当連載では、これまで芸能界の最近の動きについてレポートしてきたが、ここからは第2部として、紙幅の関係で『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』(鹿砦社)で採り上げられなかった、過去に起きたタレントの独立・移籍事件を振り返ってゆくことにする。

タレントの独立と移籍は、日本の芸能界の核心部分を浮き彫りにし、「芸能界とは何か?」ということの答えが見えてくる。

芸能尾事務所のビジネスモデルは、人気タレントを独占的に抱え込むことで成立する。だから、芸能界の論理では、タレントが勝手に他の事務所に移籍したり、独立することは許されない。そこで、1963年に渡辺プロダクションが中心となって設立されたのが日本音楽事業者協会(音事協)だった。音事協加盟社間では、タレントの引き抜きを禁じ、独立を阻止するカルテルが結ばれている。過当競争を防いで、共存共栄を図ろうというのだ。

渡辺プロ元取締役、松下治夫は「かつてはタレントのほうがプロダクションより力が強いということもあった。ほかのプロダクションにもっていかれたくないものだから、プロダクションはタレントのいいなりになるしかない。そんな時代が長く続いていた。音事協ができたことで、レコード会社に対しても、タレントに対しても、プロダクションの発言力は強くなった。原盤権製作の交渉もスムーズに進められたし、タレントのやみくもな引き抜きもなくなった」と述べている(松下治夫著『芸能王国渡辺プロの真実。』青志社 )。

◆「掟」を破った仲宗根美樹の末路

では、音事協設立以前の芸能界はどうだったのか。ここでは音事協設立前年の1962年に起きた仲宗根美樹の引き抜き、独立トラブルを紹介する。

仲宗根美樹は、1960年、『愛に生きる』で歌手としてデビューした。翌年、17歳の時に『川は流れる』が大ヒットし、レコード大賞の新人奨励賞を獲得。62年には『紅白歌合戦』にも出場し、トップスターの仲間入りを果たした。だが、「金の卵」となった仲宗根をめぐり別所と美樹の母親、八重子との間で骨肉の紛争に発展していった。

美樹が所属していたのは、松竹の元社員、別所弥八郎が経営する「おれんじプロダクション」という芸能事務所だったが、1962年4月に別所が行なった記者会見で引き抜きトラブルの存在が発覚した。

八重子は、別所の乱脈経営と過密スケジュールを問題にし、別所と手を切って、美樹のマネジメントを西銀座プロダクションの小林忠彦に依託した。

これに対し、別府は人気に収入がやっと追いついてきた段階で引き抜かれたのでは芸能事務所の経営は成り立たないと主張したが、引き抜きを防ぐことはできなかった。

さらに母、八重子は移籍先の西銀座プロからも独立し、1962年11月、仲宗根プロダクションを設立した。

八重子が不満だったのは、出演交渉で相手と直接にではなく、間に第三者を挟む芸能界のしきたりだった。

たとえば、当時、都内のジャズ喫茶は渡辺プロの縄張りだったから、ジャズ喫茶に出演するためには、渡辺プロに出演料の1割を払わなければならなかった。また、東映の作品に出演するためには、美空ひばりが所属するひばりプロダクションを通すことになっていた。

これについて、小林はこう語っている。
「われわれプロダクションの仕事は、潜在失業者みたいなもので、プロダクション同士が助け合っていかねば、とうてい生きていけるものではない。
不動産屋みたいなもので、みるだけみせてもらって、あとは持ち主と直接取り引きでは不動産屋は上がったりですよ。モノゴトには順序があり、私が口をきいた話なら、あくまでも、私のプロダクションを通して仕事をするべきで、それを断わり直接に取り引きされたのでは、私の面目もまるつぶれだし、この世界のシキタリにも反することでしょう」(『週刊サンケイ』1963年2月11日号)

◆「掟」を制度化した渡辺プロと音事協

この芸能界の論理を突破しようとした仲宗根美樹は、結果的に干され、映画出演の話は潰れ、全国の巡業も極端に減った。これについて、小林はこう述べている。
「全国各地の興行関係の親分衆たちも、私が可哀そうだと思えばこそ、シキタリに反する不義理な八重子さんの仕事は、引きうけないという態度をとるのであろう」(前掲誌)

同じ年に設立された音事協は、有力芸能事務所が団結することで、この「芸能界の掟」を制度化する狙いがあったのである。

(星野陽平)

《脱法芸能01》私が『芸能人はなぜ干されるのか?』を書いた理由
《脱法芸能02》安室奈美恵「独立騒動」──なぜ、メディアは安室を叩くのか?
《脱法芸能03》安室奈美恵の「奴隷契約」発言は音事協「統一契約書」批判である
《脱法芸能04》安室「奴隷契約」問題が突きつける日米アーティストの印税格差
《脱法芸能05》江角マキコ騒動──独立直後の芸能人を襲う「暴露報道」の法則
《脱法芸能06》安室奈美恵は干されるのか?──「骨肉の独立戦争」の勝機
《脱法芸能07》小栗旬は「タレント労働組合の結成」を実現できるか?
《脱法芸能08》小栗旬は権力者と闘う「助六」になれるか?

芸能界の「構造と力」を読み解く!『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』

 

小栗旬が俳優の労働組合結成の旗振り役として名乗り出たことを知った私は、「意外と適任かもしれない」と思った。

なぜそう思うかというと、伝統芸能のストーリーに「権力者と闘う役者」というロールモデルがあり、それが小栗と重なるからだ。

江戸時代、歌舞伎などの役者は風紀と秩序を乱すと見なされ制度的に差別され、住む場所を制限され、外出する際は編み笠の着用を義務づけられ、町人との交流を禁じられ、「河原乞食」「河原者」と言われ、汚らわしい存在として忌避された。

明治維新が起きて、表向き身分制度はなくなったが、芸能者に対する卑賤視は消えなかった。今でも年輩の俳優は、「俺たちは所詮、河原乞食だから」という言葉を口にする。

2009年に他界したタレントの山城新伍は、1997年に刊行された著書『現代・河原乞食考~役者の世界って何やねん?』(解放出版社)の中で、「この間」の話として、一般人から「河原乞食」と言われ、喧嘩になったエピソードを明かしている。

◆芸能界に求められている新たな「助六」の登場

だが、役者が権力に立ち向かい、差別と闘った歴史もある。

江戸中期まで役者は弾左右衛門という被差別民の頭領に支配され、櫓銭(やぐらせん)という興行税を払っていた。ところが、1707年、京都のからくり師(人形を操る芸人)小林新助が弾左右衛門に許可なく江戸で興行を打ったとして弾左右衛門の配下300人に芝居小屋を破壊されるという事件が起きた。

小林は弾左右衛門の不当性を訴えて幕府に裁判を起こした。結果、新助の主張が認められ、役者は弾左衛門に櫓銭を払わなくてよいという判決が出た。

これを聞いた江戸の歌舞伎役者たちは、もはや役者は不浄の民ではないということが公に認められたと捉え、大いに喜び、二代目市川団十郎は裁判の経過を「勝扇子(かちおうぎ)」という書物としてまとめ、家宝にした。

作家の塩見鮮一郎によれば、この事件をモチーフにしてつくられたのが、1713年に初めて上演され、現在の歌舞伎でももっとも人気がある演目である『助六』だと指摘している。
『助六』のストーリーは、主役の助六が意休という老人から友切丸という宝刀を奪うというものだが、助六が勝扇子事件を下敷きにしているとすると、助六は役者であり、意休は弾左右衛門であり、友切丸は当時の役者が支配者である弾左右衛門から奪い返した「興行の自由」が仮託されていたと見るべきだろう。

これを今の芸能界に置き換えると、助六はタレントの労働組合の委員長であり、意休は「芸能界のドン」であるバーニングプロダクションの周防郁雄社長であり、友切丸は契約書で芸能事務所に奪われたタレントの「実演の権利」にあたる、と解釈することもできる。

◆「助六」と重なる俳優「小栗旬」の軌跡

では、助六というのは、どんな人物なのか。

まず、助六は喧嘩に強い。物語の中で、助六は本来は鎌倉時代の武士である曾我時致だが、侠客の姿に身をやつし、吉原に出入りし、客に喧嘩をふっかけて刀を抜かせ、友切丸を探している。意休が友切丸を持っていることに気づいた助六は、意休を斬り殺し、友切丸を取り返す。

そして、助六は女性にめっぽうモテる。物語には、揚巻(あげまき)という花魁がヒロインとして出てくるが、揚巻は言い寄ってくる意休を嫌い、助六に夢中だ。そして、居並ぶ遊女十数人が一斉に「吸いつけキセル」を助六に手渡し、それを意休がうらやましそうに見ているシーンが出てくる。助六は女性の憧れの的だ。

一方、俳優の労働組合結成を宣言した小栗旬も、助六と同じく、喧嘩に強くて、女性にもモテる。

『クローズZERO』(2007年公開)、『クローズZERO II』(2009年公開)で、小栗は凶悪な転校生の主人公、滝谷源治役で、激しい喧嘩シーンをガチンコで演じきった。また、私生活では山田優との結婚後も浮気スキャンダルが絶えない無類の女性好きでもある。まさに助六を彷彿とさせる俳優ではないか。

小栗は『宇宙兄弟』(2012年)で、主役の南波六太役を演じた。少年時代にUFOを見たことから宇宙にあこがれ、宇宙飛行士になるという夢を負う兄弟の物語だが、出演のきっかなったのは、もともと小栗が漫画誌で連載されていた『宇宙兄弟』が大のお気に入りで、プロデューサーに「絶対、『宇宙兄弟』をやりたい」と話したことだったという。

小栗自身、とてつもない夢を追いかける、純粋な人柄なのだろう。歴史上、誰もなしえなかったタレントの労働組合を実現できる、無二の俳優なのかもしれない。

(星野陽平)

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芸能界の「構造と力」を読み解く!
『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』

 

私は拙著『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』では、様々な資料を駆使して、あらゆる角度から日本の芸能界を検証しその問題点を浮き彫りにすることを目指した。

日本の芸能界の問題は、構造的なものであり、連綿と続く歴史的背景がある。では、どうすれば解決できるのか。私はそのモデルを求めて、世界屈指の市場規模を誇るアメリカのエンターテインメント産業の歴史と構造を調べた。

日本と比べ、アメリカのタレントが主体的にパフォーマンスに取り組め、報酬面でも権利面でも擁護されているのは、3つの柱がある。すなわち、①「タレントによる労働組合の結成」、②「反トラスト法(独占禁止法)による芸能資本の独占排除」、③「専門法によるエージェントの規制」だ。

歴史的経緯を調べると、まず、最初に出てきて、なおかつ重要度が高いのが①の「タレントによる労働組合の結成」だ。私は『芸能人はなぜ干されるのか?』を出版すれば、いずれタレントから労働組合結成の声が上がってくるはずだと思っていたが、遂にその時がやってきた。

8月に出版された『クイック・ジャパン115』(太田出版)で売れっ子の若手俳優、小栗旬が友人の俳優、鈴木亮平との対談で労組結成への思いを打ち明け、「ぼちぼち本格的にやるべきだなと思っています」と語っているのだ。

◆「巨大組織」に抗する覚悟はあるか?

労働組合の結成の目的は、優れた作品をつくり、俳優の労働条件を改善することが目的で小栗が旗振り役になるつもりだという。

小栗のその決意の背景にあるのは、芸能界の現状に対するいらだちだ。たとえば、「アメリカなんかは、メジャー作品にこの前まで無名だった俳優が、ある日突然主役に抜擢されることがあるのに、日本ではそういうことはほとんどないという現状がある。それを起こすためには、大前提としてスキルを持っていないとできないので、その力をみんなでつける場所を作りたいということですね」」として、自ら借金をして、俳優が自分たちを向上させるための稽古場を建てているという。

日本の芸能界では大手芸能事務所によるパワーゲームでキャスティングが決まる。その悪習を打破して、真の実力主義を導入すべきだというのである。

その先には、俳優による本格的な労働組合の結成という目標があるが、「みんなけっこう、いざとなると乗ってくれないんですよ」「ここのところはちょっとね、負け始めてます」と言っている。その理由は、「組織に。やっぱり組織ってとてつもなくでかいから、『自分は誰かに殺されるかもしれない』くらいの覚悟で戦わないと、日本の芸能界を変えるのは相当難しいっすね」と述べている。

小栗が言うところの「組織」とは、「芸能界のドン」と呼ばれる、バーニングプロダクションの周防郁雄社長を盟主として仰ぐ、業界団体、日本音楽事業者協会(音事協)のことだろう。

小栗が所属する芸能事務所は、トライストーン・エンタテイメント。あまり知名度はないが、音事協に加盟している。また、小栗の対談相手の鈴木亮平は、音事協加盟で老舗のホリプロに所属している。タレントの生殺与奪の権利を握る「組織」に所属し、多くのメジャー作品に出演している2人による労働組合構想はきわめてリスクが高い。

◆業界権力者の意向を恐れず、闘い続けた米国タレント労組の歴史

アメリカのエンターテインメント産業においてもタレントの労働組合の結成は難事業だった。

アメリカの演劇界では1913年に労働条件の改善を訴えて俳優が労働組合、アクターズ・エクイティ・アソシエーション(AEA)を結成したが、劇場マネージャーの連合体である劇場シンジケート側は、AEAの有力メンバーを買収し第2組合を設立させたり、AEAに加盟していない地方の俳優を使って公演をしたりして、AEAの活動を妨害した。

この動きに対抗するべく、AEAは日本の連合(日本労働組合連合会)にあたるアメリカ労働総同盟に加盟し、他のタレントの組合と連携して組織力を強め、大々的なストライキを実施し、チャリティ公演を行ない資金不足を補った。そうした努力を積み重ね、最終的に劇場シンジケート側は、白旗を揚げ、俳優たちの要求を飲んだ。

ハリウッドの映画俳優たちは1933年に「スクリーン・アクターズ・ギルド」という労働組合を立ち上げた。

ハリウッド・スターといえば、今でこそ莫大な報酬を得ることで知られるが、当時の労働環境は劣悪だった。当時のハリウッドは「スタジオ」と呼ばれるメジャー映画会社が牛耳り、俳優たちはスタジオの裁量で自動更新される長期契約を強いられ、朝8時から深夜まで及ぶ長時間労働を余儀なくされた。

SAGが設立された直接のきっかけは、映画会社による大幅な賃下げの実施だった。当初、SAG加盟社は少数だったが、プロデューサー同士が俳優の競争入札をしないという、日本の五社協定のような申し合わせが成立したことがきっかけとなり、SAGの加入者は3週間で80人から4000人まで膨れあがった。

1935年5月9日、数千人の俳優たちがハリウッドのリージョン・スタジアムに集まり、ストライキの実施を支持した。これ以降、SAGと映画会社が交渉し、映画界のルールを決める習慣が定着するようになった。

アメリカのタレントたちが業界の権力者の意向を恐れず、パフォーマンスに専念でき、なおかつ高収入を得られるのは、そうした努力の積み重ねによるものだ。

そして、ようやく日本の芸能界にも、団結して立ち上がることを主張する俳優が現れた。今、日本の芸能界は歴史的な曲がり角を迎えているのかもしれない。

(星野陽平)

《脱法芸能01》私が『芸能人はなぜ干されるのか?』を書いた理由

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9月3日、安倍晋三首相は内閣改造に踏み切った。話題となっているのは、女性の起用が目立つこと。女性閣僚の数は、過去最多の5人。党三役の政調会長を加えれば、6名が女性だ。

内閣改造後、支持率も上昇し、国民からの期待も高まっているが、思わぬ横やりが入った。

総務相に就任した高市早苗氏と自民党政務調査会長となった稲田朋美氏が、ネオナチを標榜する極右団体代表とともにツーショットで収まった写真がネット上で公開されていることが発覚し、国際問題となっているのだ。

写真が公開されていたのは、「国家社会主義日本労働者党」を名乗る右翼団体のウェブサイトで、高市総務相、稲田政調会長とともに写っているのは、同団体代表の山田一成氏。

この問題は、英紙ガーディアンなど海外の主要メディアが日本の右傾化と絡めて報じ、さらに世界的に有名なユダヤ系団体の「サイモン・ウィーゼンタール・センター」(本部・米ロサンゼルス)が「議員らは(同団体が掲げる)ネオナチの思想を明確に非難すべきだ」と声名をだすなど、世界中に波紋を呼んでいる。

なぜ、このような写真が撮影されたのか。

事情を知る関係者は、「写真が掲載されたのは、2年前のこと。これまでずっと掲載されていたのに、なぜ今ごろ問題になったのか」と首をかしげる。関係者が続ける。

「高市氏も稲田氏も山田氏の素性を知らないで写真を撮影したのでしょう。もともとこの写真は、オークラ出版が刊行していた『撃論』という保守系の雑誌の企画で山田氏がインタビュアーとして面談した際に撮影されたものです」

では、なぜ山田氏は写真を公開したのか。

「もともと山田氏は『撃論』の仕事をフリー編集者のI氏から受けていましたが、2011年に版元のオークラ出版が『撃論』を休刊にするという方針を出しました。仕事がなくなることを恐れたI氏は、山田氏に『オークラ出版の社長を脅して、休刊の決定を覆して下さい』と依頼。それを受けて、山田氏はオークラ出版の社長と交渉し、休刊を思いとどまるよう説得しました」

それが功を奏したのか、『撃論』の休刊は撤回されたという。

「ところが、I氏は義理のある山田氏を『撃論』から排除してしまったのです。山田氏は自分が切られたのは、『撃論』にの編集方針に影響力を持っていた筑波大学名誉教授の中川八洋氏がI氏を操っているためだと考えていたようです。ともかく、右翼としてのメンツを潰された格好の山田氏は、ただちにI氏を追い込もうと行動を開始し、I氏や『撃論』を中傷するネット記事を公開したり、新聞を作ったり、I氏が過去に関わった事件を問題にしてI氏の取引先に質問状を提出して、警察沙汰になったりしました」

その活動の一環として、山田氏は取材の際に撮影した高市議員、稲田議員の写真をネットに公開したのだという。

「極右活動家の自分とのツーショット写真が公開されたら、『撃論』を出版しているオークラ出版も困るだろう」というのが山田氏の考えのようだったが、写真は世間からは注目されず、山田氏の思惑は不発に終わった。

高市、稲田両議員がたまたま今回の内閣改造人事で出世したのを機に写真の存在が注目されるに至ったが、問題の写真には政治的な背景などないというのが結論だ。

2年前に話題にならなかった写真が今になって注目された理由には、これまでになかった本格的な保守政権である第2次安倍政権の誕生と在特会のようなネオナチを彷彿とさせる市民団体の跋扈していることも。バカバカしい話が発端の今回の騒動が国際ニュースとして大々的に採り上げられたのは、「日本の右傾化」が現実的なものとして語られるようになったことを示している。

(星野陽平)

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「骨肉の独立戦争」を所属するライジングプロダクションに仕掛けた安室奈美恵。過去、独立問題がこじれて、芸能界から姿を消したタレントは少なくない。では、安室は干されるのだろうか。

まず、契約の問題がある。報道によれば、安室とライジングプロは5年ごとに契約を更新しており、現在の契約が切れるのは2017年2月末。2年以上の残余期間を残して、契約を破棄することはできるのか。

結論を先に言えば、法的にはできる、ということになる。

労働基準法の規定によれば、1年を超える期間の雇用契約は申し出をすればいつでも退職できることになっている。安室とライジングプロが交わしている契約書は、事務所が安室に対し一方的に指示・命令することにより芸能活動をすることになっているから、法的には雇用契約であり、契約を結んでから1年が過ぎれば、安室の意志で解除できる。仮に訴訟沙汰になったとしても、安室の勝訴は間違いない。過去の判例でも、それは明らかだ。

◆NHKで進行する「バーニング排除」の動き

ただ、タレントの独立騒動で、法律の話はあまり意味がない。タレントの独立が成功するかどうかは、業界の力関係で決まるからだ。

安室が所属するライジングプロは、業界でも大手だ。では、安室は潰されてしまうのかというと、そうとも言い切れない。

まず、ライジングプロが大手と言っても、最大の稼ぎ頭は安室だ。安室が抜けてしまえば、経営の弱体化は否めない。

そんなときの保険として、多くの芸能事務所は「後ろ盾」と呼ばれる業界の実力者とのパイプを持っている。ライジングプロの場合は、以前から「芸能界のドン」と呼ばれるバーニングプロダクションの系列事務所だと指摘されてきた。ただ、バーニングプロとの関係はすでに切れているという噂もある。仮にまだ関係が深いとしても、芸能界におけるバーニングプロ自体の影響力低下を指摘する向きもある。

バーニングプロといえば、90年代末までは小室哲哉の楽曲の権利を支配していたことで巨額の利益を得てきたとされるが、そのビジネスモデルも崩壊してしまった。近年はNHKの幹部を接待漬けにして徹底的に食い込んで、『紅白歌合戦』や大河ドラマ、朝の連続テレビ小説などに支配下のタレントを大量に出演させ、ハクを付けさせ、それから民放に降ろして稼ぐという手法を採ってきた。

ところが、今年1月、NHK会長に就任した籾井勝人氏が幹部社員とバーニングとの癒着を問題視しているという。昨年末の『紅白』は、放送直前にバーニングの横やりでキャスティングが大幅に入れ替わったと言われているが、最近になって『紅白』を担当するエンタテインメント番組部長が長崎支局長に異動となった。

バーニングプロが台頭するまで芸能界を支配していた渡辺プロダクションは、70年代に入ってから日本テレビから排除されたことで、その地位を大きく低下させるということがあった。

日本テレビとの戦争のきっかけとなったのは、『紅白歌のベストテン』という番組だった。渡辺プロは、その裏番組に大量にタレントを出演させる予定になっており、『ベストテン』への出演を渋っていた。そこで、日本テレビのプロデューサー、井原高忠が渡辺プロ社長、渡辺晋に『ベストテン』へのタレント供給を頼み込んだところ、晋は「そんなにウチのタレントが欲しいんなら、『紅白歌のベストテン』の放送日を変えたら……」と言った。井原はこの発言に激怒し、局内のすべての番組で渡辺プロを締め出すことを宣言。それと同時にオーディション番組の『スター誕生!』で輩出したタレントを渡辺プロ以外の事務所に振り分け、芸能界の勢力図を大きく塗り替えた。

それと同じことが現在の芸能界でも起こるかもしれないのだ。仮にNHKからバーニングが排除され、威光に陰りが見えてくるとすると、芸能界はどうなるだろうか。

芸能界には、タレントの引き抜き禁止という掟がある。だが、個々のプロダクションの事情を考えた場合、有力タレントを他の事務所から引き抜けば儲かるのは確実だ。「芸能界の掟」をどの事務所も守っているのは、談合を主導するリーダーであるバーニングプロの影響力が強いからだ。そのバーニングプロの実力が低下してゆくと、談合破り、すなわちタレントの引き抜きが活発化する恐れがある。つまり、バーニングプロの凋落は、芸能界の液状化現象をもたらす可能性がある。

◆地上波テレビの時代が終われば芸能界の構造は変わる

また、業界の構造変化という事情も考慮しなければならない。従来、日本のエンターテインメント産業は、テレビに依存してきたが、この10年ほどインターネットがテレビの地位を脅かしてきた。

大量の視聴者を抱える地上波テレビ局は、数が少なく、芸能事務所にとってはコントロールしやすい。だが、参入障壁が低く、誰でも情報を発信できるネットはそうもゆかない。
2010年に東方神起から分裂してできた韓流アイドルグループ、JYJは、それまで所属していた日韓の芸能事務所からの妨害でテレビには出演できない。だが、ネットのプロモーションだけで、CDをリリースしたり、大規模なコンサートを行うには支障がなく、売上も大きいという。

安室も近年はほとんどテレビに出演せず、CDリリースとライブ公演を中心とした芸能活動をしている。仮に独立してテレビに出れないとしても、それほど大きな影響はないのだ。安室の独立騒動の黒幕とされる西茂弘は、長年、音楽プロモーターとして活動し、実績がある人物だ。思いつきで独立騒動を仕掛けてきたとは到底思えない。勝算があってのことではないだろうか。

(星野陽平)

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『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』

所属する芸能プロダクションに反旗を翻したタレントには、苛烈な報復が待ち受けている。

安室奈美恵独立騒動と少し遅れて江角マキコのスキャンダルが持ち上がったが、こちらも元所属事務所からの報復ではないかと囁かれている。

『週刊文春』(2014年9月4日号)の報じるところによると、2012年12月30日、新築同前の長嶋一茂邸の真っ白な壁が「バカ」「アホ」「バカ息子」などと赤いラッカースプレーで落書きされるという事件が起きたが、その犯人は大手芸能事務所、研音に勤務する江角のマネージャー、A氏だったという。

江角は娘が学校で長島一茂の子からイジメにあっていることに憤り、信頼しているマネージャーに一茂邸に「バカ息子」と書くよう依頼。実際に依頼が実行されると江角は、マネージャーに「スプレー代」として10万円を支払ったという。

落書きは器物損壊罪という犯罪であり、5年以下の懲役が下る。一茂邸への落書きを指示したという報道が事実とすれば、江角は重大な罪を問われることになるが、報道に対して堅く口を閉ざし、「女優生命の危機」という言葉も囁かれている。

◆スキャンダル暴露でタレントを潰す芸能事務所

では、なぜこのような騒動が持ち上がったのだろうか。

そのことを考える上で重要なのは、今年3月に江角は長年所属していた芸能事務所、研音を退社し、新たにインクワイヤーという個人事務所を立ち上げ、独立していたという事実だ。問題のマネージャーは、江角と一緒に後を追うことも考えたそうだが、結局、思いとどまって研音に残った。

研音は唐沢寿明や天海祐希などが所属する大手事務所。江角が研音を離れた理由の1つには天海祐希に対する江角のライバル心があるという説もあるが、研音にとって『ショムニ』などの代表作を持つ江角が抜ければ、その分、売上は落ちる。また、独立の動きが他の所属タレントにまで伝染する事態は何としても避けたいところだろう。

人は誰でも人に知られたくない弱みを持っている。特にイメージが売りのタレントにとって、スキャンダルの暴露は死活問題だ。日本の芸能事務所は、所属するタレントを公私ともに監視できる立場にあり、その気になればスキャンダルの暴露でタレントを潰すことは難しいことではない。

◆沢尻エリカ、セイン・カミュでも「法則」発動?

事務所からの独立を機にタレントがスキャンダルをぶつけられたケースは、これまでにも何度もあった。

2009年9月にスターダストプロモーションから契約を解除された女優の沢尻エリカは、2010年、当時、夫の高城剛とともにスペインに個人事務所を設立し、芸能活動の道を模索したが、あらゆるメディアから、バッシングされ、立ち往生を余儀なくされた。

沢尻がスターダストから契約解除された直後から、芸能界復帰の条件として高城との離婚が取り沙汰されていた。その理由は、「女性タレントや女優に、仕事に口を出すようなオトコがつくと面倒が起きるというのは定説」(『週刊ポスト』2009年10月30日号)だからだという。

後の報道で分かったことだが、沢尻は薬物検査で大麻の陽性反応が出たことがきっかけとなり、スターダストから契約を解除されたという。その情報は、スターダストからエイベックスに伝えられ、2010年4月中旬、スターダスト、エイベックス、バーニングの各プロダクション首脳による会談で、沢尻がエイベックスに移籍した上で芸能活動に復帰させ、利益の一部をスターダストにキックバックするという合意ができたという。

その後、沢尻は高城と離婚し、エイベックスに移籍し、芸能界復帰を許された。

2005年に事務所を移籍したセイン・カミュも、旧所属事務所から大麻スキャンダルをぶつけられ、大きくイメージを悪化させた。

セイン・カミュはギャラの配分をめぐる対立から14年間所属した事務所を辞め、友人らとともに芸能事務所を設立したが、旧事務所は「本来入るべき収入がなくなった」としてセインに1億円を求める訴訟を提起した。

一審で敗訴した旧所属事務所は、控訴し、その判決がでる直前の2007年12月、週刊誌でセインの大麻疑惑が報じられた。記事の内容は、セインがテレビデビューしたNHKの『やさしい英会話』で大麻使用疑惑が持ち上がり、番組を降板させられてというもの。控訴審判決でも敗訴が予想されていた旧所属事務所による意趣返しとして記事が出た可能性がある。

そうしたスキャンダルを正当化するわけではないが、事務所がタレントの私生活を監視し、スキャンダルを握って支配することは重大な人権侵害を生む危険性がある。

アメリカでは、タレントに仕事を斡旋するエージェントを取り締まる「タレント・エージェンシー法」があり、法律によってエージェントがマネジメントやレッスンなど雇用の斡旋目的以外の名目でサービスを提供し、対価を得ることが禁じられている。そのため、アメリカのタレントは個人でマネージャーを雇う。

日本の芸能界では、時々、マネージャーがタレントの弱みを握って金銭を要求する事件が起きるが、本来、タレントの私生活の秘密を知りうる立場にあるマネージャーは、よほど信頼出来る人物でなければ任せられるものではないのではないだろうか。

(星野陽平)

《脱法芸能01》私が『芸能人はなぜ干されるのか?』を書いた理由

《脱法芸能02》安室奈美恵「独立騒動」──なぜ、メディアは安室を叩くのか?

《脱法芸能03》安室奈美恵の「奴隷契約」発言は音事協「統一契約書」批判である

《脱法芸能04》安室「奴隷契約」問題が突きつける日米アーティストの印税格差

 

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前回の記事で述べたように独立騒動で揺れる安室奈美恵は、日本音楽事業者協会の統一契約書を「奴隷契約」と批判し、芸能界に波紋を投げかけた。

音事協の統一契約書は、1968年に出版された『タレント帝国』(竹中労著)で紹介されているが、著者の竹中は、肖像権(パブリシティ権)や出演を選択する権利などがタレントにではなく、所属する芸能事務所に帰属することになっていることについて、「これは、まことに恐るべき“奴隷契約”である。タレントはすべての自由を奪われ、義務だけを負わされている」と断じている。

沖縄県出身の安室は、デビューするまで沖縄アクターズスクールに所属していた。当初は女優を目指し芝居の稽古をしていたが、ビデオで観たジャネット・ジャクソンのパフォーマンスに感化されてから、歌とダンスに没頭するようになり、その後、歌手として頭角を現していったという。

では、安室に影響を与えたジャネット・ジャクソンは、どんな環境で芸能活動をしているのだろうか。ここでは、アメリカで活躍する歌手の活動の実態について解説したい。

◆日本の歌手の歌唱印税はCD売上の1%

日本の歌手がCDをリリースすることで得られる歌唱印税は、通常、CDの売上の1%と言われる。一方、アメリカの歌手の歌唱印税は最低でも10%だという。この違いは、どこから来るのか、アメリカの音楽業界事情に詳しい関係者は次のように語る。

「日本とアメリカでは、音楽ビジネスの仕組みが根本的に異なります。日本のアーティストは、契約上、実演の権利をすべて所属する事務所に譲渡する格好となりますが、アメリカはアーティストが権利を握っている。CDのつくりかたも、アメリカと日本ではまったく違います。アメリカでは、CDをつくる場合、アーティストが予算も確保します。
たとえば、アルバムを1枚つくるということになったら、アーティストは弁護士を雇って契約書をつくります。そして、アーティストはレコード会社から予算を与えられ、自分がプロデューサーとなって、ミュージシャンを雇って、スタジオも抑える。予算が1000万円で、制作費が500万円だったら、残りの500万円は、アーティストのものとなります。CD販売の利益が初期投資の費用を超えることをリクープと言うのですが、リクープしない場合は、アーティストに対する印税は発生しません。とはいえ、印税10%ですから、ヒットすると、アーティストに支払われる印税は巨額のものになります。
日本の場合は、すべてをプロダクションが行ないますから、アーティストの持ち出しはありませんが、報酬も低い水準となります」

日本においてはアーティストは、所属する芸能事務所の「所有物」であり、事務所の指示を受けて、芸能活動を行い、報酬も事務所が決める。それに異を唱えて、他の事務所に移籍したり、独立することは基本的にはできない。一方、アメリカのアーティストは、予算権も握って主体的に芸能活動に取り組み、報酬の配分も大きい。

◆米国芸能界「権利のための闘争」の歴史

日本と比べ、アメリカのアーティストの立場が強い大きな理由は、アーティストの労働組合が強いことがある。

たとえば、アメリカの演劇界で俳優の労働組合が設立されたのは、1913年のことだった。19世紀末のアメリカの演劇界は、「劇場シンジケート」と呼ばれる、全国各地の劇場マネージャーの連合体があり、業界に独占的な支配力を持ち、俳優の権利は抑圧されていた。

これに対抗するべく俳優たちは団結して労働組合を結成し、劇場側に要求項目を掲げて何度もストライキを行い、交渉を重ね、労働条件の改善を図ったのである。

映画界でも1933年に俳優たちによる労働組合、スクリーン・アクターズ・ギルド(SAG)が設立され、音楽界では1896年にアメリカ音楽家連盟が設立され、それぞれ大きな影響力を持つようになった。

アメリカのエンターテインメント産業の労働組合は、労働者全員の参加が前提の「ユニオン・ショップ」と呼ばれる仕組みであり、労働組合に入っていなければ、満足のゆく芸能活動はできない。そのため、タレントの労働組合は、組織率が高いため、強い交渉力があり、タレントに仕事を斡旋するタレント・エージェンシーの取り分は、タレントの稼ぎの10~20%だ。

また、アメリカのタレント・エージェンシーは、反トラスト法(独占禁止法)の規制で、制作業務を行なうことが禁じられている。日本の有力芸能事務所の多くは、タレントの斡旋だけでなく、番組などの制作業務も請け負っている。

特に有名なのは、お笑い業界ナンバーワンの吉本興業だろう。吉本は多数の人気芸人を擁し、さらに番組制作のほか、多数の劇場を所有し、業界を完全に牛耳っている。2001年から2010年までかつて『M-1グランプリ』という漫才コンテストをテレビ朝日系で放送されていたが、主催は吉本興業だった。当然、番組への吉本の影響力は強く、出演芸人の8割が吉本所属だったが、これに疑念を差し挟むことは許されなかった。

制作業務も兼ねていることで、吉本のお笑い業界支配力はダントツだ。吉本所属の芸人のギャラの安さは有名だが、吉本に逆らうことはできない。業界を支配する吉本に反旗を翻せば、干されるのは目に見えている。[つづく]

(星野陽平)

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所属するライジングプロダクションに安室奈美恵が突きつけた提案書とは、いかなるものなのか。

報道によれば、これまで安室とライジングプロとの専属契約は5年ごとに更新され、現在の契約は2017年2月末に終了することになっているという。

提案書では、これまでのライジングプロと安室の個人事務所、アフタービートが契約を結んでいたが、アフタービートを清算し、契約を解消し、5億円ある資産を退職金として安室に支払い、ステラ88とライジングの関連会社であるヴィジョンファクトリーが改めて契約し直す。そして、ライジングが保有する安室に関するすべての商標権や原盤権の一部をステラ88に譲渡し、印税の配分や報酬の割合を引き上げるよう求めている。

これにライジングが難色を示すと、安室は「これでは奴隷契約よ!」と言い放ったという。

どういうことなのか。

◆脱税で実刑判決を受けたライジング平社長の思惑

現在の安室の個人事務所、アフタービートの代表取締役は、安室ということになっているが、ライジングプロの平哲夫社長が株式を100%保有している。安室の主張する通り、アフタービートを清算すれば、資産はすべて平のものとなってしまう。個人事務所といいながら、安室には何の権利もなく、最初からライジングプロに囲い込まれているのだ。平社長は提案書を受け取った翌月に安室をアフタービート取締役から解任した。

また、契約先をライジングからヴィジョンファクトリーに変更するという安室の意向には、多くの有力芸能プロダクションが加盟する日本音楽事業者協会(音事協)の統一契約書の問題が絡んでいるようだ。

ライジングプロは音事協に加盟しており、タレントとの契約については音事協の統一契約書を採用しているが、ヴィジョンファクトリーは、音事協非加盟で、ライジングプロ所属タレントのブッキングを専門に行なう会社であり、所属タレントはいない。ライジングプロからヴィジョンファクトリーへの移籍は、音事協の統一契約書の枠から外れたいという安室サイトの意向があるようだ。

なお、ライジングとヴィジョンファクトリーが分離している背景には、平社長の過去が関係しているのかもしれない。

平社長は2001年に発覚した脱税事件で2年あまりの実刑判決を受けている。芸能プロダクションが行う有料職業紹介事業は、職業安定法の規定で、禁錮以上の刑に処せられた者に対して、その執行を終わってから、5年間、厚生大臣の許可が下りない。

この問題を回避するため、平が代表を務めるライジングプロではなく別の者が代表を務めるヴィジョンファクトリーがタレント斡旋業を表向き行なっているという形にしたかったのではないか。

◆タレントに事務所「奴隷」化を強いる音事協の「統一契約書」とは?

さて、安室とライジングプロが交わしている音事協の統一契約書とはいかなるものなのだろうか。

かなり古い話になるが、芸能ジャーナリストの竹中労が1968年に敢行した『タレント帝国』の中でこれを明かしている。芸能界の仕組みは、当時も今もまったく変わらない。契約内容もほぼ同じだと考えられる。以下、重要だと思われる部分を抜粋する。

第一条 乙(タレント)は甲(プロダクション)の専属芸術家として本契約期間中、甲の指示に従い、音楽演奏会、映画、演劇、ラジオ、テレビ、レコード等、その他一切の芸能に起案する出演業務をなすものとし、甲の承諾を得ずしてこれをなすことができない。

第三条 甲は甲乙共通の利益を目的とする広告宣伝のため乙の芸名、写真、肖像、筆跡、経歴等を自由に使用することが出来る。

第四条 本契約期間中に於て乙のなした一切の出演に関する権利は総て甲が保有するものとする。

これらの条項によれば、タレントは一切の出演業務について、専属契約を結んだプロダクションから指示を受けなければならず、自分の意志でこれを行なうことはできず、肖像権などもプロダクションに帰属するものとされる。タレントは、まさに事務所の「奴隷」なのである。

さらに、重要なのは次の条項だ。

第十条 本契約書に基づいて甲乙両者間に係争が生じた場合は、日本音楽事業者協会がその調停に当るものとし、甲乙両者は協調の精神を以て話合いに応ずべきことを誓約する。

「奴隷契約」に疑問をもってタレントが独立しようとして、事務所との間に紛争が生じると、音事協が調停役として出てくることが契約に書かれているのである。

だが、音事協は裁判所ではない。プロダクションの利益を代表する団体であって、タレント側に立った判断をしてくれるわけではない。

実際、過去にはタレントの独立トラブルで音事協が介入したケースがあった。

1986年に歌手の小林幸子が所属する第一プロダクションが独立しようとしたとき、第一プロは音事協仲裁を申し入れた。その結果、小林は第一プロに2億円を払うことで独立を許してもらうということになった。だが、そのような手切れ金を支払う法的な義務はない。業界から干されたくなければ、カネを積め、ということなのだ。

そして、今、その音事協が安室の「奴隷契約」発言を問題視し始めたという。安室が「奴隷契約」と批判したのは、音事協の統一契約書であり、「奴隷契約」を所属タレントに強いている音事協の体質に対する批判に繋がる。それは芸能界全体を敵に回すことを意味する。

(星野陽平)

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8月に入ってから『週刊文春』『女性セブン』『サンデー毎日』の3誌がこぞって安室奈美恵の独立騒動を報じている。

安室は、1992年に芸能事務所、ライジングプロダクション(以下、ライジング)と専属契約を結び、ダンスグループ・スーパーモンキーズのセンターボーカルとしてレコードデビュー。その後、ソロ歌手として頭角を現し、今年はデビューから22年目にあたるが、6月にリリースしたベストアルバム「Ballada」が40万枚以上を売り上げるなど安定した人気を誇っている。

報道によれば、安室は今年5月、ライジング幹部らの前で「独立をしたい」と切り出し、後日、「提案書」を持参して、契約条件の変更を迫ったという。提案をライジング側が拒絶すると、安室は「これでは奴隷契約よ!」と言い放ったという。

◆西茂弘氏は本当に黒幕か?

各週刊誌が独立を主張する安室の背後にいるとしているのが、西茂弘氏という人物だ。

西氏は、安室を始め、多くの大物アーティストのコンサートの運営を手掛けるオン・ザ・ラインという会社の代表で、ここ数年の安室は事務所のスタッフの言うことには耳を貸さない一方、西氏の言うことであれば素直に聞いていたという。

この西氏は、X JAPANのボーカルTOSHIを長年の間、洗脳してきたとされる企画会社、ホーム・オブ・ハートの代表、MASAYA氏と学生時代に親しく、一緒にイベントの企画をしていたという。

安室は昨年も安室は信頼するスタッフを引き連れ、移籍を画策したが、説得され、不発に終わっていたという。安室とライジングとの確執は根深いようで、安室は「アーティストとしてのこだわりが理解されない」と不満を募らせているという。

タレントの独立劇が簡単に収束することはない。今後も、様々な動きが出てくるだろう。ここからは、この独立騒動を過去の事例から読み解いてゆきたい。

◆事務所側の尻馬に乗るメディア

まず、安室独立騒動を報じる各週刊誌の論調について。 報道をざっとまとめると、共通するのは、安室が恩義のある「育ての親」に弓を引いたのは、安室の下カネ目当ての悪い男に「洗脳」されてしまったからだ、という図式だ。

情報の出所は、もちろん、安室に独立されると、経営的に大打撃を受けるライジング側であり、記事にはライジング側の意向が色濃く反映されている。

ライジングは、安室だけでなく、荻野目洋子やMAX、w-indsなどの歌手や、観月ありさ、国仲涼子などの俳優が多く所属する有力事務所であり、メディアに対して強い影響力を持っている。

有力芸能プロダクションのほとんどが加盟する日本音楽事業者協会(音事協)は、「タレントの引き抜き禁止」というカルテルを結んでおり、基本的にタレントは移籍ができない仕組みになっている。そこで、タレントが所属事務所から離れたいと考えた場合、独立をするしかない。ところが、タレントが独立を画策すると、メディアが事務所側の尻馬に乗って叩く。今では恒例行事のようになった感もある図式だが、かつてはそのようなことはなかった。

◆五社協定反対の急先鋒だった毎日新聞

今の音事協のカルテルの原型は、1953年に映画界で結ばれた五社協定だが、五社協定ができた当初、メディアは盛んに映画界を批判していた。

今、盛んに安室の独立を批判している『サンデー毎日』を発行する毎日新聞社は、かつて五社協定反対の急先鋒にいた。

『毎日新聞』は、五社協定の動きをいち早くスクープし、成立直前には「マスコミ帝王」との異名を持つ評論家の大宅壮一が紙面に登場し、「今や映画界がカルテルの方向で一歩前進したものと見よい。もちろん、これではせっかく高められてきた日本映画の質的向上を阻止し、さらに交代させるばかりでなく、明らかに人権ジューリンで、新憲法に反するものとである」と主張していた。

また、1963年に「日本一の美女」と呼ばれた大物女優、山本富士子が所属していた大映から独立して、映画界から干されたときも、多くのマスコミが厳しくこれを糾弾していた。

◆「芸能界相愛図事件」と音事協

だが、次第にメディアは芸能プロダクションなどの芸能資本に対して及び腰になっていった。それを決定づけたのは、1971年に起きた「芸能界相愛図事件」だ。

当時の『週刊ポスト』が「凄い芸能界相愛図」と題して、イニシャル表記ながら有名芸能人同士の乱れた下半身事情を作詞家のなかにし礼の告発という形で掲載したところ、なかにしが「取材に応じなければ私生活を書く」と脅されたとして、強要罪で刑事告訴し、記者2人が逮捕されてしまった。

背景には、問題の記事はあまりに多くのタレントの裏事情が記載されたことで、業界としてなかにし排除で足並みが揃ったという事情があった。

事態を重く見た音事協がなかにしに事情聴取し、さらに、なかにしが所属する渡辺プロダクションがなかにしへの仕事の注文を中断。プレッシャーに耐えきれなくなった、なかにしは記者の告訴に踏み切ったのだった。

音事協は『週刊ポスト』を発行する小学館に厳重抗議し、加盟社に対して小学館が発行するすべての出版物の取材を拒否するよう呼びかけた。大手メディア企業は、これをやられると潰れてしまう。

小学館は音事協に完全降伏し、『週刊ポスト』と新聞各紙に謝罪広告を出した。そうした事件が何度も積み重なることで、メディアには「芸能プロダクションタブー」が定着していったのである。[つづく]

(星野陽平)

 

業界水面下で話題沸騰6刷目!

『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』

 

今年5月、筆者は『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』という書籍を鹿砦社から上梓した。

本書は次々と版を重ね、現在、6刷。パブリシティのため、ニュースサイト筆者のインタビュー記事を3本、配信してもらったところ、それぞれYahoo!ニュースの雑誌総合ランキングで1位を獲得。アマゾンの販売ページに掲載された8本のレビューは、すべて星5つというという高評価をいただいた。

◆きっかけの「北野誠謹慎事件」

そもそも、筆者が本書の着想を得たのは、2009年に起きた北野誠謹慎事件だった。

北野誠は毒舌が売りのお笑いタレントだったが、関西のABCラジオで放送されていた『誠のサイキック青年団』での発言が問題となり、突如として番組が終了。北野自身も無期限謹慎状態に追い込まれ、北野が所属する松竹芸能と番組を放送していたABCラジオを運営する朝日放送が責任を取るかたちで有力芸能プロダクションのほとんどが加盟する業界団体,日本音楽事業者協会(音事協)を退会した。

業界では「芸能界のドン」と言われ、音事協も牛耳っているとされる、バーニングプロダクションの周防郁雄社長の悪口を北野が言ったのが原因ではないかと囁かれていた。

当時、筆者はある雑誌の編集部からの依頼でこの事件の取材をしていたが、ある週刊誌記者から「音事協では加盟する芸能プロダクション間でのタレントの引き抜きを禁じている」という話を聞いた。芸能プロダクションは、人気タレントを独占的に抱え込むことで利益を得ている。ところが、商品であるタレントが勝手に移籍すると,過当競争が始まり,芸能プロダクションのビジネスモデルが崩壊してしまう。そこで、音事協ではタレントの引き抜きを禁止じ、さらに独立を阻止することで一致団結し、共存共栄を図っているという。

◆「五社協定」「音事協」というカルテル組織

この仕組みは、映画界でかつて存在した「五社協定」を原型としている。映画界では戦後しばらくの間、「俳優ブローカー」と呼ばれた業者が俳優に映画の仕事を斡旋し、出演料を高騰させていた。

また、日活が戦時下で中断していた映画製作を再開すると発表し、日活による俳優や監督などの引き抜きを恐れたメジャー映画会社5社(松竹、東宝、大映、新東宝、東映)が各社専属の俳優の引き抜きを禁じる協定を1953年に結んだ。

その後、五社協定はフリーを宣言するなど、映画会社に反旗を翻した俳優を業界から締め出す性格を強めていったが、次第に違法性が明らかとなっていった。

1957年には、新東宝に所属していた前田通子という女優が勧告の演出を拒否したことで会社をクビになり、五社協定に基づき映画界からも排除されるという事件があったが、翌年、前田が東京法務局人権擁護部に訴えたところ、人権侵害が認定された。

また、1957年には独立プロダクションの独立映画株式会社が製作した『異母兄弟』という作品に東映に所属していた南原伸二という俳優が会社に無断で出演したことが五社協定に違反するとして、松竹が一部の映画館での上映を中止する事件が起きた。

独立映画側は五社協定が独占禁止法に違反するとして公正取引委員会に申告した。1963年、公取委は映画会社各社が五社協定に基づき『異母兄弟』の配給しないようにした事実について、独占禁止法違反の疑いがあると認定した。

五社協定は、1971年の大映倒産をもって自然消滅したと見られるが、作品の質の低下を招き、映画界の凋落を早めたと指摘されている。

1963年に設立された音事協は、その五社協定をモデルとして設立されたカルテル組織だった。音事協が発行した音事協加盟プロダクション社長のインタビュー集『エンターテイメントを創る人たち 社長、出番です。』の中で第一プロダクション社長、岸部清は音事協の設立について「そもそも、タレントの独立問題が背景にあって、ちょうど映画の五社協定に似た形で、親睦団体を名目に創設したわけです」と述べている。

現在の音事協も五社協定と同じようにタレントの引き抜きを禁じ、独立などで芸能プロダクションに反旗を翻すタレントを干すという仕組みを踏襲している。「芸能界は根本的に違法なのではないか?」というのが本書の核心部分である。

◆小泉今日子発言の波紋

「何を今さら」と思う人もいるかもしれない。だが、芸能界は今、変革の時期に差し掛かっているのではないか、と筆者は考えている。特に最近、業界関係者から芸能プロダクションに対する批判が相次いでいるのだ。

本書刊行の1ヶ月ほど前にバーニングプロダクション所属の女優、小泉今日子が「私みたいな事務所に入っている人間が言うのもなんだけど、日本の芸能界ってキャスティングとかが“政治的”だから広がらないものがありますよね。でも、この芸能界の悪しき因習もそろそろ崩壊するだろうという予感がします」(『アエラ』4月21日号)と発言し、話題を集めた。

また、フジテレビ出身で、2013年にフリーに転身した長谷川豊氏も、最近、古巣のフジテレビの視聴率低迷は、フジテレビ幹部と「大手芸能事務所」との癒着で番組のキャスティングが歪められていることが原因と指摘し、ネットで注目を集めた。

そこに来て、本書の出版と前後して、女性アーティストの安室奈美恵が所属するライジングプロダクションに対して独立を主張し始め、多くのマスコミが注目する騒動となっている。[つづく]

(星野陽平)

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