―― まずは今回の感想を
「そうですね。力及ばずでした。応援して頂いた皆さんにお詫び申し上げます」(パシャ、パシャ、シャッター音とフラッシュを浴びながら)
―― ノミネートされた時点で手応えはありましたか。
「いやぁ。あの時は正直びっくりしましたね。正確にはノミネートされたことを知ったのはかなりあとで、仲間から聞かされたんです」
―― ノミネート直後には知らなかった。
「ええ、こう見えて結構忙しいんですよ。貧乏暇無しってやつ。あ、この表現差別になっちゃうかな(笑)。直後に知っていたらアクションはもっと早かったでしょうし、そうすれば結果もね……」
―― 受賞決定前の数日はかなり注目が集まりました。
「はい、激励や叱咤もたくさん頂きました。でも、こういう言い方はどうかなとは思うけど、ノミネートを知ってからは僕たちなりに必死だった。全力で走りぬけた感はありますね。とにかく『受賞』の一助を担いたいと。発表を聞いた時、僕ら全員泣きましたもん」(「本当か?という無言の質問が矢のように飛んでくるが、会場は一応静まっている)。
―― 気鋭の社会学者が芥川賞受賞実現すれば、ボブディランのノーベル文学賞受賞に似ている、という話題もありました。
「あ、それ、かなり意識はしていたんです。あれ見てカッコイイなと。ボブディランは授賞式に参加しなかったじゃないですか。だから彼も『東京で控えてください』と言われていたらしいんですけど、あえて大阪に縛り付けた。詳しくは言えませんが色々考えたわけです。最後はご本人の意向もありますけど」
◆上昇志向を隠しきれない本性を取材班は見抜いていた
―― 受賞の確信はおありになった?
「うーん、確信なんて持てませんけど、なんか天啓(受賞しない)みたいなものはあって。だから僕らは動いたのかな。僕らの中で議論したんですけど、実は彼がかなりの上昇志向なんだと読み解いたんです。たぶん無意識に。 」
「『地味に』とか『片田舎でひっそりと』とか『無名』とかそういう言葉が出ちゃうってことは、脳のどこかで真逆のことを発信している神経細胞、生理というか、もうこれは生得的なモノなんでしょうけどそういうものを『持っている』。だから『紀伊國屋じんぶん大賞』受賞のコメントでも『この本の最大の特徴は、何の勉強にもならない、ということだと思います。いちおう社会学というタイトルはついていますが、これを読んでも社会学や哲学や現代思想についての知識が増えることはありません。これは何の役にも立たない本なのです』と書いているんですが、直後に『この本で書いたことは、まずひとつは、私たちは無意味な断片的な存在である、ということと、もうひとつは、そうした無意味で断片的な私たちが必死で生きようとするときに、「意味」が生まれるのだということです』ってかなり断定的な言い方してるじゃないですか。押し付けがましいほどに。僕らから見たらこれは明らかな矛盾ですよ。決定的ともいえる意味の亀裂です。けど彼は矛盾と感じてはいない。これはかなり重要なポイントで、おそらく多くの読者も気づいていないと思うな。でも僕らは、それを見逃さなかった。あ、話それちゃったごめんなさい。確信はなかったけど、受賞に向けて最大限に力を尽くした。これは言い切れます」
―― 作品自体はお読みになりましたか?
「いや、あんなもの読んでる暇ないですよ。それほど悠長な暮らしはしていませんよ(笑)。だって僕たちは毎日、毎日原稿書いて、1本いくらの生活しているわけですから。日雇労働みたいなものです。世間には『読まなきゃ批評しちゃいけない、現場にいなきゃ発言しちゃいけない』と厳しいことを言う人がいるのは知っています。でも選挙で人柄に惚れて候補者に投票するなんてことは、日常的にあるわけです。『小泉現象』なんかまさにそうだったわけじゃないですか。作品から作家に興味を持つ場合もあれば、作家の人となりから作品の受賞を応援することだって許されていいんじゃないでしょうか。まあそのきっかけが僕らの場合偶然にも『M君リンチ事件』への彼の関わりだった訳で、これは大学教員としての見解を聞くべきだ、と思いましたね。僕らはジャーナリズム論を声高に掲げるつもりは全然ないけど、他のメディアが酷過ぎるるでしょ。それは申し訳ないけど断言しますよ。鹿砦社特別取材班なんかたかが10人足らずですが、今の報道状況への疑問は共有していますね。それが取材の根源を支える力にもなっている」
―― 受賞にはいたりませんでしたが、どのくらい貢献されたと思いますか。
「それはわからない、としか言えませんが、言えないこと、書けないことを含めて皆さんが想像される以上に頑張った。まあ、このくらいで勘弁してください」
―― 次回作が気になりますが。
「うーん。ギャラ次第ですかね。冗談ですよ(笑)。だって大学からの給与もあるし、共稼ぎですから、経済的には全然困っていないわけです。テレビ出演なんか準備はそんなにいらない割にギャラはいいし。僕ら日雇いとは違うんです。それからこれは強調したいんだけど、たぶん彼は本業の手を抜く気はないんですよ。研究者としてという意味です。だから次回作は未定でしょうね。と思ったらツイッターで『このたび残念な結果になりましたが、心からほっとしております(笑)。ここまで来ただけでもすごいことだと思います。みなさまのおかげです、ありがとうございました。今後も書き続けていきたいと思います。よろしくお願いします』とか『さあ、飲みに行くで!!!!(笑)みんなほんとにありがとー! また書くから絶対読んでね!!!』とか書いている。このあたりが僕らにはひっかかる。まあ正直と言えば正直な気落ちの吐露でしょうが、こういう言行不一致から人間性が見えてくるわけです」
―― これからも書き続けるということは芥川賞受賞を狙った大学教授ということになりますね。
「それを狙っていたわけです。彼には是非階段を上がって頂いて、著名になって欲しかった。経歴はだいぶ異なるけど、同じ大阪出身の高橋和巳を目指してほしいですね(「無理だよ無理!」の声が飛ぶ)、ああ、じゃあ高橋源一郎くらいにしときましょうか(爆笑)。でも毎年ノーベル文学賞候補になって、何年たっても受賞できない村上春樹って惨めだと思いません?そりゃ本出だしゃ売れるし、海外での翻訳も多いけど、あの露骨な『ノーベル賞欲しいよー』にはこっちが恥ずかしさを感じる。彼にもそうならない保証はないし、そのあたりは今後も注視しますよ」
―― ここまで熱心に応援された理由は何でしょうか。
「たぶん次の編集長には私がなると思っていた。それもありますね」
―― ちょっと意味が解らないんですが。
「僕らも解りませんよ。業務時間中のほとんどを『ネットパトロール』に費やしていて、国会前集会の決壊の準備までしていた藤井正美さんにはかないません」
―― ますますわからないんですが。
「しばき隊にそんなこと言ったら『ボケ』、『カス』、『死ね』と言われちゃいますよ(笑)。僕らは体張って仕事してますけど、笑いを大切にしているので(ただうちわネタ過ぎて解りにくいでしょうけど)、時に数人しか笑ってもらえなくても、死ぬほど笑わしたいという変な欲求があるんです。鹿砦社には吉本も手が出せませんしね(笑)」
―― 受賞応援以外にも何か目的があるようにも思えますが。
「『なおさらノーコメント』って言わせたいんでしょ(爆笑)。もちろんありますが、それは鹿砦社の出版物を読んで頂ければわかるのであえて発言するのは控えます」
◆鹿砦社特別取材班の地道な取材は続く
―― 特別取材班の次のターゲットは。
「引き続きこの問題に取り組まざるを得ないでしょう。というよりも、すでに今手一杯なんですよ。もちろん中心は『M君リンチ事件』。問題意識に変わりはありませんが、彼を襲った『しばき隊』が、そろそろ実質的にも力を失ってきている。これはかなり確信を持って言えます。彼らの相方であった『在特会』がおとなしくなって存在意義が揺らいじゃった。そこに『M君リンチ事件』が世に広まったでしょ。一部のコアな人を除いてそりゃ離れますよ。理念なき野合、しかもヒステリックじゃなきゃはじかれる訳でしょ。それからこの取材をしていると最近痛感するんだけれど、事件や自然災害にしてもそこへ向けられる人びとの注目、関心の期間・スパンがすごく短くなっている。これは社会的には良くない傾向だと思います。たぶんマスメディアの影響が大きいのでしょうが、大事件でも、年中行事でもニュースの価値・意味付けに対する感覚が、根元の部分で歪んでしまっている。しかも、マスメディアが持ち札を切るスピードは増すばかり。だから『風化』というのは、あらゆる事象に共通する現代的な問題だと思います。それに抗う意味でもわれわれは原則的に問題を追います。これは本当に地味な作業ですが『M君リンチ事件』は最後までフォローしますよ」
―― ありがとうございました。受賞おめでとうございました。
「いやいや、受賞できなかったじゃないですか」
―― 記者クラブから「芥川賞アシスト特別賞」を鹿砦社特別取材班に授与します。
「え!本当ですか?」
―― はい、副賞は岸政彦氏へ再度の取材依頼です。
「光栄です。次回は前回のように簡単には引き下がりませんよ。岸先生にお伝えください。他のメディアがやらなくて、提灯持ち記事ばかり書けば書くほど、僕たちは燃えるんです。僕たちは権威も権力も怖れませんから。『M君リンチ事件』隠蔽に彼が果たした役割も追い続けます」
(鹿砦社特別取材班)
残部僅少!『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾12月号増刊)