新人の登竜門、DUELは今回も2部制で開催! 堀田春樹

第2部メインイベントは7戦目の佐々木勝海と対戦の、ちさとkissMeはこの日、最も戦歴が長い35戦目だったが、佐々木勝海が的確さで優った判定勝利。

第1部メインイベントの喜多村美紀も手数で圧し切り、練習の成果を見せた判定勝利。関西でのテツジムで鍛えた力を発揮し、更に王座を目指す。

◎DUEL.25 / 10月16日(日)GENスポーツパレス 18:00~20:23
主催:VALLELY / 認定:NJKF
(※以下の戦歴はこの日を含む数値です)

《第2部》 19:15~20:23

◆第4試合 63.0kg契約3回戦

NJKFスーパーライト級6位.佐々木勝海(エス/62.8kg)7戦6勝1敗(1KO)
        VS
ちさとkiss Me(安曇野キックの会/ 62.95kg)35戦6勝26敗3分(2KO)
勝者:佐々木勝海 / 判定3-0
主審:多賀谷敏朗
副審:井川30-29. 君塚30-28. 中山30-28

佐々木勝海は積極的なパンチとハイキック、ヒザ蹴りで優勢を保ったが、接近戦に持ち込むちさとのしぶとさ発揮の動きを止めるには至らず攻め難さも感じられた。ヒジ打ちが当たればもっと効果的に優勢を保ったりTKOに繋げたであろう、やや勿体無い展開であった。

カウンターのヒジ打ち狙った佐々木勝海、ヒットせず
ちさとの前進にカウンターでのヒザ蹴りは効果的だった佐々木勝海
ラウンドガールの未来さんに導かれてカメラ側へ

◆第3試合 56.8kg契約3回戦

島人祖根(キング/ 56.65kg)3戦2勝(1KO)1敗
        VS
松長晴基(G-1 team TAKAGI/ 56.75kg)2戦2敗
勝者:島人祖根 / TKO 2R 0:16 / カウント中のレフェリーストップ
主審:竹村光一

島人祖根が第1ラウンド終了20秒前辺りで右ストレート気味にノックダウンを奪い、第2ラウンド早々も右ストレートでノックダウンを奪うと、ダメージ深い松長晴基をレフェリーがほぼノーカウント止める結末となった。

島人祖根の強く的確なヒットが目立った右ストレート

◆第2試合 60.2kg契約3回戦

Ryu(クローバー/ 59.95kg)2戦2勝(1KO)
        VS
須貝孔喜(VALLELY/ 60.0kg)1戦1敗
勝者:Ryu / 判定2-0 (29-29. 30-28. 30-27)

サウスポーで追うRyu、左右の大振りフックが何度かヒット。これが攻勢を維持し、デビュー戦の須貝孔喜も下がりつつも勢い有る返しの蹴りで反撃するもRyuの圧力を止められず、Ryuの判定勝利。

Ryuの大振りながら左右フックが何度もヒット

◆第1試合 65.0kg契約3回戦

今野龍汰(笹羅/ 64.55kg)2戦1敗1分
        VS
上杉恭平(VALLELY/ 64.9kg)1戦1分
引分け1-0 (28-28. 29-28. 28-28)

第1ラウンド早々に左フックでノックダウンを奪った今野龍汰だが、デビュー戦の上杉が徐々に盛り返した流れの引分け。打ち合いで上杉が攻勢も、終盤には今野のパンチもヒットする勝負を捨てない両者の意地が見られた。

《第1部》 18:00~19:05

◆第5試合 女子キック(ミネルヴァ)ライトフライ級3回戦(2分制)

ミネルヴァ・ライトフライ級4位.喜多村美紀(テツ/48.75kg)27戦12勝11敗4分
        VS
同級8位.紗耶香(格闘技スタジオBLOOM/48.75kg)8戦3勝5敗
勝者:喜多村美紀 / 判定3-0
主審:井川恵
副審:竹村30-29. 中山30-28. 君塚30-28

互いのパンチと蹴りの衰えぬ攻防の中、喜多村美紀は不用意に紗耶香のパンチを貰う場面が見られるも、逆に圧力を掛けて出て打ち返すヒットが優った判定勝利。

ジワジワと圧力掛けて出る喜多村美紀が徐々に紗耶香を下がらせた

◆第4試合 女子キック(ミネルヴァ)ピン級3回戦(2分制)

ミネルヴァ・ピン級2位.撫子(GRABS/44.55kg)8戦5勝(1KO)2敗1分
        VS
ねこ太(とらの子レスリングクラブ/45.1kg)7戦2勝5敗
勝者:撫子 / TKO 1R 1:38           

偶然のバッティングで負傷した、ねこ太は試合続行不可能と成り、ドクターの勧告を受入れレフェリーストップ。負傷裁定は採用されないルールの為、撫子のTKO勝利となった。

毎度アグレッシブな展開が定評の撫子も今回は不完全燃焼

◆第3試合 女子キック(ミネルヴァ)ピン級3回戦(2分制)

ミネルヴァ・ピン級6位.斎藤千種(白山/ 45.36kg)5戦2勝(1KO)3敗
        VS
世莉JSK(治政館/ 45.15kg)5戦2勝3敗
勝者:世莉JSK / 反則 2R 0:17

斎藤千種の左ストレート貰って世莉がバランス崩した感じでマットにヒザ着いたところへ斎藤の顔面ヒザ蹴りが入るも、流れの中の範疇とみなされ、ダメージ深く脳震盪でフラつく世莉JSKは試合続行不可能。当初、斎藤千種のTKO勝利が宣言されたが、後日、斎藤千種の反則打と変更。世莉JSKの反則勝ちとなった。

斎藤千種が反則打となってしまったヒザ蹴りの瞬間

◆第2試合 女子キック(ミネルヴァ)54.0kg契約3回戦(2分制)

ミネルヴァ・スーパーバンタム級8位.和乃(新興ムエタイ/ 53.25kg)13戦2勝11敗
        VS
同級9位.MARIA(PCK大崎/TeamRing/ 54.3kg)4戦4勝
勝者:MARIA / 判定0-3 (28-30. 27-30. 28-30)

和乃は長身を活かせない展開で、距離を詰めるMARIAのパンチを貰ってしまう。接近戦ではやや和乃のヒザ蹴りが有効ながら、MARIAが終始攻めて出たパンチと蹴りで内容的には大差と言える判定勝利。

◆第1試合 女子キック(ミネルヴァ)45.0kg契約3回戦(2分制)

AIKO(AX/ 44.9kg)9戦2勝6敗1分
    VS
莉都(矢場町BASE/ 44.7kg)3戦3敗
勝者:AIKO / 判定3-0 (30-27. 30-26. 30-26)

第2ラウンドにAIKOがパンチ連打でノックダウンを奪い、攻勢を維持して判定勝利。

主導権奪ったAIKOの攻勢が続いた中でのハイキック

《取材戦記》

女子第3試合の斎藤千種vs世莉JSK戦は当初、斎藤千種のTKO勝利という発表でしたが、20日に訂正があった模様(21日午前にリリース発表有り)。協議の結果、倒れた相手へのヒザ蹴りが反則打と変更された様子で、斎藤千種の反則打により失格負け。世莉JSKの反則勝ちとなりました。

私も試合その場では「反則打では?」と頭を過りました。レフェリーという最高権限者が「流れの中」と判断したならそれも正しい範疇でしょう。でもその場でノックダウンとしてカウントするか、レフェリーストップすべきでもあったでしょうし、迷ったなら中断して審議も必要だったでしょう。とにかくやや審議に時間が掛かっても、極力迅速にリング上で正式裁定を下すべきと思います。

王座挑戦をアピールする喜多村美紀

ガルーダ・テツ会長は、岡山で開設したテツジムから2013年に大阪進出した際のテツジムにも付いてきた喜多村美紀を指導してきた経緯を振り返り、「最高ですね。巣立ってくれてると。大阪での川久保一生代表の指導の下、しっかり頑張ってくれている。いい指導受けて更に良くなったと思います。」と語った。

喜多村美紀はテツジムの今年2月の東京進出までは仕事の事情で付いて来れなかったが、現在は大阪でチャンピオン目指し頑張っているという。そして「チャンピオンの真美選手とは1勝1敗で、1位の佐藤“魔王”応紀選手とは過去に勝っているので、次はもっと面白い試合するので、挑戦権を頂ければと思います。」と語った。実現すれば2度目の王座挑戦となります。

佐々木勝海はリング上で「ちょっとしょっぱい試合してしまって情けないんですけど、精進しますので応援に来てくださると嬉しいです。」とマイクで語り、そのしょっぱい試合とは「相手はジワジワ来る感じだったので、蹴りが当たり難かったです。僕の詰め不足が反省点です。ヒジ有り試合は2回目だったので、当たっても切れる感触が無かったので練習が足りなかったかと思います。」とリングを下りてから語ってくれた。

佐々木はエスジムのイケメンファイターと言われる新鋭からランキング上位進出してきたチャンピオン候補。ヒジ打ちを学べる環境にあるジムで、この日のちさと戦でもっと効果的にヒジ打ちを出せそうな距離感があったので、今後の試合で見せて欲しいところです。

前回も書いていますが、NJKF 2022.4thは11月13日(日)後楽園ホールで開催されます。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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タイムキーパーは目立たぬも重要な任務 堀田春樹

◆裏方の一角

過去、「音色で奏でるゴングの魅力」編で少々タイムキーパーに触れていますが、今回この任務について、目立たぬ部分を語りたいと思います。

昭和の名タイムキーパー、語り草となっている荒木栄氏(1991年頃撮影)

試合進行に関わる各担当者は、それぞれの苦労が多い任務を担っています。リングアナウンサー、レフェリー、タイムキーパー等は稀にミスをしても、直ちに訂正して進行させることは立派な役割を果たしていると言えます。マズいのは間違いに気付かず進行すること。しかしその気付かない間違いが、観衆には気付かれている場合も多々あり、また観戦者が知らないルールの意味も多々あるようです。

◆試合進行の重要な役割

タイムキーパーの任務は時間計測及びレフェリー指示による中断での時間の一時停止。ノックアウトタイムの記録。ノックダウンの際、レフェリーに伝える正確なカウント。キックボクシング団体や興行によっては採点集計と公式記録の作成などがあります。

試合はレフェリーがドクターチェックを要請する場合など一時中断を指示しない限り、第1ラウンド開始からノックアウト時、または最終ラウンド終了まで、1ラウンド基本3分、インターバル基本1分をストップウォッチの秒針を刻みながら延々続けます。

プロボクシング(JBC)では通常、タイムキーパーは2名で行ない、二つのストップウォッチを同時にスタートさせ、ゴング係とノックダウンカウント係に分かれています。

レフェリーがノックダウンコールすると、タイムキーパーによるカウントが始まります。これはレフェリーがノックダウンを奪った選手をニュートラルコーナーへ誘導する等、タイムラグが生じる為、ノックダウンとなってから正確な経過秒数をレフェリーに伝えるフォローの役目を果たします。

ノックアウトタイムはカウントアウトやレフェリーストップとなる瞬間

「カウントはレフェリー主導」とされるのはムエタイが主でしょう。日本でも「何でタイムキーパーがカウントするんだ? レフェリーがカウントするもんだろ!」という意見も聞かれますが、タイムキーパーのカウントは、ノックダウンに至るダメージを負ってから何秒経過したかが重要で、ノックダウンを奪った選手がすぐにニュートラルコーナーに行かないとカウントを進めず、ダウンした相手に回復のチャンスを与えてしまうという概念ではなく、ダメージによる10秒境界線を曖昧にしないという視点です。

ノックダウンからの正確な秒数経過が解っていれば、レフェリーが、ニュートラルコーナーに行かない選手の誘導に時間が掛かっても、最終的には「レフェリー判断による」という最高権限者の判断に移りますが、この「基本1秒毎のカウントでの10秒ライン」を把握することが出来ます。

タイでのレフェリー講習会にて、見えぬ姿のタイムキーパーも任務の中

1990年2月11日、東京ドームで行われた世界ヘビー級タイトルマッチ、マイク・タイソンvsジェームズ・バスター・ダグラス戦は第8ラウンドまでに優勢だったダグラスが、タイソンの右アッパーに崩れ落ちた際のロングカウントが物議を醸しました。「10秒超えていただろ!」と言われたように、カウントはレフェリー主導でいいとしても、最初のカウントからの正確な経過をしっかりレフェリーに伝わっていないと「基本10秒」から、どれだけ大きくズレているか、レフェリー自体が把握出来ないことになるでしょう。ダメージ深い失神状態ならノーカウントのレフェリーストップとなるでしょうが、意識はあるが効いてしまって直ぐには立てない場合、最初のカウントの始まりが遅くて、基本10秒時点でカウントがまだ5(ファイブ)だったら、そこから逆転のノックダウンが起こった場合に、その相手にはしっかり10秒でテンカウントに至っていたら、ダグラス戦の物議を醸したような事態が起こるでしょう。

キックボクシング等では観衆に伝える為のカウントになっていて、レフェリーの後に続いてカウントしている姿をよく見かけますが、本来はこのようなパフォーマンスではありません。タイムキーパーよりレフェリー側のお話になりましたが、タイムキーパーが関わる重要な部分でもあるのです。

昭和の後楽園ホール、電光掲示板はラウンド表示のみ(他に電光ランプあり)
現在の後楽園ホールの電光時計、プロレスでも使用されたことあります
ルンピニースタジアムでのゴング(鐘)と計測器らしき物。ベルもあり

◆過去の汚点

昔、プロボクシングでタイムキーパーにあった汚点は、1988年(昭和63年)6月5日のWBC世界戦、井岡弘樹vsナパ・キャットワンチャイ初戦で、最終12ラウンドの、井岡弘樹がパンチを喰らって劣勢になったところで終了ゴングが鳴り、20秒ほど早かった事態がありました。あれは物議を醸した汚点で、悪い前例が出来た為に、後にタイでも別の世界戦でやり返されました。

過去のキックボクシングに於いては、ストップウォッチの準備が足りず腕時計で計測したり、後楽園ホール等の設備が整った会場では、バルコニー辺りのボクシング試合用電光時計を頼りにしていた興行もあり、試合開始したものの操作し忘れたまま1分も経った頃にタイムを動かしだした試合があったようです。すでにノックダウンを奪われた圧倒的劣勢選手が、「残り時間2分50秒」辺りの電光時計を見て唖然としている表情があったと言われるも修正しようがなく、そのまま進行した様子。過去にはタイムはしっかりストップウォッチで計測しているものの電光時計を操作せず開始し、「オイ、時間止まってるぞ!」と観衆から野次られる光景もありましたが、計測は問題無いものの、誤解が起きないよう電光時計も正確に作動させた方がいいでしょう。

◆責任重大な任務

以前、触れた件でのマッチメイカーをやりたい人も、欠員が出ることは少なく滅多に募集もされませんが、機会があればこんな裏方仕事から体験していった方がいいでしょう。JBCではタイムキーパーを経験してからレフェリーに移っている様子も窺え、各任務を体験していることがスムーズな連携プレーに繋がるようです。

「時間ぐらい俺でも計れる」と思う人は多いでしょうが、簡単そうでも責任重大な任務です。

確かに誰でも簡単に小学生でも計れます。しかし、雑談せず延々と集中力を持って、アクシデントにもパニックにならず毅然と続けることは難しいことでしょう。

もし計測をミスしてラウンドを延ばしてしまった上にノックアウトが起こったら、選手の運命、人生を変えてしまう恐れもあり、各ジム陣営から恐ろしいほどの恫喝を受けるでしょう。

このようにタイムキーパーはレフェリーが試合を成立させる裏方となる存在ながら、正確な計測で試合を進行させる為の重要な任務です。

論点ズレした部分はありますが、裏方の存在の一つを紹介させて頂きました。

試合開始を告げるゴングを打ち鳴らす足立聖一氏(2022年3月13日)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年11月号

NJKF勢、山浦俊一と波賀宙也らが他団体からの刺客を迎え撃つ! 堀田春樹

5月21日にKO負けでS-1世界王座を逃がした山浦俊一は、戦いのスタイルを変え、多彩に攻めて勝利を掴み、再び世界挑戦を目指す。

波賀宙也も6月5日にIBFムエタイ世界王座を失ってからの再起、王座奪還へ向けた勝利。

嵐(キング)の物議を醸した騒動とは、計量失格ともう一つ。

真美が苦しい展開を制し、王座初防衛。

◎NJKF 2022.3rd / 9月25日(日)後楽園ホール17:30~21:04
主催:ニュージャパンキックボクシング連盟 / 認定:NJKF

◆第12試合 59.0kg契約3回戦

山浦俊一(新興ムエタイ/ 58.95kg)vs一仁(真樹AICHI/ 58.9kg) 
勝者:山浦俊一 / 判定2-0
主審:竹村光一
副審:少白竜29-29. 多賀谷30-29. 中山30-29

山浦俊一はWBCムエタイ日本スーパーフェザー級チャンピオン
一仁はMA日本フェザー級チャンピオン、J-NETWORKフェザー級チャンピオンなどの経歴有り

山浦は試合前、主催者側インタビューで「今回から倒せる選手になりたいと思って、一気にスタイルをチェンジしました。自分の中ではファイトスタイルを変えて上手くいってると思います。」と語る。

1ラウンドに山浦は組み合ってからの崩しで、3回ほど一仁を引っくり返したが、「三日月蹴りをボディーに喰らってちょっと効いてしまった」という山浦は、第2ラウンドから圧力を掛けて出ていく。ボディーを狙われないようミドルキックを使い、一仁の積極的な出方に応じて多彩に攻め、隙を突いたパンチや蹴りを入れていく。

一仁も打ち合いに持ち込み、蹴りでも下がらぬ展開を見せて、山浦は幾らか被弾はするが、打ち負けない展開。ポイント的には僅差だが山浦俊一が積極的展開で順当な判定勝利を掴む。5月にS-1世界王座を逃したが、再度チャンスを狙って、S-1を含め、WBCムエタイやIBFムエタイなど、「挑めるなら全て狙っていきたい」と語った。

山浦俊一が戦うスタイルを変えて多彩に攻める中、重いハイキックを放つ

◆第11試合 スーパーバンタム級3回戦

波賀宙也(前・IBFムエタイ世界Jrフェザー級C/立川KBA/ 55.33kg)
      VS
片島聡志(元・WPMF世界スーパーフライ級C/Kick Life/ 55.3kg) 
勝者:波賀宙也 / 判定3-0
主審:宮本和俊
副審:竹村30-29. 多賀谷30-28. 中山29-28

波賀宙也は「何試合か挟んで来年もう一発IBFムエタイ世界再挑戦が実現するなら王座を奪って行ったペットーン・ギャッソンリットにリベンジしたい。」と言う。

片島聡志は8月21日のビンラー・ストライフ(タイ)戦で判定負け。そこから1ヶ月あまりで出場。「自分は完全なムエタイスタイルではないですが、こちらの方が伸び伸びできるのでムエタイスタイルで臨みたいです。前回の試合で自分のスタイルに迷ってるなというところがあったので、今回は振り切って原点に戻ろうと思います。」と言う。

2019年12月に獲得したWPMF世界スーパーフライ級王座は翌年、石井一成に奪われたが、片島も再び世界を狙う立場でもある。

波賀宙也は左ミドルキックやハイキックでリズムを掴んで蹴り中心に前進。片島聡志も波賀を下がらせる場面もありながら攻勢を維持出来ず。両者、好戦的ムエタイを意識した攻防が続き、波賀の攻勢がやや目立った順当な判定勝利。

波賀宙也も片島聡志も元・世界の称号を持つ者同士。負けられない戦いの両者
片島聡志と波賀宙也、試合終了時の取り敢えずは勝利確信のポーズ

◆第10試合 当初「51.0kg契約3回戦」の変更カード

NJKFフライ級2位.嵐(キング/ 53.1→53.0kg/2.0kgオーバー)
      VS
コンバンノー・エスジム(タイ/54.9kg)
勝者:嵐 / KO 2R 2:14
主審:少白竜

嵐と対戦予定だった老沼隆斗(STRUGGLE)は、前日計量を51.0kgで1回でパスも、嵐は2キロオーバーでの計量失格。条件を付ける協議はされるも、嵐はここから更に明日に向けての減量は無理と判断し試合は中止。しかしその嵐が中止決定後にタイのコンバンノー選手と試合が発表された。

嵐は前日の脱水状態でフラフラの状態から立ち直ったフットワーク軽い動きを見せ、パンチと蹴りを多彩に繰り出し、タイミングを見計らって右ストレートでノックダウンを奪った後、すぐのタオル投入によるノックアウト勝利。

◆第9試合 女子キック(ミネルヴァ)ライトフライ級タイトルマッチ 3回戦

チャンピオン.真美(Team lmmortaL/48.95kg)
      VS
同級1位.佐藤”魔王”応紀(PCK連闘会/48.55kg)
勝者:真美 / 判定2-0
主審:主審:中山宏美
副審:竹村29-29. 少白竜29-28. 宮本29-28

好戦的に打ち合う両者。真美は調子が上がらなかったか、打ち合ってもパワーの無い展開もヒザ蹴りと終盤の打ち合いで優った勢いで辛うじて判定勝利で初防衛。

終盤にようやく猛攻掛けた真美。際どくも、ここで勝利を導いた
「情けない試合をしてしまった」と反省を述べる真美。まずは初防衛に成功

◆第8試合 54.0kg契約3回戦

NJKFバンタム級チャンピオン.志賀将大(エス/ 53.7kg)
      VS
同級3位.誓(ZERO/ 54.0kg)
引分け 三者三様
主審:多賀谷敏朗
副審:中山28-30. 少白竜30-29. 宮本29-29

首相撲からの崩しは誓が優勢な流れ。蹴り合いの攻防は互角ながら誓の方が落ち着いた表情。志賀は将大はやや圧されてロープ際に下がるシーンも見られる誓の圧力があった。志賀もチャンピンとして意地でも下がらず蹴って出た展開もあって引分け。誓はバンタム級での王座奪取へ前進と言える内容。

前フライ級チャンピオンと現・バンタム級チャンピオンの戦いは互角に

◆第7試合 女子キック(ミネルヴァ)52.17kg契約3回戦(2分制)

NA☆NA(エス/ 52.95→52.85kg/680gオーバー)協議による減点1、グローブハンデ有
      VS
AYA(BLA-FREY/ 51.4kg)
勝者:NANA / 判定3-0
主審:竹村光一
副審:多賀谷29-28. 少白竜29-27. 中山29-28

NANAはミネルヴァ・スーパーフライ級チャンピオン(6月5日獲得)
AYAは同級6位

NANAはウェイトオーバーだったが、ハンディーを付け試合は成立。ウェイト差が影響したかは厳密には分からないが、パワーとテクニックで圧し切る展開で大差判定勝利も、申し訳なさが過ったか、涙を流す勝者コール。

AYAとNANAの打ち合い。攻勢を維持したのはウェイトオーバーのNANA

◆第6試合 スーパーライト級3回戦

吉田凛汰朗(VERTEX/ 63.5kg)vs宗方888(キング/ 63.5kg)
勝者:吉田凛太朗 / 判定3-0 (30-28. 30-28. 30-28)

前半は吉田凛太朗がパンチの攻勢で圧倒しながらも宗方のしぶとさで倒すに至らず。

吉田凛太朗が宗方を連打で攻めるも攻めきれず

◆第5試合 58.25kg契約3回戦

龍旺(Bombo Freely/ 57.9kg)vs木下竜輔(伊原/ 58.15kg)
勝者:龍旺 / 判定3-0 (30-28. 30-28. 30-28)

龍旺が徐々にローキックで木下竜輔の脚にダメージを与え、木下の強打、右ストレートは空振りし逆転成らず、龍旺が判定勝利。

新日本キックから乗り込んだ木下竜輔にローキックで圧倒した龍旺

◆第4試合 59.0kg契約3回戦

コウキ・バーテックス(VERTEX/ 58.95kg)vs細川裕人(VALLELY/ 58.95kg)
勝者:コウキ・バーテックス / 判定3-0 (30-29. 30-29. 30-28)

◆第3試合 スーパーフェザー級3回戦

史門(東京町田金子/ 58.96kg)vs匠(キング/ 58.45kg)
勝者:史門 / 判定3-0 (29-28. 29-27. 29-28)

◆第2試合 フライ級3回戦

悠(VALLELY/ 50.7kg)vs愁斗(Bombo Freely/ 50.6kg) 
引分け 三者三様 (29-30. 29-29. 29-28)

◆第1試合 アマチュア50.0kg契約2回戦(90秒制)当日計量

堀田優月(闘神塾)vs鈴木咲耶(さくら格闘技クラブ)
引分け 0-1 (19-19. 19-20. 19-19)

「次はもっと完封出来るように頑張ります」マイクで語る山浦俊一

《取材戦記》

メインイベントに進むにつれ閑散としていく場内。応援団中心の観衆の表れ。それでも山浦俊一と波賀宙也は世界に向け存在感をアピール。

一仁は愛知県から出場。今回は新幹線が遅れたり不便もあったが、地方でもタイ人トレーナーが常在する真樹ジムAICHIで経験を積んでいる。地方のジムが強くなっている一つである。

片島聡志はWPMF世界スーパーフライ級王座獲得した経験もある50戦を超えるベテラン域に達した。いろいろな戦い方を経験も、ムエタイスタイルが性に合っている様子で、「スロースターターなので5回戦制も戦い易い」と言う。好戦的ファイトは今後もNJKFで観たい選手である。

嵐の2.0kgオーバーは、身体の成長でフライ級を維持出来ないほど苦しい減量だったという。6月5日に吏亜夢(ZERO)にノックダウン奪って判定勝利してNJKFフライ級王座挑戦権を獲得している嵐は、11月13日にチャンピオン優心(京都野口)に挑戦予定だが、開催は難しいところだろう。

今回の前日午前11時の計量で、53.1kgの目盛りを指した後、2時間の猶予内で契約ウェイトの51.0kgを目指し、ミット打ちと蹴りを続けていた。減量によるフラフラで軽く打つ程度だが、汗をかく為、延々続いていた。まずここに来て2kgは簡単に落ちるものではないと想定出来たが、やはり100グラムしか落ちず、連盟役員と両陣営で中止回避の為の協議が成され、明日の午前10時に再計量の決定。契約の51.0kgまで落とすか、現状の53.0kgを超えないことの条件があったが、この時間から更に飲食できない状態が続くこと自体無理があっただろう。無理せず試合は中止と決定。ここまでは止むを得ない状況であった。

ところが驚いたのが、計量失格した嵐がタイのコンバンノーと試合することが発表されたこと。興行側の苦しい事情あってのことだが、第三者から見れば不可解な決定と揶揄されている。エスジムのトレーナー、コンバンノーは依頼を受けて調整無しでも、ピンチヒッターとしての役割を果たした出場だった。

今回の件、参考にプロボクシング(JBCルール)から倣えば有り得ない事態が多過ぎるが、プロモーター主体の団体では、興行ありきの決定になってしまうのが問題点多きキックボクシング界なのである。

NJKF本興行、2022.4thは11月13日(日)、後楽園ホールで開催されます。DUELは10月16日(日)、GEN SPORTS PALACE。NJKF 2022 west 5th拳之会興行は10月30日(日)、岡山市岡山コンベンションセンターで開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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肘膝蹴拳! 原点へのCHALLENGER! 堀田春樹

ヒジ打ち有り、5回戦制への原点回帰へ、プロモーター武田幸三の挑戦!

モトヤスックが豪快な左フックでWMOインターナショナル王座獲得。

馬渡亮太はヒジ打ちの相打ち、ダブルノックダウンとなる衝撃のKO勝利。

麗也JSKはノックダウン喫する勿体無い失点。盛り返すも3回戦では時間が足りない惜しい引分け。

「肘ありって決めてました!」というポスターまで登場した藤原乃愛の存在感。ミドルキックで豪快なTKO勝利。

睦雅はNJKFチャンピオンに攻める圧力で優って判定勝利。ジャパンキック協会の主要メンバーの一角として大きく前進。

フィニッシュではないが、モトヤスックが左フックでけん制するKOへの布石

◎CHALLENGER.6 / 9月18日(日)後楽園ホール17:30~21:08
主催:Yashioジム / 認定:ジャパンキックボクシング協会(JKA)

◆第9試合 WMOインターナショナル・スーパーウェルター級王座決定戦 5回戦

モトヤスック(=岡本基康/治政館/2001.9.27埼玉県出身/69.7kg)
      vs
ダーンチョン・R・ヨーンムエタイ(タイ/68.7kg)
勝者:モトヤスック / TKO 2R 1:19
主審:ノッパデーソン・チューワタナ
副審:椎名利一、シンカーオ、アラビアン長谷川
立会人:ナタポン・ナクシン

モトヤスックは前・JKAウェルター級チャンピオン
ダーンチョンは元・タイ国ブリラム地区フェザー級チャンピオン

初回の蹴り合いは距離とタイミングを計る探り合い。ダーンチョンもスピードとしなやかさある蹴りを返してくる。

第2ラウンドには距離を詰めて出るモトヤスックがローキックとボディーブロー、顔面狙うパンチを試した後、接近戦で左フックを決めてダーンチョンをブッ倒し、カウント中にレフェリーが試合ストップ。本日のMVP賞を獲得。ダーンチョンは担架で運ばれる完全失神TKOであった。

モトヤスックが距離とタイミングを計って出るローキック
勝利を掴んだ瞬間、応援団の方向へ猛ダッシュするモトヤスック
失神したままというKO後も珍しい。ダーンチョンは担架で退場
ヒジ打ちの相打ちした直後、ダメージ深かったのはガン・エスジムの方

◆第8試合 58kg契約 5回戦

馬渡亮太(治政館 / 2000.1.19 埼玉県出身/58.0kg)vs ガン・エスジム(タイ/57.75kg)
勝者:馬渡亮太 / KO 3R 1:25
主審:少白竜

馬渡亮太はWMOインターナショナル・スーパーバンタム級チャンピオン
ガン・エスジムは元・タイ国ラジャダムナン系フェザー級7位

序盤は馬渡亮太のローキックがやや効いた感じがあったガン・エスジムだったが、第2ラウンドには馬渡が的確な蹴りでやや優勢に立ち、飛びヒザ蹴りでノックダウンを奪った。

ここからガン・エスジムが巻き返しにヒジ打ちで馬渡の額と頭上部をカットし、ドクターチェックを受ける馬渡。

第3ラウンドには接近戦でのヒジ打ちが増えると、両者のヒジ打ちの相打ちでダブルノックダウンとなった壮絶な幕切れ。

馬渡はマットに膝を突く程度の崩れですぐに立ち上がったが、ノックダウンを奪ったという表情も、すぐダブルノックダウンと理解し、ファイティングポーズに構えた。

レフェリーが認め、倒れたままのガンエスジムにカウントを続け、背中から受け身をとれずに倒れるほどダメージあったままテンカウントアウトされ、馬渡のノックアウト勝利となった。

ダウンシーンではないが、飛びヒザ蹴りも二度見せた馬渡亮太
馬渡亮太が勝利を確信も、レフェリーは馬渡にもカウント中

◆第7試合 53.5kg契約3回戦

麗也JSK(=高松麗也/治政館/1995.10.2埼玉県出身/53.5kg)
      vs
平松弥(岡山/岡山県出身/53.5kg)
引分け 0-1
主審:松田利彦
副審:和田28-28. 椎名28-28. 少白竜28-29

麗也JSKは元・ISKAインターコンチネンタル・フライ級チャンピオン
平松弥はジャパンキック・イノベーション・フライ級チャンピオン

第1ラウンド、静かな蹴りの立ち上がりからパンチの距離で平松弥の左ストレートでノックダウンを喫した麗也。軽いヒットですぐ立ち上がるが、大きな失点。徐々に盛り返す麗也は圧力があり、平松に余裕が無くなっていく。第3ラウンドには麗也がパンチ中心に前進を強め、平松も必死に打ち合って凌いで終了、麗也が第2~3ラウンドを奪ったと見られる採点は、一度のノックダウンでも喫すれば勝利を掴むことが難しくなる3回戦制の短さがあった。

麗也が攻勢を続けたパンチの圧力。巻き返すには至らなかった惜しいドロー
藤原乃愛のハイキックが軽やかに高く鋭くガードの上からでもヒット

◆第6試合 女子45.5kg契約3回戦

藤原乃愛(ROCK ON/45.2kg)vs ヌアファー・ソー・ソンタム(タイ/44.9kg)
勝者:藤原乃愛 / TKO 3R 1:10
主審:椎名利一

藤原乃愛は女子(ミネルヴァ)ピン級チャンピオン
ヌアファーは元・タイ国イサーン地区ピン級チャンピオン

しなやかさとスピードある藤原乃愛の蹴りもより強くなった。スアファーもタイ人らしい、しなやかさを持った蹴りで返してくるが、的確差で主導権を奪った藤原乃愛。第2ラウンドにロープ際に追い込んでパンチ連打でスタンディングダウンを奪うと更に前進を強め、第3ラウンドには左ミドルキックでフアファーのボディーにヒットすると、ヌアファーは呻き声を上げて苦しそうに倒れ込み、レフェリーがほぼノーカウントで試合を止める悶絶のTKOとなった。

◆第5試合 61.5kg契約3回戦

NJKFライト級チャンピオン.岩橋伸太郎(エス/ 61.1kg)
      vs
JKAライト級1位.睦雅(ビクトリー/ 61.15kg)
勝者:睦雅 / 判定0-3
主審:少白竜
副審:和田27-30. 松田28-30. 椎名28-30

序盤の両者はローキックからパンチ中心の攻防。ここから睦雅がパンチで主導権を奪い、微差ながら徐々に優っていく。岩橋伸太郎も応戦しアグレッシブな展開を見せるが、睦雅を下がらせるに至らず、睦雅が主導権を維持したまま判定勝利。NJKF同級チャンピオンを圧力で優ったことは今後のタイトル戦にもアピールできたことだろう。

◆第4試合 女子56.0kg契約3回戦

浅井春香(KICK BOX/ 56.0kg)vs 北川柚(京都野口/ 55.5kg)
勝者:浅井春香 / 判定2-0
主審:椎名利一
副審:和田30-28. 松田30-28. 少白竜29-29

浅井春香は女子(ミネルヴァ)スーパーバンタム級チャンピオン
北川柚は同級4位

組み合っての攻防で浅井春香が僅差ながら勝利を導く。

◆第3試合 フェザー級3回戦

JKAフェザー級3位.皆川裕哉(KICK BOX/ 57.0kg)
      vs
JKAバンタム級2位.義由亜JSK(治政館/ 56.8kg)
勝者:義由亜JSK / 判定0-2
主審:松田利彦
副審:和田28-29. 椎名28-29. 少白竜29-29

7月に対戦し引分け、この再戦を制したのは義由亜。前回と似た羅枯れで、やや攻勢を維持した義由亜に第3ラウンド終盤にパンチで猛攻掛けた皆川裕哉、今回は1~2ラウンドの失点が響いた流れで、義由亜が辛うじて勝利を拾う。

◆第2試合 ジャパンキック協会ウェルター級王座決定トーナメント3回戦

2位.ダイチ(誠真/ 66.3kg)vs 山内ユウ(ROCK ON/ 66.2kg)
勝者:ダイチ / 判定3-0
主審:和田良覚
副審:松田30-27. 椎名30-28. 少白竜30-27

来年1月の新春CHALLENGER興行に於いて正哉vs ダイチで王座決定戦。ダイチは「同門でも倒します」と宣言。

◆第1試合 ジャパンキック協会ウェルター級王座決定トーナメント3回戦

3位.正哉(誠真/ 66.0kg)vs 鈴木凱斗(KICK BOX/ 66.5kg)
勝者:正哉 / TKO 2R 1:00 / カウント中のレフェリーストップ
主審:和田良覚

《取材戦記》

モトヤスックはWMOインターナショナル王座獲得より、「ヒジ打ち有り5回戦」へ原点回帰目指す興行の看板を背負った戦いがより大きなインパクトを与えた。
そのモトヤスックは「ヒジ打ち有り、首相撲有りの5ラウンド(制)最強を証明していく」と言い、馬渡亮太は、「ヒジ有りルール、面白くないですか?ヒジ有りじゃないとダメだよ」という二人のマイクアピール。二人とも武田幸三氏と世代は違うが、キックボクシングの神髄思想は同じであろう。この日出場した選手全員が“ヒジ打ち有り”に共感している様子がありました。

前日計量では武田幸三氏が選手の前で、「現状、皆さん御存知のとおり、“ヒジ打ち有り”が圧され気味になっています。ここで、プロモーター含め、代表含め、ジャパンキック協会で大会を盛り上げていこうと必死に頑張っています。選手皆さんの力が最大限発揮される試合の力が頼りになりますので、明日の凄い試合を期待しています。宜しくお願いします!」と熱のこもった御挨拶がありました。

「ヒジ打ち有り、5回戦」は推進派としてよく聞くフレーズだが、今一番熱く訴えるのは武田幸三氏だろう。

武田幸三氏は興行終了後、「モトヤスック、馬渡亮太、麗也の三人とも、自覚をもって、ヒジ有り、首相撲有り、それが最強だと謡ってくれているのは頼もしくて嬉しい。みんな少しずつレベル上がってきているので、自分でハードル上げて行くべきだし、お客様の目も肥えて来るし、自分達の戦いを世界最強という、これが一番なんだという目標があれば、また更に一つ上に挑むことを臨んでくるでしょう。更なる上位を考えれば合格点とは言えないが、今日の興行は盛り上がって良かった。親心としては大満足です。皆、本当に頑張ってくれた。全員MVPです。でも次なる我々としての課題、THE MATCHとかムエタイとか、あの立場に辿り着くにはどうしたらいいか。 THE MATCH=東京ドーム満員。こっちは後楽園ホールも満員にならない。何をすべきかが僕の課題でもある。それが本来のキックボクシングに戻す。それ僕がやりますから!」と簡潔コメントでは終わらない、武田氏の熱い語り口でした。

毎度、選手に檄を飛ばすのも、選手の戦い、プロモーターの戦い、競技としての確立、最高峰への道へ一つ一つの課題克服に繋がる一歩があるからでしょう。

K-1を観て育った世代が30年続いた中で、世間一般には浸透してしまった「ヒジ打ち無し、3回戦」から新しい令和時代に、元祖キックボクシングの戦いを浸透させることが出来るかが、武田幸三氏のCHALLENGEであろう。これ本当に注目で、「今後に期待したい」とは毎度の纏め文句でなく、私(堀田)も心から願うところです。

モトヤスックが本日のMVP賞。親心としてプロモーターとして、顔は怖いが武田幸三氏も大満足

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

ラジャダムナンスタジアムも女子試合を解禁と新企画 ラジャダムナンワールドシリーズ開催! 堀田春樹

◆ムエタイに異変

1941年にタイ国に於いていちばん最初に創設されたボクシング競技場となるラジャダムナンスタジアム。当初は露天の試合場であったこの歴史ある殿堂スタジアムの創設以来、長年に渡り伝統仕来りを貫いてきた過去から大きな変革が発表されました。

昨年9月18日のルンピニースタジアムに続いて、ラジャダムナンスタジアムも女子選手出場を解禁。当初の予定では7月22日興行での女子選手の試合が予定されました。8月5日に延期情報はありましたが解禁は実施。

ルンピニースタジアムとラジャダムナンスタジアムの二大殿堂だけは伝統をしっかり守って欲しかったという意見は多いですが、時代の流れとはブレーキが利かず、過去の歴史を覆してまで行なう改革なのかは疑問ながらも仕方無いことなのでしょう。

ラジャダムナンスタジアム。ここに来るだけで歴史と伝統、権威を感じる外観

◆新企画、ラジャダムナンワールドシリーズ開催

そんな伝統を崩す女子解禁に対し、7月初旬に画期的なラジャダムナンワールドシリーズ(RWS)を開催することを発表したラジャダムナンスタジアムは、女子フライ級に於いてタイ人選手4名、外国人選手4名の計8名でのトーナメント方式での王座決定戦を発表。ここからが女子試合解禁となるスタートでした。

7月9日に祈祷師を招いて、女子解禁へ改革するお祈りをしたといわれる

男子に於いても4階級で開催予定。当初はスーパーウェルター級(ムエタイはプロボクシングと同様のリミット)で開催発表の後、フェザー級、ライト級、ウェルター級で開催発表がありました。いずれも女子トーナメントと同じ8名参加トーナメントになります。準決勝まで3回戦で、ややシステムの変更有る特別ルール。7月22日から10月にかけて行われます。

現在のタイでは日本と同じくテレビ局が急激に増えた多チャンネル化で、コンテンツとしてスポーツ番組が必要とされる中、ムエタイ中継は特に視聴率が良く、暫くはこんな時代が続くと思われます。

このイベントの背景にはテレビ番組制作会社の後押しがあってのこと。伝統のスタジアムとして、世界から挑んでくるような最高峰の威厳をもたらしていければ権威向上と言えるでしょうが、これがワールドチャンピオンシップとして歴史を刻んでいくのか、どんな予選選抜を勝ち抜いてトーナメントに加わって来るのか、メンバー数合わせの都合のいい面子になるのか、一部のスポンサーやテレビ局、プロモーターの策略で一時の盛り上がりでブームが去って廃れるかは暫く様子を見ないと分かりませんが、価値ある争奪戦となるよう期待したいところです。

女子フライ級トーナメント対戦カードの発表
ラジャダムナンワールドシリーズチャンピオンベルトも公開

◆群衆から作り上げられた権威

「もうルンピニースタジアムなど、観衆減少を食い止める対策の一つとしてラウンドガールをリングに上げて、女人禁制もお構いなし。ラジャダムナンスタジアムもディスコさながら、サーチライトぐるぐる回したり、女子のディスクジョッキー起用したり、ずいぶん変わってしまった殿堂スタジアムです」という日本人観戦者の感想。

かつて世界最高峰と言われた二大殿堂は、すでに神聖なるリングでは無くなった様子。スーパースター級の名選手の出現が聞かれないのも久しい現実です。

1970年代から90年代まではムエタイマニアが聞けば納得の名チャンピオン、ランカーが揃っていたものでした。タイトルマッチも頻繁に行われ、二大殿堂を目指して来る、地方で力を付けて来た選手を起用する大物プロモーターの存在、集まって来るギャンブラー等観衆が押し寄せ、これらの群衆が権威を高めて来たと言えるでしょう。現在の低迷はコロナ禍で興行が中止されてきた期間が長かった影響が一番大きいものの、それ以前からタイの経済発展がハングリー精神を無くしてきた時代の流れがあったのも事実でしょう。

TAKUYA(今村卓也)がチャンピオンとして上がったラジャダムナンスタジアムのリング

◆世界最高峰の威厳、RWSに懸けたい将来性

スタジアムが演出で派手になることは致し方ないとして、スーパースター級出現の期待、世界からこの世界最高峰を目指してくる慣習を守ることは、今なら権威を保てるギリギリのライン。ただ、タイ国に於いて歴史ある伝統建設物を保とうという意識は薄く、価値ある建造物を解体して高層タワーマンションを建てることに反対運動も少なく、新しいものに絶賛する人種であることが懸念されるという現地在住の切実なる日本人ビジネスマンの意見。

壊してしまってからいずれ気付くであろう、失ったものは戻ってこない、もう戻せない現実。これまで最高峰と位置付け、称賛されてきた二大殿堂がコツコツと積み上げて来た権威と実績も一瞬で壊すこと可能な脆いものであることも事実。ムエタイだけはそうならないことを祈りたいものです。

コツコツと実績を積み重ねていけるか、ラジャダムナンワールドシリーズはテレビ局、スポンサー主導のイベント中心であることは否めないところ、企画だけ考えれば画期的チャンピオンシップであることは推奨したいものです。

ラジャダムナンスタジアム。激闘の歴史が漂う館内

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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ムエタイの基本技、首相撲の極意 堀田春樹

◆観る側の退屈さ

過去に取り上げたムエタイ技がテーマのヒジ打ちに続く首相撲版となります。

この首相撲はキックボクシングやムエタイでの接近戦で、相手の首を掴み、ヒザ蹴り等に繋げる流れの中で、掴み技としての呼称となっています。

ムエタイ用語で首相撲をムエプラム(MuayPram)と言います。発音は“モエパン”に近く、「組み付く」という意味で、ムエプラムは一般的にレスリングの意味に取られてしまうこともあり、会話の趣旨で判断することになります。

そのムエタイの首相撲をテレビで観たことある人はなかなか退屈な攻防に映ったでしょう。クリンチに見える状態では多少のヒザ蹴り攻防があってもノックアウトには繋がり難く、これが5ラウンド終了まで続けば、観る側にとって早送りしたくなる状態です。

そんな視聴者を飽きさせない展開を造ったのが1990年代前半から始まった3回戦制と首相撲回避のK-1でしょう。

福田海斗がトゥカターペットに首相撲からのヒザ蹴りを浴びせる(2016年7月29日)

◆首相撲の極意

キックボクシング本来は、至近距離からのパンチと蹴りに加え、密着戦ではヒザ蹴りやヒジ打ちが加わる展開で、採点基準を除けば見た目には分かり易い競技です。

しかし、ムエタイでの首相撲は重要なテクニックであることは、この競技に関わる者は周知の事実でしょう。

一般人から退屈と見えるこのクリンチ状態の首相撲の攻防は、ただ抱き合っている訳でも休んでいる訳でもなく、首を掴んで下へ捻じ伏せ、ボディーや顔面にヒザ蹴りを入れる。またはそうさせない為の首の取り合いの地味な攻防が続き、首の取れないガップリ四つ相撲状態でも自分は楽に、相手には苦しい体勢へ体重を掛け合い、ヒザ蹴りの攻防や、隙あらばヒジ打ちを叩き込み、相手を転ばせば優位に立つ。または転ばされないように気を抜かない。簡単に言えばこんな展開が繰り広げられています。

パンチの打ち合いや蹴り合いは実力拮抗した同士では簡単には差が付かないもので、首相撲は立ち技競技の寝技的攻防からヒザ蹴り、ヒジ打ち、体勢を崩させ転ばし等の練習をしっかりやっている選手とやっていない選手とでは、劣勢な側は疲労しスタミナを失い、為す術が無くなってしまうような差が出ます。

また相手の首を掴みに行くより組み合って来る相手の腕を払い、相手に組ませない体勢、距離感を保つテクニックもあります。

[左]90年代の名選手、ナンポン・ノーンキーパフユットの首相撲の練習風景(1990年)/[右]グルーグチャイはヒザ蹴り得意で首相撲練習もみっちり長かった(1992年)
鈴木翔也vs健太の組み合った攻防(2021年9月19日)

◆対応策

ある国内チャンピオン経験者は「タイ選手との首相撲は敵わないので、組み合っても動きが止まればブレイクが掛かるので、レフェリーをチラッと見てブレイクを待ったりしましたね。組まれて対抗するとスタミナ消耗するので、何とか離れてパンチで勝負するしかなくなります」という首相撲逃れの手の内でしょう。

またあるムエタイ修行経験者はトレーナーから「首を掴まれたら頭突きを入れろ!」とか「頭突きを入れてから、相手の身体を押してヒジ打ち!」といった戦略を指導されたりもしたようです。

頭突きそのものは反則ながら、相手に引き込まれることの偶然を装って頭突きを入れる。そこは見極めが難しかったり、攻防の流れの中としてレフェリーが黙認する場合もあるという。グローブの内側にワセリン縫っておいて首相撲に来たら相手の目にグローブ内側押し付けてゴシゴシ嫌がらせする話も聞いたことありますが、あくまでもセコいテクニックの例です。

タイでは「首相撲練習は最低30分はやる」というジムは多いでしょう。実際、試合が近い選手には練習相手数人が入れ代わり立ち代わり組み付いて休ませない展開が見られます。現在、ラジャダムナン系バンタム級ランカーのヨーティン・F・Aグループは首相撲が強いと評判で、ガッチリ掴まえられたら外しようが無く、そのまま終了までキツイ状態が続くと言われます。

ムエタイをよく衛星中継観戦する関係者の意見では、「日本人同士では組み方にあまりレパートリーがなく同じ形一辺倒になりがちです。タイでは首相撲の組み方はとても多彩で、接近戦においても距離が変わり、そこにヒザ蹴りも多様な角度で入ってくるので、日本が追いつけないほど高度ではあることは確かです」と言い、その肥えた目線では、日本人選手の中で首相撲が上手いのは、タイでの活躍多い福田海斗で、首相撲を含めた接近戦からのヒジ打ちヒザ蹴りは見応えがあり、タイのギャンブラーからも評価が高いと言われます。

目をグローブで押さえヒジ打ちといった、えげつない展開もあり(2021年9月19日)

◆理解されない壁

日本では新世代のジュニアキック世代が急成長し、福田海斗をはじめ、吉成名高、奥脇竜哉がムエタイ殿堂王座を制覇するほど強く上手くなった時代ですが、結局は「こんな地味で退屈な首相撲」という観方が払拭されない限り、首相撲の攻防だけで盛り上がることなく、今後も日本での爆発的にムエタイ人気が上がることは考え難いところ、「パンチを打たず蹴らず、くっ付き合っている首相撲とは何が繰り広げられているのか」が少しでも理解されれば幸いなところです。

現在、タイでもイベント系ムエタイが流行りだし、3回戦制で首相撲になってもブレイクも早いようで、首相撲テクニックが重要視されるのは、やはり通常のスタジアムでの5回戦ムエタイで、いずれは原点回帰していくことでしょう。

経験豊富な選手から見れば突っ込みどころ満載の記事ではありますが、首相撲の展開について解説させて頂きました。

一航の首相撲を振り解こうとする馬渡亮太(2021年8月22日)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

いざ出陣、背中を押す入場曲の力! 堀田春樹

◆スターの証明

元ドラマー・北沢勝の現役時代はラテン系「エルマタドール」(2002年1月27日)

先日、井上尚弥のノニト・ドネア戦で、布袋寅泰氏が生演奏した「バトル・ウィズアウト・オナー・オア・ヒューマニティー」の曲に乗ってリングに入場していました。

リングアナウンサーは知名度抜群のジミー・レノン・ジュニア氏でしたが、さすがにビッグイベントに相応しい面子と楽曲。これだけで痺れたファンも多いでしょう。

通常のプロボクシングやキックボクシングにおいて、メインイベンタークラスでは、

「両選手、リングに入場です。初めに青コーナー側より……○○選手の入場です!」

入場曲が流れ、「これからあの選手が入場するんだ!」とファンをワクワクさせるのはプロとして大切なパフォーマンス。

「3回戦(新人戦)の頃、5回戦(ランカークラス)に上がったらカッコいいガウン着て、カッコいい入場曲にしようと思っていました!」という目標を持った選手も多いもので、スター選手が入場だけで鳥肌が立つような楽曲は、ファンが一生忘れないインパクトを持つものです。

◆昔の楽曲

終戦後、テレビ局が開局してプロレスやプロボクシングが放映開始された時代まで遡れば、各々の入場曲など無い時代で、多くの選手は観衆の拍手や声援に応えながら、または無表情で静かにリングに入場していました。

タイの英雄、カオサイ・ギャラクシーは世界チャンピオン時代にオリジナル曲を与えられた(1993年頃)

まだ演出まで派手さは追求されなかった時代は各テレビ局のスポーツテーマ曲で入場していたシーンが思い出されます。テレビ局初期の主要三大スポーツテーマ曲は、日本テレビスポーツ行進曲とTBSスポーツテーマ「コバルトの空」とフジテレビスポーツテーマ「ライツアウトマーチ」。

ジャイアント馬場さんの場合は「日本テレビスポーツ行進曲」が誰もの脳裏に焼き付くほど定着しているでしょう。

輪島功一さんはフジテレビのスポーツテーマ曲が似合っていました。力強いイメージの曲ながら、輪島さんが世界戦で負けた後の番組エンディングで流れた曲後半の部分は物悲しい響きに感じたものです。

TBSキックボクシングではオープニングで「コバルトの空」を毎週聴いて脳裏に焼き付き、この曲が流れると未だ昭和のキックボクシングを思い出す古いファンも多いでしょう。

◆各々の選択肢

オリジナルテーマ曲の始まりはミル・マスカラスの「スカイハイ」と思いますが、そこからアントニオ猪木がモハメッド・アリから贈られた曲と言われる「アリ・ボンバイエ」を「イノキ・ボンバイエ」に編曲して使用。

そして多くのプロレスラーにオリジナルテーマ曲が浸透していきました(1974年8月、国際プロレスでビリー・グラハムに入場曲を使ったのが日本で最初のテーマ曲というネット情報有り)。

アブドーラ・ザ・ブッチャーはファンも忘れない「吹けよ風、呼べよ嵐」(1988年4月2日)

プロボクシングでは正確な記録は分かりませんが、オリジナルテーマ曲が始まったのは、おそらく具志堅用高さんからでしょう。「征服者」がしっかりファンの脳裏に焼き付く存在感となりました。

同時期、キックボクシングでは富山勝治さんが最初かもしれない存在で、好んで「アラスカ魂」で毎度入場していました。

1976年11月に映画「ロッキー」が公開され、後に多くの選手用に「ロッキーのテーマ」を使われるようになり、1982年(昭和57年)10月には向山鉄也さんが日本プロキック連盟ウェルター級王座獲得した試合での入場は「ロッキー3」でした。

1985年7月に日本ライト級チャンピオン長浜勇(市原)さんが初防衛戦を迎えた試合では「入場の時、ロッキーのテーマが流れて凄く嬉しくて気合いが入った」と語り、入場時までロッキーのテーマが流れるとは知らなかった様子で、この頃はまだ各々が選曲する時代ではありませんでした。

平成期に入った全日本キックボクシング連盟では団体のオリジナル曲が誕生、この頃から団体によってはチャンピオンクラスにはそれぞれ好みで選曲した入場テーマ曲が定着。

代表的テーマ曲は、
立嶋篤史は「ヒーロー」
小野寺力は「カルミナ・ブラーナ」。
石井宏樹は「スペンテ・レ・ステッレ」。
藤原国崇は一世風靡セピアの「前略、道の上より」
伊達秀騎は尾崎豊の「LOVE WAY」
ガルーダ・テツは「軍歌・出征兵士を送る歌」他軍歌諸々。

プロボクシングでは竹原慎二がジョー山中の「熱いバイブレーション」
辰吉丈一郎の「死亡遊戯」
坂本博之の「新世界」
内藤大助はC-C-Bの「ロマンティックが止まらない」

変わりどころ、キューピー金沢は「キューピー3分クッキング」など、より意外性でインパクトを与える演出が増えていきました。私(堀田)の今思い付く選手を連ねましたが、他にも多くの選手の選曲があります。

[左]元・ムエタイ殿堂チャンピオン、石井宏樹は編曲を加えた「スペンテ・レ・ステッレ」(2014年2月11日)/[右]100戦超え、現役の藤原国崇は一世風靡セピアの「前略、道の上より」(2021年9月19日)
日本王座挑戦経験もある今も現役・阿部泰彦は明るいリズムの「ドラゴンクエスト」(2019年8月4日)

◆好みの入場曲と著作権

多くの楽曲を使うことに関わる厄介な問題は著作権でしょう。テレビ局が放送する場合は著作権関係者・団体等と契約されており、私的なYouTube等、SNS動画配信の場合は無音にしたり、他のフリー音源に差し替えて対応しているようです。

ファンは入場シーンからテーマ曲も含めて楽しみたい部分であり、「動画配信であっても楽曲使用料を払って映しましょう!」という意見も、使用料が高額となる場合があると断念せざるを得ない様子です。一般の人が映像制作する場合は気を付けなければならない課題でしょう。

元々日本人は音楽が好きな民族。音楽は「音が楽しい」と書き、楽しくなければ音楽ではない(とは言い切れないが)。

選手のリングに向かう戦いのボルテージを上げ、観衆の緊張感を高めるのが入場テーマ曲。そこから名リングアナウンサーによるコールへ、一つ一つの役割を経て最高潮に達します。

時代の流れで今後、入場テーマ曲はどう変化していくでしょうか。

普段、試合を観ている貴方がメインイベンターだったらどんな楽曲を選んで入場しますか。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

格闘群雄伝〈28〉大城宝石 ── 沖縄から世界へ挑むアマチュア四冠中3女子、次世代スターの挑戦! 堀田春樹

◆アマチュア四冠

大城宝石(=オオシロ・ジュエル/2007年10月30日沖縄県名護市出身)は地元のエボリューションムエタイジム所属で現在中学3年生。アマチュア戦績は29戦21勝5敗3分。

試合場で昨年引退した元・J-GIRLSチャンピオン紅絹とツーショット

先日の8月7日、ゴールドジムサウス東京アネックスで開催されたRISEクリエーション主催のアマチュアキックボクシング大会「RISE Nova」で、全日本女子47kg級トーナメント優勝と共に、アマチュアRISE女子47kg級王者となりました。

大城宝石はアマチュアRISE王者と言っても、多数居るアマチュア王者の中の一人に過ぎませんが、地元では次世代スターとして、沖縄テレビやNHKに取り上げられるほど存在感があります。

大城は小学5年生からキックボクシングを習い始め、昨年、中学2年生の11月にアマチュアイベント「HATASHIAI」沖縄女子50kg級王者となり、同年12月に全日本U-15女子45kg級王者(一般社団法人アマチュアキックボクシング協議会認定)、今年3月にK-SPIRIT女子45kg級王者(沖縄県キックボクシング連盟認定)のタイトルを含む三冠王として今回、RISE王座に挑みました。

今回の試合記録。

47kg級準々決勝戦 (1ラウンド/3分制) 判定3-0
大城宝石 vs 黒川真里裳(NEXT LEVEL渋谷/東京都)

47kg級準決勝戦 (1ラウンド/3分制) 判定3-0
大城宝石 vs 安禮辰(GYM HAK/北海道)

47kg級決勝戦 (2ラウンド/2分制) 判定3-0
大城宝石 vs 髙橋美結(T-KIX/静岡県)

フライ級で活躍、現役・小林愛三チャンピオンとツーショット

◆障壁を乗り越えて

RISEとは2003年2月より活動を始め、プロでは今やビッグイベントを開催する有名な興行プロモーションで、那須川天心の出身母体でもあります。アマチュア大会に於いては全国各地で年間10大会以上(コロナ禍以前)を主催。予選や選考を勝ち抜いた精鋭によるトーナメント優勝者に全日本タイトル認定しています。

これまで15歳以下の出場年齢制限があった大会などから一転、このRISE Novaトーナメントは中学生以上の参加資格から一般成人選手の参加や、「プロ3戦まで参加可能」の規定があり、年齢的にも実績でも全国の強敵が集まっていたこと。大城宝石にとってこれまで最も慣れ親しんできたムエタイ系と比べルール制限があったこと。今回は最軽量クラスが47kg級で、大城の計量は45.7kgでパスも、対戦相手とのウェイト差など、幾つかの障壁を乗り越えて、ワンデートーナメント3試合を勝ち抜いて沖縄県人初の戴冠となりました。 

今後の試合予定は、11月20日に沖縄県豊見城市で開催される全日本選手権大会への出場が確定し連覇を目指し、その後、12月開催予定のアマチュアシュートボクシング全日本大会、更にアマチュアK-1王座も視野に入れていると言います。

来年3月の中学校卒業後は、高校進学と共にプロキックボクサーとなることを決めており、高校受験も控えた中学生としては厳しい環境にありますが、現在プロのRISEミニフライ級(-49kg)女王は、同じ沖縄のerika(SHINE沖縄)で、大城はいずれこの王座を狙えるかと期待が掛かります。

[左]ワンデートーナメント、次の試合に向け酸素吸入/[中央]試合直前、余裕ありの表情/[右]NHKの取材に備えてチャンピオンベルトを持ってきた大城宝石
ジムでのマススパーリング風景
試合後の緊張感あるファイティングポーズ

◆大島代表の評価

大城宝石は毎日、エボリューションジムに16時30分頃一番早く来て、21時ぐらいまでの一番最後に帰る超練習熱心という。トレーナーが見ていなくてもフィジカルトレーニングなど地味な鍛錬を欠かさない。その甲斐あってRISE Novaトーナメントではスタミナ切れを全く起こすことなく始終ラッシュをかけ続けることが出来たという大島健太代表。

女子の打撃競技はパワーの問題からどうしてもKO率は低いが、大城は一発で倒せる右ストレートとレフェリーストップを呼び込む高速コンビネーション連打の両面を磨き、倒せる女子ファイターとして注目されています。RISE Novaトーナメントは3戦とも判定だったが、それ以前の5試合はノックアウト勝利やノックダウンを奪う展開を残しています。

しかし、大城は極度に緊張するタイプでトーナメント初戦(準々決勝)が終わって、コロナ予防対策で両親も来場出来ない中、母親に電話したら号泣してしまうメンタルの弱さを見せたという。しかしその反面、上昇志向は強く、プロデビュー後を視野にした練習では、高速ミット蹴りは女子にしては観る者を驚かせる迫力があり、大島会長の見立てでは、日本の女子キックボクシング界を背負って立つ素質があると言います。

米軍の海兵隊員とは体格差をもろともせずスパーリングするとか

◆RENAを追い越せ!

前々から触れる話ではありますが、技術向上が注目される選手層がアマチュアとは言え、中学生まで低年齢化するとは時代が変わったものです。大城宝石だけでなく、フットワーク速くバランスいい体幹、今時の中学生レベルのキックボクシングの進化は恐ろしく、これが21世紀の格闘技でしょう。

大城は憧れのスター選手、シュートボクシングやRIZINで活躍するRENAのような強くて華やかなファイターを目指し、「いろいろなチャンピオンベルトを獲って、もっと大きな舞台に立ちたい」と言い、「沖縄から世界へ」の目標を掲げています。

まだ学問とキック中心の人生経験で、中学3年生の大城が来年プロデビューしているか、高校時代ではチャンピオンになっているか、20歳の時点でどんな選手に成長しているか、期待は大きくも、先行き不透明なのが厳しいプロの世界。

「いつの間にか見なくなった」と言われる選手が圧倒的に多い中、大城も幾つもの壁にぶつかったとしても得意の右ストレートと右ミドルキック、高速コンビネーションで乗り越えて、いずれまた多くのメディアを騒がせて欲しいところです。

今回は沖縄エボリューションムエタイジムオーナー・大島健太氏の発信情報中心に纏めさせて頂きました。

NHKインタビューに応える大城宝石

※画像提供9枚全て:エボリューションムエタイジム・大島健太

◎堀田春樹の格闘群雄伝 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=88

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

旧統一教会問題と安倍晋三暗殺 タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年9月号

興行の裏方、マッチメイクの苦労! 堀田春樹

◆時間との闘い

両選手がリングに入場した時点で、「勝ち負けはどちらでもいい、ここまで漕ぎ着けられてよかった」と安堵したことが、私(堀田)はお手伝い程度ながら一度だけありますが、マッチメイカーは大変なお仕事と感じた次第です。

現在、キックボクシングの通常興行では、だいたい10試合前後の試合数があります。ラウンド数短縮の影響で、過去には15試合を超える興行もありました。

当然、看板メインカードはかなり前もって広く告知し集客に繋げられます。しかし注目され難いアンダーカードのマッチメイクにおいては、興行日が迫ってくる中でとても神経を擦り減らす仕事と言えるようです。

NJKF拳之会(2022年5月15日開催)。マッチメイクからの過程がポスターに表れている (4月7日時点の発表)

◆試合が組めない!

20年ほど前、プロボクシング興行の開場前の静かな客席後方で、プロモーター関係者と見られる人物の電話をしている声が聞こえたことがありました。

「○○級の選手でオーソドックスの2戦1勝1敗なんですけど、誰か相手居ませんかね?」といった声。実際はもっと綿密なやり取りで、4回戦の出場選手を探している様子でしたが、「こんな地道な交渉しているんだなあ」といった印象でした。

キックボクシング既存の団体(協会・連盟等)主催でのマッチメイクは、日程が組まれている興行に事務局から各ジム会長に打診し、出場させたい選手をエントリーして貰い、その中から戦績や過去の対戦経験の有無等を見ながら対戦相手を決めていくのでしょう。

K-1出現前の1992年以前までは、選手層が厚いプロボクシングや、キックボクシング昭和のテレビ放映全盛時代と比べ、選手数が圧倒的に少ない時代。更に団体分裂していた上、交流は無く、「自分から攻めないカウンター狙い同士は客受けしないから避けろ!」という上層部の厳しい指令もあっては、一つの団体内だけでは試合が組み難くかったようです。

当時はランカー以上の5回戦と新人3回戦という境界線がはっきりしていた時代。その3回戦のマッチメイクにおいては、通常は同じぐらいの戦績同士で組まれます。デビュー戦同士とか、「1戦1敗vsデビュー戦」はよくあるパターンでしょう。

No Kick No Life 橋本悟vs勝次(2022年5月28日開催)。RIKIX小野寺力会長が導いた橋本悟と勝次の運命

プロボクシングには段階的にC級からA級まで明確に決まっていますが、当時のキックボクシング界は力の差があると分かっていても試合数を埋める為に、無理なマッチメイクもあった様子。同階級に対戦相手が居ない場合も、一階級差がある選手での契約ウェイトで両者の合意を得る場合があり、このウェイト承諾の返事待ちに日数が迫っているのに待たされるのが毎度のこと。昔は携帯電話は無く、固定電話を持たないアパート一人暮らしの選手が、暫くジムに来ないと連絡が全く取れない状態で、後輩のアパートに出向いた先輩が「オイお前、次の試合決まってるぞ、練習来ないと駄目じゃないか!」なんて言われて慌てる選手も居たものです。

当然ながら交渉を直接選手にはしてはならず、ジム会長(兼マネージャー)に交渉し、会長から選手に話が行く手順は当然の流れになります。

何とか予定試合数の契約ウェイトの了承を得た時点で、ようやく計量通知の郵送に漕ぎつけます。これらのことが興行ごとに繰り返されたという当時のスタッフの苦悩でした。

選手から見れば、「試合決まる時って会長から次の興行、○○と決まったから」と聞かされ、希望の対戦相手、ウェイトなどは言う余地も無かったと古い選手は言うも、計量通知を受け取った時点で召集令状のような「いよいよだな!」と一層気合が入るようでした。

第12代NKBウェルター級チャンピオン竹村哲氏は現在興行部長として奮闘中(2015年12月12日竹村氏引退の日)

◆マッチメイカーになりたい

「マッチメイカーに成りたいんですけど、どうすれば成れますか? 〇〇選手の夢のカードを実現させたいんです!」と、現在はこんな無鉄砲な考えを持った奴が居るのかと絶句するような高校生ぐらいの若者も現れるという。

過去において、ネームバリューあるトップ選手同士は何かと対戦が難しい柵の中にあり、夢の対決には実現に至らないカードは多かったでしょう。

「マッチメイクだけが仕事ではなく、どこかで欠員が出たからと募集される仕事でもないし、興行スタッフのお手伝いから始めた方がいいよ」と忠告しても、そう長続きしない者が多いという。

マッチメイカーの仕事は他にもポスター造り、パンフレット造り、チケット手配等は業者へ丸投げの依頼は楽でも経費削減の為、自分達で行なうことが多いようです。

定期興行が充実した頃は、パンフレット刷り上がりが興行前日になるということも頻繁だった様子。全てはマッチメイクがなかなか決まらないところからくる要因で、出場選手の写真、戦績経歴を正確に記載の為、ギリギリになってしまうのも仕方無いところでしょう。

1995年以降、更なる乱立とフリーのジムとプロモーターが徐々に増加する時代に移り、カードマンネリ化の悪循環を避ける為、好カード実現へ交流戦を持ちかけた新たな時代のマッチメイカー。電話で各団体代表にアポイントをとって訪問し、企画説明に向かう緊張感は特攻精神。

「何しに来たんだお前、そんなこと出来ると思ってんのか?」と説教されることもあったという営業活動。交渉に使う切り札、選手を借りたらお返ししなければならない義理、交渉が上手く進まない場合、「このイベントにウチの選手を出そう」と思わせるような良い条件を出さねばならない。賞金トーナメントや好条件のファイトマネー、有力なスポンサーを紹介する手段など、裏技いっぱい持っていないとマッチメイカーは務まらないという。とても高校卒業程度の若者に務まる話ではないでしょう。

◆契約の徹底

プロボクシングではマッチメイカーが選手のマネージャーとの間に試合契約書を交わす工程が生じますが、キックボクシングでは昔から曖昧な部分は多かったでしょう。特に地方興行など、計量オーバーしていても強引に試合を行なったり、当日になって対戦相手変更などはタイでもよくある話が、日本でもマイナー団体では実際に起きたことで、契約書が無ければ「言った、言わない」の揉め事は日常茶飯事だった様子。

現在では団体・興行毎にルールが多様でも、過去の悪しき習慣を知るマッチメイカーは、団体間、フリー関係との交渉では、ジム会長と出場選手のサインが必要となる諸々のルールと条件を記載した契約書を簡易書留で送り、内容承諾すればサインして送り返して貰うという、当然と言えば当然の手順で進めるプロモーションが多くなっています。

タイや欧米から選手を要請する場合も多くの困難が待ち受けます。タイ語や英語が万能で、現地仲介者といった環境も整えておくことも必要です。裏方も若い世代に移った現在、堅実なマッチメイクも業界を底上げの一端として頑張っていかれることでしょう。

(このテーマはマッチメイク経験者数名のお話を纏めています)

マッチメイクから始まった闘いが繰り広げられる静寂なリング(2022年2月19日)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

旧統一教会問題と安倍晋三暗殺 タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年9月号

波乱の新日本キック、勝次と重森陽太が衝撃の敗北! 堀田春樹

勝次が3ノックダウンで1ラウンド早々のノックアウト負け。最近にしてはあっけなく終わってしまった。

重森陽太もいつものパワー感じないノックダウン喫する敗戦、他団体のチャンピオンに敗れる。

リカルド・ブラボと高橋亨汰は安定感見せる圧勝。

瀬川琉は他団体チャンピオンのベテラン前田浩喜にノックダウン奪って判定勝利する成長を見せる。

5戦目の木下竜輔も判定ながら右ストレートのインパクトで快勝。

◎MAGNUM 56 / 7月24日(日)後楽園ホール17:45~20:10
主催:伊原プロモーション / 認定:新日本キックボクシング協会

◆第10試合 63.5kg契約3回戦

WKBA世界スーパーライト級チャンピオン.勝次(藤本/63.45kg)
       vs
NJKFライト級1位.羅向(ZERO/ 63.2kg)
勝者:羅向 / KO 1R 2:44
主審:少白竜

開始早々は勝次が右ストレートで突っ掛けるも、その後、間を置いてサウスポーの羅向がパンチ連打で突っ掛ける反撃。対抗してしまった勝次は連打を貰ってノックダウンを喫してしまう。羅向は勢い付き、更に連打を浴びた勝次は2度目のノックダウンで、今度は足に来るダメージ。このラウンド乗り切れればという願い虚しく、ロープに詰まった際の連打を浴びて3度目のノックダウンを喫した勝次。羅向は歓喜の雄叫び。連打ながら決定打はいずれも左ストレートだった。正面に立ち過ぎ、またも悪いパターンとなった勝次。控室に帰っても無念さは晴れなかった。

羅向に打ち抜かれた勝次
三度倒されるあっけない幕切れ、勝次は打ち合いに散る

◆第9試合 62.5kg契約3回戦

WKBA世界ライト級チャンピオン.重森陽太(伊原稲城/62.25kg)
      vs
NJKFスーパーライト級暫定チャンピオン.真吾YAMATO(大和/62.4kg)
勝者:真吾YAMATO / TKO 3R 0:50
主審:椎名利一

いつもの鋭い蹴りが少なかった重森陽太。それでも序盤は蹴り負けない展開で調子を上げていく。第3ラウンドにはヒジ打ちで来る真吾に「ヒジ打ちなら負けない」と意地になったか。真吾のヒジ打ちで脆くもノックダウンを喫した上、頭部と鼻の横っ面に裂傷を負っていた為、ドクターチェックの末、レフェリーに試合を止められてしまった。

向き合ってしまった重森陽太、ヒジで真吾YAMATOと打ち合う
打ち抜かれた重森陽太、この後、裂傷で止められた。真吾AMATOは歓喜

◆第8試合 70.0kg契約3回戦

日本ウェルター級チャンピオン.リカルド・ブラボ(アルゼンチン/伊原/ 69.95kg)
       vs
タイ国ラジャダムナン系スーパーライト級7位.ゴンナパー・シリモンコン(タイ/ 68.8kg)
勝者:リカルド・ブラボ / KO 2R 2:07
主審:宮沢誠

リカルド・ブラボは冷静な試合捌き。体格差でも優るが、蹴りの強さでゴンナパーを圧倒。ロープ際から逃れようとするゴンナパーへハイキックでノックダウンを奪うと、勢い付いてパンチと蹴りで3ノックダウンを奪って快勝。

リカルド・ブラボのヒザ蹴りがゴンナパーの胸板に強烈にヒット
衝撃のスリーショット、ピーター・アーツも祝福にリングに上がった

◆第7試合 62.5kg契約3回戦

日本ライト級チャンピオン.高橋亨汰(伊原/ 62.4kg)    
       vs   
ポッシブルK(K’GROWTH/62.05kg)
勝者:高橋亨汰 / TKO 3R 0:26 / ドクターの勧告を受入れレフェリーストップ
主審:桜井一秀

様子見から高橋亨汰の先手打つパンチと蹴りの展開で上手さを発揮。主導権を奪い、最後はパンチで切る試合ストップとなったが、的確なヒットで試合をコントロールした。

試合運びが上手い高橋亨汰、ポッシブルKの動きを先読みする展開

◆第6試合 58.5kg契約3回戦

NJKFフェザー級チャンピオン.前田浩喜(CORE/ 58.25kg)vs 瀬川琉(伊原稲城/ 58.4kg)
勝者:瀬川琉 / 判定0-3
主審:仲俊光
副審:椎名28-30. 桜井28-29. 宮沢28-29.

開始から間もなく、瀬川琉が左ストレートでノックダウンを奪う。一瞬フラッシュダウンかと見られるも立ち上がりが遅い為、ノックダウンとなって前田浩喜らしくない流れとなった。瀬川は主導権を譲らない展開を守り判定勝利。

瀬川琉は他団体チャンピオンからノックダウン奪って成長を見せた

◆第5試合 フェザー級3回戦

木下竜輔(伊原/ 56.75kg)vs 仁琉丸(富山ウルブズスクワッド/ 57.5→56.95kg)
勝者:木下竜輔 / 判定3-0
主審:少白竜
副審:仲30-28. 桜井30-29. 椎名30-28.

木下は前回ジョニー・オリベイラを右ストレートで一発ノックアウトしたインパクトを持つ。その必殺ストレートは健在も、ノックアウトには成らなかったが主導権を奪い安定した試合展開で勝利を掴んだ。

木下竜輔、5戦目ながら強い右ストレートは健在

◆第4試合 57.0kg契約2回戦

中村哲生(伊原/ 56.75kg)vs GGオサム(E.S.G/ 56.3kg)
勝者:GGオサム / KO 1R 1:56 / 3ノックダウン
主審:宮沢誠

◆第3試合 女子フェザー級3回戦(2分制)

KAEDE(LEGEND/ 59.75→59.65kg)vs 小倉えりか(DAIKEN THREE TREE/ 57.15kg/6oz)
2.5kgオーバーにより減点2、グローブハンデ8oz
勝者:KAEDE / TKO 1R 1:46
主審:椎名利一

KAEDEは5月21日のカルッツ川崎でのDUEL興行で、女子(ミネルヴァ)スーパーバンタム級王座挑戦も、チャンピオン浅井春香と引分けで王座を逃がしている。ウェイトオーバーがどれほど優位に動いたかは分からないが、バックハンドブローは見事に決まってノーカウントのレフェリーストップTKO勝利で存在感を示した。

KAEDEはバックハンドブローで小倉えりかを倒す

◆第2試合 女子ピン級(-45.36kg)契約3回戦(2分制)

島田美咲(SQUARE-UP/ 44.4kg)vs AZU(DANGER/ 44.95kg)
勝者:島田美咲 / 判定3-0 (30-28. 29-28. 30-28)

◆第1試合 女子アマチュア37.0kg契約2回戦(90秒制)

西田永愛(伊原)vs 池田悠愛(MIYABI)
引分け 1-0 (19-19. 20-19. 19-19)

※コロナ感染により2試合が中止

《取材戦記》

勝ったり負けたりの勝次の置かれた立場はより苦しいものとなった。5月28日にはNO KICK NO LIFE興行で橋本悟に5ラウンドTKO勝利し健在ぶりを示したが、日本キック界のトップクラス的存在を見せ付けることは難しい状況が続く。偏見ながら、昔の選手のように長丁場の5回戦制で、打ち合わずに後半勝負に行けば勝ちに繋がった試合は多いかもしれない。

重森陽太も打ち合いに応じてしまったか、重森らしくないノックダウンで負傷による敗戦。衰えや相手を甘く見たといった気の緩みではないだろうが、偏見ながら、今後のファン注目のビッグイベントに起用されれば存在感は復活するだろう。

リカルド・ブラボは、“70kg級”の選手を意識し、RISE、RIZIN出場を希望した。その後に世界を目指すと言った発言はその可能性に期待感が高まる。世界と言えば幾つかある活性化しているワールドタイトルの頂点と、ラジャダムナンスタジアム殿堂王座があるだろう。70kgと言ってしまうところが外国人とはいえ今時の選手だが、ウェルター級からミドル級の、70kgに調整できるトップクラスの選手が今後の対象となるでしょう。

今後、話題を振り撒きそうなのが高橋亨汰と瀬川琉。試合運びが上手く、更なる上位進出が目前にあるところ、瀬川に於いては試合後に「タイトルに挑戦したい」とマイクアピールした。栗芝会長は「まだ駄目だな」と声を漏らすが、デビュー4年で15戦12勝(3KO)3敗となった今、勢いに乗ったまま挑戦もいいだろう。
各々の選手がモチベーション次第で、今後、浮上か衰退かの明暗が分かれるであろう興行でした。

新日本キックボクシング協会次回興行は10月23日(日)に後楽園ホールに於いて「TITANS NEOS.31」が開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年8月号