新日本キック「MAGNUM39」──トップ選手のビッグマッチと若いチャンピオンたち

10月25日の新日本キックボクシング協会・伊原プロモーション興行「MAGNUM.39」に於いて今後のビッグマッチが期待されるチャンピオンクラスが出場。

日本チャンピオンから一歩上の“東洋クラス”での戦いを重ねる、新日本キックの“殿堂チャンピオン”と言われる元日本チャンピオンの石井達也(目黒藤本/ライト級)、緑川創(目黒藤本/ウェルター級)、喜多村誠(伊原/ミドル級)の3人と、メインイベンターを務めたWKBA世界スーパーバンタム級チャンピオンの江幡塁(伊原)とツインズ兄・睦含め5人は、今後進むステージが険しいものとなろうとも挑まなければならない最高峰が立ちはだかっている。しかしその出番がいつなのか待ち構えるのも辛いものがあるかもしれない。

◆江幡塁 VS プラーップラーム(タイ)

毎度の江幡ツインズの相手は未知数のテクニシャンで苦戦を強いられる試合が多い。今回の江幡塁(伊原/24歳)も56.0kg契約ノンタイトル5回戦で、無名ながらプラーップラーム・バーンボー・ウィッタヤーコム(タイ)のしなやかな蹴りとスピードに「被弾する、攻め倦む、ラウンドは長引く」といった流れを予想してしまうが、被弾も覚悟でパンチとローキック主体にいろいろな攻めパターンを試し、ボディブローで弱点を突き、見事2ラウンド2分33秒KO勝利に導いた。

「新日本キックに新しい伝説を導きます。その為にもラジャダムナン王座獲りにいきます。」
いつもマイクを掴むと大きな声で滑舌よくアピール。早口でも下手なリングアナウンサーより聞き取りやすいのが見事な声量。兄・睦とともにツインズでムエタイ王座同時奪取となれば新たな歴史に名を残すところ、一昨年、そのチャンスに挑んだツインズだったが揃って敗戦。2年前より更に成長したツインズ。伝説を作るには今後のチャンスを逃がすわけにはいかない。

江幡塁(右)vsプラーップラーム戦。カミソリのような切れ味、効くというより "バシッ"と痛そうな塁のローキック

◆重森陽太 VS 内田雅之

日本フェザー級タイトルマッチは、1位.重森陽太(伊原稲城/20歳)が2階級制覇。チャンピオンの内田雅之(目黒藤本/37歳)を判定で下す。重森は1年前の昨年10月、減量苦から瀧澤博人(ビクトリー/24歳)に2-0の判定で敗れ日本バンタム級王座を明け渡すも、今年3月、フェザー級に上げての初戦で内田雅之と59.0kg契約ノンタイトル戦で対戦し、鋭い蹴りで優位に立ち、判定で僅差ながら3-0判定で勝ってしまった。当然今回、王座挑戦資格を持って再戦。内田雅之も、チャンピオンのプライドを懸けての5度目の防衛戦。通常、再戦はチャンピオンが修羅場を潜り抜けてきた経験値で上回り、挑戦者を退けるパターンが多いが、重森の成長度は著しく、そうはいかないパターンだった。重森の鋭い蹴りは早々から主導権を奪い、その優勢を守りきり、3-0(50-48、50-48、50-47)で第9代日本フェザー級チャンピオンとなる。試合後、内田は第2ラウンドに重森のミドルキックを受けて左腕を骨折していたことが発覚。内田はセコンドにも告げずラウンドを重ねた。4度防衛の経験値で最後まで諦めない戦いを貫いた内田雅之であった。

内田雅之(左)vs重森陽太。長い足を利した重森の伸びあるハイキック、今後の脅威となるか

◆緑川創 VS ジン・シジュン(韓国)

緑川創(目黒藤本/28歳)は韓国の突貫ファイター、ジン・シジュンが前に出てくるところを左ヒジ打ちを合わせ、額をカットし3ラウンド28秒TKO勝利。ここ3戦は勝っても負けてもヒジ打ちで切ったり切られたり、接近戦の賭けが明暗を分けるスリリングな試合で、その勝負度胸を持って目指すはラジャダムナン・スーパーウェルター級王座、タイ現地スタジアムに“単独で渡ってでも挑戦したい”構え。喜多村誠との先手争いも見もの。

緑川創(右)vsジン・シジュン。単なる打ち合いはではない、肘打ちか首相撲を視野に入れた前段階

◆喜多村誠 VS ファン・セチョル(韓国)

その喜多村誠(伊原/35歳)はこの春、日本ミドル級王座を返上して、5月に現地ラジャダムナンスタジアムでのスーパーウェルター級王座挑戦もチャンピオンのアーウナーン・ギャットペーペーの厚い壁に撥ね返される判定負けで、今回の再起戦。韓国ファイターを1ラウンドでローキックで弱点を掴むと2ラウンド1分10秒、しつこくローキックで倒すTKO勝利。再度、ムエタイ王座に挑みたい構え。年齢的にはこちらが急ぎたい構えだろう。

喜多村誠(右)vsファン・セチョル。心折れずとも、足が麻痺してへたりこむしかない喜多村の重いローキック

◆石井達也 VS ソン・スター(韓国)

石井達也(目黒藤本/33歳)も韓国ファイターを最終第3ラウンド終了間際にヒジでカットしTKO 勝利。「そろそろベルトを巻きたいです。見たいですよね?」とマイクアピールでファンに同意を求めた。「WKBAでもWBC(ムエタイ)でもチャンスがあれば何でも来い」という、ムエタイ殿堂王座に限らず、いけるものなら“権威有る世界”と名の付く王座挑戦へステップアップ宣言した。

石井達也(左)vsソン・スター。ビッグマッチを想定した前哨戦、試合展開にもゆとりが出てきた石井達也

◆アトラクションは伊原代表 VS 斗吾

アトラクションにおいて、伊原信一代表を相手にミット蹴りを披露した日本ミドル級新チャンピオンの斗吾(伊原/26歳)。先月、王座決定戦で4位.今野明(市原/32歳)をKOし、念願の王座奪取したばかり。自信を持つとより一層激しい蹴りを観客に披露する威力が増したミドル級の重みが響く。観客の前では毎度、伊原代表も選手以上に現役時代のような強い蹴りを披露する。64歳とは思えない重く速い蹴り。しかし疲れを誤魔化さずタイ人トレーナーにミットを渡し、息を整え観客の笑いを誘う。

伊原代表(左)&日本ミドル級C.斗吾。64歳とは思えぬほど、毎年激しさが増す蹴り合いのパフォーマンス、スタミナだけキツそうな伊原代表

新日本キックには他に日本フライ級チャンピオンの麗也(治政館/19歳)も5月にHIROYUKI(=茂木宏幸/目黒藤本/20歳)からKOで王座を奪った。その後HIROYUKIも再起戦を飾り、今後の更なる成長が楽しみなヤングチャンピオン達。日本ライト級チャンピオンの勝次(=高橋勝次/目黒藤本/28歳)も3月に王座奪取したばかりだが、虎視眈々とムエタイ王座に標準を定めている。といった具合に、ステップアップを果たしたい選手が希望通りチャンスが回って来るか、または若い世代に足を掬われるか、過酷な興行継続も注目となる新日本キックボクシング協会の展開である。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」

◎群雄割拠?大同小異?日本のキックボクシング系競技に「王座」が乱立した理由
◎9.27WBCムエタイ戦──強豪たちの本気の対戦がムエタイの権威を高める!
◎倒すか?倒されるか?日本キックボクシング連盟「大和魂シリーズ」vol.4報告

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群雄割拠?大同小異?日本のキックボクシング系競技に「王座」が乱立した理由

「ボクシングと違ってキックは偽者チャンピオンが多い中、新日本キックのチャンピオンはみんな強いので、内田雅之(日本フェザー級チャンピオン=当時/藤本)選手と対戦させて頂けたらと思います」

JKIフェザー級2位の竜誠(=りゅうせい/ダイケン)が、8月30日の新日本キックボクシング協会・治政館ジム興行で、日本フェザー級6位の櫓木淳平(=ろぎじゅんぺい/ビクトリー)を倒した後、マイクアピールでこう宣言したように、キックボクシングの世界では、チャンピオンが名指しされることが明確な実力証明のステータスとなりつつあります。

◆キックボクシングはチャンピオンだらけの格闘技?

WPMFのベルト、WPMF日本Sバンタム級C.鷹大

「国内チャンピオンは偽者が多い」と言われる背景として、決して無造作にチャンピオンが認定されている訳ではなく、王座乱立が激し過ぎるというものです。しかし、コアなファンならば、どのチャンピオンが本物か見極めることが出来ても、“チャンピオンは一人”という固定観念がある一般人には「誰が一番強いのか?」よくわからない。それが“二人”であったとしても、その対立関係で成り立つプロ野球2リーグ制のような説明は付いても、国内の同じ階級に10人もチャンピオンが居ては、「初めてキックボクシングを観ました」という観客から見れば「何がどうなっているか」は見え難く、「キックボクシングはチャンピオンだらけの格闘技」となっています。

1966年にキックボクシングが日本で誕生して以来、国内外問わず、多くの王座(チャンピオン)が誕生してきました。国内では、新団体が出来る毎に王座が各階級で新設されていましたが、10年程前から徐々にその規模とスピードは拡大。団体の他、プロモーション単位の任意で作られた、興行看板となる王座がやたら増えたのがここ5年程で、更に国際的に世界チャンピオンを認定する世界機構の管轄下に置かれる日本王座も誕生し、価値の差はあれどチャンピオンは幾らでも作れる勢いです。

◆合従連衡の後──群雄割拠?大同小異?

新日本キックのベルト、日本ライト級C.高橋勝次

元々、高度経済成長期に乗ってKO率90パーセント超えの激しさからキックブームになった昭和40年代~50年代前半(1966年~1977年)の“主要団体”は、日本キックボクシング協会、全日本キックボクシング協会の二つしかありませんでした。テレビの全国ネットでレギュラー放送されていた時代は概ね昭和43年(1968年)から55年(1980年)で、それは2系列ではあっても日本のトップそのもので、これを目指して全国から血気盛んな若者がチャンピオンを目指してやってきました。

そんな黄金期を経て、昭和50年代半ば(1980年頃)にはテレビが離れ、世間から記憶にも残らなくなっていきました。そんな低迷期には業界大手が弱体化し、我道を行く団体分裂が激化。テレビ放映は無く、日本列島に響き渡らない時代に最大で7団体がひしめき合っていましたが、平成に入った時代(1990年)には定期興行が打てる“主要3団体”に落ち着いていました(当時は1984年設立の日本キックボクシング連盟、同連盟から枝分かれしたマーシャルアーツ日本キックボクシング連盟、1987年復興の全日本キックボクシング連盟)。

しかし、そこでも過去に似たような組織のトップ役員に対する反発が各団体で勃発。団体内の方向性の違いによる革命や金銭トラブルに対する反発で団体分裂が再び激化しました。更にそんな繰り返される問題から、フリーのジムが増え、団体に属さなくても独自でやっていけるという過去に無い変化が現れた時代になっていきました。昔はどこかの団体に加盟しなければ興行など成立せず、フリーでは団体興行に出場させてもらうことも難しかったのです。

WBCムエタイのベルト、WBCムエタイ日本ライト級C.宮越慶二郎

今、この競技の定期興行で運営される国内タイトルをまとめると、野口修氏創設の老舗を継承し、日本プロスポーツ協会に唯一加盟出来る存在の新日本キックボクシング協会の日本王座(加盟ジムのみ)、ニュージャパンキックボクシング連盟とジャパン・キックボクシング・イノベーションを統一する形で存在するWBCムエタイ日本王座(非加盟でもライセンス取得で出場可能)、本場タイ国の政府管轄下にあるタイ国ムエスポーツ(プロムエタイ)協会を母体とするWPMF(世界プロムエタイ連盟)の傘下にWPMF日本王座(実績次第で出場制約無し)が存在します。

◆2015年、本場のムエタイがやってきた

そんな中に今年また、「ムエタイ」ブランドを掲げる王座が新設。ルンピニースタジアムの海外初となる日本支部開設を発表したのが8月7日。今後12月以降、「ルンピニーボクシングスタジアムジャパン」としての興行が行なわれ、日本ランキングの制定と日本王座決定戦、そして本場ルンピニースタジアムのムエタイ最高峰王座への挑戦権も与えられていくことになるという構想です。

ルンピニーボクシングスタジアムは、ラジャダムナンスタジアムと双璧を成すタイ・ムエタイの二大殿堂のひとつです。ムエタイは500年の歴史を持ちつつ、戦後活発に発展したタイの国技です。地方での有望な選手がバンコクでの頂点に目標を持って大量に押し寄せる極めて難しい頂点。そこへギャンブル好きの賭け屋が大勢の観衆としてスタジアムを支え、確固たる発展を遂げたのが本場ムエタイの姿です。
更には認定機構管轄下にはないが、マーシャルアーツ日本キックボクシング連盟、J-NETWORK、NKBなど定期興行が安定した団体王座があり、更にプロモーション単位の任意王座が続きます。

◆50年近く王座統一がなされないもどかしさ

世間一般の方々には、一本化されない競技に関心も沸かないところかもしれません。日本統一チャンピオンになるには、まだ程遠いプロモーションの結束が必要ですが、スポーツ庁などの公的機関が管轄されれば一気解決ながら、利害関係がもたらす問題も懸念され、キックボクシング系競技の真のメジャー化はまだ難しいところです。

統一されないこんなことが50年近くも続いている中、「今いっぱいチャンピオンが居るらしいじゃない、せめて昔のような2系列時代にならないとなあ」とは3月15日の江幡睦のダブルタイトル戦の興行前、昭和40年代の“小さな巨人”といわれた元・全日本バンタム級チャンピオン.大沢昇氏が創生期からの盟友、元・日本ミドル級チャンピオン.藤本勲(目黒藤本ジム会長)氏にしみじみ語っていたことが、ファンの声を代弁しているようでした。

大沢昇&藤本勲、沢村忠以外にも創生期を支えたチャンピオンたち(2015年3月15日)

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」

◎9.27WBCムエタイ戦──強豪たちの本気の対戦がムエタイの権威を高める!
◎倒すか?倒されるか?日本キックボクシング連盟「大和魂シリーズ」vol.4報告

唯一無二の特報を同時多発で怒涛のごとく!『紙の爆弾』!

倒すか?倒されるか?日本キックボクシング連盟「大和魂シリーズ」vol.4報告

10月10日、後楽園ホールで開催された「大和魂シリーズ」は、「倒すか倒されるか」がキャッチフレーズの日本キックボクシング連盟興行。NKBライト級タイトルマッチがメインイベントだ。チャンピオンの大和知也(SQUARE-UP)は今回が初の防衛戦。挑戦者はその大和知也が4月に63.0kg契約5回戦で僅差の判定負けを喫した俊輝(八王子FSG)である。

大和知也

◆NKBライト級タイトルマッチ──大和知也 VS 俊輝

今回も俊輝の先制攻撃のジャブ、ローキックの的確差で大和を苦しめた。俊輝のローキックがもっとしつこく蹴っていれば明確な差になっただろうが、それをさせない大和の反撃も地味ながらコツコツとヒットさせる圧力があった。俊輝が前回同様の僅差判定勝利かというムードの中、0-1俊輝優勢の引分け。大和知也はかろうじて初防衛。俊輝は王座奪回成らず。

大和知也が今年のシリーズ名となる主役でありながら、俊輝を倒せなかった今年の反省は残るにせよ、来年は高橋三兄弟が台頭して来る世代交代が迫る年。更なる奮起に期待したい。

 

◆NKBウェルター級王座決定トーナメント準決勝2戦

アンダーカードながらNKBウェルター級王座決定トーナメント準決勝は、2位の安田一平(SQUARE-UP)が4位の稲葉裕哉(大塚)を判定3-0(50-47、50-46、50-47)で勝利し、決勝に進出した。

安田の重いパンチ攻撃がしつこく稲葉を圧倒した。稲葉は1ラウンドから鼻血を出し、顔を腫らしながら倒れず反撃に転じ、蹴りの少ないパンチ主体の展開となり、反撃を受けた安田の顔も腫れが増す。試合が終わればお互いの顔とも無残な表情だった。

安田一平(右) VS 稲葉裕哉
安田一平(右) VS 稲葉裕哉

もう一方の準決勝は3位の塚野真一(拳心館)が検診時での体調不良によるドクターストップで棄権となり、1位の石井修平(ケーアクティブ)の勝者扱い(主催者発表は不戦勝)による決勝進出。

高橋三兄弟の三男・聖人(真門)は判定ながら5戦目(4戦1勝2敗1分)のサイクロン狂介(大塚)に勝利し4月のデビュー戦から2連勝(1KO)。

高橋三兄弟の三男・聖人(右)VSサイクロン狂介

◆次回「大和魂シリーズ vol.5」は12月12日に開催

次回12月12日には石井修平vs安田一平でNKBウェルター級王座決定戦、もうひとつのタイトルマッチがNKBバンタム級王座決定戦、1位の高橋亮(真門)vs 3位の松永亮(拳心館)がある。高橋三兄弟が今この連盟での話題の三兄弟。次男の亮が先に王座に手を掛ける。

長男・一眞は6月に元2階級制覇チャンピオンの夜魔神(SQUARE-UP)の引退試合相手として出場、初回は夜魔神を圧倒しながら経験値豊富な夜魔神に逆転されて判定負け、7戦目で初黒星も未だ王座に近い存在で来年の飛躍が期待される。

更にもうひとつのメインイベントクラスが前NKBウェルター級チャンピオン、キャリア13年で、「遅咲き」の44歳の竹村哲(ケーアクティブ)の引退試合。同級5位.マサ・オオヤ(八王子FSG)を相手にラストファイトの予定。今年4月には元・全日本ライト級チャンピオン.大月晴明と引退カウンドダウンに入った40代対決、1ラウンドで大月の爆腕に倒されたが現役として悔いなく燃え尽きるには最高の相手だった。

◆昭和キックブーム終焉後、1984年に設立された日本キックボクシング連盟の31年

「大和魂シリーズ」主催の日本キックボクシング連盟は、昭和40年代のキックブームの後、テレビが離れて低迷期に入り、行く当てなく彷徨っていた日本キック界に、昭和59年11月、主要団体が一旦統合された団体だった。

あれから31年になる。すぐに分裂と脱退を繰り返し、他団体の豪華な国際戦、ムエタイタイトルマッチを行なうようには敵わない、ひたすら団体内対抗戦の地味な団体ではあったが、昔ながらの「倒すか倒されるか」がキャッチフレーズの息の長い団体となった。2002年に統合ではないが、NJKF、K-U、APKFと共に4団体共通のタイトルNKBを設立、相変わらず離脱はあったが、王座は継続され現在に至っている。

遡れば役員の顔ぶれの流れを見ると、系列的に昭和40年代の旧全日本系色が強い団体である。それも昨年から世代交代の波が押し寄せた。代表理事は渡辺信久氏と変わらないが、興行運営を担う担当が元・日本キック連盟ライト級チャンピオン、小野瀬邦英SQUARE-UPジム会長に代わった。

それまで他団体交流が無く閉鎖的だったが、徐々に交流戦が実現。実力不透明だったNKBが良くも悪くも明確になってきて活性化されてきた。高橋三兄弟のような有望な選手も多いに飛躍できる舞台が揃いつつある日本キックボクシング連盟であり、業界全体も頂点への道のりが明確になってきている今後のキックボクシング系業界でもある。

高橋三兄弟の三男・聖人

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」

◎9.27WBCムエタイ戦──強豪たちの本気の対戦がムエタイの権威を高める!

唯一無二の特報を同時多発で怒涛のごとく!『紙の爆弾』11月号発売中!

 

9.27WBCムエタイ戦──強豪たちの本気の対戦がムエタイの権威を高める!

9月27日(日)に後楽園ホールで行われたニュージャパンキックボクシング連盟(NJKF)とジャパンキックボクシングイノベーション(JKI)共催による「NJKF.2015.6th」は、WBCムエタイ・バンコク本部の認定を受けた世界タイトル戦とインターナショナルタイトル戦、日本タイトル戦のメインクラスの5回戦が計5試合(他、ノンタイトル戦、アンダーカード3回戦)行われた。

WBCムエタイ日本バンタム級王座決定戦は攻防が少ない中、JKI同級チャンピオンの知花デビッド(ワイルドシーサー群馬/53.5kg)がNJKF同級チャンピオンの前田浩喜(CORE/53.45kg)を3-0(50-49、49-48、49-47)の僅差判定で破り第5代チャンピオンとなった。

WBCムエタイ日本スーパーフェザー級王座決定戦は、NJKF同級チャンピオンの悠矢(大和/58.97kg)がHEATライト級チャンピオン皇治(SFK/58.97kg)に3-0(50-47、49-47、49-48)の判定で破り第5代チャンピオン。パンチで優る皇治を悠矢が蹴りで盛り返した。

MOMOTARO(右)VS笹羅歩戦

WBCムエタイ日本フェザー級タイトルマッチは、挑戦者でNJKF同級チャンピオンのMOMOTARO(OGUNI/56.9kg)が、初防衛戦の笹羅歩(笹羅/57.15kg)の額を5ラウンド1分10秒、ヒジ打ち一発でカット、ドクターの勧告を受入れレフェリーストップでTKO勝利、第5代チャンピオンとなった。

宮元啓介VS アレクシス戦

WBCムエタイ・インターナショナル・スーパーバンタム級王座決定戦は、日本同級チャンピオンの宮元啓介(橋本/55.34kg)が、WBCムエタイ世界同級16位のアレクシス・バラテウ(フランス/55.15kg)に、2ラウンド3分04秒、ボディブローで計3度のダウンを奪ってレフェリーが止めTKO勝利。新チャンピオンとなった。

◆大和哲也、初防衛ならず!

メインイベントのWBCムエタイ世界スーパーライト級王座統一戦は、チャンピオンの大和哲也(大和/63.1kg)が、暫定チャンピオンのアランチャイ・ギャットパッタラパン(タイ/63.0kg)を初防衛戦の相手として迎えた。「WBCは世界にネットワーク広がる権威あるボクシングの世界機構のタイトル。そのWBCにはムエタイもあってこんな強いチャンピオンが揃っているというWBCムエタイの名前を世界に知らしめたい」と昨年11月、王座に就いた大和哲也が宣言した。

大和哲也(左)VSアランチャイ戦

しかし今年5月にはノンタイトル戦ながらウェイトオーバーの失態を起こした上、元ルンピニーチャンピオン.ゴーンサック・シップンミー(タイ)に判定負け。汚名返上となるはずの今回の試合は「大和哲也が勝つだろう」という予想が大半だったと思われるが、試合は初回の様子見の中、アランチャイの右ストレートが大和のアゴを捕らえノックダウン。あっけないダウンに場内がどよめく。足がフラつきながら立ち上がり、再開もゴングに救われた。あと10秒あったら危なかった展開だった。幸いムエタイルールによる2分のインターバルがダメージ回復に味方した。再びグロッキーになるようなことはなかったが、本調子には戻らない動きと調子付かせたアランチャイを崩すような強打をヒットさせることはできなかった。判定はアランチャイの3-0(49-46、50-45、49-47)で王座統一し、正規チャンピオンとなる。大和哲也は統一と初防衛成らず。

大和哲也(左)VSアランチャイ戦

大和哲也は王座陥落となったが、本物の強豪と対戦を続けてトップを競い続ける価値はWBCムエタイの権威を上げていると言えるだろう。また名誉挽回への再起に立ち上がらなければならない大和哲也である。

今回のような興行、出場選手の持つキックボクシング界の王座の多さに「訳わからん」と言う声も聞かれる。また他興行においても似たような状況。国内王座の多さは説明難解と言えるほど、プロレスの王座のように多い。そんな中、WBCムエタイ日本の傘下にはアマチュアとして小中学生から始められるジュニアリーグからプロの世界王座まで、まだ選手層は薄いが構築された立構造が出来上がっている。権威を築き始めた他組織も存在する為、キック業界すべてがここに集約している訳ではないが、ここに出場する大和哲也や現世界スーパーフェザー級チャンピオン.梅野源治(PHOENIX)の日本のトップクラスの活躍は今後、世間にWBCムエタイへの知名度を広げることにまた一歩近づくだろう。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」

◎美しきムエタイ女子リカ・トングライセーンのど根性ファイトに大喝采!
◎日本のキックボクシングが情熱と音楽の大国アルゼンチンと繋がった日
◎混沌に風穴を空ける新日本キックボクシング!──WINNERS 2015 3rd 報告


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