樋口英明元裁判官は鹿砦社が発刊する脱・反原発季刊誌『季節』にもたびたびご登場頂いている。このたび女川原発差し止め訴訟仙台地裁判決について樋口元裁判官からメッセージを頂いた。共同通信発で加盟社に配信された原稿は大幅に論旨が削られているとのことで、デジタル鹿砦社通信向けに寄せて頂いた、特別のメッセージである。(田所敏夫)

樋口英明さん

◆5月24日仙台地裁判決について 樋口英明

仙台地裁は、5月24日、東北電力女川原発2号機の再稼働差止めを求めた住民らの請求を退けました。今回の訴訟で原告の住民らは、早期の判決を求めるために、放射性物質が外部に漏れる事故が起きる具体的な危険性を主張せず、「原発事故が起きた場合の避難計画に不備があるから原発の再稼働は認められない」と訴えました。それに対して、仙台地裁は「事故の危険性は抽象的なものにすぎない。事故発生の具体的な危険性の主張立証がない以上、避難計画の不備だけでは差止めは認められない」としました。

2021年3月の水戸地裁判決が「事故発生の具体的危険性が認められないとしても、避難計画が不備であれば運転の差止めが認められる」としたのとは真逆の判断です。

仙台地裁の裁判官は原発の本質が分かっていません。原発の問題は決して難しい問題ではありません。次の二つのことさえ理解してもらえればよいだけです。一つ目は、原発は事故の時も自然災害に遭った時も運転を止めるだけでは収束せず人が管理し、電気と水で原子炉を冷やし続けなければ必ず事故になるということです。二つ目は人が管理できなくなった場合の事故の被害は極めて甚大だということです。現に福島第一原発事故では停電しただけで、「東日本壊滅」の危機に陥りました。

水戸地裁はこのような原発の本質を理解していたから避難計画の不備だけで原発の運転を差し止めたのです。地震大国日本で、避難計画が整備されていない原発を稼働させるということは、何千人もの乗客を乗せたタイタニック号が充分な救命ボートを用意せずに氷山の浮かぶ大海原に乗り出していくようなものです。いつどこで氷山にぶつかるかはわからないとしても、救命ボートは乗客の人数に応じて充分な数を備えるのは当然のことです。救命ボートが不足していることは出港を許さない十分な理由になるのです。

仙台地裁の判決は避難計画の不備は問題にしないとするもので、上の例によれば、救命ボートが一隻もなくてもタイタニック号の出航を認めるということになります。仙台地裁の判決は、「これが福島原発事故後の判決か」と我が耳を疑うあまりにも無責任な判決と言わざるを得ません。

樋口英明さん

◆原発廃絶のために静かに闘う樋口元裁判官

樋口元裁判官は原発に極めて強い危機意識を持ち、講演で全国を行脚し、原発運転差し止め訴訟などにアドバイザーとして関わっている。3月15日には参議院議員会館で国会議員にも向けた講演が実施された。樋口元裁判官は言う。

「原発問題は簡単なことなんですよ」

60分で原発問題の導入から、最先端までを語り尽くす樋口元裁判官の解説は、中立かつ司法の判断者としての経験を踏まえたものであるだけに、極めて訴求力が強いと感じる。

樋口元裁判官は単なる語り部ではなく「聞く側」がどうすれば理解しやすいかも模索されている。本公演は通常スピードで視聴しても決して長くは感じないが、見る人のためには「1.5倍速で再生してください。それが見る人にとっては快適です」とコメントを頂いた。細やかな心配りはなにより「脱原発を実現しなければ将来はない」との危機感に依拠しているのではないかと感じる。是非ご覧いただきたい。


◎[参考動画]院内集会 映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』上映後の元福井地裁 裁判長 樋口英明氏 講演(2023年3月15日)

▼樋口英明(ひぐち・ひであき)
元裁判官。1952年三重県生まれ。京都大学法学部卒。2014年、大飯原発3、4号機の運転差止判決、翌年、高浜原発3、4号機再稼働差止の仮処分決定を出した。2017年8月退官。主著に『私が原発を止めた理由』(旬報社、2021年)。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

6月12日発売開始‼ 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年夏号
NO NUKES voice改題 通巻36号 紙の爆弾 2023年7月増刊

《グラビア》原発建設を止め続けてきた山口県・上関の41年(写真=木原省治
      大阪から高浜原発まで歩く13日間230Kmリレーデモ(写真=須藤光男

野田正彰(精神病理学者)
《コラム》原子炉との深夜の対話

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》核のゴミを過疎地に押し付ける心の貧しさ

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》司法の危機 南海トラフ地震181ガル問題の重要性
《インタビュー》最高裁がやっていることは「憲法違反」だ 元裁判官樋口氏の静かな怒り

菅 直人(元内閣総理大臣)
《アピール》GX法に断固反対を表明した菅直人元首相の反対討論全文

鮫島 浩(ジャーナリスト)
《講演》マイノリティたちの多数派をつくる
 原発事故の被害者たちが孤立しないために

コリン・コバヤシ(ジャーナリスト)
《講演》福島12年後 ── 原発大回帰に抗して【前編】
 アトミック・マフィアと原子力ムラ

下本節子(「ビキニ被ばく訴訟」原告団長)
《報告》魚は調べたけれど、自分は調べられなかった
 一九五四年の「ビキニ水爆被ばく」を私たちが提訴した理由

木原省治(上関原発反対運動)
《報告》唯一の「新設」計画地、上関原発建設反対運動の41年

伊藤延由(飯舘村「いいたてふぁーむ」元管理人)
《報告》飯舘村のセシウム汚染を測り続けて
 300年の歳月を要する復興とは?

山崎隆敏(元越前市議)
《報告》原発GX法と福井の原発
 稲田朋美議員らを当選させた原発立地県の責任

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山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点

原田弘三(翻訳者)
《報告》「気候危機」論についての一考察

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家)
《対談》戦後日本の大衆心理【後編】

細谷修平(美術・メディア研究者)
《映画評》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈3〉
 わすれてはならない技術者とその思想 ──『Winny』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
《報告》今、僕らが思案していること

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
《報告》亡国三題噺
 ~近頃“邪班(ジャパン)”に逸(はや)るもの
  三重水素、原発企業犯罪、それから人工痴能~

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
《報告》山田悦子の語る世界〈20〉
 グローバリズムとインターナショナリズムの考察

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の全力推進・再稼働に怒る全国の行動!
福島、茨城、東京、浜岡、志賀、関西、九州、全国各地から

《福島》古川好子(原発事故避難者)
福島県富岡町広報紙、福島第一廃炉情報誌、共に現地の危険性が過小に伝えられ……
事故の検証と今後の日本の方向を望んでいるのは被害者で避難者です!
《東電汚染水》佐内 朱(たんぽぽ舎ボランティア)
電力需給予備率見通し3.0%は間違い! 経産省と東電は石油火力電力7.6%分を隠している! 
汚染水の海洋放出すべきでない!
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
運動も常に情報を受信してすぐに発信することが大事
4月5日定例の日本原電本店行動のできごと
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
中電が越えなければならない「適合性審査」と「行政指導」
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」事務局)
団結小屋からメッセージ付き風船を10年余飛ばし続けて
《高浜原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「関電本店~高浜原発230kmリレーデモ」に延べ900人、
「関電よ 老朽原発うごかすな!高浜全国集会」に320人が結集
《川内原発》鳥原良子(川内原発建設反対連絡協議会)
「川内原発1・2号機の九電による特別点検を検証した分科会」まるで九州電力が書いた報告書のよう
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
原発延命策を強硬する山中原子力規制委員会委員長・片山規制庁長官
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『3・11 大津波の対策を邪魔した男たち』(島崎邦彦・青志社)

反原発川柳(乱鬼龍選)

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

◆岸田首相の原発17基再稼働促進は何が危険か?

昨年(2022年)7月14日、岸田首相は来年(2023年)冬の電力ひっ迫を回避するため、原発9基を稼働し火力による予備電源を確保することを萩生田光一経産相(当時)に 「指示」したと会見で語った。

「電力ひっ迫には原発」とばかりに、前のめりの姿勢を見せたわけだが、これは昨年3月と昨年6月末の電力ひっ迫警報・注意報の発出と軌を一にする、電力不足をテコにした再稼働推進の仕掛けを、さらに強化しようとするものだ。

再稼働を促進するとした原発のうち、すでに再稼働した「9基の原発」とは、関西の美浜3号、高浜3、4号、大飯3、4号、四国の伊方3号、九州の玄海3号、川内1、2号。現時点で再稼働した原発のうち特定重大事故対処等施設の建設が完成していないため法律上運転できない玄海4号以外全部だ。別に首相が指示する筋合いではない。

電力業界の中枢である電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は翌15日の記者会見で、冬の電力不足に対応するために「原発を最大9基稼働させる」とした発言について「ほとんどの原発はすでに(供給力に)織り込」み済と、電力不足対策になどならないことを示している(2022年7月15日付朝日新聞)。

これで定期検査中に発見される損傷や運転中に生じるトラブルに対して、首相の指示だからと無理矢理動かし、重大事故につながることはないのかが本当に心配になる。

昨年8月24日、 官邸で開いたGX(グリーン・トランスフォーメーション)第2回実行会議、岸田首相は原発について大きく3つの検討項目を打ち出した。

(1)福島事故後に稼働した10基に加え、7基を追加で再稼働すること、
(2)次世代革新炉を新増設すること、
(3)原則40年、最長60年と定められている既存原発の期間制限の廃止検討だ。

追加の7基とは、女川2号、柏崎刈羽6、7号、東海第二、高浜1、2号、島根2号だ。そのうち柏崎刈羽と東海第二は、いずれも地元合意はない。

柏崎刈羽原発は東電によるたび重なる違反行為で、現在規制委により「運転禁止措置」が取られ、これを解除する見通しも立っていない。

東海第二も地元6市村の同意がなければ再稼働はできないが、いずれも同意に向けた動きはない。さらに立地・周辺15自治体(水戸市、日立市、常陸太田市、高萩市、笠間市、ひたちなか市、常陸大宮市、那珂市、鉾田市、茨城町、大洗町、城里町、東海村、大子町と茨城県)が定めなければならない原子力防災計画は、9自治体が策定できていない。

水戸地裁は、防災体制の不備を指摘して運転差止の判決を出している。裁判は現在東京高裁で審理中だ。日本原電の広報担当でさえ、来年夏の再稼働など見通すことはできず、最短でも再来年の9月以降と明言している。

◆電力ひっ迫に対する対応方法は何か?

「ひっ迫に対して原発」には、もうひとつ大いなるミスマッチがある。現在の再稼働原発はすべて西日本。冬場の電力需要は東京が最も大きいうえ、北へ行くほど「ひっ迫」しやすい。一方、西は雪もほとんど降らないから条件が良ければ日中は太陽光だけでも需要の多くをまかなえる。九電などはそうだろう。しかし 「電気が余る」 西から「電気が足りない」東への送電は、周波数が異なるため「周波数変換所」を通さなければならない。この容量がわずか210万kWしかない。原発2基分程度だ。

西側の原発の電気で東側のひっ迫に対処するなど、そもそもできない。「同時同量」の原則を思い返せば、対策は唯一、北海道から九州までの連系線を強化することである。これで電力ひっ迫は回避できる。

昨年6月末に発生した東電、東北電のひっ迫に対しては、西日本の電力を送ることができていれば十分まかなえたことは、電力広域的運営推進機関のデータを見れば明らかである。当時予備率が低かった東電は、朝から夕方まで平均的に5%を下回っていたが、このレベルならばひっ迫ではない。しかし最も低い時間帯が16時から17時半の範囲で3%だった。もちろん省エネも効果はあったが、大電力を広域で連系すれば、ひっ迫は十分回避できた。

時間帯は短いので、大規模停電に至る可能性はほとんどない。実際、18時には「電力需給ひっ迫注意報」は解除されている。

なお、今回の電力ひっ迫を口実とした原発利用拡大政策の狙いは「最長60年の運転期間制限」の撤廃ないし延長である。これを詳論するには紙数が尽きた。 次回に詳しく論じることにする。

◆再稼働促進は「原子力安全規制」を侵害する

原子力規制の基本は、原発を推進する行政機関から独立して権限を有した規制当局が、たとえ首相命令であろうとも基準を満たさない原発を運転させないことにある。

原子力規制庁は環境省の外局だが、原子力規制委員会は設置法第1条に「専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置し、もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする」と規定している。電力が足りなかろうと、首相が指示しようと、安全性に問題のある原発の稼働を認めてはならない。

昨年7月13日に東京地裁で言い渡された株主代表訴訟の判決で朝倉佳秀裁判長が、東電旧経営陣5人に対して13兆円あまりの賠償を認めた(但し4人について)。判決にあるとおり、原発事故は「我が国そのものの崩壊にもつながりかねない」(判決骨子より)からである。(完)

本稿は『季節』2022年冬号掲載の「経産省『電力ひっ迫』のからくり」を再編集した全3回の連載記事です。

◎山崎久隆 経産省「電力ひっ迫」のからくり〈全3回〉
〈1〉「電力ひっ迫に備えて原発推進」は正解か?
〈2〉電力ひっ迫に発電設備の増強は正しいか?
〈3〉電力ひっ迫に対する対応方法は何か?

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

◎たんぽぽ舎 https://www.tanpoposya.com/
◎たんぽぽ舎メルマガ:「地震と原発情報」 メルマガ申込み(無料)

『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年春号
NO NUKES voice改題 通巻35号 紙の爆弾 2023年4月増刊

《グラビア》福島発〈脱原発〉12年の軌跡(写真=黒田節子
      東海村の脱原発巨大看板(写真=鈴木博喜

樋口英明(元裁判官)
《コラム》原発回帰と安保政策の転換について

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》戦争は静かに日常生活に入って来る
《講演》放射能汚染水はなぜ流してはならないか

乾喜美子(経産省前テントひろば/汚染水海洋放出に反対する市民の会)
《アピール》放射能汚染水反対のハガキ作戦やっています

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
《講演》懲りない原子力ムラが復活してきた
日本の原子力開発50年と福島原発事故を振り返りながら

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福島第一原発事故 12年後の想い
森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream[サンドリ]代表)
あなたは「原発被害」を本当に知っていますか
黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
フクシマは先が見えない
伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
何を取り戻すことが「復興」になるのか
今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
呆れ果てても諦めない
佐藤八郎(飯舘村議、福島県生活と健康を守る会連合会会長、生業訴訟原告団)
私たちが何をしたというのか
佐藤みつ子(飯舘村老人クラブ副会長、生業訴訟原告団)
悔しさだけが残ります
門馬好春(30年中間貯蔵施設地権者会会長)
中間貯蔵施設をどうするか
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鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
区域外避難者はいま

水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
裏切られた2つの判決
福島原発刑事裁判と子ども脱被ばく裁判

漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
病気になったのが、自分でよかった
311子ども甲状腺がん裁判第3回・第4回口頭弁論期日報告

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家/舞踏家)
《対談》戦後日本の大衆心理[前編]

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
反社はゲンパツに手を出すな!

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
突然のごとき政治的変更を目前にして

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈19〉
2023年に生きる私が、死について考える

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
「規制をやめた」規制委員会に怒り! 山中委員長と片山長官は辞任せよ!

《全国》永野勇(再稼働阻止全国ネットワーク)
総攻撃には総力を結集して反撃を!
「福島を忘れない!原発政策の大転換を許すな!全国一斉行動」の成功を!
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
岸田政権による原発推進政策に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止を!
《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
「環境汚染」から「裁判汚染」まで 多岐にわたる汚染
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東海第二原発差止訴訟・控訴審決起集会に参加して
《東海第二》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東京に一番近い原発=東海第二原発 2024年9月の再稼働を止めるぞ!
《東京》平井由美子(新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会)
環境省が新宿御苑へ放射能汚染土を持ち込もうとしている!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
5月27日反原発自治体議員・市民連盟第13回定期総会へ
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 編
 
反原発川柳(乱鬼龍選)

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0BX927CLY/

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◆「電力のひっ迫」とは何か

2022年3月と6月に出された 「電力ひっ迫」注意報。これは東電管内のみに出されたが、理由は「需給バランスが崩れる可能性があった」からである。

電力は溜めることができない。蓄電池や揚水式発電があるといっても、それは物理的に別の形に変えている。常時送電網に流れている電力は需給バランスが取れないと停電する。

「電力」(ワット)というのは、 「電圧」(ボルト)と「電流」(アンペア)のかけ算で、これに時間を掛けると電力量(ワットアワー)になる。一般には 「キロワットアワー・kWh」と表現されているが、これはワットアワーの1000倍という意味。常時1キロワット消費する家電製品を1時間使うと1キロワットアワーの消費電力量になる。

今、問題になっている「ひっ迫」とは短時間で起こる「需給バランスの乱れ」である。キロワットとキロワットアワーの違いを理解できていないと、発電所を沢山造らなければ停電するといった間違った議論になってしまう。

電気には「同時同量」の原則がある。使用している瞬間に、同量の電力を送電していなければならない。もちろん、発電所からだけでなく蓄電池でもかまわないが、いずれにしても同量の電力を送電線に供給していなければならない。

発電量が大きすぎて需要を大きく超えると周波数が上がる。その反対に、需要に対して発電量が足りなければ周波数が下がる。いずれの場合も、機器の損傷を防ぐため変電所単位で送電が遮断される。これが大きな変電所にまで至れば「広域停電」になる。これが2018年に北海道で起きた。「ブラックアウト」の原因だ。

◆北海道ブラックアウトのメカニズムと対策は?

北海道で最大震度6強の地震「北海道胆振東部地震」が起こったのは2018年9月6日3時7分。当時、北海道全域で300万キロワット弱の需要があった。この地震と、それに続く送電システムのアンバランスにともない、3時25分に北海道電力の送電エリア全域におよぶ大規模停電(ブラックアウト)が発生した。

地震発生の直後に北海道で動いていた最大出力の発電所「苫東厚真火力発電所」が停止したことがきっかけであるが、しかしこれが停止したからブラックアウトになったのかというと、それだけではない。地震から数えて17分間で、水力発電所や、風力発電所も次々に停止してしまった(正確に言えば水力・風力発電などのシステムから送電する変電所や変換所が地震の影響や機器損傷防止のため供給を止めた)。

大まかに、以下のような順番でブラックアウトは発生した。

1.苫東厚真火力発電所(2号機・4号機)の停止(116万kW)
2.風力発電所の停止(17万kW)
3.水力発電所の停止(43万kW)
4.苫東厚真火力発電所(1号機)の停止(30万kW)
5.ブラックアウトの発生

苫東厚真火力が止まってしまったのは、地震の震源地に近かったため、機器の一部損傷が原因だった。一方、水力発電所は複数の送電線が遮断されてしまったことが電気を供給できなくなる原因になった。風力発電は周波数の低下により設備を保護するために停止した。このように、それぞれの発電所は、それぞれ異なる理由で停止してしまった。これらについて独自に対策を取る必要があり、単に発電設備を増やしたからといってブラックアウトを防げるという単純な話ではない。

北海道泊村にある泊原発(加圧水型軽水炉3基合計出力207万kW)は現在新規制基準適合性審査中で運転を停止しているが、これが動いていたらブラックアウトを避けられたという説もある。その場合は苫東厚真火力は止まっていることが前提だ。きっかけがなければ起こらないのは道理だ。しかし、そういう議論をするのであれば、苫東厚真火力発電所の直下で地震が起きたように、泊原発直下で地震が起きることを想定しなければならない。その場合、 地震で原発は全部停止する(地震の直撃を受けなくてもおおむね震度5強で自動停止する)。震度6もの地震で止まった原発は、仮に損傷していなくても簡単に再稼働できない。何らかの損傷があれば復帰にも年単位の時間がかかる。万一、地震で大規模放射性物質拡散事故が起きてしまえば、最悪の場合福島第一原発事故のような原発震災を覚悟しなければならない。これでは問題の解決にはならない。

自然災害以外でブラックアウトが起きるとすれば、それは「系統崩壊」と呼ばれる需給バランスの崩れが原因である。

送電系統全体で発電能力不足が発生した場合や、送電線の容量不足で発生する。電力網では送電系統内のすべての発電機が協調して周波数と電圧を維持していなければならない(同時同量)。

もし周波数が一定範囲を外れると発電機は自動的に系統から遮断される。これを「脱落」という。系統内発電機がすべてフル出力運転していた場合、どこかで発電機トラブルが発生し供給能力の不足が生じると、脱落した発電機の分を他の発電機のオーバーロード(出力超過運転)などでカバーしなければならない。間に合わなければ系統全体が周波数低下を引き起こす。

北海道のブラックアウトの場合、本州と北海道をつなぐ「北本連系線」の容量が当時60万キロワットしかなかった。現在は90万キロワットある。

ブラックアウトは、北本連系線から多くの電力を供給できていたら回避できたと考えられる。

大きな発電機が脱落すると、供給が大きく不足するため周波数低下が大きくなり、遮断した先の需要停止だけでは追いつかなくなる。これが「系統崩壊」に至る理由だ。

2022年3月の東京電力管内で約209万戸の停電では、全域が系統崩壊しないようにあらかじめ部分的に負荷を遮断、つまり送電を止めた。送電系統は変電所により地域的に区切られていて、部分的に遮断することができる。2011年3月の震災時の計画停電もこの仕組みによる。

◆電力ひっ迫に発電設備の増強は正しいか?

現在の日本では、電力のひっ迫は長くても数時間程度の範囲である。これを発電電力量の不足と捉えるのは間違いだ。

需給ひっ迫対策は、発電設備の増強では解決しない。原発を増やしたら解決するという問題ではない。原発を増やせば、その分他の発電設備を止めている。電力会社は設備の維持管理に莫大な出費をしているから、原発を動かす場合は、その分火力などの他の設備を廃止したり停止したりすることになる。結局、供給力は変わらない。

日本の電力需要は2007年頃をピークに急激に低下している。

国際エネルギー機関のデータでは2007年に「1077テラワットアワー(以下、テラワットアワーを省略)」あった年間電力消費量は、2021年に「916」と「161」、約15%も低下している。これはウクライナの1年分の「124(2021年)」よりも多い。なお、 日本は1997年が「915」である。23年を経て同程度の電力消費量にまで下がった。

今後も、少子高齢化と人口減少が続くから、2050年にはさらに減少し、「700」前後まで減少すると想定されている。これは現在よりも22から26%も低下する量で、今後も発電設備の増加は必要ないことが分かる。

近年、政府による脱炭素の促進とウクライナ戦争に伴うエネルギー価格の高騰で、電気料金は2割以上も値上がりするなど、省エネルギーへのインセンティブは高まっている。

その対策として、産業も家庭も電力消費量を削減する取り組みが進む。電力会社は縮小する電力料金収入対策として、エネルギーの効率的利用や送電ロスなどの削減、未利用エネルギーの活用が、より1層取り組まれる。この取り組みに逆行するのが、現在の「電力ひっ迫」を口実にした原発の最大限利用政策である。(つづく)

本稿は『季節』2022年冬号掲載の「経産省『電力ひっぱく』のからくり」を再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

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『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年春号
NO NUKES voice改題 通巻35号 紙の爆弾 2023年4月増刊

《グラビア》福島発〈脱原発〉12年の軌跡(写真=黒田節子
      東海村の脱原発巨大看板(写真=鈴木博喜

樋口英明(元裁判官)
《コラム》原発回帰と安保政策の転換について

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》戦争は静かに日常生活に入って来る
《講演》放射能汚染水はなぜ流してはならないか

乾喜美子(経産省前テントひろば/汚染水海洋放出に反対する市民の会)
《アピール》放射能汚染水反対のハガキ作戦やっています

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
《講演》懲りない原子力ムラが復活してきた
日本の原子力開発50年と福島原発事故を振り返りながら

——————————————————————–
福島第一原発事故 12年後の想い
森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream[サンドリ]代表)
あなたは「原発被害」を本当に知っていますか
黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
フクシマは先が見えない
伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
何を取り戻すことが「復興」になるのか
今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
呆れ果てても諦めない
佐藤八郎(飯舘村議、福島県生活と健康を守る会連合会会長、生業訴訟原告団)
私たちが何をしたというのか
佐藤みつ子(飯舘村老人クラブ副会長、生業訴訟原告団)
悔しさだけが残ります
門馬好春(30年中間貯蔵施設地権者会会長)
中間貯蔵施設をどうするか
——————————————————————–

鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
区域外避難者はいま

水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
裏切られた2つの判決
福島原発刑事裁判と子ども脱被ばく裁判

漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
病気になったのが、自分でよかった
311子ども甲状腺がん裁判第3回・第4回口頭弁論期日報告

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家/舞踏家)
《対談》戦後日本の大衆心理[前編]

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
反社はゲンパツに手を出すな!

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
突然のごとき政治的変更を目前にして

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈19〉
2023年に生きる私が、死について考える

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
「規制をやめた」規制委員会に怒り! 山中委員長と片山長官は辞任せよ!

《全国》永野勇(再稼働阻止全国ネットワーク)
総攻撃には総力を結集して反撃を!
「福島を忘れない!原発政策の大転換を許すな!全国一斉行動」の成功を!
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
岸田政権による原発推進政策に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止を!
《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
「環境汚染」から「裁判汚染」まで 多岐にわたる汚染
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東海第二原発差止訴訟・控訴審決起集会に参加して
《東海第二》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東京に一番近い原発=東海第二原発 2024年9月の再稼働を止めるぞ!
《東京》平井由美子(新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会)
環境省が新宿御苑へ放射能汚染土を持ち込もうとしている!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
5月27日反原発自治体議員・市民連盟第13回定期総会へ
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 編
 
反原発川柳(乱鬼龍選)

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0BX927CLY/

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◆規模停電の脅しで原発再稼働を推進

昨年の6月21日、梅雨が明けきっていない東電管内で「電力ひっ迫の注意報」(予備率が5%を下回る予想)が経産省により発令された。すぐにも警報に切り替えそうな勢いで、担当課長が緊急記者会見をしていた。

実際には90%台の後半の設備利用率(発電設備に対する電力需要)で、電力ひっ迫は起こらなかった。もちろん、呼びかけに応じて実施された節電も影響している。

14~15時台に最大5254万kW(以下、万kWを省略)の需要に対して供給力は5674で8%上回る程度に準備されていた。警報発出は3%を下回る場合とされているから、まだ余裕があった。東京電力エリア内の2022年最大電力は8月2日の5930で、このときは6440の供給力を用意していた。

6月末のピークは、その後にも来たが、「電力ひっ迫注意報」は30日午後6時で解除されている。この時期に電力がひっ迫するというのは想定外だった。もちろん、地震などで大型火力のいくつかが止まればたちまちひっ迫するし、それは3月22日に実際に起きて経験したことでもある。

東京では毎年夏のピークは、梅雨明けの季節に起きることが多い。梅雨明けで日照が多くなり、気温が急速に上がる一方で、まだ湿度が高いため蒸し暑い。暑さに慣れていないこともあり、冷房需要が急激に高まる。通常は、7月下旬に起きるこの 「梅雨明けピーク」が、今年は例年にない気象で1カ月早まってしまった。これがいろいろなミスマッチを生じさせたのである。

◆「電力ひっ迫に備えて原発」は正解か?

実際には原発で大電力を供給している時に災害が発生したら停電のリスクは高まる。それは東日本大震災と2007年の中越沖地震で起きている。原発も火力も海沿いに多数立地しているから、津波が発生すれば被災する。

地震で発電所に大規模な破壊が生じなくても、高圧送電線や変電所が被災すれば電気は送れない。地震や津波では原発こそが停電のリスクが高い。

自然災害に対処する場合、ひとつひとつが小さくても広く分散して設置され、地産地消の仕組みを基礎として広域連系ができていることが強靱さを発揮する。できるだけ消費地に近いところに立地し、被災しても早期復旧が見込める火力発電がよいだろう。

もう多くの人は忘れてしまったのかもしれないが、東日本太平洋沖地震後の復旧も圧倒的に火力が早かった。被災した原発15基は、未だに1基も稼働していないが、火力は震災の年の7月までにすべて復旧している。近い将来発生する南海トラフ地震では、西日本各地でブラックアウトしたまま復旧に長期間要する。防災対策上も極めて深刻な事態を招くだろう。

夏の節電要請は、震災直後の2012年以来7年ぶりと各社報じた。ではその前はいつだったのだろうか。2007年である。7月16日に中越沖地震が発生し、柏崎刈羽原発が全部止まったため政府から節電要請が出されている(経済産業省関東圏電力需給対策本部決定 平成19年7月20日付け)。

原発が地震に弱いことも実証済だ。被災した柏崎刈羽原発7基のうち、2011年までに再稼働したのは4基に留まっている。過去の「電力危機」は東電管内においてはすべて原発が原因といっても過言ではない。(つづく)

本稿は『季節』2022年冬号掲載の「経産省『電力ひっ迫』のからくり」を再編集した全3回の連載記事です。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年春号
NO NUKES voice改題 通巻35号 紙の爆弾 2023年4月増刊

《グラビア》福島発〈脱原発〉12年の軌跡(写真=黒田節子
      東海村の脱原発巨大看板(写真=鈴木博喜

樋口英明(元裁判官)
《コラム》原発回帰と安保政策の転換について

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》戦争は静かに日常生活に入って来る
《講演》放射能汚染水はなぜ流してはならないか

乾喜美子(経産省前テントひろば/汚染水海洋放出に反対する市民の会)
《アピール》放射能汚染水反対のハガキ作戦やっています

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福島第一原発事故 12年後の想い
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悔しさだけが残ります
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鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
区域外避難者はいま

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裏切られた2つの判決
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「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家/舞踏家)
《対談》戦後日本の大衆心理[前編]

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
反社はゲンパツに手を出すな!

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
突然のごとき政治的変更を目前にして

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈19〉
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再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
「規制をやめた」規制委員会に怒り! 山中委員長と片山長官は辞任せよ!

《全国》永野勇(再稼働阻止全国ネットワーク)
総攻撃には総力を結集して反撃を!
「福島を忘れない!原発政策の大転換を許すな!全国一斉行動」の成功を!
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
岸田政権による原発推進政策に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止を!
《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
「環境汚染」から「裁判汚染」まで 多岐にわたる汚染
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東海第二原発差止訴訟・控訴審決起集会に参加して
《東海第二》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東京に一番近い原発=東海第二原発 2024年9月の再稼働を止めるぞ!
《東京》平井由美子(新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会)
環境省が新宿御苑へ放射能汚染土を持ち込もうとしている!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
5月27日反原発自治体議員・市民連盟第13回定期総会へ
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 編
 
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制御力を失った電車は、軌道があっても止まることを知らず線路が果てるまであるいは、停車中の車両や車止めにぶつかるまで暴走します。しかし、電車の暴走事故は軌道から離れた環境にはさして大きな損害を与えません。

他方、軌道上の走行や移動を想定していない交通手段の故障は、予想できない範囲に及びます。航空機が操縦不能に陥ると、いかなる角度に向かって飛んでゆくか想定は困難です。墜落の局面でもどこに堕ちるのか不明ですし、見方を変えればどこが「墜落被害」を被るのかも想定できません。

それでも「墜落被害」は多くの場合、一国を滅ぼすような甚大なものではなく地域に限られるでしょう。「電車の制御力不能」や「航空機の操縦不能」は操縦者や乗客さらには追突される電車や墜落地で巻き添えを食らう人々に、甚大な恐怖感と生命の危機を強いる点で共通項を見出すことができますが、わたしたちの暮らす実時間、2023年春はそれらの被害や恐怖をはるかに凌駕する、軌道も操縦も失った大暴走の時代だと言わねばなりません。

愚劣な政治家(不幸にも現時点で総理大臣)岸田文雄は、選挙や国会での審議なしに原発運転の期間を60年以上に延ばすことを勝手に決めました。この国ではいつから「閣議決定」さえあれば、従前の法律や憲法の解釈変更が可能になったのでしょうか。日本は法治国家などではなく、明らかな「無法地帯」以外のなにものでもない、この残念な現実を岸田はさらに強力に証明することに血道を上げているようです。

原発の60年超え運転だけで満足せず、原発の新増設や新型原発の開発まで、真顔で語り始めています。危険で非効率極まりなく実現可能性のない戯言を堂々の宣うことにより、岸田は狂気時代の先頭走者として「破滅が必定」な地へ向け暴走を続けています。岸田並びにそれに与する議論には、なんの科学意的根拠、論理性、倫理性そしてあえて付言すれば経済性の欠片もありません。究極的とも言える「暴論の暴走」です。

本誌は岸田が繰り広げる暴論とは真逆の地に立っています。岸田の虚言と正反対の地平に真実があることを本誌(われわれ)は知っているだけではなく経験しました。冷静な判断能力の持ち主にとって原発は「必ず事故を起こす。事故が起きれば制御できない」構造物であることは明白です。原発はいったん事故が起きれば「軌道」がなく、人間が制御できるものではないことを、この国に住むひとびとは僅か12年前に福島で経験したではないですか。78年前には兵器(原爆)として広島と長崎で凄惨極まる被害を受けたではないですか。その広島の地が生み出した政治家、岸田により原発・原爆被害の事実と歴史が見事に踏みつぶされています。

季節は移ろいますが本誌は反原発・反核兵器から絶対に、1ミリも後退しません。岸田に象徴される反理性を、思想と事実において撃滅せしめる地平を切り拓こうではありませんか。

3月10日発売 『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
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NO NUKES voice改題 通巻35号 紙の爆弾 2023年4月増刊

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樋口英明(元裁判官)
《コラム》原発回帰と安保政策の転換について

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》戦争は静かに日常生活に入って来る
《講演》放射能汚染水はなぜ流してはならないか

乾喜美子(経産省前テントひろば/汚染水海洋放出に反対する市民の会)
《アピール》放射能汚染水反対のハガキ作戦やっています

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
《講演》懲りない原子力ムラが復活してきた
日本の原子力開発50年と福島原発事故を振り返りながら

——————————————————————–
福島第一原発事故 12年後の想い
森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream[サンドリ]代表)
あなたは「原発被害」を本当に知っていますか
黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
フクシマは先が見えない
伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
何を取り戻すことが「復興」になるのか
今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
呆れ果てても諦めない
佐藤八郎(飯舘村議、福島県生活と健康を守る会連合会会長、生業訴訟原告団)
私たちが何をしたというのか
佐藤みつ子(飯舘村老人クラブ副会長、生業訴訟原告団)
悔しさだけが残ります
門馬好春(30年中間貯蔵施設地権者会会長)
中間貯蔵施設をどうするか
——————————————————————–

鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
区域外避難者はいま

水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
裏切られた2つの判決
福島原発刑事裁判と子ども脱被ばく裁判

漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
病気になったのが、自分でよかった
311子ども甲状腺がん裁判第3回・第4回口頭弁論期日報告

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家/舞踏家)
《対談》戦後日本の大衆心理[前編]

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
反社はゲンパツに手を出すな!

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
突然のごとき政治的変更を目前にして

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈19〉
2023年に生きる私が、死について考える

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
「規制をやめた」規制委員会に怒り! 山中委員長と片山長官は辞任せよ!

《全国》永野勇(再稼働阻止全国ネットワーク)
総攻撃には総力を結集して反撃を!
「福島を忘れない!原発政策の大転換を許すな!全国一斉行動」の成功を!
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
岸田政権による原発推進政策に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止を!
《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
「環境汚染」から「裁判汚染」まで 多岐にわたる汚染
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東海第二原発差止訴訟・控訴審決起集会に参加して
《東海第二》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東京に一番近い原発=東海第二原発 2024年9月の再稼働を止めるぞ!
《東京》平井由美子(新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会)
環境省が新宿御苑へ放射能汚染土を持ち込もうとしている!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
5月27日反原発自治体議員・市民連盟第13回定期総会へ
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 編
 
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「よって原発の運転は許されない」……(龍一郎揮毫)

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新聞を情報入手の発信源として、毎日目を通す必要があるのかどうか。年々新聞に対するわたしの不信感と嫌悪感が増してはいるのであるが、それでも漫然と新聞購読は続けている。記事の5割以上に「なに言っているんだ!」と内心舌打ちするのは、毎朝のいわばルーティーンで、ときに堪忍袋の緒が切れる。加齢によって堪え性が減じる兆候であろうか。

花粉症でただでも鬱陶しいこの季節に、またしても度し難い文言が目に入ってきた。今次は新聞記事ではなく、経済産業省の広告である。

「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」と、促されたので、考えた。でも、考えても、考えても、わたしの知識からは広告全体が伝えようとしているメッセージにどうしても得心がゆかない。

広告は、

Q.ALPS処理水って何?
A.東京電力福島第一原子力発電所の建屋内にある放射性を含む水について、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水のことです。トリチウムについても安全基準を満たすよう、処分する前に海水で大幅に薄めます。

といった体裁で、QアンドAは上記を含め4つある。ちょっとでも原発問題に関わっている人間には、アホらし過ぎて反論する気も失せる虚偽だらけだ。しかしこの広告は経済産業省つまり国がわれわれの税金を使って新聞に掲載している。少ないながらも納税者であるわたしにも、ことの真相を問いただす権利はあろうし、国が悪化な嘘を吹聴していることを問いだす責任があろう。

そこで経産省傘下資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室(電話:03-3580-3051)に「考えよう」と指示された内容を教えてもらうために電話をかけた。

以下はその内容であるが、やり取りには重複や会話特有の不明点があるのでその箇所は適宜修正している。

◆「安全だ」とは書いていないけれども、汚染水は「安全」だと理解してもよいのでしょうか?

田所  恐れ入ります。新聞に「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」と広告が出ていました。そのことについてお尋ねするのはこちらでよろしいですか。

対応者 内容によって変わってくるかと思うんですけれども、一応こちらでお伺いできればと思います。

田所  「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」と書かれた広告のことですが「海に流して大丈夫? 本当に安全?」とQ(質問)に書かれていてA(回答)に「安全確保に万全を期します」と答えで書かれています。この広告によれば汚染水が「安全」だと理解していいのでしょうか。

対応者 そうですね。ここに書かせていただいている通りのことですけれども。

田所  「安全確保に万全を期します」と書いてあるけれども「安全」とは書かれていないのですね。

対応者 はいはい。

田所  「安全確保に万全期す」とはたとえば火災の場合でも、「万全を期して」防火しても火事が起きたら「安全」ではなかったと結論づけられます。

対応者 はい。

田所  「安全だ」とは書いていないけれども汚染水は「安全」だと理解してもよいのでしょうか。

対応者 その前半部に環境や人体の影響を書かせていただいているので……

◆処理水の7割は法令以上に汚染されている。なのになぜ安全と言えるのですか?

田所  Q&A(質問・回答)が4つ掲載されています。質問は「ALPS処理水って何?」、「なぜ、ALPS処理水の処分が必要なの?」、「海に流して大丈夫?本当に安全?」、「もっと詳しい情報は何処で確認できるの?」です。ですからお尋ねしているのですが、「処理水は安全」であるのが間違いはない、ということですね。

対応者 そうですね。充分希釈して放出することは図って頂いていることですので。

田所  希釈というのは何を希釈するのですか。

対応者 放出する物質を海洋放出するものを希釈させていただくということになっておりますので。

田所  希釈、は何か物質を希釈する訳ですね。

対応者 ALPS処理水ですね。

田所  汚染水を希釈しているから、大丈夫だと。

対応者 そ、そういうことになります。

田所  「トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水のことです」と書かれていますけれども、トリチウムは安全基準まで下がっていないということですか。

対応者 その下に書かせていただいている通り、トリチウムについても充分に希釈して、その前に希釈して。

田所  トリチウム以外のものは全部取り除けているということですか。

対応者 安全基準を満たすまで浄化しておりますね。

田所  わたしが知る限り、トリチウム以外の汚染濃度が法令基準以下に下がっているのは、汚染数い総量の30%だけでしょ。

対応者 しかし、その30%、えっと70%、70%は再度二次処理を済ませて同じようなところに……。

田所  だから、安全基準内に落ちているのは30%だけなのではないですか。

対応者 いえいえ。放出する際には全部。

田所  現在放出ができる基準の値まで下りているのは貯めている汚染水全体の30%だけではないですか。

対応者 現在の話ですね。

田所  そうです。

対応者 そうですね。

田所  そうでしょ。ということは「ALPS処理水が安全だ」というのは事実とは違うじゃないですか。安全基準を満たさない残りの70%も一応ALPSで処理したのでしょ。

対応者 そうですね。それを再度浄化して。

田所  あなたは「ALPS処理水は安全で間違いないですか」とわたしがお尋ねしたら「安全で間違いない」と先ほどおっしゃいましたね。

対応者 はい。

田所  でも汚染水の30%だけがトリチウムを除く規準が法定以下に落ちているだけであって、70%は法定基準の汚染のまま残っているということですね。

対応者 はい。

田所  そうであれば汚染水は「安全」ではないのではないですか。

対応者 (無言)

田所  いかがですか。

対応者 どこをもって「安全」とするかについては、放出の際に関してはすべて同じく処理させて頂きますので。

田所  では当面放出するのは汚染水の30%だけですか。

対応者 はい、はい、はい。(その後長い沈黙)

田所  この広告では「ALPS処理水」と書いてありますが、今の説明を伺うと「ALPS処理水」が安全なものと勘違いしますね。

対応者 はい、はい、はい。

田所  トリチウムを除いて法令基準以下に出来ているものは30%だけなのですね。

対応者 現在のALPSでは3割になるんですけれども。

田所  現在のALPSではなく、一度使った水、汚れている水で法令基準値以下に値が下げられているものは3割以下ということですね。

対応者 はい、はい、はい。

田所  7割は法令基準値以上だから、流すことは出来ないわけでしょ。

対応者 はい、そうですね。そのままでは流せません。

田所  でもそのような汚染水も「ALPS処理水」と呼んでいるのではないですか。

対応者 そうですね、そこについてちょっと担当に……。

田所  これは専門的な内容ではなく、新聞に載っている広告です。わたしたちのように素人が見るものです。そこに「みんなで知ろう。考えよう。」と書かれているからわたしも「知ろう。考えよう。」と思って聞いているの。

対応者 はい。

田所  安全ですかとお尋ねしたら、「安全です」とおっしゃるので、法令基準値以上なのに、なぜ安全なのですか、とお尋ねしているのです。

対応者 放出する際のというところになるかと思います。

田所  この広告のどこに書いてありますか。

対応者 (長い沈黙のあと)「処分する前に海水で大幅に薄めます」というところになると思います。

田所  ん? でも「ALPS処理水のこと」と書いてあるけども、ALPS処理水には、法令基準値以上に汚染された70%以上のものを含むわけでしょ。

対応者 はい。

田所  それでは安全ではないものを含んでいるじゃないですか。

対応者 はい、はい。

田所  それどころか7割がたは安全ではないもの、じゃないですか。

対応者 (沈黙)

田所  今教えていただいた内容によれば、7割は法令以上に汚染されている。なのになぜ安全と言えるのですか。国が。

対応者 (沈黙)

◆「嘘も百回言えば本当になる」

田所  ダイオキシンの濃度は現在は規制されていますね。ダイオキシンを出す焼却炉は、今使えませんよね。でも同様に法令違反なのにALPS処理水と書かれているものが、あたかも安全かのように誤解しそうです。それでも安全とおっしゃるのですか。

対応者 そうですね。

田所  ALPS処理水はこれから海に流そうとしている汚染水だけではなく。タンクに溜まっている汚染水も含みますね。

対応者 はい、はい。

田所  その中にはトリチウム以外の核種が、いまだに法令基準をはるかに上回る濃度で入っている汚染水も含まれますね。

対応者 はい。

田所  それは安全ですか。

対応者 そのもの自体に関しては、安全じゃないと思います。

田所  でも、そのもの自体についても「ALPS処理水」と呼ぶのでしょ。

対応者 はい、はい。

田所  それでは「ALPS処理水は安全だ」という論は立たないのではないですか。

対応者 はい。そういったご意見があったことについては……。

田所  意見ではありません。客観的事実をお尋ねしている。「ALPS処理水は安全だ」と最初に教えて頂いたのですが、お尋ねしているうちに「ALPS処理水の7割は法令基準値を超える核種が含まれている」と言われた。であればそれは法令基準以上だから安全と呼ぶ対象にはならないのではないですかと。わたしは意見ではなく聞いているんです。

対応者 ちょっと確認させて頂きたいと思います。

国はあらゆる手を使って国民を騙し、不都合な事柄は「無かったことにしよう」と税金を使い宣伝する。残念なことにアドルフ・ヒトラーによる「嘘も百回言えば本当になる」との権力者発信情報の特質は、依然として有効だ。だからわたしたちは日々、少々面倒くさくても、情報の取捨選択や、偽り情報を流す者に対しての忠告を怠ってはならないのだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

3月10日発売 『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年春号
NO NUKES voice改題 通巻35号 紙の爆弾 2023年4月増刊

《グラビア》福島発〈脱原発〉12年の軌跡(写真=黒田節子
      東海村の脱原発巨大看板(写真=鈴木博喜

樋口英明(元裁判官)
《コラム》原発回帰と安保政策の転換について

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》戦争は静かに日常生活に入って来る
《講演》放射能汚染水はなぜ流してはならないか

乾喜美子(経産省前テントひろば/汚染水海洋放出に反対する市民の会)
《アピール》放射能汚染水反対のハガキ作戦やっています

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
《講演》懲りない原子力ムラが復活してきた
日本の原子力開発50年と福島原発事故を振り返りながら

——————————————————————–
福島第一原発事故 12年後の想い
森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream[サンドリ]代表)
あなたは「原発被害」を本当に知っていますか
黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
フクシマは先が見えない
伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
何を取り戻すことが「復興」になるのか
今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
呆れ果てても諦めない
佐藤八郎(飯舘村議、福島県生活と健康を守る会連合会会長、生業訴訟原告団)
私たちが何をしたというのか
佐藤みつ子(飯舘村老人クラブ副会長、生業訴訟原告団)
悔しさだけが残ります
門馬好春(30年中間貯蔵施設地権者会会長)
中間貯蔵施設をどうするか
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鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
区域外避難者はいま

水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
裏切られた2つの判決
福島原発刑事裁判と子ども脱被ばく裁判

漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
病気になったのが、自分でよかった
311子ども甲状腺がん裁判第3回・第4回口頭弁論期日報告

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家/舞踏家)
《対談》戦後日本の大衆心理[前編]

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
反社はゲンパツに手を出すな!

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
突然のごとき政治的変更を目前にして

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈19〉
2023年に生きる私が、死について考える

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
「規制をやめた」規制委員会に怒り! 山中委員長と片山長官は辞任せよ!

《全国》永野勇(再稼働阻止全国ネットワーク)
総攻撃には総力を結集して反撃を!
「福島を忘れない!原発政策の大転換を許すな!全国一斉行動」の成功を!
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
岸田政権による原発推進政策に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止を!
《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
「環境汚染」から「裁判汚染」まで 多岐にわたる汚染
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東海第二原発差止訴訟・控訴審決起集会に参加して
《東海第二》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東京に一番近い原発=東海第二原発 2024年9月の再稼働を止めるぞ!
《東京》平井由美子(新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会)
環境省が新宿御苑へ放射能汚染土を持ち込もうとしている!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
5月27日反原発自治体議員・市民連盟第13回定期総会へ
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 編
 
反原発川柳(乱鬼龍選)

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「よって原発の運転は許されない」……(龍一郎揮毫)

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

1月26日、大阪・十三のライブハウス「GABU」で、高橋樺子(はなこ)さん(UTADAMA MUSIC)の新曲「さっちゃんの聴診器」の発売を記念したライブが行われた。満員の会場に現れた高橋樺子さんは、大好きだという真っ赤なドレスで「さっちゃんの聴診器」を歌い上げた。

高橋樺子さん

 

高橋樺子シングルCD「さっちゃんの聴診器」2023年01月26日発売 ¥1,000(税込)レーベル:UTADAMA MUSIC

高橋さんは、2007年、関西歌謡大賞でグランプリを受賞したことから、その後、審査委員長を務めた作詞家・もず唱平さんに弟子入り、2011年3月11日の東北大震災と原発事故の翌年、被災地復興支援ソング「がんばれ援歌」(作詞:もず唱平 作曲:岡千秋、三山敏)でデビュー。

もず唱平さんには、実は、一昨年、鹿砦社発行の反原発雑誌『NO NUKES voice』(現『季節』/28号=2021年6月発行)でインタビューさせて頂いた。

もずさんの父親・潔さんは、広島の「旧陸軍被服支廠(ししょう)」の現場監督で働いていたが、8月6日の原爆投下で二次被害にあい、その後原爆症を患われた。

しかし、父親が一生原爆手帳を受けなかったため、治療費などが嵩み、生活が苦しい時期もあったという。そうしたことから、次第に父親とは疎遠になっていく一方で、もずさんは反戦・平和への思いを強くしていった。そんな思いが高橋さんの熱心な復興支援活動などにつながっているのだろう。

もずさんにインタビューした際には、高橋さん、マネージャーの保田ゆうこさんから、震災後、何度も支援物資を被災地に運んだり、被災地で歌った思い出、広島に原爆を投下したB29の出撃地であるテニアン島、サイパン、グアムなど戦跡巡りなどに行かせて貰ったという貴重なお話もお聞きした。

そんな高橋さんは2015年、戦後70年の年に、もずさんが父親から聞いた原爆の体験をもとにした「母さん生きて」(作詞・もず唱平 作曲・鈴木潔)を、平和を訴える祈念歌としてリリースした。

それから7年ぶりの新曲となる「さっちゃんの聴診器」、高橋さんは、新曲にかける思いをこう語った。

さっちゃんとは、大阪の西成区でお医者さんをやっておりまして、いろいろ調べていきますと、研修時代は沖縄にいて、その後、大阪の西成にきて、路上生活者も多い釜ヶ崎という地域で、医師として、労働者の身体だけではなく、心にも寄り添う、献身的に社会貢献活動をされておりました。その矢島祥子さんのことを、私の師匠である、作詞家のもず唱平先生がドキュメンタリーとして、この作品に書きあげ、曲は、矢島祥子さんのお兄さんである敏さんに付けて頂きました。高橋樺子は、これまで『平和』をテーマに歌ってきましたが、今回、新たなスタイルの平和を、この『さっちゃんの聴診器』で沢山の方に聞いて頂き応援して頂きたいと思う曲です。

高橋樺子さん

◆「釜ヶ崎人情」が繋げた縁

もず唱平さんが「さっちゃんの聴診器」を書くきっかけとなったのが、もずさんが作った「釜ヶ崎人情」だった。もずさんの「釜ヶ崎人情」は、釜ヶ崎のカラオケのある居酒屋では「カマニン入れてや」といわれるほど、労働者に親しまれ良く歌われる曲だ。もずさんは、作詞家としてこの曲を初めて作るとき、何度も何度も釜ヶ崎に通い、飲み屋で労働者に話を聞いたという。その「釜ヶ崎人情」が、矢島敏さんともずさんを繋げていった。

「さっちゃんの聴診器」のモデルとなったのは、矢島敏さんの妹・祥子さんで、2007年4月から、西成区の鶴見橋商店街にある診療所で内科医として勤務しはじめた。その傍ら、ボランティアで野宿者支援活動に非常に熱心に取り組んでいた。給料、ボーナスを惜しみなく、野宿者らへの寝袋の購入費などに費やしたという。

しかし、2009年11月16日、西成区内の木津川の千本松渡船場で遺体で発見された。まだ34歳の若さだった。西成警察署は、当初「過労による自死」と断定した。

しかし、共に医師である群馬県の両親が、祥子さんの遺体の状態、痕跡などから、何者かに殺害されたのではないかと疑い、「事件として捜査してほしい」と訴え続け、その後ようやく自殺、事件の両面で捜査すると約束してくれた。ただ残念なことにその後捜査は進んでいない。

両親、敏ちゃんら兄弟は、毎月祥子さんが行方不明になった14日、祥子さんが勤務していた診療所のある鶴見橋商店街で、情報提供を求めるチラシ配りを支援者らと続けている。その前後、釜ヶ崎の居酒屋・難波屋や社会福祉法人「ピースクラブ」でライブを行ってきた。ライブの冒頭、支援者らと必ず歌う曲が「釜ヶ崎人情」だった。

2018年8月7日、NHKが、そうした情宣活動やライブ活動など、遺族や支援者らの活動を取材し、ドキュメンタリー「さっちゃんは生きたかった~大阪釜ヶ崎 女性医師変死事件~」が制作され、放映された、その番組を偶然自宅で見ておられたもずさん、「自分の作った曲が歌われている……」と驚かれると同時に、何かできないかと、遺族に連絡を取り、敏ちゃんらのライブにやってこられた。

初めてもずさんがライブに訪れた日のことを、敏ちゃんはこう話している。

「今日会場にもずさんという方が来られていると聞き、すぐにネットでググり、びっくりしました」。

その後もずさんは、祥子さんの故郷・群馬県で行われた偲ぶ会などにも参加し、遺族のために、何かできることはないかと考え、祥子さんのための歌を作ろうと考えた。

「曲を作るのはあなたしかいないんだ」と作曲を頼まれた兄・敏さん。こうして、もず唱平作詞、矢島敏作曲の「さっちゃんの聴診器」が生まれた。

矢島祥子さんの兄、敏さん(左から二番目)率いる「夜明けのさっちゃんズ」と高橋樺子さん

もずさんは、昨年11月に行われた偲ぶ会でこう話されていた。

昔、新谷のり子さんが歌った『フランシーヌの場合』(1969年)という曲が流行りました。『フランシーヌの場合は、あまりもお馬鹿さん……」と始まる歌を聞いて、多くの人が「フランシーヌって誰?」と思ったと思います。『さっちゃんの聴診器』も同じように『さっちゃんて誰?』と関心を持ってもらえるきっかけになればとの思いで作りました」。『もっと生きたかった この町に もっと生きたかった 誰かのために」。曲のはじめに繰り返されるこのフレーズ、ぜひ多くの皆さんに聞いていただきたい。一緒に口ずさんで頂きたい。そして若くして亡くなった矢島祥子さんに思いをはせて頂きたい。

「さっちゃんの聴診器」を作詞されたもず唱平さん(右)が、歌に込めた思いを語る

◆沖縄に移住し、新たな音楽活動、そしてラブ&ピースの活動を!

今回の新曲発表ライブのサブタイトルに「私、沖縄に移住しました」とある。そうです。もずさんが温かい場所で作詞活動を行いたいと、昨年事務所を沖縄に移したことをきっかけに、高橋さん、マネージャーの保田さんらも沖縄に移住し、新たなレーベル「UTADAMAMUSIC」を立ちあげた。

「言霊」にかけた「UTADAMA」(歌霊)では、沖縄の島唄と本土のやまとうたの「混血」ソングを目指したいという。その第一弾の「さっちゃんの聴診器」。

「もっと生きたかった この町に もっと生きたかった 誰かの為に……。」

曲のはじめに繰り返されるこのフレーズ、ぜひ多くの皆さんに聞いていただきたい。一緒に口ずさんで頂きたい。

そして34歳の若さで無念の死を遂げた矢島祥子さんのことを少しでも知って欲しい!

「さっちゃんの聴診器」(作詞=もも唱平/作曲=矢島敏/編曲=竜宮嵐)


◎[参考動画]高橋樺子 ”さっちゃんの聴診器” ~short ver~

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年冬号(NO NUKES voice改題 通巻34号)

汚染水放出のトリチウム濃度について東電は「海洋放出の場合」 「海水中のトリチウムの告示濃度限度(水1リットル中6万ベクレル)に対して、 「地下水バイパス」及び「サブドレン水」(原発建屋周囲の地下水汲み上げ井戸)の運用基準(水1リットル中1500ベクレル)を参考に検討する、としている。

一見、法令上の規制値から40分の1に下げているので安全と思われるかもしれないが、それは誤解だ。

放射性物質による公衆の年間被曝制限値は1ミリシーベルトと定められている。

1500ベクレルとは、現在も放出されているサブドレン水及び地下水バイパスの排出運用に基づき設定された値である。これ以外にも放射性物質が漏出している福島第一原発では、法定基準値で排出したら他の放射性物質との合計で1ミリシーベルトを超えることから、トリチウムについては1500ベクレルとした。

事故によりさまざまな放射性物質を拡散させる福島第一原発では、排水中にトリチウム以外にもセシウムやスト097ロンチウムなどの放射性物質が含まれることから、それらが混在していても全体として公衆への被曝線量が法定基準内に収まるよう2012年に設定されたのである。

サブドレンとは、建屋周りの地下水を汲み上げて排水することで建屋などへ流入する地下水を低減させるために使用する井戸。地下水バイパスとは原発の上流側の海抜35メートルの高台に12本の井戸を設け、地下水を連続して汲
み上げ排水する設備だ。

アルプスで処理した水も、ストロンチウムやセシウムが全部なくなるわけではないし、その他の放射性物質も残留するとして、その値が告示濃度以下であっても環境への影響、人体への影響を抑えるために設定されている。現在は排水中のトリチウムが1500ベクレルを超えることは認められないことから、サンプリングで超えた場合はすべてタンクに貯蔵される。このことから東電はそれを目安として排出する
ことにしている。

一般の原発では存在しない1500ベクレル/リットルという基準を定めなければならないほど、福島第一原発の環境は汚染されていることを示している。

貯蔵すればトリチウムの総量は減る海洋放出について全国漁業協同組合連合会(全漁連)は、反対の意志を変えていない。県漁連と国・東電との間では「関係者の理解なしには放出をしない」ことを文書により約束している。

国も東電も反故にすることはしないという。しかし一方で海洋放出に関する「説明会」が1000回以上開催されており、既成事実化しようとしている。放射性物質は常に「減衰を待つ」ことが基本だ。

トリチウムの半減期は12.3年で、初期値が850兆ベクレルでも2052年時点で約90兆ベクレルに減る。さらに、濃縮すれば体積を大幅に削減できる。

123年経てば1000分の1になるので問題はさらに解決しやすくなる。

トリチウムの量を減らすには、時間経過を待つのが最も効率的だ。地元をはじめ多くの人々が求めているのは100年以上の長期保管だ。

これについて経産省は「2011年12月から30~40年での廃止措置終了時においては、アルプス処理水についても処分を終えていることが必要」としている。そして「貯蔵継続は廃止措置終了まで(注:最長2052年まで)の期間内で検討することが適当」と期限を切る。

東京電力は4月12日に海洋放出の関連費用が4年で計430億円に上る見通しだと明らかにした。これだけの費用を掛ければ、数年で新しく地下式のタンクで備蓄することは可能だ。地上タンクもなくすことができ、防災上も有利である。

肝心の廃炉が40年以内に完了する見通しは、まったくない。この前提で検討を進めること自体が全体をミスリードさせている。考え方を変える必要がある。ありもしないゴールを想定して汚染水放出を正当化することなど許されない。(完)

◎山崎久隆《特別寄稿》福島第一原発からの「汚染水海洋放出」に反対する
〈1〉放出にいかなる理由があるのか 
〈2〉「汚染水対策」は最初から失敗 
〈3〉「1500ベクレル」の根拠 

本稿は『季節』2022年夏号(2022年6月11日)掲載の「福島第一原発からの『汚染水海洋放出』に反対する」を本ブログ用の再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年冬号(NO NUKES voice改題 通巻34号)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号

東電は「どのような処分方法であっても、法令上の要求を遵守することはもちろんのこと、風評被害の抑制に取り組む」(市民団体の質問への回答より)としているが、その処分方法は国の小委員会でも「大気放出」 「海洋放出」の2つしか議論されていない。地元の漁協などへの反対意見に対しても「放出」前提の対策のみで話が進んでいる。国も東電も放出以外の方法を検討していない。

2012年想定で、 2021年度末の段階では汚染水の新たな発生はなくなり、建屋内部の滞留水もデブリの冷却用に注入される日量5トンから6トン(3基合計で20トン程度)に留まるとされていた。

これは、凍土遮水壁や建屋及び周囲の土地の雨水浸入防止措置で、新たな水の流れ込みを押さえることで達成できるとしていた。

ところが、2017年頃になって、地下水や雨水の侵入防止がうまくいかないことが顕在化し、結局、当時最大でも80万立方メートル(現状の6割程度)で留まるはずが、今も増え続けている。

浸水防止の失敗が、汚染水増加を食い止められない事態を生んだ。2021年中には1日平均150立方メートルも浸入する状況になっている。

凍土壁が地下水を十分食い止めきれず、随所に漏れがあること、特に下部(底の部分)はもともと止められていないこと、建屋の損傷部や敷地の土壌部(舗装さえ完了していない)からの雨水浸入が止められないことが原因だ。

最初から、恒設の止水壁を地下に造り、 「地下ダム」を構築すると共に地上部をチェルノブイリ原発のドームのような構造物で覆うなどしていれば、汚染水の増加は防ぐことができたし、そうした主張や提案は市民から東電にも国にもされていたのに採用しなかった。また、その責任を指摘し追及する人もほとんどいない。

今からでも、これら対策を最優先にし、汚染水の発生量をゼロにする対策を構築すべきだ。

◆「放出基準値」の異常

申請されている放出方法では、汚染水は1日当たり最大約500立方メートルを排出する計画で、 「1500ベクレル/リットル」の濃度まで海水で薄めて流すという。その総量は「トリチウムで年間22兆ベクレル」で、原発が稼働していた時の管理目標値を使う。

原発の時代の管理目標値を、どうして廃炉になった原発で使えるのか、その法的根拠は何かが疑問だ。

さらに福島第一原発が実際に稼働していた時代には、年間放出量実績は平均約2兆ベクレル程度だった。実績として管理目標値の10分の1に抑えていたとも言える。ところが今度は原発でさえない(即ち経済的なメリットも何もない)施設から年間22兆ベクレルを放出するという。

40年かけて毎年22兆ベクレル放出の場合、開始時点では汚染水は総量137万トンほど、さらに毎日130トン程度溜まり続けるために、全体量はすぐに大きく減らない。現状の風景の約1000基のタンク群はそのまま。目に見えてタンクが減りはじめるのは2040年頃以降である。

東電はタンクの貯蔵限界を2023年秋とし、最長で24年1月まで貯蔵可能としている。その段階で137万トンを越えるという。しかしこれは放出開始時期を2023年春と仮定し、逆算して日量130トンの汚染水発生を推定した結果にすぎない。大型台風がひとつ襲来したり梅雨や秋の長雨でもあれば崩れてしまう。

建屋の止水を進めることが最も効果的なのだから、これを進めていけば少なくてもタンク容量から、放出時期を23年にする根拠はなくなる。単なるつじつま合わせでなく、対策と効果を正しく評価して、優先すべきことを明確にする必要がある。(つづく)

◎山崎久隆《特別寄稿》福島第一原発からの「汚染水海洋放出」に反対する
〈1〉放出にいかなる理由があるのか 
〈2〉「汚染水対策」は最初から失敗 
〈3〉「1500ベクレル」の根拠 

本稿は『季節』2022年夏号(2022年6月11日)掲載の「福島第一原発からの『汚染水海洋放出』に反対する」を本ブログ用の再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年冬号(NO NUKES voice改題 通巻34号)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号

福島第一原発の事故から、早くも11年余の時が経過した。この間に何度か地震に遭遇したが、大きな被害は受けていない。この地域は常に巨大地震と津波の脅威が迫っているとされるところであり、重大事故を再発する潜在的な危険性は大きい。

発生した場合、爆発的な炉心溶融ではなく、炉心の真下にあるデブリの拡散と1000基を超える汚染水貯蔵タンクの倒壊のような、放射性物質の拡散事故が大きな被害をもたらす恐れがある。また、使用済燃料プールの冷却ができなくなり、燃料破損・溶融も懸念される。言い換えるならば、原子炉建屋の倒壊が最も危険である。

それに対する安全対策は最優先事項だ。しかし現状はそうなっていない。

政府は、2021年4月に福島第一原発のタンクに溜まり続けている「汚染水」約134万トンについて、 「海洋放出」で処分することを決定した。その理由として費用対効果と共に、汚染水タンクが地震で倒壊した場合の放射性物質大量拡散を防ぐためとしている。

しかし、海洋放出を始めたからといってすぐにタンクがなくなるわけではない。30~40年とされる「廃炉期間」の間に順次減っていく程度である。最初の数年は、見かけも減った印象などないし、地震のリスクも変わらずに存在し続ける。

福島県民や漁業関係者をはじめとして、強い反対の声を押し切ってまで強行する合理的な理由は見当たらない。また、東電は敷地をタンクが占領している状態で、廃炉に必要なデブリ取り出しの施設、設備が設置できないことを理由としている。しかしこれは合理的な敷地利用で対処可能であり、理由にはなっていない。

すでに規制委員会の審査がほぼ終わり、2022年6月には排水用地下トンネル本体工事着工、2023年春頃にも放出開始されるとされる。その最新の状況をお伝えする。

◆福島第一原発の「汚染水」とは何か

NHKは2021年4月の関係閣僚会議での海洋放出決定以降、「汚染水」という表現をやめた。「風評被害を招く」との主張が国会でされたことが原因だ。

他の報道機関も「福島第一原発の貯蔵タンクの水」を「アルプス処理水」または「処理水」と呼ぶようになっている。なお、アルプスとは「ALPS・多核種処理設備」のことだが、以下「アルプス」と表記する。

しかし、どのように表現しても「流れ込んだ雨水と地下水と、冷却用の注水が溶け落ちた炉心いわゆるデブリに接触して汚染された水」を「多核種除去設備・アルプスで処理した水」であることに変わりはない。

最初の 「汚染」 を重視するか 「処理」を重視するかで、呼び方に違いがある。汚染の大小があるにしても、トリチウムなどの放射性物質が混じる水だ。「アルプス処理」をしてもトリチウムの量が1リットル当たり数百万ベクレルにも達するものもあるので「トリチウム汚染水」とも言える。しかしアルプスを通してもストロンチウムやセシウムなどは全部除去しきれないので「(放射能)汚染水」でもある。

現在貯蔵されているタンクの水は、そのまま薄めて海に流せるものは3割以下、残りは再度アルプスで処理して流すとしているから、国の基準でも現在の水は大半が汚染水であることに変わりはない。(つづく)

◎山崎久隆《特別寄稿》福島第一原発からの「汚染水海洋放出」に反対する
〈1〉放出にいかなる理由があるのか 
〈2〉「汚染水対策」は最初から失敗 
〈3〉「1500ベクレル」の根拠 

本稿は『季節』2022年夏号(2022年6月11日)掲載の「福島第一原発からの『汚染水海洋放出』に反対する」を本ブログ用の再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年冬号(NO NUKES voice改題 通巻34号)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年2月号

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