2012年6月、福島の原発事故後、初めて再稼働の是非を審議していた福井県おおい町議会で、議長(当時)が取材陣にコメントを求められた際、ふざけて「一言だけ……『あ』。」と答えたことがあった。議長はその後不謹慎だったと辞任したが、全国から注目される原発再稼働が、こんな人たちに決められているのかと驚いたことを覚えている。
◎[参考動画]一言だけ「あ」とコメントのおおい町議長辞任へ(ANN 2012年6月13日)
再稼働を決める原発立地の町議会、しかしそこには必死で止めようと闘う議員もいる。そのお一人、美浜町の松下照幸議員に、議会について、原発の立地する美浜町の今、そしてこれからについてお話を伺った。(聞き手・構成=尾崎美代子)
◆もんじゅの下請企業の元職員が議長を務める美浜町議会
美浜町議員の松下照幸さん
── 老朽原発の美浜3号機の再稼働にむけて美浜町議会はどう動いたのでしょうか?
松下 美浜町議会は議員が14名います。議長は元もんじゅの下請企業の職員、あと関電OBが一人、土木関係の仕事をしていた議員などがいます。みな行政とつながっています。2年前、僕が3期目の1年頃などは、僕が発言するとすごいヤジが飛びました。その後私の存在が認められたのか、ヤジは飛んでいません。
12月4日に大阪地裁判決がでましたが、12月3日に僕は一般質問で老朽原発である美浜3号機の再稼働には反対と訴えました。地域の人から「松下さん、よかったね。判決が出てからだと後追いと思われるが、出る前にやったので値打があるね」といわれました。各家庭にケーブルテレビが入っていて、議会の様子が放映されます。これが大きい。僕らも一般質問に力をいれて、何日もかけて原稿をつくります。
一般質問への返答は、敦賀に常駐する規制委員会の人と相談して書いているのではないかと推測していますよ。あとややこしい質問の返答は、関電と相談していると思いますね。12月議会は6人やって、僕と河本(猛)議員は1時間びっしり、時間オーバーするくらいやりました。議長もいつもは止めるんですが、今回は少しだけやらせてくれましたね。
雪降る中、再稼働反対を訴えて、美浜町役場前に集まった人びと(写真提供=橋田秀美さん)
◆行政とつながる業者・関係者たちが「再稼働推進」を請願する
── 再稼働推進の請願を出したのはどういう人たちですかね?
松下 原発利権や行政発注工事とつながる業者、観光協会や商工会、区長関係からの請願書を推進側は2本にまとめて出しました。反対側は10本ほどだしました。僕は中嶌哲演さん(小浜市の明通寺住職)、木原壯林さん(若狭の原発を考える会)、全国の議員連盟234人の方の請願、そして美浜3号機の件で規制委を訴えた名古屋地裁での裁判のものが1本。それらを紹介議員として請願ごとに説明しました。
共通点として老朽原発を動かすなということ、あとは関電のコンプライアンス、ガバナンス問題などです。規制委は原発を安全に動かす仕組みをつくるといいますが、名古屋地裁の裁判の内容をみると、かなり手抜きをしていることがわかります。基準地震動も過小評価しているし、圧力容器のデータの問題でも関電のいいなりで、基本となる原データの公開を頑なに拒んでいる。それを認めたうえで再稼働を容認しているわけで、今後大阪地裁の判決が名古屋の裁判にも影響していくと思います。規制委は安全を保証する組織ではなく、福島の事故前の原子力安全保安院とよく似た事態に陥っていると思います。
同上(写真提供=橋田秀美さん)
◆原発があることの不安と、なくなることへの不安
── 町全体は、不安だが再稼働するしかないという感じですか?
松下 いや、ぼくが町を回っている感じでは、原発があることの不安と、なくなることへの不安とが半々だと思うね。ただ、町民の皆さんも大阪地裁の判決には驚いたようですね。判決後、全員協議会で関電と規制委の説明会がありました。本当はそれ抜きに、9日の原子力発電特別委員会で採決の予定でしたが、前日に説明会があり、大阪地裁の被告・規制庁が、議員全員に判決の不当性を訴えていました。判決は本意ではないと。
僕らは、規制委が判断した内容には問題があるし、自分たちが決めたガイドを守らなかったから問題だと判決はいっているので、なぜそれをやらなかったのか?と質問しました。規制委員会は、平均値やバラつきについては検討しなかったが、その他の要因の部分はきちんと検討している。地裁判決はそれをみていないという答弁でした。
── しかし判決の効力は最終的な結論が出るまで発揮されませんね。
松下 彼らは裁判の正当性や是非が問題ではなく、再稼働を続けることが最大の関心ごとだと思う。そのために控訴する。だけど上訴しても、動かすことに関して一定の理由があれば差し止めも可能という判決が、伊方原発の最高裁判決で示されている。彼らは、上訴すれば何年かけても再稼働できるというのを狙っているが、こちら側にも別の方策があるということです。最高裁判決は覆すことができないから。こういう問題があるから、基準地震動の見直しやデータのばらつきの問題を見直さないと、大きな地震がきたときに破壊されてしまうと理論的にやっていく裁判になるといいですね。
12月9日美浜町議会原発特別委員会で、再稼働を求める請願2件が採択され、反対を求める請願10件が否決された。関電原子力事業本部へ向かうため、美浜駅に集まった人たち(写真提供=河本猛美浜町議)
◆「原発には先がない」と知っている地元企業関係者
── あと、使用済み燃料の置き場を県外へ作る問題も決まっておらず、そう簡単には再稼働はできないでしょうね。関電の原発マネー不正還流事件については町の人の反応は?
松下 美浜町は、「あれは高浜の問題で美浜は関係ない」と宣伝しています。美浜原発とつながる地域の大手土木会社が、森山元助役に月50万か払っていたそうです。町は「美浜は関係ないから調査もしない」と言うが、問題ないなら、調べて問題ないというのが筋だが、最初からやらないということは、やっぱり臭いものに蓋をしたいということの状況証拠になりますね。あと美浜には、森山さんのような、関電と直接交渉するようなボスはいなかった。
── 再稼働しないとなると、困る人は多いでしょうか?
松下 困る会社もあるが、ただ田舎は仕事がなくなってもクッションがあってね。僕ら団塊の世代も原発で働いていたが、仕事がなくなって会社が倒産しても、大きな問題にはならなかった。定検短縮などで単価がどんどん切り下げられてきた。ある末端の経営者が僕を探し出し「非常に厳しい」という内部告発をしてくれました。関電の秋山会長の頃ですが、そのあたりから単価が切り下げられ、地元企業もなかなか利益をだせない、そういう状況なのでみんな「原発は先がない」と知っていた。再稼働できなくて、相当ひどい反発があるかといえば、それはない。銀行も調査していますが、そんなに影響はないというようだったようです。マスコミは一部の「困った。困った」という業者は取り上げるが、それ以外は取り上げない。原発に入る業者は設備関係ですが、違う仕事を取りにいくなどしているようですね。
── 私は原発の再稼働には反対ですが、地元の人は困るだろうなと思っていましたが?
松下 もうみんな原発に先はないなと思っていますよ。昔と金のまわり方が違う、どんどん単価を下げている。定検短縮で入れる業者も絞られていく。昔はいい加減な会社も入れたが、被ばくしてなんぼの仕事なので、単純作業が多いからね。
── 私の住む釜ヶ崎から原発の仕事に行った人がいるはずですが、ほとんど聞かない。厳しい緘口令が敷かれているからですかね?
松下 僕らが町で原発の学習会をやったとき、原発の仕事をする知り合いが来てくれた。話のあと、彼が前に出て「自分たちはこういう風にして問題を隠した」と具体的な話をしてくれた。その後、彼は仕事を貰えなくなったからでしょうか、町から出ていきました。これは都会の人が考えているより、相当厳しいですよ。
── 今日はどうもありがとうございました。
美浜町議会は、12月9日、原子力発電所特別委員会で再稼働を求める区長会や推進団体らの請願2件を賛成6、反対1で採決、15日の本会議でも採決された。しかし町には「原発に先はない」と思う人たちが増えていることも事実。一部の人たちの利権のためだけに、末端の被ばく労働者に犠牲を強いて、危険な老朽原発を動かすことは許されない!!
◎[参考動画] 原発廃炉後の美浜町の未来を見つめて 松下照幸さんのお話を聞く会(CNIC 2013年12月13日)
▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58
『NO NUKES voice』Vol.26《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか
『NO NUKES voice』Vol.26
紙の爆弾2021年1月号増刊
2020年12月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ
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総力特集 2021年・大震災から10年
今こそ原点に還り〈原発なき社会〉の実現を!
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《特別鼎談》原子力裁判を問う 司法は原発を止められるか
小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)
樋口英明さん(元裁判官)
水戸喜世子さん(「子ども脱被ばく裁判」共同代表)
[司会]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
[インタビュー]なすびさん(被ばく労働を考えるネットワーク)
被ばく労働の実態を掘り起こす
[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
どの言葉を使うかから洗脳が始まってる件。「ALPS処理水」編
[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
原発災害の実相を何も語り継がない 「伝承館」という空疎な空間
[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈10〉 避難者の多様性を確認する(前編)
[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈20〉五輪翼賛プロパガンダの正体と終焉
[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎共同代表)
東電福島第一原発の汚染水「海洋放出」に反対する
[報告]松岡利康&『NO NUKES voice』編集委員会有志
ふたたび、さらば反原連! 反原連の「活動休止」について
[対談]富岡幸一郎さん(鎌倉文学館館長)×板坂剛さん(作家・舞踊家)
《対談》三島死後五〇年、核と大衆の今
[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が放射能汚染水の海洋投棄と原発の解体、
再処理工場の稼働と放射性廃棄物の地層処分に反対する理由
[報告]横山茂彦さん(編集者・著述家)
中曽根康弘・日本原子力政策の父の功罪
[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
やがてかなしき政権交代
[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
誑かされる大地・北海道
人類の大地を「糞垂れ島」畜生道に変えてしまった“穢れ倭人”は地獄に堕ちろ!
[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈10〉人類はこのまま存在し続ける意義があるか否か(上)
[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
原発反対行動が復活! コロナ下でも全国で努力!
《玄海原発》豊島耕一さん(「さよなら原発!佐賀連絡会」代表)
《伊方原発》秦 左子さん(伊方から原発をなくす会)
《高浜・美浜》けしば誠一さん(杉並区議会議員、反原発自治体議員・市民連盟事務局次長)
《規制委・環境省》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《東京電力》佐々木敏彦さん(環境ネット福寿草)
《東海第二》小張佐恵子さん(彫刻家、いばらき未来会議、福島応援プロジェクト茨城事務局長)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団共同代表)
《福島第一》片岡輝美さん(これ以上海を汚すな!市民会議)
《地層処分》瀬尾英幸さん(脱原発グループ行動隊)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関西電力》老朽原発うごかすな!実行委員会
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