日本を食の「退国」にしないために 食料自給率80%は可能である

山田正彦(紙の爆弾2026年9月号掲載)

ここ数年で「食料安全保障」という言葉が広まったように、「農と食」への注目度は、確実に高まっている。しかし肝心の農政において、先の国会で種苗法が再び改悪。国民的関心も高いとは言いがたい。それでも、「希望はある」と語る人がいる。民主党政権で農水大臣を務め、映画『タネは誰のもの』(2020年)や『食の安全を守る人々』(2022年)をプロデュース、数々の著作を持つ山田正彦氏に話を聞いた。(本誌編集部)

◆証明された残留農薬デトックス

―― 2024年~2025年の「令和の米騒動」は、食の量的確保がクローズアップされた一方で、「食の安全」という質的問題が抜けていたように感じます。

山田 最近、衝撃的な話を耳にしました。全国的に少子化が進んでいるにもかかわらず、一部の小学校で教室が足りなくなっているというのです。原因は発達障害が認められる子どもの増加で、別室で授業する通級指導が必要な児童が増えているという。問題は、そのような子どもの増加が、ネオニコチノイド系農薬(殺虫剤)やグリホサート系農薬(除草剤)の全国出荷量と相関していることです。それらは1990年代に登場し、特にここ20年で使用量が増加しました。

―― 2024年の「食料・農業・農村基本法」改正の議論で政府の食料自給率向上への関心の低さが批判されたように、食の供給に不安がつきまとう中で、農薬や化学物質の摂取はある程度仕方ない、という諦めの声も聞かれます。

山田 人体への農薬の影響は、決して軽視できません。世界的な研究で、食べた本人だけでなく、女性の卵巣疾患やホルモン異常、男性の精子数の減少、出生異常も報告されています。

しかし、知っておいてほしいのは、有害物質を摂取しても、排出(デトックス)は可能だということです。2019年、NPO法人「福島県有機農業ネットワーク」の調査で、被験者がまず一般の食材(慣行食材)を食べて尿中のネオニコチノイド農薬等の残留量を測定し、その後、オーガニック(有機)食材だけを摂る生活をしたところ、最初の測定で5ppbだった残留量が5日間で2.3ppbに半減、4週間で0.3ppbと90%以上も低下しました。

―― 「有害物質を摂るのをやめる」ことが重要だということですね。一時期または一部の食事を有機にするだけでも意味がありそうです。

山田 食品の残留農薬の問題は、『食の安全~』でも詳細に取り上げています。私は国会議員になる前から、弁護士業のかたわら農業に携わってきました。有機栽培にも50年前から関わり、地元・長崎でお母さん方とともに、弁護士事務所を拠点として「土と文化の会」を設立してもいます。農家を回って有機野菜を集め、当時始まったばかりの「赤帽」で配送する仕組みを作りました。同会は現在も続いています。

◆「学校給食」の重要性

―― 持続的な有機農業を考えた時、確かに流通の問題は重要です。

山田 そこでポイントとなるのが「学校給食」です。千葉県いすみ市では、2015年から給食に有機米の導入を始め、2017年には全小中学校で100%有機米を達成しました。また、東京都武蔵野市も早くから、母親たちの活動をきっかけに「安全給食」に取り組んでいます。「オーガニック給食」が今、急速に広がりをみせ、2020年には123、2024年には328の市区町村で、何らかの形で導入されています。

今年4月から全国の公立小学校で給食費無償化が始まりましたが、予算面でも負担は大きくありません。2023年には宮崎県綾町でオーガニック学校給食の推進を「町の責務」「学校の責務」と定める日本初の「オーガニック給食条例」が制定されました。

―― 親たちが以前から食への不安を抱えていたことがわかります。

山田 学校側も、子どもたちに表れる変化に、対応の必要性を感じた事情もあるのではないでしょうか。

―― 『食の安全~』ではアメリカの事例が紹介されていました。

山田 映画では、市民団体マムズ・アクロス・アメリカを立ち上げたカリフォルニア州在住の主婦ゼン・ハニーカットさんにインタビューしました。彼女は3人の子どもが特定の食べ物にアレルギーをもっていたことをきっかけに、家庭で食べていたものを調査。するとアメリカで流通する加工食品の85%に遺伝子組み換え食品が含まれていたことが判明しました。

それらを食卓から取り除くと、子どものアレルギー症状が短期間で改善したのです。その事実を他の母親と共有するために、彼女は市民団体を設立。彼女のような活動を契機に、今ではアメリカの多くのスーパーにオーガニック食品が置かれ、日常化しています。

また、韓国では、すでにほとんどの小・中・高校の学校給食が無償かつ有機食材使用です。有機農業が広がり、学校給食に供給されている。ここが重要で、学校給食が子どもたちの健康を支えるとともに、学校給食としての確実な需要が有機農業を支えるという構図があります。

◆「国産」「有機」は需要がある

―― ゼンさんのエピソードは、山田さんの『歪められる食の安全』(角川新書)でも紹介されています。同書は食品表示の問題に焦点を当てた本です。

山田 2013年に成立した食品表示法は、私が農水大臣を務めた頃に議論を始めたもので、国内で製造・加工されたすべての加工食品に原料原産地の表示を義務付けました。ところが2017年に表示基準が改悪され、原材料の産地がどこであろうと、国内で作られた食品は「国内製造」と表示可能となりました。消費者は「国産」と誤解します。

内閣府が実施したアンケート調査によると、「国産」の表示があれば、89%が国産を選ぶと答えました。できれば国産の食べ物を選びたい、というのが当たり前の市民の要求です。すると消費者庁が、国会での議論なしに「国内製造」という表示をつくってしまったのです。大手食品企業の意向を汲んだのでしょう。

―― 有機食材の流通が確保されれば、市場拡大が期待されます。

山田 イオングループに、オーガニック商品の取り扱いを勧めたこともありました。それでも、ネックはやはり有機食品の流通網が確立していないことで、農家が宅配便等で出荷せざるをえず、余計なコストがかかってしまう、といった問題があります。JAは、他方で農薬を扱っていることもあり、非有機の慣行農業に配慮せざるをえません。現場でも、慣行農業で散布される農薬が有機の田畑に飛散したら意味がないし、有機栽培で発生した虫を、慣行農業側は嫌がります。

しかし、状況は変化しています。後述するように、たとえばJA島根は有機栽培の流通を進めるとともに、有機栽培農家と慣行農家が共存できるルールづくりを始めました。

―― 有機栽培農家には、組織体のようなものはあるのでしょうか。

山田 ほとんどが個人経営ですが、自ら通信販売するなどの経営努力が成功を収めるケースが増えています。

◆世界で急速に進むオーガニック

―― 「国産」の需要があるということは、裏返せば、「食の安全」には確実に需要があるということです。

山田 それは世界が証明しています。有機栽培の農地面積が1位のオーストラリアは2021~2022年の1年間で49%も増加。2022年のデータで、インド・アルゼンチン・中国・フランスが続いています。同時期の日本は0.1%増(農地面積全体の1%弱)でした。世界的にオーガニック市場の急拡大が注目を集めています。

アメリカも年10%の割合で伸長。一方で遺伝子組み換え農作物は2016年から頭打ちです。ロシアは2014年から本格的に有機栽培に取り組み、2016年に制定された法律で、遺伝子組み換え作物の栽培と輸入を禁止しました。中国も2017年に同様の法律をつくり、米中貿易摩擦の過程で試料用の輸入を解禁したものの、有機栽培の作付面積はアメリカを追い抜きました。

―― 日本だけが遅れているように見えます。

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月刊「紙の爆弾」9月号から一部記事を公開。独自視点のレポートや人気連載の詰まった「紙の爆弾」は全国書店で発売中です(毎月7日発売。定価800円)。書店でもぜひチェックしてください。最新号の記事タイトル一覧はホームページをご覧ください。

『紙の爆弾』2026年10月号
A5判 130頁 定価800円(税込み)
2026年9月7日発売

「飲食料品1%」のしょぼい減税でも迷走 財務省が主導する消費税減税反対論 植草一秀
ビル倒壊と瓦礫の謎 行方不明の墜落機体 実行犯にCIAスパイ…9.11 二十五年目の真相 浜田和幸
キューバを襲う米国によるエネルギー危機 経済封鎖という暗闇を武器にしてはならない セサル・ゴメス・チャコン
日本のSNS年齢規制はキエフの大門である 昼間たかし
2026年熊本地震に見た地方自治と緊急事態条項 足立昌勝
“加害者”を隠しきった裁判 優生思想を護持した日弁連とマスコミ 野田正彰
植草一秀インタビュー「冤罪の真実」後編 無罪の証拠を司法は無視 小泉・竹中批判封じ
「憲法より日米安保が最高法規」の現状を変えよ プーチン大統領択捉島訪問の意味 木村三浩
それでも進む完全自動化 イオンモール爆発の“人災”と“AI防災”のリスク 片岡亮
「使用者」はいても「労働者」はいない ひきこもり支援事業の“空白” 川田祐一
暴力的カウンター運動と「リンチ事件」「反差別運動」についての共産党見解への疑念 黒薮哲哉
LGBT問題の現在「女性スペース法案」の必要性 井上恵子
成年後見制度という宿痾 ある老齢薬剤師の手紙から 鈴木愼哉
サナエ流独裁の奥義 こうして絞め殺される“日本の議会制民主主義” 佐藤雅彦

〈連載〉
コイツらのゼニ儲け:西田健
「格差」を読む:中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座:東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER:Kダブシャイン
「絶望ニッポン」の近未来史:西本頑司
芸能界 深層解剖

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/

シコルスキ氏の「欧州軍団」構想は、ポーランドがウクライナに「平和維持部隊」を派遣するための手段なのか

アンドリュー・コリブコ

アジア版NATO構想と並行して、欧州では「欧州軍団」構想がある。これは、NATOに代わる新たな軍事同盟をつくるものではなく、欧州が自らの防衛をより多く担うことで、NATOの「欧州の柱」を強化しようとする動きと位置づけられる。執筆者のコリブコは、この枠組みが将来的にポーランド軍のウクライナ派遣に利用される可能性を指摘する。

ポーランドのラデク・シコルスキ外相

※   ※   ※   ※

保守派のカロル・ナヴロツキ大統領は、ポーランド軍の最高司令官であり、軍をめぐる大きな権限を持つ。ところが、与党のリベラル連立政権が「欧州軍団」の枠組みを使って一部のポーランド軍の部隊をEUの指揮下に移した場合、話は別だ。そうなれば、その部隊のウクライナ派遣をナヴロツキ大統領が阻止できるのかどうかは、はっきりしない。

ポーランドのラデク・シコルスキ外相は最近、ギリシャのメディアとのインタビューで「欧州軍団(European Legion)」の創設を提唱した。シコルスキ氏は次のように述べている。

「私は『欧州軍団』の創設を強く支持している。これは常設の専門部隊であり、より広い欧州の枠組みから経験豊富な職業軍人を募ることができる。戦争終結後には、実戦経験を積んだウクライナの退役軍人もその対象になり得る。要するに、欧州は自らの安全保障に自ら責任を持たなければならないということだ」

さらに、こう付け加えた。

「われわれの裏庭で火事が起きるたびに、ワシントンに電話をかけるわけにはいかない。それが通常の軍事的脅威であれ、モスクワがアフリカや中東からの移民流入をEUに対する武器として利用する事態であれ、同じことだ。ただし、ここは明確にしておきたい。これはNATOに代わる別の組織をつくったり、既存の仕組みを二重化したりする話ではない。必要なのは、より強力なNATOの中に、より強力な『欧州の柱』を築くことだ。われわれの利益は互いに補完し合うものであって、相反するものではない」

この発言に驚いた向きもあった。というのも、シコルスキ氏は1年半前、ゼレンスキー大統領が提唱した「欧州軍(Army of Europe)」構想を退けていたからだ。当時、ポーランド外交のトップである同氏はこう述べていた。

「この言葉の使い方には慎重であるべきだと思う。人によって意味するところが違うからだ。もしそれが各国軍を一つに統合するという意味なら、そのようなことは起こらない」

ここに両構想の最大の違いがある。「欧州軍」は各国軍を統合する構想であり、現実味に乏しい。一方、「欧州軍団」は志願制の部隊として想定されている。

後者についてもう少し詳しく見てみると、シコルスキ氏が念頭に置いているのは、EU加盟国とウクライナの兵士から構成される即応部隊で、何らかのEU機関の指揮下に置かれるものとみられる。その目的は、危機が発生した際に迅速に対応することにある。そして、紛争地域に各国の兵士が実際に配置されることで、NATO全体、あるいはEU内の「有志連合」をその紛争に関与させる「トリップワイヤー(引き金)」として機能することになると考えられる。

シコルスキ氏がこの構想を打ち出したのは、英国、フランス、ドイツの3カ国――いわゆる「E3」であり、先行きが不透明とも報じられている「有志連合」の中心国――が、停戦成立後にウクライナへ部隊を派遣する計画を確認してから2カ月後のことだ。

一方、シコルスキ氏が属するリベラル連立政権と激しく対立している保守派のカロル・ナヴロツキ大統領は、2025年5月、大統領選挙の決選投票を前に、ポーランド軍のウクライナ派遣は認めないと書面で誓約している。

ナヴロツキ氏は軍の最高司令官ではある。しかし、リベラル派の国防相が「欧州軍団」を通じて一部のポーランド軍部隊をEUの指揮下に置いた場合、「有志連合」の計画の一環としてそれらの部隊がウクライナへ派遣されるのを、ナヴロツキ氏が阻止できるのかどうかは不透明だ。

ここ数カ月、ポーランド国内ではウクライナに対する世論が悪化している。ゼレンスキー大統領が、ヴォルィーニ虐殺に関与したOUN-UPA(ウクライナ民族主義者組織・ウクライナ蜂起軍)の関係者を称揚したことがその背景にある。そのため、与党リベラル派がこのような措置に踏み切れば、2027年秋に予定される次回の下院(セイム)選挙を前に、再選への望みを損なう可能性がある。

【黒薮注】ヴォルィーニ虐殺(Volhynia massacres):第二次世界大戦中の1943~1944年ごろ、現在のウクライナ西部を中心に、ポーランド系住民が大規模に殺害された事件を指す。中心的な実行主体とされるのが、ウクライナ民族主義者組織(OUN)の一派と、その武装組織であるウクライナ蜂起軍(UPA)。彼らは、将来の独立ウクライナ国家の領域からポーランド系住民を排除することなどを目的として、ヴォルィーニ(ヴォルヒニア)地方や東ガリツィアでポーランド人の村々を襲撃した。数万人規模のポーランド人民間人が殺害された。

それでも、「最近締結されたポーランド・ドイツ防衛協定は、ワルシャワの利益よりもベルリンの利益を優先していることに疑いの余地はない」とされている。また、ドナルド・トゥスク首相はドイツと非常に緊密な関係にあり、保守派野党の「影の実力者」からかつて「ドイツの工作員」と非難されたことさえある。

したがって、もしドイツが「欧州軍団」を通じたポーランド軍のウクライナ派遣を要求した場合、トゥスク首相が来年、政権維持を危うくするリスクを冒してでもそれに応じる可能性は排除できない。

ただし、そのような軍事派遣をロシアが容認するかどうかは、また別の問題である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月26日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/is-sikorskis-european-legion-proposal?utm_campaign=post&utm_medium=web

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/

『紙の爆弾』10月号に寄せて

『紙の爆弾』編集長 中川志大

アメリカによるイラン攻撃が再開される中、キューバで経済封鎖により深刻なエネルギー危機が続いていることは、あまり報じられません。長時間の停電は家庭の明かりを奪うだけでなく、給水や交通・食料・医療など市民生活のあらゆる面に影響を及ぼしています。そんなキューバの現状と、危機の中で抵抗する人々について、同国ジャーナリストのセサル・ゴメス・チャコン氏が本誌に寄稿しています。

“当事者”を除き、あらゆる方面から疑問の声が挙がった「国民会議」というネーミング。そして、結局何が話し合われたのか、何のための会議だったのかも、まったく不明。「国民による会議」ではないのはすぐにわかることでも、では誰による何のための会議だったのか?という問いに答えたのが、今月号の植草一秀氏の論考です。その空虚さゆえに、常に“背後”が垣間見えるのが高市政権の特徴といえます。ならば、表面的な事象を批判して終わっては、背後勢力の術中にはまるだけです。

「高市早苗政権はこんなにも大局観を欠いた国家運営しかできないのか」「首相が(飲食料品の消費税率)1%案を断行しようとするのに対して、野党が『結論ありきだ』と批判するのも当然だ」。前者は7月30日付日経新聞社説、後者は31日付読売新聞社説です。本誌巻頭で指摘したとおり、さんざん逆進性が指摘されてきた消費税が、いまや税収合計の3分の1を占める現状をどう捉えるべきか。ちなみに6年連続の最高税収を記録した2025年度、所得税収・法人税収がそれぞれ大きく上がっても、消費税の総収に占める割合は31%です。

世界のコロナ対策をリードしてきた元アメリカ大統領首席医療顧問、アンソニー・ファウチ博士への追及がアメリカで始まっています。着目すべきはKダブシャイン氏指摘のとおり、日誌に表れたファウチ博士のキャラクターで、いかにも利用されやすそうなのは高市首相と共通するところ。芸能人へのリアクションも似ている気がします。コロナ騒動の本質はもとより、それまで“主流”とされていた見解が逆転するのかに、もっとも注目しています。

8月号から前・中・後編でお送りした植草一秀氏“3つの冤罪事件”の真実。それぞれの事件の状況はもちろん、不可解な経緯と、当時の社会状況についても詳しく説明しています。そこから見えてくるのは、「今の日本」です。なぜ日本だけが「失われた35年」にはまり込み、抜け出せないのか。「失われたもの」とはいったい何か。それらが事件の背景から浮かび上がってきます。

ほか10月号では、首相官邸SNSの“高市PR動画”が炎上した「首相の無意味な熊本視察」と2024年地方自治法改正の関係を解説。これは副首都法や緊急事態法制とも関係します。2026年熊本地震をめぐっては、各地で加速する“AI防災”のリスクについてもレポート。ほか25年目となった「9.11」の真相、「SNS年齢規制」の国内議論の的外れぶりや、ひきこもり支援事業における「労働」についてなど、今月号も独自の切り口で真実を追求します。
『紙の爆弾』は全国の書店で発売中です。ぜひご一読ください。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

『紙の爆弾』2026年10月号
A5判 130頁 定価800円(税込み)
2026年9月7日発売

「飲食料品1%」のしょぼい減税でも迷走 財務省が主導する消費税減税反対論 植草一秀
ビル倒壊と瓦礫の謎 行方不明の墜落機体 実行犯にCIAスパイ…9.11 二十五年目の真相 浜田和幸
キューバを襲う米国によるエネルギー危機 経済封鎖という暗闇を武器にしてはならない セサル・ゴメス・チャコン
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2026年熊本地震に見た地方自治と緊急事態条項 足立昌勝
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文化放送「香害」番組削除をめぐり波紋 市民団体が抗議、横浜副流煙事件の被告家族は文化放送を擁護

黒薮哲哉

「香害」や化学物質過敏症の危険性を訴え、「被害者」への配慮を社会に求めている市民団体「カナリア・ネットワーク全国」(共同代表・青山和子、深谷桂子)が、文化放送が8月5日に放送したYouTubeラジオ番組に抗議し、その後、番組が削除された問題で、新たな事実が判明した。

カナリア・ネットワーク全国は、BPO(放送倫理・番組向上機構)に対しても申立書を送付した。さらに、同団体だけではなく、日本消費者連盟なども8月10日に文化放送に抗議していたことが分かった。

文化放送が8月5日に放送した「香害」に関するラジオ番組は、YouTubeでも視聴できるようになっていたが、現在はアクセスできなくなっている。カナリア・ネットワーク全国は、番組で「香害」について話した村中璃子医師の見解に誤りがあり、海外における「香害」の実態などが過小評価され、事実に反する内容が放送されたと主張している。

結果として、市民団体からの抗議の後に、一つのラジオ番組が削除されたことになる。

こうした動きを受け、横浜副流煙事件の被告の家族である藤井敦子さんが、文化放送に申し入れを行った。

申入書全文1頁
申入書全文2頁
申入書全文3頁(全3頁)

■申入書全文(PDF)

申入書では、「香害」をめぐる主張には疑似科学的な側面があるとの見解を示し、その根拠として、藤井さんの夫が副流煙の発生源であるとして提訴された事件(請求額4518万円、藤井さん側が勝訴)で明らかになった具体的な事実を紹介している。

例えば、被告である夫が不在だったときにも、同じマンションに住む原告家族3人が煙の臭いを訴えていたという事実である。これは原告側の日誌から、時系列的にも確認されている。

また、この裁判では、日本禁煙学会の作田学医師が、「受動喫煙症」を訴えていた原告について、本人を診察することなく「受動喫煙症」とする診断書を交付していたことも明らかになった。さらに、原告の一人には長い喫煙歴があったことも判明している。

こうした診断基準について、横浜地裁は次のように認定している。

「その基準(日本禁煙学会の『受動喫煙の分類と診断基準』)が受動喫煙自体についての客観的証拠がなくとも、患者の申告だけで受動喫煙症と診断してかまわないとしているのは、早期治療に着手するためとか、法的手段をとるための布石とするといった一種の政策目的によるものと認められる。(認定事実(4)ア)」

こうした複数の事実に基づき、藤井さんは、「香害」をめぐる主張には疑似科学的な側面があると主張している。

◆「香害」をめぐるアンケートの非科学的側面

なお、この問題に関して、やはり「香害」を訴えている日本消費者連盟のウェブサイトには、次のような記述がある。

私共は、「香害」問題に取り組んでいる市民団体です。2017年夏に、市民から香害被害の声を募る「香害110番」を行って以来、香害の解決を求めて、省庁との交渉を続けております。2020年には、9000人以上からの回答を得た香害アンケート結果を発表。香害被害者の約20%が、通学や通勤・就労に支障を来たしているという深刻な現状を明らかにしました。2022年には、香りを長持ちさせるマイクロカプセル等の徐放技術を日用品に使用しないことをメーカー等に求める署名活動を行うなど、香害をなくすために様々な活動を行ってまいりました。( 出典 https://nishoren.net/cuj-25274

このアンケートの具体的な調査方法が不明なため断言はできないが、「香害」の被害を把握するために実施されたアンケートの中には、調査方法の妥当性について検討を要するものもかなりある。

例えば、ある市民団体が実施したアンケートでは、「香害」に取り組むネットワークにも調査票を送り、その活動の参加者も回答する形式になっていた。その結果、極めて高い「有症率」が示された。

吐き気や頭痛などの症状や不快感は、「香害」以外のさまざまな要因によっても日常的に生じ得る。そのため、自己申告によるアンケート結果から、「香害」と症状との因果関係までを判断する際には慎重さが求められる。

[参考記事]禁煙ファシズムに審判、横浜・副流煙裁判で被告の藤井さんが完全勝訴、日本禁煙学会理事長・作田学医師の医師法20条違反(無診察で診断書を作成する行為の禁止)を認定

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月1日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。
https://www.kokusyo.jp/%e5%8c%96%e5%ad%a6%e7%89%a9%e8%b3%aa%e9%81%8e%e6%95%8f%e7%97%87/19898/

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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「松竹裁判」の危険な兆候、司法権力による政党への介入

黒薮哲哉

松竹伸幸氏が日本共産党に対し、除名処分は不当だとして提訴している裁判が注目を集めている。先日、東京地裁で行われた尋問には多数の傍聴希望者が詰めかけ、抽選が行われたそうだ。

わたしは双方を取材していないので、原告・被告のどちらの主張に理があるのかを評価する立場にはない。しかし、それ以前の問題として指摘しておきたいことがひとつある。それは、政党をめぐる問題に裁判所が介入することが、今後どのような影響を及ぼすのかという点である。

改めて言うまでもなく、政党は任意団体である。共産党の場合は、科学的社会主義の思想のもと、社会主義をめざそうという人々の集まりである。一般企業や教育機関など、一定の公共性を有する組織とは、その性質が異なる。共産党以外の政党についても、それぞれの理念に基づいて政治活動を展開している。

松竹氏をめぐる裁判では、共産党の方針や、それに基づく党員への処分の当否について、裁判所という国家機関が司法判断を下すことになる。ここには慎重に考えるべき問題がある。司法が政党内部の意思決定にどこまで関与できるのか。その範囲が際限なく広がれば、国家権力が政党の自律性を脅かすことにもなりかねない。

わたしは、この裁判が、政党の自律と司法の関係をめぐる極めて重要かつ慎重に扱うべき問題を含んでいると考えている。判決内容によっては、日本を専制国家に暴走させる危険性を孕んでいる。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月29日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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7.28熊本地震をめぐる『紙の爆弾』10月号の注目記事 イオンモールで亡くなった女性従業員2名の親会社とそのエリート経営者を容赦なく弾劾した片岡亮さんのレポートは必読です!

鹿砦社代表 松岡利康

少し早いかもしれませんが、月刊『紙の爆弾』10月号(9月7日発売)の記事の一部を紹介させてください。

去る7月28日に起きた二度目の熊本地震については、私のふるさとでのことで、二度目ということや、イオンモールでの従業員の方々が阿鼻叫喚の地獄絵が同時的に報じられる中で亡くなられたことなどで、殊更胸が締め付けられる想いがしました。こうしたことで、広く募金を集めることにも積極的に協力することにしました。先に皆様方にも明らかにした通りです。

また、近く発売される『紙の爆弾』10月号でも2つの記事を掲載しています。特に片岡亮さんの記事は衝撃的なので、早めながら紹介する衝動に駆られました。この記事だけでも、今号の値打ちがあります。

くだんのイオンモールでは、幸いにお客さんは全員逃げ助かりましたが、一部店舗の従業員に犠牲者が出ました。いったんはモール外に逃げ、誰かの指示でモール内の店舗に戻り帰らぬ人となりました。明らかに人災です。

片岡さんの記事では、この責任を厳しく追及しています。ある店舗の親会社は、熊本では誰もが知る老舗企業グループです。現在の社長は東大を出てエリートコースまっしぐらの人物です。片岡さんはこれを容赦なく弾劾しています。当然です。人ひとりの命以上に勝るものはありません。沖縄・辺野古での事故もそうです(このことで勘違いの発言をして顰蹙を買った大馬鹿者がいますが)。

事故後すぐに社長自らが被害者家族の元に駆け付け、なによりも被害者側に真摯に寄り添うことが大事だということは言うまでもありません。片岡さんの記事の内容は、おそらく地元紙の熊本日日新聞、あるいは大手紙や通信社の熊本支局の記者らは知っているでしょうが、どのように配信したのでしょうか? 地元の有力企業(の関連会社)だからといって忖度してはいないか? だとしたら、メディア本来の使命を忘れているといえるでしょう。熊本には、おだやかなイメージの広告で有名な化粧品会社などタブーが幾つかありますが、同様です。

片岡さんの記事の一部を公開しますので、定期購読などされていない方は今すぐAmazonや鹿砦社通販部にご注文ください。『紙の爆弾』10月号は9月7日書店発売、定価800円です(安い!)。定期購読、会員の方々には去る2日に発送が済みました。取次会社にも搬入済みです。

『紙の爆弾』2026年10月号
A5判 130頁 定価800円(税込み)
2026年9月7日発売

「飲食料品1%」のしょぼい減税でも迷走 財務省が主導する消費税減税反対論 植草一秀
ビル倒壊と瓦礫の謎 行方不明の墜落機体 実行犯にCIAスパイ…9.11 二十五年目の真相 浜田和幸
キューバを襲う米国によるエネルギー危機 経済封鎖という暗闇を武器にしてはならない セサル・ゴメス・チャコン
日本のSNS年齢規制はキエフの大門である 昼間たかし
2026年熊本地震に見た地方自治と緊急事態条項 足立昌勝
“加害者”を隠しきった裁判 優生思想を護持した日弁連とマスコミ 野田正彰
植草一秀インタビュー「冤罪の真実」後編 無罪の証拠を司法は無視 小泉・竹中批判封じ
「憲法より日米安保が最高法規」の現状を変えよ プーチン大統領択捉島訪問の意味 木村三浩
それでも進む完全自動化 イオンモール爆発の“人災”と“AI防災”のリスク 片岡亮
「使用者」はいても「労働者」はいない ひきこもり支援事業の“空白” 川田祐一
暴力的カウンター運動と「リンチ事件」「反差別運動」についての共産党見解への疑念 黒薮哲哉
LGBT問題の現在「女性スペース法案」の必要性 井上恵子
成年後見制度という宿痾?ある老齢薬剤師の手紙から 鈴木愼哉
サナエ流独裁の奥義 こうして絞め殺される“日本の議会制民主主義” 佐藤雅彦

〈連載〉
コイツらのゼニ儲け:西田健
「格差」を読む:中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座:東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER:Kダブシャイン
「絶望ニッポン」の近未来史:西本頑司
芸能界 深層解剖

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/

熱く、暑く、和まされ、励まされ、反原発の思いをさらに強固にした「福島支援ライブ」へのお礼

尾﨑美代子

8月29日、集い処はなでの「福島支援ライブ」、たくさんの方にお集まり頂きました。ありがとうございました。

ライブの投げ銭は、9月2日判決が言い渡される原発賠償関西訴訟原告団にカンパさせて頂きました。カンパ合計は46,000円、出演者のヒデヨヴィッチ上杉さんが自身の物販(Tシャツ、CD)の売上の3割3,000円をカンパに入れて下さいまして、計49,000円、エイッもう一押しとはなままが1000円足して50,000円を関係者の方にお渡ししてきました。

それにしても熱く、暑く、和まされ、励まされ、怒りの声と拳を共にあげ、笑いも涙もゴチャまぜにし(顔クシャクシャの方、多め)、反原発の思いを更に強固にしたひとときでした。私はライブ中もバタバタ動き、写真はほとんど撮れませんでしたが、1枚だけ撮ったのはアカリトバリの曲に一曲目から涙する今野さん、ちなみにその2人後ろでもグズグズ泣く菅野みずえさんが。

カオリンズ、アカリトバリ、ヒデヨヴィッチ上杉さん、HANAMAMA(私)が歌い、そのあと福島から来阪された今野寿美雄さんのトークショーを予定していました。さて、どんな感じにしようか考えてましたが、

朝店で200円料理の準備をしながら、「そうだ!今野さんのトークは菅野さんとの掛け合いでやって貰おう」とひらめき、ムチャ振りしたもの。大成功でしたかね。

最後に今野さんと皆さんで「大空と大地の中で」(松山千春)を合唱しました。この曲は2021年今野さんの浪江町の家が解体された際に撮られた動画「9年目の津波」で歌われた曲です。松山千春さんから使用許可は取得しています。曲のエンディングコーラスを全世界から募集し、多くの方々と歌われた思い出の曲です。

3・11から10年目、カンパが減り財政的に厳しくなったとの理由で反原発活動を休止しますといったある大きな反原発団体がありましたね。凄いですね。金(カンパ)が減ったら活動出来ないのですか。カンパ(資金)は何かをして作るものですよ。釜ヶ崎や山谷で昔から言われたスローガンがあります。「金のある人は金を!知恵のある人は知恵を!そして力のある人は力を!」。歌える人は歌を、料理作れる人は料理を、運べる人は運び、暑い表に立ち続け売ってくれる人、歌に手拍子いれたり、踊ってくれる人、「ここ座って」と席を譲ってくれる人……いろんな人がいて、最終的にカンパが集まり、それが誰かさんたちの活動を助けることに繋がればとやっています。それが大事。まだまだ反原発運動は負けてないで!もっともっと活動しないといけないで!

また集いましょう!!

尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/4846315304/

駐ロシア中国大使、日本に不穏な警告を発する

アンドリュー・コリブコ

中国とロシアが、日本の急速な軍事大国化への警戒を強めている。駐ロシア中国大使は、日本の「再軍備」が地域の平和を脅かしていると主張し、ロシア側も同様の懸念を示している。筆者は、日米同盟を背景に日本と中露の対立が軍事衝突へ発展すれば、北東アジアが第三次世界大戦の発火点になりかねないと警告する。

※   ※   ※   ※

もし「日本問題」(ほかに適切な呼び方がないので、こう呼ぶことにする)が近いうちに平和的に解決されなければ、北東アジアで第三次世界大戦が勃発する危険性は急激に高まるだろう。

駐ロシア中国大使の張漢暉(ジャン・ハンフイ)は、東京裁判(極東国際軍事裁判)から80年を迎えるのに合わせ、ロシア国営通信社TASSに時宜を得た論考を寄稿した。東京裁判は、いわば日本版のニュルンベルク裁判だが、西側諸国ではそのことを知らない人も多い。

張大使はまず、日本がカイロ宣言、ポツダム宣言、そして日本の降伏文書に反する形で再軍備を進めているとして、いくつかの事実を挙げた。その例として、各種ミサイルや海軍力の強化、武器輸出、そして日本の「2026年版防衛白書」を取り上げている。

これに関連して張大使は、次のように書いている。

「東京はまた、NATOの関連する軍事的枠組みへの参加を積極的に模索し、北大西洋同盟への統合を加速させている」

【黒薮注】北大西洋同盟:NATOの別称で、同じ意味。

さらに、

「日本は自国による植民地支配・征服を正当化し、台湾が中国に返還されたことの正当性を否定している」

とも指摘した。

中国にとっておそらく最も懸念されるのは、歴史的な宿敵であり、筆者の見方で、3500万人の中国人に対する「ジェノサイド」の責任がある日本が、核兵器保有の可能性をちらつかせていることだろう。そして、ひとたび政治的な決断が下されれば、日本には核兵器を大量生産する能力がある、というのである。

日本の急速な再軍備と核兵器をめぐる議論によって、地域的な脅威が再び高まっているとして、張大使は最後に次のように述べた。

「中国とロシアは、歴史的正義と国際法秩序を守ることに尽力する他の国々とともに、第二次世界大戦の歴史に対する正しい認識を断固として守り、日本軍国主義を復活させようとするいかなる試みも断固として抑え、苦難の末に勝ち取った平和を守り、より公正で合理的な国際秩序の形成を促進する用意がある」

この不吉ともいえる警告は、真剣に受け止めるべきだろう。なぜなら、これはロシア側の日本に対する評価とも一致しているからだ。

プーチン大統領の側近であるニコライ・パトルシェフは約1年前、ロシア国内メディアのインタビューで、要するに「日本はアジアにおけるアメリカの戦略を推進するうえで、これまで以上に大きな役割を担うようになる」と主張した。

その後、年末近くには、新首相の高市早苗が台湾有事における日本の軍事的関与について物議を醸す発言をしたことを受け、「日本は予想より早く中国に挑戦するかもしれない」との見方も示された。

先月末には、「ロシアの高官級外交官が、日本がロシアに及ぼす脅威の増大について言及した」。そして8月半ば、プーチン大統領がロシア極東を訪問した際には、「悪化する日露関係についてプーチンが嘆いた」とされている。

プーチン大統領とロシア太平洋艦隊司令官は、「AUKUS+」という言葉そのものは使わなかったものの、実質的には、日本がその中心的な役割を担おうとしていると指摘した。「AUKUS+」とはここでは、中国を封じ込めるためにアメリカが構築しつつある、NATOに似た軍事ネットワークを指している。

黒薮注】AUKUS+:米・英・豪の3か国が、潜水艦や最先端軍事技術を共同で開発・運用し、軍事的な連携を深める枠組み。

したがって、日本の急速な再軍備と核兵器をめぐる議論は、ロシアにとっても深刻な脅威だということになる。

筆者によれば、この脅威を事前に取り除く方法は二つある。一つは、アメリカが「AUKUS+」を抜本的に再編し、その中で日本が中心的な役割を担わないようにすることだ。もう一つは、ロシアと中国が軍事力によって先制的に日本の脅威を無力化することである。

筆者はさらに、日本が国連憲章上の「敵国」とされていることを根拠として、ロシアと中国にはそのような行動を取る国際法上の権利があると主張する。しかし、その場合、日米の相互防衛体制を理由にアメリカが報復をちらつかせる可能性があり、結果として第三次世界大戦につながる危険が生じる。

かつて北東アジアで地域的な危機を引き起こす主な原因とみなされていたのは、北朝鮮の核兵器開発と核実験だった。しかし現在では、日本が再軍備と核兵器保有をめぐる議論によって、その役割に取って代わった、と筆者は考えている。

かつては北朝鮮の核開発が北東アジアの主要な火種だったが、いまや日本の軍備増強のほうが、中国とロシアという二つの核大国を同時に刺激する点で、より危険な火種になっている。そして、その中国とロシアに共通するライバルであるアメリカは、日本と相互防衛関係にある。

したがって、もし「日本問題」(ほかに適切な呼び方がないので、こう呼ぶ)が近いうちに平和的に解決されなければ、北東アジアで第三次世界大戦が勃発する危険性は急激に高まるだろう。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月21日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/the-chinese-ambassador-to-russia

現実的に修正した「1956年妥協案」なら、北方領土問題を早期に解決できる可能性がある

アンドリュー・コリブコ

ロシアと日本の間で長年の懸案となっている北方領土問題。本稿は、1956年の日ソ共同宣言を土台に、歯舞群島と色丹島の日本への引き渡しと引き換えに、国後・択捉への領有権主張を取り下げる「修正版妥協案」を提唱する。さらにロシア極東の資源開発や日露経済協力を組み合わせることで、両国の対中・対米依存をそれぞれ抑え、地域の安定と日本経済の再活性化につなげられると論じている。

※   ※   ※   ※

この記事で提案する、1956年の妥協案を現実に即して修正した案は、ロシアと日本双方の利益にかなうものであり、おそらく米国の利益にもなる。ただし実現には、まずロシア側が非公式にこの案を持ちかけ、最初の一歩を踏み出す必要がある。

プーチン大統領が択捉島を訪れ、さらにクリル諸島(千島列島)を初めて訪問したことに対し、日本の高市早苗首相は強く非難した。日本は択捉島をはじめとする複数の島々を、現在も「北方領土」として自国領だと主張しているからだ。

ロシアが実効支配し、日本が領有権を主張している地域には、このほか国後島、色丹島、そして無人の歯舞群島がある。背景を説明すると、ヤルタ協定では千島列島をソ連に引き渡すことになっていた。しかし日本側は、その解釈について法的な問題を提起してきた。

日本の立場では、先に挙げた島々は、そもそも法的な意味で「千島列島」に含まれていなかったとされる。一方、1949年の米国務省の覚書では、水産資源の豊富な色丹島と歯舞群島についてのみ、ヤルタ協定上の法的地位に議論の余地があるとの見解が示されていた。

その後、日ソ間の国交を回復した1956年の日ソ共同宣言では、妥協案が盛り込まれた。日本とソ連が平和条約を締結した後、ソ連が色丹島と歯舞群島を日本に引き渡すという内容である。

この妥協が実現しなかった理由を詳しく論じることは本稿の範囲を超えるが、ロシア側では、米国が日本に影響を及ぼしたことが原因だったのではないかと疑う人が少なくない。結果として妥協案は頓挫し、領土問題は今日まで続いている。現在、日本は先ほどの4地域すべてについて領有権を主張している。

プーチン大統領はこれまで、1956年の妥協案を復活させるために、かなりの時間と労力を費やしてきた。その狙いは、日本からロシアへの投資を増やし、日本のエネルギー市場をロシア産資源にさらに開放するとともに、ロシアが中国に過度に依存する事態を未然に防ぐことにあった。

こうした結果は、客観的に見れば日本の国益にもかなう。しかし領土問題は、日本の有権者の一部にとって非常に感情的な問題である。そのため、プーチン大統領が親しい友人とみなし、この問題について何度も話し合った故・安倍晋三首相の時代でさえ、解決には至らなかった。

プーチン大統領は択捉島を訪れる直前、ロシア極東を視察した際に、日露関係が悪化していることへの不満を表明した。筆者の見方では、今回の択捉島訪問は、日露関係悪化の責任は東京側にあると考えるモスクワが、その流れに対して示した意思表示でもある。

先に紹介した別の記事では、ロシアがなぜ日本を自国の安全保障に対する脅威として以前より警戒するようになっているのか、また米国が新たな地域安全保障体制の中で日本にどのような役割を期待しているのかについて、それぞれ別の分析を紹介している。

ここでそれらに触れる目的は、日露関係がさらに悪化した場合の軍事・戦略上のリスクを強調するためである。そして、そうしたリスクを考えれば、日本にとってはロシアとの妥協を目指す方が望ましいという点に注意を向けるためでもある。

何よりも優先されるべきなのは、平和と安定である。東京がモスクワとの間で1956年の妥協案に立ち返れば、それを土台として、日本は経済面でも地政学面でも利益を得られる可能性がある。

その場合、日本が対ロシア制裁を直ちにすべて解除しなくてもよい。まずは、分野と地域を限定する形で段階的に制裁を緩和する方法が考えられる。

そのモデルになり得るのが、約10年前に提案された「北方諸島社会経済共同体(Northern Islands Socio-Economic Condominium=NISEC)」構想である。これはサハリン、千島列島、北海道を経済的に結びつけようという考え方だ。

この構想では、この3地域をより大規模な経済統合プロジェクトの中心とする。そして将来的には、天然資源の豊富なロシア極東全体へと対象を拡大し、日本がそのエネルギー資源や鉱物資源に優先的にアクセスできるようにする。

適切な投資戦略を採れば、日本は不安定な西アジア(中東)からのエネルギー輸入や、政治的なリスクを伴う中国のレアアース加工への依存を減らし、地理的に近いロシアを代替供給源として活用できるというわけだ。地政学的な面でも、ロシアが中国への過度な依存を未然に防ぐことは、日本にとって利益となる。

さらに、日本とインドの関係が緊密であることも重要である。インドはすでに「東方海上回廊(Eastern Maritime Corridor)」を通じてロシア極東への進出を進めている。そのため、日本とインドが共同で、ロシア極東における資源開発や資源加工に大規模な投資を行うことも可能だろう。

ロシア極東には豊富な水力発電資源があり、その結果としてエネルギーコストも安い。このことは、こうした日印共同投資をさらに魅力的なものにする。ここで提案している「修正版1956年妥協案」を改めて整理すると、次のような内容になる。

日本は色丹島と歯舞群島を受け取る。その代わりに、国後島と択捉島に対する領有権の主張を取り下げる。さらに、この交換条件を日本にとってより魅力的なものにするため、「北方諸島社会経済共同体(NISEC)」を創設するとともに、日本にロシア極東の天然資源への優先的なアクセスを認める。

この計画は、おそらく段階的に実施されることになるだろう。全面的に実現すれば、ロシアが中国に過度に依存する事態を未然に防ぐ一方、日本も米国への依存を減らすことができる。その結果、ロシアと日本の双方が、自国の主権と戦略的自立性を強めることになる。

さらに、日本が西アジア(中東)から輸入するエネルギーへの依存を減らせば、仮に南シナ海で紛争が起きたとしても、日本経済がその影響によって深刻な打撃を受けるリスクを小さくできる。同時に、ロシアの「北極海航路(Northern Sea Route)」を利用することで、EUとの貿易もより効率化できる可能性がある。

日本海のすぐ向こう側にあるロシアから、低価格のエネルギーや鉱物資源が大量に日本へ入ってくるようになれば、日本経済は長らく待ち望まれてきた「復興」あるいは「再生」を遂げるかもしれない。それによって、新たに形成されつつある世界経済秩序の中で、日本の競争力も高まる可能性がある。

高市首相自身は、国後島と択捉島に対する日本の領有権主張には十分な正当性があると心から考えているのかもしれない。また、一部の有権者からの国内政治上の圧力に加え、米国から表立たない形で国際的な圧力を受けている可能性もある。

それでも筆者は、高市首相は本稿で提示した妥協案を大胆に検討すべきだと考える。なぜなら、ロシアが中国への過度な依存を未然に防ぐことは、米国の利益にもかなうからである。したがって、トランプ大統領と新たに良好な関係を築いた高市首相が十分に説得力のある説明をすれば、トランプ大統領をこの構想に賛同させることも可能かもしれない。

高市首相の判断には、大きく3つの要因が影響していると考えられる。すなわち、北方領土問題についての高市首相自身の考え、国内からの政治的圧力、そして米国からの非公式な圧力である。こうした事情を考えれば、この提案を実現するためには、まずロシア側が最初の一歩を踏み出す必要があるかもしれない。具体的には、外交ルートや専門家同士の交流、あるいはその両方を通じて、ロシアがこの構想を非公式に日本側へ打診するという方法である。

そうすれば、まず日本政府内でこの案への認知が広がり、次に専門家の間、そして最終的には日本社会全体へと議論が広がっていく可能性がある。その結果、高市首相にかかる国内政治上の圧力が弱まるかもしれない。そうなれば、高市首相もこの構想についてトランプ大統領と話し合うことに、より積極的になれる可能性がある。

また、ロシアが外交ルートや専門家ルートを通じて非公式にこの案を日本側へ提示すれば、日本側の外交官や専門家を通じて、米国の外交官や専門家にもこの構想が伝わる可能性がある。以上を踏まえれば、ロシアが先に動くことには十分な意味がある。

そうなれば、プーチン大統領による今回の史上初の千島列島訪問についても、別の見方が可能になるかもしれない。つまり今回の訪問を、プーチン大統領が新たに用いるようになった「緊張を緩和するため、あえて先に緊張を高める(escalate to de-escalate)」という手法の3例目として捉え直すことができる、ということである。

今回の場合、日本側から見れば、プーチン大統領の訪問はまず「政治的なエスカレーション(緊張の激化)」に当たる。しかし、その後ロシアが現実的な緊張緩和案を提示するのであれば、最初に圧力を高め、その後に妥協案を提示して緊張を下げるという一連の戦略だった、と解釈することも可能になる。クレムリンは、この可能性について検討してみるべきだろう。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月18日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/a-pragmatically-amended-1956-compromise

「倒産31件」では見えない新聞販売店の経営危機 ――『しんぶん赤旗』記事が見落とした「押し紙」問題

黒薮哲哉

8月22日付の『しんぶん赤旗』に掲載された記事には、重大な事実誤認がある。見出しは「新聞販売店倒産 年間50件超えか」「購読者離れに歯止めかからず」である。

この記事は、東京商工リサーチの調査によると、2026年1~7月の新聞販売店の倒産が31件に上り、このままのペースで推移すれば年間50件を超えるおそれがあるとしたうえで、新聞の休刊や廃刊が進む背景として、購読者の新聞離れや広告収入の減少を挙げている。

しかし、この数字だけでは新聞販売店が置かれている実態を十分に捉えることはできない。販売店の経営が行き詰まった結果、店舗や販売区域を残したまま経営者が交代したケースや、倒産という形を取らず自主的に廃業したケースは、「倒産31件」という数字には含まれていないからである。

仮に倒産によって消滅した販売店が31件だったとしても、それとは別に店主の交代は各地で行われている。新聞業界紙を見ても、店主交代の記事が継続的に掲載されている。

では、なぜ店主交代が行われるのか。その背景の一つとして指摘しなければならないのが、「押し紙」の問題である。実際の購読者数を上回る新聞の仕入れを余儀なくされれば、その代金が販売店の経営を圧迫する。資金繰りが悪化し、借入金の返済や金融機関との取引に支障を来すこともあり得る。

その結果、新聞代金の支払いが困難になり、開業時などに新聞社へ差し入れた保証金等との精算を経て、店主が販売店経営から退くケースもある。

現在、大阪地裁で係争中の毎日新聞社を被告とする「押し紙」をめぐる訴訟でも、販売店の経営と新聞の供給部数との関係が争点となっている。

【参考記事】「押し紙」を隠す経理マジック――毎日新聞裁判で判明した日本の新聞社のビジネスモデルに、ジャーナリズムが機能しない客観的な理由

『しんぶん赤旗』が指摘するように、「購読者の新聞離れと広告収入の減少」が新聞販売店の経営を圧迫していることは間違いない。しかし、販売店経営の実態を論じるのであれば、それだけでは不十分である。新聞社から販売店に供給される新聞の部数と、実際に読者へ販売される部数との乖離、すなわち「押し紙」として問題にされてきた過剰な新聞供給が販売店経営に与える負担についても検証する必要がある。

「倒産31件」という数字だけでは、新聞販売店が直面している経営問題の全体像は見えてこないのである。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月24日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu