あってはならない「忘却」──福島第一原発事故とその被災者への「忘却」

古いフォークソングに「過ぎてしまえば皆美しい」という歌詞があった。たしか森田公一という声の高い人の歌だった。記憶を美化したり、自分にとって激烈過ぎる体験は「忘却」してしまう機能をどうやら人間の脳は持っているようだ。

2月25日発売!『NO NUKES voice』第7号

他人事ではなく私にも思い当たる節はある。どうあがいても這い上がれない数年間があった。八方塞がりで自死こそ考えなかったもののこのままでは命が持たないとのたうち回っていた。ところがあれほど激烈であった日々の詳細を今はほとんど覚えていない。輪郭は記憶にはある。語るも憚られるような惨め極まりない姿で毎日全身の苦しみと苦闘していた「記憶」があるにはある。

でも、周囲の人から明らかに「人格崩壊」や「物理的な死」を心配してもらった私自身の言動についての記憶が殆ど消えている。思い出したいわけではないし、現在の精神状態にとって「自然忘却」は有難い脳の機能だと言わねばならない。しかし、同様に辛い過酷な記憶であっても忘却してはならない事実もある。個人的にも社会的にも自らが「加害」の側に立った場合の記憶だ。

法律で裁かれるかどうかはこの際あまり大きな問題ではない。むしろ法律は大きな犯罪を断罪しない側面すら持つので、極論すれば「道義的」、「人為的」な責任を負った場合と言えようか。

◆あってはならない「忘却」がある

少し回りくどくなったが、今私が気がかりな、あってはならないと考える「忘却」は、言わずもがな福島第一原発事故とその被災者への「忘却」である。人類史上例のない大事故、原発4機爆発とそれに伴う多量の放射性物質汚染、わずか5年弱前の出来事だ。確かに新聞には福島第一原発についての記事が途切れ途切れには掲載される。関心のある人の中では相変わらず話題になる。規模は小さくなっても原発反対運動は綿々と続いてはいる。

しかし、圧倒的な勢いで加害者側は事故を「忘却」させようと次々に毒矢を放って来る。事故後に「反省」するどころか、原発の輸出を行おうというのだからこの国は狂っている。この国から原発を買う国も狂っている。電気が余っていても再稼働を強行する政府と電力会社は単純に「犯罪者集団」と呼ばなければならない。そして福島原発事故まで原発に無関心であった人々、あるいは事故後に「脱(反)原発運動」」に一時参加し、早くも疲れてしまった人々にも極論すれば責任の一端はある。

◆現状に異議申し立て、「反対」するのにはエネルギーが要る

現状に異議申し立て、「反対」するのにはエネルギーが要る。運動が盛り上がっている時はそうでもないが、一旦下火になり周にいた人垣が薄れて行くと途端に「疲れ」は襲ってくる。そして出来れば「3・11」前に戻りたいと考えたりする。

「辛いよー。この生活は」

ある集会で福島から避難されている高齢の女性が唸るように語った。この方には「3・11」前に戻りたいと考える道理と権利があるだろう。しかし原発に反対しながらも、その実事故前と大して変わらぬ生活を送れている(私を含めた)人々には「忘却」する権利はない。

否「忘却」は僅か5年弱まえの出来事を心の中で「無かった」ものにしてしまうことによりまだ進行中の事故から目を背ける行為への加担だ。それは「犯罪者集団」が画策している「事実隠し」、「歴史殺し」に乗じると言っても過言ではない背信行為だ。

◆「覇権主義」「セクト主義者」への筆誅にも迷いはない

だから鹿砦社は『NO NUKES voice』を全力で編纂し続ける。原発災禍では満足せず人間犯罪の究極形「戦争」へ最短距離で猛進する現政権並びにそれを支持する連中は私(たち)の明確な敵である。また口では「脱(反)原発」、「反差別」、「反ファシズム」を唱えながら「排外主義」や「ファシズム」を実行するという悲喜劇を演じる人びとへの筆誅にも迷いはない。

悲喜劇を演じる人々を「左翼リベラル界隈」内での争いと看做す方もいるようだが、私(たち)はそうは考えない。彼らは左翼でもリベラルでもない。単なる「覇権主義」「セクト主義者」に過ぎない。よって『NO NUKES voice』が展開するであろう今後の議論が「左翼リベラル内での争い」と思慮されることは誤りであることを予め断りしておかねばならない。

私たちは忘れない。福島を中心とする被災地、被害者の辛さに思いを寄せて、どう評されようとも「脱(反)原発」を訴え続ける。これまでの自身を反省しながら。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

2月25日発売!『NO NUKES voice』第7号!

いつも何度でも福島の声を!──『NO NUKES voice』第7号が2月25日発売開始!

『NO NUKES voice』第7号が2月25日発売される。まずは表紙に注目して欲しい。この看板に読者諸氏は見覚えがないだろうか。私も直接現地で見たことはない。けれども双葉町に建てられたこの残酷にも、あっけらかんとした「原子力明るい未来のエネルギー」は講演会のスライドなどで何度も目にしたことがある。それ以上に実際は見たことがないくせに目に焼き付いたような感覚すらある。誤った既視感だが。

いつも何度でも福島の声を!──『NO NUKES voice』第7号2月25日発売

この秀逸にして残酷な看板の標語に採用された大沼勇治さんが本号には登場する。大沼さんは採用されたこの「不幸」な運命をたどる標語の撤去に断固反対している。表紙で「原子力『制御できない』エネルギー」の「制御できない」部分を掲げているのは大沼さんご自身だ。

大沼さんの思いを私がここで紹介するのははばかられる。是非本号に凝縮された大沼さんの思いを直接お読みいただきたい。

ちなみに大沼さんは本業の傍ら国内外からの取材が絶えず、本号出版から3月まで大手メディアの取材予定が引きも切らないそうだ。その取材の中には不肖私が昨年横浜で講演を聴き、その感想を本誌で綴った辺見庸氏を含む共同通信の取材もあると聞いている。

『NO NUKES voice』は本号から編集長が松岡利康氏から小島卓氏へと変わった。編集長交代に際して両氏の間で「なによりも福島を中心とした被災地の声と共に歩む」方針が確認されている。大沼さんが巻頭を飾る『NO NUKES voice』第7号はその思いを体現している。

予め決められていた行程通りではあるが、本年4月1日から家庭向け電力の「自由化」が始まる。広瀬隆氏にはその意味と課題、さらには「新電力」選択の際の留意点などを示唆して頂いた。新電力には一時「脱原発派」の振りをしたソフトバンクなどが電力会社と利益分散を巧みに計算し参入している。要注意であるし焦ってはならなない。「原発退治」の絶好の機会を残念な形にしては意味がないので是非広瀬氏の論考にはご注目頂きたい。

若手政治学者の旗頭的存在、白井聡氏にはご存知鈴木邦男氏がお話を伺った。「永続敗戦論」の鮮烈なインパクトが印象的な白井氏。果たして「原発問題」をどう斬るか。

同じく大学で教鞭を取る下地真樹先生には「市民運動」を中心に語って頂いた。大阪府警に令状逮捕された下地先生には「筋金入り」のイメージを持つ方も少なくないかもしれないが、インタビューでは意外な展開と見解が明らかにされる。下地先生の立ち位置、考えも是非直接読みいただき、少々感嘆して頂こう。

そして本号でもまた炸裂した「松岡砲」!題して「さらば、反原連(首都圏反原発連合)!――わたしたちはなぜ反原連に絶縁されたのか」。「信義則」、「内部干渉」を理由に一方的に「絶縁」を宣言して来た「反原連」と鹿砦社(とりわけ松岡前編集長)の間には何があったのか?そしてなぜ『NO NUKES voice』は「反原連」を唾棄すべき団体と断じるに至ったのか。本稿も様々な反響を呼ぶことは必至であろう。「セクトを排する」はずが自ら最悪の「セクト主義」に堕落した「反原連」。一時は多大な支援を行っていた松岡前編集長の逆鱗は原発問題に興味のない方々にとっても一読の価値ありだ。

本号からグラビアページは「ある特殊な事情」により前担当者から大宮浩平氏へと引き継がれた。大宮氏は「警察が趣味、機動隊大好き」などという馬鹿ではない。早速活力溢れるカットを読者に提供することになった。さらに乞うご期待!

各地の運動報告では福島原発事故避難者の河村幸子さん。玄海原発のプルサーマル運転と闘う石丸初美さん。匿名報道の実践と原発反対を貫いた南海日日新聞の元記者近藤誠さんの逝去を悼む浅野健一さん。高浜原発再稼働直前集会や経産省テント前広場からの報告など全国からの肉声が届けられる。

連載では本間龍さん、渋谷三七十さん、納谷正基さんの常連陣のボルテージが上がる。前号まで連載に名を連ねていたいくつかの団体は姿が見えない。連載を打ち切り、本号から姿を消した団体、個人は「反原連」同様、鹿砦社並びに『NO NUKES voice』を「切り捨てた」方々と断じて頂いて構わない。

翻訳、論考が一流であることは周知だが、最近パロディーとくに「替え歌」で非凡な才を発揮し続ける佐藤雅彦氏は本誌上でのマッドアマノ氏的地位を確立しつつある。小倉利丸氏は「核と被曝社会をなくす世界社会フォーラム」への参加を呼びかける。

腐敗、堕落分子が一掃された『NO NUKES voice』第7号は前号までと明確に色合いを異にすることを確信する。しかしその評価は読者諸氏に委ねる。忌憚のないご意見、ご感想を頂ければ幸いである。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

2月25日発売!『NO NUKES voice』Vol.7!

ポンコツ原発動かすな!──デモの最中に関電高浜原発冷却水漏れ事故発生!

2月20日あいにくの雨天下、「若狭の原発を考える会」の呼び掛けで高浜原発4号機再稼働反対デモが高浜原発前に向かい展開された。

2月20日浜岡原発ゲート前。この時、関電の中では警報音が鳴り響き1次冷却水漏れが発生していた(筆者撮影)

2016年2月21日付福井新聞

既に再稼働されてしまった3号機に続き、老朽化で危険極まりない4号機の再稼働は狂気の沙汰だ。東京や遠隔地からの参加者100余名が「ポンコツ原発動かすな!」、「若狭の自然を守れ!」と関西電力を糾弾した。

その抗議が高浜原発正面で行われていた正にその時刻、原発内では一次冷却水漏れを警告するアラームが響き渡り、現場は大混乱に陥っていたのだ。デモ参加者の危惧が現実のものとなっていたのだ。

2月21日の福井新聞は「高浜原発4号一次冷却水漏れ 再稼働作業を中断」の見出しで一次冷却水約34リットルが漏れたと報じている。関西電力は「(再稼働)工程に影響が出るかは、現段階では分からない」と述べているが、この連中に理性は無いらしい。

同日21日は地域にチラシを配るアメ―バデモが展開された。住宅街でチラシを投函していると正午丁度に「故郷」のメロディーが流れる。町内放送だろうか。高浜に限らず全ての原発立地が「故郷」でいられるためには全原発即時排炉しかない、と実感した。

高浜2・20抗議行動。デモ出発時風景(筆者撮影)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

2月25日発売!『NO NUKES voice』Vol.7!

山本太郎が闘った原発推進派、石原伸晃を「護憲派」とつぶやく反原連の女帝

甘利経済再生大臣が辞任してその後任者となった石原伸晃。ご存知石原慎太郎の息子にして環境大臣時代を勤めた経験もある奴は、環境大臣就任前だが2014年6月16日、首相官邸で記者団に対し、福島第一原発事故に関する汚染廃棄物を保管する国の中間貯蔵施設建設について「最後は 金目 (かねめ) でしょ」と発言したあの男だ。私から見ればまったく評価する点のない「極悪政治家」の1人であるが、一部の人たちに的外れな石原伸晃への「誤解」があるようだ。「反原発」界では「女帝」として君臨するある人物が下記のごとくツイッターに書き込みをしていた。

「石原伸晃は意外だけど護憲派。反原連のメンバーが伸晃ブログにそう書いてあるのを発見し事務所に電話したら「先生は昔から護憲派です」との答え。今ぐぐったらこんなアンケートも。http://tknottet.sakura.ne.jp/Article9/Anti9_tokyo.html?…安倍内閣に入閣、改憲についても考えを変えるのだろうか?」

え!そんな馬鹿な! こいつは以前から確信的な「改憲主義者」として知られているじゃないか。政治家が前言を翻すのは日常茶飯事だが、「昔から護憲派」は完全な嘘だ。

その証拠を示そう。2012年の衆議院選挙を控えて毎日新聞が実施した下記のアンケートだ。石原伸晃は「憲法改正賛成」、「集団的自衛権容認」、「原発再稼動賛成」、「2030年に原発をゼロにする(当時民主党政権の一時的政策)には『反対』」、「TPP反対」、「辺野古基地建設推進」を明言している。衆議院では2014年にも選挙が行われており、その際に示されたのが最新の見解、政策ということができよう。仮に最新のアンケート結果と違う政治姿勢に転じたのであれば「公約違反」ということになる。

ちなみに「女帝」様が示しているアンケートは2009年8月30日に行われたものである。直近2014年に行われた毎日新聞のアンケートでは下記の通りだ。

「憲法9条改正には反対」だが「集団的自衛権には賛成」、「アベノミクスを評価」、「原発は日本に必要」、「靖国神社に首相が参拝することは問題ない」、「村山談話・河野談話は見直すべき」、「特定秘密保護法は日本に必要」、「道徳を小中学校の授業で教え、評価することに賛成」、「カジノ解禁に賛成」が石原伸晃の最新の主張だ。このアンケートではTPPへの設問はない。

政治家の政策を判断するのは直近の情報でなければ参考に値しない。彼らは簡単に前言を翻すからだ。万が一石原伸晃が「改憲には賛成だが9条改憲には反対」であるとしても「集団的自衛権」を容認しているのだから「9条」を実質無視する政策を支持する人間であることに変わりはない。
http://senkyo.mainichi.jp/46shu/kouji_hirei_meikan.html?mid=D05001001008

なにが「昔から護憲派」だ! アホぬかせ! 2012年には告示直前に現参議院議員の山本太郎氏が石原伸晃と同じ東京8区から出馬を表明し、落選したものの、7万票を得て話題となった選挙だった。山本太郎氏は「最も全国で注目されるところ、東京最強といわれる石原おぼっちゃま」に挑んで真っ向から反対の政策を打ち出したじゃないか。たった4年前のことももうお忘れなのか「女帝」様。それに石原伸晃は「反原発集会は集団ヒステリー」と発言したこともあったし、福島第一原発を「福島第一サティアン」と呼んだこともある。脱原発陣営からすれば明確すぎるほど明確な「敵」ではないか。

ちなみに石原伸晃は「政教分離を進める会」(公明党の政教分離を問題にする議員の会)に所属していた過去があるが、現在選挙では公明党が有力な支持母体になっている。さらに本人は新興宗教の「宗教真光」の信者であり「神道政治連盟国会議員懇談会」にも所属している。一時公明党の政教分離を問題にしていたわりには神道に甘く上記のアンケートの回答どおり「靖国神社への首相参拝問題なし」と言い放つ人間である。

「女帝」様のツイッターの書き込みには呆れてものが言えない。しかし要するにこの程度の認識、感覚の人間が「専制的」に運動を仕切るのだから、テーマに何を掲げてもその運動が「翼賛運動化」していくのは頷ける。だいたい反原発を掲げる団体の人間が「再稼動容認」で自民党の中心にいる人間にいったい何を期待するのだ。河野太郎だって平議員の時は「脱原発」を口にしていたくせに、入閣するや原発への言及は一切なくなったではないか。あなたたちは「反原発」を掲げる団体ではないのか?「再稼動容認」を名言する石原伸晃に何を期待しているのだ。誤った情報を基にして。

こう指摘すれば、たとえば、
「石原氏への言及は本人のブログと事務所への確認を行った(裏を取った)ものであり、間違いはありません。ツイッターでの言及はあくまで『入閣後に改憲への意見を変えるのか』という視点を提供しているだけで、石原氏への支持を意味するものではないことは『普通の人』なら理解できるでしょう。そうでない言いがかりは根性の曲がった曲がった『ヘサヨ』的偏見です」
とかなんとか言い出すんだろう。

原発事故後に社会運動を始めた山本太郎氏は「首を取りに行く」ターゲットとして石原伸晃を見据えた。落選はしたがその視点には共感できる。石原伸晃こそ現代的な自民党議員の代表と言ってもいい人間だからだ。 

石原伸晃は4年前の選挙で「TPP反対」を明言していながら、その担当の大臣に就任するとは、まったくもってご立派な感性の持ち主ではないか。この点を「女帝」様はご存知か?もしご存じなければどうお考えになるだろう。

要するに石原伸晃は「嘘つき」だ。その嘘、しかも見え見えでこちらが恥ずかしくなるような稚拙な嘘に騙されるような人間が君臨する運動体は大丈夫か? え? どうなんだ?

▼田所敏夫(たどころ としお)
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◎『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』出版記念で小出裕章さんを囲む会!
◎菅直人VS安倍晋三裁判──請求棄却判決の不当とねじれ過ぎた真実
◎3.11以後の世界──日本で具現化された「ニュースピーク」の時代に抗す
 

反骨の砦に集え!月刊『紙の爆弾』!

経済合理より治安優先の「東京マラソン」──危機管理演習への嫌悪感

2007年に第一回大会を実施した東京マラソンが今年も2月28日行われる。10回目大会となる。

1964年東京オリンピックでの都内中心コースのマラソンが実施されて以降、東京の都心では「経済的影響を考えると実施は不可能」と言われ、大阪、名古屋などの大都市が女子マラソンを中心にフルマラソンの大会を活性化させても、長く東京都(あるいは「国」)や陸上関係者は東京都心でのマラソン実施に熱心ではなかった。23区内ではないが青梅マラソンが市民参加型として歴史を持つこともあり、「東京マラソン」は「経済的観点から」長期間現実的なものとして考えられることがなかった。

◆石原都知事時代の布石──ビックレスキュー2000と「三国人」発言

その風向きが変わったのが2003年、当時の石原慎太郎都知事が「東京マラソン実施」構想を発表して以来だった。石原は「経済波及効果、スポーツ観光の振興につながる」ことを理由に「東京マラソン」実現に相当な力を注いだが、日本財団会長(当時)だった曽野綾子や笹川スポーツ財団などが強く後押しをした。

それに先立つこと3年前の2000年9月3日、石原は「東京総合防災訓練(ビックレスキュー2000)」を実施している。この訓練には警察・消防の他に自衛隊が参加し、表向きは災害・緊急時の訓練を装っていたものの、多くの人から「治安維持訓練ではないか」との疑問が呈された。1万余名の参加者のうち7000名を自衛隊員が占め、都心を工装車が走る異様な姿が見られた。パラシュート部隊落下訓練もあった。

1999年から東京都の災害対策担当参与に就任していた元自衛官で好戦派として知られる志方俊之が訓練に参加していたことも「治安維持訓練」疑念を湧き起こさせる理由となった。災害対策の訓練に何故装甲車が必要なのか? パラシュート部隊が災害の際に何の役に立つのか? 直下型地震やそれに付随する災害への対応というが、今から振り返っても東日本大震災で自衛隊が活躍した場面で装甲車やパラシュート部隊などが役割を果たす場面は皆無だった。

「ビックレスキュー2000」の真の目的は、石原自身の口から、それに先立つ同年4月9日、自衛隊練馬駐屯地で語られている。「今日の東京を見ると、不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している」「こういった状況で、すごく大きな災害が起きたときには大きな騒擾事件すら想定される」から「こういうときに自衛隊に出動してもらって、災害の救急だけではなく治安の維持も自衛隊の大きな目的として遂行してもらいたい」

つまり災害対策ではなく「治安訓練」もしくは「軍事訓練」を実施したいとするのが石原の本音だった訳だ。上記の発言はその内容もさることながら「三国人」という差別語を差別的な意味で使用したことが大きな批判を撒き越した。

◆「経済の理論」を「治安の理論」が凌駕した「東京マラソン」

話が逸れたようだが、東京マラソンの実施も石原及び日本財団などからは単なるスポーツイベントとしてではなく、治安訓練を兼ねた一種の「演習」と最初から位置付けられていた。石原は前述のように東京マラソン実施の理由に「経済波及効果」を挙げてはいたが、それは端から飾り言葉であり、真の目的は有事(戦争)の際の人口移動や統率・管理のシュミレーションと情報収集にあったのだ。つまり「経済の理論」を「治安の理論」が凌駕した結果産れたのが「東京マラソン」なのだ。

それを裏付けるのが下記のテレビ番組だ。2009年に放送された「ウソかホントかわからないやりすぎ都市伝説スペシャル」で「東京マラソンの裏にある国家機密」が3分余り取り上げられているが、この中ではかなり的を射た指摘がなされている、最後の風水についての言及を除いて(この真偽を私は知らないので)語られていることは全て真実ばかりである。著作権の関係でいつ消去されるかわからないので要点を抽出しておく。


◎[参考動画]東京マラソンの裏にある国家機密【やりすぎ都市伝説】(2009年SP)

・主要幹線道路を7時間も封鎖すると交通がマヒするとの反対意見が開催前には多かった。
・しかし国にはどうしても実施しなければいけない理由があった。マラソンコースを見ればわかる。明らかに都心の中心部で混雑を誘発するコース設定だ(カギ十字、風車型になっている)。その中心は霞が関だ。
・通常のマラソンは給水程度しかないのに、東京マラソンはバナナ、パン、チョコ、白米、みそ汁など食事が用意されていた。
・有事の際の人間がどう移動するかのデータを知りたくて行われているのではないか。その証拠にランナーには「RC」チップを付けることが義務付けられているが、これを付けていると主催者はどの人間がどう動いたか完全に掌握が出来る。人の動きのデータが取れる。
・実際に2008年に東京マラソンが実施された2か月後に国は東京に直下型地震が起きた際の避難シュミレーションを発表した。多くの専門家は「実際に何万人かの人間を動かさないと算出できるはずのないデータだ」と驚いている。

◆「東京オリンピック」並みの嫌悪感

東京マラソンの参加者は2007年第一回大会、申込者が95,044人で参加者は30,870人(出走者)だったが、昨年は申込者が305,734人で参加者は35,797人と参加希望者は年々増加している。運営のために「一般財団法人東京マラソン財団」が2010年に設立されており、この財団は基本財産だけで8億8千万円を保持するマンモス財団だ。フルマラソン参加者は10,800円の参加費用(国内、海外からは12,800円)を参加費として支払うが、それ以外にも多数の協賛スポンサーからの収入もあるだろう。

昨年からは一般ランナーに交じって「ランニングポリス」と呼ばれる警察官が(主催者要請により)走っている。昨年10キロ交代で計64人の警察官が「参加」したと発表されている。

私はマラソンが嫌いではない。でも東京マラソンだけはその出自が元より気持ち悪かったので関心が薄い。否、正直に言えば「治安訓練」に他ならない「東京マラソン」には「東京オリンピック」並みの嫌悪感が消えない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎日本経済のラストタンゴがはじまる
◎「戦中」突入社会──民間船員の予備自衛官化は「徴兵制開始」である
◎間近に迫った日弁連会長選挙──日弁連がネットの「言論の自由」を弾圧か?

反骨の砦に集え!7日発売『紙の爆弾』!

『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』出版記念で小出裕章さんを囲む会!

2月5日、大阪中央区谷町6丁目の隆祥館書店で「『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』毎日新聞出版記念イベント 小出裕章さんを囲む会」が行われた。隆祥館書店の5階にある会場には立ち見が出るほどの人が集まり、2月初旬の夜だというのに窓を開けないと熱気で息苦しいほどの満員状態だった。

◆「たね蒔きジャーナル」が報じ続けた「真実を語る原子力研究者」小出さんの声

2016年2月5日大阪谷町6丁目の隆祥館書店にて

2011年3月11日以前、原子力発電の問題に関心のない人々の間ではそれほど名前が知れ渡っていたわけではない小出さんは事故後ほどなく「真実を語る原子力研究者」として、その存在が急速に際立ちはじめる。

MBS(毎日放送)ラジオ番組「たね蒔きジャーナル」は福島原発事故の現状や課題、困難さや危険を生中継で小出さんが解説する時間を設けた。他の大手メディアには小出さんのような明確に原発に反対する研究者が登場することすらほとんどない中、日々変化する状況へ小出さんの解説や意見は別格に鋭く、人々は恐怖を感じながらも畏敬の念で彼の解説に注意を払うようになった。「たね蒔きジャーナル」における小出さんの解説は毎日放送の電波が届く関西圏だけでなく、それを録音した人々がYoutubeやSNSに投稿するなどして、全国、全世界へと広がった。

一方毎週末には全国各地で小出さんの講演会や勉強会が開かれた。常人には想像もできない猛烈な勢いで日本全国を駆け巡り、講演を行い、質問者には時間が許せば最後の1人まで丁寧に答える小出さんの姿は「反原発伝道師」のようですらあった。国内だけではなく米国、台湾、韓国などからも招かれ講演に出かけられている。

当時小出さんは「今は私にとって『戦争』ですから」と語っておられた。その「戦争」は京大原子炉実験所を定年退職され、長野県に移住された後も小出さんを「戦地」から解放してくれはしなかった。この日の会場となった隆祥館書店満員に姿を見せた小出さんは小さな鞄に「安倍政治を許さない」と書かれたバッチを付けていた。

◆『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』は京大退職後、初の書き下ろし

2016年2月5日大阪谷町6丁目の隆祥館書店にて

2015年3月に京都大学原子炉実験所を定年退職されてから、初めての書き下ろしとなる『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』では原発事故への言及ももちろん豊富だが、事故後発生した社会的な出来事、とりわけ「戦争」に向かう数々の断面をジャーナリストのように指摘されていることが際立っている。

前述の「たね蒔きジャーナル」をはじめとして小出さんが定期的に出演した番組が全て今は「無くなっている」こと。それは実質的に自分の出演が理由で番組自体が消滅させられた(可能性がある)と考えること。マスコミの退廃極まりない現状への直接の批判。そして小出さんが「原子力マフィア」=犯罪集団と呼ぶ行政、政治、企業、マスコミが画策する原発維持=核兵器製造技術保持と、福島第一原発事故の風化を目論む策動。そして文字通りの「戦争」へ邁進する安倍や自民党への容赦ない批判と警鐘。

この日の講演ではマイナンバー導入について「人が名前ではなく番号で識別される」ことを小出さんは危険視し、嫌悪することが語られた。穏やかな言葉ではあるがスクリーンに映し出された画像の中には「まことにこの国は狂っている」、「自分の身に危険が迫った時は、既に抵抗する人の可能性は奪われている」ともあった。

原子力の専門家小出さんは、依然として「原子力非常事態宣言」が発令されたままの2016年2月、「反原発」と同じほどの比重で「戦争」の到来の危機を語った。いつも通りの穏やかな語りと笑顔から立て板に水のように紡がれる言葉は、残念ながらその内容が年々悲観的に傾きつつある。

原子力研究の専門家であると同時に、小出さんはご自身が仰るとおり「徹底的な個人主義者」であり「反戦・反差別主義者」だ。でも論文でない限り小出さんの著作は、語りの様に優しい言い回しで綴られる。

◆隆祥館書店は久方振りに「書店」の意気込みを感じさせてくれる本屋さんだった!

2016年2月5日大阪谷町6丁目の隆祥館書店にて

この日の集まりが行われた隆祥館書店は決して大きな書店ではない。講演前、隆祥館書店二村知子氏は「アマゾンや大規模書店の展開により小規模の書店は経営が非常に厳しく閉店が相次いでいる。しかしテレビや新聞が伝えない事実でも書物であれば真実が書かれている。伝えられる。書店としての社会的責任を果たして行きたい」と書店の社会的責任を挨拶として述べられた。隆祥館書店はこの日のように書物の著者を招き講演や座談会などをこれまで既に100回以上行っている。小出さんも講演の冒頭「小さな気概ある書店」の存在に言及された。

言われてみればそうだ。私自身が書店に個性や魅力を感じなくなってどのくらい経つだろう。書店の魅力は売り場面積の広さではない。書架に並ぶラインナップが「ウム」と唸らせてくれるかどうかが、かつては決め手だった。大規模書店には個性が乏しい。初めて訪れた隆祥館書店は久方振りに「書店」の意気込みを感じさせてくれる本屋さんだった。だから小出さんも応援に駆け付けたに違いない。


◎[参考動画]小出裕章氏「原発と戦争を推し進める愚かな国、日本」出版記念講演会(2015年9月19日毎日ホール)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎菅直人VS安倍晋三裁判──請求棄却判決の不当とねじれ過ぎた真実
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虚言を検証することなく「号外」として出す読売新聞の無知蒙昧

天敵のようにこの島国の政府、メディアから看做されている「朝鮮民主主義人民共和国」が、自称「水爆実験」を行ったのは1月6日だった。読売新聞は号外を出し、聞くところによると同日夕刻NHKテレビは7時のニュースを通常の30分から1時間に広げて報道したそうだ。

朝鮮の核実験は過去にもあった。その都度朝鮮のプロパガンダも含めこの島国のメディアはあたかも「明日にも核ミサイルが飛んでくる」かのごとき報道をした。その際に本質的には関係のない「拉致被害者家族」のコメントを添付することを忘れはしなかった。それは今回も同様だ。2001年に小泉首相が電撃訪朝し、結果として拉致被害者の一部が帰国出来て以来、拉致被害者帰国へ向けた日本政府の効果的な働きかけは私が見るところ皆無だ。

「圧力と対話」などという成立しない矛盾を平然と掲げ恥じることなく、多くの国会議員の左胸には青いバッチが見て取れ得る。「拉致被害者」は政争の具に使われている、と察知したかつての「家族会事務局長」蓮池透氏は「家族会」から離れた。弟の薫氏が羽田空港に降り立った時、彼の胸にある金正日バッチを指さし、悲しい時間を忘却するように弟を指弾した蓮池透氏は呪術から解かれたように柔和な表情で、朝鮮との関係や原発問題(彼は福島第一原発3号機に勤務する東電社員であったが定年を待たずに退職している)を語るようになった。

蓮池透氏の態度の変貌にこそ我々は学ぶべきではないか。「信用に値しない」仮想敵国が自国の国民向けに発表した時点で「北朝鮮水爆実験」の号外を出す読売新聞社の価値判断基準はどこにあるのだ。仮想敵国の勝手な言い分ならば少なくとも過去同様の検証があって後の断定でなければ間違いの可能性はないのか。朝鮮は毎日のように韓国との緊張の高まり、戦争の可能性をニュースで流し続けているけども、毎度毎度のプロパガンダを本気で取り合っていればこれまでに何百回南北間で戦争が起きていなければおかしいではないか。

当日私に知人から何通かのメールが来た。「北朝鮮が水爆実験?大丈夫か?」との疑問に私は「今発表されているのは朝鮮本国の言い分だけであり、米軍機が上空で核種の取集を行っているが過去と異なり現在のところ何の核物質も検出されていない。これが核実験の可能性は排除できないが、極端な話単に多量のTNT爆薬を集めての『偽装核実験』の可能性も排除できないと思う」と回答した。

2日とおかずに米国政府は朝鮮が「水爆実験」と発表した事件が「水爆実験」ではなかったとする見解を明らかにする。安倍首相も水爆実験を否定する。で、読売新聞は「号外」の誤報をいったいどのように抗弁したのであろうか。私は読売新聞「程度」のレベルの低い反応をするメディアを軽蔑するので彼らの報道を検証する気すらない。彼らの報道には何の思想も一貫性もない。そのことを恥に思わないのかとだけ聞いてみたいのだ。

常に天皇制に依拠する自民党権力に寄り添いながら、中国、朝鮮を仮想敵国視しながらも、その「虚言」を検証することもなく「号外」として出す。このような行為を日本語で「無知」、「破廉恥」と呼ぶ。

そこで形式ばかり配慮されるのは「拉致被害者」の家族だが、政府は「北朝鮮憎し」の世論喚起のためだけに彼らを利用しつづけているだけで、本気で拉致被害者の帰国を実現する気などさらさらない。しかもその背後に本来は強く意識されるべき日本の朝鮮半島侵略行為という重大な歴史についての配慮など微塵もありはしない。

日本と韓国の間には「日本国と大韓民国の間の基本関係に関する条約」(通称「日韓基本条約」)が1965年に締結されている。戦時(侵略)補償について極めて不平等な「日韓条約」が存在する。「日韓条約」締結を巡っては日本・韓国両国の国民の間で激しい反対運動が展開された。この条約が日本の戦争(侵略)賠償を十分に行うものでなく、条約に盛り込まれた以外の全ての請求権を韓国に放棄させるという「不平等条約」だったからだ。しかしながら不充分であっても一応の補償をしたのは事実ではある。

他方、日本が侵略した当時は1つの国の一部であった朝鮮に対しては、今日に至るまで戦争(侵略)賠償は1円もなされていない。「日韓基本条約」では朝鮮半島における唯一の政府を韓国と決めつけている無茶もあり、「拉致問題」を議論する前提としての「戦後処理」すら終わっていないのが日本と朝鮮の関係だということが、この島国の多数の国民には知られていない。

朝鮮の核開発に私は反対だ。また朝鮮の政治が世襲的独裁体制であることも好感しない。だが、日本政府があたかも「北朝鮮より日本は自由ですよ」と垂れ流すプロパガンダにも大きな嘘が内包されていると感じる。朝鮮での軍事パレードや一連の政府行事に動員される市民は、おそらく「強制」であって拒否する権利などないだろう。

では、正月の「一般参賀」に皇居を訪れる日本人はどうだろうか。強制もされていないのに日の丸を持って「自らの意思」で皇居を訪れ「天皇陛下万歳」を叫ぶ。この姿は明治憲法で「大元帥」(戦争の最高指揮官)として中国侵略、第二次大戦開戦を行った昭和天皇が存命時から一向に変わらない姿だ。

朝鮮の専制は酷かろうが、日本のこの様はどうだ。ドイツでヒットラーやナチスをいまだに有難がり「カギ十字」を振る大衆が居るか。イタリアでムッソリーニの子息を有難がり戦争時代を懐かしむ馬鹿がいるか。「自由」と言いながら朝鮮と何変わらぬ風景を皇居や靖国神社で毎年繰り返している(そこへ向かう大衆の数は増えているという)この島国は朝鮮を笑えるか、批判できるか。 

朝鮮の核実験には言わずもがな反対だが、原発4機を爆発させていながら再稼働に突き進むこの島国の為政者と経済団体の感覚は朝鮮の無茶さと同等だとすら言えまいか。

さて、7日以来大騒ぎの朝鮮による「実質的ミサイル打ち上げ」騒ぎには深く言及する気さえ起らない。理由は既に米国が確認している通り「人工衛星」2つが確認されており、打ち上げられた物体が「ロケット」であることが明らかだからだ。

それを「ミサイル」だと大騒ぎする国際世論、マスコミには「馬鹿だ」と一言だけいっておく。

踊らされてはならない。「馬鹿」どもに。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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日本経済のラストタンゴがはじまる

証券会社の個人顧客担当者が忙しくなってきた。好調な推移を見せていた株価の下落と主として利回りの高い外国債の為替差益が大きくマイナスに転じ始めたからだ。

ブラジルの通貨リラや南アフリカの通貨ランドは米ドルと連動しない動きをする通貨として市場関係者の間では知られているが、この10年程円高、日本株低迷の中で個人投資家を対象とする証券会社の営業担当者は積極的にブラジル国債、インド国債などへの投資を勧めてきた。

利回りが高いこれらの国の国債は為替差益で含み損が出ない限り、利息も含めかなりの高収益を生む。だが利回りが高いことは、それだけ「不確定要因」も高いことを意味する。かつてデフォルトを起こしたアルゼンチン国債同様の事態は高利回りの国債商品には付き物のリスクであることは言うまでもない。

円安の中ブラジルのリラが下落し始めた。原油価格は1バーレル30ドル台(数年前の最高時には1バーレル160ドルを超えていた)、連動して天然ガスの価格も暴落している。

◆米大統領選挙の年には世界経済が大きく振動する

今年は米国大領選挙の年でもある。大統領選挙の年には世界経済が大きく振動することは常識といってもいい。

円は現在ドルに対して110円代後半だが、これは輸出産業を優遇するために安倍政権が恣意的に引き起こした「円安」誘導の結果であり、長く続くものではない。このレベルの為替相場が続けば産油国をはじめとする原材料輸出国や米国が必ず圧迫をかけて来るに違いない。現在の極端な原油安もその先で利益確保を狙った投機筋の意図的操作と見て間違いないだろう。

既に米国FRB(連保準備制度)は利上げ実施し、これまで世界各地、とりわけアジアに滞留していた資金を急激に米国本国に引き上げようとしている(追加の利上げは今のところ見送られている)。

そういった基本的な状況を認識しつつも今後の景気予想、株価予想は大きく分かれている。週刊現代は数カ月前まで「株価3万円も!」と株価の増進をひたすら予想する記事を毎号組んでいたが、ここへ来て急に弱気になっている。最近号の広告では「株価1万4千円台も」がメインの記事だ。一方、週刊ポストは「まだまだこれから」派のようだ。「半年後株価2万3千円これだけの根拠」が特集されている。

◆サミット後には急激な円高がやってくる

中国の景気後退が明らかになり、成長率が昨年は6.5(統計によっては6.8)%だったと発表された。だがこの数字は多分に疑わしい。上海株式市場は取引停止銘柄が半数を超え、日本でいう「ストップ安」の際に働く自動取引停止システムが起動しっぱなしだ。これに対して中国の投資家からは厳しい批判が沸き起こっている。売り逃げが出来ないからだ。

要するに世界経済は「中国の成長」という、大前提に立った1つの時代が終焉を迎えているのだ。日本では「バブル」という時代があった。あの時代が日本における「あぶく銭」多量流通の最後のあだ花だったことは今となっては明らかだ。「爆買い」で日本を訪れる中国からの観光客の姿もあと数年で終息するだろう。東アジアの成長は頭打ちで、産業成長の中心はいまだに人口増を続けるベトナムやビルマ、マレーシアに移行していくだろう。

だから、証券会社の営業担当者は忙しいのだ。手持ちの顧客の資産を減らさないように、それでいてある程度の取引を定期的に行わせて手数料収入を確保するために。株式相場は企業の収益や利益を素直に反映するものではない。だから予想が困難なのだが、米国の利上げが決まったからには海外の機関投資家は日本株をどんどん売りに走るだろう。日本ではこれから株価が下がると私は推測している。

日銀は「マイナス金利」を打ち出した。日銀の当座預金にも「手数料」をかけることにより、金融機関が日銀に設ける当座預金の資金を市場へ吐き出させようとの狙いらしい。日銀がここまで必死になるのは「2%」の物価上昇を実現するためだと言う。デフレスパイラルからの脱却(インフレ誘導政策)を掲げた安倍政権の公約実現が目標だそうだ。

しかし、そんなもの意味があるか? 消費税8%への引き上げで末端消費者だけでなく、中小企業も仕入れ値の実質的上昇を食らっている。さらに便乗値上げも相次いで「デフレ」感など財務省や大企業以外感じていないのではないか。昨年は(「連合」を中心とする「労組」の闘いではなく)安倍の要請により経団連は賃上げを受け入れ、今年も引き続き経団連は賃上げを表明している。儲かっているんじゃないのか。大企業は。

そしてサミット後には急激な円高がやってくるだろう。そのタイミングで今も青色吐息のシャープが台湾の「鴻海」に完全に買い叩かれるだろう。かつては世界をリードした液晶のシャープはかくして日本企業ではなくなる。同時期に全国のマクドナルドが閉店するかもしれない。ご本山米国のマクドナルドの経営不振も深刻なようだ。

昨年私がこのコラムでマクドナルドの不調を取り上げて以来、日本マクドナルドの収益はさらに悪化し、米国のマクドナルドも日本マクドナルド株の売却を検討しているとの情報もある。

間もなく株価が下がり、円高が進み、シャープが売られ、マクドナルドの閉店が相次ぐことを予想しておく。

上記はいずれも私には全く関係のないことである。
貧乏でよかった。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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「戦中」突入社会──民間船員の予備自衛官化は「徴兵制開始」である

戦争へ向かう潮流はついに実質的な「徴兵制」を立ち上がらせ始めた。1月29日、全日本海員組合は記者会見を行い、下記の声明を発表した。

「一昨年からのいわゆる『機動展開構想』に関する一連の報道を受け、全日本海員組合は、民間船員を予備自衛官として活用することに対し断固反対する旨の声明を発し、様々な対応を図ってきた。しかしながら、防衛省は平成28年度予算案に、海上自衛隊の予備自衛官補として『21名』を採用できるよう盛り込んだ。われわれ船員の声を全く無視した施策が政府の中で具体的に進められてきたことは誠に遺憾である」

全日本海員組合の2016年1月29日付け声明

※全文は全日本海員組合のHPを参照

この「事件」は明らかな「徴兵制」あるいは「徴用」が海洋部門で始まったことを示す重大事だ。大々的に報道され、多くの人が知るべきだが私が知る限り毎日新聞がそこそこの紙面を割いて報道している以外に大きな報道は見当たらない。
<船員予備自衛官化>「事実上の徴用」海員組合が反発(毎日新聞 2016年1月29日配信)

既に「構想」や「想定」の範囲を超えて、防衛省は2016年度予算に「21名」の民間人を予備自衛官補として「徴用」する予算を確保しているのである。防衛省は「強制はしない」と言っているそうだが、予算を確保し具体的な人数まで明言して「徴用」を行わないはずがない。

◆「強制をするものではない」は空手形の常套句

政権が無茶な法制や施策を導入しようとする際、強烈な世論の反対に少々の配慮をして「強制をするものではない」は必ず用いられる空手形同様の常套句である。「国家・国旗法」が施行された小渕政権時の1999年にも多くの世論の反対を受けた。
小渕は国会答弁で、
「学校におきまして学習指導要領に基づき、国旗・国歌について児童生徒を指導すべき責務を負っており、学校におけるこのような国旗・国歌の指導は、国民として必要な基礎的、基本的な内容を身につけることを目的として行われておるものでありまして、子供たちの良心の自由を制約しようというものでないと考えております」
「国旗及び国歌の強制についてお尋ねがありましたが、政府といたしましては、国旗・国歌の法制化に当たり、国旗の掲揚に関し義務づけなどを行うことは考えておりません。したがって、現行の運用に変更が生ずることにはならないと考えております」

と「強制はしないと」明言したが、一度法制化して時間が経過すれば、やがて既成事実化が積み重なり、それに対する反対は「踏みつぶせる」ことを予見していたに違いない。事実、近年「日の丸・君が代」は不可侵の色彩さえ帯び始めた。小渕は翌年首相在任中急逝するが、後世に禍根を残す悪法を成立させた罰があたったのかもしれない。

◆防衛省の海員「徴用」は確実に進められる

「国歌・国旗法」施行の際の「空手形」で明らかなように、防衛省の海員「徴用」が確実に進められることは間違いない。全日本海員組合はその歴史を見てもさほど革新的な組合ではなく、むしろ発足当時から民社党(当時)を支持する系統の組合だ。現在は連合に加盟しているが、過去には「海の日導入運動」を提唱するなど、思想的には右派的な性格も包含する組合のようである。

しかし、この声明は国民と周辺諸国に向けた最大級の警鐘だ。

実質的「徴兵制」が、昨年の戦争推進法案成立後1年も経たず起動する。海洋部門に目を付けるとはさすが、大手広告代理店に政策立案や広報の相談を怠らない安倍政権らしい選択だといえる。不思議な現象だが報道の世界では昔から一般の「事故・事件」でも同様の被害が「陸上」で発生した場合と比べると「海上」は軽視されやすい傾向にある。権力はやがて導入されるであろう奨学金返納の困難者に対する「自衛隊におけるインターンシップ」と称される若者を狙った「徴兵制」には反論が予想されることから、まずは「海洋」での「徴兵制」に着手したのだ。

◆時代はすでに「戦中」

多くの高校生が受験する「一般曹候補生」の志願者数が急減している。2015年度の全国分は前年度と比べて19%減の2万5092人で2012年の半数近くにまで激減している。解釈改憲が行われた2014年も前年比10%減だったが、前年比約20%の落ち込みは過去最大級に際立っている。原因を防衛省は「景気好転で民間企業に流れたため」と言うが、解釈改憲から戦争推進法案成立へ繋がる流れが要因であることはこの数字が示している。同様の志願者減少は第二次湾岸戦争後イラク派兵が本格化した2004年に前年比11%減を記録したことがあり「戦争」が現実化を帯びれば帯びるほど自衛隊の志願者は減ることが明らかになっている。

一方2012年、つまり東日本大震災の翌年には自衛隊志願者は増加している。景気のありようもさることながら、被災者救援の活動に従事する自衛隊の姿を目にして「災害救助」つまり「人の命を救う」仕事に就きたいと考えた若者が増加したことは想像に難くない。

自衛隊が戦争に赴くのは時間の問題だ。安倍自民党政権が続く限りその加速は止まらない。「戦争は嫌だ」と考える若者は自衛隊を志願しない。戦争を全く知らない親だってここまで戦争が現実化すれば子供が自衛隊を志願することに異論を唱えだすだろう。自衛隊は今後も減り続ける人員不足分を「徴兵制」で補う。21世紀型「赤紙」の印刷は既に始まっている。

誇張なく時代は既に「戦中」に入っている。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎間近に迫った日弁連会長選挙──日弁連がネットの「言論の自由」を弾圧か?
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間近に迫った日弁連会長選挙──日弁連がネットの「言論の自由」を弾圧か?

日本弁護士連合会(日弁連)会長の選挙が行われている。大阪弁護士会所属の中本和平弁護士と東京弁護士会所属の高山俊一弁護士が会長候補に立候補している。

投票は2月5日で現在激しい選挙戦が展開されているが、知人の弁護士から不可思議な情報提供があった。ある弁護士が匿名の自身のブログで片方の候補を応援したところ、日弁連から注意を受けたとのことだ。その方が現在掲載しているブログの内容を引用する。

「さっき、日本弁護士連合会選挙管理委員会の副委員長さんから、わざわざお電話をいただきました。 わたくし、なんかの選挙に出た覚えがないので、ビックリしたのですが、なんと私のブログ記事が日弁連の選挙管理規定に違反するので、削除して欲しいと言うのです。
  問題となったのは以下の記事。2016年1月17日付け記事で、
【悲報】日本弁護士連合会の執行部側○○○○候補が、稲田朋美自民党政調会長に何度も献金していた。というもの。
  取り敢えず非公開にしましたのでリンク切れになっていますし、候補者の名前も匿名にしました。
  今回の日弁連会長選挙にはふたりしか立候補者がいないので、片方の先生を批判すると、もう片方の先生を応援したことになるから選挙運動だ、という話なんです。
  そして、会長選挙管理規定が今回の選挙から「改正」されて、WEB選挙活動が認められるようになってたけど、それは各陣営に1つずつのオフィシャルホームページだけ。
他の人は、選挙対策本部の弁護士も一般会員も、WEB上で1人の特定の候補に有利になる発言は許されないという驚くべき改定がされたというのです。
こんなの、WEB選挙が認められるようになったと言えますか?
逆に、明らかに言論の自由が制限を受けるものです。」
◎「宮武嶺のエブリワンブログ」より

◆「言論の自由」を守るべき日弁連に「言論の自由」感覚が欠如している

本当だろうか。事実を確かめるべく日弁連に電話取材した。応対に出た日弁連総務課の事務担当者(氏名は名乗らなかった)に上記質問をぶつけたところ「選挙管理委員会の副委員長がそう述べたのなら事実でしょう」との回答であった。

おいおい、言論の自由もへったくれも日弁連には無いのか? 通常の国政選挙、地方選挙でも実質的にネット選挙はほぼ全面的に解禁されている。それに対して、時には国を相手に闘う職務にある弁護士が全て所属する「日弁連」がこのように矮小な、選挙運営を行っていては、日本司法における対抗勢力の脆弱性、もしくは偏狭性の現れと感じられても仕方がないであろう。

「言論の自由」を守るべき日弁連に「言論の自由」感覚が欠如している。これは重大かつ深刻な問題と言わざるを得ない。

さらにこのブログ執筆者が、中本弁護士の過去、自民党稲田朋美政調会長に政治献金をしていたことに言及していたが事実であろうか。中本弁護士所属事務所に取材してみた。それによると中本弁護士は「一水会」(鈴木邦男氏が発足させた「一水会」とは同名だが無関係)という大阪の弁護士集団の実力者で、その後輩である稲田朋美氏を応援していたことは事実であるという。

3万円の政治献金も過去確かに行っていた。ただし電話応対に出た弁護士の話では「中本弁護士は憲法などについてはむしろ稲田氏と全く逆の考え方で社民党の福島瑞穂さんや民主党議員との付き合いの方がはるかに深いです」とのことだった。なるほどそう言われればそうか、と騙されそうになるが、この曖昧さこそ現在日本を覆う困難を引き起こした「どっちつかずの態度」なのではないのか。

中本弁護士は安倍のような改憲主義者ではないだろう。しかし「後輩だから」という理由で稲田朋美を応援していた過去があるようでは日弁連の会長を任せようとは思わない。社民、民主を応援しながら小選挙区制を進めたり、2大政党制を進めた大学教員のようなものだ。

私はもちろん弁護士資格など持っていないので自由に発言できる。日弁連会長候補者としての中本氏を私は支持しない。一見リベラル、一見穏当な姿勢の中にこの時代を誘引した細かであっても、過ちを包含している人物のように思えて仕方がない。
一方、高山俊一弁護士の主張全てにおいて中本弁護士よりは余程明白だ。何よりも「反戦」に対する考え方が極めてはっきりしている。私自身の考えに近い。
一般人には関係なさそうではあるが日弁連は本気になれば相当な力を国に対しても発揮しうる団体だ。選挙の推移を注視したい。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎「先頭で行動する政治学者」山口二郎氏を迎えて前田日明ゼミ第4回開催!

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