11月21日大津地裁で滋賀医大病院の患者であった4名が、同病院泌尿器科の河内明宏、成田充弘両医師を相手取った「説明義務による損害賠償請求訴訟」の証人調べが行われ、この日は岡本圭生医師が証人として証言台に立った。

2週間ほど前に、大津地裁はこの日の法廷の傍聴を抽選とすることを、HPで発表していた。抽選で傍聴席に入ることのできる数は38名だ。患者会を中心の38を大きく上回る人数の方々が抽選を受けた。

岡本圭生医師

◆証言台に立った岡本圭生医師

10時30分、開廷の法廷では、この裁判で初めて記者席が設けられ、開廷前にはMBSによる法廷撮影も行われた。原告側は原告のお二人を含め弁護団など総数9名が着席、岡本圭生医師も着席し2分間の法廷撮影が行われた。法廷撮影の際、被告側代理人はなぜか入廷せず、不思議な印象を受けたが、その原因は閉廷後明らかになる。

ほぼ定刻通りに開廷が宣言され、原告、被告、補佐人(岡本医師)3者から書証の提出があり、弁論及び確認されたのち、岡本医師が宣誓を行い。証言に入った。原告側から岡本医師の質問を担当したのは、古山力弁護士だ。質問は岡本メソッドの特徴や、放射線医との連携の方法などを確認することからはじまり、標準的小線源治療と岡本メソッド違いを具体的な例を挙げながら明らかにしていった。

そして古山弁護士が「シード挿入のための穿刺(せんし)の技術について、被告らは『前立腺の“生検”(前立腺にがんがあるかないかを細胞を取り出し調べる検査)ができれば可能であると主張していますが、そうなんでしょうか」との質問を発すると、岡本医師は「私のやっている施術は、被膜ギリギリに穿刺をする、理想的な針の配置をするものです。ポジショニングからシードを置いていくのは、ミリ単位の精度を要する技術です。単純に前立腺の組織を針を刺して取ってくるのとはまったく異なる、まったく違うものです」と「生検ができれば小線源治療ができる」との被告側の認識の誤りを、明確に否定した。

質問はさらに滋賀医大内の「医療安全委員会」で岡本医師に対する合併症の指摘がなされたことに移ったが、この件については、偶然にも期日の4日前に「朝日新聞デジタル」が「患者の同意なくカルテを外部に示す 滋賀医大、外部の医師に」との記事で問題が取り上げられており、滋賀医大ぐるみで岡本医師を陥れるための工作が展開されたとして、滋賀医大の行為は個人情報保護法違反の疑いがあると指摘されていた。「説明義務による損害賠償請求訴訟」と直接の関係はないものの、滋賀医大に巣くう「法律軽視・無視」体質が露呈した事件であり、ここでも岡本医師への誹謗中傷を狙った攻撃であることから、「医療安全委員会」についての質問がなされたのであろう。

続いて、被告成田医師と岡本医師がどのような関係にあったのか、成田医師がひとりで小線源治療施術可能だったのか、被告が主張する「チーム医療」体制があったのかどうかを明らかにする質問が発せられた。

◆岡本医師の印鑑が勝手に使われ、偽造文書が被告側から裁判所に「証拠」提出されていた!

そしてこの日、最大の驚愕の事実が明らかになる。古山弁護士が「乙C10の3枚目を示します。これは泌尿器科講座の教授である河内教授と小線源講座特任教授である岡本先生の連名で作成され、成田准教授を小線源講座の兼務を学長に求めるものです。これは被告らから裁判所に証拠提出されています。証拠提出される前にこの書面の存在を知っていましたか」の問いに対し岡本医師は「知りません」と回答、古山弁護士が「見たこともありませんか」と確認すると「岡本医師は見たこともありません」と明確に答えた。さらに古山弁護士が「右上に岡本先生の名前がありますね。そのに「岡本」の印が押されたものですが。印を押しましたか」と聞くと岡本医師は「押したことはありません」と回答。

大変な事態が明らかになった。岡本医師の印鑑が勝手に利用され、文書が偽造され、こともあろうにその偽造文書が裁判所に被告側から「証拠」として裁判所に提出されていたのだ。つづく質疑で岡本医師は「この件については大津警察に刑事告発をして、現在捜査中だと伺っています」と事件は民事から刑事へと広がりを見せていることを明らかにした。

ついで、被告側代理人からの反対尋問に移ったが、取り立てて報告すべき内容はないのですべて割愛する。

偽造された有印公文書

岡本圭生医師(中央)

◆「被告側の反対尋問は枝葉末節…主尋問の根幹は全く崩せないで終わった」(井戸謙一弁護団長)

裁判終了後、弁護士会館で記者会見が行われた。

井戸謙一弁護団長が冒頭「今日は傍聴席を埋め尽くしていただきエールを送って頂きあがとうございました。皆さんもお分かりになったと思いますが、岡本先生は40分でぴったりと素晴らしい証言をして下しました。被告側の反対尋問は枝葉末節なところをちくちくと突くというもので主尋問の根幹はまったく崩せないで終わったと思います。争いの中心に至るものではありませんでした。次回以降は病院側の関係者の証人尋問になります。こちらが反対尋問をする立場になりますので、充分準備して臨みたいと思いますので引き続き支援をお願いいたします」と総括した。井戸弁護士は次の予定があるためにここで退出した。

◆「標準的小線源治療もやったことのない成田医師が岡本メソッドをできるのか…」(古山力弁護士)

引き続き尋問を担当した古山弁護士が期日の概略を報告した。

「本訴訟の中心はあくまでも原告の方々ですが、岡本先生がどのように関わっておられたか、そして岡本メッソドとはどのようなものであるか、特殊なものであるので陳述書には書かれていますが、口頭で説明頂くのが良いと判断しました。時系列ではなくピンポイントで質問をしました。重要なことを申し上げますと、被告らは岡本医師が指導医での成田医師の治療を計画していました。『本当にそんなことができるのですか』、ということをまず岡本先生から説明してもらいました。成田医師をやったことはない。これは争いのないことです。では標準的小線源治療もやったことのない成田医師が、本当に岡本メソッドをできるのかと。そもそも小線源治療とはどういうものなのか岡本メッソドとはどういうものなのかを説明していただき、未経験のものがやるとどれくらい危険なことかを主に話していただきました。その絡みで今回の原告の皆さんにはどんな不適切なことがあったのかを説明していただきました。後半は成田准教授について偽造文書が出ていたこと、成田准教授をどのように止めたかなどを聞きました」との報告があった。

◆「権力に任せて不正を横行させる連鎖は断ち切らないといけません」(岡本圭生医師)

次いで岡本医師の話があった。

「まず弁護団の先生にお礼を申し上げます。ようやくこの日を迎えられ私の仕事ができました。また今日もたくさんの患者さんたちが来ていただき、これが私にとっての心の支えです。わたしの願望は今も待っている前立腺がんの患者さんを一刻も早く今まで通りに助けられるようになりたい。どうしたらいいか皆さんの力やお知恵をお願いしたいと思います。今回の問題は故意の『説明義務違反』です。成田医師に経験があろうがなかろうが、最初から最後まで患者さんを騙さないといけないことをやろうとする。それがばれそうになったら隠蔽して逃げ切ろうと考えている。こんな国立大学病院を許してはならないということです。私と大学の闘いではもちろんないわけです。ここにおられる待機患者さんを含めてこれは一つの革命だと思います。医療を医学村=一部の権力者の私有物に留めるのか、患者・市民が取り戻すのかその闘いだと思います。人は死んでいませんが極めて事件性の高い問題なのでジャーナリストの方もしっかりと記事を書いていただいて、大いに『医療は誰のためにあるか』を真剣に議論していただきたいと思います。
 相手側の弁護士の質問には特にいうことはありません。最初の質問で『相手にならないな』と思いました。滋賀医大は一度リセットしなければ仕方ないでしょう。声を挙げようにも上げられない病院、学生。こんなファシズムのような大学は一度リセットしないとだめです。来週以降管理者たち、自分達のメンツを守るために、皆さんの命を犠牲にしようとした連中が出てきます。陳述書は配布した通りですが、今回分かったことは滋賀医科大学は司法の場にも常に、捏造したものを出してくることです。19日に朝日新聞が私のインシデントについて勝手に外部に出している。あるいは「事例報告委員会」なるものが、開かれてもいないのに議事録をでっちあげてインシデントをでっちあげている。あるいは、病院のホームページで私の小線源治療が、大したことはないと貶めるような捏造を掲載し、大阪高裁における仮処分の抗告にまで出している。
 極めつけがこれです。きょうも争点になりましたが『成田准教授を併任准教授にする』という文書。私が成田准教授は併任準教授にふさわしいとしている。これは裁判に初めて出てきて、こんなものがあったと知ったわけです。明かな有印文書偽造・行使です。この件は大津警察で告発が受理されています(告発人は岡本圭生医師、被告発人は河内明宏医師、告発日は2019年7月2日)。受理されているということは捜査中ということです。この点どうなっているのかをジャーナリストの方々は大津警察に是非追及していただきたいと思います。こういうものを司法の場に次々に出してくる。どうしようもないと思いますよ。これでは滋賀医科大学は公益法人として成り立たない。来週以降も管理者や脅されて寝返ってしまった放射線科の河野医師も出てきます。こんな風潮が漂っている限り、患者さんは安心して受診できないし、学生さんは安心して勉強できません。
 私に突きつけられた状況はヤクザの舎弟になるのか、正義を果たしたらお前は打ち首だということです。もし河内医師の要求通りに騙して、ここにおられる原告の方に対処していたら、私はとうに自死していますよ。そういうことを要求されたのが若手であれば逃れられません。権力に任せて不正を横行させる連鎖は断ち切らないといけません。市民と医学村の闘いとしてとらえる必要がある。ここで変わらなかったら変わらないと思いますのでよろしくお願いいたします」
と思いを一気に吐き出すように語った。

有印公文書を示す岡本圭生医師

有印公文書偽造。ここまでの暴走が過去例にあるのだろうか。記者からの質疑で「弁護団の皆さんには、過去公的機関が裁判に偽造有印文書出してきた経験があるか」の質問に対して、いずれの弁護士も「経験がない」と回答していた。

来週末の11月29日(金)には河野医師、塩田学長、松末院長の証人尋問が行われる。闇はどこまで暴かれるのだろうか。

さて冒頭法廷撮影の際に、被告側代理人の姿がなかったことを紹介した。これまでの期日では代理人は2人だったがこの日はこれまで見たことのない、人物が新たに加わり3名となっていた。わたしはてっきり新たな弁護士が追加で選任されたのであろうと考えていたが、裁判後「あれが成田医師ですよ」とある患者さんから伝えられた。被告成田医師はテレビに映るのを避けた。そうも想像できる。引き続きこの事件の展開は注目してゆく。

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滋賀医科大学附属病院問題 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=68

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

月刊『紙の爆弾』2019年12月号

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

いよいよ明日11月21日(木)、大津地裁で滋賀医大病院の患者さん4名が、滋賀医大病院泌尿器科の河内明宏、成田充弘両医師を相手取った「説明義務による損害賠償請求訴訟」の証人調べがはじまる。明日21日は証人として岡本圭生医師の尋問が10:30から12:00までの予定で行われ、次いで29日には13:10から河野直明医師(放射線科)、塩田浩平学長、松末吉隆病院長の尋問が順次行われる。

この裁判とは別であるが、岡本医師の治療を希望していた、患者さんと岡本医師が滋賀医大を相手取り、大津地裁に「病院による治療妨害禁止」を申し立てた「仮処分」では、岡本医師の主張を裁判所が全面的に認め、病院側の主張を退け「岡本医師の治療妨害をしないように」との内容の命令が下った。

 

黒藪哲哉氏の新刊『名医の追放─滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)

国立大学及びその病院が、院内の医師による「治療を妨害」することは、普通の感覚では理解しがたい。病院は患者の病や怪我を治してくれる場所だ、と一般人は感じているからだ。ところが、滋賀医大では仮処分申し立てを行わなければ、岡本医師の手術を続行することが、不可能(つまり患者は岡本医師の手術が受けられない)状態にあったのだ。病院側の主張は、荒唐無稽すぎるので、ここでは取り上げない(裁判所も病院側の主張を「却下」していることで、その主張の不合理性は証明された)。

ごく当たり前に、「病気を治してください」と病院を訪れる患者に、どうして滋賀医大病院は、ここまで意固地になって嫌がらせをつづけるのだろうか。詳細についてはこれまで、本通信でも紹介したきたし、昨日ご案内した黒藪哲哉氏著『名医の追放』(緑風出版)に詳しいので、是非お読みいただきたい。

いま、滋賀医大を舞台に、発生していることは、いずれも異例ずくめの事態ばかりだ。裁判所から「治療妨害禁止」を言い渡された、滋賀医大病院の塩田学長、松末病院長が揃って、「説明義務違反」裁判の証人として裁判所の証言台に立つ。これとて尋常な事態ではない。そして、滋賀医大の倫理欠如に憤りを感じ、岡本医師の治療継続を願う患者会のかたがたは下記のビラを、自主的に配布している。

「滋賀医科大学 10の大罪」ビラ(ガン宣告編)滋賀医科大学前立腺癌小線源治療患者会作成

「滋賀医科大学 10の大罪」ビラ(ジュネーブ宣言編)滋賀医科大学前立腺癌小線源治療患者会作成

◆「滋賀医大病院のように1年以上も患者の方々が病院の前で抗議と訴えを続ける様子に出くわしたのは、初めてです」

医療問題に詳しい、ベテランの法律関係者は下記の通り、滋賀医大に対して厳しい見方を示している。

「これまで、多くの医療事件や、係争を見てきましたが、病院と多数の患者さんがこのような形で、向き合う構図は公害訴訟を除いて、見たことがありません。医療事故などで、被害患者や遺族が数回病院の前で抗議を行ったり、厚労省で抗議を行ったことは、過去にもありましたが、滋賀医大病院のように1年以上も患者の方々が病院の前で抗議と訴えを続ける様子に出くわしたのは、初めてです。

法律的には仮処分で滋賀医大が負けている。これは非常に珍しいことです。正確に調べねばなりませんが、おそらく日本の司法史上、病院が治療内容について仮処分で負けたのは例がないのではないかと思います。滋賀医大で起こっていることは、それほどに例外的な事態と言えます。

仮に見解に違いがあったとしても、病院の主人公は医師や、病院関係者ではなく、あくまで患者なわけですから、滋賀医大の姿勢には疑問を感じますね。病院の考えもあるのでしょうが、患者さんに真摯に向き合っていないことだけで、倫理的に滋賀医大は大きな過ちを続けているといえます」

引き続きこの問題は取材を継続し、順次ご報告を続けてゆく。

期日の説明を行う井戸弁護団長。左が岡本医師(2019年8月22日撮影)

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月刊『紙の爆弾』2019年12月号

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

◆熱を帯びる「無私」の患者会活動

滋賀医大病院における岡本圭生医師の治療継続をもとめる、患者会の活動が熱を帯びてきている。滋賀医大病院正面では、毎週水曜日に患者会のメンバーがスタンディンで抗議の意思を示すだけではなく、最寄りのJR瀬田駅でも早朝のスタンディングが展開される。滋賀医大に近い住宅地やJR各駅の駅頭では、個人でチラシ配りを行うメンバーの姿があとを絶たない。

 

黒藪哲哉氏の新刊『名医の追放─滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)

緑風出版からは黒藪哲哉氏著『名医の追放』も出版された。鹿砦社の出版物ではないが、滋賀医大問題を理解していただくのに絶好の書籍であるので、ご一読を強くお勧めする。

滋賀医大に山積する問題は、大学の「治療妨害禁止」を求める、岡本医師と患者さんによる仮処分申し立てにおける「完全勝利」、草津駅前での2度にわたる大規模なデモなど、国立大学病院への問題指摘としては、異例の内容と規模、そして司法判断やマスコミ報道などが展開されてきた。

その総体は「異例」ではなく「異常事態」とも呼ぶべき様相を呈している。仮処分に完敗後も反省の態度をまったく示すことなく、引き続き仮処分決定内容を不服として、無意味な高等裁判所への抗告を行う滋賀医大の「暴走」と、「無私」であるにもかかわらず粘り強い活動を継続する患者会の対比が際立つ。

患者会への「無視」と岡本医師への誹謗中傷に余念がない滋賀医大。塩田浩平学長、松末吉隆病院長は、組織ぐるみで証拠捏造、印象操作、事実隠蔽そして岡本医師と「岡本メソッド」の誹謗中傷に血道をあげる。「税金から多額の補助金が支給されている、公的機関である国立大学、病院でこのような行為が継続的に行われることは許されるのか?」純粋な疑問が患者さんや地域、全国に広がるのも無理はなかろう。

◆名医を追い出す病院に憤っています──患者会の一人、神野さんの経験を聞く

 

京都新聞(11月15日付け)に掲載された『名医の追放』の広告

患者のひとり、神野幸洋さん(73)に電話でお話を伺った。

「こんなバカな話はないですね。名医を追い出す病院に憤っています。私は手術が終わりましたが、まだ先生の治療を待っている患者さんがいるわけでしょ。これだけ『宝物』のお医者さんを追放して大学が対面を保つ?考えられません。私は転移を心配し、なかば諦めていました。それを救って下さったのが岡本医師です。このことは強く言っておきたいです」

それまで穏やかだった語調が、にわかに怒気を含む語り口に変化した。お話を聞かせていただいた神野さんは、2016年5月までにPSA(Prostate Specific Antigen:前立腺特異抗原)の値が高く、地元の病院で2度にわたり、前立腺の細胞検査(生検)を受けた。1回目の検査ではがんは発見されなかったが、2度目の検査でがんが見つかり、PSAの値も90を超えていた。

治療方法を模索していた神野さんは、インターネットで「腺友クラブ」という前立腺癌患者の団体を見つけ、滋賀医大病院岡本圭生医師の講演が2017年10月9日、大阪で開かれることを知った。神野さんは長野県から大阪まで岡本医師の講演を聞きに出かけ「この人に治療してもらい」と感じた。しかし、はたして自分が手術を受けることができるかどうか。神野さんはたまたま講演会場で隣の席に座ったひとに疑問を持ちかけると「岡本先生はメールで問い合わせるとすぐに返事をくださるお医者さんです」と聞いた。その日のうちに帰宅した神野さんは、同日の夜、岡本医師にメールを送った。

早くも翌朝には岡本医師からメールの返信があった。「詳細がわからないと治療ができるかどうかわからないので、細かい情報を送ってください」岡本医師の素早い反応に神野さんはまず感激した。神野さんは同年10月26日には、滋賀医大に赴き岡本医師の診察を受けることになる。

「神野さん、あなたの癌は『高リスク』ではなく『超高リスク』です。でも治療の効果は期待できます。やってみましょう」

初診時に岡本医師は神野さんにそう告げた。次回診察日は12月20日に決まった。神野さんが長野県のご自宅から滋賀医大まで通う際には、名古屋まで長距離バスを利用し名古屋からは新幹線と東海道線を乗り継ぐ。片道5時間以上を要する道程だ。

ところが2017年12月20日に岡本医師のもとを訪れた神野さんは、思いもよらぬ事態に直面する。滋賀医大は岡本医師の追放を画策し、「診察予約停止」という患者を全く無視した暴挙に出ていた時期であったのだ。神野さんは診察室で岡本医師から一応事情の説明を受けることができたが、次回診察日の予約が取れない。病院の事務職員の説明も要領を得ない。後日滋賀医大病院から迷惑を詫びる手紙と2018年2月1日に診察予約が取れた旨の書面で連絡があった。2月1日の診察は病院側の「予約停止」がなければ不要な診察日となり、神野さんは片道5時間以上の通院を1度無駄にこなさなければならなかった。

神野さんのように、滋賀県や近隣府県だけではなく、岡本医師のもとには全国から患者さんが押し寄せている。その患者さんに筋の通った説明もできぬままに、滋賀医大当局は「予約停止」で大混乱を引き起こしたのだ。患者さんが被った交通費、宿泊費などの損害に対して、滋賀医大病院はなんら関心すら寄せていない。

病院の身勝手極まりない、姿勢が270名もの患者さんに迷惑(混乱だけではなく、多大な出費)をかけたのであるが、患者さんに対する非礼に対して、なんの補償も考えないのが、滋賀医大病院幹部の姿勢だった。

神野さんは紆余曲折を経て、2018年3月30日に「プレプラン」を受けた。小線源治療と外照射治療、ホルモン投与を併用した治療方法が決定した。翌4月17日に小線源手術を受けることができた。入院時には「自分で選んだ医師と治療法だから」と術前から満足感に満ちていた。入院翌日に手術が行われ、神野さんには順調に52個のシードが埋め込まれた。部分麻酔が施された手術中も安心して施術を受けることができ、手術終了時には岡本医師から「順調に行きました」と声をかけられた。

月曜日に入院、火曜日に手術、木曜日に退院を迎えた神野さんは、帰路ご伴侶とともに、彦根城にも立ち寄り天守閣にまで登った。手術後に血尿などの症状もまったくなく、むしろ術前よりも明らかに好転した体調に神野さんは驚きを覚えたという。

5月29日中頃、予定されていた通り外照射治療を受けるために再度入院する。入院中は病棟の親切なスタッフの対応が印象的であった(神野さんだけではなく、多くの患者さんは滋賀医大、とりわけ小線源手術で入院した際の、病棟看護師、看護師長などスタッフの親切な対応に、感謝と尊敬の念を語る)。術後の経過は理想的な数値を示している。最高時90を超えていたPSAが最新値では1.029まで下がっている。岡本医師からは「このような経過の場合、まず完治します」と告げられている。

神野さんは定年を待たずに職場を退職し、農業に従事しておられる。高校までを東京過ごした神野さんはかねてより生物学に興味があり、農業関係の大学に進学。卒業後長野県の役所に就職し農水畑でお仕事をされていた。役所に勤務時代より、品種改良の指導など現場に出向くことが多く農業への興味は、さらに増していた。不幸にも娘さんを早くに亡くされた神野さんは人生観が変わり、55歳で「これからは好きなことをしよう」と長年の希望であった農業へ踏み出す。最初は自宅からやや距離のある広大な農地を借り、ビニールハウスでのイチゴ栽培をはじめた。良いイチゴを作るためにビニールハウス内の設備は工夫を凝らし、自分で造った。神野さんの設備は土を使うのが特徴で、多くの農家が水などを利用する中で珍しいものだ。この設備と10年にわたる経験を経て、神野さんは1粒700円もする高級イチゴの栽培に成功する。全国でも有数の高級イチゴ栽培農家として有名になった。現在も毎日午前中はイチゴの世話に従事しておられる。

◆滋賀医大病院の暴走に「ストップ」をかけようとする裁判

 

厳しい表情で滋賀医大の不正を弾劾する岡本医師

岡本医師の治療を受けた1200名以上の前立腺癌患者さんには、それぞれの人生があり、生活も様々だろう。「前立腺癌で岡本圭生医師の治療を受けた」以外には共通項のない人たちばかりだ。その岡本医師による滋賀医大病院での手術は、いったん26日で打ち切られることになる。そして契約上岡本医師は12月31日をもって滋賀医大での身分を失う。

その時期と相まって、患者さん4名が滋賀医大病院泌尿器科の河内明宏、成田 充弘両医師を相手取った「説明義務による損害賠償請求訴訟」の証人調べがはじまる。11月21日(木)には先頭を切って、岡本医師が証人として大津地裁で証言する。裁判への注目は高く傍聴には抽選を経ねばならない。

いよいよ、「暴走を続ける滋賀医大」にストップをかけようとする、患者の皆さんが提起した裁判はヤマ場を迎える。

大津地裁へ向かう患者会の皆さん(2019年8月22日撮影)

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月刊『紙の爆弾』2019年12月号

鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

8月22日15時30分から大津地裁で、滋賀医大附属病院泌尿器科の河内明宏、成田充弘 両医師が23名の患者さんに施術の実績がないことを伝えずに手術を行おうとした「説明義務違反」の損害賠償を求める裁判の6回目の弁論が開かれた。また前日21日大津地裁から、原告弁護団に「22日に債務者(滋賀医大)が申し立てた『異議』についての審尋結果を報告する」との連絡がはいり、急遽22日の午前中に債権者(岡本圭生医師)の弁護団が大津地裁に結果を受け取りに行ったところ、債務者(滋賀医大)の主張はすべて退けられ、5月20日に下された「決定」が引き続き維持された。

この裁判報告も6回目の期日を迎え、毎回似たような記事構成になり、読者の皆さんにも退屈される恐れがあるので、今回は同日のイベントを時系列とは逆にご報告する。

16時から弁護士会館で記者会見が行われた。

期日の説明を行う井戸弁護団長

井戸弁護団長がこの日法廷でのやり取りと、仮処分に関する説明を行った。

「午前中に保全異議についての決定が出ましたので、これについてご報告いたします。記者の方のお手元には決定の写しがあると思います。主文だけ見るとちょっとややこしい。いったいどうなっているのか、と印象を受けられたかもしれません。主文の1に書いてあることは、『7月1日から7月17日までの取り消しを求める部分を却下する』。(大学が)異議の申し立てをしたのが7月18日だったので、17日までの妨害禁止、もう過ぎたことについては、『異議の申し立てができません』そういう話です。そして第2項の7月18日から11月26日までの妨害禁止を命ずる部分を認可する』これは5月20日の大津地裁決定が、相当であるからそれを認める。滋賀医大側の異議の申し立ては認めない。そういう内容の決定です。
 理由については基本的に5月20日の決定と同じ考えに立っています。(この審尋を)構成した裁判官は仮処分決定のときと違います。いずれも大津地裁民事部の裁判官ですが、合議体は違う裁判官が構成しています。したがって大津地裁の6人の裁判官が、この仮処分を認めたと受け取って頂いてよいと思います。
 異議段階で新たに出た滋賀医大の主張に対しては、判断を示しています。1つは『岡本医師の被保全権利が特定されていない』。妨害禁止と言われても、滋賀医大としていったい何をしていいのか。何をしてはいけないのかということがわからないから、裁判所が『どこまで許されて、どこから許されないかわからないような明確ではない決定をすべきではない』という趣旨の主張です。これについては『6月まで岡本医師がしていたことを、同じ体制でやれ』と言っているだけで、特定されていないということはない。特定されている。問題ないんだという判断です。医療ユニットの内実は何なのかですか、となるわけです。
 1つは理屈の問題です。それから保全の必要性について、『7月1日以降、小線源治療はできないにしても、いままでの治療実績をまとめたり、研究活動はできるわけであって、6月間治療ができないにしても、岡本医師の教育研究活動をする権利を、制限するものではない』というのが滋賀医大の主張でしたが、小線源講座の特任教授として、どういう治療・研究活動をするのかは、岡本医師の広範な裁量に委ねられているのであり、6カ月治療をさせないでもよい、という理由は成り立たない、と明確に述べています。
 岡本医師側の主張を全面的に認めた決定である、とご理解いただいていいと思います。これに対して滋賀医大側がどうしてくるかですが、保全抗告の申し立てをしてくるか、これで断念して受け入れるか、どちらかです。しかし、大津地裁の6人の裁判官が同じ判断をしたということ。しかも5月20日付けの決定を踏まえた主張も、ことごとく退けられているわけですから、滋賀医大としてはこれを受け入れ、保全抗告をしないで今後11月26日まで、期限は切られていますが、小線源治療の実施に協力すべきであると思います。
 現在毎月の第一火曜日の小線源治療の治療枠については、岡本医師にさせないという態度をとっていますが、それも撤回して11月26日までは全面的に岡本医師の小線源治療に協力する。そういう姿勢を取るべきだと改めて強調したいと思います。
 それから本日の訴訟口頭弁論の結果を御報告いたします。準備書面は今回被告側から準備書面6が出てきました。あまり大した内容はないのですが、前回被告が使っていた「責任教授」という概念、小線源講座における責任教授が河内医師である。岡本医師は特任教授であり河内医師が責任教授であると主張していたので、『責任教授とは、なにに基づく概念なのか』とこちらが説明を求めました。それに対して『規則上定められた概念ではない。診療科や講座について、運営の責任を負う教授を指す事実上の表現である』と、なんら根拠のある概念ではないと説明をしてきました。
 そして被告側から証人尋問、本人尋問の申請がありました。従前原告側からは原告4名の本人尋問、岡本医師の証人尋問、それから塩田学長と松末病院長の証人尋問の申請をしておりました。今回被告側は被告河内・成田医師の本人尋問の申請、証人としては塩田学長、松末病院長、それから放射線科の河野医師、トミオカ氏(事務職員)、オカダユウサク(以前泌尿器科の教授)の申請をしてきました。裁判所はトミオカ、オカダ証人については必要がないと却下されました。その結果尋問をするのは、原告4人と被告の河内・成田医師、補助参加人である岡本医師。それ以外に河野、塩田、松末。10人の尋問をすることになりました。
 次回期日は10月8日11時30分に決まりましたが、次々回と次々々回が尋問の期日で、きょう証人の予定者の都合がわからないということで、正式には決まりませんでした。11月、12月、一番遅くても1月14日までに2期日取って、10人の尋問をすることが決まりました。ずいぶん先になるなと印象を受けられた方もおられるかもしれませんが、裁判所の実情からすれば、かなり熱心に前向きに、早く尋問をしようと臨まれたと思います。西岡裁判長は来年3月に転勤が決まっているそうですが3月までに判決を書くと法廷に名言されました。この事件に積極的に臨まれていると評価していいのではないか、と思います」

次いで岡本医師が見解を述べた。

厳しい表情で滋賀医大の不正を弾劾する岡本医師

「私が本学に抱いている基本的な不信感は、なにを目的に異議申し立てをおこなったかです。裁判所の時間を使い、エネルギーを使ってなにを求めているのか全く理解できません。お手元の資料にありますが6月25日に『本院における泌尿器科の小線源手術を7月から開始します』と書いてあります。ところが(泌尿器科による小線源手術は)行われていないのです。非常に由々しき問題です。
 このコメントの中には、私が治療継続していることも、一切触れられていない。つまり泌尿器科が7月から小線源治療を行うことは、1年半前からずっと言ってきたことです。仮処分に関係なくやろうとしていたのですが、実際患者さんは一人もいない。何人かそこにトラップされた患者さんたちは、私のところへ逃げてきています。話を聞くと私が並行して手術をしていることを全く説明されていない。国立病院がやれもしない、患者さんのいない計画を、いまでも世間に向けてはやっていることになっているわけです。
 もう一つは、もし我々が仮処分を打たなければ、何が起こっていたか。7月も8月も9月も患者がいないわけですから、小線源治療手術室、スタッフなにも使われないわけです。ただ手術室を空室にして、病院としての役割を果たさずに、ここにおられる仮処分後に治療を受けられた方々に、治療をさせない。これが病院にとって合理的である、管理の権利であるなどと主張していますが、言語道断です。
 このようなことを認めていたら国立病院は成り立たない。泌尿器科に患者がいて、私の治療とバッティングして手術ができない、そういう主張であれば理解できますが、実際に患者はいない。この状況で1週目の治療枠を(泌尿器科が)とって、9月に至っても手術室を使わずに患者さんの治療機会を流す(失わせる)。このようなことを院長がやっていること自体を社会は許してはいけないと思います。まったく合理性がないどころか、反社会的行為としか言いようがない。
 それから私に対するバッシングをいろいろな形でやっています。資料にある6月11日、前回の口頭弁論の期日です。この日に病院長名で『前立腺がんについて』がホームページに掲載されました。これを見ると国立がんセンターのロゴが出てきます(※この部分説明が詳細に及ぶので割愛。なお、本問題については6月28日付、黒藪哲也氏の報告を参照されたい)。「岡本の治療に来なくても他へ行ってもいい」といいたいのかもしれませんが、このような情報操作のようなものを、平気で書き出してきて病院のHPにわざわざ書く。なにを狙っているかと言えば、明らかに岡本メソッドの誹謗中傷だと思います。問題は、このような情報は患者さんの判断を混乱させることです。やっていることが幼稚・稚拙でこのようなことを国立大学病院の院長が旗を振ってやっててもいいのだろうか。倫理も教育も成立しないのではないかと危惧します」

と、滋賀医大による行為の不適切性と、理不尽さに対する強い弾劾が語られた。

そのあとに仮処分申し立て人のお二人と裁判原告のお一人が、感想を述べた。

昨年8月1日にはじまった、本裁判も1年を経過した。私は提訴時の記者会見に出席して以来、本問題を追いかけている。当初はメディアの関心が高くはなかったが、MBSが1時間ものドキュメンタリー番組を放送したり、この日もMBS、ABC、関西テレビなどのほかに10社以上の新聞記者が詰めかけていた。メディアの関心は確実に高まっている。一方滋賀医大病院の厚顔無恥ぶりは度合いを増すばかりだ。どのメディアがどんな質問をぶつけようが、滋賀医大は内容のある回答を返さない。私も数度にわたり滋賀医大の広報担当に質問をしたが、回答にならない答えばかりであった。

岡本医師の治療継続を求める、多くの患者さんの行動は、仮処分の勝利という史上初の画期的勝利を得た。私見ではあるが、本訴訟も初回からすべてを傍聴してきた感触から、原告勝利は動かないように予想する。しかし岡本医師が執刀できるタイムリミットが迫ってきているのは冷厳な事実である。滋賀医大の狙いはズバリ、時間切れによる逃げ切りだ。その証拠にこの日の法廷で証人尋問の日程調整を裁判長が提案した際、被告弁護士は、早い期日の候補日には「証人の都合がわからないので」と回答しながら、遅い期日の候補日を耳にするや「その日は大丈夫です」と口にしていた。

裁判前の集会

開廷前には恒例となった、大津駅前での患者会の集会には蒸し暑い中、約80名の方々が集まり力強い声を上げた。55席しかない傍聴席には当然入りきることができない人数だが、これも毎回のことである。22日も法廷撮影があった。MBSが法廷撮影を行うのは、これが3回目である。証人尋問の期日は未定であるが、2期日で10人をこなすため、11月後半から1月中盤までの3期日の候補を持ち帰り、調整することとなった。証人尋問まで日があくが、いよいよこの裁判は大詰めを迎える。

歴史的な仮処分勝利を得ながら、岡本医師の治療継続をどのように実現するのか。非常に困難であるが、患者会の皆さんの真剣な取り組みと、無私の行為に対して社会はいずれ「賞賛」の評価を下し、現在の滋賀医大執行部や不正に加担した人物には「歴史が有罪を宣告するだろう」。その「歴史」は思いのほか早いかもしれない。
 

大津地裁へ向かう患者会の皆さん

◎患者会のURL https://siga-kanjakai.syousengen.net/
◎ネット署名へもご協力を! http://ur0.link/OngR

《関連過去記事カテゴリー》
滋賀医科大学附属病院問題 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=68

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

月刊『紙の爆弾』9月号「れいわ躍進」で始まった“次の展開”

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

前立腺がんの放射線治療打ち切りを巡り、滋賀医科大学附属病院の医師や治療を望む患者らと、病院側との間で持ち上がった対立に、関係者の証言から迫るドキュメンタリー「映像’19 閉じた病棟~大学病院で何が起きたのか」が6月30日深夜(7月1日午前)0時50分、MBS(大阪市)で放送される。

◎MBSのドキュメンタリー「閉じた病棟~大学病院で何が起きたのか~」
https://www.mbs.jp/eizou/backno/190630.shtml

 

MBSのドキュメンタリー「映像'19 閉じた病棟~大学病院で何が起きたのか」6月30日深夜(7月1日午前)0時50分放送

滋賀医大病院をめぐる問題については、本通信でも継続的に取り上げてきたが、いよいよ在阪キー局であるMBSが1時間のドキュメンタリーを今夜放送する。

MBSはTBS系の大阪にある放送局だ。歴史的にTBSへの対抗心が強く、これまでも優れた報道番組を多数生み出してきている。滋賀医大病院問題とは関係ないが、わたしたちが子供のころから現在まで続く「仮面ライダー」シリーズをテレビ化したのも、MBSだった。

「映像’19 閉じた病棟~大学病院で何が起きたのか」のディレクター、橋本佐与子氏が、取材班とともに問題の現場へ登場されたのは、今年の早い時期だったと思う。滋賀医大病院問題については、わたしが関わる前から、朝日新聞が継続的に報じていたが、テレビメディアで継続的な取材・報道を続ける局はなかなか出てこなかった。患者会の皆さんは昨年の秋以降、短期間で2万8千筆の署名を集めた。「岡本医師の治療継続」を求める声は、厚労省、文科省、国会議員へ届けられた。その場面にも橋本ディレクターはじめ、MBS取材陣の姿があった。

しかし、まさか1時間もの長編ドキュメンタリーを放送することになろうとは、わたしも考えなかった。大手メディアとは異なり、小さな影響力しか持たないわたしのようなフリーライターにとっても、橋本ディレクターとMBSのアクションは、うれしい誤算だった。この問題を取材し、話すと「ああよくある医学界の話ね」と反応する方が少なくない。正直な感想なのであろうが、こういう問題が「よくある」ことであってはならない、とわたしは痛切に感じる。

たとえば、現在滋賀医大のHP「病院からのお知らせ」には、6月11日に「前立腺がん治療に関する情報提供」が掲載されているが、その内容は国立がん研究センター発表の報告を、明らかに改ざんしたものだ(この問題については6月28日、本通信で【[特別寄稿]滋賀医科大病院が国立がんセンターのプレスリリースを改ざん──岡本メソッドに対する印象操作か?】が黒藪哲哉氏により報告されている)。

こういう明らかな改ざんが、病院長の名前で堂々と行われて問題はないのか?
黒藪氏の報告の中に映像が紹介されている。この映像(https://youtu.be/w3rPzAk9G3E)をぜひご覧いただきたい。

質問をする女性に対して事務職員は、明確に「この資料は国立がん研究センターが作成したものです」と語っている(映像では質問者と回答者の名前も確認することができる。不審に思われる読者諸氏は滋賀医大病院の当該職員に直接確認されたい)。

 

滋賀医大小線源患者会HP

さらに、6月25日にも「病院からのお知らせ」に、一部明らかな虚偽が掲載された。

続発する問題の発生源、滋賀医大病院を橋本ディレクターはじめMBS取材陣はどのように描き出すのか? 視聴可能区域にお住まいの方は、是非ご覧いただきたい。拙宅にはテレビがないので、わたしは既に知人のお宅にお邪魔する準備を整えた。なお、滋賀医大病院にかかわる問題の総体は、以下のサイトに詳しく掲載されている。引き続き正当な「解決」を見届けるまで、この問題は追及したい。

◎滋賀医大小線源患者会HP https://siga-kanjakai.syousengen.net/

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兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

創業50周年!タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』7月号

〈原発なき社会〉を目指して 創刊5周年『NO NUKES voice』20号 【総力特集】福島原発訴訟 新たな闘いへ

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

滋賀医科大学医学部附属病院が、国立がん研究センターが公表したプレスリリースを改ざんして、6月11日に、同病院のウェブサイトに掲載していたことが分かった。

この資料は、国立がん研究センターが公表した時点では、1ページに満たない短い資料だった。ところが滋賀医科大は、これに約2ページ分の情報を複数の資料から抜粋して再構成し、3ページに編集した。そして、これら全部が国立がん研究センターによるプレスリリースであるかのように装って掲載したのである。

何が目的でこのような大がかりな改ざん行為に及んだのだろうか。既報したように、滋賀医科大病院は、岡本圭生医師による高度な小線源治療(前立腺癌が対象)を年内で中止して、岡本医師を病院から追放しようとしている。それを正当化するためには岡本メソッドが、他の癌治療と比較して、継続するだけのメリットがないという世論を形成することが必要になる。そこで権威のある国立がん研究センターのロゴが入ったプレスリリースを改ざんして、自分たちの目的に沿った内容に改ざんしたである。

具体的な手口は、次のYouTubeで紹介している。滋賀医科大病院に問い合わせた際の音声も、そのまま収録した。


◎[参考動画]滋賀医科大学のフェイク(安江博 2019/6/26公開)
https://www.youtube.com/watch?v=w3rPzAk9G3E

◆がんセンターの資料は1ページ目だけ

フリーランス記者の田所敏夫さんらが、この改ざんについて、国立がん研究センターへ問い合わせたところ、YouTubeで示されている部分のみが同センターが発表した部分であることが判明した。

国立がん研究センターは、元々のプレスリリースと改ざん部分の区別について、田所さんに対し、次のように文書で回答している。

「お問い合わせにつきまして、担当部署に確認いたしました。
 当センターの情報は、1ページ目の当センターロゴから前立腺がんの表まで、そして、1ページ目の用語の説明のみでございます。以上、ご報告いたします。」

つまり約2ページ分を滋賀医科大病院が我田引水に「編集」して、元々のプレスリリースを含む3ページの資料に編集し、あたかもそれが国立がん研究センターが発表したものであるかのように装って、病院のウェブサイトに掲載したのである。

改ざんされた資料は次のURLでアクセスできる。オリジナル(国立がんセンターのプレスリリース)と比較してほしい。

◎[参考資料]改ざんされたプレスリリース
https://www.shiga-med.ac.jp/hospital/cms/file.php?action_disp&id=1156&fid=2013

 

改ざんされたプレスリリース

◆何が加筆・編集されたのか?
 
滋賀医科大学病院が改ざん・編集により印象操作を企てたのは、前立腺癌に対する4つの治療法における5年後の非再発率である。それによると次のような成績になっている。

・ロボット支援前立腺全摘除術(弘前大学):97.6%
・外照射放射線治療(群馬大):97.6%
・小線源治療(滋賀医大):95.2%
・重粒子線(放射線医学総合研究所病院):不明
・小線源治療(京都府立医大):94.9%

これらのデータを見る限りでは、滋賀医科大学の小線源治療(岡本メソッド)にはまったく優位性がないことになる。それどころかロボット支援前立腺全摘除術か外照射放射線治療を受けた方が、岡本メソッドを受けるよりも5年後の非再発率が高いことになる。当然、岡本メソッドの中止と岡本医師の追放はやむを得ないという世論が形成されかねない。おそらく滋賀医科大の塩田浩平学長は、それが目的でこのような誤解を与える記述の掲載を許可したのである。

◆データのトリック

これらのデータには、専門家でなければ見破れない巧なトリックが隠されている。端的に言えば、基準が異なるものを比較しているのだ。比較するのであれば、比較の基準が同じでなければならない。滋賀医科大病院は、その基本的な学術上のルールすらも無視しているのだ。

周知のように前立腺癌の検診は、血液を調べるPSA検査により行われる。PSAの数値が4.0 ng/mLを超えると前立腺癌の疑いがあり、精密検査で癌を発症しているかどうかを確定する。

意外に知られていないが、実はこのPSA検査は、前立腺癌の治療を受けた後の経過観察でも行われる。

施術方法のいかんを問わず、治療を受けた患者のPSA値は下降線をたどり、横ばいになるのだが、再発すると再上昇に転じる。この原理を応用して、医師は、PAS値の変化を観察することで、癌が再発したかたどうかを判断するのである。
 
この点を前提にしたうえで、データの改ざんについて説明する前に、前立腺癌の治療法についてもあらかじめ言及しておかなくてはならない。前立腺癌の治療では、ホルモン療法と呼ばれるホルモンを投与する療法により、施術前に癌を委縮させる方法が適用されることがままある。癌を小さくしたうえで、施術するのだ。

ホルモン治療が効力を発揮した場合、PSA値は下降する。そしてホルモン治療が終わった後も、1年から2年ぐらいの期間はその効用が維持されるので、PSAは上昇しない。

滋賀医科大が提示した他の医療機関のデータは、ホルモン治療の効用が持続している期間を含めた非再発率なのである。

とりわけ、弘前大学のデータにいたっては、論文の中でも、経過観察の期間が30カ月であることを明記している。それにもかかわらず都合のよいデータだけを提示して、あたかもロボット支援前立腺全摘除術と岡本メッソドでは、大きな違いがないような印象操作を行っているのである。

◎患者会のURL https://siga-kanjakai.syousengen.net/
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◎[関連記事]黒薮哲哉[特別寄稿]小線源治療患者会が国会議員と厚生労働省へ嘆願、2万8,189筆の命の署名を提出(2019年3月15日付けデジタル鹿砦社通信)

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
フリーランスライター。メディア黒書(MEDIA KOKUSYO)の主宰者。「押し紙」問題、電磁波問題などを取材している。

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以下は6月17日正午現在、滋賀医大附属病院のホームページである。
http://www.shiga-med.ac.jp/hospital/index.html

「病院からのお知らせ」の冒頭に6月11日付けで、「前立腺がん治療に関する情報提供」が掲載された。この日は通称「モルモット事件」の第5回口頭弁論が行われた日である。

滋賀医大附属病院のホームページより

「前立腺がん治療に関する情報提供」をクリックすると、

滋賀医大附属病院のホームページより

と、病院長名での文章が現れ、「詳しくはこちらをご覧ください」の「こちら」をクリックすると、

滋賀医大附属病院のホームページより

滋賀医大附属病院のホームページより

滋賀医大附属病院のホームページより

が表示される。冒頭に、

滋賀医大附属病院のホームページより

と、注意書きのようなものがあるが、これだけではどの部分が「国立がん研究センター」による発表であるのか、また引用はどの箇所かが判然としない。そこで17日国立がんセンターの広報担当に「このような記載が滋賀医大病院のHPにあるが、国立がんセンターのHPを探しても、一部を除いて同じ記述を見つけることができない。このような発表はあったのでしょうか」と質問をした。17日夕刻同センターから、

《お問い合わせにつきまして、担当部署に確認いたしました。
当センターの情報は、1ページ目の当センターロゴから前立腺がんの表まで、
そして、1ページ目の用語の説明のみでございます。以上、ご報告いたします。》

との回答が返ってきた。え!この文章には1/3、2/3、3/3とページが付されている。「普通の感覚」で読めば、一連の文章と理解しても無理はなかろう。しかも各病院ごとの治療成績なども「国立がん研究センター」が作成した図表だと思う人が多いのではないか。実際に複数の現職医師(脳外科医、診療所勤務医)に読んでもらったところ二人とも「がん研究センター、不思議な資料を作るね」と、やはり誤解していた。現職の医師でも誤解するのだから、一般人はなおのことであろう。

この文章掲示が、ただちに法的な問題だ、というつもりはまったくないが、少なくともまぎらわしく、誤解を与えやすい体裁であることは間違いないだろう。それにしても、どうして滋賀医大病院院長松末氏は、専門が整形外科にもかかわらず、「前立腺がん」にこのようにこだわるのだろうか。同病院には多数の診察科があるのに、「病院からのお知らせ」10件のうち、4件が岡本医師関係の記載とは、不自然ではないだろうか。読者諸氏にも是非ご覧いただきたい。わたしの感覚がおかしいのだろうか? 

◎患者会のURL https://siga-kanjakai.syousengen.net/
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田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

6月11日13時30分から大津地裁で、滋賀医大附属病院泌尿器科の河内、成田両医師が23名の患者さんに施術の実績がないことを伝えずに手術を行おうとした「説明義務違反」の損害賠償を求める裁判の5回目の弁論が開かれた。

滋賀医大病院をめぐっては、仮処分や裁判が立て続けに起こされている。有印私文書偽造の刑事告訴も大津市警察に行われ(告訴状は未受理)、患者会の皆さんが大津地裁に集まる頻度も上がる一方だ。

裁判期日には、毎回開廷前に大津駅前で集会が行われる。この日は北海道からの参加された患者さんの姿もあった。

学長・病院長・泌尿器科河内教授を批判するプラカード

患者会代表幹事の恵さん

集会では患者会代表幹事の恵さんが、
「5月20日に待機患者の治療を妨害するなとの、仮処分命令が下りましたが、どうしようもない言いがかりをつけて病院は邪魔しようと、異議申し立てをしました。そういう輩なのです。我々は一生懸命闘いますが、あの輩には『情けない人種』だとの気持ちも考慮に入れて。力ずくでは黙り込んだ狸のようなものですので、我々の気持ちが届いているのかいないのかわかりません。熱い気持ちは大事ですが、司法、マスコミの協力を得ながら頭を使ってこれからの闘いに望んでいただきたいと思います」
と、滋賀医大幹部の底抜けのどうしようもなさを指摘し、闘いの方針を提示した。

ついで、代表幹事の小山さんがアピールを行った。小山さんは愛知県在住にもかかわらず、毎週のように滋賀医大前のスタンディングに参加されている。実直なお人柄で社会運動などとは無縁であった方とは思われない日常を昨年以来送っておられる。

毎週愛知県から滋賀医大抗議に訪れる小山さんの訴え

「私たちは滋賀医大病院で前立腺がんの小線源治療を受けた患者とその家族です。滋賀医大病院には高リスクの前立腺がんでも95%以上完治させることができる岡本圭生医師がいます。この岡本医師の卓越した小線源を求めて北海道から沖縄まで、全国から多くの患者が訪れています。ところが滋賀医大病院は今年いっぱいで岡本医師を病院から追い出そうとしています。それはいったいなぜでしょうか。

4年ほど前滋賀医大病院泌尿器科の医師が未経験であるにもかかわらず、それを患者に説明しないまま小線源治療をやろうと計画しました。岡本医師はその危険性を指摘し治療を阻止して23名の患者を救ったのです。

しかしこれをきっかけに滋賀医大病院は、泌尿器科、病院長、学長がそろって岡本医師の排除に向けて動き始めました。200名を超える患者の治療予約を一時的に停止させたり、岡本医師の講座を閉鎖するために学内の規則を変更するなど、患者を無視した嫌がらせのような行動をとってきました。これらは、すべて泌尿器科が行った不当医療行為を、組織ぐるみで隠ぺいするための行動です。

また滋賀医大病院は1年半前、岡本医師による小線源治療は、今年の6月末までとし、その後今年の12月末で岡本医師の治療を終了する、と一方的に宣言しました。しかし、先月20日大津地裁の仮処分決定により、今年の11月まで今まで通り岡本医師の治療を継続することが認められました。

ところが病院側はこの決定を守らず、『泌尿器科も小線源治療を行う』として岡本医師の小線源治療枠を一部横取りして、治療妨害を続けています。そして仮処分決定の取り消しを求める異議申し立てを行いました。新聞報道によると申し立ての理由は、『岡本医師の小線源治療が行われると、治療体制の見直しが必要になること、多くの患者が岡本医師の治療を希望して殺到する可能性が高いこと』を挙げているそうです。

全く信じられないような理由です。多くの患者が希望して、裁判所も継続を認めた治療を行うためですから、治療体制の見直しくらい、なぜできないのか。全く理解できません。やる気がないとしか思えません。2つ目の理由『多くの患者が殺到するから治療継続をやめろ』などということは、まともな病院が言うことでしょうか? 患者の命など全く眼中にないということを示しています。患者の命よりも、内部告発をした岡本医師を追い出して自分たちの地位を守ることが大事なんです。そんな泌尿器科の医師、病院長、学長には即刻退場してもらわねばなりません! 

本日泌尿器科の不当医療により被害を受けた患者さんが泌尿器科の医師を相手に起こした裁判の5回目の口頭弁論が行われます。今後、学長、病院長、泌尿器科の医師を法廷に呼び出して証人尋問が行われます。裁判で不当医療の事実を明らかにして、滋賀医大病院が真に患者ファーストの病院に生まれ変わるよう、闘っていきます。

私たちは抜群の成績を誇る、岡本医師の治療を将来の前立腺がん患者にも受けてほしい、と願っています。そのために来年以降も、岡本医師の治療が滋賀医大病院で継続されることを求めています。市民の皆さん、どうかこの事件に注目してください。多くのがん患者の命綱が繋がるよう、ご支援をお願いいたします」

小山さんが事件の発端から今日の状態までをわかりやすく、訴えた。

大津地裁(西岡繁泰靖裁判長)は5月20日、岡本医師の申立てを全面的に認める決定を下した。笑顔で完全勝利のメッセージを掲げる鳥居さん(左)と宮内さん(右)

次いで5月20日の仮処分で治療の機会を獲得した、鳥居さんが「仮処分」勝利のうれしさと、今後の闘いへの決意を語った。集会前に鳥居さんにお話を伺ったら「手術日が決まりました!」と本当に明るい表情で笑顔を見せてくださった。やはり20日に勝利を勝ち取った宮内さんも、鳥居さんと同じ日に手術が決まったそうだ。宮内さんも喜びと、病院側が仮処分に異議申し立てを行ったことへの憤りを表明した。

次いで患者会代表幹事の宮野さんが、力強い檄を飛ばし集会の「我々は最後まで頑張るぞ!」と気勢を上げた。

我々は最後まで頑張るぞ!

この日も法廷内撮影があった。満席になった傍聴席と原告被告、裁判官の様子が2分間毎日放送により撮影されたのち、開廷が宣言された。裁判では被告が準備書面5を、補助参考人(岡本医師)が準備書面2を、原告が被告準備書面5への反論を弁論(書類を確認)した。その後被告代理人が成田医師が2例目に診察した患者のカルテの送付嘱託(裁判所からの依頼のよるカルテ開示)を裁判官に申し出た。原告弁護団長の井戸謙一弁護士は「必要性を認めない」と却下を求めたが、合議体(裁判官)は送付嘱託を認めた。

被告弁護人は「まだ出ていない証拠のメールがあれば出してほしい」と原告並びに補助参考人代理人に要請し、西岡裁判官も「弾劾証拠以外の証拠は出しておくように」と原告・補助参考人代理人に要請した。わたしは西岡裁判官のこの物言いは、やや必要性の域を超えるものではないかと素人ながらに感じた。これで実質的な弁論終結となったが、次回期日も書証のやりとりとなり、被告側が遅延戦術に出ているのではないかとの印象を受けた。裁判所にも夏休みがあるため、休み前の期日で調節が試みられたが都合がつかず、次回は8月22日、15:00からと決定した。

ここで閉廷となったが、裁判官が法廷を後にしたとき、傍聴席前列から声が上がった。「被告代理人は送付嘱託なんかしなくても『不正閲覧』をしているのであるから、必要ないんじゃないですか! 職員も泌尿器科の医者も不正閲覧しているんですから、裁判所に依頼する必要ないんじゃないですか! どこに必要があるんでしょうね。素人でも不思議ですね」。被告代理人はこの発言をした男性を睨みつけながら法廷を後にしていった。

井戸弁護士

14時からは社会教育会館に場所を移し、記者会見が始まった。井戸謙一弁護団長がこの日法廷で行われた内容の解説を行った。

「今日は被告側から準備書面5、岡本医師から準備書面2それから原告から準備書面5が陳述されました。その内容をご説明いたします。被告の準備書面5には大きく言うと3つの点が書かれています。準備書面4で被告は23名の方々に対する治療は、岡本医師を指導医とする『医療ユニット』によって行われようとしていた。だから成田医師が未経験であることを説明する義務はなかった、と主張していました。法廷で我々は『医療ユニット』とはなんなのかと。そんな言葉は今までに聞いたことがないし、『医療ユニット』について説明してくれと求めました。それに対する回答がまず書いてあります「医療ユニットというのは被告らの代理人である弁護士が作った言葉だ」というのが結論です。大学内部でそのような言葉が使われていたわけではありません、ということです。

では『医療ユニット』の内実は何なのかですか、となるわけです。1つは理屈の問題です。小線源治療学講座は泌尿器科から独立した存在ではなく、あくまで泌尿器科の一部なんだと。寄付講座の治療は泌尿器科の治療として行われたし、カルテも泌尿器科のカルテとして管理されていたと。寄付講座で行われていたことはすべて泌尿器科の一部なんだ、ということが書かれています。ここでなぜこのようなことをいう必要があるのかといえば、結局泌尿器科の科長は河内医師ですから、河内医師の指示・命令に従って小線源治療も行われる必要がある。そういうことを言いたいのだと思います。

もう一つは、河内教授が本件寄付講座の『責任教授』であるという概念を持ち出しています。辞令上河内教授は併任教授です。『責任教授』などという言葉は書いてないし、私どもが調べた範囲では滋賀医大において『責任教授』という概念は職制上用いられていないと思いますが、『責任教授』であると。河内教授が『責任教授』であると、岡本医師は特任教授ですから、趣旨としては寄付講座内部においても岡本医師よりも上だということを言いたいのだと思います。

この二つを言ったうえで寄付講座が始まる直前に、岡本医師を希望してきた患者には岡本医師が施術するわけですけれども、そうではない患者、病院内で診断しか結果、小線源治療が適当だとなった患者については、成田医師が担当することにして、それを岡本医師が指導するということにしたと。そのことを岡本医師に指示したら、岡本医師は異を唱えることはなかったということだけです。『医療ユニット』の実態はこれだけです。

これについて岡本医師は「確かにそのような話はあったけれども、それなら自分自身に直接診察させてくれ。自分が診察しないのであれば責任は持てないからそういうことはできない」と言ったと述べておられます。そのことには一切ふれていなくて、河内医師が指示をして、岡本医師は異を唱えることはなかったのだから、そういう体制でやることになったのだと。いうだけのことであって、そのあと現実に多くの患者の治療について成田医師と岡本医師の間にどういうやり取りがったのか。『医療ユニット』の実態があったのか、なかったのかについては一切触れていません。これが一つです。

二つ目は成田医師は二人の患者さんのプレプランをしています。一人目の患者さんの時に自分は『未経験だとは説明しなかった』が、二人目の時に『説明をした』と主張しています。カルテには説明したと書かれている。それは後から後から書き加えられたもので、虚偽記載であると岡本医師は主張しておられます。その点についてプレプラン時に伝えたから、そのあとの原告の方々の治療が予定されていたわけですが、『こういうことにならなければちゃんと伝えていたはずである』ということが2点目。

3点目は法律上の問題ですが、万が一被告らに責任があるとしても、被告らは責任を負わない。免責されると、そういう主張をしています。これは国家賠償法という法律があります。普通の人が不法行為をして、人に損害を与えたときは、その損害を賠償する責任があります。会社などであればその使用者にも責任があります(民法715条)。行為者は709条によって責任があり、会社も個人も責任を負担するわけです。ところが公務員が公務を執行するにつき、不法行為を犯したときには国、公共団体が責任を負うんですね。そのときに公務員個人も責任を負うのかということについては、学者の間で議論があります。日本の裁判所は公務員は責任を負わないという考え方に立っています。

問題は国立大学法人で医療事故があった場合に、民法が適用されるのか、国賠法が適用されるのかということです。もし国賠法が適用されるのであれば、国ないし公共団体が責任を負うけれども、医療過誤を犯した医師個人は責任を負わないわけです。

民法が適用されるのであれば、両方(病院・医師)とも責任を負うわけです。今回国賠法が適用される事案であるから、原告の主張通りの事実があったとしても、被告である河内氏、成田氏個人は責任を負わないという主張をしていました。国立大学附属病院における医療過誤事故はたくさんあり裁判例もいくつもあります。両方適用している裁判例もありますが、だいたい民法を適用するのが普通だといわれています。だから民法が適用されれば当然個人も責任を負うとなります。被告は例外的な裁判例を引いてきて、「個人は責任を負わない」そういう主張をしてきました。

それに対して補助参加人と原告からそれぞれ準備書面を出したわけです。原告の準備書面は『医療ユニット』が形成されたと言いながら、具体的な中身は何もないのではないか、ということと『責任教授』とはどのような概念なのか明らかにしろ。それから二人目のプレプランをした患者のカルテは虚偽記載であるということ。本件のようなケースは国賠法ではなく民法が適用されるべきであること。そういう内容の準備書面を提出して陳述したところです。補助参加人の主張については竹下先生どうぞ(略)

著者注:竹下弁護士からは小線源講座は泌尿器科から独立していたこと。小線源講座設置の設置目的を根拠とした被告への反論、『責任教授』についての見解。発足当時は学長も小線源講座の独立を認めていたことなどが解説された)

準備書面の内容は以上の通りですね。そ例外にきょう行われたこととして、被告から送付嘱託の申し出がありました。1例目、2例目のプレプランをした患者ですね。2例目の方には説明をしたということが書かれている。それが虚偽であるということを参加人から証拠として提出してあるのですが、そのカルテの全体について送付嘱託をしてきました。

1例目、2例目の方は本件の原告ではないのでこれらの方々の症状は本件とは関係がないと思うし、いったい何を立証したいのかよくわからないので「必要性がない」と意見をだしましたけど、裁判所は採用された。次回期日までに出てくるだろうと思います。今後の予定については被告側は次回までにに人証の申請をするということでした。被告両名だけではなくて、学長、院長のほかそれ以外の大学の関係者。それから医学的評価についての証人も検討しているということですので、多数の尋問申請があるのかもしれません。裁判所はベストエビデンスに反するのではないかということで、ちょっと牽制をしていましたけど次回までに明らかになると思います。次回には主張のやり取りが終わって人証が決まって次々回以降本人尋問、証人尋問に入るという運びになるものと思います。以上です」

続いてこの問題を積極的に取材している毎日放送の橋本記者から、弾劾証拠や、この日の法廷の感想、仮処分決定が本訴訟に与える影響についての質問があった。ABCの浜田記者は原告大河内さんに感想を求めた。

滋賀医大への危機感を語る原告の大河内さん

大河内さんは、「長年、滋賀医大にお世話になった立場からすると、非常に信頼しておりました。今回のこの件で『こんなことがあるんだ』と。滋賀医大は医師を育てる大学でしょ。それが(患者を)医師が実験台というかモルモットという扱いをしていることに、非常に憤りを覚えました。私も危うく命を落とすところだったかなと思っておりました。こういうことがあっては今後よくないということで、訴訟に踏み切ったわけですけれども、そのあとの対応がもっと酷くなっていますね。患者の皆さんの命をを見捨てるような行動に出ている。姿勢を正してくれればいいかなと、いうつもりで始めたのですが、医大の3人組というか4人組というか、そういう人たちが変な方向に舵を切っていって、命を粗末にするようなふるまいをしている。こちらのほうが非常に危険を感じ、危機感を持っています。是非とも滋賀医大が医の倫理を取り戻せるように、我々も頑張りたいし、皆さんも一緒に頑張って頂きたいと思っております」

大河内さんのコメントの後、会場から拍手が沸き上がった。

滋賀医大に関する、訴訟や仮処分で大津地裁に足を向けるのは何回目になるだろうか。大河内さんが指摘されたように、一部の人間により大学病院全体がますますダッチロールの度合いを増しているように感じられて仕方がない。何度も強調するが、自分の生活を犠牲にしても患者に寄り添う医師や医療関係者が大多数の滋賀医大附属病院にとって、3人組もしくは4人組は、文字通り悪の権化である。

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▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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6月1日、JR草津駅東口の広場を、「岡本圭生医師による前立腺がん小線源治療継続」を求める人々が埋め尽くした。患者会による集会とデモが行われ約150名が参加した。 12時30分から始まった集会では、「滋賀医大小線源講座患者会」の代表幹事の宮野さんが口火を切った。

集会に集まった患者会メンバー

集会・デモの意義を説明する宮野さん

「市民の皆さん、お騒がせしております。私たちは滋賀医科大学附属病院で、前立腺がんの小線源治療を受けた患者と、まだ、治療の予定が立っていない患者と、その家族です。滋賀医科大学附属病院には高リスクの前立腺がんでも95%以上、再発させない治療ができる、岡本圭生医師がおられます。
 ところが、滋賀医附属病院は岡本医師の治療を7月で終わり、12月には病院から追い出そうとしました。まったく患者にはわからない。まさに『白い巨塔』です。岡本医師の治療を望む患者は、裁判所から仮処分決定を頂き、7月からの手術は認められたのですが、病院は12月には『何が何でも岡本医師を追い出そう』と妨害をしてきております。
 しかし、私たちは負けません! 岡本医師に命を救ってほしいと願う患者が、今日もこのデモ行進に全国各地から参加しております。私たちは救われる命が、見捨てられようとする。この現実を断じて許すことができません。市民の皆さん、どうか、岡本医師の小線源治療が12月以降も滋賀医科大学附属病院で継続されますよう、ご支援のほど、よろしくお願い申し上げます」

と力強く集会とデモの趣旨を訴えた。       

鳥居さん

引き続き「仮処分勝利」によって岡本医師の治療の機会を勝ち取った鳥居さんがマイクを握った。

「私は昨年5月に人間ドックを受けた際に、数値に異常が指摘され、再検査の結果8月に前立腺がんに罹患していることが判明しました。それも高リスクの前立腺がん。目の前が真っ暗になりました。そんなときに岡本先生との出会いがありました。非再発率96.3%。『大丈夫。私が必ず治してあげるから』と岡本先生は言ってくださり、妻が帰りに『よろしくお願いします』と挨拶すると、先生は妻の目をしっかりと見ながら『こちらこそよろしくお願いします』と言ってくださいました。
 しかし、岡本先生の治療が今年の6月で終了と知らされました。せっかくつかんだ一縷の望みが消えかかりました。そこから熱い闘いが始まりました。きょうここに集まってくれている心強い仲間たち。既に岡本先生の治療が終わっているにもかかわらず、私たち『待機患者のために』と全国から手弁当で駆けつけてくれる仲間たち。ともに闘いました。
 そして5月20日私たちは11月26日まで、岡本先生の治療を延長しなさいという裁判所からの決定を勝ち取りました。その場にいた仲間たちは自分のことのように涙を浮かべて喜んでくれました。
 しかし、裁判所の決定にもかかわらずいまだ不穏な動きをやめない滋賀医大の病院長。どうしてそうなったかとの説明会見も一切実施しない無責任な対応。滋賀医大の病院長は人道主義を貫いて、患者を守ろうとしている岡本医師の治療の妨害はやめてください。前立腺がんの世界的名医である岡本先生の治療を、私たち以上に待っている待機患者の希望を打ち砕かないでください。私たちは今度は後に待っている待機患者のために、ここにいる患者会の皆とともに闘い抜くことを誓います」

と喜びと決意を語った。

宮内さん

ついでやはり待機患者の宮内さんが語った。

「私たち患者会は『岡本メソッド』の恩恵を受けたものとして、つまり『中・高リスク』の前立腺がんを患ったにもかかわらず、ほぼ100%完治し、生活に支障をきたすことなく平穏に暮らせるものとして、岡本先生の滋賀医大での勤務継続を勝ち取るべく闘っております。
 世間での誤解について、その真実をお伝えしたいと思います。(略)『しょせん大学の教授間の派閥争いじゃないの』という意見、これは間違いです。一人の医師とそれを支える患者たち。対する大学病院幹部の闘いなのです。この構造を考えていただければ答えはすぐに出ます。
 なぜ、すでに完治した多くの患者が一人の医師支えて闘うのでしょうか。岡本メソッドの素晴らしさを文字通り体験した患者たちが、『その恩恵を未来の患者さんたちにも享受していただきたい』という姿。対してその評判が自分たちの権力欲、名誉欲の邪魔になると考える大学病院の幹部たちとの闘いです。現に大学病院の幹部は違法行為で刑事告訴されております(著者注:告訴状は未受理)。このような方々にはすぐに退いていただきたいのです。
 最後に、『岡本医師は他の病院に行けばいいじゃないの。そんな優秀な先生であれば引く手あまたでしょう』という声。たしかに目の前の患者を救うだけであれば、その意見は一理あります。しかし、我々が求めるのは、人の命をないがしろにする病院の体質改善と、岡本メソッドの全国展開です。そのためには教育機関である 滋賀医科大学に岡本先生が残って頂き、全国の若手医師の指導を継続していただく必要があります。岡本メソッドの全国展開と、早期発見で、日本人の死因から、前立腺がんが消えます。そんな夢のある未来に対して闘っております。ご支援よろしくお願いいたします」

鳥居さんも宮内さんもご自身の治療は、まだであるのにすでに「未来の患者」のために日差しの強いデモ行進への参加を決められた。スピーチには立たれなかったものの、この日の集会・デモにはほかにも5月20日の仮処分により、岡本医師の治療を勝ち取られた方々が遠方からも参加されてていた。東北や沖縄からの参加者もあった。

患者会による草津駅市周辺でのデモ は1月12日に続き2回目だ。1月12日の集会とデモは真冬にしては穏やかな日和だったが、この日は湿度は低いものの、きつい大陽が照り付けた。

先頭が出発してもまだ動き出せない後尾のデモ参加者。3名のコーラーが指示しながら、デモ隊は前回と同じコースを進んだ

本音が……

滋賀医大病院に対しては、本通信でお伝えしている通り、5月20日、大津地裁で「 11月26日まで岡本医師の治療を病院は妨害してはならない」との仮処分決定が命じられている。

この決定を受け、わたしは5月23日滋賀医大に、
(1)仮処分の決定について大学としてどう認識しているか?
(2)岡本医師の新患患者の受付が止まっているが、その点どう対処するか?
(3)滋賀医大の認識・判断が根源的に間違っていた、と裁判所は判断したが松末病院長の責任をどう考えているか? 
を電話で質問した。

が、回答がなく、翌24日にメールで回答があった。内容は「決定理由を踏まえて適切に対処します」だけであった。私の質問への回答になっていないので、「社会的存在の滋賀医大には説明責任があるので記者会見を開いてほしい」旨電話で広報担当者に告げておいた。

長蛇のデモ隊に注目する買い物客たち

患者会関係者によると、個別には岡本医師の治療を希望する、新規患者の受け入れを一部再開しているとの情報もあるが、滋賀医大病院のHPでは6月1日現在そのような告知は確認できない。停止していた新規患者の受け入れを再開したのであればHP告知しなければ、全国で岡本医師の治療を待っている患者さんに、伝わらないのではないか。

この問題は、朝日新聞、毎日放送などが継続的に取材報道を続けている。毎日放送は6月30日になんと1時間のドキュメンタリーを放送する予定だという。鹿砦社も微力ながら引き続き滋賀医大問題を注視し続ける。

デモ終盤になっても熱量は衰えない

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田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

決定を前に勝利を確信して語る宮内さん

5月20日、滋賀医大小線源講座で岡本圭生医師の治療を希望しながら、病院側の一方的な通告により岡本医師の手術を受けることができない、ハイリスク前立腺がん7名の患者さんと岡本医師が「治療妨害の禁止」を求め、大津地裁に仮処分を申し立てていた事件について、大津地裁(西岡繁泰靖裁判長)は、岡本医師の申立てを全面的に認める決定を下した。

患者さんと岡本医師には、代理人を通じて「(5月)20日に決定を出す」と5月17日に連絡が入っていたそうだ。

決定の発表を控えて申立人の宮内さんは、既に勝利を前提とした心境を明かしていた。

裁判所に入る宮内さんと鳥居さん

「たぶん常識的な判断を裁判所はしてくれると思います。でもこれで終わりじゃないんですよね。文字通り『同病相憐れむ』ではないですが、我々の後に患者になられる方が、ほとんど確実に治る治療を受けたくなるのが当たり前です。そのためには岡本先生に大学に残って頂いて後進を育てていただきたいです。これはまだ一里塚で本当のゴールは『岡本メソッド』が全国どこでも不安なく享受できる姿になるべきだと思います」

これまで滋賀医大問題では行政への申し入れや、街頭活動も当初は朝日新聞を除き大手メディアは一切無視。黒藪哲哉さんが参戦していただいたころからようやくマスコミの注目が集まり始めた。

あの頃を思い返すとわたし自身、妥当な決定を確信していたが、宮内さんよりも内心、最悪のケースへの懸念が抜けなかったのが正直な心境だ。

軽快な足取りで駆け出してくる宮内さんと鳥居さん

13時30分、弁護団と申し立て患者、鳥居さんと宮内さんが大津地裁に入った。

13時36分頃、裁判所内で決定書を受け取った鳥居さんと宮内さんが、裁判所玄関から正門へ向かい駆け出してきた。

二人は朗らかな表情で「待機患者の救済認められる!」のメッセージを裁判所の外で待つ患者会メンバーと、マスコミに掲げた。

「おめでとう!」の声と拍手が沸き起こった。鳥居さんは、決定内容への質問に対して「われわれ7人だけではなく、現在岡本先生の治療を受けて手術を希望している患者の11月までの手術も認められました!」と満面の笑顔で語った。

文字通りの完全勝利であった。

笑顔で勝利のメッセージを掲げる

「裁判所は病院に強い警告を発した」と解説する小原弁護士

16時30分から教育会館で岡本医師も参加し記者会見が開かれた。弁護団の石川賢治弁護士と小原弁護士が決定内容とその意義を解説した。

小原弁護士は、決定について、「岡本医師の申立てははほぼすべて認められた一方で患者側の訴えは却下ですが、内容を拝見しますと、患者も治療を受けられる結果に変わりはありません。したがって我々から見ると、『病院が医師の治療を制限した』措置に対して『そのような制限は許されない』と裁判所が、強い警告を導いたと理解しています。前例のないケースについて画期的な判断をしていただいたと理解しております。今回大津地裁の決定に対して深い敬意を表したいと思います。特に待機患者の方々は高リスクの前立腺がんを抱えた方々です。こうした人々の治療が放置されることに対して、裁判所としても強い警告を発したといっていいのかと思います。患者に寄り添った判断をしていただいたと思います。個人的な感想ですが最近の裁判所は、ともすると大きな組織に対してはその措置を覆すことに、ためらいがちだという印象を持っておりましたが、今回の大津地裁は果敢な判断をしていただき、きちっとした患者の立場に立った判断が行われたと考えております。大学あるいは病院に、是非要請したいことは、裁判所がメッセージとして発した『患者を第一に考える』を強く受け止めていただいて、是非この決定に対しては、異議の申し立て等をせず、すぐさま7月以降治療にとりかかれるよう強く要望したいと思います」と評価した。

決定への感想を述べる岡本医師

続いて岡本医師がコメントを求められた。

「今回私の治療を頼って、全国から来られている患者さんに対して、私の治療を認めるという判断が司法からなされたことで、前立腺癌で私を受診し治療を待望し、今や遅しと待って頂いている方にとって、大変ありがたい判断をしていただいたと思っております。担当医として裁判所の適正な判断に、心から敬意と感謝を表したいと思います。今回の仮処分においてわれわれが提起した問題はなにかということは、そもそも『医療とは誰のものなのか』。『医療とは誰のために行われるものか』という、根本的な問いであります。いうまでもなく医療は患者さんのために存在し、患者さんを救うために行われるべきです。医療を守っていく立場の人間の一人として、今回、医療の秩序を守るべき決定がなされたこと今後社会的にも大変重要な意義を持つのではないかと考えます。やはり医師の使命は『患者ファースト』であり『患者さんの命を救う』ことです。それが阻害される医療環境、あるいは教育機関であっては医療は立ち行かないと思います。これを機に医療の在り方を、メディアの方・社会もしっかり考えていただいて、あるべき姿に戻していただきたい、と強く望む次第です」と岡本医師は断言した。

喜びと覚悟を語る鳥居さん

続いて待機患者の鳥居さんが感想を述べた。

「今回こういう結果になって本当に喜んでおります。弁護士の先生方には深くお礼を申し上げたいです。それ以上に患者会の皆様。『待機患者のために』と本当にいろいろなことをしていただいたことに、頭が下がる思いでございます。ありがとうございました。皆様のおかげでこういう結果を勝ち取れたと思っています。ただ個人としては喜んでいますが、11月26日ということはそれ以降のことは、まだ未定なのでその点では心配しています。というのも非常に多くの方が岡本先生の治療を受けたいという声が上がっているからです。たくさん待っておられる方のことを考えると、これからが勝負のしどころ、と肝に銘じています。治療が終わって完治しましたら、今度は患者会の方々がわたしたちにしていただいた、それ以上の行動をして、前立腺がんで苦しんでいる患者のためにできることをしてゆきたいと思います」と将来への展望も含め感想を語った。

ついで宮内さんも「患者に寄り添った命令を出していただいた裁判所に感謝申し上げます。弁護団の先生方、マスコミの方々にもお力添えを頂き、同僚といったらおかしいですが、患者会の皆さんにも、自らの治療が終わっているにもかかわらず我々患者のために動いていただいたことを心から感謝申し上げます」と感謝の念を述べた。宮内さんは続いて、決定が出る前に伺ったの同様の内容とコメントした。

このニュースは関西地方で同日の夕刻、MBS、ABC、関西テレビ、琵琶湖テレビで放送された。ところがNHKテレビカメラの姿は、裁判所前にも、記者会見の席にもなかった。また、記者会見で京都滋賀に大きな力を持つ新聞の記者は、決定の意味を意図的に薄めようとしているかのような質問を発していた。

滋賀医大がこの決定を不服と判断すれば、法的には「仮処分異議」をおこなうことができる。しかし、その行為はすなはち「司法の判断を受けても、患者に治療をさせない=命の大切さを度外視する」ものであることは理解されよう。この決定が確定し、ごく当たり前に手術を受ける権利を持つ患者さんたちが、安心した健康を取り戻す日を切望せずにはいられない。弁護団、マスメディアの誰もが口にしていたが、歴史的な決定が出た一日であった。

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▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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