg/1989.10.31鹿児島県出身)19戦6勝10敗3分
勝者:釼田昌弘 / 判定1-2
主審:前田仁
副審:川上48-49. 鈴木48-49. 加賀見50-48

両者は2018年4月21日に対戦し、田村聖が判定勝利(3回戦制)しているが、今回の大方の予想もチャンピオン(第6代)経験者の田村聖有利だった。

組み合ったところから崩しに入ると柔道や総合格闘技経験ある釼田昌弘が上手いが、これもリズムを作る切っ掛けとなったか。釼田はローキックで田村を転ばすことも多かったが、カーフと言われる脹脛を狙う低い位置や足を掛けてバランスを崩す流れでもあった。田村聖は第2ラウンドにローキックで勢い強めるが主導権奪う流れは作れず。

釼田に「ミドルを蹴れ!」というテツ会長が怒鳴るもミドルキックは少なく、ボディーへの前蹴りと時折ハイキックも見せ、田村の前進を弱める効果が見られた。

釼田のローキックが効いているのか、田村は蹴りに行きながら自らバランス崩す場面もあり。第3ラウンド以降、釼田はヘロヘロでも踏ん張って、2-1ながら釼田昌弘の判定勝利。

ボディー攻めが効果的だった釼田昌弘の前蹴り
釼田昌弘の右ハイキックと田村聖の右ストレートが交錯

◆第11試合 ウェルター級3回戦

NKBウェルター級3位.笹谷淳(team COMRADE/66.4kg)
      vs
天雷しゅんすけ(SLACK/64.95kg)
引分け 1-0
主審:川上伸
副審:高谷29-29. 鈴木29-28. 前田29-29

初回早々は天雷しゅんすけの右ストレートから連打で笹谷をロープ際に詰めるも、天雷はパンチはあるが蹴りが少なく、笹谷は出方を見極めて、パンチ連打と蹴りから組み合っていく。

終盤に天雷はパンチで前進し、笹谷をロープ際にやや後退されたが、どちらも主導権を奪う攻勢は無く終了。

パンチで攻めれば笹谷淳が有利と見えるが攻勢に導けず
勝利を掴むも額を切られての終了は無念さ残る野村怜央

◆第10試合 ライト級3回戦

NKBライト級3位.野村怜央(TEAM KOK/60.9kg)vs KEIGO(BIG MOOSE/60.8kg)

勝者:野村怜央 / 判定2-0
主審:加賀見淳
副審:高谷30-30. 川上30-29. 前田30-29

KEIGOが開始早々飛んでのチョップ気味のパンチ打ち下ろし。

蹴りも右ストレートも伸びがいい。

野村はややスロースターター気味でも冷静に様子を見て蹴りとパンチコンビネーションで返して、ペースを掴んだ流れも最終残り5秒でKEIGOが飛びヒザ蹴り。

ヒットはしなかったと見えたが、試合終了ゴングが鳴った後、野村の額から出血が見られ、ヒザ蹴りが掠ったかと思われる。

判定は僅差だが野村怜央の勝利。

カットは終了間際。鮮血が流れたのは終了ゴング後。

すぐの流血ではない、やや時間差があった。

カットさせたことを優勢と抗議しても覆ることは無いが、残念さは残るKEIGO陣営だった。

コンビネーションブローで野村怜央が優った展開は僅差ながら勝利を掴む

◆第9試合 59.0kg契約3回戦

JKIフェザー級7位.都築憲一郎(エムトーン/58.9kg)
      vs
NKBフェザー級5位.鎌田政興(ケーアクティブ/58.2kg)
引分け 三者三様
主審:鈴木義和
副審:加賀見29-29. 前田29-30. 川上30-29

両者のパンチと蹴りのコンビネーションで後に引かない展開も強打が無く、どちらも主導権を奪ったとは言えない、差が付け難い三者三様に分かれた。

都築憲一郎の前蹴りが鎌田政興の突進を止める、互角の攻防は引分け

◆第8試合 フェザー級3回戦

七海貴哉(G-1 TEAM TAKAGI/56.8kg)vs 半澤信也(Team arco iris/57.15kg)
勝者:七海貴哉(赤) / KO 1R 1:44
主審:高谷秀幸

七海貴哉がパンチの距離で右ストレートで3度のノックダウンを奪ってノックアウト勝利。半澤信也は打ち合いを避けた方がよかっただろう。

七海貴哉がカウンターパンチで半澤信也を3度倒す
Mickyがヒザ蹴りで圧倒していく展開で荻原愛を倒した

◆第7試合 女子バンタム級3回戦(2分制)

Micky(PIRIKA TP/53.35kg)vs 荻原愛(ワンサイド/52.95kg)
勝者:Micky(赤) / TKO 3R 0:33

Mickyが萩原愛を捕まえ首相撲からヒザ蹴りをヒットしていく。第2ラウンドには何度かヒザ蹴り連打を受けたこところでスタンディングダウンとなった荻原。第3ラウンドにもMickyがヒザ蹴り連打から崩し倒すとダメージを見たレフェリーが試合ストップし、MickyのTKO勝利となった。

◆第6試合 ウェルター級3回戦

田村大海(拳心館/66.15kg)vs 浦辺俊也(Team arco iris/66.1kg)
勝者:田村大海(赤) / TKO 2R 1:56

田村大海は田村聖の弟。パンチが上手く、2度目のノックダウンとなった際の、一発の右ストレートヒットでレフェリーがカウント中にストップし、田村大海のTKO勝利。

◆第5試合 ライト級3回戦

近藤豊仁(STS/62.05kg)vs 蘭賀大介(ケーアクティブ/62.45kg)
勝者:蘭賀大介(青) / TKO 2R 1:19 / カウント中のレフェリーストップ

◆第4試合 バンタム級3回戦
シャーク・ハタ(=秦文也/テツ/52.5kg)vs 笠原秋澄(ワンサイド/53.05kg)
勝者:シャーク・ハタ(赤) / 判定3-0 (30-28. 30-29. 30-29)

田村大海が冷静に攻め、右ストレートをヒットさせる

◆第3試合 フェザー級3回戦

志村龍一(拳心館/56.6kg)vs 古木誠也(G-1 TEAM TAKAGI/56.85kg)
勝者:古木誠也(青) / KO 1R 0:47 / 3ノックダウン

◆第2試合 56.0kg契約3回戦

TAKUMI(Bushi-Doo/54.3kg)vs 安河内秀哉(RIKIX/55.85kg)
勝者:安河内秀哉(青) / KO 3R 2:37 / 3ノックダウン

◆第1試合 バンタム級3回戦

山本藍斗(GET OVER/52.55kg)vs 橋本悠正(KATANA/53.2kg)
引分け 1-0 (29-28. 30-30. 29-29)

《取材戦記》

田村聖は元・NKBミドル級チャンピオンで、PRIMA GOLD杯ミドル級8人トーナメント(開催2019.4~2020.2)優勝。この経験が大差を付けて勝つだろうという大方の予想が外れた。番狂わせと言ったら釼田昌弘に対して失礼かもしれないが、柔道四段と総合格闘技経験がある釼田が、5回戦経験は少ない中、後半ヘロヘロになりながら踏ん張った。

チャンピオンベルトを腰に巻き、勝利者賞として贈られた今井興業ライスセンターのお米10kgを抱えて控室に戻って来た釼田昌弘は勝因について、「ただ気持ちだけでやっていました。内容的には酷かったですけど、ミドルキックと前蹴りでボディー攻めが効いたかな、ミドルは少なくて怒られたけど!」

これからチャンピオンとしてNKBグループのメインイベンターを務めるにはちょっと心許無い存在であるが、新チャンピオンは新たな好カード誕生に繋がる。自覚が芽生え、ここから化ける選手も多いのも過去には多い事実。

釼田昌弘も他団体交流や、現在の有名どころのビッグイベントプロモーション興行出場目指して結果を残さねばならない。

野村怜央は試合終了3秒前にカットされた様子で、KEIGO陣営にとっては悔やまれる結果だったでしょう。傷の具合やヒットしたタイミングと終了ゴングの間(ま)、問題追求すれば判断の難しい裁定ではあります。試合は既定の3ラウンドで終了し、採点集計され野村怜央の僅差2-0判定勝ち。もし再戦が行われるようであれば因縁の面白いカードとなるでしょう。

近年はビッグマッチに於いても有料配信が中心となる時代となりました。視聴者数では翌日の「THE MATCH」に遥かに敵わぬも、今回の興行もツイキャス(twitcasting)にて有料生配信がありました。録画再配信は7月2日まで可能のようです。
日本キックボクシング連盟次回興行は、7月31日(日)に大阪176boxに於いて、NKジム主催の「喝采シリーズvol.4 / Z-Ⅳ Carnival YOUNG FIGHT」が開催予定です(開場13:30 開始14:00)。後楽園ホールでの連盟定期興行予定は10月29日(土)です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

波賀宙也、接戦の厚い壁、ムエタイ世界王座防衛成らず! 堀田春樹

初防衛に成功した洋輔YAMATOは上位王座WBCムエタイ日本王座挑戦を希望

波賀宙也がローキックでペットーンを苦しめるも“接戦の厚い壁”に阻まれる。

ルイも積極的展開を見せながら、ザ・スター・シッチョーの巧みさにポイントを持っていかれた敗戦。

洋輔YAMATOがしぶとい野津良太をTKOに下しNJKF王座初防衛。

シングルマザー、NA☆NAが昨年10月に引分けたIMARIと接戦の末、王座獲得。

嵐が吏亜夢の長身からくる距離感で苦戦も終了間近、パンチの打ち合いに持ち込みノックダウンを奪う執念の勝利。

この日、ノンタイトル戦で杉山空と引分けたチャンピオンの優心と、挑戦権を奪った嵐が並んでタイトルマッチへのコメントを述べるも、嵐の力強さが優ったアピール。

◎NJKF 2022.2nd / 6月5日(日)後楽園ホール17:30~21:50
主催:ニュージャパンキックボクシング連盟(NJKF) / 認定:IBFムエタイ、NJKF

《プロ公式戦10試合》

◆第10試合 IBムエタイF世界ジュニアフェザー級タイトルマッチ 5回戦

Champion.波賀宙也(立川KBA/55.3kg)vs ペットーン・ギャッソンリット(タイ/55.33kg)
勝者:ペットーン・ギャッソンリット / 判定0-3
主審:スントーン・シーブラー(タイ)
副審:サノン(タイ)48-49. ソムサック(タイ)48-49. 宮本和俊(日本)48-49

ペットーンのミドルキックと波賀宙也のパンチが交錯

ペットーンは、タイ国ノンタブリー県ジットムアンノンスタジアム(オートーコー市場)認定フェザー級チャンピオン。オートーコー市場はタイ農業共同組合生鮮市場の一つ。

リングネームは「ペットング・ゲッソンリット」という主催者発表ではあるが、正式に近い発音は「ペットーン・ギャッソンリッ」となる。

ペントーンは前日計量が55.6kgで、少しずつ試しながら4度目の計量で55.3kgのリミットまで落とした様子。

入国から計量時まで秤に乗る機会が無ければ、よくあるパターンで、わずかな差の減量影響は無いだろう。

序盤は様子見も波賀宙也はローキック中心に攻める。ペットーンも序盤は軽く蹴る流れで、第3ラウンドから距離を詰めて圧力掛けて出て来た。

波賀宙也も凌いで蹴りの攻防。どちらが強く多く攻めて主導権を奪うかの展開。

ペットーンの蹴りは勢い付き、波賀もローキック中心にかなり蹴り込んで効いた様子もあったが、ペットーン勢いを止めることは難しかった。

それでも全体的に上回ったように見える波賀の気合入った頑張りも採点はペットーンに流れていた。

波賀は惜しくも防衛成らず王座陥落。

波賀宙也のローキックとペットーンのミドルキックが交錯

◆第9試合 S-1レディース・スーパーフライ級 世界王座決定戦 5回戦(2分制)

S-1ジャパン同級覇者.ルイ(=和田類/クラミツ/52.1kg) 
      vs
ザ・スター・シッチョー(元・WPMF世界アトム級C/タイ/51.85kg)
勝者:ザ・スター・シッチョー / 判定0-3
主審:サノン・アウムイム(タイ)
副審:ソムサック(タイ)48-49. スントーン(タイ)46-50. 中山宏美(日本)48-50

ルイが積極的に蹴って出て、シッチョーが蹴り返す展開も、前進の勢いはルイが目立つ。しかし、シッチョーは蹴りの的確さと首相撲の展開では優位に立ち、大差を付ける採点もある中、判定勝利でタイへS-1世界王座を持ち帰ることになった。

シッチョーの左ミドルキックがルイにヒット
王座獲得に成功したタイ陣営、ペントーンとシッチョーが並ぶ

◆第8試合 NJKFウェルター級タイトルマッチ 5回戦

Champion.洋輔YAMATO(大和/66.5kg)
      vs
挑戦者同級1位.野津良太(E.S.G/66.4kg)
勝者:洋輔YAMATO / TKO 5R 0:27
主審:竹村光一

開始からローキック中心に的確なヒットを続けていた洋輔YAMATO。野津良太はスピードで劣るも、予想通り第3ラウンドにはしぶとく勢い増して蹴って出てきた。

第4ラウンドには洋輔が野津をコーナーに詰めたところでの接近戦で、偶然のバッティングで野津が左眉下を切る。

ドクターチェック後、洋輔のパンチ連打からの蹴りで野津がバランス崩してスリップ気味のノックダウン。すぐに立ち上がられずノックダウンとなって、最終ラウンドも野津が蹴りに出たところがバランス崩して倒れ、立ち上がりが遅い為のノックダウンを宣せられ、更に蹴りを受けてスリップ気味に倒れると2度目のノックダウン扱いでノーカウントのレフェリーストップとなったが、洋輔のローキック(カーフ)によるダメージがあったと思われる。

洋輔YAMATOが野津良太にローキックをヒット、スピードある攻めを続けた

◆第7試合 女子(ミネルヴァ)スーパーフライ級王座決定戦3回戦

2位.IMARI(LEGEND/51.5kg)vs 6位.NA☆NA(エス/52.1kg)
勝者:NA☆NA / 判定0-2
主審:宮本和俊
副審:和田28-30. 中山28-29. 竹村29-29

両者は昨年10月31日の「DUEL.22」で対戦し三者三様の引分け、今回は前進の勢い強かったNANA。結構パンチで打ち合い、IMARIは表情冴えなく圧されるシーンが多くNANAが判定勝利で王座獲得。

NANAが活き活きしたファイトでミドルキックをIMARIにヒットさせる

◆第6試合 62.0kg契約3回戦

健太(元・WBCムエタイ日本ウェルター級C/E.S.G/61.8kg) 
vs
琢磨(元・WBCムエタイ日本スーパーフェザー級C/東京町田金子/61.9kg)
勝者:琢磨 / 判定0-3
主審:少白竜
副審:竹村28-30. 中山28-30. 宮本28-30

前回は色白だった健太がまた以前のような日焼けした褐色に戻って来た。初回からの探り合いはパンチとローキックの駆け引き。落ち着いたベテラン同士の攻防は後半にやや琢磨のパンチヒットが目立ち判定勝利を導く。

100戦超えの健太に飛びヒザ蹴りで攻める琢磨

◆第5試合 56.0kg契約3回戦

TAKAYUKI(=金子貴幸/REV/55.75kg) 
vs
WMC日本バンタム級チャンピオン.稔之晟(TSK Japan/55.7kg)
勝者:稔之晟 / 判定0-3
主審:和田良覚
副審:竹村28-30. 少白竜29-30. 宮本27-30

蹴りの攻防から稔之晟(=じんのじょう)の前蹴りでボディーが効いていたTAKAYUKIは下がり気味で攻めの勢いが足りない展開。稔之晟は組み合ってからのヒザ蹴りもあり、勢い増した判定勝利を導く。

◆第4試合 51.0kg契約3回戦

NJKFフライ級チャンピオン.優心(京都野口/51.0kg)vs 杉山空(HEAT/50.55kg)
引分け 1-0
主審:中山宏美
副審:和田29-29. 少白竜30-29. 宮本29-29

パンチとローキック中心から多彩に蹴り合うのはやや優心が攻勢も、接近戦で杉山が組み合ってくると決定打の無い展開が続き引分け。

◆第3試合 NJKFフライ級挑戦者決定戦3回戦

2位.吏亜夢(ZERO/50.7kg)vs 3位.嵐(キング/50.55kg)
勝者:嵐 / 判定0-3
主審:宮本和俊
副審:竹村27-29. 少白竜28-29. 中山27-29

長身の吏亜夢が手足の長さと距離感を掴んで蹴りのヒットで優位に進めたが、ペース掴めぬ嵐もパンチとローキックでチャンスを待つ。最終ラウンド終了近い残り時間でパンチの打ち合いに導いた嵐が強烈な連打でノックダウンを奪って勝利を決定付けた。

次期挑戦者となった嵐(右)と2度目の防衛戦となる優心(左)がツーショット

◆第2試合 ウェルター級3回戦

NJKFウェルター級6位.宗方888(キング/66.5kg)vs 悠YAMATO(大和/66.6kg)
勝者:悠YAMATO / 判定0-2 (29-30. 29-29. 28-29)

◆プロ第1試合 女子(ミネルヴァ)57.0kg契約3回戦(2分制)

北川柚(京都野口/56.5 kg)vs ERIKAスリーツリー(DAIKEN THREE TREE/57.0kg)
勝者:北川柚 / 判定3-0 (30-28. 30-27. 30-27)

◆オープニングファイト アマチュア-54kg級2回戦(90秒制)

辺成玉(鍛錬会/53.0kg)vs 高橋ひかる(GRES 8Mile/53.8kg)
勝者:辺成玉 / 判定2-0 (20-29. 20-18. 20-18)

戦うシングルマザーとして女子(ミネルヴァ)チャンピオンと成ったNANA

《取材戦記》

4つのタイトルマッチ、歴史あるものから最近派生したものまで、それぞれの運命がありました。IBFムエタイ、S-1、NJKF、ミネルヴァ。今回はタイのIBF本部から審判団が3名来日。女子S-1世界戦を含め2試合の審判に加わりました。やっぱり本場から公式審判やスーパーバイザー(今回は兼・審判)が来日するとタイトルマッチの権威が増すものです。この2日後に行われた井上尚弥選手の世界3団体統一戦も、より崇高な権威を感じました。

ペントーンはリングを下り、バックステージでのインタビューの後、控室へ向かう階段を下りる際、脚を引きずって歩いた。ペットーンは顔色変えずに戦っていたが、波賀がもう少し蹴っていれば倒れていたかもしれない。波賀は「またチャンスがあれば挑戦したいです。」と応えた。

2019年9月23日の王座決定戦では波賀宙也がトンサヤーム・ギャッソンリットに判定2-1勝利で王座獲得。49-48が二者と逆に一者と分かれた形で、今回は49-48が三者ともペットーンに流れた。毎度言っているが、この1点差が越えられない本場ムエタイ王座の大きな壁である。

賭けが行われる活気あるタイのスタジアムと、今回の最終試合で観衆も少なくなっていた後楽園ホールでは同じ展開を見せても、採点の流れはまた違っていたかもしれないだろう。

女子試合のルイとザ・スター・シッチョーの試合前のワイクルー(戦いの舞い)は綺麗な舞いだった。雑な踊りは女子にも男子にも居るものだが、波賀宙也も毎度の通り、綺麗に長く舞っていました。

次回のNJKF 興行は7月3日に新宿のGENスポーツパレスで「DUEL.24」が開催、「NJKF 2022.3rd」は9月25日(日)に後楽園ホールで開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年7月号

阪神タイガースはどうなってるの?〈4〉5.22巨人戦観戦報告[後編]伊藤太郎

5月22日阪神タイガース対巨人戦観戦報告の続報です。両チームの先発メンバーが発表されました。コロナ前なら、選手の名前がアナウンスされるたびに歓声が上がっていたものですが、球場内でもしきりに感染防止対策で、大声を控えるように告知がなされたり、ボードを掲げた係員が巡回しているので、先発メンバー紹介には拍手が送られる程度です。

が、意外な場面で球場がざわついきました。審判の紹介で「球審白井」とアナウンスが聞こえた瞬間、「おいおい白井かい!」、「え!」とそこここから声が上がりました。

佐々木投手はご存知、完全試合達成後、あやうく2試合連続完全試合に手が届きかけた、いま最も注目の若手投手です。その佐々木投手にちょっと訳の分からない絡み方をしたのが白井審判でした。ネット上には過去、白井審判の怪しい判定や、猛抗議を受ける動画が多数アップされ、注目度は抜群。その白井審判がよりによって球審だというのですから、波乱も含めてますます期待感が高まります。私の座っている席の近くからも「白井!ええ加減な判定したらあかんぞ!」と大きな声が飛びました。

試合開始直前に神妙な表情で審判団と打ち合わせをする白井審判

爽やかな五月晴れ、宿敵巨人との満員甲子園での対戦、そして裁く球審は、最も注目を浴びる審判白井。いよいよプレーボールです。球場内では700円もする生ビールですが試合進行以上に、最高の観戦コンデションにどんどん進みます。甲子園は風が気持ちいいんですよ。

阪神の先発は前回惜しくも完封勝利を逃した伊藤で、1月以上開いての登板です。伊藤投手は制球が安定して、ストレートの伸びもよく不安のない立ち上がりを見せてくれました。

一方、巨人の先発高橋投手は立ち上がりからコントロールが定まらず、小林捕手とのタイミングがとれていないように感じられました。小林捕手が高橋投手に投げ返すボールが左右にそれる場面も何度も見られたことから、阪神タイガースOBのOさんは「今日のね、高橋はいいことないね。うん。まあ、見ての通りコントロールが安定してないし、マウンドで落ち着きがないよね。おん。おん。これは阪神、ゆっくり見て行ったらいいんですよ。おん。今日ははように捕まえることできるますよ。おん。」と早くも阪神攻撃陣のチャンスを予言していました。

満員の甲子園球場

試合はOさんの予想通り、2回に先頭の陽川が四球で出塁。つづく糸原の打席でフルカウントからまたしても四球。長坂は犠打でランナーを2,3塁に進め、打席にはピッチャーの伊藤ですが、巨人の高橋は伊藤にも四球を出してしまい1死満塁です。高橋はもうこのあたりで限界のように感じましたが、巨人ベンチは動きません。つづく近本がセンター前に安打を放ち阪神タイガーが1点先取です。2番の中野が三振に倒れたあと大山がレフト前にタイムリー。この打球を巨人の外野手が下手くそな守備をしている間に2塁ランナーも帰ってきて3点目。高橋投手はここで降板しました。巨人の投手は戸田です。四番の佐藤は痛烈なファースト直撃ゴロを放ち、これが内野安打で一挙4点をあげました。こういう攻撃が見たかった!高橋の調子が悪かったとはいえ、2回に一挙4得点です。

中押し、ダメ押しが欲しいところですが、いまの阪神タイガースにそこまで求めるのは酷というものでしょうか。

この日は攻守に見どころがありました。目立ったのは近本選手ですね。3安打1打点プラス1盗塁。盗塁は完璧なタイミングで近本選手にとっては通算100個目の節目の盗塁でした。守備でもレフト方向に切れていくライナー性のフライをダイビングキャッチ。

その後も伊藤投手はヒットは打たれるものの要所を締めていよいよ最終回を迎えました。結局9回に出塁は許したものの最後は見事に巨人打線を抑えきり、伊藤投手は完封勝利です。

最後まで躍動感あふれるフォームで完封勝利を達成した伊藤投手
同上
同上

巨人相手に甲子園で完封勝利! いやー阪神タイガース強いじゃないですか。強い。たしかにこの日試合だけ見ればそうなんですが、問題は打てない試合が多すぎることなんです。今日は5月29日です。交流戦の真っ最中です。楽天相手に田中将投手から勝ち星を奪うなど、本格的な上昇ムードを期待したいところですが、5月29日時点で借金が11。そして問題なのは完封負けが12試合もあることでしょう。勝試合でも1点差勝利が多く、楽な展開がないのは、やはり打線が繋がっていないことを意味するのでしょうね。投手陣が大崩れすることは少なく、防護率はセリーグトップの2.77。これで最下位なんですから、逆にいえば「撃ちゃあええんよ」というこですね。

結果的には、優勝を狙うのは無理にしても「まだまだ分からんよ」ということでしょう。最高の観戦日和に気持ち良い浜風を受けて、お昼寝なさっている方の姿みられましたが、それくらい気持ちの良い試合でした。

気持ちよい観戦日和にうたたねをなさる観客の姿も

◎[関連リンク]阪神タイガースはどうなってるの?
〈4〉5.22巨人戦観戦報告[前編]

▼伊藤太郎(いとう・たろう)
仮名のような名前ながら本名とのウワサ。何事も一流になれないものの、なにをやらしても合格点には達する恵まれた場当たり人生もまもなく50年。言語能力に長けており、数か国語と各地の方言を駆使する。趣味は昼寝。

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NJKFが川崎初見参!「DUEL.23 風林火山、烈火の如し」開催! 堀田春樹

エスジム主催の単独興行としては連盟定期興行を越えるようなインパクトがあった、川崎駅から徒歩15分程のカルッツ川崎で行なわれた「DUEL.23」。

王座決定戦と王座入れ替わりによる新チャンピオン誕生、引分け防衛と運命が分かれたそれぞれのタイトルマッチが5試合。

メインイベンター山浦俊一はボディーブローで倒せるチャンスを掴みながら、逆にミドルキックをボディーに受けKO負けの悲痛な幕切れ。

◎DUEL.23 風林火山、烈火の如し / 5月21日(土) 神奈川県・カルッツ川崎15:30~20:35
主催:エスジム / 認定:ニュージャパンキックボクシング連盟(NJKF)

◆第15試合 S-1スーパーフェザー級 世界王座決定戦 5回戦

山浦俊一(新興ムエタイ/58.96kg) 
      VS
コンゲンチャイ・エスジム(タイ/58.96kg) 
勝者:コンゲンチャイ・エスジム
主審:少白竜 / KO 4R 1:53 / テンカウント

山浦俊一は2019年9月22日にNJKFスーパーフェザー級タイトル獲得後、2020年12月27日にはWBCムエタイ日本スーパーフェザー級王座獲得。2021年11月7日に初防衛を果たしている。

コンゲンチャイは元・タイ国ルンピニー系バンタム級4位、日本に来て10年というベテランテクニシャン。

初回は様子見も第2ラウンドにはボディブローで攻勢を強めた山浦俊一。早くもスタミナ切れかかったかコンゲンチャイの表情に余裕は無く、お祭り騒ぎだったセコンド陣も真剣なアドバイスに変わっていた。山浦のあっさりKO勝ちも想定出来る展開も、コンゲンチャイのハイキックやミドルキックの重さとヒットは次第にスピードも無くなっていくように見えたが、第3ラウンドまでの公開採点は三者とも29-28でコンゲンチャイ優勢。山浦の脇腹を腫れ上がらせる攻勢が導いた様子。第2ラウンドだけ山浦が取った流れだった。

コンゲンチャイの蹴りが山浦俊一にヒット、来ると分かっていれば耐えられるもの

第4ラウンドには、ボディーを攻められていたコンゲンチャイが、右ではない左ミドルキック一発、山浦のボディーにヒットすると、呼吸のタイミングがズレたか、効いてしまったのは山浦の方で、蹲るようにノックダウン。立ち上がれずKO負けとなった。

「フェイント掛けられました」という左ミドルキックをボディーに受けた山浦はしばらくは苦痛の表情もやがて回復するとしっかり挨拶してリングを降り、周囲の応援者とも普通に会話していたが、脇腹のドス黒い腫れが目立っていた。

フェイント掛けられた蹴りには対処できず、一発で沈んだ山浦俊一

◆第14試合 NJKFスーパーフェザー級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.梅沢武彦(東京町田金子/58.96kg)
      VS
同級1位.HIRO YAMATO(大和/58.96kg)
勝者:HIRO YAMATO / 判定0-3
主審:和田良覚
副審:中山48-49. 宮本48-49. 少白竜48-50

両者は2021年2月12日に王座決定戦で対戦し引分け。延長戦で梅澤武彦が勝者扱いで王座に就いて、今回の再戦で梅沢は初防衛成らず。HIROが第10代チャンピオン。

ローキック中心の攻防から首相撲からヒザ蹴りの攻防へ移る。離れた距離から蹴り合い、組み合えばヒザ蹴り。次第に圧していったHIRO。公開採点で不利だった梅沢がパンチで前進を強めるが、HIROもヘロヘロになりながら首相撲からのヒザ蹴りやヒジ打ちの手数で優り、僅差ながら王座奪取に導いた。

HIROのヒジ打ちヒットで梅沢武彦の顔が歪む
念願の王座奪取に表情が歪むHIRO YAMATO

◆第13試合 NJKFライト級王座決定戦 5回戦

2位.岩橋伸太郎(エス/60.85kg)vs3位.TAKUYA(K-CRONY/60.95kg) 
勝者:岩橋伸太郎 / 判定3-0 /
主審:北尻俊介
副審:中山49-48. 宮本49-48. 少白竜49-48

蹴りとパンチの攻防。前半はTAKUYAの手足の長さで見映えいい蹴りで攻勢も、岩橋も凌ぎながらパンチの攻勢を強める。公開採点で劣勢の岩橋が攻勢を強めてくる。第4ラウンドからはスタミナ勝負。パンチで出る岩橋がわずかながら巻き返し、ポイント的には逆転勝利で王座獲得。第11代チャンピオンとなった。

巻き返してきた岩橋伸太郎の右ストレートと相打ちしたTAKUYA
接戦の勝利となったが岩橋伸太郎の手が上がる、TAKUYAは残念そう

◆第12試合 女子(ミネルヴァ)スーパーバンタム級タイトルマッチ 3回戦

チャンピオン.浅井春香(KICK BOX/55.25kg)
       VS
同級1位.KAEDE(LEGEND/55.45→55.33kg)
引分け 1-0 / 浅井春香が初防衛
主審:宮本和俊
副審:北尻29-29. 和田29-28. 少白竜29-29

両者は2021年6月に王座決定戦で対戦し、浅井が3-0の判定勝ちを収めて王座を獲得。蹴りの勢いとしなやかさはKAEDEでも、浅井春香はパンチと首相撲からのヒザ蹴りの距離の持ち込むとKAEDEのリズムを崩し勢いを止めたことは成功も、主導権を奪ったとまでは言えない地味な展開で終わった。KAEDEも思うように蹴れない焦りがあってか引分けに残念そうな涙の表情だった。

浅井春香が自分の距離を保って右ストレートを打ち込む
運命も分かれたドローの明暗、浅井春香が初防衛

◆第11試合 女子(ミネルヴァ)ピン級タイトルマッチ 3回戦
チャンピオン.Ayaka(健心塾/45.36kg)vs同級6位.藤原乃愛(ROCK ON/45.0kg) 
勝者:藤原乃愛 / 判定0-3
主審:中山宏美
副審:北尻28-30. 和田28-30. 宮本27-30

ハイキックや顔面前蹴りのスピードとしなやかさは藤原乃愛が優る。組み合うとヒザ蹴りの攻防も蹴り負けなかった藤原乃愛。Ayakaはパンチでの前進があるも乃愛のリズムを崩すに至らず。Ayakaは王座陥落。藤原乃愛はデビュー1年で王座獲得で昨年5月のプロデビュー後、6戦5勝1分。

圧力掛けるAyakaを圧倒したのは藤原乃愛のスピードある蹴り
デビュー1年で高校生として王座戴冠した藤原乃愛のマイクアピール

◆第10試合 53.7kg契約3回戦

NJKFバンタム級チャンピオン.志賀将大(エス/53.5kg)
      VS
松岡宏宜(闘神塾/53.6kg)
勝者:志賀将大(赤コーナー) / 判定2-0
主審:少白竜
副審:北尻29-29. 宮本30-28. 中山30-28

◆第9試合 スーパーライト級3回戦

TAaaaCHAN(PCK連闘会/63.5kg)
      VS
NJKFスーパーライト級7位.ナカノ・ルークサラシット(エス/63.15kg) 
勝者:TAaaaCHAN(赤コーナー) / TKO 3R 1:44
主審:和田良覚

ムエタイテクニックで優ったナカノだったが、TAaaaCHANのヒジ打ちで額を切られて二度のドクターチェックとパンチを貰って倒されてしまう脆さが出てしまいカウント中のレフェリーストップとなった。

◆第8試合 61.0kg契約3回戦

NJKFライト級6位.梅津直輝(エス/60.9kg)vsカミシロ(PHOENIX/60.8kg)
勝者:カミシロ(青コーナー) / KO 1R 2:16 / 3ノックダウン
主審:北尻俊介

◆第7試合 フェザー級3回戦

森健太(エス/56.7kg)vs松山和弘(ReBORN経堂/57.0kg)
勝者:松山和弘(青コーナー) / TKO 2R 2:52

第1ラウンド松山和弘のローキックで森健太がノックダウン。第2ラウンドは組んでのヒザ蹴りで盛り返した森健太だったが、またも松山のローキックでノックダウン。何とか立ち上がるも更にローキックを貰ってバランスを崩し、続行は難しいと判断したレフェリーに止められて松山のTKO勝利。

◆第6試合 ウェルター級3回戦

小林亜維二(新興ムエタイ/67.15→66.6kg)vs梅田勇一(BLITZ/66.5kg) 
勝者:梅田勇一(青コーナー) / 判定0-2 (28-29. 29-30. 29-29)

◆第5試合 女子(ミネルヴァ)50.0kg契約3回戦(2分制)

KAYA(エス/49.9kg)vsアイミー(DANGER/48.3kg) 
引分け 0-1 (28-29. 28-28. 28-28)

第1ラウンド早々にアイミーの右ストレートで正面に立った距離でのKAYAが軽いノックダウン。女子の2ノックダウン制の為、次倒れたら終了というあっけない幕切れの空気が流れる中、KAYAが盛り返し、最後は逆転するかという勢いだったが、引分けに落ち着くも好ファイトとなった。

◆第4試合 スーパーライト級3回戦

NJKFスーパーライト級6位.佐々木勝海(エス/63.1kg)vs我如古優貴(BEST/63.15kg)
勝者:佐々木勝海(赤コーナー) / 判定3-0 (30-28. 30-27. 30-27)

◆第3試合 スーパーフェザー級3回戦

渡部瞬弥(エス/58.7kg)vs渋谷昴治(東京町田金子/58.2kg)
勝者:渋谷昴治(青コーナー) / TKO 1R 2:03

◆第2試合 フライ級3回戦

高橋大輝(エス/50.4kg)vs明夢(新興ムエタイ/50.25kg)
勝者:高橋大輝(赤コーナー) / 判定3-0 (30-28. 30-27. 30-28)

◆第1試合 53.0kg契約3回戦

翼スリーツリー(DAIKEN THREE TREE/53.0kg)vs愁斗(Bombo Freely/52.4kg)
勝者:愁斗(青コーナー) / KO 2R 1:27 / 3ノックダウン

《取材戦記》

S-1はタイの伝説大物プロモーター、ソンチャイ・ラタナスワンプロモーター主宰の、2003年頃から活動しているタイトルで、日本でも2019年からS-1ジャパンとして特定の階級でトーナメント戦によるチャンピオンが誕生しています。その後、タイ国でのワールドトーナメントに繋がるステップも、近年はコロナ禍もあって、あまり活発にイベントが行われている様子はありません。またソンチャイ氏自身が高齢で活動も少なく、今後も継承されていくか不透明なことはタイでの評判です。

山浦俊一はボディーブローでコンゲンチャイを苦しめ、「これは倒せるぞ」といった空気が流れる中、「フェイント掛けられました」というコンゲンチャイの左ミドルキックを受けて悶絶KO負け。山浦は「完敗です」と言いつつ、「ボディーブローでコンゲンチャイは効いていただろうと思います」という手応え有りの残念な逆転負け。

コンゲンチャイは日本在住10年で多くの日本人対決もヒジ打ちなどムエタイ技で仕留めた経験有り、重いハイキックやミドルキックで山浦を苦しめたが、次第にややスピードが落ち、スタミナ不足か表情に余裕は無かった。でも勘の鈍りとは違う経験値とは凄いもんである。

この日、五つのタイトルマッチにそれぞれの運命有り。「チャンピオンは防衛してこそ真のチャンピオン」と語った浅井春香は鴇稔之会長からの教訓。元々は名門・目黒ジムからの教訓である。引分けではあったが防衛成功。しかし完全防衛への仕切り直しは必要となるでしょう。

NJKFタイトルに於いてはまだ団体タイトルで国内の中間的存在。この先にWBCムエタイ日本王座などの上位王座が有る上で、女子のミネルヴァ王座も含め、新チャンピオンとなった日本の三名は、これからがチャンピオンロードの始まりである。

NJKF連盟本興行「NJKF 2022.2nd」は6月5日(日)に後楽園ホールで開催予定です。

コロナ禍で防衛戦が行えなかった波賀宙也がペットーン・ゲッソンリット(タイ)を迎えてのIBF世界ジュニアフェザー級王座初防衛戦となります。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

阪神タイガースはどうなってるの?〈3〉5.22巨人戦観戦報告[前編] 伊藤太郎

残念な結果がつづくと、急にうそのように連勝を始める今シーズンの阪神タイガース。「強いのか? 弱いのか?」5月25日時点では18勝29敗1分。セリーグ最下位ですから、強いというには無理があります。でも、全然見どころのない「ダメ虎」かといえば、そうでもないのです。成績以上に「勝ち様」の良い試合、残念だけど負けた試合の印象が深いので、借金が11もあるような気はしないんですよね。

そこで今年の阪神タイガース、および実戦日の甲子園球場がどのような雰囲気なのかを探るため、行ってきました!22日対巨人戦です!14時プレーボールの甲子園球場は12時開門です。試合前の球場周辺を一回りしてみましょう。

リニューアル当時はまだ元気のなかった甲子園名物の「ツタ」がかなり成長してきた様子がわかりますね。球場外の一塁側では各選手の写真とともに、感染予防策にかなり気を使っています。

近本は真面目に指示を聞きそうですね。大山も「体調に異変があればすぐ近くの係員にお声掛けを」と。

この2ショット、わざとじゃないでしょうけど、去年の緊急事態中どなたかの家で大騒ぎしてコロナにかかってしまった、藤浪投手と、これまた前回4月6日登板のあとに陽性が判明して登録抹消も、この日久しぶりに先発登板の「コロナ陽性2投手」。偶然にしろこういうポスターを作製できるのも、阪神タイガースの魅力です。

こんな感じで感染予防には本当に細かく配慮されていました。

おっとさらに少し歩くと、喫煙所がありました。そこそこ広いと思われますが「ご利用人数は3人まで」のシールが貼られています。私はタバコを吸いませんが、甲子園は球場内部にも結構喫煙所が設けられているのは、愛煙家にとって嬉しい配慮ですね。

さらに歩を進めてバックスクリーンの裏に回ります。五月晴れ空の爽やかさが伝わるでしょうか?

おっと、この写真では阪神タイガースの旗がはっきり見えません。

そうそう、こんな感じで吠えまくって欲しいところです。今日の巨人戦はどうなることでしょう。

あれっ? 急に青葉に隠れたどこにでもありそうなビルが目に入りました。ひょっとして、ここが噂の鹿砦社本社では? やはり甲子園球場からは本当に近いんですね。

さて、球場の隣には「甲子園歴史館」という立派な建物があります。

入り口を覗いてみると…

入館料、おとな900円!高いぞ!さらにスタジアムツアーは大人2000円!しかしスタジアムツアーでは球場内のふつうは入ることのできない場所に案内されたり、OBが直接説明してくれることもあるそうですから、ファンにとっては安いのかもしれません(私には手が出ませんが)。

びっくりしているとスタジアムツアーに参加する男性が女性係員に引率されて球場に向かってゆきました(これも料金のうちでしょう)。

さて、開門時間近くになり駅周辺の人も増えてきました。

駅の改札口から球場方向に歩いていると、懐かしの声が!「券余ってたら買うよ」すれ違う瞬間絶妙のタイミングでかけてくる小声。懐かしの(?)ダフ屋さんです。

ボロボロのジーンズの兄ちゃんは同じ場所で、自転車のおっちゃんは後ろから声をかけてきました。お姿から拝察するにあまり景気はよさそうではありませんね。

さて、余談はともかく球場の中に入りましょう。今日は一塁側内野席「アイビーシート」での観戦です。

やっぱり甲子園は広いですね。まだ試合開始まで2時間近くありますが、お客さんもそろそろ入り始めています。阪神タイガースの練習はすでに終わっていて、グランドで練習しているのは巨人の選手どもです。この日は両チームともに「復刻版ユニホーム」着用の試合でした。これがいけない。阪神の選手はほぼわかるのですが、ユニホームに名前がないので、巨人の選手を見分けるのが非常に難しいのです。だいたい巨人は強いのですが、最近では顔を知らない選手も多々いるので、ちょっといかがなものかと思いました。試合開始40分前。だんだん観客席が埋まってきましたね。この写真はネット裏最前列からグランド整備が行われている様子を眺めたものです。

「グランド整備をやらせたら世界一」の呼び声高い、甲子園園芸の皆さんが無駄のない動きでグランドを綺麗にならしてゆきます。

朝日放送テレビの解説は関本さん、ラジオは桧山さん。MBSは谷繁さんです。皆さん近くで見ると大柄です。仕事前なので愛想はよくありませんでした。(つづく)

▼伊藤太郎(いとう・たろう)
仮名のような名前ながら本名とのウワサ。何事も一流になれないものの、なにをやらしても合格点には達する恵まれた場当たり人生もまもなく50年。言語能力に長けており、数か国語と各地の方言を駆使する。趣味は昼寝。

『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

メインイベンター重森陽太、ムエタイテクニシャンを崩せず! 堀田春樹

重森陽太は戦略読まれて決定打の無い引分け。

リカルド・ブラボは打ち合いのスリリングな展開からボディーブローで圧倒勝利。

髙橋亨汰は鮮やかハイキックでノックダウン奪うも圧倒には至らず判定勝利に落ち着く。

新鋭の木下竜輔がベテランのジョニー・オリベイラを一発で倒す衝撃TKO勝利。

瀬川琉は大木一真に判定勝利ながらテクニックで圧倒、王座挑戦を訴えるまでに成長。

◎TITANS NEOS.30 / 5月15日(日)後楽園ホール17:45~20:05
主催:TITANS事務局 / 認定:新日本キックボクシング協会

◆第9試合 62.5kg契約3回戦

WKBA世界ライト級チャンピオン.重森陽太(伊原稲城/ 62.15kg)
      VS
テーパプット・シッオーブン(タイ/ 61.65kg)
引分け 0-1
主審:桜井一秀
副審:椎名29-29. 仲29-29. 中山28-30

テーパプットは元・タイ国BBTV(タイ7ch)スーパーフェザー級チャンピオン。

テーパプットは2017年9月24日に健太(E.S.G)に軽いノックダウンを奪われての僅差判定負けしたが、同年11月26日には宮越慶二郎(拳粋会)にヒジ打ちでTKO勝利し、いずれもテクニシャンぶりを発揮した選手。

首相撲から足払いでテーパプットを引っくり返した重森陽太

初回、離れた距離から蹴りや組み合う探り合いは大きな展開を見せることなく、重森陽太は攻め難そうな中、いつもの重くてしなやかな蹴りが出ない。ムエタイ主体の戦いになれば地味にはなるが、高度な駆け引きの戦いでの3回戦では時間が足りない展開であった。

ローキックはカバーされても効果的に何度もヒットさせた重森陽太
地味な展開も油断ならない緊張が走る中のドロー

◆第8試合 70.0kg契約3回戦(両陣営ともウェイト了承)

日本ウェルター級チャンピオン.リカルド・ブラボ(伊原/アルゼンチン/ 71.15kg)
     VS
カンボジア・ウェルター級1位.ソン・ツアーラ(カンボジア/来日時刻順延により未計量)
勝者:リカルド・ブラボ / TKO 2R 2:32
主審:宮沢誠

ソン・ツアーラはリカルド・ブラボに引けを取らない頑丈な体格で、ハードパンチャーでもあるムエタイテクニシャン。

ソン・ツアーラの積極的な打ち合いには倒されるかの緊張が走った

打ち合いではリカルド・ブラボが下がる場面もあったが、圧されながらもヒジ打ちでソン・ツアーラの左瞼を切り、最後は左ボディーブロー一発、呼吸のタイミングで効いてしまったかソン・ツアーラは顔をしかめて倒れると、カウント中にレフェリーストップとなった。

最後はボディーブローで仕留めたリカルド・ブラボ
手応えあったリカルド・ブラボは雄叫びを上げる

◆第7試合 62.5kg契約3回戦

日本ライト級チャンピオン.髙橋亨汰(伊原/ 62.45kg)
      VS
大和ムエタイ・スーパーライト級チャンピオン.古村匡平(FURUMURA/ 62.3kg)
勝者:髙橋亨汰 / 判定3-0
主審:椎名利一
副審:宮沢30-28. 仲30-28. 中山30-28

初回はサウスポーの高橋亨汰がローキックからミドルキック、左ストレートのテンポがいい。第2ラウンドにはタイミングいい左ハイキックでノックダウンを奪った高橋亨汰。それでも下がらない古村は巻き返しの予兆をさせながら、高橋の顔面前蹴り、リズミカルなハイキックが主導権を譲らず最終ラウンドまで戦い抜いた。

高橋亨汰のハイキックが古村匡平に鮮やかにヒット
終盤の高橋亨汰のハイキック、顔面前蹴りと共にインパクトを与えた

◆第6試合 59.0kg契約3回戦

ジョニー・オリベイラ(トーエル/ 58.65kg)vs木下竜輔(伊原/ 58.65kg)
勝者:木下竜輔 / TKO 1R 2:32
右ストレートでノックダウン後、カウント中のレフェリーストップ
主審:仲俊光

ローキック中心に距離を取った流れからコーナーに詰まりつつあったジョニー・オリベイラを右ストレート一発でノックダウンを奪った木下竜輔。ジョニーは吹っ飛ぶように顔面から倒れ込むとビクとも動かない失神でほぼノーカウントのレフェリーストップとなった。

担架で運ばれたジョニー・オリベイラだが、意識はある状態で、興行終了後はしっかり歩いて帰るほど心配は無い様子だった。

木下竜輔の右ストレートがジョニー・オリベイラにヒット、一発で仕留めた
組み合っての攻防は瀬川琉が効果的にヒジ、ヒザ蹴りヒットで攻勢を保つ

◆第5試合 58.0kg契約3回戦

瀬川琉(伊原稲城/ 57.85kg)
      VS
TENKAICHIフェザー級3位.大木一真(ワイルドシーサー那覇/ 57.4kg)
勝者:瀬川琉 / 判定3-0
主審:中山宏美
副審:椎名30-27. 宮沢30-28. 桜井30-27

蹴りと組み合ってもテクニックの上手さを見せた瀬川琉。我武者羅に出る大木一真も次第に険しい表情となるが、採点は大差で瀬川琉圧勝の流れだった。

◆第4試合 女子バンタム級3回戦(2分制)

和乃(新興ムエタイ/ 52.25kg)vs山口遥花(仰拳塾/ 48.3kg)
勝者:山口遥花 / 判定0-3
主審:仲俊光
副審:椎名28-30. 宮沢27-30. 桜井27-30

長身の和乃にパンチでラッシュする山口遥花。コーナーに詰められての劣勢の流れは変わらずも諦めなかった和乃は蹴り返して出るも山口遥花の大差は揺るがず。

◆第3試合 女子45.0kg契約3回戦(2分制)

島田美咲(SQUARE-UP/ 44.0kg)vs莉都(矢場町BASE/ 44.05kg)
勝者:島田美咲 / TKO 3R 0:52
主審:中山宏美

島田美咲のパンチで莉都が鼻血を流すも蹴りで応戦。島田が右ストレート多発させ、ドクターチェックで鼻骨骨折の疑いによりレフェリーストップとなった。

◆第2試合 アマチュア女子35.0kg契約2回戦(90秒制)

西田永愛(伊原)vs加藤愛菜(GET OVER)
勝者:西田永愛 / TKO 2R 1:13
主審:椎名利一

◆第1試合 アマチュア43.0kg契約2回戦(90秒制)

西田蓮斗(伊原)vs中野愛斗(MIYABI)
勝者:西田蓮斗 / 判定2-0
主審:椎名利一
副審:中山19-19. 桜井20-19. 仲20-19

《取材戦記》

「本日のMVP賞!」成るものは無いが、敢えて選ぶならリカルド・ブラボか木下竜輔か。衝撃度で言えば、昨年4月デビューで4戦目の木下竜輔だろうか。2004年デビューで、ディフェンスに定評ある58戦目のジョニー・オリベイラを一発で倒したインパクトは大きい。

重森陽太が御丁寧に試合を振り返って頂いたが、「対策していたことが早い段階で読まれた感じです。それでテーパプットは守りに入り、お互いに警戒しながら続いてしまいました。ムエタイなのでそんな流れは起こり得ることですけど、更なる動きが起こせるところで終わってしまう3回戦では勝機を掴むのは難しい。組み合っての攻防は見た目は悪かったかもしれないけど組み負けないように応戦しました。」

簡潔に纏めさせて頂いたが、アグレッシブな選手との戦いは明確なヒットでノックアウトの醍醐味があるが、ムエタイテクニシャンとの戦いは短い時間でのノックアウトと主導権を奪って圧勝に結び付けるには難しいことだろう。競技性の展開の違いを感じる試合だった。

ソン・ツアーラは来日が遅れ、入国時もPCR検査等で時間を費やすことになった様子。計量は大幅に遅れて間に合わずも、ウェルター級リミットから大幅な増加も無く、70.0kg契約リミットにも達していないと言われる。リカルド・ブラボはマイクアピールで自らのウェイトオーバーを謝罪したが、ソン・ツアーラ陣営は難なく許したという。

そのソン・ツアーラはカンボジア国籍ながら、ムエタイの経験豊富でパンチのパワーもあるテクニシャン。リカルド・ブラボを下がらせる勢いがあった。今後も日本で重量級戦線の活躍を観たい選手である。

新日本キックボクシング協会もここ数年、紆余曲折あって選手の顔触れも大きく変わった現在です。江幡ツインズはRIZINなどのビッグイベントに舵を切り、勝次(=高橋勝治)は5月28日の「NO KICK NO LIFE」に出場予定。

重森陽太はリカルド・ブラボと高橋亨汰と三人で、今後の新日本キックボクシング協会を支えるエース格を宣言。成長著しい瀬川琉も王座挑戦を希望する宣言をしてトップクラスに進出してきた様子が伺えます。木下竜輔はまだ4戦目ながら壮絶ノックアウトで存在感アップ。他団体等との交流戦となるであろう今後も、老舗の低迷からの立ち上がりを支えていく存在である。

小野瀬邦英氏がSQUARE-UPジムから出場の島田美咲のセコンドとして来場。前日計量にも姿を見せていたが、試合中も昔ながらのドスの効いた声がよく響いていた。1990年10月の小野瀬氏自身のデビュー戦は伊原プロモーション興行だったという(当時は日本キックボクシング連盟加盟)。32年前は確かにその体制だったことが懐かしく思う。

新日本キックボクシング協会次回興行は7月24日(日)に後楽園ホールに於いてMAGNUM.55が開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

武田幸三氏の「CHALLENGER」! 馬渡亮太は快勝、モトヤスックは敗れる! 堀田春樹

馬渡亮太はこの日のMVP賞となる鮮やかTKO勝利で、日本人チャンピオン対決での結果を残す。

モトヤスックは北野克樹のハイキックで2度ノックダウン喫する大差判定負けの失態。

王座目指す睦雅は交流戦でNJKFの吉田凛汰朗と引分け、前に進めぬ足踏み状態。

皆川裕哉も交流戦で、大稚YAMATOに戦略で優って判定勝利。

興之介はNKBからの刺客、棚橋賢二郎に倒される。

◎CHALLENGER.5 / 5月1日(日)後楽園ホール17:30~20:37
主催:(株)オフィス超合筋 / Yashioジム / 認定:ジャパンキックボクシング協会(JKA)

◆第9試合 57.5kg契約 5回戦

馬渡亮太(治政館/2000.1.19埼玉県出身/57.5kg)
     VS
佐野貴信(創心會/1994.12.20神奈川県出身/57.45kg)
勝者:馬渡亮太 / TKO 3R 1:36 / カウント中のレフェリーストップ
主審:少白竜

馬渡亮太はWMOインターナショナル・スーパーバンタム級チャンピオン。佐野貴信は2019年4月にWMC日本フェザー級王座を獲得。

馬渡は相変わらず、しなやかな蹴り速く、ローキックが冴える。佐野も勢いある蹴りで探り合いが続いていく。第3ラウンドに蹴りの攻防から馬渡が右ストレートを佐野のアゴに打ち抜くと崩れ落ち、立ち上がろうとするも脚がおぼつかず、カウント中のレフェリーストップ。鮮やかなTKOでメインイベントを締め括り、MVP賞獲得となった。

馬渡亮太の力強いハイキックが佐野貴信へヒット、TKOへの伏線となった
馬渡の右ストレートで佐野貴信は立ち上がれず
鮮やかな右ストレートで倒し、MVP賞獲得した馬渡亮太

◆第8試合 68.0kg契約 5回戦

北野克樹のハイキックがモトヤスックの顔面を何度も襲った

モトヤスック(=岡本基康/治政館/2001.9.22埼玉県出身/68.0kg)
      VS
北野克樹(誠至会/1996.5.26大阪府出身/68.0kg)
勝者:北野克樹 / 判定0-3 /
主審:和田良覚
副審:椎名45-49. 櫻井45-49. 少白竜46-50

モトヤスックはこのジャパンキックボクシング協会ウェルター級チャンピオン。北野克樹WBCムエタイ日本スーパーライト級チャンピオン。

北野克樹が開始早々に左ハイキックでモトヤスックの顔面を狙う。蹴り中心の攻防の中、第2ラウンドにタイミング掴んだ北野がパンチから左ハイキックでモトヤスックはノックダウン。

北野は更にハイキックで顔面を掠めていき、危なっかしいモトヤスック。ダメージを引き摺っていたか、第5ラウンドにもまたもハイキックでノックダウンするモトヤスック。勢い付いた北野は威圧的にハイキックを連発。モトヤスックは大差判定負けとなった。

二度ノックダウンを奪った北野克樹は終盤に一層圧力掛けて蹴ってきた
他団体から乗り込んで勝利者となった北野克樹

◆第7試合 62.5kg契約3回戦

JKAライト級1位.睦雅(ビクトリー/ 1996.6.26/東京都出身/62.45kg)
VS
NJKFライト級2位.吉田凛太朗(VEATEX/2000.1.30杤木県出身/62.4kg)
引分け 0-0
主審:松田利彦
副審:和田29-29. 櫻井29-29. 少白竜29-29

序盤からパンチと蹴り、組み合うとヒザ蹴りの目まぐるしい展開も、睦雅は吉田凛太朗の下がらず手数減らない圧力に打ち返し、最後は追い上げる流れだったが、採点に於いては上回ったと言える印象は無く、交流戦においては引分けが続く。

睦雅は吉田凛太朗の前進を止める蹴りで攻防を盛り上げた

◆第6試合 フェザー級3回戦

JKAフェザー級8位.皆川裕哉(KICK BOX//57.1kg)
VS
NJKFフェザー級8位.大稚YAMATO(大和/57.1kg)
勝者:皆川裕哉 / 判定3-0
主審:椎名利一
副審:和田29-28. 松田30-28. 少白竜30-27

皆川裕哉はパンチと蹴り、首相撲からのヒザ蹴りでアグレッシブに打って出るが、しぶとい大雅が踏ん張って蹴り返し、皆川が攻め切れない展開も採点は僅差とフルマークもあったが、順当な判定勝利。

皆川裕哉は倒し切れぬもアグレッシブに攻め、好ファイトを展開

◆第5試合 ライト級3回戦

JKAライト級3位.興之介(治政館/61.1kg)
VS
NKBライト級2位.棚橋賢二郎(拳心館/61.0kg)
勝者:棚橋賢二郎 / TKO 2R 1:29
主審:桜井一秀

開始直後は両者が蹴りの距離で様子見。興之介の蹴りは上手く距離を取るが、徐々に棚橋の強打狙いの形勢で距離が詰まる。

打ち合いの距離で棚橋がプレッシャーを与え、連打(最後は左フックらしい)でノックダウンを奪い、立ち上がろうとする興之介は足下おぼつかないままカウント中にレフェリーストップが掛かった。

棚橋賢二郎がミドルキックで興之介を追い詰めていくミドルキック

◆第4試合 ウェルター級3回戦

正哉(誠真/66.73→66.67kg)
VS
田村大海(拳心館/66.25kg)
勝者:田村大海 / TKO 1R 2:31

両者のローキックからパンチに繋ぐ様子見から、田村は右ストレートでノックダウンを奪い、立ち上がった正哉にヒザ蹴り、パンチ連打から右ストレートで倒し、カウント中のレフェリーストップとなった。

◆第3試合 ウェルター級3回戦

鈴木凱斗(KICK BOX/66.67kg)
VS
大将(KIX/66.15kg)
勝者:鈴木凱斗 / 判定3-0 (30-25. 30-25. 30-25)

◆第2試合 スーパーフェザー級3回戦

布施有弥(KIX/58.55kg)
VS
和斗(大和/58.1kg)
勝者:和斗 / TKO 3R 3:00

◆第1試合 フェザー級3分3R

石川智崇(KICK BOX/56.5kg)
VS
熊谷大輔(GT/56.85kg)
引分け 三者三様 (29-29. 29-30. 29-28)

《取材戦記》

前日計量で、「CHALLENGER.5」プロモーターで、元・ラジャダムナンスタジアム殿堂チャンピオンの武田幸三氏の選手への御挨拶で、来月の「THE MATCH」での那須川天心vs武尊のファイトマネーは過去最高額と言われる億単位について、「皆さんも貰えると思いますか?、貰えると思いましょうよ(そんなトップ選手になって)。そういう大会にしていきたいし、こっちが数十万円では悔しいですね。私もプロモータ-として、 今回出場する選手、その良い選手にはどんどんファイトマネー上げていきます。今回もスポンサーさんから“KO賞、MVP賞に使ってください”と言って頂きました。向こう(THE MATCH)には全然敵わないですけど、MVP賞、KO賞など、私の出来る限りのことはやりますので、とにかく熱い試合を、会場を盛り上げるのは選手ですので、宜しくお願いします!」

既存のキックボクシング団体では、過去においても(類似イベントを除いて)、一試合のファイトマネーが一千万円単位にも跳ね上がることはなかったでしょう。現在は凄い時代になったものです。ファイトマネーが一時的、一部だけでも日本のプロボクシング世界チャンピオンを超えるほどになるとは。“キックボクシング系競技”がこうなって来たのも、最初はK-1の出現からでしょう。

過去に述べたかもしれませんが、K-1等を観て育った世代が今、企業の経営者となって、スポンサーとなる理解者が増えたのもこの時代の流れが大きい。そんな新世代の格闘技と、昭和のキックボクシングを継承している団体とでは、アピール、プレゼンテーションにも違いがあるのでしょう。既存の団体やプロモーションも影響を受けて徐々に変わって来ている時代であります。

気合入る武田幸三氏の活入れるセレモニー

武田幸三さんのセレモニーでの語り口にはオーラがありました。他団体から出場する選手に「ウチの選手を遠慮なくブッ倒してください!」と檄を飛ばし、モトヤスックと馬渡亮太には「お前ら負けたらどうなるか分かってんだろうな!?」

毎度聞くセリフながら、リング上での選手に対する脅しのような活(かつ)を入れるオーラにも滲み出ています。これは今後、一層進化していくという「CHALLENGER」興行でしょう。

空手経験者は至近距離での正拳突きの経験から、その距離からのハイキックが得意だと聞いたことがあります。そんな不意を突かれるタイミングだったかは分からないが、モトヤスックが貰い過ぎるハイキックは最初のノックダウンからダメージを引き摺ったか、焦りがあったかもしれません。

ジャパンキックボクシング協会興行は6月12日(日)に市原臨海体育館にて市原ジム主催興行。7月17日(日)には新宿フェースにてビクトリージム興行が予定されています(イベント名未定)。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

おかげさまで創刊200号! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年6月号