五輪外交でミスリードし続ける安倍「制裁」政権に戦争を語る資格はあるか?

 
PyeongChang 2018

1月9日、板門店で「南北会談」が行われると決まったときに、「南北会談」の実施じたいに、この島国の政治家やマスメディアは冷淡だった。あの時期に朝鮮が五輪に参加すると予想した人はどれくらいいただろうか。

◆オリンピックは政治そのものである

参加どころか開会式では合同で入場し、女子アイスホッケーでは合同チームが結成された。「スポーツの政治利用」、「北朝鮮ペースに乗せられている」との批判が繰り返されたが、開会式の後半では韓国の有名な歌手たちがジョンレノンの「イマジン」を歌い、聖火点火者のキムヨナへ手渡されることになる聖火は、韓国と朝鮮の選手が二人携えて、長い階段を駆け上がった。

開会式ではIOCのバッハ会長が式辞でしきりに「平和」を口にした。会場の外では、韓国でも保守的な人たちの抗議行動も行われているが、マスメディアもさすがに、開会式で「演出」される「平和」を表立って貶す(けな)すことはできなかった。「オリンピックは政治の道具」どころではなく「オリンピックは政治そのもの」だと認識するわたしは、この光景が準備された演出にしても、非難の対象にあたるとは考えられない。どうせ政治ならマシな政治利用でいいじゃないか。

 
統一旗のバリエーション(wikipediaより)

◆非凡な無能ぶりを発揮する安倍「制裁」外交

なぜならば、その裏で平和とは正反対に、まっしぐらの「北朝鮮制裁主義者」たる安倍をはじめとした、この島国の政権はひたすら「北朝鮮包囲連携が崩れる懸念(=韓国と朝鮮の融和)」、を叫ぶのみで、毎度外交に非凡な無能ぶりを発揮するこの島国の真骨頂ともいえるような的外れな態度に、相も変わらず終始しているからだ。朝鮮から金正恩の妹、金与正と金永南・最高人民会議常任委員長という、朝鮮の政権中枢にいる人物が韓国を訪問することだけでも(それがオリンピックを介在しての訪問にせよ)過去の歴史にはなかった、画期的な出来事であり、そこで文在寅大統領の朝鮮訪問が話題になったことは「朝鮮半島の緊張」を強める方向に向かう提案だろうか。

〈ペンス米副大統領は11日付の米紙ワシントン・ポストのインタビューで、北朝鮮との外交的な関与を拡大することで米韓が合意したと述べた。まず韓国が北朝鮮と対話した後、前提条件なしで米朝対話が行われる可能性があるとした。

ペンス副大統領は韓国で9日に開催された平昌冬季五輪の開会式に出席。米国に帰国する際の専用機内でインタビューに応じ、米政府が北朝鮮に対する「最大限の圧力」は維持する一方、対話の可能性にはオープンだとした。〉
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180213-00000000-reut-kr

と、韓国だけでなく、ついに米国も朝鮮との対話について検討を始めた。いつまでも「制裁!制裁!」と繰り言を続けているのは、安倍を中心とする、この島国の無能外交関係者やマスメディア及びそれに扇動された、不幸な庶民たちだけではないのか。

◆「大量破壊兵器保持疑惑」でイラクを爆撃した米国の過ち

外交の表裏には、必ず地下水脈のような通常人が知り得ない導線がある。ある日突然起きたように思われる事件や、政変にも必ず複合的な力学と打算、妥協が交錯する。最終的には「自国がどう有利な立場をとるか」が指標であっても、通常外交は「一定の理性」があるかのように見せかけないと、「沽券(こけん)」や「体面」を重視する権力者には格好が悪い。それが一定の見識ともいえる。

第二次湾岸戦争でイラク攻撃に対して、欧州では賛否が分かれていた。フランスは米国を中心とする「イラク攻撃推進派」に批判的で、2003年2月14日国連安保理事会でドミニク・ド・ピルパン外相が演説を行った。長い演説の中でピルパンは、

〈戦争という選択肢は、直感的に最も速そうに見えるかも知れない。しかし、戦争に勝った後、平和を構築しなければならないということを忘れないようにしよう。この点について、勘違いしないようにしよう。これは長く、困難なものとなるだろう。というのも、武力侵攻の苛酷な影響を受けた地域や国において、持続的な方法でイラクの統一を維持し、安定を回復する必要があるだろうから。

そういう見通しの上で、効率的で平和的なイラクの軍縮に向けて日々前進している査察という選択肢があるのだ。結局、戦争というあの選択肢は、最も確実というわけではなく、最も迅速というわけでもないのではなかろうか?〉

と述べ米国が戦争を急ぐ姿勢に疑問を投げかける。結局「歴史的」とも評されたこの演説に耳を貸すことなく、米国を中心とした「多国籍軍」(その中には後方支援を担った自衛隊も含まれる)は「大量破壊兵器保持疑惑」でイラクを爆撃し、サダムフセインを殺した。

しかし、のちに明らかになったのは「イラクには大量破壊兵器はなかった」という事実だ。ピルパン外相は同演説の中で、繰り返し査察の成果を述べており、その事実は「イラクが大量破壊兵器を保持していない」ことを示しており、その時点で「多国籍軍」のイラク攻撃は根拠のないものだった。散々わがままを言いたい放題並べ、イラクの人びとを殺戮した、ジョージ・ブッシュは、そのご「われわれはミスを犯した」と発言したが、一方的な多国籍軍の殺戮行為を、「ミス」で済ませられたら、被害者はたまったものではない。

〈戦争という選択肢は、直感的に最も速そうに見えるかも知れない。しかし、戦争に勝った後、平和を構築しなければならないということを忘れないようにしよう。この点について、勘違いしないようにしよう。これは長く、困難なものとなるだろう。というのも、武力侵攻の苛酷な影響を受けた地域や国において、持続的な方法でイラクの統一を維持し、安定を回復する必要があるだろうから〉

は正鵠を射ていた。イラクの政情不安・治安の不安定はイスラム国の登場などで、今日に至るも、解決の糸口すら見えていない。

◆覚悟のない者が「戦争」を話題にする資格はない

朝鮮をめぐる情勢は、いま五輪中だからだろうか、いくぶん流動化してきたかのように見える。わたしは安倍と正反対に、朝鮮と韓国・米国・日本が対話によりすべての問題解決をはかることを希望する。いかなる理由によっても「戦争」の選択肢をすべての国は排除すべきだ。

戦後補償・賠償すら行っていない日本(日本ではほとんど報じられないが、世界の少なくない国々は日朝関係の基礎をそう見ている)、要らぬ軍事費の重みから解き放たれたい韓国、「経済制裁」を含む世界の包囲網から脱出したい朝鮮、赤字財政続きで、政府機関閉鎖の相次ぐ米国。どの国も「平和」を希求する充分な理由は(それと逆方向に進もうとする理由と同等に)保持しているではないか。理性が(私たち一人一人のなかに)あれば最悪の事態は回避できる。

もし回避できなければ、「日本も戦争に巻き込まれる」。あらゆる言説はその現実を前提に発されるべきだ。その覚悟のない者が「戦争」を話題にする資格はない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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プロボクシング、伝統の年間表彰式はメジャー競技の象徴!

日本プロボクシング協会、渡辺均会長の御挨拶

2017年度年間表彰式が、2月9日、日本ボクシングコミッション、日本プロボクシング協会主宰で、東京ドームホテルで行なわれました。一堂に会するチャンピオン達の顔触れに、夢の祭典という印象を受ける表彰式でした。また反面、来場者に古くからある顔触れも見られると、子供の頃、テレビで観た頃の懐かしさがありました。

《各受賞選手》

◎最優秀選手賞 WBA世界ミドル級チャンピオン.村田諒太(帝拳)初

◎技能賞 WBO世界スーパーフライ級チャンピオン.井上尚弥(大橋)2年連続2回目

◎殊勲賞(2名) WBA・IBF世界ライトフライ級チャンピオン.田口良一(ワタナベ)初
        WBO世界フライ級チャンピオン.木村翔(青木)初

三賞受賞選手。左から田口良一(殊勲賞)、村田諒太(最優秀選手賞)、井上尚弥(技能賞)、木村翔(殊勲賞)
謝辞を述べる村田諒太(最優秀選手賞獲得)

◎努力賞及び敢闘賞 東洋太平洋ヘビー級&WBOアジア・パシフィック・ヘビー級チャンピオン.藤本京太郎(角海老宝石)初

◎KO賞 WBC世界フライ級チャンピオン.比嘉大吾(白井・具志堅S)初

比嘉大吾(KO賞)と具志堅用高会長の師弟コンビ

◎新鋭賞 WBC世界ライトフライ級チャンピオン.拳 四朗(BMB) 初

◎年間最高試合賞 WBA・IBF世界ライトフライ級王座統一戦(12月31日・大田区総合体育館)田口良一vsミラン・メリンド(フィリピン)

◎年間最高試合賞(世界戦以外)=WBC世界スーパーフェザー級挑戦者決定戦(1月28日・カリフォルニア)三浦隆司vsミゲール・ローマン(メキシコ)

ライトフライ級の対立チャンピオン、WBC拳 四朗、WBA・IBF田口良一

◎優秀選手賞(全15名、上位受賞者含む)
WBA世界ミドル級チャンピオン.村田諒太(帝拳)
WBO世界スーパーフライ級チャンピオン.井上尚弥(大橋)
WBA・IBF世界ライトフライ級チャンピオン.田口良一(ワタナベ)
WBO世界フライ級チャンピオン.木村翔(青木)
WBC世界フライ級チャンピオン.比嘉大吾(白井・具志堅S)
WBC世界ライトフライ級チャンピオン.拳 四朗(BMB)
IBF世界ミニマム級チャンピオン.京口紘人(ワタナベ)
WBO世界ミニマム級チャンピオン.山中竜也(真正)
IBF世界スーパーバンタム級チャンピオン.岩佐亮佑(セレス)
前WBA世界スーパーバンタム級チャンピオン.久保隼(真正)
前WBO世界ミニマム級チャンピオン.福原辰弥(本田フィットネス)
他、欠席4選手=山中慎介(帝拳)、井岡一翔(井岡)、ホルヘ・リナレス(帝拳)、田中恒成(畑中)

京口紘人と岩佐亮佑のIBFベルトコンビ

◎女子最優秀選手賞
WBA女子世界フライ級チャンピオン.藤岡奈穂子(竹原&畑山)3年連続5回目

◎女子年間最高試合賞
WBC女子世界ミニ・フライ級タイトルマッチ(12月17日・福岡)
黒木優子(YuKOフィットネス)vs小関桃(青木)

女子の受賞者、藤岡奈穂子選手(女子最優秀選手賞)と小関桃選手(女子年間最高試合賞)

◎特別功労賞 内山高志

◎特別賞 三浦隆司、下田昭文

引退組となった特別功労賞受賞の内山高志、特別賞受賞の三浦隆司と下田昭文

◎トレーナー賞 有吉将之、野木丈司

◎社会貢献賞(ダイヤモンドフィスト賞) 坂本博之SRSジム会長

◎WOWOW検定賞 三井賢徳

◎日本プロボクシング協会功労賞 山中勇、関谷西生、高橋美徳、原田実雄、中村尚秀

◎協会より感謝状 森田健レフェリー

表彰選手全員集合
全国の児童養護施設訪問で尽力された功績を称えられた坂本博之氏
レフェリーとして功績大きい森田健さん

受賞者を代表して謝辞を述べた村田諒太選手、帝拳ジム関係者や周囲の応援があっての受賞に至った感謝を述べた後、「個人的な話をさせて頂きますと」と、恐縮気味に進めたお話では「今日は高校の恩師にあたります武元先生の命日に当たります。そういう日にこういう賞を頂けるのも高校の恩師が未だに見守っていてくれているんだなと、つくづく感じております。思えばデビュー戦も8月25日の先生の誕生日でした。」と恩師(武元前川氏)の導きに感謝し、今後の飛躍を誓っていました。
数年前と比べ、若い顔触れに流れが変わった壇上のチャンピオン達、ベルトの数も増えていました。主要4団体という過去に無い王座の多さは賑やかさがある反面、世間から見ればどう映るのか懸念も残ります。

上昇気流に乗るチャンピオン達に対し、引退していく選手もいます。特別功労賞を獲得した内山高志選手、世界戦以外の年間最高試合賞と特別賞を獲得した三浦隆司選手、もう一人特別賞を獲得した下田昭文選手の引退組も、選手としてのこの表彰の場では最後の勇志という感じでした。

社会貢献賞として別名ダイヤモンドフィスト賞と呼ばれた賞にはSRSジム会長の坂本博之氏が受賞。“平成のKOキング”と言われたかつてのKOパンチが想い起こされる懐かしい顔が壇上に見られました。

日本プロボクシング協会より感謝状を受取られたのは、長年の審判員を務められた森田健氏。具志堅用高氏の世界戦のレフェリーを務められたこともある森田氏、それよりもっと古くから世界戦を裁いていらっしゃるので、古い者から見れば無くてはならない印象に残る存在でしょう。永年、レフェリーとして国際的にもボクシング界に貢献した功績を称えられる感謝状でした。

村田諒太選手は、ミドル級統一制覇するには避けて通れないのがWBA世界ミドル級スーパーチャンピオンでWBCとIBF王座も持つゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)がいます。
「まずは4月の初防衛戦に勝つことが第一で、そのあとにゴロフキンやサウル・カネロ・アルバレス、WBOチャンピオンのビリー・ジョー・サンダースへ進んでいけるように、しっかり頑張っていきたいと思います」と本人が語るとおり、これらのスーパースター級に勝利すれば、日本ではかつてない偉業を果たすことになります。そのトップレベルに挑める可能性がある現在だけでも偉大なもの。1年後の表彰式でどんな立場で現れるか楽しみなところです。

今年は1階級上のバンタム級に上げ、ライトフライ級、スーパーフライ級王座に続いて三階級制覇を目指す井上直弥選手は村田諒太に続く世界の偉業に挑む注目を浴びる立場。
「上の階級に向けた体作りに取り組んでいる」と言います。村田諒太と井上直弥は本場アメリカ、ラスベガスなどでのビッグマッチ、世界的に名声が轟く定着も視野にあり、これらが今後の日本のボクサーが目指すステータスとなるでしょう。

サインを求めるファンの列がいちばん長かった井上直弥
拳 四朗選手は人懐っこい笑顔が素敵だったという評判

この日、JBC役員の方に、ある些細なことをお尋ねしました。それはリングネームについて、ルールは変更されていないことを確認出来ました。それは以前から思っていたとおりでしたが、後楽園ホール5階の正面入口には世界チャンピオン達のパネルが並んでおり、“拳 四朗”のパネル写真もあります。リングネームは“姓名”を揃える、そこに漢字・カタカナ・平仮名で外来語も含む別名に替えることも許されています。拳四朗の呼び名は「けん・しろう」で姓名として分けているという強引な解釈ながら、これで認められているということでした。そういう意味で、“拳”と“四朗”の間が開いていることは想定したとおり。「他・格闘技で見られる個人名のみのリングネームの影響が、ここまで来ているんだな」と古い考え方では違和感があるも、これが時代の流れなのでしょう。拳四朗の本名は、寺地拳四朗で、元・東洋太平洋ライトヘビー級チャンピオンの寺地永氏の次男となります。

年間表彰式、来年はまたここに新しい顔が入ったり、外れる顔があったり、また年間最優秀選手(MVP)という一人しか選ばれない枠に誰が入るかという興味。王座乱立の中でも、MVPだけは乱立しない価値があります。選考審査はこの日以前に、東京・関西運動記者クラブ、ボクシング分科会によって決まることですが、当日の壇上にはまた違った緊張感に包まれる、1949年から続く伝統の年間表彰式はメジャー競技の象徴として今後も続いていくことでしょう。

乾杯音頭直後のチャンピオン達

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

おかげさまで150号!『紙の爆弾』3月号 安倍晋三を待ち受ける「壁」
一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

やっぱりオリンピックは政治ショーだった

マイナス15℃越えのうえに強風、危険な状態のなかでの競技続行による転倒者続出(スノーボード)。あるいはアメリカのテレビ局の要請で、フィギュアスケートは異例の午前中開催。スキージャンプはヨーロッパ向けに極寒の真夜中開催など、ピョンチャンオリンピックは散々な評判だが、まずは開催されたことに関係者は胸をなで下ろしていることだろう。昨年のいまごろは、開催そのものが危ぶまれていたのだから。

 
2018年2月9日付サンケイスポーツより

それにしても、今回のオリンピックはオリンピックと政治の別ちがたい関係をあらためて浮き彫りにした。開会式に先立つ南北会談、南北合同チーム(女子アイスホッケー)の結成、そして北朝鮮美女軍団の訪韓。かたや、アメリカの先制攻撃を避けて核ミサイル開発の時間をかせぐ北朝鮮の思惑、オリンピック成功の保障のさきに南北対話・緊張緩和をのぞむ韓国文政権の思惑が手をむすばせた、この大会の序幕は政治ショー以外の何ものでもなかった。

何ごとも政治化するトラブルもあった。スキー男子モーグルの西伸幸がかぶっていた帽子が、旭日旗を思わせるデザインだと現地で批判されて、西はただちに謝罪した。

 
統一旗のバリエーション(wikipediaより)

いっぽう北朝鮮の応援団の統一旗に独島(竹島)があるのは遺憾などと、日本政府(菅官房長官)も政治を持ち込んでいる。ちなみに、旭日旗に似た朝日新聞の社旗は韓国で問題にされたことはないし、統一旗の島の位置は鬱陵(ウルルン)島と竹嶼(チュクト)に見なすことも可能ではないか。どちらも政治的な視野で見るから、目くじらを立てたくなるのだ。

いっぽう、国策的なドーピングで国としての参加を認められなかったロシア選手団は、Olympic Athletes from Russia(OAR)として個人参加している。ドーピング問題とスポーツ界の事情は『紙の爆弾』3月号の片岡亮の記事に詳しいが、その背景にあるのは商業主義にほかならない。オリンピックが後援する企業にとっても競技者にとっても、商売であることを痛いほど思い知らされる。それというのもオリンピックが他の競技大会とはちがって、国策であるからだ。

もともと近代オリンピックは、ロンドンで開かれた第4回で国ごとの参加になるまでは、個人・チーム参加のスポーツ大会だった。開催地は資金難にくるしみ、第2回のパリ大会と第3回のセントルイス大会は、万国博覧会の付属大会にすぎなかった。国(都市)とナショナルオリンピック委員会が主催者になることで、一転して政治的な事業となり、スポーツ大会の頂点をきわめたのである。

1924年のパリ大会を舞台にした映画『炎のランナー』には、競技日をめぐって英仏の駆け引きが行なわれるシーンが登場する。あるいは、有名なフレーズ「参加することに意義がある」と語ったのは、国別となった第4回大会でのことだった。アメリカとイギリスの目にあまる対立を危惧したエチュルバート・タルボット主教が、選手団を前に「勝利よりも参加することが重要だ」と説諭したものだ。

しかし勝利至上主義、国威発揚はとどまるところを知らず、1936年のベルリン大会は文字どおりナチスの躍進、ドイツの国力を世界にしめす大会となった。戦後もそれは変わらず、1964年の東京大会は日本の復興を世界に知らしめるためのものだった。ソ連のアフガン侵攻にたいする制裁としての、モスクワ大会のボイコット。そしてその報復としてのロサンゼルス大会のボイコット。まさにオリンピックの歴史は政治史である。スポーツが戦争の代償行為であると、スポーツ社会学者は説くことがある。なるほどオリンピックは、軍事をもちいない政治なのであろう。

けれども政治の側の意図が顕わになり、その思惑がくつがえることで、結果的に新鮮なこともあった。フィギュアスケート団体戦で世界最高得点を出したエフゲニア・メドベージェワの演技は、ロシア選手という色眼鏡をとって鑑賞すれば、すばらしく新鮮な感じだった。それは彼女の実力によるものだと思われるが、氷上にくり広げられた3分間の演技が一瞬のように感じられるほど見事なものだった。それはしかし個人参加だからこそ、ロシア選手団の一員と見なさないからこそ感じられたのかもしれない。国旗や国家のないオリンピックを観たくなった瞬間である。デジタル鹿砦社通信をご愛読の諸賢におかれては、いかが観戦されていますか?


◎[参考動画]Evgenia Medvedeva establece record mundial en Juegos Olimpicos Pyeongchang 2018

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。著書に『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。

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キックボクシングや格闘技関係者の資格は国家的ライセンスにすべきか?

トレーナーとしてセコンドとして後輩を育てる鴇稔之氏(2017.4.16)

先日、元・日本バンタム級チャンピオンの鴇稔之(とき・としゆき)さんがフェイスブックに於いて、キックボクシングの免許制度案について想いを述べられていました。その文面を引用させて頂く形で、過去記事と重複する箇所はありますが、改めてこの事案を取り上げてみたいと思います。キックボクシングが誕生して50年あまり、もっと早く、みんなが真剣に考え実現に動かなければならなかった課題です。

日本ではキックボクシング業界がまとまって共通のライセンス制度を取り入れたい意見は古くからある中、現在はどの団体もプロ選手に関してプロ・テストはやっていますが、内容に関してばらつきがあり、一定のプロ・レベルに達していないプロ・テストもあるのかもしれません。

日本バンタム級チャンピオンとして4度防衛した鴇稔之氏(1992.11.13)

◆命を守る国家的ライセンスの威力!

一般社会では、各種免許には国家試験が実施されますが、そこには人の命に係わる事由があり、知識と技術が要求される為、自動車免許にしても医師免許にしてもフグの調理師免許にしても、素人がそれらをやる事によって、人が死に至ることも有り得る事柄に関しては、国の免許制度が導入されている訳です。

スポーツに於いては、プロボクシングはJBCによるプロテストの下、各種ライセンスが能力に応じて与えられている基盤がしっかりした競技であり、キックボクシングに於いては、どこも任意団体で、制度が整備されなければならない危険度高い運営環境にあります。

キックボクシングはボクシングに比べれば死に至るケースは少ないものの、怪我をする確率はボクシングより遥かに上回ります。試合においての骨折はよく起こることで、それは競技性の内容にもよりますが、キック各団体やレフェリー団体、指導のされ方によっては適切な処置が出来ないレフェリーが居ることにも原因のひとつがあり、ジャッジにも不適切なジャッジメントのせいで選手が引退してしまったり、会場で見受けられる客同士のトラブルや、関係者の士気をさげるような言動など、興行的にも選手や関係者の意識の低さで、あってはならない事態も度々起こり、なかなかメジャースポーツの仲間入りが出来ません。

また、「ジムの会長は業界育ちではなくても資金があればジムを開設出来る」というのが現状で、キックボクシングが好きでお金があるというだけでジムをやっている会長も居るのも事実です。そこは経営者たるもの、格闘技の知識や一般常識を持ち合わせなくてはいけません。例えば他のスポーツで、野球やサッカーで選手経験の無い人が監督を務めることはありません。

選手の命を守ること第一に、興行のトラブルを未然に防ぐ為にもキックボクシング業界は選手、オーナー、セコンド(トレーナー)、役員に、団体ごとではない業界統一レベルでライセンス制度を取り入れたい現状で、こういうところにも国家的ライセンスの威力がないと整備できない現状があります。

キックボクシングは決してつまらないスポーツではなく、かつてのテレビ放映が長く続いた昭和の時代や、後の「K-1」、現在の「KNOCK OUT」もテレビ番組の反響を見ればその素晴らしさは誰もが理解出来るでしょう。人気だけが先行して組織の基盤は軟弱なのが、キックボクシングと新興格闘技の現状です。

◆タイ国ボクシング法

タイ国では、政府に観光・スポーツ省があり、傘下にあるボクシング・スポーツ委員会は、公務としてコミッションに相当する役割を果たしています。この管轄下にあるのがタイ国ムエスポーツ協会で、プロボクシングを含みます。

1999年に制定されたタイ国ボクシング法では、規定のムエタイレフェリー公式講習に合格すると国家資格として、タイ国観光・スポーツ省が認定する正式なムエタイレフェリーとしてライセンスを交付されます。こういう構築した国家的ライセンスはは魅力的存在でしょう。

願わくば、日本もタイ国のようにスポーツ庁が定めてくれるのが望ましいところですが、それはまた利害が絡む別次元の複雑な問題があり、プロ競技に係わってくることは、おそらく10年以内では難しいところ、全ての団体が集まって統一ルールの下、将来的に国から認可されやすい環境を作っていくことを最優先に整備することが望ましいところです。

ムエタイレフェリー講習で指導するブンソン・クッドマニー陸軍大佐、タイの国家的業務です(2017.9)
終了証を得た新人レフェリー達、タイの国家的ライセンスです(2017.9)

◆理想のスタジアム建設

数年前、ライセンス制度の話をキックボクシング生みの親、野口修会長と語り合った鴇稔之氏は、「キックボクシング専用のスタジアムがあれば、タイのラジャダムナンスタジアムやルンピニースタジアムのように各団体をプロモーターに見立ててランキングを統一出来るようになります。」という前例を語り、それでスタジアム建設の話が盛り上がって来たところで、野口修会長が2016年3月に亡くなってしまったので、立消えてしまったということでした。

ラジャダムナンスタジアム館内、世界に知れ渡った殿堂です(2017.5.25)
数々の代表の立場で語った野口修氏、もうひとつ大きな仕事を残していましたが(2014.3.9)

鴇氏は「今後、何とか話を再燃したいです。それは私でなくても、やれる人がやればいいのです。」と語り、団体乱立が長く続いたキックボクシング界では、「今後も誰かが強力な団体を立ち上げてもあまり意味が無く、設立者が亡くなられたり、資金が尽きれば消滅や弱体化し、また分裂に至ります。」とも語られています(私の過去記事と同意見)。

スタジアム制の場合、支配人の交代があっても立退かない限りはスタジアム自体が無くなることはなく、タイの二大殿堂のように、ここに集まる観衆が群集の力となって支持が働けば自然と最高峰と成る可能性を持っています。

都心に極力近い地域にキックボクシング・スタジアムが建設されれば、国内統一と世界から注目される格闘技殿堂は実現できるかもしれない、そんな莫大な資金が掛かる建設計画も一度は可能性ある話が進んでいたことに関心が持たれる今、ぜひ実現に向かって欲しいと願う昭和のキック同志達であります。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

おかげさまで150号!最新『紙の爆弾』3月号! 安倍晋三を待ち受ける「壁」
一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

平昌五輪と東京五輪の政治利用に見るこの国の〈洗脳と背理〉

南北会談が行われ、朝鮮が平昌オリンピックへの参加を表明してから、韓国、朝鮮政府への論評がどうにも「冷たい」ように思う。開会式の合同入場や女子アイスホッケーが統一チームを結成することが決まると、「北朝鮮のペースに乗せられた韓国政府」、「圧力の足並み乱れを懸念」など後ろ向きの批評が新聞では主流だ。

また、米国では日本側が「北朝鮮からの漂流船が増加しているのは経済制裁の効果が表れている」との見方を示したと報道されているし、河野外相は16日カナダでの会合に出席し〈韓国 との対話に舵を切ったように見える北朝鮮の意図は、『時間稼ぎ』だと指摘しました。平昌(ピョンチャン)オリンピックを控え再開した南北対話が北朝鮮ペースで進む懸念もある 中、河野大臣はスピーチで、北朝鮮の『微笑み外交に目を奪われてはならない』と訴えました。〉と語ったそうだ。

河野外相、対話は北朝鮮の「時間稼ぎ」と指摘(TBS2018年1月17日配信)

◆「対北朝鮮圧力」をかける国々はどんな将来と結末をイメージしているのか?

では、カナダに集まり「北朝鮮圧力」を相談している国たちは、朝鮮の将来にどんな結末をイメージしているのだろうか。朝鮮の非核化は妥当な目標ではあろうけど、そのため、延々と経済制裁だけを続け、対話を一切拒否するという、河野外相=日本政府の姿勢が貫徹され、また他国も日本政府同様のファナティックな制裁で完全に足並みを揃えたらどうなるだろうか。昨年の惨状をみて断定的に語れることは、朝鮮の庶民の暮らしがより圧迫され、困窮し餓死者が増加する事態が加速するであろうことだ。

朝鮮の庶民の生活がどれほど困窮しても、朝鮮政府は外交姿勢を変えることはないだろう。そんな程度で外交姿勢を変えるのであれば、これまで幾度もあった対話の機会で、方向転換を図っていただろう。中国の後ろ盾が実質上なくなり孤立無援ともいる小国の動向に、カナダに集まった20ヵ国は少々過敏になり過ぎているのではあるまいか。制裁一方で平和裏に核問題が解決でいると、私にはどうしても思えない。

それは、この島国が「ABCD包囲網」により、無謀な戦争に突っ込んでいった歴史が証明するところでもある。どうしてパキスタンやインド、イスラエル(さらにいえば、米、英、仏、中、露)の核兵器は容認されて、朝鮮だけ世界から袋叩きにあうか。朝鮮の何万倍も核兵器を保有する米国のトランプは金正恩よりも何万倍も理性的だろうか。

◆「政治の道具」としての近代五輪はなにも平昌五輪だけでないのに……

「平昌オリンピックの政治利用」とまくしたてる「有識者」が多数見受けられるが、近代オリンピックは常に政治の道具、もしくは政治そのものと言ってもいいだろう。ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議して、1980年のモスクワオリンピックは日本を含め約50ヵ国がボイコットした。その報復に1984年のロス・アンジェルスオリンピックでは東側諸国が軒並みボイコットした。東西冷戦時代の出来事ではあるけれども、五輪は露骨に政治利用される。同時に表層的ながらいっときの「融和」や「「友好」を演じる舞台が五輪でもある。

1964年の東京五輪では東西ドイツが開会式で一緒に入場した。冷戦の真っただ中、まだ日本や米国が中国と国交を結ぶはるか昔、東西ドイツの合同入場は国際ニュースだった。開会式を中継したNHKのアナウンサーは、「素晴らしい、本当に素晴らしい」と絶叫している。その東西ドイツ合同入場に苦言を呈した人が、今日ほどいたのだろうか。私はまだ生まれる前の出来事なので、つまびらかではないが、少なくとも録画に残されたNHKアナウンサーの称賛ぶりは確認できる。

また、南北朝鮮のオリンピック開会式合同入場は2000年のシドニーオリンピックで実現している。当時合同入場について、この島国の中でこれほど冷淡な論評が交わされただろうか。私の記憶の限りではそんなことはなかった。2000年から2017年へ何が変わったのか。明示できる転換点は「拉致」の事実を金正日が小泉との会談で認めたことだ。逆に「拉致問題の解決、植民地支配の過去の清算、日朝国交正常化交渉の開始」を内容とする「日朝平城宣言」が2002年に交わされた事実はもうなかったかのような有様だ。

◆対話なき圧力をかける日本政府が直視すべきは「東京五輪」の背理である

「拉致」を金正日が認めたことは、大きな衝撃であった。けれどもそのために「拉致問題」は両国間で顕在化し、帰国された方もいる。以後進展が見られないが、その理由は一方的に朝鮮側だけにあるのだろうか。「対話と圧力」と言っていたこの島国の政府は、もっぱら「圧力」だけに血道をあげるようになった。朝鮮が態度を硬化させるのも無理はない。

そして意地悪ながら事実にもとづく言いがかりをつけるのであれば、朝鮮が非難の的とされたのは、この島国では「拉致問題」だけれども国際的には1983年の「ラングーン爆破事件」であり、1987年の「大韓航空機爆破事件」であった。二つの事件はいずれも朝鮮が国家として韓国の高官や航空機爆破を行った、いわゆる「テロ」事件だが、その後に行われたシドニーオリンピックで両国は合同入場しているのだ。時の韓国大統領は金大中で「太陽政策」で南北融和を図っていた。

繰り返すが、あの頃こんなにも殺伐とした「南北朝鮮」卑下の論評が横行してはいなかった。政府・マスコミから庶民に至るまで、まるで1900年頃のように「朝鮮半島」を蔑視し、見下す言説が溢れている。非常に不健全で危険極まりないと思う。「政治の道具」にほかならないオリンピックが、政治的に平和利用されるのであれば、どうしてその「光」の面を少しは評価しようとしないのか。

翻り「東京五輪」の広報と「洗脳」は日々その勢いを増すばかりだ。補修でも充分仕えた国立競技場を瞬時に取り壊し、史上最高のスポンサーを集めながら「ボランティア」を多用して「大儲け」イベントとして準備が進む「東京五輪」。福島第一原発4機爆発により政府が発した「原子力緊急事態宣言」がいまだ取り下げられない中で、堂々と進められる「東京五輪」の背理こそ自身の問題として直視すべきではないか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

〈改憲〉国民投票と〈五輪〉無償奉仕──電通2大プロパガンダがはじまる(本間龍)掲載 『NO NUKES voice』14号 脱原発と民権主義 2018年の争点 

新春黄金キック! WINNERS 2018.1st

パカイペットの隙を突いて鋭く入る左ストレート
パカイペットの壁を乗り越えたい波賀宙也、積極的に攻める

パカイペットは元・BBTVバンタム級チャンピオンで、2016年1月、瀧澤博人を左ミドルキックで圧倒TKOし、昨年1月は志朗とファイトマネー総取りマッチを行ない、志朗を蹴りで苦しめながらラストラウンド残り1秒で倒されるも、名は知れ渡る激闘を展開。

波賀宙也は元・WBCムエタイ日本スーパーバンタム級チャンピオンで、昨年からの4連敗中から脱出したいところ。波賀は相手を研究し狙った右ヒジ打ちで少々額カット成功。波賀が距離を詰める圧力をパカイペットがいなし、要所要所でのパンチと蹴りは、隙を狙う上手さを感じさせます。互いが相手の持ち味を封じた展開でしたが、僅差でパカイペットが勝利。

パカイペットの突進を止めた波賀宙也の前蹴り
右ローキックから石川直樹の主導権支配が始まる
組んだら離さない力で捻じ伏せてヒザ蹴りでダウンを奪う石川直樹

 

石川直樹は離れた距離での蹴りから次第に得意の首相撲に移ると、相手を捻じ伏せるように押さえ、顔面へのヒザ蹴りで2度のダウンを奪って判定勝利。タイ選手相手に得意の体勢で圧勝出来たことには存在感はより大きくなった石川直樹、今後のムエタイランカー戦となっても組み勝つ姿は見られるでしょうか。

石原將伍はスウィーレックの蹴りや首相撲の距離であっても怯まない術を持っての戦い。組まれても強引にパンチの距離を取り戻し打ち込む強引さで圧倒。チャンピオンになってよりアグレッシブさが増した勝利でした。

初回早々からパンチでラッシュしたOD・KENが一気にダウンを奪い、ダメージ残る柴田を仕留めて完勝。何も出来ずに終わった柴田春樹、ブランクが空く影響もあったか、今後も他団体交流戦でなければ対戦相手が居ない中、巻き返しに期待です。

2000年生まれで、やがて18歳になるバンタム級の馬渡亮太(治政館)は、長身からくる足技と左のヒジ打ちで10歳年上の田中亮平(市原)と激戦の末、ダウン奪って判定勝利。1位で前チャンピオンの瀧澤博人(ビクトリー)との対戦や、現チャンピオンのHIROYIKI(藤本)への挑戦も期待される今いちばん注目の新人上位ランカーです。

下がり始めたパカイペットをパンチで追う波賀宙也

◎WINNERS 2018.1st /
2018年1月7日(日) 後楽園ホール 17:00~20:35
主催:治政館ジム / 認定:新日本キックボクシング協会

◆56.5kg契約 5回戦

パカイペット・JSK(タイ/55.7g)VS 波賀宙也(立川KBA/56.5kg)
勝者:パカイペット・JSK / 判定2-0 / 主審:椎名利一
副審:仲49-49. 桜井50-49. 少白竜50-49

◆52.0kg契約3回戦

日本フライ級チャンピオン.石川直樹(治政館/51.9kg)
VS
ラタケット・パンダクラタナブリー(タイ/51.0kg)
勝者:石川直樹 / 判定3-0 / 主審:仲俊光
副審:椎名30-25. 宮沢30-26. 少白竜30-26

本領発揮した石川直樹、2度目のダウンを奪う
左ストレートで仕留める石原將伍、ゆっくり倒れるスウィーレック

◆59.0kg契約3回戦 石原將伍

日本フェザー級チャンピオン.石原將伍(ビクトリー/59.0kg)
VS
スウィーレック・パンダクラタナブリー(タイ/59.0kg)
勝者:石原將伍 / TKO 2R 1:56 / カウント中のレフェリーストップ
主審:桜井一秀

◆ヘビー級3回戦

日本ヘビー級チャンピオン.柴田春樹(ビクトリー/93.0kg)
VS
J-NETWORKライトヘビー級4位.OD・KEN(ReBORN経堂/90.0kg)
勝者:OD・KEN / TKO 1R 0:50 / ノーカウントのレフェリーストップ
主審:宮沢誠

スウィーレックの蹴りに対し、構わずパンチで攻めた石原將伍
開始早々からパンチで圧倒したOD・KEN、何も出来ないまま終わった柴田春樹

◆63.0kg契約3回戦

ヨーペットJSK(タイ/62.8kg)
VS
日本ライト級1位.永澤サムエル聖光(ビクトリー/62.8kg)
勝者:ヨーペットJSK / 判定3-0 / 主審:少白竜
副審:椎名30-28. 仲30-28. 宮沢30-28

◆68.5kg契約3回戦

日本ウェルター級1位.政斗(治政館/68.15kg)VS 憂也(魁塾/68.5kg)
勝者:憂也 / 判定0-3 / 主審:桜井一秀
副審:宮沢29-30. 仲29-30. 少白竜28-30

◆ライト級3回戦

日本ライト級2位.直闘(治政館/61.0kg)VS 同級3位.内田雅之(藤本/61.0kg)
勝者:内田雅之 / 判定0-3 /主審:椎名利一
副審:宮沢27-30. 桜井27-30. 少白竜27-30

◆54.0kg契約3回戦

日本バンタム級2位.馬渡亮太(治政館/53.9kg)VS 同級6位田中亮平(市原/53.6kg)
勝者:馬渡亮太 / 判定3-0 / 主審:仲俊光
副審:椎名30-27. 桜井30-26. 少白竜30-27

◆62.0kg契約3回戦

日本ライト級10位.興之介(治政館/61.6kg)
VS
まさきラジャサクレック(ラジャサクレック/62.0 kg)
勝者:まさきラジャサクレック / KO 2R 3:02 / 主審:宮沢誠

◆55.0kg契約3回戦

日本バンタム級3位.阿部泰彦(JMN/55.0kg)
VS
NJKFバンタム5位.古村匡平(立川KBA/最終計量55.65kgで減点1)
勝者:古村匡平 / KO 2R 0:46 / ハイキックで10カウント / 主審:少白竜

上記はランカー以上の結果。
他、2回戦2試合は割愛します。

《取材戦記》

「新春黄金キックだ!」がパンフレットに書かれていた興行タイトルでしたが、正月は連日続くタイトルマッチの緊張感があった昭和のキック、あの時代の正月が本当の“新春黄金キック”だったように思います。

ライト級に上げて事実上の初勝利となる40歳になったばかりの元・日本フェザー級チャンピオン.内田雅之(藤本)。ダウン奪って判定ながら快勝し、勝利して2人の幼いお子さんをリングに上げての撮影、以前から触れる話ではありますが、リング上でこんな親子の撮影を多く見るようになりました。

アンダーカードでは、過去に王座挑戦経験もある阿部泰彦(JMN)は、やがて40歳になり、現在2歳のお子さんが居て、試合中の騒然とした中でも我が子の声がはっきり聞こえると言います。そして父親の戦う姿が一生記憶に残るまで戦いたい気持ちを持っているそうですが、この日は残念ながら、一発のハイキックで珍しくもKOで敗れ去ってしまいました。あと2年ほど頑張れば夢は叶うか。そんな些細な応援もしたくなる差し迫った阿部選手の戦いです。

2018年の新日本キックボクシング協会は、年間10回興行の中で、次の興行は3月11日(日)17時より後楽園ホールに於いてMAGNUM.45(現在カード未定)が開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

生キ様ヲ刻メ! 35周年を迎える日本キックボクシング連盟の〈闘魂〉

大和知也との打ち合いを制し、綱渡り防衛となった高橋一眞
大和知也vs高橋一眞。二度のダウンの後の危ない打ち合いはファンをハラハラさせた。高橋一眞のピンチ

激闘ノックアウトが続いた主要カード3試合。

「格闘技人生賭けて今日全てを出し切ります。僕の生き様を見てください」と語っていた大和知也は一昨年、怪我で王座返上し、昨年9月の再起戦は棚橋賢二郎(拳心館)にKO負けもまだ王座復帰とNKBエース格を目指す。

高橋一眞は一昨年の3連敗から脱出し、昨年6月に宿敵村田裕俊から王座奪取し、再び「KNOCK OUT」出場を目指す今、両者とも負けられない立場。高橋一眞はパンチで出て来る大和にヒザ蹴り中心に右ローキック、ロープ際での接近戦で右ストレートでダウンを奪う。足に来た様子の大和だったが、パンチの距離になると右ストレートで逆転のダウンを奪う。

パンチとヒザ蹴りの攻防の中、更なるパンチ連打で2度目のダウン奪った大和。残り1分半。パンチで出る大和に応戦する一眞は危険な打ち合い。しかし一眞の右ストレートでスリップダウンする大和は立ち上がるも再び足に来ている様子で足がもつれる。一眞は上下の蹴りからヒザ蹴りも出すが、大和とパンチの打ち合いに応じ、どっちが倒れるかスリルある展開の中、一眞の右ストレートがヒット、足に来てフラついて起きれない大和にレフェリーが試合を止めました。

悔しさで号泣の大和。何のヒットで倒したか、自分がダウンしたことも覚えていない試合直後の一眞。2度ダウン後の打ち合いは危険な賭けは一眞にとっては今後に課題を残す初防衛となりました。大和は王座奪回成らず、2連敗。今後再戦するとしたら互いがガードをしっかりしなければならないでしょう。特に「“KNOCK OUT”に出たい」と言う一眞は要注意です。高橋一眞はこれで15戦11勝(9KO)4敗。大和知也は32戦16勝(11KO)13敗3分。

村田裕俊vs優介。向かって来た優介に村田のカウンターパンチがヒット、ダウンとなった瞬間

村田裕俊は2016年12月に初防衛戦で対戦した優介との再戦となる2度目の防衛戦。2017年は注目の選手との対戦が続く中、3連敗の村田。優介は再挑戦に向け、調子を上げてきた侮れない挑戦者。村田の攻勢は想定内で首相撲になっても組負けず、しなりある村田のハイキックとミドルキックが優介を圧倒。

2ラウンドには接近してきた優介に左フックカウンターでダウン奪う村田。優勢に進む中、村田の右ストレートが優介にヒットするも、相打ち気味だった優介の右ハイキックが村田のアゴを捉え、ダブルノックダウンのような形で、優介がやや先に尻餅つくが、ほぼスリップ気味ですぐ立ち上がり、村田は完全に足に来てフラつく中、レフェリーが止めました。

優介が劇的逆転ノックアウトで号泣の王座奪取成る。優介は第14代チャンピオン。村田裕俊はこれで19戦10勝(5KO)7敗2分。優介は25戦18勝(8KO)5敗2分。

村田裕俊の右ストレートはプッシュ気味、この直後、優介の右ハイキックが村田のアゴを捉える
ロープにもたれて倒れ込み、立ち上がれなかった村田裕俊

高橋聖人は昨年4月に村田裕俊を攻略する金星判定勝利。安田浩昭は3年前に髙橋聖人に判定負けしているが、その後勝利を重ね、上位進出してきた底力は侮れない。

パンチ主体の安田に対し、右ローキックを中心に蹴り技で優っていた距離感もよかった聖人。聖人の蹴りのペースが続き、安田の左足が効いていく中、安田の一瞬の右フックが聖人のアゴを捉えると、バッタリ倒れた聖人、完全に効いてしまって上半身を起こそうにも身体が言うこと利かないダメージでレフェリーが試合をストップ。パンチの当たる隙を安田が見逃さなかった展開。キックのキャリアは似たものがあるが、人生の経験値からくる勘があったであろう結末。聖人は反省点ある試合で今後に活かせることでしょう。高橋聖人はこれで10戦8勝(3KO)1敗1分。安田浩昭は10戦8勝(4KO)2敗。

新チャンピオン優介と真門ジム山岡会長。真門ジムでは優介が高橋兄弟に続く現役三つ目の王座獲得となった

◎神風シリーズ vol.6
2017年12月16日(土)後楽園ホール17:30~20:50
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

◆メインイベント NKBライト級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.高橋一眞(23歳/真門/61.05kg)
VS
挑戦者同級2位.大和知也(前C/32歳/SQUARE-UP/61.23kg)
勝者:高橋一眞 / TKO 1R 2:35 / 主審:前田仁

◆NKBフェザー級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.村田裕俊(28歳/八王子FSG/57.05kg)
VS
挑戦者同級2位.優介(33歳/真門/56.95kg)
勝者:優介 / TKO 2R 1:32 / 主審:鈴木義和

◆フェザー級 5回戦

NKBフェザー級1位.高橋聖人(20歳/真門/57.05kg)
VS
同級3位.安田浩昭(31歳/SQUARE-UP/56.9kg)
勝者:安田浩昭 / TKO 2R 3:02 / 主審:亀川明史

安田浩昭vs高橋聖人。頭をもたげる高橋聖人、身体は言うこと利かない痛烈なダウンシーン
安田浩昭vs高橋聖人。隙を突いた安田の右フックが高橋にヒット
王座挑戦権を得たであろう安田浩昭
初防衛成功の高橋一眞。王座奪取時にも見せた雄叫びポーズ

◆ライト級3回戦

NKBライト級1位.棚橋賢二郎(30歳/拳心館/60.95kg)
VS
小鹿雅弘(26歳/ジョイント/61.0kg)
引分け / 0-1 / 主審:川上伸
副審:前田30-30. 亀川30-30. 佐藤友章29-30

◆ミドル級3回戦

NKBミドル級6位.釼田昌弘(28歳/テツ/72.3kg)
VS
義充(27歳/アウルスポーツ/72.5kg)
引分け / 0-1 / 主審:佐藤彰彦
副審:鈴木30-30. 亀川29-30. 川上30-30

◆63.0kg契約3回戦

NKBウェルター級5位.マサ・オオヤ(43歳/八王子FSG/63.0kg)
VS
NKBライト級9位.野村怜央(27歳/TEAM-KOK/62.95kg)
勝者:野村怜央 / TKO 2R 1:58 / カウント中のレフェリーストップ
主審:佐藤友章

◆62.0kg契約3回戦

NKBライト級5位.パントリー杉並(25歳/杉並/61.65kg)
VS
J-NETWORK.スーパーライト級7位.伊東伴恭(33歳/ライラプス東京北星/61.9kg)
勝者:伊東伴恭 / 判定0-3 / 主審:亀川明史
副審:川上28-30. 前田27-30. 鈴木28-30

◆ウェルター級3回戦

NKBウェルター級4位.チャン・シー(33歳/SQUARE-UP/66.5kg)
VS
同級6位.SEIITSU(38歳/八王子FSG/66.45kg)
引分け / 0-1 / 主審:佐藤彰彦
副審:川上29-30. 前田30-30. 佐藤友章30-30

◆フェザー級3回戦

NKBフェザー級6位.鎌田政興(27歳/ケーアクティブ/57.0kg)
VS
同級9位.岩田行央(37歳/大塚/57.05kg)
勝者:鎌田政興 / 判定3-0 / 主審:鈴木義和
副審:亀川30-28. 佐藤友章30-28. 佐藤彰彦30-29

前座2試合は割愛します。

《取材戦記》

日本キックボクシング連盟に於いては、ラスト3試合は近来に無い壮絶な決着でした。リングサイド関係者は、意外な盛り上がりに驚きながらも満足気の様子。「来年(2018年)もNKBを盛り上げましょう」と言う声も聞かれました。高いレベルとは言い難いところもあり、「KNOCK OUTイベント」に向かっていくなら磨かねばならない技はあるものの、出場させてみたい選手も揃っています。

新年の興行タイトルは「闘魂シリーズ」だそうで、どこかで聞いたことあるようなシリーズ名ですが、この日のようなスリルは成り行き任せで難しくとも、好カードで盛り上がりを見せればNKBの存在価値も上がることでしょう。高橋三兄弟は課題を抱えつつ、負けてもまた向かっていく姿がカッコよく見えます。

2018年定期興行スケジュールは、2月17日、4月21日、6月16日、10月13日、12月8日、いずれも土曜日、後楽園ホールでの開催で、開始時刻は17:30の予定。この他、地方興行も予定されています。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

キックボクシング 2017年の振り返りと2018年の展望!

ルンピニーのベルトも手に入れることが出来るか、二つ掲げたい梅野源治(2016.11.4)

2017年の主に目立った出来事を大雑把に独断と偏見で振り返ると、
・梅野源治とT-98(=今村卓也)のラジャダムナン王座陥落
・「KNOCK OUT」イベントの躍進
・IBFムエタイの発足
・高橋一眞の復活
・志朗と麗也の独立
などがありました。
他にも多くの興行、イベントがありましたが、あくまで独断と偏見です。

◆《1》梅野源治とT-98(=今村卓也)のラジャダムナン王座陥落

2016年6月1日にラジャダムナンスタジアム・スーパーウェルター級王座奪取したT-98(=今村卓也)は同年10月9日に日本人として初めて現地で初防衛を果たし、その勢いで2017年の更なる記録更新が期待される中、5月25日に現地での2度目の防衛戦は惜しくも判定で敗れ記録更新成らず。その後T-98は長い休養はとらず再起。今度はルンピニースタジアムに標準を定め、10月22日にルンピニージャパン・ミドル王座奪取を経て挑戦権を獲得。12月2日にタイ現地でルンピニースタジアム・ミドル級王座に挑戦しましたが、判定負けで王座奪取成らず。外国人初の二大殿堂制覇も成りませんでした。

2016年10月23日に、同じくラジャダムナンスタジアム王座をライト級で奪取した梅野源治は、2017年5月17日、現地で初防衛戦を行なうも判定で敗れ王座を失いました。現地に渡るとなかなか難しい本場の壁に阻まれますが、これを打ち破ってこそ崇高の王座であるわけです。

二人揃って王座陥落のままに終わった2017年でしたが、梅野源治は2018年2月18日、REBELS興行で、ルンピニースタジアム・ライト級王座決定戦出場が予定されています。日本人として新たな可能性を懸けて、ムエタイ二大殿堂王座への記録更新は2018年に引き継がれます。

T-98も厳しい立場に置かれたが、梅野同様まだ終われないT-98時代(2017.5.25)

◆《2》「KNOCK OUT」イベントの躍進

2016年9月14日に記者会見興行(お披露目1試合)から発足した「KNOCK OUT」イベントは同年12月、2回目興行(vol.0)から盛大に始まりました。(株)ブシロードがバックアップする背景から2017年は1年間を通じて8回の興行が開催され、想定する範疇ながら「やっぱり凄いな」と思わせる実績を残して来ました。

対戦が難しかった団体の垣根を越えたトップクラスの対戦があり、地上波のTOKYO-MXTVをはじめ、衛星放送やインターネット配信の充実、街頭スクリーンにもコマーシャルが流れる拡散に過去に無い一般社会へアピールの進出がありました。

選手の発言にも「KNOCK OUTに出たい!」と言う声が多くなっています。このリングに立つ為に、既存の各団体やフリーのプロモーション興行も選手の目つきが違って来ています。目指すものが大きいと選手のモチベーションも上がることが実証された1年でした。

ひとつ厳格に守って欲しいのは、本来のキックボクシングルールとシステムを遵守して欲しいこと。一旦勝手な解釈が加わると、そこからまた新たな解釈が加わり、本来のキックから逸脱した方向に行ってしまうので、老舗キック競技を守ることからイベント開催へ向かって行って欲しいところです。

◆《3》IBFムエタイの発足

2017年後半、水面下で動いていたのはIBFのムエタイ団体発足の動きでした。プロボクシングの主要4団体のWBCがムエタイ世界王座を発足されたのは2005年12月。いずれは他団体も手を付ける可能性が高いと思われたプロボクシング認定団体のムエタイ進出でしたが、ここに来てやっぱり出て来た他3団体の中のIBFでした。

多くの世界認定団体と二大殿堂王座、更に活発化するイベント(トーナメント戦優勝制)がある中、それらの価値が低くなってきた時代に、IBFムエタイがトップ争いの末、ムエタイ最高峰となることは無いでしょう。

初の世界王座決定戦を行なった2017年12月20日の世界戦数日前からから「ライトヘビー級か、クルーザー級かどっち?」と思っていたら、開催直前になって別選手によるウェルター級戦になる曖昧さ。発展途上のタイ側に任せていたらこうなるんです。ムエタイなので試合ルールは本場タイ側が主導するのは仕方ないにしても、IBFに限らず、組織管理・管轄はアメリカやメキシコの本部が監視していかないと、タイ側は勝手なことやりだすので、単なる名義貸しにならないよう注意して貰いたいものです。

発足したIBFムエタイ世界王座3試合のセレモニー(2017.12.18)
IBFムエタイ世界ライト級初代王座はセクサンvsパンパヤック戦(2017.12.19)
IBFムエタイ、最初のチャンピオンはウェルター級のピンクラーオ、左側はIBF会長のダーリル・ピープルズ氏、右側は元・タイ国副首相スワット・リパタンパンロップ氏(2017.12.20)
ここにも団体を担うチャンピオンとなった高橋三兄弟の長男・一眞が2018年を戦う(2017.6.25)

◆《4》高橋一眞の復活

2016年に悪夢の3連敗を喫した高橋一眞は2017年は4連勝と完全復活。過去3勝1敗の村田裕俊を破り、NKBライト級王座奪取と、元チャンピオンの大和知也を破り初防衛を果たしました。

長男・一眞は打たれ脆さが心配されます。大和知也との試合はそのスリルある展開を見せ大歓声となりましたが、再び「KNOCK OUT」出場することとなった高橋一眞は、2018年2月12日の「KNOCK OUT FIRST IMPACT」に於いてKNOCK OUT常連の町田光(橋本)戦が予定されており、ここはガードを固め冷静に戦って欲しいところです。

次男・亮も12月のKNOCK OUTに於いて、小笠原瑛作(クロスポイント)と引分ける好ファイトを見せながらも弱点を見せる展開。三男・聖人は安田浩昭に一発で逆転負けする不覚を喫したばかり。それでもNKBを担う立場に成長した高橋三兄弟は、安泰マッチメイクは無く試練を乗り越えていくので、負けながら這い上がるところに好感が持て、それぞれが2018年の急成長が見られるかが期待と見所でしょう。

本場のリングが主戦場となった志朗、2018年も厳しい戦いが続く(2017.12.9)

◆《5》志朗と麗也の独立

志朗と麗也(ともにKICK REVOLUTION)が新日本キックボクシング協会を、脱退宣言発表をしたのは6月20日でした。本場タイのリングでの戦いの場を求めて、これ以降ほぼ現地のみのリングに上がっていますが、現地の有力プロモーターに認められ、勝ち上がることはかなり難しい道程で、下手すれば簡単に切り捨てられる本場で、窮地に追い込まれても2018年も突き進まなければなりません。

早速1月13日(土)、タイ・ルンピニースタジアムにて志朗の出場が決定しています。試合はタイ地上波9チャンネルで放送と、セミファイナル出場が予定されるかなり高水準の待遇で、対戦相手は、チューペット・シットパナンチュンという、タイ7チャンネルや9チャンネルに出ている知名度があり、今最も勢いのある選手の一人として名を馳せており、パンチとローキックが武器で、最近は3連続KO勝ちしており、志朗とはKO決着が予想されています。

麗也は志朗とは別のジムに所属しており、まだ活躍の詳細は聞かれませんが、2018年は志朗に続かなければならない勝負の年となるでしょう。

新春最初の興行は1月8日に、後楽園ホールに於いて17時より、新日本キックボクシング協会・治政館ジム興行「WINNERS 2018.1st」が行なわれます。WINNERS、MAGNUM、TITANS NEOSなど、この団体内でもビッグイベントが揃っており、「KNOCK OUT」以外の国内各団体が突出してくるか、あるいはまた分裂が起こるか、何が起きても不思議ではないキック界が1年後にどうなっているか、波乱にも期待したいところです。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

江幡ツインズは、キック界の大黒柱! SOUL IN THE RING.15

右ストレートで3度目のダウンへ繋ぐ江幡睦

後楽園ホールと両国国技館でそれぞれが勝利を上げた江幡睦と塁。
睦はいつもよりは格下のトートーとの対戦でしたが、そのトートーの蹴りと繋ぎ技は素早く、油断はならない。対する睦はいつもどおりながら様子見のローキックからパンチへ繋ぎ、隙を見つけるといずれも右ストレートが決め手となる3ノックダウンを奪って余裕のKO勝利。

緑川創のローキックでサグントーンにダメージを与える

両国国技館での「KNOCK OUT」興行では、塁が宮元啓介(橋本)と激闘の末、判定勝利。そのまま後楽園ホールへ駆けつけ睦のセコンドに着く慌しさ。重森陽太(伊原稲城)も「KNOCK OUT」興行に出場し、マキ・ピンサヤーム(タイ)に判定勝ちした後、後楽園ホールへ来場。江幡ツインズとスリーショットとなりました。

緑川創も第1ラウンドに様子見から左フックをボディに炸裂させダウンを奪い、第2ラウンドに右ストレートでダウンを奪ったところでタオル投入されKO勝利。

渡辺健司vs大和侑也戦はちょっと興味深いカードとなった試合でしたが、渡辺のいつもの下がってかわす戦法に、正攻法の大和は持ち味を活かせない。自分の距離を見極めると渡辺のローキックやフック系パンチのしぶとい戦法で判定勝利を掴みました。

終盤にパンチで出ていく大和侑也だが渡辺攻略は難しかった

斗吾が第1ラウンドにパンチで斉藤をグラつかせるも、その追撃が足りず、その後のダメージから回復した斉藤が長身を活かした前蹴りが有効的に使われ、首を組んでのヒザ蹴りをしつこく繰り出す。パンチで攻めた斗吾が辛うじて引分けに持ち込んだ印象。2014年3月に対戦した時は斗吾がヒジ打ちでTKO勝利しているが、今回は斉藤が持ち味を活かした試合でした。

長身の斎藤智宏前蹴りが斗吾を突き飛ばす

瀬戸口勝也は皆川の若さとスピードに出遅れ、皆川は若さと攻めの打ち終わりにフォローを入れる追撃の見映えも良かったが、瀬戸口の強打が皆川のリズムを崩し、ベテランの技で勝利を掴みました。

瀬戸口勝也の強打が若い皆川をたじろがせる

◎SOUL IN THE RING.15 / 2017年12月10日(日)後楽園ホール17:00~20:10
主催:藤本ジム / 認定:新日本キックボクシング協会

◆メインイベント54.5kg契約 5回戦

WKBA世界バンタム級チャンピオン.江幡睦(伊原/54.5kg)
VS
トートー・ペットプームムエタイ(タイ/53.9kg)
勝者:江幡睦 / KO 1R 2:30 / 3ノックダウン
主審:仲俊光

右ストレートで2度目のダウンを奪う江幡睦

◆70.0kg契約 5回戦

緑川創(藤本/70.0kg)vsサグントーン・トー・ポンチャイ(タイ/68.0kg)
勝者:緑川創 / KO 2R 1:44 / カウント中のタオル投入
主審:桜井一秀

緑川創のボディへ右ストレートで上下どこでも攻めどころを捉えていく
第8試合勝者、ジョニー・オリベイラ。ラウンドガールもクリスマスバージョン
第7試合勝者、本田聖典
第6試合勝者、古岡大八
第4試合勝者、リカルド・ブラボー

◆68.0㎏契約3回戦

日本ウェルター級チャンピオン.渡辺健司(伊原稲城/67.8kg)
VS
大和侑也(元・WBCムエタイ日本同級C/大和/67.8kg)
勝者:渡辺健司 / 判定2-0 / 主審:椎名利一
副審:宮沢30-28. 仲30-29. 桜井29-29

◆73.5㎏契約3回戦

日本ミドル級チャンピオン.斗吾(伊原/73.5kg)
VS
斎藤智宏(Ys.k KICKBOXING/73.5kg)
引分け / 0-0 / 主審:宮沢誠
副審:椎名29-29. 仲29-29. 桜井29-29

◆フェザー級3回戦

日本フェザー級3位.瀬戸口勝也(横須賀太賀/56.8kg)vs同級6位.皆川祐哉(藤本/57.0kg)
勝者:瀬戸口勝也 / 判定3-0 / 主審:椎名利一
副審:仲30-29. 桜井30-28. 宮沢30-28

◆ライト級3回戦

日本ライト級4位.ジョニー・オリベイラ(トーエル/61.0kg)
VS
同級6位.大月慎也(治政館/61.2kg)
勝者:ジョニー・オリベイラ / 判定2-0 / 主審:仲俊光
副審:椎名28-28. 桜井29-28. 宮沢29-28

◆ミドル級3回戦

日本ミドル級2位.本田聖典(伊原新潟/72.3kg)
VS
萩本将次(CRAZY WOLF/71.0kg)
勝者:本田聖典 / TKO 3R 2:20 / 双方ともヒジ打ちによるカット、ドクターの勧告を受入れ、萩本将次をストップ、本田聖典は続行可能。
主審:宮沢誠

◆54.5㎏契約3回戦

日本バンタム級3位.古岡大八(藤本/54.5kg)vs鰤鰤左衛門(CORE/54.5kg)
勝者:古岡大八 / 判定3-0 / 主審:椎名利一
副審:桜井30-29. 宮沢30-28. 仲30-27

◆ライト級3回戦

日本ライト級5位.渡邉涼介(伊原新潟/60.8kg)vsTASUKU(CRAZY WOLF/60.7 kg)
引分け / 三者三様 / 主審:桜井一秀
副審:椎名29-29. 宮沢28-30. 仲30-29

◆68.0㎏契約3回戦

リカルド・ブラボー(アルゼンチン/67.6kg)vs山本ジエゴ(ウルブズスクワット/67.3kg)
勝者:リカルド・ブラボー / TKO 1R 2:23 / カウント中のレフェリーストップ
主審:宮沢誠

◆フライ級2回戦

山野英慶(市原/50.8kg)vs空龍(伊原新潟/50.6kg)
勝者:空龍 / TKO 1R 1:20 / カウント中のレフェリーストップ
主審:仲俊光

◆女子52.0㎏契約2回戦

白石瑠里(藤本/52.0kg)vs加藤みどり(エイワ/51.8kg)
勝者:加藤みどり / 判定0-3 / 主審:椎名利一
副審:桜井18-20. 仲18-20. 宮沢18-20

◆63.0㎏契約2回戦

KAZUMA(揚心/62.7 kg)vs中田憲四郎(藤本/62.3kg)
勝者:KAZUMA / 判定3-0 / 主審:桜井一秀
副審:椎名20-19. 仲20-18. 宮沢20-18

《取材戦記》

藤本ジムでの緑川創は勝次とともにエース格。8月に「KNOCK OUT」出場も宮越宗一郎(拳粋会)にダウンを奪われ判定負けをしていますが、その後再起2連勝。来年こそは飛躍しなければならない、何とかビッグタイトルに挑んで欲しいところです。

2018年新春興行は1月7日(日)に後楽園ホールで治政館ジム興行「WINNERS 2018.1st」が開催されます。昔の新春興行は元旦から1週間以内に日本系、全日本系のタイトルマッチが豪華に行なわれたものですが、現在は国内主要タイトルだけでも昔以上に多くあるのに新春に限らずタイトルマッチは少ないのが現状。そして「KNOCK OUTに出場したい」と言う選手も多く、目指すはビッグイベント出場へ、価値観が変化してきた現在、来年もその勢いが増すことでしょう。

両国と後楽園で、江幡塁、重森陽太、江幡睦、勝利のスリーショット

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

今村卓也、再びの12・2ムエタイ王座挑戦は惜敗!

ノッパガーオの右ヒジ打ちをかわす余裕を見せるタクヤ
ノッパガーオの右ミドルキックを受けてしまうタクヤ

この1年半で、今村卓也はムエタイ二大殿堂のラジャダムナンスタジアム王座奪取し、2度目の防衛戦で明け渡すも、今度はルンピニー王座挑戦のチャンスを得て、12月2日(土・現地/日本との時差2時間)、現地でルンピニースタジアム・ミドル級王座に挑みました。

5月25日のラジャダムナン王座陥落後は、数戦を経て、10月22日にディファ有明での蹴拳プロモーション興行に於いて、ルンピニージャパン・ミドル級王座決定戦を、ジフン・エナジー・リー(韓国)に判定勝ちして日本王座に就いています。

このルンピニージャパンタイトルは2015年8月7日に新設の発表があってから1年掛かりで動き出し、徐々に日本王座が埋まって来ている状況。本場ルンピニースタジアムタイトルへの近道とされるルンピニージャパン王座を経て、今回、今村卓也の挑戦が決まりました。

本場ルンピニー王座に就いた日本人は未だ居らず、またムエタイの二大殿堂ルンピニー王座とラジャダムナン王座の両方に就いた外国人(タイ人以外)は過去一人も居ない中での新たな挑戦でした。

タクヤの右ストレート直撃
ノッパガーオも強い左ストレートを返す

◆タイ国ルンピニースタジアム・ミドル級タイトルマッチ(160LBS) 5回戦

チャンピオン.ノッパガーオ・シリラックムエタイ(タイ/72.57kg)
VS
挑戦者. 今村卓也(=T-98/クロスポイント吉祥寺/72.57kg)
勝者:ノッパガーオ・シリラックムエタイ / 判定

ノッパガーオも調子を上げていく左ミドルキック

今村卓也は重いパンチとローキックで慎重に攻めていきます。顔面にヒットする右ストレート、それ以上に応戦するノッパガーオの蹴りとパンチも強いものがありました。

今村卓也のヒジ打ちによるノッパガーオの左眉のカットは、勝利へ期待が持てるものでしたが、ノッパガーオの的確に当ててくる強い蹴りで試合は混戦模様へ。組んでのヒザ蹴り、離れいてもヒザ蹴りも上手いノッパガーオ、今村卓也が優るローキックとパンチでは好感度低いものの、「日本だったらタクヤが勝っていただろう」と言う声もタイ側から聞かれた試合後のリングサイドでした。

タクヤのヒジ打ちで左眉を切ったノッパガーオ
更に流血の顔面へパンチで攻めるタクヤ

再び挑戦へ向けた再起ロードは始まるのか、ラジャダムナン王座陥落後も過密に戦ってきた今年の今村卓也でしたが、しばらく休んでからの再起がいいかもしれません。

判定はノッパガーオに。左がセンチャイ氏(ルンピニージャパン代表)

当日は4つのタイトルマッチの予定があったようですが、今村卓也のひとつ前の試合では、スーパーミドル級王座が新設された試合が行なわれています。

◆ルンピニースタジアム・スーパーミドル級(168LBS)王座決定戦 5回戦

4位.コンピカート・ソー・タワンルン(タイ/76.2kg)
VS
10位.ウィアンニー・マックススポーツジム(フランス/76.2kg)
勝者:コンピカート・ソー・タワンルン(初代チャンピオン) / TKO 2R

6月20日(火)にラーフィー・シンパートーン(フランス)がポンシリー・PKセンチャイから判定勝利し、ルンピニースタジアム・ウェルター級新チャンピオンに就き、同スタジアムでの外国人3人目(フランス人3人目でもあり)チャンピオンとなっています。

この日(12月2日)のウィアンニーはTKOで敗れ、王座奪取成らず(4人目成らず)でした。

二大殿堂も任意団体で、高いレベルの試合を群集に魅せてきた長い歴史と伝統とその権威は高いものの、時代の流れとともに過去になかった規制の緩みが出てきているのも事実で、軽量王国のタイで、ルンピニースタジアムはスーパーミドル級も新設されるという今までに無い重量級まで拡大化された現状。更には、今村卓也もルンピニースタジアムランキングには入っていないが、傘下のルンピニージャパンタイトルを獲ったことで、王座挑戦のチャンスが得られたと現地でも報道されています。最高峰への道が楽になったことが今後、業界にどう影響してくるでしょうか。
また同スタジアムは2014年2月にバンコク中心部のラーマ4世通りから、やや郊外北部のラーマイントラ通りへ移転してからは交通の便が悪くなり、ギャンブラーですらあまり行かなくなったと言う声も聞かれる中、今後集客率や試合レベルはどうなっていくのかという権威の低下が心配される部分もあります。

その反面、2018年は一波乱ありそうな本場ムエタイの動きに、興味あるファンや関係者は注目となるでしょう。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

『NO NUKES voice』14号【新年総力特集】脱原発と民権主義 2018年の争点