アンドリュー・コリブコ
ロシアがウクライナ軍の防衛線を突破できる見通しが立てば、攻勢を強めるために予備役の部分動員に踏み切る可能性がある。一方、欧州のNATO加盟国は、こうした動きを欧州への侵攻準備だと受け止めるよう世論を誘導し、軍備増強やEUの権限強化を進める口実にするかもしれない。さらに、ロシアの脅威を強調するため、偽旗作戦が行われる可能性もあるという。ロシアの動員が、欧州との軍事的な緊張を一段と高める事態につながる恐れもある。

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ロシアが動員に踏み切るとすれば、前線でウクライナ軍の防衛線を突破できる見通しが立ち、その機会を生かして攻勢を強めようとする場合である可能性が最も高い。しかし、EUは、ロシアが動員に踏み切れば、それを「ロシアが欧州への攻撃を準備している」と受け止めるよう世論を誘導し、EU指導部にとって都合のよい政策を進めようとするとみられる。
英紙テレグラフは最近、プーチン大統領が「秘密裏の動員」を準備していると報じた。それによると、プーチン氏が動員を決定した場合に備えて、行政上の準備が進められているという。
ただし、こうした話は以前から出ている。プーチン氏は9月初め、これについて次のように述べた。
「現時点で動員が必要になるような状況はない。これは国家院(下院)選挙を前に、選挙結果に影響を与えようとする敵側の情報攻撃だ」
プーチン氏の発言は、どちらの点についても正しい。ただし、今後、状況が変わる可能性は否定できない。そのため、ロシアがどのような場合に動員を行う可能性があり、EUがそれにどう対応するのかを考えてみる価値はある。
以前の記事「ロシアの機関車攻撃、ウクライナ軍の兵站をまひさせる恐れ」で指摘したように、ロシアが今後、冬にかけて機関車への攻撃を継続的に行い、さらにガソリンスタンドや港湾、発電所などのインフラも組織的に攻撃すれば、ウクライナ軍の物資や兵員の輸送能力に深刻な打撃を与える可能性がある。
ロシア軍の作戦立案者が、こうした攻撃によってウクライナ軍の防衛線を突破できると判断すれば、プーチン氏に対して、少なくとも4年前と同じように部分動員を行うよう進言するかもしれない。軍務経験のある予備役を招集し、防衛線を突破した後の攻勢をさらに強めるためだ。
その狙いは、ロシア軍にとって有利な状況を生かして投入する兵力を増やし、ウクライナに対する軍事的圧力を強めることにある。そして、戦争を終わらせる条件として、ロシア側の要求をすべて、あるいは可能な限り多く受け入れるようウクライナに迫り、ロシアの勝利という形で戦争を終結させようとするのである。
このように、ロシアが少なくとも部分動員に踏み切ることは、十分に考えられるシナリオだ。
欧州のNATO加盟国(E-NATO)は、すでにこうした事態を想定し、準備を進めているとも考えられる。その表れともいえるのが、最近、欧州のNATO加盟国の一部に対するロシアの攻撃が差し迫っているとして、危機感を過度にあおる動きが広がっていることだ。
ロシアがウクライナのインフラなどに対する組織的な攻撃を続け、戦況が急速に変化していることを考えると、こうした動きは、ロシアが動員に踏み切った場合に備え、欧州の人々がそれを脅威と受け止めるよう、あらかじめ世論を誘導するものだったと解釈できる。
つまり、ロシアが部分動員を行った場合、それを「バルト三国やポーランドへの侵攻準備だ」と一般市民に思わせようとしているということだ。
しかし、プーチン氏は、こうした国々への侵攻には関心がないと述べている。また、ロシアに敵対的な住民が暮らす地域を占領するために、第三次世界大戦を引き起こす危険を冒すことは、ロシアにとって合理的な選択とはいえない。
それでも、欧州のNATO加盟国が、こうした世論誘導に加えて、偽旗作戦を行う可能性はある。例えば、ポーランドで何らかの事件を起こし、それをロシアの仕業に見せかけるといったことだ。
そうすれば、ロシアに対する軍事的な対抗措置を強める口実にできる。また、EUの軍事・政治面での権限を中央に集中させ、EU全体としての統制を強める動きを加速させることもできる。
欧州のNATO加盟国では現在、政権を握るリベラル派の指導層が、保守派の野党勢力からかつてないほど強い圧力を受けている。
その背景には、燃料価格の高騰による経済の悪化がある。燃料価格が上昇しているのは、対ロシア制裁に加え、第三次湾岸戦争によって世界のエネルギー市場が混乱しているためだ。
こうした状況で、欧州の政権指導層には、ロシアの脅威をできる限り強調し、人々の不安をあおろうとする動機がある。
そうすることで、少なくとも有権者の支持を自分たちの側に集めることができる。また、ロシアの脅威への対応を理由に、EUの権限を中央に集中させる政策も進めやすくなる。
それでも政権への支持を回復できなければ、最も極端な場合には、ロシアに対する軍事的な対抗措置をさらに強め、危険な事態を招く可能性さえある。
以上をまとめると、ロシアが動員に踏み切るとすれば、ウクライナ軍の防衛線を突破できる見通しが立ち、その機会を生かして攻勢を強めようとする場合である可能性が最も高い。
しかし、欧州のNATO加盟国は、ロシアの動員を「欧州への攻撃が差し迫っている証拠」であるかのように説明し、政権指導層にとって都合のよい政策を進めるために利用するとみられる。その説明に信ぴょう性を持たせるため、偽旗作戦が行われる可能性さえある。
ただし、欧州のNATO加盟国は、そうした事件を口実にロシアへの軍事的な対抗措置を強める前に、ラブロフ外相の発言を思い起こすべきだろう。ラブロフ氏は、ロシアと欧州のNATO加盟国の間で戦争が起きれば、「非常に短期間で終わる」と述べている。これは、ロシアが自衛のために欧州のNATO加盟国に対して核兵器を使用する可能性を示唆した発言である。

Source https://korybko.substack.com/p/in-what-scenario-might-mobilization
※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年10月13日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。
▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』














