「チャイナスクール」出身外務官僚の不思議な価値観への違和感

もうだいぶ前の話になるけれども、仕事の関係で半年間ほど外務省と「喧嘩」をしたことがある。まだ当時の日本が余り関係を持ちたくない人物についての案件で、それまで顔を合わせた事のなかった「外務官僚」と何度も交渉する機会を得た。私の相手をしてくれた主たる人々は一人を除いて東大卒のエリート(残りの一人は京大卒)だった。皆さん私よりも幾つか年上ではあったけれども、世代が違うというほどに離れてはいなかった。

◆「チャイナスクール」は実在する

たまたまか、あるいは必然だったのかその方々は全員「チャイナスクール」系列の方々だった。「チャイナスクール」とは外務省入省後2-3年程度語学研修を主として中国に滞在した経験のある人々を意味する。彼らのほとんどは語学力だけでなく「政治的」思考の影響も受けて帰国し任務にあたる、と産経新聞あたりは決めつけている。でも、「チャイナスクール」出身者の多くはその後米国、若しくは英国で同様の期間研修兼、実務を経験する。

最初の交渉相手は外務省の某課、課長補佐だった。電話でアポを取り、関西から外務省に向かうとパーテーション区切られた打ち合わせスペースに案内された。分厚い近眼メガネをかけた課長補佐氏が出てきた。名刺を交換し、こちらの相談、依頼事項を告げると表情を変えずに「少しお待ちください」といってどっかに消えていった。近眼メガネ氏はもう一人少し下腹が出た人間と共に戻ってきた。彼がその課の課長だった。彼の年齢を今から考えれば40前後であるから、出世する中央官庁のエリートは、本当に飛び石のように階段を上がっていく。

「お話は承りました。こちらの要請に沿って進めて頂ければ、何とかならないことはないです。でもお願いしなければいけない内容がかなり多いですよ。クリアできますか?」

口調は丁寧だが、こちらを試していることは明らかで、しかも舐めきっている。私も外務省に出かけるのにアロハシャツとジーンズという姿で訪問しているので、舐められても仕方がなかったのかもしれないが、私自身というよりは私の勤務先である大学の力量を軽視した発言としか取れなかった。

「なにぶん経験もありませんし、ご指示やご指導には全て従うつもりですからよろしくお願いいたします」

としか言い返すことが出来なかった。

かくして、半年間の「喧嘩」が始まった。

◆言いがかりに近いような難題半年間の「喧嘩」

私たちが画策していたのは中国が敵視するある有名な仏教指導者を大学に招こうという計画だった。

「チャイナスクール」は実在するんだなー。と思い知らされたのは「喧嘩」の最中ではない。当初の「通告」通り課長補佐、課長氏はこれでもかこれでもか、と無理難題を投げかけてきた。こちらは意地になるから彼らの出す難問にも何とか準備をして答えた。それでもまた言いがかりに近いような難題を押し付けてくる。ある時私は我慢が限界を超えた。

「わかりました。今からお伺いして詳細を説明しますよ。いいですよね」

そう電話越しに伝えると、日常業務を同僚に頼み新幹線へ急いだ。外務省に着くと近眼メガネ氏が応対に出てきた。

「Aさん。ご要請には全て応じていますけど、今日の話は嫌がらせですよね」
「心外ですね。そんな言われ方をすると。我々はあくまで我が国の外交戦略に基づいてお願いをしているだけですよ」
「何言ってるんですか!それなら前に提出した計画書に全て網羅されているでしょ。え!だいたい貴方たちのような世間知らずの官僚は自分が国を動かしていると勘違いしてますよ。その分厚い眼鏡!鏡で見たことありますか!そういう姿と物言いを『官僚的』と言うんだ!わかりますか!」

私は怒鳴りはしなかったけど、少し大きな声で彼に食って掛かかった。話の内容はともかく自分の容姿や物言いを批判されたのはA氏にとっては驚きだったようだ。

その後「喧嘩」が終わるとA氏も、課長氏も仕事としてではなく、個人として打ち解けて付き合ってくれるようになった。

◆「日本人には国民としての自覚がない」という官僚A氏の価値観

後年、たまたま上京中に時間が空いたのでふとA氏のことを思い出し、電話をしてみると時間を割くから会いに来ないかと言ってくれた。

霞が関のあるビルでA氏に会ったのは初体面から10年近く経っていた。でもA氏どこか以前と印象が違う。

「お元気そうですね、それにお若くなられたようですけど」
「ええ、田所さんに『その眼鏡姿が官僚的』と言われたのがショックで、レーシック手術を受けたんですよ。眼鏡要らなくなりました」
「(えええ!)」

今は思い出した順番に事実を書いているので「その眼鏡!」と私が言ったと書けるが、実はその日A氏から指摘されるまで長年忘れていたことだった。手術を受けさせるほどショッキングなことを言ったのか反省とをした。

彼は外務省からの出向で官庁の中でも中枢部にいた。

「いやー日本の国民は分かりませんね」

「どういうことですか」

これ以上の内容を詳述すると現在彼の所属が分かってしまうので内容は曖昧にするが要は、「日本人には国民としての自覚がない」、「中国や米国の方が国家としては優れている。国民の意識もそうだ」、「時々日本人として恥ずかしくなる」・・・と言う愚痴だった。

A氏は勿論右翼ではないし、左翼でもない。米国が優れていると言い、中国も優れているという。うーん?米国と中国はあらゆる意味で随分違うように思えるのだけれども、A氏の頭の中では両方評価に値する国だという。

「体制は違いますよ。でもね、中国も、アメリカも国民が国に誇りを持っているんです」

そうか、それはそうなのかもしれない(私は同意しないけども)。A氏の価値観においては、国のあり様ではなく、「国民がどれほど国民であることを自覚しているか」が尺度となっていると分かった。

この不可思議な感覚は今某国で大使を務めている元課長氏にも聞いたことがあった。

「国民が国民である意識」

A氏の事も、元課長も人間としては嫌いじゃないけども、やはりこの考えに私は馴染めない。要は「国家主義」の言いかえではないだろうか。この2人に限らず外務省に勤務する人からは何度か同じニュアンスの話を聞いた。

私と彼ら。仲良くしてもらっても考え方の乖離は埋められそうにない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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「人口1億人維持」の無理──「少子化」「人口減」に見合った思想へ舵をとれ

国土の広さなどの要因で全部の国には該当しないけれども、一般に経済成長を遂げた国ほど人口は増えない傾向にあり、貧困に苦しむ国ほど多産である。貧しい国では衛生状態の悪さや、栄養不足で乳児死亡率も高いが、たくさん赤ちゃんが産まれるから結果として人口は増えてゆく。

◆日本の少子化に拍車をかけた3.11以後の状況

日本は精一杯経済成長を遂げたので教育費や住居費が高騰し、それに対して若年層の収入は一向に増えないから、子供を産み育てるどころか、家庭を持つことすらに諦めを感じている20代、30代が少なくない。幸運にも結婚ができても、放射能被害に敏感な人は出産をためらうだろう。

放射能被害を心配しないで生活が出来た(2011年3月11日前)から、経済的要因以外に子供を欲しいと願ってもなかなか実現しない悩みを抱く女性の数は潜在的に多かった。現実にどれくらいの割合で女性(あるいは夫婦)が不妊に悩んでいるかと言えば、国立社会保障人口問題研究所「第14回出生動向基本調査」(2010年6月)によれば6組に1組とされているので約17%となるが、私の知る産婦人科医や複数の医師の話を総合するとこの数字は実態の「半数ぐらいではないか」という。

不妊の定義は「通常の生活をしていて2年以内に妊娠しないこと」となっている。産婦人科医は妊婦さんのだけでなく、不妊に悩む女性の治療にもあたるので、受診者、治療者の数を数えれば不妊の実態がわかる。不妊治療を受けている女性の数は現在50万人と言われているが、これも実態より大幅に少ない数だと推測される。

臓器移植などで有名な関西のある病院の産婦人科医は私に「今生まれてくる子供の4人に1人くらいは不妊治療のお蔭でしょう。広義の不妊治療には人工授精なども含みます」と教えてくれた。とすると25%の子供たちが最先端医療技術が無ければ生まれてこれなかったことになる。

不妊に悩む女性やご家族には、これほど不妊の数が多いということを是非知って頂きたい。今日でも女性は「産むための装置」との考えは依然根強く、都議会で自民党議員は「なぜ産まないんだ!」との罵倒を女性議員に浴びせた。子供が出来ない女性への風当たりは身内からも陰に陽にプレッシャーとなる。でも、不妊はもう珍しい現象ではなく4人に1人という時代になっているのだ。

その原因が大いに気にかかるところだが、残念ながら明確な科学的結論は今のところ確認されていない。

◆毎年約22万人づつ減少する日本社会を受け入れる

分かっているのは、年々不妊の女性(あるいは夫婦)の割合が増加しているということのみだ。

とすれば、この国に独特な因子が原因となっているだろうことは推測できる。子供のころからの食べ物、生活のあり様(運動時間や睡眠時間)、体格の変化などが影響しているのだろうか。明言は科学者ではない私には出来ないが、一つだけ推測できる仮説がある。

個体として不妊をとらえると、その人の体の分析により回答を見出すことになるが、この島国全体の人口増減と食物の生産量を考慮してみるとどうだろうか。

日本の総人口は総務省の統計によると、1億2712万2千人(2015年8月1日)だ。毎年約21-22万人づつ減少している。減少の割合は今後加速化し、2030年頃には1億人を割り込む概算だ。でもこの計算は幾分政治的である。上記で述べたような不妊の実態や、ましてこれから多発確実な放射線被害による人口減少は当然含まれていない。

私の暴論だが、生物としてこの島国に住める数を人間は超過してしまっているのではないだろうか。それを感知した生物「ヒト」属が総体としてこれ以上個体数を増やす事を抑えるために何らかの回路で人口抑制(妊娠の難化)にスイッチがオンになったのではないだろうか。

生物は生きる上で空気と水そして食物が欠かせないが、例えば東京都の食物自給率は0%だ。食べるものがないところに生物は生きられない。例えを動物にとって恐縮だが、ウサギやネズミもある特定の地域で個体数が増えすぎると理由不明な多量死が起きることはよく知られている。

この島国で生きながらえようとするのであれば、面積に応じた人口と食物自足をバランスよく実現するのが肝要なのだろう。

それは「経済第一」や「景気回復」といったフレーズと正反対にある思想だ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎渡辺昇一の「朝日憎し」提訴原告数が「在特会」構成員数とほぼ一致
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「強きを助け、弱きを挫く」で一貫する曽野綾子と産経新聞の差別エネルギー

産経新聞と曽野綾子といえば「差別主義者」の代表格だが、その両者が結び付くと差別エネルギーが二乗になり事件が起きる。産経は経営状態が悪いから積極的にYahoo!やネットに記事提供を行っているのであたかも世間で相応の認知がなされた新聞のように誤解されやすいけれども、あんなものは一部偏執狂が意地で出し続けている同人誌のようなものだ。

◆産経新聞は「近視眼、気味悪い、気が小さい」=「3K」新聞

産経新聞は自民党応援団であり、昨今の「嫌韓」を牽引してきた犯人でもある。産経を正しく標記すれば「3K」で「近視眼、気味悪い、気が小さい」の頭文字に由来する。「近視眼」は韓国に対する態度で窺い知れる。今でこそ「韓国叩き」の先頭を走る「3K」だが、ノテウ(慮泰愚)大統領時代までは日本の新聞の中で最も「親韓」を露わにしていたのが「3K」だ。

軍人出身で民主主義を掲げてはいるが軍国主義の血を引く共産主義に対峙する人物だったからだろうか。世論や他の新聞が韓国政権に一定の批判を保持していたのとは対照的にもろてをあげて「ノテウ万歳」だった。

その「3K」系列のフジテレビはつい数年前まで午後ほとんどの時間に韓国ドラマを流しっぱなしだったくせに、潮目が変わると見るや転身の早いこと。これを「近視眼」と言わずに何と表現できよう。「気味悪い」は今回のように国際的にも批判を浴びることが必至な記事を平気で載せてしまう「ネトウヨ」並みの神経だ。

さらに、あまりの偏見に読者が離れてしまい夕刊を発行することすら出来なくなった青色吐息なのに、まだ「これでもか、これでもか」と差別を売り物にしようとする執着心である。「気が小さい」は弱いものや直接批判を浴びない勢力には罵倒を浴びせる癖に、真っ当な批判を正面からされると逃げるか、嘘をついて責任回避をしようとしかしない態度だ。「強きを助け、弱きを挫く」のが「3K」だ。

◆「アパルトヘイトは素晴らしかった」と言っているに等しい曽野綾子

一方、曽野綾子はこれまた堂々たる差別者にして、政府の手先で裏社会の仕事も引き受ける輩だ。愛情だの、母性だの聞こえは優しい言葉を多用しながらも結論は「女は女らしくいなさい!子供を産んだら会社を辞めなさい!」平然と発言したのは数年前だったが、今回の本音に対する批判は国内だけに収まらないだろう。

「3K」は2月11日付朝刊に曽野綾子の「労働力不足と移民」と題したコラムを掲載した。曽野は労働力不足を緩和するための移民の受け入れに言及し、「20~30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった」などと書いている。

こういうことをあたかも独自の視点のように書き、公表をはばからないのが曽野綾子という人間の本性だ。これは「アパルトヘイトは素晴らしかった」と言っているに等しい。この老婆は原則的な差別主義者のくせに驚くべき二重基準を平然と実行する不思議な人物でもある。日本財団(旧日本船舶振興会)代表の椅子に長く座っていた事実がそれを物語る。

と言っても、若い世代にはピンとこないだろう。この団体はモーターボートレースを牛耳っていた笹川良一が設立した団体で、古くから陰に陽に自民党政権を資金的に支えてきた。笹川について書き出すと本が1冊出来てしまうが、40代以上の方々は高見山と一緒に拍子木を打ち鳴らしながら「戸締り用心火の用心、一日一善!」とテレビCMに出ていた老人と言えばご記憶の方も多かろう(笹川は「ファシスト」を自認していたから存命ならこの時代、さぞ生き生きしていただろう)。曽野は笹川の遺産である「日本財団」(この名前も一民間団体にしては随分とずうずうしい)の会長時代に言い逃れのできない犯罪をおかしている。もっともも共犯が日本政府だから検挙されることはなかったが。

2000年アルベルトフジモリが現職のペルー大統領のまま日本に事実上の亡命をしてきた。ペルー検察は後に「殺人罪」容疑者としてフジモリを追及することになるが、2000年フジモリが日本へ逃げてきた際に保持していたパスポートはペルー国籍のはずだ。というのはフジモリの両親が日本国籍であるので、出生届を日本の役所に出してれば「二重国籍だった」可能性は排除できないからだ。仮に「二重国籍」であればフジモリはペルーで大統領になることはなかった。ペルーでは「二重国籍」者が大統領になることを法律で禁じている。

ところがあろうことかフジモリは2007年に日本新党から参議院選挙の比例代表候補として出馬する。何たることかと呆れた記憶がある。日本政府は「二重国籍」を認めていない。この国は国籍に関してはとりわけ神経質であり、他国で大統領をまで上り詰めた人間に日本国籍を「進呈」するなどその他の差別的行政態度からは考えられないことだ。

おそらく、曽野らは日本財団による過去の「貸し」や、裏社会の装置を使って政府を裏から動かしたのだろう。フジモリは実際に当選するあてもない選挙に出馬したのだから。

◆曽野綾子×3K新聞の「誤った言説」に対して日本の中で徹底批判が必要だ

そんな「3K」と曽野の合作に国内からは大小批判が上がっていたが、当の南アフリカ政府からも強烈なパンチが飛んできた。モハウ・ペコ駐日南アフリカ大使が「『アパルトヘイトを許容し、美化した。行き過ぎた、恥ずべき提案』と指摘。アパルトヘイトの歴史をひもとき、『政策は人道に対する犯罪。21世紀において正当化されるべきではなく、世界中のどの国でも、肌の色やほかの分類基準によって他者を差別してはならない』」とする批判文を「3K」に送っていたことが明らかになった。さあどうする、「3K」よ。

アパルトヘイト(Apartheid)は1994年に撤廃されるまで、南ア以外の白人国家でも大変な非難の的になっていた。実際の人種差別が世界中にあっても法律による差別は訳が違う。だから非難されていたのだ。欧州諸国をはじめ米国までが経済制裁を行っていた。日本も名ばかり制裁に参加はしていたけれども、多数の商社や宝石関連企業が取引を続けていたので国際社会で非難を浴びていた。だいたいApartheidを「アパルトヘイト」と日本では発音・表記するが「アパタイト」と発音しないとよその国では通じない。

「3K」の小林毅・執行役員東京編集局長は「当該記事は曽野綾子氏の常設コラムで、曽野氏ご本人の意見として掲載しました。コラムについてさまざまなご意見があるのは当然のことと考えております。産経新聞は、一貫してアパルトヘイトはもとより、人種差別などあらゆる差別は許されるものではないとの考えです」と「気が小さい」を地で行くコメントを出している。嘘つけ!お前たちは連日「人種差別」を煽る記事を掲載しそれを売りにしているじゃないか!今回は相手が韓国ではない。国際社会で非難されていた「アパタイト」擁護は小さな問題で収まりはしまいだろう。

拙稿「多様性に不寛容な日本が『外国人』を無原則に受け入れるとどうなるか?」(2015年2月4日付)で指摘したのは正に曽野のような考え方の人間が闊歩している現状を憂いたためだ。国際的に明らかな差別として指弾された「アパタイト」にすらいまだに賛意を示す時代錯誤は外的圧力によってしか是正出来ないのだろうか。情けない国だと思われないために「誤った言説」には日本の中で徹底した批判が加えられなければならない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎多様性に不寛容な日本が「外国人」を無原則に受け入れるとどうなるか?
◎イスラム国人質「国策」疑惑──湯川さんは政府の「捨て石」だったのか?
◎人質事件で露呈した安倍首相の人並み外れた「問題発生能力」こそが大問題
◎2015年日本の現実──日本に戦争がやってくる

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労働者にメリット・ゼロの「残業代ゼロ」法案を強行する「悪の枢軸」企業群

厚生労働省の労働政策審議会は2月13日、長時間働いても残業代などが払われない新しい働き方を創設する報告書をまとめた。安倍は12日の施政方針演説で「労働時間に画一的な枠をはめる労働制度、社会の発想を、大きく改めていかなければならない」と語り、「残業代ゼロ」となる働き方をつくるのは、その岩盤規制に風穴を開ける「改革」という位置づけ、更に「時間ではなく、成果で評価する新たな労働制度を選べるようにする」として、政権の成長戦略にこの制度の創設を盛り込んだそうだ。

ここまでは、どの新聞でも読める。

◆真っ当な労組が存在していればゼネストをを打つ事態

この「残業代抹殺法」制定への動きを報道している方々は単純な疑問に気が付かないだろうか。

「フレックス制」はどこへ行ったのか?
消えてはいない。多くの企業で出勤時間の自己申告による調整は行われている。新聞社にも夜勤はあるだろう。自己申告により自分の生活と仕事の調整をはかる「フレックス制」には企業、労働者双方にメリットがある。それで「労働時間の画一的な枠」は解決済みじゃないか?

でも安倍の本音は「労働時間」うんぬんではなく「残業代」という概念を消し去ってしまいたいのだ。これを明言するから恐れ入る。安倍の暴走に私の語彙がついてゆけない。

「残業代抹殺法」による労働者のメリットは皆無である。この「蟹工船政策」とでも呼んでやりたい安倍の本心は何も隠すことなく吐露されているから、これ以上の説明は不要なのかもしれないけれども、あまりにもえげつなさすぎる。「連合」などといった腐れ組合ではなく、本当の労組が生きていればゼネストを打つだろう。

◆労働者の基本的権利を「審議会」の密議で奪う日本

安倍が「改めていかなくてはならない」としている「労働時間に画一的な枠をはめる労働制度」とは世界の資本主義発展の中で膨大に生まれた労働者階級の労働条件を如何に「人間的なもの」とするかの闘争の末に勝ち取られた基本権ではなかったのか。国により労働時間の長短はあるが、当初は1日10時間労働、そして1日8時間勤務実質7時間労働(週40時間労働)という基本合意が日本では成立した。その合意を超える労働はいわば「約束違反」だから本俸よりも高い割合で「残業代」が支払われる。これ、常識じゃなかったのか?

何故その基本的権利を「労働政策審議会」などと言う一部の人間の密議で奪われなければならないのか(議事録が公開されていたって内容がインチキだからあんなものは「密議」もしくは「謀議」と呼ぶ)。安倍があたかも旧弊のように言う「労働時間に画一的な枠をはめる労働制度」とは「資本により過剰な労働時間を労働者が押し付けられないように防御する権利」であり労働者と使用者間で最低限の約束ではなかったのか。

対象は年収1075万円以上(平均年収額の3倍以上)、個人と会社の合意が前提、研究開発や金融ディーラーなど専門職に限る、とあたかも一部の労働者のみを対象にしているとの印象造りに余念がない。読者の皆さんはこの約束は守られるとお考えになるだろうか。

◆PKO法と同様に「残業代抹殺法」も必ず変容する

例が違うがPKOは当初「紛争地帯」へは絶対に行かないはずだった。政府は「武器も小火器しか持たせません。日本には平和憲法があるから、あくまでも非軍事部門での国際貢献です。決して戦闘地域へ行くようなことはありません」と嘯いていたではないか。だがカンボジアを皮切りに気が付けばアフリカにまで派兵する実績を作った後に安倍が言い出したのが「解釈改憲」と「積極的平和主義」=「軍事国家化宣言」だ。さっそくその反作用として「イスラム国」から「テロ支援国家」指定をされたではないか。

「残業代抹殺法」も必ず変容する。対象者の年収が700万円に下がりやがて500万円、300万円を経て最後には「全労働者」に広げたいというのが本音だ。「個人と会社の合意」など最初から守られることはないだろう。中規模以上の企業へお勤めの方であればお分かりだろう。職場にそんな「個人の自由」など端からありはしないことを。労組だってあてにならない中で、勇気をもって「拒否」の姿勢を明らかにすることは「兵役拒否」宣言をするに等しい。出来るわけがない。

専門職とされている対象だって、舌の根も乾かぬ内に無原則に広げられるだろう。詭弁使いにかけてこの国の政治家・官僚は世界でもトップクラスだ。「朝令暮改」、「羊頭狗肉」は一切気にならない。無神経と開き直りが成功する政治家の必須条件なのだ。

◆NTT、ベネッセ、イオン、日本郵船などが名を連ねる審議会

「労働者奴隷化計画」は着々と進行する。「労働政策審議会」の中には労働側代表として10名の大規模組合関係者が入っていた。使用者側はNTT、ベネッセ、イオン、日本郵船、経団連など同様に10人だ。これに「公益代表委員」が10名、主として大学教員で構成されている。

この手の「審議会」や「諮問委員会」は最初から結論ありきで、その結論に賛成するであろう者を7割ほど、反対するだろう者を3割ほど入れて、一応「審議」をした形跡だけは残しておく。が、反対意見が多数を占めて政府の思惑通りに進まないことは絶対と言ってよいほどない。

金の亡者「経団連」、「イオン」、「ベネッセ」(社長兼会長は元日本マクドナルド社長の原田泳幸)らと安倍が織りなす「悪の枢軸」の暴走を止めなければならない。ただでさえ非正規労働者はまともな生活をおくることすらままならないのに、「残業代抹殺法」が成立すれば「働いても食えない」社会が益々進行するのは明らかだ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎イオン蔓延で「資本の寡占」──それで暮らしは豊かで便利になったのか?
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◎日本の「新幹線」輸出で最初から破綻が運命づけられていた台湾高速鉄道
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円安からデフォルト──税金引上げ、年金引下げ、社保切り捨ての後の総崩れ

110円台あたりにほぼ落ち着いた感のある円安。これまでの政府や経団連の説明によれば、輸出が促進され輸出企業を中心に収益が好転し経済活動が活発になるはずだった。確かに一部の輸出企業は収益を伸ばしている。でもそれは1ドルあたりの円の価値が下がった為にその差額が転がり込んできているだけの事であり、実際の商品売上数が伸びているわけではない。米国の自動車販売実績を見ても円安にもかかわらず米国勢が販売実績を伸ばしている。

◆日本も米国もすでに「破産」している国

原材料を輸入して製品化し、輸出で利益を得る「加工貿易」とも呼ばれる大枠日本の経済構造にとって「円安」は必ずしも喜ばしいことではない。日本企業や政府の原材料調達はごくまれな例を除いて未だに「ドル建て」である。過去あまたの世界的不況やドルの乱高下を経験しているのだから「円建て」決済に何故踏み切らないのか、そうすれば為替の相場の影響をこれほど受けずに済むのではないかと思うのだが、専門家に言わせると「気が小さいから」日本の企業は「円建て決済」が出来ないらしい。

だから円安は原材料調達の高騰に直結する。原油、各種金属材料、小麦、大豆など。米を除けば日常多量消費する物資を輸入に頼っているこの国を円安は痛撃し、物価がじりじりと上がってゆく。「インフレ目標」など定めなくても消費税のボッタくり的上乗せと円安誘導に引き起こされた物価上昇は生活感覚からすると2%(政府インフレ目標)どころではない。貧乏人はいつもレジで清算の時に1円玉を財布から取り出さなければならず、1円玉は薄くてつかみにくいものだからつい、落としてしまい「また!」と舌打ちさせられるはめになる。

但し円安は自国通貨の価値を下げるから、これからじりじりと投機的外資を呼び込む効果は出てくるのかもしれない。外資ファンドが郵貯や優良株乗っ取りを狙って侵入してくるだろう。他方、常に日本より金利の高かった米国が実質「ゼロ金利」に突入し、それでも尚国債の発行は止まらない。円の価値は対米ドルでは下がっているが、米ドルも対ユーロやポンドで自国通貨安を引き起こそうと必死になっている。

何故かと言えば日本も米国も実は既に「破産」している国だからだ。

◆日米「多重債務国」同盟

米国は世界最大の債務国だ。借金世界一ということだ。IMFによると米国の総国債発行残高は2014年に18.395兆ドル(1ドル=110円で計算すると約2000兆円)。2004年の8.039兆ドルからこの10年で倍以上に膨張している。米国債を最もたくさん保有しているのは中国で、日本が二番目だ。この2国が裏で交渉して一気に米国債を売りに出したら(そんなことは出来ないだろうが)、その瞬間に米ドルは暴落し、米国はデフォルトを起こす。「世界一の大国」はその気になればいつでも転がすことが出来る。

でも、それが出来ない理由の一つは、日本も同様に言わば「多重債務者」状態だからだ。国債、地方債の発行残高は1000兆円を超えている。赤ちゃんから老人まで一人当たり1000万円以上の借金を背負わされているわけだ。勤労者人口のみに限定すれば一人当たり3000~4000万円に上る「国の借金」の「連帯保証人」を知らないうちに引き受けさせられている。

来年度の政府予算は補正を含めれば100兆円を超えるだろうが、税収は40兆円前後だ。月収40万円の家庭が毎月100万円の出費をしているわけだ。こんな状態がいつまでも続くだろうか。

◆「ちゃぶ台返し」が必ずやってくる

いったい誰が返済の責任を負ってくれるのかといえば、それは政府ではない。もちろん財務省を始めとする行政機関でもない。いわんや政治家個人など知らん顔を決め込む。負債を返済させられる「連帯保証人」はあなただ。国が借金をする時にあなたに相談があっただろうか? 連帯保証人になってくれと頼まれ、あなたは借用書に印鑑をついただろうか。記憶はないはずだ。そんな方法でこの巧妙な借金は展開されてはいない。あなたに解りにくい「お伺い」があったのは敢えて言うなら「選挙」の時だ。

「皆様のお力でどうぞ国会に送ってください」と連呼するあのやかましい声のなかに本音は隠されていたのだ。「当選すれば私は歳費を年間約2300万円、その他政務調査費や諸々の利権が手に入りますんや。皆さんには『税金引き上げ』と『年金の引き下げ』その他『社会保障の切り捨て』で国の借金負担してもらいますねんけど、ここでは言えまへんわな」との本音が聞こえていたのは有権者100人に1人くらいだろうか。

何の根拠もなく世界の力関係はいつだって同じように見えるかもしれないけれども、一つ刺激があれば総崩れがいつ起きても不思議ではない。いや遅かれ早かれ常識のように見える世界秩序を根底からひっくり返す「ちゃぶ台返し」が必ずやってくる。多重債務者であるこの国の言うことを諾々と聞いていると下劣な表現だが、

「ケツの毛までむしられるで」

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

◎安倍「国富喪失」解散──アベノミクス失策の責任を問う選挙へ
◎2015年日本の現実──日本に戦争がやってくる
◎イオン蔓延で「資本の寡占」──それで暮らしは豊かで便利になったのか?
◎粗悪な食文化の伝道企業=マクドナルドの衰退は「自然の理」

あらゆる事件は同時多発!──『紙の爆弾』3月号発売中!

《大学異論32》大学・刑務所・造幣局──入学試験で繋がる意外な関係

「A大学入試、『数学』問題に誤り」。大学入試の出題ミスは大小含め連日報道される。新聞に記事が出ていても読み飛ばす読者が多いだろう。大学の肩を持つわけではないがこと「入試問題」にかけて大学は、その「秘匿性」と「正確さ」にかなりの神経を使っている。努力はしている。それでも「入試問題」の間違いを根絶は出来ない。以前も本コラムで述べたが入試実施の回数が増え、それに合わせた出題を準備しなければならない大学の負担は増すばかりだ。そこで出題者を予備校に依頼している実態もご紹介した。

一般に入試が行われている時間内に現場で大学側から「問題の訂正」や「回答方法の変更」を受験生に伝えることが出来た場合は報道されるような「出題ミス」とは取り上げられない。受験生が試験を終え、会場を後にして関係者が「おい、これ間違いじゃないか」と大学に連絡をよこしてきて、初めて大学が気付いた時に「事件化」する。

◆入学試験は大学の要──だから入試当日、大学関係者は大変!

入試には必ず教室ごとに監督者が数名配置され、受験に関する注意伝達や問題配布を行う。大規模大学の教職員は年度を通して1度(あるいはゼロ回)の監督担当で済ませられるが、小規模大学で受験生の数がそこそこあると、教職員は連日試験監督にあたることになる。「入試課」とか「入試広報課」が教職員の監督配置を決め各人に連絡が来る。私も毎年この時期には連日試験監督に駆り出されていた。

当然の事ながら、監督者も試験会場で初めて試験問題を目にする。受験生が着席し開始5分ほど前までに回答用紙と問題用紙の配布を終え、試験中の注意事項を伝える。試験開始までの数分は特にすることはないので、教壇の上で配布し終えた問題用紙に誤植などがないか目を通してみる。私の勤務していた大学は入試の「英語」は比較的基礎的な力を試す良問が多いのが特徴だった。言い換えればそれほど難しくはないわけだ。開始定刻になると「はい、回答用紙を表に向けてまず、受験番号と氏名を記入してください」とマニュアル通りに伝える。受験生があらかじめ提出している写真と受験票及び本人かどうかの確認に回り、欠席者を記録しておくとしばらくは手が空く。

そこで再び、今度は受験生になりきったつもりで問題を読む。すると「これ、複数形じゃないとおかしいんじゃないか」と長文問題の中に疑問箇所を見つけることがある。静寂な教室内からは連絡できないから廊下に出て、内線電話や携帯から「入試本部」に連絡する。「入試本部」には「問題発生」の際に対応するため必ず出題者が控えている。「3ページの下から5行目の単語です。これ単数ですが、主語が複数だから複数じゃないかなと思うんですが」と要点を伝える。即答はない。「確認して連絡します」ということになり教室に戻る。

私の勘違いで出題に間違いがなければ、「入試本部」から誰から走ってきて「問題ナシ」と書いた紙を手渡される。逆に私の指摘が正しい場合には正誤表と黒板に書く訂正内容、及び受験生に口頭で伝える内容をコピーした紙を息を切らして伝令が持ってくる。訂正箇所を板書し口頭でそれを伝える。

大学内で実施している試験の時はさほど緊張もしないけれども、地方試験で「入試問題」の間違いを見つけると大慌てだ。やはり教室の外に出て携帯電話から「入試本部」に電話をかけ疑問箇所を伝える。この時は電話は切らない。なんせ地方試験は全国で同時に行っているから、もし「出題ミス」なら「正誤」を確認するだけでなく、場合によってはこちらも他の地方入試会場に訂正を伝える「伝令」を担わなければいけない時もあるからだ。不幸にも私の指摘通り「出題ミス」が確認されると、手書きで「正誤表」を作成し教室に控える別の担当者に速やかに手渡し「入試本部」」と調整してこちらから連絡をする会場を決め担当者の携帯電話に大急ぎで電話連絡をする。

と、現場では「ミスがあっても最小限に」という努力が結構真剣に行われていた(当たり前だが)。

◆刑務所、造幣局と大学を繋げる「入試」

ところで「刑務所」と「入試問題」。この二つには深い関係がある。一見無関係な両者だが読者には想像がつくだろうか。

かつて、相当数大学の入試問題は「刑務所」の中で印刷されていた。理由は「刑務所」は問題漏えいの心配が限りなく低い場所だからだ。印刷費用も妥当な額だったと記憶する。「刑務所」内の作業日程を書いたカレンダーにはイニシャルで「A大学納期」「B大学校正」などびっしり日程が埋まっていた。大学の人間が服役中の方と接することはなく、「刑務所」の職員の方とやり取りをするのだが、印刷が終了すると今で言う警備会社の車両で大学に運び厳重に保管されていた。

ある時期を境に、刑務所ではなく印刷は別の場所に移動した。噂程度でしか聞いたことはないけれども「刑務所」から何らかの方法で問題が外部に漏れたような話を耳にはした。

次なる場所はさらに「機密性」が高いところでなければならない。そこで選ばれたのが「造幣局」であるお金を印刷する機械と入試問題を印刷する機械が同じなのかどうかは知らないが「造幣局」での入試問題印刷も歴史は長い。「造幣局」も「刑務所」も納期や印刷の確かさに関しては民間の印刷会社の比ではなく任せる方としては安心度が比較にならない。

「入試問題」の内容は「どのような学生が学びに来てほしいか」を受験生に伝えるメッセージでもある。私には入試問題作成を予備校に依頼したり、「センター試験」の点数だけで」合否を決めるなど、私立大学としての存立自体を否定する行為のように思えてならない。今では少数派になってしまったけれども、私と同じように考える大学関係者もかつては数少なくはなかった。

受験生にとっては苦痛以外の何物でもない「入試」だが、「入試問題」にはそういう裏面の歴史もある。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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第1回前田日明ゼミ開催!──新右翼鈴木邦男さんと「真の愛国者」を問う!

2月8日鹿砦社主催の「前田日明ゼミin西宮」の第1回がお馴染みの鈴木邦男さんをゲストに迎え60余名の聴衆が集散し、これまで同様cafeインティラミで開催された。「前田日明ゼミ」への関心の高さは『紙の爆弾』誌上で発表後時間をおかずに定員に達したことからも伺われたが、この日も会場へ直接申し込みなく訪れた方々が10名を超えた。

会場スペースと消防法の規定もあり、当日会場に来られた方々は入場することが出来ずにお帰り頂いたそうだが、鹿砦社の担当者の方からは「大変申し訳ないが事情を理解していただき、次回以降申し込みをして頂き是非ご参加を」とのコメントがあった。

会場には鹿砦社のロゴやカレンダーなどを手掛ける「龍一郎」さん(前田さんの大ファンだそうだ)も駆けつけ、対談開始前に会場で書を実践披露していただいた。書かれたのは「誠」。清々しいサプライズを受けて対談が始まった。

この日のテーマは「真の愛国者とは~現代日本は社会を読み解く~」であった。新右翼でありながら今や「境界なき思想家」である鈴木さんと韓国籍から日本国籍へ帰化された前田さんの間でどんな激論が交わされるのか。「愛国」を語らせたら、これ以上ないスリリングな組み合わせに会場は静かながら緊張感に包まれた。

鈴木さんは吉田松陰や幕末に活躍した人間が専ら中国の古典から教養の基礎を学んでいたことを紹介し、日本で昨今見られる排外主義に疑問を呈すると、前田さんはすかさずそれに呼応する。いわく武士の教本は「四書五経」にあったと。

◆サンフランシスコ講和条約──問題はそこから始まってる

前田さんが恐るべき読書家で、それには鈴木さんすら一目置くほどだという事実は知る人ぞ知るところだが、その後も歴史的にあまり知られていない重要な事実を前田さんはどんどん明かしてゆく。

「吉田茂と白洲次郎は売国奴ですよ」

「サンフランシスコ講和条約は何語で書かれているか皆さんご存知ですか?英語、フランス語、スペイン語、付け足しで日本語と書かれてるけど、政府答弁ではサンフランシスコ講和条約の日本語版は存在しない!」

「サンフランシスコ講和条約の中で、日本に主権を返すという記述はある。でもそれは日本国にじゃなくて”Japanese People”と書かれてる。これ日本人でしょ。日本国じゃないですよ。でも政府は日本国と偽訳で国民を誤魔化してるんです。」

「敗戦に伴う賠償請求はしないことになったると言われてるけど嘘ですよ。よく読んだら戦費以外は『いつでも、私企業にも賠償させることが出来る』て書いてある。だから日本は国連やIMFへの出資が多い。ODAもそうですよ。日米安保以前にサンフランシスコ講和条約の問題を誰も言わないでしょ。問題はそこから始まってるんですよ」

「今まで何百人という政治家に会ってきましたけど、この人は本物だなと思える人は2、3人ですね。あとは皆だめですね。私の質問にも答えられない」

◆彼ら(在特会)のやってること自体が『在日』そのもの

そして、いよいよ「愛国者」に関係の深い昨今の差別問題へと鈴木さんが話題を向ける。前田さんは実際に「在特会」のデモやヘイトスピーチを目にしたことはないというが、

「彼らのやってること自体が『在日』そのものなんですよ。『在日』にもいろんな人間いるから変な奴もいる。正に『在日』の悪い部分そのものですね」

と在特会こそ『在日』の闇の部分だと指摘する。だが、

「もし目の前であんな事言われたら、日本刀でぶった切るかもね(笑)」

とやはり前田さんにも許し難い行為のようだ。更に新井将敬(元韓国籍から日本国籍に帰化、自民党から国会議員に当選するも自殺)、中川一郎、果ては橋本龍太郎の死に対して疑いの目が向けられる。

「謀略って日本人はあまり信用しないけどあるんですよ」

前田日明ゼミ第一回は早速ダッシュで始まった印象だ。本当はゲストである鈴木さんの「聞き出し方の旨さ」も際立っていた。鈴木さんに取調官をやらせたらきっと優秀だろう。

ゼミ終了後、同じ場所で懇親会が開催された。前田日明ファンが写真を撮ったり、握手を求めたり列をなした。中には時価1千万円の価値があるという「テレホンカード」の数々を持参して前田さんにサインをもらっている方もいた。極め付けは「技をかけて!」と願い出る女性へのコブラツイスト!

次回以降も何が起こるかわからない。期待を寄せる刺激に満ちた初回スペシャルだった。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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制度は作るが責任は取らない厚労省「健康な食事を普及するマーク」の怪

厚生労働省が昨年10月16日、「健康な食事」に関する珍妙な報告書を発表している。

報告書の主旨はこんな感じだ。
「この度、『日本人の長寿を支える「健康な食事」のあり方に関する検討会』(座長:中村丁次神奈川県立保健福祉大学学長)の報告書を取りまとめましたので、公表します。 本検討会は、日本人の長寿を支える「健康な食事」とは何かを明らかにし、その目安を提示し、普及することで、国民や社会の「健康な食事」についての理解を深め、「健康な食事」に取り組みやすい環境の整備が図られるよう、平成25年6月より検討を行ってきました。 」とのことだが、この報告書、記述のあちこちに怪しい箇所が満載されている。

◆まったく整理されていないのに無理やり「整理」の非現実

その内容は、
【主なポイント】
1)日本人の長寿を支える「健康な食事」のとらえ方を整理
「健康な食事」とは何かについて、健康、栄養、食品、加工・調理、食文化、生産・流通、経済など多様な側面から、構成する要因を踏まえ、整理。

2)生活習慣病の予防に資する「健康な食事」を事業者が提供するための基準を策定
食事摂取基準(2015年版)における主要な栄養素の摂取基準値を満たし、かつ、現在の日本人の食習慣を踏まえた食品の量と組合せを求め、1食当たりの料理を組み合せることで「健康な食事」の食事パターンを実現するための基準を策定した。この基準は、食事を提供する事業者が使用するものである。事業者は、この基準を満たした料理を市販する場合にマークを表示することができる。

3)「健康な食事」を普及するためのマークを決定
市販された料理(調理済みの食品)の中で、消費者が「健康な食事」の基準に合致していることを一目で分かり、手軽に入手し、適切に料理を組み合わせて食べることができるよう、公募によりマークを決定。

とされている。医療・健康に関する厚生労働省の施策に長年疑念を感じているひねくれ者の私は、ご指導を頂いたからといって「はい そうですか」と有難く盲従する気はさらさらない。

でも、国が定めればその指針を信用・信頼して食生活を考えたり、何を食材として購買するかの参考とされる方も少なくないであろう。

【主なポイント】にはその記述からして、怪しい箇所がいくつか見受けられる。

1)は「健康な食事」とらえ方を整理とある。つまり「健康な食事」を定義しているのだが、その中に「健康、栄養、食品、加工・調理、食文化」とあるのは肯けるが、「生産・流通、経済など」と「経済」が入っている。ここでいう「経済」は生活者の「経済状況」ではなく、国や地域の「経済」を指すことは報告書の全文を読めばわかる。健康食と「経済」の結びつきに「経済が第一」を叫ぶ安倍政権下でなされた「報告書」の暗部を感じる。厚生労働省が示している「日本人の長寿を支える『健康な食事』を構成している要因例」では「健康な食事」を示しているはずなのに、それを構成する要素をまとめる項目は3つで、「自然」「社会・経済」「文化」とされていて、中でも中心に「社会・経済」が描かれている。表題、あるいは図表全体が示す内容と「社会・経済」には相当な乖離がある。

◆乱暴であいまいな「健康食」指定がなされる危険性

また、2)から導かれる、3)の「健康な食事」を普及するためのマークを決定 に至ってはかなり乱暴な「健康食」指定がなされることを示しており、警戒が必要だ。

「健康な食事」の普及のためのマーク(厚生労働省)

ここに示したような「健康な食事を普及するマーク」が4月から店頭に登場することになる。ところが、このマーク使用にあたっての厚生労働省の基準は以下の通りだ。

(1)マークの対象とする料理
対象とする料理は、市販される1食当たりの料理(調理済みの食品)であり、外食や給食など提供される場所、パック詰めやパウチ詰めなど提供される形態を特定するものではない。仮に基準を満たしても、1食分となってないものは対象とはならない。また、特定の保健の用途に資することを目的とした食品や素材は使用しないこととする。

(2)マークの表示に当たっての留意事項
事業者は、マークの適切な普及のために、主食、主菜、副菜を組み合わせて食べることなど、マークの意味することについて、消費者に適切に情報提供できる体制を確保すること。
○ 事業者は、マークとともに、おいしさや楽しみを付与するために工夫している旬の食材や地域産物の利用などの情報について積極的に提供すること。
○ 事業者は、マークの表示に際して、おいしさや楽しみのために工夫した食材の特徴があれば、あわせて、分かりやすく表示すること。
事業者は、基準に合致したレシピの作成など、「健康な食事」に関する企画や運用に当たって、管理栄養士などの関与により、適切に実施できる体制を確保すること。
国は、マークの普及状況をモニタリングする観点から、事業者のマークの使用状況について、国に報告する仕組みを構築すること。この他、基準を満たすためのそれぞれの食品の重量は、生の重量を基本とし(ただし主食においては、調理後重量を基本)、栄養素の量は、成分分析値でも食品標準成分表からの計算値でも構わないこととするなど、基準の運用に必要な事項の詳細は、今後、別途作成するガイドラインに示すこととする。

赤や青文字部分が多くて恐縮だが、要するに「売る人間の判断で、国や公的機関の検査もなく勝手に」利用できるのが「健康な食事を普及するマーク」であるということだ。「何の検査も審査もなく誰でも勝手にお使いください。国は制度は作りますが責任は取りません」という恐るべき制度である。

仮に私が弁当屋を開業して、自家商品を売る際に「勝手」に張り付けたり、印刷しても構わない、それが「健康な食事を普及するマーク」である。マクドナルドだって利用するかもしれない。

◆「国民の生命・健康」という最低限の責任すら取らない官民ビジネス

よくまあこんな無責任をお役所が許すものだと呆れるばかりだ。「国は、マークの普及状況をモニタリングする観点から、事業者のマークの使用状況について、国に報告する仕組みを構築すること」などと呑気に言い訳のように付け足しているけれども、この「健康な食事を普及するマーク」は使用開始前から「何の保証も安全も担保されない、無責任な制度」であることを認識しておく必要がある。

コンビニエンスストアやスパーマーケットの店頭にはやがてこのマークが並ぶことだろう。本当に食材の内容や新鮮さ栄養バランスに自信のある生産者は、こんないい加減な制度は、むしろ無視するのではないだろうか。私が自信を持った商品の提供者ならこんないい加減なマークを付けるのは「恥」だから絶対に利用しない。いい加減な商品としっかり作った商品を混同されてはかなわない。

「官から民へ」の実態をここで垣間見ることが出来る。行政は「国民の生命・健康」という最低限の責任すら取ろうとしなくなっている。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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《大学異論31》経営の内情が透けて見えてくる各大学のネット広告・入試戦略

大学入試が真っ盛りだ。入試業務は煩雑で多忙ではあるが、志願者の多い有名私大にとっては「入試検定料」(受験料)で、副収入を稼ぎ出す「美味しい」季節の到来である。

一方、学生集めに苦戦してる大学は「入学試験」をどのような形で行うかをめぐり右往左往している。その激化は近年益々際立ってきている。

インターネットで検索を行ったり、フリーメールを利用したりすると、画面に表示される広告がその内容に応じて利用者向けに調整される薄気味悪い機機能を読者もご存知だと思うが、私は大学に関する記事を書くことが少なくないので、画面には大学の学生募集広告が次々に表示される。

◆勢いがある近畿大広告とクドイほど現われる甲南大MBA広告

昨年志願者数が初めて日本一になった「近畿大学」もその一つだった。さすがに勢いがある。「お父さん、怪しい履歴消しといてね」という際どくも気の利いたほほえましいコピーは余裕のなせる技か。パソコンをご家族で共用している「お父さん」は本当に気を付けないといけない。深夜や休日の「お楽しみ」後にはくれぐれも検索結果を消去しておくようにお勧めする。

また、くどいほど画面に現れたのは「甲南大学MBA」(「MBA」は「ビジネススクール」とも呼ばれる)だった。「何回受験しても受験料は5000円」、「実質学費は60万円」とこちらはひたすらに「お値打ち感」を前面に出していた。「MBA」でありながら教学内容ではなく「お値打ち感」をアッピールする広告を打つことに躊躇いはないらしい。こういう学校の教育内容は推して知るべしだ。本コラムで何度か言及している通り学生(院生)確保に苦しんだ挙句「学費」の値下げ競争(ダンピング)に足を突っ込んだところは「破綻」が近い。

日本の大学は私学、国公立とも世界で一番学費が高い。これは大問題だと思う。国が教養の豊かさや教育を重視していないことの現れで、経済格差が生活格差に直結する一大問題であるから、こちらの問題は近く詳述したい。

◆学生募集に苦しんでいる大学ほど「ネット出願」に積極的

そのことを認識しながらも、入試や広告に見られる「ドタバタ」は大学の内実を示唆する。

「インターネット出願」(以下「ネット出願」)を採用する大学が増加している。「ネット出願」が可能な大学は「受験料」も安く設定され、通常出願であれば25000~35000円するところ、「受験料」が5000円~7000円程度に抑えられている。

受験生にとっては有難い。「ネット出願」を利用すれば通常出願の5分の1程度の出費で受験できる。大学側にとっても受験生情報の入力作業が大幅に簡素化できるから業務効率化というメリットがある。

受験生が多い大学は出願開始時期に併せて、臨時のパートや派遣スタッフを雇う。常勤メンバーでは到底さばききれないので3月中旬の2次試験終了まで、入試業務専属の「期間限定」増員を行う。「ネット出願」が今後増加すれば、このような「期間限定」のスタッフ増員も不要になるかもしれない。「センター試験」の成績だけで合否を決める試験もあるので、そのような「無機質」な試験に従来の「受験料」は高すぎたし、願書出願の手間も省けるというメリットは評価されよう。但し忘れてはならないのは「ネット出願」と言ったところで、インターネット上で全ての情報を大学に送ることが出来るわけではなく、調査書や写真、推薦状などは必ず郵送しなければならないことだ。

「ネット出願」を実施している大学の顔ぶれを見ると、「受験生の負担軽減」や「業務の効率化」といった合理的な理由ではなく、別の側面も浮かび上がってくる。
有名どころでは東洋、東海、法政、亜細亜、龍谷、同志社女子、近畿各大学なども「ネット出願」を導入している。が、これら以外の「ネット出願」採用大学は概ね学生募集に苦しむ大学だ。とにかく受験生確保のためならば手段は問わない、「受験料もお安くしときます」との本音が垣間見える。この中には同一学部同一学科を受験するのに6つも7つも試験が用意されている大学がある。

◆一度の試験で3回合否チャンスを与える大学まで出現

NG大学は「センター試験の結果のみ」で合否が決まる入試と、その日の「独自問題」による入試、さらに「センター試験の結果と独自問題を総合して」合否が判断される「実質3つの入試」を同時に受験できるという、俄かには理解に苦しむ制度まで駆使している。

何を言っているかご理解いただけるであろうか? あなたが受験生であるとする。あなたは「センター試験」を既に受験していて「ネット出願」でその大学に3つの方法の受験を出願している。通常、3通りの試験を出願すれば、3回試験を受けるのかなとお感じになるのではないだろうか。まあ、このケースでは「センター試験の結果」だけという試験があるから2回かもしれない。しかしそうではないのだ。あなたは1回だけ「独自問題」による試験を受ければよい。でも「受験料」は3つの形式で受験しているので3回分支払う。

手が込んでいてわかりにくいが、このケースでNG大学は一度の「入試」3回分の「受験料」を「儲ける」ことが出来る仕組みだ。ここを本命に、と考える受験生の弱みを狙った賢くも、小賢しい手法である。

また、極一部の難関私学にとっては相変わらず「入試」は格好の副収入である。大方私学の大学案内パンフレットや願書は実質的に無料になったけれども、早稲田大学は今でも950円で販売している。全国の高校に大学案内や願書を配りまくっている弱小私大にはうらやましい限りだろう。

ともあれ、寒さ厳しいおり受験生の皆さんのご健闘をお祈りする。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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事件は同時多発で連関する!──『紙の爆弾』3月号発売中!

日本の「新幹線」輸出で最初から破綻が運命づけられていた台湾高速鉄道

台湾の高速鉄道(新幹線)が財政破綻必至だという。(『フォーカス台湾』2014年12月29日付

台北と高雄間345キロを結ぶ高速鉄道は日本の新幹線技術をそのまま採用し2007年に開業した。車両は日本で見る「新幹線」そのもので、正式名称は「台灣高速鐵路」だが台湾現地でも「新幹線」と呼ぶ人がいるほどだ。切符の自動販売機が台湾独自の機械だったが、台湾語(中国語)を読めない人間にも購入が可能なように工夫が凝らされている。

高速鉄道が走るまで、台北と高雄の移動は飛行機がメインだった。列車では最速でも4時間半かかったからだ。松山飛行場は台北市内にあり、中心部からも至近なこともあり、かつては国際空港だったが今では国内線中心の空港になり、国内移動の手段として飛行機は日本より気軽に利用されている。特に台北ー高雄間は便数も多いから忙しい時には切符なしで空港に駆けつけ離陸20分前に切符を買って搭乗する、1本乗り遅れれば次の便は数十分待てば乗ることができるという感覚だ。だがここ数年は幸い起きていないものの、台北ー高雄間航空路線では、定期的と言ってもいいほど墜落事故が起きていた。何度もこの路線には搭乗したが確かに気流のためか、航空機の機体の具合かわからないけども激しい揺れが必ずやってくる。

そんな事情もあってか、高速鉄道は「安全性」や運賃が安価なこともあり、利用者数は毎年順調に増えていた。それでも財政的に破綻が避けられそうにないという。いったいどういう背景があるのだろうか。

◆李登輝の威光で日本の「新幹線」採用が決まるまでの紆余曲折

台湾高速鉄道の導入にあたっては紆余曲折があった。そもそも台湾は自国の技術だけで高速鉄道走らせることができなかったので、運用実績のあるフランス・ドイツ勢と日本を競合させ一時はフランス・ドイツ連合がが落札しかけていたのだけども、台湾総統も務めた親日派の実力者李登輝の威光で日本の「新幹線」採用が決まったと言われている。

国土交通省やJRは大喜びだった。が、実際に工事に入ると思わぬ困難が待ち受けていた。鉄道の線路を敷設するためには線路や枕木の他に多量の銅線を使う。工事を行って次の日現場に行くと銅線が見事に盗まれているという事件が連続して発生した。銅は転売の価値があるので盗人が後を絶たなかったのだ。その陰で当初の工期が大幅に伸び費用もかさんでしまった。総工費は日本円にして2兆近くになったが、高速鉄道はなんとか運行開始にたどり着いた。

乗客者数は毎年増加しているのに破綻の危機に直面している背景には、負債の返済期限問題がありそうだ。前述の通り2兆円の工費とその他の技術料などを含め高速鉄道を運営する「台湾高鉄」は470億台湾元の負債がある。そしてその償還期限は当初より35年とされていた。利用者が支払う運賃と負債をはかりにかけると、1日に30万人が利用しないと計算が成り立たない。これはどだい無理な計算である。1億2千万の人口を抱える日本でも東京ー大阪間の新幹線利用者は、1日に約40万人だ。総人口2300万人の台湾で1日に30万人の利用者を想定するのは、最初から破綻を織り込んでいたのでは、と疑われても仕方がないどんぶり勘定だ。

同様の無茶な試算による実質的破綻は我々の近くでも起きている。関西空港だ。関西空港は官民共同出資による「関西国際空港株式会社」により、設立運営されたが、高すぎる着陸料ややはり高額すぎる空港ビルのテナント料などが災いし乗り入れ航空会社が伸びず赤字が続いた。5万円で売り出した株価は1円になり、実質的に破綻して、伊丹、神戸両空港と合わせて「新関西国際空港会社」として近く売却が予定されている(詳細は『紙の爆弾』2月号の本山美彦京大名誉教授「アベノミクスと株式民主主義の欺瞞」をご参照頂きたい)。

◆関空、神戸空港と同じく最初から破綻が運命づけられていた

安価に建設できる「浮島工法」があったのにそれを採用せず、わざわざ費用の高い「埋め立て工法」を採用した関西空港は今でも毎日数センチずつ地盤沈下している。大阪中心部から不便な和歌山近くの海の上に土を盛り上げ散々環境破壊をして「日本初の24時間空港」、「アジアのハブ空港」と実現する道理のない絵空事を並べた関西空港だったが、肝心の空港へのアクセス=鉄道は最初から24時間運行する気などさらさらなく、「ハブ空港」として機能するためには施設面でも航空会社にとっての利便性からも全く話にならない代物で、案の定後発の韓国「仁川空港」にその役は持っていかれた。

また、神戸空港はこともあろうに「阪神大震災」後、ろくろく復興も進んでいないのに「市営空港」としてこれまた、神戸の海の上に建設された「元より破綻が運命づけられていた」空港だ。

関西空港当初の建設費用は1.8兆円だったというが、それが正しい数字である確証はない。また神戸空港がどうして震災復興を後回しにして関西空港から見えるような至近距離に造られたのか、そして伊丹空港を含めた3空港を運営する「新関西国際空港会社」が売りに出され、おそらくは外国資本が運営権を入手するであろうことは、単なる1企業の運営権にとどまらない。国内外の航空行政を政府がコントロールできなくなり、企業の意向が優先することを意味する。

台湾の高速鉄道が破綻しても、日本に住む私たちが即困ることはないけれども、身近で同様の「破綻」が起きていることは知っておくべきだろう。そしてその破綻の原因には「無策」もあろうが「政治的思惑」がはっきり見て取れることも認識しておくべきだ。たとえば台湾高速鉄道の運営権に中国資本が参入したらどうなるかを想像してみれば様々な想像が湧くだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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