今回も前回に引き続き、地域医療に尽力する医師・松永平太氏の著書、『笑って、食べて、愛されて 南房総、在宅看取り奮闘記』(幻冬舎)の書評の第2回目をお届けする。

 

松永平太『笑って、食べて、愛されて 南房総、在宅看取り奮闘記』(幻冬舎)

第1回目、「家族の介護を大前提とする、いくつかの描写や意見・感想」に違和感を抱くが、「さまざまな現実に真剣に向き合ってきた松永氏の考えは実際、わたしとまったくかけ離れていることはない。また、彼が手がけていることは、まさにコミュニティでのケアを理想的な形で実現させるためのものなのだ」と記した。

これに関し、松永氏に改めて確認したところ、「これから日本は、独り暮らし、認知症の高齢者がドンドン増えてきます。認知症の独居を想定した看取り文化を創りたいと考えています。なので、家族介護が必須要件とは考えておらず、おひとり様でも地域で最期まで生き切ることのできる社会を目指します。中に、田舎には婆ちゃん独り、都会に子供たちパターンで、最期の1週間だけ最後の親孝行をするため帰郷して満足死を達成する実例を出していました。家族がいなくても私たちが愛しますので、独りぼっちにさせません」というメッセージを届けてくれた。

◆孤独死を除く在宅死亡率は1割未満

さて、本書に戻る。前回も触れた介護保険の問題を象徴することとして、松永氏は、「介護保険が導入されて二十数年が経つにもかかわらず、逆に家で死ねない時代になっているのです。数十年で病院の死亡率は80%弱とあまり変わりはなく、施設で最期を迎える人が増えているのです」と訴える。

また、在宅死亡率は全国平均で15.7%だが、ここにはいわゆる孤独死が含まれているため、「自宅にいて家族や訪問看護師、医師らに看取られた患者の割合は在宅死亡率の6~7割ほどではないかと考えています」と伝える。つまり、9.4%、1割未満というわけだ。平均寿命は、平安時代が26歳、江戸末期でも31歳とのこと。これが現在では84歳(厚労省の発表によれば2022年の男の平均寿命は 81.05年、女は87.09年)にまで延びている。

本書では取り上げられていないが、たとえばインターネット上では、高齢者を既得権者として敵視するような論調を目にすることがある。自らの悩みや貧困の原因は、余裕のある年金生活を送り、旅や趣味を楽しみながら悠々自適な生活をして、政治にもいうことをきかせている。高齢者があぐらをかき、のさばっている。そのような語り口だ。

しかし、このような世代間論争とは本当の既得権者によって対立をあおられているようなものであり、どの世代にとっても社会はよいものとならない。

松永氏は、常に地域の高齢者を診ている。だからこそ、彼らのために現実的に自分ができることを、次々と実現させていく。診療所だけでなく、2000年の介護保険法が施行される際に訪問看護ステーションとヘルパーステーションを設立し、02年にはデイサービスセンターを設置。また、06年には老人保健施設とグループホーム、認知症対応型デイサービスも開設した。彼は本書に、「地域住民の命を元気にさせ、命を輝かせるツールはほぼできあがりました」と記す。

◆予防医療の導入によって目指す「穏やかな最期」

松永氏が医師になったばかりの頃は、「穏やかな最期を迎えることは難しく、みんなが同じように病院で死んでいた時代」だったそうだ。

わたしが12歳、1984年に父ががんで亡くなる前は、痛みに苦しんで叫び続け、モルヒネだか痛み止めを使用。きれるか慣れて効かなくなるとまた叫んでいた。最期は、機器を見ると止まった心臓が再び動いたようだったが、臨終だといわれてすべてが終わった。母は疲弊しきり、火葬場では「後を追って死ぬ」と叫んだ。その瞬間も悲劇的だった。母は、その後、父は過労死だと口にしていた。症状は現れていたはずだが、耐え続けて病院に行くのが遅く、また当初の誤診もあった。

松永氏が医師になった1992年頃でも、そのような悲劇的な最期を迎えるような状況に大きな変化はなかったのだろう。ただし、そのような時代でも本書によれば、長野県では予防医療が進んでいたという。彼は、その後これを千倉に導入し、定期的な検査・看護師による生活支援・在宅医療を施すようになった。「体を動かす習慣をつけたり、社会活動に参加したりといった生活環境も重要」なので、「健康講座の開催や、地域の人が互いにつながる地域活動にも力を注いで」いる。(つづく)

◎地域医療の最先端モデルに学ぶ ──《書評》松永平太著『笑って、食べて、愛されて 南房総、在宅看取り奮闘記』
〈1〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=47434
〈2〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=47628

▼小林 蓮実(こばやし・はすみ)
1972年生まれ。フリーライター。現代用語の基礎知識』『週刊金曜日』『紙の爆弾』『NO NUKES voice(現・季節)』『情況』『現代の理論』『都市問題』『流砂』等に寄稿してきた。フリーランスの労働運動・女性運動を経て現在、資本主義後の農的暮らしを実現すべく、田畑の作業、森林の再生・保全活動、釣りなども手がける。地域活性に結びつくような活動を一部開始、起業も準備中。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年10月号

2023年9月11日は、アメリカでの同時多発テロ事件から22年。このテロを悪用してアメリカはアフガニスタン、ついでイラクを攻撃。アメリカこそ、核兵器は使わなかったものの、劣化ウラン弾やバンカーバスターなどを使用し、多くの罪のない市民も殺戮しました。そして、もうひとつ、忘れてはいけないのが50年前の1973年9月11日にチリで行ったアメリカ自身による「911テロ」です。

アメリカCIAの手先であったアウグスト・ピノチェト元被告人は、民主的に選ばれたチリのアジェンデ政権を打倒し、多数のアジェンデ支持派を虐殺しました。他方で、日本で言えば竹中平蔵さんや広島県の湯崎英彦知事・平川理恵教育長が進めているような「新自由主義」政治を世界に先駆けて1970年代から実践しました。銅山を除く多くの公営事業を民営化。一時的には「チリの奇跡」と言われたのですが、実際にはGDP成長率の平均値3.7%は、クーデター以前の平均値3.86%を下回ってしまいました。格差も拡大し、今は左派政権が後始末に追われています。

二つのテロの記念日に、筆者は、湯崎英彦知事の新自由主義と岸田総理の原発推進に抗議する行動を行いました。

◆社民党市議とコラボで暴走・湯崎英彦知事を批判

 

県立広島病院

この日の朝は、広島市南区の県立広島病院=県病院周辺で、湯崎県政を批判するチラシを配布。そうこうするうちに、社民党の有田優子市議が、定例の朝の街宣を電停前の空間で行うために見えられました。

有田市議は2023年4月の統一地方選挙の市議選で南区から立候補。湯崎英彦知事が強引に推進する県病院やJR病院、中電病院、舟入病院小児救急などを統合する新病院構想を厳しく批判し、社民党の基礎票を大きく上回る得票で当選されました。

9月8日(金)に湯崎知事が病院の基本構想を発表してから最初の週明けです。1300-1400億円かかかるというこの構想。先端医療や過疎地で働く医師の育成など、夢のような機能を持たせるという。

しかし、本当に湯崎知事が言う通り、新病院に過疎地で働くような若い医師が来るのでしょうか? 広島駅近くという都会を好むタイプの方が過疎地で働くというイメージはない。また、新病院は公立ではなく独法です。先端医療と言っても待遇が不安定化する中で腕の良い医師が来るのかどうか? また、築10年もたっていないJR病院を駐車場に変えるのももったいない。疑問は尽きません。

 

社民党の有田優子市議と筆者

有田市議は出勤途中の病院の医療労働者などに対して、「県病院の統廃合計画。意見を聞いた上で計画をつくるべき。今回も湯崎英彦知事が勝手に発表しているだけで何も本当は決まっていない。あきらめてはいけない。」と訴えました。

マイクを渡された筆者はこの日が、チリで起きた911クーデターから50年だと紹介。ピノチェトの新自由主義独裁政治の概要を説明した上で、

「知事の湯崎さんは、ピノチェトのような虐殺はしていないが、県民の言うことを全く聞かないという意味ではピノチェトとそっくりだ。その上で、ピノチェトが国民向けサービスをカットしたように、湯崎知事も農業ジーンバンクや県立高校をろくに住民の声も聴かずに潰した。ピノチェト同様、削ってはいけないコストを削り、ホーユーのような業者に給食を委託して大騒動になっている。」

「三原の産業廃棄物の問題でもすでに汚染水が出ているのに裁判所の判決や住民の声を無視し動かない。企業ベッタリだ。この地域では県病院の問題でも声を聴かずに暴走し、大変なことになりかねない。」

「わたしは東区民で県病院を潰してできる新病院は近いけど、歓迎はできない。東区は渋滞が常にひどく、救急車をさばききれるか不安だ。」

と湯崎知事の新自由主義政策を激しく批判し、定例県議会を前に湯崎知事へのチェックをするよう県民に呼びかけました。

◆伊方原発のある佐田岬半島の岩盤はひび割れだらけ

筆者はこの後、自転車で中区の広島地裁に移動し、伊方原発広島裁判の口頭弁論に原告として参加しました。

この日は構造地質学、岩石学、岩石年代学者の早坂康隆さんが原告側証人として証言しました。伊方原発のすぐ北側600mの海底にある中央構造線は危険な活断層であること。そして、伊方原発のある佐田岬半島は、岩盤がひび割れだらけの「ダメージゾーン」だと早坂さんは証言しました。四国電力は、「地震を起こすのは伊方原発8km北方の活断層」「伊方原発は岩盤の上にあるから安全だ」と主張してきたのですが、それを覆すものです。

要は、中央構造線自体が、1億年程度活動している日本を大きく分ける壮大なプレートの境界で、いわゆる中央構造線から南側の外帯はかなり南の海上に浮かんでいたそうです。そして、現在では中央構造線を境に伊予灘は沈降するハーフグラーベン構造をしているのですが、中央構造線の南側もそうした地殻変動の力を受けて岩盤が傷んでいるのです。

大浜寿美裁判長は、早坂さんや、早坂さんに質問した原告・被告双方の弁護士に対して細かく発言内容について確認をされていたのが印象的でした。

 

伊方原発広島裁判口頭弁論後の報告会

また、裁判終了後、弁護士会館で早坂さんが出席しての報告会がありました。早坂さんは40年前から伊方原発に関心を持って、伊方原発近くの中央構造線について研究をされておられます。山口地裁岩国支部での裁判にも証人として出廷経験があります。

広島大学で早坂さんは、50年前に提起された伊方原発1号機の許可取り消しを住民が求めた裁判で、裁判所命令での鑑定である越生鑑定書(裁判長交代でなかったことに)を補佐した小島先生の「三波川帯」についての最終講義に感銘を受けられたそうです。越生鑑定書はこんな岩盤がひび割れだらけの場所に伊方原発許可した国に怒りを向けていたそうです。つまり、40年以上前にすでに今回の早坂さんの法廷での証言と同趣旨のものが、裁判所に提出されていたのです。

早坂さんはその後、大学―大学院と古い時代の石の研究に熱中されたそうです。安佐北区では姶良カルデラの火山灰を発見したそうです。花粉分析で天気や季節も分かったそうです。細かいことがわかるのがこの分野の研究の面白さということです。「裁判を闘っている人には失礼だが楽しんで研究」されているそうです。

次回は10月4日(水) 13時半から原告本人尋問です。

 

9月5日から閉鎖中の裁判所の食堂

◆裁判所の食堂も「ホーユー」でした

この日は、裁判所の食堂で昼食にしようと思ったのですが、写真の通り、9月5日から閉鎖中でした。

経営破綻したホーユーがこの裁判所の食堂も運営していたためです。労働者にろくに連絡していないこの会社は大問題です。ですが、他方で、経営が成り立つはずもない価格で県は県内の多くの高校の食堂や議会の食堂を委託していたのです。一定の価格を下回っても失格にするような制度にしていなかった。そんなネオリベ県政に改めて怒りを覚えました。

◆昼休み時間帯に岸田総理の事務所に申し入れ

裁判が昼休みの時間帯、筆者は友人二人とともに、岸田文雄衆院議員事務所に「フクシマ処理汚染水の海洋放出の中止および上関中間貯蔵施設建設を含む原子力政策の抜本的転換を求める要望書」を提出しました。女性スタッフが一人で事務所番をされていたので、あまり突っ込んだやり取りにはなりませんでした。それでも、この日は福山市で市民運動の仲間が処理汚染水放出反対の街宣を実施。また、「韓日市民行進」の皆様が国会前に到着し、請願行動をされました。9月11日という同じ日に、東京と広島、同時多発で総理の核政策に抗議の声を上げることができました。

 2023年9月11日 

衆議院議員 岸田文雄様

衆議院広島県第1区 有権者有志
連絡先 佐藤 周一 
hiroseto2004@yahoo.co.jp
090-3171-4437

フクシマ処理汚染水の海洋放出の中止および
上関中間貯蔵施設建設を含む原子力政策の抜本的転換を求める要望書

内閣総理大臣としての貴職と東京電力は2023年8月24日から東電福島第一原発におけるALPS処理水(処理汚染水)の放出を開始しました。貴職はご自身の政治活動用ポスターで「地域の声で新たな日本へ」で選挙区である広島1区の有権者に呼びかけられています。

しかしながら、福島の漁業者の皆様も納得していない中で福島原発からの処理汚染水を放出した結果、9月8日には差止め裁判が起こされています。「地域の声」を活かすというなら、処理汚染水の海洋放出は中止してください。

そもそも、核燃料に直接触れた水を放出しているのは世界広し、といえども日本だけです。トリチウムだけでなく半減期が100年にも及ぶような他の核種もあり、「ただちには影響」がないにせよ、処理汚染水の放出が長期に渡れば食物連鎖による濃縮は十分に考えられます。

そして、今回の放出には中国だけでなく、マーシャル諸島など過去に大国の核実験で被害を受けた太平洋の島国の議会からも反対の声が上がっています。被爆地、それも爆心地である広島1区を選挙区とする総理が核実験による被爆経験がある国の意見を無下にして良いのでしょうか?

処理汚染水については、モルタル固化や本格的な大型タンクでの保管などの手段を議論しなおしてください。

また、廃炉の在り方も現行のデブリを取り出す方針の是非も含めて議論しなおしてください。

なお、一部中国人によるとみられる過剰な抗議活動は問題ですが、過剰反応しても問題解決にはなりません。威力業務妨害罪などで捜査すべきは捜査するとして、日本は自分自身の課題解決を冷静に考えていくべきです。

また、上関町では、中国電力と関西電力が共同で核のゴミの中間貯蔵施設の調査を8月2日に表明し、上関町長は議会の議決もなしに調査を受け入れました。しかし、周辺自治体の首長からは懸念の声が上がっています。現在、核のゴミの最終処理のやり方も決まっておらず、中間貯蔵は最終貯蔵になりかねません。また、輸送にともなう事故のリスクは上関町だけにとどまらず広島県内も含む周辺自治体に及びます。核物質を拡散することがそもそもリスクです。

そもそも、貴職が制定した自称・GX法により、関西電力が高浜原発など老朽原発を再稼働したことにより、核のゴミが増える見通しとなったことが、自称・中間貯蔵施設計画の背景にあります。そもそも、原発も温排水などの問題があり、本当のGXにはなりません。

貴職におかれては自称・GX法を撤回するとともに、再生可能エネルギー、スマートグリッド、蓄電池など、真のGXへ方向をすべきです。

また、国が国策として原発を推進してきた以上、問題解決を小さな自治体と電力会社に任せずに、国が責任を持つべきです。

よって、以下、要望します。

要望事項

1、東京電力福島第一原発の処理汚染水の海洋放出を中止してください。
2、汚染水を発生させてしまう現状の廃炉方針を根本から見直してください。見直しの期間に発生する汚染水については大型タンクなどで保管し、放出を避けてください。
3、海や魚の放射性物質による汚染状況については、長期にわたりお手盛りでない方法で調査し、公表してください。
4、中国の禁輸に伴う十分な補償を福島だけなく北海道など全国の漁業者に行ってください。
5、核のゴミを増やす自称「GX法」による原発推進政策を撤回してください。
原発は推進した国が責任をもって廃炉し、再生可能エネルギー、蓄電池、スマートグリッドに国として重点を置いてください。
6、広島から82kmしかない上関町への関西電力・中国電力による核のゴミの「中間貯蔵施設」については、上関町だけでなく、影響を受ける地域の住民・首長の声を聴いて対応してください。
7、一部中国人による過剰な抗議活動によるとみられる過剰反応せず、日本自身の課題解決を優先してください。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年10月号

30%を切る支持率、40%をこえる不支持という凋落の中、岸田文雄総理が第三次の内閣改造を行なった。改造による支持率回復をテコに、秋の総選挙を展望し、その「勝利」をもって、来年の自民党総裁選挙を単独再任で乗り切るのが政権の戦略である。

さてその改造内閣だが、女性5人を入れる「変化」を目玉にしているが、右派議員の就任が目立つ。いま失っている岩盤保守層の支持回復がその狙いであるのは言うまでもない。その目玉が木原稔の防衛大臣起用、高市早苗の留任である。とりわけ木原は右派中の右派ともいえる、再軍備論者・改憲論者である。その過去の言動をお伝えしよう。

◆木原稔という政治家

いよいよこの男が防衛大臣になった、と危機感を持っていうべきであろう。15年の安保戦争法を安倍政権下(首相補佐官)で推進し、メディア統制を提唱してきた木原稔である。

まずは過去の言動から紹介していこう。自民党青年局長時代の2015年6月、木原は文化芸術懇話会なる団体を立ち上げ、党内の右派系議員を結集したのだが、講師に呼んだのが百田直樹だった。

百田尚樹は、集団的自衛権の行使容認に賛成の立場を表明し、政府の対応について「国民に対するアピールが下手だ。気持ちにいかに訴えるかが大事だ」と指摘した。「日本を貶める目的をもって書いているとしか思えないような記事が多い」と持論を展開した。


◎[参考動画]内閣改造で熊本1区選出の木原 稔衆議院議員を防衛相に起用 (TKU official 2023/09/13 19:00)

◆青年局長更迭

これを受けた参加者の発言には、愕くべきものがあった。

大西英男衆院議員(東京16区)「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番。政治家には言えないことで、安倍晋三首相も言えないことだが、不買運動じゃないが、日本を過つ企業に広告料を支払うなんてとんでもないと、経団連などに働きかけしてほしい」

井上貴博衆院議員(福岡1区)「福岡の青年会議所理事長の時、マスコミをたたいたことがある。日本全体でやらなきゃいけないことだが、スポンサーにならないことが一番(マスコミは)こたえることが分かった」

長尾敬衆院議員(比例近畿)「沖縄の特殊なメディア構造をつくったのは戦後保守の堕落だ。先生なら沖縄のゆがんだ世論を正しい方向に持っていくために、どのようなアクションを起こすか。左翼勢力に完全に乗っ取られている」

主催者の木原稔は会合後、記者団に「党所属国会議員として、党や政府が進めようとしていることを後押しするのは当然だ」と強調したが、この会合は「自民党を後ろから撃つもの」として青年局長を更迭されたのだった。

高市早苗の総務相時代のメディア統制発言と双璧の、広告によるメディアの締め上げ戦略である。

菅義偉元総理の学術会議任命権発言も同様だが、政権に批判的なメディア・研究者の存在こそが、政権の政策をより優れたものにする担保なのである。木原をはじめとする右派政治家たちは、自分がロシアや中国の専制体制を是とする立場になっていることに気づいていないのだ。

◆明文改憲への戦略

木原は2018年1月に櫻井よしこ氏が理事長を務めるシンクタンク「国家基本問題研究所」が開催した月例研究会では、憲法改正への戦略を語っている。これは安倍政権の解釈改憲を、さらに明文改憲へ煽るものと言えよう。

「私の理想は2012年の自民党改憲草案、二項を削除する改憲案だ」

「安倍総理が、二項を残すという決断をされました。それは、いろいろなことを慮ってのことです。選挙は勝たなければいけません。国民投票も勝たないと意味がない。改正もされない」

「もし、憲法改正は一回しかできないという法律なら、二項削除で戦うしかないと思っています。しかし、憲法改正は何回でもできる。一度、改正に成功したら、国民のハードルはグッと下がると思います。そして、一回目の改正を成功させたあとに、二回目の改正、三回目の改正と、積み重ねていけばいいと思っています。最終的には前文も当然、改正しなければいけない」

憲法9条を尊重できない人物に、その9条が最も表象する自衛隊の文官トップ・防衛相が、務まるはずがないではないか。

◆沖縄でのデマ

木原はまた、デマゴーグでもある。

2015年6月に行われた沖縄全戦没者追悼式で首相の安倍晋三に怒号が浴びせられたことについて、木原はこう述べている。

「主催者は沖縄県である」

「たくさんの式典や集会を見ているから分かるが、明らかに動員されていた」

「そういったことが式典の異様な雰囲気になった原因ではないか」

などと、やじを飛ばしたのは県の動員による参列者であると断言したのだ。

主催した県は「動員などはあり得ない」。主催者の一人である県議会議長の喜納昌春は「いくら何でもひどすぎる。ゆゆしき発言で、悲しくなる」「自民党に沖縄のことを何も知らない議員がいることが問題。末期的だ」と木原を批判した。

◆統一教会との関係

木原と統一教会の関係も疑惑が多い。

2012年の衆院選の際に提出された選挙運動費用収支報告書に、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の関連団体「世界平和連合」から10万円の寄付を受けたことが記載されていたのだ。

2018年には、統一教会の関連団体「天宙平和連合(UPF)」が主催する自転車イベント「ピースロード」の実行委員に就任。以後、2021年まで実行委員を務めている。

2019年1月26日には、木原は統一教会熊本教区長の永井義行、日韓トンネル推進熊本県民会議の事務局長の佐藤民雄とともに駐福岡大韓民国総領事館を訪問。孫鍾植総領事と、韓国九州の交流増進案について話し合いをしている。

まるで実現性がなく、単に統一教会への資金カンパの口実にすぎない日韓トンネルの推進者と同席すること自体に、政治的なセンスのなさを露呈したのだ。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年10月号

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世界の原発は、スイスのベツナウ原発が53年運転しているなど、長期間運転は普通だといった認識が原子力関係者にはあるらしい。確かに米国には原子力規制委員会が最長80年まで運転できる許可を出している原発がある。

しかし実際に60年以上も運転している原発は存在しない。80年の許可を得ているのに経済性がないなどで早期廃炉になった原発もある。

日本の原発は、当初は輸入品だった。米国から「ターンキー方式」で導入された原発が福島第一原発であり、1号機から3号機まで連続してメルトダウンを起こしたのは偶然ではない。

加えて、今から40年以上も前に建設された原発は、今では使用できない可燃性のケーブルが使われていたり、地震想定などが極めて甘かったり、圧力容器や格納容器やコンクリート材の材質が悪いなど、安全性に重大な問題がある原発ばかりである。

これをさらに長期運転するとしたら、安全性はどうやって確保するのか。その責任を負うのが規制委だ。しかし、原子炉等規制法に定める運転期間を超える運転を経産省が許可しても、規制委が厳しく審査するというのだが、信じることはできない。

新たな規制方針は30年目に高経年化評価を行い、その後は10年ごとに稼働できるかどうか審査するとしている。しかしこの方法は震災以前に行っていた高経年化評価と同様のサイクルである。内容はいまだ分からないが、今の20年延長運転許可でさえ、可燃性ケーブルのままだったり地震・津波・火山対策の評価が甘いなどの問題がある。これが抜本的に変わるなどは、今の規制委の姿勢では考えられない。

一方、運転期間の延長に際し、諸外国では運転期間の制限を設けていないと主張する人には、では日本ほど地震や津波の脅威がある原発が世界にどれだけあるのかと問いたい。また、日本の原発はすべて海に面して建てられており、海沿いの原発では常に塩分の影響を強く受けているので、劣化も早い。一度海水が炉心まで浸入すれば使用不能になる。

日本以外でも海岸立地の原発はあるが、加えて地震の影響を受けている原発はほとんどない(台湾くらい)。

原発から30キロ圏内に90万人を超える人々が住んでいる原発もない。さらに日本海側の場合、豪雪の影響も受ける。これは避難路を断ち、外部電源系統を遮断し、救援も阻むリスクがあるが、これらがすべて重なっている原発は日本以外には存在しないのである。

このような現状に対し、規制委は60年超の規制緩和について予め反対しないことを決めていた。

原子炉等規制法には明確に40年+20年を原則として明記されているにもかかわらず、それを超える期間運転することを認める経産省の方針を、利活用を決めるのは規制委ではなく経産省であるとして、規制委は関与しないとしているのだ。

安全神話により原発震災を引き起こしたことを反省して運転期間を最長でも60年に制限することで老朽原発の持つリスクを減らそうとしたにもかかわらず、これが規制ではなく利活用方針の変更であると勝手に決めて更なる延長を認めること自体が規制側の責任放棄だ。

現在でも規制委が「規制の虜[注]」(国会事故調委)となり、機能不全に陥っているのに、さらに運転期間を延長することを認めてしまうのだから、その姿勢は厳しく批判されなければならない。(つづく)

[注]「規制の虜」とは、規制当局の側よりも規制される側が専門知識や情報を有していることで、規制側が事業者の言いなりになり、規制そのものが機能しなくなることを指す。それを排するためには、規制側にも高い知識と能力が求められるが、20年運転延長問題の時にも審査書及びそれに至る審査会合で事業者の主張がまかり通るケースをしばしば見てきた。

本稿は『季節』2023年春号(2023年3月11日発売号)掲載の「『原発政策大転換』の本命 60年超えの運転延長は認められない」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◎山崎久隆「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない
〈1〉唐突に原発推進が目玉政策に
〈2〉原発の運転延長の狙うものはなにか
〈3〉規制委も「規制の虜」に

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ── 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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河井案里さんが当選無効となり、筆者もその再選挙に立候補した参院選広島2019を舞台とした河井夫妻による大買収事件。中国新聞の9月8日付けの報道によると、黒幕はやっぱりこの方でした。そう、故・安倍晋三さんです。

2023年9月8日付け中国新聞

◆「安倍さんから」はリップサービスではなかった!

9月8日、中国新聞が河井克行受刑者の「総理2800、すがっち500、幹事長3300、甘利100」というメモを2020年1月に検察が押収していたことを報道しました。安倍晋三さんら当時の自民党幹部が現金を河井夫妻側に提供していた、ということです。

買収資金の出どころは、政党交付金を原資とする河井案里さん陣営への1.5億円の振り込みなのかどうか、ということも論議を呼びました。しかし、その1.5億円ではなく、現金を政府・自民党幹部からもらった上で、それを買収資金に充てていたことが明らかになったのです。

筆者の知り合いにも「安倍さんから」と言われてお金をもらってしまった議員(その後辞職し、不起訴)もいます。その「安倍さんから」というのはリップサービスではなかったことの傍証に、このメモはなります。

おさらいしますと、参院選広島2019では、改選数2の自民党現職の溝手顕正さん、野党系現職(立憲、国民、社民推薦)の森本しんじさんに対し、自民党が執行部主導で元県議の河井案里さんを擁立しました。案里さんは元々、ご本人も国政への野望は強く、県議としての選挙区であった安佐南区以外でもよく筆者(参院議員か知事を念頭に政治活動をしている)とイベントなどで鉢合わせしました。そのことにも便乗して安倍晋三さんが、個人的なうらみのある溝手さんを落としにかかったというのが地元での大方の見方でした。従って、安倍さんらがお金を克行受刑者に渡したことは全く不思議ではありません。

安倍さんの狙い通り、案里さんが当選し、溝手さんが落選。しかし、ご承知の通り、案里さんは夫の克行受刑者とともに逮捕、有罪となり、当選無効になったわけです。

◆安倍晋三さん暗殺でやっと出てきた?

しかし、なぜ、今頃になって、そんなメモがあったことが明らかになったのでしょうか?もちろん、中国新聞記者の金権腐敗打破へ向けた粘り強い努力があったのは事実です。

しかし、一方で、「安倍晋三さんが亡くなった今だから出せた。」のではないかという疑念がぬぐえないのです。家宅捜索があった2020年1月はまだ安倍晋三さんが現役の総理でした。そして、案里さんが猶予付き有罪判決を2021年1月に受けそれを受け入れて翌月当選無効になった時も、2021年6月に克行受刑者に地裁で実刑判決が出た段階では前総理とは言え、まだ隠然たる影響力を党内で持っていました。

当時は、安倍晋三さんへの忖度が検察にも働いていたのではないか?検察は、安倍晋三さんをお金の原資提供の容疑で調べるべきだったのにしなかったのです。

そして、むしろ、当初は不起訴となったお金を受け取った地方議員らの起訴へエネルギーを割くことになります。2022年1月28日に多くの議員が検察審査会(不起訴処分を不満とする多くの市民の申し立てを受けて)により「起訴相当」になります。この時点でも安倍さんはまだご存命で、もちろん、絶大な影響力をお持ちでした。

◆不自然だった河井夫妻の「潔さ」

もうひとつ、疑問点がありました。河井夫妻が意外とあっさり議員を辞めたことです。2021年初の時点では、正直、案里さんも、克行受刑者も、たとえ地裁で有罪になっても、控訴して、それこそ、最高裁で有罪が確定するまで議員でいて給料をもらい続けるのではないか?という予測が当時は強かったのです。ところが、あっさりと、両者は判決を受け入れたのです。

これは、裁判が長引けば、上記のメモに書かれていたような安倍晋三さんに都合が悪い「余計なこと」を案里さんや克行受刑者もしゃべってしまうリスクがあったからではないのか?

そこで、安倍晋三さんの影響力が強かった自民党中央サイドから「いい加減にしとけよ」という圧力が河井夫妻にあった可能性は否定できません。夫妻の不自然な「潔さ」はその傍証です。

◆検察の忖度が安倍さんの命を奪う皮肉な結果

しかしながら、安倍晋三さんが亡くなられた今となっては、検証は難しくなってしまいました。検察は、2020年1月当時、名前がメモに上がった安倍さんらから事情を聴くことはしませんでした。なぜ、安倍さんの生前に、安倍さんを追及しなかったのでしょうか?イスラエルと比較しても日本の検察の異常さは明らかです。

イスラエルでは、安倍晋三さん同様に政治を私物化していたネタニヤフ被告人が現職総理のまま起訴されています。妻のサラ元受刑者も安倍昭恵さんと似たことをしていましたが、有罪になり、罰金を払っています。

なお、ネタニヤフ被告人はいったん、野党共闘に打倒されましたが、政権を奪還後、イスラエルの司法を、日本のように行政に忖度するようなものに改革しようとしています。日本の司法が悪いお手本になっています。

それはそれとして、日本では憲法上、国務大臣の訴追は総理の同意なしには無理です。安倍さんが自分の起訴に同意することはあり得ませんが、起訴する構えを見せるべきだったのではないか?あるいはひょっとしたら、さすがの日本国民も怒りが爆発し、安倍さんは総理退陣に追い込まれ、退陣後に検察は安倍さんを逮捕できたかもしれません。いずれにせよ悔やまれます。

正直、安倍さんが国葬なんてされる対象ではなかったことがさらに明らかになったでしょう。いや、そもそも、むろん、検察が本気を出して安倍さんを逮捕していれば、山上被告人に暗殺されることもなかったでしょう。安倍さんは刑務所の中の可能性もあるし、出所していても選挙の応援演説なんて誰も頼まないでしょう。

今回の安倍さんが黒幕だったという趣旨の報道を受けて、お金を克行受刑者にもらって辞職した元議員は「悪いことばかりして結局天罰が下ったのではないか?」と吐き捨てました。

◆検察の「暴走」と「不作為」

既報の通り、検察は対地方議員ではこの事件で暴走しました。

当初、検察は、「先生を起訴することはないから」と議員に対して「お金のわいろ性を認める」供述を誘導したのです。また、克行受刑者の裁判に当該議員が証人として出廷するときも、検察に都合のよい証言するよう、口裏合わせをしていたのです。

しかし、お金をもらった側が不起訴になったことに、当然、市民の不満が高まり、検察審査会に申し立てが行われ、起訴相当の議決が出ます。検察もそれを受けて議員を起訴したわけですが、議員は議員で怒るのも当然です。

もちろん、信念があるなら、克行受刑者を起訴するための検察の捜査の段階で、わいろ性を否定する答弁をしておくべきだったということは言えます。自分だけ助かって、克行受刑者を陥れることに検察と共謀したという批判ももちろんあります。こうした議員たちの行動はお金をもらったことも含めて決して褒められたものではありません。だが、検察のやり方は強引でした。

また、当初からわいろ性を認めなかった議員に対しては、お金を政治資金収支報告書に載せないように求めた。そして、そのことを今度はやり玉に挙げて「政治資金収支報告書に載せてないからわいろの認識があった」と主張する。そんなだまし討ちを検察はしています。そして、裁判所も検察の言うことうのみです。

起訴されて、地裁では有罪判決を受け、高裁に上告中のある現職議員は筆者に対して「検察の前では人権がないことがよく分かった。」と憤慨していました。

一方で、当時の安倍総理に対しては忖度していたのです。暴走と不作為。これが検察の問題です。

◆暴走する岸田総理や県知事・市長を救う効果も

さらにうがった見方をすれば、今頃になってこんな情報が出てきたことは、安倍さんが悪であることを今頃になって印象付けて、岸田総理を相対的に持ち上げる、政治的な効果もあるのです。岸田総理がマイナンバーカード問題なども含めてピンチだからこそ、「安倍さんは悪だった」ということで目をそらすことができます。

もうひとつは、今回の事件で起訴された市議や県議の多くが、市議会では松井一実市長、県議会では湯崎英彦知事に批判的な保守系の議員が多かったことです。広島では新自由主義で暴走する市長や知事に対して、立憲民主党の方がべったりの地方議員ばかりです。そして、自民党・保守系の方がむしろ中には批判的な議員もそれなりにおられるという皮肉な状況があります。

例えば中央図書館の強引な移転には、共産党と並んで保守でも克行受刑者からお金をもらった議員が反対している場合が多かったのです。そうした中で、市長や知事に批判的な人が打撃を受けたことで、市長や知事の暴走が加速している感があります。もし、事件がなければ、共産党+一部の保守という構図で暴走を止められた課題もあったかもしれない。しかし、共産党もお金をもらった人とは絶対に組めません。結果として市長や知事の思い通りの展開になります。

いずれにせよ、検察の動きは、結局、総理、知事、市長という時の権力者のためになっている。そのことが、河井事件で改めて見えてきたことではないでしょうか?

袴田事件でも明らかになった検察や司法の在り方の問題。改革は一朝一夕にはいきません。しかし、常に疑いの目を向けていく。このことが大事ではないでしょうか?

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年10月号

目玉政策の「原発の運転延長」とは、どのような仕掛けだろうか。それは2022年12月23日付けの原子力関係閣僚会議作成「今後の原子力政策の方向性と行動指針」に記載されている内容で分かる。

まず、「運転期間の延長など既設原発の最大限活用」として、以下の項目が設定されている。

「運転期間の取扱いに関する仕組みの整備」 「立地地域等における不安の声や、東電福島第一原発事故を踏まえて導入された現行制度との連続性、技術的な新陳代謝の確保等にも配慮して、現段階における仕組みとしては、引き続き運転期間に上限を設けることとする」とし40年規制が生きているかの印象を与えている。

これは、原子炉等規制法改正時に20年の延長申請ができる規定を設けた際に、例外的として延長を認めながら、美浜3、高浜1・2、東海第2の延長を次々に許可してきた規制委の現状を見れば形骸化することは明らかだ。

この結果、既存の原発はすべて60年超運転を行おうとする。延長の条件としてあげているのは、「電力の安定供給の選択肢確保への貢献、電源の脱炭素化によるGX推進への貢献、安全マネジメントや防災対策の不断の改善に向けた組織運営体制の構築」だという。

前の2つは、そもそも原発政策の大転換をもたらした所与の条件である。これらの事情がなくなったと認めるときには期間延長を止めるのかというと、そんなことはありえない。一度決めてしまえば、ずっと延長を認めることになるから、条件ではなく延長する理由を書いているにすぎない。

「延長を認める運転期間については、20年を目安とした上で、以下の事由による運転停止期間についてはカウントに含めないこととする」との記載こそが延長期間の定義だが、あまりにもあいまいで、どうとでも導き出せてしまう。

具体的に指摘する。

その1「東日本大震災発生後の法制度(安全規制等)の変更に伴って生じた運転停止期間(事情変更後の審査・準備期間を含む)」について

原子炉等規制法の改正法は2012年9月19日に、条文の多くが施行されているが、特定重大事故等対処施設(特重)については5年間の猶予が設けられていて、その間に短期間再稼働した原発もある。

では基準日は2017年9月以降を指すのか、判然としない。震災で止まったものはその日だとしたら、制度改正までの空白期間はどう考えるのか。

計算可能な最大期間を取れば東海第2が震災で止まって以降動いていないので2011年3月11日を基準日とすると、仮に2024年9月に再稼働をした場合13年6月を加算して実に73年6月も稼働することができるということになる。

その2「東日本大震災発生後の行政命令・勧告・行政指導等に伴って生じた運転停止期間(事業者の不適切な行為によるものを除く)」について

事業者の不適切な行為以外で、行政機関が「運転停止」を命じたり、指示したりするなどあり得ないし、できない。法律の根拠もなく、そのようなことをしたら訴訟になるだろう。

これまでの経過で考えられるのは浜岡原発が民主党政権時代に菅直人首相の要請で停止したことくらいだが、これもその後、炉規法改正によって止まっているのだから、わざわざこんな規定を設ける理由がない。これは意味がわからない規定だ。

その3「東日本大震災発生後の裁判所による仮処分命令等その他事業者が予見しがたい事由に伴って生じた運転停止期間(上級審等で是正されたものに限る)」について

脱原発を目指す訴訟による差止(本訴では勝訴しない限り止められないし、それで止めた例はないが、仮処分の場合は即時止めることができる)への対抗手段として出てきたものだ。しかし上級審で覆されたとしても、いったんは司法の場で差止の判断が成されたことを、遡って事実上訴訟の効力がなかったことにしようとするものであり、三権分立の司法権への侵害で違憲だ。(つづく)

本稿は『季節』2023年春号(2023年3月11日発売号)掲載の「『原発政策大転換』の本命 60年超えの運転延長は認められない」を本通信用に再編集した全4回の連載記事です。

◎山崎久隆「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない
〈1〉唐突に原発推進が目玉政策に
〈2〉原発の運転延長の狙うものはなにか

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像 ── 原子力の平和利用と軍事利用をめぐる戦後史』(共著/木村朗、高橋博子編/明石書店 2015年)等多数。

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〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年秋号

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

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岸田政権にはまったく理性がありません。原発の四十年越え運転のみならず、60年越え運転まで認めてしまいました。岸田最悪政権によるとんでもない判断により、日本で再び原発事故が発生する可能性は、さらに増してしまいました。

 

『季節』2023年秋号

福島第一原発事故被害者の厳しい現実(生活破壊・甲状腺がんなどの健康被害)を、この国の政府やマスコミは全力で隠蔽しようと血道を上げています。東京五輪開催やリニアモーターカーの建設、そして軍事費の倍増が、被災地の復興と関係があるでしょうか。まるで原発事故などなかったかのように、政権やマスコミは虚飾にまみれた日常を演出しています。意図的に原発事故の忘却を進めようとする連中の行為は、原発事故を引き起こした人間たちの責任と同様に極めて重大です。そしてあろうことか岸田最悪政権は「福島第一原発汚染水」(「処理水」と国やメディアは報じますが欺瞞です。「汚染水」であることに間違いありません)の海へ垂れ流し(海洋放出)を8月24日に国内外の圧倒的反対を無視して開始する暴挙に出ました。

個人の興味や趣向は様々で人間は多彩です。しかし、原発事故による被害はどんな人であろうと平等に襲いかかります。本誌をご覧の皆さんには当然の道理かもしれませんが、日本に住む多くの人は「原発事故が起きれば国家を失う一歩手前であった」2011年3月11日の経験を忘れさせられています。

今号では特集で、元京都大学原子炉実験所助教小出裕章さんと元福井地裁裁判長樋口英明さんに「原発問題の本質を論じる」対談をお願いしました。今日誰一人の例外なく、わたしたちが直面させられている「原発」や「戦争」の危機についてお二人には5時間以上にわたり対談していただきました。予定調和の対談ではありません。危機の時代にあって個人がどう考え、どう行動すべきか、への示唆がふんだんに盛り込まれた対談は必読です。

そして、読者の皆様に編集部からのお願いです。本誌は発刊以来、今日まで多くの皆様に支えられ発刊を続けておりますが、決定的な弱点があります。それは読者数が増加しないという現実です。これにはもちろんわれわれの努力不足もありますが、読者の皆様にもお力添えをいただけないでしょうか。まず本誌のご愛読者には一名で結構ですのでご友人かお知合に本誌の購読をお勧めいただきたくお願い申し上げます。あるいはご近所の図書館に、本誌の定期購読をお申込みいただくことも、読者増のためにはとても有益です。

自然の季節は移ろいますが、原発を巡る季節は好ましからざる停滞を強いられています。わたしたちはすべての原発廃炉が実現する日まで『季節』を発刊し続ける所存です。皆様のお力添えを重ねてお願いいたします。

2023年9月 季節編集委員会

〈原発なき社会〉を求めて集う
不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2023年秋号

通巻『NO NUKES voice』Vol.37
紙の爆弾2023年10月増刊
2023年9月11日発行
770円(本体700円)

《グラビア》真の文明は、海を荒らさず ── 福島の漁師と船上の民俗学者
「おれたちの伝承館」

《コラム》川島秀一(民俗学者)
海を回るもの 循環と放棄の違い

《インタビュー》小野春雄(福島県・新地町漁師)
海はつながっている。だから福島の漁師だけじゃなく、
全国の人たちが、人間として反対の声を上げてほしい

《対談》樋口英明(元福井地裁裁判長)×小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
原発問題の本質を論じる
原発と戦争をなぜ止められないのか

《インタビュー》木幡ますみ(福島県・大熊町議)
転居八回当選二回
この十二年間でどれだけ暮らしが変わったか

《報告》尾崎美代子(西成「集い処はな」店主)
「おれたちの伝承館」ができるまで

《講演》コリン・コバヤシ(ジャーナリスト)
福島12年後 ── 原発大回帰に抗して【後編】
最新フランス原子力事情と日仏の原発回帰

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
原発事故は国の責任です
最高裁判所の判例変更を成し遂げるために

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
老朽化原発の安全確保の理屈が成り立たない理由

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
汚染水海洋放出(投棄)と反対運動 
 
《報告》原田弘三(翻訳者)
グレタ・トゥーンベリさんへの手紙

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
電気自動車(EV)は原発で走る

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
ジャニーズよ 永遠なれ

《報告》佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
「不沈空母」タエタニップ号の沈没
~ヤマんト魂一本槍で沈没に突き進む米国隷属「会社主義」国家ニッポン

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子が語る世界〈21〉
文化に人権の香りがない国・日本

再稼働阻止全国ネットワーク
汚染水を海へ捨てるな!
原発再稼働反対! 福島第一原発大惨事忘れない
《女川原発》舘脇章宏(「ストップ!女川原発再稼働」意見広告の会)
女川原発再稼働に反対する意見広告=紙面デモにご協力を!
《福島》黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
知っていますか? 汚染水は減っています!
《反原発自治体》結柴誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
「福島を忘れない」取り組みを再開! 原発推進法の実施許さない闘いを!
反原発自治体議員・市民連盟第一三回総会で闘う方針を決定
《常陽》渡辺寿子(元・核開発に反対する会)
高速実験炉「常陽」運転再開の意味するもの
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
11・18首都圏大集会に向けて
《汚染水》柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
東電本店合同抗議行動「汚染水の海へ投棄反対」で盛り上がる!
トリチウムなどを含む「処理水」は「陸上保管が望ましい」……経産省高官発言
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「老朽原発うごかすな!」 闘いの報告と今後の闘い
岸田政権は「原発依存社会」に向かって暴走
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
島崎邦彦の責任を糾弾する
~原子力規制委員会地震学者初代委員長代理が今の日本をもたらした!
《読書案内》天野惠一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
今田高俊・寿楽浩太・中澤高師『核のゴミをどうするか もう一つの原発問題』

反原発川柳(乱鬼龍 選)

書=龍一郎

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年秋号

龍一郎揮毫

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公開前より噂が広がっていた森達也監督『福田村事件』の試聴版をようやく観た。当時の朝鮮人関連の事実を扱っていることやキャストの一部などは知っていたが、人物のストーリーが豊かにふくらみ、それによって事件自体のシーンからは大きな衝撃を受ける。ぜひ、ご覧いただきたいので、書評のさなかではあるが、本作に触れたい。※(ネタバレあり)

◆6000余名の朝鮮人の命を奪った関東大震災の大虐殺

わたしは『紙の爆弾』2017年11月号に、「『追悼文見送り』でも隠せない 関東大震災 朝鮮人虐殺の〝真実〟」と題し、「6000余名にのぼる朝鮮人が尊い生命を奪われた」こと、その背景、暴徒化した自警団、国家にも民衆にも責任があることなどを伝えた。

しかし現在も、このような〝真実〟を認めようとしない言説が多くある。先日も、日本統治下によい印象をもつ韓国の高齢者の発言とされるものがインターネット上のショート動画などで拡散され、大きな問題を受け入れない人々が多くいることに愕然とした。

虐殺の背景には、併合前後に朝鮮各地で起こった暴動、伊藤博文の射殺、困窮して日本国内に流入した朝鮮人に対する過重労働や差別、戦後恐慌、労働・小作争議、社会主義・共産主義運動、三・一独立運動、警察機関や朝鮮総督府の爆破がある。そして、政府や警察による、朝鮮人や社会主義・共産主義者や労働者の団結への警戒があった。いっぽうで、在日朝鮮人は、1911年に2,500人だったのが、23年には8?9万人に達していたようだ。

そのような折、23年9月1日に関東大震災が起こり、「朝鮮人と、彼らと連帯する活動家が放火をした」という噂が流れる。その後、強盗、強姦、殺人、井戸への劇薬の投入、爆弾を持参しての襲来と内容を拡大させていったのだ。そこに自警団が続々と登場し、3,600人超にまでふくれあがった。

©『福田村事件』プロジェクト2023

◆偏見と罪悪感を抱き、天皇制と軍国主義を刷り込まれた人々

デマの元凶として、横浜市や東京の亀戸町(現・江東区)などの地域、軍閥・富豪・警視庁の策謀など、説はさまざま。ただし、内務省は朝鮮人が暴動を起こしたので取り締まれと、各道府県知事宛てに電文を送り、自警団結成を命じる通牒(つうちょう)を送っている。事件後も、国家・軍隊・警察の責任が認められたことはないが、政府はねつ造された暴動の話を集めさせながら、同化政策の差し障りを欧米に知られないために朝鮮人に危害を加えることを控えさせようともした。

また、戒厳令を敷くために、造言を放ったという説もある。朝鮮総督府の政務総監だった水野錬太郎と、内務局長や警察局長を務めた赤池濃は、独立運動を弾圧していたが、彼らが内務省の内部部局で警察部門を所管した警保局長の後藤文夫に戒厳令の施行を進言し、それが2日夕刻に施行されているのだ。作家の吉村昭は、日本人のある種の罪悪感を、虐殺の背景として記す。

朝鮮人に対する偏見と罪悪感、それに加え、官憲などが流した情報は天皇制国家と軍国主義を刷り込まれた人々に信憑性があるものとして受けとめられた。

◆クライマックスにいたるまでの物語と、史実の痛切さ

ここで本作『福田村事件』の話に戻る。まず個人的には千葉県出身・在住者として野田や流山の地名の登場に親しみを感じたものの、農家役の方の農作業の様子を注視し、方言に聞き入ってしまった。地域差はあるだろうと自らに言い聞かせながら先を追っていくと、「不逞鮮人」「ちゃんころ(漢民族)」「穢多」といった俗語や蔑称、差別語が繰り返し発せられていく。そして、「万歳運動(おそらく三・一運動)」にも触れる。

いっぽうでは元軍人をからかう言葉として「軍隊の銀シャリが忘れられませんか」などと口にする登場人物もいる。

本作にはさまざまな人物が登場するが、主人公の夫妻などのほかに、讃岐(香川県)から千葉を訪れた薬売りの一行も比較的、詳細に描かれる。それぞれの人生を垣間見ているうち、関東大震災が起こるのだ。そして作品では、「朝鮮人が火をつけた」「毒を井戸に投げた」などと亀戸署の刑事が触れ回る。それがどんどんふくらみ、みんなが言っていたからと、「土木工事の朝鮮人がおそってきた」「本所が燃えたのは朝鮮人が原因」などと尾ひれがつけられていく。

すると村長に内務省からの「不逞鮮人暴動に関する件」「警戒、適当の方策を講ずる」などという内容の通達が届くのだ。そして自警団が組織され、村人が従う。「鮮人は敵だ」と口々に繰り返す。半信半疑の者もいたし、併合によって「朝鮮人をずっといじめてきた、だからいつやられるか恐怖心があったんだ」と告白する者もいた。

主人公は朝鮮人を見捨てることになった経験をもち、それに罪悪感と後悔を抱いていた。新聞記者の女性もまた、「権力のいうことはすべて正しいのですか」と上司に訴える。だが、戒厳令がしかれ、社会主義者も殺されるのだ。

このあたりでわたしは、県内に取材した際に「千葉県民は文句を言わない」などと耳にしたことや、ハンナ=アーレントの「凡庸な悪」という言葉を思い出していた。

そしてクライマックス。史実の通り、薬売りが朝鮮人と決めつけられ、殺される。朝鮮人かどうかが問われているとき、薬売りの1人の「鮮人やったら殺してもええんか、朝鮮人なら殺してもえんか?!」という言葉が大きなテーマの1つだろう。その発言で、そして殺してもいい「空気」によって、竹槍や銃で殺されてしまう。だが、もちろん彼らは朝鮮人ではない。人間の愚かさを感じざるを得ない瞬間だ。

元軍人の1人は、「今さら何を言ってんだ。警察やお上、お国だっぺ。わしらはお国を、村を守るために戦ってきたんだ」というようなことを叫ぶ。そして、村人は、新聞記者に対し、「おれたちはずっとこの村で生きていかなきゃなんね、だから書かねえでくれ」と言う。だが記者は、「デマだって書かなかったから朝鮮人がいっぱい殺され、この人たちも殺されたんです。だから償わないと」と返す。

この新聞社の罪と責任を、映画監督やジャーナリストとしても森達也氏は伝えたかったのだろう。

結局、薬売りの一行は、お腹の子を入れて10人が殺された。のちにこの福田村事件では8人が逮捕され、懲役3~10年の判決を受けたが、大正天皇死去の恩赦で全員が釈放された。行商団の遺体は利根川に遺棄されたそうだ。

©『福田村事件』プロジェクト2023

◆「人間はどういう生き物なのかを検証し続けること」

映画ライター森直人氏のインタビューで、森達也監督は、「人間はどういう生き物なのか……それを個と集団の相克から検証し続けることは僕のライフワークです」と語っている。また、本作においては、「加害者側と被害者側の両方をしっかり描く」ことを意識していたそうだ。「メディアの問題は絶対入れたいと思っていました」とも言う。「現代の光景と同質に見えるよう」フィクションのよさも生かしているようだ。

個人的には、まず権力の言うことを真に受けてはならないということ。そして、真に受ける1人ひとりは被害者でもあるかもしれないが、それ以上に止められない人間を含めて加害者であることだ。また、被害とその周辺とがおさまろうとも、加害の側は心の底から心をこめて謝罪を繰り返さなければならないし、歴史の真実を伝えていかなければいけないのだということだ。野田市の市長が弔意を示したことを勝手に誇りに思う。追悼文を送らない東京都知事とは異なる。

現在に当てはめても、社会がこのような状態であることの責任はわたしにある。愚かなわたしだが、凡庸な悪に取りつかれぬよう、声を上げ続け、謝罪を続けねばならない。

ぜひ『福田村事件』をご覧いただき、感想を伺いたい。

『福田村事件』
監督:森達也
脚本:佐伯俊道、井上淳一、荒井晴彦
出演:井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、コムアイほか
企画:荒井晴彦
企画協力:辻野弥生、中川五郎、若林正浩
統括プロデュ―サー:小林三四郎
プロデュ―サー:井上淳一、片嶋一貴
アソシエイトプロデュ―サー:内山太郎、比嘉世津子
音楽:鈴木慶一
【2023年|日本|DCP|5.1ch|137分】(英題:SEPTEMBER1923)
配給:太秦
http://www.fukudamura1923.jp
テアトル新宿、ユーロスペースほか 全国公開中


◎[参考動画]映画『福田村事件』予告編

▼小林 蓮実(こばやし・はすみ)
1972年生まれ。フリーライター。映画評や監督インタビュー多数、パンフレット制作も。フリーランスの労働運動・女性運動を経て現在、資本主義後の農的暮らしを実現すべく、田畑の作業、森林の再生・保全活動、釣りなども手がける。地域活性に結びつくような活動を一部開始、起業も準備中。地元に映画館はないが、有志による上映会などでは、過去と現在の、農村の記録映画をよく観ている。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年10月号

ご承知のように、一昨日9・7、ついにジャニーズ事務所に大きな変動がありました。下記は9月7日に掲載されたという共同通信配信の新聞記事(おそらく愛媛新聞)です。ネットで流れて来ました。

9月7日に掲載されたという共同通信配信の新聞記事(おそらく愛媛新聞)

この問題、しばらく事の推移を遠くから見守ってきましたが、文春裁判以前パイオニア的に1995年からジャニー喜多川による未成年性虐待問題や、マスメディアに隠蔽される事務所の横暴やスキャンダルを告発してきた私たちとしては、いわば総決算的な書籍を出版することにしました。タイトルは『ジャニーズ帝国60年の興亡』(仮)です。A5判、320ページの大著です。ご期待ください!

それにしてもマスメディアのご都合主義には違和感を覚えます。「大学院生リンチ事件」(しばき隊リンチ事件)もそうですが、マスメディアによる隠蔽こそが、こうした事態を招いたことを思い知らねばなりません。今や中堅の40代以上のマスメディア人すべてに責任があると思います。

朝日新聞などこのかん5度も社説でご高説を掲載し、本日も大きく報じていますが、例えば20年前から報道に携わってきたメディアの記者らに対しては、「今さら何を言ってんだ!」と言いたいところです。ある意味で、ジャニー喜多川以上に犯罪的と言えるかもしれません。「死人に口なし」という言葉を知っていますか? 

週刊文春が追及する以前の90年代後半はほぼ孤立無援で、3件もの対ジャニーズ事務所との訴訟を闘いつつ、いわゆる「暴露本」を出し続けた身からすると(文春の登場以前に実に15冊も出版。以後も継続)、ジャニー喜多川が生きている内に、今のように、いやこの1割でもやって欲しかったというのが素朴な想いです。(松岡利康)

[上段左から]豊川誕半生記『ひとりぼっちの旅立ち』(97年3月)/本多圭・著『ジャニーズ帝国崩壊』(97年8月)/鹿砦社編集部・編『ジャニーズの欲望 ── アイドル資本主義の戦略と構造』(98年2月)/[中段左から]同『ジャニーズの憂鬱 ── アイドル帝国の危機』(98年5月)/ジャニーズ特別取材班・編『ジャニーズの躓き ── 壊れ始めた少年愛ビジネス』(99年4月)/伊藤彩子・著『ジャニーズ・プロファイリング──犯罪心理捜査』(99年3月)/[下段左から]鹿砦社編集部・編『ジャニーズ・ゴシップ・ワールド』(99年3月。続編あり)/同『ジャニーズ・スキャンダル』(99年6月)/同 『スキャンダルの中のジャニーズ』(99年9月。新版あり)

[左]原吾一・著『二丁目のジャニーズ』(95年11月)、同『二丁目のジャニーズ 死闘篇』(96年4月)、同『二丁目のジャニーズ 最終戦争篇』(96年7月)/[右]平本淳也・著『ジャニーズのすべて 少年愛の館』(96年4月)、同『ジャニーズのすべて2 反乱の足跡』(96年6月)、同『ジャニーズのすべて3 終わりなき宴』(96年9月)

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年10月号

2023年9月1日、広島市中区に本社のある給食会社「ホーユー」(資本金1000万円、従業員586人うち正社員78人、パート508人[2020年現在]、代表取締役社長=山浦芳樹さん)が経営破綻し、広島県立・市立高校の寮の給食はもちろん、全国の警察や自衛隊などの給食も停止し、大混乱が広がっています。全国150の同社の受託先の施設の内半数で供給が止まっています。

9月5日に、広島市立沼田高校や広島県立三次高校など8校の寮での給食がいきなり停止。会社とも連絡が取れない状態になったと報道がありました。高校の先生たちがスーパーに行き、生徒の食事を確保する事態となりました。

会社のホームページによると、同社は1994年設立。地元広島はもちろん、東は岩手、西は鹿児島に至る全国各地で事業を展開しておられます。保育園・幼稚園や学校、そして県庁(一部テレビ局では神奈川県庁の地方機関の食堂が映し出されていた)や警察や自衛隊などの社会人向けの食堂の運営、筆者の勤務先のような老人ホームでの給食、病院での給食などを幅広く手掛けておられます。

複数の報道によると、同社は近いうちに破産手続きに入るそうです。

◆すぐに人が辞めていく給食業界

同社については、地元では、すぐに人が辞めていくという評判もありました。ただ、これは同社だけの問題ではありません。筆者の勤務先の老人ホーム(以下、弊社)の食堂も、弊社とは別会社が運営する形を取っています。しかし、すぐに人が辞めていき、メンバーが固定されるようなことはあまりありません。結局、弊社の介護職員も時々、食堂の運営会社と兼務する形で調理に従事するようなありさまです。

朝食と昼食と夕食を調理する人を全て確保するというのは相当に難しいです。朝食を調理し、昼間は休んで夕食の調理にまた出てくる、というシフトをこなしておられた方も見受けられましたが、すぐに辞められました。それはそうです。筆者も同様のシフトになったら、精神的にも身体的にもしんどくて、リタイアしているでしょう。

そうなると、会社も一定程度、給料を上げていかないといけなくなる。これが、ホーユーさんも含む最近の状況だったと推測されます。

◆物価高騰・給料アップに追いつかぬ単価?

ところが、ホーユーさんが多く引き受けておられるのは公立の学校や県庁、警察、自衛隊などの公共関係の食堂の運営です。

こういうところは、一年に一回の入札です。従って、食材が高騰したから、パート従業員の給料を上げないと辞められてしまうからという理由で条件を変更してもらうことは困難です。

もちろん、「そんなことはわかって、落札していたのだから、その経営判断が問題だろう」というご意見もあるでしょう。

あるいは「労働者を低賃金でこき使ってまで、落札していたのはいかがなものか?」というご意見も伺います。

しかし、現に、原価割れで運営会社が倒産してしまったわけです。そういう単価で委託していた、そういう状況を生み出す制度そのものが問題ではないでしょうか? 国ならば岸田総理ら政府や国会議員の皆様、自治体なら首長や議員の問題でもあります。

◆大手ゼネコン・天下り企業には価格変更=値上げに応じている

しかし、冷静に考えると、行政はゼネコン大手や天下り会社に対しては平気で「価格変更=値上げ」に応じています。

筆者の住んでいる広島市や広島県に当てはめても以下のことが言えます。

広島高速5号線二葉山トンネルでは、何度も追加予算を投入し、当初予算を大幅にオーバーしています。また、広島市中央図書館の駅前エールエールA館(市役所OBの天下り先でもある第三セクターが所有)への移転では当初議会や市民に説明した基本計画で65億円だった予算が72億円に膨れ上がっています。

こういうことが平気で出来るのに、給食会社相手には値上げに応じないという構造も見えます。

結局のところ、大手ゼネコンや市役所OBの天下り先の会社には甘くても、中小企業には厳くけんもほろろ。そういう行政・政治のありようが問題ではないでしょうか?

あるいは、広島県教育委員会で言えば、平川理恵・教育長のお友達には儲けさせる。そんなお金があるくらいなら、原価が賄えて労働者が生活できるような値段で給食の委託契約をしてあげればよかったのではないか? そんな疑問は尽きません。

◆「給食のおばちゃん」叩きの果てに

日本で新自由主義が加速し始めた1990年代ころ、「給食のおばちゃんの分際で、年収500万円も取るなど怪しからん」という意見が幅を利かせ始めたのを記憶しています。マスコミが煽り、政治家(当時は日本共産党と新社会党以外のほぼ全員)は労働者叩きで溜飲を下げてもらったのです。

そして、民間企業への委託が加速。ホーユーさんもそういう時期(1994年)に創業され、そして事業を拡大されたようです。しかし、今度はその民間企業からのサービスを買い叩く、という構造が定着。現在に至っています。行政が民間を買い叩き、民間企業は労働者を低賃金・ブラックな条件で働かせる。そんな悪循環が、この20年くらい加速してきたのです。

そもそも、給食調理員というのも、例えばシングルマザーなどの安定した雇用の受け皿となっていました。政策的な意味もあったのです。それを低賃金・ブラックな労働に置き換えたことで、子どもの貧困の悪化などにもつながっているのです。 こうしたことについて、政治家やマスコミは猛省すべきです。

岸田総理は2030年までに最低賃金を1500円にする、などとおっしゃっています。しかし、2030年代まで待っていては多くの労働者は生活が成り立たず、「香典」となってしまいます。さらには、様々なサービスが労働力不足で崩壊することも予想されます。総理は、ご自身の選挙区を震源地とする「給食ストップ」事件について早急に政府としても分析し、対策を取るべきです。例えば、物価高騰状況に対応した入札制度の改革、労働者が十分に暮らしていける単価の確保などです。

また、「高い武器ばかりアメリカから買って、自衛隊員のメシがない」という状況を招いたことも反省していただきたいものです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

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