浜田和幸(紙の爆弾2026年9月号掲載)

高市早苗首相が1980年代後半に米国の首都・ワシントンに滞在していた当時の肩書「立法調査官」や「コングレッショナル・フェロー」が、「経歴詐称では?」と話題になっています。
この〝疑惑〞が単なる「スキャンダルのネタ」にとどまらないのは、「米情報機関の監視の目」が事態の行方に注目しているからです。そのことは、今日の日米関係の実態を知る上でも欠かせない要素となっています。
◆「段ボールを敷いて寝ていた」苦労話の真相
実は、就任後の高市首相を揺るがす「経歴詐称疑惑」と彼女が提唱する「和製CIA創設」とは、切っても切れない結びつきがあります。
若き日の高市氏が「スパイのような諜報活動」をしていたため監視されたという話ではありません。「米国での活動を日本国内でどう誇張したか」という政治的スキャンダルと、「最高権力者となった現在の高市氏を米国インテリジェンスがどうマークしているか」の2つの要素が混ざり合っているのです。
高市首相は松下政経塾(5期生)を卒業後の1987年から約9カ月間、米民主党のパトリシア・シュローダー下院議員の事務所に籍を置いていました。私もちょうど同年からワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)で主任研究員を務めましたが、この時期の高市氏の経歴の表記が、現在、各方面から激しい追及を受けています。
彼女は長年、テレビ出演時や選挙広報で「米連邦議会 立法調査官」と名乗ってきました。しかし、ニューヨーク・タイムズ紙の報道にあるように、「実態は無給のインターンで、電話番やお茶くみ、コピー取り、有権者への手紙の下書きが主だった」ので、米議会の正式な職員ではありませんでした。
高市氏が、自身の保守的な思想とは真逆なリベラル・フェミニストのシュローダー議員を選んだ理由に思想的な背景はなく、「アメリカの権力中枢で堂々と渡り合う力強い女性政治家」としての姿に憧れを抱いたからです。
彼女がシュローダー氏を知ったのは渡米直前。民主党の米大統領選予備選への出馬を検討し、演説しているのを日本のテレビニュースで観たことでした。高市氏は自著で、「ファッションセンスが抜群で、非常にセクシーで見事な女性が、軍事問題を力強く演説している姿に目が釘付けになった」(『30歳のバースディ その朝、おんなの何かが変わる』大和出版)と書き残しています。
シュローダー氏はリベラル派でしたが、同時に女性として初めて下院軍事委員会の主要メンバーとなった人物。当時、防衛や安全保障への関心を高めていた高市氏にとって、リベラル派というイデオロギーの違いを超えて、「軍事を語れる強い女性」というキャラクターそのものが、理想のトップリーダー像として映ったのでしょう。
なお、ワシントン時代の高市氏が「ベッドも買えず、段ボールを敷いて寝ていた」というのは、前述の著書に記されている有名なエピソードですが、これも彼女の得意な誇大広告にほかなりません。なぜなら、当時、高市氏は松下政経塾の海外研修生という身分で、塾から毎月15万5000円の研究滞在費が支給されていたからです。
確かに、15万円強の資金は決して余裕があるものではなく、米議会でのインターンやフェローといっても活動は完全な無給。そのため、家賃を払うだけで生活費が消えてしまい、家具を買う余裕が一切なかったために、段ボールを敷いての「極貧生活」だったというのが彼女なりの「苦労話」です。
一方で当時、ワシントンに駐在していた日本メディアの特派員、日銀や大手銀行、商社の駐在員、官僚などのエリート層との交流を、高市氏は自慢しています。20代の女性が単身無給で議会に飛び込み、困窮している姿を見かねた日本人駐在員たちが「食事をご馳走する」「生活の相談に乗る」といった形で日常的に援助をしていたケースは多かったようです。〝封印〞されていますが、駐在員の家庭崩壊に繋がったスキャンダルもありました。
高市氏は当時から自己宣伝志向が強く、駐在員コミュニティに対しても「自分は米議会で重要な仕事に関わっている」と熱心に売り込んでいました。米軍関係者との繋がりも、彼女の政治的関心に基づいた人脈作りの一環でした。しかし、事あるごとに、米軍の関係者と親しげに出歩く姿は日本人社会でも憶測を呼んでいたものです。
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