onodekitaさんこと小野俊一医師

 

「西村博之」と聞いて2ちゃんの「ひろゆき」氏がすぐには思い浮かばないように、「小野俊一」と聞いてピンとくる人はまだまだ少ない。だが、「onodekita」さんといえば、放射能情報に敏感な人は即座に「知ってる!」と答えるはずだ。

3.11直後から毎日休みなく福島第一原発動向をブログで発信し続けてきた「onodekita」さんこと小野俊一医師。東電、福島、被曝をめぐる諸相からメディア・識者批判にいたるまで、縦横無尽に語ってもらった200分インタビューを8回に分けて随時掲載する。

◆一日30人のアクセス数が事故後は1万人越え

── 「やむにやまれず書き始めた」という小野さんのブログは事故直後から話題でした。実際、アクセス数の急増はいつ頃からでしたか?

ブログの読者が目に見えて増え出したのは事故の2ヵ月後ぐらいだったと思います。ブログ自体は以前から医院の宣伝用に一般患者向けに始めていましたが、事故前のアクセス数は一日30人程度でした。

それが3.11の後、2011年の4月29日には一日1000人を超え、5月に入ると3000人、さらにその後は毎日1万人を越えるようになった。いまは若干落ち着いて1万人前後です。不思議なものでアクセス数が増えるとやる気が出ます。読者が減ると私のやる気も出てこない(笑)

── 2012年11月には『フクシマの真実と内部被曝』(七桃舎)を自費出版され、同書はすでに三刷目。累計販売部数はどれぐらいですか?(『フクシマの真実と内部被曝』Amazonリンク

『フクシマの真実と内部被曝』(2012年七桃舎)

4500部を越えました(2014年6月末時点)。ブログでの直販が2000部ほどであとはアマゾン経由がほとんどです。アマゾンで売り始めた直後は一週間に200冊とか300冊の注文が入り、配送するだけで大変でした。直販とアマゾンは一長一短。ブログ経由の販売は書籍代をなかなか振り込んでくれない人もいて、売り掛けチェックに手間がかかる。アマゾンはそういうことはないので便利ですが、販売価格の4割はアマゾンが持っていく。講演会での販売は600部ほど、キンドル版も販売していますが、まだまだ一日数冊程度です。

出版にあたっては当初、大手の出版社も興味を持ってくれましたが、あれこれ内容に口を出してくるので止めにしました。それで自分でISBNコードを買って出版業を立ち上げた。出版はずぶの素人だったので大変でした。誤字脱字がないようにできるだけ多くの方に読んでいただきながら原稿をまとめましたが校正は本当に難しい。引用・転載の許可手続きも自分でやってみて、一冊の本を作る大変さを思い知りました。

例えば当初、井伏鱒二の『黒い雨』も引用したかったのですが、これは日本文藝家協会という公益社団法人が著作権を管理していた。まるでJASRACのような団体で、わずかの引用でも結構な使用料をとられそうだったので諦めました。

逆にありがたかったのは、漫画『はだしのゲン』の転載ですぐに許可をいただけたこと。直接、作者の中沢啓治さん(2012年12月逝去)の御宅に電話をしてお願いしたのですが、奥様に趣旨を説明して、それを奥様が中沢先生に伝えると、電話口の遠くから「良しと言え!」と叫ぶ中沢先生の声が聞こえてきた。『はだしのゲン』は英語版など海外でも人気ですが、いかに中沢先生が『はだしのゲン』を世界の人たちに読んでほしかったがわかります。

◆東電時代の上司は武藤栄

── 小野さんが東電に入社したのは1988年。チェルノブイリ事故の二年後です。当時は原発にどんなイメージを持っていたのですか?

入社時には原子力の知識などゼロでした。ただ、日本に原発は必要だと思っていました。その一方で日本の原発は本当に安全なのか?と疑念もあった。原発問題でだれもが思う疑問は、原発を稼動して生まれる放射性廃棄物をどう処理するのかです。当時は東電社員として原発業務に携わっていながらも、核廃棄物の処理についてはきっと他の誰かがある程度考えているのだろうと他人事のように思っていた。しかし、現実にはだれも考えていなかったことがわかりました。

本にも書きましたが、日本の原発の安全性の根拠である格納容器にも素朴な疑問がありました。容器は所詮容器です。素朴に考えて、内部で圧力をかけ過ぎたら破裂することはありうると思っていた。そして、福島ではやっぱり破裂したわけです。

── 東電時代の上司のひとりが3.11時の武藤栄副社長ですね。

武藤さんはむちゃくちゃできる人。原発に関して言えば、一を聞いて十を知るぐらいの人でした。そんなに変な人ではないです。当時の武藤さんは原子力技術課長で40代。いまの私より若かった。

武藤さんが東大の学生だった頃は、「原子力は未来のエネルギー」と言われていた。だから、東大の原子力工学にはかなり優秀な学生が集まっていた。彼もその中の一人でした。いまの60代の原発技術者たちは皆優秀な人ばかりでした。

ただし、優秀だからといって、原発をめぐるすべての問題を考えているわけではありません。3.11以後の私のブログも武藤さんはおそらく知っていると思います。でも、そうした件で武藤さんからなにか言われたことはありません。いまも年賀状のやりとりはしていて、今年の年賀状には、「LNT仮説について調べています」と書いてありました。LNT仮説というのは直線しきい値無し仮説。被曝の線量に下限はないという説です。

── 朝日新聞がスクープした『吉田調書』を読むと福島原発事故の時、菅首相の対応は必ずしも間違っていなかったように思います。むしろ、事故当時、問題をこじれさせたのは、首相官邸と事故現場のコミュニケーションを仲介していた東京電力の武黒一郎フェロー(現国際原子力開発株式会社社長)の対応のようにも思えますが、東電時代に武黒さんをご存知でしたか?

菅さんついては私もそう思います。事故当時、菅さんの行動には頭に来ていたけれど、いまふりかえってみるとよく対応してくれたと思います。武黒さんとは直接仕事をしたことはありません。

ただ、社内の話を聞く限り、「話が通りやすい人」だとは聞いていました。武藤さんもそうですが、東電で「できる人間」というのは、役人の言うことをよく聞く。とにかく役人には「はい」という。役人の言い分が間違っているとわかっていても反論せずに一旦引き下がる。

ずいぶん以前の東電の元副社長で初期の原子力部門トップだった豊田正敏という方がいます。いま90歳ぐらいの方ですが、事故の最中、武黒さんが彼に会いに来たと週刊誌の記事で以前、語っていました。武黒さんは豊田さんに「こんなの二、三日で止めさせてみせますよ」と言って、官邸に向かったそうです。

◆被害はチェルノブイリより酷くなる

── でも、実際は二、三日どころか、二、三年経っても、酷い状況が続いています。

「現実的な回答がない」というのが事実でしょう。どういうことかというと、汚染があまりにも酷く広範だということです。放射能汚染が福島県だけではなく、もっと広範囲。福島県だけならば、行政は福島に限定して汚染対応をすればいい。しかし、現実は首都圏まで汚染されている。さらに新潟などまで入れだしたら、日本列島の半分ぐらいは汚染されていて、行政は対処しきれない。本州だって汚染範囲は必ずしも東日本だけではない。西日本も汚染されているでしょう。名古屋あたりでは突然死が出てきています。大阪などでも顔が焼けたように赤くなるベータ熱傷が多数出てきている。もっといえば、九州、ここ熊本だってなんらかの核汚染が出てきています。

◎[参考リンク]大熊町内の土壌汚染調査結果のお知らせ(大熊町役場会津若松出張所2011年6月30日付)

福島から出た放射能は公式にはチェルノブイリの7分の1とされています。これはウソなんですが、「公式発表」ではそうなっています。しかし希ガスの発生量はチェルノブイリより福島の方が公式でも多い。公式発表の数値を百歩譲って認めたとしても、福島土壌の最汚染のレベルはチェルノブイリと変わらないかむしろひどいといえます。したがって被曝の被害は日本でも絶対に出る。しかも土壌汚染の度合いが同じに加えて、日本の方が被爆地の人口密度は格段に高い。それを加味すれば、被害はチェルノブイリより酷くなると公式発表からでもそういえます。

放出量で何倍だったのかの論議をすると水掛け論になってしまう。でも、実際の土壌汚染で見れば最も汚染レベルが高い最汚染地帯の値はセシウム137でチェルノブイリが1800万ベクレル。対して福島の大熊町は3000万ベクレルです。公式発表でも最高土壌汚染値では福島の方が高いです。[つづく]

 

ブログ「院長の独り言」 

▼小野俊一(おの しゅんいち)(小野・出来田内科医院院長)

1964年広島生まれ宮崎育ち。東京大学工学部(精密機械工学科)を卒業後、1988年に東電に入社。福島第二原発(5年間)と本店原子力技術課安全グループ(2年間)で7年間勤務。1995年に退社後、熊本大学医学部に入学し、2002年卒業。NTT病院等の勤務を経て、熊本市の小野・出来田内科医院院長。『フクシマの真実と内部被曝』(2012年11月七桃舎)

◎ブログ「院長の独り言」 http://onodekita.sblo.jp/

[2014年6月26日熊本市 小野・出来田内科医院にて] (構成=デジタル鹿砦社通信編集部)

 

◎onodekitaさんこと小野俊一医師200分インタビュー![全8回]

《原発放談01》福島の放射能被害はチェルノブイリより酷くなる(2014年9月15日)

《原発放談02》東電の「できる人」は役人に決してNOと言わない(2014年9月17日)

《原発放談03》自分で真実を想定していくしかない(2014年9月19日)

《原発放談04》そもそも早野龍五さんは原発を知らないです(2014年9月21日)

《原発放談05》被曝由来の病気は「個発」でなく「群発」(2014年9月24日)

《原発放談06》分断される「原爆」と「原発」(2014年9月26日)

※《07》《08》は近日公開予定!

最前線の声を集めた日本初の脱原発情報雑誌 『NO NUKES voice』創刊号絶賛発売中!

 

断言する。吉田調書、慰安婦報道問題で朝日新聞に対する批判は全く不当だ。双方の問題に共通するのは、細部に誤報があったのは事実にしても、それによって報道被害を受けたのが一体誰であるかという視点での批判、報道が決定的に欠落している点である。

私は朝日新聞の信者でも擁護者でもない。破格の給料を得て、エリート面した一部の朝日新聞記者の顔を思い出すと庇ってやるのは気が引ける。しかし朝日新聞を攻撃する陣営(安倍、読売新聞、産経新聞、週刊文春、週刊新潮)の攻撃論拠には全く同意できないし、明確な悪意に満ちている。攻撃者が批判したいのは「朝日新聞」自体ではなく、慰安婦問題、原発問題における「朝日新聞的主張」ではないのか。

吉田調書の扱いなどそもそも勘違いしようが、しまいが何一つ未来が変わることがない枝葉末節の問題だ。産経だって朝日に先立ちネット記事に吉田調書の要約を掲載していたし、その中には「これが産経の記事か!」思われるような記述もあった。9月12日の朝刊に「吉田調書」の全文が掲載されていたので読んだ。やはり枝葉末節の勘違いに過ぎない。これによって市民が傷つくことはない。

◆原発事故の本質をなぜ放置する?

そうだ。留意すべきは、この報道により、一体誰が傷つくとかということである。困るのは東電と国だけではないのか。しかもそれがどのような経緯であったにせよ、争われている事実関係は、既に3年前のことであり、その時に作業員が福島第二に退避していようが、いまいが今日の惨状になんら影響するものではないではないか。

事故検証の間違いを指摘するならば、「政府事故調査委員会」(畑村洋太郎会長)が「個人の責任は問わない」として始めた事故調査のあり様を批判した報道機関がどれほどあったというのか。航空事故や食中毒で国の「調査委員会」が発足すれば、必ず責任者や問題点を特定する。そして警察や検察が責任を追及する。そうしなければ「調査委員会」の意義はないから当然だ。だが、原発事故の「政府事故調査委員会」は当初より個人責任の追求を放棄して調査を行った。そんな調査のどこに意味があるのかという議論は、今回の朝日新聞叩きに比べれば行われなかったに等しい。

大手全国紙、地方紙、週刊誌などがこぞって朝日批判を展開しているが、それよりも現在も連続的に進行している原発事故の本質をなぜ放置するのだろうか。今回、ここぞとばかりに朝日新聞批判に熱心な勢力は、原発推進の旗色を明確にしているメディアが中心だ。

慰安婦問題も同様である。週刊誌は「1億人が被害者」などと書き立てるが、バカもいい加減にしろだ。吉田発言が虚構であっても、それを凌駕する日本軍自体の公式文書や当時の政府文書で「慰安所」設置が行われたことは既に立証済みであり、吉田清治発言は傍証に過ぎない。政府の公式見解だって「慰安婦」の存在を認めている。朝日新聞叩きに熱心な連中は吉田発言を朝日が掲載したことよりも、「従軍慰安婦」は無かったことに葬り去ろうという本音を隠さない。桜井よし子など右派の論客を多用して「この国の誇り」だの「自尊心」だのを相も変わらず繰り返しているが、この国の「ホコリ」を問題にするのであれば、東日本、いや世界中に拡散した放射性物質の「ホコリ」をなぜ取り上げないのだ。

◆「朝日叩き」が示すのは日本社会の「戦時下」状態

奇しくも同姓の「吉田」発言が引き金となって異なる2つの事件で総攻撃を受けている朝日新聞。でもこの2事件には共通点がある。

まず加害者とされる立場の者がいずれも国である点。次にその被害者に対して加害者は保障を頑なに拒み続けている点、さらにいずれも国民を騙しながら進められ詭弁によって正当化を図ろうとしていた欺瞞に満ちた国策である点である。

つまり、メディアが結託して国が犯した、裁ききれないほど重大な犯罪を「無かったもの」に仕立て上げようとする大規模な世論操作・誘導であるのだ。

朝日新聞を叩くのであれば、その社名の後ろにはためく旭日旗のような社章をいまだに使い続けていることや、2011年に福島県健康リスクアドバイザーとしてわざわざ長崎から着任し「100ミリシーベルト以下は安全」と大嘘をのたまった山下俊一(現福島県立医大副学長)に「日本癌大賞」を授けたことこそ指弾されるべきだ。

体制派マスコミにそのような視点は見当たらなし、今後も期待するのは無理であろう。言論も既に「戦時下」状態に置かれていることを示したのが今回の朝日新聞叩きの本質と見るべきだ。

(田所敏夫)

 

最前線の声を集めた日本初の脱原発情報雑誌 『NO NUKES voice』創刊号絶賛発売中!

 

東京・本郷で8月31日(日)、たんぽぽ舎の設立25周年集会が開催され、広瀬隆さんとアーサー・ビナードさんが記念講演を行なう。

80年代末、朝日新聞が「現代のノストラダムス」などと広瀬さんを揶揄していたが、朝日の意図とは別に広瀬さんの予言は3.11で当たってしまった。

アーサー・ビナードさんはベン・シャーンのペン画とコラボした、第五福竜丸の絵本「ここが家だ」(2006年集英社)がなにより素敵だ。松岡正剛が「千夜千冊」(1207夜)で評しているように、確かにこれは「日本人がしていないこと」だった。

◆汚染食品測定活動が起源のたんぽぽ舎

たんぽぽ舎の歴史は1989年に遡る。1986年4月26日にソ連(現ウクライナ)で起こったチェルノブイリ原発事故をきっかけに世界各地の農産物や食品への放射能汚染が問題となった。チェルノブイリから8000キロ離れた日本でも放射能の影響は出ていたし、欧州で加工生産されたパスタなどの輸入食品も日本に大量に輸入されていた。

事故からちょうど1年後の87年4月26日に刊行された広瀬隆さんの『危険な話・チェルノブイリと日本の運命』(八月書館)でもこの問題は取上げられていて、以後、日本でも食の問題を含めての「脱原発」運動がマス・レベルで高まりを見せた。

そうした流れの中で当時、東京都・区職員の労働組合有志が「都労連原発研究会」を結成し、食品放射能測定器を購入した鈴木千津子さんとともに市民に開かれた食品汚染の調査計測スペースを作った。これに小泉好延=市民エネルギー研究所代表や藤田祐幸=慶応義塾大学助教授(当時)といった多数の専門家が協力・支援し、たんぽぽ舎としての活動が89年に始まった。

その後は「脱原発法」制定、劣化ウラン弾廃止の実現をめざす市民運動も展開し、核と原発に関わる事故や事件が起こる度に、ゆるやかだが柔軟なネットワークで活動してきた。

3.11直後もいち早く東電本店前で情報公開を訴えた。同時に「地震と原発事故情報」のメルマガを日刊で発行し、いまも毎日有益な情報を発信し続けている。こうした活動の歴史については、たんぽぽ舎の沼倉潤さんが『NO NUKES voice』創刊号で報告しているのでぜひ一読してほしい。

◆フツーの人たちだって、事故の真相は正確に知りたい!

『NO NUKES voice』創刊号では、他にもたんぽぽ舎の主力メンバーの山崎久隆さん(福島原発市民事故調査委員会)と柳田真さん(再稼働阻止全国ネットワーク)が記事を寄稿している。

山崎久隆さんの報告は、福島第一原発の現況、特に汚染水と電気系統での対策不備を検証し、国と東電の現行対策がいかに駄々漏れ状態かを鋭く指摘している(「『フクイチ』の現実と未来」)。

一方、柳田真さんは国と電力側が再稼動にこだわる理由と全国各地再稼動反対運動の活動を報告している。(「再稼動は放射能汚染と原発大事故を招く」)

普段、運動に関わっていないフツーの人たちだって、事故の真相は正確に知りたい。それをきちんと公開しない国だから、たんぽぽ舎のような市民ネットワークが不可欠なのだ。

首都圏の心ある皆さん、今週日曜は広瀬隆さんらと共にぜひ、たんぽぽ舎の集会にご参加を!

《たんぽぽ舎25周年集会概要》
○会場:全水道会館(JR「水道橋」駅東口下車2分)
○日時:8月31日(日)13:15開場
第1部 13:40より 講演とお話    アーサー・ビナードさん、広瀬隆さん
第2部 懇親会 18:00から20:00まで
○参加費:記念講演 当日1200円(前売りチケット1枚1000円)
懇親会 ?  ? ?  2000円
○主催・問合せ:たんぽぽ舎 TEL 03-3238-9035 FAX 03-3238-0797
http://www.tanpoposya.net/main/index.php?id=2018

 

(本間 解)

『NO NUKES voice』創刊号8.25発売開始!

 

『紙の爆弾』増刊号として8月25日、脱原発のための共同戦線雑誌『NO NUKES voice 』が創刊された。

これに先駆け、鹿砦社スタッフは8月22日の関西電力前金曜行動に参加。現場で臨時販売したところ、手持ちの50冊中35冊が売れ、手応え十分ありと見た。

書店に配本する委託部数も好調で、当初予定していた5000部の4倍超となる2万2000部発行となった。編集部としては「うれしい悲鳴」だが、逆にそれだけ印刷・製本代などは「想定外の支払い」となるわけで、「創刊号は一冊でも多く売れ!」と鹿砦社の松岡社長は険しい顔だ。

巻頭グラビアは秋山理央の「こどもと反原発の風景」。3.11以後、全国各地のデモや抗議集会で当たり前の風景となってきたフツーの家族とこどもたちの表情を紹介している。

世代や地域を超えた「新たな脱原発情報ネットワーク」構築を創刊目的に掲げた通り、記事内容は多彩な新旧世代による充実の14本構成だ。

◆「京大熊取六人衆」今中・小出両記事は必読!

その概要は文末の書籍広告を参照していただくとして、特にお勧めしたいのは、70年代初頭から日本政府の歪な原子力開発に異を唱え続けてきた「京大熊取六人衆」の二人、今中哲二(インタビュー)と小出裕章(講演録)の記事だ。事実分析に対する冷徹真摯な二人の姿勢はいつもながら素晴らしく、必読だ。

例えば、今中助教が自ら測定した東京・多摩地区土壌の放射性セシウム量は1平方メートル当たり約15,000ベクレル。今中氏いわく「ひでえなあ!」という状況だそうだ。こうしたシリアスな情報をさらりとあこれこれ披露しながらも、今中助教の語り口は常に飄々としていて読後感が心地よい。

他方、小出助教の同志社大での講演録は、原子力の基本問題をわかりやすく解き明かしつつ、徐々に国への義憤の熱を原子炉のように高めていく小出節が誌面から伝わってくるはずだ。

◆「東のたんぽぽ舎」と「西の鹿砦社」の協力で生まれた脱原発雑誌!

かつてスキャンダル雑誌の世界では、東の『噂の真相』、西の『紙の爆弾』と呼ばれていた。『噂の真相』はすでにもうないが、『紙の爆弾』はしぶとく健在だ。

今回の『NO NUKES voice 』では、西の鹿砦社が長年、「脱原発」で地道に活動をしてきた東のたんぽぽ舎の協力を得て初めて実現した雑誌でもある。これから世代を超えて続けねばならぬ脱原発運動の新たな共同戦線の始まりで、創刊号はその最初の狼煙。街の書店で見かけたら、ぜひお手に一冊を!

(本間 解)

◆「NO NUKES voice」の発刊を祝って

松岡社長率いる鹿砦社が「脱原発」に特化した雑誌「NO NUKES voice」を8月25日発刊する。これまでも「脱原発」に関する書籍やパンフレットは多数出版されてきたが、本格的定期刊行物としては初めての試みではないだろうか。鹿砦社の発行の雑誌にしては珍しく垢抜けして、ポップな「市民に受け入れられやすそうな」ネーミングが逆に怪しさを感じさせる(笑)が、松岡社長の意気込みは真剣そのものである。安倍反動政権が再稼働、輸出策動を推し進める中で、脱原発運動の重要な一翼を「NO NUKES voice」が担うことが期待される。

◆「美味しんぼ」騒動における大阪府・市の「抗議文」

私が本コラムを担当させていただくにあたり、初回は「NO NUKES voice」発刊にエールを送る意味で、少々話題としては古いものの「美味しんぼ」騒動における大阪府・市の対応について報告する。

「美味しんぼ」は「週刊ビックコミックスピリッツ」に連載されていたが、その中で福島や大阪での描写が集中批判の的となり、現在休載している。

私は大阪市及び大阪府が5月12日、HPに掲載した「週刊ビックコミックスピリッツ『美味しんぼ』に関する抗議について」の内容を確認し、これは怪しいと直感した。

「週刊ビックコミックスピリッツ『美味しんぼ』 に関する抗議文について」は、株式会社小学館の相賀昌宏代表取締役に対し大阪府知事の松井一郎氏と、大阪市長橋下徹氏が連名で提出しているものである。

その文章の中に抗議をする根拠として以下の記述がある。

「また、処理を行った焼却工場の存在する此花区役所、同保健福祉センター、此花区医師会に確認をしましたが、処理中においても、その後においても、作中に表現のある『大阪で受け入れたガレキを処理する焼却場の近くに住む多数の住民に眼や呼吸器系の症状が出ている』というような状況はございませんでした。」

これを真に受けるとあたかも大阪府や大阪市が周辺住民に子細な調査を行った結果「何も被害はなかった」と結論付けているように読めるが、実際は全くそうではない。私は大阪市役所に電話取材を行ったところ、環境局の担当者は「HPにあるように区役所や、保健センター、医師会に鼻血などの変調を訴えて受診した人がいるか、と聞いたが該当者はいなかった」というのが回答であった。

◆鼻血が出たら病院へいきますか?

「美味しんぼ」では大阪のお母さんが1000人に聞き取りを行ったところ鼻血が出るなどの症状を訴える人が800人ほどいた、とする内容を掲載しているのだが、大阪府、市は聞き取り調査を行ったわけではなく、ただ「鼻血を理由に受診並びに相談に訪れた人がいたか」を保健所や医師会に問い合わせただけだったのである。

大阪市の担当者に私が「貴方は鼻血が出たら病院へいきますか?」と尋ねたところ、「鼻血くらいでは普通病院にはいきませんわな」との回答、更に「美味しんぼ」では一応聞き取り調査を行った結果としての描写になっているが、「大阪府、市は実際に当該地区の聞き取り調査を行ったのか」との質問に対して「聞き取り調査は行っていないが、医師会などへの質問で実態は把握できていると考える」との回答だった。

要するにまともな調査も行わずに、雑誌に掲載された漫画の内容が気に食わないというだけで、大阪知事・市長は「抗議」を行っていたのである。大阪市役所の担当者が正直に白状したとおり、鼻血が出ても医療機関に出向く人は一般的な感覚からすればそうそういるものではない。行政機関が一般企業(しかも出版社に)「抗議」をするのであれば、最低限の調査や科学的根拠があってしかるべきであろうが、そんなものはどこにもなかったのである。

つまり、「美味しんぼ」が(実際に行われたかどうかはともかく)「調査報道」の形態で作品を構成している(しかも作品中で「この症状が放射線の影響によるものかどうかは断定できない」と断っている)のに対して、それに抗議するにあたり、大阪府、市は最低限の調査すら行っていなかったのだ。

そうでありながら「風評被害を招き、ひいては平穏で安寧な市民生活を脅かす恐れのある極めて不適切な表現であり(中略)場合によっては法的措置を講じる旨、申し添えます」との表現は「抗議」に名を借りた行政権力による表現の自由への恫喝以外の何物でもありえない。

環境局の担当者M氏は「その後市長が記者会見でもうあの問題はいい、というてはりましたからええんちゃいますか」と私に述べたが、そうであるならば、この恫喝「抗議文」を撤回するべきである。

◆「抗議」に名を借りた行政権力

「美味しんぼ」に関しては複数の閣僚や、福島県知事、多くの与党議員がヒステリックに批判を展開したが、その実作品中に描かれている事実(例えば井戸川前双葉町町長の発言)などはこの作品以外の多くの場面でも述べられている既知の事柄であることは少し時間を割いて調べれば容易に確認できる。更に事故直後、自民党がまだ野党であった時期に自民党議員複数が国会で「鼻血」についての質問を行っているのだ。

大阪府・市をはじめとする一連の「美味しんぼ叩き」は、福島原発事故被害を隠ぺいしようとする政府・権力側の意に沿った低レベルな「風評被害払拭キャンペーン」の一翼を担うものであることは明らかだ。離合集散を繰り返す「維新」の代表橋下大阪市長は「脱原発」を主張しているが、この「抗議」のような言論弾圧を何の躊躇もなく行う「ファシスト」であるという事実がまた再度明らかになった。こんな連中と合流を模索している「結いの党」に所属する連中や「維新との連立は100%ある」と発言した前原誠司などは今後必ず何度も国民を裏切るであろう。
凋落が明らかな「維新」をわざわざ叩かなくても、という向きもあるかもしれないが、橋下市長にとって集票と人気取りのためであれば何の大義もない「選挙」であろうが「カジノ」であろうが「脱原発」であろうが持ち出すキーワードは何でもよいのである。橋下に騙されている大阪市民はそろそろ覚醒してはくれまいか。

◆「戦中」下から脱原発を!

3・11は取り返しのつかない膨大な被害をこの国にまき散らした。しかし遅すぎたかもしれないが、これまでとは比較にならない数の人々が政府やマスコミの本質に気が付き始めた。そして考えるだけでなく行動を起こす市民も増えている。死滅した文化であった感のある「街頭デモ」が行われる姿も首都圏では珍しくなくなった。

原発以外の状況を見渡せば、もう既に「戦中」と言っても過言ではない悪法整備、解釈改憲が進行する絶望的状況ではある。そんな時代であるからこそ地道で、腰を据えた言論や運動が必要とされているのではないだろうか。

繰り返すが「NO NUKES voice」に寄せられる期待は大きい。そして同時に我々市民がより賢くなり、権力から受動的に飼いならされた生活を克服してゆくことが、容易ではないだろうが大変重要な鍵を握る。厳しい時代だからこそ与えられたこのコラムに筆者も全霊をぶつけていきたいと考える。 (田所敏夫)

 

FM熊本から、回答が来た。
この間お伝えしているように、『タブーなき原発事故調書 超A級戦犯完全リスト』『東電・原発おっかけマップ』を「コラコラ・コラム」で取り上げた、高校生向けの進路情報番組『ラジオキャンパス』が、FM熊本で番組ごと打ち切りになった。
これに対して、鹿砦社が抗議した。その回答が、11月19日付で来たのだ。

内容を引用する。
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「来るべき再起働に向けて」
大きなタイトルが目に迫ってくるのは、11月11日発行の東京電力労働組合の機関誌『同志の礎』(つなぐ号外9号)である。
再起働とは、柏崎刈羽原子力発電所についてである。防潮堤の建設など、安全対策を高める工事が行われていることを、担当者の意気込みなどを含めて、紹介している。
衆院選を巡って、原発の是非が問われている時に、柏崎刈羽原発の再起働に向けて、拳に力を入れているのが、東電労組なのだ。

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「『日本維新の会』と『太陽の党』の合流にはひっくり返ったな。脱原発と原発推進の党の合併だからな」(民主党関係者)
脱原発の「みんなの党」も、合流はしないが連携を図る、という。
もはや「選挙に勝利するためになら、なんでもアリ」だ。

9月19日には、亀井静香前国民新党代表が、民主党を離党した山田正彦元農林水産相らとともに、新党「反TPP・脱原発・消費税増税凍結を実現する党」を結成した。
記者会見の中で亀井氏はTPPについて「何で(米国の)奴隷のごとく従わなくてはならんのですか」と持論を展開。また、東電の原子力発電事業、福島第一原発事故について「あんな放射能を使ってエネルギーを調達するという危険な技を使っている。事故の後、東電から官邸にきちっとした情報が上がってきましたか」と批判した。

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『タブーなき原発事故調書 超A級戦犯完全リスト』(鹿砦社)を取り上げた番組が、そのことによって番組ごと打ち切りになる、という事態がFM熊本で起きた。FM秋田とFM新潟では、その部分のみが音楽に差し替えられた。
これまでお伝えしてきた通り、『タブーなき原発事故調書』は取次から委託配本拒否の扱いを受けている。心ある書店が自ら注文するのでない限り、書店には並ばない、という事態が続いている。
憲法第21条で禁止されている、検閲に等しいことが行われているわけだが、そうしたことを語ることさえもが電波で封じられるという、さらなる検閲が行われたのだ。
言論の自由、民主主義が踏みにじられている。

番組は、『ラジオキャンパス』。納谷正基氏が代表を務める、仙台市に本社を置くキャンパスネットワークが制作する、高校生向けの進路情報番組である。東北の高校生向けに始められたが、熊本、新潟、沖縄でも放送されるようになった。

納谷正基氏は長く教育に携わり、ラジオで語るだけでなく、全国を回って高校生たちや保護者に向けて進路についての講演を行っている。番組の中でも、高校生からの相談に、全身で受けて答える力強い声には、聴いていて心が震わされる。

『ラジオキャンパス』の中に、「コラコラ・コラム」というコーナーがある。教育に限らず、納谷氏が高校生たちに伝えたいことを、自由に語る。
10月28日(地域によっては27日)放送の「コラコラ・コラム」で、『タブーなき原発事故調書』および、同じく取次から委託配本拒否となった昨年刊行の『東電・原発おっかけマップ』が取り上げられた。

納谷氏は両書の内容を、原発推進に関わった東電幹部、政治家、官僚、学者などの経歴、言動が詳しくあり、そして住所と地図が載っていると紹介。そのことによって、経産省と電力会社の癒着ぶりなどがよく分かると指摘している。

住所と地図があることについて、「賛否両論あるだろう」「えげつないと思う人もいるかもしれない」と断った上で、「そのやり方でしか見えてこないものがある」「ジャーナリズムとはなにかと考えた時に、当然ありうる方法」と納谷氏は語る。
それは「組織のヒダに逃げ込むな」「個人として責任を取れ」ということであり、「上司に言われたから、会社の仕事だから、といって責任を逃れようとするのは、卑怯、ずるい、みっともない」「プルトニウムは飲んでも大丈夫といった学者は、発言の責任を取って欲しい。逃げないでくれ」と、生き方の問題として納谷氏は訴えかける。

両書が取次から委託配本拒否の処置を取られたことについては、検閲に等しく「自由と民主主義を謳うこの国にあって、こういうことがあっていいんでしょうか」と納谷氏は疑問を投げかけている。

この「コラコラ・コラム」の内容を事前に知って、FM熊本は、そのままの内容では放送できないと納谷氏に告げた。それに納谷氏が納得しなかったために、番組そのものが打ちきりになった。FM熊本に追随した形のFM秋田とFM新潟では、「コラコラ・コラム」の部分が音楽に差し替えられた。

この経緯について、筆者がFM熊本に問い合わせると、制作サイドからの伝言として、「コメントすることはない」「取材拒否」とのこと。連絡を取り次いでくれた社員は、「よけいなことを言うな」と釘を刺されたそうだ。
納谷氏の言う「卑怯、ずるい、みっともない」姿勢そのものではないか。
高校生に伝えるべき魂を持たないFM熊本から、納谷氏が番組を引き上げたのも当然である。
FM熊本の姿勢は、放送局としてこの世に存在している価値があるのかどうかまで、問われるべきだろう。FM秋田とFM新潟も、同様である。

だがもちろん、絶望の中に希望もある。
FM仙台と青森、岩手、山形、琉球放送のAM各局では、「コラコラ・コラム」はそのままの内容で流れ、高校生たちに伝わった。

納谷氏は高校生に語りかける思いを、以下のように語っている。
「僕の日々の講演活動も、そしてラジオ番組も、その動機と目的は唯一つです。それは、一人でも多くの高校生諸君へ直接語り掛けることです。そして彼ら彼女らに、未来を託すことなんです。僕らが作ってしまったこの醜く情けない社会……。この国そのものを、彼らが少しでも修正してくれることを祈って……。
なので、昨年4月からの新年度以降、今日に至るまで、全ての高校においての生徒対象講話において、それらの話に加え、謝り続けてきています。
我々醜い大人が、無責任で出鱈目な大人たちが、若者の輝く未来を汚してしまったことをです。放射能汚染という、取り返しが尽かないかも知れない恐怖の負債を押し付けたことをです」

納谷氏は、広島の被爆二世であった奥様を、若くして亡くしておられる。
そのこともあって原子力について学び、自ら勉強会も開催されてきた。

筆者の親しい友人も被爆二世で、44歳の若さで白血病で亡くなった。納谷氏の気持ちは痛いほど分かる。
被曝の影響は、人によって千差万別だ。被曝しても、元気で長生きしている方がいるのも事実だろう。
だが、命は一人一人のものなのだ。命のことを、パーセンテージで語る者たちを許せない。
その思いで、『タブーなき原発事故調書 超A級戦犯完全リスト』は作られた。

今回、『タブーなき原発事故調書 超A級戦犯完全リスト』が書店に配本されるのは、事前に心ある書店からご注文いただいた冊数を指定配本するなど発行部数の一部(10数%程度)にしかなりません。できるだけ鹿砦社販売部(sales@rokusaisha.com)に直接ご注文をお願いいたします。直接お申し込みの方には早速発送します。送料サービス/代金後払いです(冒頭の表紙写真をクリックすることで、販売ページに飛ぶこともできます)。

(FY)

 

 

先週に引き続き、今週の『アサヒ芸能』(10月25日号)でも『タブーなき原発事故調書 超A級戦犯完全リスト 』が3ページに渡って紹介されている。

「事故の『A級戦犯26人』を断罪『原発発禁本』の戦慄内容を公開する!」のタイトルのもと、「いまだウソを垂れ流す御用学者は許せないッ」と大文字のキャッチコピーが躍る。

先週の東電幹部らに続き、今号では原発の安全神話を振りまいた御用学者に関する記述を紹介している。
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