広島県三原市では水源地のど真ん中の本郷町南方にマツダスタジアム約10個分の産業廃棄物処分場(安定型)を湯崎英彦・広島県知事が許可してしまいました。2020年5月から工事が進んでいます。そして2022年秋以降には、群馬や長野など遠方からの産廃が続々と運び込まれています。

この産廃処分場から2023年6月、ついに汚染水が流出し始めてしまいました。産廃処分場の許可取り消しの裁判の原告でもある岡田和樹さんによると、処分場から流れてくる水は泡が消えず悪臭を発しているということです。5月中旬にも泡が発生していたそうですが、それはいったん消えたそうです。しかし、今回は泡と悪臭が同時にするとのことです。この水は、三原市民の8割が水源として利用している沼田川にも最終的には流入します。

◆住民・市議会の猛反対にもかかわらず許可強行 湯崎知事

2018年4月にJAB協同組合による産廃処分場計画が持ち上がった際、地元の三原市と竹原市の住民は猛烈な反対運動を行いました。当然のことです。この産廃処分場は水源地のど真ん中にあります。また、JAB協同組合自体が筆者の地元でもある広島市安佐南区の上安産廃処分場で多くの問題を引き起こしています。最近でも、不適切な盛り土の上に産廃処分場を拡張していたことが発覚しています。

三原市議会でも竹原市議会でも産廃処分場反対の決議が全会一致で可決されるなどしました。それにも関わらず、広島県(知事・湯崎英彦さん)は許可を強行しました。書類が形式上整っていれば、許可をしてしまう。これが広島の激甘な産廃行政です。

◆裁判所もチェック機能果たさず

これに対して、住民側は広島県知事を相手取って産廃処分場の許可取り消しを求める裁判を広島地裁に起こしました。並行して裁判の結果を待っていては、手遅れになる危険があることから、業者を相手取って産廃処分場の工事差し止めをもとめる仮処分も申請しました。

2021年3月に広島地裁はいったん、仮処分を認める決定をしました。これでいったん、工事はストップしました。しかし、業者側が異議を申し立てました。これについて事業者が異議を申し立てました。そして、原発や労働裁判でも「権力忖度」で「有名」な吉岡茂之裁判長が審理を担当。2022年6月30日、吉岡裁判長は「住民が利用する井戸まで有害物質が含まれる水が到達する可能性があると認めるに足りる資料がない」などとして、一転して処分場の建設を認める不当決定を行いました。
住民側は当然、広島高裁に抗告しました。しかし、高裁2023年3月29日、住民側の抗告を却下する不当決定を行いました。

高裁は、
・有害物質が付着・混入して処分場に運び込まれる恐れ
・それらが処分場の外に染み出す恐れ
については認めました。

ところが、処分場と井戸の距離が700mあって、高低差が60mしかないことを理由に、「井戸水に有害物質が入る」恐れがあることは、住民側に立証責任がある、としました。

裁判官は、「水は鉛直にしかしみ込まない」といういわば、常識外の決定をしました。

たとえば、介護現場や子育てを経験していればわかることですが、お年寄りや赤ちゃんが尿を漏らした場合、そこだけではなくて、オムツに広範囲に尿が広がります。そんな常識さえ裁判所には通じませんでした。

◆井戸水どころか川に流出!

しかし、県がいくら「処分場は安全だ」と言い張ろうが、吉岡裁判長が「危険と認めるに足りる資料がない」と権力に忖度しようが、汚染水は原告が懸念していた地下経由での井戸水汚染どころか、川にまで直接流出しています。業者側の計画では、排水は調整池を経由するから大丈夫、としていました。ところが、全然大丈夫ではなかったのです。

県や裁判長の屁理屈は現実の前に何の役にも立たないのです。こうなってしまっては遅いのです。

だからこそ、環境問題では「環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす恐れがある場合、科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、規制措置を行える」といういわゆる予防原則(EUが主に提案)ないし予防的取り組み(1992年のリオ宣言に盛り込まれ、日米はこちらを使うことが多い)が確立しています。

7月4日に許可取り消しを求める裁判の判決が広島地裁で言い渡されます。すでに口頭弁論は終わって結審してしまっている状態です。しかし、判決がどうあれ、知事は直ちに産業廃棄物の搬入を止めさせるべきだし、業者もこうなった以上は搬入を控えるべきでしょう。

◆湯崎知事も吉岡裁判長も「切腹」ものだ

それにしても、湯崎知事が許可し、吉岡茂之裁判長が追認した産業廃棄物処分場がご覧の有様になったのです。お二人とも責任は重大です。本来であれば、お二人とも辞職に匹敵するのではないでしょうか?知事はご自身の行政行為で、吉岡裁判長はご自身の司法判断で重大な結果を招いたのです。それも、多くの市民・県民の疑問を切り捨てた結果起きたことです。

もちろん、今回の本郷産廃処分場を実務上、許可したのは、筆者も県庁職員時代の最後に勤務していた東部厚生環境事務所です。しかし、広島県の産廃規制は全国でも最悪レベルに緩いまま放置してきたのは湯崎知事です。広島県には他の自治体で制定されているような水道水源保護条例なり環境配慮条例なりがありません。そういう中では現場の広島県庁職員も、書類などの形式さえ整っていれば許可せざるを得ない状況もあります。そうした状況に職員を置いてきた湯崎知事の責任は誠に重い。

湯崎知事については、次期県知事選挙に恥ずかしげもなく立候補された際には広島県民は彼を打倒すべきです。

吉岡裁判長についても、原発問題や労働事件でも権力への忖度のような判決ばかりです。万が一、この人が最高裁判所裁判官になられた場合、国民審査で真っ先に×をつけるべき対象であることは間違いないのではないでしょうか?
 
◎原告の一人の岡田和樹さんのFacebook

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

◆重要捜査対象者だった木村三浩の指摘

『紙の爆弾』最新号で興味を惹かれたのは「文藝春秋『赤報隊』特集の罠」(木村三浩)である。文藝春秋」は赤報隊の正体を、野村秋介の周辺にいた右翼として描いているのだが、その論拠は盛田正敏(サム・エンタープライズ=不動産業)という人物の証言だという。

 

月刊『紙の爆弾』2023年7月号

すなわち、盛田が野村に渡した3000万円が赤報隊の逃走資金となったのではないか。そしてリクルートから盛田の会社に1000万円が寄付されたのも、野村への「対策金」、つまり赤報隊対策だったというものだ。

この種の「証言」は右翼や任侠系実業家にはありがちな「大言壮語」「オレだけが知っている秘話」であって、その人物を検証しなければならない。

盛田正敏は後藤忠政(山口組直参でのちに破門)の企業舎弟で、イトマン事件にも関与していたと言われている。02年には銀行取引が停止となり、ヤクザの借金回収に追われて渡米。帰国後は島田紳助やダウンタウンの浜田雅功の任侠右翼との関係を『週刊現代』で証言するなど、極道ネタを切り売りしてきた。いわば事件師(事件ネタを食い扶持にする)といってもいいだろう。

木村の記事は、この『文藝春秋』のエビデンスのいい加減さを指摘したものである。木村自身が9人の重要捜査対象者だったことから、当事者でもある。

たしかに野村秋介や鈴木邦男が赤報隊に会った、と匂わせたことはある。野村の朝日新聞本社での拳銃自決が、赤報隊への「俺が責任を取るから、もう朝日を攻撃するな」というメッセージだったと、野村に好意的な人々は解釈してきたものだ。

しかし、木村は直接触れていないが、被害者である朝日新聞の記者たちが右翼および民族派を徹底的に取材し、行き着いた調査の方向性は、木村が指摘するとおり「勝共連合(旧統一教会)」だった(樋田毅はその著書『記者襲撃』(岩波書店)のだ。樋田の著者に従いながら、事件捜査・取材の概要をふり返ってみよう。

◆赤報隊右翼説は、当初から外されていた

『文藝春秋』の特集も明らかにしているとおり、当初警察庁は朝日新聞阪神支局銃撃事件の犯行の態様、犯行声明の内容から右翼事件と断定した。まもなく捜査線上に木村をふくむ9名の右翼関係者がリストアップされ、個別に事件当日のアリバイ調査、ポリグラフ(嘘発見器)の任意捜査がおこなわれた。

しかるに、ほぼ全員にアリバイがあり、ポリグラフにも引っ掛からなかった。リストに挙げられた9人は、総合的に「シロ」と判断されたのだった。

もしかしたら、犯人は右翼ではないのかもしれない。捜査陣および朝日新聞関係者には、そう感じられた。本物の右翼であれば、みずからの犯行として警察に出頭する。そのうえで、犯行(天誅)の大義を堂々と述べるはずだ。かれらは往々にして売名的だが、逃げ隠れすることを嫌う。右翼事件にしては、赤報隊の隠密的な行動は異様だった。

取材した右翼関係者も口々に言った。

「従来の民族派が起こしたものと異なり、乾いた匂いのする事件だ」(野村秋介)、「こうした事件は、やわな右翼では起こせない」(民族派の活動家)、「周辺の右翼にあの事件を起こせそうな奴はいない」(行動派の民族活動家)と。そして樋田は、その民族活動家たちから「(犯行は)統一教会ではないのか」と逆に質問されるのだ。前掲書から他の民族派活動家の言葉を引用しよう。

「(犯行グループは)本心のキーワードを隠し、右翼を装っているのだ。テロ事件を繰り返すには強固な秘密組織が必要だ。右翼には秘密組織など作れない。それが可能なのは、左翼を除けば、α教会しか考えられない。君たち朝日新聞はα教会の秘密組織について取材してきたのか」

樋田の著書で「α教会」とされているのが、統一教会(世界基督教統一神霊教会・現在は世界平和統一家庭連合)である。

◆事前にあった脅迫状と幹部の演説

当時、朝日新聞および『朝日ジャーナル』(週刊誌)は、統一教会の霊感商法に対して紙面を割いて批判していた。統一教会(勝共連合)が中心となっていた「スパイ防止法制定促進会議」に対しても、朝日新聞は言論の自由を侵害する法案であると、反対の論陣を張っていたのだ。

統一教会は朝日新聞東京本社の前に街宣車を連日のように乗りつけ、朝日新聞を批判する演説を行なっていた。そして事件が起きた年の2月には、統一教会名で「ソ連のスパイ朝日社員どもに告ぐ。俺たちはきさまらのガキを車でひき殺すことにした……」で始まる脅迫文が届いてもいた。

文中に「俺たちが殺すのは共産サタンで人間ではない。てめえらバイキンだ、サタンだ」「俺はM16ライフルを持っている。韓国で訓練を受けてきた」とあることから、いかにも統一教会らしさを装っている。少なくとも統一教会を熟知している何者か、朝日と統一教会の対立をよく知っている者からの脅迫であろう。

朝日の記者たちが取材を開始してみると、事件の2か月前に統一教会の「関西の対策部長」を名乗る人物が、大阪の会合で「神側(統一教会)を撃ってくる人たちに対し、たとえ誰が霊的になってサタン側に立つ誰かを撃ったとしても、それは天的に見たならば当然許される」と話したという証言が得られた。

◆秘密の武装組織は存在したか?

前出の統一教会幹部が「サタン側に立つ誰かを撃ったとしても」が、朝日新聞阪神支局事件を指すのだとしたら、本当に武装した秘密組織があったのだろうか。反共の立場で共闘する右翼団体にも、統一教会はよく出入りしていたという。樋田の前掲書から紹介しよう。

日本青年旭心団の本部長・松本効三も勝共連合(統一教会)の若者たちと親しかった一人だが、心を許さなかった理由として「連中の持っている宗教は恐ろしい。人間をすっかり変えてしまう」と語り、「朝日新聞襲撃もα連合の可能性があると私は思っている」と語ったという。

松本の論拠は、同じ世代の右翼活動家が統一教会に取り込まれたかに見えたが、その活動家は「α連合には分からない部分があり、恐ろしい組織だ」と語ったからだという。松本によれば「この分からない部分というのは秘密組織か何かを指している」のではないかというのだ。

松本自身が観光ビザで韓国に行き、ベトナム戦争派遣の猛虎部隊に体験入隊した経験があった。したがって、統一教会の若者たちが韓国内で軍事訓練をするのも、たやすいのではないかというのだ。

いや、わざわざ韓国に行くまでもない。統一教会は当時、全国で26店舗の銃砲店を持っていた。その多くは射撃場を併設し、来客に試射させてもいたのだ。韓国の統一教会は銃砲メーカーを経営し、そこで生産したエアライフルを日本に輸出していたのである。統一教会の日本人会員(元自衛官)が、義勇兵としてケニアに派遣されていることも明らかになっている。統一教会は銃器とわかちがたく結ばれていたのだ。

◆証言をひるがえした会員たち

樋田ら朝日の記者たちは、統一教会の秘密軍事部隊の存在を追っている。そして早稲田大学の原理研に所属していた、元信者の証言をとったのだ。その元信者は大学卒業後に統一教会の会長秘書を務めたのち、特殊部隊に所属したという。その任務は、信者であることを隠して金山政英元駐韓大使の私的研究所に入り、研究所にあった韓国と北朝鮮、民団および総連の資料を入手していたという。別の女性元信者も、統一教会の非公然の軍事組織に所属し、銃を撃つ練習をしていたことを明らかにしている。

その女性元信者によれば、軍事訓練の指導は習志野空挺団出身の幹部が担当し、数人のグループで参加したという。実際に多かった任務は監視活動で、焼き芋の屋台をリヤカーで引きながら、監視対象の周辺を探ったという。ほかの元信者は、生道術(空手の一種)を身に着けた数十人の屈強そうな男性が集められて、軍事訓練を行なったと証言している。特殊な任務で軍事訓練をしていた秘密組織が、統一教会のなかに間違いなく存在していたのだ。

ところが、秘密軍事組織の証言をした元信者に再度取材したところ、かれらは先の証言をひるがえしている。というのも、元信者は統一教会に復帰していたのである。銃の訓練をしたという証言も「そんなこと言いましたか? 私は覚えていません」と否定した。この否定こそが、松本効三がいう統一教会の「分からない部分があり、恐ろしい組織」であり、民族派活動家が言う「テロ事件を繰り返す……強固な秘密組織」が「可能なのは、左翼を除けば、α教会しか考えられない」という評価に合致する。

直接的な証拠こそないが、朝日新聞襲撃事件の実行部隊は、統一教会が秘密裡に組織した軍事組織、あるいはその任務を請け負ったプロ的な軍事グループと見るのが自然ではないだろうか。

◆タイトルを重視する編集者の落とし穴

さて、木村が「罠」だと指摘した『文藝春秋』の「勝共隠し」に立ち返ろう。

今になって『文藝春秋』が赤報隊事件を特集したのを、木村は新谷学編集長が「編集長の職を退くにあたっての、新谷氏の思いも関係しているのではないかと推察する」と、やんわりした感想のオブラートに批判を包み込んでいる。

言論の士であり、リアルな政治活動家らしい感想だが、スクープとファクトを編集の髄としてきた新谷にとって、この特集は編集長としての汚点になると、ここでは指摘しておこう。まさに木村が指摘するとおり、エビデンスに欠ける「スクープ」なのだから。

じつは、あえて「罠」というほど巧妙でも突飛でもない。ひとつのテーマを掘り下げるとき、徹底的に他の有力なテーマを封印する編集手法なのだ。あたかも「スクープ」が真実であるかのように描き出す雑誌ジャーナリズムの、とくに文春砲と呼ばれた方法論がそこにあるだけなのだ。

野村秋介大人の死が過去のものとなり、野村をよく知る鈴木邦男が逝去した今だから、飛び出してきた「スクープ」だともいえよう。墓碑銘を穢すことはあっても、慰霊することにはつながらない。

なお、「紙爆」最新号には、横田一による「旧統一教会『500億円新施設』と
変化する『合同結婚式』」の現地取材レポートが掲載されている。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年7月号

5月12日「GX(グリーントランスフォーメーション)推進法」なる実質「原発推進法」が成立してしまいました。重要な法案にもかかわらず、国会内内外で充分な議論がなされず短い審議で成立しました。さらに「GX脱炭素電源法」も本稿執筆時点、参議院で審議されています。「GX脱炭素電源法」は原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理法、再エネ特措法の改正案5つを束ねたものです。

 

6月12日発売 『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

わずか12年前に福島第一原発事故を引き起こし、いまだ「原子力非常事態宣言」を解除できない国が明確な「原発推進」を打ち出すこの国の姿勢は、完全に理性を失っています。福島第一原発事故後は自民党ですらが原発回帰を躊躇っていたにもかかわらず、国の存亡にもかかわる「GX推進法」を大した議論もなく可決させてしまった与野党と、例によって政府と呼吸を合わせたように相応の報道を行わなかった大手マスメディアの劣化し尽くした姿勢に編集部は激烈な怒りを覚えます。

また本誌が発売される頃には、すでに鮮度のないトピックあるいは忘れ去られているかも知れませんが、広島でG7サミットが開催されました。もとよりサミットは「帝国主義者の戦争準備会議」と呼ぶ人がいるほどに、これまでも「軍縮」や「人類平和共存」に貢献したことはありません。

被爆被災地、広島で開催されることに、「核兵器廃絶」など筋違いの期待を寄せる言説も見受けられましたが、それらはもとより的外れ甚だしい妄想でした。案の定、G7期間中にどういうわけかウクライナのゼレンスキー大統領が広島を訪れ、米国などからF-16戦闘機の提供の確約を取り付けました。議長である日本国の首相岸田は「核兵器のない世界実現という理想をG7で共有」したと、功績のように記者会見で語りましたが、これは完全なる虚構です。

そもそも米国を中心とする核兵器保有国が集ったところで「我々は核兵器を放棄します」などと殊勝な宣言が発せられる道理は、最初からありはしないのであり、米国のバイデン大統領は広島入りに際して、これ見よがしに「核兵器発射ボタン」の入ったカバンを随行員に持たせている写真をわざわざ撮影させています。国際平和に貢献する意志があるのであれば、インドなど中立的な国も参加していたのですから、ロシアにも参加を呼びかけ「停戦」の場としたのであれば、それなりの評価に値したでしょうが、日本政府にそのような意思は微塵も見られませんでした。

人間が考えることを人工知能(AI)に代行させることに「G7」各国は熱心なようです。叡智や思索の蓄積を度外視してコンピューターの指示に従いたがる時代にこそ、人間の身体に結び付いた思想と行動の価値が問われているのではないでしょうか。脱原発(反核)・反戦は喫緊の課題です。

2023年6月
季節編集委員会

6月12日発売 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年夏号
NO NUKES voice改題 通巻36号 紙の爆弾 2023年7月増刊

《グラビア》原発建設を止め続けてきた山口県・上関の41年(写真=木原省治
      大阪から高浜原発まで歩く13日間230Kmリレーデモ(写真=須藤光男

野田正彰(精神病理学者)
《コラム》原子炉との深夜の対話

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》核のゴミを過疎地に押し付ける心の貧しさ

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》司法の危機 南海トラフ地震181ガル問題の重要性
《インタビュー》最高裁がやっていることは「憲法違反」だ 元裁判官樋口氏の静かな怒り

菅 直人(元内閣総理大臣)
《アピール》GX法に断固反対を表明した菅直人元首相の反対討論全文

鮫島 浩(ジャーナリスト)
《講演》マイノリティたちの多数派をつくる
 原発事故の被害者たちが孤立しないために

コリン・コバヤシ(ジャーナリスト)
《講演》福島12年後 ── 原発大回帰に抗して【前編】
 アトミック・マフィアと原子力ムラ

下本節子(「ビキニ被ばく訴訟」原告団長)
《報告》魚は調べたけれど、自分は調べられなかった
 一九五四年の「ビキニ水爆被ばく」を私たちが提訴した理由

木原省治(上関原発反対運動)
《報告》唯一の「新設」計画地、上関原発建設反対運動の41年

伊藤延由(飯舘村「いいたてふぁーむ」元管理人)
《報告》飯舘村のセシウム汚染を測り続けて
 300年の歳月を要する復興とは?

山崎隆敏(元越前市議)
《報告》原発GX法と福井の原発
 稲田朋美議員らを当選させた原発立地県の責任

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山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点

原田弘三(翻訳者)
《報告》「気候危機」論についての一考察

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家)
《対談》戦後日本の大衆心理【後編】

細谷修平(美術・メディア研究者)
《映画評》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈3〉
 わすれてはならない技術者とその思想 ──『Winny』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
《報告》今、僕らが思案していること

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
《報告》亡国三題噺
 ~近頃“邪班(ジャパン)”に逸(はや)るもの
  三重水素、原発企業犯罪、それから人工痴能~

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
《報告》山田悦子の語る世界〈20〉
 グローバリズムとインターナショナリズムの考察

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の全力推進・再稼働に怒る全国の行動!
福島、茨城、東京、浜岡、志賀、関西、九州、全国各地から

《福島》古川好子(原発事故避難者)
福島県富岡町広報紙、福島第一廃炉情報誌、共に現地の危険性が過小に伝えられ……
事故の検証と今後の日本の方向を望んでいるのは被害者で避難者です!
《東電汚染水》佐内 朱(たんぽぽ舎ボランティア)
電力需給予備率見通し3.0%は間違い! 経産省と東電は石油火力電力七・六%分を隠している! 汚染水の海洋放出すべきでない! ── 4・5東電本店合同抗議に参加して
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
運動も常に情報を受信してすぐに発信することが大事
4月5日定例の日本原電本店行動のできごと
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
中電が越えなければならない「適合性審査」と「行政指導」
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」事務局)
団結小屋からメッセージ付き風船を10年余飛ばし続けて
《高浜原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「関電本店~高浜原発230kmリレーデモ」に延べ900人、
「関電よ 老朽原発うごかすな!高浜全国集会」に320人が結集
《川内原発》鳥原良子(川内原発建設反対連絡協議会)
「川内原発1・2号機の九電による特別点検を検証した分科会」まるで九州電力が書いた報告書のよう
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
原発延命策を強硬する山中原子力規制委員会委員長・片山規制庁長官
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『3・11 大津波の対策を邪魔した男たち』(島崎邦彦・青志社)

反原発川柳(乱鬼龍選)

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龍一郎揮毫

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トランス女性を自称する身体男性が堂々と女子トイレを使い、時には女湯に入っている? 海外ではなく日本でも、そうなりつつある? そんな、まさか!

──と思った皆様には、次のツイートをご覧いただきたい。「私の性自認は女性」と主張する「身体男性」は「女性」として扱うべき、と主張する女性たちのツイートだ。

弁護士 上瀧浩子「トランス女性のペニスは、男根じゃなくて女根でしょ」

yoko_counter「ペニスだと思うから怖いのかな。基本的にトランス女性についてるのはペニスではなくクリトリスだと思ってるんだけど。ちょっと大きいかもしれないけど、なんの害もないよ」

[左]しばき隊界隈弁護士・上瀧浩子氏による、ペニス=女根説。[右]しばき隊界隈活動家・yoko_counter氏による、ペニス=大きなクリトリス説

ここで、鹿砦社が何年にもわたり追及してきたしばき隊/カウンター/C.R.A.C./ANTIFA等と呼ばれる暴力的な反差別運動体の問題、特に「しばき隊リンチ事件(カウンター大学院生リンチ事件)」の情報に触れたことがある方なら、「ん?」と引っかかるはずだ。

なお、ここで「しばき隊? なにそれ?」という方々にひとことでそれをご説明するならば、「反差別チンピラです」とお返事したい。

2010年代、在日特権を許さない市民の会(在特会)等による悪質な排外主義デモに対抗し、反差別を叫ぶと同時に彼らと同レベルでオラつくことで一定の成果をあげたレイシストをしばき隊(現C.R.A.C.)だが、在特会が弱体化してもオラつき癖が治まらず、しばき隊の暴力性を批判しただけの無辜の市民にまで大いにオラつき、結局は嫌われまくってしまったという、残念な皆様。それが反差別チンピラである。

上瀧浩子弁護士(@sanngatuusagino)は、「しばき隊リンチ事件」の現場にいた反差別活動家で在日韓国人女性の李信恵氏と公私にわたって親しく交流しており、しばき隊リンチ事件裁判やその他の裁判で、しばしば李氏の代理人弁護士をつとめてきた方だ。

 

赤ペンyoko先生の親身な添削で、君もしばき隊現役合格!

今ではこの「女根ツイート」がネット上で有名になり、「女根弁護士」などと揶揄されたりもしている。

そして、yoko_counter氏(@yoko_counter)は、ご自身で名乗っておられる通り、カウンター/しばき隊系の女性活動家だ。バイセクシュアルでありフェミニストでもある。

2018年にはまんこアートの第一人者・ろくでなし子画伯のツイートを差別的であると無料で添削、以降は「赤ペンyoko先生」の愛称でも親しまれている。

しかし、そんなに女根だ、大きなクリトリスだと主張するのならば、ご自身が「私の心は女」と主張しているだけの見知らぬおっさんたちと一緒に、毎日風呂に入っていればよろしいかと思うが、しばき隊界隈の女性たちがそのような反トランス差別的チャレンジをされているという話はうかがっていない。

実行に移さないのであれば、そのようなツイートはきれい事であり、机上の空論であり、単なる言葉遊びにしかすぎないと考えるが、そんな私の心が狭すぎるのだろうか?

さて。ここで、超有名なトランス女性活動家による「女風呂に入っている」という証言をご覧いただこう。

尾崎日菜子「あたしとか、チンコまたにはさんで、『ちーっす』とかいって、女風呂はいってんのやけど、意識が低すぎ? あと、急いでるときのトイレは男。立ちションの方が楽やからね」

[左]このツイートから、チンコを股にはさんで女湯に入る行為を指す新しい表現「ちーっす」が爆誕![右]チンコを股にはさんでいれば女湯に入ってもセーフ! 痴漢行為ではない!

この男性器をお持ちの尾崎日菜子氏は、トランス女性活動家として学術誌にも寄稿されているような方だ。そんなトランス女性活動家(身体男性)が、「私の心は女」と主張すれば女湯に入るのも許され、それは犯罪ではないと考えている。

なので、私はスローガン「トランス女性は女性です」を次のように言い換え、たびたびツイートしている。

「トランス女性は女性です(だからチンコあっても女湯に入ってOK)」

これならば、「トランス女性」が「性別適合手術を済ませて男性から女性になった人」という誤解を招くことも回避できる。「トランス女性は女性です」派が隠したい本音も、丸括弧内できちんと述べてあげるという、親切設計だ。

実は、すでに自分のパソコンで「とらんす」と入力したら「トランス女性は女性です(だからチンコあっても女湯に入ってOK)」と変換するよう、辞書に単語登録もしてある。

[左]チンコを股にはさんで女湯に入るというトランス女性活動家・尾崎日菜子氏は『コロナ禍をどう読むか』(亜紀書房)にご寄稿。[右]尾崎氏はご自身の写真を「女哲学者」とツイート。しかし、このような人物(チンコを股にはさんでいる)と女湯で出くわして「あっ。女哲学者だ!」と思う女性は一体何人いることだろう?

さらに申しあげると……しばき隊ウォッチャーを自認する方々なら、尾崎日菜子氏の名になにか引っかかりを感じないだろうか?

おそらく、すでにお気づきの方もいることだろう。尾崎日菜子という名は、しばき隊リンチ事件関連の流出資料「ITOKENの声かけリスト」の中にあった、と。

「声かけリスト」とは、しばき隊リンチ事件(2014年12月17日深夜発生)に関し口止めすべき関係者を、しばき隊系活動家ITOKENこと伊藤健一郎氏(当時立命館大学大学院生)がリスト化、配布した文書である。これを見れば、しばき隊につながる人物がひとめでわかるという、貴重な資料でもある。

ITOKENの声かけリストの中に尾崎日菜子氏の名。しばき隊界隈関係者としては古株か?

それにしても、声かけリストの中に、なんでまた尾崎日菜子氏の名が? 加えて、しばき隊界隈弁護士・上瀧浩子がなぜ、女根発言を? さらには、しばき隊系活動家yoko_counter氏が「大きいかもしれないけどクリトリス」発言をしたのは一体……?

答えは単純だ。LGBTの運動にしばき隊界隈活動家が「寄生」し、暗躍……いや、堂々と活躍しているということだ。

今や、ネットでもリアルでも、しばき隊界隈活動家は「トランス女性は女性です(だからチンコあっても女湯に入ってOK)」派として、LGBT活動家と共に大いにオラついている。

だが、私はバイセクシュアル当事者であり反差別でもある立場から、しばき隊界隈の皆様に申しあげたい。「無能な味方は不要だ」と。

現在、しばき隊と一緒になってオラついているLGBT活動家は、市民から忌避されつつある。当然だろう。

そのうちLGBTはヘイトデモのターゲットになるのではないかと、私は危惧しているのだが、そうなったとしても因果応報でしかないと、なかばあきらめの境地だ。

残念だが、LGBT活動家はしばき隊系活動家の暴言・恫喝を大いに利用してきたのだから。そして、我々LGBT当事者はそれを止められなかったのだから。(おわり)

◎LGBTのダークサイドを語る
〈1〉トランス女性は女性ですか?[上]
〈2〉トランス女性は女性ですか?[下]

▼森 奈津子(もり・なつこ)
作家。1966年東京生。立教大学法学部卒。1990年代よりバイセクシュアルであることを公言し、同性愛をテーマにSFや官能小説、ファンタジー、ホラー等を執筆。
ツイッターアカウント:@MORI_Natsuko

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現在、釜ヶ崎では「あいりん総合センター」(以下、センター)周辺の野宿者追い出し裁判(現在上告中)のほか、こうした運動の盛り上がりへの弾圧を狙った監視カメラ弾圧事件裁判が闘われている。後者は、2019年4月のセンター閉鎖後、支援者らが作った団結小屋に不当に向けられた監視カメラに、ゴム手袋等を被せた延べ8名が逮捕、4名が起訴された事件で、大阪地裁で有罪判決が下されている裁判だ。うち3名が控訴したが、大阪高裁は、5月15日予定だった判決の言い渡しを延期すると伝えてきた。判決文が完成しそうにないとの理由だ。

裁判の争点は、カメラの方向変更の目的が何かで、原告の大阪府は、センター北西側の防犯対策のためで、カメラにゴム手等を被せたことは「威力業務妨害」に当たると主張、被告の釜ヶ崎地域合同労組・稲垣浩氏らは、大阪府、大阪市、国によるセンター閉鎖に反対する者たちへの弾圧、監視、威嚇であるとして無罪を主張した。

右端のポール上に設置された監視カメラが左端の団結小屋に向けられた

センターの解体、建て替え問題は、大阪維新の会の橋下徹氏が市長になって以降、急速に進められており、解体に向け2019年3月31日閉鎖予定だった。しかし、当日、大勢の仲間が抗議し閉鎖できず、4月24日強制排除されるまで自主管理が続いた。団結小屋はその後、支援者らが北西角に作ったもので、野宿者らとの共同炊事などが今も続けられている。

大阪府は、その後の4月26日、団結小屋近くで発生した放火事件をきっかけに、南側に向いていた監視カメラ(以下、本件カメラ)の向きを団結小屋が映る北西側に変えた。これに対して稲垣氏らは肖像権、団結権の侵害だとしてカメラにゴム手袋等を被せたが、その件で、同年11月と翌年3月に延べ8人が「威力業務妨害容疑」で逮捕、4人が起訴された。中には、偶然通りがかり、何をしているかわからないが、倒れたら危険だからと脚立を支えてくれた人もいたが、彼も含め全員で「現場謀議」したとされた。

2022年3月14日、大阪地裁は、カメラの方向変更の目的は、放火などを防ぐ防犯目的であるという大阪府の主張を認め、4人に最高で50万円の罰金刑を言い渡した。これに対して稲垣氏ら3人が控訴した。

以降、稲垣氏の「控訴趣意書」(弁護人・後藤貞人氏)から原告、被告のどちらの主張が正しいかを検証していく(なお【  】内は控訴趣意書からの引用である)。

センター西側に山積する不当廃棄物、西成特区構想が始まった頃は、それこそ西成警察が監視カメラで監視し、摘発のためすっ飛んできたのに

一審で、カメラの向きを変えた目的は防犯対策だったと証言したのは、当時大阪府商工労働部の芝博樹氏(以下、芝氏)だ。芝氏は「4月26日に放火事件が発生したことから、5月上旬頃から中旬頃にかけて、大阪労働局の担当者との間で防犯対策を協議し、放火事件が発生した旧あいりんセンター北西側の防犯対策のために、同センター北西側が映る方向に向きを変えることにした。(この件で)警察から要請を受けたことはなく、事前に警察に相談したこともないし、自分たちにも『団結小屋』を監視する意図は全くなかった」と証言。センター上階の社会医療センターの患者らに被害が及んでは危険だと「有毒ガス」「延焼」「非常に危険やな」等とリアルな説明で証言した。

しかし、芝氏らが患者の事を真剣に考えた形跡は全くない。被告の一人が「医療センターがセンターのどの階をしめているか」「センター西側に窓があるかないか」と質問したが、芝氏は全く答えられなかった。なお当日の同じ頃、センター東側でも放火が発生していたが、芝氏はそこが「センターの敷地外だから」との理由で関係ないというような証言をした。患者を心配するなら、玄関も窓もあり、炎が180センチも上がった東側の放火も確認すべきではないか。

【『危険性』に境界などない。燃え上がる炎に境界線がわかる訳でも、敷地外だから、敷地内の建物を避けて炎を上げようと、炎が自らを制御するはずもない】。

判決は、芝氏ら大阪府が東側の防犯対策を講じなかった点について「予算上の制約があったものと認められる」「制約の範囲内で優先順位をつけて防犯対策を行うことはやむを得なかったといえる」とした。これは事実だろうか。大阪府は、放火発生からしばらくは夜間巡回警備を行っていたが、芝氏が「制約がある」としたのは、それを継続することの予算上の制約を述べているにすぎず、西側、東側両方の防犯対策を行うには「予算上の制約がある」とは言っていない。優先順位をつけるなら、むしろ玄関も窓もある東側ではないか。

また芝氏は、協議で「新たにつけれるもんならできないか」とカメラ新設も検討したが、断念したと証言、しかし、その理由は新設に適切な場所がなかった等の問題で、ここでも「予算上の制約」で断念した訳ではない。

【つまり原判決は、証拠に基づかないで、ありもしない理由を造りあげているのである。以上のとおり、芝らが医療センターの患者の生命や健康を考えたということ自体が虚偽であり、口実に過ぎないことを証拠が物語っている】。

芝氏の証言からは、芝氏らが本件放火犯に何の関心も抱いていないことが判る。本当に患者のことが心配ならば、どんな犯人か、動機は何か、逮捕されたかどうか等に関心をもつはずだが、芝氏は全く関心を持ってない。

更に、カメラの向きを団結小屋などが映る方向へ変えたら、本当に防犯対策になるのかだが、その可能性は全くないといってよい。本件カメラはモニター室でモニターされていないため、放火があってもリアルタイムでその状況を確認し対処することはできないのだ。

【もし放火、失火があったとしても、直後どころか燃え広がった後でも、本件カメラは防火や人命救助にとって何の役にもたたない】

この事実が否定しがたいことから、芝氏は次にカメラは「抑止力」として一定効果はあると考えたと証言した。抑止力になるようカメラの向きを変えたというなら、 その前に現場周辺にどのようなカメラがあり、どのように機能しているか確認するはずだが、芝氏は、本件カメラ以外に「他にどんなカメラがあるかというのはわかりませんでした」と証言。南側の2台のカメラついて問われても「わかりません」、センター北側の西成警察署のカメラについても「あとになって、警察さんのほうから教えてもらいました」などと証言した。

なお、本件カメラを含むセンター周辺の監視カメラが、充分な抑止力になっていないことは、その後、南西路上の稲垣氏の大型バスが傷つけられる事件や放火が起こったことなどからも明らかだ。さらに「西成特区構想」開始時には、あれだけ躍起になって摘発していたゴミの「不法投棄」について、この間は一切関心をもたないのか、センター周辺ではゴミが「不法投棄」し放題にあちこちから持ち込まれている。あたかも「野宿者がいるから、町がどんどん汚れていく」と言わんばかりだ。監視カメラは役に立ってないぞ。

芝氏の証言に話を戻そう。芝氏は、「新たに(カメラを)付けれるもんならできないかと言うような検討はした」と証言。検討箇所はセンター仮庁舎のひさしとセンター北側の壁面で、前者に付けれないと考えたのは軒が崩れかけ危険だからで、後者はカメラから放火現場までの距離が長く、鮮明な画像が得られないからという理由からだ。しかし、この証言にこそ、彼らが真の狙いを隠そうと必死なのがよくわかる。

【芝のこのような供述は虚偽であるか、さもなければ完全に間が抜けている。というのは、新設するのであれば、最も適切な場所は目の前にあるからである。それは、本件の監視カメラが設置されているポールそのものである。同じ1本のポールに右図のように2個のカメラが設置できることは素人にもわかる】

【芝が『新設も検討したが設置場所として良いところがなかった』と供述していることを改めて想起すべきである。この事実は2つのことを示している。1つは、新しいカメラの設置を検討したという供述が虚偽であること。もう1つは、同じポールに監視カメラを設置して団結小屋等に向けることが、『火災を口実』にすることで誤魔化すことができず、『本音』である『稲垣氏らの監視』を露骨に表すのを恐れたことを示す】。

以上の通り、大阪府が本件カメラを団結小屋などが映る方に向きを変えたのは、決して防犯対策のためではない。それは口実で、本当の目的はセンター閉鎖に反対する人たちの監視、威嚇、弾圧のためだ。一方、カメラにゴム手等を被せた稲垣氏と支援者らの行為は、プライバシー、団結権の侵害から自らの権利を守るための正当防衛である。

6月14日の高裁判決に注目しよう!

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年7月号

樋口英明元裁判官は鹿砦社が発刊する脱・反原発季刊誌『季節』にもたびたびご登場頂いている。このたび女川原発差し止め訴訟仙台地裁判決について樋口元裁判官からメッセージを頂いた。共同通信発で加盟社に配信された原稿は大幅に論旨が削られているとのことで、デジタル鹿砦社通信向けに寄せて頂いた、特別のメッセージである。(田所敏夫)

樋口英明さん

◆5月24日仙台地裁判決について 樋口英明

仙台地裁は、5月24日、東北電力女川原発2号機の再稼働差止めを求めた住民らの請求を退けました。今回の訴訟で原告の住民らは、早期の判決を求めるために、放射性物質が外部に漏れる事故が起きる具体的な危険性を主張せず、「原発事故が起きた場合の避難計画に不備があるから原発の再稼働は認められない」と訴えました。それに対して、仙台地裁は「事故の危険性は抽象的なものにすぎない。事故発生の具体的な危険性の主張立証がない以上、避難計画の不備だけでは差止めは認められない」としました。

2021年3月の水戸地裁判決が「事故発生の具体的危険性が認められないとしても、避難計画が不備であれば運転の差止めが認められる」としたのとは真逆の判断です。

仙台地裁の裁判官は原発の本質が分かっていません。原発の問題は決して難しい問題ではありません。次の二つのことさえ理解してもらえればよいだけです。一つ目は、原発は事故の時も自然災害に遭った時も運転を止めるだけでは収束せず人が管理し、電気と水で原子炉を冷やし続けなければ必ず事故になるということです。二つ目は人が管理できなくなった場合の事故の被害は極めて甚大だということです。現に福島第一原発事故では停電しただけで、「東日本壊滅」の危機に陥りました。

水戸地裁はこのような原発の本質を理解していたから避難計画の不備だけで原発の運転を差し止めたのです。地震大国日本で、避難計画が整備されていない原発を稼働させるということは、何千人もの乗客を乗せたタイタニック号が充分な救命ボートを用意せずに氷山の浮かぶ大海原に乗り出していくようなものです。いつどこで氷山にぶつかるかはわからないとしても、救命ボートは乗客の人数に応じて充分な数を備えるのは当然のことです。救命ボートが不足していることは出港を許さない十分な理由になるのです。

仙台地裁の判決は避難計画の不備は問題にしないとするもので、上の例によれば、救命ボートが一隻もなくてもタイタニック号の出航を認めるということになります。仙台地裁の判決は、「これが福島原発事故後の判決か」と我が耳を疑うあまりにも無責任な判決と言わざるを得ません。

樋口英明さん

◆原発廃絶のために静かに闘う樋口元裁判官

樋口元裁判官は原発に極めて強い危機意識を持ち、講演で全国を行脚し、原発運転差し止め訴訟などにアドバイザーとして関わっている。3月15日には参議院議員会館で国会議員にも向けた講演が実施された。樋口元裁判官は言う。

「原発問題は簡単なことなんですよ」

60分で原発問題の導入から、最先端までを語り尽くす樋口元裁判官の解説は、中立かつ司法の判断者としての経験を踏まえたものであるだけに、極めて訴求力が強いと感じる。

樋口元裁判官は単なる語り部ではなく「聞く側」がどうすれば理解しやすいかも模索されている。本公演は通常スピードで視聴しても決して長くは感じないが、見る人のためには「1.5倍速で再生してください。それが見る人にとっては快適です」とコメントを頂いた。細やかな心配りはなにより「脱原発を実現しなければ将来はない」との危機感に依拠しているのではないかと感じる。是非ご覧いただきたい。


◎[参考動画]院内集会 映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』上映後の元福井地裁 裁判長 樋口英明氏 講演(2023年3月15日)

▼樋口英明(ひぐち・ひであき)
元裁判官。1952年三重県生まれ。京都大学法学部卒。2014年、大飯原発3、4号機の運転差止判決、翌年、高浜原発3、4号機再稼働差止の仮処分決定を出した。2017年8月退官。主著に『私が原発を止めた理由』(旬報社、2021年)。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

6月12日発売開始‼ 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2023年夏号(NO NUKES voice改題 通巻36号)

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0C6SZ247L/


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年夏号
NO NUKES voice改題 通巻36号 紙の爆弾 2023年7月増刊

《グラビア》原発建設を止め続けてきた山口県・上関の41年(写真=木原省治
      大阪から高浜原発まで歩く13日間230Kmリレーデモ(写真=須藤光男

野田正彰(精神病理学者)
《コラム》原子炉との深夜の対話

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》核のゴミを過疎地に押し付ける心の貧しさ

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》司法の危機 南海トラフ地震181ガル問題の重要性
《インタビュー》最高裁がやっていることは「憲法違反」だ 元裁判官樋口氏の静かな怒り

菅 直人(元内閣総理大臣)
《アピール》GX法に断固反対を表明した菅直人元首相の反対討論全文

鮫島 浩(ジャーナリスト)
《講演》マイノリティたちの多数派をつくる
 原発事故の被害者たちが孤立しないために

コリン・コバヤシ(ジャーナリスト)
《講演》福島12年後 ── 原発大回帰に抗して【前編】
 アトミック・マフィアと原子力ムラ

下本節子(「ビキニ被ばく訴訟」原告団長)
《報告》魚は調べたけれど、自分は調べられなかった
 一九五四年の「ビキニ水爆被ばく」を私たちが提訴した理由

木原省治(上関原発反対運動)
《報告》唯一の「新設」計画地、上関原発建設反対運動の41年

伊藤延由(飯舘村「いいたてふぁーむ」元管理人)
《報告》飯舘村のセシウム汚染を測り続けて
 300年の歳月を要する復興とは?

山崎隆敏(元越前市議)
《報告》原発GX法と福井の原発
 稲田朋美議員らを当選させた原発立地県の責任

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山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》原発利用促進のためのGX脱炭素電源法案の問題点

原田弘三(翻訳者)
《報告》「気候危機」論についての一考察

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家)
《対談》戦後日本の大衆心理【後編】

細谷修平(美術・メディア研究者)
《映画評》シュウくんの反核・反戦映画日誌〈3〉
 わすれてはならない技術者とその思想 ──『Winny』を観る

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
《報告》今、僕らが思案していること

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
《報告》亡国三題噺
 ~近頃“邪班(ジャパン)”に逸(はや)るもの
  三重水素、原発企業犯罪、それから人工痴能~

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
《報告》山田悦子の語る世界〈20〉
 グローバリズムとインターナショナリズムの考察

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の全力推進・再稼働に怒る全国の行動!
福島、茨城、東京、浜岡、志賀、関西、九州、全国各地から

《福島》古川好子(原発事故避難者)
福島県富岡町広報紙、福島第一廃炉情報誌、共に現地の危険性が過小に伝えられ……
事故の検証と今後の日本の方向を望んでいるのは被害者で避難者です!
《東電汚染水》佐内 朱(たんぽぽ舎ボランティア)
電力需給予備率見通し3.0%は間違い! 経産省と東電は石油火力電力7.6%分を隠している! 
汚染水の海洋放出すべきでない!
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
運動も常に情報を受信してすぐに発信することが大事
4月5日定例の日本原電本店行動のできごと
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
中電が越えなければならない「適合性審査」と「行政指導」
《志賀原発》藤岡彰弘(「命のネットワーク」事務局)
団結小屋からメッセージ付き風船を10年余飛ばし続けて
《高浜原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「関電本店~高浜原発230kmリレーデモ」に延べ900人、
「関電よ 老朽原発うごかすな!高浜全国集会」に320人が結集
《川内原発》鳥原良子(川内原発建設反対連絡協議会)
「川内原発1・2号機の九電による特別点検を検証した分科会」まるで九州電力が書いた報告書のよう
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
原発延命策を強硬する山中原子力規制委員会委員長・片山規制庁長官
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『3・11 大津波の対策を邪魔した男たち』(島崎邦彦・青志社)

反原発川柳(乱鬼龍選)

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

デジタル鹿砦社通信に掲載した記事、「読売新聞『押し紙』裁判〈2〉李信恵を勝訴させた池上尚子裁判長が再び不可解な判決、読売の独禁法違反を認定するも損害賠償責任は免責」(5月8日付け)(http://www.rokusaisha.com/blog.php?p=46605)を改編したので、改編部分とその理由を説明しておきたい。

この記事は、読売新聞を被告とする「押し紙」裁判(大阪地裁)の判決を解説したものである。判決は、原告の元販売店主の請求を棄却したが、商取引の一部分に関しては、読売による独禁法の新聞特殊指定違反を認定する内容だった。

今回改編したのは、判決文の取り扱いである。当初、原告の元店主の承諾を得た上で判決文を全面公開していた。ところが6月1日になってメールで、読売新聞大阪本社の役員室法務部部長・神原康之氏から、判決の公開を取り下げることを求める「申し入れ書」が届いた。その理由は、判決の中に読売社員のプライバシーや社の営業方針などにかかわる箇所が含まれていることに加えて、同社が裁判所に対して判決文の閲覧制限を申し立てているからというものだった。

確かに民事訴訟法92条2項は、閲覧制限の申し立てがあった場合は、「その申立てについての裁判が確定するまで、第三者は、秘密記載部分の閲覧等の請求をすることができない」と述べている。

裁判の審理が進んでいる中で、裁判所に提出された証拠類を含む書面に対して閲覧制限の申し立てが起こされ、裁判所がそれを認めることはよくあるが、判決に対して閲覧制限を請求した例は、わたしが知る限りでは過去に一件もない。判決文に対する閲覧制限は極めてまれだ。しかも、判決文は読売を勝訴させ、元店主の請求を棄却した内容である。

読売の神原氏が指摘するように、法律上では裁判所が判決を下すまでは判決文を公開できないルールになっている。それを理解した上で、わたしは削除に応じた。申し入れ書では削除の期限が6月5日の夕刻になっていたが、3日は削除を完了した。

しかし、裁判所が判決を下した後、判決内容によっては再度判決文を掲載する旨を伝えた。その際に読売が秘密扱を希望する記述を黒塗りにして、2週間を目途にわたしに提示するように求めた。次の回答書である。

 前略
貴殿の2023年6月1日付「申し入れ書」に対し、次のとおり回答します。
申し入れ書によると、御社は2023年4月21日付で、大阪地裁に対し判決文を含む訴訟記録の閲覧等の制限を申し立てられたとのことです。

それを前提に、その申立てがあった場合には、「その申立てについての裁判が確定するまで、第3者は、秘密記載部分の閲覧等の請求をすることができない」(民事訴訟法92条2項)との規定を根拠に、5月8日と30日に、インターネットサイト「MEDIA KOKUSYO」に掲載した、大阪地裁令和2年(ワ)第7369号等判決を、6月5日(月)午後5時までに、上記サイトからの削除を求めるとともに、その他媒体等での公開、頒布も控えるようにとの申し入れが為されました。

御社の担当者のプライバシーや御社の営業秘密に関する問題について、御社との間で無用な紛争に発展することは有害・無益と考えますので、当方は次の通り対応することと致します。

1 判決文のインターネットサイトからの削除について

申し入れどおり、6月5日(月)午後5時までに全文を削除することに同意します。

2 御社が求める削除箇所の特定について

本書面送達後、2週間を目処に、判決文のうち、御社が削除を求める箇所を黒塗りにした判決文をご呈示ください。なお、黒塗りにした部分について非開示を求める理由も、併せてご説明ください。

御社の非開示を求める部分が、裁判の公開原則や国民の知る権利を侵害しないかどうか、検討の上、今後の対応を決め、御社に御連絡することと致します。

なお、本書面到達後、2週間以内に前記2の回答をいただけない場合は、判決文全文の公開を了解されたものと判断させて戴きますので、あらかじめ御了解ください。

◆野村武範裁判長が判決予定

わたしは読売「押し紙」裁判の判決を書いた池上尚子裁判長が所属していた大阪地裁の民事24部に、読売が判決文に対して閲覧制限を申し立てていることが事実かどうかを確認した。対応した職員は、事実だと答えた。

「判決の時期はいつになりますか」

「おそらく来週には出ると思います」

「判決を下すのは、野村武範裁判長ですか」

「そうです」

野村武範裁判長とは、5月1日付けで東京地裁から大阪地裁へ異動して、民事24部に配属された裁判官である。池上裁判官から、この「押し紙」裁判を引き継ぎ、5月17日に、読売勝訴の判決を代読した人物である。東京地裁に在籍中は、産経新聞「押し紙」裁判を途中から担当して、産経新聞を勝訴させた人物でもある。そんな経緯があったので、わたしは野村判事が大阪地裁へ異動して読売「押し紙」裁判を担当したことを知ったとき、読売の勝訴を予測した。その予測は的中した。

その野村裁判長が今度は、読売が申し立てた判決文の閲覧制限を認めるかどうかの判決を下す。判決が下りしだいに結果を報告したい。

※野村武範裁判官と「押し紙」裁判については、6月7日発売の『紙の爆弾』(7月号)の「新聞の部数偽装 『押し紙』をめぐる密約疑惑」に詳しい。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年7月号

黒薮哲哉のタブーなき最新刊!『新聞と公権力の暗部 「押し紙」問題とメディアコントロール』

サーロー節子氏が「失敗」「原爆犠牲者を冒涜している」と批判した5月のG7サミット。広島の地と市民を存分に政治利用し、さらにゼレンスキー来日効果もあって岸田文雄政権の支持率を押し上げました。その直後の岸田長男・翔太郎氏の「官邸忘年会」スキャンダルで支持率上昇は帳消しとなったとはいえ、被爆地・広島で行なわれたG7をマスコミが「成功」と報じ、多くの国民がそれを鵜呑みにすることが、岸田軍拡を大きく後押しすることになります。同時に、中国の脅威も煽り、米国の核を日本に配備する下準備もさらに進むことに。自衛隊の敵基地攻撃能力保有に加え、同志国軍事支援「OSA」が紛争の可能性をさらに高めてもいます。

 

6月7日発売! 月刊『紙の爆弾』2023年7月号

まず、その状況を正確に伝える報道が皆無であることが問題で、そうである限り、この流れをどう食い止めるかといったことは、論じようがありません。そんな現状にあって、今月号では憲法について、小西洋之参院議員にインタビューを行ないました。小西氏は3月2日に、安倍晋三内閣が、放送法が規定する「政治的公平」の解釈改変を試みていたことを示す総務省の内部文書=安倍政権の言論統制の証拠を公表するも、衆議院の憲法審査会について「毎週開催はサルのやること」との発言が問題視され、参院憲法審の筆頭幹事を更迭。総務省が認めた文書を「ねつ造発言」と言い放った自民党・高市早苗元総務相は経済安保相として政権に居座っています。そんな小西氏が、改憲派による壊憲戦略である、憲法審の「毎週開催」の問題を具体的に解説しつつ、その策動を止める戦略を明かしています。また、これもマスコミは大きく報じませんでしたが、3月17日に総務省は高市氏らの放送法解釈改変を全面撤回しています。ならば安倍解釈改憲も撤回させることは可能。そもそも解釈改憲が、嘘と曲解によってなされたものであり、撤回しなければならないものだということを、本誌で明かしています。

とはいえ、「騙され改憲」が現実化する可能性は否定できず、政治における闘いがすべてと言えないのもまた現状です。6月号で電通の洗脳利用を採り上げたAIやChat GPTを挙げるまでもなく、自分の意思や思考に基づき生きることが、意識しなければ難しくなっているような気もしています。5月30日には研究団体「Center for AI Safety(CAIS)」が、AIによる人類絶滅のリスクに対する声明を発表、当のAI関連企業CEOをはじめ数百人に及ぶ専門家らが署名するなか、日本の能天気なAI信奉ぶりは、まるで日本国内がAI実験場にされているように見えます。さらにアップルの「AirTag」をはじめ、スマホを自動的に相互監視させる仕組みも、すでに社会に投入されています。警察庁に「サイバー特別捜査隊」が発足して1年以上経過したなか、警察と自衛隊を動員した国家による「ネット監視体制」についても7月号で解説しています。

ほか、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)「合同結婚式」現地ルポ、企業の「マスク・ハラスメント」など、7月号も盛りだくさんの内容です。『紙の爆弾』は全国書店で発売中です。ご一読をよろしくお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年7月号

LGBTがらみの人権問題に関心がある方なら、一度は「トランス女性は女性です」というフレーズをネットでご覧になったことがあるだろう。実際、ツイッターでは、現在確認できるかぎりでは2018年末から「#トランス女性は女性です」というハッシュタグが盛んに使われている。

 

2023年6月現在で確認できる、ハッシュタグ「#トランス女性は女性です」を使った最古のツイートは、2018年12月30日のもの

これは文字通り、「トランス女性は女性なので、女性として扱いましょう」という意味だ。ところで、今さらではあるが、「トランス女性(トランスジェンダー女性)」とは一体、どんな女性を指すのだろうか?

いまだに多くの人が、トランス女性を「男性として生まれたが、自分の身体の性別に耐えがたい違和感をいだきつづけ、性同一性障害と診断された後に性別適合手術を受け、体も戸籍上も女性になった人」と解釈しているように見受けられる。しかし、それは、LGBT活動家とその支持者が誘導する事実誤認に見事にはめられた結果だ。

事実は、以下の通り。

①性同一性障害の診断を受けていなくてもトランス女性
②性別適合手術どころか女性ホルモン投与すら受けていなくてもトランス女性
③戸籍上は男性でもトランス女性

そもそも、「トランスジェンダー」とはアンブレラターム(傘言葉)に分類される表現だ。聞き慣れない言葉だが、アンブレラタームとは、「ある共通点が存在するいくつもの言葉を傘のようにおおう表現」と説明される。

ゆえに、上記①②③の状態のような方々でも、「私の性自認は女性」と主張すれば、トランス女性になれる。なにしろ、「私の性自認は女性」と自己申告すること自体が、男性から女性へのトランスなのだから。

トランスジェンダー女性というアンブレラタームには、「私の性自認は女性」と自己申告しただけの身体男性から、性別適合手術を受けて戸籍も女性に変更した方までが含まれる。

ネットで「トランスジェンダー アンブレラターム」で画像検索すると、秀逸な傘の絵がいくつかヒットするが、ここでは、自作の図を「ご自由にお使いください」と公開してくださっている、千石杏香氏作のものをご紹介したい。

 

「トランスジェンダー」はアンブレラターム(図作成・千石杏香)

「トランスジェンダー」という傘の下には、「女装家」「男装家」や「女っぽい男」「男っぽい女」まで含まれている。そのような方々はホルモン投与や手術を受けてはいないどころか、性同一性障害との診断も出てはいないし、そのような自認もない。

「MtF(男から女)」「FtM(女から男)」は一般的に性同一性障害(トランスセクシュアル)を指すが、ぶっちゃけ、「私の心は女」と自称する身体男性、あるいは反対に「私の心は男」と自称する身体女性でも、そのカテゴリーに入る。自称なので、それが真実なのか偽りなのかは、第三者にはわからない。

「Xジェンダー」は女でもなく男でもないという性自認。実は、私は厳密にはこれに相当し、幼い頃から自分は女ではないという感覚が強かったが、とりわけ声高に宣言する必要は感じてはいない。

「性分化疾患(俗に言う『両性具有』)」に関しては、「トランスジェンダーの範囲に入れるな。私たちは男か女、どちらかである」と主張する当事者も多く、「両性具有」という表現も拒絶する人が多数だ。

「第三の性」は性分化疾患を表現する言葉ではあったが、今では身体の性だけではなく性自認(心の性)も含む。

以上のことから、筋肉ムキムキの大柄なヒゲ男であっても、「私の性自認は女」と主張するだけで、トランス女性になれるということが、おわかりいただけたかと思う。

実際、海外では、性別適合手術も女性ホルモン投与もせず、ヒゲ面に派手な化粧をした「トランス女性」が大勢いる。

主に欧米では、体は男性でも「私の性自認は女性」と主張すれば、法的に女性になれる(この制度を『セルフID制』という)国々がいくつもあるし、そんな彼らを「男」と呼ぶのは差別だ。下手すると、ヘイトスピーチで逮捕されたり、社会的に抹殺されたりもする。

ここで、実際のヒゲあり男性器ありのトランス女性の画像をご紹介しよう。

[左]イギリスのトランス女性活動家アレックス・ドラモンド。ヒゲあり。[右]こちらもヒゲのトランス女性。胸毛もペニスもある

[左]TikTokで自分語りをするヒゲのトランス女性。こんなビジュアルの方でも「おっさん」と呼ぶのはトランス女性差別とされる。[右]ブライダル雑誌のモデルにもなったインドのトランス女性活動家。体毛もヒゲもご立派

……ヒゲがない分、懐かしのドリフターズの女装のほうが女らしいと言えはしないか?

こんな人たちが堂々と女子トイレを使い、時には女湯に入り(米国の『Wi Spa事件』が有名)、出ていってくれと抗議の声をあげた女性たちを「トランス女性差別」認定して、オラついているのだから、大問題だ。

そして、日本でも、以前よりこの問題はちらほら浮上しているのである。

Wi Spa事件(No!セルフID  女性の人権と安全を求める会)

(つづく)

▼森 奈津子(もり・なつこ)
作家。1966年東京生。立教大学法学部卒。1990年代よりバイセクシュアルであることを公言し、同性愛をテーマにSFや官能小説、ファンタジー、ホラー等を執筆。
ツイッターアカウント:@MORI_Natsuko

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『ジャニーズ帝国崩壊』とは四半世紀も前に鹿砦社が出版した書籍のタイトルである(本多圭・著、1997年)。本年3月に放映された英国BBC放送が制作したドキュメント『PREDATOR』以降、まさに堰を切ったかのように、ジャニー喜多川による性加害の証言、批判、そしてジャニーが創設し、今やわが国屈指の芸能プロダクション・ジャニーズ事務所に対する批判が溢れ返っている。ここ半世紀余り権勢を誇ったジャニーズ帝国が、今まさに「崩壊」するかのようである。

 

在りし日のジャニー喜多川

わが鹿砦社は1995年、『SMAP大研究』出版差し止め以降、対抗上、告発系、スキャンダル系の出版物を陸続と世に送ってきた。『週刊文春』がジュニアの告白を中心にキャンペーンを張る以前からであるが、私たち以前にも北公次・著『光るGENJIへ』はじめジャニー喜多川未成年性加害について多数の告発本を出した「データハウス」を嚆矢としつつも、同社はしばらくしてジャニー告発系の出版をやめている(これは同社の名誉のために付言しておくが、決してジャニーズ事務所などからの圧力や懐柔があったからではない)。ここでも何冊かの企画・製作に関わったとする人物らが、『SMAP大研究』出版差し止めに対し裁判闘争に打って出た鹿砦社に企画を持ち込んできた。

以降鹿砦社は、平本純也『ジャニーズのすべて』(全3巻)、原吾一『二丁目のジャニーズ』(全3巻)、本多圭『ジャニーズ帝国崩壊』、豊川誕『ひとりぼっちの旅立ち』、鹿砦社編集部『ジャニーズの欲望──アイドル資本主義の戦略と構造』『ジャニーズの憂鬱──アイドル帝国の危機』『ジャニーズの躓き──壊れ始めた少年愛ビジネス』、伊藤彩子『ジャニーズ・プロファイリング──犯罪心理捜査』などが文春のキャンペーンまでに出版し、ささやかながら世に警鐘を鳴らし続けた。

この間に、社会的に大きな話題となった、いわゆる「おっかけマップ」シリーズがあり、このシリーズのうち『ジャニーズ・ゴールドマップ』(事前差し止めのため未刊)、『ジャニーズおっかけマップ・スペシャル』が出版差し止めとなり、最高裁まで争われた。むしろ、こちらのほうは大きく報じられたが、告発系の書籍のほうは、私たちの広報力不足のため、残念ながら、さほど話題にはならなかった。

そうして、対ジャニーズ訴訟がほぼ収束するのを前後して文春のキャンペーンと訴訟が始まったのである。

今、これらの書籍を、あらためて紐解くと、当時の、そして今に至る私たちの“奇妙な情熱”が想起される。その後も細々ながら告発系、スキャンダル系の出版を続けてきた。いまだ集計していないが、数十点にものぼる。その中の一つ『ジャニーズの憂鬱』では関連会社まで調査していて、現ジャニーズ事務所代表取締役・藤島ジュリー景子は、98年の時点で、このうち4社で取締役に就き、「ジャニーズ・エンタテイメント」では代表取締役を務めていることが、あらためて判った。

文春告発以前の鹿砦社のジャニーズ告発本の一部。左から平本純也『ジャニーズのすべて』(1996年)、本多圭『ジャニーズ帝国崩壊』(1997年)、伊藤彩子『ジャニーズ・プロファイリング ── 犯罪心理捜査』(1999年)

若き日の藤島ジュリー景子(右)と、古参の幹部ながら藤島メリー泰子から放逐された飯島三智(みち)

そうした調査、取材、編集、出版の経験により、メディアの中心・東京から遠く離れ、現在のマスメディアの狂騒状態を冷静かつ客観的に見てくると、今では違和感を覚えるし、マスメディアのご都合主義には呆れ果てる。当時は一切といっていいほど(『噂の眞相』や、その後告発に踏み切った文春など一部を除いて)全く無視した。それでいて、今頃になって「猫も杓子も」状態である。私たちの警鐘を無視し、未成年性的虐待を放置してきた大手メディアの責任は重大であり、取材・編集・製作に関わった記者・スタッフらの矜持こそが、まずもって強く問われるのではないだろうか?

ところで、ジュリー社長の動画での「謝罪」の翌々日の朝日新聞は社説で「ジャニーズ謝罪 これで幕引き許されぬ」と激しく批判している。いわく、
「多くの未成年が長期にわたって重大な人権侵害にさらされていた可能性のある深刻な事態である。広く大衆を相手に影響力の大きい事業を手がけてきたジャニーズ事務所には、ひときわ重い社会的責任が課せられていることを改めて自覚すべきだ。」

同 5月16日掲載「社説」

うむうむ、なるほど。文春の告発キャンペーンと訴訟、それに至る私たち、データハウス、『噂の眞相』などの相次ぐスキャンダル暴露や告発──朝日(及びマスメディア)は、これらに真摯に耳を傾けて来たのか!? 「ひときわ重い社会的責任が課せられていることを改めて自覚すべき」なのは、20年も放置してきた朝日新聞(及びマスメディア)だ。文春裁判でジャニー喜多川による未成年性加害が明らかにされながら(文春や小なりと雖も鹿砦社らわずかなメディア以外に)放置していた間にも性加害がなされていたことへの「ひときわ重い社会的責任が課せられていることを改めて自覚すべきだ」。今になって、あたかも知りませんでした、初めて知りましたなどというような姿勢こそ、まずは改めるべきだ。「これで幕引き許されぬ」!? この言葉は、ジャニーズ事務所と共に朝日新聞(及びマスメディア)に鋭く問われている。

◆「PENLIGHTジャニーズ事務所の性加害を明らかにする会」なる団体の正体と政治利用主義を断罪する!

ジャニー喜多川による未成年性虐待と事務所追及がメディアで沸騰しつつあるさなか、「PENLIGHTジャニーズ事務所の性加害を明らかにする会」なる正体不明の団体が突如現われ署名活動を開始した。記者会見に登場した「ジャニオタ」と称する2人、単なる素人のジャニーズファンではできそうにもない手際の良さ、賛同人に名を連ねた“いつもの人たち”などから、純然たるファンによる団体ではなく、なんらかの政治的目的、つまり政治利用主義に基づくものである匂いがする。記者会見に出た2人については、すでに氏素性が判明しジャニーズファンでないことも明らかになっている。


◎[参考動画]ジャニーズファン記者会見"ファンやめずに…"/1.6万人抗議署名に事務所が返答(2023年5月12日)

賛同人に名を連ねた人たち、仁藤夢乃、北原みのり、李信恵、辛淑玉らの名を見るだけでも、なんらかの政治的目的があることが判る。

仁藤夢乃は、この問題に関わるより前にColabo問題(つまりいまだにすっきりしない公金の使途についてもっときちんとすべきだ)に真摯に向き合うべきだし、北原みのりは草津温泉の冤罪事件や大学院生リンチ事件などに謝罪、釈明すべきだろう。李信恵は大学院生リンチ事件の大阪高裁判決で判示された、リンチに連座した「道義的責任」について責を果たすべきだし、この姉貴分の辛淑玉も大学院生リンチ事件に対して血の通った人間としての誠実な対応が待たれる。こうしたことなくして、いくら死んだ人間の責任や事務所の対応を批判してもダメである。

「PENLIGHTジャニーズ事務所の性加害を明らかにする会」の賛同人

それから、素朴な疑問として、仁藤夢乃のグループがこぞって、「PENLIGHT」に名を連ね関わっているのはなぜだろうか? 彼女ら4人が、これまでジャニーズ問題について言及したか? なにかしら邪な目論見を感じざるをえない。例えば、彼女らの要求の一つに「第三者委員会の設置」があるが、あわよくば自分らがその委員に収まろうとでもしているのか、といった邪推さえ浮かんでくる。

私たちは上記したように四半世紀に渡りジャニー喜多川の未成年性虐待、ジャニーズ事務所の諸問題などについて、一冊一冊は小さな部数だが、こつこつと多くの書籍、雑誌で言及、批判してきた。この誇りぐらいはある。バカはバカなりに四半世紀も続けてくれば、それなりに得る所はあろうというものだ。(松岡利康)

【追記】
5月26日、ジャニーズ事務所は再犯防止のために社外取締役を任命すると共に「心のケア相談窓口」の設置を発表した。後者のメンバーに林眞琴弁護士(元検事総長)がいる。この林弁護士は、Colabo理事でもある奥田知志牧師が理事長を務めるNPO法人「抱樸(ほうぼく)」が運営する「希望のまちプロジェクト」の「応援団」に名を連ねている。繋がっている!

PENLIGHTが第三者委員会に入り込もうとしているのではないかとの話もあながち馬鹿にできないようだ。なにやら信憑性が出てきたような感がある。注視していく必要がありそうだ。

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《急報!》明日3・7、英BBCが、ジャニー喜多川の性的児童虐待問題を放映! 鹿砦社が先鞭を切って暴露したジャニーズ・スキャンダルが遂に全世界に発信!
 
ジャニー喜多川未成年性虐待問題はどうなっておるのか?

20年遅れのジャニー喜多川未成年性虐待報道に違和感あり!

月刊『紙の爆弾』2023年6月号

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