「一期限り」を公言しながら再選狙った村田学長が同志社大学長選で落選!

11月6日、任期満了にともなう学長選挙が同志社大学で行われ、第33代学長に理工学部の松岡敬(まつおかたかし)教授が選ばれた。この学長選挙には4年前に「大学長になっても一期しか学長は勤めない」と公言していたはずの村田晃嗣(むらた こうじ)も立候補していた。

7月の衆議院平和安全法制中央公聴会で「戦争推進法案賛成」を明言し、私立大学学長としては実質的に日本の歴史上初の「戦争推進発言」を行ったファシスト村田は、同志社大学が築いてきた「リベラル」、「良心教育」の歴史を完膚なきまでに踏みにじり、同志社の名を地に落とした。

◆落選したからといって国会で大学長として行った発言の罪が消えるわけではない!

もう学長とは呼ばれなくなる村田。しかし戦争推進発言の罪は消えない

その村田が学内外の良心的な人々から強い指弾を受けながら、恥知らずにも「公約」であった「一期限り」をかなぐり捨て、厚顔無恥にも再び学長選挙に出馬した。学長選挙の候補者になるためには推薦人が必要だが、恥ずかしくも「戦争推進」を公言した村田を支持する人間が同志社大学には一定数存在していたわけだ。

しかし、声を挙げない、行動しないように見えた教職員の中にも「最後の良心」は残っていた。橋下徹同様「公約破り」を平然と行い、同志社に限らず全国の若者を戦場に送り込む最悪法に賛成の意を示した村田。大学人としては万死に値する倫理的大罪を犯しながら、その後も平然と「良心学」の講義の教壇に立っていた村田。本来は任期満了を待たずに、国会での発言直後に「打倒・追放」されるのが村田には当然の報いであったが、よくも再度学長選挙に立候補などできたものだ。奴には「戦争推進法案賛成」の引き換えに、自民党から「ご褒美」が用意されていると、私は見立てていたが、自民党から約束を反故にされたか。それとも大好きな米国(とりわけCIA)から離縁されたのか。

落選したからといって学長として国会で行った発言の罪が消えるわけでは決してない。同志社大学関係者はこの選挙結果に安堵することなく、「村田発言」への責任追及は断乎継続しなければならない。


◎[参考動画]戦争法案【賛成】公述人=公明党推薦・村田晃嗣=同志社大学学長(2015年7月13日)

◆同志社の村田打倒から大阪のファシスト橋下打倒を!

スクラップ・アンド・スクラップで間もなく崖から落ちる橋下徹(2015年10月31日おおさか維新の会 結党大会後の記者会見にて)

そして、関西ファシズムの元凶橋下とその断末魔「政治団体大阪維新の会」(政党ではない)候補の出馬する、大阪市長、大阪府知事陵選挙で、何としてもファシスト橋下=「政治団体大阪維新の会」を最終的に完全撃沈させよう。

私たちはいったいどれほど多くの貴重なものを奴に奪われたことだろうか。村田打倒から橋下打倒へ! 大阪府民、市民の皆さんの決起を強く呼びかける!

 

 

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎奨学金地獄と高すぎる学費──揺るぎなき教育貧困国・日本
◎沈黙する大学の大罪──なぜこんな時代に声を上げないのか?
◎「人文社会科学系学部」ではなく、まず文科省を廃止せよ!
◎福岡教育大学「粛清」事件──安倍の弾圧に過剰適応する大学の罪

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「反社会勢力との取引」を拡大解釈する銀行の「口座開設拒否」は人権侵害だ!

1991年の暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)成立以降、暴力団(ヤクザ)に対する社会の締め付けが強まった。指定暴力団の構成員であることがバレると銀行で個人名義の口座を開くことは出来ないし、生命保険や損害保険に入りことも許されない。さらに借家を探そうにも不動産屋が指定暴力団の構成員だとみなせば、住居の紹介すら受けることが出来ない。

たしかに、暴力団(ヤクザ)は非合法のシノギ(金儲け)を収入源にしていることはあるだろうが、こんな扱いを受けたら一般的な社会生活すらおくれなくなるのではないだろうか。仮に組織を抜けて「堅気(カタギ)」に戻ろうにも、勤務先で給与の振込先を聞かれて「銀行口座がありません」と答えれば、不審に思われるのではないだろうか。それが原因で「不採用」になりはしないか。

◆暴対法で無法化する公安警察──市民に危害を加えるのは「ヤクザ」でなく「半グレ」「チンピラ」

暴対法は過剰だと思う。公務員として身分が保証され、昼間から日がな一日乱闘の訓練ばかりしている公営組織暴力団(機動隊)とは裏腹に、民間のヤクザには犯罪を犯していなくとも、基本的生活権が認められてはいない。だからヤクザの構成員数は右肩下がりで、「シノギ」も合法的な企業体を装わなければ、即座に警察から「中止命令」を食らってしまう。

でも、「ヤクザ」はどの時代にでも、どこの国にでも必ず必要とされる、緩衝材のような存在ではないか。日本語で「暴力団」と表記すると物々しいけれども、非合法部分で社会の緩衝材的役割を果たす組織は世界を見回しても相当多くの国や地域に存在する。日本の「ヤクザ」だって、戦後の混乱期、警察力が不足していた頃は正式に警察の依頼を受けて労働争議の弾圧や治安維持に加わっていたことは動かしがたい歴史である。時に権力の走狗となり「泥仕事」を請け負うのも「ヤクザ」の役割であった。

そして、警察や総務省、法務省が広報するほど、今日「ヤクザ」は一般市民に危害を加えることはない。そりゃぁその筋の人の集まりの近くに行けば、逃げ出したくなるような独特な雰囲気はあるし、どう真似しようとしたって私如き善良な市民(?)には模倣できない雰囲気はある。だからといって彼らが「おいおっさん、なにメンチ切っとるんじゃ!」と私に絡んできた経験はない。そういう言いがかりをつけてくるのは組織の人ではなく、いわゆる「チンピラ」だ。

「ヤクザ」と比較にならない厄介な存在が一部で「半グレ集団」と呼ばれる暴対法の網にはかからない、実質上の「犯罪集団」だ。最近個人的に「振り込め詐欺」を追及していたら、その元締めがかなり有名な「半グレ」集団であることが判明した。被害拡散防止の為に警察にその旨を連絡したが、相も変わらず警察は即応しない。「貴重なご意見ありがとうございます。情報は必ず上にあげておきます」と言うばかり。いったい何を仕事にしているのだ刑事警察は。

公安警察は頼みもしなくとも、でっち上げ逮捕した人の家に令状を示す前にズカズカ窓から入って来るほど、仕事には過剰に熱心だが刑事警察の程度の低さには、毎度呆れかえるばかりである。

◆冤罪を前科とみなし口座開設を拒否する銀行の姿勢は人権侵害にほかならない

そして「暴対法」や「反社会勢力」との取引を慎重に、という流れの中でお門違いにも被害をうけるのが、「暴対法」や指定暴力団とは何の関係もなく、刑法により有罪を受けた多くの人びとだ。例えば日本には「名誉棄損」の刑事事件で逮捕、勾留された経験を持つ存命の人物が1人だけいる。190日を超える拘置所での勾留がなぜに「名誉棄損」で必要だったのか。まったくもって理解できない扱いを受けたその人は、何と銀行で定期預金を開こうとしたら断られたのだという。因みにその方が定期預金開設を申し込んだ銀行とは長年商売上も、個人的にも取引があり現在も個人名義の普通口座は保有しているという。

どうして定期預金が開設出来ないのかを銀行に尋ねたところ「総合的に判断して」と馬鹿にした答えが返ってきたそうだ。「総合的に判断して」この言葉は企業や役所が「痛いところ」を突かれて明確な回答を出したくない時に利用する常套句だ。私も3ヵ月に1度くらいの割合で取材しているとこの言葉を返される。「総合的に判断して」の裏には、必ず確信の持てない、いい加減な判断や社会には出せない裏事情がある。

上記のケースでは金融機関に義務づけられている「反社会的勢力との取引禁止」を誤解、拡大解釈して、あってはならない「無辜の市民」を「反社会勢力」と断定することにより、失礼千万な口座開設拒否という暴挙に出ている訳である。当該人物を「反社会勢力」と断定するのであれば、これまで続けてきた取引をどう説明するのだ。現在も開設されている普通預金を放置しておいてよいのか。銀行に詳細を尋ねたが納得のゆく説明は得られなかったという。

これは明らかに銀行側が「暴対法」を拡大解釈し過ぎ、金融庁の顔色を忖度し過ぎた大失態であると同時に、無原則かつ説明の出来ない恣意的な「口座開設拒否」は明らかな人権侵害問題だ。

仮に何らかの罪で服役し、刑期を終えて社会復帰した人が銀行口座を開くことが出来なければ、居住場所を見つけることが出来るだろうか。就職先を探し出すことが出来るだろうか。

有罪が確定しても、裁判で確定した刑期を刑務所で過ごしたり、罰金を払えば、その罪は償ったことになるはずじゃないのか。それでも民間社会でさらに「制裁」を受け続けなければならないというなら「法の支配」はこの島国には存在しないことを意味する。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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《大学異論43》奨学金地獄と高すぎる学費──揺るぎなき教育貧困国・日本

旧日本育英会ほか数団体が統合され発足した日本学生支援機構が貸与する奨学金がようやく世間でも問題化しはじめた。現在同機構が貸与する奨学金には2種類あり、1種は無利子で、2種は有利子だ。1種を申請すると成績や保護者の収入で借りられない場合があるが2種はほぼ無条件で貸与を受けることができる。

但し、貸与開始の際には連帯保証人を立てなければならないし、学費支弁者(多くの場合は親)以外にももう一人の保証人に印鑑を突いてもらわなければならない。債務者は学校を卒業した後の学生本人だが「とりっぱぐれ」の無いように「簡単に貸すが回収(取り立て)も厳しくいく」という体制が出来上がっている。サラ金のようなありさまだ。

◆「日本学生支援機構の奨学金(2種)≒ローン」という本音を吐いた中谷防衛大臣

「奨学金」は本来、その語句が示す通り「学びを奨めるための資金」であったはずだけれども、そこに「利息」を付加したことにより性格が大きく変容した。先の国会参議院特別委員会で中谷防衛大臣は「徴兵制」への懸念についての質問を受けた際に、「学資ローンを受けている学生」という言葉で答弁している。舌が滑ったのだ。本当は絶対に口にしてはならない本音が防衛大臣の口から出た。日本学生支援機構の奨学金(2種)は実質的に「ローン」だということを中谷大臣は告白してしまった。

同機構に問い合わせてこの発言についての見解を聞いたが「奨学金はあくまで奨学金で、ローンとは考えていません」との回答が返ってきた。そりゃそうだろう。実質国の機関なんだから、実態が「ローン」でも「奨学金」と言い張らないと体面が維持できない。

この失言を私は複数の野党議員に伝えたが、その後「中谷教育ローン」発言を追及する質問はなかったようだ。

◆平均給与所得世帯でさえなんらかの借金をしなければ子供を大学にやれない劣化社会

そもそも、学校に通うのに「教育ローン」を借りなければならない社会とはどんな世の中なんだ。高等教育に限れば今日私立大学理系の学費は150万円をゆうに超えるし、国立大学だって50万円以上かかる。国税庁によると2013年全給与所得者の平均給与は約414万円らしいが、一人の子どもを私立理科系大学にやれば、年間収入の3分の1以上を割かなければならない。

仮にその大学が自宅から遠隔地で一人暮らしをすることになれば、さらに生活費が少なくとも月に8万から10万はかかるだろう(多くの場合それ以上だろうが)。とすれば平均給与を得ている世帯では、他の原資(奨学金や親戚知人からの援助もしくは借金)に頼らなければ子供を大学にやることすら無理だという計算になる。

わかりやすい例を挙げよう。学生が学費を納める「大学」に勤務している人、すなはち大学教員や大学職員の給与は大学によって異なるものの、概して一般企業よりも高い。戦争推進法案に道を開いた畏くも偉大なる村田晃嗣氏が学長を勤める同志社大学教員60歳時の給与は額面で約1600万円だ。税金や社会保険の天引きがあるから手取りはおそらく1200-1300万円といったところか。

しかしこれだけの収入があっても、年の近い子供を下宿させている教員の中には「生活していくのに精一杯ですよ。3人の学費と仕送りで我々の生活費は年間300万は残りません」と語ってくれた人がいる。

おかしくはないか、この構造は。

額面1600万円といえば、給与所得者としては結構な高給取りだと思うが、そんな人ですら子供が3人同時に大学へ通うと、生活に余裕がない社会。こんなザマのどこが「先進国」なんだ。何が世界有数の経済大国だ。

◆高等教育無償のドイツとは雲泥の差──政府が執拗に進める日本の教育貧困国化

この島国と同じような狂信的な過ちを犯した歴史を持つドイツという国がある。ドイツでは食べ物など日用品の物価は日本より安い。そして大学の学費は無料だ。付け加えれば医療費も無料である。その一方最低時給は全国一律8.5ユーロ(約1129円)だ(日本の最低時給は都道府県別に決定されるが、2015年は最高でも東京都の907円で、鳥取、宮崎、沖縄は693円)。ドイツに限らず欧州の多くの国では高等教育を含めすべての教育機関の学費が無料である。その対極をなすのが英国・米国や日本、韓国などのアジアの国だ。

教育を「国が提供する当たり前の行政サービス」と考えるか、「市場原理で競争させる収益事業」と考えるかの違いが如実に現れる。この時代の日本では、大学に子供を通わせるのは所帯にとって一大事業だけれども、そんな心配や苦労を一切しなくてもよい国が世界には多数あることはもっと知られるべきだろう。それを多くの人が切実に認識すれば、「おい、この社会構造基本がおかしいんじゃないか」と疑問が湧くだろう。

「フロンティアスピリッツ」だの「自由と民主主義の国」といった虚飾にまみれた修辞を冠されることがさすがに近年少なくなったが、矛盾の集約形は米国において明らかだ。「99%の我々」というスローガンが米国で誕生したのには理由がある。世界一の経済大国であっても、庶民の生活が決して「世界一豊か」では全くなく、むしろ「貧困大国」と称されるのが実態であるということだ。だから米国の若い軍人の中には「大学入学するための資格と資金を得るために」入隊する者が多いし、一度軍人として籍を置いた人々には様々な社会的優遇措置がある。

かような「国のありよう」により近づこうとして、敢えて奨学金地獄を放置し、来るべき「徴兵制」の地ならしを政権は着々と進めているのだ。

ろくに内実にも詳しくもないのになんでもかんでも「外国はいい」という「外国かぶれ」の方がいるが、世界はそんなに一様ではない。でもこの島国で大学に行くことはこれほどの経済的負担を保護者にかけ続けている、そして負担が益々増加している様はもっと深刻な反発を招いてもおかしくはないのではないか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
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◎沈黙する大学の大罪──なぜこんな時代に声を上げないのか?
◎「人文社会科学系学部」ではなく、まず文科省を廃止せよ!
◎福岡教育大学「粛清」事件──安倍の弾圧に過剰適応する大学の罪
◎同志社大学・大麻所持者再逮捕報道の不可解

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隣のクルド人──「国を持たぬ民」が日本社会で暮らすということ

10月25日(日)の早朝6時50分頃、東京渋谷区のトルコ大使館前で、11月1日のトルコ総選挙の在外投票に来た人たちの間で乱闘が起きた。時事通信によれば、乱闘は断続的に発生。鼻を骨折するなど7人が重軽傷を負い、制止に入った警察官2人も負傷した。トルコ人とクルド系トルコ人の対立とみられ、同署は公務執行妨害と傷害容疑で詳しい経緯を調べる。(2015年10月25日付時事通信)

◆激化するクルド人とトルコ人の軋轢

この乱闘事件は大手マスコミでも盛大に報道されたので事件自体はご存知の方が多いだろうが、「いったいどうしてあんな騒動になったんだ?」とその理由や背景については、消化不十分な思いを抱いておられる方が多いのではないだろうか。

機動隊まで出動した、この派手な乱闘を単純化して解説すれば、トルコ国籍を持つ人たちが在外投票に大使館を訪れたのだが、そこで「トルコ人」と「クルド系トルコ人」が衝突を起こしたのだ。

我々から見ると外見ではなかなか区別しにくいが、クルド人はトルコ国籍を持っていようと独自の言語・文化を保持する民族だ。トルコでは今年6月7日に実施された総選挙(総議席数550)で、与党「公正発展党」(AKP)が第一党の285議席は確保したものの、初めて獲得議席数が過半数を下回った。

一方、公認候補を初めて擁立したクルド人の民族政党である「国民民主主義党」(HDP)は得票率13%を得て80議席を確保している。合法政党の進出もさることながらクルド人とトルコ人の軋轢は激化するばかりだ。

◆3000万人のクルド人──世界最大の「国家を持たない民族」

トルコは親日国として知られている。原発事故後の日本と原子力協定を結ぶほど、日本と仲が良い。7800万人ほどの人口を抱えるこの国には多彩な民族と宗教が混在するが、これまで西アジアでは比較的「治安の安定した」国と評価され、日本から観光で訪れる人も数多い。だが、トルコには長年に渡り頭の痛い問題がある。それがクルド人への対応だ。

A collection of photographs by the famous photographer Pascal Sebah on the occasion of the universal exposition in Viena in 1873.

クルド人。世界でおそらく最も悲劇的な歴史を背負って来たこの「国家を持たない民族」は約3000万人がトルコ、イラン、イラク、シリアなどを中心に世界中に分散しながら生活をしている。近現代史を少し紐解けばこの民族の足跡は悲哀に満ちていることがわかる。歴史と言わずとも、現在だってトルコ、イラン、イラクなどでは露骨な弾圧が加えられている。

クルド人の念願は勿論クルド人国家の設立だ。そしてそれは過去短期間ではあるけども実現したことがあった。1946年1月現在のイラン、西アゼルバイジャン州マハーバードを首都として「クルディスタン共和国」が独立を宣言する。ソ連からの援助を受けていたとはいえ、カーズィー・ムハンマド(Qazi Muhammad)を大統領とする「クルディスタン共和国」樹立はこの民族悲願の達成であった。

しかし、イラン政府(ならびに国際社会)は独立宣言から1年も経たない同年12月15日に武力で「クルディスタン共和国」を打倒する。大統領カーズィー・ムハンマドはチャール・チュラ広場で公開絞首刑となり、以降クルド人はひっそりと狩猟を中心とした生活を強いられることとなる。

しかし、西アジア、アラブ各国に広がるこの民族は独立国家の設立を諦めたわけではない。イラン・イラク戦争中には双方が相手国に居住するクルド人に支援を与え内からの弱体化を試みたのを契機に、散発的な武装蜂起がイラク、イラン両国で何度か発生した。

しかし、両国政府は自国に在住するクルド人弾圧の手を緩めることはなかった。とくにイラクでは毒ガス兵器によるクルド人爆撃が大規模に幾度も行われた。確認されている最初の攻撃は1988年3月17日ハラブジャ地方のクルド人居住地域に多量の毒ガス(マスタードガス、ブタンガスなどの混合と見られる)が撃ち込まれ、3700人の死者が出た。

また91年の第一次湾岸戦争後には欧米が「フセイン政権打倒」をイラク国内の反体制勢力に呼びかけたことに呼応する形でイラク国内での少数派シーア派と同時にクルドは蜂起するが、この時またしてもフセイン政権は毒ガス爆撃をクルド人居住地域に対して行っている。

◆沸き起こる心の発揚を抑えない硬質な闘争心に満ちた群衆の姿

90年代後半、私は出張で数日、オランダに滞在した。アムステルダムの目的地に歩いて向かっていると石畳の上を早足で迫ってくる数百人の群衆、否正確にはデモ隊に遭遇した。彼らは背格好がオランダ人ではない。「ひょっとしてクルド人か」との予想は外れていなかった。偶然にも当時少数民族問題に興味を持ちクルド、タタール、チベット、東ティモール、バスクなどの情報を集めていたこともあり、突然目の前に現れたクルド人デモ隊には、鮮烈な衝撃を受けた。

デモ隊は英語で書かれた横断幕も複数持っていたが、叫んでいる言語はクルド語だ。だから、そこで何を叫んでいたのかを私は正確には理解していないけれども、前述のような歴史を知る者として、彼らの叫びと石畳を踏み鳴らす音響には震えを覚えた。

これが沸き起こる心の発揚を抑え切れない(抑えない)硬質な闘争心に満ちた群衆の姿だと、しばし私は彼らの発するエネルギーに黙して見入っていた。

国土を持たない(実質的に歴史上も持ったことのない)分散された民族。その悲しみを私自身がしっかりと共有できているなどとは、おこがましくて言えない。そんな背景を持った人々が東京で見せた露わな姿。

ただ、騒動があった、と片付けてしまうには重たすぎる命題を私たちは示された。独立への指向、民族自決の要求は不当なものだろうか。それが末端では小競り合いや殴り合いという形で現れようが、歴史と現実から目をそむけてはならない。解決策はあるのか。国連は何をやっている。それらをこの島国の住人が少しでも知ろうとするところかしか、話ははじまらないだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎アフガニスタンの「ベトナム化」を決定づけたオバマ米大統領の無法
◎「内閣改造」幻想論──安倍政権が続く限り、自民党に「希望」は微塵もない
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何度死んでも本当は死なない「笑点」歌丸師匠の真顔話が遺言のようで気にかかる

落語が大好きなわたしですが、最近気になるのは何といっても歌丸師匠の体調です。「笑点」大喜利の進行も病欠がしょっちゅうですし、腸閉塞や床ずれにもなっていらしゃるようです。

それでも笑点に出演した時は、天敵、円楽から「まだ生きてる!」、「歌丸死んだ!」ネタをこれでもかと投げかけられます。それを見て笑ってるんですから、わたしも残酷なもんだなーと反省したりします。でも、聞いたところによると円楽と歌丸師匠の間ではこの「自虐ネタ」を推奨しよう!という協定がかなり前に結ばれていたそうです。

『座布団一枚! 桂歌丸のわが落語人生』(2010年9月小学館)

その歌丸師匠、10月18日には東京新宿で行われたイベントに車いすで登場されたそうです。体調は?と聞かれたら「ダメです」と即答されて、笑いをとっていました。さすが噺家ですね。

そして10月19日の朝日新聞にはこんな真面目な話も出ていました。

今や、芸歴60年以上。落語芸術協会の会長にもなった歌丸さんが「だいぶ後で気がついた」ことがある。「人間、人を泣かせることと人を怒らせること、これはすごく簡単ですよ。人を笑わせること、これはいっちばん難しいや」。涙や怒りはあっても、「人間にとって一番肝心な笑いがないのが、戦争をしている所」と感じている。

今の日本の政治家は「怒り顔」や「ぼやき顔」が目立ち、「油断できない」と話す歌丸さん。最近は、メディアで自身の戦争経験を語る。「今、日本は色んなことでもめてるじゃないですか。戦争の『せ』の字もしてもらいたくないですよね。あんな思いなんか二度としたくないし、させたくない」
(「涙や怒りはあっても笑いがない、それが戦争 桂歌丸さん」2015年10月19日付朝日新聞)

◆円楽の「歌丸殺し」ネタは残酷なようで愛情に満ちている

本当は歌丸師匠、こんな話したくはないんだと思います。だって「人を泣かせることと人を怒らせること、これはすごく簡単ですよ。人を笑わせること、これはいっちばん難しいや」とご本人がおっしゃっているじゃないですか。笑わせたいはずですよ。

一方「歌丸殺し」常習犯の円楽は、短いやり取りの中にもにも冴えを見せますね。昔ビートタケシが「権力批判で笑いがとれるか」と開き直ったことがありましたけど、権力批判だって、頭脳と芸があれば笑いの対象にできることがタケシには判らなかったのでしょうね。タケシは円楽の足元にも及びません。

円楽の「歌丸殺し」ネタは残酷なようで愛情に満ちている、だから見ている人間も笑えるんです。だってもう本当に死にそうな人に向かって「死ね」っていって笑わせるのは、愛情と冴えがなければ無理ですよ。

それに対してタケシは非情というか、この人の笑いは対象を貶めるのが一つのパターンですね。自分が馬鹿やる芸もできますけど。基本権威主義者なんですよね。タケシは。だから映画の監督なんかをやりたがる。

貶める「笑い」をタケシが確立して、世間も肯定しちゃってから、お笑い芸人の質が落ちましたね。「とんねるず」や「ダウンタウン」を「新しいタイプの芸人だ」なんて、とんちんかんな評価がありましたけど、こいつらの芸は基本「貶め」ですよね。タケシが敷いた路線の上を安全運転しているだけ。

悪いけどわたし「とんねるず」と「ダウンタウン」を見て、一度も笑えたことがないんですよ。いや本当に(「中川家」の方が数段面白いとおもいます)。「ダウンタウン」の松本が、クソ偉そうに「遺言」を出版した時に立ち読みして、やっぱりこいつは芸人じゃない。わかっていないなと思いました。「遺言」書くほどの仕事してもいないくせに一流気取りの松本。笑えるのはその己知らずのアホさ加減だけです。

さんまなんか最低ですね。今年は本物のさんまも不漁らしいですけど、この男自分で笑うしか芸がない。あんな低俗な笑い方につられた大竹しのぶには落胆したものでしたが、こいつもわたしが死ぬまでに1度くらい面白い芸をして欲しいものです。

さて、歌丸師匠の真面目なお話しが、ちょっと気にかかるんです。遺言のように聞こえてしまうのはわたしだけでしょうか。歌丸師匠は何回死んでも本当には死なないんです。

面白くもない「お笑い芸人」を張り倒す勢いの歌丸師匠の話にはジーンとさせられました。

(伊藤太郎)

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新聞紙面がネットに勝っている二、三の事柄──衰退していく読者の想像力

新聞の購読者数が減っている。前年度比で2015年前半は朝日、読売、毎日、日経、産経全ての全国紙が部数を減らしている。なかでも下落幅が大きいのは朝日で前年比4%以上の落ち込みで公称発行部数は679万部まで落ち込んだ。「1千万部発行」を売り物にしていた読売も前年比1.51%で1千万部を割り込み、毎日0.61%、日経0.51%、産経0.04%それぞれ部数を減らしている。(2015年08月19日付ガベージニュース)

朝日の部数減が際立っているが、これには昨年の「吉田調書」問題が大きく関係しているだろう。読売、産経や、週刊誌、はては政治家までが「弾圧」を加えてた「吉田調書」問題。朝日は謝罪などする必要は毛頭なかったのに筋違いの謝罪をしてしまった。その反響1月あたり5万部に相当する読者離れを引き起こしたのであろう。

しかし朝日以外の他の全国紙も全て部数を減らしている。この現象はどう考えればよいのだろうか。

◆20代~40代世帯のほぼ半数が新聞購読経験なし

解かりやすく一番明確な原因は、多くの人が「新聞を読まなくなった」ことだ。殊に20代-40代の所帯では新聞の宅配を一切経験したことがない、という人が半数近くに上る。必要な情報はインターネットで得るので新聞はほとんど読まないとう人も少なくなくなってきた。

また、紙ではなく電子版の普及が部数減につながっているという分析もある。電子版の販売部数を公表しているのは日経だけだ。それによると「朝刊(紙)販売数273万2989部、朝刊(電子)販売数39万0819部」だ。朝刊購読者のうち紙と電子の併読が18万4194部で、電子単独購読者が20万6697部となっている。

つまり従来の紙誌面の7%は電子誌面に取り込めているという計算になる。ただし全国紙の中でも日経は経済に重点を置く、やや特殊な新聞だから購読者総も一般家庭というよりは、ビジネスパースンが多く、彼らが出勤途中、タブレットなどで日経誌面をチェックする姿は想像に難くない。

◆紙面を広げられないから具合が悪い

一方、他の全国紙はどうだろうか。「紙ではなくなった新聞」に私は少なからず違和感を覚えるが、これから各紙とも電子化への移行が進むのだろうか。少なくとも電子化により部数減を食い止めたい、という新聞社の意向は明確のようだ。例えば朝日のホームページで記事を読んでいると記事の半分ほどで「無料登録をして先を読む」、「ログインして全文を読む」の選択肢が表示され、何もしなければそこから先は読めない。

朝日の商売下手なところは、ある程度以上の長さの記事になると、このメッセージをどの記事にも乱用しているところだ。インターネットで記事を読もうとした人は「ケチな奴だな」と感じることだろう。

読売のサイトは朝日とは異なり一応記事の要旨はまとまった所まで掲載されていて、その後に「読売プレミアムに登録済の方、記事の続きへ」と「未登録の方、新規登録へ」のタグが表示される。

これまで新聞を購読して来なかった人たちは、このようなタグが現れたら、おそらくその関連文字を検索エンジンに入力をして、他の情報源から知りたいことの内容を確認するのではないだろうか。

長年、何があろうと新聞を朝、夕ななめ読みする習慣のついている私にとって、新聞は紙でないと具合が悪い。なぜなら電子版では新聞を広げられないからだ。私にとって新聞は「何が書いてあるか」が勿論興味の対象ではあるが「何が書かれていないか」、「この小さな記事に隠れた意味は何か」を察知するのに欠かすことの出来ない情報源だ。

◆網羅的な情報に接する体験を失いつつある若者たち

そして新聞には、興味のない記事も多数掲載されている。それに無理から目を通すことが、私には貴重な情報インプットの源泉となっている。紙の新聞であれば仕方なく1頁づつめくって読んでいくけれども、電子版になれば興味のない記事には目もくれないだろう。新聞でなくたってインターネット上の情報の取捨選択には既にそのような習い性が多くの方の身に付いていることだろう。

今後新聞は衰退してゆくだろう。新聞的な情報の価値が下がったわけではなく、網羅的な情報に接することの貴重さを経験したことのない若年層が増加するからだ。スマートフォンやタブレットから拾える情報は無限大だろうが、新聞紙を広げてそこに「書かれていない」ことから世界を想像することも、それはそれで貴重な作業だとは思うが、時代遅れなのだろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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愚鈍なファシスト橋下徹の妄動になぜ川田龍平はすり寄り、合流したのか?

森田実『「橋下徹」ニヒリズムの研究』(2012年7月東洋経済新報社)

あの産経新聞でさえ「維新分裂『中間派』離反相次ぐ」(10月23日付)と、こんな風に報じている。

分裂状態に陥っている維新の党で10月23日、またも「中間派」の離反が相次いだ。下地幹郎元郵政民営化担当相と儀間光男参院議員は沖縄県浦添市で記者会見し、橋下徹大阪市長の新党に参加する意向を表明。吉田豊史衆院議員は離党届を出し、無所属で活動する考えを示した。(中略)

一方、松野頼久代表ら残留組は23日、代表選挙管理委員会の初会合を開き、11月末に代表選を実施する方針を確認した。「臨時党大会」は無効としており、新党組が総務省に解党届を出す動きなどがあれば、法的手段に訴える方針だ。

これに対し、橋下氏は23日、市役所で記者団に、12月18日の市長任期満了後に弁護士として新党に関与していく考えを表明。正当性を争う法廷闘争を見据え「バンバン刑事告訴していく」と意欲を示した。
※維新分裂「中間派」離反相次ぐ 新党組は24日臨時党大会 橋下氏は「引退」後も関与「バンバン訴える」(10月23日付産経新聞)

もういい加減に勘弁してくれ。本コラムであらかじめ予想しておいた通り、橋下は「政界引退」宣言を撤回して、これからも「自己顕示欲達成のためのみの迷惑行動」を止めるつもりはないと表明した。

◆会社を辞めた役員が「取締役会を開く」などと発言したら笑いもの

それにしてもこの男とその取り巻き、自分が「離党」したくせに、「離党」した党の「党大会」を開くと正気で発言しているのだから、もうとりつくしまもない。仮にあなたが某会社の役員や取締役であっても、その会社を辞めてから、「取締役会を開く」と発言したら、世間からは笑いものにされるだけだろう。

さらに辞職した後に、その会社の公印を持っていたらどうなるだろうか。10月24日現在「維新」は脱党組(橋下派)に党の通帳と印鑑を押さえられていて、政党助成金の引き出しが出来ない状態だという。

そもそも、支持もしていない政党に税金がつぎ込まれる「政党助成金」制度に私は絶対反対の立場だが、それにしても橋下のやりくちは、あまりにも低俗過ぎないか。私は法律の専門家ではないけれども、先に挙げた退職した会社員の例をお考えいただければ、奴らの行動が如何に常軌を逸しているかは多くの方に理解いただけよう。

◆馬鹿げ過ぎた現象を図る尺度は「ファシズム」を感知するセンス

「維新」に参加した議員連中は今頃全員、後悔していることだろう。まだこの先も橋下と行動を共にする、という「玉砕主義者」もいるらしいが、松野頼久をはじめとする、民主党離党後に「維新」に加わった連中や「結いの党」なる、短命にして意味不明の党経由で合流した連中も同様である。

馬鹿げ過ぎた現象ではあるけれども、橋下に対する評価や態度の示し方は、この時代にあって「ファシズム」を感知するセンスを持ち合わせているか否かを図る尺度にはなる。

橋下が大阪知事選に出馬する、という噂が流れた時点から「これは危ないで、いよいよこんな奴までがしゃしゃり出て来よる。こいつは石原慎太郎よりたち悪いで」と直感的に断ずることが出来た人はどの程度いただろうか。少数派ではあったけれども橋下の危険性と悪辣さに当初から警告を鳴らしていた人たちは確かに存在した。

◆大阪弁護士会から「懲戒」対象とされ、業務停止2か月の処分を受けたという事実は残る

一方、私の周辺ではこの人が、と思われるような人の口から「最初は見どころがある奴やと思ったのに」だとか「橋下にも言い分はあったんちゃうか」と批判の矛先がどうにも鈍い方が意外に多い。

何故なのだろうか。私は一度として奴に「これまでと違う何か優れたもの」を見い出したことはない。「この時代にあっては最も危険かつ象徴的な人物」と見立てていた。この評価の違いはテレビを視聴するか否かが大きく関わっているのかもしれない。私は全くといってよいほどテレビを見ない。だから「ハシモト」の猿芝居を目にしたり、パフォーマンスを芸能人がフォーローし、あたかも「一人前」の意見を述べているような場面に接したことはなかった。

ただひたすら新聞やネットで橋下の言動には呆れるばかり。とくに山口県光市の母子殺害事件を担当した弁護団をテレビで糾弾し、あげく懲戒請求を呼びかけるという暴挙には激烈な怒りを覚えた。そして橋下はテレビで弁護団の懲戒を呼び掛けておきながら、みずからは「それに割く時間はないと判断した」と言い逃れにもならない弁明をした。結局この行為で逆に橋下自身が大阪弁護士会から「懲戒」の対象とされ、2010年業務停止2か月の処分を受けている。充分、奴のたち悪さは理解できた。

◆川田龍平は橋下の過去を知っていながらなぜ橋下にすり寄り、合流したのか?

しかし、その後も橋下の暴走は止まらなかった。今でも止まらない。そこで、ここでは私見ではなく、橋下に合流あるいは伴走した人間を振り返る。もし可能ならなぜあなたは橋下期待を抱いたのか、あるいはすり寄ったのか。聞きたい人物は山ほどいるけれども、敢えて1人選ぶとすれば、私は川田龍平に聞いてみたい。

無所属東京選挙区から出馬した時の川田龍平にだ。その後渡辺喜美の「みんなの党」に入党するは、果ては「結いの党」を経て橋下の軍門に下った川田君、一体君は橋下のどこに惹かれ、そしてなぜ橋下の過去を知っていながらなぜ奴に合流したのだ。

無所属で出馬した川田君を支え当選させたのは、そのほとんどが現在であれば安倍や橋下を一番嫌う人たちだった(先の参議院で山本太郎を支持した人たちに重なるだろう)。これは間違いない。当時の著名推薦人の名前を見たって明らかだ、永六輔、坂本龍一、滝田栄などが川田の推薦に名を連ねていた。

政治家などしょせんそんなもんだ、ということのみを示すために君は国会議員になったのか。川田君。橋下を一度でも担いだものとして、この問には回答する義務が川田君にはある。どうなんだ?

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎2020年、亡国の東京五輪──近代五輪は一貫して「政争と利権の祭典」だった
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2020年、亡国の東京五輪──近代五輪は一貫して「政争と利権の祭典」だった

エンブレム盗作問題では、下村前文科大臣だけは首を飛ばされた。代々木の国立競技場は改修すれば使えるという声も多い中、「もう間に合わない」とあっという間に取り壊された。本当に間に合わなかったのであれば、もう2020年東京オリンピックは開催できないのではないか。

「間に合わない」のではなく、「取り壊して建てなおさないと、ゼネコンや我々が潤わない」が連中の本音だったのだ。

端から嘘でたらめの連発と金を積んで、無理矢理誘致したのが2020年東京オリンピックだという事は、この期に及んでもまだエンブレムが仕切り直され、メインスタジアムとされた競技場建設の方向性すら定まらない事実により誰の目にも明らかにされた。自民党の中からでさえ「メインスタジアム建設は不要じゃないか」という声まで出てきた。

なにが「おもてなし」だ。「福島第一原発事故の汚染は完全にブロックされていて、過去も現在も未来も健康被害は一切生じません」と空前の空手形を切った安倍の軽舌にこの島国の住民はもう慣れてしまっているけれども、犯罪的ですらあるこの虚言に疑問を呈さず「2020年東京」に票を投じたIOC理事の連中の頭の中はどうなっているのだろうか。

◆その崇高な理念とは一度も相いれることがなかった「政争・利権の祭典」

などと、泥棒に講釈をたれるような無駄をいくら語りかけても無駄であることは、先刻承知ではある。「オリンピックの精神」という一見崇高に聞こえる理念など、近代オリンピックが復活して以来単なる「戯言」に過ぎなかったし、残念ながら競技者の頂点を目指したいという純粋な思いと一度も相いれることはなかった。

まだ、世界が東西(社会主義陣営、資本主義陣営)に分かれていた時代、1980年に開催されたモスクワオリンピックを、米国カーター政権の呼びかけにより日本、韓国、西ドイツ、パキスタンなどはボイコットした。ソ連のアフガン侵攻がその理由だった。次いで1984年に開催されたロス・アンジェルスオリンピックでは、その趣意返しで東側の国々が参加しなかった。

モスクワオリンピックを日本もボイコットすることが確定しそうな時期に主要選手による政府への「抗議」が行われた。金メダル確実と目された柔道の山下泰裕や、レスリングの高田裕司などが中心となり、「政治とスポーツを分けてくれ。私たちの競技の機会を奪わないでくれ」と競技者たちは訴えた。とくに高田の涙ながらの訴えは多くの反響を呼んだが、某良心的全国紙は朝刊のコラムで「スポーツ選手が涙を見せるな」と的外れも甚だしい、政府の提灯持ち記事を書いた。

このようにオリンピックは競技者にとっては最高峰の舞台であっても、それを利用しようとする連中にとっては全く「神聖」という言葉を使うのもおこがましい「政争及び利権の祭典」である。

誘致合戦にアホほどの金を使い、IOC委員や理事の票を買い集め、大手広告代理店が裏で段取りの全てを仕切る。競技者の熱意と全く相いれない、どす黒いそろばん勘定だけが支配するのがオリンピックだ。2020年東京のドタバタを見るまでもなく、1998年開催の長野オリンピックにおける不正経理問題を見てもそれは明らかだ。当時JOC(日本オリンピック委員会)会長は西武の堤義明だったが、多額の赤字を出した長野オリンピックの経理処理に監査が入ると、何と関係書類が全て焼却もしくは紛失していたという、常識的には考えられない杜撰な事件を起こしている。

堤義明1980年代に「世界一の富豪」と米国雑誌「Forbes」で取り上げられるなど、バブル時代を謳歌したが、その後2005年に証券取引法違反で起訴され有罪が確定している。こんな人物であるのに堤は2013年からJOCの最高顧問に就任している。JOCも真っ黒だという事を如実に示している。西武グループも凋落し、西武グループの中核をなしたスーパーマーケット「西友」も米国「ウォルマート」の傘下に入り、2009年以降は売上高を官報に掲載しないほどの落ち込みぶりだ。

これらの事実が示しているのは、オリンピックに関して広告代理店が打ち上げる、綺麗ごとを並べたキャッチコピーなどは全てが虚構であるということである。金儲けと自己の利益にしか興味のない政治家や財界人が、あれこれ無い知恵を絞り「是が非でも2020年東京で」と悪あがきをしているに過ぎない。

ある若者が言った。「皆さんの中には東京オリンピックを楽しみにしている人がいると思います。でも、悪いけど順番が違う。まずは東北の被災者が全員救済されることの方が先ではないですか」と。

まったくもって同感だ。

最も簡単にして、国民に利益をもたらすのは、今からでも遅くない。「東京オリンピック」などという馬鹿げた巨大公共事業を返上することだ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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日本より先に「一億総活躍」時代を迎えた中国「中間層」は共産党を信じているか?

スイスの金融グループ「クレディ・スイス」は10月14日、資産額で算定した場合、中国の「中間層」が世界最大の規模に達し、米国を上回る水準で成長しているとの調査結果を発表した。(2015年10月15日付CNN Money)

◆「中間層」だけですでに「一億総活躍」の中国

これによると、資産などが5万ドル(約590万円)から50万ドルにある中国の中間層は約1億900万人。2000年以降を見た場合、米国と比べ2倍の規模で中間層が拡大した。同グループは中間層と資産額を関連させた定義について、失業率などに影響される一時的な変化を避けるため収入額より重視したとしている。

クレディ・スイスによると、中国人の成人の資産額は2000年以降、1人当たり約2万2500ドルと4倍に増加。中国の総人口は現在、世界全体の約5分の1を占め、国際的な資産総額の比率は約10%とされる。また、同国の百万長者の数は2020年までに74%激増し、計230万人に到達するとも予測した。

中国の総人口は13億人余りとされているが、そのうち1億人以上が資産5万~50万ドルの「中間層」を形成している。恐るべき急激な資産の成長というしかない。大雑把に日本の10倍の人口でその1割が「中間層」、しかもそれは中国基準の「中間層」ではなくて、国際基準の「中間層」なのだ。

◆その実態は「中間層」ではなく「猛烈な富裕層」の台頭?

まだ中国国民が人民服を身にまとっていた頃、中国好きな書道の教師は「中国の銀行に100万円持って行けば潰せます」と物価の違いを話してくれた。あれはもう四半世紀以上前の話ではあるけれども、実態的に日本への出稼ぎ目的の中国人留学生に何百人も接した経験からも隔世の感は否めない。

でも、冷静に考えれば日本だって戦後30年、つまり1975年には「1億総中流社会」と呼ばれる高度成長期を迎えていたわけで、1978年に鄧小平が「改革開放路線」を打ち出し、実質的な資本主義化を進めてからの時間を考えれば、中国の経済成長に要した時間は驚嘆には値しないのかもしれない。

しかし、急激な経済成長には人件費が安く、輸出が伸び内需も右肩上がりという基本的条件が必須である。これだけの分厚い「中間層」が誕生したことは、すなはち中国の人件費が過去ほど安くはないことを意味するのであり、実際に「世界の工場」と称された製造業の工場群もマレーシアやベトナム、ビルマなどへの移転が進んでいる。人件費に限れば、製造業にとって中国で生産する「うまみ」は既に過去のものになったといっても言い過ぎではないだろう。

さらに、膨大な「中間層」と表現されるけれども、実態は「猛烈な富裕層」の誕生と考えた方がよいだろう。当然その陰には徹底して搾取の対象となる固定的貧困層の存在があり、そのしわ寄せはおおよそ内陸部や漢人以外の民族への押し付けという形で顕在化を示している。経済成長が民族問題を鎮静化することは出来ない。一部漢人とともに成長の恵沢にあずかっている人もいないわけではないが、特に新疆ウイグルや、チベット自治区での反政府行動は経済成長とともに沈静化する動きを見せるどころか、むしろ激化している。

もとより、実質的には独立を指向するウイグルやチベットでは長い抵抗の歴史があった。中国政府はこのような地区に「改革開放」後、積極的に投資を進め、また漢人の移住も促進し民族問題封じこめを図ってきた。しかし現場では観光業を中心とする一定の経済成長が見られたものの、同時に伝統文化の破壊が進行し、むしろ反政府意識は精鋭化してゆく。

日本では散発的に報道される中国国内の「暴動」、や「反政府行動」は腐敗や汚職に苦言を呈する都市部の市民の抵抗だけではなく、中国が解決することの出来ない「民族問題」を原因とするものが少なくない。そして日本で報道される「民族問題」関連の事件は発生している事件のごく一部である。

情報通信技術の発達により、反政府勢力も様々な情報発信を行うことが出来るようになった。中国国内からは勿論、国外の支援勢力を通じて現場で起こっている事件をネット上で探すことが出来る。

◆姿からでは日本人とまったく区別がつかない中国人観光客の急増

東京、大阪などの大都市や京都などの観光地を歩いていると、昨年から外国人旅行者が増えていることが実感される。それは外見から見取れる外国人旅行者の姿であって、今日中国人旅行者は黙っていれば、姿だけからは日本人と区別がつかない人が相当増えている。

まだ、中国からの海外旅行が団体でしか認められていない頃、中国からの「お客様」はたいそう賑やかだったので、直ぐにその存在に気がついたものだ。また、服装や振る舞いも日本人のそれとはかなり異なっていたからどなたでも中国からの旅行者には簡単に気が付いた。今は違う。旅慣れたためか、あるいは生活習慣にも変化があったのだろうか、往時のように大声で会話する中国人旅行者はほとんど見当たらなくなった。

過日東京に出張した際に、詳しく調べていたのに訪問先への道が分からなくなり、自動販売機で飲料を購入していた男性に道を尋ねようと声をかけたら、中国語が返ってきた。「ごめんなさい」といって退散したが、私の目がボケたのか、彼らの振舞いが変化したのか、こんな失態を演じるとは思いもしなかった。

◆急激な成長は必ず矛盾を包含する

冒頭紹介したCNNが伝える通り「中間層」の規模は米国の2倍規模だそうだ。1億人以上が「中間層」なのだから日本の総人口くらい「中間層」が中国には存在するというわけだ。

ただし、急激な成長は必ず矛盾を包含する。成長が急激であればあるほどその矛盾も大きい。日本の「高度成長」が公害や差別などを顕在化させたように、中国の経済成長も必ず大きな矛盾を近く露呈することになるだろう。明らかな形で現れるのは成長率低下による急激な不況だ。年率8%以上の成長を続けてきた中国経済は明らかな失速局面にあるので2015年度は7%台を維持するのが精一杯だろう(水増し分を除けば実態はさらに低い可能性もある)。

そして、本来社会主義や共産主義の国にあるはずのない株式市場の暴落が止まらない。上海では上場銘柄の半数以上が取引停止に陥っており、取引が続く銘柄も続落に歯止めがかかる気配はない。(私は20年ほど前から中国を社会主義、共産主義の国とは看做していない。名前だけ「共産党」という政党が一党独裁する「帝国主義国」だと考えている)

日本のバブルは「土地本位制」への信仰が崩れ去ったことに端を発したが、中国のバブル崩壊は幻想である中国共産党支配の継続が心理的に崩れ始めた時、決定的となるだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
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アフガニスタンの「ベトナム化」を決定づけたオバマ米大統領の無法

オバマ米大統領は10月15日、アフガニスタン駐留米軍について、当初の予定を延長して2017年以降も5500人を継続駐留させる方針を発表した。大統領は2017年1月の退任までの完全撤退を目指していたが、断念した。シリアでの過激派組織「イスラム国」(IS)戦略に続く過激派対策の大幅修正で、オバマ政権の対テロ戦略が大きく揺らいでいる。

オバマ氏は「アフガン軍はまだ十分強くない。アフガンをテロリストたちが我々の国を再び攻撃するための安全な隠れ家にするわけにはいかない」と述べ、米軍によるアフガン軍の訓練と対テロ対策の継続を強調した。

米軍は旧支配勢力タリバンと戦うアフガン軍の訓練や作戦指導などの任務で9800人を駐留させている。オバマ政権は駐留規模を漸減させ、2016年末までに米大使館警備要員約1000人を除いて撤退させる方針だった。(2015年10月15日付毎日新聞

◆パキスタンでは米軍が人を殺しても犯罪にならない?

米国にとってアフガニスタンが「第二のベトナム」となることが決定的となった。「テロとの戦い」を掲げて、非道極まる攻撃を仕掛け、無数の市民を虐殺したアフガン攻撃。それに次いで「大量破壊兵器保持疑惑」により、体制を転覆させられたイラク。アフガニスタンは「9・11」の主犯とされるウサマ・ビン・ラディン氏を匿っているという言いがかりで攻撃を受けたのだが、2011年5月ウサマ・ビン・ラディン氏が米軍によって殺害されたとされる場所はパキスタンだった。

パキスタンで米軍が人を殺して犯罪に該当しないのか。3・11後の混乱した時期とはいえ、この単純な疑問が当時どれほどこの島国の中で呈されたことだろう。

報道にある通り、米国はアフガニスタンからは早々に撤退し、イラク再建(という名のイラク石油利権の囲い込み)に専念する予定だった。しかしアフガニスタン国内ではかつて政権を担ったタリバンが復活し、実効支配地域を広めている。アフガニスタンには切り立った山岳部が多く、首都カブールは東京と同じ北緯35度だが標高は1800mを超える。最高峰ノシャック山の標高は7485mにも及ぶ。国土のほとんどは乾燥し、やせた土地で平均年齢は世界で2番目に低い48歳だ。

歴史的に外国からの支配侵略を幾度も受けたこの国は、しかしながら旧ソ連の軍事侵攻を跳ね除けた歴史も持つ。

◆米国はアフガニスタンで追い詰められる

ベトナム戦争当時、世界的に反戦運動が高まったが、まさかあれほど見事に米国が敗走すると予想できた人はどれほどいただろうか。もちろんベトナムの背後には武器の供給源となる中国やソ連があったのだけれども、戦闘員としてベトナム戦争を闘ったのはベトナム人(ベトナムは多民族国家だが主としてキン族)だけだった。

ベトナムと比べてもアフガニスタンの経済・自然状況は著しく厳しい。ジャングルもなければ年間降雨量も極端に少ない(アフガニスタンの年間降雨量は312m、日本の年間降雨量は1718m)。

このように厳しい土地に暮らす人々に散々な爆撃と最新兵器の「試し打ち」を食らわせた挙句、傀儡政権をでっち上げたが、それでも思い通りの支配を米国は打ち立てることが出来ていない。予定通りの撤退を実行すれば、またコントロールの出来ない「反米」政権誕生は自明だから、残留せざるを得ないというのが本音だ。つまり米国は追い詰められているのだ。

しかし、中東ではISという、新たな勢力が暴れまくっている。どの国からも承認される前に「イスラム国」と堂々と国家を名乗る根性は、一筋縄ではいかない背景を彷彿させて余りあるが、ISの拡大とシリア内戦にロシアが爆撃で加勢し、現地では米国とにらみ合いになっているとの情報もある。「自由シリア」勢力はアサドを撃つはずがISとの対戦も余儀なくされ、そこに米露両大国、さらにはイスラエルの思惑が交錯し、事態は混乱の極みだ。

◆米国戦争体制を切れ目なく支援する日本の「米国債」買い支え

もちろんイラク情勢だって落ち着いているはずがない。もとを辿れば米国が散々餌を与えて育てたのがサダムフセインを頂点とするバース党政権だった。イラン革命の後にはホメイニ打倒の為に巨額の資金をイラクに注入し「イラン・イラク戦争」を起こさせ、イランの弱体化を試みた。ウサマ・ビン・ラデイン氏も同様だ。サウジアラビア富豪一族出身の同氏はある時期まではCIAの資金援助を受けていたことが確認されている。

このように米国は世界のあちこちに傀儡の種を撒き、彼らが「反米」に転じるやその鎮圧に必死になっている。それは必然的に軍事費の増大を招き、米国債の増刷を余儀なくさせる結果へと帰結する。増刷された米国債の最大保有国は中国であり、日本は第2位だ。

日本は現在のところ紛争の現場に直接、足を踏み入れてはいない。けれども、既に「米国債」を買い支えることにより、経済的には米国戦争体制を援助している。皮肉なことに「緊張」が伝えられる「米中」関係の当事者、中国も同様の役割を果たしている。だから表面上どのように緊張が演出されようと、米中両国が本格的な衝突を起こす事などない。

どうあがこうと、米国は世界最大の債務国だ。アルゼンチンやインドネシア、韓国のかつての破綻(デフォルトを含む)、近いところではギリシャの経済破綻は、世界経済にとって深刻な問題視をされたけれども、「戦争をしないと自転車操業が止まってしまう」米国というシステムこそ、実は世界にとって最大の災禍であることはもっと強く認識されるべきだろう。

その「戦争自転車操業」国に「集団的自衛権」で追従するおバカさん。それが私たちの暮らすこの悲しき島国なのだ。

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◎「内閣改造」幻想論──安倍政権が続く限り、自民党に「希望」は微塵もない
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