誰もがいくばくの不安や、気持ち悪さを共有しているであろう、珍しい光景。それもこの国だけではなく、ほぼ世界すべての国を覆いつくしているCOVID-19(新型コロナウイルス)。

「緊急事態宣言」と、大仰な「戒厳令」もどきが発せられたとき、報道機関は一色に染まり、この疫病への恐怖と備えを煽り立てたのではなかったか。あれは、たった数か月前の光景だった。為政者の愚は使い物にならないマスクの配布に象徴的であった。安倍が「無能」あるいは「有害」であることを、ようやくひとびとが理解したことだけが、この惨禍の副産物か。

いま、ふたたび(いや、あの頃をはるかに凌ぐ)感染者が日々激増している。「接触する人の数を8割減らしてください」と連呼していた声は、どこからも聞こえない。それどころか、国は感染対策をきょう時点で、まったくといってよいほどおこなっていない。毎日感染者は激増するだろう。そして都市部から順に医療は崩壊する。COVID-19(新型コロナウイルス)による死者は春先に比べて、少ないようではあるが、医療機関内の混乱とひっ迫に変わりはない。

たった数か月前の「緊急事態」すら発した人間も、発せられた人間も、あの時のことを忘れてしまったのか。そこまで人間の頭脳は、「記憶」機能を失なったのか。

数か月前を想起できないのであれば、75年前を肉感的な事実として、想像したり、それについて思索を巡らすことなど、望むべくもないのだろうか。

残念ながらわたしの体は、それを許さない。

あの日、広島市内で直撃を受けながら生き永らえ、50歳過ぎに癌で急逝した叔父から聞いた、あまたの逸話。その叔父だけではなく同様にあらかじめ寿命が決まっていたかのように、50過ぎに次々と急逝していった叔父たち。そして高齢とはいえ、100万人に1人の確率でしか発症しない、といわれている珍しい癌に昨年罹患した母。担当医に「被爆との関係が考えられますか?」と聞いたが、「それはわかりません」とのお答えだった。それはそうだろう。お医者さんが簡単に因果関係を断言できるわけではない。

不可思議なのだ。長寿の家系……

ついにその足音はわたし自身に向かっても聞こえてきた。

長寿の家系であったはずの、母方でどうして「癌」が多発するのか。科学的因果関係などこの際関係ないのだ。わたしの記憶には生まれるはるか昔、経験はしていないものの、広島の空に沸き上がった巨大なキノコ雲と、その下で燃え上がった町や、焼かれたたんぱく質の匂いが現実に経験したかのようにように刻み込まれている。

人間はどんどん愚かになってはいないだろうか。記憶や想像力を失ってはいないか。

8月の空は悲しい。

▼田所敏夫(たどころ としお)

兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

月刊『紙の爆弾』2020年8月号【特集第4弾】「新型コロナ危機」と安倍失政

『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

福島第一原発で増え続ける汚染水の処分問題が大詰めを迎えている。福島第一原発事故で破損した原子炉を冷却することで発生する放射性物質を含む汚染水は、1日約150~170トンで増え続けるため、敷地内の貯蔵タンクも、2022年夏頃には満杯になると予測されている。

経産省は、2013年から汚染水の処分方法について、希釈して濃度を下げて海に放出、水蒸気にして大気に放出、地下深くに埋設などの五つの方法について技術的な検討をはじめていた。今年1月31日、経産省資源エネルギー庁の「多核種除去設備など処理水の取り扱いに関する小委員会」は、海洋放出と大気放出の2案について「前例がある」ことを理由に前向きに進めるとした案をとりまとめ、2月10日「より確実に処分できる」として海洋放出を具体的に提言した報告書を公表した。

◆西尾正道氏が指摘するALPS処理汚染水の危険性

汚染水について経産省は、放射性セシウムや放射性ストロンチウムなど62種類については「多核種除去設備」(ALPS)でほぼ除去され、トリチウムのみが残存するとしてきた。さらに「自然界にも存在し、全国の原発で40年以上排出されているが健康への影響は確認されていない」「トリチウムはエネルギーが低く人体影響はない」と安全性を強調してきた。

しかし、北海道がんセンター名誉院長・西尾正道氏からは、低濃度でも人間のリンパ球に染色体異常をきたすこと、原発の下流域に小児白血病やダウン症、新生児死亡などの増加していること、トリチウム放出量が多い加圧水型原子炉の玄海原発(佐賀県)や泊原発(北海道)の周辺地域で、稼働後白血病やがんでの死亡率が高まったことなどが報告されている。

しかも2018年9月には、処理後に残存するのはトリチウムだけではなく、ストロンチウム90、セシウム137、ヨウ素129などが基準値を超え、保管量の7割に残っていることも明らかにされた。海洋放出する際には二次処理を行い希釈するというが、薄めたとしても、トリチウム始めほかの62核種が、世界規模の環境汚染、そして漁業などへ「実害」をもたらすことは必至である。

◆地元で高まる「海洋放出反対」の声

政府は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、全国で自粛が続く中、今夏にも処分方法を決定したいがため、4月6、13日、5月11日、6月30日に限られた団体・関係者のみを集めて意見聴取会を強行した。

この中で、福島県漁業協同組合連合会、福島県森林組合連合会、福島県農業協同組合中央会は2案に対して明確に反対を表明し、その他の関係機関や自治体首長からは、もっと多くの県民に説明をして意見を聞くべき、必ず起きる新たな風評被害に対する具体策を提示するべきとの発言が大半を占めた。

処分方法を提言した報告書に対して、福島県内59の市町村議会の中から反対の声があがり、6月25日時点で会津若松、いわき市、喜多方市、相馬、郡山市、三春町など19市町村議会が、国に対する「海洋放出反対」「風評対策要望」などの意見書を可決した(ほかに継続審議が1市)。

また漁業関係者では、全国漁業協同組合連合会が6月23日の通常総会で「海洋放出に断固反対する特別決議」を全会一致で採択、コロナ禍の感染拡大防止の自粛活動が進むなかで、一部の関係者が一方的に議論を進めていることに対して「強い不信と憤りを禁じ得ない」と怒りを表明した。さらに26日福島県漁連も「海洋放出に断固反対する」とする特別決議を全会一致で承認した。

6月23日の福島県議会開会日に、福島県議会にも反対の意見書提出を請願した時のスタンディングの様子(大河原さきさん提供)

◆三春町在住・大河原さきさんに聞く汚染水問題

汚染水の海洋放出について、何が問題かを、福島県三春町在住で「モニタリングポストの継続配置を求める市民の会・三春」の大河原さきさんにお話を伺った。

── 汚染水問題で福島県内では次々と議会で反対決議などがあがっています。具体的には「海洋放出反対」から「風評対策要望」などと、地域によって温度差などがあるようですが?

三春町議会に提出された汚染水の海洋放出に反対する意見書

大河原 地域の温度差ではなく、町村部は住民の意見を反映しやすく、反対や長期保管を求める意見書となったのは町村議会が多いです。陳情や請願を行った団体は「海洋放出反対」の意見書を求めていたと思いますが、市部の議会は自民党議員が過半数を占めるため、「反対」や「陸上保管」などを引っ込めて、自民党案の「風評対策の拡充要望」を加えるなど、苦渋の駆け引きとなったところもあり、意見書提出が否決されるより、可決されることを選んだ結果です。

── 実際は福島だけではなく、日本全体、そして地球規模で論議される必要があると考えますが?

大河原 その通りです。福島県は原発事故の被害県であり、県民は被ばくや避難を余儀なくされました。また第一次産業でなりたっていた県ですが、農畜産物、海産物の市場価格は下落したままです。福島原発で発電された電力はすべて関東地方に消費されているのに、事故による放射性廃棄物である汚染水処分が、福島県の問題であるかのようにされているのは間違いです。これは原発を推進してきた日本政府が責任を取らなければならない問題です。

また原発稼働が続く限り、今後各地で起こりうる問題として、日本全体で考えなければならないと思います。今回の意見聴取会のように、政府が指名した団体だけではなく、またパブコメのように一方的に意見を書いて送るものでもなく、意見を述べたい人が誰でも述べられる公開の場をつくるべきです。原発事故によって既に大量の放射性物質を海に流してきた日本に対し、国際的な批判もある中で、海外からの意見を聞く場も公開で設けるべきです。

6月23日の福島県議会開会日に、福島県議会にも反対の意見書提出を請願した時のスタンディングの様子(大河原さきさん提供)

── 政府はこのコロナ禍でも意見会を強行するなど、処分方法決定をかなり焦っていると思えますが、何故だとお考えでしょうか?

大河原 国内外で海洋放出に安泰する人々がコロナ禍で動けず、全国的、国際的な問題になる前に、すべての関心がコロナに向いているこの機会に、「海洋放出」という、一番安価で簡単な方法を、急いで決定したかったのだと思います。それに対しては、国連人権理事会の特別報告者も、6月9日に「処理水の海洋放出に関するいかなる決定も、新型コロナウイルスの感染拡大がひと段落するまで控えるよう求める声明を発表して、釘を刺したほどです。

◆「日本政府と東電は、陸上での長期保管の用地確保のための努力をせず、漁業者を犠牲にする形で海洋放出しようとしています」(大河原さん)

── 最後に、汚染水問題で全国の皆さんに訴えたいことをお聞かせください。

大河原 原発事故によって発生した汚染水問題は、福島県の問題でなく日本全体の問題です。日本政府と東電は、陸上での長期保管の用地確保のための努力をせず、漁業者を犠牲にする形で海洋放出しようとしています。

これを食い止めるための1つの方法として、皆さんがお住いの地方自治体議会からも、海洋放出に反対する意見書を国に提出するために、9月議会に陳情や請願をしていただけませんか? 県外からの意見書が沢山出てくることで、福島県だけの問題ではないということが具体的になると思います。

4月20日に国連人権理事会の特別報告者から、汚染水の海洋放出に関する申し入れがありましたが、日本政府からの回答がなく、前述したように、6月9日、特別報告者から生命が出され、政府は6月12日に(あわてて)回答を発表しました。

回答に「7月15日までの書面での意見募集(パブリックコメント)を行っている」と書いてあり、6月15日が締め切りだったのに、経産省のホームページにも6月12日急に1カ月延長したことが掲載されました。「市民の意見を聞いている」とやってる感を見せるためだったようです。ともあれ、全国からの海洋放出反対のパブコメをたくさん経産省に寄せてください。

経産省ウェブサイト「多核種除去設備等処理水の取扱いに係る関係者の御意見を伺う場 及び 書面による御意見の募集について」
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/takakushu_iken/index.html

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉をもとめて 『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

『NO NUKES voice』Vol.24
紙の爆弾2020年7月号増刊 好評発売中
定価680円(本体618円+税)A5判/148ページ

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総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機
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[表紙とグラビア]「鎮魂 死者が裁く」呪殺祈祷僧団四十七士〈JKS47〉
(写真=原田卓馬さん

[報告]菅 直人さん(元内閣総理大臣/衆議院議員)
原子力とコロナと人類の運命

[報告]孫崎 享さん(元外務省国際情報局長/東アジア共同体研究所所長)
この国の未来は当面ない

[報告]田中良紹さん(ジャーナリスト/元TBS記者)
コロナ禍が生み出す新しい世界

[報告]鵜飼 哲さん(一橋大学名誉教授)
汚染と感染と東京五輪   

[報告]米山隆一さん(前新潟県知事/弁護士/医師)
新型コロナ対策における政府・国民の対応を考える

[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
コロナ禍は「世界一斉民主主義テスト」

[報告]小野俊一さん(医師/小野出来田内科医院院長)
新型コロナ肺炎は現代版バベルの塔だ

[報告]布施幸彦さん(医師/ふくしま共同診療所院長)
コロナ禍が被災地福島に与えた影響

[報告]佐藤幸子さん(特定非営利活動法人「青いそら」代表)
食を通じた子どもたちの健康が第一

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈8〉
新型コロナウイルス流行と原発事故発生後の相似について

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
コロナ禍で忘れ去られる福島

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈19〉
翼賛プロパガンダの失墜と泥沼の東京五輪

[インタビュー]渡邊 孝さん(福井県高浜町議会議員)
(聞き手=尾崎美代子さん
関電原発マネー不正還流事件の真相究明のために
故・森山元助役が遺したメモを公にして欲しい

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
僕らは、そして君たちはどうたち向かうか

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が原発の解体と埋設に反対する理由

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
《対談後記》四方田犬彦への(公開)書簡

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
令和「新型コロナ」戦疫下を生きる

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈8〉
東京オリンピックを失って考えること

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
コロナ禍で自粛しても萎縮しない反原発運動、原発やめよう
《全国》柳田 真さん(再稼働阻止全国ネットワーク・たんぽぽ舎)
《六ヶ所村》山田清彦さん(核燃サイクル阻止一万人訴訟原告団事務局長)
《東北電力・女川原発》日野正美さん(女川原発の避難計画を考える会)
《福島》黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団)
《東電》武笠紀子さん(反原発自治体議員・市民連盟 共同代表)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
《鹿児島》向原祥隆さん(反原発・かごしまネット代表)
《福島》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟/杉並区議会議員)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

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◆「特重」問題とは何か

「特定重大事故等対処施設」略称「特重」。現在稼動している原発も「新規制基準適合性審査」の審査書が決定し再稼働準備中の東海第二や柏崎刈羽6、7号機、女川原発2号機も、どこも完成していない。これが完成しない限り、本来は原発を動かすことは出来ないはずだった。

「特重」は既存の原発とは別棟として建てられる。そこには原発の中央制御室を代替できる設備として、原子炉を直接コントロールできる制御盤等がある緊急時制御室、送電線からではなく自立的に発電できる発電設備、格納容器に水を送るスプレイポンプ、溶融した炉心を冷却する水を送るポンプ、そしてこれらの水源(淡水タンク、枯渇する場合は海から取水)を設置する。これが「特重」の主な役目だ。

「特重」とは、いかなる考え方から出てきたのか。

「『特定』重大事故等対処施設」とは、重大事故が起きている状況下でさらに『特定』のシナリオに乗って拡大することを防止するために対策することであり「特定重大事故等対処施設」として準備するよう法令上(原子炉等規制法第43条)で義務づけた。「テロ対策」のみをするような設備ではない。

新規制基準では「重大事故対策」が必須であり、それをさらに超えるシナリオ、予測困難な事態を想定しなければならない。そのことから「重大事故」の発展として「特定重大事故」がある。テロ対策はその中の1つに過ぎない。

現在重大事故になり得るものとして想定されているのは「地震」「津波」に加え、「火山噴火」「竜巻」「大規模火災」「内部溢水」などがある。

これらが発生し、原子炉冷却用のシステムが使えなくなり、外部電源はもちろん非常用電源も全て失って、炉心溶融へと進行し福島第一原発事故への道を辿る恐れが高まった場合に、代替冷却、拡散防止対策を実行できるように「特重」が設けられる。

なお、「テロ対策」としても機能させるかの法令上の記載、国や事業者の説明があり、マスコミでもそのように記載しているが、特重を対テロ施設、設備として活用できる証拠は何処にも示されていない。国や事業者は「テロ対策施設、設備は相手(テロリスト?)に手の内を晒すわけにはいかないから「秘密」などともっともらしいことを言うが、これは説明責任を回避するための方便に過ぎない。

特重については、規制委が2015年11月13日に出した文書に考え方が書かれている。

「特重施設等は、発電用原子炉施設について、本体施設等(特重施設等以外の施設及び設備をいう)によって重大事故等対策に必要な機能を満たした上で、その信頼性向上のためのバックアップ対策として求められるものである。」現状の重大事故対策では不足しているので、重大事故時においても大量の放射能を格納容器の外に出さないなどの規制基準を満たす「信頼性向上」のために求められている。

更田豊志委員長は「施設が完成し、実際に使えることがきちんと示せて初めてOKとなる」としているが、私たちに具体的な実証をしないまま理解を求められても認めるわけにはいかない。

「対テロ施設」が必要な状況ならば、テロ攻撃を受けるリスクのあるものを作るべきではない。現実に航空機の故意による衝突による攻撃があり得ると想定しているのであれば、そのような攻撃を受けた場合は「特重」があろうとなかろうと、結果に大きな違いはない。なぜならば「特重」の機能を使う想定をしているケースでは、炉心が溶融し、建屋にも大きな損傷が発生して格納容器から大量の放射性物質が拡散し続ける中、放水砲で大量の水を掛けてチリをたたき落とすことを「最終防衛」としている。この程度で大量放出を本気で止められると信じる人はいない。

大規模な土木工事を実施し、1000億円以上(川内原発は2基分で2420億円)もの費用を掛けても、福島第一原発事故を超える事故にならないような対策をすることはできない。ましてテロ対策としての特重では、攻撃内容、規模などが想定不可能なので、その実効性についての評価も不可能だ。

◎[参考資料]原子力規制委員会が2015年11月13日に出した特重に関する文書

◆全原発へのフィルタ・ベント設置

 新規制基準では「フィルタ・ベント」設置が全原発で要求されている。格納容器から配管を出して高圧になった蒸気を外へ抜く装置だ。原発サイトによっては、これを「特重」に分類するか、一般の重大事故等対処設備に分類するか違いがある。東海第二や柏崎刈羽原発の場合は、これを一般の重大事故等対処設備に分類しており、再稼働するときには必須なので新規制基準適合性審査前に工事を行っている。

◎[参考図版]柏崎刈羽原発のフィルタベント設備概念図(東京電力)

 

◎[参考図版]高浜発電所1、2号機の特定重大事故等対処施設について(関西電力)

一方、PWR(加圧水型炉)の9原子炉(大飯・高浜・玄海・川内・伊方など)の場合、「フィルタ・ベント」装置は「特重」に分類されているので完成するのは特重設置と同時で良いとされる。

「フィルタ・ベント」を再稼働後で良いとする理由は、炉心溶融が発生し放射性物質や水素ガスが充満するような状況で、格納容器が危機的な場合でも、BWRよりもPWRの格納容器の体積が大きく破壊されにくいとしているからだ。しかし事故の進行具合で、いくらでも変わり得るところである。大きな格納容器のPWRの場合はBWRよりも耐圧(格納容器が圧力に耐える力)が低いという問題もあり「フィルタ・ベント」を後回しに出来る理由にも疑問がある。

フィルタ・ベントには原発の設計思想と運用上の問題もある。ベントは福島第一原発にもあった。しかしこれは3号機では使用できたと見られるが、2号機では使用できなかったと考えられている。そのため2号機の格納容器は破壊され、放射性物質が大量に放出されている。

福島第一原発のベント装置は後から排気筒に配管を伸ばして取り付けたもので、電源がなくなると使用できなくなり、さらにバルブ開放は人が格納容器直ぐそばに行かなければならなかった。このため大量被曝覚悟の作業になってしまった。その反省でベント装置を独立して設置し、制御室からの遠隔操作で作動可能としている。

しかし本来は最後の砦として密封し続けるべき格納容器に予め穴を開けるような行為には問題がある。また、ベント装置の間には水槽があり、一端水の中を気体が通過することで放射性物質を取り除き排気するが、ここで大きく除去できるのは水に溶けやすいヨウ素や水で冷やされれば固体になるセシウムなど。希ガスのクリプトン、キセノンは全量放出される。それが敷地内空間に滞留した場合、空間線量が急速に高くなり作業員が被曝して活動できなくなる恐れがある。また、ベント装置自体が地震などで損傷を受けて破壊されれば、格納容器に穴を開けたことと同様の事態になりかねない。

こういったことにならない運用を問うても、規制委も事業者も「テロ対策設備」を理由にまともな回答はしない。実効性が証明されない設備を信じることなどできない。

◆特重施設全般の問題点

「特重」には格納容器スプレイ・圧力容器注水・格納容器の真下のペデスタル注水という3つの注水ラインがあるとされる。そこに水源から特重に設置されたポンプを使って水を入れる。

建屋は100m以上離れた場所にあり、特重施設との間の洞道を介して注水する。特重と原子炉建屋を離したのは、航空機が意図的にぶつかってくるような場合を想定しているからだという。これで特重施設が生き残るから重大な炉心溶融に陥ったとしても原子炉建屋に注水できる、というのだ。

新しい注水ラインを100mも引き延ばしたため、複雑な問題が発生する。まず、圧力容器への注水ラインを何処に取り付けるのかだ。既に圧力容器には通常の給水ラインに加え、非常用や水位計など様々な配管が繋がっている。

新たに圧力容器に取り付けるような改造工事は構造上不可能。従って既存の給水ラインに繋がる配管のどれかに接続するしかない。その配管が破断するなど機能を失っていれば、このラインも機能しない。信頼性はその程度である。

次に、圧力容器の他にもペデスタル(格納容器下部)への注水も行う想定だが、切り替えがどのように行われるのかを含め、運用が明確ではない。圧力容器は沸騰水型軽水炉で70気圧、加圧水型軽水炉で130気圧もあるので、高圧注入でないと入らないが、ペデルタルは数気圧から10気圧程度で入るだろう。どちらに何時注水するかの判断は難しい。

さらに、ペデスタル注水は別の問題も引き起こす。それは水蒸気爆発。最大2800度の溶融燃料を冷やすために水を張ると、落下した時に水蒸気爆発を引き起こさないか。事業者も国も何度も延期している。直近の計画では、2020年度末(2021年3月末)までに対策を完了するとしていた。

東北電力によると、女川2再稼働に必要な改修工事計画を規制委との協議を踏まえ、見直したという。その結果、工事全体の計画が遅れ、2022年度中(2023年3月期)まで後ろ送りとなった。

原因について日本経済新聞は5月4日の記事で次のように指摘している。

「2月に原子力規制委員会の安全審査に合格した後に精査したところ、重機などを置く場所などが同時並行では確保できないことが分かった。それぞれの工事を順番に行うことで再稼働が当初見込みより最短で2年遅れる。東北電の見通しの甘さが問われそうだ」。

東北電力は、2013年12月に規制委に対し女川2号(82.5万kW沸騰水型軽水炉)の新規制基準適合性審査を申請し、規制委は新基準に適合する対策がされていると判断した。審査書が決定され、再稼働への道が開かれた。今後は、対策工事の完了と地元自否定するが、これも「絶対に起きない」という保証はない。結局「背に腹は替えられない」とばかりに設計したとしか思えない。

欧州の新型加圧水型軽水炉「EPR」では、直接水で冷却せず回りを水で冷却できる「コアキャッチャー」という溶融燃料の回収装置を組み込んでいる。

これならば水蒸気爆発を極力抑制できると思われる。

◆女川原発2号機の工事に遅れ

2020年2月26日に規制委が原子炉等規制法に基づく新規制基準適合性審査の審査書を決定した女川原発2号機(以下、女川2)について、東北電力は4月30日、安全対策工事完了が予定より2年遅れ、2023年3月になると発表した。

東北電力は女川2の耐震補強や津波から発電所を守るための高さ29m、長さ800mの防潮堤建設などで約3400億円の対策費を見込んでいる。同社は当初、この工事を2017年4月までに完了させる予定だったが治体の住民との合意が必要となっている。しかし安全対策工事は進んでいない。被災原発として反対の声は強い。再稼働へのハードルは極めて高い。

女川原発は東日本大震災で被災した原発だ。揺れと共に耐震壁にも1130箇所にも上る重大な損傷を受け、さらに1号機のタービン建屋では地震直後に大規模火災(高エネルギー・アーク放電火災)が発生、鎮火まで半日を要し冷温停止にも支障を来した。

外部電源や非常用ディーゼル発電機が遮断や破壊されていたら福島第一原発事故と同様の事態になっていた可能性は高く、そうなったら津波で避難していた地元住民を多数巻き込んで大惨事になっていたと思われる。

たまたま津波よりも高い位置に設置されていたとはいえ、それ以上の津波が来ない保証もなく、過酷事故も偶然回避できただけの、結果オーライといえる。

しかしながら、その検証も十分されないまま再稼働へと突き進む姿は異常だ。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)さん

たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。著書(共著)は『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

6月11日発売開始!〈原発なき社会〉をもとめて 『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

『NO NUKES voice』Vol.24
紙の爆弾2020年7月号増刊
2020年6月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/148ページ

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総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機
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[表紙とグラビア]「鎮魂 死者が裁く」呪殺祈祷僧団四十七士〈JKS47〉
(写真=原田卓馬さん

[報告]菅 直人さん(元内閣総理大臣/衆議院議員)
原子力とコロナと人類の運命

[報告]孫崎 享さん(元外務省国際情報局長/東アジア共同体研究所所長)
この国の未来は当面ない

[報告]田中良紹さん(ジャーナリスト/元TBS記者)
コロナ禍が生み出す新しい世界

[報告]鵜飼 哲さん(一橋大学名誉教授)
汚染と感染と東京五輪   

[報告]米山隆一さん(前新潟県知事/弁護士/医師)
新型コロナ対策における政府・国民の対応を考える

[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
コロナ禍は「世界一斉民主主義テスト」

[報告]小野俊一さん(医師/小野出来田内科医院院長)
新型コロナ肺炎は現代版バベルの塔だ

[報告]布施幸彦さん(医師/ふくしま共同診療所院長)
コロナ禍が被災地福島に与えた影響

[報告]佐藤幸子さん(特定非営利活動法人「青いそら」代表)
食を通じた子どもたちの健康が第一

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈8〉
新型コロナウイルス流行と原発事故発生後の相似について

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
コロナ禍で忘れ去られる福島

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈19〉
翼賛プロパガンダの失墜と泥沼の東京五輪

[インタビュー]渡邊 孝さん(福井県高浜町議会議員)
(聞き手=尾崎美代子さん
関電原発マネー不正還流事件の真相究明のために
故・森山元助役が遺したメモを公にして欲しい

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
僕らは、そして君たちはどうたち向かうか

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が原発の解体と埋設に反対する理由

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
《対談後記》四方田犬彦への(公開)書簡

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
令和「新型コロナ」戦疫下を生きる

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈8〉
東京オリンピックを失って考えること

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
コロナ禍で自粛しても萎縮しない反原発運動、原発やめよう
《全国》柳田 真さん(再稼働阻止全国ネットワーク・たんぽぽ舎)
《六ヶ所村》山田清彦さん(核燃サイクル阻止一万人訴訟原告団事務局長)
《東北電力・女川原発》日野正美さん(女川原発の避難計画を考える会)
《福島》黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団)
《東電》武笠紀子さん(反原発自治体議員・市民連盟 共同代表)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
《鹿児島》向原祥隆さん(反原発・かごしまネット代表)
《福島》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟/杉並区議会議員)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0898Z7NH5/

JKS安國樂團によるサックスとトランペット演奏にのせて澁澤光紀による陀羅尼品第二十六が始まった。

「アニ、マニ、マネ、ママネ……」とサンスクリット語の音写によるリズミカルな呪文をどんどん加速させながらと共に木柾を打ち鳴らしながら天を仰ぎ反り却って高速なパッセージ呪文をまくし立て、山崎春美が銅鑼をバシャバシャと打ち鳴らす。これはもはやフリージャズの様相を呈している。

黒の僧衣に、白い袈裟というドレスコードで統一されて格好よろしい。「ま、上杉主宰曰く、シュールレアリズム運動だから……と。」と山崎春美氏の談。日蓮イズムとはいかなるものか考えさせられる

 

この日、残念ながら発起人である上杉代表は74歳・持病あり・静岡在住のため緊急事態宣言下での移動は憚れることもあり欠席ということだった。上杉代表に代わり澁澤光紀による回向文(亡くなった人の冥福を祈る文)にて、

「伏して祈らくは我等 JKS47 日本祈祷団四十七士は死者のメディアたらんと決意し、無告の民の声を聴き、敗れし者の傍らに身を置き、死者との共存・共生・共闘、死者と共に在り、死者と共に生き、死者と共に闘うことを理念として掲げ、ひたすら死者による裁きを神仏に懇請し祈念し奉る国家諫暁を志す者である。日米安全保障条約・日米地位協定に基づく沖縄をはじめとするすべての在日米軍基地の存続、原発再稼働と原発海外輸出、自衛隊の再軍備と海外派兵、天皇制の再利用、憲法改正等々を企み、現下の適切早急なコロナ対策を怠り誤り大失態・大失政を繰り返す国賊安倍政権とそれに加担する政官財学の悪しき売国奴に、死者の裁きが下されんことを、ここに祈念し奉る。」

と呪殺の主題を読み上げた。

 

「経産省前テントひろば」の三上治さん

「確かにコロナウイルスは人々の命を蝕む危険極まりない病原菌である。しかしそれよりも恐ろしいのは再び日本を大日本帝国憲法下の治安維持法が猛威をふるったあの時代に、人々から全ての自由を奪い、言論からすべての表現の自由を奪い、人々を貧しい生活のどん底に追い込むそのような日本のあり方を画策している『アベウイルス』をまさに退陣させなければならない。」と締め括った。

三上治は「経産省前テントひろば」を代表して、

「我々はコロナウイルスの問題に関して(政府やメディアを通じての)情報しか知らないわけですから、情報が自由でなければ本当のことが伝わってこないわけです。国立感染研究所のような政府の機関というのは本来、科学に基づいて問題への対策をとっていくべきだが、正しく機能していないのは科学が政治に支配されてしまっている。政治的な思惑ではなく科学的な対応をしていくべきなので、科学の上に政治を置いてはいけない。科学が機能するためには自由が必要なんだ、自由があって初めて科学精神・科学技術というのは成り立ったんだ。しかし残念ながら日本社会では科学精神ではなくて科学技術だけが輸入され、それらが国家によって作りあげられてきたという明治以降の歴史があり、科学者が科学的に対応してくれないのは(今回のコロナ禍も)原発問題でもそうです。科学というものは宗教的な(政治的な)権威から自立する形を通して成立してきたということ。また、情報が正しく機能するためには自由が大事なんだ。」

と自由がいかに重要か指摘した。

◆地下室を捨てよ、町に出よう

現代のSNSを中心として世の中に漂う「わかりやすい共感」主体の清廉潔白とした装いの社会正義と比較すると、JKS47のアプローチは何やら物騒で不気味な怪しい祈祷集団によるパフォーマンスであるが、個々人の信念に基づく自由な老人達のダークヒーロー的なパワフルな表現のあり方は全共闘世代から現代の若者へのギフトなのではないだろうか。ライブハウスが相次いで閉鎖となっている時節と絡めて無理くり論ずるならば、ミュージシャンは「地下室を捨てよ、町に出よう」という契機なのかも知れない。JKS47の呪殺祈祷会は毎月定例で行われているので、開催日をチェックして現場に急行してみて欲しい。

【JKS47 月例祈祷会】
日時:2020年6月19日(金)午後2時45分より
会場:経産省前テントひろば
JKS47事務局
合 掌

最後にJKS47のWEBサイトにて『呪殺祈祷考「呪殺祈祷会―死者が裁く―」についての経典・御遺文の文証について』という本活動に対する方々の日蓮宗関係の僧侶から殺到した批判に対して回答した論考の中から、「呪殺」という言葉についてより詳細な解説をみつけたので要旨を掻い摘んでここに紹介する。

「呪」の元は「祝」であり、祝りと呪いの両義性があって、祝呪することが「呪」である。また仏教語「呪」の原意となるmantraも「真言」と訳されるように、聖なる言葉によっての祝呪が「呪」の意味となる。

「殺」とは、たたりをひきおこす獣を戈(ほこ)で殴って殺す形で、これによって祟りを殺ぎ(へらし)、無効とする行為を「殺」といい、減殺(へらすこと)がもとの意味である、

今回の祈祷会で本僧団が使った「呪殺」の意味は、「呪」は「のろい」ではなく「いのり」であり、「殺」は「祟りをひきおこす煩悩を減殺していく」ことである。(本文中敬称略)(了)

打ち鳴らされる団扇太鼓が官庁街に木霊する。世界最古の太鼓と目されるメソポタミアのフレームドラムと同じ共鳴体のない一枚皮の構造。人類の根源的なサウンドにして、仏教がシルクロードを通じて伝来したことの証左になろうか

◎原田卓馬 《NO NUKES voice》「鎮魂 死者が裁く」呪殺祈祷僧団四十七士〈JKS47〉
【前編】 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=35521
【中編】 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=35541
【後編】http://www.rokusaisha.com/wp/?p=35549

▼原田卓馬(はらだ たくま)
1986年生まれ。幼少期は母の方針で玄米食で育つ。5歳で農村コミューンのヤマギシ会に単身放り込まれ自給自足の村で土に触れて過ごした体験と、実家に戻ってからの公立小学校での情報過密な生活のギャップに悩む思春期を過ごす。14歳で作曲という遊びの面白さに魅了されて、以来シンガーソングライター。路上で自作のフンドシを売ったり、張り込み突撃取材をしたり、たまに印刷物のデザインをしたり、楽器を製造したり、CDを作ったりしながらなんとか生活している男。早く音楽で生活したい。
ご意見ご感想、もしくはご質問などはtwitter@dabidebowie

〈原発なき社会〉をもとめて 『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

『NO NUKES voice』Vol.24
紙の爆弾2020年7月号増刊
2020年6月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/148ページ

————————————————————————————————–
総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機
————————————————————————————————–

[表紙とグラビア]「鎮魂 死者が裁く」呪殺祈祷僧団四十七士〈JKS47〉
(写真=原田卓馬さん

[報告]菅 直人さん(元内閣総理大臣/衆議院議員)
原子力とコロナと人類の運命

[報告]孫崎 享さん(元外務省国際情報局長/東アジア共同体研究所所長)
この国の未来は当面ない

[報告]田中良紹さん(ジャーナリスト/元TBS記者)
コロナ禍が生み出す新しい世界

[報告]鵜飼 哲さん(一橋大学名誉教授)
汚染と感染と東京五輪   

[報告]米山隆一さん(前新潟県知事/弁護士/医師)
新型コロナ対策における政府・国民の対応を考える

[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
コロナ禍は「世界一斉民主主義テスト」

[報告]小野俊一さん(医師/小野出来田内科医院院長)
新型コロナ肺炎は現代版バベルの塔だ

[報告]布施幸彦さん(医師/ふくしま共同診療所院長)
コロナ禍が被災地福島に与えた影響

[報告]佐藤幸子さん(特定非営利活動法人「青いそら」代表)
食を通じた子どもたちの健康が第一

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈8〉
新型コロナウイルス流行と原発事故発生後の相似について

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
コロナ禍で忘れ去られる福島

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈19〉
翼賛プロパガンダの失墜と泥沼の東京五輪

[インタビュー]渡邊 孝さん(福井県高浜町議会議員)
(聞き手=尾崎美代子さん
関電原発マネー不正還流事件の真相究明のために
故・森山元助役が遺したメモを公にして欲しい

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
僕らは、そして君たちはどうたち向かうか

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が原発の解体と埋設に反対する理由

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
《対談後記》四方田犬彦への(公開)書簡

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
令和「新型コロナ」戦疫下を生きる

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈8〉
東京オリンピックを失って考えること

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
コロナ禍で自粛しても萎縮しない反原発運動、原発やめよう
《全国》柳田 真さん(再稼働阻止全国ネットワーク・たんぽぽ舎)
《六ヶ所村》山田清彦さん(核燃サイクル阻止一万人訴訟原告団事務局長)
《東北電力・女川原発》日野正美さん(女川原発の避難計画を考える会)
《福島》黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団)
《東電》武笠紀子さん(反原発自治体議員・市民連盟 共同代表)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
《鹿児島》向原祥隆さん(反原発・かごしまネット代表)
《福島》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟/杉並区議会議員)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

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4月22日、定刻の午後三時、経産省の正面玄関前に黒地に白で「鎮魂 死者が裁く」と染め抜かれた横断幕が掲げられ、トランペットの独奏によるファンファーレで開式となった。

拡声器から再生される「怪獣ゴジラ」の咆哮と「仁義なき戦い」のテーマがコラージュされた不気味なBGMとともに、サイケデリックなニット帽の上からペストマスクという不穏な出立で現れた山崎春美(ロックバンド『ガセネタ』『TACO』のリーダー/編集者)による朗読が始まった。

サイケデリックなニット帽の上からペストマスクという不穏な出立で現れた山崎春美による朗読

男が一人門の前にやってきて
俺を殺すな
人々がばたばたやって来て
皆よってたかってその男をひきずりおろして
地下室へ連れてった
いずれ死ぬんだからここで死んだっていいんだ
いいかよく聴け
お前の右手が
俺の左手を打つ
俺の右手がお前の左手を打つ
そしてお前の左手を掴む
するとこうやって二人が
抱き合うみたいにして今度はもつれて
それが敵っていうもんだ
それが敵の必要にして十分な条件というものだ
そこんところお前はよく弁えてな
そしてお前は
振り返りざま 撃て
嫌だ俺は殺されたくない

現在そのような状況です

(細部省略)

長期に及ぶシベリア抑留を体験した詩人・石原吉郎の晩年の作品である「背後」(詩集「斧の思想」所収)という詩に、時事問題や即興的なカットアップが盛り込まれた、狂人の悲鳴のような叫び声が霞ヶ関の官庁街に響き渡った。

シベリアで過酷な強制労働を強いられ、また引き揚げ後に帰国した日本も適者生存の熾烈な競争社会で、どちらにもうんざりした石原吉郎が詩人としての表現活動を通じて生きる希望を見つけたというエピソードを鑑みると、文明社会の致命的な構造的欠陥を指摘しまた自由な芸術表現のみが人類個々人の生命を鼓舞する最後の切り札であるということを提示したものであるのかと邪推する。

澁澤光紀(日蓮宗善龍寺住職)による勧請(神仏を呼び寄せる儀式)に続いてコロナウイルスと東北大震災の死者への追善菩提(追悼供養)のために「妙法蓮華経如来寿量品第十六」の読経が行われた。

自我偈とも呼ばれ法華経の真髄ともされるテーマソングのような経で、「仏の命は永遠である」と説く。死者にむけた「いつまでもあなたのことを忘れませんよ」という不滅のラブソングのようなものであると解釈できよう。ここでは死者に呼びかけて集合を促すような意味があるようだ。

表白文(法会または修法の始めにその趣旨を仏前で読みあげ仏法僧の三宝および大衆 に告げること)の中で福島泰樹は、
「新型コロナウイルス国内感染者が1万人を突破してしまった。国民の生命よりオリンピック開催と自身の栄誉を優先していた安倍が、オリンピック延期決定以降、小学校の一斉休校を手始めに、「国難」と称しウイルス禍を喧伝し始めたのだ。しかも、「接触機会八割減」の大号令で国民に外出自粛を強要しておきながら、休業補償を一切しようとはしない。家賃、子供の学費、日々の支払いに苦慮し、明日の不安に戦き、食事さえも減らさざるを得ないということなのである。防衛費に、5兆2,574億円の血税を投入し、アメリカから買い上げた兵器等そのローン残高は5兆3,000億円にものぼっている。なぜ、それを国民の生活と文化の向上に廻そうとはしないのだ。中小零細企業主、個人経営者、従業員、さらに非正規労働者、解雇が続出する外国人労働者たち、パート業務を失った主婦、生活苦に喘ぐ人々の悲歎を思え」と政府による棄民政策を断じ、「原発を推進、日本の国土を汚染し、農業を切り捨て、国土と人心を荒廃させ、さらにはアメリカに日本を身売りする国賊安倍晋三よ。コロナウイルス厄災の御蔭で、森友、加計、桜と国税の私物化への批判が消え、テレビメディアが、アベノマスク10万円給付に踊らされているのをいいことに、許せないのは、「非常事態条項」設置を画策し、火事場泥棒宜しく、日本国憲法の侵犯に他ならない「検察庁法改正案」を、今国会において審議入りさせたことである。政権の腐敗にメスを入れての検察であろう。検察をも私物化し、悪政のかぎりを尽くそうというのか。なぜ、「東京新聞」を除くマスメディアは、この国家私物の危機に警鐘を鳴らし、批判のキャンペーンを張ろうとしないのだ。マスメディアよ心せよ!」とマスコミへの報道姿勢を批判した。(本文中敬称略)(つづく)

ドスの効いた低いダミ声で唸るように表白文を奏上する福島泰樹氏。「絶叫朗読」という独自の表現スタイルを確立した世界的に活躍する歌人でもある

【JKS47 月例祈祷会】
日時:2020年6月19日(金)午後2時45分より
会場:経産省前テントひろば
JKS47事務局
合 掌

◎原田卓馬 《NO NUKES voice》「鎮魂 死者が裁く」呪殺祈祷僧団四十七士〈JKS47〉
【前編】 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=35521
【中編】 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=35541
【後編】http://www.rokusaisha.com/wp/?p=35549

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(写真=原田卓馬さん

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原子力とコロナと人類の運命

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この国の未来は当面ない

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[報告]鵜飼 哲さん(一橋大学名誉教授)
汚染と感染と東京五輪   

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《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈8〉
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[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
コロナ禍で忘れ去られる福島

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈19〉
翼賛プロパガンダの失墜と泥沼の東京五輪

[インタビュー]渡邊 孝さん(福井県高浜町議会議員)
(聞き手=尾崎美代子さん
関電原発マネー不正還流事件の真相究明のために
故・森山元助役が遺したメモを公にして欲しい

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
僕らは、そして君たちはどうたち向かうか

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が原発の解体と埋設に反対する理由

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
《対談後記》四方田犬彦への(公開)書簡

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
令和「新型コロナ」戦疫下を生きる

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
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コロナ禍で自粛しても萎縮しない反原発運動、原発やめよう
《全国》柳田 真さん(再稼働阻止全国ネットワーク・たんぽぽ舎)
《六ヶ所村》山田清彦さん(核燃サイクル阻止一万人訴訟原告団事務局長)
《東北電力・女川原発》日野正美さん(女川原発の避難計画を考える会)
《福島》黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団)
《東電》武笠紀子さん(反原発自治体議員・市民連盟 共同代表)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
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《鹿児島》向原祥隆さん(反原発・かごしまネット代表)
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2020年4月22日。新型コロナウイルス感染拡大防止・緊急事態宣言の自粛要請を受けて静まりかえった霞ヶ関・経産省前テント広場にて開催された呪殺祈祷僧団四十七士による月例祈祷会「鎮魂 死者が裁く」を取材した。3回に分けて報告する。

経産省前で呪殺祈祷を行うJKS47のメンバー

原発・戦争・貧困、そして伝染病。政権には魑魅魍魎のような守銭奴・売国奴が跳梁跋扈し、一握りの権力者の欲望のままに操作される情報と政治に翻弄され明日の暮らしの不安に戸惑い右往左往する幾億の民衆。

非常事態宣言下の静まりかえった霞ヶ関経産省前には、末法の世を憂う日蓮イズムを継承した呪殺祈祷僧団四十七士〈JKS47〉の僧侶たちによる「南無妙法蓮華経」の題目が鳴り響いた。

鎌倉時代に徹底的に論陣を張って政敵をかたっぱしから論破し、時に流罪の憂き目にあいながら徹底抗戦し続けてきた武闘派な日蓮イズムは、現代日本社会に覆いかぶさる、自粛・不謹慎・忖度といった正体不明の同調圧力を克服するための鍵になるのではないか!

サイケデリックな帽子にペストマスクという不気味な装いで現れた山崎春美氏。ガセネタ、TACOというロックバンドを率いた、日本のアングラ/サブカル音楽シーンの自由な精神文化の起源である

◆はじめに・私のスタンス

はじめに私のスタンスを明確に提示しておく。「アベやめろ」と叫んでも「原発をなくせ」と叫んでも、この国が、この惑星が抱える様々の困難な問題は永遠に解決しないと考える。対岸の敵に罵声を浴びせても問題は解決しないどころか不要な分断を生じて新たな軋轢を産むだけだ。殴りかかってくる人には抱擁を、嘲笑う人には接吻を。リアクション(反発)する時間をクリエイション(創造)する時間に変えて、一人一人の意識・ライフスタイルが更新されていくことで地球が美しくまわるのではないだろうか。そう考えるので、私個人としては政権批判のためだけの抗議運動を支援するつもりがない。

私が今回の取材依頼を受けた動機は、音楽家として「日蓮宗僧侶の潜在的なパンク精神」に興味があったからであって、この記事を通じて反原発派読者諸君との共感と親睦を深めるためではない。若輩にして僭越ながら私の認識において、日本における仏教諸派宗の分裂派生とは、権力を笠に着て俗物化した教団の腐敗にうんざりした反逆児達による革命独立運動にほかならない。これはジャズ、ロック、パンク、ハードコア、オルタナティブ、プログレッシブというような音楽ジャンルを定義する言葉の発生というのは、音楽的な技術論や形式ではなく現状維持に満足し得ない音楽家達の精神的な活動の発露であると認識している。四面楚歌を恐れずにバキバキに論戦をふっかけまくった日蓮聖人の弟子である僧侶達の、「異端をもって正統となす」ような心に少しでも近づけたらという思いで取材に挑んだ。

先に結論から申し上げると、今回の取材は演し物として非常に興味深いものであった。また、参加者個々人の経緯や思想的背景を知るにつれ、ヒップなオジサマ達の生き様が幾重にも交差して成立したJKS47が尊く貴重な活動であるという認識から執筆にあたった。

黒地に白く染め抜いた「鎮魂 死者が裁く」が禍々しい半グレ集団でもおっかながって逃げ出すだろう

◆JKS47とは?

JKS47 は僧侶・劇作家の上杉清文(日蓮宗本國寺住職/劇作家)を筆頭に、福島泰樹(法華宗本門流法昌寺住職/歌人)を中心として結成され、2015年8月27日を皮切り経産省前での抗議活動「呪殺祈祷会」を開始し、今回で51回目を数えるに至った。

Webサイトに活動の根拠を提示したステイトメント文が掲載されていたので以下に引用して紹介しよう。

JKS47
1970年、日本列島を公害列島と化し、多くの人々に障害と死をもたらした水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市大気汚染等々の重大な公害問題に立ち向かった仏教者を中心とする「公害企業主呪殺祈祷僧団」という集団があった。このすでに伝説化した「公害企業主呪殺祈祷僧団」をこのたび再結成する運びとなった。再結成にあたって「公害企業主呪殺祈祷僧団」を「呪殺祈祷僧団(JUSATU KITOU SOUDAN)」と改め、僧団員の数を忠臣蔵にちなみ四十七人とした。したがって、正式名称を「呪殺祈祷僧団四十七士」、略称を「JKS47」とする。

呪殺
「呪殺」とは、神仏のはからい、霊験によるものである。
「呪殺祈祷僧団四十七士〈JKS47〉」は、神仏による音霊・言霊に感応し、伝達することを使命とし、死者との「共存・共生・共闘」を理念とする。それは、神殺し、仏殺しであった神仏分離・廃仏毀釈にはじまる日本の近代の始めから現在に至るまでの夥しい負の遺産を継承し、敗者の視点に立ち、ひたすら死者の裁きを懇請し祈念することである。

活動
戦争法案廃案!安倍政権退陣!原発再稼働阻止!悪しき者らに死者の裁きを!
これが当面の緊急課題だが、安保関連法案の根本に存在する日米安保条約、日米地位協定を見直し廃棄することが最大の眼目である。

鎮魂と共闘〈JKS47〉

JKS47の基本理念はこれでお分かり頂けただろうか。次回は現場からのレポートをお届けする。(本文中敬称略)(つづく)

【JKS47 月例祈祷会】
日時:2020年6月19日(金)午後2時45分より
会場:経産省前テントひろば
JKS47事務局 
合 掌

◎原田卓馬 《NO NUKES voice》「鎮魂 死者が裁く」呪殺祈祷僧団四十七士〈JKS47〉
【前編】 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=35521
【中編】 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=35541
【後編】http://www.rokusaisha.com/wp/?p=35549

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1986年生まれ。幼少期は母の方針で玄米食で育つ。5歳で農村コミューンのヤマギシ会に単身放り込まれ自給自足の村で土に触れて過ごした体験と、実家に戻ってからの公立小学校での情報過密な生活のギャップに悩む思春期を過ごす。14歳で作曲という遊びの面白さに魅了されて、以来シンガーソングライター。路上で自作のフンドシを売ったり、張り込み突撃取材をしたり、たまに印刷物のデザインをしたり、楽器を製造したり、CDを作ったりしながらなんとか生活している男。早く音楽で生活したい。
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[報告]菅 直人さん(元内閣総理大臣/衆議院議員)
原子力とコロナと人類の運命

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この国の未来は当面ない

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コロナ禍が生み出す新しい世界

[報告]鵜飼 哲さん(一橋大学名誉教授)
汚染と感染と東京五輪   

[報告]米山隆一さん(前新潟県知事/弁護士/医師)
新型コロナ対策における政府・国民の対応を考える

[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
コロナ禍は「世界一斉民主主義テスト」

[報告]小野俊一さん(医師/小野出来田内科医院院長)
新型コロナ肺炎は現代版バベルの塔だ

[報告]布施幸彦さん(医師/ふくしま共同診療所院長)
コロナ禍が被災地福島に与えた影響

[報告]佐藤幸子さん(特定非営利活動法人「青いそら」代表)
食を通じた子どもたちの健康が第一

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈8〉
新型コロナウイルス流行と原発事故発生後の相似について

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
コロナ禍で忘れ去られる福島

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈19〉
翼賛プロパガンダの失墜と泥沼の東京五輪

[インタビュー]渡邊 孝さん(福井県高浜町議会議員)
(聞き手=尾崎美代子さん
関電原発マネー不正還流事件の真相究明のために
故・森山元助役が遺したメモを公にして欲しい

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
僕らは、そして君たちはどうたち向かうか

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が原発の解体と埋設に反対する理由

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
《対談後記》四方田犬彦への(公開)書簡

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
令和「新型コロナ」戦疫下を生きる

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈8〉
東京オリンピックを失って考えること

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
コロナ禍で自粛しても萎縮しない反原発運動、原発やめよう
《全国》柳田 真さん(再稼働阻止全国ネットワーク・たんぽぽ舎)
《六ヶ所村》山田清彦さん(核燃サイクル阻止一万人訴訟原告団事務局長)
《東北電力・女川原発》日野正美さん(女川原発の避難計画を考える会)
《福島》黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団)
《東電》武笠紀子さん(反原発自治体議員・市民連盟 共同代表)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
《鹿児島》向原祥隆さん(反原発・かごしまネット代表)
《福島》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟/杉並区議会議員)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0898Z7NH5/

◆中部電力とJR東海──東海道新幹線の3倍以上の電力を消費する国策リニア新幹線

浜岡原発再稼働については目立った具体的動きはない。従って県民の再稼働に対する関心は川勝平太静岡県知事の度々の慎重論発言もあって、年々低下しているのが現状である。現在の県政における最大の課題は、新コロナ禍(5月5日現在)であり、JR東海が建設中のリニア新幹線問題である。リニア新幹線は、東海道新幹線の3倍以上の電力を消費すると言われ、その電源として浜岡原発再稼働が必要であるとのことから全くリニアと浜岡原発は無関係とはいえないが、現状ではその関係を中電もJR東海も表面には出していない。

浜岡再稼働への動きが低いと言っても全く無いわけではない。中部電力の勝野社長は、地元新聞の年頭のインタビューで「正念場を迎えている」「最大の課題である基準地震動と基準津波が決まれば、先行他社の工程に乗って、スムースに進む」としている。しかし、2月4日の静岡地裁での口頭弁論では、「原告主張に対する反論はなく、主張も何ら科学的論拠がない」と弁護団は批判している。浜岡原発が、南海トラフ巨大地震の影響を最も受けやすい原発であり、その巨大地震の規模も予想できない中での基準地震動と基準津波など意味があるはずもない。世界で最も危険な原発であることに変わりはない。中部電力は、再稼働へ向けての直球は投げてはいないが、講演会(中部原子力懇談会主催など)、原発見学会、マスコミなどにより宣伝を行っている。

◆「原発」を争点にしなかった御前崎市の市長選挙、市議会選挙

このような中で浜岡原発立地市である御前崎市の市長選挙、市議会選挙が4月12日投開票のもと行われた。原発に反対する市民運動団体、それに対する推進派の中部電力などの注目を集めていたのであるが、「原発」問題は争点として市長戦においても市議選においても全く俎上に上らなかったのである。候補者が原発問題から逃げ出してしまったのである。結果は、反原発の議員は2人、市長は口には出さねど再稼働推進である。共産党は、もともと基礎票が足りない中2人を立候補させたが共倒れとなった。

市議選には、昨年12月に行われた大規模産廃処理施設建設を巡っての住民投票の実施がある。大規模産廃処理施設は、すでに市長(4月選挙で再選)が業者との間に議会の同意もなく許可を与えたものであるが、市民の間から反対運動が起こり、それが予想以上の運動に発展し最終的に住民投票に持ち込まれ、12月に実施されたものである。結果は、圧倒的反対多数(90.20%)で産廃処理施設が拒否された(投票率60.81%)。この背景には産廃施設が、低レベルの核のゴミ処理を狙うものとしての市民が警戒したものの結果ではないか。

今まで御前崎市民は、こと原発問題となると口をつぐみ思うことがいえないことを強いられてきた。市議会も一部の議員に牛耳られ自由にものが言えない雰囲気の中で推移してきた。産廃住民投票は、過去の閉塞状態を打ち破ったといえる。従って、共産党が2人候補者を立てたのもうなずける。

市長選挙では反対運動を進めてきた女性候補が立候補し従来と比較すると大幅に票を伸ばしたが、選挙時点では産廃反対に転じていた現職の市長には及ばず惜敗した。産廃賛成派として議会を牛耳り、市長おも上回る力を持っていた(?)グループは、議員数、票数を大幅に減らした。この点から見れば多少御前崎市政も僅かながらも民主化が進んだといえる。しかし、御前崎市の財政状況は極めて悪く、過去に箱物を作りすぎた付けが大きな負担となっている。この点を今後再稼働推進の大きな宣伝材料として市民に流布されることが予想され、如何にしてここを突破していくのか我が方にとっても大きな課題となっている。

◆全機停止9年目の浜岡原発の再稼働とリニアの繋がり

浜岡原発は、福島事故当時の首相菅直人の要請によって全機が停止し今年の5月で9年目を迎えた。マスコミは毎年5月になると周辺市町など首長に対し浜岡再稼働についてのアンケートを行っているが、5月12日発行の朝日新聞記事のアンケ結果では、31Km圏内(静岡県では30圏ではなく31Km圏としている)の11市町のうち4市長が反対、賛成はゼロと出たがこの結果は昨年までのそれと変わりは無い。御前崎市長は、「議論する段階ではない」と逃げに回った。知事は5月12日の記者会見で、「再稼働」して事故が起きたら大変なことになる。現状を知れば動かない。動くことはない」と述べたとしている(毎日新聞)。

浜岡再稼働と関連があるのかもしれないリニア問題は、県・大井川水系の市町とJR東海が真っ向から対立し、JRはトンネル工事に着手できずこのままでは予定の開通に間に合わないといわれている。そこで国交省が調停に乗り出し有識者会議なるものを設置しそこでのJR東海の金子社長が「県は実現困難な課題を示している」と発言。これに対し県知事は、関係自治体(多数が浜岡原発30キロ圏内)と連盟で抗議文を国交省に提出し益々対立を深めることとなった。リニアのトンネルを掘ることにより大井川の地下水流が変わり下流域は水不足となることはほぼ確実視されている。県と関係市は、これを許さず当然のことながら現状通り全量確保せよと主張している。このことを指して「実現困難な課題」と金子社長が発言した。もともと国交省のつくった「有識者会議」など中立であるわけがなく、事実県の推薦する有識者は一人も入らなかった。原発と同様にリニアは国策、そしてJR東海の2代目葛西敬之元社長はアベのお友達であり「有識者会議」が静岡県民を無視することはほぼ間違いないだろう。

川勝県知事は、浜再稼働再稼働について「県民投票で」と度々発言しており、そこへ国策であるリニア問題が絡み今後原発問題がどのように展開していくのか、情勢分析をしっかりし、的確な方針で反・脱原発を県民に浸透させていかねばならない。ちなみに、来年7月には知事選挙がある。

▼鈴木卓馬(すずき・たくま)
浜岡原発を考える静岡ネットワーク(浜ネット)代表。浜ネットは1997年結成、個人会員約300名、団体(労働組合)5。代表の鈴木卓馬は、3代目、全労協系労組出身。他に「浜岡原発とめます本訴の会」(会員約500名)を2002年立ち上げ、現在は東京高裁で運転差し止め訴訟継続中。

6月11日発売開始!〈原発なき社会〉をもとめて 『NO NUKES voice』Vol.24 総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機

『NO NUKES voice』Vol.24
紙の爆弾2020年7月号増刊
2020年6月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/148ページ

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総力特集 原発・コロナ禍 日本の転機
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[表紙とグラビア]「鎮魂 死者が裁く」呪殺祈祷僧団四十七士〈JKS47〉
(写真=原田卓馬さん

[報告]菅 直人さん(元内閣総理大臣/衆議院議員)
原子力とコロナと人類の運命

[報告]孫崎 享さん(元外務省国際情報局長/東アジア共同体研究所所長)
この国の未来は当面ない

[報告]田中良紹さん(ジャーナリスト/元TBS記者)
コロナ禍が生み出す新しい世界

[報告]鵜飼 哲さん(一橋大学名誉教授)
汚染と感染と東京五輪   

[報告]米山隆一さん(前新潟県知事/弁護士/医師)
新型コロナ対策における政府・国民の対応を考える

[報告]おしどりマコさん(芸人/記者)
コロナ禍は「世界一斉民主主義テスト」

[報告]小野俊一さん(医師/小野出来田内科医院院長)
新型コロナ肺炎は現代版バベルの塔だ

[報告]布施幸彦さん(医師/ふくしま共同診療所院長)
コロナ禍が被災地福島に与えた影響

[報告]佐藤幸子さん(特定非営利活動法人「青いそら」代表)
食を通じた子どもたちの健康が第一

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈8〉
新型コロナウイルス流行と原発事故発生後の相似について

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
コロナ禍で忘れ去られる福島

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈19〉
翼賛プロパガンダの失墜と泥沼の東京五輪

[インタビュー]渡邊 孝さん(福井県高浜町議会議員)
(聞き手=尾崎美代子さん
関電原発マネー不正還流事件の真相究明のために
故・森山元助役が遺したメモを公にして欲しい

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
僕らは、そして君たちはどうたち向かうか

[報告]平宮康広さん(元技術者)
僕が原発の解体と埋設に反対する理由

[報告]板坂 剛さん(作家・舞踊家)
《対談後記》四方田犬彦への(公開)書簡

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
令和「新型コロナ」戦疫下を生きる

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈8〉
東京オリンピックを失って考えること

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
コロナ禍で自粛しても萎縮しない反原発運動、原発やめよう
《全国》柳田 真さん(再稼働阻止全国ネットワーク・たんぽぽ舎)
《六ヶ所村》山田清彦さん(核燃サイクル阻止一万人訴訟原告団事務局長)
《東北電力・女川原発》日野正美さん(女川原発の避難計画を考える会)
《福島》黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団)
《東電》武笠紀子さん(反原発自治体議員・市民連盟 共同代表)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
《鹿児島》向原祥隆さん(反原発・かごしまネット代表)
《福島》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟/杉並区議会議員)
《読書案内》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)

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新型コロナウイルスに関して東京都は「with コロナ宣言」を出したが、原発事故後の福島は、残念ながら今も〝with 放射能〟状態にあるのが現実だ。郡山市の「五百淵(ごひゃくぶち)公園」(福島県郡山市字山崎)も自然豊かな森だが、9年間も〝with 放射能〟を強いられている。今月1日午後、汚染が続く森を歩いた。清流と野鳥の鳴き声が素晴らしい森はしかし、今も放射線を発している。

郡山市「五百淵公園」の空間線量は、いまだに0.4μSv/hを超える

◆「あぶない こどもたちだけでは あそんではいけません」

JR郡山駅から車で10分ほどの場所にある「五百淵公園」(福島県郡山市字山崎)。県立郡山商業高校近くあり、大きなため池を囲むように整備された周回道路を市民が散歩している。ある人は愛犬を連れて。またある人はジョギング姿で。一角に設置されたモニタリングポスト(リアルタイム線量測定システム)が0.189μSv/hを表示しているが、放射線被曝のリスクを周知する看板など無い。あるのは新型コロナウイルス感染拡大防止のために「人との接触は8割減らす!」と書かれた掲示だけだ。

周回道路から森の中に入ると、さっそく手元の線量計は0.3μSv/hを超えた。さらに進むと、「既存林 散策路の空間線量」(2月1日測定)と書かれた地図が掲示されていた。最も高い地点で0.4μSv/hと書かれている。しかし、やはり注意喚起はされていない。

森の中に設置された空間線量の掲示板

案内に従って進むと、せせらぎが流れていた。カルガモが羽を休めている。手元の線量計は0.3μSv/hを上回ったままだ。

「野鳥の森」と名付けられているだけあって、鳥の鳴き声が響いている。巣箱もあった。手元の線量計は、一番高い所で0.45μSv/hに達した。1時間ほどで森を出ると、ため池への転落防止のためか「あぶない こどもたちだけでは あそんではいけません」と書かれた看板が目に入った。しかし、放射線被曝に対する注意喚起は見つける事が出来なかった。

池への転落防止を呼び掛ける看板は設置されているものの、放射線被曝に関する注意喚起はされていない

◆「今後の五百淵公園の除染につきましては……」から3年が過ぎて

五百淵公園の汚染に関しては、郡山市議会でもたびたび取り上げられてきた。

2015年6月24日の建設水道常任委員会。蛇石郁子委員が次のように質した。

「五百淵公園の南側は…既に除染等は終えたと思うんですが…6月8日に測定してきました。50cmの高さで測定した中で、散策路の一部のところには…高いところで0.9μSv/hを示すところもあるんです…今後も再除染も含めて低減化を図る必要があるんじゃないかなと思います」

これに対し、公園緑地課長は「今後の五百淵公園の除染につきましては、除染の関係のガイドラインを含めまして今後検討していくように考えております。現在、幅が5メートルから10メートルぐらいの範囲で通路部分につきましては平成26年度に一応除染をしまして、ある程度、その通路幅分だけは低減をして、実際、現在そこの部分の通路部分を測りますと、大体0.5から0.6μSv/hぐらいの線量にまでなっております」と答えていた。

それから3年。2018年9月議会と12月議会で、2人の市議が一般質問で取り上げた。しかし、当局の答弁はいずれも積極さに欠けるものだった。

2018年9月11日に一般質問した飛田義昭議員は、次のように注意喚起の必要性を訴えた。

「私どもが実施した五百淵公園内にある野鳥の森の散策路で6カ所の計測を実施した結果に基づいて、その結果は0.2から0.7μSv/hの状況でありました。先日、この野鳥の森の草刈りを実施した市民の方々から、そんなに線量の高いところを私たちは草刈りをしたのかと言われました…野鳥の森の散策路を利用する人たちに安全の可否を判断させることでは、市民の安全・安心対策とは言えないと思います。例として申し上げますが、注意喚起すべきであると思います」

しかし、都市整備部長は「注意喚起はしない」と明言している。

「五百淵公園の森林内につきましては、国の基準に基づき、2014年に散策路の両側約10メートルについて堆積物除去や除草を実施し、線量の低減を図ったところであります。当該箇所はまさに森林であり、通常の公園内の除染に比べ線量が低減されにくいことから、本年7月27日に計測した散策路の空間放射線量率は0.18から0.56μSv/hとやや高い場所も確認されている…森林内を散策する場合においては、散策する時間が短時間であることから注意喚起は考えておりません」

ため池の一角に設置されたモニタリングポストの数値は、福島県のホームページで公表されているが、森の中はそれより高い

◆「現時点におきましては、注意喚起や再除染については考えてはおりません」

再除染についても同じように否定的な答弁だった。

「再除染に関してでございますが、答弁でもさせていただきましたけれども、やはりこの環境省の考え方、見解、除染の効果が面的に維持されており、一般的な生活環境の中では追加被曝線量が年間1mSvを超えないと推定されるということでございますので、現時点では考えておりません」

2018年12月6日に一般質問した飯塚裕一議員も、注意喚起や再除染を求めた。

「五百淵公園の散策路は、掲示板での線量の周知のみで、注意喚起等は行わないとしていますが、散策路は子どもたちも通ることが考えられるため、安全・安心のため再除染を行い0.23μSv/h以下とすべきと考えます。また、子どもたちにもわかるように注意喚起の看板等を設置することが必要と考えます」

都市整備部長は、3カ月前の答弁を繰り返すばかりだった。

「本年11月21日に計測した散策路の空間放射線量率は0.18から0.56μSv/hとやや高い場所も確認されているため、公園の入り口や散策路の中間地点の2カ所に空間放射線量率の計測値の掲示を増設し、既存の表示板についても最新のものに更新いたしました。公園利用者が森林内を散策する場合においては、散策する時間が短時間であることから注意喚起は考えておりません」

「再除染と注意喚起ということでございますが、先ほどの答弁と繰り返しになってしまいますが、環境省補助による継続モニタリング事業等において、測定値をウエブ公開しておりますし、同省によれば、除染により効果が面的に維持されているという見解もありますので、現時点におきましては、注意喚起や再除染については考えてはおりません」

「本市としましても、この五百淵公園が野鳥の観察を通じて交流とか学習をする場であり、そのままの自然を残しているという特色を踏まえるとともに、公園利用者の安全・安心を考慮して適切に対応したいと考えております」

このやり取りから2年ほど経ったが、森の現状は0.4μSv/h。それでも郡山市は注意喚起も再除染もしない。近くに住む女性は「放射線被曝の問題はもう、無かった事になりつつありますね」と話した。

「ここの桜はきれいですよ。秋はコスモスの花が咲きます。でも、残念ながら〝汚染の森〟になってしまいました」

福島市でも郡山市でも、自然豊かな森は9年経った今でも汚染が続いている。原発事故は終わっていない。しかし、すっかり忘れられている。行政も積極的に取り組まない。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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《東北電力・女川原発》日野正美さん(女川原発の避難計画を考える会)
《福島》黒田節子さん(原発いらない福島の女たち)
《東海第二》大石光伸さん(東海第二原発運転差止訴訟原告団)
《東電》武笠紀子さん(反原発自治体議員・市民連盟 共同代表)
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
《鹿児島》向原祥隆さん(反原発・かごしまネット代表)
《福島》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟/杉並区議会議員)
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原発事故以降、福島県が行っている「県民健康調査」。甲状腺検査ばかりに目が向きがちだが、調査のひとつに「こころの健康度・生活習慣に関する調査」がある。福島県内の市町村のうち広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村、南相馬市、田村市、川俣町、伊達市のうち特定避難勧奨地点に指定された区域に2011年3月11日時点で住民登録をしていた約20万人を対象に続けられている調査(調査票に記入する方式)で、設問の中に「放射線の健康影響」や「放射線の次世代影響」(遺伝的影響)もある。今回は、依然として根強い被曝リスクに対する不安に着目したい。

5月25日午後に福島市内のホテルで開かれた第38回県民健康調査検討委員会。新型コロナウイルス感染拡大防止の一環としてweb会議形式(委員は全員リモート参加)で行われたが、席上、2018年度「こころの健康度・生活習慣に関する調査」の結果も報告された。

web会議形式で行われた第38回県民健康調査検討委員会。議題は甲状腺検査にとどまらない

配布資料によると、自身や津波、原発事故の被災で生じた「トラウマ反応」に関する設問では、支援が必要と判断された人の割合は9.7%だった。2011年度の21.6%と比べると半減しているが、ここ3年は横ばい。依然として10人に1人は地震や津波、原発事故によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)の可能性がある事が分かった。

また、「放射線の健康影響」については、「可能性は極めて低い」と「可能性は低い」が合わせて66.4%に達した(2011年度は51.9%)。一方で「可能性は高い」と「可能性は非常に高い」の合計は33.5%で2011年度の48.1%と比べると減ったが、依然として3人に1人が被曝による健康影響を心配している事が分かる。

「放射線の次世代影響」(遺伝的影響)を懸念する回答も2011年度の60.2%より減って36.0%だったが、こちらも下げ止まり。依然として不安が少なくない。自身の放射線被曝が子や孫に遺伝して悪影響を及ぼすのではないか──。事故発生から9年が経過しても3人に1人が遺伝的影響への不安を抱いているというデータは非常に重い。「中通りに生きる会」が東電を相手に起こした損害賠償請求訴訟でも、この点に触れた原告が複数いた。しかし、国も福島県も遺伝的影響を否定するばかりで不安に寄り添わない。

「こころの健康度・生活習慣に関する調査」では、原発事故による被曝の健康影響や遺伝的影響について、依然として3人に1人が不安視している事が分かる

高村昇委員(長崎大学・原爆後障害医療研究所教授)は、一貫して放射線被曝の遺伝的影響を否定している。

今年2月の第37回会合でも「前もたしか申し上げた記憶があるんですけれども、例えば母子健康手帳の中に情報を入れていくであるとか、そういったものを含めた情報発信というものも今後お願いできればというふうに思います」と発言。不安払しょくを促していた。今回、筆者は記者会見で高村委員に認識を質したが、答えはやはり全否定だった。

「例えば広島であるとか長崎の原爆被爆者の二世調査ですね。こういったもの。あるいはチェルノブイリもそうですし、ガン治療で放射線治療をなさった方。いろいろな人における遺伝的調査というのは行われていますけれども、これまでのところですね、そういう意味では放射線の遺伝的影響は証明されていない。これは現時点での科学的な重要な知見だというふうに思います」

「さらに言えば、福島県における外部被曝線量を考えるとですね、福島において遺伝的影響が起こり得るか。私は考えにくいだろうと、これまでの科学的知見から考えても言えるのではないかというふうに私は思います。前回会合で母子手帳の話をしましたけれども、そういったこれまでの知見をふまえた説明をこれからもきちんと継続してする事が必要ではないかと考えております」

ちなみに、高村氏は7月にもオープンするアーカイブ施設「東日本大震災・原子力災害伝承館」の初代館長に就任した。「リスクコミュニケーション」の重要性を説き、遺伝的影響を含めた被曝リスクを全否定する人物が原発事故を後世に伝える施設の初代館長に就任するあたりに、福島県の被曝リスクへの向き合い方が表れている。

一方、遺伝的影響が生じる可能性を無視してはいけないという意見もある。

内科医として2011年4月から毎月のように福島に通い、診療や健康相談を続けている振津かつみさん(チェルノブイリ・ヒバクシャ教援関西)もその1人。2018年2月に福島市内で開かれた 「飯舘村放射能エコロジー研究会」 の第9回シンポジウム「原発事故から7年、不条理と闘い生きる思いを語る」にパネリストとして参加。福島県だけでなく周辺自治体も含めた「被曝者健康手帳」の必要性を強調した上で、次のように語っている。

「放射線被曝の遺伝的影響は、マウスなどの動物実験では証明されています。差別につながるとの指摘もあって非常にデリケートな問題ですが、ヒトでも次の世代への影響が起こり得ると考えて対策を講じていくという姿勢が被害の拡大を防ぐことであり、本当の意味で被害者の人権を守ることにつながるのです。科学というのはそういうものだと思います」

振津さんは、2019年7月に行われた原水爆禁止世界大会の福島大会でも「原発事故が起きた途端に『大した事は無かった』という動きが始まりましたが、原発事故から10年になるのを前に、被災者に必要な生活再建支援を打ち切り、切り捨てていく姿勢が強まっています。どうはね返していくかが問われています」と発言。放射線被曝の健康影響について、「人権」の側面からこう語った。

「国策で進められてきた原発の事故で被曝で強いられました。日本の法律では、一般公衆の年間被曝線量限度は1mSvです。福島県中通りでも、少なくとも2011年1年間だけで大半の人が1mSvを超えています。明らかに法律に違反した人権侵害です。ただちに健康上の問題は無いかもしれませんが、リスクを負ったという事なのです」

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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原発が立地し、その原発の爆発事故で大きな痛手を負った福島県自ら、東京に避難した県民を追い出すための訴訟を起こすという異常事態。筆者は、福島県の情報公開制度を利用して、3月25日付で福島地方裁判所に提出された訴状(開示が決定された時点で被告が受け取っていた1人分)を入手した。5月にも予定されている第1回口頭弁論期日を前に、改めて県の主張と問題点を整理しておきたい。

A4判にして、わずか7ページ。これが、政府の避難指示が出されなかった区域からの原発避難者(俗に言う〝自主避難者〟)を国家公務員宿舎「東雲住宅」(東京都江東区)から追い出す訴状だった。

「請求の趣旨」も至極単純。①建物を明け渡せ、②駐車場を明け渡せ、③退去までの家賃を支払え、④訴訟費用は避難者が負担しろ──。この4点。訴状には堅苦しい言葉が並んでいるが、要するに「早く国家公務員宿舎から出て行け」、「出て行くまでの家賃は耳を揃えて払え」、「こんな裁判を起こす原因をつくったのは退去に応じない避難者なのだから、費用も負担しろ」というわけだ。

筆者が情報公開制度で入手した訴状。一部を黒塗りされて開示された

筆者が情報公開制度で入手した訴状。一部を黒塗りされて開示された

「請求の原因」では、福島県側から見たこれまでの経緯と、福島県から見た「損害」が約3ページにわたって書かれている。福島県の言い分はこうだ。

国家公務員宿舎「東雲住宅」は、東京都が所有者である国から使用許可を受け、原発避難者である被告に、駐車場も含めて応急仮設住宅として無償提供された。

2017年3月31日で避難指示区域外からの避難者に対する応急仮設住宅としての無償提供が終了。本来であれば避難者は使用する権利を失ったが、その時点で新しい住まいが確保出来ていない(新しい住まいの見通しが立っていない)避難者に関しては、原告・福島県が国から一定の条件で使用許可を受けた上で、避難者との間で賃貸借契約(いわゆる「セーフティネット使用契約」)を締結する事で新たな住まいが見つかるまでの住まいとして(最長で2年間、有償)引き続き住む事を認めた。

この際の意向調査で被告は、「セーフティネット使用契約」の申し込みをしたにもかかわらず契約書の調印を拒否。原告・福島県は契約の締結などを求めて東京簡易裁判所に民事調停を申し立てたものの、調停は不成立に終わった。原告・福島県は被告・避難者に対して部屋や駐車場の明け渡しと2017年4月1日以降の家賃支払いを求めているが、有償での入居についても2019年3月31日で既に権利を失っているにもかかわらず被告・避難者は退去せず、国家公務員宿舎の部屋と駐車場を占有し続けている。

被告・避難者が退去に応じず住み続けているため、原告・福島県は国に対して使用許可に基づく使用料を支払っている。訴状では、原告・福島県が立て替えている「損害」について、2017年4月1日から2018年3月31日まで、2018年4月1日から2019年3月31日まで、そして2019年4月1日から現在までの3つに分けて示しているが、開示された文書では黒塗りになって伏せられている。請求額は数百万円に上るとみられ、金利を含めた支払いを原告・福島県は求めているのだ。

訴状には、数十ページに及ぶ附属書類が添付されており、昨年9月の福島県議会に提出された議案や「国家公務員宿舎セーフティネット使用貸付に関する要綱」(2017年2月21日付)、当該避難者が記入したとされる「住まいに関する意向調査」(2017年1月20日付)、「国家公務員宿舎セーフティネット使用申請書」(2017年3月5日付)などが揃えられている。「契約で定められた期限までに退去します」と書かれた誓約書や、昨年8月20日付で送付された明け渡し請求書(提訴予告)も添えられた。

訴状だけを読めば、被告となってしまった避難者について「ルールを守らず居座るわがまま者」と考えてしまうだろう。「実際、多くの避難者は家賃も支払って退去しているではないか」と言う人もいるだろう。

しかし、考えてみて欲しい。そもそも「原発事故など起こらない」と言われていた事故が起きた。ずっと〝安全神話〟に寄りかかっていたから備えなど出来ているはずも無く、国も福島県も市町村も混乱を極めた。避難指示は単純に福島第一原発からの距離で同心円状に出され、いわき市や中通りは避難指示の対象区域とならなかった。

放射性物質は避難指示の有無などお構いなしに降り注いだ。福島市や郡山市の空間線量は10μSv/hを軽々と超えた。わが子の被曝リスクを心配した多くの親が動いたが、原発事故避難に関する法律など無い。無理矢理、災害救助法を適用して支援は住宅無償提供ぐらいしか無く、それも入居先を選んでいる余裕など無かった。結果として国家公務員宿舎に入居した人だけがなぜ、わがまま者扱いをされなければいけないのか。

しかも、福島県はずっと「提訴先を東京地裁にするか福島地裁にするかは決まっていない」と説明していた。しかし、訴状が提出されたのは福島地裁。いくら弁論期日には弁護士が代理人として裁判所に向かう事になるとしても、経済的に苦しんでいる避難者に交通費を工面してでも福島まで来いと言う福島県には、本当に血も涙も無い。

避難者も支援者も「追い出すな」の声をあげ続けて来たが、とうとう福島県が追い出し訴訟を起こした

3月27日午後に福島県庁会議室で行われた緊急要請。「福島原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)と「『避難の権利』を求める全国避難者の会」の2団体が次の4項目について県に求めた。

① 国家公務員宿舎入居者に対する「2倍家賃請求」を止めること
② 国家公務員宿舎入居者に対する立ち退き提訴を止めること
③ 帰還困難区域からの避難者の住宅提供打ち切り通告を撤回し、すべての避難当事者の意向と生活実態に添った住宅確保を保障すること
④ 新型コロナウイルスによる経済状況が改善するまで避難者への立ち退き要求や未退去者への損害金請求を行わないよう、民間賃貸住宅の家主や避難先自治体に対し要請すること

これまで何回も話し合いの場が持たれ、申し入れも行われたが、福島県の意思は変わらなかった

「避難の協同センター」世話人の熊本美彌子さん(福島県田村市から都内に避難継続中)は席上、「非正規で働いている避難者は雇い止めや収入減に直面しているのに、福島県から2倍の家賃を請求され続けている。避難者に寄り添うどころか窮状をさらに深めている」と県職員に訴えた。記者会見では「なぜ東京地裁でなく福島地裁に提訴したのか。避難者は交通費をねん出するのも難しいのに…」と県の姿勢を批判した。

被告となってしまった避難者が出廷のために東京~福島を新幹線で往復すると2万円近くかかる。「お前たちのせいで裁判沙汰になったのだから、そのくらい負担しろ」。それが「最後の1人まで寄り添う」内堀県政の本音なのだ。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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