滋賀県の湖東記念病院で看護助手をしていた西山美香さん(40)が2003年5月、男性入院患者の人工呼吸器のチューブを外し、殺害したとの濡れ衣を着せられて服役した事件では、3月31日、大津地裁の再審で西山さんが無罪判決を受け、ついに雪冤を果たした。再審請求後、弁護側の調べにより男性が本当は病死だったと明らかになったことが最大の要因だ。

2012年から当欄で繰り返し伝えてきた通り、この事件では、滋賀県警の山本誠刑事が西山さんの取り調べを担当し、西山さんが自分に好意を寄せたことにつけ込み、虚偽の自白をさせたうえ、自白を維持させるために様々な不当捜査を行っていた。

その中でも悪質さが際立っていたのが、裁判の第一審初公判が開かれる3日前、滋賀刑務所に勾留された西山さんを訪ね、「検事さんへ」で始まる以下のような上申書を書かせていたことだ。

〈もしも罪状認否で否認しても、それは本当の気持ちではありません。こういうことのないよう強い気持ちを持ちますので、よろしくお願いします〉

読んでおわかりの通り、山本刑事は、西山さんが裁判で自白を撤回し、否認に転じることを阻止するため、このような上申書を書かせていたわけだ。

西山さんはこんなものを書かされたため、第一審の初公判で罪状認否ができないほど精神状態が不安定になった。冤罪事件では、個々の刑事や検事が不当な捜査を行うことはよくあるが、ここまであからさまな不当捜査を行う刑事も珍しい。現在、ネット上ではこの事実が広まり、山本刑事の実名を挙げて批判する声も増えている。

ただ、実を言うと山本刑事は15年前、西山さんの裁判で証人出廷しており、この不当捜査に滋賀県警の上司と大津地検の検事が関与していたことを明かしている。つまり、山本刑事の証言が事実ならば、この冤罪は警察と検察が「組織ぐるみ」で作り出したものだということだ。

山本刑事は法廷で具体的にどんな証言をしたのか。以下、証人尋問調書に収録された山本刑事の証言を紹介する。

山本刑事の不当捜査の現場となった滋賀刑務所

◆西山さんを追い込んだ面会は「上司、検事さんと相談」のうえで実行

山本刑事が西山さんの裁判で証人出廷したのは、2005年5月31日にあった第一審第8回公判でのことだ。この裁判では、西山さんが無実を主張したため、捜査段階の自白の任意性、信用性が争点になった。そのため、西山さんを最初に自白させた取調官である山本刑事が証人出廷することになったのだ。

この日、山本刑事は、大津地検の山本真千子検事の主尋問に対し、西山さんに対する取調べなどに何ら問題はなかったとする証言に終始した。ここで紹介するのは、その後に主任弁護人の中原淳一弁護士が山本刑事に対して行った反対尋問の一部である。

まず、中原弁護士は、山本刑事に対し、初公判直前に西山さんのもとを訪ねたことが裁判で問題になっていることを知っているか否かを質している。

・・・・・・・・・・以下、引用・・・・・・・・・・

── あなたは、第1回の公判は傍聴に来ていましたか。

山本「来てました」

── そこで弁護人が、あなたが直前に被告人のところに行ったということを問題にしたということも、じゃ、知ってますね。

山本「えっ、どういうことですか」

── 第1回公判の直前に、あなたが被告人のところに行ったんで、話が今までの打合せとは変わってしまったんで認否ができないという話をしたと。

山本「ああ、新聞とかで知りました」

── 傍聴に来てたから、ここでも聞いて分かってたでしょう。

山本「はい」

── そういうことで新聞にも載ったということも知ってますね。

山本「はい」

・・・・・・・・・・以上、引用・・・・・・・・・・

西山さんが初公判直前、面会に来た山本刑事に上記のような上申書を書かされるなどしたため、初公判で罪状認否ができなくなったことについては、実は当時も新聞で報道されていた。山本刑事は、初公判(=第1回の公判)を傍聴していながら、そのことは「新聞とかで知りました」としらばっくれたわけだが、中原弁護士の追及により、傍聴時に知ったことを認めざるをえなかったわけである。

そして中原弁護士の追及は以下のように続く。

・・・・・・・・・・以下、引用・・・・・・・・・・

── その件で、県警のほうから、どうして行ったのかというような事情は聞かれましたか。

山本「えっ、どうして行ったとはどういうことですか」

── どうして公判の直前に被告人に会いに行ったのかという理由を県警から聞かれましたか。

山本「聞かれておりません」

── もう分かってるからですかね、警察本部のほうは。

山本「……上司と相談して、検事さんとも相談しでしたことなので、上司もよく分かってることやと思います」

── 検事も、公判のちょっと前にあなたが被告人のとこに行くことは了承してたんですか。

山本「当然拘置所に行くのに許可を得なければいけませんので、許可は得ております」

・・・・・・・・・・以上、引用・・・・・・・・・・

一読しておわかりの通り、山本刑事は初公判直前、西山さんのもとに面会に行ったことについて、上司と検事に相談し、検事の許可を得ていたことは明かしている。西山さんに罪状認否で否認させないようにするための初公判直前の不当捜査は、警察、検察が組織ぐるみで行ったことを自白したも同然だ。

◆問題の上申書を書かせた紙はあらかじめ持参

さらに尋問の続きを見てみよう。中原弁護士の追及に対し、山本刑事は当初、のらりくらいと初公判直前に西山さんの面会に訪ねたことの正当性を主張している。

・・・・・・・・・・以下、引用・・・・・・・・・・

── 特に取調べの必要というわけではないというふうにあなた言いましたけども、新聞の記事では県警のコメントとして、捜査の必要性があったから行ったということになってるんですが、そういうふうに書いてあるのはあなたも知ってますか。

山本「はい」

── でも、今言った内容ですと、取調べでもないということだと、特に捜査の必要性があったとは思えないんですが。

山本「いや、ただ先ほども申し上げましたように、自傷行為とかそういうことがありましたんで、本人のことが心配という部分が大きかったですけども、本当のことを正直に、弁護士さんにも正直に話してないということでしたんで、本当のことを正直に話しなさいという意味も多少はありました」

── だから、補充の捜査とかそういうわけではないんでしょう。

山本「そういうわけではないです」

── 調書も取ってないですね。

山本「取ってないです」

── 別に調書を取る予定もなかったですか。

山本「ないです」

・・・・・・・・・・以上、引用・・・・・・・・・・

つまり、山本刑事は、「西山さんが自傷行為をしないように初公判直前、面会に訪ねる必要があった」というようなことを述べているようだが、話がまどろっこしく意味がわかりにくい。

そこで、中原弁護士は次のように、単刀直入に問題の上申書のことに切り込んでいる。

・・・・・・・・・・以下、引用・・・・・・・・・・

── 上申書というのは書かせましたね。

山本「はい」

── これも必要だったんですか。

山本「いや、特に必要はなかったんですけども、このときも本人が思い悩んで、まだ弁護士さんに正直に話せてないということとか、同じようなことを言ってましたんで、調べ官として、こういうかたちを取ることしかできませんでした」

── そういう上申書を書かせたらどうなると思ったんですか。

山本「本人の気持ちを多少なりとも酌んであげられると思いました」

── その用紙というのは、あなたが持って行ったんですか。

山本「用紙は鞄の中に入れておいたものです」

── あらかじめ持って行ったんですね。

山本「はい」

・・・・・・・・・・以上、引用・・・・・・・・・・

これも読んでおわかりの通り、山本刑事は西山さんの面会に訪ねた際、あのような上申書を書かせるための紙を持参したことを認めているわけだ。この事実を見れば、面会に訪ねた目的が、西山さんが自傷行為をするのを心配したからではなかったのは明白だ。初公判の罪状認否で西山さんが否認しないように精神的に追い込むため、わざわざ面会に訪ねたのだ。

西山さんが再審で無罪判決を受けても、滋賀県警、大津地検がまったく謝罪しないことは、すでに各マスコミで批判的に報じられている。加えて、この冤罪は滋賀県警、大津地検も組織ぐるみで作ったものであることも少しでも多くの人に知ってもらいたい。

▼片岡健(かたおか けん)

全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(笠倉出版社)も発売中。

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「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

どんな殺人事件も例外なく悲劇的だが、とりわけ小さな子供の生命が奪われた殺人事件が地域社会に与えるダメージは大きい。2005年11月、広島市安芸区で起きた小1女児・木下あいりちゃん殺害事件もその1例だ。2015年に現場を訪ねたところ、事件発生から10年も経っているにも関わらず、現地のあちこちで生々しい事件の傷跡が散見された。

あいりちゃんのために作られたひまわり畑も荒れた感じになっていた

◆現地の小学生たちは大勢で集団下校

被害者の木下あいりちゃん(享年7)は被害に遭った当時、市立矢野西小学校に通う1年生だった。事件の日は下校途中に失踪し、空き地に置かれた段ボール箱から遺体となって見つかった。広島県警は捜査の結果、現場近くに住むペルー人の男、ホセ・マヌエル・トレス・ヤギ(30)を検挙。ヤギはあいりちゃんの身体にわいせつ行為をはたらいたうえ、首を絞めて殺害していたが、実はペルーでも幼女への性犯罪で2回刑事訴追され、日本に逃亡中だった。

悲劇を繰り返さないため、大勢で集団下校する地元の小学生たち

そんな事件について、マスコミは当初、あいりちゃんを匿名で報じ、性被害の報道も自粛していた。しかし、父親の要請に応じ、あいりちゃんのことを実名扱いにし、性被害の内容も詳細に報じるようになった。ヤギはその後、裁判で無期懲役刑が確定したが、事件は裁判中も大きく取り上げられ、長く社会の注目を集め続けたのだった。

筆者が2015年に現地を訪ねたところ、まず何より印象的だったのは、現地の小学生たちが大勢で集団下校をしていたことだ。道路のあちこちに大人たちが立ち、下校する子供たちを見守っている姿も見受けられた。公園の金網に「考えよう 尊い生命の大切さ」などと書かれたプレートもかけられており、同じ惨劇を2度と起こさせないため、地域をあげて、子供たちを守っている様子が窺えた。

◆遺体遺棄現場では、ボロボロになった供え物が・・・

そんな現地で、何より悲しい雰囲気を漂わせていたのは、あいりちゃんの遺体が入れられた段ボール箱が捨てられていた空き地だった。その場所には、事件の頃に供えられたとみられるカプセルトイやヌイグルミがボロボロに痛んだ状態になりながら、その場に残ったままになっていた。そばには、ドライフラワー化した花も放置されていた。地元の人も現場には心理的に近づきがたく、片付けがされないままになっているのだろう。

ひまわりの花が好きだったというあいりちゃん。事件後にその死を悼むために作られたひまわり畑も訪ねてみたが、ひまわりの木はどれもすっかり枯れていた。そばに置かれた大きなシートには、「ようこそ ひまわり畑へ」という文字と共に、ひまわりの花飾りをつけた可愛いウサギの絵が描かれていたが、このシートもかなり汚れて、物悲しい雰囲気になっていた。

小さな女の子が殺害されると、地域社会のあちこちに決して癒えない傷が残るのだ。

遺体遺棄現場に供えられたヌイグルミやカプセルトイはボロボロ状態で放置されていた

▼片岡健(かたおか けん)
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「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

感染拡大が止まらない新型コロナウイルス。安倍晋三首相は4月7日、特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令したが、「首相の決断の遅れが感染を拡大させた」と批判する意見は少なくない。緊急事態宣言の発令に伴う「補償」も不明確なままだ。

そのため、新型コロナに関する安倍首相の責任を問う声があちこちから噴出しているが……よくよく考えれば、新型コロナをめぐる現在のパニックはむしろ安倍政権にとって「神風」になっているのではないか。新型コロナに国民の関心が集中して以降、安倍政権のそれ以外の問題が目立たなくなっているからだ。


◎[参考動画]安倍総理会見「1カ月でこの緊急事態宣言を脱出することが可能となる」(ANNnewsCH)

◆赤木氏の手記と妻の提訴は凄まじい反響だったが……

まず、安倍首相の妻・昭恵夫人との関係が取り沙汰されてきた森友問題の公文書改ざん事件をめぐり、自殺した財務省の元職員・赤木俊夫氏(享年54)の妻が国と同省の元理財局長・佐川宣寿氏を提訴した一件。週刊文春の報道により、赤木氏が手記などで「文書の改ざんは佐川氏の指示だった」と告発していたことが判明、凄まじい反響を呼んだのは3月中旬だから、つい最近だ。
(※『週刊文春』2020年3月26日号 ※文春オンラインで全文公開中)


◎[参考動画]森友「再調査せず」に遺族抗議(テレ東NEWS)

だが、その後に新型コロナの感染が爆発的に広がった中、この件はあまり話題にならなくなった。昭恵夫人が新型コロナの感染拡大リスクがある花見をしていたことが明るみに出て、そちらのほうに国民の関心が集まった感すらあるほどだ。

また、赤木氏の件が報道される少し前には、東京高検の黒川弘務検事長の前代未聞の定年延長が閣議決定され、「政権寄りの人物を検事総長にするための違法の措置だ」との批判が渦巻いていた。だが、新型コロナの感染が拡大する中、この件もほとんど話題にならなくなっている。

緊急事態宣言発令の前日である6日、日本弁護士連合会の荒中(あらただし)会長が「定年延長の撤回」を求める声明を出したが、このことに気づかなかった人も多いのではないか。


◎[参考動画]【暫定字幕表示】山添拓(日本共産党)VS森まさこ法務大臣 (Makabe Takashi)

◆河井議員夫婦の事件もとんでもない事態になっているが……

そして、もう1つは、自民党の河井案里参議院議員の陣営による選挙違反事件だ。この件では、すでに案里議員の秘書が公職選挙法違反の罪で起訴されたほか、同議員の夫である河井克行前法務大臣の秘書も同罪で起訴されている。

さらに最近になり、安芸太田町の小坂真治町長が案里氏が自民党候補として公認された後、克行氏から現金20万円を受け取っていたことが判明し、辞職。ほかにも複数の広島県議が克行氏から各30万円の現金を受け取っていたことや、三原市や大竹市、廿日市市の市長が地検の任意聴取を受けていたことが報じられている。


◎[参考動画]河井案里参院議員の秘書ら2人を起訴 公選法違反(ANNnewsCH)

だが、かくもとんでもない事態になっている河井議員夫婦の問題も地元メディア以外ではさほど大きく報道されていない印象だ。法務大臣まで務めた有力現職議員とその妻の現職議員の大問題であるうえ、2人の疑惑は自民党本部が出した1億5千万円の選挙資金にも及んでいるにも関わらず……。

仮に新型コロナの問題が存在せず、以上のようなことが連日、大きく報道されていたら、さすがに今度こそ「政権交代」の機運が高まっていただろう。そう考えてみると、新型コロナに関する安倍首相の対応への批判が高まるほど、実は安倍首相としては、その他の問題が国民の記憶から薄れ、むしろ助かるのかもしれない。


◎[参考動画]「緊急事態宣言」を発令 安倍総理が会見【ノーカット】(テレ東NEWS)

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「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

感染が拡大する一方の新型コロナウイルスにより、世の中はだんだん殺伐とした雰囲気になってきた。そんな中、この騒動とのリンクのすごさに驚かされる映画がある。2016年に公開された韓国映画で、世界的に大ヒットした『新感染 ファイナル・エクスプレス』だ。

「新感染」公式HPより

◆コロナ騒動同様、感染が疑われる者を非感染者が拒絶

同作は、時速300キロ超で走る釜山行きの高速電車内でゾンビが大量に発生するパニック映画。ゾンビに襲われた客たちが次々にゾンビ化する中、幼い娘と一緒に電車に乗ったファンドマネージャーの男(コン・ユ)らが生き残るために奮闘する姿を描く。

この作品の原題は『釜山行』で、『新感染』は邦題だ。この邦題をつけた人は「新幹線」から着想したのは明らかだが、このダジャレのようなタイトルが「新感染症」とぴたりと重なっている。そこに、まず驚かされてしまう。

そんな映画は作中でもゾンビに襲われ、ゾンビ化することを「感染する」と表現しているのだが、感染が疑われる人間に対する非感染者の接し方も実によく現在のコロナ騒動とリンクしている。それは、主人公たちがゾンビ化した人たちが群れる車両を必死の思いで突破し、非感染者たちが避難している安全な車両に逃げ込もうとした時のことだ。

「こいつらも感染しているかもしれない!」

安全な車両に避難している非感染者がそう言い、主人公たちが入ってこないように車両のドアをロックしてしまうのだ。これは現在、感染の危険がある国や地域からの帰還者や訪問者を拒絶する世間のムードと酷似している。


◎[参考動画]『新感染 ファイナル・エクスプレス』予告編(2017/06/30)

◆夏には、続編が公開されるというが……

思うに、新型コロナウイルスは、人々の身体に与えるダメージの深刻さもさることながら、人々の心を蝕む力こそが驚異的だ。まだ発症していない感染者からの感染例も多く報告されているため、街中で誰を見ても、感染者に見えてしまう。そのため、人間同士で疑心暗鬼が広がっている。

新型コロナウイルスの感染を広めないための行動が求められるのは当然としても、感染した人が病状を心配されることなく感染したことを批判されるとか、感染した著名人やその関係者が謝罪しなければならないとか、この現在の空気は異常である。

とまあ、現在のコロナ騒動と実によくリンクする映画『新感染』だが、なんとこの夏、続編となる作品『半島』が韓国と世界各国で公開されるという。『半島』は、前作の4年後の廃墟となった地で生き残った人々が死闘を繰り広げる物語だそうだが……。

このタイミングで続編が出るというのも凄いが、夏ごろまでに映画館で普通に映画が鑑賞できるほどコロナ騒動が沈静化しているとは思い難い。一体、どうなるのだろうか。


◎[参考動画]『新感染 ファイナル・エクスプレス』続編 映画『Peninsula (原題)』米予告編(2020/04/02)

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「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

勝又氏が勾留されている東京拘置所

2005年に栃木県今市市(現在の日光市)で小1女児が殺害された「今市事件」について、筆者は当欄で、被告人の勝又拓哉氏(37)が冤罪であることを繰り返し伝えてきた。

だが、残念なことに、3月4日、勝又氏は最高裁に上告を棄却され、無期懲役の判決が確定することになった。

そんな勝又氏から筆者のもとに、現在の心境などが綴られた手記が届いたので、ここに紹介したい。

手記では、勝又氏は裁判への不満などを率直に語りつつ、再審で無罪を勝ち取るまで無実を訴え続けることを宣言している。台湾出身の勝又被告の言葉はたどたどしいが、無実の人間ならではの自信が行間からにじみ出ている。ぜひご一読頂きたい。

勝又氏から届いた手記

◆上告書をちゃんと読んでいるとは思えない

3月5日の午後3時頃、いきなり看守から書類が届けられ、わけがわからずに受け取ってみたら、最高裁の決定書で「棄却決定」とありました。支援者から差し入れてもらった本を読んでいる最中のことでした。

決定書は1枚だけしかなく、「中身この1枚だけ??」と思いました。自白の任意性はあると認め、法令違反や事実誤認の主張は上告理由に当たらないとあり、理解できませんでした。自白の任意性よりも信用性が問題であり、信用性は控訴審で否定されたはずなのに、この点には触れていないし、事実誤認の主張が上告理由に当たらないというのも理解できませんでした。

もしも控訴審判決を精査しての判断であるなら、犯人は本当は私ではないという重大な事実誤認が読み取れなかったか、無実の証明ができなければ、上告理由に当たらないということだと思います。

決定書は裁判で争点になった「Nシステム」「手紙」「取調べ」の録音録画などについても何ら触れていませんでした。最高裁の決定書から読み取れるのは、裁判官が事件を右から左に流しただけで、上告趣意書をあんまり見ていないということでした。1年半かけて、上告趣意書の中身にまったく触れていない決定書に、先日の森法務大臣の発言にあった「無実なら無実を立証すべき」との言葉が蘇りました。

有罪証拠がこれだけ無いうえに、控訴審で最後の最後に検察が禁じ手の訴因変更、それを当たり前のように認めた控訴審裁判官、そして、それについて、何ら触れない最高裁。99.9%の有罪率は恐ろしいとあらためて思いました。悪くても差し戻しになり、控訴審をもう1回やると思っていました。

決定書を受け取った初日は本当にショックが大き過ぎました。「ありえない」と目の前が真っ暗になりました。2日目は落ち着きを取り戻し、判決文をよく読み返し、いかに理不尽な文章なのか、なんとか理解できるようになりました。弁護団が提出した大量の上告書に対し、決定理由は6行の文章しかないのです。上告書をちゃんと読んでいるとは到底思えません。

◆「やってない」と胸を張って言い続ける

警察や検察の関係者から状況証拠の積み重ねで有罪にしたとのコメントがありましたが、そこまで自信のある証拠を集めていたのなら、控訴審での検察の訴因変更は何だったのでしょうか。ただの訴因変更ではなく、死亡時間や場所、これらがまったくわからない変更です。

殺害方法も控訴審で自白通りでは不可能と証明されていますし、Nシステムにしても検察が証拠開示に応じていないので、どれほどのセダン車やワゴン車が通ったのかわからないし、警察や検察が自信があるなら、捜査資料などあらゆる証拠を開示してもらいたいです。

何年かかろうと、やっていない殺人を認めるわけにはいきません。東住吉冤罪事件の青木恵子さんの記事によると、刑務所では罪を認めない人は何かと不自由だったり、なかなか階級を上げてもらえなかったりするそうです。でも、たとえ階級が上がらなくて、家族と会える時間が増えなくても、私はやってない殺人について「やってない」と胸を張って言い続けます。

国会が冤罪調査会のようなものを作ってくれたらいいのですが、今の国会(というか、国会議員)には期待できそうにありません。だから、今のままの司法で再審を求めて、無罪を勝ち取ります。私は、やってないから強気でいられるのです。弁護団はどうなるのかという点について不安はありますが、堂々と胸を張って、再審請求を粛々としていきます。

私の再審無罪が決定した日、警察や検察が記者会見で何を言うか、今から大変気になります。再審無罪になったら、誰が悪かったのか、責任の所在を明らかにしてもらいたいです。そして取調べでは、せめて弁護士の立ち会いを認めるようにしてもらいたいです。弁護士が全ての取調べに立ち会いできれば、録音録画をしていない時に警察や検察が変なマインドコントロールをする心配がなくなります。

私の場合、最初の数日の取調べで、警察や検察はまず私を屈服させることに全力で取り組みました。そして、その後はやさしく洗脳されました。こういう取調べに弁護士が立ち会いをしていれば、冤罪はかなり減ると思います。また、その前に警察や検察が無罪が出た冤罪事件に対して、素直に「申し訳ありません」の一言を発する時代がくることを願うばかりです。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(同)も発売中。

いまこそタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

芸能界の重鎮・ビートたけしの再婚相手で、現在の所属事務所『T.Nゴン』の役員を務める女性A子氏について、週刊誌などでネガティブな情報が続々と報じられている。

そんな中、たけしの元弟子・石塚康介氏がA子氏からパワハラ被害を受けたとして、A子氏とたけしの所属事務所『T.Nゴン』に1000万円の損害賠償を請求した訴訟では、A子氏側(代理人弁護士は矢田次男、鳥居江美、金森四季の3氏)が答弁書で石塚氏(代理人弁護士は湯澤功栄氏)の主張を全面的に否定するところか、石塚氏の人間性も否定したに等しい過激な反論をしている。

その内容を前編に引き続き、紹介する。

石塚氏は『週刊新潮』誌上でA子氏からのパワハラ被害を実名告発した。その記事は『デイリー新潮』にも掲載された(『週刊新潮』2019年11月21日号掲載)

◆報酬は「月40万円」支払っていたと主張

答弁書におけるA子氏側の主張によると、俳優志望だった石塚氏は2010年頃に1年近く、たけしが毎週仕事のために出向く飲食店の近くに立ち続けて弟子入りを懇願し、弟子入りを果たしたのだという。そしてその後、石塚氏が『T.Nゴン』で雇用されるに至った経緯について、A子氏側は「たけしの好意」だったように主張している。次のように。

〈妻子のいる原告(引用者注・石塚氏のこと。以下同じ)の生活が成り立たないことを心配した社長(引用者注・たけしのこと。以下同じ)は、原告に対して、原告が俳優としての活動を優先させることを奨励しつつ、それ以外の時間において、社長の弟子としての諸業務のほかにも、被告会社(引用者注・『T.Nゴン』のこと。以下同じ)の雑務の一部を業務委託することとし、それら一切の業務履行の対価として月額40万円の報酬を支払うこととし、被告会社と原告とでこれを合意した〉

『T.Nゴン』が石塚氏に月40万円の報酬を支払っていたという話が事実ならば、単純計算で同社が石塚氏に支払っていた1年あたりの報酬は480万円だったことになる。A子氏側としては、石塚氏が妻子との生活を成り立たせることができたのは、たけしのおかげだと言いたいのかもしれない。

◆石塚氏のことを“恩をあだで返した人物”であるかのように主張

さらにA子氏側は答弁書において、たけしの弟子であったことは俳優志望の石塚氏にとって大きなメリットであったように主張している。次のように。

〈(引用者注・石塚氏は)社長のタレント活動の現場に同行したり、芸能活動に必要な雑務を手伝うことにより、俳優やタレントとして活動する上で必要な芸能界の常識を習得したり、知識、見識を深めたり、芸能界における人脈づくりをする機会を得ていた〉

また、A子氏側は答弁書で石塚氏について、〈社長の紹介、後押しにより、俳優として映画、ドラマ等に出演する機会を得ていた〉と主張。とくに、たけしの監督作品である映画『アウトレイジ ビヨンド』と『アウトレイジ 最終章』に石塚氏が出演していることについては、たけしの存在あってこその出演であったように強調している。次のように。

〈他の出演者は名だたる俳優ばかりという中で、まだ無名でキャリアも浅い原告がこれらの映画に出演する機会を得ることができたのは、社長の後押しがあってこそである〉

A子氏側の答弁書を見ていると、石塚氏のことを「たけしに散々面倒をみてもらっておきながら、恩をあだで返した人物」であるかのように非難している印象が否めない。

◆パワハラ被害を訴える石塚氏に対し、「社会人としての常識すら欠く」と反論

A子氏側の答弁書における主張のクライマックスは、次の部分だ。

〈原告は、特に取締役(引用者注・A子さんのこと)に対して、挨拶や話が聞こえないふりをして無視して返事をしないといった嫌がらせを度々行い、それを注意されても繰り返すという態度であったため、2019年7月30日、取締役が再度これを注意したところ、取締役に対して、「てめー、この野郎」「クソ女」「馬鹿野郎、ふざけんな」などと大声で怒鳴り、暴言についても謝罪しようとせず、そのまま一方的に被告会社を去ったものであり、社会人としての常識すら欠く対応を行っていたのはむしろ原告である〉

このA子氏側の主張を信じていいのか否かは現時点で判定不能だ。現時点で確実にわかることは、A子氏側がパワハラ被害を訴える石塚氏のことを「社会人としての常識すら欠く」人物であるかのように言い、「こちらこそ被害者だ」という趣旨の主張をしているということだ。A子氏側が答弁書で繰り広げた石塚氏への反論について、筆者が「石塚氏の人間性も否定したに等しい」と評した理由がこれでおわかり頂けたことだろう。

A子氏側は答弁書において、〈こうした原告の問題行動及びそれに対する被告会社の注意の詳細に関する主張立証については、原告の主張の整理を待った上で行っていく予定である〉と明言している。つまり、今後も石塚氏の人間性を否定するような反論をしていく意向とみられる。

一方、石塚氏も『週刊新潮』誌上でA子氏から受けたパワハラ被害を実名告発した際には、〈カメラで監視され、24時間、いつ理不尽なメールや電話が来るか分からない地獄の生活が続いたことで、ストレスで胃が痛み、夏なのにどうしようもなく寒く感じられ、鼻水が止まらなくなってしまい、私は仕事の途中に公園で倒れ込むようになってしまいました〉などと切々と訴えている(※)。訴訟の中でA子氏から人間性を批判するような反論をされたら、石塚氏も当然、再反論するはずだ。

現時点でどちらの言い分が正しいのかは判定しかねるが、この訴訟の行方は今後も注視し、めぼしい新情報が入手できれば報告したい。(了)

※石塚氏がA子氏から受けたパワハラ被害などを実名告白した『週刊新潮』2019年11月21日号の記事は、『デイリー新潮』でも3回に分けて掲載されている。〈〉内の石塚氏の主張は、その『デイリー新潮』の3回目の記事〈ビートたけし弟子が愛人をパワハラで提訴 「これ以上殿を孤立させないために」実名告発〉(https://www.dailyshincho.jp/article/2019/11220800/?all=1)から引用した。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(同)も発売中。

いまこそタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

芸能界の重鎮・ビートたけしの再婚相手で、現在の所属事務所『T.Nゴン』(代表取締役は北野武)の役員を務める女性A子氏について、週刊誌などでネガティブな情報が続々と報じられている。中には、たけしがA子氏と交際するようになって以降、人間が変わり、周囲から人が離れていったと断定的に伝える報道もあるほどだ。

この一連の騒動の中、注目を集めている人がいる。石塚康介氏。たけしの元弟子で、運転手を務めていた男性だ。石塚氏はA子氏からパワハラを受け、自律神経失調症を患ったと主張し、『T.N.ゴン』とA子氏に1000万円の損害賠償を請求する訴訟を東京地裁に提起した。さらに『週刊新潮』誌上でA子氏から受けたパワハラ被害や、A子氏と交際するようになって以降のたけしの変貌ぶりを実名告発している。

東京地裁でこの訴訟の記録を閲覧したところ、A子氏側(代理人弁護士は矢田次男、鳥居江美、金森四季の3氏)が答弁書で石塚氏(代理人弁護士は湯澤功栄氏)の主張を全面的に否定するどころか、石塚氏の人間性も否定したに等しい過激な反論をしていたことがわかった。それを前編、後編の2回に分けて報告する。

◆「およそ法律論となっていない」と一刀両断

石塚氏がA子氏から受けたパワハラ被害などを実名告白した『週刊新潮』2019年11月21日号の記事は、『デイリー新潮』でも3回に分けて掲載されている。その3回目の記事〈ビートたけし弟子が愛人をパワハラで提訴 「これ以上殿を孤立させないために」実名告発〉(https://www.dailyshincho.jp/article/2019/11220800/?all=1)において、石塚氏はA子氏から受けたパワハラ被害を次のように切々と訴えている。

石塚氏は『週刊新潮』誌上でA子氏からのパワハラ被害を実名告発した。その記事は『デイリー新潮』にも掲載された(『週刊新潮』2019年11月21日号掲載)

〈まず彼女の指示で、私は車を自由に使えなくなりました〉

〈現場には付き人やマネージャーが常にいるにも拘らず、彼女は私にもずっと現場にいて、殿を見ておくようにと指示する。私は現場から動けなくなり、ガソリンの給油すらまともにできないほど拘束されるようになりました〉

〈深夜に連絡してきたり、「今日は休みだけど、何かあったら電話します、と社長(たけし)が言っています」と言ってきたり。そう言われると待機せざるを得ず、とにかく私を休ませないようにしようという嫌がらせにしか思えませんでした〉

〈カメラで監視され、24時間、いつ理不尽なメールや電話が来るか分からない地獄の生活が続いたことで、ストレスで胃が痛み、夏なのにどうしようもなく寒く感じられ、鼻水が止まらなくなってしまい、私は仕事の途中に公園で倒れ込むようになってしまいました〉

石塚氏のこれらの告白が事実なら、まったく酷い話だ。この記事を読み、A子氏のことを人格異常者のように思った人もいるかもしれない。石塚氏は訴訟に提出した訴状でも同様のパワハラ被害を訴えている。

では、A子氏側が答弁書で行っている「過激反論」はどんな内容なのか。

A子氏側はまず、次のように石塚氏の訴状における主張全般を一刀両断にしている。

〈原告(引用者注・石塚氏のこと。以下同じ)は(……中略……)被告A子氏(引用者注・原本では実名)によるパワーハラスメント等の被告らによる不法行為により原告が退職に追い込まれたことについて主張、立証として、2019年5月1日から7月31日までの一日ごとの出来事を縷々述べるが、その内容は事実と単なる感想とが混然としており、不法行為に該当するとしている具体的事実が判然とせず、いかなる事実がなぜ不法行為に該当すると主張するのか全く不明であり、およそ法律論となっていない〉

読んでおわかりの通り、A子氏側は石塚氏の主張1つ1つに反論するのではなく、石塚氏の主張が全般的に「意味不明」であるかのように言い放っているのだ。「およそ法律論となっていない」という言い方からは、石塚氏の代理人弁護士である湯澤氏のこともバカにしているような印象を受ける。

◆パワハラ被害の訴えに対し、「注意や業務連絡等を行っていたにすぎない」

答弁書を見ると、A子氏側も石塚氏に対し、あれこれと注意などをしていたこと自体は認めている。だが、石塚氏がそれをパワハラだったと主張していることに対しては、次のように猛烈に反論している。

〈そもそも、原告の、自らには何ら落ち度がないにもかかわらず取締役(引用者注・A子氏のこと。以下同じ)が原告に対して不要な注意、叱責等をしたとの主張は事実と全く異なる。

原告には、取締役や被告会社(引用者注・『T.Nゴン』のこと。以下同じ)の他の従業員に対して挨拶や返事をしない、必要な業務報告を十分に行わない、社長(引用者注・たけしのこと。以下同じ)がよく利用する飲食店の従業員らに対して社長や取締役の悪口を言う、社長の運転手であることをプロフィールで明記している原告のツイッターアカウントにおいて被告会社の名誉を毀損する内容のツイート、被告会社に無断で社長のプライベートにおける言動の内容や買い物の内容のツイート及び写真、社長の肖像や監督作品の名称等をプリントした洋服を多数制作しそれを販売しているかのような内容のツイート等を発信するなどの問題行動があった。

そのため、取締役はその都度、必要かつ相当な範囲内での注意や業務連絡等を行っていたにすぎず、およそ不法行為と評価されるような言動はしていない。このことは、原告が取締役から受領したメールであるとして提出している甲第6号証のメール文面からも明らかである。取締役はこれらのメールにあるように、原告に対して常に丁寧な言葉で、業務上必要な範囲の連絡を行っていたものであり、「原告を支配」していたなどという状態とはほど遠い〉

これも一読しておわかりの通り、A子氏側は、石塚氏が普段から数々の問題を起こしていたと主張。そのうえで、石塚氏に注意などをしていたことの正当性を訴えているわけだ。

これが本当なら、A子氏からのパワハラ被害を週刊誌で実名告発した石塚氏のほうこそがとんでもなく酷い人物だったことになってしまう。逆にA子氏側のこの主張が事実と異なるならば、A子氏は石塚氏に対して酷いパワハラを繰り返したうえ、訴訟の中でも悪質な侮辱行為を行ったと言わざるをえない。

◆メールで「挨拶もできない人はダメです」

ちなみに、石塚氏がA子氏から受領したとされる“甲第6号証のメール”には、たとえば以下のようなものがある。これらを見る限り、A子氏が石塚氏に対し、少なくともメールでは、丁寧な言葉を使っていたのは事実であるようだ。

〈お疲れ様です。一応文字にしておきます。北野が仕事をしているときは側に居ることが仕事ですので現場は離れないで下さい〉(2019年5月2日 木曜日13:35)

〈お疲れ様です。夜分に遅くにすみません。明日は休みで連絡もなしで大丈夫です。何か用事がある時にはご連絡致します。電話だけはいつも繋がるように宜しくお願い致します」(2019年6月9日 日曜日3:11)

〈お疲れ様です。夜分遅くにすいません。9日夕方新横浜に車で迎えに宜しくお願い致します。5時半に新横浜だと思います〉(2019年7月7日 日曜日2:26)

〈挨拶もできない人はダメです。後、北野関係や北野の運転手をしていて、他人から頂き物をした場合は報告して下さい。こちらもお礼をいわなければならないし、北野が恥をかく事になるので、色々気をつけて下さい〉(2019年7月18日 木曜日11:36)

言葉は丁寧だが、A子氏が石塚氏に深夜に連絡していたのは事実のようだし、「挨拶もできない人はダメです」という注意は手厳しい印象が否めない。ただ、石塚氏が本当に「挨拶もできない人」だったのか否かは現時点で不明のため、このメールの内容についても今はまだ適切な評価は不能だ。

果たして石塚氏とA子氏、どちらの言い分が正しいのだろうか――。(後編につづく)

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(同)も発売中。

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「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

2009年に裁判員制度が始まって以来、裁判員裁判の死刑判決が控訴審で破棄され、無期懲役に減刑されるケースが相次いでいるが、今年1月の淡路島5人殺害事件でそれは7件目となった。死刑を破棄された殺人犯たちは一体どんな人物なのか。筆者が実際に会った3人の素顔を3回に分けて紹介する。

第3回目の今回は、君野康弘(53)。わいせつ目的で小1の少女を誘拐し、惨殺したうえ、遺体におぞましい凌辱をした男だ。

◆獄中でラジオの音楽やおいしい食事を堪能

裁判の認定によると、神戸市長田区で暮らしていた君野は2014年9月、小1の女の子・生田美玲ちゃん(当時6)にわいせつ目的で声をかけ、自宅アパートに連れ込むと、ビニールロープで首を締めつけたうえ、包丁で首を刺して殺害。そのうえで性的欲求を満たすため、遺体の腹部を切り裂いて内臓を摘出し、頭部や両脚を切断したり、胸の皮膚をそぎ取ったりした。その挙げ句、遺体を複数のビニール袋に入れ、雑木林などに捨てたとされる。

そんな君野は神戸地裁の裁判員裁判で死刑判決を受けたが、大阪高裁の控訴審で無期懲役に減刑された。そして2019年7月、最高裁で無期懲役が確定し、正式に死刑を免れた。

〈犯行全体からうかがわれる被告人の生命軽視の姿勢は明らかではあるが、甚だしく顕著であるとまでいうことはできない〉(最高裁判決より)というのが、君野に対して司法が示した最終判断だったのだ。

この君野は裁判中に大阪拘置所に収容されていた頃、別の殺人事件の犯人と獄中者同士で手紙のやりとりをしていたのだが、その手紙が筆者の手元にある。それには、こう書かれている。

〈オウム事件の死刑確定者13人、7月全員死刑執行されたですね。死刑求刑されてる私は人事とは思えなく、気分が悪いです〉

君野が獄中で書き綴っていた手紙の一節

オウム死刑囚が一斉に執行された昨年7月の時点で、君野の裁判は検察側が控訴審の無期懲役判決を不服として最高裁に上告しており、君野は死刑判決を受ける可能性がまだ残っていた。そのため、「人事とは思えなく、気分が悪い」という心境になったようである。

さらに君野は別の手紙で、楽しげにこう書いている。

〈先週の歌ようスクランブルは、1970年代~1980年代の曲が何曲か流れてなつかしかったです。中森明菜の難破船も流れましたね。高田みづえの曲も流れました。なつかしかったです。さあこの手紙が着いた明くる日7日20日は白身魚のかばやきが夕食で出ます。久々のごちそうですよ。楽しみですね!〉

〈12月12日夕食マーボカレーはうまくて、とうふも食べました。毎日マーボカレー出ればいいな〉

一読しておわかりの通り、控訴審で無期懲役に減刑された君野が大阪拘置所内のラジオで音楽を聴いたり、おいしい食事をとったりして、日々の生活を楽しんでいることがよく伝わってくる。自分に惨殺された美玲ちゃんはもう音楽を聴けず、美味しい物も食べられないことは、君野にはどうでもいいことなのだと思われる。

◆公判では写経により反省をアピールしたが・・・

君野がこんな手紙を書く男だというのは、実は筆者には想定内だった。君野と面会したり、裁判を傍聴したりした際、無反省である様子がよく伝わってきたからだ。

2016年12月、大阪高裁で控訴審の初公判を傍聴した時のこと。君野は、ダウンジャケットにスウェットパンツという普段着姿で法廷に現れた。報道では、暴力団に所属したこともあると伝えられたが、顔は青白く、弱々しい感じの男だった。

君野はこの日の被告人質問で、弁護人から現在の気持ちを聞かれると、「申し訳ないという思いが一審の時よりますます深まっています」などと反省の言葉を口にした。さらに獄中で日々、美玲ちゃんの冥福を祈りながら般若心経の写経をしているのだとアピールし、「死刑になるより、生きて償いたいです」と主張した。

だが、検察官の反対尋問では、すぐにぼろが出た。検察官から事実関係を質されるたび、言葉に窮してしまうのだ。

検察官「一審の時より具体的にどういう点で反省が深くなったのですか?」
君野「・・・」
検察官「答えられませんか?」
君野「はい・・・」
検察官「写経している般若心経の意味を本などで調べたことはありますか?」
君野「あります」
検察官「どんなことが書いてありましたか?」
君野「・・・」

こうしたやりとりを見ていると、君野が写経をしながら願っていたのは美玲ちゃんの冥福ではなく、自分の減刑なのだろうと思わざるをえなかった。

公判に参加した美玲ちゃんの母親から、「なぜ、生きたいと思うのですか?」「遺族がどんな気持ちかがわかりますか?」などと問われても、君野は沈黙したり、小さな声でボソボソつぶやいたりするのみ。遺族からこういう質問があるのは予想できそうなものだが、深く考えずに公判に臨んだのだろう。

裁判終了後、筆者は大阪拘置所を訪ねて君野と面会し、率直に「『生きて償いたい』と言っても、死刑になるのが怖いだけだとわかりますよ」と伝えた。君野は顔を紅潮させ、「わ、私は生きて、つ、償いたいと思っているんです」と言ったが、まったく真実味が感じられなかった。

最高裁で君野の無期懲役が確定した際、筆者は再び大阪拘置所まで面会に訪ねたが、君野は面会を拒否した。筆者と会っても何の得にもならないと思ったのだろう。美玲ちゃんの母親は最高裁の決定を受け、「納得できないし、娘に報告できない」とのコメントを発表したが、ここで紹介した君野の手紙を目にすれば、改めて悔しさがこみ上げてくるはずだ。

一方、君野は今頃、大阪拘置所からどこかの刑務所に移され、懲役生活をスタートさせているはずだが、税金で衣食住を保証され、無反省のまま日々を過ごしているのだと思う。

美玲ちゃんの遺体が遺棄された現場には花が手向けられていた

▼片岡健(かたおか けん)
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「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

2009年に裁判員制度が始まって以来、裁判員裁判の死刑判決が控訴審で破棄され、無期懲役に減刑されるケースが相次いでいるが、今年1月の淡路島5人殺害事件でそれは7件目となった。死刑を破棄された殺人犯たちは一体どんな人物なのか。筆者が実際に会った3人の素顔を3回に分けて紹介する。

第2回目の今回は、伊能和夫(69)。無罪を主張しながら公判で黙秘し、一言も発さなかった男だ。

◆面会室ではよくしゃべったが・・・

伊能の裁判が行われた東京高裁・地裁の庁舎

裁判の認定によると、伊能は2009年11月、東京・南青山のマンションの一室に金目当てで侵入し、住人の飲食店経営者の男性(当時74歳)を持参した包丁で刺殺した。伊能は1988年に妻(同36歳)を刺殺し、部屋に放火して娘(同3歳)も焼死させた罪で懲役20年の刑に服しており、事件の半年前に出所したばかりだった。

そんな伊能は2011年3月、裁判員裁判だった東京地裁の一審で死刑判決を受けたが、東京高裁の控訴審では2013年6月、死刑判決が破棄され、無期懲役に減刑された。「被害者は1人で、当初から殺意があったとは到底言えない」ということなどがその理由だ。そして2015年に最高裁で控訴審判決が是認され、無期懲役が確定したのだった。

筆者がそんな伊能と面会するため、初めて収容先の東京拘置所を訪ねたのは、伊能が最高裁に上告中の頃のこと。死刑を免れた伊能だが、裁判では無罪を主張していたうえ、公判では黙秘して一言も言葉を発しておらず、どういう人物なのかを会って確かめたいと思ったのだ。

伊能はその日、刑務官の押す車椅子に乗り、面会室に現れた。報道で見かけた写真では、健康そうな感じだったが、実物の伊能は痩せており、身体が弱っているように見えた。目の焦点が合っておらず、正直、不気味な雰囲気を感じる男だった。

まず、単刀直入に事件について、白か黒かを質したところ、伊能は「全部やってないですから・・・自分は無罪ですから・・・」と言い切った。そして裁判への不満などを次々に口にした。

「裁判がメチャクチャなんで、最高裁では徹底的にやろうと思ってるんです・・・」
「自分は裁判で住所不明、無職にされましたが、住所も職業もちゃんとしています・・・」

「今は午前中に裁判に出すものを色々書いて、昼からは息子への手紙を書いています・・・」

筆者は正直、こうした伊能の無罪主張や裁判批判がまったくピンとこなかった。裁判では、現場室内から伊能の掌紋が見つかったとか、伊能の靴の底から被害者の血液が検出されたとか、有力な有罪証拠がいくつも示されていたからだ。

また、息子に手紙を書いているという話も違和感を覚えた。伊能に息子がいるのは知っていたが、妻と娘を殺害した伊能が息子と良好な関係だとは思えなかったためだ。

◆面会するたびに金や飲食物の差し入れを催促

その後、筆者は伊能と面会を繰り返したが、伊能の無罪主張は何度聞いても信ぴょう性が感じられなかった。

まず、現場室内で見つかった自分の掌紋や、靴の底から検出された被害者の血液などの有力な証拠については、伊能は「全部偽物の証拠や」と言ってのけるのだが、何か根拠を示すわけではない。裁判で黙秘した理由についても、「裁判では、『無実だから何も出ない。無罪になるだろう』と思ってましたから」と言うのみで、やはり説得力は皆無だった。

もっとも、このように無理な無罪主張を言い連ねる伊能から、やましそうな雰囲気は一切感じ取れなかった。そのため、筆者は伊能と面会を重ねるうち、この男は人を殺しても罪の意識を感じない、サイコパス的な人物なのではないかと思うようになった。

そんな伊能について、もう1つ印象深いのは、面会に訪ねるたびに金や飲食物の差し入れをせがまれたことだ。

「お金と甘い物入れて。お金は多めに、甘い物は何品か。大福餅があったら、大福餅がええな」

このように差し入れをせがんでくる時、伊能は悪びれる様子が無いばかりか、ニンマリと笑みさえ浮かべ、「取材に応じたのだから、差し入れてしてもらって当然」といった雰囲気を漂わせていた。きっと人の物を奪うことにも罪悪感を覚えない人間なのだろう。

最高裁で無期懲役が確定した際、伊能から初めて手紙が届いたが、案の定、金を無心する内容だった。死刑を免れ、今は東日本の某刑務所で無期懲役刑に服している伊能だが、自分の罪を悔い改めることは永遠にないだろう。

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「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

2015年の淡路島5人殺害事件で殺人罪などに問われた被告人・平野達彦(45)の控訴審で、大阪高裁は1月27日、「被告人は犯行時、妄想性障害により心神耗弱状態だった」と認定して刑法39条を適用し、一審・裁判員裁判の死刑判決を破棄、無期懲役を宣告した。裁判員裁判の死刑判決が控訴審で破棄され、無期懲役に減刑されたのはこれで7例目となった。

この現象に関しては、「裁判員裁判が形骸化する」などの批判的な意見が多いが、死刑を破棄された殺人犯たちは一体どんな人物なのか。筆者が実際に会った3人の素顔を3回に分けて紹介する。第1回目は、死刑判決が破棄されたばかりの平野達彦。

◆裁判員裁判では、「責任能力はある」と判断されたが・・・

事件を起こす前、SNSで「政府の陰謀」を告発していた平野

平野が事件を起こしたのは今から5年前、2015年3月16日のことだった。兵庫県・淡路島の小さな集落で生まれ育った平野は当時40歳。精神障害による入通院歴があり、事件を起こすまで長く実家で引きこもり生活を送っていた。

そんな平野がこの日早朝、近所の2家族の寝込みを襲い、計5人をサバイバルナイフでメッタ刺しにして殺害した事件は社会に大きな衝撃を与えた。そしてほどなく注目されたのが、平野がインターネット上に残していた「活動の形跡」だった。

「日本政府は何十年も前から各地で電磁波犯罪とギャングストーキングを行っています」

平野は事件前からSNSでそんな「陰謀論」を書き綴っていた。それと共に被害者たちの写真をネット上で公開し、「工作員」呼ばわりしたりもしていた。平野は精神刺激薬の大量服用を長期間続けたのが原因で、犯行時は薬剤性精神病に陥っていたのだ。

平野は2017年2~3月に神戸地裁で行われた裁判員裁判でも、「事件はブレインジャックされて起こした」「本当の被害者は私であり、私の家族。祖父も自殺に見せかけて殺された」などという特異な冤罪主張を繰り広げた。さらに事件前からネット上で訴えていた日本政府の「電磁波犯罪」を改めて法廷で告発したりした。

このように法廷で荒唐無稽なことばかりを言っていた平野だが、見た目はグレーのスーツと銀ブチめがねが似合う普通のサラリーマン風で、話しぶりも真面目だった。それだけに余計に異様さが際立っていた。神戸地裁の裁判員裁判では同3月22日、責任能力を認められたうえで死刑を宣告されたが、筆者は傍聴席から平野の様子を見ていて、正直、「壊れている」としか思えなかった。

◆死刑を恐れる雰囲気が全く感じられない理由は・・・

筆者が神戸拘置所で平野と面会したのは、平野が神戸地裁の裁判員裁判で死刑判決を受けた翌日の朝だった。透明なアクリル板越しに向かい合った平野に対し、筆者は何より気になっていたことを単刀直入に質問した。

「平野さんは死刑が怖くないのでしょうか?」

筆者がこんな質問をしたのは、公判中に平野から死刑を恐れる雰囲気がまったく感じられなかったためだが、平野はサラリとこう答えた。

「私は電磁波攻撃という死刑以上のことを何年もされていますから」

電磁波犯罪とは一体何なのかと質すと、平野は「脳内に音やかゆみ、刺痛を送ってくるのです」と真顔で説明してくれた。では一体、誰が何の目的で平野にそんなことをしているというのか。

「“五感情報通信”というのをご存知ですか。日本政府はそのための人体実験として私に電磁波攻撃を行っているのです」

“五感情報通信”とは、電話やネットでは伝達できない触覚や嗅覚、味覚なども含めた五感すべての情報を伝える通信技術のことで、現在は国が中心になって研究を進めているものだという。「日本政府がその人体実験のため、自分に電磁波攻撃をしかけている」と、平野は本気で思っているようだった。

このように平野の話の内容は荒唐無稽だが、話の中には実在する人や企業、組織、団体もチラホラ出てきた。たとえば、上記の“五感情報通信”も国がそういう通信技術の開発を進めているのは事実だ。検察官は裁判で「被告人は自宅で引きこもる中、インターネットで情報を収集し、独自の世界観を築いた」と説明していたが、平野は実際、ヘヴィーなネットユーザーだったのだろう。

◆裁判で「精神障害」を主張した弁護士を批判

平野の死刑判決を破棄、無期懲役に減刑した大阪高裁

平野によると、事件を起こした動機は「刑事裁判をうけ、日本政府の電磁波犯罪を国内外に知らしめること」だったという。そんなことを大真面目に言う平野に対し、私は「弁護人は平野さんのことを精神障害だと言っていましたが、不満ではなかったですか」とも尋ねてみた。すると平野は「もちろん、不満です。私は精神障害ではないですから」と言った。そしてこう付け加えたのだった。

「弁護士は精神障害のでっち上げに協力したのです」

間違いなく平野は相当重篤な精神障害者だった。ご遺族は無念だろうが、事実関係を冷徹に見極めれば、「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」という刑法第39条第2項の規定を平野に適用した司法判断を否定するのは難しい。この件では、裁判官を批判している人が多いが、「平野のような殺人犯も死刑にすべきだ」と考える人が批判の対象とすべきなのは、刑法39条だ。

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7日発売!月刊『紙の爆弾』2020年3月号 不祥事連発の安倍政権を倒す野党再建への道筋

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