衆院選2024年 自公自滅型選挙で多党化時代へ ── 投票率低下=与党有利の崩壊 さとうしゅういち

第50回衆院選は2024年10月27日執行され、自民党(247議席→190議席)と公明党(32議席→24議席)の与党は政権を失った2009年衆院選以来の惨敗を喫しました。野党第一党の立憲民主党(98議席→148議席)は躍進したが第一党まではいかず、国民民主党が4倍増の28議席、れいわ新選組が3倍増の9議席で躍進。参政党(1→3議席)や日本保守党(0→3議席)も議席を確保しました。他方、野党でも維新(44→38議席)と共産党(10→8議席)が議席を減らしました。「多党化」が進みました。
 
◆石破さんブレブレ、「明智光秀の12日天下」最短記録更新へ

石破茂総理は、10月1日総理に就任。9日に衆議院を解散しました。しかし、自民党・公明党両党で過半数を大きく割り込む大惨敗となりました。自公で圧倒的多数を占めてきた政権のスキームはこれで終了しました。今後、水面下でいろいろな形での連立工作が飛び交うことでしょう。

明智光秀は6月2日に信長を討ち取って天下人になりましたが13日に山崎の戦いで秀吉に打倒され、12日天下に終わりました。また、藤原道兼も4月27日関白になって5月8日に病死しました。石破総理は、この二人の最短記録を事実上更新したことになります。

こうなったのは、石破さんがブレたからです。はっきり言って、自民党は圧勝のチャンスでした。すなわち、衆院を解散する前に一定程度、国会で議論をし、自らが批判してきた故安倍晋三さんと正反対のイメージを打ち出せばよかった。ところが、石破さんは9月30日、まだ総理になる前から、10月9日解散を明言してしまった。総理になる前から解散を明言するのは越権行為です。憲法違反です。

また、そもそも、憲法7条があるから解散できるというのは憲法解釈としてはおかしい。憲法69条に基づき、内閣不信任案が可決されるとか、総理の目玉政策が否決される場合に解散するなら分かる。あるいは新たな増税をする前に信を問う意味で解散するなら分かります。いわゆる代表なくして課税なしと言うことです。だが、そういう状況ではない。この時点で、石破さんは大きく無党派層に失望されました。

また、最初からいわゆる裏金議員を厳しく処分し、無党派層を取りに行けばよかった。そうすれば、野党は手も足も出なかったでしょう。ところが何を考えたのか石破さんは、最初は裏金議員を全員公認すると言ってしまった。幅広い国民の反発を受けて慌てて裏金議員を非公認とした。これにより、一時持ち直したかと思われた。

だが、直前の総裁選で健闘した高市早苗さんを支持する自民党支持者が国民民主党や日本保守党に流れる動きがみられた。これに慌てたのか、自民党執行部は裏金議員を取り込もうとしたのか、2000万円を送った。これが発覚し、さらに炎上しました。ブレブレの石破自民党。大敗は当然でした。

◆広島県内小選挙区は与党の4勝2敗、インディー系候補も健闘

広島県内では前回の2021衆院選では与党の6勝1敗でした。今回は、選挙区が人口減少に伴い6議席に減りました。以下、県内でも広島都市圏の1-4区について振り返ります。

広島1区では岸田前総理が圧勝。ただし、前回は約8割の得票率で野党候補に供託金回収も許さない「失神KO勝ち」でしたが、今回は5割強まで得票率を減らしています。また完全無所属のインディー系候補も3.1%と健闘しました(写真、1区で立候補された方々)。

▼広島1区
岸田文雄 自民前 100,740(52.4%)当選
平本 浩一立憲新 46,493(24.2%)
山田 肇 維新新 26,849(14.0%)
中原 剛 共産新 12,225(6.4%)
産原 稔文 無新 5,995(3.1%)

広島2区は前職の平口さんが当選しましたが、得票率は5割を切りました。前回は、自民vs立憲(野党統一)の対決でしたが、比例復活を許さないダブルスコアの圧勝でした。そして、今回は野党が乱立。ところが、急造の国民民主党新人に比例復活を許しています。

▼広島2区
平口 洋 自民前  82,443(45.0%)当選
福田 玄 国民新  61,679(33.6%)比例当選
金城 政孝 維新新 21,846(11.9%)
岡田 博美 共産新 17,354(9.5%)

広島3区は、公明前職の斉藤鉄夫国交大臣が再選されましたが、急造の立憲新人に14000票差まで追い上げられ、比例復活を許しました。また、インディー系候補の玉田憲勲医師が1万票を超える大善戦でした(写真、玉田ドクター(左)と筆者)。

▼広島3区
斉藤 鉄夫 公明前 86,654(47.2%) 当選
東 克哉  立憲新 71,952(39.2%) 比例当選
高見 篤己 共産新 14,128(7.7%)
玉田 憲勲 無所新 10,751(5.9%)

広島4区は、旧広島4区から海田町、府中町、坂町が1区へ、安芸区が3区へ移行した上で、旧5区とほぼ合体した選挙区です。呉市と言う古くからの工業都市と東広島市と言う新しい産業・大学都市があります。

旧4区の東広島市を地盤とする維新の空本誠喜さんが旧5区の呉市が地盤の自民の寺田稔さんを振り切って辛勝しました。前回、4区で比例復活の空本さんは維新色を消して反自民票を一手に引き受ける戦略に徹しました(写真下、維新イメージの緑色ではなく寺田さんの赤に対抗した青ベースのポスターで反自民色を強めた空本さんのポスター)。

それが奏功し、民主党在籍時代に旧4区で2009年に中川秀直さんを打倒して以来の小選挙区当選です。寺田さんも比例復活しました。

▼広島4区
空本 誠喜 維新前 93,707(50.6%)
寺田 稔  自民前 91,653(49.4%)

◆中国ブロックで議席に届かぬも、県内得票倍増近いれいわ新選組

筆者は、今回の衆院選では「広島と政治をあなたに取りもどし、広島とあなたを守る庶民革命」をめざす「無所属・庶民派保守」の立場から、「地方の庶民に優しい」政治勢力として「れいわ新選組」を応援しました。

広島県内の比例代表得票数は以下です。

自民  342,216 31.9% 中国ブロック 5議席
立憲  207,928 19.4% 中国ブロック 3議席
国民  129,471 12.1% 中国ブロック 1議席
公明  127,717 11.9% 中国ブロック 1議席
維新  86,855  8.1%
れいわ 66,166     6.2%
共産  53,521  5.0%
参政  34,987  3.3%
社民  24,834     2.3%

広島県内でもれいわ新選組は日本共産党を上回る得票をしました。正直、日本共産党さんと比べれば県内のれいわ新選組は専従職員もいない素人集団です。だがその素人集団が共産党を上回り、あの公明党や、大手企業労組もついている国民民主党半分以上を得票したのは驚くべきことです。

また、正直、街宣車も人口が多い広島市北部を全く回らないなど、今思えば戦術上の反省点も多くあります。正直、こんなに健闘するならもっと、やり方があったかな、とも思うのですが、致し方ないことです。

小選挙区で候補者を出していれば選挙はがきも出せるし、宣伝効果もあったでしょう。ただ、筆者自身も「中国ブロックは議席獲得が困難。だが参院選2025へ向けて地盤の防衛は絶対必要」という思いでした。同党には次回以降に反省点も踏まえながら県内でもベストを尽くしていただきたいものです。

今回、有権者の反応はどうだったか? 筆者の感触では、安佐南区では2023年4月の筆者自身がれいわ新選組推薦で立候補した県議選の2倍くらい、チラシの受け取りは良かったです。実際、安佐南区ではれいわ新選組の得票が6000票を超え、筆者の県議選での得票の2673票の2倍以上となりました。

投票率も県議選の34.16%から今回衆院選は45.71%ともちろん上がっているのですが、得票率自体も、筆者の4.04%から今回のれいわ新選組の6.9%へと上昇しています。しかも筆者の得票には自民党や維新の支持層の方の得票も相当加わっていたことも加味すれば政党としての得票率上昇度合いはそれ以上とも言えます

自民 25127 (28.5%)
立民 17374 (19.7%)
国民 12482 (14.2%)
公明 10584 (12.0%)
維新  6892 (7.8%)
れいわ 6066 (6.9%)
共産  4772 (5.4%)
参政  3206 (3.6%)
社民  1653 (1.9%)

◆与党自滅型選挙 ── 投票率が下がって与党惨敗

今回の衆院選の特徴は投票率が下がって与党惨敗、ということです。よく、「与党を倒すためには投票率を上げよう」という意見をうかがうことがあります。ただ、「投票率が高ければ与党不利」というのは、「常に真」なのか?筆者は疑問に思ってきました。「与党支持者が投票に行かない結果として、野党が勝つ」ケースもあるのではないか?ということです。今回はまさにそのパターンでした。

もちろん、野党に行った方もおられる。ただ、その野党でも、比例代表では国民民主党、れいわ新選組、参政党、保守党と言った少数政党に行った方が多いのではないか?一方で小選挙区では、仕方なく立憲民主党という方も多かったというところでしょう。

◆難しい立憲・国民のかじ取り

立憲民主党は今回、あくまで「敵失」での躍進であることを肝に銘じるべきです。そこを間違えて有頂天に乗れば、またまた旧民主党政権の二の舞になりかねない。
国民民主党の場合は「積極財政」かつ「右派より」と言うスタンスがとくに高市早苗さんを支持していたような層にウケました。ただ、安易に緊縮財政寄りともみられる石破総理や、旧民主党時代に大増税を決めて「悪夢の民主党政権」と自民党に攻撃される材料を造った野田さん率いる立憲と安易に連立を組めば、失望に変わるでしょう。れいわ新選組も山本太郎個人商店からの脱却が求められます。

◆れいわ新選組 山本太郎個人商店型からの脱却

れいわ新選組も躍進はしましたが、反省点はあります。終盤には、山本太郎が大石あきこ共同代表を応援する動画がネット上で批判されるなどの問題は起きました。
山本太郎が公示前と開票直後にぶっ倒れる事件も起きた。山本太郎の負担が過重になり、手が回らないことが多くなっている。そういう状況もあります。今後、増えた議員で山本太郎の仕事を分担し、組織だって仕事をしていく体制づくりが肝要でしょう。

◆日本共産党 スターリン主義の脱却なくして党再生なし

日本共産党は、裏金問題を「赤旗」で暴くなどの功績はあった。しかし、終わってみれば議席を減らし、国民民主党、れいわ新選組にも抜かれる惨敗です。

同党は、2016年から2021年までの野党共闘で立憲に忖度して、オリジナリティを失っていたようにも見えます。そして、今度は、その反動のように、志位和夫議長・田村智子委員長が気に入らない者はすぐ除名・除籍されるなどの「粛清の嵐」となっています。こんな政党に若者が入ろうとするでしょうか?答えは否、です。平和運動や労働運動では共産党員の真面目な方もたくさん存じています。同党の没落の道連れで平和運動や労働運動が衰退することは避けなければならない。いわゆる共産党系と世間では言われる全労連系の労組の幹部もさせていただいっている筆者はそう考えています。

◆多党化、小選挙区比例代表並立制=政治改革1993の限界露呈

現代日本では人々の価値観も課題も多様化しています。その傾向は加速することはあれ、止まることはない。そうした中で、二大政党制を目指すという小選挙区比例代表並立制はもはや時代に適合しないのではないでしょうか?

そもそも、この小選挙区比例代表並立制は1993年-94年に政治腐敗をなくすという趣旨の政治改革で導入されたものです。その政治改革によってできた制度の下で「裏金」事件が起きているわけです。

当初の目的を全く果たしていない「政治改革」。石破総理も野田立憲代表もそのとき「政治改革」を進めた新党で活躍された方です。潔く、あなた方が導入した仕組みの機能不全を認めていただきたい。

政治腐敗をなくすとともに、多様な民意を反映する選挙制度・政治資金制度に。「政治改革1993-94」から30周年の今、真の政治改革を求めたい。これは党派を超えて取り組むべきことです。

筆者はすでにノルウェー式比例代表制度を軸とした選挙の衆院への導入と、政策活動費の廃止、企業団体献金の禁止などを提案しています。また、今回激戦となった東京15区など一部の選挙区で市民有志により実施された選挙期間中の公開討論会を昔のように選管主催で行うことも提案しています。
 
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/
広島瀬戸内新聞公式YouTubeへのご登録もお待ちしております

今こそ、鹿砦社の雑誌!!

◎『紙の爆弾』 amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DG578D28/
◎『季節』 amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DB1GZ5CM/

開示証拠が無罪を明らかにした! 福井女子中学生殺人事件の第二次再審請求審で再審開始の決定 尾﨑美代子

10月23日、名古屋高裁金沢支部は、福井女子中学生殺人事件の第二次再審請求審で再審開始の決定をだした。検察が控訴する可能性もあるが、弁護団は本当に頑張ってここまで闘ってこれたと驚く。というのも、桜井昌司さんや青木恵子さんから聞いたのだが、再審請求人の前川さんは弁護団と折り合いがあまり良くないと聞いていたからだ。しかし、ここにきてこれまでのいろんな対立感情も少しおさまればと願っている(事件の詳細は弁護団への取材後に報告したい)


◎[参考動画]【速報】福井女子中学生殺人事件 再審認める決定 名古屋高裁金沢支部(日テレNEWS 2024年10月23日)

 
入廷行動前に裁判所前で行われた集会で発言する再審請求人の前川さん(全写真提供=青木恵子さん)

38年前、福井市の女子中学生が卒業式の日の夜、自宅で非常に惨殺な殺され方をした。被害者は地元の不良たちとトラブルを抱えていたこともあり、リンチされたのではないかと思われた。しかし、犯人逮捕のめどがつかない。そんななか前川さんが逮捕されてしまう。

そこに至るいきさつは複雑だ。別件で逮捕されていた地元のワルで暴力団組員Yが警察官に「犯人をしらないか」と聞かれ、犯人がわかれば、自身の刑が軽くなるのではと考え、知人に「犯人知らないか?」などと手紙していた。つまりYは犯人を知らないのだ。しかし、どうにか刑を軽くしたいYは、同じく当時シンナーを吸ってたりした後輩の前川さんに犯人役を押し付けようと企む。犯人は被害者がその時間1人でいたことを知っていた可能性があるため面識がある人物と思われてきた。しかし前川さんその被害者と面識がなかったのだ。

犯人逮捕に至らず、世間の非難を浴びる警察も、なんとか前川さんを犯人にしたてようとYの嘘の供述から、次々と関係者の嘘の供述をとっていく。

途中例えば「そうだCはあの喫茶店の場所をしらないんだ。ならば、Oを引っ張りこもう」と関係者がどんどん増えていく。警察に呼ばれた連中の多くは薬に手を染めたり、恐喝したりとスネに傷持つ者だから、警察に逆らえず、どんどんYと警察の作ったストーリーに沿った供述を行っていく。

ただし再審開始の決定書では、主に6人の関係者の供述などに絞っていく。 当日、犯行現場に前川さんを車で送ったというTは、車に戻ってきた前川さんの右手に血がついていたうえ、犯行をほのめかされたと供述。Iは事件当夜、Yに呼び出された先で、胸のあたりに血をつけていた前川さんを見たと供述。決定的な証拠がないなか、前川さんには一審て無罪判決が下されたが、検察が控訴し、二審では他を含む6人の供述が概ね一致しているとして懲役7年の実刑判決がくだされ、前川さんは服役してきた。

Iは、当初検察側証人として確定判決に沿う証言をした。事件当日はy田(Yとは別人)の家で「夜のヒットスタジオ」を見ていたが、アンルイスが歌う後ろで吉川晃司が腰を振るいやらしい場面(「本件場面」)があり、2人で「いやらしいな」と感想を言い合っていた。その後Yから電話があり、呼ばれた場所に行くと胸のあたりに血がついている前川さんを見たと証言。その後、Iの証言は事件当夜はm男とうどん屋に行き喧嘩をみた。そのあと、本件事件の検問を受けたと証言した。さて、どちらが正しいのか?

確定判決は、Iの最初の供述の信用性を認めた。理由のなかで「夜のヒットスタジオ」が事件当日夜に放送された事実を認定していた。警察の捜査報告書には「夜のヒットスタジオ」が、事件のあった3月19日に放送されたと記載されていた。なお、テレビ局への照会は、検察が前川さんを起訴した後、補充捜査の一環として警察に指示しておこなっていたのだった。

 
全身白い服装で応援に駆け付けた冤罪被害者の青木恵子さんと前川さん

今回の再審請求審で、弁護団が新たに検察に開示させた証拠のなかにその報告書があった。そしてテレビ局に対する照会結果などによれば、その放送は3月19日ではなかったことが発覚した。どういうことや?

一方、y田は夜のヒットスタジオでいやらしい振り付けのアンルイス、吉川の共演を一緒に見たのが誰だったか、最初は思い出せていないことがわかった。しかも一緒に番組を見ていたIとはそれほど親しい関係でなかったことも……。しかし、いやらしい「本件場面」を見たあとに、Yから呼び出されたことから、それほど仲の良くない2人が一緒にいやらしい「本件場面」をみていたことにされていたのだ。

Iは取り調べの初期段階で、当夜はツレのm男とうどん屋に行き、そこで喧嘩をみた。そのあとに、殺人事件関連の検問をうけたと供述したのに、M警察官は「m男はうどん屋で喧嘩を見たのは別の日だと言ってるぞ」とその供述を受けつけてくれなかった。新証拠によって、例の「本件場面」が放送されたのは別の日だと判明したことから、Iらが警察官の誘導で、ありもしない体験を述べる供述が作成されていたことが判明した。

実はIは、一審で前川さんが無罪になったあと、再びM警察官に呼ばれ、Iの覚せい剤事件を見逃すことを条件に、再度血のついた前川さんを見たとの証言を行わされた。Iは今回の再審請求審では弁護側の証人となり、その事実を証言した。M警察官の車に乗り出廷した控訴審の証人尋問のあと、M警察官に食事やスナックを奢られたうえ、結婚する際には祝儀をもらったとも証言、M警察官の名前が入った祝儀袋を証拠提出した。 

 
「日野町事件」の再審請求人・阪原弘次さん(弘務元被告の長男)と前川さん

それにしても、148頁にも及ぶ再審開始決定書のなかで、これだけ頻繁に「夜のヒットスタジオ」「アンルイス」「吉川晃司」が引用されるのは珍しいことだ。一方で、これもまた分厚い2年前の再審請求書には、「夜のヒットスタジオ」云々は全く触れられていない。なぜかというと、画定審では、その後前川さんの着衣などに血がついていることを目撃したIは、一緒にいたy田とアンルイスと吉川のいやらしい共演を見たあとに、Yに呼び出され、そこで血のついた前川さんを見たとなっていたが、いやらしい場面(本件場面)が放送されたのが3月19日と明確になったことも大きな理由として、主要関係者の供述や証言は嘘でないとされたのだった。そして前川さんは有罪とされていた。

しかし、当時のテレビ番組を知っている人はご存じだろうが、「夜のヒットスタジオ」は当時流行った曲を歌う歌手が登場する。だから当時ヒット曲を出していたアンルイスも吉川もたびたび登場していたのではないか。ただし、アンルイスが「六本木心中」を歌いだし、2番目を歌いだした際、吉川を呼びつけ、例のいやらしい振り付けで競演するというパフォーマンスは、3月19日の放送ではなく、翌週3月26日の放送だったのだ。しかも19日、「夜のヒットスタジオ」でアンルイスが歌ったのは「六本木心中」ではなく「あぁ無情」だったし、この日吉川も出演しているが、アンルイスとは共演していない。テレビの番組表だけをみれば、出演者欄に「アンルイス、吉川晃司」と書いてある。

私は知らなかったが、あのアンルイスと吉川のいやらしいパフォーマンスは当時テレビを見ていた人の中ではかなり刺激的で強烈に記憶に残っていたようだ。今でもxなどで検索すればでてくる。


◎[参考動画]伝説のデュエット【六本木心中】

それにしても、警察、検察も酷いことをするもんだ。冤罪を作り続ける現場の連中も、部下に性的暴行をはたらく上のやつらも……。そしてこんな私のところには冤罪犠牲者の方々から連絡がくる。拘置所、刑務所から手紙がきたり、人を介して連絡がきたり。先週も北海道の拘置所から手紙をくれた方がいた。多くの人は「私も冤罪です。取材してください」だが、彼は「『日本の冤罪』を読んで感動しました。私も冤罪で現在控訴中です。冤罪関係のどんな本を読むのがお勧めですか」だった。

冤罪は、大きいも小さいも関係なく、その人や家族、関係者の人生を大きく変えてしまう。連絡下さったすべての方々のお話を聞きたい。一生かけて聞いていかなくてはならない。冤罪を晴らしていかなくてはならない。


◎[参考動画]38年前の事件で7年服役 前川彰司さん(59)裁判所が再審認める判断 目撃証言の男性「うその証言をした」などの証拠 福井・中3女子殺害事件(TBS 2024年10月23日)

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

日本原電敦賀原発2号機 新規制基準「不合格」をめぐる7つの問題点〈後編〉 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

◆〔4〕本審査結果……『この原発が今後適合することはない』の恒久性について
 さらに審査を求める行為を拒否することも審査書に明記すべき

規制委員会はK断層は後期更新世以降の活動が否定できないこと及びK断層は2号炉原子炉建屋直下を通過する破砕帯との連続性が否定できないことから、設置許可基準規則第3条第3項に適合しているとは認められないと判断した。

したがって、本申請は、原子炉等規制法第43条の3の8第2項において準用する原子炉等規制法第43条の3の6第1項第4号に適合しているものとは認められないとの結論である。

上記結論に達した以上、『この原発が今後適合することはない』と考えるべきだ。
巨額の投資をしているからとか、新たな知見が見つかったなどとして審査を求めることは、大きな費用を追加投入することになるので厳しく批判されなければならない。

敦賀原発2号機については、この状況においてはさらに審査を求める行為を拒否することも合わせて審査書に明記すべきである。

◆〔5〕経理的基礎の不存在について
 敦賀2号機の再稼働を前提とした維持管理費を電力3社(関西、中部、北陸)から調達できない

原電については、既に東海第二原発の再稼働を巡り「経理的基礎」についての審査が一度行われている。

その中で、原電に経理的基礎がある根拠としているのは原電が建設している(審査段階では建設予定である)のは2014年5月20日付けの原電による申請に対する審査で、安全対策工事のうち防潮堤に関しての資金である1740億円についてのみである。

この安全対策工事にかかる資金を原電が調達できる見込みがあるかどうかを確認しているにすぎない。

これは、それ以外の経営上必要な費用については、東海第二と敦賀2号機の「維持管理費用」として調達できるからであり、これが土台になっていることが前提だった。
 
ところが今回、審査結果として敦賀2号機の運転が不可能となることで、この土台が失われることが確定的になった。

現時点では日本原電は、依然として敦賀2号機の再稼働を前提とした維持管理費を電力3社(関西、中部、北陸)から調達できるかの前提で経理的基礎はあると主張するのだろうが、それは虚飾と言うほかはなく、三電力の株主及び消費者にとっては、無駄な資金提供を原電に続けることとなる。

このような不当な状況を回避するために、再び経理的基礎を有するかの審査が必要だ。

◆〔6〕東海第二原発の欠陥防潮堤
 日本原電の会社としての運営が危機的状況になっている

これに加えて、原電は現在、東海第二の防潮堤工事を進めているところだが、この工事に重大な欠陥があり防潮堤が完成できない状況にある。そのため1740億円をはるかに超える費用がかかることは間違いなく、先の経理的基礎が失われていると考えられる。

敦賀2号機の運転ができない状況となったことから、将来的には東海第二の再稼働どころか、日本原電の会社としての運営が危機的状況になっている。

そのことは東海第二の安全対策工事にも影響を及ぼすこととなるので、規制委は改めて東海第二の安全対策工事や防潮堤工事について、本当に竣工可能なのか、経理的基礎を改めて審査するべきだ。

◆〔7〕日本原電の電気料金収入の問題
 使えない設備の維持のために強制的に費用を負担させるのは不当であり、不正である

経理的基礎の喪失と同時に、原電の収入には大きな問題がある。

2011年度以降2023年度までの電力収入は累計1兆5658億490万円に達している。これは発電など全くしていない2基の原発のために5電力会社が支出した金額だ。

この資金は全て電力会社の電気代つまり消費者から集めた資金である。この資金は、原電の2基の原発を再稼働することでまかなうはずだった。

そのうち敦賀原発2号機の再稼働ができなくなったことについて、原電はいかなる責任を負うのか、規制庁はヒアリングを行い、こうした問題について解明するべきである。

特に、敦賀原発2号機の審査を更に継続しようとする計画であることを原電自らが主張し、さらに電力3社や経団連がそれを支援するなどとしているが、そのために更に巨額の維持管理費用を各電力会社の顧客は負担しなければならない。

原発に拘泥し、使えない設備の維持のために強制的に費用を負担させるのは不当であり、不正であることを規制委は明確にするべきである。(了)

◎山崎久隆 日本原電敦賀原発2号機 新規制基準「不合格」をめぐる7つの問題点
〈前編〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=51517
〈後編〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=51523

◎初出:「月刊たんぽぽニュース」2024年10月号

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。

◎たんぽぽ舎 https://www.tanpoposya.com/
◎たんぽぽ舎メルマガ:「地震と原発情報」 メルマガ申込み(無料)

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年夏・秋合併号《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年夏・秋合併号(NO NUKES voice 改題)
A5判 148ページ 定価880円(税込み)

《グラビア》
「幻の珠洲原発」建設予定地 岩盤隆起4メートルの驚愕(写真=北野 進
「さよなら!志賀原発」金沢集会(写真=Kouji Nakazawa

《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 原子力からこの国が撤退できない理由

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 なぜ日本は原発をやめなければならないのか

《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
 事実を知り、それを人々に伝える

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 核武装に執着する者たち

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
 課題は放置されたまま

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
 原発被害の本質を知る

《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
 珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった

《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
 東京圏の反原発 ── これまでとこれから

《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え

※          ※          ※

《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
 創刊から10周年を迎えるまでの想い出

《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
 お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記

《季節創刊10周年応援メッセージ》

 菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
 守りに入らず攻めの雑誌を

 中村敦夫(作家・俳優)
 混乱とチャンス  

 中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる

 水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう

 山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために

 今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
 裁判も出版も「継続は力なり」

 あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
 隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい

※          ※          ※

《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題 

《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
 棄民の呻きを聞け 福島第一原発事故被害地から

《講演》和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
「復興利権」のメガ拠点 「福島イノベーション・コースト構想」の内実〈前編〉

《報告》平宮康広(元技術者)
 水冷コンビナートの提案〈1〉

《報告》原田弘三(翻訳者)
 COP28・原発をめぐる二つの動き
「原発三倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
 総裁選より、政権交代だ

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
   タイガー・ジェット・シンに勲章! 問われる悪役の存在意義

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
   山田悦子の語る世界〈24〉
   甲山事件50年を迎えるにあたり
   誰にでも起こりうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか(下)

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
   洋上風力発電を問う 秋本議員収賄事件を受けて

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
 時代遅れの「原発依存社会」から決別を!
 政府と電力各社が画策する再稼働推進の強行をくい止める

《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 6・9大阪「とめよう!原発依存社会への暴走大集会」に1400人超が結集

《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 女川原発の再稼働はあり得ない 福島事故を忘れたのか

《福島》黒田節子(請戸川河口テントひろば共同代表)
 浪江町「請戸川河口テントひろば・学ぶ会」で
 北茨城市大津漁協裁判で闘う永山さんと鈴木さんの話を聞く

《柏崎刈羽原発》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 7号機再稼働で惨劇が起きる前に、すべての原発を止めよう!

《首都圏》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 福島原発事故の責任もとれない東京電力に
 柏崎刈羽原発を動かす資格はない!

《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
 静岡県知事と御前崎市長が交代して
「一番危険な原発」はどうなるか

《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 政治に忖度し、島根原発2号機運転差止請求を却下
 それでも私たちは諦めない!

《玄海原発》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会)
 玄海町「高レベル放射性廃棄物・最終処分場に関する文献調査」受入!

《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
 私たちは歩み続ける

《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 原子力規制委員会を責め続けて11年
 原子力規制委員会は、再稼動推進委員会・被曝強要委員会

《反原発川柳》乱鬼龍

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DB1GZ5CM/

◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000748

龍一郎揮毫
私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く〈1〉飯塚事件再審 ── 弁護士として、自ら犯してしまった過ちをいかに一人の人間としてどう償うのか 尾﨑美代子

 

ハンセン病、薬害エイズ被害患者の救済から飯塚事件などの冤罪訴訟まで、常に弱者の立場に立ち、法廷で声なき声を代弁してきた徳田靖之(とくだ・やすゆき)弁護士──。「6・5 飯塚事件『不当決定』を許さない」と題された9月14日大阪講演の記録を全6回連載で報告する。(企画・構成=尾﨑美代子)

◆1992年の飯塚事件 ── 再審請求に着手する前に死刑が執行されてしまった

飯塚事件は、1992年、福岡県飯塚市で通学途中の小学1年の女の子2人が何者かに誘拐され、性的ないたずらされたのち山中に遺棄された大変痛ましい事件です。事件から2年7ケ月後、久間三千年さんが逮捕されます。久間さんは一貫して「やってない」と訴えてましたが、2006年、最高裁で死刑判決が確定し、2年後に死刑が執行されてしまいました。

私は、弁護人として心して弁護を務めてきましたが、正直とんでもない過ちを犯してしまったのではないかと思ってしまいました。と言うのは、私は控訴審から弁護を務めてきましたが、死刑判決が確定したあと久間さんと接見した際、久間さんから「再審請求してほしい」と言われ引き受け、岩田弁護士と二人で中心となって再審を準備していました。拘置所の方も久間さんが再審をやりたいということは承知していたわけです。しかし、私たちが再審請求に着手する前に死刑が執行されてしまった。

最後に面会したのは死刑執行のひと月前でした。私たちが「まもなく死刑判決確定から2年になるので再審請求をしなければならない」と言ったところ、久間さんが手作りした一覧表みたいなものを見せて、死刑が確定した死刑囚はまだ大勢いる、自分より先に死刑が確定した人が10人位いるから、「先生、急ぐ必要はありません。まだ私の番がくるまでには時間がたっぷりあるので、しっかり準備してください」と言われて別れたのです。が、その直後に死刑が執行されてしまった。

そして、この死刑執行された日というのは、じつは冤罪でのちに無罪となった足利事件で、東京高裁が職権でDNA型鑑定をするということが決まった直後でした。飯塚事件と足利事件では、同じ鑑定人が同じ方法で鑑定していました。足利事件はその鑑定方法がデタラメだということで、改めてDNA型鑑定がおこなわれ再審無罪が確定しました。足利事件が怪しくなったというその時期に、同じ鑑定人が同じ方法でおこなったDNA型鑑定が柱となって死刑判決になっている飯塚事件については死刑が執行されたわけです。

法務省は私たちが再審の準備をしていることを知りながら、早い時期に死刑執行をした。そのこと自体は、確かに法務省が極めて不当な目的のもとに死刑執行をしたということで非難されるべきですが、私たちとしてはもっと早く再審請求の準備を着手していたら、この執行はなかったのではないかという点で、弁護士として間違いを犯してしまったという、そういう事件でもあるわけです。

ですから、私たちにとって、飯塚事件の再審に取り組むということは、自ら犯してしまった過ちをいかに弁護士として、一人の人間としてどう償うのかという問題でもあるわけです。幸い久間さんのご遺族であるおつれあいさんやお子さんが、私たちをとても信頼してくださり、「再審請求をお願いしたい」と言ってくださいまして、私らも引き受けさせていただきました。私としては、とんでもない過ち犯してしまったことへの償いとしての再審請求であるということをまずお話しておく必要があります。

◆死刑判決の証拠構造 ── 直接証拠なしでの情況証拠4つの柱

久間さんが死刑になった判決の根拠はどういうものなのかをお話します。飯塚事件には直接的証拠は全くありません。目撃者もなく、物証といわれるものもありません。その証拠となっているのは大きく4つ。

第1は、足利事件と同じDNA型鑑定です。被害にあった女の子の膣内に犯人にものと思われる血液が残っていて、DNA型鑑定を検査したところ、久間さんと一致したというのが証拠の第1にあります。このDNA型鑑定は「MCT118」という方法で、今はもう全く信用できないと採用されていません。

MCT118は、警察庁の科学警察研究所(以下、科警研)が開発した手法で、足利事件で菅家さんを犯人だと決めつけた鑑定方法です。それがとんでもない間違いだというシロモノなのですが、それが飯塚事件の場合には被害にあった女の子の膣内の血液が、久間さんと一致したというのです。

第2は、被害者は当時学校に通う途中でランドセルを背負った状態で誘拐されました。そのときのランドセルや着衣など遺留品が発見された付近で、不審な車を見たという目撃証言があり、目撃した人は、不審な車は久間さんの車の特徴と一致していると証言したのです。これが第2の柱です。

第3の柱は、被害者の女の子らが最後に目撃された場所で、久間さんの車と似た車を見たという証言です。

そして第4の柱は、被害者のスカートから発見された繊維片が、久間さんの車のシートに使われた材質の繊維を同じだという鑑定です。

この4つが死刑判決の柱となっています。そのうえで死刑判決は、これらの証拠を総合すれば、久間さんが犯人であることは疑いえないといっています。

◆久間さん有罪と矛盾する新たな二つの証拠

しかし、判決には、実は久間さんを犯人にするうえにおいては大きな矛盾点が残っているとも書いてます。どういうことかというと、MCT118という科警研の鑑定は開発してまもないために、あまり信用性がなかった。それで「これ一つだけで犯人と特定してはいけません。同じようなDNA型鑑定を同時に行いなさい」と科警研が通知をしていたのです。「同時に行いなさい」という鑑定はHLADQα型というDNA鑑定ですが、これでは久間さんの型は出なかった。これが久間さんを犯人とする弱点の第一です。

弱点はもうひとつありました。MCT118鑑定は信用できないと検察庁は考えていたために、検察庁は、DNA型鑑定の権威のお一人である帝京大学の石山先生に、女の子の膣内に残されていた血痕の試料を送って、久間さんの型と一致するかどうか改めて調べてほしいと依頼した。石山教授は最新型のミトコンドリア鑑定という、非常にわずかな試料でも鑑定ができる方法で実施した。すると久間さんの型は全く出てこずに、第三者の型が出てきた。

死刑判決の中の、この2つの弱点について、裁判所は何をいっているかというと、この2つの事実は久間さんを犯人とすることと矛盾するようにみえるというふうに書いたうえで、このHLADQα型鑑定だとか、石山教授のミトコンドリア鑑定は、試料がわずかで劣悪だったために、久間さんの型がでてこなかったのだと解釈すれば矛盾がなくなると書いてます。そういう理屈をこねて、さきほど話した4つの証拠で死刑判決をだし、これが最高裁で確定し、死刑になったわけです。(つづく)

◎徳田靖之弁護士講演会 6月5日飯塚事件「不当決定」を許さない(2024年9月14日 大阪浪速区大国 社会福祉法人ピースクラブにて)

▼徳田靖之(とくだ・やすゆき)
弁護士。1944年4月大分県別府市生まれ。東京大学法学部卒。1969年弁護士登録。大分県弁護士会所属。「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟西日本弁護団共同代表、ハンセン病市民学会共同代表、薬害エイズ九州訴訟共同代表。飯塚事件弁護団共同代表

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

僕が放射性廃棄物の地層処分に反対する理由〈2〉ガラス固化体の発熱量は無視できても、地温は無視できない 平宮康広(元技術者)

◆1.2. ガラス固化体の発熱量

NUMOは、30~50年冷却したガラス固化体を再処理工場内でオーバーパックに格納し、20~28本のオーバーパックを専用キャスク(専用の容器)に入れて地層処分施設に搬送する、といっています。キャスクの重量は約100トンになりますが、約100トンの重量物を搭載した運搬車は公道を走ることができません。そこで、地層処分施設に近い沿岸に専用港を建設し、専用の運搬船にオーバーパックを入れた専用キャスクを載せ、専用港まで輸送します。そして、専用港から地層処分施設までの間を専用道路でつなぎ、専用の運搬車が地層処分施設まで搬送します。

地層処分施設は、地上施設と地下施設に分かれています。地上施設は、敷地が1~2平方㎞の「工場」です。専用運搬車は、[図3]のように、時速10㎞前後の速度で地上施設に向かいます(専用運搬車の速度は、時速10㎞前後が限度でしょう。約100トンの重量物を搭載しているので、時速20㎞以上の速度を出すと運転手がブレーキを踏んでも止まらないと思います)。

[図3]

専用運搬車が専用キャスクを搬送した後、地上施設内で専用キャスクからオーバーパックを取り出し、緩衝材で包みます。緩衝材は砂状の粘土で、「ベントナイト」と呼んでいます。

ベントナイトは水を吸収すると固まります。NUMOは、ベントナイトをつくる緩衝材を「人工バリア」と呼んでいます。人工バリアは長さ約310cm、直径約220cm、重量約17.5トンの円筒で、NUMOは、人工バリアの耐用年数は1万年であると豪語しています。

[図4]は、ガラス固化体とオーバーパック、人工バリアのイメージです。NUMOは、ガラス固化体の放射能は8000年後に天然ウランと同程度なる、人工バリアの耐用年数は1万年なので、ガラス固化体の地層処分は安全である、といっています。

[図4]

ところで、ストロンチウム90の放射能半減期は約30年で、発熱量は1kgあたり460ワットです(この値は実測値です。セシウム137の崩壊熱はストロンチウム90の約2倍ですが、発熱量の実測値はわかりません)。

NUMOは、製造直後のガラス固化体の発熱量は1体あたり約2300ワットで、30~50年後に350ワット以下になるといっています。しかし、ガラス固化体1体あたりのストロンチウム90の量は、1kgくらいあるかもしれません。その場合、30年後のガラス固化体の発熱量は、ストロンチウム90だけで1体あたり約230ワットになります。つまり、30年後や50年後のガラス固化体の発熱量の約半分が、ストロンチウム90の発熱量になってしまいます。

(セシウム137の崩壊熱はストロンチウム90の約2倍です。30~50年後のガラス固化体の発熱量が1体あたり350ワット以下になるとは考えにくいですね。NUMOは、意図的に、ガラス固化体が含むストロンチウム90とセシウム137の量=推定値を減らしているように思います。余談ですが、プルトニウム238の放射能半減期は約88年で、発熱量の実測値は1kgあたり540ワットです。NUMOは、ガラス固化体はプルトニウム238を含んでいない、含んでいるとしてもわずかであると述べていますが、プルトニウム238を0.1kg含んでいるだけでも、30~50年後のガラス固化体の発熱量は、1体あたり350ワット以下にならないでしょう)

僕は、経産省資源エネルギー庁とNUMOが開催した説明会で、「ベントナイトは、水を吸収すると固まりますが、水を失うと砂に戻りますね。30~50年後のガラス固化体の発熱量が350ワット以下になるとは考えにくいので、ベントナイトは、ガラス固化体の発熱で水分を失うかもしれません。ベントナイトは、1年以内に砂に戻ってしまうのではありませんか。つまり、人工バリアの耐用年数は、推定1万年ではなく、推定1年です」といいました。

NUMOの職員らしき説明員が、血相を変えて、「ガラス固化体は、発熱量が350ワット以下になってからオーバーパックに入れます。人工バリアが1年で壊れることはありません」といいました。

そこで僕は、「ガラス固化体の発熱が無視できるくらい小さいとしても、地温を無視できないですね。経産省資源エネルギー庁とNUMOが考える地温の上限は45℃ですか?」と質問しました。説明員は、「地温の上限は60℃です」と答えました。

◆1.3. 地温問題と黒部川第三発電所

地下の温度=地温は、地下の深さに比例して上昇します。地下100mあたりの地温上昇を地温勾配と呼んでいますが、NUMOは、地温勾配の想定値を15℃にしています(ふつう、地温勾配の想定値は17~18℃ですけど!)。

国会が制定した「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(以後、「最終処分法」と呼びます)」にしたがえば、ガラス固化体は300m以深の地下に埋設しなければなりません。僕が、「地温の上限は45℃ですか?」と質問したのは、地温勾配の想定値が15℃の場合、地下300mの地温が45℃になるからです。説明員が「60℃です」と答えたのは、ガラス固化体を地下300~400mに埋設するつもりでいるからでしょう。

疑問がいくつか浮かびます。まず、ベントナイトは、地温が60℃以下であれば、砂に戻ることはないのか、という疑問です。次に、地下300~400mの地温は、本当に60℃以下なのか、という疑問です。

戦前の日本は、国家総動員法の下で黒部川第三発電所の施工を強行しました。ダムを建設するための資材を運ぶためのトンネルを、山の中腹に掘る必要が生じました。当初、山の中腹の岩盤温は約65℃でしたが、掘削を開始してから約10か月後に100℃を超え、166℃になります。そして、トンネルの掘削で使用するダイナマイトが自然発火します。黒部川第三発電所の施工期間は1936~1940年で、約300名の尊い人命を事故で失いました。

(堀内節子さんが、「黒三ダムと朝鮮人労働者(桂書房)」で、当時の様子を詳しく書いておられます。関心のある方は、堀内さんの著書を一読してください。ちなみに、黒部川流域(富山県東部)の温泉水の水温は98℃以上、黒部峡谷から遠く離れている庄川流域(富山県西部)の温泉水の水温は57℃以上です)

黒部川第三発電所の経験から、地下300~400mであれば地温が60℃以下になるなどということは、断言できません。富山県のような地域では、ガラス固化体を格納したオーバーパックを覆うベントナイトは、乾燥して崩れ、地震や火山が勃発した場面で破損し、高レベル放射性廃棄物が外部に流出するでしょう。

その後NUMOは、地温勾配が2~3℃の地域を探し出して地層処分するなどといいはじめ、説明会で配布する資料(「科学的特性マップ」の説明資料)に、「例えば処分深度が500mの場合の地温勾配の基準は約9℃/100mとなる」などと記載したりします。NUMOのご都合に応じて、地球が地温勾配を約9℃に下げてくれるのでしょうか。僕は論争を試みましたが、「文献調査をすればわかることです」などといわれ、はぐらかされてしまいました。(つづく)

◎平宮康広 僕が放射性廃棄物の地層処分に反対する理由(全7回連載)
〈1〉日本原燃が再処理工場を新設する可能性
〈2〉ガラス固化体の発熱量は無視できても、地温は無視できない

▼平宮康広(ひらみや・やすひろ)
1955年生まれ。元技術者。オールドウェーブの一員として原発反対運動に参加している。富山県在住。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年夏・秋合併号《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年夏・秋合併号(NO NUKES voice 改題)
A5判 148ページ 定価880円(税込み)

《グラビア》
「幻の珠洲原発」建設予定地 岩盤隆起4メートルの驚愕(写真=北野 進
「さよなら!志賀原発」金沢集会(写真=Kouji Nakazawa

《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 原子力からこの国が撤退できない理由

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 なぜ日本は原発をやめなければならないのか

《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
 事実を知り、それを人々に伝える

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 核武装に執着する者たち

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
 課題は放置されたまま

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
 原発被害の本質を知る

《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
 珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった

《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
 東京圏の反原発 ── これまでとこれから

《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え

※          ※          ※

《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
 創刊から10周年を迎えるまでの想い出

《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
 お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記

《季節創刊10周年応援メッセージ》

 菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
 守りに入らず攻めの雑誌を

 中村敦夫(作家・俳優)
 混乱とチャンス  

 中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる

 水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう

 山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために

 今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
 裁判も出版も「継続は力なり」

 あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
 隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい

※          ※          ※

《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題 

《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
 棄民の呻きを聞け 福島第一原発事故被害地から

《講演》和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
「復興利権」のメガ拠点 「福島イノベーション・コースト構想」の内実〈前編〉

《報告》平宮康広(元技術者)
 水冷コンビナートの提案〈1〉

《報告》原田弘三(翻訳者)
 COP28・原発をめぐる二つの動き
「原発三倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
 総裁選より、政権交代だ

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
   タイガー・ジェット・シンに勲章! 問われる悪役の存在意義

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
   山田悦子の語る世界〈24〉
   甲山事件50年を迎えるにあたり
   誰にでも起こりうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか(下)

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
   洋上風力発電を問う 秋本議員収賄事件を受けて

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
 時代遅れの「原発依存社会」から決別を!
 政府と電力各社が画策する再稼働推進の強行をくい止める

《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 6・9大阪「とめよう!原発依存社会への暴走大集会」に1400人超が結集

《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 女川原発の再稼働はあり得ない 福島事故を忘れたのか

《福島》黒田節子(請戸川河口テントひろば共同代表)
 浪江町「請戸川河口テントひろば・学ぶ会」で
 北茨城市大津漁協裁判で闘う永山さんと鈴木さんの話を聞く

《柏崎刈羽原発》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 7号機再稼働で惨劇が起きる前に、すべての原発を止めよう!

《首都圏》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 福島原発事故の責任もとれない東京電力に
 柏崎刈羽原発を動かす資格はない!

《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
 静岡県知事と御前崎市長が交代して
「一番危険な原発」はどうなるか

《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 政治に忖度し、島根原発2号機運転差止請求を却下
 それでも私たちは諦めない!

《玄海原発》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会)
 玄海町「高レベル放射性廃棄物・最終処分場に関する文献調査」受入!

《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
 私たちは歩み続ける

《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 原子力規制委員会を責め続けて11年
 原子力規制委員会は、再稼動推進委員会・被曝強要委員会

《反原発川柳》乱鬼龍

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DB1GZ5CM/

◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000748

龍一郎揮毫
私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

日本原電敦賀原発2号機 新規制基準「不合格」をめぐる7つの問題点〈前編〉 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

原子力規制委員会(規制委)は8月28日の定例会合で、日本原子力発電(原電)敦賀発電所2号機(PWR、116万kW)の新規制基準適合性審査で「安全上重要な施設(原子炉建屋等)は将来活動する可能性のある断層等の露頭がないことを確認した地盤に設置する」との条件に適合しないことから「原子炉設置変更を許可しない」(すなわち再稼働不可)とする「審査書案」を了承し、パブリックコメント(パブコメ)が実施された。

そのパブコメに送った意見をベースに、この審査書案の7つの問題点を指摘する。

◆〔1〕審査書案の位置づけが不明確
 具体的な記述がない、明確化して記載するべき

 まず、この審査書の位置付けである。この審査書は「原子炉等規制法第2項の規定により準用する以下の規定に適合しているかどうかを審査した結果を取りまとめたものである。」とし、「本審査書の構成」では『「2(ローマ数字、以下同じ) 耐震重要施設の地盤の変位(第3条第3項関係)」には、設置許可基準規則のうち設計基準対象施設の地盤に係る耐震重要施設の地盤の変位に係る規定への適合性に関する審査内容を示した。「3 審査結果」には、規制委員会としての結論を示した。』としている。

このような位置付けで審査を行った結果が本書であるとして、この後の審査書の記述は事実上断層による地盤変異が生ずる可能性についての議論だけが記載されている。

原子炉等規制法では、そのほかにも多くの項目があるが、それらについては審査は行われていない。

地盤変異の可能性が否定できなければ、その後の審査は不要であるとの考え、または意味をなさないとの立場であると思われる。

そのことについての判断としては正当であると思うが、そうした具体的な記述がないため、明確化して記載するべきであると考える。

◆〔2〕有識者会合の報告書を無視した原電
 浦底断層の認定、敷地内断層の活動の可能性

この原発については、2012年の炉規法改正による新規制基準の策定以前から多くの指摘がされてきた。

特に浦底断層の認定、敷地内断層の活動の可能性は多くの地震学者や地質科学者が指摘してきたことで、今になって浮上したことではない。

このうち問題となったK断層は後期更新世以降に活動した形跡がない「断層」とはいえないことは、2013年に原子力規制委員会の有識者会合の報告書において「原子炉建屋の直下に活断層が走っている可能性がある」とした時点で明白であった。

日本原電は敦賀2号機の新規制基準適合性審査申請(2015年)を行うべきでなかった。また、規制委員会も、その申請を受理するべきではなかった。

有識者会合の報告を無視して審査の申請書を提出したときから、今日に至るまで行われた審査会合及び現地調査等が、規制委員会が申請書を受理したために行われた。

有識者会合の現地調査等で、事実上今回の審査書に記載された事項は結論が出ていることであり、改めて新知見が明確になって断層活動による地盤の変位の可能性が生じたわけではない。

こうした有識者会合における結論と、今回の9年近くにわたり行われた審査において出された結論とは、何が異なるのか、または異ならないのかも合わせて審査書の中で具体的に言及するべきである。

◆〔3〕規制される活断層の定義は誤り
 国土地理院の定義では260万年以降が正しい

規制委が示す「将来活動する可能性のある断層等」は「後期更新世以降(約12~13万年以降)の活動が否定できない断層等」としているが、これには科学的根拠がない。

敦賀原発2号機に限らず、他の原発についても、以前は1~5万年前以降としていた時期もあったし、現在でも40万年以降とする規定もある。
 
現在、海洋の断層について調査を強化する動きが地震本部などで開始されているが、特に海底下の断層では、トレンチ調査もできない。

国土地理院の定義では260万年以降の第四期における活動が認められれば活断層である。

今回の敦賀原発では、12~13万年の「境界線」前後の何処で動いたのかを細かく議論しようとしている。

しかし本来は原発の耐震安全性を、できうる限り強化するために審査することが重要である。

その観点に立つならば「将来活動する可能性のある断層等」については後期更新世以降よりもさらに遡り、国土地理院が定めている活断層とするべきである。(つづく)

◎初出:「月刊たんぽぽニュース」2024年10月号

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。

◎たんぽぽ舎 https://www.tanpoposya.com/
◎たんぽぽ舎メルマガ:「地震と原発情報」 メルマガ申込み(無料)

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年夏・秋合併号《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年夏・秋合併号(NO NUKES voice 改題)
A5判 148ページ 定価880円(税込み)

《グラビア》
「幻の珠洲原発」建設予定地 岩盤隆起4メートルの驚愕(写真=北野 進
「さよなら!志賀原発」金沢集会(写真=Kouji Nakazawa

《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 原子力からこの国が撤退できない理由

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 なぜ日本は原発をやめなければならないのか

《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
 事実を知り、それを人々に伝える

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 核武装に執着する者たち

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
 課題は放置されたまま

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
 原発被害の本質を知る

《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
 珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった

《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
 東京圏の反原発 ── これまでとこれから

《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え

※          ※          ※

《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
 創刊から10周年を迎えるまでの想い出

《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
 お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記

《季節創刊10周年応援メッセージ》

 菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
 守りに入らず攻めの雑誌を

 中村敦夫(作家・俳優)
 混乱とチャンス  

 中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる

 水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう

 山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために

 今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
 裁判も出版も「継続は力なり」

 あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
 隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい

※          ※          ※

《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題 

《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
 棄民の呻きを聞け 福島第一原発事故被害地から

《講演》和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
「復興利権」のメガ拠点 「福島イノベーション・コースト構想」の内実〈前編〉

《報告》平宮康広(元技術者)
 水冷コンビナートの提案〈1〉

《報告》原田弘三(翻訳者)
 COP28・原発をめぐる二つの動き
「原発三倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
 総裁選より、政権交代だ

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
   タイガー・ジェット・シンに勲章! 問われる悪役の存在意義

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
   山田悦子の語る世界〈24〉
   甲山事件50年を迎えるにあたり
   誰にでも起こりうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか(下)

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
   洋上風力発電を問う 秋本議員収賄事件を受けて

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
 時代遅れの「原発依存社会」から決別を!
 政府と電力各社が画策する再稼働推進の強行をくい止める

《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 6・9大阪「とめよう!原発依存社会への暴走大集会」に1400人超が結集

《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 女川原発の再稼働はあり得ない 福島事故を忘れたのか

《福島》黒田節子(請戸川河口テントひろば共同代表)
 浪江町「請戸川河口テントひろば・学ぶ会」で
 北茨城市大津漁協裁判で闘う永山さんと鈴木さんの話を聞く

《柏崎刈羽原発》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 7号機再稼働で惨劇が起きる前に、すべての原発を止めよう!

《首都圏》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 福島原発事故の責任もとれない東京電力に
 柏崎刈羽原発を動かす資格はない!

《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
 静岡県知事と御前崎市長が交代して
「一番危険な原発」はどうなるか

《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 政治に忖度し、島根原発2号機運転差止請求を却下
 それでも私たちは諦めない!

《玄海原発》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会)
 玄海町「高レベル放射性廃棄物・最終処分場に関する文献調査」受入!

《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
 私たちは歩み続ける

《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 原子力規制委員会を責め続けて11年
 原子力規制委員会は、再稼動推進委員会・被曝強要委員会

《反原発川柳》乱鬼龍

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DB1GZ5CM/

◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000748

龍一郎揮毫
私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

鹿砦社の書籍を購読し、私たちの出版活動継続をお支えください! 松岡利康

つい先日までの猛暑が嘘のように、すっかり秋めいてまいりました。平素は鹿砦社の出版活動につきまして多大のご支援を賜り有り難うございます。

◆最新刊書籍は黒岩卓夫著『アルプス少年 医を拓く』

最新刊書籍として黒岩卓夫著『アルプス少年 医を拓く』が出来上がってまいりました。小社としては特に力を入れた本ですのでぜひご購読ください。最も鹿砦社らしい本だと多くの方々から言われますし、私たちもそう自負いたします。

黒岩先生は60年安保闘争を樺美智子さん(60年 6・15国会前で機動隊の暴虐で死亡)らと共に闘い、その後、僻地医療に取り組まれ、障碍者施設、高齢者施設も併設し今に至っています。これは、昨秋刊行した、大学の先輩の矢谷暢一郎さんの『ヤタニ・ケース アメリカに渡ったヴェトナム反戦活動家』もそうですが、卒業後、あるいは運動を離れてからの人生の苦闘をいかに過ごすかということが生き生きと描かれています。

それも含め、昨年の今頃から社会問題についての書籍(紙の爆弾増刊号含む)を精力的に刊行してまいりました。皆様方にはぜひともご購読いただきたいものばかりです。

黒岩卓夫著『アルプス少年 医を拓く』

◎『アルプス少年 医を拓く』 https://www.amazon.co.jp/dp/4846315649/

◆『LGBT問題を考える』と『LGBT異論』

『アルプス少年 医を拓く』の前には、気鋭の女医・斉藤佳苗著『LGBT問題を考える』(8月)、オウム事件で殺されかけながらもカルトと闘った滝本太郎弁護士を中心とした女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会=編著『LGBT異論』(9月)を相次いで刊行いたしました。

現在、LGBT問題を語ることには一種のタブーがあり、小社は一部から「ヘイト出版社」のレッテルを貼られているほどです。本来なら「性の多様性」というのであれば自由な議論が必要なのに、逆の情況が続いています。両書は、広義のリベラル(左派、中道)の立場からこの問題に議論の材料を提起するものです。ご一読いただければ解りますが、間違っても「ヘイト本」ではありません。私たちの疑問も多々提起してありますので、LGBT思想、とりわけトランスジェンダリズム(性自認至上主義)の信奉者の方々は、「ノーディベート」(議論しない)として逃げるのではなく、これに丁寧に答えていただきたいと思います。双方の議論、対話があってこそ、LGBT当事者のみなさんとの理解がなされるのではないでしょうか。そうでないと、「性の多様性」が社会的に理解されないまま分断、対立だけが進んでいくのではないでしょうか。

『LGBT異論』と『LGBT問題を考える』

◎『LGBT異論』 https://www.amazon.co.jp/dp/B0DHGBQC8X/
◎『LGBT問題を考える』 https://www.amazon.co.jp/dp/4846315592/

こうした私たちの想いは、偶然ながら新左翼系といわれる雑誌『情況』も同様の位相で取り組み大きな波紋を拡げました。決して私たちだけではなく、考えることはみな同じだと思いました。同誌も今後この問題を継続するということですので、共同歩調を取っていきたいと考えています。

◆『日本の冤罪』と『広島の追憶』

つい最近の大きな出来事として、袴田巖さん冤罪事件無罪確定と「日本被団協」ノーベル賞受賞があります。冤罪については、『紙の爆弾』で長年複数のライターによって連載しております。月刊誌で冤罪問題を連載している雑誌はありません。この中で尾﨑美代子さんが寄稿した分をまとめたものが『日本の冤罪』です。

また、被爆問題については、古くからの知人、梓加依さんが『広島の追憶』を出されました。原爆投下直後の長崎、広島で過ごした体験を元にしたノンフィクション・ノベルといっていいでしょう。

これら二著は、今こそ皆様にぜひご購読いただきたい書籍です。

『日本の冤罪』と『広島の追憶』

◆『ジャニーズ帝国 60年の興亡』と『ドキュメント タカラヅカいじめ裁判 乙女の花園の今』

昨年、ジャニー喜多川による未成年性虐待が英BBC放送によってワールドワイドに報道され大きな問題となりました。BBCには事前に水面下で協力しましたが、この問題に実に28年にもわたり取り組んできた私たちの言論活動が陽の目を見た結果です。それを集大成したのが『ジャニーズ帝国 60年の興亡』です。辛辣な批評で有名な斉藤美奈子さんも「労作」と評価してくださいました。

さらに昨年末から本年にかけて鹿砦社本社所在地・西宮の隣の宝塚市にある宝塚歌劇団にて若き劇団員が激しいイジメを苦にして自殺するという痛ましい事件がありました。ジャニーズ同様、宝塚歌劇団の問題に対しても鹿砦社は1995年以来取り組んで来ました。宝塚歌劇団内のイジメ問題について、かつてこの訴訟をリアルタイムに寄り添ってきた記録『ドキュメント タカラヅカいじめ裁判――乙女の花園の今』を復刻出版いたしました。この訴訟時と以後、歌劇団は真摯に反省し根本から自己改革に取り組んでいたなら、今回の劇団員自殺という悲劇は避けられたと思うといたたまれません。歌劇団、そしてそのバックの阪急資本と友好関係にある在阪メディアも、ジャニーズと癒着しジャニー喜多川の犯罪を報じなかった大手メディア同様、断罪されなければなりませんし真摯な自己反省が必要です。

『ジャニーズ帝国 60年の興亡』と『[復刻新版]ドキュメント タカラヅカいじめ裁判』

◎『ジャニーズ帝国 60年の興亡』 https://www.amazon.co.jp/dp/4846315290/
◎『[復刻新版]ドキュメント タカラヅカいじめ裁判』https://www.amazon.co.jp/dp/4846315355

こうしたジャニーズ、宝塚問題によって、これまでの鹿砦社の言論・出版活動が、あらためて評価されたのです。これらを単に芸能問題とバカにしてはいけません。私たちは、芸能問題も含め広く社会問題に、「われわれにタブーはない!」と宣揚しつつ大手メディアにない視点と方法で取り組んでまいりました。コロナ以降、苦戦を強いられていますが、初心を忘れず頑張りますので、さらに継続してご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。
                          

◆     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆
 
皆様方にお願いしたいこと
  

当面具体的には、次のような形で更なるご支援をお願いいたします。

① 上記に挙げた書籍の直接ご購読をお願いいたします(すべて送料無料サービス)。1冊からでも構いませんが、よければ2冊、3冊とまとめてご購読いただければ助かります。
sales@rokusaisha.com か鹿砦社HP通販サイトからご注文ください。

② ラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』、唯一の反原発雑誌『季節』の定期購読をお願いいたします。『紙爆』1年分7700円、『季節』1年分3080円。こちらは前金となっていますので、郵便振替(01100-9-48334 口座名=株式会社鹿砦社)にてお申し込みください。送料はサービスです。すでに低購読の方は(前倒し)継続更新をお願いいたします。

③ その他、もっと支援してもいいという方は会員になってください。詳細は『紙の爆弾』巻末案内をご覧ください。

なお、シルバー会員(3万円。3年間『紙爆』『季節』を送付)には毎年1冊鹿砦社刊行書籍を贈っておりますが、今年は『アルプス少年 医を拓く』を送らせていただいております。それ以上の高額会員も同様です。
 
物価高騰の折り心苦しい限りですが、よろしくお願い申し上げます。

鹿砦社代表 松岡利康

今こそ、鹿砦社の雑誌!!

◎『紙の爆弾』 amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DG578D28/
◎『季節』 amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DB1GZ5CM/

「二大政党」の限界を可視化しつつある衆院選情勢 さとうしゅういち

2024年10月27日執行の第50回衆院選は、各マスコミの世論調査によると、
1.内閣支持率が低迷。28%という調査も。
2.自民党は、単独では過半数に届かない可能性。特に比例代表での落ち込みが大きい。
3.これまで衆院選で議席を確保していた政党(自民、公明、立憲、維新、国民、共産、れいわ、社民)に加えて、参政党、日本保守党などが議席を確保する見込み。
4.日本共産党については微増と半減でマスコミにより判断が分かれる。
といったところです。

◆自民党「高市」派が保守党や国民民主党へ?

ネット上では、高市早苗さんの支持者を名乗る自民党員の方が、自民党でも石破総理に総裁選で投票した自民候補や比例区での自民党への投票を拒絶するポストが目立ちます。

高市さんは、経済的には財政出動。一方で政治的なイデオロギーは選択的夫婦別姓制度反対など、保守的です。そんな高市さん支持者が「国民民主党」や「日本保守党」に流れているケースが多い。「国民民主党」の玉木代表は選択的夫婦別姓制度賛成ですが、外交タカ派、積極財政で高市さんとは共通する。「日本保守党」は、ほぼ高市さんと政策が一致します。

むろん、高市さん自身は「自分は総裁選で自分に投票しなかった方も含めて応援に回っている」と「火消し」に必死です。しかし、支持者は、今の石破さんや、ましてや新自由主義者の小泉進次郎さんとは一緒にやれない、という雰囲気がかなり強いということでしょう。

こうしたことが、自民党が比例区で伸び悩む原因ではないでしょうか?

◆ブレてしまい、高市派も無党派も失う石破さん 明智光秀・藤原道兼の最短記録更新か?

石破総理は、10月1日に総理になり、9日に衆院を解散。わずか9日で「天下人」を手放しました。ちなみに石破さんが好きな戦国武将・明智光秀は6月2日に主君・信長を打倒し、13日に秀吉に山崎の戦いで打倒されます。明智光秀の天下人期間は12日間。もう一人、大河ドラマの主人公道長の兄・藤原道兼は4月27日に関白になり、5月8日に病死。

石破さんは明智光秀や藤原道兼の最短記録を更新しかねません。

この理由としては、最初はいわゆる裏金議員に甘い対応を発表した後、世論の反発を受けて「非公認」にした、という「ブレ」があげられます。結果として、高市派の有権者からも、クリーンさを重視する無党派からも支持を失ってしまったのです。こんなことなら、最初から厳しい処分をしておけば、無党派からの支持はつなぎとめられたでしょうに。

◆斎藤元彦元知事暴走で維新ボロボロ?

日本維新の会は公示前議席を減らすと予測されています。これは、維新が主導して擁立した斎藤元彦元兵庫県知事(9月19日不信任案可決、30日自動失職)の暴走が大きく響いています。斎藤君が暴走すればするほど維新の票が減る。そんな構図になってしまっています。

 
広島2区で立候補された方々。西広島駅付近で筆者撮影。2021年衆院選での自民vs立憲の一騎打ちが今回2024年衆院選では自民vs国民vs共産vs維新に

なお、最近の維新は、橋下徹さんのころのような「緊縮財政」一辺倒ではありません。公務員叩きも当時ほどではない。むしろ、財政出動で、教育無償化など子育て世代支援に力を入れています。他方で、高齢者はぶっ叩くイメージで、若手・中堅に溜飲を下げてもらうスタンスです。これは、国民民主党も共通する部分です。維新が減ることで、国民民主党に一定の票が流れているのでしょう。また、「なんとなく改革を期待して維新」という人が立憲に流れていることも考えられます。

◆野党共闘は事実上崩壊

一方、いわゆる立憲野党側は、2016年参院選以降の市民連合が呼びかけ、立憲・共産を軸とした野党共闘は事実上崩壊してしまいました。特定秘密保護法や集団的自衛権(いわゆる安保法制)などで暴走する安倍晋三さんを「共通の敵」とするものでした。

2016年参院選、17年衆院選、19年参院選までは一定の成果を上げた野党共闘。しかし、安倍晋三さんと言う「共通の敵」が2020年に退陣、そして2022年には暗殺され、消滅した。2021年の衆院選や22年の参院選では、岸田総理に代わった中で、立憲、共産両党は大敗を喫しました。

立憲では、「共産との共闘が比例区で票が伸びない原因になった」と言う議論が連合幹部を中心に噴出。共産党も態度を硬化させ、2024年衆院選では多くの選挙区で候補を出しています。広島県内では、1~6区のうち4区を除く5選挙区で候補者を擁立。ここに立共共闘は完全に崩壊しています。

◆敵失で「棚ぼた」立憲 除名・除籍による士気低下の影響次第の共産

立憲民主党については、そんなに比例で支持が伸びている感じもしない。ただ、自民党があまりにグダグダなのでお灸をすえる票が、消極的に流れている感はあります。それ以上でもそれ以下でもありません。

日本共産党は、自民党の腐敗がクローズアップされるときには強いはずですが、他方で、最近はちょっとでも志位和夫議長や田村智子委員長の気に食わないことを言うと「除籍」されます。この「除籍」というのは、「除名」のように、複雑な手続きが必要ないのでカジュアルに異分子排除に最近は特に多用されています。

野党共闘の中で、共産党内でも自由な議論があるように見えた時期もありました。しかし、今は、そのころ、執行部を突き上げていた側の若手が大量に除籍されています。また、年配者でも野党共闘を推進していた側の幹部が失脚するなどの事例も、筆者の身近でも伝え聞いています。除籍された若手の具体例としては福岡市長候補でもあった『紙屋高雪』さん、また福岡県議候補だった『すなかわあやね』さんらが挙げられます。こうした粛清による党勢低下がどこまで影響するか? マスコミ各社も測りかねているようです。

◆考え方も課題も多様化する時代にそぐわない二大政党制

そもそも二大政党制とは、英国の19世紀の保守党vs自由党、20世紀の保守党vs労働党など、価値観や利害が二分されていたような時代の遺物です。

しかし、現代社会はもっと状況は複雑です。ライフスタイルも多様化している。いろいろな価値観の人が共存していかないといけないが二大政党では十分にそれを代弁できない。

さらに、経済格差、さらには貧困がこの25年拡大してしまったことが、さらに状況を複雑にしています。例えば、ジェンダー平等といっても、東京の一定年齢以下の高学歴・高収入女性と、地方や都会でも氷河期世代の非正規労働者の女性では直面する課題も違うし、場合によっては衝突するケースもある。あるいは、公務員労働者でも正規と非正規ではずいぶん状況が違う。

ただ、全般的に見れば、まだまだ、日本は男尊女卑でもある。そういう中で、経済格差・貧困問題を解決しつつ、多様性をいかに尊重するか?議論をきちんとしていく必要があるでしょう。

国際情勢を見ても、冷戦崩壊後久しいものがあります。そして、冷戦崩壊後25年経過した今、一人勝ちだったはずの米国を筆頭とするG7の権威も落ちてきています。もっと言えば、いわゆる大航海時代以来の旧白人帝国主義諸国の優位は崩壊しています。

そして、2023年の「10.7」以降、イスラエル首相・ネタニヤフ被疑者の暴走が止まるところをしりません。依然としてネタニヤフ被疑者に甘い姿勢の米独などへの不信感がグローバルサウスにも、そして、日本人の一般市民の間にも広がっています。また、大陸が離れている米国やロシアだけを相手にすればいい欧州とは違い、日本は中国・ロシアとどう付き合うかが問われる。

 
広島1区で立候補された皆さん

少なくとも、G7に追従という選択肢は今後あり得ません。問題はその距離を置く方向とスピードです。

正直、岸田前総理は、結局、今までもっとも旧白人帝国主義国べったりの総理だったように思えて残念です。人権面でハト派と言われる反面、それが災いしてか、安倍晋三さんのように中国やロシア、その他米国と関係が悪い国とも一定程度親しくするという観念が薄いようにも思えます。G7広島サミットについても『名誉白人』扱いで舞い上がっていたように思えてなりません。

むろん、G7の権威低下で人権や環境などの価値も道連れで損なわれる懸念はある。ただ、それについては、米国のように軍事力でぶん殴って押し付けるのではなく、市民運動・労働運動や、例えば広島市が会長の平和首長会議など自治体の横の連携で進めていくべきだと思います。

◆比較第一党が総理を取り、課題ごとにあう政党と連携を

筆者はここで提案があります。衆院選後は、基本的には比較第一党が総理を取るべきです。自民党が議席数で一番なら石破さんが続投すればいい。

少数与党でも、きちんと政策を進めることはできます。課題ごとに別々の政党と組めばよい。

例えば防災省。日本は災害超大国です。今年は能登半島では元日に大震災、秋のお彼岸に大水害とダブルパンチです。こういうことは今後も頻発が予想されるし、自治体では対応しきれません。仕組みを改めるしかない。被災者生活再建、復旧復興に国が責任を持つことを明確化すべきだ。それとともに、国際貢献もこの分野で進めるべきです。その防災省設置は山本太郎が一番、石破総理以外では先頭に立って提案してきました。それこそ曲論ですが、石破総理―山本防災大臣という局面もあってもいいと思います。

また、米国はいまだに核兵器使用を謝罪も反省もしていません。実を言うと、高市早苗さんを支持するような右派の方でも、米国政府は謝るべきだ、という人もおられます。米国がきちんと原爆投下を謝罪も反省もしていないことをこれ以上放置すると、他の核保有国の威嚇なり核軍拡なりを批判しにくくなります。米国政府に一定の謝罪なり反省なりを求める動きと言うのも左右を超えてやればいいと思う。

もちろん、いわゆる立憲野党は、岸田前総理の置き土産である無謀な軍拡とか、原発推進とかは国会で厳しく追及し、関連法案を阻止すればいいのです。

◆改めて1993-94年の「政治改革」総括と選挙・政治資金制度再改革を

また、そもそも、政治改革の名のもとに小選挙区比例代表並立制という仕組みを1994年に導入し、二大政党にもっていこうとしたのが間違いだったのではないか?結局、裏金問題もなくならない。そして、政治は機能不全。散々だったではありませんか?

筆者は、有権者が名簿をいじれるノルウェー式比例代表をベースとした衆院の選挙制度改革を提案しています。また、政治資金については、企業団体献金禁止はもちろんのこと、それこそ、デジタル化ですべてのお金の流れが分かるようにすれば良いのです。

そうなると、例えば、自民党は分裂して高市さんが保守党と新党をつくる、小泉進次郎さんが維新と新党をつくる。石破さんは野田さんら立憲右派と新党をつくる。立憲左派+共産党、れいわなどもそれなりの勢力を持つ。そうなるかもしれないが、第一党になった勢力が総理を取って、課題ごとにあう政党と組む、で良いでしょう。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/
広島瀬戸内新聞公式YouTubeへのご登録もお待ちしております

最新刊! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年11月号

『紙の爆弾』2024年 11月号
A5判 130ページ 定価700円(税込み)
【特集】いま政治が問うべきこと
鈴木宣弘東大大学院教授が語る「食料安全保障」 日本の農と食を潰す洗脳を解く
国民を騙して導入し、人と国を弱体化させる消費税を廃止せよ 
川内博史・原口一博(立憲民主党衆院議員)
米国植民地からの脱却が東アジアの平和をつくる 
鳩山友紀夫(元首相)・末松義規(立憲民主党衆院議員)

河野太郎「マイナ保険証」の愚行 米アマゾンに売られる日本の「情報主権」 高野孟
巨大製薬企業は日本人を狙っている! 明らかになった子宮頸がんワクチンの危険性 神山徹
ウクライナ化するフィリピン 米中対立と「アジア有事」の現在地 浜田和幸
日本人が知らされない“極東”の隆盛 ロシア「東方経済フォーラム」で見た世界の現実 木村三浩
自民党総裁選「憲法改正」争点化の姑息 自民憲法改正案は「改憲」とはいえない 足立昌勝
告発者潰しにも維新議員が関与 兵庫パワハラ知事を生んだ維新の無責任と凋落 横田一
「政教分離」をかなぐり捨てる創価学会 公明党・山口那津男代表“一転”退任の真相 大山友樹
総裁選とは何だったのか 衆院解散・総選挙とその後の自民党 山田厚俊
プロボクシングに見た躍進するサウジアラビア 片岡亮
ジャニーズとNHK、そして大阪・関西万博 本誌芸能取材班
統一教会のオカルト洗脳で「脳死」させられたニッポン 佐藤雅彦
シリーズ日本の冤罪 53 茨城上申書殺人事件 片岡健

連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け:西田健
「格差」を読む:中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座:東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER:Kダブシャイン
【新連載】「ニッポン崩壊」の近現代史:西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/
◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DJ2KG1N5/

僕が放射性廃棄物の地層処分に反対する理由〈1〉日本原燃が再処理工場を新設する可能性 平宮康広(元技術者)

◆1. はじめに

現在、経産省資源エネルギー庁と原子力発電環境整備機構=NUMOが、北海道の寿都町か神恵内村、あるいは両町村で放射性廃棄物、具体的には高レベル放射性廃棄物=ガラス固化体とTRU廃棄物(核燃料ウランの核分裂から生じた放射性廃棄物等)を地層処分しようとしています。しかし、多くの北海道民、とりわけ漁民や農民のみなさんが反対しています。地震や地質の専門家のみなさん、そして鈴木直道北海道知事も反対しています。

僕も反対です(大反対です!)。本稿で、僕が高レベル放射性廃棄物=ガラス固化体とTRU廃棄物の地層処分に反対する理由を論じたいと思いますが、本論に入る前に、ガラス固化体を格納するオーバーパックや人工バリアの耐用年数、ガラス固化体の発熱と地温、花崗岩層と泥岩層、礫層のちがい等について説明させてください。

◆1.1. ガラス固化体とオーバーパックの概要

政府や電力資本に巣くう原子力カルト教団の信徒たちにとって、使用済み核燃料再処理の目的は、原発で使用した核燃料ウランから残存ウランとプルトニウムを取り出すことです。そして、核燃料サイクルを具現することです。

彼らにとって、放射性廃棄物は厄介なゴミですが、「毒」ではありません。彼らは、大気や土壌、海洋の放射能汚染や、内部被ばくによる国民の健康被害等を深く考えていません。他方、再処理を上手くやりさえすれば、使用済み核燃料はなくなると考えていて、それが自分たちの仕事であるとさえ考えています。そして、経産省資源エネルギー庁とNUMOは、ガラス固化体とTRU廃棄物を地層処分することが自分たちの仕事であると考えています。

したがって、諸外国では、原発で使用した核燃料ウラン=使用済み核燃料を高レベル放射性廃棄物と呼んでいますが、原子力カルト教団と経産省資源エネルギー庁、NUMOは、使用済み核燃料再処理で生じた放射性廃棄物の残渣をガラス固化した固体=ガラス固化体だけが「高レベル放射性廃棄物」であると断言しています。[図1]は、原子力カルト教団の信徒たちが描いている、使用済み核燃料再処理のイメージです。

[図1]

(実際の再処理は、こんな簡単なものではありません。実際の再処理は、多量の硝酸を使用する非常に危険な化学処理です。しかも、再処理工場は、稼働すれば一日で原発一年分の放射能を環境に放出するといわれてもいます。詳しくは、核燃料サイクル阻止1万人原告団のサイトや、元原子力資料情報室スタッフの澤井正子さんが学習会で使用したプレゼンテーション・ファイル、宗教者核燃裁判のサイト等をご覧になってください)

原発を稼働すると、原子炉に装填した核燃料ウラン=核燃料棒内に多量の高レベル放射性廃棄物(非常に強い放射線を放出する放射性物質)が生成します。ガラス固化体は、それら高レベル放射性廃棄物を抽出してガラス固化したもので、長さ約130cm、直径約40cm、重量約500kgの円筒です。

ガラス固化体は、使用済み核燃料再処理工場(以後、たんに「再処理工場」と呼びます)で製造します。そして、再処理工場内で30~50年冷却します。再処理工場内で30~50年冷却したガラス固化体は、炭素鋼等で製造したキャニスタ(以後、「オーバーパック」と呼びます)に入れ、地層処分施設に搬送します。

[図2]は、ガラス固化体とオーバーパックのイメージです。オーバーパックは、長さ約170cm、直径約80cm、重量約6トンの円筒です。NUMOは、オーバーパックの耐用年数は約1000年である、と豪語しています。

[図2]

NUMOは、1体のガラス固化体が含む放射性核種の種類と量を開示しています。それによると、50年後の1体のガラス固化体が含むストロンチウム90の量は8.2x1014ベクレルで、重さが1.6x10-1kg、セシウム137の量は1.2x1015ベクレルで、重さが3.9x10-1kgになります。NUMOは、ガラス固化体が含む放射能は1体あたり広島型原爆30発分である、といっています。

[表1]は、NUMOが開示した資料を元にして作成した、30年後と50年後の1体のガラス固化体が含むストロンチウム90とセシウム137の量をまとめた表です。

[表1]

イギリスの再処理工場=ソープ再処理工場(旧ウィンズケール再処理工場)で製造したガラス固化体は、青森県六ケ所村再処理工場で製造するガラス固化体より少し小さいですが、1体が含む放射性核種の量はNUMOが開示したデータの量より多いですね。NUMOが開示した1体のガラス固化体が含む放射性核種の量は、おそらく推定量で、信頼できる値ではありません。僕の試算では、50年後のストロンチウム90とセシウム137の量が、NUMOが開示した量と同じであれば、ガラス固化体が含む放射能は1体あたり広島型原爆20発分くらいになってしまいます。

NUMOは、全国一カ所の地域に4万体のガラス固化体を地層処分するといっていますが、ガラス固化体が含む放射能=放射性核種の量が1体あたり広島型原爆20発分くらいだとすれば、現存する使用済み核燃料分(約2万7000体のガラス固化体に相当する量の使用済み核燃料)を地層処分するだけでも、全国複数カ所の地域でガラス固化体を地層処分する必要が生じます。再処理工場を新設する必要も生じるでしょう。

経産省資源エネルギー庁とNUMOは、東日本と西日本の複数地域に、地層処分施設を建設するつもりでいるのかもしれません。中国電力と関西電力が、山口県上関町で中間貯蔵施設の建設を計画していますが、中間貯蔵施設が建設されれば、NUMOが、地層処分施設の建設もはじめるかもしれません。不具合が多発している六ケ所村再処理工場を管理している日本原燃が、再処理工場を新設する可能性も大いにあると思います。(つづく)

▼平宮康広(ひらみや・やすひろ)
1955年生まれ。元技術者。オールドウェーブの一員として原発反対運動に参加している。富山県在住。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年夏・秋合併号《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年夏・秋合併号(NO NUKES voice 改題)
A5判 148ページ 定価880円(税込み)

《グラビア》
「幻の珠洲原発」建設予定地 岩盤隆起4メートルの驚愕(写真=北野 進
「さよなら!志賀原発」金沢集会(写真=Kouji Nakazawa

《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 原子力からこの国が撤退できない理由

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 なぜ日本は原発をやめなければならないのか

《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
 事実を知り、それを人々に伝える

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 核武装に執着する者たち

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
 課題は放置されたまま

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
 原発被害の本質を知る

《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
 珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった

《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
 東京圏の反原発 ── これまでとこれから

《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え

※          ※          ※

《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
 創刊から10周年を迎えるまでの想い出

《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
 お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記

《季節創刊10周年応援メッセージ》

 菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
 守りに入らず攻めの雑誌を

 中村敦夫(作家・俳優)
 混乱とチャンス  

 中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる

 水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう

 山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために

 今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
 裁判も出版も「継続は力なり」

 あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
 隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい

※          ※          ※

《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題 

《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
 棄民の呻きを聞け 福島第一原発事故被害地から

《講演》和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
「復興利権」のメガ拠点 「福島イノベーション・コースト構想」の内実〈前編〉

《報告》平宮康広(元技術者)
 水冷コンビナートの提案〈1〉

《報告》原田弘三(翻訳者)
 COP28・原発をめぐる二つの動き
「原発三倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
 総裁選より、政権交代だ

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
   タイガー・ジェット・シンに勲章! 問われる悪役の存在意義

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
   山田悦子の語る世界〈24〉
   甲山事件50年を迎えるにあたり
   誰にでも起こりうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか(下)

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
   洋上風力発電を問う 秋本議員収賄事件を受けて

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
 時代遅れの「原発依存社会」から決別を!
 政府と電力各社が画策する再稼働推進の強行をくい止める

《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 6・9大阪「とめよう!原発依存社会への暴走大集会」に1400人超が結集

《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 女川原発の再稼働はあり得ない 福島事故を忘れたのか

《福島》黒田節子(請戸川河口テントひろば共同代表)
 浪江町「請戸川河口テントひろば・学ぶ会」で
 北茨城市大津漁協裁判で闘う永山さんと鈴木さんの話を聞く

《柏崎刈羽原発》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 7号機再稼働で惨劇が起きる前に、すべての原発を止めよう!

《首都圏》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 福島原発事故の責任もとれない東京電力に
 柏崎刈羽原発を動かす資格はない!

《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
 静岡県知事と御前崎市長が交代して
「一番危険な原発」はどうなるか

《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 政治に忖度し、島根原発2号機運転差止請求を却下
 それでも私たちは諦めない!

《玄海原発》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会)
 玄海町「高レベル放射性廃棄物・最終処分場に関する文献調査」受入!

《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
 私たちは歩み続ける

《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 原子力規制委員会を責め続けて11年
 原子力規制委員会は、再稼動推進委員会・被曝強要委員会

《反原発川柳》乱鬼龍

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DB1GZ5CM/

◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000748

龍一郎揮毫
私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

ピョンヤンから感じる時代の風〈51〉二つの「アフリカ支援会議」から見えること 魚本公博

この8月と9月に東京と北京で、「アフリカ支援会議」が行われた。二つの会議は、日中両国のグローバルサウスに対する姿勢、国際政治における姿勢、立ち位置の「違い」を浮き彫りにしている。

◆中国の「中国アフリカ経済フォーラム(FOCAC)」

9月7日、北京で「中国アフリカ経済フォーラム(FOCAC)」が開催された。ここには全アフリカ54カ国のうち台湾と外交関係を持つエスワティを除く53カ国の首脳が参加した。

会議では、習近平国家主席が演説したが「今後3年間で、3600億元(約7・3兆円)の資金援助を提供する」と述べるや、参席したアフリカの首脳たちから大きな拍手が沸き起こった。その心情をボツワナのマシシ大統領は「アフリカ側は非常に興奮し励まされた」と述べている。

習主席は、アフリカ諸国との2国間関係を「戦略的関係」に引きあげるとし、「10の行動」を提示した。その内容は、政府関係者の招待。女性や若者の職業訓練。10億元の緊急食料支援。疫病予防センター建設と公衆衛生能力向上。10億元の無償軍事援助。軍人(6000人)と警察官(1000人)訓練。アフリカ産農産物の輸入拡大、アフリカの「後発開発途上国」33カ国だけでなく世界の全ての「発展途国」にゼロ関税待遇を与え中国の大市場を開放する、などである。

中国とアフリカ貿易額は、22年には2576億7000万ドル(約37兆6486億円)を超え、米英を抜いた。この急激な貿易拡大は、中国とアフリカの経済関係がウィンウィンの関係、相互に利益をもたらすものであることを示している。

注目されるのは、習主席がグローバルサウスという言葉を3回も使いグローバルサウス重視を鮮明にしたことである。

「10の行動」の最後で述べられた、「アフリカの後発開発途上国33カ国だけでなく世界の全ての「発展途上国」にゼロ関税待遇を与え中国の大市場を開放する、などがそれを示している。

今後、ウィンウィンの関係をグローバルサウスの中でも経済発展が遅れている全ての「発展途上国」と結ぶ、ということであり、今後、グローバルサウスとの交易は急速に拡大していくであろう。

◆日本の「アフリカ開発会議(TICAD)」

一方、日本では8月24、25日に東京でTICAD(アフリカ開発会議)が開かれ、ここにアフリカの37カ国の外相が参加した。

今回の会議は来年横浜で開催されるTICAD9の準備会議として開かれ、「社会、平和と安全、経済」をテーマに討論が行われた。

25日に発表された共同声明では、アフリカで活動するスタートアップ(新興企業)の支援に向けた環境整備、食料安全保障の確保に向けた協力、デジタル化支援、「女性・平和・安全保障」(WPS)の重要性などが明記された。

そして、最後に「法の支配の重要性が共有された」ことを強調している。

この会議について、読売新聞が「日本の強み生かし発展支えよ」と題する社説を載せたが、それはアフリカの人口が今の14億から50年には24億人に達することやアフリカが資源の宝庫であり、とりわけ電気自動車やスマートフォン、バッテリー製造で不可欠な銅、コバルト、ニッケルなどが豊富であることから、「最後のフロンティア」としてアフリカとの関係を強化せよというものだ。

この読売の社説が示すように、日本のアフリカ支援は、あくまでも自国の経済的利益のためだということである。

その上で、最後に「法の支配の重要性が共有された」と強調していることに注意しなければならない。

「法の支配」とは、「開かれたインド太平洋」(FOIP)のための用語である。それは中国が自国領土である南シナ海の諸島に軍事基地を建設しているが、それはこの海域の自由な航行を阻害する国際法違反であるとし、法を守れということである。そして「法の支配」は、米国の覇権秩序に反する行為を「違法」として、「秩序遵守」を説くための用語にもなっている。

昨年4月に改正された「政府開発援助」(ODA)の指針である「開発協力大綱」は、これまで相手国の要請に従って援助する「開発支援」を改め、日本が提案する「オファー型」に改定した。そこには「開かれたインド太平洋」を推進することが明記され、そのために途上国の海上保安能力を後押しする方針も盛り込まれている。

即ち日本の途上国支援は、米国覇権秩序を守るための支援であり、カネをちらつかせながら「米国覇権秩序に従え」というものになっているということだ。

◆どちらが本当の支援か

発展途上国支援は、その国の発展のためになる私心のないものでなければならない。

これまで日本の途上国支援がその国の要請に従って支援する「要請型」であり、それを「原則」としてきたのも、それが実際行われたかどうかは別にして、そのことを示す必要があったからである。その「要請型」を「オファー型」に改変すること自体、支援がその国のためのものではなく、日本のためのものであることを示している。

しかも、それは米国覇権秩序を守り、その覇権秩序に従えというものであり、「日米基軸」の「日本のため」のものでしかない。

それに対して、中国の支援は、「10の行動」を見ても、その国のためのものになっていると思う。

その本気度の違いは、支援額を見ても歴然としている。

今回の日本での会議ではアフリカ支援の額は示されていないが、途上国全体への支援である「政府開発援助」(ODA)の総額が昨年で5709億円だから、アフリカ「支援」額はその何分の一かの少なさとなり、中国の支援額「3600億元(約7.3兆円)」とは雲泥の差になる。

そうなるのは、ありていに言えば、「カネがない」ということである。

岸田前首相は、一昨年の訪米で、中国敵視の軍事費拡大や敵基地攻撃能力の保持を約束した。その額は5年間で43兆円といわれているが、新型ミサイル開発などで、70兆円に膨らむとか、際限なく膨らむとも言われている。

この膨大な軍事費をどう捻出するか。そこから増税メガネと揶揄された「増税」、全世代型社会保障を看板にした「社会保障費削減」が行われ「地方交付税の削減」など地方支援も減らされている。

今年4月9日に開かれた財政制度等審査会の分科会で財務省が能登復興について「ムダな財政支出は避けたい」と発言した。それは能登の本格復興はやらず、能登は見捨てるということに他ならない。

能登まで見捨てるという財政事情の下では、アフリカ支援、発展途上国支援などに使うカネなどないのだ。

それを見切って、アフリカ諸国のTICADへの熱は冷めている。前回18年に開かれた第8回会議までは首脳も参加していた。しかし今回は37カ国の外相会議になっている。

「もう日本にはカネがない」のであり、その日本が空財布をちらつかせて「開かれたインド太平洋」だとか「法の支配」とか言っても、それに耳を貸す国などないであろう。

◆「債務の罠」、中国覇権のためのワナなのか

中国の対外支援で常に持ち出されるのが「債務の罠」であり、それを使って「中国は覇権を狙っている」という言辞である。

その例として持ち出されるのが、セイロンの件。一帯一路として中国の企業が投資して道路や港湾を整備建設したが、その債務返済が滞り、セイロン政府が、中国企業に港の使用権を99年間譲渡するとしたことである。

これはあくまで、中国の一企業とセイロン政府が行ったことであり、これをもって、中国がセイロンを支配するとか中国覇権を狙っているなどと分析するのは、言い過ぎではないだろうか。

元々、「債務の罠」はG7など「先進国」が行ってきたことである。

先進国の後進国支援は、後進国の富を収奪し政治的支配を強めるためのものであり、債務漬けにして、その国を牛耳る、まさに「債務の罠」であった。

それは、南北格差が拡大し、後進国がいまだに経済的な発展ができないでいる現状がそれを如実に示している。

G7広島サミットを前に日本やG7がグローバルサウスを引き込む動きを示したことに対して、グローバルサウス諸国から「G7なんて旧宗主国グループじゃないか。我々を植民地にした者が上から目線で、きれいごとを言える身分か」「G7が守りたい国際秩序とは、米国がわれわれにやりたい放題の謀略、軍事侵攻を仕掛けてきたやり方だろ。まっぴらだ」などの声が上がった。

自分たちがやってきた悪行を中国もやろうとしていると疑うのは、疑心暗鬼であり、その語源通り「疑えば鬼を見る」であり、その鬼とは自分自身ということではないだろうか。

中国は「覇権の道は歩まない」と明言している。それは建前と見る向きもあるが、中国の支援が熱烈に「歓迎」されていることが、中国が覇権を狙っているのではないことを示していると思う。覇権を歓迎する国などないのだから。

ザンビアやエチオピアの鉄道整備など中々のものである。新幹線型の車両を使った近代的な鉄道網、瀟洒な建物群。南太平洋諸国での港湾や旅行施設、ホテル建設も歓迎されており、そこでは「債務の罠」も語られてはいない。

中国の投資や経済協力が歓迎されているのは、中国が参加するBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の発展を見ても分かる。24年にエジプト、エチオピア、イラン、サウジ、UAEが参加し、当初の5カ国から10カ国に増え、参加希望国が門前に列をなす状況になっている。

そこでは、米国ドルに代わる独自通貨の設立を目指されている。この独自通貨は中国元を基軸通貨にするというものではなく、各国の通貨(通貨主権)を認めたものである。

もし中国が覇権を狙っているとすれば、中国元を基軸通貨にするだろう。しかも、それは中国元の実力から見れば黙っていてもそうなる。それにも係わらず、そうせず各国の通貨を認めた上でBRICsの独自通貨を作るということは、中国の言う通り、米国のドル基軸通貨体制を変革するためだということではないだろうか。

米国覇権の強力な手段であった、ドル基軸体制に代わる、BRICs通貨体制の実現は、米国覇権を終わらせる一つの大きな契機になる。

その実現をグローバルサウスを始めとする多くの国々が望んでいる。ドル基軸体制の下で、不利益をこうむり、円安で七苦八苦する状況を強いられている日本にとっても、それは良いことではないだろうか。

「債務の罠」「中国覇権」などという言葉に惑わされてはならないだろう。

◆脱覇権自主こそが世界の流れ、時代の流れ

日本のマスコミは、習主席がグローバルサウスを3回も使ったことを中国のグローバルサウス重視だと解説しながら、「中国のグローバルサウス重視は米欧主導の国際秩序の変革を目指す中国にとって欠かせないパートナー」だからだと論評する。

あたかも「米欧主導の国際秩序を改革」するのは悪いことだと言わんばかりだが、それは良いことであり、グローバルサウス自身が求めていることだ。

元々、「米欧主導の国際秩序」とは米国覇権秩序であり、その下で、富を収奪され従属を強いられてきたアフリカを始めとするグローバルサウスこそが、その変革を切望している。

それは、どんな国も、互いに平等で対等な国として認め、互いに尊重していく関係を構築し、公平で民主的な新しい国際秩序を作ろうということである。

中国での会議で沸き起こった拍手と歓迎の言葉は、こうした脱覇権自主の新しい国際秩序を作ることへの熱烈な賛同の表示でもあろう。

 
魚本公博さん

日本と中国で行われた二つの「アフリカ支援」会議を通して見えることは、脱覇権自主が世界の流れ、時代の流れになっていることであり、日本の「日米基軸」の政治、「日米同盟新時代」政策が如何に、この流れに逆行する愚かな政策であるかということである。

しかし石破新政権は「日米基軸」堅持を表明している。立民新代表の野田氏もそれを明言しており、日本は、挙国一致で、その道を歩もうとしているかのようだ。「日米基軸」堅持、それは、あくまでも米国覇権の下で生きていくことの表明であり、そこに日本の未来はない。

しかも、それは米国覇権を維持回復する米中新冷戦のため、中国を敵視し、対中対決の最前線に立たされるものとしてある。それは日本全土を戦場にし、破壊する。

そのような道を歩んではならない。そのためにも「日米基軸」の政治を何としても終わらせなければならない。「日米基軸」から「国民基軸」の政治への転換。来るべき総選挙でその意思を断乎と示さなければならないと思う。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼魚本公博(うおもと・きみひろ)さん
1948年、大分県別府市生まれ。1966年、関西大学入学。1968年にブントに属し学生運動に参加。ブント分裂後、赤軍派に属し、1970年よど号ハイジャック闘争で朝鮮に渡る。現在「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』