「国とは一体、何なのですか?」 沖縄振興予算問題と第二次高市内閣改造人事に関して

江上武幸

「国とは一体、何なのですか」

この言葉は、筑豊じんぱい訴訟の弁護団長であった(故)松本洋一弁護士が、国を相手とする裁判において、国の代理人席に向かって常に口にされていた言葉です。

松本先生は、筑後川上流の下筌・松原ダム建設反対闘争、カネミ油症食品公害事件、福岡予防接種禍事件、三井山野炭鉱ガス爆発事故、三井有明鉱火災事故、そして炭鉱夫じん肺訴訟と、一貫して社会正義の実現と人権擁護のために尽力された弁護士でした。と同時に、北九州市長選に二度出馬して保守陣営の心胆を寒からしめた地方政治家でもあります。

先生は、福岡予防接種禍事件の控訴審において、国の代理人席に向かって次の問いを発しておられます。

「国とは一体何なのですか。1審で負ければ高裁・最高裁までいって、何がなんでも国の主張を通そうとする。国とは何が何でも裁判に勝つためにあるのですか。国民が健康で幸せに暮らせるように何かをする、それが国ではないですか。私はそう思ってきました。だからもう一度聞きたい。国とは一体、何なのですか。」

*(『俺たちはボタじゃない 筑豊じん肺訴訟18年4か月の軌跡』(2006年・海鳥社)

福岡市に出かけると、天神界隈で幼い子供を連れたアジア各地からの若い夫婦や、家族・親族ぐるみの観光客をたくさん見かけます。

一方で私の事務所では、幼い子供を抱えた若年夫婦の離婚問題、家族・親族間の骨肉を争う相続問題、個人・法人を問わない破産問題、奨学金返済や生活費のため夜のアルバイトをして人生を誤った女子大生からの相談など、社会のひずみを目のあたりにする仕事ばかりをしています。そのため、日本社会の貧困化を余計に肌で感じます。

後継者がいなくなった地方の田畑や山林、家屋は荒れ果てたまま放置され、都会に出た子供たち(私たちの世代でもあります)は、将来食糧危機に直面しても帰る田舎がありません。「未婚」「少子化」「非正規雇用」「子供食堂」「オレオレ詐欺」などの寒々した言葉にあふれ、野菜農家の労働者も韓国・台湾・ベトナムからではなくネパール・ミャンマー・インドネシアなどからの出稼ぎが増えているようです。アジアにおける日本の経済的地位の衰退を痛感せざるをえません。

ご存じのように、目下、福岡県は県議会議長就任をめぐる金銭疑惑で大揺れに揺れています。小選挙区制度の導入によって「自民党でなければ人にあらず」といった風潮が全国津々浦々に広がり、国会議員はもちろんのこと都道府県・市町村レベルまで二世三世の世襲議員が主流を占める時代になってしまいました。福岡県議会も議員の世襲化・政治の家業化が見え隠れしているように思います。

中選挙区制の時代には、自民党は派閥ごとに色分けされ、国会議員を頭に県議から市町村議員に至るまで系列化されつつも、それぞれが選挙区内の農林水産、商業・経済の業界団体と密接に関係し、地方の意見・要望を国政に反映する道筋が開かれていました。他方、旧社会党・共産党などの働く者・生活者を代表する野党が自民党と対峙する形の「55年体制」と呼ばれる政治構造がありました。

その結果、中選挙区時代には複数の自民党候補者と野党候補者が入り乱れて票を奪い合う選挙戦が繰り広げられ、政治好きな大人たちにとっては華やかなお祭り気分を味わうことができました(*政治は「まつりご」といいますが、「政治とは飢饉や災害から人々を守り、皆が安心して暮らせるように祈り働く行為である」という古来からの考えを表す言葉です)

55年体制によって曲がりなりにも国民各階層や地方の意見を国政に反映できる政治が長く続き、公害問題など様々な問題を抱えながらも、世界第2位となるまでの経済発展を遂げてきました。

外交面でも、1956年の日ソ共同宣言、1965年の日韓基本条約、1978年の日中平和友好条約など、平和主義の憲法の精神に基づき近隣のアジア諸国との友好関係を築き上げることが出来ました。日本はヨーロッパのスイスのように、アジアの永世中立国としての道を選択することも可能だったのです。

このように内政・外交とも戦後に定着した日本の中選挙区制を、わざわざ小選挙区制に変更する必要性は全くありませんでした。小選挙区の導入によって失われた30年の歴史を取り戻すには、今後数世代の努力が必要となるでしょう。誠に残念なことです。

中選挙区制から小選挙区制への選挙制度の変更は、1970年代に社共統一による革新政府の誕生が現実化したため、革新統一政府による安保条約の一方的廃棄通告により、日本各地(特に沖縄県)に展開している米軍基地を手放さざるを得なくなる事態が生じるのを阻止する必要を感じたアメリカが、主導して実施したものと考えて間違いありません。

*戦後、日本がアメリカの支配下にあったことは、ネット社会の普及によって誰の目にも明らかになっています。とりわけ、れいわ新選組の伊勢崎賢治参議院議員(国際平和研究、教育専門家)の国会での発言は核心をついており、爽快感を覚えます。また、核保有論には賛同できませんが、アメリカ生活の長い国際政治アナリストの伊藤貫氏のアメリカ政治の分析も参考になります。

その他にも、元外交官の孫崎亨氏の『アメリカに潰された政治家』(小学館)を始めとする多数の著作、ジャーナリスト兼作家の吉田敏浩氏の『日米合同委員会の研究』(創元社)を始めとする著作など、ネット社会のおかげでこれまで知らなかった書籍の存在も知ることができました。(*ただし、ありがたいと思う反面、「知らなければよかった」と思うことも多々あり、複雑な心地になります)。

アメリカが、日本の選挙制度を中選挙区制のままにしておくと社共統一による革新政府が誕生しかねないと危惧したことは先に述べたとおりです。それを防ぐためにアメリカは日本に小選挙区制の導入を図ったと考えられます。

小選挙区制度が設けられている国としては、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、インドなどがあります。アメリカ以外はかつてのイギリス帝国の名残であるイギリス連邦の加盟国で、アメリカもイギリスから独立した国ですから元々は一体です。イギリスは「労働党」と「保守党」、アメリカは「民主党」と「共和党」が二大政党として、他の政党の台頭を許さない仕組みを作っています。

これらの二大政党のうちいずれの党が政権を握っても支配体制が揺るがないようにするのが、小選挙区制度での真の狙いです。中選挙区制から小選挙区制への変更は、「ゲリマンダー(区割の恣意的変更)」などは足元にも及ばない、政権党に一方的に有利な大変革なのです。

中選挙区制のもとでは、旧社会党・共産党の革新統一の力で美濃部東京都知事、飛鳥田横浜市長、蜷川京都府知事、黒田大阪府知事、奥田福岡県知事などの革新自治体が次々と誕生しました。そのままの革新の勢いが続けば、1970年代後半には自民党に代わる革新統一政府が誕生しかねない政治情勢が生まれていました。今の世代の人たちは、そのような時代があったことなど想像すらつかないかもしれません。

日本列島は「中国・ソ連に向けた不沈空母」と言われてきました。アメリカが米軍基地を永続的に設置し続けるには、自民党政府に代わる革新統一政府の誕生を断固阻止する必要があります。アメリカとその意向を受けた政治家・官僚は、社会党の分裂、社共の対立、国鉄・郵政・タバコ産業の分割民営化、連合の結成、官公労の組織率の低下、ソ連・中国の体制批判による社会主義・共産主義に対する嫌悪感の醸成など、小選挙区制と二大政党制の導入をはかる以前から、その下準備を着々と整えていたのです。

1970年(昭和45年)3月に高校を卒業した私の世代は、家庭の経済状態が許せば大学に進学することが出来る時代に生まれました。

前年の1969年(昭和44年)には東大の入試が初めて中止され、東大を目指していた先輩は京都大学や一橋大学、私立大学などに志望校を変更せざるを得ませんでした。 大学内では、全共闘・民青・原理研究会・勝共連合・生長の家などの学生が入り交じり、騒然とした雰囲気が漂っていました。多くの学生はノンポリとして過ごしましたが、学生運動の影響は大なり小なりその後の人生に影を落とし、あるいは影響を及ぼしています。

1968年(昭和43年)10月21日の国際反戦デーには、新宿駅周辺で過激派学生のデモ隊による騒乱事件が発生し、学生730人が逮捕されるという事件が起きました。この逮捕劇について、日大全共闘のシンパで逮捕された経験のある人物から次のような話を聞いたことがあります。

「事件の際、デモ隊の最前列にいた者たちが一斉に姿を消したため、後列にいた自分たちがデモ隊の最前列に押し出され、機動隊から一斉検挙された。つまり、騒擾罪を適用するために公安が学生デモを新宿駅構内に誘導していたことがわかった。自分は親父が田舎で開業医をしており、地元の国会議員に頼んだため早く釈放してもらった。」

1960年の安保反対闘争の際、国会に突入したデモを先導した全学連指導部に対し、右翼のフィクサーであった田中清玄氏が多額の資金援助をしていたことが後日明らかになりました。世の中の出来事には必ず何か裏が隠されているものです。

話がそれましたが本題に入ります。

沖縄県知事選挙が終わって間もなくして、須田慎一郎氏のYouTube報道番組「虎ノ門二ュース」で、「沖縄県知事選予算増額の真相玉城デニー県政には振興予算3000億円が出なかった本当の理由」と題した配信がありました。

財務官僚出身で30代前半の政治家志望の若者が出演しており、玉城デニー県知事時代に沖縄振興予算3000億円を出さなかった理由について、次のように話していました。

「沖縄振興予算を2021年度までは年間3000億円とすることについては、国と沖縄県の間で政治的約束があった。しかし、2022年からの沖縄振興予算については新たに政府と沖縄県は協議すべきところ、玉城知事は政府と財務省に直接出向いて予算措置の陳情をすべきだったのに、それをしなかった。それで従来通りの3000億円は交付しないことにした。しかし、沖縄県の振興のためには特別予算が必要なことは分かっているので、玉城知事とその支援者のために使われることがないよう、市町村に直接交付することにした。」

私がこの話で最も引っ掛かり(憤り)を覚えたのは、30代前半の元財務官僚の政治家志望の青年が、登録者数140万人を超える影響力のあるネット番組で、自民党政府と財務省の一体化ぶりを自慢げに語る姿でした。彼は、財務省が2022年以降、沖縄県に3000億円の振興予算を交付しなくなったのは、玉城知事が自ら上京して政府と財務省に予算の陳情に来なかったからであると、悪びれることもなく言い放ったのです。続けて、県に交付すれば知事らのために使われるので県を通さずに市町村に直接渡すことにしたという裏話まで披露しました。

この政治家志望の若者の姿を見ると、現役通産官僚だった古賀茂明氏が著した「日本中枢の崩壊」(講談社刊)の表題が思わず頭をよぎります。戦後80年近く、アメリカ支配から脱しきれないままきてしまった結果、このような考えを持つ若い官僚が日本の中枢で育ち、将来の日本を動かしていくのかと思うと脱力感に襲われます。

政治の世界に目を向けると、第二次高市改造内閣の閣僚メンバーが発表されました。山下貴司氏(法務大臣)と古川俊治氏(デジタル大臣)の2人は、岡口基一元裁判官の弾劾裁判において、山下氏は弾劾裁判員として、古川氏は訴追委員として登場した人物です。この2人が弾劾裁判で果たした役割については、「裁判官はなぜ葬られたか」(岡口元裁判官著・講談社)に詳述されています。

山下氏は元検事、古川氏は弁護士資格保有者です。検事と弁護士とが裁判官を罷免するという構図でした。岡口(元)裁判官は罷免判決を受け、裁判官の身分を失っただけでなく弁護士になることもできず、退職金の支給も受けることが出来ませんでした。しかし、現役時代の岡口裁判官の力量は高く評価されており、長年におよぶ裁判実務の知識・経験・処理能力に裏付けされた著作(司法試験受験者や実務家向け)も多数発行され、現在は受験指導や全国からの講演依頼で忙しい毎日を送っておられるようです。

「法と良心以外にはいかなる権威や圧力にも屈しない」という裁判官魂を失わず、前向きに裁判や法に向かい続ける姿には頭が下がります。

岡口裁判官の罷免裁判は最高裁判所が訴追していないにもかかわらず、国会の訴追委員会の決議にて弾劾裁判が開かれた初めてのケースと言われています。しかし、その背後には「法と良心以外の何物にも干渉されない。」という独立精神を持った裁判官の存在を認めない最高裁事務総局の強い意思が横たわっていると考えます。政権与党も最高裁による申立てがなくとも、国会の訴追委員会による訴追があれば弾劾裁判を開けるという前例を作ってしまいました。

今回の岡口裁判官に対する罷免判決は、石田和外最高裁長官時代の「青法協(青年法律家協会)裁判官への弾圧」と並び、いやそれ以上に、個々の裁判官の市民的自由を完全に剥奪するという戦後司法史上最大の汚点だと言わざるをえません。

この弾劾裁判で、法と良心にのみ従った判決を下す勇気をもった若い裁判官達が萎縮したり、あるいは市民的自由のない生活に見切りをつけて中途退官したりすることがないことを祈るばかりです。

第二次高市改造内閣に入閣した山下・古川の両氏も、政権に従順な裁判官を求める自民党の意向を受け、岡口裁判官を罷免するための弾劾裁判で積極的役割を果たしました。そのような政治家が国政の中枢を占める大臣に就任できるのが、現在の日本国なのです。

米軍基地があるかぎり、日本人は日本人だけで日本の行く末を決めることは出来ません。押し付け憲法であるとして日本国憲法をないがしろにし、ひたすらアメリカの顔色を窺い、指示通りに動いてさえいれば政治生命を失うこともなく、官僚として冷や飯を食わされることもありません。あえてそれに背を向けて、せっかく手に入れた豊かな生活を世のため人のために捧げる必要などないと考える人たちが今の日本の「国」を作っているのです。

いつも笑いを絶やさなかった(故)松本弁護士から、「それじゃ身も蓋もないじゃないか」と叱られてしまうかもしれません。

確かに、周りを見渡せば絶望的になりますが、時代は確実に世代交代しています。私たちが学生時代に抱いたような理想や熱意を持ちながら、未来に向かって努力を続ける若い世代が次々と誕生し、必ずや次の時代を切り開いていってくれるはずです。

小選挙区制のもとで水と油の野党の大同団結を図ることにエネルギーを注ぐより、中選挙区制に戻して全ての政党・政治家による百家争鳴の選挙戦を見るのが楽しくはないでしょうか。世襲政治家ではなく、そのような選挙の洗礼を受けて誕生した政治家こそが真の政治家といえるのではないでしょうか。

*出世には魅力を感じない若い世代の裁判官・検事・弁護士が、「司法の独立と裁判官の独立」を取り戻すため、岡口元裁判官に負けないよう自由闊達にのびのびと仕事に励まれることを期待します。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月23日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼江上武幸(えがみ・たけゆき)
弁護士。福岡・佐賀押し紙弁護団。1951年福岡県生まれ。1973年静岡大学卒業後、1975年福岡県弁護士会に弁護士登録。福岡県弁護士会元副会長、綱紀委員会委員、八女市役所オンブズパーソン、大刀洗町政治倫理審査会委員、筑豊じんぱい訴訟弁護団初代事務局長等を歴任。著書に『新聞販売の闇と戦う 販売店の逆襲』(花伝社/共著)等。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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殺害事件の「首謀者」とされて ── 服役中のAさんからの手紙

尾﨑美代子

拙著『日本の冤罪』発行以降、大勢の方から「私も冤罪です」という内容の手紙を頂いた。多くは現在服役中の刑務所からだ。その一人Aさんは青木恵子さんに手紙と事件に関連したノートを送ってきた方だ。青木さんは多くの冤罪犠牲者の支援活動をしているが、裁判資料など読むのが大変だということで、私に「読んで」と回ってきた。

ノートには、非常に几帳面な字で事件の概要が書かれていた。ある男性の殺害事件で、Aさんが首謀者として逮捕されたのは事件から数年後だった。ほかに逮捕された数人は口裏をあわせてAさんが首謀者だと供述。彼らの刑は首謀者Aさんの半分以下だ。

ノートには唐突に「遺体を骨と肉にわけ、ある日、家族と行った別荘で、バーベキュー用のコンロでバーベキュー用の炭で火をおこし、その火で焼き、バーベキュー用のトングで骨を粉々にした」というような内容が書かれていた。私は「そんなことできるかよ」と突っ込みながら読み進めたが、さらにその粉々にした骨などを、別荘に行ったのだったら遠い山奥に廃棄すればいいものを、自宅のある都内に持ち帰ったと書いてある。

ちょうど、埼玉愛犬家殺人事件をテーマにした中村明監督の映画「生きし」(https://ikisi-movie.com/)の上映が十三の七芸で始まり、私がトークショーに呼ばれたこともあって、以前読んだ埼玉愛犬家連続殺人事件の本を読み直した。ご存じのように、この事件の犯人は、殺害した遺体をドラム缶で相当強い火力で焼いていた。バーベキュー用のコンロや炭では到底無理だろう、何言ってんだと考えながら、Aさんと手紙のやりとりが続いた。

私が質問し、Aさんが答える形でやりとりは10数通に及んだが、7、8通目でその謎がようやく溶けた。男性がいなくなったのち、男性の周辺にいたAさんらが疑われたが、確固たる証拠がなかった。男性の遺体すら発見されていなかった。しかし、男性は、警察の捜査で、失踪したのち全く行方がつかめないこともわかった。多分殺害されているだろうと考えた警察は、当時周辺にいたAさんらに目をつけ、Aさんらがその数年の間に、何をしたか探る。その間、確かにAさんは家族と別荘に行き、そこでバーベキューをしていた。バーベキュー用のコンロや炭を購入したこと、別荘を借りたことなどは、領収書や家族の供述などで証明できるのだろう。そこで警察はみつかっていない遺体の処分は、その別荘でバーベキューをやったときに実施したというストーリーを組み立てたのだろう。「●年、●月●日、お前は家族と●●に行ったな?」と聞けばAさんも「イエス」と答えるしかない。

しかし、何度もいうが、バーベキュー用コンロと炭で遺体の肉、骨を焼き、トングで粉々にはできないだろう。

Aさんが首謀者として、殺害も遺体の損壊も実行したというほかのB、Cの証言、供述調書がある。しかし、これは裁判には出ていないという。何故か? 信用するに値しないからか?

その調書をAさんは私に読んで欲しいという。私は裁判資料を読むのは好きだから、というか、供述調書や裁判の証言記録を読むと「おいおい、本当かよ」と思える箇所がよくあるし、それが彼の無実を晴らすことにつながればと思って読むからだ。

実はAさんのノートを丹念に読んでみたら、男性が殺害された日、その時刻に、Aさんは殺害現場にはいれなかったのではないかと思える箇所があり、そこには直接証拠も存在するではないか。それをAさんに手紙で示した。Aさんは「そうなんですよ。何度言っても誰にも信じてもらえないんですよ」と書いてきた。そりゃそうだ。Aさんは首謀者とされたのだから。

そしてAさんは、その殺害現場でAさんが中心となり、男性を殺害したという生生しい場面を、ほかのB、Cが供述した調書を、私に読んで欲しいという。調書自体やコピーを私に送ることは無理(違法?)なので、調書を丸々ノートに書き写し送るという。それはすでに上に申請し許可が下りたという。そしてA4ノート一冊分に関係者の調書を書き写したものが送られてきた。

関係者Bによれば、殺害した際、もう怖くて怖くて何があったか、頭が真っ白で覚えてないといいながら、そのあと、非常に詳細にAさんがどうやって殺害したかを述べている。Aさんがどのように遺体を損壊したかなど極めて詳細に書かれている。「あなた、頭真っ白じゃなかった?」。しかも初めての殺害、さらに「なぜ男性を殺すに至ったかについて、うっすら金銭関係とは思うが、怖くてAさんに聞けなかった」といいながら、男性の足を持ったりしてAの殺害行為に加担している……。

B、Cが述べる殺人鬼Aさんはものすごい凶暴な人と書かれている。しかし、私にはそう思えない。何人もの冤罪を訴える人と手紙のやりとりをしているが、文章にはその人の特性が表れてくる。中には多少ずうずうしい方もいる。自分をよく思われたいと、盛ったであろう内容を書いてくる人もいる。もちろんだから彼らを信じないのではないが。

Aさんで気づいた点がある。私が出した手紙には、私の店の住所の郵便番号(557-0002)が書いてあった(ちなみに手紙は読みやすいようにパソコンで書く)が、Aさんの返信には私の郵便番号が書いてなかった。「なぜ書かないのかな?」と不思議に思っていたところ、ある時の手紙の最後に「尾崎さん、すみません、尾崎さんの住所の郵便番号を教えてくれませんか? ちょっと読めなくて看守の人に見せても読めないと言われましたので」と書き、「本当にすみません」と詫びているのだ。まあ、私の字が下手くそだったということだが、「読めません」とずっと言えないような人だったのだ。私が怒ってしまうと思ったからなのか、それはわかりかねるが、「僕もあまり字が綺麗なほうではないので……」とめっちゃ綺麗な字で書いてきた。A4ノート一冊に毎日コツコツコツコツと調書を書き写したAさんの思いを、私も必死に受け止めたい。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

広島・呉を平和・環境・防災・テクノロジーの「複首都」に! 県議会・市議会に陳情 ── 西風新都に国会議事堂と中央省庁、呉日鐵跡地に防災省・コンテナホテル拠点・研究機関を

さとうしゅういち

筆者は9月9日、広島県議会に対して、「広島県を複首都として位置付ける国家機能誘致に関する陳情」を行いました。

2026年7月、副首都法案が成立。大阪や北海道、愛知、福岡と並び、広島も副首都に名乗りを上げています。しかし、広島のどこに、何を誘致するか、については、白紙です。

一方、8月28日、呉市の日鐵跡地を防衛省が取得。9月7日に小泉防衛大臣が現地を視察し、11日には、担当者が広島県庁で広島県と呉市の担当者に総合防衛拠点の説明を行いました。ただ、ドローン製造工場や、弾薬庫、スポーツ公園、民間企業誘致地区など、漠然としたイメージ図は提示されましたが、「建物解体が済んだ地区から日鐵側に引き渡しを受け、整備していく」「企業誘致公募は、9月1日から始めた」など、具体像は見えません。また、今後も県や市との協議で修正はありうるという段階です。

呉日鐵跡地は、民間企業の誘致には不利です。

①空港が遠い②新幹線が遠い③山陽自動車道から遠い。この3点で、民間企業は、同じ県内であれば、東広島市や広島市を選ぶのは確実です。一方で、「防災拠点」なら、①船での輸送がしやすい②南海トラフ地震でも倉橋島に守られて津波もそう高くない③広島の市街地よりは確率が低い計算です。

こうしたことから、防災省や、地球沸騰化に対応した研究機関の誘致がふさわしいと判断します。

筆者としては
①広島市安佐南区・佐伯区にまたがる西風新都に国会議事堂と中央省庁を最低一個。
②呉日鐵跡地には、実働部隊を含む防災省本省とコンテナホテル基地、環境や防災などの国の研究機関
を、誘致し、二拠点で、「東京のサブでではなく、東京とマルチで首都機能を担う複首都」を目指すべき、と考えています。

広島市安佐南区・佐伯区にまたがる西風新都(広島市ホームページより)

そもそも、諸外国では、防災関係の費用や、鉄道・道路などインフラの維持費などをいわゆる防衛費の枠でまかなっている国も多くあります。よく、ネットで紹介される「日本より充実した避難所」なども防衛費で賄っている国も多い。はっきり言って、防衛費増額分でミサイルや戦闘機をいくら買っても、戦前の大艦巨砲主義と同じ失敗を繰り返すでしょう。そのことは、イラン攻撃に米軍基地を使わせたバーレーンやUAE、カタールなどがイランにボコボコに報復されていることでも明らかです。

そうしたことも背景に、「防衛費増額を逆手にとる」戦略としても、今回の防災省誘致構想を位置付けています。

◆広島市議会にも「西風新都」複首都構想含む3本の陳情を提出

一方これより前、9月2日に、筆者は広島市議会を訪問し、「複首都構想」を含む以下の陳情を提出しました。その後、議会事務局の方に、御親切にも、細部の修正をご指導いただき、9月7日に正式提出となりました。

① 大型公共事業の市民参加 と透明性強化に関する陳情
新アリーナ整備、駅北巨大病院再編など、広島市の大型公共事業が「供給制約の時代」に直面する中、行政だけで意思決定を進めるのではなく、市民参加型へ転換すべきとの趣旨です。

建設人手不足・資材調達難
中東情勢の影響
同時多発の大型事業による競合

こうした状況下で、代替案比較や第三者評価を制度化し、透明性を確保することを求めました。

② 公務員ヘルパー制度 創設に関する陳情
精神・知的障害、薬物依存、深刻な家族トラブルなどの「困難事例」が、
適正も考慮されないまま一般介護施設へ丸投げされている現状を是正するものです。

現場では、①重大事故の多発②ケア放棄③職員の大量離職④公益通報の握りつぶしなど、制度崩壊 → 行政黙認 → 現場崩壊 → 人材崩壊の連鎖が起きています。

そのため、行政が直接困難事例を引き受ける「公務員ヘルパー制度」を創設し、民間施設との役割分担を再構築することを求めました。

③ 複首都構想 に関する陳情
副首都法案が成立し、横田知事も副首都に名乗りを上げる中、広島は「副」ではなく、東京と並列する“複首都”の一角を担うべきとの趣旨です。

西風新都は、①花崗岩台地で耐震性極めて高い②液状化ゼロ③津波リスクゼロ④空きオフィス・空きマンションが豊富、という全国的にも稀有な条件を備え、省庁機能を新築なしで受け入れられる唯一の都市構造です。

省庁が一つでも来れば、若手インテリ層が流入し、広島の「どよよーん」とした空気も刷新されるでしょう。

※呉日鐵跡地への防災省誘致案は、議会事務局より「県議会向けが適切」との助言を受け、今回の陳情からは削除しました。

◆議会事務局の対応

約1時間にわたり、複数職員の方が書類を丁寧に精査し、形式面・提出方法について親切にアドバイスをいただきました。想像以上に誠実な対応でした。広島県議会が、若手職員が書類を一瞥して、廊下で受け取ったのとは対照的でした。

◆各会派訪問

陳情提出後、各会派をまわり、特に公務員ヘルパー制度、複首都構想について説明しました。

保守系議員からも、
「複首都構想、見ましたよ。良いですね。」
「松井市長は後ろ向きすぎる。ガツンと言わないと。」
と激励をいただきました。

筆者が代表を務める広島瀬戸内新聞、庶民革命ひろしまでは、2027年4月執行の広島市長選挙(市議選)並びに県議選を契機に、県民的・市民的な議論を呼び掛けています。

※    ※    ※    ※

陳 情 書

件名 広島県を複首都として位置付ける国家機能誘致に関する陳情

陳情趣旨:本陳情は、①副首都法成立 ②小泉防災相による2026年8月28日の「呉・日鐵跡地取得」公表
という二つの重大な国政動向を受け、広島県として国家機能の誘致を積極的に検討すべきであるとの観点から提出するものである。
広島県は現時点で具体的な副首都機能の配置方針を示していない。
しかし、県民として、広島の地理・産業・災害特性を踏まえた合理的な国家機能配置の構想を提示し、議会において検討を求めることは重要である。

理由:別紙

令和8年9月 日
提出先:広島県議会議長               様
住所:広島市東区
氏名:佐藤周一
連絡先 090-3171-4437 hiroseto2004@yahoo.co.jp X:@hiroseto

別紙 理由書

1.陳情趣旨

本陳情は、
副首都法成立
小泉防災相による2026年8月28日の「呉・日鐵跡地取得」公表
という二つの重大な国政動向を受け、広島県として国家機能の誘致を積極的に検討すべきであるとの観点から提出するものである。

広島県は現時点で具体的な副首都機能の配置方針を示していない。
しかし、県民として、広島の地理・産業・災害特性を踏まえた合理的な国家機能配置の構想を提示し、議会において検討を求めることは重要である。

本陳情は、

西風新都に国会・中央省庁バックアップ機能を誘致する構想
呉・日鐵跡地に防災省本省およびコンテナホテル全国拠点を誘致する構想
の二拠点型複首都モデルを提示し、県として国への働きかけを検討いただくことを求める。

2.背景

(1)副首都法成立と横田知事の「副首都名乗り」
副首都法が成立し、横田広島県知事は広島県として副首都機能の誘致に名乗りを上げた。しかし、現時点で具体的な配置案は示されていない。

(2)小泉防衛相による「呉・日鐵跡地取得」公表
2026年8月28日、小泉防災相が日鐵跡地の取得を公表したが、
総合防衛拠点の具体像は未定
民間企業誘致はこれから募集企業が来る保証はない
という状況であり、跡地の用途は白紙である。
この「空白」は、広島県が国家機能を誘致する絶好の機会である。

3.本紙構想:広島県の二拠点型複首都モデル

(1)西風新都:国会・中央省庁バックアップ首都(本紙構想)
西風新都は、
花崗岩台地で液状化ゼロ
津波リスクゼロ
空きオフィス多数
アストラム延伸でアクセス改善
という全国でも稀な災害耐性を持つ。

本紙はここに、
国会バックアップ議場
中央省庁バックアップ執務室
国家危機管理センター(西日本側)
国家データバックアップセンター
を配置する構想を提示する。

(2)呉・日鐵跡地:防災省本省+コンテナホテル全国拠点(本紙構想)
呉は、
港湾機能
コンテナ取扱能力
海自基地との連携
西日本災害地帯へのアクセス
造船・機械・電装産業の蓄積
という防災拠点としての強みを持つ。

本紙は、
防災庁を「防災省」へ格上げ
その本省機能を呉に配置
コンテナホテル・仮設ユニットの全国集積基地を設置
という構想を提示する。

4.陳情事項(議会に求めること)

(1)広島県として副首都機能の具体的検討を開始すること
副首都法成立を受け、県として国家機能誘致の検討を進めること。

(2)西風新都への国会・中央省庁バックアップ機能誘致を検討すること(本紙構想)
災害耐性・空間余力を踏まえ、国会・省庁バックアップ機能の誘致可能性を調査すること。

(3)呉・日鐵跡地への防災省本省およびコンテナホテル全国拠点の誘致を検討すること(本紙構想)
跡地が白紙である現状を踏まえ、国の防災機能誘致を県として国に働きかけること。

(4)広島県として「複首都モデル」の可能性を正式に調査すること
西風新都と呉の二拠点による国家機能分散モデルの調査を求める。

5.結語

広島県は現時点で副首都機能の具体案を示していない。
しかし、
副首都法成立
小泉防災相の日鐵跡地取得
という二つの国政動向は、広島県が国家機能を誘致する絶好の機会である。

本紙構想として、
西風新都=国会・省庁バックアップ首都
呉=防災省本省+コンテナホテル全国拠点
という二拠点型複首都モデルを提示し、議会における検討を求める。

以上、陳情する。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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《新刊のご案内》『沖縄意見広告運動 16年の歩み 2010-2025 もう二度と沖縄を、本土を戦場にさせない!』

鹿砦社代表 松岡利康

『沖縄意見広告運動 16年の歩み 2010-2025
もう二度と沖縄を、本土を戦場にさせない!』

 A5判/256ページ DVD付き
 定価2750円(税込) 9月10日発売
 「16年の歩み」刊行委員会編
 発行:沖縄意見広告運動  発売:鹿砦社

「沖縄意見広告運動」は、沖縄の米軍基地負担や辺野古新基地建設への反対、平和への希求を新聞の全面広告で訴える市民運動です。

2010年の開始から16年間にわたり、沖縄地元紙(琉球新報・沖縄タイムス)や全国紙に賛同者の名前を連ねる形で継続的に意見広告を掲載し、国際世論へも訴えを展開してきました。

その歩みを、意見広告(アメリカ紙含む)の全記録、全国世話人の寄稿とともにとりまとめた1冊です。

【付録DVDにも全広告と各期の全賛同者を収録】

安次富浩(ヘリ基地反対協議会顧問)/高里鈴代(オール沖縄共同代表 基地・軍隊を許さない行動する女たちの会共同代表)/土屋源太郎(伊達判決を生かす会共同代表)/大野和興(農業ジャーナリスト・日刊ベリタ編集長)/上原公子(元国立市長)/田中優子(法政大学 名誉教授・元総長)/野平晋作(ピースボート共同代表)/武建一(近畿労働者協同組合理事長/中小企業組合総合研究所代表)/特別寄稿 伊波洋一(参議院議員・会派 沖縄の風)

■編集プロダクション経営の大学の先輩からの要請で、上記書の発売元を引き受けることにしました。沖縄問題が脚光を浴びる昨今、注目の一冊です。ぜひご購読お願いいたします。すでに残部少数です。

ご注文は直接当社sales@rokusaisha.com かネット書店に。(松岡)
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ヨドバシ https://www.yodobashi.com/product/100000009004274207/

なぜ中国はウクライナへのドローン関連製品の販売を止めないのか

アンドリュー・コリブコ

ウクライナのドローン生産は、今なお中国製部品への依存が大きい。なぜ中国はロシアとの緊密な関係を維持しながら、ウクライナへの関連製品の流通を止めないのか。筆者は、戦争の長期化によって中国が得る地政学的・経済的利益と、双方を支える「積極的中立」という戦略から読み解く。

※   ※   ※   ※

ウクライナ紛争が延々と続けば、アメリカが計画している「(再び)東アジアへ軸足を移す」戦略の本格的な実施も、それだけ先送りされる。また、ロシアが豊富な天然資源を中国に格安で売る状況につながる可能性もある。そして中国は、いわば「積極的中立」という立場を維持することができる。

ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティ(RFE/RL)は先月末、「ウクライナのドローン戦争が浮き彫りにした、中国への不都合な依存」と題する記事を掲載した。

この記事では、EUがウクライナのドローン調達用として約束した60億ユーロのうち、最初の10億ユーロをこの夏に拠出したことが取り上げられている。

注目すべきなのは、この資金を使ってウクライナが中国製の部品を購入することも認められている点だ。つまり、率直に言ってしまえば、以前指摘されたように「EUが中国に金を払い、ウクライナによるロシア兵への攻撃を間接的に支援する」という構図になっている。

RFE/RLによれば、ウクライナは中国から完成品のドローンを購入する量を減らしているものの、モーター、リチウム電池、光ファイバーなどの中国製部品に対する需要は依然として非常に大きい。

さらに、「2026年上半期だけで、中国製部品の輸入額はすでに前年1年間の約76%に達した」という。

またRFE/RLはウクライナ側の報告書を引用し、「2025年上半期にウクライナが輸入したドローン部品の金額ベースで38%が中国からのものだった」としている。

この記事の狙いは、ウクライナと西側諸国に危機感を持たせ、ドローンの国内生産を大幅に増やす必要があると訴えることにあるようだ。そうすることで、記事に登場する専門家の一人が「敵対的な相互依存」と表現した、ウクライナの中国への依存を減らそうというわけである。

記事ではさらに、「中国は依然としてウクライナ最大の貿易相手国であり、一方のウクライナは中国にとって重要な農産物供給国である」と説明している。これは事実であり、中国がウクライナへのドローン関連製品の販売を完全には止めない理由の一つでもある。しかし、理由はそれだけではない。

現在の中国とロシアの関係は、歴史上でも非常に良好な水準にある。それでも2023年初頭の時点ですでに、「中国はウクライナ戦争で誰にも勝ってほしくないのではないか」という見方があった。

その理由は、ある程度コントロール可能な形で戦争が長期化すれば、アメリカが計画する「(再び)東アジアへ軸足を移す」戦略の本格的な実施を、いつまでも遅らせることができるからだ。

それだけではない。天然資源の豊富なロシアが中国への依存を強めすぎれば、モスクワは石油や天然ガスをはじめとする天然資源を、北京に非常に安い価格で売らざるを得なくなる可能性がある。

こうした冷徹な利益を追求するため、中国は一方で、ウクライナにとって欠かせないドローン、部品、光ファイバーなどの供給源となってきた。
仮に中国企業から直接供給されているのではなく、中国擁護派が主張するように第三国などの仲介業者を通じた間接的な供給にすぎないとしても、中国製品が重要な役割を果たしていることには変わりない。

その一方で中国は、ロシアにとっても、西側諸国による制裁の圧力を逃がすための欠かせない「安全弁」の役割を果たしている。その結果、ウクライナはロシアの軍事技術上の進歩にある程度ついていくことができる。同時にロシア経済も、西側諸国が制裁によって引き起こそうとした深刻な危機を回避できている。

そして中国は、「積極的中立」とでも呼ぶべき立場を維持している。ここでいう「積極的中立」とは、中国がウクライナとロシアの双方を積極的に支援することで、どちらか一方の側につくことを避けている、という意味である。

中国はウクライナによるドローン関連製品の購入から金銭的利益を得ている。また、大幅に値引きされたロシア産エネルギーを大量に輸入することで、中国経済の成長にもつなげている。さらに、中国が実はロシアと「同盟」を結んでいるわけではないと示すことで、西側諸国から中国自身に向けられる圧力を、相対的に弱める効果も得ている。

この政策をどう評価するかは別として、結果としてウクライナ紛争の長期化に寄与してきたことは否定できない、わたしは考える。

ロシアが「特別軍事作戦」と呼ぶ軍事行動を開始する数週間前、中国とロシアは「限界のない」パートナーシップを宣言していた。もし中国がこの関係に沿ってウクライナへのドローン関連製品の販売を停止していたなら、ロシアは現在までに、この紛争で掲げた目標をより多く達成できていたかもしれない。場合によっては、最大限の勝利を収めていた可能性さえある。

もちろん、ウクライナにとっては、中国からのドローン関連製品よりも、アメリカによる軍事・情報面での支援のほうが重要である。しかし、アメリカによる支援が近いうちに終わる兆しはない。したがってロシアは、中国に対してウクライナへのドローン関連製品の供給を今度こそ完全に止めるよう働きかけるべきだ――というのが、この記事の結論である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月8日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/why-wont-china-cut-ukraine-off-from

ロシアが新設した「1945年の対日戦勝記念碑」が象徴する、日露対立の再燃

アンドリュー・コリブコ

ロシアがハバロフスクに1945年の対日戦勝を記念する巨大なモニュメントを建設した。筆者は、プーチン大統領の択捉島訪問とあわせ、日露間の歴史的対立が再び強まりつつある象徴だと分析。その背景には、米国のアジア太平洋戦略や日本の軍事的役割の拡大があると指摘している。

※   ※   ※   ※

この状況を招いた責任はロシアではなく、米国にある。米国は、事実上その保護下にある日本が、1956年の日ソ間の妥協案に基づいて南千島列島をめぐる問題を解決することを認めなかったからだ。この妥協案では、色丹島と歯舞群島を日本側に引き渡すことになっていた。

日本の高市早苗首相は、ロシアが新たに建設した「1945年の対日戦勝」を記念するモニュメントについて不満を表明した。

アイルランド人ジャーナリストのブライアン・マクドナルドは、ハバロフスクのアムール川を見下ろす目立つ場所に建てられたこの記念碑について、「その大きさと、どれほど目立つ場所にあるのかが分かるように」と映像を公開した。

さらに、次のように伝えている。

「地元当局から『イワン』と名付けられた兵士像は、日本の皇室の権威を象徴する菊の紋章が付いた国境標識を打ち壊す姿で表現されている。当局はこれを『対日戦勝を記念するロシア最大のモニュメント』と説明している」

この問題のより大きな背景には、プーチン大統領による択捉島訪問がある。択捉島は現在ロシアが実効支配しているが、日本が自国領として主張している4島の一つであり、プーチン氏の訪問は日本側の強い反発を招いた。

ロシアを代表するアジア専門家の一人、ゲオルギー・トロラヤは最近の記事で、プーチン氏の択捉島訪問をきっかけに事態が急速に動き、ロシアの安全保障を複雑にする可能性があると指摘した。

しかしわたしは以前の記事で、プーチン氏はそうした事態はいずれ避けられなくなるので、この点を見越して先手を打ったのではないか、と論じた。今回の記念碑の公開を考えれば、この見方には筋が通っている。

そもそも、大規模な記念碑は短期間で建設できるものではない。そのためプーチン氏は、択捉島を訪問する以前から、ロシアを取り囲む新たな「防疫線(cordon sanitaire)」のうち、北東アジア方面に国民の関心を向けることを計画していたと推測できる。

これら一連の動きは、ロシアが、米国の支援を受けた日本による対露封じ込めの動きを認識していることを示している。

だからこそプーチン氏は、択捉島に対するロシアの主権を改めて強調した。そして今回の新しい記念碑も、ロシア国民に日本との歴史的な対立を思い起こさせる効果を持つことになる。

歴史を忘却している人のために振り返ると、日露の競争は19世紀末に始まった。ロシアが北東アジアへ勢力を拡大し、中国の満州地域や朝鮮半島への影響力を強めたためである。日本は1894~1895年の日清戦争で、朝鮮半島をめぐって中国と戦っていた。

その約10年後に起きた日露戦争では、アジアの国がヨーロッパの大国を初めて破った。その後、日本は朝鮮を併合し、やがて満州に傀儡国家を建国することになる。

そして1945年8月、ロシア(当時のソ連)は日本に対して「雪辱を果たした」。ヤルタ会談での合意に基づき、ソ連は「満州戦略攻勢作戦」を開始した。この攻勢によって、日本軍は満州、朝鮮半島北部、樺太南部、そして千島列島から急速に排除された。

今回建設された記念碑が記念しているのは、この戦いである。

ロシア政府は、この歴史を国民に改めて思い出させることで、日本との歴史的な対立関係が再び強まることを国民が受け入れやすくなるよう、徐々に意識を整えようとしている。わたしは、この対立関係が今後、長期間にわたって日露関係を特徴づけることになると予想している。

わたしは、こうした状況を招いた責任はロシアではなく、米国にあると思う。米国は、事実上その保護下にある日本が、1956年の日ソ間の妥協案に従って南千島列島をめぐる領土問題を解決することを認めなかった、というのがわたしの主張だ。

1956年の妥協案では、色丹島と歯舞群島を日本側の管理下に戻すことになっていた。その結果、領土問題はその後およそ70年間にわたって未解決のまま残された。そしてこの問題は、日本の地政学的な国家意識の重要な一部となり、多くの日本国民にとって感情に強く訴える問題にもなった。わたしは、現在、米国がこの問題を利用していると主張している。

日本には、米国が構想する「AUKUS+」――つまり、アジア太平洋地域にNATOのような軍事ネットワークを構築する構想――を主導する役割が与えられている。

【黒薮注】AUKUS+:「AUKUS+」とは、米英豪3カ国の安全保障枠組みとして、それを日本、韓国、カナダ、ニュージーランドなど他の同盟・友好国との協力へ広げていく構想。インド太平洋における、より広い軍事・技術協力ネットワークの構想。日本政府にとって、憲法9条がこの構想の障害になっている可能性が高い。

その最大の目的は中国を封じ込めることだが、日本が再軍備を進め、ロシアにとってより大きな脅威となるにつれて、ロシアを取り囲む「防疫線」の北東アジア方面も強化されることになる。

したがって、プーチン氏が択捉島に対するロシアの主権を改めて強調することも、ロシア政府が国民に対して、日本との歴史的な対立関係が再び強まることを徐々に受け入れさせようとすることも、十分に理にかなった対応なのである。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月9日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/russias-new-monument-to-its-1945?utm_campaign=post&utm_m

《緊急ニュース!!》「成年後見制度」の犠牲者、またしても! 『悪法「成年後見制度」は法に非ず』の編著者・鈴木愼哉さんの奥様、何者かに施設を連れ出され行方不明! 本来管理すべき後見人弁護士も知らず!

鹿砦社代表 松岡利康

数多の犠牲者を出している「成年後見制度」ですが、これをみずからの体験から告発している鈴木愼哉さんの奥様が、突如施設を連れ出され行方不明という重大な事実が発覚いたしました。

9月17日、鈴木さんの長女さんが鈴木さんのご自宅を尋ねてきて、「久しぶりにお母さんの様子を施設に聞いてみようか」と施設(大和証券の子会社のグッドタイムリビング)に電話したところ10分ほど待たされ、「個人情報なので言えません」と電話を切られたそうです。ところがその後、長女さんの携帯に電話があり、「退所されました」と連絡があり、当然著所さんは「どこに行ったのですか?」と尋ねたところ、「わかりません」とグッドタイムリビング。

その後、後見人の堀井弘明弁護士(大阪弁護士会)に連絡を取ろうと、堀井弁護士が以前いた事務所に電話したところ、「鈴木さんに連絡するように伝えます」ということで、追って堀井弁護士から電話があり、「自分は知らない」ということだったとのことです。本来、後見人は、被後見人の面倒を見て報酬や経費を毎月受け取るわけですから、これだけでも違反していることになります。

その数日前、堀井弁護士が、以前いた事務所を辞め独立したという「事務所」を私たちの取材スタッフが尋ねたところ、そのマンションには表札も掛かっておらず不在、隣室の方に尋ねたところ「今まで夜に2,3度もの音がしたが全くいません」との答え。周囲の飲食店に尋ねても全く知らないということでした。

こういうことは、これまでも何度となく遭遇している私たちは、今後も執念深く追及していくことを、あらためて決意した次第です。われわれを舐めとったらアカンぞっ!

当初、私(たち)は、鈴木さんへの同情心からこの問題に入っていったのですが、実の夫、実の長女でさえ、その意思を無視され、後見人の勝手にされ、報酬と経費と称するお金だけは毎月吸い取られる悪法を決して許してはなりません。

まずは総力で鈴木さんの奥様の所在を突き止め、何としても奪還し、奥様が好きなハーゲンダッツを食べていただきましょう!

ことは、一法律の問題ではありません。人道上、許せない問題です。後見人の堀井弁護士に人間の心があるのか!?

私たちはグッドタイムリビングの親会社・大和証券の責任をも追及し、鈴木夫人がいた施設・グッドタイムリビングの無責任体質を決して許してはなりません。

皆様方のご理解、ご協力をお願いいたします!

※下の画像は、鈴木愼哉・編著『悪法「成年後見制度」は法に非ず』(紙の爆弾増刊。鹿砦社発行)。ぜひともご購読いただき、鈴木さんの事件の概要と成年後見制度の悪法たる所以を知ってください!

鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?group=ichi&bookid=000793
amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0H2CGNX2L

《零和滑稽新聞創刊01号》パンパンというよりパンバカパ~ン! 嘘つきサーニャの今週のハイライト!

(『紙の爆弾』2026年7月号掲載記事を再編集しました)

【図1】JiB漫画トリオのパンパカパ~ん!今週のハイライト!

5月11日の文化放送「大竹まことゴールデンラジオ」でゲストのジャーナリスト・適菜収(てきな・おさむ)氏が、高市早苗が政治家としての最初の一歩からウソと駄ボラを重ねてきた過去を暴露した。たとえば彼女は「元アメリカ連邦議会立法調査官」という肩書きでマスコミデビューを果たし、世間に大いに名を売ったわけだが――自著にも(図2)、テレビ出演時にも(図3)そういう肩書きを堂々と掲げてきた――実際にはこの肩書きは虚偽であり、単に米国民主党のパトリシア・シュローダー下院議員の事務所でほんの一年ばかり“研修生(インターン)”をしていたに過ぎなかった。

(この「インターン疑惑」については、その後2か月もたってから、7月6日の国会参議院決算委員会での立憲民主党・羽田次郎議員の追及に対して、高市首相は自分の公式ホームページ等で紹介している米連邦議会の「コングレッショナル・フェロー(CF)」という経歴に「間違いはない。インターンとは全く異なる」と反論した。彼女は、たしかに渡米後の最初の2カ月間は受入先の下院議員事務所で「インターン」の立場であったと認めたが、3カ月目から正式にフェローとしての要件を満たし名刺やデスクが与えられたと釈明したのである。……しかしシュローダー議員はすでに〔米国を生涯をすごし、今はすでに亡きアメリカ人に、こういう古代中国由来で日本に定着している民間信仰用語を使ってよいのかどうかは微妙だけれども……〕「鬼籍」に入って久しい。

「死人に口なし」なのである。伊東市の前市長や、小池百合子東京都知事などの学歴詐称疑惑と同様、疑惑の主のご本人が言いたい放題放言にしている言動を、外野がひたすら信じているかぎり、真相はわからない。

容疑者本人の発言を信じるだけで容疑の有無が決まるなら、警察や検察の「捜査」なんてまったく不要なのだから、そんな組織はさっさと解体するしかない……という理屈になる。あるいはまた、容疑者本人の発言だけしか“頼るべき根拠”がないとするなら、「容疑者の口を割らせる」ために拷問も許される、という理屈も成り立つであろう。……とにかく高市首相の米国議会関係の職歴詐称疑惑については、雇い主のシュローダー議員はすでに死去してこの世にいないわけだし、高市本人が巧言令色・美辞麗句でいくら調子のいい釈明をしようとも、明白で客観的な証拠〔エヴィデンス〕が示されぬかぎりは、信用できないのである。……なにしろ自分の嘘つきぶりを、かつては自慢していた政治家なのであるから。)

この日の放送で、適菜氏は、高市早苗ご本人が公言した(それゆえ大宅文庫に“記録”として残されている)資料を、大竹氏に朗読させた――「シュローダー議員へのアプローチは?って聞かれて高市さんは、私を雇ってくれって履歴書とか色々書いたんだけど、私の英語力って大したことなかったから、その頃付き合ってた男がすっごく英語ができる男だったんで、ずいぶん添削してもらった。だいたい私、自分は日本の軍事問題の権威だってウソかいたの」。……まさにウソにウソを重ねてのし上がってきたのが高市早苗のいう政治家なのである。

高市早苗は「元アメリカ連邦議会立法調査官」だと詐称して世間に名を広めた。

【図2】1990年3月ソニーからカセットブックとして発売された『政治ギャル、永田町を叱る:怒れ!納税者!!』
【図2】1990年3月ソニーからカセットブックとして発売された『政治ギャル、永田町を叱る:怒れ!納税者!!』
【図3】マスコミ売りだし時代の高市早苗のテレビ出演
【図3】マスコミ売りだし時代の高市早苗のテレビ出演

パット・シュローダー(生1940~没2023年)は日本で言えば福島瑞穂みたいな立ち位置で「保守」とはほど遠く、「リベラル・フェミニスト」とか「過激なリベラリスト」などと呼ばれてきた政治家だった。だから高市早苗が松下整形塾、もとい、政経塾で学んで「保守政治家」をめざしていたならば、民主党の「(当時としては)極左」議員のもとでの“修業”なんぞあり得ぬ話であって、共和党政権時代だったから当然“研修”先は共和党議員の事務所を選んだはずであるが、共和党は当時は政権党だから(小泉進次郎みたいな“親の七光り”が使えれば別だけど)生半可な知識では採用されまい。だから政治的なド素人が「軍事問題の権威」などと詐称してもそれを見抜けぬほどズサンな、これまたシロウト議員(?)をカモにしたのだとも推測できる。
(この推測に無理があるなら、やはり高市早苗は当時の日本において“リベラル・フェミニストの女性代議士”の立ち位置を狙っていたのであろう。)

高市早苗が「平気でウソをつく」政治家だということは、アベ政権の総務大臣時代にやらかした“放送免許恫喝(どうかつ)”騒動の時からさんざん見せつけられてきたから、そのこと自体はもはや(我ながら情けないけど)慣れっこになっていた。……が、米国の議員事務所での研修採用のときからウソをついて相手を騙(だま)してきたことを知って、さすがに私は驚愕した。(ハッキリいってゾッとした。)

今回の記事のタイトルを「嘘つきサーニャ」としたのは、すぐれた作家・ロシア語通訳者だったがこの5月末に没後20年を迎えた米原万里さんの、代表作『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(2001年)に肖(あやか)ったわけである。本稿の「サーニャ」が誰を指すかは説明不要であろう。

さらに記事タイトルに用いた「パンパカパ~ン!今週のハイライト!」というのは、1960年安保闘争「敗退」直後(同年11月)にデビューした漫才コンビ《漫画トリオ》の“決めネタ”であった。前髪を「J」の字にまとめて広い額にたらしてタコ踊りで笑いを取る横山ノック(のちに国会議員や大阪府知事を歴任した山田勇)がボケて、両端の横山パンチ(上岡隆太郎)と横山フック(轟〔とどろき〕盛次)がツッコミをいれる「ニュース漫才(コント)」で、「今週のハイライト」を話題にしながら時事風刺を行なったのである。《漫画トリオ》はこのネタを演(や)るときには、図1のような(“3人そろって日章旗”のような)ポーズを決めた。

【図1-2】本家、漫画トリオの「ぱんぱかぱ~ん、今週のハイライト!」
【図1-2】本家、漫画トリオの「ぱんぱかぱ~ん、今週のハイライト!」

「パンパン」を差別してきたのは誰か?

大竹まこと氏のラジオ番組のなかで、適菜氏が高市早苗をことを「令和のパンパン」と表現したことから、女性差別であるとか職業蔑視であるとかいう“クレームの嵐”がSNS界隈の“名無しの権兵衛(ケンペー)”たちのあいだで俄(にわ)かに沸(わ)きだして、文化放送の社長が謝罪するなど事態は例によって「言葉狩り」「言論封殺」の方向に動いているが、終戦直後に占領軍のヤンキー将兵にぶらさがらざるを得ず、それをやっかむ敗戦国民の“名無しの権兵衛”たちから「パンパン」と呼ばれて社会的に疎外された女性たちの人生をの悲惨を思えば、安直に「差別語」扱いして封殺するのはセカンドレイプのような虐待であることが容易にわかるはずだ。

当時の「パンパン」女性たちの心情を嘆いた「星の流れに」という歌がある。こんな歌詞だ――

星の流れに身を占って、何処(どこ)をねぐらの今日の宿。
荒(すさ)む心でいるのじゃないが、泣けて涙も涸(か)れ果てた。
こんな女に誰がした?

煙草ふかして口笛ふいて、あてもない夜のさすらいに、
人は見返る、我が身は細る。
町の灯影の侘(わ)びしさよ。こんな女に誰がした?

飢えて今頃、妹はどこに。一目逢いたい、お母さん。
唇紅(ルージュ)哀(かな)しや、唇かめば、
闇の夜風も泣いて吹く。こんな女に誰がした?

(作詞・清水みのる、作曲・利根一郎、歌・菊池章子)

従軍看護婦として満洲(奉天)に赴任していた女性が、戦争が終わって東京に帰ってみると、あたり一面焼け野原で、家族もすべて失われ、まったく寄辺(よるべ)がないので「娼婦」として生きるしかなくなり、その悲しみを手記にまとめた。これを新聞で読んだ清水みのるが“戦争への呪詛(じゅそ)”の歌として徹夜で詞を書き上げ、利根一郎も戦災孤児や「パンパン」が屯(たむろ)する上野駅の地下道や公園などで悲惨な現実を見ながら曲を作ったという。(ちなみにこの歌の原題は「こんな女に誰がした」であったが、GHQから「反米感情を煽(あお)る」とクレームがついて無難(ぶなん)な「星の流れに」に変更したという。占領米軍当局は天皇や帝国陸海軍のボスたちは容易に飼い慣らしたが、容易に懐柔できぬ日本国民には恐怖を抱いていたようだ。)

80年前、終戦直後の国民は、それこそ「パンパン」に“身を落とし”たり、「闇市」で政府いうところの「経済犯罪」となる「ヤミ売買」に頼らなければ生命維持すら困難だったのだ。つまり「パンパン」は大日本帝国の失政の悲惨な「産物」である。しかも8月15日の「玉音放送」の直後に、日本政府は早くも「上陸してくる占領軍から帝国婦女子の貞操を守るため」と称して、国立の性的慰安体制(「特殊慰安施設教会」のちに「RAA(Recreationand Amusaement Association)」と改称)を設置し、若い女性たちを大量に雇い入れて(占領軍の)性的従軍慰安婦として働かせ、ヤンキー将兵の大群に“人身御供”として提供した。それこそ「国定パンパン」「国立パンパン」を、日本政府が率先して“生産”して国家規模の管理売春をしていたのだ(詳しくはドウス昌代著『マッカーサーの二つの帽子(特殊慰安施設RAAをめぐる占領史の側面)』を参照)。

「パンパン」女性たちは身を売った。そして日本を「敗戦」に追い込んだ国陸海軍の高級司令官(天皇を含む)や参謀格は、GHQに媚(こ)びを売って(まさに「國家(くに)」を売って)命乞(いのちご)いを行なった。

731細菌戦部隊の総元締めだった石井四郎軍医中将はアメリカ占領軍の幹部と“ボス交渉”して、アジア地域の各地で展開した生物戦争のノウハウを米軍に提供することで「戦犯」訴追を免(まぬが)れた。参謀たちはGHQに媚びを売り、ネンゴロな説得を続けることで「日本再軍備」を追求しつづけ、朝鮮戦争をきっかけにこの“願望”が果たされて、それでいまの「自衛隊」がある。ついでにいえば昨今の世界をにわかに騒がせているハンタウイルス感染症だって、そもそもは石井731部隊が「朝鮮出血熱」として着目し、兵器化の研究を進めた病原体である。このウイルスの研究データが米軍に渡って以後の詳細な展開は不明だが、近年になってハンタウイルスに(新型コロナウイルスと同様に)遺伝子操作による「機能獲得研究」を施し感染力を格段に強めたウイルス株が作出されたことまでは判(わか)っている。米国が中南米を“実験場”として感染実験を企てた可能性は否定できないし、日本でだって石井四郎の母校で731部隊の“人材の草刈り場”であった京都大学に近すぎず遠すぎもしない大阪で、戦後1960年代まで「梅田奇病」などと呼ばれるハンタウイルス感染症がたびたび発生していたのだ。

敗戦によって国家存亡の危機に追い込まれた日本で、米兵相手に「からだ」を売った女たちがいたからこそ、この国は存続できたのだ……とさえ言える。もしも本土決戦になったり、敗戦直後にあまりの苦しさに堪(た)えられず悲観した女たちが次々と自殺していたなら、この国は今頃は、文字どおり亡びていただろう。

その意味で「パンパン」はまさに「畏(おそ)れ多くも賢い」国民の典型なのであった。彼女たちの「生存への執着」がこの国を救ったのだ。……それに比べて、ウソにウソを重ねて政界を渡り歩いてきた高市早苗はどうだろう? よほど下劣な生き方ではないか?戦後の「平和」と「繁栄」を享受(きょうじゅ)してきた我々は、「パンパン」を讃(たた)えて顕彰(けんしょう)すべきである。彼女たちの多くは、結局、病気などで不本意な一生を終えたにちがいないし、なによりも一般国民の蔑視を浴びながら寂しい生涯を送ったであろう。

「パンパン」を差別してきたのは戦後にのうのうと生きてきた我々自身である。

「紫」の意味をしらぬ“蓮っ葉むすめ”が
皇室を汚して「ポルノクラシー」をやらかす

4月10日に英国のハードロックバンド《ディープパープル》が来日し、東京に着くやただちに首相官邸を訪問した。サナエ総理は中学生時代からの「憧(あこが)れのバンド」と面会して大感激し、「夫とケンカした時は『バーン』を(ドラムで)叩いて呪いをかけています」と冗句を言ってサービスしたそうだ。バンドの公式インスタグラム(deeppurple_official)には面会時の記念写真が載っているが、なんと首相官邸内でサナエ総理もいっしょに日本公演をポスターを広げて宣伝している。首相官邸がこういう宣伝に利用され、家主の総理みづから嬉々(きき)としてチンドン屋の役割を演じているのだから、ロックを聴いて“ギャル発作”を起こすような蓮(ハス)っ葉(パ)な奴がこの先も総理大臣になるのであれば、こういう“表敬訪問”は増えるだろうな。

【図4】ディープパープルの公式インスタグラムに載った首相官邸での記念写真(4月10日)
【図4】ディープパープルの公式インスタグラムに載った首相官邸での記念写真(4月10日)

「バーン(BURN)」(邦題「紫の炎」)はディープパープルが“燃え尽きる”直前の、まさに“風前の灯火”のような楽曲だった。サナエ総理が小学生の頃に買ったというLP『マシンヘッド』収録の「ハイウェイスター」はギターの早弾き奏法をいわば“曲芸”に変えた作品であり、その意味ではロックギターの歴史に画期を成した名作だった。ギタリストのリッチー・ブラックモアはそれまでは「一曲ごとに演奏スタイルを変える」と豪語して極めて独創的な演奏スタイルを追求し続けた稀有のアーティストだったのだが、しかし「ハイウェイスター」の成功でその後は“曲芸弾き”を強いられるようになり、このバンドでの活動に飽きが来たのである。「バーン」のレコードジャケットは、メンバー全員の頭が蝋燭(ろうそく)になって、不気味な炎が灯(とも)っている(日本版の「紫の炎」も同じデザイン)。これは皮肉にも当時のバンドの気分を象徴している。この曲を出してまもなくバンドは空中分解したのだ。

ディープパープル(DeepPurple)の『紫の炎(BURN)』シングル盤レコードの、オリジナル(左)と日本版(右)のカバー写真
ディープパープル(DeepPurple)の『紫の炎(BURN)』シングル盤レコードの、オリジナル(左)と日本版(右)のカバー写真

自民党は五月二一日に《国力研究会》(英名「Japan is Back」、略称JiB)という、発起人たち自身にとっても予想外に大所帯の“(税金)盗賊団(バンド)”を発足させたが、ディープパープルの「紫の炎」に倣(なら)って「JiB」を“聖像(イコン)”に描くなら、図5のような“風前の灯火”の絵になるであろう。(サナエ総理の前髪は“横山ノック”のタコ頭ではなく、ジャパンのJである。)

【図5】《国力研究会》ことサナエ応援団の、風前の灯火の「紫の炎」
【図5】《国力研究会》ことサナエ応援団の、風前の灯火の「紫の炎」

ついでにいえば、ディープパープルは『マシンヘッド』を出した後に「ウーマン・フロム・トーキョー(Woman from Tokyo)」という楽曲を出した。このシングルレコードのジャケットは、梶芽衣子(めいこ)の「女囚さそり」を連想させるような(半世紀前の西洋人の、日本女性に対する、オリエンタリズムが混じった尖(とんが)ったイメージの)女性が写っているのだが、この曲はボーカルのイアン・ギランが来日公演で日本を“体験”して日本女性をたいそう気に入ったことで生まれたという。ディープパープルの「女」そのものをメインテーマに歌った数少ない楽曲で、オリエンタリズムへの過剰な憧(あこが)れが歌われている。

「紫の炎」と同様に、これもオリジナルのレコードジャケットはネットなどでご覧頂きたいが、サナエ・タカイチに関していえば、パット・シュローダー事務所に採用された彼女は、(彼女自身の発言がウソでないのなら)「コンウーマン・フロム・トーキョー(ConWoman from Tokyo)」だったということになる。

「コンウーマン」は「女詐欺師」を指すことばで、「コン(confidence)」すなわち「信頼」を裏切って詐偽を働く奴を「コンアーティスト(con-artist)」といい、男の詐欺師は「コンマン(con-man)」、女の詐欺師は「コンウーマン(con-woman)」という。

【図6】コンウーマン・フロム・トーキョー(左)とオリジナルの『ウーマン・フロム・トーキョー』(右)
【図6】コンウーマン・フロム・トーキョー(左)とオリジナルの『ウーマン・フロム・トーキョー』(右)

ハスッパ娘の癖(くせ)が抜けない“ロックおばさん”には想像もできないことなのだろうが、「ディープパープル(濃紫)」は、日本においては古来、皇室のもっとも高貴な格式を示す色彩であった。首相官邸で「濃紫」と称する“毛唐”の男たちの宣伝を、嬉々(きき)としてやらかす総理などというのは、明治維新期の“尊皇攘夷”勢力がもし今も存在していれば(きっともはや絶滅したであろうが)斬り捨てられるべき対象であったに違いない。

「国力研究会」という名のハレンチ

文化放送の「大竹まことゴールデンラジオ」で「サナエ令和パンパン説」が噴出した10日後に、自民党は、麻生太郎の号令で、来年以降も“サナエ総裁体制”を支え続ける拠点づくりとして、《国力研究会》という“派閥もどき”を発足させた。

「国力」とは何だろうか、と先ずもって疑問に思うわけだが、そういうマジメな疑問はどうやら無意味なようだ。なにしろ《国力研究会》の英語名は、主催者によれば「ジャパン・イズ・バック(Japan is Back)」で、略称もそれをそのまま約(つづ)めた「JiB」なのだそうだ。

「ジャパン・イズ・バック」は中学英語のレベルで訳せば「日本は帰ってきた」となるが、ならば一体いつ、日本は姿を消し、どこに帰ってきたのか? かつて安部晋三は「日本を取り戻(モロ)す!」をスローガンに唱えたが、これは米帝(ベ~て~)支配の「日本が米国に従属する“敗戦国”体制(レヂーム)」からの脱出をハッキリと意味していた。

ならばサナエ総理が唱える「帰ってきた」とは何か? 日本は国連体制に「帰って」きて(1956年12月13日)もうすぐ70年になるし、ほかに“失踪(しっそう)”していたこともない。要するに「ジャパン・イズ・バック」を言挙(ことあ)げしている連中は、無用な劣等感で身を焦(こ)がす“中2病”のガキンチョのようなものだ。

一国の与党の政治家たちが「JiB」などという結社に押しかけたわけだが、ならば「JiB」とは何かと英和辞書を引くと、「jib」の第一義は「【名詞】尻込みする動物(馬など)、【動詞】尻込みする、怯(ひる)んで立ち止まる」であるという。これはまさに自民党の議員たちの憶病(おくびょう)ぶりを示す言葉だ。

しかも「jib」の第二義は「CIAの工作員が用いる替え玉人形(Jack In the Box dummy)」の略称なのだという。これもまさに、米国のスパイ組織であり続けた自民党の本質を喝破(かっぱ)する言葉である。

ところで「こくりょく研究会」を英語でいうと、どういう意味になるのか? 日本語の発音にいちばん近い英単語を探すと、「こくりょく」は「Cock-Lick」になるが、これは「陰茎(コック)を舐め回す(リック)」という意味になる。フェラチオである。『紙の爆弾』5月号でアベ政権の(そしてサナエ政権も)悪弊(あくへい)は「悪友内輪(ワルダチ)政治(フェラクラシー)」(fellaは「友だち(fellow)」の口語表現)であると指摘したが、こんなところで自民党の「おフェラ」が復活するとは思っていなかった……。

「香害」と電磁波 ── 科学的根拠と疑似科学の境界線

黒薮哲哉

「香害」に科学的な根拠はあるのか、それとも疑似科学なのか? この問いと並行して語られるテーマに、電磁波による人体への影響をめぐる議論がある。電磁波による人体への影響に科学的根拠があるのか、それとも疑似科学なのかという問いは、「香害」と同様に重要なテーマである。

2005年から、わたしは電磁波問題を取材してきた。そもそもの動機は、自宅がある集合住宅の屋上に携帯電話の基地局を設置したいという打診がNTTドコモとKDDIからあり、マンションの管理組合で話し合うことになったことである。しかも、基地局は、わたしの書斎の天井を隔てた真上に設置する計画だった。幸い、管理組合が「NO」の判断をし、計画は中止になった。

携帯電話の基地局からは、マイクロ波(電子レンジにも使われている電磁波)が放出される。わたしは電磁波関連の書籍や記事を参考にして、人体に有害であるという結論に達した。わたしが参照した資料によると、基地局の周辺で、目まい、吐き気、耳鳴り、食欲不振、不眠、精神不安などが多発しているという。アンケートなどを根拠に、電磁波は「有害」という結論を出している論考が目立った。

さらに、基地局周辺では、癌の発症率が高いとするデータも紹介されていた。

わたしはこれら情報を信頼していた。事実、電磁波の取材を始めたころに執筆した二冊の書籍、『あぶない!あなたのそばの携帯基地局』(花伝社)、『電磁波で苦しむ人々』(花伝社)には、市民運動体が実施したアンケートを根拠に、携帯電話基地局の周辺で健康被害が多発していると記した。

しかし、その後、検証を重ねるにつれて、奇妙なことに気付いた。日本全国には数え切れないほどの基地局が設置されているが、その99%からは健康被害の報告がないという事実である。一方、市民運動団体が撤去を求めている基地局に限って、健康被害の存在が主張されている。しかも、その「事実」の裏付けとなっているのは、おもに市民運動団体が住民を対象に実施したアンケートである。

アンケートの結果は、実施者の設問や説明の仕方によって大きく左右される可能性がある。アンケートを実施する前に、「基地局の周辺で健康被害が相次いでいますが、あなたは何か体調の異変を感じませんか?」というような説明をされると、回答が誘導される可能性が高い。というのも、目まい、吐き気、耳鳴り、食欲不振、不眠、精神不安といった症状は、電磁波の有無とは無関係に生じることがあるからだ。設問の立て方によっては、体調不良をすべて電磁波に結び付けることになりかねない。

こうした検証結果から、わたしは電磁波についての見解を変えた。残念なら、『あぶない!あなたのそばの携帯基地局』と『電磁波で苦しむ人々』の内容は解釈の一部に誤りがある。

◆「携帯電話基地局の周辺で癌が多発」は事実

しかし、それが「電磁波は安全である」という結論を導くものではない。というのも、携帯電話基地局の周辺で癌が多発していることを示唆する科学的、かつ客観的な疫学調査が複数存在するからだ。

たとえば、ブラジルの大学が実施した調査では、癌で死亡した人の自宅と、最も近い基地局との距離を測定した。この方法で7000件余りのケースを調査したところ、発癌と基地局との関係が示された。ドイツやイスラエルの調査でも、類似した方法論で導かれたデータが報告されている。

となれば、やはり基地局を無制限に設置することには問題がある。

【参考記事】地局の周辺ほど癌が多いことを示すブラジルの疫学調査、癌による死亡7191例と基地局の距離の関係を検証 疫学調査①

わたしも含め、情報は十分な検証を経て拡散すべきだろう。あくまで科学的な根拠に基づいたデータが必要だ。もちろん、予防原則を重視し、少しでも健康被害の可能性があれば対策を取る必要はある。しかし、「香害」と同様、少なくとも主観で左右されるアンケートのデータを過信することには問題がある。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月2日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

ロシアのアジア問題第一人者、プーチン大統領の択捉島訪問を建設的に批判

アンドリュー・コリブコ

プーチン大統領の択捉島訪問をめぐり、ロシアのアジア専門家トロラヤ氏は、日米との緊張を高め、ロシアの外交的選択肢を狭める可能性を指摘した。背景には、米英豪の安全保障枠組みAUKUSと日本などの協力拡大があり、米日韓と露中朝という二つの陣営への分断が進む可能性がある。

ロシアのアジア専門家トロラヤ氏
ロシアのアジア専門家ゲオルギー・トロラヤ氏

※   ※   ※   ※

ロシア国内で、ロシアの外交政策に対する建設的な批判が表に出ることは極めて珍しい。ましてや、その分野の第一人者であるトロラヤ氏のような専門家から批判が出ることは、なおさらである。

ゲオルギー・トロラヤ氏を「ロシアを代表するアジア問題の専門家」と呼んでも、決して大げさではない。同氏は数々の肩書や実績を持ち、その一つが、ロシア科学アカデミー経済研究所の「アジアにおけるロシア戦略センター」所長である。

だからこそ、ロシアの有力シンクタンク「ヴァルダイ・クラブ」に寄稿した最新の分析で、トロラヤ氏が最近の日露間の緊張について建設的な批判を行ったことには、大きな意味がある。

この緊張は、プーチン大統領が前例のない択捉島訪問を行った後に高まった。択捉島は、日本政府が自国領であると主張する北方四島の一つである。トロラヤ氏はまず、かなり大胆な予測を示した。

「将来の歴史家が、アジアにおける新たな地政学的構図の出現を、この出来事から始まったと位置づける可能性は十分にある」

そして、次のように説明している。

「もしワシントンが、ロシアの対日姿勢の変化を単発的な出来事としてではなく、モスクワが『太平洋の大国』としての地位を確立しようとしている証拠だと受け止めるなら、米国はまさにその次元で、この挑戦に対抗する可能性がある」

その場合、地域の安全保障環境を大きく変えるような、段階的なエスカレーションが起こる可能性があるという。トロラヤ氏は、その流れを次のように説明している。

  1. 外交的な抗議
  2. 新たな制裁
  3. 千島列島周辺での偵察活動の強化
  4. 北海道での日本の軍事演習
  5. 日米共同軍事演習
  6. 米海軍のプレゼンス拡大
  7. 日本による新たな長距離ミサイルの配備
  8. 米国の攻撃システムの一時的な配備
  9. 米国のミサイルの恒久的な配備

原文ではこの後の記述がやや不明瞭になっているが、最後の段階として、日本が核武装へ向かう可能性を示唆している。まさに「アジアにおけるロシア戦略」を専門とするトロラヤ氏は、さらに次のように結論づけている。

「ロシアのアジア太平洋政策全体という観点から見ると、従来の『多極型』モデルは、今や決定的に崩壊した。このモデルでは、ロシアは日本や韓国など、他の有力国との関係を利用することで、中国への依存を『バランスさせる』という選択肢を持っていた」

つまり、これまでのロシアには、中国との関係を深めながらも、日本や韓国とも関係を維持し、中国への過度な依存を避ける余地があった。しかし今回の展開によって、その外交的な選択肢が失われたという見方である。トロラヤ氏はさらに、この動きによって、「米国・日本・韓国」と「ロシア・中国・北朝鮮」という二つの陣営の形成が加速する可能性があると予測している。最後にトロラヤ氏は、次のように述べた。

「ロシアはアジア太平洋地域で戦略的な存在感を高める一方、外交的に動ける余地を失う可能性がある。現在の世界的対立の段階では、このような『交換条件』は正当化できるように見えるかもしれない。しかし、アジア外交ははるかに長い時間軸で物事を考えることに慣れている。
 ロシアの選択肢が狭まっているという印象を与えないことが重要であり、長期的に信頼でき、予測可能なパートナーであるというロシアの評価を維持し続ける必要がある」

ロシア国内では、ロシアの外交政策に対する建設的な批判が公に示されることは極めて珍しい。特にトロラヤ氏のような、その分野を代表する専門家の場合はなおさらだ。

そのため、この分析の行間を読むならば、トロラヤ氏は、プーチン大統領の択捉島訪問が長期的かつ重大な戦略的影響をもたらすと考え、その訪問を残念に思っている、と解釈することもできる。ただし、トロラヤ氏の業績に敬意を表しつつも、彼の分析では一つの可能性が十分に考慮されていない。

それは、プーチン大統領自身が、こうした一連の動きはいずれにせよ避けられないと考えている可能性である。米国がアジアで進めている計画を考えれば、そのような判断にも一定の合理性がある。

その米国の計画は、簡単に言えば、NATOに似た軍事ネットワークをアジアに構築することだと説明できる。この記事では、それを「AUKUS+」と呼んでいる。詳しくは原文でリンクされている別の記事で説明されている。

【黒薮注】AUKUS+:「AUKUS+」とは、米英豪3カ国の安全保障枠組みとして、それを日本、韓国、カナダ、ニュージーランドなど他の同盟・友好国との協力へ広げていく構想。インド太平洋における、より広い軍事・技術協力ネットワークの構想。日本政府にとって、憲法9条がこの構想の障害になっている可能性が高い。

また、この構想は、米国のエルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)が、プーチン大統領の訪問に先立つ8月初めに語った内容ともつながっている。したがって、プーチン大統領がロシア極東への訪問予定の一環として択捉島を訪れたのは、

「米国がアジアで何を計画しているのか、ロシア側は把握している。そして、それに先手を打って対応する」

というメッセージを送るためだった可能性もある。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月7日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/russias-top-expert-on-asia-constructively?utm_campaign=post&utm_medium=web