参院選挙戦の今こそ、タブーなき言論誌、月刊『紙の爆弾』8月号に注目を!

 
創業50周年!タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』8月号絶賛発売中!

参院選挙戦もたけなわのいま、『紙の爆弾』8月号が7日に発売され、書店の総合雑誌コーナーで注目を浴びている。政治がらみの記事だけ挙げてみると、目を惹くラインナップだ。

●年金詐欺「2000万円問題」の影響は? 自民党を襲う〝想定外〟の逆風 朝霞唯夫

●統一地方選で「実質敗北」〝集票力低下〟に焦る創価学会・公明党 大山友樹

●丸山「戦争発言」でも負けない理由 「維新」とは何なのか 吉富有治

●イージス・アショア配備という安倍〝米国下僕〟政治 故郷よりも米国優先の菅官房長官 横田 一

●海外メディアが皮肉った国辱接待「外交の安倍」という捏造  浅野健一

●トランプ訪日、イラン訪問の「属国外交」日本の「独立」を阻む「従米ポチ利権」を暴く 木村三浩

●日本史上最低の「安倍ゾンビ体制」への引導 藤原肇

◆「凡庸なる独裁者の手先」菅義偉官房長官を突き動かすのはルサンチマン?

その他の記事も、ことごとく政治権力や財政・経済政策をめぐるもの、外交での安倍政権のチョンボなど、政治と無縁なものはないが、とくにここでは菅義偉官房長官の記事が気になる。

安倍晋三を極右政権とするならば、菅義偉(よしひで)にはアドルフ・アイヒマン的な実務能力における冷徹さがある。アイヒマンといえば、ハンナ・アーレントによる「凡庸なる独裁者の手先」として、つまり凡庸な人物がナチスを支えていたとの評価だが、凡庸な人物に冷酷なユダヤ人迫害ができるわけではない。ある意味での政治的実務への集中が、たとえば沖縄の辺野古基地建設を強引に、あるいは「粛々と」進める冷徹さこそ、菅のような実務派政治家の得意とするところだ。

その菅義偉は、地元秋田県での参院選挙の総決起集会で、イージス・アショア配備について、ひと言も触れなかったという。記事の執筆者である横田一は、地元議員団から菅への要望書が渡される場で質問をこころみたが、スタッフに取り囲まれて室外へと追い出されている。

故郷に錦をかざりながら、地元住民の軍事施設反対の声には、沈黙をつらぬく。安倍総理の陽性の開き直りかたや麻生太郎のべらんめぇ開き直りには、やや人間味すら感じられるが、菅には徹底して実務的な冷たさを感じる。

苦労人は庶民的な人情を知るといわれるが、集団就職をして苦学をしたこの人には微塵も感じられないのは何故か? 高卒とともに捨てた故郷や苦労した時代を、あたかも黒歴史として恨んでいるかのようだ。苦労をした自己史にルサンチマンがあるのだとしたら、それほど怖い政治的動機はないだろう。その菅義偉が、来年の総裁選では「中継ぎ」として有力なのだから恐ろしい。

◆自民補完勢力の動向──「ネオ自民党」維新の会はなぜ大阪で強いのか? 異例の総決起集会を開催した公明党の危機意識

吉富有治は維新の会の強さの秘密を、軍隊的な組織の在り方だと読み解いている。自民党の一派閥、ネオ自民党というとらえ方も秀逸だが、その維新がなぜ大阪でのみ強いのか。おそらく反中央、反自民という大阪人のメンタリティに訴えるものがあるはずだ。今後はそのあたりの民意をさぐって欲しいところだ。

〝集票力低下〟に焦る創価学会・公明党にも興味を惹かれた。大山友樹によれば、6月5日に公明党は東京ドームに10万人を集めて「公明フォーラム2019」を開催したという。いうまでもなく、参院選挙にむけての総決起集会だが、異例のことである。公明党は全国7つの選挙区で候補を立て、そのうち東京と大阪をのぞく5選挙区(兵庫・埼玉・神奈川・愛知・福岡)での苦戦が予想されている。

というのも、05年の小泉郵政選挙のときに898万票だったものが、17年の衆院選挙では697万票に落ち込み、今年の統一地方選でも減少傾向は続いているというのだ。しかるに、自民党を連立与党として支えながら、党勢は先細りという現実に、創価学会員からも疑問の声が上がっているのだ。選挙結果が注目される。

◆アベノミクスに代わる経済政策を

オピニオンとしては、林克明の「『人の幸福』のための実現可能な経済政策」が積極的なものを突き出している。宇都宮健児(弁護士・元東京都知事候補)のインタビューと山本太郎の経済政策を紹介しながら、消費税ゼロ、奨学金徳政令、最低賃金1500円で、消費の活性化を生み出すというものだ。

これはMMT(現代貨幣理論)でも提唱されているリフレ論である。山本太郎が参院調査情報担当室に試算させたところ、消費税を廃止すると6年後に1人あたりの賃金が44万円も増加するという。時給1500円で、年収は288万円となり、現在の派遣労働者・アルバイトの年収200万円弱から大幅に可処分所得が増える。つまり消費によって経済が活性化するのだ。いまやアベノミックスの失敗は明らかで、アベノミクスが果たせなかった更なるリフレ、人のための財政を行わなければならない。

ほかに、「政権すり寄り」吉本興業が恐れる信用失墜、田中恆清・石清水八幡宮宮司「総長四選」不可解な内幕、森友事件「値引き根拠ゴミ」を偽装した国交省、「テロ対策」を口実に進む警察権力強化、「海を渡るリサイクル品」から見える日本、日本ボクシング界諸悪の根源、など多彩な記事で満載だ。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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日本政府は本気で戦争を準備しようとしているのか? 朝鮮半島を仮想敵にした安倍「軍事政権」の好戦性

日本政府による韓国向け半導体素材の事実上の禁輸措置は、韓国における日本製品のボイコットにつながった。ソウル市内の日本車ディーラーや小売店の前では抗議行動が行われ、日本への旅行中止を訴える請願が、青瓦台(大統領府)のウェブサイトに3万人以上の署名が行われた(7月8日)という。

日本政府は、表向きは「徴用工問題(被告企業の資産没収)への報復ではない」としているが、韓国政府およびその国民は、従軍慰安婦問題と徴用工問題など、歴史認識に関する報復と受け止めている。

韓国経済に打撃を与えることで、歴史認識に関する攻防を経済戦争に持ち込んだと国際的な世論も認識しているところだ。じっさい、韓国経済はこの数日で株価が総額で5兆円も低減するなど、大きな打撃を受けている。文大統領も報復措置を採ることを明らかにし、まさに日韓貿易戦争の様相を呈してきた。


◎[参考動画]「偏狭な排外主義」輸出規制に抗議 ソウルで元徴用工訴訟支援団体(毎日新聞 2019/7/5公開)

◆安全保障上の「不適切な事案」とは何か?

さて、それでは日本政府が「(歴史認識問題への)報復ではない」とする論拠はいったい何なのだろうか。事実上、反日運動を引き起こしている以上の怖ろしい計画が進行しつつあることに、われわれは驚愕せざるをえない。日本が韓国および北朝鮮を「仮想敵国」にしようとしている形跡があるのだ。いや、安倍晋三総理および菅義偉が公言している「(韓国側による)不適切な事案」というものである。この「不適切な事案」とは何なのか?

「個別のことについて申し上げるのは差し控える」(7日のNHKでのテレビ討論会)と明言は避けているものの、この「不適切な事実」が半導体素材の北朝鮮への流出を指しているのは明らかだ。つまり韓国が北朝鮮に、日本からの素材を提供しているというのだ。これは事実なのだろうか? 

韓国大統領府は、国連安保理事会決議にもとづく対北朝鮮制裁を「国際社会との協力のもと、それを忠実に履行している」「日本が明確にどの部分に疑惑があるのか示さず、われわれが明らかにするというのは順序に合わない」と、日本政府を批判している。これでは藪の中である。

観測筋によると、韓国がWTO(世界貿易機関)に提訴した段階で、日本側がその「証拠」を提出するのではないかと言われているが、これも推測でしかない。


◎[参考動画]【報ステ】文大統領「撤回求める」輸出規制で初言及(ANNnewsCH 2019/7/9公開)

◆観艦式からも韓国海軍を排除

事実上の禁輸措置は、韓国がホワイト(友好)国ではなくなった基準によるものだが、安倍政権は「安全保障上の措置」を前面に押し出して、その正当性を主張しているのだ。かなり周到な、韓国文政権への「揺さぶり」である。それは次のような措置にも顕われている。防衛省は自衛隊の観艦式に、韓国海軍を呼ばないことを決定したと言うのだ。

すなわち、韓国への「安全保障上の措置」として、韓国海軍駆逐艦が昨年12月に海上自衛隊P1哨戒機に火器管制用レーダーを照射した事件を受け、今年10月に開く海上自衛隊の観艦式に、韓国海軍を招待しない方針を固めたのである。もはや友好国や同盟軍とはいえないようだ。

今年の観艦式は10月14日、相模湾で行われる。イージス護衛艦や潜水艦、掃海母艦など多数の艦船や航空機が参加し、安倍総理は海自最大のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」(空母に改装予定)に乗艦する予定だ。米国やオーストラリア、インドといった友好国の海軍のほか、中国海軍も「祝賀航行部隊」として加わる方向で調整している。


◎[参考動画]輸出規制「撤回しない」韓国・文大統領の要求に政府(ANNnewsCH 2019/7/9公開)

◆政権を替えようとしている

基幹産業であるIT産業の素材供給を断つことで、韓国経済の屋台骨を折る。韓国が自由貿易をもとめてWTOに提訴すれば、安全保障上の問題であると切り返す。もはや韓国文政権への「揺さぶり」あるいは政権を倒す工作とも思える、安倍政権の処断である。何を狙っているのだろうか?

韓国は「大統領を逮捕する国」と呼ばれている。金泳三、金大中以外は殺されるか投獄、あるいは自死でその生涯を終えている。いや、金大中も軍事政権下で死刑を宣告され、暗殺未遂事件で股関節に障害を負っている。国是が「反共」「反日」である以上、たとえば朴槿恵のような親日派ですら、韓日首脳会談も開けなかったほどだ。いま文政権は反日に舵をきり、新北路線をひた走っている。この文政権を倒し、強力な反共政権、したがって親日政権を打ち立てるのが、安倍極右政権のめざすところなのではないだろうか。

尊敬する祖父・岸信介が政界に影響力を持っていた時期、韓国は反共親日の朴正煕軍事独裁政権だった。朝鮮半島に火種があり、米ロもしくは米中が政治的緊張感をもって対峙することこそ、安倍のような極右政権にとっては最も都合の良い情勢なのだ。


◎[参考動画]韓国KBS放送不可「朴正煕―岸信介の親書」ニュース打破(Changjong Kang 2015/11/14公開)

《関連記事》横山茂彦 半導体素材「禁輸措置」という国家的ヘイトクライムを強行した安倍政権こそが世界経済を混乱させ、国民経済を破壊させる!(2019年7月5日付けデジタル鹿砦社通信)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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半導体素材「禁輸措置」という国家的ヘイトクライムを強行した安倍政権こそが世界経済を混乱させ、国民経済を破壊させる!

◆危険な政策

日本政府は7月4日、韓国への輸出規制を発動した。半導体などの素材3品目を対象に輸出許可の手続きを厳密化し、事実上の禁輸措置を実行したのだ。スマートフォンやテレビなどの画面に使うフッ化ポリイミド、半導体基板に塗る感光材のレジスト、半導体洗浄に使うフッ化水素の三品目である。いずれも世界全体に占める日本の生産シェアが高い素材だ。

これによって、韓国のメーカーが材料不足で半導体などを作れなくなれば、韓国に部品をたよる家電メーカーのスマートフォンなどの製造も滞り、日本経済に深刻な影響が出るのは必至だ。IT機器を生産するサムソンなど、韓国の基幹産業ともいえる半導体事業が打撃を受けるのみならず、世界経済への影響も危惧されるところだ。あたかも、太平洋戦争におけるアメリカの対日石油禁輸のように、禁輸による経済的な打撃で、政治的に追い詰める。政治危機をつくることで「戦争か従属か?」という政治的な変化をあおる、危険な政策であるのは言うまでもない。

当初、韓国大統領府当局者は、日本政府の輸出規制についてこう語っていた。「(徴用工問題が原因だという見方は)メディアの解釈と理解している。あたかも日本政府の公式的立場のように仮定して話すのは適切ではない」と記者団に述べ、断定を避けていた(7月2日)。本当に実行するとは思っていなかった節がみられる。


◎[参考動画]【報ステ】韓国への輸出規制「世界的な産業に影響」(ANNnewsCH 2019/7/3公開)

いっぽう、成允模・産業通商資源相が7月1日の声明で、日本企業に元徴用工らへの賠償を命じた韓国最高裁判決を理由とした「経済的報復措置だ」と述べ、深い遺憾を表明していた。これに対して、大統領府は徴用工問題との関連付けに慎重な立場を示した格好で、事態の悪化を避けたい思惑があったようだ。

その後、日本政府の思惑が徴用工問題の報復にあることが明白となると、韓国政府も対応策を出さざるを得なくなった。すなわち、材料を国産化するための巨額投資を発表したのである。韓国大統領府と政府は、半導体素材・部品・装備の開発に、毎年1兆ウォン(およそ920億円)を集中投資する方針を明らかにしたのである(3日)。日本が輸出管理を強化した素材の国産化を進めることで、日本の圧力には屈しない姿勢を見せたかたちだ。

◆落胆と先行きへの懸念

以上は政府レベルでの反応だが、経済界はどうなのだろうか。経済同友会の桜田謙悟代表幹事は2日の定例会見で、日本政府が韓国に対し、半導体材料の輸出管理を強化する方針を発表したことについて「世界貿易機関(WTO)違反ではなく、政府のメッセージを韓国側が真摯(しんし)に受け止め、早期の2国間関係正常化につながることを期待している」と述べ、日本政府の対応に理解を示した。

今後、報復合戦になった場合の日本経済への影響については「仮定の話」と前置きした上で、「(半導体材料など)日本から韓国向けの輸出に対し、韓国からの輸出は少なく、日本企業への影響は大きな問題にはならない」と話し、軽微と分析していた。

日本商工会議所の三村明夫会頭も1日、「政府の措置は日韓関係を悪化させるためではなく、膠着状態を動かしたいという、ひとつの提案」と話した。その上で「課題解決に動こうとしない韓国側に大きな問題がある」とも指摘した。その背景に、徴用工問題・従軍慰安婦補償問題(謝罪問題)があり、日本政府のショック療法(禁輸措置)に理解をしめしたかたちだ。

しかし財界首脳の政府に配慮した発言はともかく、業界団体は深刻な声をあげている。大手の東京応化工業は「サプライチェーンへの影響を心配していたファーウェイ(中国通信機器最大手の)に対する制裁が今回緩和されただけに、落胆は大きい」(広報)と先行きに懸念を示した。

半導体基板上で回路形成に不要な部分を溶かすフッ化水素の大手、森田化学工業(大阪市)は「事前の書類提出などに手間がかかることが予想されるが、輸出を継続したい」(担当部署)との姿勢を示した。業界関係者は「オープンな自由貿易を求めてきただけに、規制の強化は残念だ」と一様に不安をのぞかせている。

◆韓国で懸念される国民レベルでの排日運動激化

経済評論家のあいだでは日本経済はもとより、世界経済にあたえる深刻な影響が危惧されている。すなわち、サムスン電子とSKハイニクス半導体メモリのトップシェアメーカーであることから、スマートフォン、PC、データセンター用のサーバー、各種のデジタル家電など、きわめて広範なエレクトロニクス機器の生産が打撃を受けるとしている。したがって、世界中のデジタル機器生産が部品供給の不足に陥り、世界経済におよぼす影響は計り知れないという。

いっぽう、韓国大統領府のウェブサイトには、自動車をはじめとする日本製品の不買や日本への旅行中止を国民に呼びかけ、さらに政府には、日本への関税報復を求める請願が寄せられた。すでに5,000人近くの賛同者が集まっていて、日本への反発が強まっている。ことは半導体にとどまらない、国民レベルでの排日運動も懸念される。

そもそも、徴用工問題は韓国の司法権の問題であり、日本政府が口出しをできるようなものではない。たとえば日本の裁判所が下した判断に、韓国政府が政治的な介入をもとめてきたら、日本政府は裁判所に「指揮権発動」でもするというのだろうか? 今回の措置はしたがって、あけすけにいえば日本には三権分立があるが、韓国にはないから素材の禁輸という経済制裁で「言うことをきかせる」というものなのだ。もはや国家のメンツを通りこした、国家的な「ヘイトクライム」にほかならない。

いずれにしても、自由貿易の原則をみずから掘り崩すことで、安倍政権は国民経済の破壊、ひいては世界経済の混乱をひきおこし始めたのである。経済が国際的な生産のつながりと流通で成り立っていることを理解できず、政治的なメンツを優先した結果、最悪の事態にむかって進もうとしている安倍政権を、これ以上のさばり続けさせるわけにはいかない。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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安倍イラン訪問と国益の危機 ── タンカーが攻撃されて戦争が起きようとしていた時、この男は何も出来ずに晒しものになっていた!

◆単に「会った」というだけの外交

帰国した安倍総理が、イラン訪問の「成果」を誇っているという。銀座のステーキ屋で森喜朗元総理らと会食し、「西側の首脳の中で(最高指導者の)ハメネイ師に会えたのは自分だけだ」と「成果」を誇示したというのだ。

自分の訪問中に日本の企業の船舶が「攻撃」され、帰国後にはアメリカの無人機偵察機が撃墜されるという交戦事態が起きた。これが偶発的なことではない証拠に、アメリカは戦争を準備していたのだ。帰国と入れ替えにアメリカによる「戦争の危機」が迫っていたというのに、この男はそれを「成果」だと言っているのだ。

つまり、国際的な政治危機のなかで、なんら具体的な政策を持たずにイランを訪問してみたものの、アメリカの説によればその訪問国によって自国のタンカーが攻撃され、みずから「同盟国」としているアメリカはイランを攻撃しようとしていたのだ。悪くすれば、アメリカとイランが戦争を始めているなかで、安倍は出国できなくなる可能性すらあったのである。


◎[参考動画]“仲介役”の安倍総理 イラン最高指導者とも会談(ANNnewsCH 2019/6/13公開)

◆訪問が戦争への「最後通牒」になっていた可能性も

そもそも今回のイラン訪問の最大の目的は、アメリカとイランの「対話」を仲介することだった。そしてそれは、ハメネイ師によって明確に否定されたのだ。「アメリカは体制転覆を狙う意図を持っていない」というトランプ大統領のメッセージが、安倍首相を通じてイラン側に伝達された。これに対してハメネイ師は「アメリカは体制転覆の意図を持っていないのではなく、体制転覆を引き起こす能力を持っていないだけだ」と喝破したという。

「トランプはメッセージをやりとりするには、ふさわしい相手ではない」(ハメネイ師)と言うのを、黙って聞いているしかなかった安倍総理が「日本外交の成果」などと言えたものか。もしも20日のイラン攻撃が中止(10分前にトランプがビビった)されていなかったら、安倍総理は「西側の首脳の中で(最高指導者の)ハメネイ師に最後通牒を伝えたのは自分だ」ということになっていたはずだ。植民地国のかいらい政権よろしく、アメリカの「特使」のような立場でイラン訪問をしていたことになる。

アメリカは10年に一度は戦争をしないと成り立たない、軍産複合体(産業関係者は家族をふくめると3000万人で、人口の11.5%にあたる)を、その社会に抱えている国家だ。戦争が産業であり、戦争をやめてしまうと失業者が出る戦争国家なのだ。したがってその外交は平和を維持するためにものではなく、戦争を生じさせるために緊張感を高める役割をもっている。今回、安倍総理はアメリカの戦争のためにイランを訪問した。その本質をあますことなく暴露するものとなった。

◆歓迎されてあたりまえの日本とイランの関係

イランは親米だったパーレビ国王を倒したイスラム革命(「アメリカに祖国を売るシャーに死を!」)から40年である。反米思想は社会の隅々にまで浸透している。中東諸国では初等教育時から広島・長崎の原爆投下の残虐性が教育されているという。トルコやイランなど、中東諸国が日本に友好的なのは、ロシアの脅威を日露戦争が取り除いたことに始まり、イランにおいては日章丸事件での日本の原油輸入によるものだ。

すこし解説しておくと、1953年当時イギリスが支配権を継続していたイランの原油を、出光石油の日章丸が海上封鎖をくぐりぬけて日本にもたらしたもので、イギリスの植民地支配を最終的に終わらせる結果となった。いわばイラン独立を日本が支援したといえるのだ。

こうした両国の歴史から、安倍総理が歓待されるのは当たり前のことなのである。出光佐三および出光計助ら当時は中小企業にすぎなかった出光石油の功績によるものなのだ。イランをよく知るジャーナリストによると、1991年湾岸戦争直後に、イラン領内に逃れたクルド難民支援をしているNGOに携わるボランティアとしてであったが、「日本は、次はいつアメリカと戦うんだ、次回は事前にイランにも教えてくれよ」と事あるごとにイラン人に言われるのに閉口したという。

そんな反米思想をもっているイランに、こともあろうか安倍総理はアメリカの手先として訪問したのである。トランプが離脱した核合意など、もっぱらアメリカへのおもんぱかりで、日本のイランからの原油輸入はかつての30%近くから一桁にまで減っている。その分、サウジなど価格の高い国から買わざるをえない、国の損益を招いてきた。安倍外交は、まさに国益を損ずることにのみつながりそうだ。

日本の貿易会社がチャーターしたタンカーが攻撃をうけても、ソマリアに派遣されている自衛隊護衛艦あさぎりは動かなかった。アメリカが派遣している空母打撃団がイランに攻撃されたら、どう動くのだろうか?

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
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見当ちがいの年金改革 在職老齢年金制度(減額制度)の見直しとは? 

厚生労働省は、給与のある高齢者にたいする「在職老齢年金制度」の廃止・縮小を検討する方針を決めた。給与を得ている年金対象者が、年金を減額されることから、働かなくなるのを防止するための措置である。

具体的に、現状の制度をみてゆこう。60歳以降で給与と年金の合計が28万円を超えると、超過分の半額を年金から差し引くことになる。たとえば給与が20万円で年金が14万円の人の場合、34万円-28万円=6万円÷2=3万円。つまり3万円が年金から差し引かれ、手取りは28万円+3万円で、収入31万円ということになる。だったら、給与を17万円に抑えようということになるかもしれないが、この程度なら気にすることもないはずだ。

給与が35万円、年金が25万円の場合はどうだろう? 35万円+25万円で60万円の収入がある人は、60万円-28万円=32万円÷2=16万円で、収入が44万円ということになるはすだが、そうではない。現行制度では60歳以上で47万円を超える場合は、超過分の全額が差し引かれるので、60万円-47万円=13万円(超過分)で、60万円-13万円となり、収入47万円ということになる。60万円が47万円になるのだから、35万円も稼がずに22万円でいいや、となるかもしれないのだ。ちなみに、65歳以上は47万円から半分減額である。減額されるのなら、仕事を辞めようと思うかもしれない。

◆5人に1人の「減税」措置

そこで減額制度の廃止・縮小をとなってきたわけだが、これは実態をかけ離れているのではないだろうか。60歳以上64歳までで現行制度の対象になっているのは約88万人、65歳以上では36万人である。人口比では、ほぼ五分の一と考えていいだろう。つまり5人に1人のための減税措置なのだ。思わず減税措置と書いてしまったが、年金を減額しないということは年金拠出の増加である。その年金が税収から捻出せざるをえない将来を考えると、これは明らかに高額所得層への「特定減税」であろう。そしてこの年金減額分の見直しでは、1兆円の拠出が見込まれているという。将来世代の年金の食いつぶしである。

考えてもみてほしい。ふつうのサラリーマンは定年後、企業に嘱託として残る道しかない。現役時代に額面40万円だった給与は20万前後に減額され、諸手当も出なくなる。いや、いまどき額面40万円というのは大手企業、および大手の傘下にある中堅企業であろう。中小零細のサラリーマン・労働者は年収300万すなわち25万前後の給与がふつうではないか。いや、40歳代のロストジェネレーション世代においては、時給1000円すなわち年収200万弱、月額給与15万円がいいところではないだろうか。つまり年金改革は社会のうわずみの人々を対象にしたものにすぎないのだ。

◆年金制度は国が補償せよ

現行の年金制度では、定年後2000万円が別途に必要になると政府は言う。国は面倒をみきれないから、若いころから投資運用などで蓄財をはかれというのだ。失敗つづきの年金基金の株式運用を真似ろというのだろうか。蓄財をはかれという方針自体、消費の低下をうながす経済政策にほかならない。物価は徐々に上がっている。しかるに給与は企業の内部留保(400兆円)によって抑えられたままだ。これで景気が良くなるはずはないのだ。

われわれ国民は、破綻に瀕している年金制度を「保証」せよとはもう言わない。国民の生活を年金で「補償」しろと言っているのだ。なぜならば、政府はそれ自体、そもそも国民の税金で成り立っているのだ。政治家はもとより、省庁の官僚・職員・自治体職員は、国民への公共サービス産業の従業員なのである。税収が途絶えれば、即座に食い扶持をうしなう公共サービスの役人・政治家たちが高給を取りながら、働き手である国民の年金の増減を操る構造こそ、おかしなものではないか。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
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秋篠宮が会見 小室さん問題の迷走と皇位継承問題

秋篠宮が会見をひらいた。27日からの海外公式訪問(ポーランド・フィンランド)を前に会見されたわけだが、注目されたのは、もちろん小室圭さんと眞子内親王の婚約問題についてである。「結婚の件については、わたしは娘から何も聞いていません」というものだった。昨年の「それ相応の対応をしなければ」「国民に理解されない状態では納采の儀もみとめられない」から比べると、いくぶん穏やかな雰囲気だった。しかし、何も聞いていないというのは、ふつうの家庭では考えられないことだ。皇族の中でも自由な家庭を築こうとしてきた秋篠宮家において、親子の会話がないことが端無くも露呈したかたちだ。


◎[参考動画]秋篠宮ご夫妻が会見 代替わり後初の外国訪問を前に眞子さま結婚見通し語る(テレ東NEWS 2019/6/21公開)

◆天皇家と秋篠宮家を両天秤にかけるメディア

秋篠宮家をめぐる報道は、小室さん婚約問題にかぎらない。悠仁親王が通うお茶の水大学付属中で起きた「刃物事件」が、秋篠宮家の自由主義的な教育方針による結果で、学習院に通わせていれば事件は起きなかった。佳子内親王のダンス好き、あるいは眞子内親王の恋愛が本人の希望通りにと発言したことへの批判などというかたちで、バッシングに近いものとなってきていた。婚約問題、教育問題にかぎらず、秋篠宮家の「公私」の厳格な分け方に、宮内庁の関係者も戸惑うことが多いという。ぎゃくにいえば、ふつうの家庭を築こうとする宮家に、それは許さないという宮内庁関係者の思惑が、メディアを通じて圧力をかけているとも考えられる。

そしてこの秋篠宮家批判は、天皇陛下と雅子皇后を称賛する報道、とくに雅子皇后の外交力(トランプ夫妻歓待での英語での接待など)を称賛し、返す刀で対照的に秋篠宮家を批判するというパターンで繰り返されてきたのだ。これはこれで、即位まではどちらかといえば雅子皇后(当時は皇太子妃)が適応障害で仕事を果たせず、なんとなし天皇(当時は皇太子)に批判的な論評が多かった反動で、こんどは天皇皇后夫妻を評価する半面、何かと自由な発言をする秋篠宮家を叩くという、メディアの話題づくりによるものだ。

◆恋愛の自由、教育の自由が天皇制を崩壊させる

とはいえ、小室さん問題が象徴天皇のアイドル的な側面において、きわめて注目にあたいするテーマであるのは確かで、国民的な興味の的というわけである。本欄では、皇室の民主化・天皇制の民主化(自由恋愛・自由教育)が、それを徹底することで政治権力と天皇家、国事行為と私的行為の矛盾が拡大すること。したがって、天皇家の文化的な性格を政治から分離し、非政治化することが不可能ではない。そしてその過程で天皇家が首都をはなれて本来の御所である京都を住まいとし、あるいは政治(政府と国会)が天皇家を必要としなくなる可能性。つまり天皇制が廃止されることまで展望できると考えてきた。

皇室の民主化とは、たとえば新天皇による剣璽等継承の儀に、女性閣僚(片山さつき地方創生担当相)は参列したのに、皇室の伝統は女性皇族を参列させなかった。つまり国民感覚とはかけな離れた旧皇室典範によって、信じられない光景が現出したのだ。これは眞子内親王の自由恋愛問題と同根である。ふつうに恋愛をしようとしたら、相手の母親に「借金」があるから許されないというのだ。ふつうの自由主義を貫こうとしたら、かならず天皇および天皇制の枠組みに触れてしまう。そこから天皇制が崩壊する可能性がある。口先だけで、天皇制廃絶などとくり返すよりも、天皇および天皇家を徹底的に民主化する、憲法上の矛盾すらも民主化することによって、それは大いに可能なのだ。

◆兄弟の確執が背後に?

さて、今回の会見で秋篠宮は、宮家の当主としてよりも皇位継承権第一位(皇嗣)の立場から、無難にこなしたというのが実際のところだ。それはとりもなおさず、秋篠宮家バッシングとでもいうべきメディアの攻撃を避けつつ、眞子内親王への批判を緩和し、悠仁親王の皇位後継者としての資格に曇りがないように配慮したとみるべきであろう。

秋以降、安倍政権は女性皇族の扱い、とりわけ女性宮家の可否について国民的な議論をしなければならないと提唱している。それは当然のことながら、女性天皇という最大の案件をけん制してのものである。今後、愛子内親王を皇位継承者とするのか、それとも悠仁親王を継承者とするのかについても、国民的な議論をへなければ立ち行かない皇室の事情がある。この議論の背景に、天皇と秋篠宮の隠然たる確執があるからだ。

◎[参考記事]
秋篠宮さまの注目会見、即位に関し意思表示した場合の波紋(2019年6月17日付け女性セブン)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

創業50周年!タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』7月号
〈原発なき社会〉を目指して創刊5年『NO NUKES voice』20号!【総力特集】福島原発訴訟 新たな闘いへ

しばき隊リンチ事件をめぐる松岡利康氏と前田朗氏の相論 ── 論点の整理、および事件の解決・和解のために 横山茂彦

本欄をご愛読の方々は、すでに「しばき隊リンチ事件」およびそれに付随した論争はご周知のことと思います。Mさんリンチ事件の民事裁判は最高裁まで争われ、下級審控訴審判決どおりMさんの勝訴で決着した(2人の被告に114万円余の賠償金)。刑事事件も同様に、被告2人に有罪罰金刑となっている。不十分ながら、被害者が勝訴したのは幸甚です。

それはともかく、当該リンチ事件に批判的だった(「救援」紙に2度の論考を掲載)前田朗さんが、しばき隊の「関係者」とイベントで同席することに関して、鹿砦社の松岡利康さんから批判があった。

その件で双方の応酬があり、本欄はしばらく論争の場と化した(前田さんは、ご自身のブログで応答)。これを揶揄して「リンチ事件の場外乱闘」などと評すことはできない。言論人としての誠実さ、論旨の精緻さが問われる論争であって、そこから「リンチ事件」の本質を抽出し、その解決、謝罪や和解にむけた道筋を明らかにする内容がもとめられたはずだ。これは今も変わらないだろう。

「鹿砦社・松岡利康さんへのお詫び」(2019年6月13日付け前田朗氏ブログ)

3度にわたる応酬ののち、前田さんから松岡さんへの「お詫び」が明らかにされた。前田さんが「(鹿砦社の)炎上商法」と揶揄した批判が、不適切だったというものだ。その他の論点には触れられていない。したがって見解は変わらないものと理解します。

謝罪した前田さんの誠実さは、本欄での論争の帰趨を落ち着いたものにした。しかし前田さんが「資格がない」として今後の発言を自制されたのは、ちょっと残念なことである。というのも、いくつかの点で誤解や性急さがあり、事件の本質および「謝罪」あるいは「和解」への脈絡が閉ざされたやに感じられるからだ。

前置きはこのくらいにしたい。じつは松岡さんからわたしに、第三者的な意見をという要請があり、不肖ながら論点の整理をしようと思った次第である。およそ論争というものは論軸を逸らしたり、別の議論にすり替えたりしてしまうと、何も生み出さない。批判のための批判、収拾のつかない言い合いになってしまうからだ。今回はそんな様相(第三者への批判のひろがり)を見せながらも、前田さんの真摯な態度で論争は「中断」した。いずれふり返られて、反差別運動への何らかの教訓が提言できれば良いのではないか。

ともあれ、ここでは松岡さんと前田さんの議論にかぎって論点を整理し、読者諸兄姉の解読の一助となるのを目的にしたい。それがリンチ事件の解決・和解に向かう道筋の糸口になれば幸いである。ただし論争のジャッジメントではなく、あくまでも現在のわたしの批評にすぎない。読者諸兄姉のご批評をたまわれば幸甚です。

そこで論点を拾ってみたが、細かい点はともかく、わたしが気になったのは以下の3点、いずれも前田さんの論点およびわたしが読み込んだ論点である。

《1》処分なしの判決が出たのだから、李信恵さんのリンチ事件関与はなかったのか?

《2》たとえリンチ事件に関係する団体の関係者でも、同席することに問題はない

《3》被差別当該・複合差別の当該は、無条件に擁護するべきか

このほかに前田さんが云う、リンチは複数犯であることが構成要件との認識は論外であり、また判決は複数被告に有罪であるから、前田さんの論法をもってしても「リンチ事件」であるのは明白で、あえて論点とはしなかった。

◆《1》処分なしの判決が出たのだから、李信恵さんのリンチ事件関与はなかったのか?
  ── 法的責任はなくとも、リンチ事件への関与は批判されるべきである

前田さんは「李信恵さんについて言えば、共謀はなかったし、不法行為もなかったことが裁判上確定しました」(第1回返信)「受け入れがたい事実であっても、双方の立証活動をふまえた上で裁判所が下した判断が確定したのですから、社会的に発言される場合には、確定した事実をもとに発言されることが肝要です」(第2回返信)と述べている。

これでは、すべての事件・社会問題の解決は裁判所の判断にゆだねるべきで、事実誤認があっても受け容れよということになる。前田さんは「批判は自由だ」としながらも「社会的に発言される場合には、確定した事実をもとに発言されることが肝要」と云っているのだ。これは肯んじかねる。

松岡さんの反論はこうだ。

「先生は裁判で私たちの主張が否定されたのだから、これに従うようにと諭されています。しかし、住民運動や反原発の運動で、ほとんど住民側が敗訴し、裁判所の周りでがっかりしている住民の姿をよく見ますが、これでも裁判所がそう判断したのなら従えとの先生のご教示は同義だと思います」

松岡さんが指摘するとおり、前田さんは不当判決とされるものも「確定した事実をもとに発言」するべきだというのだろうか。この論法だけ切り取っていえば、袴田巌さんは有罪、狭山事件の石川一雄さんも有罪ということになる。裁判所の政治権力寄りの、あらゆる不当判決を是認することになるではないか。被害者側の視点・立場が欠けているから、このような裁判所無謬論とでもいうべき立論に陥ってしまうのだ。

前田さんは「この件で『冤罪』と言えるのは李信恵さんだけ」というフレーズを入れている。まさに李信恵さんの立場に立ってのみ、この裁判を見ていたのではないだろうか。

裁判判決が不当なものであれば、判決を批判するのは当然のことである。必要ならば再審を訴えることで、被害を回復するのも当然の権利である。そのための大衆運動は、これまでにも多くの被害者たちが行なってきた。それを知らない前田さんではないはずだ。一般論になってすみませんが、そのうえで加害者には道義的責任も問われるべきである。

前田さんも、李信恵さんの道義的責任を指摘している。

「法的責任はないとしても、道義的責任は残り、かつ大きいはずだと考えます。その意味で『救援』記事を訂正する必要はありません。関係者の行動にはやはり疑問が残ると言わなければなりません」

前田さんの「救援」の記事中、李信恵さんの道義的責任に関する箇所は以下のとおりだ。

「C(李信恵=引用者)をヘイト団体やネット右翼から守るために、本件を隠蔽するという判断は正しくない。Cが重要な反ヘイト裁判の闘いを懸命に続けていることは高く評価すべきだし、支援するべきだが、同時に本件においてはCも非難に値する」

そう、李信恵さんは、本件については非難に値するのだ。したがって法的には無罪が確定したとしても、道義的責任は相互の論争の場において、あるいは表現の場において批判に晒されるべきであろう。言論において判決に従がう必要などまったくないのだ。そうであればこそ、前田さんが「救援」で述べられている内容は「社会的に発言される場合には、確定した事実をもとに発言されることが肝要です」という教示とは明らかに矛盾し、みずからMさんの立場から李信恵さんらを批判しているのだ。 

◆《2》たとえリンチ事件に関係する団体の関係者でも、同席することに問題はない
  ── 論者には多面性がある

もともとこの論争は、松岡さんの側から前田さんがイベントで、事件に関係する団体の関係者3人と同席することへの批判だった。関係者の個々の関与については、寡聞にしてよく知らないので、かなり一般論に傾くことをご容赦ねがいたい。

わたしの立場は、たとい暴力事件に関わっていたとしても、表現の場は保障されなければならないというものです。ただし大衆運動の局面では、今回のようなイベントの場合はとくに、主催者および当該団体が出席の可否を判断するべきだと考えます。そこには生身の人間が介在するからだ。しかし、表現の場では自由でいいのではないか。

じっさい、わたしが編集している雑誌に、しばき隊の運動に過去に参加した論者が社会運動に関する論考を発表している。そのことについて、松岡さんから批判を書かせて欲しいとの要請があり、これを了解している。当該の論考には書かれていない事実についての批判になりそうなので、これには事実関係のみを先方に確認してもらう作業が必要となる。もちろん批判された論者にも、反論の場を提供するつもりだ。論争は事実関係が鮮明となり、論点が明確になる貴重な成果が見込めるからこそ、誌面を解放する意義があるのだ。したがって、事件に関与したから排除する、あるいは同席しないという立場は、わたしは採らないのです。

そこで、前田さんの見解を引用させていただくが、これには大いに賛成せざるを得ない。

「人間人格は多面的であり、決して一次元的ではありません」「社会的には立派な医者や弁護士と思われていても、自宅ではDVに励んでいる夫がいるのではありませんか。道徳教育の重要性について熱弁を振るっている政治家が、セクハラ常習犯というのは良くある話です。世の中には、マイノリティ女性に激しい憎悪むき出しでストーカー状態になっている人物が、孤立した被害者救済のために立ち上がった義侠心溢れる好漢ということもあるかもしれません」「一面を取り上げて鬼の首を取ったように決めつけ、全否定する論法は時として誤りにつながることもあるのではありませんか。人は多面的であり、しかも可変的でもあるのです」(第3回返信)

松岡さんは今回の事件に関連して、長らく仕事をともにしてきた方と訣別しなければならなかったと云われています。個々のケースがあるので一概には言えませんが、わたしはそうはしなかっただろうと思います。出版活動・出版事業はどこまでも理論闘争であり、相手を排除するのは政治闘争だと思うからです。

今回のリンチ事件は、加害者側が隠ぺいをするという政治的な対応をしてきたので、いきおい政治的な応酬(排除・訣別)となったのはやむを得ない。ことは運動内部の暴力であり、なかったことにするのは運動に対する無責任、事件を見ないふりをするのは思想的な頽廃です。

ひるがえって、排除や訣別も相互討論の放棄につながりかねない行為だと思います。被害者のMさんの闘い、鹿砦社と松岡さんの支援の闘いを支持しつつも、前田さんの見識に理があると考えました。もうひとつ付言しておけば、出版・編集という立場は、出版権・編集権という権力を持っています。政治的な対応はきわめて慎重を要し、抑制的にすべき立場にあるのだと思います。

◆《3》被差別当該・複合差別の当該は、無条件に擁護するべきか

このテーマは、一般的な運動論になります。

前田さんの論調には、李信恵さんの差別との闘い、とくに「複合差別」との闘いを「無条件に」高く評価するべき、との力点が感じられました。前田さんをして、今回の事件をめぐる論点を曖昧にしたものがあるとすれば、この力点ではないでしょうか。わたしは《2》に挙げた人間の多面性の観点から、李信恵さんの闘いは評価すべきだと思います。その意味では「救援」の論考を撤回せずに、李信恵さんをリンチ事件では批判するが、在日差別・反ヘイトクライム運動においては評価する立場はあるのだと思います。ただし、それに参加したくなるかどうかは、また別問題です。

わたしが高校生のころの話です。東京で朝鮮高校の生徒と国士舘高校・大学の学生が駅頭や列車内でくり返し乱闘となり、日本人の左翼系の高校生・学生のなかで「無条件擁護闘争」が起りました。乱闘の間に割って入り朝鮮高校生を無条件に護る、ようするに代わりに殴られるというものです。わたしの地元である北九州は在日朝鮮韓国人が多く、地元の不良高校生との喧嘩が少なくありませんでした。大学の学生活動家から一緒に「無条件擁護闘争」をやらないかと誘われたことがありました。

しかし北九州の実態は、朝鮮高校生からわたしたちが強喝されるのが日常茶飯事で、とくにわたしが通っていた高校はいわゆる坊ちゃん学校だったので、喧嘩の強い朝鮮高校生たちに角帽を奪われる(戦利品?)事件が頻発していました。とても「無条件擁護闘争」など参加する気分になれなかったものです。たったひとりでも、同世代として声を交わし合う朝高生がいれば、殴られるだけの闘争に参加したかもしれない。そんなことを後年、筑豊出身の在日の方と飲みながら話した記憶があります。無条件擁護はあってもいいと思うが、現実にはその運動に魅力があるかどうかではないでしょうか。

今回のリンチ事件を、運動の関係者がいち早く隠ぺいに動いたのには、理由があったはずです。運動内部の暴力が露顕すると、運動の広がりが阻害されると考えたからにほかならない。それはしかし、運動の発展をみずから阻害することでしかありませんでした。

暴力事件が起きたのは残念ながら仕方がないとしても、それを謝罪・反省することなく隠蔽しようとしたところに、浅薄で取り返しのつかない問題があると指摘しておきましょう。そこには運動は簡単に操作できる、政治工作で人を操れるという安易さ、社会運動のいちばん悪い面が凝縮しているからです。そんな人を騙すような体質の運動に、人を参加させる魅力があろうはずはありません。

社会運動がつねに清く正しくとは思いませんが、困難ながらも関係者が当初の「謝罪」に立ち返り、和解への途を模索することこそ、運動のおおらかな発展につながると確信してやみません。

[参照記事]
◎松岡利康【カウンター大学院生リンチ事件】前田朗教授の豹変(=コペルニクス的転換)に苦言を呈する!(2019年5月24日付けデジタル鹿砦社通信)

鹿砦社・松岡利康さんへの返信(2019年5月26日付け前田朗氏ブログ)

◎松岡利康【カウンター大学院生リンチ事件】前田朗教授の誤解に応え、再度私見を申し述べます (2019年5月28日付けデジタル鹿砦社通信)

鹿砦社・松岡利康さんへの返信(2)(2019年6月1日付け前田朗氏ブログ)

◎松岡利康【カウンター大学院生リンチ事件】「唾棄すべき低劣」な人間がリーダーの運動はやがて社会的に「唾棄」される! 前田朗教授からの再「返信」について再反論とご質問(2019年6月4日付けデジタル鹿砦社通信)

鹿砦社・松岡利康さんへの返信(3)(2019年6月9日付け前田朗氏ブログ)

◎松岡利康【カウンター大学院生リンチ事件】前田朗先生、私の質問に真正面からお答えください! このリンチ事件をどう本質的に解決、止揚するかが社会運動の未来のために必須です(2019年6月13日付けデジタル鹿砦社通信)

鹿砦社・松岡利康さんへのお詫び(2019年6月13日付け前田朗氏ブログ)

◎松岡利康【カウンター大学院生リンチ事件】前田朗教授が「お詫び」ブログを公開! 私との公開書簡も、私の質問に答えず一方的に「終了」宣言。はたしてこれでいいのでしょうか?(2019年6月17日付けデジタル鹿砦社通信)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)
 

M君リンチ事件の真相究明と被害者救済にご支援を!!

〈原発なき社会〉を求めて 創刊5周年『NO NUKES Voice』20号 本日発売!

◆《総力特集》福島原発訴訟 新たな闘いへ

 
本号グラビアより(写真=大宮浩平)

記念すべき『NO NUKES voice』創刊5周年第20号である。

《総力特集》の冒頭は福島原発かながわ訴訟の判決(2月20日)について開かれたシンポジウムの報告、弁護団事務局長の黒澤知弘さんの講演録である。原告175人のうち、当時福島にいなかった原告、まだ生まれていなかった原告、あわせて23人が棄却されたが、152人の原告については基本的な勝訴を勝ち取ったことを、以下の3点で評価した。国の賠償責任が認められたこと、損害賠償金は地域によって差が出た。しかし、避難指定区域外の「ふるさと喪失慰謝料」には差が出た。そして避難指示の有無が判決を左右したことには、指示の合理性がもっと問題にされるべきだという。

つづいて講演した小出裕章さん(元京大原子炉実験所助教)は、裁かれるべきは原発を認めた国の責任であるとして、「技術的には想定不適当」が前提でありながら、立地の基準が大都市ではなく地方であること。「原子炉立地審査指針」に原発の不平等があると指摘。いままた破局事故を前提とした「規制基準」で原発を再開し、海外に売り出そうとしている。いまや原子力ムラは無法で責任を取らない「原子力マフィア」であると喝破した。

崎山比早子さん(3・11甲状腺がん子ども基金代表理事)は、しきい値なし直線(LNT)モデルを社会通念に! と題して講演した。LNT(直線性)とは、放射線が一本通ってもDNAの複雑損傷があり、変異細胞の複製が行なわれる可能性があること。したがって放射能に安全な量はないと解題した。kの点に関しては、崎山意見書に対する研究者17人の反論が、学界主流派の意見に過ぎず、新たな研究成果が出てきていることに注目すべきだという。

さらに村田弘さん(福島原発かながわ訴訟原告団団長)から、裁判で被害者は本当に救済されるか? と題した講演が行われた。記事中に判決の概要(賠償金)の表を収録。判決を左右する「社会通念」は、裁判官の頭の中の通年であって、科学的なデータを退けるものになっている。いや、原発事故後に変わったはずである。

◆「子ども脱被ばく裁判」で被ばく問題の根源を問う井戸謙一弁護士

 
井戸謙一弁護士

「子ども被ばく裁判」に関しては、井戸謙一さんのインタビュー記事である。インタビューでは、福島の被ばく問題のほかに、大間原発に対する函館市の原告訴訟(東京地裁/被告は国)、住民原告の訴訟(函館地裁/被告J・POWER)にも触れられ、函館市長はいわゆる革新ではないが、原発に左右はないと語っている。さらに井戸さんは、湖東記念病院事件(2003年に植物状態の患者の人工呼吸器チューブを引き抜いて、殺人罪で懲役12年の判決)の再審が勝ち取られたこのにも触れている。

◆現地福島の現在と過去を徹底検証する「民の声新聞」鈴木博喜さんと伊達信夫さん

鈴木博喜さん(「民の声新聞」発行人)の報告記事は、「原子力緊急事態宣言」発令から3000日、福島県中通りの人々の葛藤と苦悩である。「もしも、あなたが福島県内に住んでいて、こういう状況(原発事故による 放射能汚染)に直面した場合、自分の奥さんが妊娠したらどうしますか? 産むなと言いますか? そもそも、奥さんが子どもを欲しがったとしても被曝リスクを理由に子作りをあきらめますか?」という問いかけに、イエスかノーか明快に答えられる人がどれだけいるだろうか。この問いを鈴木さんにぶつけたのは、東電を相手取って損害賠償請求訴訟を起こしている「中通りに生きる会」の原告だったという。裁判に密着したレポートは、住民たちの声を生々しく伝える。

伊達信夫さんの連載レポートは、『徹底検証「東電原発事故避難」これまでと現在〈4〉なぜ避難指示範囲は広がらなかったのか』である。テーマを事故当日(3・11)に立ち返って、避難指示および避難行動、政府の動きを詳細に検証している。さらに将来の原発事故にそなえて、100km以上避難することを前提に、準備できることを挙げている。

鈴木博喜さん「『原子力緊急事態宣言』発令から3000日 福島県中通りの人々の葛藤と苦悩」より

◆尾崎美代子さんの飯舘村報告『原子力ムラに牛耳られた村・飯舘村の「復興」がめざすもの』

 
尾崎美代子さん(「集い処はな」店主)「原子力ムラに牛耳られた村・飯舘村の『復興』がめざすもの」より

尾崎美代子さん(「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主)の報告記事は、『原子力ムラに牛耳られた村・飯舘村の「復興」がめざすもの』である。福島県飯館村では、3月の議会において「ふるさと納税」で総額3000万円のブロンズ製ベンチを購入することで紛糾した。菅野典雄村長の肝いりで、これまでに同じ制作者による作品に6000万円がつぎ込まれてきたという。

その一方で、復興の目玉とされてきた道の駅「までい館」は、これまで3900万円の赤字で、村から新たに3500万円追加融資が決まっている。もともと「までい館」はこれといって陳列できる特産品もないのに、赤字覚悟で建設されたものだという。この村長の独善性は、原発ムラの研究者たちの「復興計画」とリンクしているのだ。除染、復興をキーワードに、原子力ムラの研究者たちが自治体を取り込んでいく策謀には驚かされる。

◆本間龍さんが『元号号外を仕切った電通の力と「#自民党2019」』のプロパガンダを読み解く

本間龍さん(著述家)の「原発プロパガンダとは何か? 第15回」は、『元号号外を仕切った電通の力と「#自民党2019」』である。号外にヤフー広告が大きく掲載されていたのは、電通の仕掛けだった。メディア支配をさぐり、アーチストを取り込んだ「♯自民党2019」のHPは、新たな支持層の視野に入れてのものだと、本間さんは指摘する。

◆山崎久隆さん、三上治さん、板坂剛さん、山田悦子さん、佐藤雅彦さんの強力連載陣

山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)のレポートは『重大事故対処施設がないのに運転する原発 福島第一原発事故の教訓はいずこに?』である。新規制基準の問題点が明らかにされている。

三上治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)の『淵上太郎よ! 正清太一よ! ありがとう。僕はもう少しここで闘うよ』は、平成から令和への改元・代替わりを枕詞に、表題の二人、淵上さんと正清さん(テントひろばの代表)への追悼文である。周知のとおり、三上さんをふくめた三人は60年安保の闘士であり、2006年に9条改憲阻止の会で再結集し、3・11以降は福島現地への物資の輸送、経産省前のテントと運動を拡げてきた仲である。

板坂剛さん(作家・舞踏家)の悪書追放キャンペーンは、ケント・ギルバート著「やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人」(PHP研究所)だ。自虐と被虐をSM文化としてとらえ、日本文化の被虐性が美しい理由を、ケント・ギルバートは理解できないという論点はおもしろい。

山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)の連載は4回目。『わかりやすい天皇制のはなし』だ。天皇の称号が古代中国にさかのぼり、日本がそれを拝借したのはあまり知られていない史実だろう。

佐藤雅彦さん(翻訳家)は『原発と防災は両立しない! 原子力帝国下では「消防防災」組織そのものが“災害源”になるのだ』で原発防災の矛盾を撃つ。

◆本誌5周年20号の歩みとたんぽぽ舎30年の軌跡

 
今年設立30周年を迎えたたんぽぽ舎の共同代表のお二人、鈴木千津子さんと柳田真さん(写真=大宮浩平)

松岡利康さん(創刊時編集長/鹿砦社代表)は『本誌二〇号にあたって』で、本誌創刊当時をふり返る。チェルノブイリの時は対岸の火事のように感じていたが、そのことで3・11では「罪悪感」すら覚えたという。創刊当初の販売の苦労、反原連との絶縁、小島新編集長での再出発、精神的な支柱だった納谷正基さんの逝去など、本誌の歴史が語られている。5年間で20号は、まさに継続は力なりを感じさせる。これを新たな出発点に、わが国で唯一の反原発雑誌の発展を祈念したい。

今号は記念的な記事が重なった。
『たんぽぽ舎〈ヨコの思想〉三〇年〈1〉はじまりの協同主義』は、たんぽぽ舎の共同代表、鈴木千津子さんと柳田真さんの対談で、1979年からの歴史をふり返る。お二人の経歴が興味ぶかい。聞き手は本誌小島編集長。この対談は連載になるようだ。9月22日に「たんぽぽ舎30周年の集い」が開かれるという。

全国各地から現地の声を伝える「再稼働阻止全国ネットワーク」の記事も本号は11本+1本で頁増・盛り沢山だ。というわけで、記念すべき『NO NUKES voice』20号はこれまで以上に充実の内容である。売り切れないうちに、ぜひご購読を。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

本日発売!〈原発なき社会〉を求めて 創刊5周年『NO NUKES voice』20号

NO NUKES voice Vol.20
紙の爆弾2019年7月号増刊 6月11日発売!
A5判 総132ページ(本文128P+巻頭カラーグラビア4P)
定価680円(本体630円+税)

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総力特集 福島原発訴訟 新たな闘いへ
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[グラビア]
なぜ立憲民主だったのか? おしどりマコさん直撃インタビュー/
「日本版チェルノブイリ法」の制定を! 12回目の「脱被ばく実現ネット」新宿デモ/
福島原発集団訴訟──民衆の視座から

[シンポジウム]福島原発集団訴訟の判決を巡って
[講演]黒澤知弘さん(かながわ訴訟弁護団事務局長)
福島原発かながわ訴訟・判決の法的問題点

[講演]小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
巨大な危険を内包した原発 それを安全だと言った嘘

[講演]崎山比早子さん(3・11甲状腺がん子ども基金代表理事)
しきい値なし直線(LNT)モデルを社会通念に!

[講演]村田 弘さん(福島原発かながわ訴訟原告団団長)
原発訴訟を闘って──裁判で被害者は本当に救済されるか?

[インタビュー]井戸謙一さん(弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」は被ばく問題の根源を問う

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
「原子力緊急事態宣言」発令から三〇〇〇日 
福島県中通りの人々の葛藤と苦悩

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈4〉
なぜ避難指示範囲は広がらなかったのか

[報告]尾崎美代子さん(「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主)
原子力ムラに牛耳られた村・飯舘村の「復興」がめざすもの

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとはなにか〈15〉
元号号外を仕切った電通の力と「#自民党2019」

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
重大事故対処施設がないのに運転する原発
福島第一原発事故の教訓は何処に

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
淵上太郎よ! 正清太一よ! ありがとう。僕はもう少しここで闘うよ

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
悪書追放キャンペーン 第3弾!
ケント・ギルバート著『やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人』(PHP研究所刊)

[報告]松岡利康(創刊時編集長/鹿砦社代表)
本誌二十号にあたって

[対談]鈴木千津子さん(たんぽぽ舎共同代表)×柳田 真さん(たんぽぽ舎共同代表)
たんぽぽ舎〈ヨコの思想〉三〇年〈1〉はじまりの協同主義

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈4〉わかりやすい天皇制のはなし

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
原子力帝国下で「消防防災」組織そのものが“災害源”になる

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
九州電、関西電、四国電が特定重大事故等対処施設(特重)の完成が間に合わないと表明! 
日本の原発を止められるチャンスがやってきた!
《首都圏》柳田 真さん/《東海第二》大石光伸さん/《青森》中道雅史さん
《宮城》舘脇章宏さん/《福島》黒田節子さん/《東京》小熊ひと美さん
《関西電力》木原壯林さん/《山口》安藤公門さん/《鹿児島》杉原 洋さん
《規制委》木村雅英さん/《読書案内》天野惠一さん

[報告]水野伸三さん(トトロの隣在住)
 済州島四・三抗争と東学農民革命と長州人―朝鮮近現代史への旅―

[読者投稿]大今歩さん(高校講師)
《書評》『しあわせになるための「福島差別」論』
福島の被曝は「風評被害」ではない 避難の権利の確立を

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もう自動車はやめませんか 暴走老人たちと自動車資本主義の終焉

その昔、若い男性の会話といえば「クルマとオンナ(恋愛)」だった。つい40~50年ほど前の話である。高度経済成長で一家に一台から、やがて誰もがクルマを持てるようになり、女性にモテるためには最新鋭のクルマに乗るのが条件だった。

◆戦後成長と日本のクルマ

日本の戦後成長はまさに、クルマとともにあったと言っても過言ではない。フォードシステムに範をとったトヨティズムなどの自動車資本主義である。労働者に一戸建ての家を持つのは無理でも、3LDKの集合住宅にマイカーを持たせることで、休日を充実させて労働力の回復をはかる。戦争が需要である軍需産業のかわりに、自動車産業を発展させることで消費を拡大し、大量生産大量消費の社会を実現してきた。自動車産業とマイカーこそが、アメリカ社会のミニマムな模倣を実現してきたのである。

自動車が戦争――軍事兵器の代用品になったのは、人間の本能的な闘争心を運転という行為が内に含んでいるからだとされる。大きなクルマに乗れば、あたかも強者になったように尊大な運転をする。高級車のハンドルを握れば、紳士然とふるまうこともあろうか。軽自動車ならばスピードをセーブすかもしれないが、最近の暴走行為は軽自動車が主流だったりする。こうした自我の変化を「自我の拡張行為」という。いわばスピードは「戦闘行為」なのだから、高速道路での「煽り運転」は特定の種類の人々だけもものではない。自動車が本来もっている特性なのだ。ハンドルを持つと人が変わる。そうした戦闘性や闘争性があるからこそ、戦争の代償たりえたのである。

◆暴走する高齢者と自動車資本主義の終焉

ところで、そのマイカー時代の元若者たちが、いまや暴走老人として社会の脅威になってしまった。池袋では元高級官僚がブレーキとアクセルを踏み間違えて(としか推論できない)暴走し、若い母子を死亡させた。元高級官僚であることから、上級国民は逮捕されないのか、などと批判されたものだ。6月4日には、81歳と76歳の夫婦が600メートルにわたって衝突をくり返し、9人が死傷した。

近年の高齢者による暴走事故を列記しておこう。
2017年5月 大分市で76歳の女の軽自動車が病院に突っ込み、17人が重軽傷を負う。
2018年1月 前橋市で85歳の男の乗用車が、登校中の女子高生2人をはねて1人が死亡。
2018年5月 茅ヶ崎市で90歳の女が歩道に突っ込み、4人が死傷。
2019年4月 池袋で87歳の元高級官僚が暴走し、母子2人が死亡。10人が負傷。
2019年6月 大阪市此花区で80歳の男が幼児をふくむ4人をはねる。
2019年6月 福岡市で81歳の男が600メートル暴走して衝突をくりかえす。乗っていた夫婦をふくめて、9人が死傷した。


◎[参考動画]池袋暴走事故 なぜ?専門家が分析(TOKYO MX 2019/4/26公開)


◎[参考動画]【報ステ】暴走当時の状況は 福岡9人死傷事故(ANNnewsCH 2019/6/5公開)

福岡の場合は運転手に意識がなかった可能性が指摘されているが、多くはブレーキとアクセルの踏み間違いである。若者でも踏み間違えることはあるものの、すぐにブレーキペダルに足先を置き直すことができるのに対して、高齢者はアクセルから離したつもりで足が離れずに、そのまま踏み込んでしまうことが多いのだという。自動車免許返納のための法的な措置も講じられようとしているが、大都市圏とくに都心における自動車通行の規制をともなわない措置は泥縄式というほかない。

わたしも50歳の年をさかいに、マイカーを手放して自転車生活に舵をきった。健康と環境問題への問題意識が契機だった。その自転車もアナーキーな乗り物であって、講習や指導抜きには奨励できない現状、つまり事故の増加傾向で危機感を持たないわけにはいかない。高速道路における「煽り運転」なども反面で、わが国における交通政策・道路交通をめぐる啓蒙活動の遅れを反映しているというよう。問題なのはどういう生活と社会を新たに展望していくか。自動車資本主義の終焉はそのことを問いかけているのではないだろうか。その意味では、自動車に乗らない世代の登場は興味ぶかい。

いま、若い男性はクルマを好まない。大都市の若年層では、女性のほうがクルマ保有率が高くなっているという。「クルマとオンナ(恋愛)」の話をしなくなった若者たちは、おそらく「二つのアイテム」の危険性を本能的に知っているのだろう。これはこれで、自民党のお歴々が悲観する少子化の原因であるのかもしれないが、平穏無事に生きてゆく人生観は悪いものではない。そこに思いをめぐらすならば、日本経済の衰退は平和の証しとも言えるのだ。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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東京選挙区は歴史的な激戦へ 山本太郎は参院選で「風」を起こせるか?

 
自民党の丸川珠代議員HPより

思わせぶりに「風」を口にすることで、安倍総理は解散風をみずから仕掛けた。この発言は、二階幹事長の「解散の大義名分は一日あればできる」という会見を受けてのものにほかならない。みずから「風」を起こすことで、衆参同時選挙への流れをつくりだしたのだ。

このさき、世論動向のデータが自民有利と出たところで、おそらく秋の消費税引き上げの可否をかかげて解散に踏み切るものと思われる。

 
公明党の山口那津男議員HPより

世論動向のデータは、毎日新聞各社・テレビ各社・通信社が独自に行なっているもので、官邸も毎日この動向を分析している。その動向のキーになるのが、目下準備が進められている参院東京選挙区だとされている。

◆有力候補10人以上が6議席を争そう

その参院東京選挙区は定数が1増の6となり、歴史的な激戦となりそうだ。自民党が丸川珠代(前回トップ当選)と武見敬三(前回最下位)。

公明党が山口那津男(党代表)、共産党が吉良佳子(前回3位)、立憲民主は元都議の塩村文夏(あやか)と新聞記者出身の男性候補の2人、自由党を離党して「れいわ新選組」を結党した山本太郎

 
日本共産党の吉良佳子議員HPより

さらには国民民主が水野素子(もとこ)(JAXA調査国際部参与で、元ミスユニバース関東代表)、社民党が全国一般三多摩労働組合書記長の朝倉玲子、そして元都議の音喜多駿が維新の会から出馬するとみられている。ほかにも元衆議院議員の小林興紀(自民→民主→新党日本など)が出馬を表明しており、6議席をめぐって10人以上の有力候補が争うことになりそうだ。そうそう、中核派の元全学連委員長、斎藤郁真(いくま)も出馬するのだ。

 
立憲民主党の塩村文夏(あやか)候補HPより(写真)
 
国民民主党の水野素子(もとこ)候補HPより
 
中核派の元全学連委員長、斎藤郁真(いくま)氏(2017年衆院選時の写真)

このうち、とくに「宇宙かあさん(1男1女の母)」との異名をもつ水野素子は、国民民主が満を持して送り出す候補である。宇宙飛行士の山崎直子らと設立した「宙女ボード」での活動は、宇宙航空産業の男女共同参画を進めてきたもので、国民民主の党風を変える人選といえそうだ。22日の記者会見には175センチの長身を青いスーツでつつみ、JAXAを休職しての出馬となったことを明らかにした。

さて、そこで問題なのは反原発運動の旗手にして、庶民の代表である山本太郎が議席を維持できるかどうか、である。

◆「消費税を5%に」山本太郎の庶民救済型MMTの衝撃度

周知のとおり、小沢一郎とともに自由党代表だった山本太郎は、国民民主との統一会派形成にさいして、新たに独自の党派をつくった。れいわ新鮮組である。原発に対する態度のちがいのほか、消費税をめぐる立場の違いが自由党と国民民主の合同から、山本太郎を遠ざけたのがこの間の動きである。そこにはひとつの戦略的な方向性がある。大きな野党の塊がいまひとつ、上記に見たとおり東京選挙区においては票の食い合いにしかなっていないこと。もう一つは消費税をめぐる動向であろう。安倍総理の「解散風」が秋の消費税導入をめぐる、国民的な合意を取り付けようとするものであるのは明白だ。そこで、消費減税こそが国民運動たりうると、山本太郎は見きったのではないか。

 
「れいわ新選組」を結党した山本太郎議員HPより

現在の山本太郎のスローガンは「消費税を5%に」である。そしてもうひとつ、MMT(Modern Monetary Theory)を経済弱者向けには是とする経済政策論である。MMTは自民党の若手議員にも多い、リフレーション派の製剤政策である。デフレ下ではインフレ政策で経済を回してゆく。異次元の金融政策、インフレターゲット、大規模な財政出動、これらはアベノミックスの核心部分でありながら、MMTが持っている利点が生かし切れていない。というのが山本太郎の経済政策論である。

その違いはリフレと財政出動を、低所得者とくにロストゼネレーション、および学生層に向けるか否か、である。とくに500万人ともいわれる元学生・現役学生の奨学金負債の支援、そして最低賃金1500円制である。時給1000円で年収200万以下、1500円なら300万円前後と、可処分所得の違いは明瞭だ。

ロスジェネと学生の貧困を支援することで、消費の回復をはかる。ある意味ではわかりきっているが、それをなかなか実行できない。現状はインフレ傾向(消費者物価)で、しかし消費は好転しない。給与が上がらないのだから、あまりにも当たり前である。したがって庶民救済のMMTは、アベノミクスの「なまぬるさ」に対する批判となる。反原発だけではなく、一国の経済政策のネックを了解したとき、山本太郎流のMMTは日本経済の救世主となるのかもしれない。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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