中国レポート① 好調な経済、破綻はあり得ない、現実の世界と西側メディアが描く空想の世界の乖離

黒薮哲哉

階段を這うように登る4つ足のロボット。荒漠たる大地を矢のように進む時速450キロの新幹線。AI産業に彗星のように現れたDeepSeek-R1。宇宙ステーションから月面基地への構想。学術論文や特許の件数では、すでに米国を超えて世界の頂点に立った。中国の台頭は著しい。2024年度の貿易黒字は、9921億ドル(約155兆円)を記録した。貿易には相手国があるので、数字を偽装することはできない。

◆豊饒な食

筆者は、2024年9月から、2025年1月までの5カ月のあいだ中国の遼寧省に滞在して、この国の日常を凝視した。

この町に住んで最初に筆者が感じたのは、豊饒な食である。日常の中で食生活にまつわる場面が展開している。団地のマンションは、ベランダを台所に割り当てたものが多く、冬には湯気で白く曇ったガラスの向うで動いている人々の姿が浮かび上がる。

市場では、大胆に食材が捌かれる。鮮魚売り場では、エプロンをした店員が、プラスチック製の塵取りで、エビや貝を掬い取って袋に詰める。日本のように少量のパック詰めにはしない。精肉店では店員がナタのような包丁を振り上げて、あばら骨が付いた豚肉を砕き、それをビニール袋に詰めて客に手渡す。大量に購入して、冷凍庫で保存したり、親戚に分けしたりする。少量では販売しない店もある。果実店売場では、店員が手の平をがんじきのようにして、大きなビニール袋にミカンを掻き入れる。食品を販売するスケールが、日本に比べてはるかに大きい。

市場近辺の路地には、露天商らが店を設置している。屋台を構えた店だけではなく、歩道に段ボールや板を敷いて、その上に果実などを並べている所もある。街路樹と街路樹の間にロープを張って、そこに衣類をかけて露店販売をしている店もある。

露天商といえば日本では貧しいイメージがあるが、中国では一概にそうとも言えない。「農家ですから、われわれよりも金持ちですよ」と言う人もいる。露店で販売されている果実は、マーケットで販売されているものよりも品質が高い傾向がある。実際、味覚にほとんど外れがない。露店商が成り立つゆえんである。

インターネットを駆使した販売は露店でも定着している。電子マネーの決済はいうまでもなく、メールマガジンで客に、商品情報を送る店もある。外見は質素に見えても、路地裏にまで近代化の波が押し寄せている。もはやひと昔まえの中国ではない。

ちなみに現金も流通している。電磁マネーしか使えないという情報は正確ではない。

◆北京・観光客の波

入国からおよそひと月が過ぎた2024年10月、筆者は旅行会社のツアーで北京市を観光した。

万里の長城は北京市の中心から、登り口までがおよそ140キロに位置している。徒歩で山道を登るコースと、ロープウェイで頂上へ向かうコースがある。わたしはロープウェイを選んだ。ジェットコースターに類した乗り物が敷設されていて、係員が客を一人ずつ1ユニットに乗車させ、安全具の装着を確認する。スキー場のリフトのように回転が速いので、大量の客を効率よく送り出す。

ロープウェイが急斜面のトンネルの中を這うように登っていくと、やがて青空の下に緑の山腹が姿を現す。さらに登ると頂上の駅に到着する。

幾つにも重なる山々の稜線に沿って、城壁が遠方まで波のように続いている。その城壁上の路が空に向かって急こう配で伸びている。蟻の群れのように路上で動いている赤や青の点は、観光客のジャケットである。

しかし、観光客の波という点でいえば、北京市の中心にある故宮博物館(紫禁城)は、万里の長城とは比較にならない混雑ぶりだった。平日だというのに、初詣を迎えた日本の寺院のように、人であふれていた。正直なところ古代へのロマンに浸りながら、建造物を鑑賞する雰囲気ではなかった。

旅行案内書によると、故宮は東京ドーム8個分の広さである。その領域が人で込み合っている。ガイドに先導されて、故宮の出口にたどり着くまで、3時間ほどを要した。大通りの歩道にも人が溢れていた。観光産業の繁栄は、好調な経済の反映にほからない。

◆共働きの平均収入が400万円の遼寧省

ジェトロ(日本貿易振興機構)のデータによると、遼寧省の在職労働者平均月間給与は、7909元(16万6000円、2022年度)である。年収にするとおよそ200万円。夫婦が共働きしていれば、家計収入が400万円程度になる。為替レートで換算した日本の収入水準に比べると低いが、それをもって消費生活が日本よりも低迷しているということではない。

次に示すのは、買い物レシートから抜粋した物価である。()内は、円に換算した物価である。購入場所は、鞍山市のマーケットである。

500ミリリットルのペットボトル:1元(21円)
大サイズのリンゴ2.1キログラム(5個):23.5元(493円)
小粒のミカン1.9キログラム:15元(315円)
キャベツ1個(2.9元)(61円)

食品以外の物価も記録しておこう。滞在中にパソコンのマウスが故障して、家電専門店でマウスを購入した。ワイヤーが付いたタイプで、価格は16元(336円)だった。Cadeveというメーカーのもので、性能は日本で購入するものと変わらなかった。

遼寧省大連市で、地下鉄に乗った。乗車賃は一律2元(42円)。70歳から無料になる。地下鉄の運賃も、日本とは比較にならないほど安い。

ただ、スマートフォンやブランド品などはかなり高価な価格設定で、日本と変わらない。総括すると、中国では最低限の生活は保障されていると言える。実際、「子ども食堂」や「年末の炊き出し」といった日本ではホットな話題は聞いたことがない。スラム街も見あたらない。平日の午後に大きな公園へいくと、高齢者がダンスやカラオケを楽しむ光景に遭遇する。定年後もあくせくと働かなければならない状況ではないようだ。

生活の質は実際に現地で生活してみなくては見きわめが着かない。GDPや平均年収の世界ランキングと一致しているわけでもない。それは国の政策によって大きく左右される。中国にも格差は存在するが、それは社会主義の段階ではまだ想定内のことであって、後進国であるかのような捉えかたは、実態とかけ離れている。

◆「先進国」に特徴的な輸出傾向

わたしが中国に滞在した5カ月に焦点を当ててみても、経済に関わる大きな出来事がいくつかあった。たとえば昨年の11月に、中国の支援でペルー政府が、首都リマの郊外に最新鋭の設備を備えた港を開港した。この港がラテンアメリカとアジアを結ぶ海の玄関となる。

さらにペルーからアンデス山脈を縦断してブラジルの大西洋へ通じる鉄道の敷設計画も明らかになった。ペルーから中国製品が南アメリカ全土へ行き渡り、南アメリカからおもに農作物や鉱物が中国へ入ってくる。中米ニカラグアの太平洋岸から、内陸の湖を経由してカリブ海へ通じる運河の建設計画もある。中国とラテンアメリカは年々距離を知締めている。

今後、中国から電気自動車など、最新のテクノロジーを取り入れた重工業製品が輸出されていく可能性が高い。それは「先進国」に特徴的な輸出の傾向である。

◆経済破綻などまずありえない

日本のマスコミの大半は、中国経済が明日にでも崩壊するかのような報道を繰り返してきた。その予想の拠り所となってきたのが、不動産不況である。しかし、中国では、日本のバブル崩壊のような現象は起きなかった。

その要因として、中国研究の専門家・遠藤誉氏は、「六大国有銀行の自己資金率が非常に高く保たれている」ことを上げている。

また、「2022年末で、国有銀行が不動産事業に融資している貸出割合は6%に過ぎない」ことも別の要因である。(出典:「中国がGDP成長率発表 数値に疑問を呈した中国のエコノミストの正当性は?」)。究極のところ、中国経済を日本と同じ資本主義の国だという誤った前提で捉えていたということである。

しかし、中国はすでにITやグリーンエネルギーなど新しい産業分野の創出に成功している。しかも、今後、輸出がますます拡大していく。日本の経済誌が繰り返してきた経済破綻などは、まずありえない。

◆西側が描く空想世界と乖離する中国の現実世界

5カ月の滞在日で、中国で最も印象に残っているのは北京市の夜である。渋滞した車列の傍らを、赤い尾灯を光らせたバイクと自転車が早瀬のように流れていく。頭上にはネオン。自転車に人民服を着た人がまたがって街を移動していた時代の面影はない。中国の変化は著しい。現実の世界と西側が描く空想の世界の乖離はますます広がっている。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年3月5日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

万博会場の隣で建設工事が本格化! 大阪維新が露骨にIRカジノ建設を急ぐ理由 

尾﨑美代子

◆IRカジノ建設のための大阪万博開催

IRカジノの建設工事が4月24日から始まるという。4月13日、大阪・関西万博が始まったばかりというのに。ははは、わかりやすいね。万博が始まったものの、完成していないパビリオンもあるというのに、すぐ近くでカジノの建設工事が始まるというのだ。さすがにカジノ(ばくち場)の建設・整備事業のために税金は使えないだろうということで、道路などのインフラ整備工事を「万博のため」とやってきた。そんなことはもう大阪の人はみんな知っている。

それにしてもあからさま。万博の隣でドッカン、ドッカン工事が始まり、建設資材や作業員を乗せた建設車両が万博のそばを行きかうんやで。

しかも下の地図でもわかるように、夢洲駅からは万博会場よりもカジノ建設現場に行く方が近いやんけ。またこの記事には書かれてないが、夢洲駅から万博会場に向かう道路よりも、カジノ建設現場に向かう道路の方がよほど整備されているのだと。露骨やなあ。

それにしてもここまで露骨にカジノ建設工事を急ぐのは、維新も万博はもう失敗だったと認識しているから。始める前から失敗はわかっていた。だってこの、2025年に「空飛ぶ車」とか「人間洗濯機」とか「機運醸成」とか言う? 「三者凡退」の世界かよ。そんな昭和のおっさんだけがずらりと並んだ開幕式のテープカット、「ちょっとこれはまずいでしょ?」と意見する人もいなかったのか。東京五輪の映画監督を務めた河瀨直美があれだけ批判され、あげく映画もさんざんだったのに、また今回も起用するという時点で、もう万博はどうでもいいんですが感が漂っていたが。ここまで露骨とは驚き。

つまり、維新は、万博を成功させようとかは全然考えていない。自分らの関係する業者が儲かればいいだけ。カジノ建設工事を急ぐのもそのため! 万博コケて、維新もコケてしまったら大変。だったら、今のうちに儲けておこうということ。

夢洲カジノは、もともと富裕層を呼び込むジャンケット業者(富裕層をカジノへ招待し、航空券、ホテル、滞在中の移動や食事などを世話をする職業)が入らない。しかも夢洲カジノに入るのはほとんどはスロット、新今宮駅前にドンキと併設して入るマルハンと一緒やで。そこに高い入場料払っていくか?

◆「今だけ、カネだけ、仲間の業者が儲ければいいだけ」

維新のやることは全て同じ。新今宮駅の北側に建設された星野リゾート、その近くにJR高架下に出来た屋台村、ずっと閑古鳥泣いてたが、すべて撤去された。

その近くに出来た横丁的なビル、毎朝その前を通っているが、表通りに面した2件の店舗、1件は高級和食店みたいな店名の看板を上げていたし、胡蝶蘭も飾られてたが、結局開店前に看板下ろしたし、隣のおされなカフェは開店、若いおされな店員が寒い冬に表で客引きしていたが、もう閉店した。

2019年、大阪城公園内に肝いりで開業した、吉本が外国人観光客目当ての出し物「KEREN」なんか、開業直前に知り合いの知り合いの男性から「吉本のお偉いさんに叱られるから来て!無料券あります」とメールきたで。結局、維新の造園業者にバッサ、バッサと木を伐採させ、「KEREN」を作り、吉本芸人にちょっと儲けさせただけ。 それよりアソコ、今、息してんの??

とにかく、維新のやることは全て同じ。「今だけ、カネだけ、仲間の業者が儲ければいいだけ」。だから、「コケる前に工事行っとけ」ということ!
維新の万博、失敗してもいいが、これ、税金やで。おい。

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

4月24日(木)夕刻、尾﨑美代子さんが京都で冤罪テーマの講演を行います!

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

広島8・6平和記念式典 パレスチナ国含む全ての国・地域『案内』へ 市長は米国忖度路線の修正加速を!

さとうしゅういち

広島市は、2025年から8月6日の平和記念式典について一部の国を「招待」するのではなく、すべての国と地域を「案内」する方針に変更しました。

松井市長は4月11日の定例記者会見で「式典の原点に立ち返ろうと考えた。式典への参列は当然、被爆者への慰霊があるが、同時にヒロシマの心への理解を深めるという視点もありこれをより明確にするべく見直しをしている」と述べました。そのうえで「紛争をしている国のどっちを呼ぶ、呼ばないというような次元ではないと伝えたい。そういうことを超えて、理想的な世界のために式典や被爆の実相を見ていただくことに尽きる」としました。

広島市は2022年以降の式典にはロシアとベラルーシを招待しませんでした。『10.7』後の2024年にはイスラエルは招待するのにパレスチナ国は招待しない式典の在り方に市内外から疑問の声が出ました。

また、2023年のG7広島サミットを前に『はだしのゲン』や『第五福竜丸』が平和教材から削除される事件も発生。さらに、原爆について米国政府が謝罪も反省もないまま、平和記念公園とパールハーバーの姉妹協定が締結されました。広島瀬戸内新聞と筆者は『米国・バイデン大統領への忖度ではないか』と疑問を呈してきました。

24年の式典は入場に当たって関所を2か所もクリアしなければなりませんでした。これについて、広島瀬戸内新聞と筆者は過剰警備・過剰規制ではないかと指摘もしました。

また、実際に行政を動かすためにネットで署名運動を提起。2024年7月30日に広島市に対して「パレスチナ国を含む全ての国を平和記念式典に招待してください」という趣旨の署名1万1524人分を広島市に提出。同年9月の広島市議会には同様の趣旨の陳情を提出しました。皆様のご署名も、広島市長を動かす背景になりました。

2024年7月30日に広島市に対して「パレスチナ国を含む全ての国を平和記念式典に招待してください」という趣旨の署名1万1524人分を広島市に提出

地方自治体としての広島市が主催する平和記念式典は、(国家の政治的意図とは一線を画し)やはり、世界中の人々と原爆犠牲者への追悼とともに核兵器廃絶・世界恒久平和への思いを共有する場である。松井市長の今回の方針転換は、その原点に戻る一歩です。改めて、署名活動にご協力をいただいた市民の皆様に深くお礼申し上げます。

被爆80周年でもある2025年。広島瀬戸内新聞は、世界最初の戦争被爆地・広島の庶民派メディアとして、核兵器廃絶、そして、ウクライナ・パレスチナを含むすべての戦争の終結と平和構築へ、皆様とともに先頭に立って参ります。

◆米国、ロシア、イスラエル、ハンガリー、朝鮮の『権威主義の五角形』、米国忖度の前提すら崩壊

筆者は、平和記念式典はあくまで地方自治体の開く行事であり、日本政府とは一線を画すべきと考えています。ただ、いまや、米国に忖度する前提も崩れているのではないでしょうか?

まず、米国こそがいま、ロシアのプーチン大統領(ICC=国際刑事裁判所が逮捕状を発行)にすり寄っています。そして、ウクライナの領土はロシアに、鉱物資源は米国にという分割を行おうとしています。

また、4月中旬にロシアのミサイルでウクライナ市民34人が死亡したとされる事件ではトランプさんは「ロシアのミスがあったと聞いている」としてロシアを擁護しています。

また、プーチン政権を批判したロシアの女性研究者の米国への再入国が米当局により拒否されるという事件も起きています。トランプさんの差し金で、プーチンさんに忖度したとみられてもおかしくはない。

既報の通り、こうした中でロシア軍の撤退を求める国連総会決議にはロシア、ベラルーシだけでなく、イスラエル、米国、ハンガリー、朝鮮(金正恩さん)も反対しました。ロシア肩入れという意味でこれら米露イスラエルハンガリー朝鮮という五角形の連携ができつつあります。こうした中で日本政府も米国忖度の大義名分を失いつつあります。一方、中国やインドはウクライナ問題に関する決議ではロシアに配慮はしているものの、欧州やウクライナが出した決議には反対もせず、棄権としています。米国こそ、親イスラエルに加え、最大の親露国家となっています。

なお、ウクライナのゼレンスキー氏は、10.7当初はネタニヤフ被疑者を全面支持していましたが、ネタニヤフ被疑者に完全にはしごを外された形です。ともかく、米国に忖度してロシアを除外、という大義名分は失われました。

◆欧州のイスラエル寄り姿勢に変化

一方、イスラエルは、2023年10月7日のハマス政権による攻撃に対する反撃すると称してガザで5万人以上の子どもを含む市民を虐殺。ただし、イスラエルは10月7日以前も、毎日のように、どこかでパレスチナ人の家を燃やし、畑を奪い、車を壊す。そんな暴挙を続けていたのです。

そして、2025年1月にはいったん停戦合意がされたものの、イスラエル側は3月には侵略・虐殺を再開し、停戦合意を崩壊させました。また、イスラエルはシリアやレバノンにも攻撃を繰り返しています。

イスラエル首相のネタニヤフ被疑者は、国際刑事裁判所から逮捕状が出ています。こうした中で、バイデン時代にすでにイスラエルの侵略反対のデモをしていた学生への弾圧は始まっていましたが、トランプさんがそれをさらに強化しています。

4月15日現在、米国永住権獲得済みの留学生や研究者がイスラエルを批判しただけで拘束されたり国外追放になったりしています(当事者が裁判で反撃中)。こうした中、以前は、イスラエル寄りだった欧州が次々とパレスチナを国家承認する動きを見せています。2024年のアイルランド、ノルウェー、スペインに続き、2025年6月にもフランスがパレスチナ国を承認する予定です。

◆トランプ関税で広島も『被害』

また、対中輸入に対する125%に加え、日墨加が主の自動車もトランプ追加関税の対象です。台湾が主な米国にとっての輸入先である半導体もトランプさんから『台湾の工場を米国に移せ』と要求される始末です。

トランプ氏は安全保障を盾に、日本や台湾に無茶な要求をする可能性は今後も高い。日本に対しては米国製の武器をもっと買え、というのがメインになるでしょう。ただ、日本や台湾、あるいは韓国もビビってはいけません。かつて、1980年代から90年代にかけて、日本は自動車や半導体などで米国に大幅譲歩しました。しかし、米国が『コラえて』くれたでしょうか?答えはノーです。エスカレートするだけでした。

そもそも、日本や韓国が米国製の武器をたくさん買っても中国と本気で軍拡競争になったら勝てるでしょうか?冷静に考えて答えはノーでしょう。また、台湾についても、半導体産業が台湾に集積している限り、それを破壊するような武力侵攻など愚かな真似はしないでしょう。

そもそも、長期的な西洋の没落の流れがあるのに、特に地元の岸田総理の時代、G7広島サミット開催があったにしても、米国に忖度しすぎていました。『米国忖度路線』が変化することを期待するとともに、過剰警備・規制など式典の在り方やパールハーバーとの姉妹協定関連事業についても、引き続き注視します。

さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎X @hiroseto https://x.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/
★広島瀬戸内新聞公式YouTubeへのご登録もお待ちしております。

◎鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/

マツダ車にも25%のトランプ関税! 広島はG7サミット以来の「米国忖度都市」から引き返そう!

さとうしゅういち

日本時間の2025年4月3日、米国のトランプ大統領は、米国製以外のすべての自動車に25%の関税をかける、と発表しました。また、日本など(米国にとっての)諸外国は「非関税障壁」で米国からの輸入を妨害していると決めつけ、「相互関税」と称して自動車以外についての完全を一方的に決定しました。対中華人民共和国が34%、対台湾34%、対日本24%、対EU20%、対イスラエル17%などです。

広島でも例えば、米国に日本から輸出されるマツダ車にもマツダの米国工場が日本から輸入する部品にも関税がかかることになります。

◆米国自身が最終的には打撃を受ける

ただ、そもそも、米国はIT関係や宇宙関係、農業や金融は別として、多くの産業が空洞化しています。いまさら、輸入品に関税をかけたとしても、米国産業が復活するとは思えません。そもそも関税は米国に輸出する日本企業が払うものではなく、米国の輸入企業が払い、最終的には米国の消費者が負担するものです。

米国政府の税収は増えるでしょうが、凄まじい物価高騰で米国の消費者が打撃を受けるだけです。

◆トランプ体制永続化へ、関税でパフォーマンス?

1980年代末の冷戦構造崩壊後、米国は、ブッシュ父─クリントン─ブッシュ息子の歴代大統領が約20年にわたり、自由貿易を金科玉条としたグローバリズムを進めてきました。それによって、一部の米国の大金持ちが儲かったのも事実ですが、多くの庶民が格差拡大で取り残されてしまいました。それに対する不満が強まったのが、2008年のリーマンショックで、民主党のオバマ大統領は格差是正を掲げて当選。ところが、十分な成果が上がらず、2016年の大統領選挙でトランプさんがいわゆるラストベルトの労働者層の支持も集めて当選。

ただし、一期目のトランプさんが思ったほどの成果がなく、2020年の大統領選挙では民主党のバイデンさんに大統領の座を奪われてしまいました。しかし、2024年大統領選では、バイデンさんの途中リタイヤという民主党側のアクシデントにも漬け込む形でトランプさんが復活。効果が本当にあるかどうかは別として「グローバリズムに対抗しているパフォーマンス」として関税があるのではないでしょうか?

ただ、合衆国憲法上、トランプさんは三期目の大統領にはなれません。だからパフォーマンスの意味はないように見えます。しかし、次はトランプさんが副大統領として立候補し、大統領には当選後すぐにやめてもらい、トランプさんが昇格という抜け穴を使うのでは?という説もあります。トランプさんは、イスラエルのガザでのパレスチナ人虐殺を批判した外国人学生への弾圧も強めています。令状なしでいきなり拘束された外国人研究者もおり、事実とすれば中国等よりも酷いと思われる状況が一部で生じています。こうした『独裁』はいずれ、『トランプさんたちが気に入らない』米国人に対しても向かうでしょう。そうした独裁体制を続けるためにも、関税で求心力を高めることは必須なのかもしれません。

◆G7広島サミットで「忖度」も米国に完全にコケにされた広島

広島市では地元選出の岸田文雄総理(当時、爆心地の広島1区が選挙区)が主導して2023年にG7広島サミットが開催されました。このころから、広島の米国への忖度が加速しているように思えます。具体的には、2023年度から平和教育の教材から「はだしのゲン」や「第五福竜丸」が削除されています。

サミットで採択された「広島ビジョン」は西側のみの核兵器保有を正当化し、核兵器の先制不使用にすら踏み込まない、西側、特に米国のご機嫌取りの文書でした。

また、サミット後には当時のエマニュエル駐日大使が主導する形で広島市=平和記念公園と米国政府=パールハーバーの姉妹協定が結ばれてしまいました。米国はいまだに、原爆投下への反省も謝罪もありません。しかし、この姉妹協定で『米国は広島に原爆投下を許してもらった』というイメージを広げてしまっています。

2024年8月6日、平和記念式典でエマニュエル駐日大使に頭を下げる松井一實広島市長。同大使SNSより

さらに、広島市は2022年2月のロシアのウクライナ侵攻開始以降、8.6の平和記念式典にロシアとベラルーシを招待していません。原爆を投下しても謝罪も反省もない米国や、2023年の〈10.7〉以降、パレスチナ人の虐殺を加速させているイスラエル、日本とは正式な国交のない朝鮮(金正恩氏)は招待しているのと比べても奇異に映ります。パレスチナ国を招待していないことと併せ、米国忖度と言われても申し開きは出来ますまい。2024年の8.9平和祈念式典にイスラエル招待は見送り、パレスチナは招待した長崎市と比べても、異常です。

だが、これらの『忖度』にもかかわらず、2024年5月には、当時のバイデン政権が臨界前核実験をしていたことを公表。そして、トランプ政権に交代してからは、マツダ車に25%の関税をかけられてしまいました。まさに、踏んだり蹴ったりです。

◆ロシア・イスラエル・ハンガリー・朝鮮との「権威主義の枢軸」へ突き進む米国

既報の通り、ウクライナ和平では、トランプさんはロシアのプーチン大統領の肩を持っています。そして、欧州やウクライナが提出しているロシア軍の撤退を求める国連総会決議案にロシア、米国、イスラエル、ハンガリー、朝鮮が反対をしました(欧州や日本は賛成、インドや中国、アラブ諸国の多くは棄権)。独裁的な体制のことを「権威主義」とも言いますが、まさに、米国はロシアやイスラエルやハンガリー、朝鮮など「権威主義」の国とお仲間になったのです。もはや、建前であっても自由や人権の側に立つ米国政府は存在しません。

◆広島は米国忖度路線から脱却を、日本政府は冷静に対策を

広島市や広島県は、今回のトランプ関税を契機にサミット以来の米国に忖度する路線を卒業するときです。米国は、甘い顔をすればするほど、結局増長するだけ、ということは皆様もお分かりになったと思います。核兵器廃絶については、ここ2、3年のような米国政府に忖度する姿勢は捨て、平和首長会議加盟の世界の自治体やNGOなどとの「横のつながり」を重視しようではありませんか。

他方で、筆者は米国に報復を!という論調に対しても慎重です。米国についてはなるべくスルーし、その間に、日本自身の立て直しに全力を尽くすべきです。

まず、第一に、日本政府は財政出動により、日本国内産業への打撃を押さえるべきです。また、減らしすぎた大学予算を見直しなどして研究開発を活性化していくべきです。日本政府自体、非正規雇用増加など、この30年ほど、企業が労働者の給料を減らすことに依存するようになる政策をずっと続けてきました(1995年の日経連の「新時代の日本的経営」)。今回の関税騒ぎを契機に、改めていくべきです。

第二に、日本としては、行き過ぎた自由貿易至上主義、あるいはグローバリズムがトランプ政権という化け物を生んでしまったことの反省に立ちつつ、トランプ政権とは違い、公正な話し合いでグローバリズムからの転換する方向性を提案すべきです。

第三に、中国・インドやいわゆるグローバルサウス諸国との関係強化です。米国がロシアや朝鮮と「お仲間」になりつつある中、どこもかしこも「敵」に回してしまえば日本は「詰み」です。その状態では、日本がいくら軍拡をしようとも追いつきません。そもそも、米国自体が中華経済圏全体(大陸・台湾双方)に高関税をかけているのです。米国に頼らない国際経済体制作りというところでは一致点が見いだせるのではないでしょうか。

さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎X @hiroseto https://x.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/
★広島瀬戸内新聞公式YouTubeへのご登録もお待ちしております。

◎鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/

『紙の爆弾』2025年5月号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

5月号では、開戦3年を過ぎたウクライナ戦争を“終わらせない勢力”の存在をジャーナリスト・田中良紹氏が指摘。現在を含め、戦争終結に向かう動きを封じ込めてきたネオコン勢力と、その影響を強く受けつつ世界を席巻する“リベラル・デモクラシー”に切り込みました。日本国内では、自公少数与党をなぜか打倒しようとしない野党勢力を国際政治学者の植草一秀氏が分析します。なぜ、昨年衆院選で国民が自公に鉄槌を下したにもかかわらず、政権交代の機運が早々に途絶え、自公政権存続の方向性が直ちに定まったのか。今国会の焦点のひとつであった高額療養費制度改悪とアベノミクスの関係、またそれが凍結ののちに、次期参院選の重要なキーポイントとなること。また企業団体献金禁止を妨げる野党勢力についても明らかにしています。

全国で「財務省解体デモ」が盛り上がる中、財務省が持つ“異常な権力”について、『消費税という巨大権益』『本当は怖い税金の話』などの著作を持つ元国税調査官・大村大次郎氏が徹底解明。「日本の財務省は先進国ではありえないほどの巨大な権力をなし崩し的に保持している」と断言する大村氏の言葉は、問題意識を持つ人のみならず必読です。さらに“減塩信仰”の嘘と「塩の効用」を神戸・ナカムラクリニックの中村篤史医師が解説。健康に関する情報としてはもちろん、私たちが日々いかに“洗脳”の中にあるか、考えるきっかけとなるものです。

本誌発売後に開催される「大阪・関西万博」で、石毛博行事務総長は“成功”の基準を問われ、「想定来場者の2820万人は想定であって目標ではない」と答えています。そもそも万博は、宣伝して客を呼ぶ商業イベントではないとは思っていましたが、人が来ないということは、関心を持たれていないということ。つまり、計画当初から問われていた「開催の意義」が、万博そのものにはやっぱりなかったということです。結局のところカジノ万博であり、加えて今月号で植草一秀氏は「産廃と淡路島」に言及しています。福島第一原発事故で国と東京電力旧経営陣を免罪した最高裁判事の顔ぶれを明らかにしていますが、危険が明らかな原発や失敗が明らかな万博を止められない政治・社会の構造をなんとか変えることこそ、いま求められていることです。

本誌はついに創刊20周年。編集長を務める私自身が「右も左も」どころかゼロから出発し、試行錯誤を繰り返してきました。いま、書店の減少がなお加速し、コンビニも雑誌を扱わない店が増えました(本誌はもともと書店のみですが)。一時は隆盛を見せた保守系雑誌も発行部数を減らしているといいます。ただし、経済的な意味での需要の減少は避けられないとしても、社会的需要=言論としての価値は増えていると感じています。課題は山積みです。『紙の爆弾』はそこにより深く楔を打ち込むとともに、読者に迫るメディアであろうと考えています。  全国書店で発売中です。ぜひご一読をお願いします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

『紙の爆弾』2025年 5月号
A5判 130頁 定価700円(税込み)
2025年4月7日発売
戦争を終わらせないのは誰か ウクライナ戦争の真実 田中良紹
自公少数与党と対決しない 維新・国民民主・立憲民主の裏側 植草一秀
元国税調査官・大村大次郎インタビュー 財務省を解体すれば日本は確実に良くなる
道義平和国家・日本の矜持を取り戻せ!シリア「政権の空白」で何が起きているのか 木村三浩
減塩で糖尿病・がん・心筋梗塞・肥満リスク増「塩の効用」を考える 中村篤史
SNS言論封じ法「情報流通プラットフォーム対処法」の言論統制 足立昌勝
「米露同盟」と「ヨーロッパ再軍備」アメリカの多国籍軍NATOの崩壊 広岡裕児
福島第一原発事故「国も東電経営者も責任なし」と判断した最高裁判事たち 後藤秀典
「コメ価格急騰」への影響も 誘拐被害者が語ったミャンマー詐欺拠点の実態 片岡亮
トランスジェンダー論争にみるキャンセル・カルチャーの実態 井上恵子
「Black Box Diaries」伊藤詩織監督映画上映妨害は言論弾圧だ 浅野健一
マスコミ幹部を飼い慣らした「みのもんた伝説」本誌芸能取材班
鎌倉「ヴィーナスカフェ」問題から闇を覗く ハマのドンと横須賀のドン 青山みつお
NHK廃止のための思想の準備作業「公共放送」の「公」をラジカルに問い直す! 佐藤雅彦
環境省の“犯罪黙認”沼津市による「特定有害物質」不法投棄問題 青木泰
シリーズ日本の冤罪 耐震偽装事件 片岡健
『紙の爆弾』創刊二十周年にあたって——創刊の頃、そして現在

〈連載〉
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER Kダブシャイン
「ニッポン崩壊」の近現代史 西本頑司

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/
◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DM4Y59YX/

《書評》喜田村洋一『報道しないメディア』著者の思想の整合性に疑問 黒薮哲哉

『報道しないメディア』(喜田村洋一著、岩波書店)は、英国BBCが点火したジャニー喜多川による性加害問題の背景を探った論考である。著者の喜田村氏は、弁護士で自由人権協会の代表理事の座にある。メディア問題への洞察が深く、出版関係者や大学の研究者からありがたがられる存在だ。

その喜田村弁護士が著した本書は、ジャニーズ問題がほとんど報じられなかった背景に、報道すれば返り血を浴びる構図があったと結論づけている。喜田村氏は、ジャニーズ問題を報じてきたマスコミが『週刊文春』と『週刊現代』の2媒体だけであった事実を指摘した上で、次のように述べている。

ジャニー喜多川氏の性加害だけでなく、マスメディアにジャニーズ事務所の気に入らない記事が掲載されたりすれば、ジャニーズ事務所は、当該メディアを出入り差し止めにしたり、そのメディアの発行会社の雑誌全部にジャニーズ事務所の所属タレントを出演させなかったり、さらにはそのメディアの上層部に直接不満を言いつけるということをやっていた。

報道に踏み切ることで、不利益を被る構図が存在したという説である。改めて言うまでもなく、そのような構図を構築したのは、報道対象であるジャニーズ事務所の側である。

◆「押し紙」問題の性質とも重なるジャニー喜多川の事件の性質

ワイセツ行為がらみの事件の裏付けを取る作業はそう簡単ではない。ジャニー喜多川から提訴された『週刊文春』の代理人を務めた喜田村弁護士は、法廷でそれを立証するための着目点として、被害の「訴えが10年以上も続けられている」点を上げている。「そんな告発が続けられるのは何か理由があるはずだ。私は、ジャニー喜多川に対する反対尋問で、この点を衝くことを決めた」という。

告発の数量と連続性という観点から言えば、ジャニー喜多川の事件の性質は、やはりほとんど報道されない「押し紙」問題の性質とも重なる。後者は、1960年代から内部告発が始まり、半世紀以上も告発が続いている。現在も、毎日新聞社に対する「押し紙」裁判が大阪地裁で進行している。時代をさかのぼり、今世紀に入るころには、福岡地裁・高裁で読売新聞社に対する「押し紙」裁判が多発した。

後述するように『週刊新潮』も法廷に立たされた。これら一連の裁判における新聞人の主張は、「押し紙」は歴史的に見ても、一部たりとも存在しないというものである。とりわけ読売のK弁護士は、この点を宮本友丘専務(当時)に尋問の場でも証言させた事実もある。一貫して、「押し紙」行為の存在と連続性を否定してきたのである。

◆なぜ「押し紙」問題が、ほとんど報道されないのか? 

筆者(黒薮)にとって、『報道しないメディア』は、「押し紙」問題や関係者の倫理観を考える上で参考になる。

なぜ、新聞業界の内部で公然の事実となってきた「押し紙」問題が、ほとんど報道されないのか? 答えは、本書で喜田村弁護士がジャニーズ問題を例に指摘した構図にある。「押し紙」行為を検証すれば、その連続性が明確であるにも関わらず、それを報じれば、マスコミが大変な不利益を被るリスクがあるからだ。その構図を構築したのも、ジャニー喜多川のケースと同様に報道対象にされる側である。つまり新聞社にほかならない。

具体的な不利益の中味については、たとえば自社の出版物の書評が新聞紙面から締め出されるリスクである。日本の新聞社が大量の「押し紙」を隠しているとはいえ、それにもかかわらず相対的に見れば部数は多く、書評の宣伝効果は高い。

新聞研究者やジャーナリストが「押し紙」にタッチしない点について言えば、新聞社問題の核心にふれると新聞紙上で自分の意見を表明する場を失うリスクが高くなるからだ。

しかし、誰もが最も恐れているのは、恐らく「押し紙」報道に対する高額訴訟である。読売による提訴件数は推論ではなく、具体的な事実が裁判記録として残っている。その記録は、今後も消えることはない。

◆福岡県の元販売店主が起こした地位保全裁判

意外に知られていないが、実はマスコミが「押し紙」を大々的に報道した時期が一度だけある。それは2008年ごろである。

その発端は、福岡県の元販売店主が起こした地位保全裁判で、福岡高裁が、読売の「押し紙」行為を認定したことである。これが2007年12月で、その後、「押し紙」報道が本格化するのである。

司法が新聞社の「押し紙」行為を認定したのは初めてだった。本題からはそれるが、参考までに判決文から、「押し紙」を認定した箇所を紹介しておこう。

販売部数にこだわるのは一審被告(黒薮注:読売のこと)も例外ではなく、一審被告は極端に減紙を嫌う。一審被告は、発行部数の増加を図るために、新聞販売店に対して、増紙が実現するよう営業活動に励むことを強く求め、その一環として毎年増紙目標を定め、その達成を新聞販売店に求めている。このため、『目標達成は全YCの責務である。』『増やした者にのみ栄冠があり、減紙をした者は理由の如何を問わず敗残兵である、増紙こそ正義である。』などと記した文章(甲64)を配布し、定期的に販売会議を開いて、増紙のための努力を求めている。

米満部長ら一審被告関係者は、一審被告の新聞販売店で構成する読売会において、『読売新聞販売店には増紙という言葉はあっても、減紙という言葉はない。』とも述べている。

[参照資料]福岡高裁判決の全文 

この福岡高裁判決の後、マスコミは「押し紙」問題を取り上げ始めた。『週刊ダイヤモンド』や『SAPIO』などが、新聞社特集を組み、その中で「押し紙」問題に言及するようになった。他のメディアも追随した。

しかし、同時に、読売による裁判攻勢が始まったのである。読売が裁判を連発して、言論機関が言論に対する審判を裁判所に委ねる異常な事態になったのだ。読売は、まず、最初に筆者に対して、2件の裁判を起こしてきた。メディア黒書に対する攻撃である。さらに『週刊新潮』が「押し紙」問題を連載すると、筆者と新潮社に対して約5500万円を請求する名誉毀損裁判を仕掛けてきた。この時点で、筆者に対する請求額は総額で約8000万円に膨れ上がった。3件の裁判の被告になった。

裁判を起こしていた元店主が、読売から「反訴」される事態も起きた。反訴で敗訴した元店主が、読売のK弁護士らによる法手続きにより、自宅を差し押さえられたこともある。提訴による委縮効果は計り知れない。

こうした状況の下で、極めて少数の例外を除いて、マスコミによる「押し紙」報道は沈黙したのである。喜田村弁護士が解析したジャニーズ問題の報道と同じ構図が、「押し紙」問題の報道でも表れたのである。

◆「押し紙」報道を抑制してきたK弁護士とは誰だったのか?

幸いにジャニーズ問題の方はBBCの報道により、一応の解決を見た。しかし、「押し紙」問題は、解決の目途が立っていない。筆者の試算では、35年で少なくとも32兆6200万円の不正な資金が新聞社に流れ込んでいる。全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、統一教会の霊感商法による被害額が35年間で1237億円であるから、比較にならない状況が生まれているのである。

ところで読者は、読売から委託を受けて、「押し紙」報道を抑制してきたK弁護士の実名をご存じだろうか?それは、『報道しないメディア』を著した喜田村洋一弁護士なのである。喜田村弁護士は、一方ではジャニーズ事務所を批判し、もう一方では読売新聞社を擁護する。著者の思想の方向性が、筆者には分からない。

【参考記事】喜田村洋一弁護士に関するメディア黒書の全記録

【参考記事】読売の滝鼻広報部長からの抗議文に対する反論、真村訴訟の福岡高裁判決が「押し紙」を認定したと判例解釈した理由

【参考記事】国策としての「押し紙」問題の放置と黙認、毎日新聞の内部資料「発証数の推移」から不正な販売収入を試算、年間で259億円に

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年3月17日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

低賃金で人手不足、過重労働の悪循環の介護現場 筆者も肩に激痛! さとうしゅういち

3月29日朝、筆者は右肩の激痛を含む広範囲の痛みで体が動かなくなりました。急遽、勤務先に電話をし、夜勤明けの上司に報告して、休ませてほしいと伝えました。たとえ、タクシーで職場までたどり着いたとしても、とてもではないが仕事になる状況ではないからです。

少し痛みが治まった段階で土曜日の午前中の診療時間ギリギリに近所の病院へたどり着き、レントゲンを撮影してもらったところ、肩の骨が真っ白になっていました。いわゆる「関節炎」ですが、激しく腫れていたのです。

4月1日には筆者も仕事に再び出ましたが、肩が痛い状態は予断を許しません。

広島瀬戸内新聞ニュース3月29日号で苦痛に顔面を歪める筆者

◆動けなくても「見守りだけでも」という状態

弊社でも、世間の介護事業所のご多分に漏れず、このところ退職者が相次ぎ、人手が不足している状況です。日中は本来3人ですべき仕事を2人でなんとか繰り回している状況です。こうしたことも筆者の疲労蓄積の背景にありました。

ただ、こうした状況で誰かが休めば大変なことになります。筆者が休んだために、11連勤になってしまった人がおり、恐縮です。筆者も上司からは「先日は仕方がなかったが、今後は、たとえ仕事ができなくても、見守りだけでも来ることも検討してほしい」と言われました。

◆執行体制確保に責任を果たさない政府

とはいえ、そもそも、こうならないように余裕を持った業務執行体制を組む責任は経営者にあります。さらに言えば、介護保険制度は、日本国政府が法律で定め、それに基づいて市町=地方政府が保険者として執行する制度です。きちんとした執行体制を経営者が組めるように政府が制度を設計し、予算措置すべきです。市町も運営主体の保険者として努力すべきです。

都道府県は、市町が足りない部分で、国がなかなか腰を上げない部分については、市町を支援しつつ国を突き上げていくべきです。だが、現実には、そうなっていない。だから、こういうことになるのです。

◆世間の物価上昇・賃上げに追いつかず

岸田文雄前総理は、2021年の自民党総裁選および衆院選において、「賃上げ」を一丁目一番地とし、特に介護や保育などのケア労働者の給料アップに力を入れると公約。2022年は、期待ほどではないが一定程度それを守ってくれはしました。しかし、物価上昇も、また他業種の賃上げもはっきりしてきた2023年は、さらなる追加の手立てがありませんでした。

2024年は3年に一度の介護報酬改定の年であり、一定の対応がされました。しかし、平均2%、月6000円のアップではあまりにもショボすぎた。しかも、これはあくまで平均であり、中央値で見ればそんなにもらっている人はいない。さらにこの2024年度の介護保険法改定では訪問介護については、介護報酬本体の一律カットが強行されました。これにより、賃上げなど難しい状況になった事業所も多くあります。若い人がそんな希望のないところに来るはずもなく、訪問介護の従事者の高齢化はさらに進みました。

この年、全産業平均では5.33%という賃上げが行われるも、介護はそれに取り残されてしまいました。岸田政権一年目でせっかく縮小しかかった全産業平均との差が拡大。現場での退職が急増しています。

しかも、近年では、「金を払っているのだから」と、何でもかんでも事業所側に押し付けてこられるご利用者のご家族も少なくはありません。いわゆるペイハラ、カスハラです。職員たちも「そんなにおっしゃるならご自分で見られたらいかがですか?」と言い返したくなるのを押さえています。

また、最低賃金が引き上げられる中で、基本給が最低賃金に満たず、国からの処遇改善をあわせようやく最低賃金超えという事業所も多いのです。そういう事業所から最低賃金引き上げに応じて賃上げした事業所にどんどん職員が移動していく状況もあります。

介護職員が辞める時は「家庭の事情」などを理由にするのが定番です。だが、周囲もそんな理由を本気にする人はいません。「賃金が低すぎるから他所へ」というのが本当のところだし、そのことで、退職した人を責められません。

この状況をこれ以上、放置すれば、まさに介護「戦線」の完全崩壊となります。そうなれば、現役世代にも悪影響が及びます。いわゆるヤングケアラー、若者ケアラー、ダブルケアラー(子育てと介護)そしてビジネスケアラー(仕事をしながら介護)の問題が深刻化します。

◆ショボすぎる石破政権

石破政権は今通常国会で正規の介護職員平均で5.4万円の給付をする補正予算を成立させています。他方で野党第1党の立憲民主党は1万円の賃金アップ法案を出しています。

だが、どちらも「ショボすぎ」ます。せめて、ここ2,3年の全産業平均の賃金アップの遅れ分を補償するくらいの勢いがなければ、生活が成り立たずに辞めていく職員が増える一方です。れいわ新選組の「10万円アップ」を暴論とされる方も少なくはないですが、そこを最終的に目指すくらいの勢いで取り組まないと、大変なことになります。もう限界です。

広島県知事の湯崎英彦さんにも申し上げたい。県内の介護保険の保険者=市町で介護崩壊が食い止められないのなら、県が国の制度改正までのつなぎとして、バックアップをすべきではないか?

だが、湯崎知事は、大型箱物や啓発イベントなどには熱心ですが、現場が潤うような支援には後ろ向きです。湯崎英彦知事よ。あなたは、巨大病院建設にご執心のようですが、それよりまえに、介護の現場で働く職員に直接行き届く支援をすべきではないですか?

筆者は、広島県庁職員時代(2000-2011年)に、主には山間部や島しょ部の医療や介護事業所の指導をさせていただいた時期が長くありました。介護職員の皆様のお給料を見せていただき、「若造の公務員の俺より、現場の皆さんのお給料がこんなに低くて、これでいいのか?」「日本は将来大丈夫なのか?!」と衝撃を受けるとともに憤りを覚えました。

筆者は、今後、広島県知事としてであろうが広島市長としてであろうが、広島地盤の参院議員としてであろうが、県庁職員時代の憤りと、介護福祉士として体験したことを絶対に忘れず、高齢者・障がい者もご家族も安心して過ごせる、そしてサービス提供者も安心して働ける広島・日本へ体を張って取り組んで参ります。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎X @hiroseto https://x.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/
★広島瀬戸内新聞公式YouTubeへのご登録もお待ちしております。

◎鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/

多言語国家としての中国を理解していないTBS「報道特集」の暴論  黒薮哲哉

◆中国語と北京語を混同するTBS

極右からリベラル左派まで、音律が狂ったカラオケのように中国についての見方が歪んでいる。これらの層(セクト)を形成する人々は、声高々に「反中」を合唱している。背景には、新聞・テレビによる中国報道を過信して、現地に足を運んで事実を確認したり、自力で海外の多様な情報を収集しない姿勢があるようだ。一種の情報弱者にほかならない。

2025年2月8日、TBSは、報道特集で「中国による『同化政策』……言葉をめぐって揺れる『2つのモンゴル』」と題する番組を放送した。中国のモンゴル自治区で、中国共産党がモンゴル語よりも中国語を重視する教育を進めていることを捉えて、漢族への「同化政策」だと批判する内容だった。

この番組の問題点はいくつかあるが、最も根源的な間違いを指摘しておこう。それはTBSが中国語と北京語を混同し、それを前提として自論を展開している点である。議論の前提に重大な誤解があるわけだから、番組の最初から最後まで論理の歯車がかみ合っていない。最初にストーリーを組み立て、それに整合する事実だけを我田引水にこじつけたような印象がある。

◆多言語国家・中国の公用語

周知のように中国では中国語が主要な言語である。しかし、ひとくちに中国語と言っても、下記のイラスト地図が示すように、方言を含むさまざまな言語体系に分化している。発音も異なる。これらの言語の総称を中国語と呼ぶのである。

そこで必要不可欠になるのが、共通言語であり、公用語である北京語である。多言語国家といえば、日本ではインドがその代表格のように言われているが、中国も典型的な多言語国家のひとつなのである。インドでは英語が公用語に、中国語では北京語が公用語になっている。これらの国では、公用語が普及していなければ、国民相互のコミュニケーションが成立しない。

2024年10月、筆者は北京を訪れた。その際、現地の旅行会社が運営する観光ツアーに参加した。観光バスには、中国全土から北京にやってきた人々が乗車して、筆者がまったく聞いたことのない中国語が飛び交っていた。友人の中国人にこれらの多言語が理解できるかどうかを確認してもらったところ、まったく理解できないという答えが返ってきた。しかし、円卓を囲んだ昼食の席では、互いが北京語でコミュニケーションしていた。その光景に接して、わたしは多言語国家における公用語の役割を理解したのである。

このエピソードは、中国ではいかに北京語が重要な役割を果たしているかを示唆している。北京語が話せなければ、政治参加も社会参加できない。特定の言語空間の中に閉じ込めれてしまう。日本でいう「井の中の蛙」のなってしまうのである。

◆「北京語」の充実は「中国語による同化政策」か?

こうした国の事情を考慮して、中国では小学校の低学年から、北京語のピンインや声調の習得が義務付けられているのである。中国語が多種に及ぶから、このようような教育方針が敷かれているのだ。

余談になるが、言語の普及を重視する政策は、中国以外の社会主義を目指す国々でも常識になってきた。たとえば1959年のキューバ革命の後、大規模な文盲撲滅キャンペーンが始まった。無知から脱皮して、国政への参加を促すのが目的だった。

1979年のニカラグア革命の後も、文盲撲滅キャンペーンが展開された。読み書きを習得しなければ、革命が成就しても、政治参加ができないからだ。言語の習得は、参政権を行使するために不可欠な革命のプロセスなのだ。

TBSは、「中国語による同化政策」などと難癖をつけているが、中国政府が意図しているのは、「北京語」の充実である。公用語教育はむしろ必要不可欠なプロセスなのである。

モンゴル自治区の若者だけが、「北京語」の能力に劣るとすれば、知識の習得も遅れ、平等に高等教育を受ける機会も奪われてしまいかねない。

TBSは、このあたりの事情をまったく取材していない。現地へ特派員を送り込んでいながら、中国が多言語国家であることも十分に認識していないようだ。日本人の感覚で、自分勝手な暴論を吐いているのである。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2025年2月21日)掲載の同名記事
を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』(鹿砦社)

選挙ポスター規制法成立、NHKではなく日本のデモクラシーをぶっ壊す立花孝志さん さとうしゅういち

3月26日、公職選挙法改正案=選挙ポスター規制法案が賛成多数(反対はれいわ新選組とNHK党のみ)成立しました。この法案は「品位を損なう内容を記載してはならない」とする品位保持規定を新設し、特定商品などの営業を記載した場合は100万円以下の罰金とする、としています。

とりあえず、ポスター規制法で今夏の都議選や参院選の様子を見て、いわゆる「二馬力選挙」(後述)やSNS規制などについても議論していくことになります。

◆東京と兵庫の知事選挙で〈暴走〉する立花さん

この法案は、言うまでもなくNHK党党首で元参院議員の立花孝志さんによる東京都知事選挙2024や兵庫県知事選挙2024での「暴走」が背景にあります。

東京都知事選挙では、立花孝志さん率いるNHK党は有力女性格闘家らに対してポスターの掲示枠を「販売」したり、元同志の誹謗中傷とみられる内容をポスターに掲載したりしました。

また、兵庫県知事選挙2024では、立花さんが県議会の不信任決議で失職した斎藤元彦・兵庫県知事を援護すると称して立候補(いわゆる二馬力選挙)。2024年3月に斎藤知事によるパワハラなどを内部告発した後、7月に渡瀬元県民局長を誹謗中傷する内容の選挙ポスターを公営掲示板に掲示しました。

広島瀬戸内新聞関西支局の鈴木記者撮影

さらに立花さんは、兵庫県議会の百条委員会の奥谷委員長や丸尾牧議員、竹内英明議員らをSNS上で攻撃。これに影響された人々がこうした議員を誹謗中傷する投稿をしたり、奥谷委員長の自宅前に押し掛けたりしました。

その後、竹内議員が誹謗中傷に耐えかねて議員を辞職しても、立花さんらによる攻撃は続き、2025年1月18日に竹内さんは亡くなりました。そうすると、立花さんは「竹内元議員は逮捕予定だったことを苦に自死した」などとSNS上で発言。村井兵庫県県警本部長は県議会で「竹内議員を被疑者として事情聴取する予定もなければましてや逮捕の予定などもない」と立花さんの発言を否定する異例の事態となりました。

立花さんはその後も、泉大津市長選挙や千葉県知事選挙2025にも立候補。千葉県知事候補なのに兵庫県で兵庫のことを演説したり、財務省前で演説したり、暴走を続けています。こうした中で、立花さんが襲撃される事件も発生しました。
 
◆規制を支持する世論は理解できるが……

立花さんのこれだけの〈暴走〉を見ると、規制やむなしと言う世論は理解できます。

筆者も実は、竹内元議員とは2003年夏に名刺交換をさせていただいています。当時、姫路市議だった竹内さんが、筆者が参加する環境団体の勉強会に参加された際のことです。

瀬戸内海の環境問題についての講義を熱心に聴いておられる様子が、印象に残っています。竹内さんは立憲民主党系会派の方、筆者はどちらかと言えば立憲民主党は好きではない人間ですが、それでも、筆者は竹内さんについては、個人的にはリスペクしています。そんな真面目な竹内さんを追い込んだ立花さんやその支持者の皆さんによる誹謗中傷は許せないという思いは少なくとも広島県内では誰よりも強いと思っています。こういうことを防ぐための手立ては必要だという思いは強くあります。
 
◆規制強化には忸怩たる思い

ただ、国政選挙も含めて立候補経験のある筆者は、規制強化には忸怩たる思いがあります。なぜか?

2021年参院選広島における筆者とポスター

例えば、今回の規制が、今後は権力者に都合が悪い内容、例えば現職の政策への批判や対案まで誹謗中傷=品位を損なう=として規制される道も開きかねないからです。

実際、筆者は、普通に街頭演説で政策を訴えただけなのに「現職の先生に文句があるのか?!」などと、有権者にすごまれたこともあります。普通に政策を訴えることも、誹謗中傷と同じだと受け止めてしまう人もおられるし、そういう人が、権力側から権力に批判的な政治家を潰すために、ポスター規制法や、今後出て来るであろうSNS規制法案なども悪用するのではないか?と危惧しています。

◆治安維持法とセットだった公選法

そもそも日本の公選法は1925年、ちょうど100年前に男性普通選挙導入時に戦前の治安維持法とセットで出来たものです。おおざっぱに申し上げれば、高すぎる供託金制度やその難解さも含め、「庶民がえらい人に刃向かえない」ように設計されているのです。

1945年の第二次世界大戦敗戦に伴い、治安維持法は廃止されましたが、公選法はほぼそのままになっています。

それどころか、約30年前には選挙管理委員会主催の公開討論会がなくなるなど運用が改悪さえされています。

本来は、こうした難解な公選法をむしろ簡素化して、庶民の政治参加へのハードルを下げるのが筋と言うものでしょう。例えば、供託金の引き下げは、カネがかからない政治にするためにも必須です。被選挙権年齢の引き下げは結構ですが、それなら供託金を引き下げるなどしないと、政治に若者は参加しにくいのには変わりがないでしょう。

◆規制強化を招いた立花さんの大罪

しかし、立花孝志さんの「暴走」により、「規制強化」の世論も高まってきます。今後も立花さんが暴走すればするほど、例えば、斎藤元彦・兵庫県知事のファンの方は大喜びするでしょうが、大多数の国民は、規制強化やむなし、へ向かうのではないか?

だが規制強化は、デモクラシーのいわば、自殺にもつながりかねません。

立花孝志さんや立花孝志さんの尻馬に乗ってデマを振りまいた方々の罪は誠に重いといわざるをえません

◆警察やマスコミも立花さんを甘やかすな!

これ以上、警察もマスコミも立花孝志さんに甘い顔をしてはいけない。選挙期間中であっても、例えば、立花さんが嘘の情報で警察の業務を妨害したなら躊躇せずきちんと立件すべきでしょう。「竹内元県議が逮捕予定を苦に自死」?! こんなデマを訂正したのは良いのですが、これこそ、きちんと偽計業務妨害罪で立件すべきでしょう。

警察は、かつて、鹿砦社の松岡社長の不当逮捕や関西生コン労組の不当逮捕などを繰り返してきました。それらにくらべれば「立花逮捕」は、「無量大数」倍、正当ではないでしょうか?証拠隠滅の恐れはないにせよ、東谷義和=ガーシー氏のように海外へ高飛びした先例はあります。逃亡の恐れはないとは言えない。

またマスコミも立花孝志さんや支持者の手口の問題点を臆することなく報道すべきです。

よく、立花さん=ニューメディア VS オールドメディアと言われていますが、いわゆるオールドメディアだって、立花さん=NHK党を甘やかしてきたのです。

筆者自身の経験ですが、参院選広島再選挙2021では、筆者の方がNHK党の候補より得票が多かった。にもかかわらず、某地元メディアは、選挙後の報道で、NHK党の候補の名前を先に報じたことがありました。普通は得票順なのに。無所属ですがきちんと県内で選挙活動した筆者よりも、政党要件がある政党の候補だからとそれだけでNHK党や立花さんを優遇したのです。いわゆる立花信者の方はえらくマスコミに批判的ですが、あなたがたは十分、マスコミに優遇されてきたよ、と申し上げたい。逆にマスコミの皆様は猛省してほしい。

「自民党をぶっ壊す」と言ってきた小泉純一郎さんが日本をぶっ壊したように、立花氏は日本のデモクラシーをぶっ壊しつつある。

また、たかが立花、とまだ軽視しておられる方も少なくないかもしれません。だが、立花氏の発信が斎藤陣営の「軍師」折田楓社長と相まって、大きく兵庫県知事選挙の情勢を動かしたのは間違いない。いまだに立花氏の言うことを信じ込んでいる人が、多くおられる。外国の例で言えば、ヒトラーなど最初は誰も相手にしていなかった。米国で言えばトランプさんなんて誰も相手にしていなかった。だけど、今や大統領になって連日のように世界を振り回しています。

気が付いたら取り返しのつかないような事態にならないよう、立花氏については注意を喚起する一方で、規制強化についても忸怩たる思いがあることをここに表明します。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎X @hiroseto https://x.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/
★広島瀬戸内新聞公式YouTubeへのご登録もお待ちしております。

◎鹿砦社 http://www.rokusaisha.com/

滝本太郎編著『トランスジェンダー神話 幻想と真実』をお届けするにあたって 鹿砦社代表 松岡利康

本年はオウム真理教事件から30年が経ち、メディアでもいろいろと報じられております。その詳細はここでは置いておきまして、殺気立ったオウムに敢然と立ち向かいカルトとの命を懸けた闘いを行った一人、滝本太郎弁護士が、ご存知のように、ここ数年闘っているのが新たなカルト=トランスジェンダリズム(性自認至上主義)です。

当社は、森奈津子編著『人権と利権 「多様性」と排他性』を、一昨年のLBGT法案が国会で審議―採択されるにあたり上梓し、以降、医師としての専門知識、堪能な語学力を駆使した女医・斉藤佳苗著『LGBT問題を考える 基礎知識から海外情報まで』、女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会編著『LGBT異論 キャンセル・カルチャー、トランスジェンダー論争』、同『LGBT問題 混乱と対立を超えるために』、そして今回の『トランスジェンダー神話 幻想と真実』と5冊のLGBT問題関連書を発行してまいりました。累計5冊目となりますが、どの書も、決してLGBT関係団体や当事者といたずらに対立するのではなく、当事者の方々の声を盛り込みつつ、混乱を乗り越えるにはどうすべきか、問題提起をしてきました。

本書は、滝本太郎弁護士が、みずからの論考を数編収めつつ、単独で編纂されましたので、これまでの書とはまた違う趣きがあるものと思います。

当社は、LGBT諸団体や活動家におもねるのではなく、少しでも多角的に、提起された諸問題に取り組むために、今後もこの問題に切り込む書を漸次発行していきたいと考えています。月刊ペースは物理的に厳しくとも年間5~6点ほどの発行を考えています。

LGBT問題についての出版物のほとんどが「性の多様性」の名のもとにLGBT諸団体や活動家の主張礼賛の中で、これに異議を唱える出版物は極めて少ないです。「多様性」というのであれば、「多様」な意見を出し合い対話や議論しなければ混乱は収まりません。というと、「ノーディベート(議論しない)」と逃げるのなら話になりません。

皆様方には、私たちがなぜこの問題に関わり始めたのかご理解いただき、何卒ご購読をお願い申し上げます。(松岡利康)

◇     ◇     ◇     ◇     ◇

トランスジェンダー神話 幻想と真実

滝本太郎=編著
A5判 総164ページ(巻頭カラー4ページ+本文160ページ)
定価990円(税込み)3月27日発売!

オウム事件から30年 ──
命をかけてカルト=オウム真理教と闘った弁護士・滝本太郎が今、
新たなカルト=トランスジェンダー神話と闘う渾身の書!

1 座談会 ホルモン治療の現実 ── 当事者が語る身体的・社会的影響
2 美山みどり 私のこと ── 性同一性障害特例法を守りたい
3 浅利 進 性同一障害は「思い込み」なのか?
4 性同一障害特例法を守る会 最高裁へのメッセージに現れた「当事者のホンネ」
5 美山みどり 「性別」を変えることの難しさ
6 性同一障害特例法を守る会 [書評]『「性別」医療現場の苦悩——「手術なし」をどうやって…』
7 滝本太郎 トランス女性が希望するトイレ ── TOTOアンケートから
8 滝本太郎 外観要件は合憲である ── 広島高裁
9 滝本太郎 極端な主張と日本学術会議・関東弁護士会連合会(関弁連)の責任
10 滝本太郎 清水晶子氏の論理不明
11 森谷みのり 女性スペースを守る会の闘い ── 裁判の陳述から
12 滝本太郎 東京高裁——「悪質トランス差別団体」との表現は違法な名誉毀損
13 田中あつこ 性犯罪被害の支援者が、なぜこの問題にかかわるのか ── 参加者の発言をきっかけに
14 森 奈津子 トランス男性活動家の運動手法を問う
15 岩佐 凪 公共空間における多様性や安全性、オールジェンダートイレや女性専用スペースに関する課題
14「女性スペースの安心安全確保法案」の説明