2016年5月15日(日)、水道橋のたんぽぽ舎にて〈若狭の原発の特徴と反原発運動〉と題された学習会が催された。講師は〈若狭の原発を考える会〉代表の木原壯林氏。5月10日に琵琶湖一周デモを終えたばかりということで、しっかりと日焼けした姿で登壇した。タイトルの通り、若狭湾に集まる原子力発電所の特徴と、反原発運動の実践について講演されたのだが、ここでは特に前者について再構成を試みる。
◆若狭の原子力発電所とプルサーマル運転
福井から京都にかけての日本海沿岸は、日本海岸には珍しい大規模なリアス式海岸となっており、若狭湾と呼ばれている。ここには、〈もんじゅ〉を含む14基の原子力発電所が建てられており、人口密集地である大阪に近いことなどから原発事故時の被害が大きくなるだろうと予想されている。
2016年5月現在、14基のうち運転している発電所は無い。しかし定期点検中のものについては再稼働の可能性があり、また、2017年7月と翌2018年7月に敦賀3号機と敦賀4号機がそれぞれ建設される計画があるため、引き続きその危険性や在り方について考える必要がある。
若狭の原発については、高浜3号機と高浜4号機が〈プルサーマル〉運転を行っていたというのも特徴のひとつだ。〈プルサーマル〉とは、原子力発電所で使い終わった燃料のなかに残っているプルトニウムを取り出して新しい燃料(MOX燃料)を作り、再度原発で使用するというものである。だが、国内に既存の原発はウラン燃料を用いることを前提に設計されており、プルトニウムを燃やすことに対する技術的な課題(ヘリウムの放出が多いため燃料棒内の圧力が高くなる、などといったこと)が多く残されているということに注意したい。
◆高浜原発運転差止め裁判
2016年3月9日、大津地方裁判所(山本善彦裁判長)は、高浜原発3、4号機の運転を差止めする仮処分決定をした。若狭の原発が重大事故を起こした場合に深刻な被害を受ける可能性がある滋賀県民の申し立てを全面的に認めたものだ。司法が稼働中の原発の停止を求めたのは世界でも初めてのこと。福島の原発事故の被害が広範囲に及び、現在も解決していないという現実を踏まえた勇気ある画期的な決定だ。
仮処分決定は、速やかに行動しなければ取り返しがつかない事態が生じかねない案件のみに出されるもので、決定されれば即座に効力を発する。したがって、関西電力は10日の午後8時過ぎに稼働中の3号機を停止した。関西電力による、決定取り消しを求める保全異議や、仮処分の効力を一時的に無効とする執行停止の請求が認められない限り、高浜原発3、4号機の運転差止めの法的効力は継続する。
これに対し、福岡高等裁判所宮崎支部(西川知一郎裁判長)は2016年4月6日、川内原発1、2号機の運転差止めを求める仮処分の申し立てを却下した。この決定は、福岡高等裁判所が再稼働ありきの立場で九州電力と原子力規制委員会の主張に沿って審理して導いた不当な結論だと言える。
◆電力会社の立証責任について
電力会社の立証責任について、両裁判所の見解を見てみよう。大津地裁は「新規制基準に合格したから安全だ」とする関西電力に対して「福島の事故後、どう安全を強化したのか」を立証するよう厳しく求めたが、関西電力は、外部電源の詳細、基準地震動設定の根拠などを証明せず、資料の提出も不十分であった。このため大津地裁は「関西電力による立証は不十分である」とした。対する福岡高裁宮崎支部は、「九州電力は、耐震安全性、火山影響について立証を尽くした」とした。
原発裁判のような高度の専門的知識を要する裁判では、一般人が議論の全てに関する資料や根拠を調べ、提出することは困難だ。したがって、1992年の伊方原発裁判において最高裁判所は「原発稼働を進めるにあたって、被告である政府や電力会社の側が、依拠した具体的審査基準や調査審議および判断の過程等の全てを示し、政府や電力会社の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づいて主張、立証する必要がある」としている。また「政府や電力会社が主張、立証を尽くさない場合には、彼らの判断に不合理な点があることが事実上認められたとすべきである」とも述べている。
関西電力や九州電力は、伊方原発裁判において最高裁判所が要求するこのような立証責任を果たしていない。よってこの度の裁判においても、主張、立証を尽くしていない行政庁の判断に不合理な点があることが事実上認められたとすべきである。
◆福島事故への反省と新規制基準について
大津地裁は「福島原発事故の原因を徹底的に究明できたとは言えないので、新規制基準はただちに安全性の根拠とはならない」とし、新規制基準は「公共の安寧の基礎にはならない」と断じた。これに対して福岡高裁宮崎支部は「絶対的な安全性を求めることは社会通念になっていない」として、これまでの原発訴訟と同様に、新規制基準に適合しているかどうかを争点とした。新規制基準については「安全性確保の面で高度の合理性を有する」とした。
原発で重大事故が起これば、時間的、空間的に他の事故とは比較にならない惨事となるので、万一にも事故を起こしてはならない。したがって絶対安全性が求められるが、現代科学技術の水準、人為ミスの可能性、人の事故対応能力の限界などを考え合わせると、絶対安全性を確保することは不可能であるから、原発は全廃すべきである。
福岡高裁宮崎支部は、最新の科学的技術的知見を踏まえていることを安全性の根拠としているが、最新の科学的技術的知見は完璧からは程遠いものであり、それだからこそ想定外の事故が多発するのだということを認識すべきである。
◆立ち返るべき地点──シンプルで飛躍のない原発全廃論
ここまで、木原壯林氏の講義のなかで特に重要と思われる点を照らし出してみた。「原発で重大事故が起これば他の事故とは比較にならない惨事となるので、万一にも事故を起こしてはならない。したがって絶対安全性が求められるが、現在の科学技術では絶対安全性を確保することは不可能である。よって原発は全廃すべきである」というシンプルだが飛躍のない論は、極めて重要かつ実際的なものであり、情緒的に反原発を唱え勝ちな状況にあって、今一度立ち返るべき地点ではないだろうか。
柔らかい口調で、短絡なく合理的に論を展開する木原氏の姿勢に惹かれたものだが、ここではそれを伝えることが難しい。添えた写真からその人柄を感じ取り、ここに示した木原氏の論に人の重みを付け加えていただきたい。
[撮影・文]大宮浩平
◎[参考動画]老朽美浜原発3号機の 再稼働を許さず、原発のない町づくりを進めよう /木原壯林・京都工芸繊維大学名誉教授(2016年6月11日福井県美浜町)
▼大宮浩平(写真家)
1986年東京生まれ。
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