日本の警察大失態──叔父逝去時に遭遇したあまりに稚拙な管理能力

数年前、叔父が風呂場で亡くなった。

極寒の日、従兄弟が電話をかけても返答がないので不思議に感じ、叔父宅を訪ねたところ浴槽の中で既に息絶えていたらしい。従兄弟は救急と警察に電話した後私に急を知らせてきたので、駆けつけた。叔父の亡骸はまだ浴槽の中で警察による「検死」が行われていた。

警察の義務なのだろうか、第一発見者の従兄弟にはかなり詳細な事情聴取が行われ調書も取られた。浴槽内でどのような体勢で叔父が亡くなっていたかなどかなりの枚数の書類を作成していたので、亡骸を布団に安置できるまで発見から4~5時間は要したろう。

◆葬儀の段取りをしている最中、警察が何遍も失礼な家捜しを繰り返す

警察は引き上げ、従兄弟と私は葬儀の段取りなどの打ち合わせや親戚、知人への連絡に忙しくしていると、玄関のチャイムが鳴る。戸を開けてみるとさっきまで検死に従事していた警官のうちの1人が立っていて「ちょっと忘れ物をしたかもしれませんので恐れ入りますが中を見せてもらっていいですか」という。こちらには断る理由はないから家の中に入れるとあちこちをうろうろ探し回っているが、表情に落ち着きがない。しばらくして「ないみたいですわ。失礼しました」と言い残し警官は帰って行った。

私たちは手を止めていた葬儀の段取りの相談を再開する。叔父は病に伏せていたわけではなく体調は崩していたものの急逝の部類に入るだろう。だから従兄弟とて心の準備もなかったのでショックと目前のしなければならない段取りとで神経は相当消耗していた。

あれこれ1つづつ話を進めていると、また玄関のチャイムが鳴る。再び戸を開けると先ほどとは別だがやはり検死に立ち会った警官が「何度も恐れ入ります。もう一度お宅の中を探させて頂きたいのですが」と。

先に何かを探しに来た警官は亡骸を安置している部屋を含めてくまなく「何か」を探して出て行っていた。こちらにすれば身内でもない人間にあまり踏み荒らしてほしくない場所である。同じことをまたしたいのだという。

夜も遅いことだし取り合えず警察官を家に入れたが「いったい何をさがしてはるんですか」と従兄弟が問いかけた「いえ、バインダーみたいな形をした物なんですが…」と答えの歯切れが悪い。検死が終わってもう4時間以上経過しているのに今頃まで何を探しているのだろうか、我々には想像できなかった。しかしこちらは急な不幸に見舞われその対応に追われている最中だ。

先ほどの警察官と同じように亡骸を安置している部屋の中どころか、布団までめくって中を調べている。

「何ですの? 布団かけたのはあんたらが帰ったあとだからその中には何もありませんよ」私は少し不機嫌に言い放った。果たして「バインダーみたいな形をしたもの」は見つからず非礼を詫びて帰って行った。

それから30分も経過しないで三度目の玄関チャイムが鳴る。今度は検死の際に指揮を執っていた刑事が立っている。「何度も夜分申し訳ございません。ちょっとお詫びとお話をさせていただきたいのですが」と。居間に通すと刑事は深く一礼し「実は…」と話を始めた。

刑事によると検死が終了して車で署に帰ったが、検死で作成した調書や書類が見当たらないという。

「どういうことですの?」と私が聞くと「担当者がどこかに置き忘れたんだと思われまして今鋭意探しているところであります」と言う。

◆警察は調書や検死関係書類を「紛失」してしまっていた

最初は刑事の話が飲み込めなかった(そんなばかげたミスがあるとは思わないので、もっと複雑な事情があるのではないかと考えていたのだ)が、要は調書や検死関係書類を「紛失」してしまった、しかもそれが家の中にないし、警察署の中にもない。だから今家から警察署への帰り道を順次探しているのだと言う。

調書には従兄弟の証言が書かれている。いわば「事件性がない」証明の文章だ。と言うことは警察の作文の前提には「もしこの件が事件であったら」の仮定形の文章も含まれる。そんな文章は万が一にも他人様には見られたくはないし、出てこないとなれば余計に気分が悪い。そのほかの書類にしても警察以外の人の目に触れるべき性質のものではない。人の死に関するものなのだ。私は怒りが頂点に達したが従兄弟が「親父の遺体の横だから穏便に」と言うので、押し殺した声で刑事に向かった。

普段は決して部屋の中では吸わない煙草を咥え刑事の顔に煙を吹きかけた。

「あんたら、それミスではすまへんのはわかってるわな。こいつ(従兄弟)を散々絞って長時間かけた調書をどこかで失ったて? 出てこなかったらどうするんや? お? あるいは他人が見たらどうしてくれるんや? さっきから何べんも失礼な家捜し繰り返しやがって。わかってるやろな」

刑事はうつむいて「申し訳ございません。鋭意探しておりますので……」と言うのが精一杯だ。

◆深夜の道路わきを大動員体制で書類を探し続ける黒ジャンバーの警察官たち

腹は立つが、こちらもあれこれ段取りがある。「はよ探せや!」と言って帰らせると私も従兄弟もどっと疲れが出た。家に食べるものもなかったので近所のコンビニまで気分転換に買い物に行こうと言うことになり外へ出た。

道路の両側に50メートルから100メートル毎に黒いジャンバーを着た男たちが4、5人で懐中電灯を照らしている。刑事が言っていたのはこの事だった。家からコンビニまでは400メートルほどだが、その間に数十人は下らない黒ジャンパーの男たちが深夜の道路脇に懐中電灯を向けている。亡くなった叔父は悪戯好きな性格だったので「おっさん、ただでは死なへんな、警察大動員させるなんてさすがやな」と従兄弟と冗談を苦笑しあった。

コンビニからの帰路、一群れの黒ジャンバー軍団に「見つかりそうでっか?」と私は話しかけた。途端に鋭い視線と「何ゆうてるんやあんた!」と言うキツイ調子の言葉が返ってきた。

「何言うてるて、書類なくされた田所やがな」と言うと黒ジャンバー軍団は一気に顔色が青ざめ「大変失礼いたしました、鋭意捜査中であります」と全員が深々と礼をして来た。

「ご苦労さんやな。夜遅くに」言い残すと家に戻った。自宅周辺だけであれほどの人数が配置されているなら警察署に帰るまでの道のりは相当あるから動員は100の単位ではきかないだろう。ひょっとしたら市警だけでは人数が足らず、県警にも応援要請を出しているのかもしれない。こちらも迷惑だが、書類を紛失した警官は立場がないだろう。

◆失態を演じた警官にどんな処分が下されたのか?

空が白み始めた頃玄関のチャイムが鳴った。戸を開けると「あ、ありました!発見しました!」と見たことのない顔が興奮している。

「お宅は誰」と聞くと「失礼しました。××署の△△であります!」と写真の入った身分証明書をこちらに見せた(警察手帳のような形態ではなかった)。「詳しくは後ほど報告するものが参りますので」と言い残し急いで△△氏は去って行った。

夜が明けて説明に来た刑事によると家から3キロほど離れたトンネルの中で書類が散逸している状態で発見されたらしい。見つかった書類を見せられたが確かにタイヤに踏まれた跡が何箇所もある。トンネル内だったので人目には触れていないこと、散逸の原因は検死を終え警官達が車に乗り込む際、書類を持っていた警官が、バインダーごと書類をトランクの上に置いたのを忘れて、車を走らせたためと思われる、と説明があった。

こちらは一睡もせずに朝を迎えたが、検死に関わった警官たちも生きた気がしなかったろう。幸い見つかったから良かったものの、散逸場所が別の場所ならば発見できなかった可能性もあったわけで、そうなれば関係者の処分も格段に重いものになったろう。

その事件があった直後にマスコミに情報を流す選択肢もあったが従兄弟が「今回は穏便に済ませたい」と言うので、それをすることはしなかった。失態を演じた警官にどんな処分が下されたのかは知らない。が、今でも検死の際に指揮を執った刑事の携帯電話の番号は私の携帯電話に残してある。従兄弟の意見を尊重して当該警察がどこであるかも伏せておく。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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就活、婚活、終活──マニュアル過剰世界を捨ててみると見えてくるもの

あまりにも当然なことだけれども、私達は日々「生活」をしている。「生活」の延長線上には、誰にも平等に「死」が待ち受けている。若くて持病もないうちは「死」を意識することはそうそうなないのだけれども、そこそこの年齢になり、友人の逝去や自分の身体の衰えを感じ始めるとおぼろげだった「死」について、嫌でも考えを巡らせる時期がやって来る。

個人的営為の最終章としての「死」くらいは、世相や流行と関係なく我流でお願いしたいと考えても、「終活」というマニュアルが葬儀関連企業や書籍によって示される。仕方がないと言えばそうなのだが、今日生れ出てから「死」を迎えるまで、意識しても、しなくても必ずその周辺に待ち構えている資本や企業や団体、時によっては宗教の食い物にされのを避けるのは至難の業だ。


◎[参考動画]2013年イズモ葬祭CM

◆不合理を隠して進むマニュアル化「就活」「婚活」

発語すれば同じ音である「しゅうかつ」を「就活」と表記した時に、その各段階でリクルートという企業が悪辣な仕組みを立ち上げ、巧みに利益を上げる構造を確立していることは過去にこのコラムで述べた。
「就職活動」が「就活」と言い換えられた時代にリクルートのこの分野での収益構造はたぶん完成していたのだろう。学校を卒業して直ぐに仕事を見つける作業は、その先が企業であれば採用側も、応募側もほぼマニュアル化していて、渦中の人達はその「不合理さ」や「非人間性」に気が付くことはない。


◎[参考動画]2015年リクナビCM(リクルートキャリア)

更に、伴侶探しに市場があると目星を付けた連中は「婚活」という言葉と収益事業を立ち上げた。「結婚相談所」という業種やボランティアは昔から大小含め全国にあったけれども、その業種に漂っていた、どこか「人には言いにくい」心理的側面を「婚活」という言葉で切り落とし、これまた多彩に「お見合いパーティー」や「価値の高い男・女になるために」、異性への話の仕方やデートの方法、果てはプロポーズをするのに適した場所やその言葉まで丁寧に指導してくれる「婚活」セミナーが出現した。

女性が美(と言われているもの)を追及するエステティックサロンは昔から存在したが、近年男性は頭部以外の体毛が嫌われる傾向にあるらしく、脚や腕から始まってヒゲの脱毛も女性の好感を得るには有効との宣伝がある。その手の男性エステの広告には出演料も高かろうにジャニーズのタレントなどが多用されている。

ヒゲなんかを脱毛して皮膚に悪影響はないのだろうか(私が心配する筋合いは微塵もないのだが)、一体いくら取られるんだろうかと、面倒くさい(馬鹿らしい)から取材する気にもならない。どうでもいいのだが、どうしてそこまでして自分自身の価値を一時的な流行、しかも企業が作り出したそれに沿わせようとするのだろうか。


◎[参考動画]2014年ゼクシィCM 広瀬すず篇

◆とめどなく広がりつづける「●活」というマニュアル世界からの離脱

「活」が幅を利かせているのはそれだけではないようだ。まだあまり一般的ではないかもしれないがかつては「胎教」と呼ばれた言葉を「妊活」(妊婦としてどう過ごすか)と言い換えたり、「育活」(要するに育児)なども「活」と言う範疇に囲い込まれようとしている。「現代用語の基礎知識」にはその他「離活」、「朝活」、「保活」、「温活」、「寝活」、「ソー活」、「友活」など、ここまで来るともう訳が分からない「活」が満載されている。

出産も育児も教育も、そして進学も就職も結婚も、更には「死」も、言わば人生の全てが情報商品化の対象となり、折々その周囲に控えている企業や医療機関、教育機関や冠婚葬祭社へのより収益性の向上が見込まれるキャッチコピー「○○活」と名付けられる。薄気味悪い。人生の「総マニュアル化」と言ったら言い過ぎだろうか。

「慶弔ごとは値切らない」という慎ましくも(払わせる側には)ずうずうしい習い性のようなものが長く支配的であったこの島国では「婚活」や「終活」で結局ボッたくられる人が多発しているだろう。「婚活」をしたことはないけれども、少なくないの「葬式」を出した経験から、黙っていると本来支払えばいい額の数倍を要求してくる葬儀業者が少なくないことを不幸にも私は知っている。そんな業者に限って綺麗なパンフレットで生前からの「終活」を勧める互助会などへの勧誘に熱心だ。

◆自分の「生活」を全うすること──誰かに命じられたり誘導されたりしない生活

生活していれば楽しいこと、悲しいこと、嬉しいこと、悔しいこと、様々経験して最後に人生を閉じる。それは似ているようでいても一人一人全く異なる人生史の編纂作業であり、便利で自らの個性に合致した制度やサービスは採用すればよいけれども、企業が利益目的に「これが今トレンドですよ」と誘導する選択肢に人生を委ねるほど、没個性的な事はない。それはまた、遠くかけ離れてはいるけれども「付和雷同」、「事なかれ主義」といった社会態度を底支えするものともなり、さらにうがった見方をすれば、2015年時点での現社会体制=戦争準備の時代に少し加担することにも繋がる、と此処まで言うと極端が過ぎようか。一人一人が誰かに命じられたり誘導されるのではなく自分の「生活」を全うすることが、実は地味に見えて大切なのではないかと思う。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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◎廃炉は出来ない──東電廃炉責任者がNHKで語る現実を無視する「自粛」の狂気
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《大学異論38》「人文社会科学系学部」ではなく、まず文科省を廃止せよ!

ついに文科省が大学へ最終恫喝を始めた。2014年8月、文科省から全国の国立大学へ、「教員養成系、人文社会科学系学部の廃止や転換」が「通達」されていた。これは13 年6月に閣議決定された「国立大学改革プラン」(PDF)を受けたものだ。

「人文社会科学系学部」の廃止とはつまるところ「考える学問を止めろ」と言っているに等しい。学問に冠される名称は今日やや過剰なほど細分化、多彩化しているけれども、太古の昔に立ち戻ればすべての学問は後に「哲学」と名付けられる研究を出自にしている。それが「文学」、「芸術」、「天文」、「数学」と発展してゆき、概ね「人文科学」、「社会科学」、「自然科学」との分類が行われるようになった。

文科省の言う「人文社会科学系学部廃止」は自然科学と一部社会科学(金儲けに直結する社会科学)を除いてその他の学問を「やめろ」と言っているに等しい。「学問殺し」と言っても過言ではないだろう。大学で学問が許されなければそこはもう大学ではない。単なる「国家の要請に応じる研究工場」だ。無茶苦茶もここまで来ると笑うしかない。

◆そのうち「カジノ学部」が設立されかねない状況

上記「『国立大学法人の組織及び業務全般の見直しに関する視点』について(案)」は、学問とは何かを一度も考えたことのない人間が作成したとしか考えられない、読むのも恥ずかしいほど程度の低い内容が満載されている。

「◇組織の見直しに関する視点」では堂々と、

・「ミッションの再定義」を踏まえた組織改革
・教員養成系、人文社会科学系は、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換
・法科大学院の抜本的な見直し
・柔軟かつ機動的な組織編成を可能とする組織体制の確立

と。ここまであからさまに文科省の本音が示されると、あまりのアホさ振りにかえってスッキリするくらいだ。文科省は近く経産省の傘下に入るか合併されることを望んでいるのだろう。教員養成系、人文社会科学系を廃止すればいったいどれほどの大学・学部が閉鎖されなければならないか。「社会的要請の高い分野」かどうかで大学の教育内容は左右されるものではない。間もなく「カジノ」を認める法案が成立しそうだが、「カジノ」が一大産業になれば「カジノ学部」を設立されても良いと言外にこの「通達」は語っている。また、「戦争法制」成立の暁には「有事研究学部」などを設置申請すれば喜んで補助金が山ほど出るだろう。

◆「経済的に苦しいから私学は無理だが国立ならなんとかなる」という時代の終焉

教育行政で一貫して大学(のみならずすべての学校)の「邪魔者」であった文科省=国の本性が、これで誰の目にも明らかになったという点においてのみ、この破廉恥極まりない「通達」は意味を持つかもしない。

続く「◇業務全般の見直しに関する視点」では、

(1)教育研究等の質の向上
・学生の主体的な学びを促す教育の質的転換
・社会貢献・地域貢献の一層の推進
・人材・システムのグローバル化の推進
・イノベーション創出(大学発ベンチャー支援)
・入学者選抜の改善
(2)業務運営の改善等
・ガバナンス機能の強化
・人事給与システム改革
・研究における不正行為、研究費の不正使用の防止

とあり、「大学は研究教育機関ではなく営利目的企業」に転換せよと迫っている。ことあるごとに私が批判してきた「グローバル化」はここでも金科玉条だし、「イノベーション創出(大学発ベンチャー支援)」は大学生に学問ではなく「事業を起こせ」、「企業といちゃつけ」と迫っている。そうでなくとも大学法人化以降国立大学には独自の資金獲得が脅迫され、学費だって年額60万円近くに上がってしまっているが、まだ「経営効率化・企業化」の度合いは足らないらしい。

「経済的に苦しいから私学は無理だが国立ならなんとかなる」というかつての志願者の発想はこの高額学費の前ではもう成り立たない。文教行政にことのほか冷たく、薄いこの国の予算配分はますますその傾向を強化し、「金は出さないのに口を出す」ずうずうしさだけが誰はばかることなく進行する。

「ガバナンス機能の強化」とは学長権限の強化と教授会権限の弱体化に他ならない。企業に例えるならワタミやユニクロのような「独裁社長制を導入せよ」ということだ。ブラック企業化(すでに一部ではそうなっているが)した大学では、まともに生活が出来ない給与の人が今にもまして多数現れるだろうことは企業の現状を見れば明らかだ。

「研究における不正行為、研究費の不正使用の防止」とは結構なお題目だ。是非社会や人間にとって害毒以外の何物でもない「原子力研究者」に支給された「科研費」(科学研究費助成事業、研究者の応募から選択して給付される研究費)を全額過去にさかのぼり没収し、その研究自体を取りやめさせろ。

◆大学に恫喝かけ放題の文科省こそ教育界の「災禍」である

16日には下村文部科学大臣が、国立大学の学長らを集めた会議に出席し、入学式などでの国旗や国歌の取り扱いについて、「国旗掲揚や国歌斉唱が長年の慣行により広く国民の間に定着している」などと述べたうえで、各大学で適切に判断するよう要請した。

文科省はもう「大学」をかつての「大学」と思ってはいないから、何でもかんでも恫喝をかけ放題だ。さすがに滋賀県立大学の佐和隆光学長や京都大学の山極壽一総長、琉球大学の大城肇学長はこの要請に従わない、もしくは棚上げにする旨を表明したが、これ程明らさま・解りやすい国家による教育現場への介入はない。

「改革」の名は常に錦の御旗で、それに異を唱えると「守旧派」とレッテルをはられる。でもここしばらく「改革」の名の下に行われた政策で真っ当なものが1つでもあっただろうか。年金記録が5000万件も紛失して「社会保険庁」は「日本年金機構」と看板を架け替えたが、「3年で解決する!」と言い放った紛失記録の探索作業はまだ終わっていない。それどころか「きりがないからもう止めます」と小声で言いだしたとたんに125万件以上の情報流出が起きたではないか。

行政は10年先どころか3年先の予測や責任すら取りはしない。いっそう教育界の「災禍」でしかない「文科省」こそ廃止してはどうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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《大学異論37》沈黙する大学の大罪──なぜこんな時代に声を上げないのか?

過日ある大学の先生とあれこれ雑談を交わしていた時の事だ。

前段で「(内容が)社会的発言力を持つ若い世代の話者不足」が話題になった。原発、格差社会、貧困、差別、報道の惨状、そして暴走する悪政。どのテーマでも安心して一定レベルを満たした論を展開出来るのは、若くて50代。下手をすると70代、80代の人しか見当たらないという惨憺たる人材不足に2人で溜め息をついてしまった。貧困などではまだ比較的若い活動家が見当たるけれども、「改憲」反対の大きな集会で登壇するのは大江健三郎、澤地久枝、落合恵子、鎌田慧といった方々で失礼ながらその平均年齢は70を超えているだろう。

逆の立場から発言する者は、1つも2つも若い世代にいくらでもいる。古い言葉を持ち出せば「反動保守」という範疇にあたる主張を声高に(しかも早口多弁に)語る連中は世代を問わず溢れている。

それがこの救い難く絨毯爆撃を受けたかの如き、惨憺極まる言論状況の理由であり原因だ、と結んでしまえばそれはそれで的中しているのだが、それを甘受するほど屈辱的な現状肯定は無い。先生と私はこの惨禍をもたらした犯人探しをどちらから切り出すともなく試みてみることになった。

犯人は横にも(同時代)縦にも(今に近い過去)前にも(近未来)幾らでも転がっていて、どいつが主犯かを見立てる仕分けに手間取りそうな予感がしたが、そのあやふやな作業を、先生は極めて明確かつ深い含蓄を込めバッサリ斬り捨てた。

「こんな時代なのに大学の中で声が上がらないのです。憲法が無き物にされようとしているのに、学生がまた戦場に引きずり出されようとしているのに教授会決議どころか議論すらない。社会的存在として今の大学の有り様は罪深いですよ」

「自省を込めて」と切り出して先生が批判された「総体としての大学批判」は寸分狂いなく的中していると私も同意する。そうだ。大学の沈黙こそ大罪だ。

◆建学理念を放棄してまでなぜ大学は文科省(国)に隷属したがるのか?

ところで、最近の大学経営陣は何を指向しているのだろうか。大規模総合大学は、文科省がぶら下げる「補助金」というエサに競って食い付こうと血眼だ。公平性も哲学も微塵もない、言葉の用法からして誤っている「スーパーグローバル」なる実質的公共事業の入札競争で「補助金」を獲得すれば、あたかも当該大学の価値が上がると勘違いしている。採択されると選挙に当選した利権政治屋みたいに大はしゃぎ。

何故そこまで分別を棄てるのだろう。何故各大学が持っている建学理念を放棄(または諮意的曲解)してまで文科省(国)に隷属したがるのか。そこまでお上に従おうというなら私立大学としての存在意義なんてないじゃないか。羞恥の感覚はないのか。

教員は何をしている。この時代憲法学者、法学者や近代史専攻学者は勿論、工学であろうが、経済学であろうが専門領域など関係ない。大学に職を持つ研究者、教育者は自らの専攻を差し置いても、状況の危険性を学生に示唆しているか。

何故「戦争」を目前にしても何も発語しないのだ。全てに優先して学生を守るのが大学の責務ではないのか。「昔のことは知らない」と言い放ったバカ閣僚がいたが、万が一奴と同じような心境の大学教員がいるのであれば断ずる。そんな教員は「大学を去れ」と。

◆「安全保障関連法案に反対する学者の会」の否めない「出遅れ」感

安全保障関連法案に反対する学者の会HP

実はここまでを今月初旬に書き殴っていたのだが、6月中旬「安全保障関連法案に反対する学者の会」が始動し、この会の趣旨に賛同する学者・研究者は6月17日の時点で4000人超に達している。こういった行動や意思表明は意義深い。この活動を始動したか方々には深い敬意を払うものである。

だが、誠に身勝手な私見を述べれば、この法案群が本国会で審議されることは昨日今日に判明したことではなく、かなり前から解っていたことだ。市民レベルでは昨年から警戒心や抗議行動もあった。

「安全保障関連法案に反対する学者の会」の活動には敬意を払うけれども、国会の審議入り前に研究者や学者はその危険を察知し、活動を始めることは出来なかったのだろうか。

「特定秘密保護法案」の際も同じような「出遅れ」が気になった。気骨のあるジャーナリスト達が法案成立に反対の意を表明し、署名などを提出したが、その半年以上前から市民レベルで「特定秘密保護法」の危険性は認知されていて、反対の行動も相当激しく行われていた。市民の行動に比すれば、「ジャーナリスト」の行動が遅きに失した感は否めない。

研究者・学者をことさら市井の人々より「お偉い方々」と崇めるつもりはないが、社会問題については日々企業に勤務する給与所得者や、一般庶民より職務上深い洞察力と考えをお持ちの方々であるはずだ。そういった資質があるからこそ教壇に立っておられるのであろう。大学教員・研究者の皆さんには署名だけではなく、その「行動」により為政者達の悪意を暴く「覚悟」を是非見せて頂きたい。


◎[参考動画]「安全保障関連法案に反?対する学者の会」の代表会見(2015年6月15日東京・神田の学士会館)

◆大学の主役たる学生は何を考え行動しているだろうか?

そして、大学の主役たる学生は何を考え行動しているだろうか。残念だが極少数の例外を除き、学生は自らが被害者(または加害者)となる「戦争」の危機を察知出来ているとは言いがたいだろう。最高学府で学ぶ学生は自らの考えと言葉で、毎日浸っているこの社会を独自に解析する事が出来るだろうか。そうしたいという欲求があるだろうか。学生の暮らすこの島国の社会は、戦争や暴虐、放射能から十分に安全な場所だと安息していられるだろうか。回りくどい?なら直言する。

普段は封印していて、余程のことがなければ本当は使いたくない表現を敢えて文字にする。

「昔の学生の中には君達と違い、社会に深く関心を抱き、責任すら感じていた人が少なくなかった」のだよと。

更に言おう。

「昔の学生の中には命がけで社会的不正と闘い、本気でより良い社会の実現を目指していた人がいたのだ。今日本の大学の学費はとても高いけれども、それでも『学費値上げ反対』を戦った多くの学生がいなければもっと高額に引き上げられていただろう」と。

学生の言い訳は聞かない。うらぶれた年長者が如何に対抗しようとしても、絶対に叶う筈がない「若さ」と言う無限のアドバンテージを持っている学生に、懐古趣味(本当は私自身大嫌いなのだけれども)がボヤく戯言など本質的に敵うはずはないのだ。


◎[参考動画]全共闘 日大闘争 東大闘争 – 1968

「若さ」たる無限の可能性の前で年長者の戯言など無力以外の何物でもないことを私は知っている。だから私は学生に(それが限りなく難儀な注文だと解っていながら)目を覚まして欲しい。その可能性に期待する。変革のエネルギーの源泉が若者になければ、そんな社会は早晩破綻が宿命づけられているだろう。

かように、総体として大学は沈黙してしまっている。大学が沈黙するような時代だから、こんなに傍若無人がまかり通るとも言えよう。社会の中で「大学」が果たすべき役割は企業と一緒に商品開発に熱を入れることではない。社会的存在である大学(並びにその構成員である、教員、学生)は研究や学びを通じてよりよい社会の実現に寄与するものであるべきだ。

その正反対が、文科省の下僕に成り下がったり、企業と不埒にいちゃついたり、警察や役人のOBを教員として学内に迎え入れる姿勢だ。さらに言えば声を上げた学生をあたかも「危険分子」のように扱う大学などは看板を「学生収容所」と架け替えるべきだ。こんな時代だからこそ大学の果たすべき役割は大きい。期待するだけに私の要求水準は嫌が上でも高まってしまう。妄想と言われるだろうが、私の願いが少しでも誰かに反響してくれないだろうか。


◎[参考動画]日大闘争の記録「日大闘争」

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎加速度を増す日本の転落──なぜ安倍政権には「正論」が通じないのか?
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自由なはずのアメリカで、自由なはずの日本で、
何も言えない、何も行動できない、
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──加藤登紀子(歌手)──

大学人の必読書!矢谷暢一郎『日本人の日本人によるアメリカ人のための心理学━アメリカを訴えた日本人2』(鹿砦社)

 

加速度を増す日本の転落──なぜ安倍政権には「正論」が通じないのか?

実時間の進行速度はいかなる場所でも時代でも、人間の意思などとは全く無関係に、平等に、中立に、正確に不変であるはずだ。

「ヒト」という一生物種として400万年程の歴史しかない人間が、一見地球上全生物の支配序列の頂点に立っていると私達は日々無感覚に勘違いしているけれども、高度に機械化された文明が今、目前で創造しつつある近未来の像は、人間の進歩を示すそれとなるのだろうか。

こんな漠然とした物言いから始めたのは、直接語ればどうあろうと荒っぽい単語だけの羅列になってしまいそうな、自身の内心を警戒してのことである。「実時間の進行」などと大上段に切り出したが、他でもないこの島国の為政者達が行っている乱暴狼藉を目の前にして、私はそれに全く同意しない。だが問題はその意を表明するにあたり、この状況に即した適切な「言葉」が見つけられないことだ。専ら自身の不勉強に起因するのだが、私の獲得した語彙ではもう追いつかないのではないかという焦りが日々高じる。

書き出せばテーマは掃いて捨てるほどある。そのどれを採ってもニッコリとした表情になれるような穏便な話題はなく、ひたすら暗渠に留まり「時間進行」に対する自分の感覚が、いつの頃からかおかしくなったのだろうかと繰り返し反芻してみるしかないのだ。だが、どうやら「時間進行」と自身の不調和を感じているのは私だけではないようだ。「おかしいよな」の声は確かに広がってはいる。

○1999年05月28日──「周辺事態法」成立(後方支援の法的枠組みを整備)
○1999年08月13日──「国旗及び国歌に関する法律」公布・即日施行
○1999年08月18日──「住民基本台帳法」改正(住基ネットの導入決定)
○2002年08月05日──住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)稼動
○2003年05月23日──「個人情報保護法」成立(2005年4月1日に全面施行)
○2003年04月01日──郵政民営化(郵政事業庁が特殊法人日本郵政公社に改組)
○2003年07月26日──イラク特措法(時限立法。2009年7月に延長期限切れで失効)
○2006年12月22日──新「教育基本法」公布・施行
○2007年01月09日──防衛庁が防衛省へ昇格 ……

◆小泉政権と比べても転げ落ちる速度が速すぎる安倍政権

20世紀末から一連のキナ臭い流れの一部を参考までに抽出したが、「周辺事態法」から「防衛庁の省への昇格」までは8年を要している。主としてコイズミというあのペテン師が躍った8年間だって「時間の速度が増してやしないか?」と感じたものだが、その当時と比較してすら眩暈がしそうなほど、仮に「国家」と言う名の「石」があったとすれば、それは「ゴロゴロ」と轟音を鳴らし急傾斜を転げ落ちながら、地響きをここまで伝えて来ている。

○2011年03月11日──東日本大震災・福島第一原発事故
○2012年06月16日──大飯原発再稼動を正式決定
○2012年12月26日──第2次安倍内閣成立(~2014年9月3日)
○2013年03月15日──TPP交渉参加表明
○2013年12月13日──「特定秘密保護法」公布(2014年12月10日施行)
○2014年04月01日──消費税8%へ引き上げ
○2014年04月01日──「武器輸出三原則」が撤廃され「防衛装備移転三原則」制定
○2014年06月29日──トルコとの原子力協定発効
○2014年07月01日──解釈改憲閣議決定・集団的自衛権容認
○2014年07月10日──UAE(アラブ首長国連邦)との原子力協定発効
○2014年09月03日──第2次安倍改造内閣成立
○2014年12月24日──第3次安倍内閣成立
○2015年06月04日──衆院本会議で選挙権18歳へ引き下げ(公職選挙法改正案)可決
○2015年06月17日──参院本会議で公職選挙法改正案可決成立
○2015年06月現在──有事関連法=戦争準備法成立の画策が進行中

※[参考資料]平成27年1月から現在までに公布された法律一覧(内閣法制局)(2015年6月5日現在)

◎[参考動画]SEALDs戦争法案に反対する抗議行動での小林節=慶応大学名誉教授(2015年6月5日国会前)

◆3・11による放射能被害を大音響で消し去るかのように転げ落ちる安倍政権という「狂乱の石」

4年前、3・11による放射能の影響はどんなに深刻化しているだろうか、とチェルノブイリを知る人々は心配したものだった。が、あろうことか、その深刻な懸念を大音響で消し去るかのように「起きることが前提とされた戦争」が目の前に堂々たる「既成事実」として据えられて、為政者達や武器商人は既に武器の商談に忙しい。一刻も早く「集団的自衛権」と言う名の「自爆行為」に自衛隊を参加させたくて、関連法案の審議では「参考人」の憲法学者が「違憲だ」と声を揃えても「賛成の学者もいる!」(菅官房長官)とガキ大将並の屁理屈を堂々と披歴して恥じることさへない。支配しているのは「狂乱」と言うほかない。

「国家」と言う名の「石」は4年間で以前は8年掛かった距離の何倍もを転がり落ちている。

加速度を増す「石」の転落に対して、この島国に住む人々はどう反応しているだろうか。誰もが無関心でいる訳では勿論ない。いや、形に見える為政者達・権力者達への異議申し立て行動は3・11後確実に増加してはいる。いささか俄かに過ぎる態度の変化と言えなくもないけれども、「破滅を目指す」為政者への対抗行動が強まるのは当然過ぎるほど当然だ。だが、対抗行動の量は勿論必要だけれども、質はどうだろうか。

権力者や武力強者間による執権の移行は、歴史上数限りなく経験しているこの島国だが、残念ながら庶民が旧体制を転覆させた経験は持ち合わせていない。2015年6月、「戦争を前提とした」法制審議にあたり、対抗言語や行動の「質」は「狂乱」に見合っているだろうか。

論理上、為政者達の破綻を看破するには「憲法違反だ!」の一言で十分足りる。何のことはない。立憲制の国にあり根本法を犯すことは行政、立法にとっては明確な「禁じ手」なのだから。

だが、奴らに正論は通じない。「解釈改憲」などという「反則」を平然と行う連中とは、整然とした論理だけでは戦えない。では何が必要なのか。推測するにそれは恐らく、もっともっと真剣かつ冷徹な「怒り」だ。極普通の生活を送ることすらままならない収入を得る事しか出来ていない非正規労働者、増税により生活苦を強いられている低所得層や、「戦争」に駆り出されることが必至な若年層が、感応しなければ、転落を加速させる「石」は止めることは困難だろう。

そのために一体自分には何が出来るのかを行動しながら考え続けたい。


◎[参考動画]小林節=慶応大学名誉教授、長谷部恭男=早稲田大学法学学術院教授「憲法と安保法制」①(2015年6月15日日本記者クラブ)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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「かかりつけ薬局」「癌登録」制度導入は百害あって一利なし!

5月21日の本コラム「『医薬分業』や『お薬手帳』で利を得ているものは誰なのか?」でこの制度への疑問を述べた。22日の各紙朝刊は「かかりつけ薬局」制度導入を政府が模索していることを報じた。

共同通信によると、「厚生労働省は21日、全国に約5万7千カ所ある薬局を、2025年までに患者の服薬情報を一元管理できる『かかりつけ薬局』に再編する検討に入った。薬の飲み残しや重複を防ぎ、膨らみ続ける医療費の抑制にもつなげる狙い。患者各人がかかりつけ薬局を決め、どの病院を受診してもその薬局に処方箋を持ち込める環境を目指す。24時間調剤に応じたり、在宅患者に服薬指導したりする機能も整備する。塩崎恭久厚労相が26日の経済財政諮問会議で、将来に向けた『薬局構造改革ビジョン』(仮称)を作成すると表明する。16年度の診療報酬改定で、かかりつけ薬局普及に向けた考え方を反映させる」そうだ。

先の記事で私は「医薬分業により薬の過剰投与が抑制されることはない」と指摘したが、この疑問に答える形で「かかりつけ薬局」制度が準備されようとしているらしい。

◆「かかりつけ薬局」制度で投薬の一元管理が進み「国による個人の監視」は強化される

だが、何気ない記事の中でさらりと言及されているが「かかりつけ薬局」導入の目的は「患者の服薬情報を一元管理」することだ。これは一見合理的で患者本位のようにも受け取られるかもしれないがその実「国による新たな個人の監視」に他ならない。

個人の健康状態や通院、服薬状態が包括的に把握された上での処方は「過剰投与」防止の観点から一定程度は有効だろう。しかしそれを国に管理される理由はないし、これぞ正に秘匿性が高い「個人情報」ではないのか。また「どの病院を受診してもその薬局に処方箋を持ち込める環境」は現状の制度でも全く問題なく行える。処方箋を受け取った患者のほとんどは実質的な「かかりつけ薬局」を既に持っているだろう。

◆医薬をめぐる一連の流れは個人の「健康」に主眼を置いたものではない

ここで厚労省が目指しているのは現状のような「選択的かかりつけ薬局」ではなく「どの病院を受診しても特定の薬局に処方箋をも持ち込まなければならない」制度だ。投薬の一元管理により個人の健康、通院、服薬状態を国が把握しようとするのが真の目的である。

国が目指す「かかりつけ薬局」制度導入の背景には前述の通り、「医薬分業が実質的には過剰投与や薬価抑止にはつながらない」という明白な批判をかわす狙いがあろう。また「医薬分業」自体が厚労省、製薬会社の牽引の元推進され、それに文科省も大学に「薬学部」の新設を促す形で便乗し進められてきた「国策」との背景を見れば、一連の流れが個人の「健康」に主眼を置いたものではないことは明らかだ。

しかし、「医薬分業」は当初「どこの薬局でも処方された薬がもらえるようになります」とその利便性を広報していたではないか。患者にとって最も役に立つと宣伝されてきた「どこの薬局でも」は早々に姿を消して、「かかりつけ薬局」という名の「特定の薬局」へと患者は囲い込まれようとしている。

外資系の製薬会社に勤務する知人によると「薬価」自体が実はかなりあいまいで、発売直後(特許有効期間)の薬は開発費や諸経費で高価だけれども、いわゆる「ジェネリック」になると価格が大幅に下がる。さらに「ジェネリック」の価格であっても利益率は途方もなく高いらしい。「どう転んでも大手製薬会社は儲かる仕組みになっている」と知人は言う。利益率に費えは企業秘密だそうだ。

◆来年1月から始まる「癌登録制」──どう転んでも大手製薬会社が儲かる仕組みは変わらない

一方「癌登録制」が来年から始動することを読者はご存知だろうか。「国立がん研究センター」によると、「『全国がん登録』とは、日本でがんと診断されたすべての人のデータを、国で1つにまとめて集計・分析・管理する新しい仕組みです。この制度は2016年1月から始まります。『全国がん登録』制度がスタートすると、居住地域にかかわらず全国どこの医療機関で診断を受けても、がんと診断された人のデータは都道府県に設置された「がん登録室」を通じて集められ、国のデータベースで一元管理されるようになります」とのことである。

「かかりつけ薬局」強制を前に、来年度から癌患者の情報は国に一元管理されることになる。「癌登録制」には様々導入理由が述べられている。どれもこれも「ああ、そうなのか」と一見合理的にその利点を述べてはいるが、その全てが本音ではないだろう。

完全な私見だけれども、福島原発事故による癌患者増加とその動向を国は「観察」したがっているのではないか。純粋に癌治療の向上を目指すのであればともかく、この議論が原発事故後俄かに盛り上がり、ほとんどの国民が認知しない中で来年早々に導入されるのはあまりにもうさん臭くはないか。福島だけでなく食物の流通により内部被曝は全国に拡散している。その結果を探りたいのではないのか。

医療と、製薬・薬局業界は利にまみれている。彼らの本音を見抜いておかないと我々は必ず美名を冠した制度の犠牲者となろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎就職難の弁護士を貸付金強要で飼い殺すボス弁事務所「悪のからくり」
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第3回「前田日明ゼミin西宮」──田原総一朗氏を迎えて聴衆120人の大盛況!

6月7日ノボテル甲子園で前田日明ゼミ第3回目がゲストにジャーナリスト田原総一朗氏を迎え約120人の聴衆が参集し行われた。

前田氏は冒頭、前回ゲストの孫崎享(うける)氏が「安倍首相は戦後最悪の売国奴」と看破したことに驚き、「様々調べたところ、年金原資の25%が株式購入に充てられていること、また日銀も年間3兆円株式を買っている。日本の国債発行残高は1200兆円あるが、そのほとんどは現状郵貯などが引き受けているので、実はそれほど心配ないが、2018年からはルールが変わり格付けの悪い国債を金融機関が引き受けることが禁止される。そうなれば国家予算が組めるだろうか。東京オリンピックなんてできるのかと思う。アベノミクスの本質は実はとんでもないモノかと気がついた」と語った。

田原総一朗さんと前田日明さん

◆小選挙区になってから自民党の中に反対勢力が居なくなった(田原氏)

次いで田原氏が「自民党が変わった。中選挙区時代は自民党の中に主流派、非主流派もあった。ところが小選挙区になってから自民党の中に反対勢力が居なくなった。先日憲法に関する自民党推薦の有識者参考人が3人とも『自衛隊の集団的自衛権は違憲だ』と予想外の発言があった。かつてなら反主流、非主流派からごうごうたる非難を浴びているはずだ」と述べた。田原氏は「自分も当時は中選挙区制は金がかかり過ぎるから小選挙区に賛成した」とも述べた。

田原総一朗さん

◆立派だと思った政治家は鈴木宗男と亀井静香くらいだった(前田氏)

休憩を挟んだ質疑に移ると前田氏は会場から「前田さんは自身が将来政治家になるつもりは?」との質問に「5年間、民主党を応援したが、正直政治家には魅力のある人が少なかった。立派だと思ったのは鈴木宗男と亀井静香くらいだった。今やろうという気にならないですね」と述べた。

田原氏は参加者から寄せられた「小選挙区」に関する質問に回答を試みたが、的を得ないと感じたので私は「小選挙区で金がかかるのは自民党だけの話しではないですか」と問いかけた。

「小選挙区導入議論の際に今日語られる弊害が予想されたので、大きな反対があったが、何故賛成されたのか」と質問した。回答は「今は小選挙区制は間違っていたと思う」とお答えを頂けた。

田原総一朗さんと前田日明さん

次の予定があり田原氏は懇親会に参加なさらなかったが参加者にとっては濃密な時間となった。

次回ゲストは前田氏が尊敬する政治家と称賛した、鈴木宗男氏との発表が懇親会の席であった。

写真左から鈴木邦男さん、田原総一朗さん、前田日明さん、松岡利康=鹿砦社代表(前田ゼミ開始前の昼食兼打ち合わせの席にて)

▼田所敏夫(たどころ としお)
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《6.8公判傍聴報告》やっぱり不当逮捕だった!火炎瓶テツさんら3人全員釈放!

6月8日午前10時から東京地裁429号法廷(有賀貞博裁判長)で、5月28日に「建造物侵入」容疑で逮捕された「火炎瓶テツ」さんを含め3名の「勾留理由開示公判」が行われた。

公判前の8時30分、支援する人々は東京地裁近くに集まり、9時30分に30余席しか無い傍聴席の傍聴抽選が行われた。抽選には100名近くが傍聴券を求め列をなし、この「不当逮捕事件」への関心の高さが伺われた。

私は残念ながら傍聴券抽選には外れたが、取材の意義に賛同して下さった有志の方から傍聴券を譲って頂き傍聴をする機会を得た。この場を借りてご協力頂いた方に深くお礼を申し上げたい。

◆「嫌がらせ」としか思えない行為を傍聴女性に行う職員たち

本コラムでご紹介した通り429号法廷はいつも「警備法廷」だ。法廷前では多数の裁判所職員が列をなし、鞄や携帯電話などの所持品は全て裁判所の命令で「一時預り」を強いられた。

筆記用具だけは持ち込みが認められているはずなのだが、女性傍聴者に対して複数の職員が取り囲み「ノートの中を見せろ」と不当な恫喝をかける。私もノートの所持は確認されたが、中を見せろとは言われなかった。

429号法廷では女性に対して、嫌がらせとしか理解出来ない行為が多発していると聞いていたが、目前で不当行為を目にする事になった。私を含め数人が「自分はノートの所持を確認されただけなのに何故この人にだけ内容確認を強要するのか」と問い詰めると職員は何と「金属探知機」を持ち出し、女性のノートの裏表に「金属探知機」をかざし(何の意味があるのか?)「ご協力有り難うございます」と発言し、去って行った。

◆警察官に連れられて入廷した「被疑者」と言う名の「不当逮捕被害者」

傍聴者が法廷に入ると裁判官は「傍聴者は声を出したり拍手などをすると退廷を命じます」と恫喝とも言うべき異例の注意を言い渡した。定刻7分遅れで手錠と腰縄をかけられた「被疑者」と言う名の「不当逮捕被害者」が警備の警察官に連れられて入廷し、手錠と腰縄を外され、正面から裁判官と向かい合う位置に二人、弁護士席の前に警察官を挟んで着席した。

この着席位置に弁護側から「被疑者を全員弁護士席の前に着席させよ!」と要求が出されたが、裁判官は取り上げなかった。が判官が事件名を小さな声で読み上げ、弁護側の主張に移った。

弁護士は「本件は逮捕建造物侵入を容疑とした逮捕自体が不当であり、3人は即時に保釈されるべきである」と8項目の求釈明を求めた。しかしそれに対して裁判官は肝心な質問には「答えません」とまともな回答をしない。堪り兼ねた傍聴席から「説明しろ」と声が上がると、裁判官はすかさずその傍聴者に「退廷を命じます」と最初の退廷を出した。

◆被疑者の住所を不明としながら3人の自宅の家宅捜索を行った不合理

その後も弁護団から厳しい質問が相次ぐが、相変わらず裁判官は「答えません」を連発する。

明らかに裁判官は回答から逃げており法律の素人にもその矛盾が明らかだった。

特に勾留の理由に被疑者の住所が不明としながら3人の自宅に家宅捜索を行っている不合理は際立っていた。

その後、3被疑者の意見陳述に移り、各人が10分不当逮捕を糾弾した。被疑者の発言に共感した女性が小さく拍手をすると、裁判官はまたしても退廷を命じ、5、6人の職員が女性を抱え上げ法廷から排除した。

次いで弁護団の意見陳述が行われ「明確な不当逮捕」を厳しく追及して、一連の審理は終わった。

◆閉廷後にも拘わらず「全員退廷!」命令を出した裁判官

その瞬間、傍聴席から「仲間を取り返すぞ!」と大声が上がった。すると傍聴席に控えていた職員が傍聴席と法廷の間に列をなし傍聴者の静止を試みる。しかし法廷内の被疑者は両手を上げて強い意思を示し、応じるように傍聴者から次々激励と裁判官糾弾の声が相次ぐ。

たまらずに裁判官は閉廷後にも拘わらず「全員退廷!」命令を出した。

午後2時、裁判所は3人の保釈決定を弁護団に伝えて来た。

午後6時半、釈放された3人がテント前広場に集い報告集会が行われている。


◎[参考動画]岩上安身による火炎瓶テツ氏インタビュー(2013年12月30日)


◎[参考動画]火炎瓶テツさん、「憲法改悪と護憲」について語る(2013年4月29日)


◎[参考動画] 火炎瓶テツ@辺野古新基地建設NO!防衛省抗議行動(2015年1月13日)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎火炎瓶テツさんの勾留理由開示公判が東京地裁「429号法廷」で行われる意味
◎「火炎瓶テツさんを救え!」が始動──6月8日東京地裁で「勾留理由開示」公判!
◎火炎瓶テツさんら経産省前「不当逮捕」が示す安倍ファシズム第二段階本格稼働
◎廃炉は出来ない──東電廃炉責任者がNHKで語る現実を無視する「自粛」の狂気
◎3.11以後の世界──日本で具現化された「ニュースピーク」の時代に抗す
◎〈生きた現実〉の直撃弾──鹿砦社松岡社長が自身の逮捕経験を「告白」講義

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「火炎瓶テツさんを救え!」が始動──6月8日東京地裁で「勾留理由開示」公判!

6月3日夜(19時~21時)警視庁東京空港警察署(羽田)で、先月28日に不当逮捕され、現在も同署に勾留されている「火炎瓶テツ」氏への激励行動が行われた。警視庁は都心からわざと通いにくい場所を選定して彼らの勾留を決めたのだろう。だが平日の夜にもかかわらず約70名の人が集まり、次々に激励のメッセージを語ったり、歌で伝えたりした。同様の激励行動は5月30日(日)の日中にも行われていて、その際は100名を超える人が参集したという。激励の場では、警察署内の「火炎瓶テツ」氏から(弁護士経由)のメッセージが読み上げられた。「30日激励行動の声が二度聞こえた」と。

激励行動に参加した複数の人がその模様を中継していた。中継画面を視聴している人数も数百人に上る。「火炎瓶テツ」氏逮捕が如何に注目されているかを示す数字だ。

◆凄まじい拡大解釈による「接見禁止」で被疑者の心を萎えさせる

3日は空港から警察署まで徒歩10分ほどの間に私服制服警官が数人、警察署では20名程の警察官が警備にあたっていた。現在「火炎瓶テツ」氏は「接見禁止」(弁護士以外の面会が許されず外界と完全に遮断される)が付けられている。最近集会やデモで逮捕された人には微罪であっても裁判所はいとも簡単に「接見禁止」を出す。「接見禁止」は証拠隠滅や逃亡の恐れがある被疑者に基本限定されるはずだが、その拡大解釈振りも凄まじい。

逮捕勾留された経験のある人物(西宮市に本社のある出版社社長)によると「接見禁止はきつかった。弁護士も毎日来てくれるわけではないし、こちらから手紙は出せても返事は一切受け取れない。あれが長期間続いたら精神がどうなっていた事やら」とその辛さを語っている。某出版社社長は神戸の不便な場所に勾留され、しかも突然の事件で支援体制も整っていなかったことから外部からの声援などでの応援はなかった。

◆「逮捕されたら絶対に黙秘してください、黙秘が最大の武器です」(山田悦子さん)

だが、別の逮捕経験者によると、警察署あるいは拘置所外部からの激励は、時としてとても大きな力になるという。まだ若かったある活動家はデモの際に逮捕勾留され連日の厳しい取り調べの中で「完黙」(完全黙秘、事件についての聴取で何も語らないこと)を貫こうとしたが、精神的に参ってしまい、不覚にも供述を始めてしまった。その時警察署の壁の外から「××君絶対完黙で頑張れよ!」との声が聞こえ、ふと我に返り再び「完黙」を貫き通せたという。

甲山事件で冤罪被害者にされた山田悦子さんは講演の度に「逮捕されたら絶対に黙秘してください、黙秘が最大の武器です」と語っている。

何を言いがかりに逮捕されるか、少し真面目に政治や社会のことを考えて行動している人には全く油断のならない時代だ。運悪く逮捕されても、余程無茶な起訴をされないかぎり23日で勾留は終わる。その間肝要なのは「完黙」を貫くことだ。取調官は時に甘い言葉で、時に脅しを込めてあれこれ誘導してくるが、とにかく逮捕された件については一切話をしないことが、その後の裁判の行方を左右する。

こんな事、「火炎瓶テツ」は先刻ご承知だろうけれども、今外から彼を支援している人の中にまだご存知ない方がいるかもしれないので念のためお伝えする。

◆6月8日東京地裁で行われる「勾留理由開示」公判の重要性

尚、「火炎瓶テツ」は勾留理由開示公判を要求し、時刻は未定も8日月曜日に東京地裁で公判が開かれる。勾留理由開示公判とは被疑者が「なぜ勾留されなければならないか」を裁判所に問いかけ、明らかにするための特別な法廷だ。不当逮捕や弾圧の際には保釈へ向けた意思表示の一助となるし、「接見禁止」が付けられていても、法廷で傍聴人と顔を合わすことが出来るというメリットもある。勾留理由開示公判は勾留に納得しない被疑者が裁判所をいわば追求する場でもあるので、時に荒れる。

傍聴券が出るほどに傍聴人が参集すれば裁判所に対する大きな圧力になる。東京在住でお時間のある方は関係者に時刻ご確認の上8日は東京地裁へお出かけになると貴重な体験が出来るかもしれない(尚、世間の注目が高まったり、勾留理由開示公判を請求すると、微罪の場合その直前に保釈されるケースも多いので念のため)。


◎[参考動画]2015.05.29「不当逮捕への抗議と…仲間への激励行動」警視庁丸の内警察署前【1/2】

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎火炎瓶テツさんら経産省前「不当逮捕」が示す安倍ファシズム第二段階本格稼働
◎3.11以後の世界──日本で具現化された「ニュースピーク」の時代に抗す
◎〈生きた現実〉の直撃弾──鹿砦社松岡社長が自身の逮捕経験を「告白」講義
◎廃炉は出来ない──東電廃炉責任者がNHKで語る現実を無視する「自粛」の狂気

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合法ラディカルな自由メディアの天使「ノエル」少年を権力が恐れる本当の理由

15歳の少年「ノエル」が各所で「ドローン」を駆使した「中継」を行い、それがマスコミで「問題視」され結局逮捕されたのは5月21日であった。迂闊にも彼の活動の詳細について追跡をしてはいなかったので、「ノエル」の活動をここ数日ネット上で確認するまで、その意味と逮捕の不当性についてよく理解できていなかった。

彼は2月頃から全国各所に赴き「配信」を始めている。もっともその前からネット上では様々な議論や発信を行っていたようであるが、「ノエル」の独自性が発揮されるのは何と言っても「自分の顔を映しながら」各所で警察に囲まれるも、それをことごとく「論破」する場面であろう。


◎[参考動画]15歳少年、警察に腕つかまれて連行されそうになるが断固拒否して退散させる

例えば、福島から「配信」された映像では制服警官や補導員が「ちょっと警察所行こうよ」、「これ補導だからね。私補導員だから」と誘導しても「任意なんですか? 任意なんでね。ならお断りします」と至極真っ当な法律の原則に立ち反論する。制服警官は「ノエル」の両腕を掴み強引に(この行為自体「任意同行」を拒否している人間に対しては違法行為だ)引きずり回わし、「名前は何っていうの」、「どこから来たの」と執拗に攻め立てるが「答えません。答える必要がありません」と退ける。補導員と称する女性には「今、補導対象時間外ですよね」と正論をぶつけると「でも、学校に行っていなかったらだめでしょ」と間抜けな応答しかできない。


◎[参考動画]【ノエル】150519 JR有楽町前でドローン撮影をし警察トラブル

有楽町駅前でも同様の光景が展開される。「翼のついていないドローン」を用いて配信を行っていた「ノエル」を何者かが「不審者がいる」と警察に「通報した」と理由を述べ多くの警察官が「ノエル」を囲み「ここは迷惑だから警察署行こうよ」、「危ないから」と誘いをかけるが、「ノエル」はまた「任意ですか?なら応じません」、そして「翼のついていないドローン」を示し「これ飛びませんよね。飛ばないから危険じゃないですよね。何が問題なんですか」と明晰に「配信」視聴者に語り掛ける。正にその通り。翼のない小型ヘリコプター玩具は飛べはしない。プラスチックの固まりに過ぎない。

◆大人と日本の嘘が見えてくる──「個」として思考し、行動する少年ノエル

「ノエル」はまた、自身の行動を歪曲報道したフジテレビにも出かける。そこでニュース番組責任者との面会を求め、応対するフジテレビ社員と応酬を繰り広げる。「ノエル」は以前のニュース番組で自分が歪曲報道されたので、その日放送するニュース番組内容を確認させてくれ、と要求するがそれは出来ないと断られる。すると以前の番組で取り上げられた「ノエル」を模した3Dの画面をパソコン上に示し「これ、僕ってわかりますよね。だから責任者の方と話がしたいんです」と証拠を示し「報道被害の防止が目的」である旨を伝える。フジ社員は「事前に番組内容をお知らせすることは出来ません。放送後ご意見があればご意見を伺う窓口にお伝え下さい」と紋切型で切り抜けようとするが「ノエル」は「放送されると取り返しがつかないんですよ。間違いを放送されて、全国の人に勘違いされた後ではどうしようもないんです。だから番組責任者の方と話がしたいんです」と正論を述べる。フジ社員はごちゃごちゃ言い訳を並べるけれども、どちらに論理的な非があるかは明らかだ。

川崎市で起きた少年殺人事件の容疑者宅前にも出かけている。ここでも「不審者」の通報があったとして警察に囲まれる。警察は「個人のお宅を撮ったら迷惑になるでしょ」と言うも「ノエル」は「僕は僕の顔しか撮っていません」と応じるが、その様子を周りで囲んでいた「マスコミ」が一斉に「ノエル」を撮影し出す。背後から「ノエル」のパソコンのディスプレーを堂々と撮影しているテレビカメラもある。警察は大勢の「マスコミ」取材陣には一切お構いなしだ。煌々と目がくらむような照明を向けテレビカメラやマイクを向ける「大勢」と、パソコンを抱えそれに向かって小言で話している一人とどちらが「迷惑」なのかは常識的な想像力を持った人間であれば理解できよう。

「ノエル」は各地の祭りにも出向き、最終的に浅草の三社祭に「行きます」と言った為に同所で逮捕(ドローンを飛ばしていないにもかかわらず)されたようだ。

「ノエル」を各所で「尋問」していた警察官は「君は誰なの」、「中学生だったら危険があるから保護しないと」、「なんでここにいるの」、「どうやってここに来たの」、「カバンの中には何が入っているの」とクドクドどうでも良いことを聞き出そうとしていたが「ノエル」は冷静に「任意なんですね、なら答えません」と一貫して突っぱねていた。でも、若しこの質問者が警察ではなかったらこれらの行為はどう評価されるだろうか。腕を掴んで引き回す行為は「暴行罪」に明確に該当するだろう。私的な事を付きまといながら、答えることを嫌がっている人に聞き続ける行為は「ストーカー行為」そのものだ。

「ノエル」が15歳であることのみに活路を見出した警察は、しきりに「保護」や「安全」、「君が誰かわからないと心配」などと繰り返しているが、それらが本音ではないことも明らかだ。警察(権力)が懸念したのは「ノエル」の独立した意志に立脚した実に多彩な行動に他ならない。Ustreamやツイットキャスティング、その他様々な方法で個人が各所から映像を配信できる技術が確立された。既にそういった配信方法を利用した「ビジネス」を確立している企業があるし、個人もいる。

だが新配信技術の魅力を知った人の中には、あっという間に「配信内容」よりも「儲け」あるいは「アクセス数」が頭の中で先行し、既存マスコミと何変わらぬ思考に陥る人も少なくない。

「ノエル」の頭の中にも「視聴者を広めたい」という欲求はあったろう。しかしそれ以上に彼の興味、関心領域は無限の如き広がりを見せ、数知れぬアクティブな配信へと自身を突き動かしたのだろう。前回記事「火炎瓶テツさんら経産省前「不当逮捕」が示す安倍ファシズム第二段階本格稼働」の中でも指摘したが内容の如何を問わず、「個」として思考し行動する者を何より国家は危険視しする。その補完機関たる「大手マスコミ」も同様だ。

◆放送という既得権が「個人」に侵食されることを恐れるマスメディア


◎[参考動画]ミヤネ屋のノエル逮捕報道

「ノエル」逮捕について、救いがたく低劣な思考を恥じぬことで有名な宮根誠司は「ミヤネ屋」の中で「こんな事をやっていること自体がもうね、人として良いのか悪いのかって判断がついていないこと自体が、自分が取れない映像をを撮ってそれを沢山の人が見て、更に現金化できるぞって、だったら何をしても良いっていう。15歳にもなってこういう事をしてしまうのが問題ですよね。大問題ですよね」とまくし立てている。

己達の頭が硬直して15歳の発想と取材力に至らないことへの口惜しさを見当違いの個人攻撃に向ける宮根。何が大問題なものか!「ノエル」が「配信」したことよりはるかに悪辣な「プライバシー蹂躙放送」(例えばこの番組自体)を生業にして飯を食っているのがお前たち「腐れマスコミ」ではないのか! その証拠に川崎市での容疑者宅近くでの警察による「ノエル」包囲の際、大マスコミはハイエナのように「ノエル」の姿、パソコンの表示画面までを「ノエル」の許可もなく撮影していたではないか。

マスコミが「ノエル」を批判するのは奴らの儲けの領域が一個人により浸食されかかった事への危機意識と憎悪の現れである。既得権である「ニュース」と言う名の偏向報道の現場を全く視点が異なる「個人」に侵食されることがマスコミには許しがたいのだ。

私はある程度の年齢に達すれば、人間の思考能力に大差はないと考える。自分の中学生時代を思い返しても友人にはその辺りで「お笑い芸人」と呼ばれている連中より余程感性が優れていて、テレビに出せば確実にプロを凌駕する悪友が沢山いた。逆に年齢を重ねようとも成長しない人間は全く成長しない。しかし実質年齢だけは重ねていくので、一様に年配者はそれなりに「賢明」だという勘違いが世間にはあるが、大いなる間違いである。だから私は「ノエル」の行動と年齢の関係をことさら特異な物とは考えない。

「ノエル」は釈放されたら更に行動に磨きがかかるだろう。

◎[参考資料]粉川哲夫の雑日記─[12]「日本の発展」(2015年5月31日)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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