「反社会勢力」という虚構〈5〉やはり虚構だったのか? 「反社会的勢力」を「定義困難」と閣議決定した安倍政権に唖然

安倍政権は12月10日の閣議において「反社会勢力」について「形態が多様であり、また、その時々の社会情勢に応じて変化しうるもの」立憲民主党の初鹿明博衆院議員の質問主意書に答えた。と閣議決定した。


◎[参考動画]「反社会的勢力」定義困難と閣議決定 “桜問題”で(ANNnewsCH 2019年12月10日)

「なっ、何だってぇ?」と、誰もが唖然としたのではないだろうか。暴力団や半グレ、えせ同和、総会屋など、反社会勢力と定義されてきたものが、まるで幻だったかのように政府が定義を変更。いや、社会情勢に応じて変化しうると、曖昧化したのである。

少なくとも、政府において、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である『反社会的勢力』をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である」という、第1次安倍政権が犯罪対策閣僚会議(2007年6月に)で決定した定義を撤回したのだ。

これによって、金融機関や公共機関、遊技場、賃貸契約など、社会のあらゆる領域で「反社会勢力ではありません」と一筆を入れなければならなかったルールが変更を余儀なくされるはずだ。公安委員会が指定する25の指定暴力団いがいは、もはや「反社会勢力」とは定義できないのだ。各都道府県警においては「反社」という言葉を安易に使えなくなった。声高に謳っていた「反社会勢力の排除」も使えないことになる。

◆政治家はもともとヤクザと同じ職種である

ではなぜ、安倍政権はこのような噴飯物の閣議決定をしなければならなかったのだろうか。

直接的には、立憲民主党の初鹿明博衆院議員の質問主意書に答えたもので、国会議員の質問には「閣議決定」をもって応じなければならないからだが、安倍総理および菅義偉官房長官の一連の答弁、および「桜を見る会」での反社勢力の参加を受けて、事態を糊塗するものにほかならない。

そして、もうひとつ。警察庁がいくら「暴力団排除」「反社勢力の排除」を力説しようとも、政治家および地元警察がヤクザとの蜜月をやめられないからだ。いや、そもそも政治家という職業、つまり政治(警察力によらない紛争の仲裁・利益の配分・地域の諸勢力の取りまとめ・威力をもってする統合)がヤクザの職域とほぼ同じだからである。

さらには、政治家が選挙による以外にその特権(議員職)を得られないかぎり、集票力のある組織に依拠せざるを得ないからなのだ。とくに自民党のように利権と利益配分を本質とする政党にとって、ヤクザとの関係は不可分なのである。地域の実力者、事業に参入する有力企業に、ヤクザが何らかの関係を持とうとするかぎり、絶対にヤクザは排除できないのだ。ここに問題の本質がある。

麻生太郎副総理、甘利明(労働大臣・経産大臣・自民税制調査会長などを歴任)、田中和徳復興大臣、武田涼太子国家安委員長、竹本直一科学技術担当大臣、下村博文元文部科学大臣。これらは直近で思い浮かぶ、ヤクザ系の人脈と親交のある(人的な交流や政治資金を受け取った)政治家たちだ。そしてわが安倍晋三は、工藤會系の準構成員と推定される土建会社の社長と選挙妨害を談合し、謝礼をケチって火炎瓶を自宅に投げられるチョンボを犯した疑惑がある。菅義偉官房直管はまさに、桜を見る会で全身刺青の半グレと記念撮影するありさまだ。

◆崩れ去った警察庁官僚の思惑

暴対法および暴排条例、そして反社会勢力という言葉は、警察庁のキャリア官僚たちの利権拡大の思惑から発したものだった。東西冷戦下での左右対立、暴力団の全国的抗争のなかで、28万人という巨大な組織に膨張した警察は、必要がなくなったこの時代に生き延びようとしている。予算の削減と戦い、退職者の天下り先・再就職先を確保するためにも、指定暴力団の存在は不可欠だった。左翼勢力が衰退する中でも、公安関連予算を確保するために微罪逮捕などの取り締まりを継続しているのも、巨大組織の延命のためにほかならない。

しかるに、ヤクザも左翼もみずから弾圧してきた結果、先細りで思ったようにならない。そこで「反社会勢力」なる新語を創って、警察の全国動員体制(応援派遣)を発動してきた(工藤會警備の小倉派遣・辺野古警備など)のだ。だがその思惑も、政治家の「反社は定義できない」なる閣議決定によって、宙に浮くことになってしまった。永田町と桜田門の水面下の抗争こそ、これからの見ものと言うべきである。

【横山茂彦の不定期連載】
「反社会勢力」という虚構

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

月刊『紙の爆弾』2020年1月号 はびこる「ベネッセ」「上智大学」人脈 “アベ友政治”の食い物にされる教育行政他
『NO NUKES voice』22号 新年総力特集 2020年〈原発なき社会〉を求めて
鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

《書評》月刊『紙の爆弾』2020年1月号 教育利権の闇を穿つ!

見よ、このタイトルを。教育利権を暴く総力特集と言って、はばかりないものだ。

 
月刊『紙の爆弾』2020年1月号好評発売中!

①「アベ友政治の食い物にされる教育行政」(横田一)
②「『幸福の科学大学』に萩生田文科相と癒着の構造」(藤倉善郎)
③「萩生田光一文科相が利権化目論む民間資格検定試験の実態」(三川和成)

内容を解説していくと、①が記述式導入(安西祐一郎=元慶応塾長・中央教育審議会会長のメモ)、英語民間試験導入(吉田研作上智特任教授)、そしてベネッセ人脈(シンクタンクの所長と理事)、東進ハイスクールの安河内哲也講師、ベネッセ関連団体の鈴木寛代表(元経産官僚・元参院議員)らの下村博文元文科相の人脈だ。派手な見出しキャッチを付けるとすれば、「民間試験導入に動いた闇の人脈とその利権――教育利権のネタにされた入試改革」とでもなるだろうか。

今後の取材の方向性としては、やはり教育産業とベッタリの下村博文元文科相の言動およびその裏にある利権構造の深さであろう。極右政治家でありながら開明派を気取り、文科官僚に強引な利益誘導を強いる(東大に民間試験導入をさせよと指示)手法は、とうてい看過できるものではない。

政治資金の闇(事実上の政治団体・博文会への反社資金)や「マルクス・レーニン主義の公教育を変えたい」という安易で的外れな言動(文部行政への参画時)など、この男の政治生命を早急に断つことこそ、反権力ジャーナリズムのテーマといえよう。

 
大川隆法『下村博文守護霊インタビュー』

その下村博文をすら守護霊インタビューし、その罵詈雑言や国家主義的教育観、岡田光玉(崇教真光の教祖で故人)との関係(幸福の科学大学の認可妨害)を批判していた幸福の科学教団が、萩生田文科相と癒着関係にあると指摘するのが②である。そもそも幸福の科学大学は、大川隆法の「霊言」を全学部共通科目にするなど、普通に考えて認可が認められるはずがないものだった。

にもかかわらず、幸福の科学は千葉県長生村に「ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ」(HSU)を開設しているのだ。教団傘下の高校のみならず、早稲田大学や慶応大学に合格していた受験生(信者)も、この無認可のHSUに「入学」させたという。そしてじつは、下村博文元文科相および萩生田現文科相が、HSUの学長人事をめぐって教団と交渉をしていた事実があったこと。「守護霊本」の刊行をめぐる取り引きやアドバイスをしていたことが、記事のなかで暴かれている。

それにしても、トンデモ教団のトンデモ大学である。教団の「幸福の科学大学シリーズ」89冊のうち、「霊言」というワードが1280件も検索ヒットするというのだ。あるいは「守護霊」「悪魔」「宇宙人」「UFO」なども多数ヒットする、およそ学問とは呼べない教育内容のどこに、文科省が指導する余地があるのか。この教団の大学認可策動から目を離すことはできない。

さらに、やはり萩-生田光一文科相の民間資格検定試験への関与を暴くのが③である。

「身の丈発言」で結果的に、英語民間入試の問題点を暴露した萩生田文科相だが、じつはそれを称賛する背後に、文教族のリーダーが森喜朗から萩生田に移りつつある反映ではないかと、記事は指摘する。すなわちベネッセと下村博文の抜き差しならぬ関係である。ところが、問題はベネッセだけではないと記事は暴いてゆく。

◆「桜を見る会」を刑事告発とある夫婦の悲哀

浅野健一の「安倍晋三『桜を見る会』買収疑獄」は、安倍晋三の税金私物化を容共地検に告発した実録である。浅野によれば、公金を使った飲食接待(随伴文化人や御用メディア相手)は「桜を見る会」だけではないという。これらの行為は「業務妨害罪」「贈収賄罪」にあたるとの見解(高山佳奈子京大教授・刑法)もある(記事中)。評者は思うのだが、数百人・数千人単位での集団民事訴訟を提起してもいいのではないだろうか。使われているのは、われわれの「血税」なのだから。

いっぽうで、安倍総理夫妻に切られた人々の悲哀は、読むに堪えないほどのものがある。「【森友事件】籠池刑事裁判 これは“首相反逆罪”か『夫婦共7年求刑』の無法」(青木泰)だ。たしかに補助金の不正受給があったのは事実で、籠池夫婦も認めているものだ。不正受給額の約2000万円は全額返済している。

にもかかわらず、詐欺罪で7年もの求刑が行われたのだ。あれほど肩入れしておきながら、不正受給や巨額の「不正」国有地払い下げがマスコミの餌食になるや、手のひらを返したように「わたしたち夫婦は無関係」(安倍総理)とばかりに切り捨てる。そして信義違反を告発するや、総理の意を汲んだ検察は、このレベルの事件では「極刑」に近い求刑を行なう。すでに文書改ざんで下級官僚が自死し、臭いものにはフタという流れの中でのスケープゴートである。

今回も自分の好み(政局・疑獄好き)で選んだ書評となったが、読んでお徳の600円(税込み)である。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

月刊『紙の爆弾』2020年1月号 はびこる「ベネッセ」「上智大学」人脈 “アベ友政治”の食い物にされる教育行政他

「反社会勢力」という虚構〈4〉やっぱり反社が参加していた「桜を見る会」── 自民党政治は反社との結託で成立している

国会が閉幕し、安倍総理の「桜を見る会」疑惑は逃げ切った感があるものの、本質的に「お友だち」「上級国民」「反社との結託」「官邸による官僚統制=忖度」という政権を成り立たせている構造があるかぎり、政権の腐敗はくり返し暴露されるであろう。

◆自らが出席した会議で決まった「反社会的勢力の定義」を「一義的に定まっているわけではない」と言い放った菅義偉官房長官の厚顔

本連載「『反社会勢力』という虚構」をお読みになっている方には、別に愕くようなことではないかもしれないが、じつに安倍政権らしさも明るみに出た。安倍政権が支援者や仲間うち(本来の目的は功績があった人たち)を招待した「桜を見る会」に、反社会勢力とおぼしき人々が参加していたという一件だ。

しかも、その疑惑を指摘された菅義偉官房長官は、しれっとした表情でこう言い放ったのだ。

いわく「『反社会的勢力』は様々な場面で使われ、定義は一義的に定まっているわけではないと承知しています」

「えっ……?」

この「反社会的勢力」の「定義」は、じつは安倍政権において定められたものなのだ。第1次安倍政権下の2007年6月、「犯罪対策閣僚会議」が決定した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」のなかで「反社会的勢力」は、以下のように定義されている。

「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である『反社会的勢力』をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である」

ちなみに菅義偉官房長官は、当時総務大臣としてこの閣僚会議に参加している。みずから出席した会議で「定義」した反社会的勢力が、「定義は一義的に定まっているわけではないと承知している」と言うのだ。もはやこの人の言葉はまともに聴いても仕方がないというべきであろう。


◎[参考動画]反社会的勢力入っていた/菅官房長官 定例会見 【2019年11月26日午後】(テレ東NEWS)

「やや日刊桜を見る会新聞」と題する怪文書
[写真A]

ではなぜ、こんな無定見きわまりない答弁に追い込まれたのであろうか。[写真A]「やや日刊桜を見る会新聞」など、ネットで流布しているものだ。「週刊新潮」(12月12日号)によると、有名な反グレAの企業舎弟と言われる人物だという。犯罪歴は住宅ローン名目で金融機関から4600万円の詐欺で逮捕、知人の頭をビール瓶で殴る暴行罪で逮捕、牛を殺して「畜場法違反」で逮捕と多彩である。代紋を持って一家を構えたヤクザではないものの、それゆえに組織的な歯止めがきかない「準暴力団」としての野放図で危険な人物というべきであろう。

菅官房長官が「出席は把握していなかったが、結果的には入ったのだろう」と定例会見で述べている以上、菅氏自身がその正体を知っているのは明らかだ。というよりも、見た目で危なさが分かったはずではないか。ヤクザも反グレも「わたしたちは危険です」と堅気に知らせるためにこそ、派手な服を着たり茶髪に染めたりするのだ。そういう人物とツーショットに納まるとは、いかにも警戒心がなさすぎる。いや、そもそも近づいてくる人間を排除しないのが自民党政治なのである。そして安倍総理だ。

◆自民党政治は反社との結託で成立している

[写真B]はテロップのとおり、奈良県高取町の新澤良文町会議員(52歳)である。そしてその新澤氏が[写真C]上段において、派手なジェスチュアでスリーショットを喜んでいるのは、言うまでもなくわが安倍総理だ。新澤氏は五代目山口組山健組系の臥龍会に所属していた、れっきとした元暴力団組員である。週刊誌の取材によると、新澤氏は率直にその事実をみとめ、こう語ったという

[写真B]
[写真C]

「入れ墨も入っており、逮捕歴があるのも間違いありません。抜けたのは30歳のころ。組が代替わりして、冷や飯を食わされるようになったのがきっかけです。これはキチンと言わせていただきたいんですが、いまはカタギとして真面目にやっています」

立派な態度ではないか。すでに組織を離脱してから20年近くが経っているばかりか、FBを見るかぎり地元での熱心な議員活動も感じられる。過去記事(日本タイムス)によれば、警察関係者は新澤氏のことを「今も山健組の幹部と交流があります。服役は3回あり、殺人未遂で7年、暴行では1年入っています。全身入れ墨、左小指が欠損しています」という。絶縁されたわけではないようなので、現役の組員と親交があることも想像に難くない。これをもって、安倍総理と新澤議員の親交をとがめだてようとは思わない。むしろ反社の「定義は一義的に定まっているわけではない」ことを安倍政権において、正々堂々と閣議決定して言動の一貫性を保つべきではないか。

われわれ国民は「行政文書たる参加者名簿は破棄し、サーバーに残っている電子データは一般職員が使えないから、行政文書ではない」などという子供じみた屁理屈と同様に、「反社は定義がない」などと、薄っぺらな言い訳に辟易しているのだ。そして安倍総理や菅官房長官に反社につけ入られる「スキ」があるのではない。理念や政策によらない、人脈(誰でもよい)と金脈(利権配分)で成り立っている自民党政治がそもそも、反社といわれる人々と分かちがたい関係にあるからだ。

何度でも確認しよう。自民党政治は本質的に反社勢力との結託で成立してきたし、これからもそれは変わらない。伝統的な代紋の代わりに、一般企業を装ったり業界団体名を名乗ったりと形を変えても、基本的に利権誘導党派であるかぎり反社的な人物と結びついてしまうのだ。

そして独自の権益で反社を追い落とし、みずからがその利権を独占しようとする警察庁官僚がその関係を排撃するにつれて、反社の資金と集票力に依拠する自民党政治は股裂きに遭うのだ。

◎【横山茂彦の不定期連載】「反社会勢力」という虚構 

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
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消費税増税で加速するデフレ不況 緊縮派とリフレ派の無策をMMTが変える

◆消費不況が引き起こす新たなデフレスパイラル

消費税の価格転嫁による便乗値上げは、少なくとも小売り市場では起きなかった。原油価格と原材料の高騰、あるいは気候変動による不作によって、今春いらいの物価高騰が、ぎゃくにキャッシュレス値引きや軽減税率に「便乗した」値引き競争で、むしろデフレ不況の再燃を生じさせているのだ。とくに、キャッシュレスで差異が生じるスーパーマーケットとコンビニにおいて、値引き競争が激化している。

にもかかわらず、買い控えによる消費不況が新たなデフレスパイラルを引き起こしかねないという観測がもっぱらだ。財布のチャックが硬くなったのは、筆者も実感するところだ。その意味では、この国の経済にとって消費増税は積極的なものではないと断じることができる。

◆麻生太郎と安倍晋三の対立

もともと消費増税は、財務省を中心とした伝統的な緊縮派(主流派経済学)による、財源優先の経済政策によるものだ。ご本人たちにはどこまで事の本質への理解、あるいは意識があるかは知らないが、麻生太郎と安倍晋三の対立なのである。麻生太郎をかつぐ財務省官僚(元大蔵官僚派)と、安倍総理のブレーン(旧通産・経済企画庁官僚)との対立のなかで、緊縮財政(消費税)とアベノミクス(リフレーション)とが確執してきたのが、安倍政権の経済・財政政策なのである。

旧経済企画庁系の官僚がケインジアンであるのは、霞が関ではよく知られるところで、第二次安倍政権はまさにリフレ派のブレーンによって構成されてきた。ところが安倍政権は、その政権発足の経緯(消費増税の三党合意)から、反リフレ派の足かせを嵌められていた。もとより、大企業優先のアベノミクスで消費の拡大は画餅と化し、スケジュールどおりに旧大蔵官僚の思惑が実現したわけだ。

◆なぜ、アベノミクスが失敗したか

問題はなぜ、アベノミクスが失敗したかということだ。

賛否両論ある、というよりも、ほとんどまともに理解されていないMMT(現代貨幣理論)において、アベノミクスは異次元の金融緩和を行ないながらも、消費市場におカネを流通させることができなかったのだ。ひたすら大企業への融資を拡大させ、そのいっぽうで大企業への優遇税制および輸出還付金などの優遇政策を行なってきた。

たとえば、わが国の基幹産業ともいえる自動車では、トヨタ自動車への還付金は3231億円、日産・マツダなども併せて8311億円の還付金を受けているという。これらは自動車メーカーが納めるべき法人税に匹敵するから、税金を納めていないのと同じことになる。

まもなく昨年度末段階の財務省の法人企業統計が発表されるはずだが、去年(2017年分)は企業の内部留保は446兆4844億円だった。2018年よりも40兆2496億円(9.9%)増である。安倍総理が「悪夢のような民主党政権」「経済は、わが党が政権を担うことによって、良くなったんです」と力説するのは、小泉政権いらいの労働市場の自由化(派遣労働者の増加)とともに、この大企業の内部留保を可能にした経常利益の増大にほかならない。数字を挙げておこう。

昨年発表の経常利益は、前年度比11.4%増の83兆5543億円。8年連続の増益で、比較が可能な1960年度以降で最大である。国内の設備投資額も同5.8%増の45兆4475億円と、リーマン・ショック直前の2007年度の水準を上回り、2001年度以降では過去最大となった。日本経済はGDPの低迷にもかかわらず実質的に成長をつづけ、そのいっぽうでは大企業が内部留保することで、いびつな分配構造をつくってしまったのだ。とくに若い世代の購買力の低下、自動車やマイホーム購入、あるいは趣味や遊びにおカネを使わない。いや、使えない現実があると指摘しておこう。このような不公平な分配のもとで導入された消費増税は、まさに国難規模の愚策というほかない。税政の専門家によれば、ふつうに大企業から徴税すれば、年間23兆円の税収増が可能だという(『消費税を上げずに社会保障財源38兆円を生む税制』)。

◆永遠に財政破綻しない政府

アベノミクスとの照応で、MMTに懐疑的な向きが少なくない。2%のインフレターゲットは、マイナス金利に踏み切っても達成できなかった。この失敗はしかし、上記のとおり消費市場にカネを出まわらせず、ひたすら大企業の内部留保に貯めこまれてしまったからだ。給料が上がらず、物価が上がっているうえに消費増税をやってしまったのだから、インフレに転じるはずがない。

MMTに関する無理解はおそらく、実体経済と名目経済の概念を知らないからだ。国の借金を財源にするかぎり、かぎりなく借金が増えることで財政が破綻すると。いわく、財政破綻のすえに、ハイパーインフレーションが到来すると。そうではない。

歴史的に、わが国もハイパーインフレを経験したことがある。それは戦前(1915年~)と戦後1950年代の戦争景気インフレではなく、敗戦による物資不足によるものだった。ドイツの戦間期不況も消費財とくに食料の不足であって、基幹産業であるドイツ鉄鋼資本はインフレ時には微動だにしなかった。

その結果が、国民は賠償金で飢えているけれども、ユダヤ資本や鉄鋼貴族は稼いでいるという、下からのファシズムの動因となったのである。いまの日本で、災害いがいの物資不足が心配されるとは思えない。むしろ過剰生産によるデフレに陥っているのだから。

それではMMT反対論者が云う、デフォルト(財政破綻による債務不履行)の危惧はどうだろうか。2000年にアルゼンチンがデフォルト(債務不履行)を宣言している。これはアルゼンチンがアメリカから、ドル建てで借りていた債務(公的対外債務)が支払い不可能に陥ったために、デフォルトを宣言する事態になったものだ。

 
『情況』2019年7月号

国家が債務不履行に陥るのは、上記のアルゼンチンの他にも1998年のロシア、2012年のギリシャ(ユーロ建て国債)のように、外国から外国通貨建て(共通通貨建てを含む)で借金している場合だ。つまり、外国からの借金・債務は逃れがたい。ぎゃくにいえば、中央銀行のオペ買いでお札を刷っている場合には、名目経済で借金増大するものの、実質的に借金は自分で自分から借金をしているに過ぎないのである。

簡単にいえば、政府が通貨発行権を持つ自国通貨建てである限り、そして政府に返済の意思がある限り、いくら発行しても債務不履行になることはあり得ない。永遠に財政破綻しない政府であれば、債務を完全に返済し切る必要もなく、国債の償還の財源が税金である必要もない。国債の償還期限が来たら、新規に国債を発行して、それで同額の国債の償還を行う借り換えを永久に続ければいいのだ。

問題なのは、リフレーション政策にともなう分配方法なのである。手前味噌で申し訳ないが、わたしが編集した『情況』(7月発売号)のMMT特集では、賛否両論を掲載しているので、お暇なおりに参照されたい。その先にある財政と消費をめぐる議論は、AIを駆使した配分方法、ベーシックインカムなどの新しい経済システムであろう。それを新たな社会主義思想と呼ぶべきかどうかは、またの機会に論じたいと思う。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

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《書評》高部務著『あの人は今 ―― 昭和芸能界をめぐる小説集』 昭和の匂いを感じさせる作品集は、ついつい物語の背景を想わせる

 
高部務『あの人は今 昭和芸能界をめぐる小説集』

著者は1968年に高田馬場にある大学に入学、と『一九六九年 混乱と狂騒の時代』の冒頭にある。ベトナム反戦運動のさなか、立川の高校に通っていたというから60年代末を多感な時期に体感したといえよう。そんな著者が週刊誌のトップ屋稼業をはじめた70年代からのエピソードをもとに、昭和の空気を味わうがごとく切りとった小説作品集である。実在の人物をもとにした小説であれば、仮名を用いてもそこはかとなく登場人物の息づかいが感じられ、暴露ものではないと思いつつも「あっ、これは誰それだ!」という興味が先を読ませる。なかなかのエンターテイメントなのだ。

たとえば、表題作「あの人は今」の西丘小百合は南沙織である。おりしも出版社系週刊誌の黎明期で、スクープをねらう芸能記者のうごき、事務所と結託した番組スタッフのうごめき、そしてその結果としての女性歌手のささやかな夢の実現。彼女が沖縄米軍基地および日米地位協定の理不尽さに憤りをもっているのは、わたしのような芸能界門外漢でも知っていることだけに、読んでいてリアルで愉しい。

◆昭和の芸能一家の喜悲劇

その西丘小百合こと南沙織が南田沙織としてブラウン管に登場する「蘇州夜曲」は、福島県いわき市の一家の父親が娘のかおりを歌手デビューさせようと奮闘する、70年代にはよくあった東北と東京の光景ではないか。700万円で戸建ての家が造れた時代に、資産家とはいえ1千万円単位でデビュー資金を要求される。坪3000円の土地担保で融資された4千万円は、すでにレコード大賞の審査員や著名な音楽家たちの懐に渡っているのだ。1億円近くを詐取された父親は、警察に告訴するも娘とカネはもどってこない。芸能界の華やかなステージの裏側に、こんな喜悲劇(せめて喜びもあったとしたい)は山とあったのだろう。我慢という名前の芸能プロデューサーが実刑判決を受けたのが、父親とこの作品にとっては唯一の救いだ。名曲蘇州夜曲が物語の背景にあることがまた、昭和のロマンを伝えてくれる。

「同窓生夫婦」も芸能界デビューを夢みる少女の物語だ。第二の山口百子(=山口百恵)を夢みた少女は、地方の勝ち抜き歌合戦をへて芸能プロに所属することになる。母親を援けたいという動機はしかし、女と駆け落ちをした父親との再会という、やや救いの乏しい現実から出発している。これが作品中に果たされないのは、読者にとっては虚しい。

ともあれ彼女は堀米高校(=堀越学園)に通いながら、同級生のライバルたちと凌ぎを削る。しかるに、凌ぎを削るのは異性関係の足の引っ張り合いというか、スキャンダルであるのは言うまでもない。少女は芸能プロの男とのあいだに出来た子供を堕胎したことを、新人賞をめぐるライバルの同級生にリークされ、賞レースの年末までに華やかなステージから沈んでしまう。救いは彼女を慕って(?)いた中学からの同窓生の男の子だった。おそらく今でも大半の歌手志望者が落ち着く、カラオケスナックを第二のステージにした歌手生活が、彼女のささやかな幸せを受け止めたのだ。喝采。

「マネージャーの悲哀」の麻田美奈子モデルがあるとすれば、大阪から上京した赤貧の母娘と言う設定なので、浅田美代子ではなく麻丘めぐみであろうか。そのアイドル候補に怪我をさせた件(濡れ衣)で母親に土下座させられたマネージャーは、女子大生ブームの新しいアイドルにも身代わりの土下座をさせられた末に、暴露本ライターに行き着く。ベストセラーになったらしく、かれは国道沿いにホルモン店をいとなむ。何というかまぁ、めでたし。

順番は前後するが「消えた芸能レポーター」は喫茶店のボーイから記者(芸能レポーター)になった元受験生が、じつは強姦犯だったというミステリアスな展開だ。作品のなかばからドキュメンタリータッチに感じられる筆致は、この原案が事実だったことを感じさせる。失踪した元強姦犯は樹海の中で死んだのか、それともまだ生きているのか――。


◎[参考動画]南沙織 夜のヒットOPメドレー

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。『一九六九年 混沌と狂騒の時代』では「『季節』を愛読したころ」を寄稿。

高部務『あの人は今 昭和芸能界をめぐる小説集』

◎朝日新聞(2019年11月23日付)にも書評が掲載されました!
高部務〈著〉『あの人は今 昭和芸能界をめぐる小説集』(評者:諸田玲子)

《書評》『一九六九年 混沌と狂騒の時代』──「7・6事件」の解説として

 
鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

自分が寄稿させていただいた本を解説するのも、最近では「自著を語る」というスタイルで雑誌や研究会に定着している。今回、デジ鹿編集部の要請もあって、いわば「共著」本を書かせていただくことになった。この本の肝心な部分は、それなりに学生運動や党派の歴史を知っている者にしか書けないということで、お鉢が回ってきたものとみえる。

もっとも「自著を語る」というスタイルは、人文系の専門書に特有のものであって、大著を読みこなす評者が限られているために、ふつうに書評を頼めば数ヶ月を要し、肝心の著書が本屋さんから返本されたころに書評が出るという、困った事態を回避するのが目的でもある。この書評がデジ鹿に記載されるころに、本書はまだ本屋の店頭を飾っているだろうか。

◆「7・6事件」とは何か

何を置いても、本書の最大の読みどころは「7・6事件考」(松岡利康)である。1967年10・8羽田闘争を反戦運動の導火線とするなら、68年は全共闘運動の大高揚の年、パリの五月革命をはじめとするスチューデントパワーの爆発。いわゆる68年革命の翌年、69年は挫折の年である。1月に東大安田講堂が陥落し、古田会頭以下の辞任と自己批判を勝ち取った日大闘争も、佐藤栄作総理の「政治介入」によって解決の出口が閉ざされていた。

全共闘運動が崩壊するなかで、70年安保決戦を日本革命の序曲とするために、ブント(共産主義者同盟)は党内闘争に入っていた。国際反戦デーの「闘争目標を新宿で大衆的に叛乱をめざすべきか、それとも日本帝国主義の軍事的中枢である防衛庁攻撃にすべきか」をめぐって、政治局会議で幹部たちが殴り合うという事態(68年秋)もあった。

そして「党の革命」「党の軍隊建設」を掲げ、首相官邸をはじめ首都中枢を3000人の抜刀隊で占拠し、前段階蜂起をもって日本革命の導火線にする。という主張をもった、のちの赤軍派フラクがブントの全都合同会議を襲ったのが、7・6明大和泉校舎事件である。重信房子さん(医療刑務所で服役中)の「私の『一九六九年』」と合わせ読めば、事件の概略はつかめると思う。

 
松岡利康/垣沼真一編著『遙かなる一九七〇年代─京都』

問題なのは、このブント分裂の引きがねとなった事件が尾ひれをつけて語り継がれてきたことだ。その結果、中大1号館4階から脱出するさいに、転落死した望月上史さん(同志社大生)が、中大ブントのリンチで手の指を潰されていた」という伝説になっていたのだ。その件を、ある作家の著書からの引用として『遥かなる一九七〇年代』(垣沼真一/松岡利康)に書いたところ、中大ブントを代表するという神津陽さん(叛旗派互助会)から、事実ではないとの批判が寄せられていたものだ。

検証の結果、中大で赤軍派4名を監禁したのは情況派系の医学連の活動家で、当初は暴力があったもののきわめて穏和的な「軟禁」であったという。証言したのは、わたしも編集・営業にかかわった『聞き書きブント一代記』(世界書院)の石井暎禧さん(現在は幸病院グループの総帥)である。軟禁中の塩見孝也さん(のちに赤軍派議長)らが、ブント幹部の差し向けたタクシーで銀座にハンガーグを食べに行っていた、などという雑誌記事を学生時代に読んだ記憶があるが、医学連OBの配慮だったかと得心がいく。中大ブントとひと言で言っても、数が多いのである。荒岱介さんの系列だったという九州の某ヤクザ系弁護士の中大OBを知っているし、情況派の活動家も少なくはなかった。その意味では「中大ブントがリンチ・監禁をした」というのは、あながち間違いではない。何しろ中大全中闘は5000人の動員を誇り、有名人では北方謙三が「赤ヘルをかぶっていた」とか、田崎史郎が三里塚闘争で逮捕されたとか、じつに裾野が広い。また目撃談として「塩見さんが生爪を剥がされていた」という証言もあるという。元赤軍派の出版物も出るので、今回の松岡さんの「草稿」がさらなる事実の解明で豊富化されることに期待したい。

それにしても、ブントは分裂して赤軍派を生み出し、最後は連合赤軍という同志殺し事件を生起させた。マルクス主義戦線派との分裂過程でも、暴力をともなう党内闘争はあった。その後、四分五裂する過程でも少なからず暴力はあった。けれども、寝込みを襲撃するとか出勤途中の労働者をテロるといった、中核VS革マル、革労協のような内ゲバには手を染めていない。だからこそ7・6事件という、いわば牧歌的な党内闘争の時代の内ゲバ死を問題にできるのであろう。死者が100人をこえる「党派戦争」の反省や総括の試みが、上記の党派からなされることは、おそらく絶対にないだろう。なぜならば「同志」は「死者」となったまま、いまも「闘っている」のだから、生きている人間が「誤りだった」などと言えるはずがないのだ。

 
板坂剛と日大芸術学部OBの会『思い出そう! 一九六八年を!! 山本義隆と秋田明大の今と昔……』

◆板坂剛の独断場

もう一本、本書の記事を推薦するとしたら、板坂剛さんの「激突対談」であろう。小中学校が同期だった中原清さん(仮名)とのドタバタ対談、激論である。前著『思い出そう!一九六八年を!!』の座談会では、真面目にやろうとしたことが仇となってしまったが、今回は相手にもめぐまれて、もう読む端から爆笑を誘うものになった。やり取りを引用しておこう。

板坂 だからおまえなんかにゃ判らねえって言ったんだよ。
中原 だったらこんな対談、無意味じゃねえか?
板坂 無意味じゃねえよ。
中原 俺には無意味としか思えんな。
板坂 それはおまえが無意味な存在だからだよ。
中原 やっぱりちょっと外に出ようじゃないか?
板坂 まだ終わってねえっつうんだよ。

もちろん内容もちゃんとある。ストーンズに三島由紀夫、中村克巳さん虐殺事件、日大芸術学部襲撃事件などなど。けっきょくこの対談を三回読み返したわたしは、いままた読み始めてしまっている。

◎鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』関連記事
〈1〉鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』発売を前にして
〈2〉ベトナム戦争で戦死した米兵の死体処理のアルバイトをした……
〈3〉松岡はなぜ「内ゲバ」を無視できないのか
〈4〉現代史に隠された無名の活動家のディープな証言に驚愕した!

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。『一九六九年 混沌と狂騒の時代』では「『季節』を愛読したころ」を寄稿。

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

タブーなきレポート満載の月刊「紙の爆弾」12月号! 安倍長期政権の底流にあるカルト宗教・暴力団・カネ ── 政治の腐敗と虚偽を暴く!

 
月刊『紙の爆弾』2019年12月号

巻頭は「自民党政治家も絡む“原発マネー”をめぐる政官業の癒着構造」(横田一)だ。いまさらながら、原発マネーが地元発の金品受領事件として露見した、関西電力福井高浜原発。マスコミ報道では森山栄治元助役の剛腕が強調され、関西電力はあたかも「被害者」のように描かれているが、そうではないと横田は指摘する。

計画停電をチラつかせ、行政を手玉に取る手法はまさに原子力ムラのいっぽうの雄である。そして森山助役の力の背景に、自民党大物政治家の影があることを暴露する。その大物政治家とは、亡き野中広務元自民党幹事長である。そして森山元助役が部落解放同盟の県連書記長だったことから、野中との関係は想像できるというものだ。

これについては、部落解放同盟中央本部の組坂繁之執行委員長が10月7日付で「書記長は2年で解任され、解放同盟とは無関係」とコメントしている(「週刊新潮」ウェブ)。とはいえ、高浜町で自由にモノが言えない雰囲気を作ったのは、森山元助役の「人権」をカサに着た言動だったのではないか。さらなる取材を期待したい。

◆安倍長期政権の底流にある宗教・暴力団・カネ

「菅原一秀前経産相の卑劣なる取材妨害と『虚偽告訴』」(藤倉善郎)は、取材を申し入れたジャーナリスト(藤倉氏および「やや日刊カルト新聞」の鈴木エイト氏)を、菅原事務所が「建造物侵入」で刑事告訴したというものだ。菅原一秀は「カニ」「メロン」そして秘書香典の辞任大臣である。しかし今回、藤倉氏の取材テーマは、菅原一秀元経産相の「統一教会との関係」なのである。

カルトと安倍政権の分かちがたい関係は前号で既報のとおり、ここが長期政権の核心部分なのかもしれない。練馬の菅原事務所前での取材妨害は、そのままリアルに再現されているので臨場感たっぷりだ。突撃取材のノウハウにもなるので、ジャーナリスト志望者はぜひ参考にしていただきたい。

もうひとつ、安倍長期政権を支えているものは、暴力団との癒着であろう。「『カネ』と『暴力団』から始まった自公連合20年“野合”の底流」(大山友樹)は、自公連立の契機に、創価学会と後藤組(五代目山口組の武闘派組織)後藤忠政組長との関係を指摘する。

本欄で連載している「反社という虚構」には自民党政治家とヤクザの切っても切れない関係が選挙にあると指摘してきたが、創価学会の場合は、つねに付きまとう「正教不分離」のウィークポイントを、暴力の力でけん制するという乱暴な手法だった。都議会公明党のドン・藤井富雄(元都議)が「反創価学会議員対策」で後藤組長と密会しているところを、ビデオ撮影されていたのである。

これをネタに創価学会を「恫喝」したのが、亡き野中広務だという。22万部のベストセラーになった後藤忠政元組長の『憚りながら』(宝島社)を読まれた方は、組長の創価学会批判が「それまで散々働いてきた連中や、俺みたいに協力してきた人間を、用済みになったら簡単に切り捨てるようなやり方が許せん」の真意がわかろうというものだ。

テーマは政治ではなく芸能だが、暴力団記事がもう一本。周防侑雄に煮え湯を飲まされた笠岡和雄(元大日本新政會会長・笠岡組元組長)の反撃が待たれると予告するのは、編集部による「収監・元用心棒が握る“決定的証拠”芸能界のドンの暴力団人脈」である。周防バーニングプロ社長に用心棒として頼りにされ、共同出資で産廃事業に乗り出したところで頓挫。

この経緯については『狼侠』(サイゾー刊)に詳しいが、同書を反撃の狼煙にしたところを、仁科明子がらみの事件で逮捕、今年2月に2年の実刑判決を受けた。その背後に、周防社長の警察人脈があるのは明らかだ。そしてその周防の暴力団人脈こそ、笠岡元会長が最もよく知る住吉会系(笠岡組は住吉会の前身・港会の傘下組織だった)であり、六代目山口組(弘道会・司興業)なのである。今後の展開に注目したい。

◆国民の総反撃が始まるか?

田原総一朗インタビュー(林克明+本誌編集部)「『野党』と『世論』の可能性」が、久しぶりに田原の慧眼さを伝える。自民党の党内権力の一元化によって、党内はおろか国民まで巻き込んだ『消極的支持』が長期政権を支えている」と、田原は政治の劣化を読み解く。論点は消費税廃止、格差の是正(月収20万円以下が1000万人という現実)、そして失敗許容社会であるとする。この失敗許容とは、サラリーマン化した企業の経営者に対するものだ。アメリカでは3回か4回失敗しない人間は認められない(トランプか?)と田原は言う。

いっぽう、年内の衆院解散が噂されている。安倍政権のさらなる長期化のために、最短で12月解散、あるいは来年1月下旬、来年6月の都知事選との同時選挙が有りうる。というのは「衆院解散『2020年1月』安倍政権を終わらせる野党共闘の行方」(朝霞唯夫)である。党内政局の動きはすさまじい。二階俊博が麻生太郎に「もう一度、総理をやったらいい」(10月に2度、料理屋で会合)。これは安倍総理の総裁4選をうながす、隠然たるアドバルーンではないかと。朝霞は「れいわ新選組」の可能性について「参院選の遊説で見せた“言葉の破壊力”は凄まじいの一言。山本氏を加えて、どのようなスキーム、統一候補の筋書きを描けるかがカギとなりそうだ」とする。

連載では、シリーズ「日本の冤罪」の二回目が甲山事件。「れいわ新選組の『変革者』たち」は、辻村ちひろ氏だ。今回も好みで選んだレビューだが、読み応え満載の12月号をよろしく。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

月刊『紙の爆弾』2019年12月号!

「反社会勢力」という虚構〈3〉選挙区の地元人脈を基礎とする自民党政治は、暴力団と本当に手を切れるのか?

「いい人だけ付き合ってるだけじゃあ選挙落ちちゃうんですよね」たびたび引用させていただいているが、2016年1月に安倍政権の社会保障・税一体改革担当大臣を辞任したさいの、甘利明の辞任会見での発言である。

甘利はURへの口利きのあっせん利得として、事務所(秘書)が建設会社から1200万円を受け取っていた責任をとって辞任した。この「いい人だけ」の裏側に「悪い人と付き合う」が含意され、そこにはパーティー券の購入や資金援助、ブラックな人脈との付き合いが政治家の本質だと暗喩されているのは言うまでもない。

田中和徳復興大臣

◆安倍政権閣僚と暴力団

この「悪い人との付き合い」が政治家の必要条件であることを、今回の安倍改造内閣でも田中和徳復興大臣(70歳)の例が証明している。本欄でも既報だが、再録しておこう。

「(田中和徳復興大臣の)平成18年に開催した政治資金パーティーで、指定暴力団稲川会系組長が取締役を務める企業にパーティー券を販売し、40万円を受領していたことが21日、産経新聞の調べで分かった。パー券販売は財務副大臣在任中で、暴力団側から政治家側への直接の資金提供が判明するのは極めて異例。暴力団排除条例が全国の自治体で制定されるなど『暴排』の動きが加速する中、国会議員と暴力団側の関係が発覚した。政治資金収支報告書や関係者によると、パー券を購入していたのは東京都品川区に本社を構える企業。設立は昭和62年で、法人登記では『日用品雑貨の販売』『金銭貸付業』などとなっている。捜査関係者によると、同社は暴力団のフロント企業として認定されているという。稲川会系組長は、設立当初は代表取締役を務めていたが、平成4年からは取締役に就任。同社が長年にわたって暴力団の影響下にあり、資金源となっていたことがうかがえる」(「産経新聞」2011年10月22日ウェブ配信)。

武田良太国家公安委員会委員長

田中復興大臣だけではない。暴力団を指定し、取り締まる国家公安委員会のトップに就任したのが、暴力団との交際を報じられている武田良太(51歳)である。これも既報だが、再録しておこう。

「2010年11月に公表された、武田氏の政治資金管理団体「武田良太政経研究会」の収支報告書によると、09年4月に開かれた政治資金パーティー代として、東京都のA社が50万円を献金している。また、11年11月公表の収支報告書では、A社の実質的な代表であるI氏が10年4月の政治資金パーティー代として70万円を支払っている。実は、このI氏、警察当局が指定暴力団山口組系の組員ではないかと当局からマークされ、裁判で素性が明かされた人物だった」(「週刊朝日」2019.9.13ウェブ配信)

もうひとり、竹本直一科学技術担当大臣(78歳)である。ひとつの内閣に3人も暴力団の密接交際者がいるようでは、自民党政治家の本質が「暴力団準構成員」であると指摘されても不思議ではないだろう。

山口組幹部だった男性と竹本直一氏(2018年8月撮影)

「閣僚名簿で『グレーな交友』を疑われたのが、科学技術担当相に起用された衆院当選8回の竹本直一氏(78)。SNSに、18年8月、花火を見物している竹本氏と記念写真に一緒に写っている角刈りの男性の姿がある。指定暴力団山口組系組幹部だったⅩ氏である。同年3月に、竹本氏の後援会が開催した新年賀詞交歓会のパーティーで、X氏と岸田氏が親しそうに写真に納まっている写真が、写真週刊誌『フライデー』にも掲載された。

「Ⅹ氏は長く幹部である組の顧問を最近までやっていたようだ。昔から、資金力豊富だと有名だった。『岸田氏や竹本氏との写真は、箔(はく)をつけるために撮ったのでしょうね』(捜査関係者)そして、宏池会所属のある議員はこう話す。
『(フライデーに写真が出た時から)竹本氏は相手が暴力団関係者であることがわかっていたはず。岸田会長も、あの報道には激怒していましたよ。なぜ、竹本氏はSNSの写真を削除させなかったのか? こんなわきの甘さでは、大臣が長く務まるとは思えないですね』」(「週刊朝日」2019.9.13)

たまたま暴力団関係者と知り合ったり、政治献金を受けていたわけではない。政治家という職業が誰とでも会合して握手し、選挙で政治家生命を鬻(ひさ)ぐおんであれば、密接交際をする本性を持っているからだ。安倍総理自身が「ケチって火炎瓶」事件(工藤會系の業者に選挙妨害を依頼するも、返礼金を渋って自宅と事務所に火炎瓶を投げられる)を生起させたのも、選挙という「再就職」システムがあるかぎり、何度もくり返されることであろう。

◆かつて政治家はヤクザと同義だった

戦前にさかのぼれば、ヤクザが政治家になるのは普通だった。憲政会の吉田磯吉は火野葦平の『花と竜』に登場する磯吉大親分であり、そのライバルで下関籠寅組の大親分が、立憲政友会の保良浅之助である。もっとも、吉田磯吉の生業は港湾忍足の元締めであり、保良浅之助の籠寅組は土木建築業と芸能興行であった。

吉田磯吉の門下に富永亀吉という親分があり、その系列の中から大嶋秀吉が頭の港湾労働者の元締めとなった。その大嶋組の傘下に、山口春吉の山口組が結成されたのである。のちの広域暴力団山口組の誕生である。

三代目山口組として、中興の祖となった田岡一雄親分の昭和20年代、山口組はまだ30人ぐらいの組織だったという(『狼侠』笠岡和雄、サイゾー刊)。神戸の本多仁介(本多会)と関東の藤田卯一郎(松葉会)の兄弟盃のとき、政財界からの列席者のなかに自民党党人派の総領・大野伴睦の姿があったという。その大野伴睦と自由党で行動をともにした中井一夫は、戦前からの代議士で神戸市長、弁護士でもあった。

中井がマスコミの注目を浴びるのは、四代目山口組と一和会の五年にわたる史上最大の抗争中、神戸ユニバーシアードのさいに「休戦協定」を結ばせた時のことだ。ヤクザと政権中枢が限りなく接近・一体化したのは、竹下登の皇民党による「褒め殺し」事件の時だった。稲川会二代目の石井進が京都の会津小鉄の三神忠を通じて皇民党総裁稲本虎翁総裁と会合し、竹下が田中角栄に謝罪することで話をつけたのである。

その機縁から週に一度、金丸信自民党副総裁と竹下登総理、石井進の三人の会合が持たれ、自民党内では「裏閣議」と呼ばれたものだ。会合の警護役は、若き小沢一郎だったという(『巨影』石井悠子、サイゾー刊)。皇民党事件のときに奔走して調停を計れなかった浜田幸一は、稲川初代(稲川聖城)時代の石井進の弟分である。

◆町内会や自治会を基礎とする自民党政治は、「反社会勢力」と手を切れない

自民党の政治家で、ヤクザと無関係に選挙をコンプリートできている者は、ほとんど皆無だろうとわたしは思う。なぜならば自民党政治の基礎単位が町内会や自治会(町内会と同義)に、地方議員が根を持っているからだ。町内会はそのまま神輿会や神社の崇敬会に重なり、そこには地域社会に根を下ろしたヤクザが介在しているからだ。ヤクザがそこに潜り込んでいるのではない。地域をとりまとめる人物は、本人がヤクザであるかヤクザと親交を結んでいるからだ。それを無理やり「反社会勢力」と手を切れと言ってみても、地域の共同体を破壊することにほかならないのだ。いや、すでに地域社会は拡散し、共同体は崩壊しつつあるのかもしれない。ヤクザ組織の末端が半グレ化し、統制の効かない犯罪組織化しつつある。


◎[参考動画]参院選:弾ける「バンザイ」集:与党編(テレ東NEWS 2019/07/21公開)

[関連記事]
◎「反社会勢力」という虚構〈1〉警察がヤクザを潰滅できない本当の理由(2019年10月9日)
◎「反社会勢力」という虚構〈2〉ヤクザは正業を持っている(2019年11月4日)
◎続々湧き出す第4次改造安倍政権の新閣僚スキャンダル 政治家と暴力団の切っても切れない関係(2019年9月21日)
◎高齢・無能・暴力団だけではない 改造内閣の「不倫閣僚」たち(2019年9月24日)
◎安倍官邸親衛隊の最右翼、木原稔議員が総理補佐官に就任した政治的意味(2019年9月25日)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

月刊『紙の爆弾』2019年12月号!
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「反社会勢力」という虚構〈2〉ヤクザは正業を持っている

暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)が成立したのは1991年のことだった(施行は翌年)。露天商系のヤクザ(テキヤ)が反対デモをするなど、その違憲性が問われたものだ。その後2回の改正をへて、以下のような禁止事項が整備された。執行については、これらに基づいて公安委員会から「禁止命令」が出される。なお、組事務所の移転訴訟などを、地元の住民に代わって暴力団追放センターなどが代行できる訴訟制度の改正も行われた。

【禁止事項】(だいたいわかると思いますので、読み飛ばしてください)
・口止め料を要求する行為
・寄付金や賛助金等を要求する行為
・下請参入等を要求する行為
・縄張り内の営業者に対して「みかじめ料」を要求する行為
・縄張り内の営業者に対して用心棒代等を要求する行為
・利息制限法に違反する高金利の債権を取り立てる行為
・不当な方法で債権を取り立てる行為
・借金の免除や借金返済の猶予を要求する行為
・貸付け及び手形の割引を不当に要求する行為
・信用取引を不当に要求する行為
・株式の買取り等を不当に要求する行為
・預貯金の受入れを不当に要求する行為
・地上げをする行為
・土地家屋の明渡し料等を不当に要求する行為
・宅建業者に対して不動産取引に関する不当な要求をする行為
・宅建業者以外の者に対して不動産取引に関する不当な要求をする行為
・建設業者に対して建設工事を不当に要求する行為
・集会施設の利用を不当に要求する行為
・交通事故等の示談に介入し、金品等を要求する行為
・商品の欠陥等を口実に損害賠償等を要求する行為
・役所に対して自己に有利な行政処分を要求する行為
・役所に対して他人に不利な行政処分を要求する行為
・国等に対して自己を公共工事等の入札に参加させることを要求する行為
・国等に対して他人を公共工事等の入札に参加させないことを要求する行為
・人に対して公共工事等の入札に参加しないこと又は一定の価格で入札することを要求する行為
・国等に対して自己を公共工事等の契約の相手方とすること又は他人を相手方としないことを要求する行為
・国等に対して公共工事等の契約の相手方に対する指導等を要求する行為

ようするに「不当な方法」で「要求」をしてはいけない。というのが法の趣旨である。構成要件が不当というのだから、従来法で対処できるではないかというのが、当時の任侠団体(ヤクザ組織)の言い分だった。


◎[参考動画]1992年2月テレビ朝日「朝まで生テレビ! 激論! 暴力団はなぜなくならないか!?」 (前半)(2019/4/25公開)

しかしすでに、この頃からヤクザは「不当な強要」や「用心棒代」から「正業」に移行しつつあった。その先鞭が五代目山口組の若頭宅見勝である。宅見は愛人(西城秀樹の姉)に高級焼き肉店をやらせ、みずからは土建会社を経営するなど、経済ヤクザへの道を拓いていた。

ヤクザが組の名刺とともに、企業の名刺を持つようになったのは、暴対法の成立が契機だった。六代目山口組(司忍組長)の弘道会が力を得たのも、中部セントレア空港建設の莫大な利権を独占したからである。一説には地下室のプール一杯に、札束が敷き詰められているなどという情報もあったほどだ。

公共事業や民間事業の建設利権とは、正規の予算外に設けられている「地元対策費」をヤクザが業者を取りまとめることで、そこから予算を吸収する方法。そして同じく正規の予算内で配分した業者への仕事の割り当てを差配し、業者からリベートを受け取る方法がある。さらにヤクザ自身が業者となり、共同事業体の仕事を請け負う。その場合はゼネコンの配下にフロント企業、あるいは企業舎弟を持っていることになる。あとでみる暴排条例は、建設利権などからのヤクザ排除を狙ったものである。

実際に取材したわたしが知るかぎり、飲食系の風俗店を直接経営するのは基本中の基本で、コンパニオンの派遣業、フィリピンでの胡蝶蘭の生産・輸入・販売、不動産業、建設業、移動パン屋、和菓子屋、タクシー会社、ジムの経営、風俗店への仕出し弁当(服役中の組員の奥さんが従事)、個人では彫り師や接骨師など、じつに多彩なものだった。Vシネマの製作、芸能プロダクションの経営などもシノギとしては大きい。このうち、コンパニオン派遣業は当時の労働大臣の認可事業なので、不認可を突かれた若手の組長が逮捕されたのを知っている。ようするに、90年代のヤクザは警察の取り締まりに、業態を変えることで対応していたのである。


◎[参考動画]「暴力団対策法」に反対する共同声明

◆暴排条例の無理押し

ところが、2010年代になると警察不祥事が連続し、とくにヤクザと警察の癒着が顕在化した。博多の中州カジノバー事件(捜査情報を漏洩)では、ヤクザ(工藤會系)から月額100万円を受け取っていた警察官が10人以上も芋づる式に逮捕・事情聴取される事態となった。このときの公判資料には「小指のない刑事」という記載がある。つまり警察官でありながら、断指するような稼業人(ヤクザ)がいたことになる。

警察刷新会議の発足と並行して、自治体レベルでの暴力団排除条例が画策された。この暴排条例は、市民に「ヤクザと付き合うな」という法律であって、市民を取締りの対象にしている。自治体レベルでの決議・施行となったのは、国会では違憲論争に発展すると読んでのことである。このあたりの警察官僚の姑息さは、ある意味で見事だ。

ヤクザと「密接交際した」市民への処罰はじっさいには「企業名の公表」「注意」だけだが、たとえば出版社が現役の組長の本を出版した場合には、印税や原稿料が利益供与ということになる。利益供与の疑いがある出版社には、銀行協会を介して「融資の見直し」という圧力が加えられるのだ。竹書房が「実話ドキュメント」(恵文社発行・2018年5月に紙媒体は廃刊)の販売から撤退したのは、これが大きな理由である。わたしも「血別」(太田守正・神戸山口組太田興業)という本をつくったが、著者の太田さんが現役復帰してしまったので、同書の文庫化はできなかった。引退した親分しか本を出せない時代になったのである。

暴排条例は日常生活にもおよんでいる。組員が喫茶店に入ってコーヒーをオーダーして、店がそれに応じたら「利益供与」なのである。ヤクザが「反社会勢力です」と断らないでゴルフ場の会員になっても「詐欺罪」、身分(ヤクザであること)を隠して銀行口座を開いたり、クルマを購入しても「詐欺罪」となるのだ。銀行口座が使えないのだから、ヤクザは水光熱費の口座引き落としもできない。ヤクザの子供は、カードも使えないことになる。前回の記事で「実話時代」が廃刊に追い込まれたのも、暴排条例を盾にした暴排運動の「成果」にほかならない。

そのいっぽうで、最終的にヤクザ組織を解体できないのは、政治家が選挙運動の裏側で大きく「反社会勢力」に関わっているからだ。


◎[参考動画]指定暴力団 再指定に向けた意見聴取 山口組側は欠席 聴取行われず(サンテレビ2019/4/4公開)

◆政治家のホンネ「いい人とばかり付き合っていたのでは、選挙に落ちるんです」

たとえば2016年に、甘利明経済再生担当相の秘書が千葉県の建設会社と都市再生機構(UR)の補償交渉を巡り、口利きを依頼され現金を受け取った騒動を思い起こしてほしい。甘利氏は記者会見で、この建設会社側から2013年11月に大臣室で50万円、2014年2月に神奈川県大和市の地元事務所で50万円の計100万円を受け取ったことを認めている。秘書も建設会社側から受け取った500万円のうち、200万円しか政治資金収支報告書に記載せず、残り300万円を私的に使っていたという。その責任をとって辞任するときの弁が「いい人とばかり付き合っていたのでは、選挙に落ちるんです」これこそが、小選挙区を生きる政治家のホンネなのである。


◎[参考動画]甘利明経済再生担当相が会見「閣僚の職を辞する」(THE PAGE 2016/1/29公開)

今回は暴対法・暴排条例のおさらいから入り、ややおとなしいレポートになってしまった。次回からは、いよいよディープなヤクザ情報をお伝えしよう。※このテーマは随時掲載します。

◎[カテゴリーリンク]横山茂彦「反社会勢力」という虚構 https://www.rokusaisha.com/wp/?cat=76

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

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安倍政権が歩む戦争への安易な道 それよりましな政権選択を探る厳しい道

『昭和16年夏の敗戦』(猪瀬直樹、中公文庫収録)という本をご存知だろうか。猪瀬直樹という人は、ほとほと政治家(東京都知事)などになって恥をかくべきではなかった。と思わせる氏の名作ノンフィクションのひとつだ。

タイトルのとおり、昭和16年の夏までに、大日本帝国の指導部は対米英戦のシミュレーションを行ない、軍事・経済・資源を算定した総力戦の結果、敗北するというものだ。この試算を行なわせたひとりが東条英機であり、かれの「やはり負け戦か」という言葉も収録されている。

◆戦争は平和目的として発動される 

東条英機が対英米戦争に反対だったのは有名な話で、この試算はドイツのバーデンバーデンでおこなわれた陸軍将校(陸士16期の永田鉄山・小畑敏四郎ら)の長州閥打倒の密議グループに、東条英機らを加えた総力戦研究の勉強会の流れを汲むともいっていいだろう。当時の戦争へという「新体制」(近衛文麿政権)の流れ、戦争前夜の空気感にたいして現実的な試算をした結果、予想したとおり「敗戦」は間違いないと結論が出ていたわけだ。

にもかかわらず、日本人は戦争を選んだのである。負けるとわかっていた戦争を、回避する策はなかったのだろうか。そのための努力はあったが、裏目に出たというべきであろう。

元宮内庁長官・田島道治「天皇拝謁記」で明らかになったとおり、昭和天皇は東条英機の首相登用を、「陸軍を統制して戦争を回避できる人物」と期待していた(失敗だったと田島に語る)。戦時中は専制体制と呼ばれる東条政権も、じつは本人は対英米戦反対論者で、戦争回避のキーパーソンと見られていたのだ。統帥権をもって政権を揺すぶる、陸軍の統制こそが戦争回避の道と考えられていたのだ。

戦争が平和目的として発動されるのは、あらためて言うまでもないことだが、具体的には政治的な実権をもった「人物」の「決断」によるものだ。その意味で「政治は誰がやっても同じ」ではけっしてない。いやむしろ、誰がやっても同じだから政治には関心がない、というアパシーこそが戦争を招くと断言しておこう。あるいは国民的な議論の喚起、必要な論評を避けること自体が思想の頽廃であり、批評精神の衰退である。批評精神の衰退は一億総与党化、戦前で言えば体制翼賛政治への道をひらくものなのだ。

◆危険な選択肢

そこで安倍一強といわれる、与党に批判勢力のない現在の政治状況の中で、よりましな選択肢があるのかどうか。そしてそれが現実的なものなのかどうかを考えてみる必要があるだろう。3年前のことになるが、わたしはポスト安倍が岸田文雄(現政調会長・当時は外相)で、その後は安倍のオキニである稲田朋美ではないかという観測に、大いに危機感を抱いたことがある。

当時、稲田は防衛大臣である。周知のとおり、スーダン派遣自衛隊の日報問題(戦闘地域である傍証)を把握できず、シビリアンコントロールが不能状態となっていた。つまり、派遣先の自衛隊が勝手に「戦闘地域」と判断して戦闘状態に入る可能性があったのだ。これは大げさに言えば、戦前の大陸での関東軍(日本陸軍)の事変拡大政策と、まったく変わらない構造なのである。稲田総理が何も知らないうちに、戦争が始まっていた? 

もしかしたら、歴史はそのように進むのかも知れない。ナチスが国会議事堂を共産党員の仕業にみせかけて焼き払い、国防軍と結びついて突撃隊(レーム)を粛清するまで、ヒトラーが独裁政権(全面委任法)になるとは、誰も思っていなかったのだから――。

◆よりましな選択肢はあるか?

そこで、危機感を抱く何人かの編集者とともに、安倍晋三の反対勢力である石破茂の総裁選を支援しようとした。経済に関する本を出して、アベノミクスに代わるイシバノミクスを打ち出したかったのだ。地域経済の再生という観点から、石破の経済センスは悪くない。

この欄でも何度か触れたが、石破のウィークポイントは「経済オンチ」である。感情とある意味での「天才的な感性」で政治をもてあそぶ安倍が、感じがいいからと「同一労働同一賃金」を政策スローガンに入れるのに対して、石破は「誰か教えていただけないか」とブログで発信していた。わからないことは、わからない。それでいいのではないか。

いうまでもなく、同一労働同一賃金はILOなど労働運動の最大限綱領スローガンであって、これが本当に実現できれば、正規の大学教授(年収1000万円以上)と非常勤講師(年収200万円前後)が同じ賃金を得ることになる。同じ工場で同じ工程を管理している社長と主任も、同じ賃金になる。弁当屋の主人とアルバイトも同じ賃金、つまり社会主義経済の賃金分配なのである。こんなこともわからない安倍に比べて、たしかに石破は実際にはタカ派かもしれないが、物事に慎重なのである。

たとえば安倍の感情的な政策(輸出制限)によって、最悪の状態になった日韓関係の基底にあるもの。すなわち歴史問題について、石破は「なぜ韓国は『反日』か。もしも日本が他国に占領され、(創氏改名政策によって)『今日から君はスミスさんだ』と言われたらどう思うか」と発言して、歴史問題に向かい合うことを訴える(徳島市内での講演)。

「いかに努力をして(関係を)改善するか。好き嫌いを乗り越えなきゃいけないことが政治にはある」「相手の立場を十分理解する必要がある。日韓関係が悪くなって良いことは一つもない」(前出)と語っている。現在の安倍一極も、国民の「よりましな選択」によってよるものである。それはしかし、アベノミクスという仮象の経済によって担保されているにすぎない。貧富の格差、お友だち上級国民と下層国民の分岐。そこにこそジャーナリズムの視点と批評精神が据えられなければならない。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

鹿砦社創業50周年記念出版 『一九六九年 混沌と狂騒の時代』
タブーなき言論を!『紙の爆弾』11月号