◆日本の新聞がおかしいと感じた瞬間

黒薮 思い出すことがあります。日本の新聞がおかしいと最初に思ったのは、20代の終わりです。わたしは20代の大半を海外で暮らしたのですが、日本に帰って東京でアパートに入った、その日に驚くべき体験をしました。ドアを開けると、拡販員がいきなり洗剤を押し付けて「新聞を取ってくれ」と言ってきたのです。こうした新聞拡販を知らなかったので、「これで新聞記者の人は平気なのかな」と思いました。これが日本の新聞はどこかおかしいと感じた最初です。

田所 そこから黒薮さんはライフワークの「押し紙」の取材にとりかかられたのですか。

 

黒薮哲哉さん

黒薮 東京で普通の会社に就職したんです。そこに2年くらい居ましたがバブル崩壊で会社が潰れたので、それからメキシコで、メキシコ日産の通訳をした後、日本に戻り新聞業界の業界紙に入りました。「押し紙」に関わりだしたのはそれからです。

田所 新聞業界の業界紙だから、ど真ん中にいらっしゃった。内部事情が分かりますね。

黒薮 業界団体の中で不正経理事件があって、それを調べようとしたら業界紙の社長さんらがみんなで、「これは取材してはいけない」と決めてしまいました。そこで「それはおかしいのではないか」と言っていたら、クビになったんです。

田所 解雇ですか。

黒薮 解雇されたんです。解雇される前は私の仕事机だけを壁に向けておかれたりしました。

田所 精神的に追い詰める嫌がらせですね。

黒薮 事件を取材して発表したわけではありません。取材しようと少し動き始めただけでした。しかし、解雇されたのでフリーになりました。

田所 それくらい強固にアンタッチャブルな聖域なんですね。黒薮さんが読売新聞から訴えられたのは何年でしたか。

黒薮 2009年です。その時には既に「押し紙」関係の書籍も書いていました。

◆「押し紙」問題追及の先達たち

田所 本格的に「押し紙」の問題を書き始めたのはいつ頃でしたか。

黒薮 最初に記事を書いたのは1997年です。

田所 黒薮さん以前に「押し紙」問題を取り上げているジャーナリストはいましたか。

黒薮 1970年代に清水勝人さんという人がいました。これはペンネームで噂によると大新聞の販売局の人ではないかと言われています。この人が「押し紙」問題を暴いたことがあるのです。月刊誌に書いていたほか現代評論社から『新聞の秘密』という本を出しています。

清水さんが早い段階から「押し紙」問題を暴いているのですが、まったく見向きもされず、完全に無視された感じです。私も「押し紙」問題をかなり深く取材してから清水さんの存在を知ったくらいです。

それから次に、1980年代から沢田治さんという滋賀県の新聞販売店の労働組合の人が中心になって、「押し紙」問題を指摘しました。国会でも80年から85年までに16回にわたって質問がなされています。沢田さんが国会議員に資料を提供していたのです。

国会質問により「押し紙」問題は、解決するかと思いましたが、85年に質問が終了した頃は、景気が非常によくなっていて、販売店も「押し紙」があっても経営が行き詰まることはなく、「押し紙」についての議論がなされなくなりました。次にそれを始めたのが私です。

田所 ちなみに80年代の国会質問はどの党でしたか。

黒薮 超党派です。社会党、共産党、公明党です。

田所 では、野党超党派の質問ですね。

黒薮 超党派でいいところまで追及してくれました。

田所 今はむしろ与党内に地方議員ですが、黒薮さんの理解者がいますね。

黒薮 小坪慎也さんという福岡県行橋市の市会議員です。2020年佐賀地裁で佐賀新聞の「押し紙」を認定する判決が下りました。その時に取り上げたのはどちらかといえば右派系のネットのメディアでした。「押し紙」問題は、なぜか左派系のメディアもタブー視します。何を恐れているのでしょうね。

◆販売店にノルマ部数を強要する「押し紙」

田所 「押し紙」をご存知ない方々にどうして「押し紙」が問題なのか教えて下さい。

黒薮 「押し紙」は簡単にいえば新聞販売店のノルマ部数です。たとえばある販売店の新聞購読者が1000人だったとすると、1000部と若干の予備紙があれば充分なわけです。ところが1000部で十分に足りているのに無理やり1500部を販売店に押し付ける。この場合、500部がほぼ「押し紙」ということです。

 

田所敏夫さん

田所 販売店は新聞社から適性部数に何割増しかの部数を押し付けられて、買わされるということですか。

黒薮 そうです。「押し紙」により、実質的に新聞社の販売収入が増えます。

田所 私たちは購読料を払って新聞を読んでいますが、新聞社に払っているのではなく販売店に払っているのですね。

黒薮 販売店は自分たちのところに送られてきた新聞の購入代金を、新聞社に全部払わなければなりません。新聞社に「押し紙」に対しても請求を起こします。

田所 販売店にとっては負担ですね。

黒薮 大きな負担です。新聞社の側から見れば、「押し紙」により販売収入が増えます。読者の数よりも多い販売数を仮装することにより、新聞の公称の部数(ABC部数)が増えるので、紙面広告の媒体価値も高まるわけです。新聞社は、「押し紙」により、このような2つのメリットを得ます。

田所 100万人の購読者がいる新聞より150万人購読者がいるとされる新聞は、誌面広告の費用を高くとることができる。しかし150万人のうち、実際には100万人しか読者がいないとすればそれは詐欺ですね。

黒薮 それが「押し紙」問題の本質です。ところが販売店が実数以上の部数を仕入れることにより、利益を上げるケースもあるのです。それは新聞の折り込み広告の枚数と、販売店へ搬入する新聞の部数を一致させる基本的な原則があるからです。搬入された新聞の部数が多ければ、折り込み広告の種類が多い販売店では、「押し紙」があっても損をしません。折り込み広告による収入が、「押し紙」で発生する損害を相殺するからです。

田所 一方的に販売店が負担を被るだけではなく、販売店配達実数以上に折り込み広告代を依頼主に請求できるメリットもあると。

黒薮 今はそんなことはないですが、そういう時代もありました。一種の共犯関係です。先ほど述べたように国会質問が終わったのが1985年で、その後、「押し紙」問題が沈静化したのは、折り込み広告の需要が非常に高くなっていたので「押し紙」があっても販売店は損はしなかったという事情があったと思います。日本経済が好調だったからです。ところがバブルが崩壊し、新聞の価値がなくなってくるにしたがって、販売店が今までたくさん仕入れさせられていた「押し紙」が負担になってきた。しかし新聞社としては「今さら何を言っているんだ」という感じで、簡単に「押し紙」を減らしてはくれないわけです。(つづく)

◎遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫
〈01〉「スラップ訴訟」としての横浜副流煙事件裁判
〈02〉横浜副流煙事件裁判のその後 
〈03〉禁煙ファシズムの危険性 ── 喫煙者が減少したことで肺がん罹患者は減ったのか? 
〈04〉問題すり替えに過ぎない“SDGs”の欺瞞
〈05〉「押し紙」は新聞にとって致命的
〈06〉日本のタブー「押し紙」問題の本質を探る

▼黒薮哲哉(くろやぶ てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年4月号

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◆「電力のひっ迫」とは何か

2022年3月と6月に出された 「電力ひっ迫」注意報。これは東電管内のみに出されたが、理由は「需給バランスが崩れる可能性があった」からである。

電力は溜めることができない。蓄電池や揚水式発電があるといっても、それは物理的に別の形に変えている。常時送電網に流れている電力は需給バランスが取れないと停電する。

「電力」(ワット)というのは、 「電圧」(ボルト)と「電流」(アンペア)のかけ算で、これに時間を掛けると電力量(ワットアワー)になる。一般には 「キロワットアワー・kWh」と表現されているが、これはワットアワーの1000倍という意味。常時1キロワット消費する家電製品を1時間使うと1キロワットアワーの消費電力量になる。

今、問題になっている「ひっ迫」とは短時間で起こる「需給バランスの乱れ」である。キロワットとキロワットアワーの違いを理解できていないと、発電所を沢山造らなければ停電するといった間違った議論になってしまう。

電気には「同時同量」の原則がある。使用している瞬間に、同量の電力を送電していなければならない。もちろん、発電所からだけでなく蓄電池でもかまわないが、いずれにしても同量の電力を送電線に供給していなければならない。

発電量が大きすぎて需要を大きく超えると周波数が上がる。その反対に、需要に対して発電量が足りなければ周波数が下がる。いずれの場合も、機器の損傷を防ぐため変電所単位で送電が遮断される。これが大きな変電所にまで至れば「広域停電」になる。これが2018年に北海道で起きた。「ブラックアウト」の原因だ。

◆北海道ブラックアウトのメカニズムと対策は?

北海道で最大震度6強の地震「北海道胆振東部地震」が起こったのは2018年9月6日3時7分。当時、北海道全域で300万キロワット弱の需要があった。この地震と、それに続く送電システムのアンバランスにともない、3時25分に北海道電力の送電エリア全域におよぶ大規模停電(ブラックアウト)が発生した。

地震発生の直後に北海道で動いていた最大出力の発電所「苫東厚真火力発電所」が停止したことがきっかけであるが、しかしこれが停止したからブラックアウトになったのかというと、それだけではない。地震から数えて17分間で、水力発電所や、風力発電所も次々に停止してしまった(正確に言えば水力・風力発電などのシステムから送電する変電所や変換所が地震の影響や機器損傷防止のため供給を止めた)。

大まかに、以下のような順番でブラックアウトは発生した。

1.苫東厚真火力発電所(2号機・4号機)の停止(116万kW)
2.風力発電所の停止(17万kW)
3.水力発電所の停止(43万kW)
4.苫東厚真火力発電所(1号機)の停止(30万kW)
5.ブラックアウトの発生

苫東厚真火力が止まってしまったのは、地震の震源地に近かったため、機器の一部損傷が原因だった。一方、水力発電所は複数の送電線が遮断されてしまったことが電気を供給できなくなる原因になった。風力発電は周波数の低下により設備を保護するために停止した。このように、それぞれの発電所は、それぞれ異なる理由で停止してしまった。これらについて独自に対策を取る必要があり、単に発電設備を増やしたからといってブラックアウトを防げるという単純な話ではない。

北海道泊村にある泊原発(加圧水型軽水炉3基合計出力207万kW)は現在新規制基準適合性審査中で運転を停止しているが、これが動いていたらブラックアウトを避けられたという説もある。その場合は苫東厚真火力は止まっていることが前提だ。きっかけがなければ起こらないのは道理だ。しかし、そういう議論をするのであれば、苫東厚真火力発電所の直下で地震が起きたように、泊原発直下で地震が起きることを想定しなければならない。その場合、 地震で原発は全部停止する(地震の直撃を受けなくてもおおむね震度5強で自動停止する)。震度6もの地震で止まった原発は、仮に損傷していなくても簡単に再稼働できない。何らかの損傷があれば復帰にも年単位の時間がかかる。万一、地震で大規模放射性物質拡散事故が起きてしまえば、最悪の場合福島第一原発事故のような原発震災を覚悟しなければならない。これでは問題の解決にはならない。

自然災害以外でブラックアウトが起きるとすれば、それは「系統崩壊」と呼ばれる需給バランスの崩れが原因である。

送電系統全体で発電能力不足が発生した場合や、送電線の容量不足で発生する。電力網では送電系統内のすべての発電機が協調して周波数と電圧を維持していなければならない(同時同量)。

もし周波数が一定範囲を外れると発電機は自動的に系統から遮断される。これを「脱落」という。系統内発電機がすべてフル出力運転していた場合、どこかで発電機トラブルが発生し供給能力の不足が生じると、脱落した発電機の分を他の発電機のオーバーロード(出力超過運転)などでカバーしなければならない。間に合わなければ系統全体が周波数低下を引き起こす。

北海道のブラックアウトの場合、本州と北海道をつなぐ「北本連系線」の容量が当時60万キロワットしかなかった。現在は90万キロワットある。

ブラックアウトは、北本連系線から多くの電力を供給できていたら回避できたと考えられる。

大きな発電機が脱落すると、供給が大きく不足するため周波数低下が大きくなり、遮断した先の需要停止だけでは追いつかなくなる。これが「系統崩壊」に至る理由だ。

2022年3月の東京電力管内で約209万戸の停電では、全域が系統崩壊しないようにあらかじめ部分的に負荷を遮断、つまり送電を止めた。送電系統は変電所により地域的に区切られていて、部分的に遮断することができる。2011年3月の震災時の計画停電もこの仕組みによる。

◆電力ひっ迫に発電設備の増強は正しいか?

現在の日本では、電力のひっ迫は長くても数時間程度の範囲である。これを発電電力量の不足と捉えるのは間違いだ。

需給ひっ迫対策は、発電設備の増強では解決しない。原発を増やしたら解決するという問題ではない。原発を増やせば、その分他の発電設備を止めている。電力会社は設備の維持管理に莫大な出費をしているから、原発を動かす場合は、その分火力などの他の設備を廃止したり停止したりすることになる。結局、供給力は変わらない。

日本の電力需要は2007年頃をピークに急激に低下している。

国際エネルギー機関のデータでは2007年に「1077テラワットアワー(以下、テラワットアワーを省略)」あった年間電力消費量は、2021年に「916」と「161」、約15%も低下している。これはウクライナの1年分の「124(2021年)」よりも多い。なお、 日本は1997年が「915」である。23年を経て同程度の電力消費量にまで下がった。

今後も、少子高齢化と人口減少が続くから、2050年にはさらに減少し、「700」前後まで減少すると想定されている。これは現在よりも22から26%も低下する量で、今後も発電設備の増加は必要ないことが分かる。

近年、政府による脱炭素の促進とウクライナ戦争に伴うエネルギー価格の高騰で、電気料金は2割以上も値上がりするなど、省エネルギーへのインセンティブは高まっている。

その対策として、産業も家庭も電力消費量を削減する取り組みが進む。電力会社は縮小する電力料金収入対策として、エネルギーの効率的利用や送電ロスなどの削減、未利用エネルギーの活用が、より1層取り組まれる。この取り組みに逆行するのが、現在の「電力ひっ迫」を口実にした原発の最大限利用政策である。(つづく)

本稿は『季節』2022年冬号掲載の「経産省『電力ひっぱく』のからくり」を再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

◎たんぽぽ舎 https://www.tanpoposya.com/
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『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年春号
NO NUKES voice改題 通巻35号 紙の爆弾 2023年4月増刊

《グラビア》福島発〈脱原発〉12年の軌跡(写真=黒田節子
      東海村の脱原発巨大看板(写真=鈴木博喜

樋口英明(元裁判官)
《コラム》原発回帰と安保政策の転換について

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》戦争は静かに日常生活に入って来る
《講演》放射能汚染水はなぜ流してはならないか

乾喜美子(経産省前テントひろば/汚染水海洋放出に反対する市民の会)
《アピール》放射能汚染水反対のハガキ作戦やっています

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
《講演》懲りない原子力ムラが復活してきた
日本の原子力開発50年と福島原発事故を振り返りながら

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福島第一原発事故 12年後の想い
森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream[サンドリ]代表)
あなたは「原発被害」を本当に知っていますか
黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
フクシマは先が見えない
伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
何を取り戻すことが「復興」になるのか
今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
呆れ果てても諦めない
佐藤八郎(飯舘村議、福島県生活と健康を守る会連合会会長、生業訴訟原告団)
私たちが何をしたというのか
佐藤みつ子(飯舘村老人クラブ副会長、生業訴訟原告団)
悔しさだけが残ります
門馬好春(30年中間貯蔵施設地権者会会長)
中間貯蔵施設をどうするか
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鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
区域外避難者はいま

水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
裏切られた2つの判決
福島原発刑事裁判と子ども脱被ばく裁判

漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
病気になったのが、自分でよかった
311子ども甲状腺がん裁判第3回・第4回口頭弁論期日報告

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家/舞踏家)
《対談》戦後日本の大衆心理[前編]

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
反社はゲンパツに手を出すな!

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
突然のごとき政治的変更を目前にして

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈19〉
2023年に生きる私が、死について考える

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
「規制をやめた」規制委員会に怒り! 山中委員長と片山長官は辞任せよ!

《全国》永野勇(再稼働阻止全国ネットワーク)
総攻撃には総力を結集して反撃を!
「福島を忘れない!原発政策の大転換を許すな!全国一斉行動」の成功を!
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
岸田政権による原発推進政策に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止を!
《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
「環境汚染」から「裁判汚染」まで 多岐にわたる汚染
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東海第二原発差止訴訟・控訴審決起集会に参加して
《東海第二》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東京に一番近い原発=東海第二原発 2024年9月の再稼働を止めるぞ!
《東京》平井由美子(新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会)
環境省が新宿御苑へ放射能汚染土を持ち込もうとしている!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
5月27日反原発自治体議員・市民連盟第13回定期総会へ
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 編
 
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このところインターネット上で、化学物質過敏症の診断書交付をめぐる問題が炎上している。一部の医師たちが、問診を重視して「化学物質過敏症」の病名を付した診断書を交付することの是非をめぐる議論である。発端は横浜副流煙裁判だ。デジタル鹿砦社通信で報じてきた「禁煙ファシズム」をめぐる一連の報道である。

議論とも罵倒ともつかないツイートの集中砲火を浴びているのは、藤井敦子さんと舩越典子医師である。藤井さんは、横浜副流煙事件の被告の妻で、裁判に勝訴した後、作田医師らに対して約1000万円の損害賠償を請求する「反スラップ」訴訟を起こした。みずからのブログでも裁判の経緯を発信し続けている。

また、舩越医師は、化学物質過敏症の専門医である宮田幹夫医師による診断書交付を告発した経緯がある。この2名が、ネット上の「袋叩き」のターゲットになっている。2人に対するツイートは、もはやわたしとしても傍観できない領域に達している。プライバシーにまで踏み込んで、罵倒を吐き散らしているからだ。

たとえば、次のような調子である。

私、英語の教員免許持ってるけど、YouTubeで聞いた限り、あの人(藤井さんのこと)の発音って、ネイティブ並ではないよね。所詮、日本人英語。人のこと言えないけど。 あの程度で発音を堂々と教えられるなら、私でも教えられそう。(いち)

藤井氏は(注:煙草の被害を訴えている隣人の症状について)心因性のものだと主張していますが、もしA家の人が本当に化学物質過敏症でなく心因性で妄想が入った統合失調症なら命の危険がありませんか?
どちらがいい悪いでなく精神病の人に目をつけられたら全力で逃げた方がいいです。でないと殺傷事件に巻き込まれるかも。(いち)

「いち」なる匿名人物による藤井敦子さんに対する罵倒・中傷ツイートの一例

これらのツイートを読むだけで投稿者の情緒が不安定であることが感じ取れる。発達障害かも知れない。投稿者が青少年であればともかくも、おそらく分別があるはずの成人である。

議論が炎上している背景に、4月末で宮田幹夫医師がそよ風クリニックを閉鎖するに至った事情があるようだ。閉鎖に伴い、患者は従来どおりに診断書交付を受けられなくなる可能性がある。診断書がなければ、障害年金の更新手続きもできない。その怒りが、藤井さんと舩越医師に向かって爆発しているのである。攻撃は終わる気配はない。はからずもわたしは、禁煙ファシズムの実態を目の当たりにすることになった。

過去にもSNS上の炎上現象はある。故三宅雪子氏による炎上、ネットウヨによる炎上、カウンター運動による炎上などである。このうちカウンター運動による炎上には、わたしも巻き込ま荒れ、「差別者(レイシスト)」のリストに入れられた。反共の極右主義者ということになっているらしい。

◆作田医師、「事務の女の子ににおいをかいでもらいました。」

炎上の中心にいるのはたいてい市民運動を展開している人々である。市民運動は、共通した趣味や思考を持つ人々の集合体で、同じ社会運動体と言っても、地域社会に根付いた住民運動とは根本的に性質が異なる。市民運動は、無責任で軽薄で感情的というのがわたしの評価である。社会通念からずれた要素があり、病的なものさえ感じる。

 

日本禁煙学会の作田学理事長(写真出典:日本禁煙学会ウェブサイト)

たとえば、喫煙撲滅運動の先頭に立ってきた日本禁煙学会の作田学理事長は、2月8日に行われた横浜副流煙裁判(反訴)の本人尋問で次のような奇妙な証言をしている。証言そのものが正気とは思えない。証言を引用する前に、若干事情を説明しおこう。

横浜副流煙事件の審理が進んでいたころ、藤井敦子さんは、近隣住民の酒井久男さんの協力を得て、作田医師の外来へ潜入した。酒井さんに繊維に対するアレルギーがあるので、作田医師の診断を受けてもらい、同伴して問診の様子などを「取材」するのが目的だった。被告家族としては、当然の情報収集だった。提訴の前提となった診断書を交付した作田医師の力量を見極める必要があった。

作田医師は、酒井さんが繊維に対するアレルギー体質を訴えたのに、「受動喫煙症」の病名を付した診断書を交付した。

以上の経緯を前提に、法廷での作田医師の証言を引用しよう。

弁護士:あと、サカイさんの診断書というのがちょっと問題になっているんですけど、お分かりになりますか。

作田医師:うさんくさい患者さんでした。

弁護士:記憶は、残っていますか。

作田医師:はい。

弁護士:どういう記憶として残っていますか。

作田医師:患者さん(酒井さんのこと)が退室しまして、書類を整理しているときに、ふわっとたばこのにおいがしたんです。それで、ひょっとして間違いかと思って、外から事務の女の子を呼んで、それで、一生懸命においをかいでもらいました。そしたら、やっぱりこれはたばこのにおいだと。それで、これはいけない、(略)1丁目1番地が間違えた診断書を出しちゃったということで、すぐに戻ってもらうように探してくれと言って、そうしたら、事務の女の子は、一生懸命小走りになって外へ出ていきました。それで、私は、そこにある使用モニターを準備して待っていましたが、いつになっても帰ってこないので、恐らく医事課、あるいは全館コールもしたと思います。しかし、いなかった。それで、これはもううさんくさい人だなあと思いました。

作田医師は、書類の整理をしているときに、煙草の匂いがしたので、「事務の女の子を呼んで、それで、一生懸命においをかいでもら」ったというのだ。たとえ一瞬、煙草の匂いがしたことが事実であっても、自分が感じた匂いを、呼びつけた「事務の女の子」にかいでもらって確認できるはずがない。まして酒井さんが退出して若干の時間が経過しているのである。匂いをかぎ分けることなど、警察犬にしかできないだろう。人間にはそれほど繊細な臭覚がない。

作田医師の証言は、わたしには奇行としか思えない。勝手な思い込みをしているのである。

このように裁判の証言にもツイッターの内容にもわたしはどこか病的なものを感じる。しかし、これが市民運動の実態なのだ。

市民運動が常道を逸している理由は、運動目的が団体や個人の利益獲得に結び付くからだろう。会員を増やすことで、組織の会費収入を増やすとか、診断書交付を容易にするとか利己的な目的があるからだとわたしは思う。

その構図にメスを入れようとすると、舩越医師や藤井さんのように袋叩きにあう。暴力が行使されないのは、まだ不幸中の幸いである。

◆無資格者が生理検査

ちなみにそよ風クリニックにも、市民運動に特徴的な問題がある。それはクリニックと自然食品の会社が親密な関係にあることだ。そよ風クリニックの下階には、自然食品の商店がある。当然、その風クリニックを受診する患者は、この店の格好の客となる。しかも、宮田医師は化学物質過敏症は完治しないという立場を取っているわけだから、自然食品店にとっては、これほど好都合なことはない。

また、そよ風クリニックでは、眼球運動などの生理検査を栄養士が実施している。当然、正確に生理検査が行われているのかという疑問がある。横浜副流煙裁判に提出された宮田医師による患者のカルテを、舩越典子医師は次のように批判する。

「裁判に提出されたカルテによると、眼球運動の検査は、検査器機の不調を理由に目視で行っています。目視での検査結果は信頼性が低いため、器機の修理が終わった段階で検査器機を用いた検査を行うべきであったと考えます。検査器機の不調についてカルテ記載はありませんでした。敢えて目視による検査を採用した疑いも否定できません。そよ風クリニックにおける神経性学的検査は栄養士のAさんが実施しています。彼女は医師でも臨床検査技師でもない、管理栄養士です。無資格者による検査は違法です。違法行為により得られた検査結果を横浜副流煙裁判の証拠として用いる事は言語道断です」

これに対して宮田医師は、書面で次のように反論した。

「この病気の患者さんは体に薬を付けたりすることを極端に嫌がります。眼球運動の測定では通常の方法では薬剤を塗るか、コンタクトレンズを装用するかの方法ですが、単に眼鏡を掛ける様に改造した装置を使用しています。眼鏡屋さんの眼鏡の試着と同じ程度の負荷しか患者に掛からない装置ですので、まったく問題ないと思います。もちろん私の指揮下です。」

◎禁煙ファシズム関連過去記事 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=114

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2023年3月26日、統一地方選挙の広島市長選挙が告示されました。広島市長選挙に立候補されたのは以下の3人の方々です。

 

 

無所属で自民、公明、連合広島が推薦し、立憲民主党などの議員も支援する現職の松井一実さん。無所属で新人のSF作家、大山宏さん。そして日本共産党公認の高見あつみさんです。

◆参院選広島再選挙でのライバル・大山候補

筆者は、今回の市長選挙では、大山宏さんを応援しています。大山さんと筆者はかつて、「ライバル」の関係でした。

筆者は、2021年4月25日執行の河井案里さんの当選無効に伴う、参院選広島再選挙に立候補。20848票で6人中3位でした。その同じ選挙に大山宏さんも立候補し、13363票を獲得して5位でした。

大山さんは、選挙費用はこのとき、供託金を除いてたったの10万円しか使いませんでした。手製のポスターを公営掲示板に張って歩くだけ。演説もなし。そんな選挙でした。大山さんは、彼なりに金で票を買った河井案里さんへの対抗軸を示したのです。しかし、失礼ながら筆者も「そうはいっても、選挙カーは回して、主張を県民に届ける必要はある」と考えていました。

その後も、衆院選2021広島3区(6人中4位3559票)、東広島市長選挙(5606票、2人中2位、ただし、得票率15%と健闘)と徹底して金をかけない選挙に挑まれた大山さん。彼には脱帽しました。徹底した彼の根性には、筆者も脱帽したのです。

◆筆者が県議選立候補を前に支援を要請

筆者は、広島市長選と同時に行われる広島県議選に案里さんの地盤である広島市安佐南区選挙区での立候補を無所属・れいわ新選組推薦で予定しています。2022年秋、ライバルでもあった大山さんにも、ご支援をお願いしました。大山さんは衆院選2021では安佐南区で2000票以上を獲得されており、筆者の勝利には大山さんとの連携は不可欠だったからです。それから、交流がはじまりました。

◆県議選東広島選挙区から広島市長選挙へ転進

当初、大山さんは県議選・東広島選挙区での立候補を予定されていました。しかし、広島市長選挙で市民団体が候補者擁立を断念。無投票の恐れも出てきました。そうした中で、大山さんが急遽、広島市長選挙に転進するとともに、県議選東広島選挙区では、配偶者の大山はるえさんが立候補することになりました。

その後、共産党が公認候補を擁立しました。しかし、失礼ながら、共産党の濃い支持層以外から得票することはこれまでの歴史から考えても難しいことは想像つきます。現職の松井さんは市政の中身は芳しくありません。

けれども選挙だけは上手な方です。松井さんに勝つのは誰が出ても難しい。しかし、対抗馬の合計で得票数を伸ばすことで松井さんの得票率を下げられれば、市政に緊張感をもたらすことになります。

◆市長選挙でもコピー用紙のポスターを張って歩くのみ

大山さんは、広島市長選挙でもお金をかけないことは徹底しています。参院選広島再選挙と変わらず、トラックで回って、コピー用紙のポスターを張って歩くのみです。

わたしは、告示日の26日10時、大山さんと広島城北東の公園でお会いしました。

◆街宣は筆者が「応援演説」の形で担当

筆者が立候補予定の県議選は3月31日告示です。したがって、30日までは、「大山候補への応援演説」という形で街宣を安佐南区各地で担当することにしました。筆者が、大山陣営の運動員という形で腕章をし、筆者のハンドマイクに選挙運動用拡声器の標記をかぶせ、街頭演説用の旗も筆者が持って、各地を回ることにしました。候補者にはポスターを張りに専念していただくことにしました。

 

 

以下は筆者の応援演説の概要です。

「広島県の人口流出は二年連続全国ワーストワンだ。なぜそうなったか?」

「広島ではお金がある人、組織がある人しか選挙に受かってこなかったからではないのか?その結果、政治が市民・県民のニーズとかけはなれ、若い人から流出していく結果になっているのではないか?」

「現職市長の松井さんは駅前開発には熱心だが、安佐南区の道路はボロボロの個所も多い。広島土砂災害2014の被災地で、防災工事がまだ完了していない地域も少なくない。安佐南区は広島では珍しく人口が増えている。人口が増えている地域に投資をせずに、駅前ばかりに熱中するのは一市民として疑問だ。」

「松井さんは、法的な根拠もつくらずに、学童保育の有料化を強行したり、アンケート結果を無視して図書館移転を強行しようとしたりしている。」

「広島市は特養が不足しているが民間がどこも手を上げないという。それならば、公営でやるべきだろう。しかし、松井さんは手をこまねいているだけだ。さとうしゅういちは大山市長と県市連携で公営の特養をやるよう提案する。」

「はだしのゲンや第五福竜丸の記述も、松井さんが任命した教育長率いる市教委の暴走で削除された。アメリカへの忖度ではないのか?広島市政がこんなことではG7サミットで核廃絶への成果を出すなど無理。岸田さんも本気にならない。」

「安佐南区は河井事件の震源地だ。とくにこの安佐南区の皆さんがお金を徹底的につかわない大山宏を支持していただくことが、汚名返上につながる。」

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

3月21日岸田総理がウクライナを訪問した。大手メディアには「G7議長国としての面目」だの「遅すぎた訪問」という的外れな見出しで報じているけれども、そもそもいま日本政府は日本国籍保持者に対して、ウクライナへの渡航や滞在をどのように位置付けているのか。外務省の「海外安全ホームページ」ではウクライナについて下記の記載が公表されている。

外務省の勧告によれば、

ウクライナ全土に対して引き続き危険レベル4の退避勧告を発出しています。どのような目的であれ、ウクライナへの渡航は止めてください。また、既に滞在されている方は、安全を確保した上で、直ちに退避してください。

外務省(日本国政府)は、日本国籍保持者に対して、「どのような目的であれ、ウクライナへの渡航は止めてください」としたうえ、赤字で「退避してください」と勧告をしている。

外務省HPより

レベル4は危険情報の中でも最も高い危険度を示すそうで、法的拘束力はないものの、国が発する「公的な危険を示す情報」である。ところが片一方で「危険だから渡航するな、退避せよ」と勧告を出している国に、首相が出かけていくのは矛盾ではないか。

岸田が、万が一にも、ウクライナーロシア間の戦争を見かねて、停戦か終結に向けて、「わが身の危険怖れず平和を実現する!」との崇高な目的でキエフへ赴いたのならな疑義を差しはさむのは無粋に過ぎようが、当然ながら岸田が発したメッセージからはその様な意図は全く感じられない。

おかしいじゃないか。外務省すべからく自国民に「渡航を止めてください」と発信している国に総理大臣が出かけていくのは。

例によって当事者の見解を聞かなければならないので、24日外務省に電話をして、わたしの疑問を聞いてみた。最初にかけた電話では肝心の質問に及ぶと長時間の保留音を聞かされた後、一方的に切られてしまった。再度外務省の代表番号にかけ直し、ようやく会話の成立する部署に繋がった。

◆外務省担当者に一問一答──「こればかりは私の口から『困る』とは言えないので」

田所 ウクライナは「どのような目的であれ渡航を止めてください」と書かれています。これは間違いありませんか。

strong>担当者(女性) はい。

田所 先週総理大臣がウクライナを訪問しました。これは問題ないのでしょうか。

担当者(女性)そういう報道は伺っています(不貞腐れた口調)。

田所 国会でも総理は語っているので事実は間違いないと思いますが、総理大臣が「渡航止めましょう」という国に行くことが、外務省としては問題はありませんか。

担当者(女性) それについてはこちらからお答えできませんけど、総理大臣のウクライナ訪問についてお伺いしたいということで間違いないですか。

田所 日本人にウクライナから速やかに出てくださいと書かれています。日本人とは日本国籍を持っている人でしょう。そこに「ウクライナにいてはいけない、出てください」と書かれているので、総理大臣は例外として考えられるのかどうかを教えて頂きたいのです。

担当者(女性) 少々お待ちください。

その後2分ほど保留で待たされ、滑舌の良い男性が電話に出た。既に質問した内容の概要を再度質問すると、

担当者 今回総理に対しては滞在中に充分な対策を講じたうえで訪問している、ということがありますので、それをもって一般の方が行くのはまた違うのかなと思います。ただ依然としてロシアによる軍事活動は続いているので、空襲警報が出る状況ですので危険であることに変わりはないと思います。

田所 日々の報道などを見ていてもそう感じます。ところで細かいことなので恐縮ですが外務省のホームページで具体的な注意事項が書かれています。「軍事、空港、変電所や貨物ヤード等の鉄道関連施設等には近づかない。」と書かれています。岸田総理はポーランドから鉄道で移動されましたね。これは注意事項で指摘されている行為ではないですか。

担当者 はあ、はあ、はあ。

田所 具体的に「鉄道関連施設等には近づかない」とアドバイスされている方法で移動されました。これはどう理解したらいいのでしょうか。

担当者 今回の総理訪問についは担当課が違うので、詳しいことはわからないのですが、常識的にはウクライナ政府による警護もついていたかと思いますので、一般の邦人の方が渡航されるのと、政府の要人として警護を付けていくのを同一視するのは難しいのかなと思います。

田所 ただ現地は戦争状態ですので、危険の要因は内乱ではなくロシアによる攻撃ではないですか。ウクライナに警護してもらってもロシアがミサイルを撃ってきたら意味はないのではないでしょうか。総理大臣がウクライナを訪問すれば、それ以外の人もウクライナに行って大丈夫だとのメッセージとして受け取る余地はありませんか。

担当者 それはまったく違うので、現地は依然として空襲警報が鳴る状況ですし、最近もミサイル等の爆撃で亡くなっている人もいらっしゃるので、そこは同一視はできないのですが。

田所 私自身はウクライナには行きませんが、外務省の注意情報は、ありがたいと思っています。外務省のトップは外務大臣ですね。外務大臣の任免権は総理大臣にありますね。せっかくこのようにつまびらかな情報を外務省のかたが一生懸命集めて発信していらっしゃるのに、その情報発信と違う行動を総理大臣がしてしまうと、メッセージが混乱しませんか。

担当者 そうですね。

田所 現地で安全を講じたうえで総理大臣が行かれているのは勿論でしょうが、戦争をしているところに行くわけですから、例えば野党の国会議員やNGOのひとたちだって「総理大臣が行ったんだから、私たちも」と考えて不思議はないでしょう。私は詳しくありませんが今までこのような例はあるのでしょうか。

担当者 議員先生の例で言いますと昨年お二方、行かれた方がいらっしゃいまして、その時に関しては事前に外務省・政府への相談はなかったので、そのあと官房長官から記者会見で「遺憾である」と発言されていると思います。

田所 勝手に行ってしまったということですね。

担当者 そうですね。あとは現地で大使館が再開している状況でして現地政府とのやり取りであったり、邦人の保護の観点からも現地の大使館は再開しています。それに伴い大使や外務省職員は現地に滞在している。それについては勿論充分な安全対策をとっています。安全対策を取ったうえでやむを得ず政府としての務めを果たすために現地に駐在しているところです。

田所 それはわかります。現地大使館は再開しているけれども、通常業務はやっていないと発表されていますね。外務省の方が危険を冒しながら現地におられることは知っています。そのように「危険度が高い」と警告している国に総理大臣が行ってしまうと、解りにくいメッセージを発してしまうというのが私の疑問です。

担当者 そうですね。それについては引き続き危険度を発信してゆく必要があるのかなと思います。

田所 つまり、今回の総理ウクライナ訪問は、外務省としても説明しずらい状況でしょうか。

担当者 まあ、そこは、なかなか難しいところではあるんですが。安全対策を講じているという部分に対しては、私の方ではどのような安全対策であったのかははっきり把握できない。

田所 そうですね。安全対策と言ったところでウクライナに安全対策を要請してもロシアと戦争をしているのですから、間違えてということもあり得ますね。総理大臣がウクライナに行ってしまうと、国民には「危ないから行くのは止めましょう」と教えて頂いていますが、解りにくいとの感覚はご理解いただけますか。

担当者 もちろん。

田所 外務省の方としては「ちょっと困った」状態ということでもないですか。

担当者 まあ、こればかりは私の口から「困る」とは言えないので。

◆岸田ウクライナ訪問は平和外交や停戦を目指したものではない

つまり、岸田のウクライナ訪問は平和外交や停戦を目指したものでも、邦人保護のためでもなく、やはり戦争終結や平和達成とは程遠い「自己顕示」のためだったと結論付けてよかろう。

ロシアのウクライナ侵攻からはじまった21世紀の「古典的国家間及び軍事共同体の権益維持並びに軍事産業支援」のための戦争は、かくしてまたしても本質が覆い隠されようとするのだろう。「法による支配」を語る価値のない人間は次にどんな愚行で私たちを仰天させるのだろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)

テレビから引っ張りだこだったアメリカの有名大学准教授の男性が、「(高齢者は)集団自決みたいなことをすればいいんじゃないか」という発言により炎上し、この男性がテレビに出るたびにネット上で「テレビに出すな」という声が渦巻く事態となっている。この騒動には、実は言論の本質がよく現れている。

この騒動を深掘りして考えるうえで、まず踏まえておかねばならないのは、そもそも、テレビで高齢者をいじったり、貶めたりする発言は「笑いを取る手法の1つ」として社会に許容されてきたということだ。

最たる例は、世界的な映画監督としても知られる大物芸人だろう。この大物芸人が80年代、「赤信号 バァさん 盾にわたりましょう」などと高齢者を徹底的にこき下ろしたギャグにより一時代を築いたことは、筆者と同じ50代以上の年齢の人ならたいていご記憶のはずである。

また、「ジジイ」「ババア」という毒舌トークで人気を集めたウルトラマンシリーズ出演俳優や、舞台では中高年をいじって笑いをとり、著書も次々に上梓してきた毒舌漫談家なども長く人気者であり続けてきた。この現実に照らせば、「高齢者が集団自決」程度の発言が今さら物議を醸すのは、バランス的におかしい。

だが、こうした「毒舌お笑い市場」の現況をよく見ると、はたと気づくことがある。高齢者をいじるなど不謹慎なことや、反教育的なことを言って笑いをとるのは、かつては芸人の独断場だった。しかし現在、そのようなやり方で笑いをとる芸人はテレビでほとんど見かけなくなっているのである。

現在、テレビで物議を醸す発言をして炎上するのは、もっぱら弁護士や小説家、元IT起業家、インターネット上の巨大掲示板の創設者、国際政治学者など、テレビが本業でない人ばかりだ。「集団自決」発言で物議を醸したアメリカの有名大学の准教授の男性もまたしかりである。

つまり現在、テレビで物議を醸す発言ができるのは、テレビに出ることが本業の人ではなく、テレビは副業や趣味、遊びで出ている人だということだ。芸人のようにテレビに出ることが本業もしくは主要な収入源である人は、コンプライアンスが厳しい現在、テレビで物議を醸す発言はできないわけである。

この事実が示しているのは、要するにテレビに出るなどして発信力を持ち、自分の言いたいことを言おうと思えば、言論以外の活動で生きていける経済力が必要だということだ。言論自体で生計をたてようと思えば、生活の糧を失わないようにするために言論が委縮せざるをえないからである。

本気で言論活動をするなら、まず経済力を整えないといけない。「集団自決」発言で炎上し、テレビに出るたびにネット上で多くの人に批判されながら、何事もなかったようにテレビに出続けるアメリカの有名大学の准教授の男性の存在がそのことをはからずも証明している。

◎片岡健の「言論」論 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=111

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。編著に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』(リミアンドテッド)、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(電子書籍版 鹿砦社)。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―」[電子書籍版](片岡健編/鹿砦社)

月刊『紙の爆弾』2023年4月号

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◆元海将の嘆き

自衛隊元海将が安保3文書、特に防衛力整備計画の内容を批判した『防衛省に告ぐ』という本を出した。帯には「目を覚ませ防衛省! これじゃ、この国は守れない」とある。この人の名前は香田洋二、海上自衛隊護衛艦隊司令官を務めた元海将だ。

 

香田洋二『防衛省に告ぐ』(2023年1月10日中公新書ラクレ刊)

現役当時、自身が防衛装備品計画策定に関わってきた経験から今度の安保3文書を「思いつきを百貨店に並べた印象」と強く批判している。

要は「現場のにおいがしない」というのが氏の批判の主たるもの。

「防衛力整備というのは会議室で考えるんじゃない、現場からつくりあげていくものなんです」

というのが香田氏の持論だ。

「現場のにおいがしない」とは例えばこんなことだ。

敵基地攻撃能力の目玉である長射程ミサイルの一つ「12式地対艦誘導弾」改良開発の場合。

「200キロの射程を1000キロに延ばして敵基地攻撃(反撃能力)と遠距離対艦攻撃の両方に使うという。搭載燃料を5倍にするなら、設計も初めからやらなくてはならない」

これを2027年度までに開発、生産するというが香田氏は

「そんなことが簡単にできるのか」

と強い疑問を呈している。

また、こうも語る。

「しかも全長、直径とも米軍トマホークの2倍程度の大きさになる。これでは世界一簡単に撃ち落とされるミサイルになってしまう」

そんなものが実戦で役に立つのか? ということだ。

また目玉の一つである「極超音速ミサイル」開発についてはどうか。

「推進力の問題(極超音速)を解決できてもその弾を目標に誘導しなきゃならない。でもマッハ5以上なんていう速度だと、ちょっとのかじ切りでえらく違ったところに飛んでいく」

だからこれには自動制御と飛行制御という複雑高度な技術を使った指揮管制システムが必要で、問題はそんなものを日本が構築できるのか?

「バクチをやるというなら別だが」

とまで断罪している。

「アメリカだって、20年かけてまだ十分できていないのに」、これから着手する日本にできるという保証がどこにあるのか? バクチで一国の防衛計画は立てられない。

なぜこうなるのか? 「現場のにおいが」しないからだ。

◆現場は「憲法9条下の自衛隊」で考える

「現場のにおい」に関して言えば、自衛隊防衛現場の感覚、考え方はこうだ。

例えば、長射程ミサイルを日本が独自開発するまでの「つなぎ」として米国の「トマホーク」をイージス艦に導入することについて香田元海将はこう語っている。

「トマホークをイージス艦に搭載して運用するなど、海上作戦を無視したど素人ぶりを暴露しています」

と言いながら、その理由を述べている。

「日本の場合、打撃を主任務とする米軍と異なり、イージス艦は対潜水艦戦のときに艦隊を守るのが第一義です。その任務を捨ててトマホークを撃ちに行くことなど外道」

つまり自衛隊は打撃(矛)ではなく専守防衛(盾)、国土防衛を基本任務と考えているということだ。

非戦を国是と考える国民に自衛隊への理解と支持を得るために永年、努力してきたのが戦後日本の自衛隊の歴史だった。元海将はそんな歴史を背負ってきた生粋の自衛官だ。

かつて安倍政権が専守防衛逸脱の新防衛大綱を閣議決定し、対潜ヘリコプター用の「いずも型」護衛艦を攻撃型戦闘機F35B積載可能な小型空母に改修するとしたとき、香田元海将は「国土防衛に穴が開く」とこれを強く批判した。

自衛隊の任務は打撃(矛)ではなく国土防衛(専守防衛)であるというのが元海将のみならず自衛隊現場の永年の立ち位置なのだ。

憲法9条下で戦後の自衛隊は「違憲的存在」と永らく国民から白眼視されてきた。ゆえに誰よりも国民の目線を考え、国民から理解を得る努力をしてきたのが自衛隊現場だとも言える。

香田氏はこう断言する。

「国民の信頼なしに、国の防衛なんてできませんよ」

なぜこのような現場を無視した安保3文書・防衛力整備計画になるのだろう?

日本の防衛現場から出た要求ではないからだ。元々、敵基地攻撃能力保有は「弱体化した米軍の抑止力を補う」という米国の要求であり、具体的には対中対決の最前線を担うとする「同盟義務」として日本に押しつけられて作成、決定されたものだ。

だから「思いつき(米国の要求)を百貨店に並べた」ものにしかならない。

日本の自衛隊の現場を無視した「防衛力整備」はこうした現場からの反発を呼ぶものにならざるをえない。自衛隊現場が納得しないで日本の防衛が果たしてできるのか?

自衛隊元幹部の中には「専守防衛、非核3原則を議論せよ」の折原良一元統合幕僚長、「核搭載の中距離ミサイルの日本配備」を唱える河野克俊・前統合幕僚長のような米軍のスポークスマンがいる。しかし現場を知る自衛隊幹部は非戦非核を国是とする「国民の信頼」に応えることを自衛隊の使命だと考えている。

「自衛隊を活かす会」(代表:柳澤協二元内閣官房副長官補)が最近「非戦の安全保障論」という本を出したが、この会の趣旨に賛同する元自衛隊幹部も多い。

「非戦の安全保障」、国土防衛に徹するという自衛隊の防衛現場を無視した安保3文書は「思いつき」、「絵に描いた餅」である。防衛現場の支持、国民の信頼がなければ日本の防衛は成り立たない。

香田元海将の嘆きは、自衛隊現場、そして国民全体の憂いでもある。これを単なる嘆き、憂いにしてはならないと思う。

ピョンヤン在留の私たちだが、一日本人としてこうしたことを強く訴えていきたいと思う。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』

「総務省の4文書は捏造です」「この文書が捏造でなければ、大臣も議員も辞めます」と啖呵をきり、はては「わたしの答弁を信じられないのなら、質問をしないでください!」などと、答弁拒否にいたった高市早苗経安大臣。

この「答弁拒否」には党内からの批判もあり、参院予算委員長による異例の注意。高市大臣の発言撤回という顛末になった。師匠の安倍晋三同様、感情で発言するところにこの政治家の欠点がある。この気質はいずれ、政治生命に致命的な失策をもたらすであろう。

問題は単に言論弾圧と言われる、放送法の解釈見直しだけではない。いま永田町と霞が関で何が起きているのだろうか。高市を陥れる謀略文書なのか、それとも思想表現の自由を認めなかった政治統制への抵抗なのだろうか。


◎[参考動画]「ねつ造との認識ない」放送法めぐる行政文書の作成者らいずれも回答 “ねつ造”主張の高市氏に野党側の追及続く 高市氏は「質問しないで」発言を撤回【news23】|TBS NEWS DIG

◆小出しにしている意味は何なのか?

すでに国会で総務省が明らかにしたとおり、大臣レク(当時の総務大臣である高市への)はあった可能性が高い。しかし関係者への確認は精査を要するという。そもそも文書流出の過程がわからない。

放送法見直しにかかる高市大臣の関与はしたがって、総務相官僚によるリークだったと考えるのがわかりやすい。当時の事実関係は闇の中だが、霞が関官僚が文書をつくり、立憲民主党に流したのは間違いないところだ。

つまり、総務省によって高市大臣の過去の発言が暴露され、放送法にかかる自由権の侵害が告発された。その裏側にはしかし、岸田内閣の政局があると考えなければ話が通らない。いや、すでに政局が動くところまできてしまったのだ。閣内および党内の、高市にたいする冷淡な態度は、単に高市の失策を傍観するという印象ではない。

◆根深い財政対策と増税問題

ひるがえって、今回の暴露が大臣の進退という、みずから言い出した政局に発展してしまったところに、問題の本質があるのではないか。

すなわち、リークによって安倍派の残党たる高市早苗を政治的に葬り去る。結果としては、増税派(財務省・総務省)と増税反対派(安倍派)の政争が繰り広げられているのだ。その震源地は財務省であり、おそらくキーパーソンは麻生太郎であろう。

昨年末の防衛費増税にたいして、高市は増税反対の論陣を張ってきた。岸田政権の財政健全化政策に対しても、政調会長の立場から党内で反対の立場を突き出していた。そもそも経安相への抜擢は、高市を閣内に抱き込むことで党内闘争を封じ込める人事策だったのだ。経安相という、ほとんど実権のないポストに縛ることで、党内の最大のライバル(総裁公選で次点)を封じ込めたのだ。高市を更迭する(野に放つ)にも、岸田にはやりにくい面がある。

その意味では、岸田政権そのものが財務省と麻生太郎に揺さぶられている、といえるのかもしれない。旧安倍政権の基盤が経産省であり、税制をめぐる財務省との死闘がつねに政局の背景にあったことは、本通信でも触れてきた。そしていま、財務省の逆襲として、アベノミクスの残滓を葬り去ろうとしているのだ。

奇しくも森友事件において、財務省官僚が犠牲になった事件が想起される。安倍晋三個人が「わたしと妻が関与していれば、大臣も議員も辞めますよ!」と言いきり、その結果、財務省の職員が死に追い込まれたのだった。財務官僚たちが安倍政権にたいする、積年の遺恨を遂げようとしているようにも見える。

◆岸田は岩盤保守層を切れるのか?

安倍晋三という選挙につよい旧政権が崩壊したいま、財務省と経産省の暗闘は官邸主導に対する反乱として顕在化しつつある。総務省の問題とされながらも、じつは高市はその血祭りに上げられているのだ。

さて問題なのは、財務省に揺さぶられている岸田政権が、それでは高市を切れるのかどうかであろう。その高市早苗はガチ右翼であり、安倍政権いらいの岩盤的な保守層の支持に支えられている。

そして岸田政権の基盤はといえば、党内では圧倒的な少数派であって、むしろ霞が関に支えられる構造となっている。財務省・総務省の攻勢はまさに、官邸主導と呼ばれる安倍政権の残滓を葬るためにこそ、今回の政局を仕掛けたともいえるのだ。

もはや自民党内の問題ではなく、官邸VS霞が関、自民支持層の分裂として岸田政権に襲いかかる。そんな政局構造が見えてきそうな気配だ。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

月刊『紙の爆弾』2023年4月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)

2023年1月度のABC部数が明らかになった。それによると朝日新聞は約380万部、読売新聞は約651万部、毎日新聞は約182万部だった。この1年間の減部数は、朝日新聞が約62万部、読売新聞が約47万部、毎日新聞が14万部だった。産経新聞と日経新聞も大幅に部数を減らしている。部数回復の兆しはまったく見られない。

このペースで新聞離れが進めば、朝日新聞は2024年度中に300万部の大台を割り込む可能性がある。また、読売新聞は年内にも600万部の大台を割り込む可能性がある。

1月度のABC部数は次の通りである。

朝日新聞:3,795,158(-624,194)
毎日新聞:1,818,225(-141,883)
読売新聞:6,527,381(-469,666)
日経新聞:1,621,092(-174,415)
産経新聞: 989,199(-54,105)

なお、ABC部数には「押し紙」(広義の残紙)が含まれているので、新聞販売店が実際に配達している新聞部数は、ABC部数よりもはるかに少ない場合が多い。「押し紙」率は、新聞社によっても地域によっても異なるが、過去に起きた「押し紙」裁判のデータなどから察すると、搬入部数の20%から40%ぐらいになると推測される。相対的に地方紙よりも中央紙の方が「押し紙」が多い傾向にある。ただ、新聞販売店からの情報によると、今後、「押し紙」政策を廃止する方針を打ち出した新聞社もあるようだ。

新聞離れは、夕刊の廃止という形でも現れている。たとえば中央紙でも毎日新聞は、4月から愛知、岐阜、三重で夕刊を廃止する。今後、夕刊廃止の流れは他地域や他社でも起きるだろう。夕刊廃止はすでに秒読みの段階に入っている。

新聞販売店に積み上げられた水増しされた折込広告。「押し紙」と一緒に廃棄される

◆新聞離れの背景に何が?

新聞離れが進む背景には、勿論、インターネットの普及があるが、新聞が情報収集のツールとして適さないことが国民の間で周知されてきた事情もあるようだ。とくに「ホワイトカラー」の間でその傾向が顕著になっているような印象を筆者は持っている。

新聞離れは次のような事情による。

第1に記者クラブを通じた情報が主流になっているので、必然的に公権力機関の広報紙的な要素が強くなっていることである。いわゆる「発表ジャーナリズム」が新聞の柱になっている事情がある。従って新聞は、客観的な事実を把握する道具としては適さない。広報や広報は、新聞を経由しなくてもウエブサイトから直接得られる時代になっている。

第2に新聞にはリンクが張れないので、読者は記事の裏付けとなる資料や文書が確認できない。記事の信ぴょう性は、十分な裏付けにより担保されるわけだから、リンクが張れないことは、現在ジャーナリズムでは致命傷となる。新聞社の高いステータスで情報の質を判断する時代ではなくなっている。

 

ウィキリークスの創立者、ジュリアン・アサンジ。米国政府が異常に恐れている人物で、禁錮175年の刑が下される可能性がある。欧米で、米国政府に対して「出版は犯罪ではない」との批判が上がっている

ちなみに新しい時代のジャーナリズムの典型的なモデルとしては、公権力の内部資料を公開することでニュースの信ぴょう性を担保してきたウィキリークスがある。この手法が広がれば、公権力機関にとっては、大変な脅威となる。ウィキリークスの創立者であるジュリアン・アサンジに対して米国が禁錮175年の刑を下そうとしているゆえんに外ならない。

第3の要因は、「第2」とも関係するが、新聞ではメディアの多角化に対応できない点である。インターネットに登場するニュースやルポルタージュには、動画を埋め込むことができる。資料の場合は紙の新聞でも、紙面を割けば紹介できるが、動画を掲載することは物理的に不可能だ。つまりメディアの様式そのものが変化してきたにもかかわらず、それに対応できない事情がある。

新聞離れが進む状況のもとで、「人力でニュースを配達する時代ではない」とう声も多い。かつては大雪の日に命がけで新聞を配達したことが美談となったが、現在の若い世代にはそうした意識はあまりないようだ。むしろ新聞社の人命軽視を批判する傾向がある。

ニュースの配信はインターネットによる配信の方が合理的だ。

ABC部数は毎月公表されるが、筆者が記憶する限り、ここ20年ほどの間、凋落への一途をたどっている。今後、V字回復に転じることはまずありえない。それにもかかわらず、すみやかにインターネットに移行できないのは、電子新聞では「押し紙」政策が取れないからではないか。

いまや新聞のABC部数は、まったく信用できないデータとなっている。新聞と同じ没落の運命にあるのではないか。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

月刊『紙の爆弾』2023年4月号

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『志位和夫委員長への手紙』(かもがわ出版)を出版した鈴木元が、日本共産党を除名処分となった。共産党京都府委員会の見解は以下の通りだ。

鈴木氏の一連の発言や行動は、党規約の「党内に派閥・分派はつくらない」(第3条4項)、「党の統一と団結に努力し、党に敵対する行為はおこなわない」(第5条2項)、「党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない」(第5条5項)という規定を踏みにじる重大な規律違反です。

『シン・日本共産党宣言 ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由』(文春新書)を出版して除名された松竹伸幸に続いて二人目である。

鈴木は立命館出身の生え抜きの共産党幹部、松下も一橋出身で元中央委員会常任である。いわば二人の幹部が相次いで志位体制を批判し、とりわけ党首公選制を主張したのは、共産党組織の根幹を問う事態と言えよう。


◎[参考動画]共産党「党首公選制」訴えた党員除名 今年2人目(2023年3月18日)


◎[参考動画]共産、現役党員を除名処分 党首公選要求は「規律違反」(2023年2月6日)

◆民主集中制の陥穽

ここ20年ほど、日本共産党は政治の右傾化および「民主主義勢力」の後退に危機感を抱き、労働運動・市民運動との幅広い共闘を模索してきた。総がかり行動などがその典型で、選挙においても市民団体を媒介に立憲民主党や社民、れいわ新選組などとの統一戦線(野党統一候補)を追求してきた。

そのいっぽうで、共産党との共闘が野党統一戦線の足かせになってきたのも事実で、ほかならぬ共産党議席の減少として結果してきた。その根幹に、共産党の労働組合におけるフラクション活動、共産党それ自体の閉鎖的な組織体質があることを、今回の「党内闘争」は顕著にしたといえよう。

自民党や民主党系の党内選挙を合議制とするならば、共産党の組織論は民主集中制である。民主集中制といえば民主的なイメージだが、そうではない。

もともとは、ツアーリ専制下(旧ロシア帝国)のロシア社会民主党(のちのボリシェビキ)が指導部を選ぶさいに、公然たる選挙は行なえない。非公然党独自の、同志的な信頼による「民主主義以上のあるもの」として、レーニン以下の指導部を選出してきたことによる。いわば弾圧下の臨時的な措置として、党首公選が否定されてきたのである。

したがって党指導部は偶像化され、その理論体系はレーニン主義、スターリン主義、あるいは中国における毛沢東思想、北朝鮮におけるチュチェ思想として規範化されてきたのである。


◎[参考動画]共産・志位委員長「いきなり外から攻撃を…」党員除名は妥当 朝日社説に“猛反論”も(2023年2月9日)

◆共産党の思想は独裁制である

レーニンは1922年のコミンテルン大会においても、分派の禁止を採択している。さらにスターリン体制下のコミンテルンは一国一共産党という原則を確立する。ここに、共産党以外は小ブル宗派であり、分派は裏切り・党に対する敵対行為とみなされてきたのである。

単一党という思想は、マルクスにさかのぼることもできる。マルクスが「共産党宣言」において、万国の労働者は団結せよと謳ったのは、労働者の団結が単一であり党もまた単一であるという意味である。この単一党の思想が、異論を排除する党の体質となり、分派活動の禁止となるのは過酷な国際階級闘争の中で必然性を持っていたともいえよう。

ボリシェビキ化テーゼのもと、わが日本共産党もスターリン流の党組織観を輸入し、福本和夫の「分離結晶論」として共産党の上からの党建設が定式化された。

スターリン批判以降、共産党独裁を批判して現れた新左翼運動においても、単一党の思想は払しょくされなかった。本通信でも連載した連合赤軍事件はまさに、銃による党建設、遅れた部分を党建設の思想のもとに「総括」を強要し、同志殺しという悲惨な結果をもたらした。これまた上からの党建設として、森恒夫・永田洋子独裁体制が、陰惨なリンチ事件を生じせしめたのである。

100人近くの犠牲者を出した、中核VS革マル、革マルVS社青同解放派、革労協の内内ゲバと、新左翼の泥沼の内ゲバも、この単一党思想によるものだった。

◆党組織の規範は、社会の将来像である

内ゲバで「反革命に処刑」を主張する党派が、革命後においても「死刑制度」を存置するのは明白であろう。それと同じく、分派の禁止や反党活動の禁止を謳う党派が、革命後の社会において異論の排除、思想表現の自由を抑圧するのは火を見るよりも明らかだ。ようするに、日本共産党が政権をとれば、中国共産党や朝鮮労働党(金王朝)のような社会になるのは間違いない。

いや、分派の禁止は党内のことであって、社会化されるわけではない、と共産党は反論するかもしれない。しかし、上にみてきた単一党の思想が根っこにある以上、共産党が社会の理想とされ、党員にあらざれば人間にあらずという、旧ソ連のような社会が到来するのは疑いない。なぜならば、共産主義は「科学的」であり、科学的な「真理」であるから、正しいものに純化するのに、そもそも「間違い」があろうはずがない。真理とは、かくも怖ろしいものなのだ。

だが、その科学的な真理は、党員の高齢化という生理学的な真理によって、根底から崩壊がはじまっているのだ。

◆老人とともに滅ぶ党

統一地方選の準備もあって、駅頭では共産党の情宣活動がさかんだ。その大半は老人である。わけあって、共産党の細胞(支部)会議を見る機会があった。近所のうわさ話や大衆運動のキーパーソンの人物評価など、茶話会のような会議に欠けているのは、党活動の根幹であるはずの、いわゆる政治討論だった。

この政治討論の欠落こそが、党首公選制の否定によって無風化された、下部党員たちの活力の低下なのである。活力をうしなった党に、若い世代が参加するはずもない。老人とともに滅びゆく党が、社会運動にとって共産主義の負の教訓となるのを見送るしかない。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

月刊『紙の爆弾』2023年4月号

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)

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