6月11日13時30分から大津地裁で、滋賀医大附属病院泌尿器科の河内、成田両医師が23名の患者さんに施術の実績がないことを伝えずに手術を行おうとした「説明義務違反」の損害賠償を求める裁判の5回目の弁論が開かれた。
滋賀医大病院をめぐっては、仮処分や裁判が立て続けに起こされている。有印私文書偽造の刑事告訴も大津市警察に行われ(告訴状は未受理)、患者会の皆さんが大津地裁に集まる頻度も上がる一方だ。
裁判期日には、毎回開廷前に大津駅前で集会が行われる。この日は北海道からの参加された患者さんの姿もあった。
学長・病院長・泌尿器科河内教授を批判するプラカード
患者会代表幹事の恵さん
集会では患者会代表幹事の恵さんが、
「5月20日に待機患者の治療を妨害するなとの、仮処分命令が下りましたが、どうしようもない言いがかりをつけて病院は邪魔しようと、異議申し立てをしました。そういう輩なのです。我々は一生懸命闘いますが、あの輩には『情けない人種』だとの気持ちも考慮に入れて。力ずくでは黙り込んだ狸のようなものですので、我々の気持ちが届いているのかいないのかわかりません。熱い気持ちは大事ですが、司法、マスコミの協力を得ながら頭を使ってこれからの闘いに望んでいただきたいと思います」
と、滋賀医大幹部の底抜けのどうしようもなさを指摘し、闘いの方針を提示した。
ついで、代表幹事の小山さんがアピールを行った。小山さんは愛知県在住にもかかわらず、毎週のように滋賀医大前のスタンディングに参加されている。実直なお人柄で社会運動などとは無縁であった方とは思われない日常を昨年以来送っておられる。
毎週愛知県から滋賀医大抗議に訪れる小山さんの訴え
「私たちは滋賀医大病院で前立腺がんの小線源治療を受けた患者とその家族です。滋賀医大病院には高リスクの前立腺がんでも95%以上完治させることができる岡本圭生医師がいます。この岡本医師の卓越した小線源を求めて北海道から沖縄まで、全国から多くの患者が訪れています。ところが滋賀医大病院は今年いっぱいで岡本医師を病院から追い出そうとしています。それはいったいなぜでしょうか。
4年ほど前滋賀医大病院泌尿器科の医師が未経験であるにもかかわらず、それを患者に説明しないまま小線源治療をやろうと計画しました。岡本医師はその危険性を指摘し治療を阻止して23名の患者を救ったのです。
しかしこれをきっかけに滋賀医大病院は、泌尿器科、病院長、学長がそろって岡本医師の排除に向けて動き始めました。200名を超える患者の治療予約を一時的に停止させたり、岡本医師の講座を閉鎖するために学内の規則を変更するなど、患者を無視した嫌がらせのような行動をとってきました。これらは、すべて泌尿器科が行った不当医療行為を、組織ぐるみで隠ぺいするための行動です。
また滋賀医大病院は1年半前、岡本医師による小線源治療は、今年の6月末までとし、その後今年の12月末で岡本医師の治療を終了する、と一方的に宣言しました。しかし、先月20日大津地裁の仮処分決定により、今年の11月まで今まで通り岡本医師の治療を継続することが認められました。
ところが病院側はこの決定を守らず、『泌尿器科も小線源治療を行う』として岡本医師の小線源治療枠を一部横取りして、治療妨害を続けています。そして仮処分決定の取り消しを求める異議申し立てを行いました。新聞報道によると申し立ての理由は、『岡本医師の小線源治療が行われると、治療体制の見直しが必要になること、多くの患者が岡本医師の治療を希望して殺到する可能性が高いこと』を挙げているそうです。
全く信じられないような理由です。多くの患者が希望して、裁判所も継続を認めた治療を行うためですから、治療体制の見直しくらい、なぜできないのか。全く理解できません。やる気がないとしか思えません。2つ目の理由『多くの患者が殺到するから治療継続をやめろ』などということは、まともな病院が言うことでしょうか? 患者の命など全く眼中にないということを示しています。患者の命よりも、内部告発をした岡本医師を追い出して自分たちの地位を守ることが大事なんです。そんな泌尿器科の医師、病院長、学長には即刻退場してもらわねばなりません!
本日泌尿器科の不当医療により被害を受けた患者さんが泌尿器科の医師を相手に起こした裁判の5回目の口頭弁論が行われます。今後、学長、病院長、泌尿器科の医師を法廷に呼び出して証人尋問が行われます。裁判で不当医療の事実を明らかにして、滋賀医大病院が真に患者ファーストの病院に生まれ変わるよう、闘っていきます。
私たちは抜群の成績を誇る、岡本医師の治療を将来の前立腺がん患者にも受けてほしい、と願っています。そのために来年以降も、岡本医師の治療が滋賀医大病院で継続されることを求めています。市民の皆さん、どうかこの事件に注目してください。多くのがん患者の命綱が繋がるよう、ご支援をお願いいたします」
小山さんが事件の発端から今日の状態までをわかりやすく、訴えた。
大津地裁(西岡繁泰靖裁判長)は5月20日、岡本医師の申立てを全面的に認める決定を下した。笑顔で完全勝利のメッセージを掲げる鳥居さん(左)と宮内さん(右)
次いで5月20日の仮処分で治療の機会を獲得した、鳥居さんが「仮処分」勝利のうれしさと、今後の闘いへの決意を語った。集会前に鳥居さんにお話を伺ったら「手術日が決まりました!」と本当に明るい表情で笑顔を見せてくださった。やはり20日に勝利を勝ち取った宮内さんも、鳥居さんと同じ日に手術が決まったそうだ。宮内さんも喜びと、病院側が仮処分に異議申し立てを行ったことへの憤りを表明した。
次いで患者会代表幹事の宮野さんが、力強い檄を飛ばし集会の「我々は最後まで頑張るぞ!」と気勢を上げた。
我々は最後まで頑張るぞ!
この日も法廷内撮影があった。満席になった傍聴席と原告被告、裁判官の様子が2分間毎日放送により撮影されたのち、開廷が宣言された。裁判では被告が準備書面5を、補助参考人(岡本医師)が準備書面2を、原告が被告準備書面5への反論を弁論(書類を確認)した。その後被告代理人が成田医師が2例目に診察した患者のカルテの送付嘱託(裁判所からの依頼のよるカルテ開示)を裁判官に申し出た。原告弁護団長の井戸謙一弁護士は「必要性を認めない」と却下を求めたが、合議体(裁判官)は送付嘱託を認めた。
被告弁護人は「まだ出ていない証拠のメールがあれば出してほしい」と原告並びに補助参考人代理人に要請し、西岡裁判官も「弾劾証拠以外の証拠は出しておくように」と原告・補助参考人代理人に要請した。わたしは西岡裁判官のこの物言いは、やや必要性の域を超えるものではないかと素人ながらに感じた。これで実質的な弁論終結となったが、次回期日も書証のやりとりとなり、被告側が遅延戦術に出ているのではないかとの印象を受けた。裁判所にも夏休みがあるため、休み前の期日で調節が試みられたが都合がつかず、次回は8月22日、15:00からと決定した。
ここで閉廷となったが、裁判官が法廷を後にしたとき、傍聴席前列から声が上がった。「被告代理人は送付嘱託なんかしなくても『不正閲覧』をしているのであるから、必要ないんじゃないですか! 職員も泌尿器科の医者も不正閲覧しているんですから、裁判所に依頼する必要ないんじゃないですか! どこに必要があるんでしょうね。素人でも不思議ですね」。被告代理人はこの発言をした男性を睨みつけながら法廷を後にしていった。
井戸弁護士
14時からは社会教育会館に場所を移し、記者会見が始まった。井戸謙一弁護団長がこの日法廷で行われた内容の解説を行った。
「今日は被告側から準備書面5、岡本医師から準備書面2それから原告から準備書面5が陳述されました。その内容をご説明いたします。被告の準備書面5には大きく言うと3つの点が書かれています。準備書面4で被告は23名の方々に対する治療は、岡本医師を指導医とする『医療ユニット』によって行われようとしていた。だから成田医師が未経験であることを説明する義務はなかった、と主張していました。法廷で我々は『医療ユニット』とはなんなのかと。そんな言葉は今までに聞いたことがないし、『医療ユニット』について説明してくれと求めました。それに対する回答がまず書いてあります「医療ユニットというのは被告らの代理人である弁護士が作った言葉だ」というのが結論です。大学内部でそのような言葉が使われていたわけではありません、ということです。
では『医療ユニット』の内実は何なのかですか、となるわけです。1つは理屈の問題です。小線源治療学講座は泌尿器科から独立した存在ではなく、あくまで泌尿器科の一部なんだと。寄付講座の治療は泌尿器科の治療として行われたし、カルテも泌尿器科のカルテとして管理されていたと。寄付講座で行われていたことはすべて泌尿器科の一部なんだ、ということが書かれています。ここでなぜこのようなことをいう必要があるのかといえば、結局泌尿器科の科長は河内医師ですから、河内医師の指示・命令に従って小線源治療も行われる必要がある。そういうことを言いたいのだと思います。
もう一つは、河内教授が本件寄付講座の『責任教授』であるという概念を持ち出しています。辞令上河内教授は併任教授です。『責任教授』などという言葉は書いてないし、私どもが調べた範囲では滋賀医大において『責任教授』という概念は職制上用いられていないと思いますが、『責任教授』であると。河内教授が『責任教授』であると、岡本医師は特任教授ですから、趣旨としては寄付講座内部においても岡本医師よりも上だということを言いたいのだと思います。
この二つを言ったうえで寄付講座が始まる直前に、岡本医師を希望してきた患者には岡本医師が施術するわけですけれども、そうではない患者、病院内で診断しか結果、小線源治療が適当だとなった患者については、成田医師が担当することにして、それを岡本医師が指導するということにしたと。そのことを岡本医師に指示したら、岡本医師は異を唱えることはなかったということだけです。『医療ユニット』の実態はこれだけです。
これについて岡本医師は「確かにそのような話はあったけれども、それなら自分自身に直接診察させてくれ。自分が診察しないのであれば責任は持てないからそういうことはできない」と言ったと述べておられます。そのことには一切ふれていなくて、河内医師が指示をして、岡本医師は異を唱えることはなかったのだから、そういう体制でやることになったのだと。いうだけのことであって、そのあと現実に多くの患者の治療について成田医師と岡本医師の間にどういうやり取りがったのか。『医療ユニット』の実態があったのか、なかったのかについては一切触れていません。これが一つです。
二つ目は成田医師は二人の患者さんのプレプランをしています。一人目の患者さんの時に自分は『未経験だとは説明しなかった』が、二人目の時に『説明をした』と主張しています。カルテには説明したと書かれている。それは後から後から書き加えられたもので、虚偽記載であると岡本医師は主張しておられます。その点についてプレプラン時に伝えたから、そのあとの原告の方々の治療が予定されていたわけですが、『こういうことにならなければちゃんと伝えていたはずである』ということが2点目。
3点目は法律上の問題ですが、万が一被告らに責任があるとしても、被告らは責任を負わない。免責されると、そういう主張をしています。これは国家賠償法という法律があります。普通の人が不法行為をして、人に損害を与えたときは、その損害を賠償する責任があります。会社などであればその使用者にも責任があります(民法715条)。行為者は709条によって責任があり、会社も個人も責任を負担するわけです。ところが公務員が公務を執行するにつき、不法行為を犯したときには国、公共団体が責任を負うんですね。そのときに公務員個人も責任を負うのかということについては、学者の間で議論があります。日本の裁判所は公務員は責任を負わないという考え方に立っています。
問題は国立大学法人で医療事故があった場合に、民法が適用されるのか、国賠法が適用されるのかということです。もし国賠法が適用されるのであれば、国ないし公共団体が責任を負うけれども、医療過誤を犯した医師個人は責任を負わないわけです。
民法が適用されるのであれば、両方(病院・医師)とも責任を負うわけです。今回国賠法が適用される事案であるから、原告の主張通りの事実があったとしても、被告である河内氏、成田氏個人は責任を負わないという主張をしていました。国立大学附属病院における医療過誤事故はたくさんあり裁判例もいくつもあります。両方適用している裁判例もありますが、だいたい民法を適用するのが普通だといわれています。だから民法が適用されれば当然個人も責任を負うとなります。被告は例外的な裁判例を引いてきて、「個人は責任を負わない」そういう主張をしてきました。
それに対して補助参加人と原告からそれぞれ準備書面を出したわけです。原告の準備書面は『医療ユニット』が形成されたと言いながら、具体的な中身は何もないのではないか、ということと『責任教授』とはどのような概念なのか明らかにしろ。それから二人目のプレプランをした患者のカルテは虚偽記載であるということ。本件のようなケースは国賠法ではなく民法が適用されるべきであること。そういう内容の準備書面を提出して陳述したところです。補助参加人の主張については竹下先生どうぞ(略)
(著者注:竹下弁護士からは小線源講座は泌尿器科から独立していたこと。小線源講座設置の設置目的を根拠とした被告への反論、『責任教授』についての見解。発足当時は学長も小線源講座の独立を認めていたことなどが解説された)
準備書面の内容は以上の通りですね。そ例外にきょう行われたこととして、被告から送付嘱託の申し出がありました。1例目、2例目のプレプランをした患者ですね。2例目の方には説明をしたということが書かれている。それが虚偽であるということを参加人から証拠として提出してあるのですが、そのカルテの全体について送付嘱託をしてきました。
1例目、2例目の方は本件の原告ではないのでこれらの方々の症状は本件とは関係がないと思うし、いったい何を立証したいのかよくわからないので「必要性がない」と意見をだしましたけど、裁判所は採用された。次回期日までに出てくるだろうと思います。今後の予定については被告側は次回までにに人証の申請をするということでした。被告両名だけではなくて、学長、院長のほかそれ以外の大学の関係者。それから医学的評価についての証人も検討しているということですので、多数の尋問申請があるのかもしれません。裁判所はベストエビデンスに反するのではないかということで、ちょっと牽制をしていましたけど次回までに明らかになると思います。次回には主張のやり取りが終わって人証が決まって次々回以降本人尋問、証人尋問に入るという運びになるものと思います。以上です」
続いてこの問題を積極的に取材している毎日放送の橋本記者から、弾劾証拠や、この日の法廷の感想、仮処分決定が本訴訟に与える影響についての質問があった。ABCの浜田記者は原告大河内さんに感想を求めた。
滋賀医大への危機感を語る原告の大河内さん
大河内さんは、「長年、滋賀医大にお世話になった立場からすると、非常に信頼しておりました。今回のこの件で『こんなことがあるんだ』と。滋賀医大は医師を育てる大学でしょ。それが(患者を)医師が実験台というかモルモットという扱いをしていることに、非常に憤りを覚えました。私も危うく命を落とすところだったかなと思っておりました。こういうことがあっては今後よくないということで、訴訟に踏み切ったわけですけれども、そのあとの対応がもっと酷くなっていますね。患者の皆さんの命をを見捨てるような行動に出ている。姿勢を正してくれればいいかなと、いうつもりで始めたのですが、医大の3人組というか4人組というか、そういう人たちが変な方向に舵を切っていって、命を粗末にするようなふるまいをしている。こちらのほうが非常に危険を感じ、危機感を持っています。是非とも滋賀医大が医の倫理を取り戻せるように、我々も頑張りたいし、皆さんも一緒に頑張って頂きたいと思っております」
大河内さんのコメントの後、会場から拍手が沸き上がった。
滋賀医大に関する、訴訟や仮処分で大津地裁に足を向けるのは何回目になるだろうか。大河内さんが指摘されたように、一部の人間により大学病院全体がますますダッチロールの度合いを増しているように感じられて仕方がない。何度も強調するが、自分の生活を犠牲にしても患者に寄り添う医師や医療関係者が大多数の滋賀医大附属病院にとって、3人組もしくは4人組は、文字通り悪の権化である。
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▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。
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