天皇制はどこからやって来たのか〈33〉昭和天皇――その戦争責任(8)「原爆投下はやむをえないことと、私は思ってます」 横山茂彦

戦後に天皇の戦争責任が本格的に問われるのは、1975年を待たねばならなかった。しかし当の昭和天皇は、みずからの政治責任・戦争指導責任に敏感だった。昭和24年12月19日の拝謁では、田島道治宮内庁長官が当時の皇太子を早く外遊させるべきだという昭和天皇に理由を尋ねたところ、昭和天皇はこう語っているのだ。

【皇太子への譲位の意志】
「講和ガ訂結(ていけつ)サレタ時ニ 又退位等ノ論が出テ イロイロノ情勢ガ許セバ 退位トカ譲位トカイフコトモ 考ヘラルヽノデ ソノ為ニハ 東宮チャンガ早ク洋行スルノガ ヨイノデハナイカト思ツタ」と語ったと記されている。

これから自分の退位や譲位も考えられるが、そのためには皇太子(明仁)が海外訪問をして、即位するための準備をすることが必要なのだ、というのである。皇太子への譲位を考えているよ、という意味にほかならない。

ところが一方で、昭和天皇はこの直後にこうも語っている。

「東宮ちやんは大分できてゝいゝと思ふが、それでも退位すれば私が何か昔の院政見たやうないたくない腹をさぐられる事もある。そして何か日本の安定ニ害がある様ニ思ふ」と述べ、

当時まだ若い皇太子に位を譲れば「院政」と言われ、日本のためにならないのではないか。というのだ。ようするに、退位や譲位はまだ早いと。退位を迷いながらも、皇太子の成長に頬をゆるめる。父親としてのまなざしも感じられるところだ。
いっぽう国民からの視線は、やはり隠忍自重を旨としているようだ。以下は静養に御用邸を使うこと、宮殿がうしなわれた宮城での住まいについてである。国民の苦しい境遇が「ひがみ」を持つのではないかと言うのだ。その「ひがみ」が自分の信用を落とすのではないかと心配している。

【別荘での静養】
昭和26年12月19日の拝謁では、昭和天皇が葉山御用邸での静養について、「退位論など唱へる人達、生活ニ困った人 特ニ軍人など戦争の為ニひどい目ニあつた人から見ると私が葉山へ行くなど贅沢の事をしてると思ふだらう」と懸念を示し、「それは境遇上のひがみと思ふが、そういふ人のある事を考へても行つていゝか」と田島長官に尋ねたと記されている。

【住まい】
昭和24年8月30日の拝謁では、昭和天皇は御文庫(住居として使っている防空施設)の改築・新築について、こう述べている。
「今ハ皇室殊ニ私ニ対シテ餘リ(あま)皆ワルク思ツテナイ様デ 一部ニハ退位希望者アルモ 大体ハ私ノ退位ヲ望マヌ様ナ時ニ 私ガ住居ヲ大(おおい)ニ新築デモシタ様ニ誤伝セラルレバ 私ハ非常ニ不本意デ、イハバ(いわば)一朝(いっちょう)ニシテ信ヲ失フ事ハ ツマラヌト思フ」

【終戦の詔勅の本意】
そして田中道治は、戦争責任に関する天皇の本音を聞いてもいる。昭和26年8月、静養先の那須御用邸で拝謁したさいに、昭和天皇は「長官だからいふのだが」と前置きしたうえで、終戦の日に放送された「終戦の詔勅」の内容に触れたというのだ。
「あれは私の道徳上の責任をいつたつもりだ。法律上ニハ全然責任ハなく又責任を色々とりやうがあるが、地位を去るといふ責任のとり方は私の場合むしろ好む生活のみがやれるといふ事で安易であるが、道義上の責任を感ずればこそ苦しい再建の為の努力といふ事ハ責任を自覚して 多少とも償ふといふ意味であるがデリケートである」と述べたとされる。

そのまま理解すれば、退位して楽な生活をするのもいいが、道義上の責任を感じるからこそ、天皇の地位にとどまって責任を償うのだ。ということになる。見た目はカッコいいが、かなり体裁を意識した発言という印象だ。

昭和26年12月13日の拝謁では、独立回復を祝う式典で述べるおことばの文案を検討する中で、昭和天皇はこう語っている。

「国民が退位を希望するなら少しも躊躇(ちゅうちょ)せぬといふ事も書いて貰ひたい」と述べ、田島長官が「それは織り込みますれば結構でございますが、余程六ケ(むつか)しいと存じますが、どこかに其意味ハ出なければならぬと存じます」と返している。じつは退位をしないかわりに、天皇と田島は、国民への公式の謝罪を検討していたことがある。

◆発見された天皇による、国民への謝罪(草稿)

天皇の「国民への謝罪詔書草稿」を、田島が起草していたのだ。書かれたのは昭和23年前後と推定されるが、それは東京裁判の判決が下った時期でもある。草稿が発見されたのは2003年のことだ。

 

【原文】
朕、即位以来茲ニ二十有余年、夙夜祖宗ト萬姓トニ背カンコトヲ恐レ、自ラ之レ 勉メタレドモ、勢ノ趨ク所能ク支フルナク、先ニ善隣ノ誼ヲ失ヒ延テ事ヲ列強ト 構ヘ遂ニ悲痛ナル敗戦ニ終ワリ、惨苛今日ノ甚シキニ至ル。屍ヲ戦場ニ暴シ、命ヲ職域ニ致シタルモ算ナク、思フテ其人及其遺族ニ及ブ時寔ニ忡怛ノ情禁ズル能ハズ。戦傷ヲ負ヒ戦災ヲ被リ或イハ身ヲ異域ニ留メラレ、産ヲ外地ニ失ヒタルモノ亦数フベカラズ、剰ヘ一般産業ノ不振、諸価ノ昂騰、衣食住ノ窮迫等ニヨル 億兆塗炭ノ困苦ハ誠ニ國家未曾有ノ災殃トイウベク、静ニ之ヲ念フ時憂心 灼クガ如シ。朕ノ不徳ナル、深ク天下ニ愧ヅ。身九重ニ在ルモ自ラ安カラズ、心ヲ 萬姓ノ上ニ置キ負荷ノ重キニ惑フ。
然リト雖モ方今、希有ノ世変ニ際會シ天下猶騒然タリ身ヲ正シウシ己レヲ潔クスルニ急ニシテ國家百年ノ憂ヲ忘レ一日ノ安キヲ偸ムガ如キハ眞ニ躬ヲ責ムル 所以ニアラズ。之ヲ内外各般ノ情勢ニ稽ヘ敢テ挺身時艱ニ當リ、徳ヲ修メテ禍ヲ嫁シ、善ヲ行ツテ殃ヲ攘ヒ、誓ツテ國運ノ再建、國民ノ康福ニ寄與シ以テ祖宗 及萬姓ニ謝セントス。全國民亦朕ノ意ヲ諒トシ中外ノ形成ヲ察シ同心協力各 其天職ヲ盡シ以テ非常ノ時局ヲ克服シ國威ヲ恢弘センコトヲ庶幾フ。

【訳】
 私が即位してこの二十数年、朝起きて夜寝るまで歴代の天皇や祖先、国民の期待を裏切るようなことがないよう、勉めてきたが、時勢の流れに支えきれず、周辺諸国との善隣平和な関係を失い、列強諸国と戦争状態となった。そして、遂に悲痛な敗戦となり、そして今日の見るに耐えない災難が甚だしい状況になってしまった。
 国民が死体を戦場にさらし、命をその職や受け持ちの範囲で散らしたが、そのかいもなく敗れてしまった。その本人やその遺族の皆さんのことを思うと、まことに憂いに痛む思いが止められない。
 戦闘で傷つき、戦災を被り、あるいは、身柄をまだ外国に抑留され、財産を外地で取り上げられたりする例もまた、数えきられない。おまけに、一般産業の不振、諸物価の高騰、衣食住が困窮して、膨大な苦痛は、日本が始まって以来の災難と言ってもいい、ひとり静かにこの事を思うと、憂い心が焼ける思いだ。
 私の徳が無い為にこのような結果となり、深く天下に謝罪するものです。身は皇居に在るのだけれども、とても落ち着いてはいられない。心を国民のもとに置き、責任の重さに心惑う。
 しかし現在まだ、歴史始まって以来の変化に遭遇して、世間はまだ騒然としている。自分だけ潔く退位することは、責任から逃れるだけで、逃げ出すことは責任をとることにならない。
 現在の国内世界情勢を考えると、国家国民の為に挺身し、その時代の難問題に当たり、徳を修めて禍を寄せ付けず、善を行って災いを掃い、国の再建国民の幸福に寄与することを誓い、それをもって、歴代天皇や国民に謝罪することにさせて下さい。
 国民の皆様、再び、私の誠の意思を理解し、国内国外情勢を察して、一致協力 それぞれの仕事に励み、この非常事態の世の中を乗り越え、国の力を広げ回復することをお願いしたい。

ここでも、退位して責任を投げ出すのは無責任であるから、国民のために挺身したい。国民も一致協力して国の再建に尽くしてほしい。というものだ。

◆原爆はしかたなかった

そのいっぽうで、昭和50年には「国民への謝罪」の内実が問われる事態も起きた。記者会見で「原爆は仕方なかった」と口をすべらせたのである。記者会見は昭和50年10月31日に日本記者クラブが主催し、皇居宮殿内の「石橋(しゃっきょう)の間」で行われたものだ。

このシリーズの冒頭に挙げた「(戦争責任という)そういう言葉のアヤについては、私はそういう文学方面はあまり研究していないので、よくわかりませんから、そういう問題についてはお答えできかねます。」につづく答弁になる。

秋信記者 天皇陛下にお伺いいたします。陛下は昭和22年12月7日、原子爆弾で焼け野原になった広島市に行幸され、「広島市の受けた災禍に対しては同情にたえない。われわれはこの犠牲を無駄にすることなく、平和日本を建設して世界平和に貢献しなければならない」と述べられ、以後昭和26年、46年と都合三度広島にお越しになり、広島市民に親しくお見舞の言葉をかけておられるわけですが、戦争終結に当って、原子爆弾投下の事実を、陛下はどうお受け止めになりましたのでしょうか、お伺いいたしたいと思います。

昭和天皇 原子爆弾が投下されたことに対しては遺憾には思ってますが、こういう戦争中であることですから、どうも、広島市民に対しては気の毒であるが、やむを得ないことと私は思ってます。

軍部および天皇が原爆投下を知っていた(テニアン方面への諜報活動)という説については、別稿に改めたい。戦後天皇制はやがて、皇太子(明仁)の民間人との婚儀という、幸福のオブラートに包まれながら、象徴として定着していくことになる。そのさいに始まった宮中守旧派との暗闘は、今日もなお皇室を覆っている。(つづく)

◎[カテゴリー・リンク]天皇制はどこからやって来たのか

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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この秋、政権交代は起きるのか? ── 『紙の爆弾』最新号を参考に、都議選後の政局を俯瞰する 横山茂彦

都議会選挙はおおかたの見方をくつがえし、自民党は議席を伸ばせなかった。結果的に、自公両党で過半数に及ばなかった。

惨敗を予想された都民ファーストは、小池知事の土壇場パフォーマンス(入退院後、即座に始動)によって自民と第一党の座を争い、地域政党としての地位を不動のものにしたのである。

大阪維新の会(大阪府)や減税日本(愛知県)、沖縄社大党(沖縄県)などとともに、日本における地方政党の意義を刻印したといえよう。

その結果、ぎゃくに小池都知事が都民ファ・立民・公明・無所属による議会多数派を形成することになったのだ。

【自民党の独自調査による選挙予測】
解散前 予想   選挙結果  2013年の議席
自民   25  48~55   33      59
公明   23  14~23   23      23
都民ファ 46   6~19   31     ――
立民    9  20~26   16      18
共産   18  17~23   19      17
維新    1   1~1    1       2
無所属   5   2~3    4       1
※立民は生活者ネットの1議席をふくむ。

それにしても自民党は何をどう間違えて、上掲のごとき予測の錯誤をおかしたのだろうか。そもそもメディアの意識調査(下掲)では、都民の2割の支持も得られていなかったはずだ。

自民党 19.3%
立憲民主党 14.0%
共産党 12.9%
都民ファーストの会 9.6%
公明党 3.4%
日本維新の会 3.4%

平時の選挙であれば、町内会などの組織独占力にまさる自民党が、投票に行く少数者という支持基盤で、難なく勝てたかもしれない。

その平時の選挙戦術が「結果を出せる政治」「国会議員と首長、地方議員の三位一体」という、いわば田舎選挙でしかないことは、選挙当日の速報(《速報》2021年都議会選挙 都民ファーストの善戦、自民党の復活は不十分に)で解説したとおりである。自民党はオリンピックの是非やコロナ禍対策が問われる、政治の「風」に弱いのだ。

そして麻生太郎の「(小池知事の入院は)自分でまいた種でしょうが」、安倍晋三の「反日的な人たちが東京オリンピックに反対している」という発言が、文字どおり「墓穴を掘った」のである。

いっぽう、メディアや論者の大半も「都民ファーストの大敗」「小池の密約による国政復帰」論に流されてしまった。

自民党二階俊博幹事長との密会、水と油だった菅総理との会談など、じつは東京五輪の打ち合わせでしかないものを、すべて政局と読み取ったがゆえの誤報であり誤導である。

はては「小池知事が都議選公約で、オリンピック中止をぶちあげる」という奇説まで飛び出すありさまだった。あまりにも政治センスがなさすぎる。

今回の都議選の焦点は、6月28日付の記事(小池都知事「入院」の真相と7月4日都議会選挙・混沌の行方)で述べたとおり「都議選挙に応援演説も何もせず、このまま様子見をするのか。都議選挙の見どころは、小池知事の動静に決まった。」だったのである。

しかしながら、政治は何幕もつづく劇場である。

小池知事が「わたしは国政に復帰するとは、ひと言も言っていません。どうして、みなさんが書くのだろうと」(6日の記者会見)と本人が否定したからといって、国政復帰の線がなくなったわけではない。

希望の党の失敗があるとはいえ、国務大臣をつとめたベテラン政治家である。そしていったんは都議選挙での勢いを駆って、旧民主党などを糾合しながら、近い将来の総理候補に登りつめた人である。都知事と地域政党の顧問で、その野心がとどまるはずがない。

そこで、今後の小池百合子が日本初の女性宰相に登りつめる道すじがあるとすれば、どのようなものだろうか。秋の政局とあわせて解説していこう。

『紙の爆弾』最新号(8月号)には、山田厚俊の「9月解散の菅戦略を明かす」が掲載されている。この記事の「小池百合子の自滅」は、執筆時期から上述した読み違いを踏んでいるが、9月解散が自民党内の焦点をとしている。

山田の立論はオリンピック・パラリンピックの成功をうけて総選挙に踏み切り、その勝利をもって総裁選挙に臨むというものだ。菅の政権維持戦略は、まさにこれしかないのだ。

だがこの戦略も、都議選の結果をうけて公明党の山口那津男代表から「解散は遅い方がいい」という注文が入った(7月6日)。

総選挙の前に総裁選がくると、山田が指摘するとおり、菅が選挙の顔では戦えないという党内議論が出てしまうのだ。

かといって、総選挙での敗北はそのまま、菅を退陣に追い込むのは間違いない。安倍晋三が空前の長期政権をたもったのは、選挙に強かったからにほかならない。選挙に勝てない総裁など、政党にとっては鴻毛よりも軽いのだ。

それが東京オリパラの失敗によるものか、コロナ禍の再度のパンデミックによるものかは、今のところわからない。

だが、9月の上旬までにコロナ禍がワクチンによって収束し、オリパラが成功裏に終了しないかぎり、もはや菅の続投はないだろう。それが総選挙(衆議院選)における自民党の大敗によるのか、総裁選による「菅おろし」によるものかはともかく、確実に菅政権は崩壊する。

問題はすでに、菅退陣後のことである。

『紙の爆弾』最新号には、横田一の「重要選挙4連敗・菅政権に近づく終焉」が掲載されている。この記事の後段の「枝野幸男が五輪中止の旗振り役になるのか」「次期衆院選挙での構図」に興味をひかれた。

横田によれば、いくつかの先制的な要件を政府に突き付けることによって、オリンピックの強行開催への政治責任を仕掛けているという。くわしくは本誌を読んでいただきたいが、菅政権にとっては致命的である。そして政権交代が起きるとしたら、枝野首班は間違いないところだろう。

いずれにしても、9月には任期満了解散にともなう特別国会・臨時国会が開催される。そこに菅義偉総理がいるのか、それとも新しい首班がいるのか。

ここでは自民党が辛うじて議会多数を保ったとき、それが自民・公明・維新ほかの党派との連立政権となりかけたときの想定もしておこう。

そこには、小池百合子が推す何人かの衆議院議員がいるのかもしれない。二階俊博が五輪の打ち合わせと称して、小池と何度も会っているのはその布石にほかならない。

場合によっては、コロナ禍による政治危機を突破するための、それは立憲民主もふくめた大連立(挙国一致内閣)になるのかもしれない。その光景が今年なのか、それとも数年後なのかはわからないが、大連立の頂点に女性宰相が君臨するのを、個人的には歓迎したい。そこから、少なくとも男性支配の政治に変化が起きるからだ。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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《速報》2021年都議会選挙 都民ファーストの善戦、自民党の復活は不十分に

惨敗を噂された都民ファーストの善戦のいっぽうで、都議会自民党の復活は不十分なものだった。自公あわせて過半数の確保という、最低限の目標も果たせなかった。

※7月4日23時半現在の議席予想(報道各社の予測をもとに分析)
自民  25~43
都民  25~35
立民  ~17
公明  ~23
共産  18~
国民  0~
維新  ~2
れいわ ~1
嵐   0~

◎7月4日23時半時点の開票速報(東京新聞特設サイトより)

◎都議選2021(東京新聞)https://www.tokyo-np.co.jp/senkyo/togisen21

◎東京都議会選挙特設サイト(NHK)https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/togisen/2021/

投票率は18時段階で25%と、前回よりも7ポイント少なかった。事前投票は99万票こえと過去最高になったが、結果的に低迷したといえよう。都議会選挙の得票率はもっとも低いときで40.80%、高いときで58.74%である。

事前の自民党調査によると、自民党は現有議席25から51まで回復。都民ファースト(以下、都ファ)は46議席から13議席と、大敗の予測だった。この予測だけを見るならば、選挙戦は自民の敗北といえるかもしれない。

都民ファが踏みとどまった理由は、オリンピック強硬開催とコロナ対策への是非を問うたからにほかならない。オリンピックそのものの中止を訴えた共産党善戦にも、それは顕著である。

共産党の関係者によると、街頭演説への大量動員を追求せずに、電話による投票依頼に集中したという。その結果、東京五輪中止を訴えているのは共産党だけです、というフレーズに反応が多かったとのことだ。

都民ファは「無観客なら開催、有観客の開催には反対」というもので、いまひとつ鮮明さを欠いたが、それでも演説会での「無観客」という大きな旗は、都民の投票行動に結びついたのではないか。開催反対論よりも、現実的な施策と映ったはずだ。


◎[参考動画]【LIVE】都議選 開票速報!NewsPicksコラボ特番「東京UPDATE」(TBS)

◆都民ファーストの善戦

都民ファが凋落するだろうという予測は、党の特別顧問である小池百合子東京都知事の「入院(退院後も公務は医師と相談しながらのテレワーク)」にみられる自滅、実質的な党首の戦線放棄によるものとみられていた。機を見るに敏な小池都知事は、選挙応援に「参戦」しないことによって、自民党二階俊博幹事長との「密約」を守ったのだ、と。

その「密約」とは、東京オリンピック・パラリンピックの強行開催、および選挙後の自民党との議会提携を担保に、知事の政策遂行を保証するものだ。この裏には1月の千代田区長選挙において、都民ファーストの元都議が自公候補を破ったことに二階が不快感を表明し、その関係修復の過程で交わされたものといわれている。いずれにしても小池知事の入院(寝たふり)は、都ファの凋落を意味すると考えられていた。

ところが、そうではなかった。小池知事は退院の挨拶をした翌日(選挙最終日)に、選挙戦の最前線に立っていたのだ(後述)。

その決断の理由も明白である。前述したとおり、オリンピックの開催が決定的になった段階で、無観客の選択肢が「現実の政治過程」に顕われたからだ。

「公務を離れている都民ファ特別顧問の小池知事の支持率は59%で、前回調査(5月28~30日)の57%から、ほぼ横ばいだった。前回は知事支持層の投票先で最も多かったのは自民の29%で、都民ファは19%にとどまっていたが、今回は都民ファ26%、自民26%と並んだ。」(6月28日、日刊ゲンダイ)。

この調査では、都民の6割近くが「東京五輪の開催を評価しない」と回答していることから、都ファの「無観客開催」「有観客なら中止」に賛意をしめしていると分析できる。開催が決定的な段階での「有観客」への批判的な反応は、都民の冷静さを示していたといえよう。

そしてここで、小池知事が動いたのだ。

◆選挙の組織戦術とは──電話掛けによる支持者の固め

ふり返ってみれば、都ファの大敗を予測するうえで、選挙戦術の常識がその背景にあった。プロの選挙党と素人の選挙党の違いである。

低い投票率のなかで、政党の支持率の基盤となる組織票の実体とはどのようなものか。東京は過去(70年代)に革新都政が実現したほど、全国規模の政党支持率と大幅にちがう。

総じて、政治意識の高さが特徴である。東京新聞・東京MXテレビ・JX通信社が、6月22、23日に合同で行った「都民意識調査」では、
自民党 19.3%
立憲民主党 14.0%
共産党 12.9%
都民ファーストの会 9.6%
公明党 3.4%
日本維新の会 3.4%

これがほぼ、都民の政党支持率といってもよいであろう。ただし、実際の選挙においては、コアな支持層による凌ぎ合いが焦点となる。党派の支持基盤、およびそれを固める活動家である。

自民党の組織基盤は、基本的に町内会(自治会)と商店会、そして青年会議所(JC)などである。このうち町内会は神輿会や神社の崇敬会、お寺の盆踊り、子供会などを外延部に、地域住民の日常生活をほぼ網羅している。

ためしに自分が所属する町内会の新年会に出てみるとよい。自民党の町議や市議が挨拶におとずれ、その自治体の首長が非自民系である場合は、公然とその首長を批判するものだ。

民主党系(旧社会党・民社党)が、労働組合と生活消費組合などを基盤にしているのと好対照である。共産党の場合は、労働組合にくわえて民商(零細経営者の共同組織)になる。公明党はいうまでもなく、創価学会という信教団体(宗教団体)である。

これら支持団体の組織力こそ、政党の生命力といっていいだろう。したがって、支持団体の活力を、選挙政党はくり返し刷新している。

立憲民主党は労働組合の代弁者から市民政党への脱皮をめざし、民主党時代からサポーターシステムを導入してきた(現在は立憲民主がパートナーズ、国民民主がサポーター制度)。

これに対して、都ファはまったく政党としての支持団体を形成できなかった。支援団体は議員の個人的な努力に任されているのが現状なのだ。

選挙はポスター貼りに始まり、街頭演説(聴衆動員)にせよ電話掛け(人海戦術)にせよ、組織で取り組まなければ勝てない。筆者も選挙支援は何度も体験したが、そのたびにダメ押しの電話の重要性を、選挙のプロみたいな人たちから強調されたものだ。

たとえば市議選レベルで、ふたつの陣営の電話掛けを見たこともある。一見して政党色がつよい陣営の、ヘッドホンマイクで電話掛けをする選挙活動家のそれと、素人市民運動家の電話での執着力のなさが、候補者の明暗をわけたものだ。

にもかかわらず、都ファは組織力以上の結果を出したのである。街頭演説会のレポートからも分析しよう。

◆組織力を誇るしかない演説

選挙の華ともいえるのが、街頭演説である。

たまたま麻生太郎の街頭演説(墨田区)を見学できたので、その内容のなさを披露しておこう。自公ともに今回は、都ファ叩きのシフトで臨んだ選挙だった。

したがって、国政につながらない(国会議員のいない)党ではダメだ。首長(区議)のいない党もダメだ。国会で予算割りを実行できて、さらに自治体(東京都)レベルで予算を獲得できる区長、および都議がいなければならない。さらには、その区長と都議をささえる区議がいなければ党のシステムとはいえない。というのが、その主な論調である。政策の内容ではなく、結果を出せる「政治力」ということになる。

だがこれは、政治家をありがたがる地方の選挙区ではともかく、意識の高い東京では相変わらずの「田舎選挙」に映ってしまうものだ。麻生の演説を楽しみにしている聴衆の、少なくない人々が彼の「失言」を心待ちにしていたとしたら、もはや田舎選挙どころか、お笑い選挙だったということになる。

そしてもうひとつは、麻生太郎は選挙における「風」を極度に怖れていた。55年体制下でもマドンナ旋風や新党ブームによる「風」が自民党政権を危機にさらし、実際に政権交代は実現された。自民党自身も小泉「郵政選挙」において、自民党を「ぶっ壊す」ことで「風」を実現した。

2009年の政権交代は、消えた年金問題と安倍政権の自壊的な閣僚ドミノによる「風」であり、2017年は小池旋風であった。そこにあるのは、無党派層の存在である。今回、無党派層はNHK調査で30%、朝日調査で21%となっていた。

◆自民を驚嘆させた小池出馬

その無党派層を動かす「風」を、今回も瞬間的に創出したのが小池都知事だったのである。

小池都知事は7月2日に都庁で記者会見し、執務中に「倒れても本望」と宣言したその翌日、都議会選挙の応援に電撃出撃したのだ。

これに対して「お涙ちょうだい的な話」(舛添要一)と批判するのは簡単だが、その批判には「悪意」や「冷血」「サイコパス」な雰囲気がただよってしまう。つまり、かりに仮病であれ、病人を批判するのは、日本人の感性に合わないのだ。ぎゃくに公用車を公私混同し、ナイフのコレクションが趣味というサイコな一面(元妻片山さつきの証言)が覗いてしまう。

小池知事は7月3日午前10時半ごろ、東京都中野区の都民ファ代表の荒木千陽候補の事務所前に、ガラス張りの選挙カーで登場した。

都ファのイメージカラーである緑のジャケットに同色の手袋という姿で、街頭演説こそしなかったが、荒木候補者と商店街を練り歩いたのである。激戦の中野区にサプライズ登場したことに、自民党幹部も驚きを隠せなかったという。

けっきょくこの日、小池知事は中野区、豊島区、練馬区(2候補陣営)、板橋区、西東京市、三鷹市、調布市(北多摩第3)、港区、墨田区、千代田区など、10カ所の応援に駆けつけた。

激務のなかで疲労困憊し、都議会でも青息吐息。そして入院生活をへて政務復帰という、絵に描いたように同情を煽るながれの中で、選挙応援に駆けつける。これ以上効果的な政治劇場はないであろう。これは3日夜の報道番組でも報じられ、都民はサプライズに圧倒されたのである。

負ける選挙を一日で巻き返し、素人政党を持ちこたえた手腕は、さすがというべきであろう。これで自民復党、国政復帰というメディアの観測は崩れたわけだが、劇場型政治である以上、まだこのさきに何が待っているのかはわからないと指摘しておこう。

そして最後に、組織選挙でしか戦えない自民党の凋落が、東京五輪の成否やコロナ禍の帰趨によって、凄まじい風にさらされることを予言しておこう。


◎[参考動画]テレ東BIZ #都議選生配信〜国政選挙への影響を考える〜

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』8月号

小池都知事「入院」の真相と7月4日都議会選挙・混沌の行方 横山茂彦

◆自民躍進と大敗、両極の予想

6月25日告示、7月4日投開票の都議選挙のゆくえが混迷を深めている。6月中旬にマスコミ向けに発表された自民党調査によると、自民党は現有議席25を51まで回復するという。都民ファースト(以下、都ファ)は46議席から13議席と大敗の予測である。

これだけをみれば、データの詳細(ソース取得・分析方法)は不明ながら、自民党の逆襲という趨勢である。知事選における小池旋風に乗っかった(民進党も解党的に乗った――苦笑)、地盤もないポッと出の素人政党に、継続的な多数派支配が困難なのは誰の目にもわかる。

ところが、東京新聞・東京MXテレビ・JX通信社が5月22、23日に行なった調査では、都議選での投票先として自民党は19.3%だった。立憲民主党14.0%、共産党12.9%、都民ファ9.6%、公明党3.4%、日本維新の会3.4%である。

127議席の19%(自民)ということは、わずか24議席強で、現有議席とほぼ変わらない。ゆえに先月末の選挙展望は、自民ふたたび大敗、菅政権のコロナ対策の遅れの煽りを受けた、という分析が大半だった。

いずれにしても、都議選挙は総選挙(同年選挙)を占うものと云われている。民主党系(当時は民進党)が54議席(35議席↑)を獲得した2009年の都議選挙では、自民党が38議席(48議席↓)と大敗し、9月の総選挙で自民大敗・戦後二度目の政権交代となった。

当時は「消えた年金」という、国民生活にとってこのままの政権(官僚組織の監督)ではとんでもないことになる、凄まじい危機感があったのは事実である。ある意味では、2007年の安倍政権時の自民党政治のツケがイッキに政権交代となって顕われたのだった。


◎[参考動画]〈首都決戦2009〉 自民、逆風の中で総力戦(TOKYO MX 2009年6月23日)


◎[参考動画]〈首都決戦2009〉 一夜明けて(TOKYO MX 2009年7月14日)

◆君臨する小池知事の政治的な位置

それにくらべて、現在は対応遅れの人災的コロナ危機にあるとはいえ、国民が火急の生活的な危機感から、政権交代の投票行動に結実する情勢ではない。その危機がウイルスという天災的なものだからだ。

ひるがえって、政局的には今回の都議選は微妙な勢力図のなかにある。上述した自民党の支持率と都民ファという、前回の選挙で地滑り的に躍進した党派の帰趨である。そしてその求心力だった小池都知事が、今回は都政の権力者として、都民の批判の矢面に立っているからだ。

かつて、自民党東京都連の「ブラックボックス」「都政の伏魔殿」から疎んじられ、したがって都民の圧倒的な同情と支持を取り付けてきた立場とは違い、その専制的な政治態度がメディアの批判に晒されてもきた。

いわく「都政の女帝小池百合子は、東京五輪強行開催に批判的な国民の動静を読んで、オリンピック中止を都議選の公約に掲げるのでは?」「五輪中止を最大利用か?」と、その独特な政治判断、時流にのる政治センスが批判的に論じられてきた。だがこれは、ほとんどハズレの論点となった。世論の動向とは無関係に、五輪開催はIOCの存立にかかわる問題(唯一の収入源)であって、どんなことがあっても開催されると、本通信で指摘してきたところだ。開催が間違いない世界的なイベントに反対してみたところで、政治家は墓穴を掘るだけであろう。

したがって、その小池知事は、自民党内ではひそかな盟友と頼む二階俊博と軌を一にしつつ、反目の仲とされてきた菅義偉と密室対談ののち、東京五輪の開催に突き進んでいる。これが都議選および秋の総選挙の情勢を混とんとさせている、ひとつの軸心であろう。


◎小池勢力が過半数 東京都議選投開票(共同通信 2017年7月3日)


◎自民惨敗、過去最低 東京都議選投開票(共同通信 2017年7月3日)

◆小池百合子「入院」の真相

そんな小池知事が「入院」した。額面どおり「執務による過労」だとしても、その政治的な意図を探られるのが政治家の宿命である。オリンピック強硬開催といっこうに収まらないコロナ禍から身をかわし、併せて都議選挙からも目をそむけていたい。これが偽らざる心境ではないだろうか。その政治的思惑はともかく、ここは都知事のご快癒を祈りたい。

ところで、目をそむけたから政治の現実が変わる、というものではない。

「都ファを全面支援するのか、それとも中立で行くのか、小池知事はこの期に及んで、都議選にどう対応するか、態度を留保しています」と言うのは、都政関係者である(日刊ゲンダイ)

この関係者によると、選挙中に都ファ候補の応援に入るのかと聞かれても「改革派にはエールを送りたい」と、はぐらかし続けているという。

みずから特別顧問を務め、この4年間を二人三脚で都政運営してきたのだから、都ファを支援するのが当然であろう。それができないのは、自民党の選挙予測データを見て焦ったからではないかという。

惨敗必至の都ファに乗っかると、返り血を浴びかねないというものだ。みずからが創設に尽力した都ファにこだわらず、自民党と公明党に周波を送りつつ、全体として安定政権を維持したいというのが、機を見るに敏な小池知事の判断というべきかもしれない。


◎小池知事“今週静養”永田町から「これで都議選……」(ANN 2021年6月23日)

◆国政復帰は本当にあるのか

そして小池知事をめぐって、公然と囁かれているのが国政復帰である。総理への野心はあいかわらず、彼女の政治家としての意欲の根源にあると言われている。

うがった方同筋は、秋の衆院選挙への出馬まで言及している。

そして小池知事の国政復帰のネックは、衆院議員時代の東京10区(豊島区と練馬区の一部など)に帰れないことにあるという。現在の10区選出で自民党の鈴木隼人議員は、セガサミーHDの創業者里見治の娘婿だという。

そこで「里見氏と菅総理は横浜のカジノ誘致を巡り、切っても切れない仲。総理は天敵の小池さんが割って入るのは絶対に阻止する」(自民党関係者)という。


◎[参考動画]サトノダイヤモンド 里見治オーナー インタビュー【前半】(競馬ラボ予想チャンネル 2016年11月19日)


◎[参考動画]「次の10年 若手政治家に問う」(2)鈴木隼人・衆議院議員(自由民主党)(jnpc 2020年2月13日)

そのいっぽうで、東京9区からの出馬があるのではないか、との報道もある。選挙区内で現金などを配ったとして略式起訴された菅原一秀前経産相の刑が確定すれば、公民権停止で五輪後に予定される衆院選には出られない。東京9区は練馬区の大部分で、小池知事の地盤である東京10区のすぐ隣だ。小池知事の国政復帰には、おあつらえ向きの選挙区が空いたというのである。

「小池さんにとっては、願ってもない展開です。自民党も急な候補者選びに頭を抱える中、彼女が無所属で出馬すれば、黙認する可能性が高い。しかも東京9区はいわゆる『1票の格差』を巡り、いずれ区割り是正で『分区』となりそうなんです。菅原氏が公民権停止後に戻ってきても、選挙区をすみ分ければいい」(関係者)というのだが、あまり現実性は感じられない。ことほどかように、政局を騒がせる女帝、小池百合子は現在の日本政治には欠かせない政治家ということになるだろう。都議選挙に応援演説も何もせず、このまま様子見をするのか。都議選挙の見どころは、小池知事の動静に決まった。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』7月号

〈自由な言論の場〉として ―― 6月19日付け横山茂彦氏の論考にちなんで 鹿砦社編集部

6月19日付け「デジタル鹿砦社通信」に横山茂彦氏の【《書評》月刊『紙の爆弾』7月号〈後編〉「【検証】『士農工商ルポライター稼業』は『差別を助長する』のか」(第九回)での鹿砦社編集部への批判に答える 】が掲載されました。

 
〈タブーなき言論〉月刊『紙の爆弾』7月号

鹿砦社ならびに「デジタル鹿砦社通信」、また月刊『紙の爆弾』は〈タブーなき言論〉を目指し、意見の相違があろうとも様々な立場を尊重する姿勢を保つべく、努力しております。横山氏の記事は「鹿砦社編集部の筆者への批判に答える」と表題が示されている通り、現在部落解放同盟と鹿砦社の間で、交わされている表現についての問題について横山氏の意見表明です。

その原稿の元になっている記事は『紙の爆弾』7月号に掲載された、鹿砦社編集部の文章です。関心のある方はぜひ『紙の爆弾』7月号の《「士農工商」は「職階性」か「身分制度」か 再考》をご一読ください。そこでは、私たちの基本的な疑問を、素直に問いかけ、この問題をどのように考えればよいのか?を解放同盟や読者にも問いかけています。黒薮哲哉氏のご指摘もその中で引用させていただいております。

権力者ではない、また社会的に力を持たない誰かを傷つける内容でない限り、また差別を助長する表現ではない限り、広く意見表明を行っていただく場所として存在したい。「デジタル鹿砦社通信」は〈自由な言論の場〉でありたいと考えますし、それはこれまでも実践してきました。意見表明にも「過ち」はあり得ますので、事実関係の誤認や、間違った理解があれば、私たち自身がこれまでも訂正を行ってきました。

私たちがここ5年余り関わって来ている「カウンター大学院生リンチ事件」についても「私たちの言っていることに誤りがあれば指摘してほしい」と公言しています(が、言論での反論らしい反論はありません)。

そして、敢えて付言いたしますが、6月19日掲載の横山氏の意見は、私たちと同じではありません。しかし、活発な議論喚起のためと、〈自由な言論〉確保のために横山氏に訂正や修正を押し付けたりはしません。当然です。

以上、短いですが、言論と個々の意見表明について、私たちの基本的な考えを、表明いたします。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』7月号

《書評》月刊『紙の爆弾』7月号〈後編〉「【検証】『士農工商ルポライター稼業』は『差別を助長する』のか」(第九回)での鹿砦社編集部による筆者への批判に答える 横山茂彦

自身が批評されていることもあり、つい長くなった誌面紹介は、【検証】「士農工商ルポライター稼業」は「差別を助長する」のか(第九回)『「士農工商」は「職階制」か「身分制度」か 再考』である。

 
衝撃満載!タブーなき月刊『紙の爆弾』7月号

楽しみにしていた「伝説のルポライター竹中労の見解」は、昼間たかし氏の「士農工商ルポライター稼業」に関する部落解放同盟の中間報告がまだ、という事情から掲載延期となった。

「竹中労の見解」(差別事件)というのは、美空ひばりをリスペクトする記事の中で、「出雲のお国が賎民階級から身を起こした河原者の系譜をほうふつとさせる。……ひばりが下層社会の出身であると書くことは『差別文書』であるのか」というものだ。

これを部落解放同盟が糾弾し、双方ではげしいやり取りがあったとされる。ここで言えることは、下層階級出身や下層労働者などが、竹中労において身分差別である部落差別と混同されていることであろう。部落差別は「貧困」や「地域格差」だけではない、貧富にかかわらず存在するものだ。富裕な人々でも「お前は部落民だ」と差別されるのである(野中広務への麻生太郎の差別的発言)。

◆そもそも黒薮氏のコメントは「批判」なのか?

さて、その代わりというわけでもないと思うが、わたしが本通信に掲載した下記の記事と、それに対する黒薮哲哉氏の松岡利康氏のFBでの批判コメントが取り上げられている。

◎横山茂彦「部落史における士農工商 そんなものは江戸時代には『なかった』」(2021年3月27日)

◎横山茂彦「衝撃満載『紙の爆弾』6月号 オリンピックは止められるか?」(2021年5月8日)

だが、本誌今号の引用記事を一読してわかるとおり、「差別の顕在化は近代的な人権思想によるもの」「これまでの差別がおかしいなと気づくのは、じつに近代人の発想なのである」というわたしの論脈と、黒藪氏の「搾取・差別の認識が生まれるのはおそらく次の時代でしょう」に、ほぼ内容上の異同はない。

その時代には顕在化しない差別も、つぎの時代の価値観で明らかになる。と、同じことを主張しながら、不思議なことに黒薮氏は、わたしを「批判」しているのだ。
自分と同じ内容で「批判」された相手に反論するのは、およそ不可能である。

それがなぜ「典型的な観念論の歴史観で、史的唯物論の対局(ママ)にあります」となるのか? そもそも黒薮氏には、どの文脈がどう「観念論の歴史観」なのか、そして氏が拠って立つらしい「史的唯物論」がどのようなものなのか、FBへの書き込みに何の論証もない。

したがって、わたしは本通信の記事を誤読されたものと「無視」してきた。だが黒藪氏にとっては不本意かもしれないが、今回活字化されたことで、氏の過去の記事にさかのぼって検証せざるをえない。

もうひとつ、今回活字化されて気づいたことだが、黒薮氏は江戸時代に「階級や階級差別が客観的に存在しなかったことにはならないでしょう」と述べている。鹿砦社編集部も「本誌の立脚点は、黒薮氏のこの意見に極めて近いといえます」という。身分差別を階級差別と言いなしているのだとしたら、大きな錯誤と言わざるを得ない。

階級とは生産手段の私的所有を通じた、所有階級とそれに隷属せざるをえない非所有階級の分化という意味であり、江戸時代においては武士階級と百姓・町民階級が身分制と相即な関係にあるのは間違いではない。

しかし、百姓と被差別部落民は身分において武士階級に分割支配されているのであって、そこにある差別を階級間とはいえないのだ。百姓の中にも名主(庄屋・肝煎)などの村役人、本百姓(石高持ち)、水呑百姓の階級区分を、もっぱら土地所有によって、われわれが「階級差」としているにすぎない。そこには貧富の差が階級差別とそれをふくむ身分差別でもあっただろう。

ひるがえって、被差別民の多くは寺社に従属しては死穢にかかる役割を得て、町奉行に従属しては刑務を役目とすることが多かった。これらの場合、寺社代官や武士階級に従属する「階級」とは言い得ても、百姓との関係では身分の違い、そこにおいて差別を受ける存在だったというべきである。これを逆に言えば、一般の百姓よりも富裕な被差別民もいたという意味である。つまり両者を分けるのは階級差ではなく、身分差ということになる。

身分差別と階級差別を混同する危険性は、その独自性(部落解放運動と労働者の階級闘争)を解消する、いわゆる左翼解消主義の思想的基盤となると指摘しておこう。これらのことについては、さらに稿を改めて歴史的な解消主義をテーマに詳述したいと考える。

◆論点は「士農工商ルポライター」である

黒薮氏の松岡氏FBにおける「批判」を無視していたのは上記のとおり、黒薮氏の論旨の混乱に反論したところで、議論すべき論軸から逸れる可能性が高かったからである。

この考えは今も変わらない。それよりも黒藪氏においては、12月号の「徒に『差別者』を発掘してはならない」において、「現在、江戸幕府などが採った過去の差別政策が誤りであったとする」世の中の認識があるから「士農工商ルポライター稼業」が「差別を助長する世論を形成させることはない」「差別表現ではない」とした認識は、そのままでよいのだろうか。

これ自体、わたしはきわめて差別的な見解だと思う。記事中に杉田水脈議員の差別的な言辞を例に、昼間たかし氏を擁護しながら展開される「意図しない差別は差別ではない」という論脈についても、撤回されないのだろうか。杉田議員擁護については、今回の事件の部落差別を助長する重大なテーマゆえに「論軸」をずらさないために「無視」してきたが、書いた責任はこれからも問われると予告しておこう。

わたしは「紙爆」1月号の「求められているのは『謝罪』ではなく『意識の変革』だ」において、身分差別は時の権力者の政策ではなく、われわれをふくめた国民・一般民の中にこそあると指摘してきた。それゆえに、部落差別は意図せずに起きるのだ。

差別的表現を「名誉棄損」と混同する点や「寝た子を起こすな」的な記述(ここに大半が費やされている)も、部落解放運動の無理解にあると指摘してきたつもりだ。これらへの反論・釈明・あるいは必要ならば自己批判こそ、黒薮氏の行なうべきことであろう。

◆論軸をずらさない議論

議論において「論軸」をずらし、戦線を拡大してしまうことについては、元新左翼活動家の悪い倣いで、わたしには論争相手を壊滅的に批判する作風の残滓がある。

いわゆる論争(批判・反批判)というものは論軸をしぼり、相互批判の方向を発展的な論点に導く必要がある。言いかえれば当該のテーマにおいて、論争それ自体が有益な議論を獲得するのでなければならない。

つまり、いたずらに相手をやっつける議論ではなく、議論の中から研究的な成果が得られる内容がなければならないのである。それに沿って、議論をすすめていこうと思う。

◆「職階制」は近代的概念である

ところで、鹿砦社編集部のいう「職階制」とは、どの文脈で出てきたのだろう?
そもそも、わたしは記事中に「『職分』(職階=職業上の資格や階級。ではない)」と、わざわざ鹿砦社編集部の誤用を指摘したつもりだった。

『広辞苑』によれば、職階は「経営内の一切の職務を、その内容および複雑さと責任の度合いに応じて分類・等級づけしたもの」となる。

わたしは「職分」(職業上の本分)とは書いたが、職階なる言葉・概念が江戸時代の歴史研究に馴染むものとは考えない。そもそも士農工商が「職階制」であるとの主張をしたつもりもない。

というのも、いまや江戸時代に「農民」という概念・呼称があったのかどうかという疑問が提出されているからだ。士農工商ばかりか、村人や農民という呼称すら史実にふさわしくないと、歴史教科書から消されつつあるのだ。

「士農工商」の「士」のつぎに「農」という概念が強調されるのは、幕末・明治維新の農本主義思想(平田国学)に由来すると、以前から指摘してきたところだ。つまり思想上の問題であって、それこそ重農思想がもたらした「観念論」、現実にないものを言語化したものなのである。

東京書籍の『新しい社会』のQ&Aから引用しておこう。

≪「百姓」とはもともとは「一般の人々」という意味でした。「百聞は一見に如かず」などと使われるように,「百」という言葉は「多くのもの,種々のもの」を意味します。やがて,在地領主として武士が登場すると,しだいに年貢などを納める人々を指すようになり,近世には武士身分と百姓身分が明確に区別されることになりました。百姓身分には,漁業や林業に従事する人々もおり,百姓=農民ということではありません。≫

◆差別は再生産される

議論すべき論点は、部落問題が江戸時代の「封建遺制」(日本共産党の見解)ではなく、現代もなお再生産されるもの、ということである。

すなわち、現代における部落問題の歴史的本質は、資本主義的生産諸関係の資本蓄積と、資本の有機的構成の可変にもとづく、景気循環における相対的過剰人口の停滞的形態(景気の安全弁、および主要な生産関係からの排除)。そこにおける封建遺制としての差別意識の結合による差別の再生産構造、生産過程とそれを補完する共同体が持つ同化と異化による差別の欲動(共同体からの排除)、そしてその矛盾が激しい社会運動を喚起する。帝国主義段階においては、金融資本のテロリズム独裁(ファシズム)が排外主義思想を部落差別に体現し、そこでの攻防は死闘とならざるを得ない。これらの実証的な検証という論点こそ、今日のわれわれが議論すべき課題なのだ。かりにも「史的唯物論」にもとづく分析方法ならば、部落問題に限っては、これらをはずしてはありえない。

これが70~90年代階級闘争の大半を、狭山差別裁判糾弾闘争をはじめとする部落解放運動に、部落民の血の叫びを間近に感じながら糾弾を支援し、またかれらに糾弾されながら経験してきた理論的地平である。

◆江戸時代に身分差別が存在したのは言うまでもない史実である

ひるがえって「『職階制』か『身分制度』か」という鹿砦社編集部の設問自体が、士農工商に即していうならば、論証不可能(史料で実証できない)ということになる。身分制はともかく、職階制はそもそも近代概念なのである。

士農工商の制度的な存否と、江戸時代における身分差別の存否は、もって異なるものなのだ。ここでも「論軸」は、士農工商の存否と身分差別の存否、として区別されなければ、議論の意味がない。

そして江戸時代に身分差別があったかどうかは、江戸時代がそもそも身分を固定する身分制社会(身分間の移動は可能だったが)であり、百姓身分のほかに差別的に扱われる「被差別民」が存在したことに明白である。くり返すが、士農工商が身分制度かどうか、とはまったく別の議論なのだ。

その「被差別民」も具体的には、各地方で呼称も形態も異なり、現代のわれわれが考えるほど単純なものではない。

たとえば東日本では「長吏」、西日本では「皮田(革多・河田)」、東海地方では「簓(ささら)」、薩摩藩では「四衢(しく)」、加賀藩では「藤内」、山陽地方では「茶筅」、山陰地方では「鉢屋」、阿波藩では「掃除」など。

高野山領では「谷の者」あるいは「虱村(しゃくそん)」、長州藩では「宮番」、と、地形と地域を表す呼び方もある。これらを総称して「穢多」といえるのは、家畜の死骸を処理する固有の「特権」があり、食肉・皮革産業に従事していた職業的な特徴である。家畜の遺骸を処理することが賤視につながったのは、百姓たちの共同体と仏教信仰を範疇に納めなければ理解できない。

ほかにも被差別民の存在は、中世いらいの伝承や慣習、地域的に劣悪な条件があいまって、中世的な「惣(村落共同体)」の排他性や地域的な検断や公事(裁判)などによって形成されたものであって、為政者が「公文書」で上意下達的に「差別」させたものではないのだ。

いっぽう、「非人」は罪刑によって非人とされた者、寺社に従属する職業身分、あるいは罪人を取り扱う職業、浮浪者を排除する非人番の者たちという具合に、「穢多」とは職業・地域の構成要件がちがう。

ただし、江戸にいたとされる非人数千人は、非人頭を介して穢多頭の浅草矢野弾左衛門の支配下にあったというから、単純に線引きできるものではないようだ。
以上のごとく、江戸時代が身分差別のあった社会であることは、これで十分に納得いただけるものと考える。そして得られる結論は「士農工商……」が、江戸時代の身分差別の根拠ではない、という論点である。(了)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』7月号

嘉納治五郎財団の闇 犠牲者があばく収賄劇 ── 追い詰められた菅義偉の東京オリンピック 横山茂彦

東京オリンピックを前にした、はじめての党首討論(6月9日)の予定稿を準備していたところ、思わぬ訃報、いや悲劇が飛び込んできた。招致にかかる「疑獄事件」の犠牲者が出たのである。

儀式的なものに終った「党首討論」(内容は例によって、議論が噛み合わないままの演説会であった。したがって、内閣不信任案提出もなさそうだ)というテーマを吹き飛ばすほどの衝撃、いや、悲劇的な事件である。オリンピックの強行開催が進む中、そのスポーツの祭典としての成否はともかく、招致にかかる裏舞台を記録しておきたい。

◆ホームから飛び込む

6月7日午前9時20分頃、都営地下鉄浅草線中延駅でJOCの経理部長森谷靖氏(52)がホームから線路に飛び込み、列車にはねられた。森谷氏は病院に搬送されたが、2時間後に死亡が確認されたというものだ。

森谷氏はスーツ姿で、出勤途中だった。遺書は見つかっていないという。JOCの経理部長の自殺である。


◎[参考動画]JOC経理部長 電車はねられ死亡 自殺か……(ANN 2021年6月8日)

◆カネで買ったアフリカ票

東京オリンピック招致に「疑獄」の疑いがあるのは、2019年3月に明らかになっている。すなわち、日本からIOC委員に億単位の贈賄の疑惑が明らかになり、疑惑の中心に立たされた竹田恒和JOC会長が、任期終了とともに委員も辞任することで、疑惑劇はいったん封じられた。疑惑の詳細は、以下のとおりである。

招致委員会がIOCのラミン・ディアク委員の息子パパマッサタ・ディアク氏の関係するシンガポールの会社の口座に、招致決定前後の2013年7月と10月の2回に分けて、合計約2億3000万円を振り込んでいたというものだ。

2019年1月には、フランスの捜査当局が招致の最高責者竹田会長を、招致に絡む汚職にかかわった疑いがあるとして捜査を開始したのである。さらに2020年9月には、上記のシンガポールの会社の口座から、パパマッサタ氏名義の口座や同氏の会社の口座に3700万円が送金されていたことが判明したのである。やはりカネは委員に渡ったのだ。

その資金の出所も判明している。

◆疑惑のダミー団体への「寄付」を菅総理(当時幹事長)が依頼していた?

そのカネの依頼主は、なんと菅総理(当時幹事長)だったのだ。

セガサミーの里見治会長が、菅総理(当時幹事長)から買収工作資金を依頼され、 3~4億円を森会長の財団に振り込んだことが「週刊新潮」(2020年2月20日号)で報じられた。

この記事によると、以下のような依頼が菅官房長官からあったという。

「菅義偉官房長官から話があって、『アフリカ人を買収しなくてはいけない。4億~5億円の工作資金が必要だ。何とか用意してくれないか。これだけのお金が用意できるのは会長しかいない』と頼まれた」

里見会長が「そんな大きな額の裏金を作って渡せるようなご時世じゃないよ」と返答すると、菅官房長官は、こう返したという。

「嘉納治五郎財団というのがある。そこに振り込んでくれれば会長にご迷惑はかからない。この財団はブラックボックスになっているから足はつきません」
さらには念を入れて、

「国税も絶対に大丈夫です」と発言したというのだ。寄付金というかたちで、黒いカネをつくったのである。

この「嘉納治五郎財団」というのは、森喜朗組織委会長(当時)が代表理事・会長を務める組織なのだ。JOCがダミー団体として使っていたのは明らかだ。財団は疑惑をかき消すかのように、昨年末にひっそりと解散している。これも疑惑隠しの手口であろう。

いずれにしても、この菅官房長官からの要望で、里見会長は「俺が3億~4億、知り合いの社長が1億円用意して財団に入れた」とし、「菅長官は、『これでアフリカ票を持ってこられます』と喜んでいたよ」と言うのだ。この記事には裏付けもある。

◆セガサミーも寄付をみとめる

「週刊新潮」の取材に、セガサミー広報部は「当社よりスポーツの発展、振興を目的に一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センターへの寄付実績がございます」と、嘉納治五郎財団への寄付の事実を認めたという。

さらに「週刊新潮」(2020年3月5日号)では、嘉納治五郎財団の決算報告書を独自入手し、2012年から13年にかけて2億円も寄付金収入が増えていることが確認されている。関係者は「その2億円は里見会長が寄付したものでしょう」と語ったという。

もはや明らかであろう。菅総理は官房長官として国政の中心にありながら、オリンピック招致を金で買う犯罪に手を染めていたのだ。オリンピック史を汚濁に染める大スキャンダルである。

◆疑惑封じのためにも、強硬開催に突っ走る菅政権

東京オリンピック招致の裏側には、このような大スキャンダルが行なわれていたのだ。その詳細を知る、JOCの経理部長が自殺したのである。

森友事件の財務省近畿財務局の赤木俊夫氏が自殺したことを想起させる、まさにスキャンダルの中の死である。その赤木ファイルは、まもなく裁判に提出されるという。

おそらく今回は出勤途中の、衝動的な死ではないだろうか。森谷靖氏が何を残して死んだのか、疑惑だらけのオリンピックの疑惑を封印するためにも、JOCおよび菅政権は強硬開催に突き進むしかないのであろう。

これで、ようやく国民も得心がいくのではないか。もはや何をおいても、国民の生命の危険をも承知のうえで、オリンピックを開催しなければならない「秘密」が。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』7月号

《書評》月刊『紙の爆弾』7月号〈前編〉やはり注目は東京五輪と政局である

◆小池氏の動向に焦点

2本の記事が、端無くも「小池劇場」ということになった。

7・4東京都議選を見据えて、五輪中止を最大限利用するのではないか。横田一の「小池百合子の専制政治」および、衆院選がらみで政局を照らし出した山田厚俊の「ワクチン・東京五輪と衆院選の行方」である。

 
衝撃満載!タブーなき月刊『紙の爆弾』7月号

さて、五輪中止という公約が本当に都議選挙の公約となるのか。横田によれば立憲民主の蓮舫代表代行が「十分あると思っている」、共産党も「五輪中止」を選挙公約のトップに掲げるという。ネット上の中止署名も白熱していることから、都議選がオリンピックの成否をめぐり、大きなハードルになる可能性は高い。

だが、7月4日投票であれば、もう五輪の準備はととのっているはずだ。この苛烈な政治過程・政局を小池百合子が「独裁者」として、どのように突っ走るのか。個人的には彼女の凱歌を聴いてみたいような気がする。

衆院選はどうだろう。山田の分析では「このコロナ禍に首相交代論など出せるわけもない」というものだ。そうしてくると、ますます小池総理という芽も出てくるのかもしれない。

都議選に関連して、「NEWS レスQ」の「東京都議選、創価学会・公明党が乱発する謎のサイン」が注目だ。学会系の出版物に、学会員しかわからないキーワードが発せられているというのだ。同党が全員当選を果たせるのか、今後の連立政権のゆくえを占うものになるだろう。

◆古代オリンピックの興廃

佐藤雅彦の「偽史倭人伝──アスリート・サクリファースト」がおもしろい! 記事の意図するところは「東京五臨終大会」で、競技選手が「いけにえ」になる戯画的な指摘だが、ラテン語の語源からそうであったとは、目からウロコである。

そしてこの記事でわかるのは、古代オリンピックが「自由市民の男性に限定された」「市民平等の証しだった」という点だ。未婚女性は父親と同伴のうえ、全裸になった男たちを「観戦」したというのだ。この記事は「前編」なので、次号にも期待したい。東京オリンピックの強行開催には反対だが、天皇制とともにオリンピックは悪魔的な魅力がある。

◆告発する記事たち

森友事件の刑事裁判の解説記事は、丸山輝久弁護士へのインタビュー(青木泰)だ。なんと、検察による録音データの証拠改ざん・恣意的な編集が行なわれているというのだ。籠池諄子の「ぼったくって」という発言を、前後の脈絡を省いて補助金の不正請求と結びつけているのだ(犯行動機の立証か?)。今後も、裁判の詳報を期待したい。

地味な記事だが、編集部による「行政は見て見ぬふり“介護崩壊”の実態」は貴重な告発である。今年の一月に、末期がんの78歳の夫の介護に疲れた72歳の妻が、夫を殺害した同じスカーフで首吊り自殺をした、悲惨な結末から、老々介護と福祉行政の酷薄をレポートしている。福祉制度の欠陥は、入管による「違法」滞在者への扱いとともに、われわれの社会が向き合わなければならない課題である。

沖縄の世界遺産登録地に、米軍の「危険地帯」が存在する。小林蓮実女史のレポートである。DDTやBHC、PCBなど、どうやら米軍が不要なものを廃棄したのではないかと推察される。そればかりではない。実弾が放置されているというのだ。米軍のYナンバーのクルマ(私有車)が頻繁に見られることから、組織的というよりも無秩序な放棄も考えられる。

コロナ禍関連では、はじめすぐるの「グローバルダイニング訴訟が問う 日本のコロナ政策の本質」が、時短命令の狡猾さを告発する。ここでも小池知事の強権が落とす影は大きい。

コロナ禍については、武漢感染研ウイルス兵器説(アメリカの研究者由来)がそろそろ誌面を賑わせてもいいのではないか。論陣を張る材料は出てきたと思われるので期待したい。

村田らむの「キラメキ☆東京放浪記」SOLMAN剃る男、がテーマを凝縮しておもしろい。クリアランスなこの時代、男の悩みは脱毛なのである。(文中敬称略)

部落差別テーマの検証記事は、稿を改めたい。わたしへの批判的な内容もあり、その誤読を指摘しているうちに、かなり長くなりました。乞うご期待。(つづく)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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やはり竹中平蔵は「政商」である──東京五輪に寄生するパソナのトンデモ中抜き

またこの男の立ち回りが脚光を浴びている。「なぜか捜査を受けない竹中平蔵の脱税疑惑 ── 持続化給付金と規制緩和の利益誘導で私腹を肥やす?」(2020年12月2日)において、竹中の浅薄な経済政策理解を批判してきた。

◆いまだ解明されない脱税疑惑

「『格差が問題なのではなく、貧困論を政策の対象にすべき』としてきた結果は、中間層までも不安定な雇用関係に陥らせる格差の拡大、大企業の内部留保(500兆円)だった。いまや、消費の低下が国民経済を最悪のところまで至らせている元凶となるものが、この竹中による構造改革・労働政策だったというほかにない」と。

そしてその「罪業」は、小泉政権時の経済政策担当大臣、安倍政権におけるブレーンとしての経済政策だけではない。

「国民の血税をかすめ取る吸血鬼のような男ではないだろうか。その竹中平蔵の脱税疑惑は、小泉政権当時から指摘されていた」のである。

元国税庁職員だった大村大次郎(経営コンサルタント、フリーライター)は、こう批判している。

「竹中平蔵氏が慶応大学教授をしていたころのことです。彼は住民票をアメリカに移し日本では住民税を払っていなかったのです。住民税というのは、住民票を置いている市町村からかかってくるものです。だから、住民票を日本に置いてなければ、住民税はかかってこないのです。
 もちろん、彼が本当にアメリカに移住していたのなら、問題はありません。しかし、どうやらそうではなかったのです。彼はこの当時、アメリカでも研究活動をしていたので、住民票をアメリカに移しても不思議ではありません。でもアメリカで実際にやっていたのは研究だけであり、仕事は日本でしていたのです。竹中平蔵氏は当時慶応大学教授であり、実際にちゃんと教授として働いていたのです。」(2020年10月1日付けのメルマガ)

ようするに竹中平蔵は、日本で仕事をしながらアメリカに住人票を置いて、「節税」をしていたのだ。つまり巧妙な、そして明白な「脱税疑惑」があるのだ。

 
佐々木実『竹中平蔵 市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(講談社文庫2020年9月)

ジャーナリストの佐々木実は、『竹中平蔵 市場と権力』において、次のように指摘してきた。

「竹中平蔵の本業は慶應義塾大学総合政策学部教授だったが、副業を本格的に始めるために〈ヘイズリサーチセンター〉という有限会社を設立した。法人登記の『会社設立の目的』欄には次のように記されている。

『国、地方公共団体、公益法人、その他の企業、団体の依頼により対価を得て行う経済政策、経済開発の調査研究、立案及びコンサルティング』

「フジタ未来経営研究所の理事長、国際研究奨学財団の理事というふたつのポストを射止めた段階で、副業はすでに成功していたといえる。竹中個人の1997年の申告納税額は1958万円で、高額納税者の仲間入りを果たしている。総収入は6000万円をこえていただろう」と。

◆持続化給付金を吸い取る

竹中が個人的なビジネスで成功するのはいいだろう。それが「脱税疑惑」であれ何であれ、個人的なものにすぎない。

だが、竹中は小泉・安倍政権に寄生することによって、政商ともいうべき地位を築いたのだ。みずからのリスクを投じたビジネスではなく、国民の税金を吸い上げる利権に群がる利殖構造を築いたのである。

昨年の持続化給付金の業務は、サービスデザイン推進協議会という一見してニュートラルな組織に769億円で委託され、そこから電通に749億円で再委託されている。その段階で電通が約20億円を中抜きし、さらに下請け孫請けで実務が行なわれていたのだ。あまりにも複雑怪奇な外注に、自民党の政策担当者も驚かざるをえなかったという。

そして、この持続化給付金の業務委託を実質的に請け負った主要企業のひとつが、竹中平蔵が会長を務めるパソナだったのである。いや、そうではない。一次請けの「サービスデザイン推進協議会」それ自体が、元電通社員・パソナの現役社員が名を連ね、最初から最後まで税金を中抜きするトンネル構造だったのだ。

立憲民主党の川内博史議員は、国会においてこう指摘している。

「社団法人を通じて、電通をはじめとする一部の企業が税金を食い物にしていたわけです。持続化給付金事業に限らず、経産省の事業ではそうしたビジネスモデルが出来上がっている」と。

◆東京五輪の日当35万円というトンデモ報酬

そしていままた、東京オリンピック利権に竹中平蔵のパソナが大きくかかわっているのだ。

コロナ禍にもかかわらず、今回のオリンピック・パラリンピックには多くの市民ボランティアが無償奉仕する。9万人といわれるボランティアのうち1万人が辞退し、80%の国民が「中止・延期」を希望しているものの、国民の奉仕精神に依拠した大会は、まがりなりにも実現されるのであろう。

それはひとつには、強硬開催することで国民的な祝祭感をつくりあげ、コロナに人類が打ち勝ったという雰囲気で、政治危機の突破をはかる菅政権。

そして組織としての存続が、強行開催をもってしか果たせないIOCおよびその周辺の「オリンピック貴族」、各種スポーツ団体。

そしてもうひとつは、オリンピック開催で暴利を得ようとする企業。その筆頭が大手広告代理店であり、大手派遣会社パソナなのである。

大会の準備業務をになうディレクター職は、1人あたり1日35万円のギャラだという。40日間でひとり1400万円が得られることになる。運営計画業務のディレクターは1人あたり25万円。こちらも40日間で1000万円である。

以下、運営統括が1日25万、サブディレクターが1日10万円、ボランティアとほぼ同じ業務のサービススタッフも1日2万7000円である。募集人員は800人、報酬金の総額は6億2300万円であるという。

5月26日の衆議院文部科学委員会で、このトンデモ報酬は追及に遭った(立憲民主党の斉木武志議員の質疑)。

しかるに、丸川珠代五輪相は「守秘義務で見せてもらえない資料がある」などと称して答弁に応じなかった。国税をつぎ込んだ事業の受注した企業のどこに「守秘義務」が生じるのか、そもそもこの大臣は基本的な行政知識がない。自民党も政府と一体となって、参考資料の配布を拒むという悪あがきに終始したのである。


◎[参考動画]衆議院 2021年05月26日 文部科学委員会 #04 斉木武志(立憲民主党・無所属)

◆募集欄は時給1650円

これらトンデモない高額報酬の人材確保は、つねのことながら電通、博報堂をはじめとする大手代理店に丸投げされ、諸経費として20%が代理店に落ちる。20%は通常の広告出稿手数料だが、丸投げでは中抜きと言わざるをえない。

ところが、である。この業務に参加するスタッフに支払われるべき報酬は、募集段階で大半がどこかに消えてしまうのだ。

算数ができる人間ならば、誰にも目を疑うような事態が起きている。パソナのオリンピック業務募集欄を見ていただきたい。

スタッフの募集欄には、1650円と明記されているのだ。1日8時間労働として、1万3200円である。上記の最低賃金「サービススタッフ」ですら2万7000円だというのに、半分以上が中抜きされているのだ。この「中抜き」はしかし、パソナの収益構造なのだ。政府が募集業務の内容を限定し、直接雇用した場合は、そもそもこんなトンデモ報酬は発生しないはずだ。

もはや明らかだろう。今回のオリンピックは菅政権の政治的ツッパリであるとともに、寄生業者とりわけ広告代理店とパソナによる利権事業と化しているのだ。じっさいに、パソナの昨年の収益は10倍に伸びたという。持続化給付金で味をしめた寄生業者パソナは、派遣業務というある意味ではフレキシブルな業態によって、イベントを高額化することで、いままた法外な超過利潤を得ようとしているのだ。


◎[参考動画]【竹中平蔵の骨太対談】 第7回 前編 パソナグループ代表 南部靖之氏(KigyokaChannel 2016年12月3日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

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官邸の犯罪は暴かれるか? 1億5,000万円の責任の行方 横山茂彦

安倍政権下の官邸独裁と暗闘の硝煙が、いまだ燻(くすぶ)っている。河井案里への巨額選挙資金である。

すでに河井案里は有罪判決をうけ、議員資格をはく奪された。夫で元法相の河井克行被告も「民主主義の根幹をゆるがす悪質な犯罪」と論告求刑され、実刑有罪が必至との見方をされている。

そこで、残された問題は「悪質な公選法違反」「カネで票を買った」その原資の出どころの解明である。買収をさせた陣営の張本人(犯人)を解明しないのでは、この世紀の選挙犯罪の全容を明らかにしたとはいえない。

そしていま、その犯人捜しをめぐって醜い責任のなすりつけ合いが、自民党内で佳境に入っているのだ。

◆自民党本部と選挙対策委員長の「身の潔白」

5月17日、自民党は幹事長の二階俊博、幹事長代理の林幹雄らが会見して「釈明」した。その内容は「支出された当時、私は関係していない」(二階)というものである。ようするに、党の実務の最高責任者としての責任を否定したのだ。河井案里の有罪判決にさいして「われわれも、他山の石としなければならない」などと語り、党としての責任を他人事のように語っただけのことはある。政治倫理の「り」の字も理解できないのだ。この人物については、明らかな認知症の症状があることを指摘しておこう。

そして林幹事長代理は驚いたことに「いろいろと(二階俊博)幹事長も発言しているんだから、根掘り葉掘り、あまり党の内部のことまで踏み込まないでもらいたい」などと記者団をけん制したのだ。

自民党は「公党」ではなく、私的集団、任意団体であるとでも言いたいのだろうか。1億5,000万円の大半は政党助成金という公費(国民の税金)であり、取りざたされている内閣機密費(安倍政権7年間で78億円)からの拠出であっても、原資は国民の税金なのである。それを私的な党内問題であると言いなす。

このような政治家としての素養を欠いている人物に、なぜ自民党は幹事長代理のポストを与えたのか。これら一連の対応で、自民党はその支持層のなかから、きたる総選挙において、大量の忌避(反対投票行動)を出すことは疑いない。


◎[参考動画]1.5億円 相次ぐ“関与否定” 自民党内から「選挙戦えない」(TBS 2021年5月19日)

◆「自分ではない」という証言こそが、真犯人を明らかにする

林幹事長代理の問題発言はもうひとつ、二階幹事長の責任回避をするあまり、現場に責任をなすりつけたことだ。語るに落ちた、言わずもがなの内部暴露である。
「(二階が)幹事長をしていたのは事実だが、当時の選対委員長(甘利明)が広島を担当しており、細かいことは分からないということだ」と説明したのである。
これに甘利明が反論した。

「わたしは1億5,000万円には、1ミリも関わっていません。もっといえば、1ミクロンも関わっていない」「まったく承知していない」と明言したのである。

したがって、両者の言い分をまっとうに聞くならば、かれらのほかに1億5,000万円を河井陣営に調達した人物がいる、ということになるのだ。

林は「根掘り葉掘り聞くな」と言うが、知りたいのはメディアと国民だけではない。ほかならぬ自民党員たちが、最も知りたがっていることなのだ。

誰よりも「根掘り葉掘り聞きたい」のは、岸田前政調会長であろう。二階幹事長や甘利が関与を否定していることに対して、岸田はテレビ番組で不快感を示したのである。

すなわち、5月18日夜のBS-TBSの番組で、河井案里の当選無効にともなう4月の再選挙で自民候補が敗れた要因に「1億5,000万円が買収の原資に使われたのではないかという党への疑念があった」と敗戦の弁を語った。
さかのぼれば、岸田派と安倍政権の確執が、1億5,000万円の拠出と前代未聞の買収事件の発端だったのだ。

2019年の参院選挙では周知のとおり、岸田文雄政調会長に応援された溝手顕正(岸田派)への党本部からの入金は、わずか1500万円だった。これに対して、河井陣営には十倍の1億5000万円が入金されたうえ、安倍晋三総理や菅義偉官房長官が応援に入ったのである。とりわけ安倍事務所からの秘書団こそ、買収事件の先兵だったと言われている。

◆やっぱり犯人は官邸だった

もはや、1億5,000万円を拠出した犯人は、誰の目にも明白であろう。二階の「私は関係していない」も、甘利の「1ミリも関与していない」という証言も、官邸が勝手に動いたのだ。安倍政権(安倍晋三・菅義偉)こそ真犯人であると証言しているのにほかならない。

安倍が河井案里を擁立したのは、つぎの溝手顕正の発言が原因だったという。

「(安倍)首相本人の(参院選挙敗北の)責任はある。(続投を)本人が言うのは勝手だが、決まっていない」(2007年)

「もう過去の人だ。主導権を取ろうと発言したのだろうが、執行部の中にそういう話はない」(2012年2月)

自分に歯向かう者はゆるさない。反対勢力は排除するという、きわめて狭量な政治センスは安倍晋三らしいと評しておこう。


◎[参考動画]安倍総理「問題ない」河井案里議員に1億5,000万円(ANN 2020年1月27日)

◆菅批判を回避した二階

ところが、5月24日になって事態は急展開した。二階幹事長は24日の記者会見において、河井案里元参院議員の陣営に党本部が提供した1億5,000万円について「関与していない」とした先週の発言を修正したのだ。責任は「総裁(安倍晋三前首相)と幹事長(二階氏)にある」と述べたのである。

この発言は、かれの認知能力の低下によるものと指摘しておこう。菅政権への批判がそのまま、みずからの党内影響力に直結すると判断したからにほかならないが、現在の菅政権の危機的な状態(支持率30%に低減)をみれば、政治的立場の沈下は一蓮托生となるのは必至だ。

国民の80%が「中止」「延期」をのぞむオリンピックの強行開催によって、菅政権の命脈は尽きようとしている。それはまた、党内に圧倒的な影響力を誇示してきた二階俊博の政治生命をも、呑み込むかたちで終焉に向っているのだ。

生き馬の肝をぬく政治の世界で、堕ちた偶像は容赦なく叩かれる。アメリカの意向と官僚の不服従によって、一敗地にまみれた旧民主党政権の末期のごときありさまが、いまや自民党を覆っている。政権交代の流れをつくり出し、勝ち馬に乗る国民の投票行動をつくり出せ。


◎[参考動画]河井案里議員の豪華すぎる応援演説陣を学ぼう!【広島県】(2020年6月15日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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