横浜副流煙事件「反訴」、1年の中断を経て被告の本人尋問へ 黒薮哲哉

横浜副流煙事件の「反訴」で、被告A妻(3人の被告のひとり)の本人尋問が行なわれる公算が強くなった。しかし、A家の山田弁護士は、A妻の体調不良を理由として出廷できない旨を主張している。最終的に尋問が実現するかどうかは不透明で、3月11日に原告と被告の間で裁判の進行協議が行われる。

副流煙の発生源と決めつけられた音楽室と、「被害者」宅の距離を示す現場写真

裁判では、作田医師が被告3人のために作成した診断書が争点になっている。これら3通の診断書は患者が自己申告した病状に重きを置いて、化学物質過敏症、あるいは「受動喫煙症」の病名が付された。それを根拠として、約4500万円を請求する前訴が提起されたのである。従って診断書が間違っていれば、提訴の根拠もなかったことになる。

つまり診断書の作成プロセスが問題になっているのだ。言葉を返ると、患者の希望に応じて作成した診断書に効力はあるかという問題である。

この「反訴」の発端は、2017年の秋にさかのぼる。

横浜市青葉区のすすき野団地に住むミュージシャン藤井将登さんは、自室で煙草を吸っていたところ、副流煙が原因で、化学物質過敏所に罹患したとして、上階の斜め上に住むAさん一家(A夫、A妻、A娘)から、約4500万円の損害賠償請求を受けた。しかし、将登さんが喫煙していた部屋は、防音構造が施されている音楽室で、煙は外部にもれない。しかも、喫煙量は1日に2、3本程度だった。さらに将登さんは留守がちだった。A家が主張する副流煙の発生源に十分な根拠がなかった。

それにもかかわらず原告(「反訴裁判の被告」)は、将登さんの煙草が原因で、化学物質過敏症になったと主張し、高額な金銭を請求したのだ。

裁判所はA家の訴えを棄却した。控訴審でも、A家の訴えは一切認められなかった。

将登さんは勝訴の確定を受けて、2022年3月にA家が起こした裁判はスラップに該当するとして、損害賠償裁判を起こした。これが現在進行している「反訴」である。この裁判の原告には、将登さんの他に、妻の敦子さんも加わった。さらに3人の診断書を交付した作田医師については、被告に加えた。

裁判は順調に進み、証人調べの人選の段階に入った。藤井さん側は、A夫の尋問を求めたが、A夫の山田弁護士は体調不良を理由に出廷はできないと主張した。しかし、藤井敦子さんは、A夫が戸外を歩いている場面をビデオに撮影して、山田弁護士の主張が事実に基づかない旨を主張した。

しかし、平田裁判官は山田弁護士の意見を重視して、A夫の尋問は行わない決定を下した。

これに怒った将登さん側は、平田裁判官に対する忌避を申し立てた。忌避の審理には、上級裁判所での審理も含めて、約1年を要した。結局、忌避そのものは認められなかったが、平田裁判官はA夫の尋問を決めた。

山田弁護士は、やはりA夫の尋問は難しい旨を説明した。医師の診断書も提出した。そこで藤井さんの側は、代案としてA妻の尋問を求めたのである。平田裁判長は、判断に迷ったようだが、最終的にそれを認めた。

こうしてA妻の尋問が実現する公算が高くなったが、山田弁護士はA妻の体調不良を理由に、出廷できないと主張している。既に述べたように、裁判の進行協議は3月11日に行われる。

作田学医師が交付したA妻の診断書。根拠なく副流煙の発生源を特定している

※このところ一部の市民団体が化学物質過敏症の患者数を誇張して報じている。化学物質が人体に有害な影響を及ぼすことは、紛れもない科学的な事実で、規制も必要だが、実際の患者数については慎重に検討しなければならない。誇張があってはならない。横浜副流煙事件のような「冤罪」を生む可能性があるからだ。

たとえば市民団体代表の加藤やすこ氏は、「あたらしい年は香害のないきれいな空気で過ごしたい」(『週刊金曜日』2月9日)の中で、化学物質による被害の実態について次のように述べている。

香害に関する情報発信などを行うフェイスブック「香害をなくそう」は、2022年に移香で困っていることについてWEBアンケートを実施した。

回答者600人のうち、「家の中に入る人や、近隣からの移香や残留で、家の中が汚染される」は、90.9%で、「外出先の空間や人から移香して汚染される」は90.0%……

有病率を明記しているわけではないが、香による被害を殊更に強調している。数値に客観性があるのか否かを慎重に検討しなければならない。

この件については、別稿を準備している。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)
黒薮哲哉『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』(鹿砦社)

核のごみを巡る重大問題 日本で「地層処分」は不可能だ〈4〉放射性廃棄物「地層処分」を白紙にし、本当の議論を 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

◆「安全な地層処分」は不可能

地層処分は2000年に法律で定められたが、問題は地下埋め捨てで人間環境や生態系から隔離できるかどうかである。これについて専門家から強い反対の声が、上がった。

2023年10月30日、地質学など地球科学者300名が連名で「日本に適地はない」との声明を発表した。

日本列島ができてから4000万年、この地は世界有数の変動帯に位置する。この地殻変動の激しい地に、10万年もの間埋設物を安全に保持することができる地層は存在しない、あっても私たちには分からない。10万年経ってみて動かなかったと分かる場所があったとしても、それが今の時点では科学的に見通せないのである。

声明では「日本列島は複数のプレートが収束する火山・地震の活発な変動帯」と指摘し、すでに施設の立地場所を選定するなど日本よりも先行している北欧諸国などと同列に扱い、工学的な技術を使えば安全性が保証されるなどと決めつけるのは「論外」と批判している。

例えば活断層の位置づけだ。私たちが知ることができる活断層は、地震により地表面に何らかの痕跡を記したものだけである。大きな地震を起こした断層でも、地上まで達しなければ見えないので活断層とは認識できない。したがって、既知の断層近傍を除外しても何の意味もない。

火山についても同じである。10万年間、地層に貫入しないとする根拠はどこにあるのか、また、現在の火山火口から15キロ離れていれば安全との根拠はどこにあるのか。

変動帯である日本列島は、常に火山フロントが動いている。地下のマグマの挙動もすべてつかんでいるわけではないし、将来もできない。


◎[参考動画]放射性廃棄物の最終処分場 「活断層のある場所は避ける」など条件案を了承(2022年6月8日)

◆「地層処分」を白紙にし本当の議論を

地上での管理は困難であるとの前提で、人間環境から隔離する方針の下に地層処分を決めたが、隔離できる確証もないままに方法だけが議論されてきた。

今立ち戻るべき地点は、高レベル放射性廃棄物処分の方法をどうするのかではなく、原子力をどうするかだ。すでに地層処分どころか、使用済燃料を貯蔵するところがひっ迫している。

再処理工場では3400トンの使用済燃料プールがいっぱいになっている。各地の原発でもプールが数年でいっぱいになるところが出てくる。貯蔵容量の80%を超える原発が出現しており、「リラッキング」と称して限界までプールに押し込める危険な対策さえ行っている。

使用済燃料プールがいっぱいになると、新しい燃料を貯蔵するスペースがなくなるため、原発は稼働できなくなる。2023年8月、中国電力は関西電力と共に「中間貯蔵施設」として山口県上関町の上関原発建設予定地に隣接する敷地を貯蔵施設として打診してきた。建設に向けた調査を実施する意向を町に伝えたのである。

関西電力は、今年度中に福井県内の原発の使用済燃料を県外に搬出する先を明らかにしなければ、高浜1号機など40年を超える原発の運転継続を認めないとの福井県との約束があるため、再処理工場への搬出、中間貯蔵施設の立地、原発内での乾式貯蔵計画など、原発を運転するためにありとあらゆる手段を講じようとしている。

このような行為は、核のごみを増やすだけで、地域に対立と混乱をもたらし、解決がさらに困難になる。核燃料サイクル政策を中止し、様々な段階にある核のごみについて、どのように対応するのかを1つ1つ考えなければならない。

原発が動き続ける限り、際限なく核のごみは増え続ける。原発を止めること、再処理も止めることが第1に必要だ。脱原発が実現しても、すでに発生した使用済み核燃料をはじめ、再処理によって生じた高レベル放射性廃液やガラス固化体、それ以外の再処理廃棄物やTRU廃棄物など、核のごみの処理処分は残る。現在の原発もまた、すべて核のごみになるし、福島第一原発も当然含まれる。

それらについて「こうすれば良い」といったわかりやすく誰もが納得できる解決法はおそらくない。これまで電源立地を地方に押しつけ、電力エネルギーを消費してきた都市にも応分の責任を負ってもらわなければならないが、そのような議論はおそらく紛糾するだろう。

これら議論の紛糾、それぞれの主張を出し合うことで、本当の問題解決の糸口が見えてくるだろう。

この国では「国民的議論」は起きたことがない。いつも一部の専門家や政治家、官僚や行政が何事も決めて押しつけてきた。この構造を変えていかなければ、何も解決しない。そのことだけは確かである。(終わり)

◎山崎久隆 核のごみを巡る重大問題 日本で「地層処分」は不可能だ
〈1〉震災後も核燃料サイクルが残った
〈2〉再処理工場は稼働できない
〈3〉科学的根拠に乏しい経産省「科学的特性マップ」の異常さ
〈4〉放射性廃棄物「地層処分」を白紙にし、本当の議論を

本稿は『季節』2023年冬号掲載(2023年12月11日発売号)掲載の「核のごみを巡る重大問題 日本で『地層処分』は不可能だ」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫
私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

桐島聡さん騒動の空虚 ── 東アジア反日武装戦線再考 鹿野健一

東アジア反日武装戦線は警察やマスコミが喧伝するような「極悪人」の集団だろうか。そのメンバーとして全国に指名手配され、長年全国の駅や交番の掲示板に「凶悪犯」のように顔写真を晒されていた桐島聡さん。彼を名乗る男性が神奈川県内の病院で1月29日亡くなったそうだ。報じられる顛末には不可思議が多い。報道を時系列で振り返えると以下のようである。

1月25日、桐島聡と見られる男が入院している旨の情報提供が警視庁になされ、警視庁公安部による男の特定作業が開始された。翌日、男が神奈川県鎌倉市の病院に偽名で入院しているところを警視庁公安部により身柄確保された。男は事情聴取に対して、事件の関係者しか知り得ない当時の状況などについて話したため、警視庁公安部は男が桐島である可能性が高いとしてDNA鑑定を進めた。

病院に入院していながら本人確認もあやふやで「身柄確保」とはどういう意味なのか、法律の素人のには理解しかねる。続いて、

桐島聡と見られる男のDNA型鑑定の結果、桐島の親族と「親族関係矛盾なし」

と判断されたそうである。この男性は1月29日に病院で亡くなった。ここまでが桐島さんを名乗った男性の出現から逝去についての報道だ。

ところで公安警察が発表した

桐島聡と見られる男のDNA型鑑定の結果、桐島の親族と「親族関係矛盾なし」

というあいまいな表現。これはおかしくはないか? 本人特定がほぼ間違いないレベルの現代DNA解析で、「桐島さん本人」だと公安警察が確認できれば、早期に「本人であると判明」と発表するだろう。

亡くなった男性が桐島さんであるとの確証は、DNA鑑定やその後男性居宅の家宅捜査でも得られていない、だから今日に至るも「親族関係と矛盾なし」との表現が訂正されていないのではないだろうか。

ひょっとする理由は分からないがまったくの別人が「自分は桐島だ」と名乗り病院で亡くなった可能性も排除は出来ない。もし、別人であれば当の桐島さんにとって迷惑であろうし、公安警察やマスコミの大失態である。根拠の薄い当局発表や情緒的なマスコミ報道とは異なる視点で、真実を考察する必要はないだろうか。

桐島さんなのか、別人なのかも判然としなかった騒動。殺人鬼のように報じられた桐島さん。桐島さんとされる男性を巡る報道群は、デジタル時代の情報処理速度と共振して、液晶画面からはほとんど消えつつある。長年街頭で指名手配されひどい目にあってきた桐島さん騒動における報道群の過誤(間違い)と、公安警察・マスコミが一体で、がなりたてた露骨な世論誘導には強烈な疑義を禁じ得ない。

桐島さんはたしかに「爆発物取締違反」容疑で1975年に警視庁から全国指名手配されている。でも桐島さんへの容疑は「殺人」ではない。「殺人鬼を見つけた!」如き報道は桐島さんへの「容疑が殺人ではない」のだからまず前提が誤りだ。

東アジア反日武装戦線が展開した一連の企業爆破事件について、時系列やグループ・個人の関係性をまったく知らず(あるいは知っているのに無視して)、すべてを三菱重工爆破事件(死者8人負傷者370名以上)に帰することにより「冷酷無比な爆弾魔」として意識付けようとする報道が現在も続いているが、三菱重工爆破を行ったのは東アジア反日武装戦線「狼」のメンバーである。桐島さんが東アジア反日武装戦線に加わったのは「狼」が三菱重工を爆破したあとだ。つまり桐島さんは、三菱重工爆破事件とはまったく無関係な人物である。

東アジア反日武装戦線を論じるのであれば、当時捜査にあたった公安警察OBを名乗る高齢者の回顧映像や、爆破事件被害者親族の声だけを聴くのでは本質はなにも理解されない。作戦敢行者たちが日本帝国主義の犯罪をみずから受け止め命がけで行動した理由、さらには爆弾を闘争手段として選択した背景、想定外の死傷者を多数出した三菱重工爆破事件のあとどのように煩悶し、それでも戦線からの撤退を選択しなかった決断、そして「狼」に続き「大地の牙」「さそり」が敢えて激流に加わった経緯くらいの基礎知識がないと、報道も感想も論評の域にすら到達しない。

東アジア反日武装戦線の問題意識は見当はずれだったのか? あるいは彼らの作戦から約半世紀を経た現在、彼らが提起した課題は少しでも克服されているのか?

本通信読者の中には上記につき、詳細にあるいは一定程度知識をお持ちの皆さんが多数であると信じるが、もしそうでないかたがおられたら是非『反日革命宣言』を一読されることをお勧めする。

古くは本コラムの掲載元鹿砦社、そして近い所では風塵社から『反日革命宣言』が復刊されている。まだお読みでないだ読者にはぜひ『反日革命宣言』(風塵社)をお読みいただくことをお勧めする(鹿砦社版『反日革命宣言』は在庫がないそうだ。風塵社版も品切れ間近と聞いた)。

『反日革命宣言』(鹿砦社1979年版)と『反日革命宣言』(風塵社2019年版)

▼鹿野健一 (しかの・けんいち)
1965年兵庫県西宮市生まれ。複数の企業と大学に勤務の後、現在はフリーライター。国際情勢・政治・教育・冤罪・原発などに関心を持つ。反原発季刊誌『季節』副編集長。単著『大暗黒時代の大学』(鹿砦社)。共著『オイこら!学校』(教育資料出版会)、『1970年端境期の時代』、『抵抗と絶望の狭間/1971年から連合赤軍へ』(鹿砦社)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年3月号

ピョンヤンから感じる時代の風〈39〉「もしトラ」のこの時、問われているのは? 小西隆裕

今、米欧で「もしトランプが大統領になったなら」が、「もしトラ」と縮められて、話題になっているらしい。トランプ旋風は、米国だけでなく、欧州でも大変だということだ。

実際、「バイデン大統領」と「トランプ大統領」とでは大違いだ。

そのトランプが本当に大統領になる可能性が出てきた。

新年になってからアイオワとニューハンプシャー、二つの州で共和党の大統領候補選出のための予備選挙が行われた。そこで、二度ともトランプが圧勝し、全米50州、48州の選挙を残して、早くもトランプの選出が確定的だと言われるまでになっている。

民主党の候補は、現職のバイデンで決まりだと言われる中、11月に予定される米大統領選が4年前と同じ、トランプ VS バイデンの争いになるのはほぼ確定的だと言われている。

77歳のトランプと80歳のバイデン、この前回と同じ二人の老人しか大統領候補がいないのか。そこから覇権大国、米国の黄昏を思わない人はいないのではないか。

◆トランプ人気の秘密 ── 見捨てられた人々の代弁者

それはともあれ、ここで考えてみる必要があるのは、トランプのことだ。

8年前、大統領に選出された時にも、歴代大統領には類例を見ない、型破りの大統領と言われたトランプが今度は、婦女暴行罪まで含めて、様々な罪と裁判まで抱えながら、そうなればなるほど逆に支持を集め、現職大統領バイデンを制して大統領に選出される可能性大だとまで言われている。

なぜそうなるのか。トランプ人気の秘密は何なのか考えてみたい。

それを知るためには、まずトランプを支持している人たちがなぜ支持するのか聞いてみることから始めるのがよいのではないか。

彼の支持者からもっともよく聞かれるのは、彼があんな金持ちなのに、少しも飾らず、彼らと同じように話し、彼らの気持ちを一番よく分かってくれると言うことだ。

言い換えれば、トランプが彼らアメリカ国民の、それもラストベルト地帯労働者など見捨てられた人々の代弁者だと言うことだ。

皆、トランプが大統領になるところに、自分たちの心、気持ちや要求を反映した政治の実現を見ているのではないか。

「偉大なアメリカ」「アメリカ・ファースト」など、トランプが掲げるもっとも基本的なスローガンにそれは象徴的に示されているように思う。事実、インタビュアーの質問に答えて、「あのスローガンがいい」と言う人々が大勢いた。

トランプの政策は、実際、アメリカを第一にし、アメリカ国民を第一にするというものが目に付く。移民、難民の米国への入国を制限。企業の海外進出に反対し、輸入品に対する関税を高くして、米国国内経済の振興を主張し、米国が世界の警察として海外でカネを使うことに反対する。

これらは、米国が世界第一の超大国としてドルや核で世界に君臨し、それによって権力を振るい、カネを儲けている一部特権層にとっては許し難いことだろう。

だから彼らは、国家機関、司法機関を動かし、メディアを動かし、それらと一体になって、トランプを異端とし、悪者にしながら、バイデンを勝たせようとする。

だが、それも今回はうまく行きそうにない。ウクライナ戦争や中東戦争など、勝ち目のない戦争、不正義の戦争にバイデンがカネを注ぐのに米国民は反対だ。

そこで、手がなくなった特権層も、前々回、8年前、キッシンジャーが「一度トランプにやらせてみたらどうか」と言ったように、もう一度トランプにやらせてみようと言うことになるかも知れない。

そうした中、「もしトラ」の声はこれからますます高まるのではないか。

◆「もしトラ」で、日本に問われているのは何か

そこで言えるのは、8年前と今とでは、米国が置かれた位置が大きく異なってきていると言うことだ。

今は、世界中が「ファースト」の時代だ。「ファースト」は、自国第一、自国の上に覇権が来るのに反対する。事実、ウクライナ戦争や中東戦争で米国に従う国は、日本などG7の国々くらいしか見当たらない。

この状況で「もしトラ」になったらどうなるか。本当に米覇権が崩壊する事態になるかも知れない。ならないという保証はどこにもない。なったらどうなるか。米欧の覇権側の人々の腰が定まらなくなるのも分かるというものだ。

「もしトラ」のこの時、米覇権から脱却するための闘いが日本においても、今こそ問われてきていいのではないだろうか。

と思っていたら、いるいる。「もしトラ」は日本にとっての大チャンス。今こそ、真に独立する時だと言う人々が出てきている。

ただ、その理由が問題だ。「もしトラ」の場合、対日軍事援助に消極的だ。だから、日本が独自に軍事力強化して独立だと言う人がいるようだが、それはどうだろうか。

軍事力の強化も真に日本を防衛するためのものならば、独立のためになるだろうが、昔のような侵略のための軍事力強化なら、対中対決戦の最前線に立たされるなど、米覇権のために利用されてしまうだけではないか。

「もしトラ」で、日本に問われているのは何か。それは、米国のファーストの下で生きるのを日本のファーストにするのではなく、米国のファーストの下で生きるのか否かを決定的な問題とし、米国のファーストから脱して生きるのを日本のファーストにすることではないだろうか。そうしてこそ、日本は米国の支配から脱し、真に独立することができると思う。

小西隆裕さん

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』

汚染水ダダ漏れの「産廃無策」!!  反省なき湯崎英彦・広島県知事 何が「広島の元気をブースト!!」ですか?! さとうしゅういち

広島県知事の湯崎英彦さんは、2024年2月13日開会した広島県議会に2024年度予算案を提出しました。

一般会計の規模は1兆957億円。8日の予算案発表に当たってのキャッチコピーは「広島の元気をブースト」です。

ご承知の通り、広島県は3年連続で人口流出全国ワーストワンです。その汚名を返上したいという思いを込めておられるのでしょう。問題は、中身がそれにふさわしいか、ということです。

◆ゴミ不法投棄を人工衛星で監視は良いが

今回、筆者が注目した項目の一つが、産業廃棄物対策です。2023年6月、県が三原市と竹原市の水源地のど真ん中に許可した三原本郷産廃処分場からついに汚染水が流出してしまいました。そして、広島地裁は7月、湯崎英彦知事による産廃処分場許可は判断過程に瑕疵があったとして許可取り消しを命じる判決を言い渡しています。湯崎知事はこの判決に控訴しました。しかし、そうはいっても、現に汚染水が出ているという事実があるわけです。なんらかの抜本的な対策を新年度予算で示してしかるべきです。

湯崎さんは2024年度予算案において「人工衛星で不法投棄を監視する」としました。確かに、山の中まで不法投棄の産廃を一々県庁職員がチェックにいくのは大変です。人工衛星で監視というのはグッドアイデアではあります。しかし、広島県の産廃行政の根本問題はそれでは解決しません。

◆問題は県「公認」産廃処分場の「ザル」状態

広島県の産廃行政の問題点の根本は「県が許可=公認した」産廃処分場が「ザル」状態だということです。

三原本郷産廃処分場はまさにその典型です。長野や群馬など遠方の産廃が今も白昼堂々と捨てられています。そして、昨夏のように県が検査に来るときは、検査対象の井戸水に水道水などを混ぜて汚染値を引き下げてしまえば、県は「安全」と判断してしまうわけです。

また、裁判所が産廃処分場の設置許可の取り消しを命じても、県はそれを控訴し、業者に処分場稼働=汚染水排出を続けさせています。まさに、県自身が、加害者となっています。

そもそも、この産廃処分場の所有者であるJAB協同組合は、かつて所有していた安佐南区の上安産廃処分場で水の汚染や危険盛り土の上への産廃処分場建設などの問題を起こしています。だが、上安の問題を本格的に明らかにしたのは当初は、県の調査ではありませんでした。三原本郷産廃処分場計画を知って不安に思った原告団共同代表の岡田和樹様ら、三原市民たちでした。県は、本来、自分自身でやるべきことを住民にさせていたのです。

◆東広島市でもまた、大型産廃処分場計画!

こうした中、今度は三原市の西隣の東広島市安芸津町にも大型産廃処分場が計画されています。安芸津町は大相撲・元関脇で横綱千代の富士や同・旭富士などから大量の金星を得たことで有名な安芸乃島関=高田川親方の出身地です。三原本郷産廃処分場を水源地とする竹原市の西隣にもあたります。その安芸津では、住民は産廃業者に対して土地を売らないことで対抗しようとしています。

しかし、業者もさるもの。会食を開くなどして地主の切り崩しに躍起になっています。こうした中で、三原本郷産廃処分場の問題を反省していない広島県の湯崎英彦知事を信用できるのでしょうか?信用しろと言われても信用する方がむしろおかしいでしょう。

◆産廃問題おろそかにしては「県産食材や広島料理のPR」も台無しに

湯崎英彦知事は、2024度予算案の中で、広島の食材や料理のPRにも力を入れる、としています。

それは結構なのですが、産廃行政がザルではそうした施策も台無しではないでしょうか?水が汚染されれば、農産物にも、広島の名産品であるカキを含む海産物にも、そしてお酒にも悪影響が出ます。

◆人口流出も加速する「産廃無策」

広島県内には、2011年の「3.11」以降、実は東京などからUターンしてこられて、農業やお酒やパンの製造などに乗り出すいわゆる30代、40代くらいの方が結構おられました。それにより、一時期、人口流出が下火になっていました。

「大学進学時や就職時には東京の有名大学や有名企業に一度は行ってみたい。だけど子育てはやっぱりのんびりした広島」というライフサイクルの方は結構おられます。だから、筆者は、実を言うと18歳や22歳での人口流出については比較的楽観していました。

しかし、全国から産廃が広島に集まり、汚染水も事実上ダダ漏れ、という状態では、それこそ、広島にUターンしてくる人も減ってしまいます。東京の環境汚染を懸念して広島に戻っても、今度は産廃汚染水ダダ漏れ、では帰ってくる意味がありません。

人口流出を騒ぐのであれば、産廃規制強化は急務です。別に口には出さなくても、産廃規制が緩すぎるということで広島を敬遠してしまう層はそれなりにおられます。広島に活力を取り戻すためにも他都道府県並みの産廃流入規制を求めます。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年3月号

2月24日、国賠ネットワーク交流集会で『日本の冤罪』著者の尾﨑美代子さんと鹿野健一さんの対談が行われます! 松岡利康

2月24日、国賠ネットワーク交流集会が東京・水道橋のたんぽぽ舎で開かれます。詳細は下記の案内をご参照ください。

この日は昨年、本社から『日本の冤罪』を出版された尾﨑美代子さんと、本通信にも執筆している鹿野健一(ペンネーム田所敏夫)さんが招かれ『日本の冤罪』について対談が行われます。ご興味のあるかたは是非お出かけくださいますようご案内いたします。ただし、会場の都合上残席はわずかで、先着順とのことです。

『日本の冤罪』出版に当たっては、昨年12月24日に大阪でも集会が行われ、同書に推薦文を寄せていただきた井戸謙一弁護士をはじめ、冤罪事件被害者のみなさんも集まり、大いに盛り上がりました。当日も尾崎さんと鹿野さんの対談が行われましたが時間の関係で10分ほどでした。今回は約1時間にわたる対談が予定されています。

第33回 国賠ネットワーク 交流集会
『日本の冤罪』を語る : 尾﨑美代子さん & 鹿野健一さん
2024年2月24日(土)13:30~17:00 ■スペースたんぽぽ(たんぽぽ舎)

◎国賠ネットワーク https://kokubai.net/

国賠ネットワーク さまざまな国賠裁判を結ぶネットワークは1989年に立ち上げられました。国賠裁判とは、国や自治体の公務員から不当な被害を蒙った人々が、その責任を追及し、謝罪や賠償を求める訴訟です。無実の罪で逮捕・勾留・起訴された冤罪被害者を中心に、国賠を闘う原告や支援グループの、穏やかな連携と支援交流を目指すネットワークです。

◆交流集会 年に一度、それぞれの国賠の当事者・支援者が集まって、互いに報告し、語り合い、情報や知恵を共有する全国的な交流集会です。①東住吉冤罪国賠、②星野獄中死国賠、③大垣警察市民監視国賠、④湖東病院事件・西山国賠、⑤よど号旅券発給拒否国賠&産経新聞損賠、など当事者から現状についての報告を予定しています。

◆特別対論 最新刊『日本の冤罪』の著者・尾﨑美代子さんに、フリーライター・鹿野健一さんがお話を伺います。尾﨑さんは足を使い、渦中の人に会って話を聞き現場に出向き、更には住み込んでその複雑さの中に身を置き考える。このように肌の感覚をとことん味わい、言葉で伝えようとする人は意外に少ない。集会に多くの諸兄姉が参加し、彼女の話に耳を傾けていただきたい。

尾﨑美代子著『日本の冤罪』


飯塚事件の再審請求審 ── 凄いニュースなのに、大きなメディアではほとんど報道されない 尾﨑美代子

凄いニュースなのに、大きなメディアではほとんど報道されない。既に死刑が執行された飯塚事件の再審請求審で、次々と死刑執行された男性が犯人でない可能性のある証拠が出ているのに。話題にならないとは?

32年前福岡県飯塚市で女児2人が失踪、翌日遺体が発見された飯塚事件、私はこの事件を詳しく見ていなかったが、今回改めて調べてみた。事件発生から2年後久間三千年さんが逮捕。久間さんは一貫して否認していたが、2006年最高裁で死刑が確定、そのわずか2年後2008年に死刑が執行された。

実は同じ年、飯塚事件で用いられたDNA鑑定と同じの手法で実施されていた足利事件のDNA鑑定が間違っているのではないかと問題になっていた。(実際足利事件の菅家さんは2009年4月にえん罪と判明した)。久間氏の死刑執行はそれが判明して1週間後だった。

2009年10月28日、久間氏の遺族は福岡地裁に第一次再審を請求。足利事件のDNA再鑑定を行った大学教授による鑑定書を新証拠として提出した。しかし2014年福岡地裁は再審請求を棄却、2018年福岡高裁も即時抗告を棄却し、最高裁も特別抗告を棄却した。

2021年7月9日、遺族は第二次再審を請求した。新たな証拠として、事件当日、後部座席に女児を乗せた車を目撃した男性Aさん(74歳)の証言が出された。Aさんは、2023年5月31日、非公開の証人尋問のあと、弁護団とともに実名・顔出しで会見に応じた。Aさんは、女児2人が失踪した日、女児を後部座席に乗せた白いワンボックスタイプの車を目撃したと証言した。運転していたのは、久間さんではない、30~40歳位、色白、5分刈の短髪、頬身の体形だったという(当時久間さんは50歳)。女児の一人は恨めしそうな今にも泣きそうな表情だったという(20年あと女児の写真を見たAさんはあの時の子だと確認する)。

実はAさんは、ニュースで女児2人が行方不明になったことを知り、すぐに警察に通報していた。2月26日か27日に事情を聴きにきた警察官に、Aさんが見た白い車と運転していた男の話をした。しかし、警察はAさんに「紺色のワンボックスカーではないか」と聞いたという。

3月2日、女児らの遺留品発見現場の近くで久間さんの車と特徴が似ている車を見たという男性Bさんが現れた。つまり、2月26日か27日にAさんに「紺色の車ではないか」と聞いた警察は、その証言者が出てきた3月2日前から犯人は紺色のワンボックスカーに乗る人物と目星をつけていたことになる。久間さんの車はそれと同種だった。Bさんの供述は3月9日以降「車種はトヨタや日産ではない」「後輪がダブルタイヤだった」「ガラスにフィルムを貼っていた」など、どんどん久間さんの車と細部が似ている供述にかわっていった。捜査員は、最初から久間さんを犯人ときめつけていたのだ(それには理由があるが、ここでは省く)

しかも、そのAさんは気になり、その後久間さんの初公判を傍聴した。前から2列目の席からだ。被告人席には、白い車に乗っていた男とは別人の久間さんがいて、驚いたという。

実は2月15日、再審請求審の三者協議でまたまた新たな証拠が出された。女児2人が失踪した日、通勤途中に登校中の女児2人を見たという、実質、被害者の最後の目撃者だった女性が、当時の証言を翻し、「(女児を)見たのは別の日で、その日は見ていないと伝えたが、捜査員に『いや見たんだ』と押し切られたという事実だ。証言を「翻す」というより、捜査員に見ていないと伝えても『いや見たんだ』と押し切られていたことを明らかにしたということだ。

これは実によくあることだ。京都俳優放火事件で無期懲役を下された平野義幸さんは、自宅の2階で火災が発生、前日から泊まりにきていた彼女が2階にいる。あれこれ消火活動を行った平野さんだが、表に出て周囲に助けを求める。一方、平野さんは何度も燃えさかる家に入り、彼女を助けようとする。

しかし、それ以上中に入ったら、平野さん自身が危ないと考えた近所の人たちが「このままではよし君(平野さん)が危ない」と皆で平野さんの背後から「膝カックン」して倒したりした。よくケンカするなどで、評判がそうそうよくなかった平野さんだが、近所の人たちは必死で平野さんを守ろうとした。そのことを警察に話したが、判決は平野さんが何もせず、彼女を見殺したかのような内容になっている。

あるいは、姫路の花田郵便局強盗事件で犯人とされたジュリアスさんは、ジュリアスさん所有の倉庫は、昼間鍵がかけられず、誰でも入れた状態だったのに、裁判ではジュリアスさんしか鍵を開けれなかった、ほかの人は入れなかった、だから倉庫内に盗んだ現金などを隠せたのはジュリアスさんしかいないとされた。のちに倉庫の貸主の女性が、「入口は開いてて、誰でも入れた」と証言している。

桜井昌司さんが「逆えん罪」と称した、西成の女医矢島祥子さんの不審死事件では、取り調べられた彼女の関係者の話を直接聞いたことがある。仕事を休んで警察にいくと、捜査員から「矢島さんは自殺したんだが……」云々で始まる調書を取られたという。知人女性は矢島さんの死が自殺とは思えないため、何度そう言われても否定していた。しかし、「矢島さんは自殺したんだが……」を認めないと取り調べが終わらない。彼女は何度も警察に呼ばれ、そのたび仕事を休まざるを得ない。仕方なく、最後はその調書にサインしたという。

それにしても、この冤罪事件はどう決着つけるのか? 久間さんはもう国に殺されている。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』


万博の建設現場に人が集まらない理由 尾﨑美代子

おばんです。ちょっと言わせてください。あのですね、大阪万博をこのまま強行すれば、東京五輪の時以上の過労死者や自殺者がでますよ。新国立競技場の現場で若い現場監督が自殺したではないですか? 現場監督は、大きな現場の全体を把握してないと勤まらない。店に来る職人さんが少し大きな現場に入ると、監督が良いか悪いか、よくわかると言います。今日ある場所でコンクリ打ちするからミキサー車が入るというのに、入る予定のゲート付近に、ほかの業者が資材を山積みしているなんてことがあるそうです。「何やってんだ!ミキサー車来てるぞ、早く片づけろ!」と怒鳴り声が飛ぶわけです。

これは福島第一原発の収束・廃炉作業の現場を知るなすびさん(被ばく労働ネットワーク)も言ってました。福一の現場ではそれこそ毎日多種多様な作業が行われています。ある工事を行う作業員が現場にいくと、別の作業をやっている人たちがいて、自分たちはそれが終わるまで、被ばくしながら待たなくてはならないとか……。

広い現場の全体を把握できる人間がいないということです。しかも万博の現場、なかで作業が遅れているのを見せたくないためか、周囲をぐるりを囲む大屋根が先にできましたが、そうすると、中の工事に資材を搬入するなどの作業がやりにくい、やりにくい。違いますか?

◆ゼネコンの人間は、コンクリ打ったり、鉄骨組んだりできません

あと、万博の建設現場に中に入るゲートが少ないですね。以前、大阪の堺市で大きな電気関係の工場現場があったのですが、誰も行きたがらない。何故かというと、現場へ入るゲートが一本しかないため、行き帰り、とくに早く帰りたい帰り道、ゲートが混んで混んでなかなか出れないらしい。職人さんはキツイ仕事終えて早く一杯やりたいので、現場から戻るのに何時間もかかる現場はいきたがらない。
 
あと、皆さん、万博は大手ゼネコンが請け負うから、優先的に仕事が進むはずと考えていませんか? ゼネコンの竹中、大林に勤める人間がとつぜんコンクリ打ったり、鉄骨組んだりできませんよ。現場で働くのは下請けの作業員、その人数は限られていますよ。その人たちを奪い合うわけですよ。

さっき言ったように、キツイ仕事終わったら早く帰りたい、いっぱい飲みたい、風呂浸かってゆっくり休みたいと思うのが普通でしょう。だって人間だもの……(相田みつお風)。

誰が、帰りに何時間もかかる現場に行きたいと思いますか? 例えば、釜ヶ崎で、手に専門職をもたず、穴掘りなど土工の仕事しかできない人でも、当然ですが、労働者としての「誇り」があります。

阿倍野ハルカスの現場に穴掘りの土工さんとして入った人でも(失礼な言い方ですが、この人たちがいないと現場は始まらない)、「ママ、あのハルカス造ったの、俺だぜ」と自慢するのです。

それが、造っても半年ほどで解体する万博の現場に、「おれ、すごいだろう」と自慢して入れる人はどれくらいいますか? それなら、「能登に行って仮設住宅作って、えらい喜ばれたわ」という現場の方がナンボやりがいがあることか?

だから万博の現場に人は集まりません。首に縄着けて引っ張っていくのなら話は別ですが……。それでも金借りた、昔親方に世話になったなどの理由で現場に行かざるを得ない人、めっちゃ大変ですわ。私だったら単価が多少安くても能登の片づけ作業、解体作業そして仮設住宅造りにいきますわ。

だって、人として、人のためになることをやりたいじゃないか(相田みつお風)。


◎[参考動画]【万博間に合う?】「手が足りない」「めっちゃ急かされる」建設作業員たちの本音 工期遅れで残業やむを得ない状況も…大阪・関西万博の会場建設の現状(MBS NEWS 2024/02/11)

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』


核のごみを巡る重大問題 日本で「地層処分」は不可能だ〈3〉科学的根拠に乏しい経産省「科学的特性マップ」の異常さ 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

◆ガラス固化体の地層処分を押しつける「科学的特性マップ」

ガラス固化体埋設立地点については、日本のどこが「適地」であるかを示す地図が2017年9月に経産省により公開された。これを「科学的特性マップ」という。

 
[全国]科学的特性マップ(出典=経産省資源エネルギー庁)

しかしこの地図に科学的根拠は乏しい。200万分の1という荒い地図では、適地と判断した理由はほとんど分からない。機械的に海岸線から一定の距離に線を引き、火山エリアとして火口周辺15キロを除外した程度にしか見えない。活断層に至っては長さの100分の1の幅を除外したというのだが、何の根拠もない。

例えば、三浦半島が全域「好ましい地域」とされているように見えるが、ここには関東大震災を引き起こした断層があり、多くの活断層が半島を切り裂いている。一体どうして「適地」になるのか。

糸魚川静岡構造線(糸静線)がある新潟県糸魚川市姫川付近も「適地」とされている。糸静線はフォッサ・マグナの西縁にあたり西南日本と東北日本が現在の位置に移動した時に形成された大断層である。「糸静線の北端は新規の断層により北側が500㍍以上落ち込んでおり、『糸魚川』地域の海岸付近における糸静線は地下深部に埋没されていると推定」そして「現在も傾動隆起の傾向」(産総研2017)とされている。つまりずっと活動を続けている。こんな地域が「適地」なはずがない。

この地図は結局地層処分を前提として、どこが良いかといっているに過ぎない。そのような仕掛けで立地地点の自治体に立候補させたり、全国的な議論を巻き起こそうとしても不可能だ。

[北海道]科学的特性マップ(出典=経産省資源エネルギー庁)
[東北]科学的特性マップ(出典=経産省資源エネルギー庁)
[関東・中部]科学的特性マップ(出典=経産省資源エネルギー庁)
[関西・近畿・中国・四国]科学的特性マップ(出典=経産省資源エネルギー庁)
[九州・沖縄]科学的特性マップ(出典=経産省資源エネルギー庁)

◆「地層処分」とは何か

ガラス固化体は、強い放射線を出すため、人間の環境から10万年以上隔離しておかなければならない。そこで「多重バリアシステム」という仕組みで隔離する。

この多重バリアは、ガラス固化体と金属製容器(オーバーパック)と緩衝材(容器を包む粘土)の組み合わせで形成される「人工バリア」と周囲の地層により遮蔽する「天然バリア」からなる。

放射性物質とガラスを混ぜて固めれば放射性物質の漏えいが防止でき、オーバーパックは約1000年間は地下水とガラス固化体の接触を防ぎ、腐蝕した後は緩衝材と天然バリアが放射性物質の地下水への漏えい、環境中の移動を押さえるとされる。

しかし10万年規模の遮蔽性能など実験で確認できるわけもなく、さらに地層の天然バリアに至っては、仮説の域を出ない。

原子力発電環境整備機構(NUMO)は地層処分を行う公益法人だが、そのホームページでは地下深部について「物質を長期にわたり安定して閉じ込めるのに適した場所」として埋め捨てを合理化している。

埋め捨てを国の方針としたいきさつについて、ある論文から紹介する。「1999年11月に日本原子力研究開発機構が原子力委員会に提出した『わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性・地層処分研究開発第2次取りまとめ』では、地質環境・工学技術・安全評価の3つの観点から日本でも地層処分が可能であるとした。

それを受けて、2000年6月に『特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律』が成立し、10月には処分事業の実施主体として原子力発電環境整備機構(NUMO)が設立された。

『第2次取りまとめ』は日本の地質環境について、地震・断層活動、火山・火成活動、隆起・沈降・浸食、気候・海水準変動を検討し、『将来10万年程度にわたって十分に安定で、かつ人工バリアの設置環境および天然バリアとして好ましい地質環境がわが国にも広く存在すると考えられる』と結論した」(学術の動向「変動帯の日本列島で高レベル放射性廃棄物地層処分の適地を選定できるか?」石橋克彦2013より)。(つづく)


◎[参考動画]“核のゴミ”全国適正マップ 初の一般向け説明会(2017/10/17)

◎山崎久隆 核のごみを巡る重大問題 日本で「地層処分」は不可能だ
〈1〉震災後も核燃料サイクルが残った
〈2〉再処理工場は稼働できない
〈3〉科学的根拠に乏しい経産省「科学的特性マップ」の異常さ
〈4〉放射性廃棄物「地層処分」を白紙にし、本当の議論を

本稿は『季節』2023年冬号掲載(2023年12月11日発売号)掲載の「核のごみを巡る重大問題 日本で『地層処分』は不可能だ」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。共著に『核時代の神話と虚像』(2015年、明石書店)ほか多数。

『季節』2023年冬号

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年冬号

通巻『NO NUKES voice』Vol.38
紙の爆弾2024年1月増刊
2023年12月11日発行 770円(本体700円)

2024年の大転換〈脱原発〉が実る社会へ

《グラビア》
「東海第二原発の再稼働を許さない」11・18首都圏大集会(編集部)
福島浪江「請戸川河口テントひろば」への道(石上健二)

《インタビュー》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
必要なことは資本主義的生産様式の廃止
エネルギー過剰消費社会を総点検する

《インタビュー》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
「子ども脱被ばく裁判」と「311子ども甲状腺がん裁判」
法廷で明らかにされた「被ばく強制」 山下俊一証言のウソ

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
【検証】日本の原子力政策 何が間違っているのか〈1〉
無責任な「原発回帰」が孕む過酷事故の危険性

《報告》木原省治(「原発ごめんだ ヒロシマ市民の会」代表)
瀬戸内の海に「核のゴミ」はいらない
関電、中電が山口・上関町に長年仕掛けてきたまやかし

《報告》山崎隆敏(元越前市議)
関電「使用済燃料対策ロードマップ」の嘘八百 ── 自縄自縛の負の連鎖 

《インタビュー》水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
反原発を闘う水戸喜世子は、徹底した反権力、反差別の人であった
[手記]原発と人権侵害が息絶える日まで
       
《インタビュー》堀江みゆき(京都訴訟原告)
なぜ国と東電に賠償を求めるのか
原発事故避難者として、私が本人尋問に立つ理由

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発賠償関西訴訟 提訴から10年
本人調書を一部公開 ── 法廷で私は何を訴えたか?

《報告》平宮康広(元技術者)
放射能汚染水の海洋投棄に反対する理由〈前編〉

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「核のゴミ」をめぐる根本問題 日本で「地層処分」は不可能だ

《報告》原田弘三(翻訳者)
「気候危機」論の起源を検証する

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出に対する闘いとその展望

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
フクシマ放射能汚染水の海洋廃棄をめぐる2つの話題
映画になった仏アレバ社のテロリズムと『トリチウムの危険性探究』報告書

《報告》板坂 剛(作家・舞踊家)
再び ジャニーズよ永遠なれと叫ぶ!

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈22〉
甲山事件50年目を迎えるにあたり
誰にでも起きうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか〈上〉

再稼働阻止全国ネットワーク
岸田原発推進に全国各地で反撃中!
沸騰水型の再稼働NO! 島根2号、女川2号、東海第二
《東海第二》小張佐恵子(福島応援プロジェクト茨城事務局長/とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人)
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち/「ひろば」共同代表)
《東京》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《志賀原発》藤岡彰弘(命のネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《中国電力》高島美登里(上関の自然を守る会共同代表)
《川内原発》向原祥隆(川内原発二〇年延長を問う県民投票の会事務局長)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

龍一郎揮毫
私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

「鹿砦社『紙の爆弾』は、タブーなしの国民向けの月刊誌」── 政治評論家 本澤二郎さんのブログより

政治評論家の本澤二郎さんがご自身のブログ「日本の風景」(2024年02月09日)で月刊『紙の爆弾』を紹介してくれました。以下、同記事を転載させていただきます。(編集部)

◆鹿砦社『紙の爆弾』はタブーなしの国民向けの月刊誌

「ろくさいしゃ」と読むそうだが、現物を見るまではよく分からなかった。その本物の雑誌が自宅に郵送されてきた。さっそく日刊ゲンダイでも「コメントが出た時は知らせてほしい」という、なんともうれしいファンに電話した。心が美しく優しい女性であるT君に、年に一度は電話して無事を確かめ合っている仲だ。先日電話に出なかったので、気になっていた。昨日はつかまえてほっとした。

彼女には、関西で生活していた、彼女にも似た優しい妹思いの兄が一人いた。2年前にコロナを心配して妹の様子を確かめようとして上京した。当時、彼女はコロナに感染していて自宅で寝込んでいた。念のため兄も診断するため病院に行った。これが兄妹の最期の別れとなってしまった。コロナ利権で笑いが止まらない製薬メーカーや医師会、関係行政官僚と打て打てと発破をかけてきた議会人の責任が問われている。それにしてもこんな悲劇も珍しい。兄はそこで入院し、妹の住む実家に戻ることができなかった。コロナワクチンが人を殺すことなど、多くの庶民はいまだに知らない。

悲劇は誰にでもどこにでも起きる。自分もそんな人間の一人だが、T君もまた運命の人だったのか。寂しくてカルト教団に引きずり込まれていないか、今も心配ではある。

念のため鹿砦社の電話番号を教え、よかったら買って読んで、と頼んでみた。こんなことは初めてのことだが、この『紙の爆弾』は、国内で発行されている雑誌の中ではぴか一ではないかと判断したからである。推薦してくれた青木泰さんに感謝したい。130ページの紙面には、詐欺まがいの広告が全くない。それに言論の自由を放棄したような新聞雑誌の日本だというのに、タブーがないのが最大の特徴であろう。この国の言論界は、編集者泣かせのタブーがいっぱい詰まっている。この雑誌にはそれがないのだ。編集人にとって最高の出版社といえる。

思い出した。以前、鹿砦社の責任者から「本を書け」とボールを投げてきてくれたことがあった。当時は日中友好の旅や中国人学生の講義を引き受けたり、日本の若者を南京や盧溝橋に案内したりしていて時間が取れなかった。多忙を口実に失礼してしまった。猛省しきりである。

◆『紙の爆弾』3月号は国民の知るべき内容がびっしり

国際ジャーナリストの藤原肇さんも『紙の爆弾』に書いたという知らせを受けたこともあったのだが。振り返る必要もない事実だが、国民のための読売新聞や日本テレビなどを乗っ取った渡辺恒雄は、もういないといっていい。彼が読売新聞を制圧するや、誰も見たことも聞いたこともない改憲論を公開したり、中曽根内閣が誕生すると、まるで自身が天下を取ったかのようにはしゃぎまわって「中曽根新聞」に変身させた。

そのナベツネの時代も終わったと繰り返したい。糧道を断たれた筆者も元気に生きている。パソコンに「本澤二郎の日本の風景」を毎日打っているではないか。恩師である宇都宮徳馬さんを裏切って「忘恩の徒」と断罪されたツネはいなくなった。

日本新聞協会・日本記者クラブも変わるだろう。変わらねばならない。NHKにも、もはや「岩田明子」のような○○記者は生まれない。公共放送に変わらなければ、解体されるだろう。

A級戦犯の岸内閣は、読売の正力松太郎と連携して危険すぎる原子力発電所を、巨大地震国の狭い列島にハリネズミのように建設した。それを中曽根康弘が継承した。財閥のための経済政策は、利権そのもので、岸の孫の安倍・清和会を通じて、日本を亡国の淵に追い込んでしまった。宏池会の岸田文雄も、この軍事経済に傾斜した安倍・軍拡に背乗りしたもので、第二の3.11に怯える日本国民も哀れすぎよう。

『紙の爆弾』3月号では、日米言論界が強引に「泡沫候補」にしているロバート・ケネディJrの躍進ぶりを書いている。彼の台頭に多くの国々の人々は拍手喝采している。アメリカンリベラリストと無党派層・若者を結集するであろうから、ワシントンは行儀がよくなるに違いない。彼が政権を担当すれば、いずれ沖縄の米軍基地も消えるだろう。

安倍や高市らの「台湾有事」は、改憲軍拡のための危険すぎる策略であるが、そのことも表紙の見出しから記事化されている。大阪万博は安倍の東京五輪利権に代わる、安倍の維新向けの利権行事に過ぎない。直ちに中止すべきであるが、このことも遠慮なく言及している。

◆「能登半島の志賀原発が危ない」に共鳴する核汚染ごみで泣く房総半島の市民

表紙をめくると、脱原発専門の季刊雑誌を発行している。すごい。国民の目線にぴったりと合っているのではないか。原子力マフィアに鉄槌を加えるのであろう。

人間が操作できない原子力発電所は、作ってはならない。それを建設する輩は、まさに「今だけ自分だけカネだけ」の利権屋でしかない。国民は誰でも知っている。日本国民と憲法の名において、原発は有害無益である。筆者は日頃から「帆船日本丸」を説いているのだが。

次ページのグラビアも見事な編集に拍手したい。能登半島の志賀原発は、あやうく第二のフクシマになるところだった。原子力マフィアの規制委が再稼働に踏み切る寸前だったという。

全然知らなかったことだが、今回の能登半島地震で陸地が隆起し、高波に表れて住宅が倒壊した「珠洲原発」が、地元の住民の反対で2003年に凍結されていた! 関西・中部・北陸の利権にまみれる電力会社が強行していたら、間違いなくここも第二のフクシマを再現したであろう。

珠洲市など能登半島の理性の反対運動に、この機会に心から敬意を表したい。原発推進者の正力松太郎は、確か北陸の人間だと記憶している。日本に原発を持ち込んだ岸信介にほれ込んだ人物、政界では「サメの脳みそ」と俗称されてきた利権屋のドンである森喜朗その人である。市民は手の届かない高級老人施設に入って、分厚い高級ビフテキを平らげる森も、ナベツネ同様に車いす生活。

悪党の天下を終わらせる正義の言論『紙の爆弾』に栄光あれ、である。核汚染ごみと足尾の鉱毒に羽交い絞めにされている房総半島から、連帯の声援を送ろうと思う。

出る杭は打たれるが、出過ぎた杭は打たれない。青木本から学んだ教訓である。

2024年2月9日記(日本記者クラブ会員・反骨ジャーナリスト・政治評論家)

◎本澤二郎の「日本の風景」(5069)より転載

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年3月号

『紙の爆弾』2024年3月号

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