新聞の没落止まらず、読売新聞が500万部割れ、朝日新聞も300万部割れ目前 ―― 2026年6月ABC部数

黒薮哲哉

2026年6月度のABC部数が明らかになった。それによると、読売新聞は500万部の大台を割り込み、約499万8,000部となった。この1年間で約44万5,000部を減らした。
朝日新聞は約306万部で、現在の減少傾向が続けば、年内にも300万部の大台を割り込む可能性が高い。この1年間だけで約17万5,000部を減らした。

詳細は次の通りである。カッコ内は前年同月からの減少部数。
朝日新聞:3,059,598部(174,715部減)
毎日新聞:1,054,237部(157,335部減)
読売新聞:4,997,651部(444,899部減)
日経新聞:1,173,206部(115,233部減)
産経新聞:740,939部(57,313部減)

なお、ABC部数には、いわゆる「押し紙」が含まれている。そのため、ABC部数として公表された数字が、そのまま読者に配達・販売された実配部数を示しているとは限らない。

「押し紙」とは、新聞社が販売店に対し、実際の販売部数を上回る新聞を供給する行為を指す。この問題については海外でも言及されており、英語版Wikipediaは、日本の新聞発行部数をめぐる事情について、次のように説明している。

Oshigami (押し紙) is a practice in the Japanese newspaper industry which describes the deliberate oversupply of newspapers to suppliers and businesses for the profit of the wholesaler. Along with the older age of the Japanese population (younger people are less likely to read newspapers),[1] oshigami is one component of the apparent endurance of print circulation in Japan while printed media has seen rapid decline elsewhere with the rising popularity of online media.

【訳】「押し紙」とは、日本の新聞業界における慣行の一つで、卸売業者側(黒薮注:新聞社のこと)が利益を得るために、販売店や企業に対して意図的に新聞を過剰供給することを指す。

日本の人口の高齢化(若年層は新聞を読む傾向が低い)と相まって、オンラインメディアの台頭によって他国では印刷媒体の発行部数が急速に減少している一方、日本では印刷媒体の発行部数が比較的堅調に推移している。その背景を構成する一因として、「押し紙」が挙げられる。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月17日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

ロシア高官が言及した「日本がロシアにもたらす脅威」の高まり

アンドリュー・コリブコ

ロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官が、日本の安全保障政策に対する警戒感を強めている。米国の短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」の日本への一時配備や、ウクライナとのドローン技術協力が進めば、千島列島やサハリン、太平洋艦隊司令部のあるウラジオストクが脅威にさらされる可能性があるとの見方だ。こうした動きは、ロシアと中国、北朝鮮の軍事・安全保障協力を加速させる可能性もある。一方で、日露関係改善の余地も残されている。日本をめぐる北東アジアの新たな安全保障構図と、その行方を左右する米国の思惑について、アンドリュー・コリブコが解析する。

※   ※   ※   ※

日本が米国の短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」を一時的に配備していることに加え、ウクライナの最新鋭ドローン技術に関心を示していることは、千島列島(クリル諸島)、ウラジオストクにあるロシア太平洋艦隊司令部、そしてエネルギー資源が豊富なサハリンにとって、大きな脅威になり得る。

アジア太平洋地域を担当するロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官は7月下旬、タス通信のインタビューに応じ、日本がロシアに与える脅威が高まっているとの認識を示した。

プーチン大統領の側近であるニコライ・パトルシェフは昨年末、「日本はアジアにおける米国の政策を推進するうえで、これまで以上に大きな役割を担うようになる」との見方を示していた。また6月上旬には、「日本とフィリピンは中国を封じ込めるうえで、より大きな役割を担うことになる」との分析も示されている。その役割には、米国のミサイルを国内に配備することも含まれる。

こうした動きに関連してルデンコ氏は、米国との演習の際、日本が短・中距離ミサイルシステム「タイフォン」を一時的に配備したことを非難した。こうした配備はすでに2度目だとして、

「これに対して、われわれが対抗措置を取らないということは決してない」と警告した。

さらに、「われわれは、アジア太平洋地域の平和維持をめぐり、中国との連携を強化している」とも述べた。

ただし、ここではロシアと北朝鮮の緊密な軍事関係については触れられていない。両国は相互防衛を定めた条約も新たに結んでいる。

ルデンコ氏はさらに、「日本のドローンメーカーと、ウクライナの戦闘用ドローン開発企業との協力がどのように進展しているか、われわれは注視している」と語った。

この発言の1週間足らず前には、ジャパン・タイムズが、日本がウクライナのドローン生産能力の拡大に投資する可能性があると報じている。その見返りとして、日本がウクライナの最新ドローン技術を利用できるようになる可能性があるという。

こうした能力は、おそらく主として中国や北朝鮮を念頭に置いたものだろう。しかし、ロシアにとっても深刻な脅威になる可能性がある。

というのも、日本は第二次世界大戦後にロシアが実効支配している島々について、ロシアが「南クリル諸島」と呼ぶ一方、日本は「北方領土」と呼び、ロシアによる領有を認めていない。この領土問題は、日露両国が平和条約を締結できていない大きな理由となっている。

さらに、日本海を挟んだ対岸には、ロシア太平洋艦隊の司令部が置かれているウラジオストクがある。

したがって、日本がウクライナからドローン技術を獲得すれば、千島列島、ウラジオストク、そして豊富なエネルギー資源を持つサハリンが、その攻撃可能範囲に入る可能性がある。

記事の見方では、日本が将来、米国のタイフォン・ミサイルシステムを交代制で受け入れるようになり、さらにウクライナから取得したドローン技術を本格的に導入すれば、日本はロシアを取り囲む「防疫線(cordon sanitaire)」の北東アジア方面を担うことができる。

【黒薮注】防疫線:本来は衛生学上の用語で、ここでは軍や警察など公権力が出入りを制限する線を意味する。

筆者は、この「防疫線」を第2次トランプ政権が過去1年間にロシア周辺に構築してきたものだと捉えている。

これに対してロシアは当然、中国や北朝鮮との軍事・安全保障面での二国間関係をさらに強化する必要があると考えるだろう。地域の脅威が大幅に高まれば、ロシア・中国・北朝鮮の3か国による安全保障協力の枠組みを模索するところまで進む可能性もある。

一方でルデンコ氏は、日露関係を修復するためには、まず日本側が行動を起こすべきだというロシアの立場も改めて示した。

日本にとっても、そうする理由はあるかもしれない。前述のようなロシア・中国・北朝鮮の軍事協力強化が現実になれば、日本自身の安全保障にとっても、日本がロシアにもたらそうとしているのと同程度の脅威になり得るからだ。

この記事が6月にも指摘していたように、ウクライナ紛争が政治的な形で終結し、それに伴って対ロシア制裁が段階的に解除されることになれば、天然資源が豊富なロシア極東への投資機会が、日本や「Quad(クアッド)」諸国に開かれる可能性がある。それが日本にとって、ロシアとの関係改善を進める経済的な動機になるかもしれない。

【黒薮注】Quad(クアッド):日本、アメリカ、オーストラリア、インドで構成

ただし、日本の外交政策は米国の方針から強い影響を受けているため、米国の了承なしに日露関係が現実的に改善する可能性は低い、と筆者はみている。

そのため最終的な問題は、米国がどちらの道を選ぶのか、という点に行き着く。

米国は、日本に北東アジアで積極的にロシアを封じ込める役割を担わせるのか。その場合、ロシア・中国・北朝鮮の軍事・安全保障協力がさらに強化されるという代償を伴う可能性がある。

それとも、そのような事態を未然に防ぐため、日露関係の改善を促すのか。

米国がどちらを選択するにせよ、その影響は今後数十年にわたって続くことになるだろう。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月15日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/a-top-russian-diplomat-touched-upon

KorybkoからMAGAへ ―― 重要な論点に関するロシアの政策を手短に整理する

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

MAGA支持者の間で「ロシアは自分たちが反対する勢力を支持している」との見方が広がっているとして、地政学アナリストのアンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)氏が反論する。中国やイラン、イスラエル、ウクライナなどを例にロシア外交の実際の立場を整理し、その誤解が生まれた背景について自身の見解を示している。

※   ※   ※   ※

私は、トランプ氏がエスカレーターを降りて出馬を表明した頃から(いくつか政策面で意見の違いはあるものの)MAGAの支持者であり、同時に「ロシア人ではない親ロシア派」であることにも誇りを持っている。そのため、MAGAの仲間に向けてロシアの政策に関する事実を整理し、新たに広まりつつある誤った認識を正したいという特別な責任を感じている。

ローラ・ルーマー氏のウクライナ訪問とゼレンスキー大統領へのインタビューは、この18か月ほどMAGAの間で進んできたロシア離れとウクライナ支持の流れを象徴する出来事だった。(黒薮注:ローラ・ルーマー=米国の保守派の政治家・コメンテーター)

彼女の行動には、タッカー・カールソン氏やキャンディス・オーウェンズ氏との対立といった個人的な動機も多少あったのかもしれない。しかし、ウクライナを強く批判する立場から熱心な支持者へと転じたことは、トランプ氏がウクライナを前面に立てた新たな「消耗戦」を通じて、ロシアに対して「エスカレートしてから緊張緩和を図る」という戦略を進めていることと軌を一にしている。つまり、もっと大きな変化が起きているということだ。

私は以前、「MAGAの一般的な支持者は、プーチン大統領やその周囲の人々が、自分たちの反対するもの――左派思想、イスラム主義、イラン、そして『MAGAの異端派』など――を支持していると考えるようになった」と指摘した。その理由は別の記事で説明している。しかし、この認識は事実ではない。ロシアとアメリカはすべての問題で一致しているわけではないが、ロシアはアメリカと和解できない敵でも、まして現在そのように描かれているような潜在的な敵国でもない。

そこで本稿では、MAGAにとって重要な論点について、ロシアの政策を手短に整理する。目的は、MAGA支持者にロシアの政策を支持してもらうことではない。実際にロシアがどのような政策を取っているのか、そして、なぜそれが場合によってはアメリカの政策と食い違うのかを理解してもらうことにある。

この記事でMAGA全体の対ロシア観が変わるとは思っていないし、トランプ氏が最近の対ロシア強硬姿勢を改めるとも考えていない。それでも、事実を知っておくことには意味がある。

◆中国

ロシアと中国は戦略的パートナーだが、相互防衛同盟を結んでいるわけではない。両国は、西側以外の国々がより大きな発言権を持つ国際秩序を目指しており、そのため、そうした流れを阻止しようとするアメリカの政策に共に反対している。

とはいえ、両国の立場が完全に一致しているわけでもない。ロシアは地域の勢力均衡を保つため、中国への牽制の一環としてインドに武器を供給している。一方、中国は西側による対ロシア制裁の一部を非公式に順守しながら、ウクライナにはドローンやその部品、光ファイバーを供給している。

◆イラン

中国と同様、イランもロシアの戦略的パートナーだが、相互防衛同盟を結んでいるわけではない。実際、ロシアは2015年から2024年まで続いたシリア作戦に先立ち、イスラエルと軍事的な調整協定を結んだ。この協定により、イスラエルはロシアの妨害を受けることなく、イラン革命防衛隊(IRGC)、ヒズボラ、シリア・アラブ軍、およびその同盟勢力を空爆することができた。これもロシアによる地域の勢力均衡政策の一環だった。

ロシアはこれまでイランに武器を売却したことがあるが、その目的は抑止力の維持に限られており、戦闘が続いている最中に供給したことはない。

◆イスラエル

ロシアとイスラエルは、ときに互いを厳しく非難し合いながらも、現在も緊密な関係を維持している。その証拠に、イスラエルはロシアが公式に指定する「非友好国」にさえ含まれていない。これは、イスラエルが西側による対ロシア制裁への参加を拒否したためである。

プーチン大統領自身も、生涯を通じてユダヤ人に好意的な立場を取ってきた。2000年から2018年までのクレムリン公式サイトに掲載された発言からも、それはうかがえる。また、ロシア人とイスラエル人はディアスポラ(離散共同体)による結びつきがあるとして、両者を「真に一つの家族」と表現したこともある。

◆ハマス/パレスチナ

ロシア政府は、2023年10月7日のハマスによる攻撃を公式にはテロ行為と位置づけている。一方で、同組織の政治部門との関係は維持している。またロシアは、国連安全保障理事会の関連決議に基づき、1967年の境界線に沿った独立したパレスチナ国家の樹立を支持している。これは世界でも広く見られる立場である。

さらに、イスラエルは他国と比べてもロシアのこうした姿勢を比較的好意的に受け止めており、ナフタリ・ベネット元首相は2021年、プーチン大統領を「イスラエル国家の真の友人」と評した。

◆湾岸諸国

アラブ首長国連邦(UAE)は、この地域におけるロシア最大の貿易相手国であり、対外取引の仲介役として、西側の制裁圧力を和らげる代替の利かない存在と広く見られている。ロシアはサウジアラビアとも緊密な関係を維持しており、OPECプラス(OPEC+)を通じて世界の原油価格の調整で協力している。そのほかの湾岸君主国とも良好な関係にある。

こうした事情から、ロシアは戦闘が続いている間はイランに武器を供給しようとはしない。自国の兵器が湾岸諸国との戦闘に使われ、築いてきた関係を損なうことを望んでいないからだ。

◆ウクライナ

「アンカレッジの精神(Spirit of Anchorage)」と呼ばれる構想では、トランプ氏がゼレンスキー大統領にドンバスからの撤退を受け入れるよう働きかければ、プーチン大統領は停戦に応じる意向を示していたと報じられている。

それ以前、プーチン大統領は、係争地域すべてからウクライナ軍が撤退しない限り停戦には応じないとしていたため、これが事実であれば和平に向けた大きな譲歩だったことになる。しかし、トランプ氏は何らかの理由で、この非公式の約束を撤回したという。

また、プーチン大統領は最近、NATO領内にあるウクライナの兵站拠点への攻撃を求める強硬派の意見も退けた。その結果、第三次世界大戦につながりかねない事態は回避されたとしている。

◆EU/NATO

ロシアは、EUがウクライナと連携し、トランプ氏に働きかけて「アンカレッジの精神」に基づく合意を撤回させたと考えている。ロシアはEUを攻撃したり、まして敵対的な住民を占領・支配したりすることを望んでいない。

その主な目標は二つある。一つは、制裁を解除してエネルギー分野の関係を回復すること。もう一つは、NATOとロシアの間で第三次世界大戦が起こる危険を減らすため、欧州の安全保障体制を見直すことだ。ロシアは、自国の政治体制や価値観をEUに押し付けようとはしていない。それに対し、EUはロシアに自らの価値観を押し付けようとしている、というのが私の見方である。

◆北朝鮮

地政学に関する最後の論点として、ロシアと北朝鮮は2024年、長年にわたる相互防衛同盟を改めて確認した。その後、北朝鮮軍はロシアのクルスク州からウクライナ軍を排除する作戦を支援した。この協定はアメリカやその地域の同盟国への脅威になると警告する声もある。しかし、北朝鮮はこの協定以前から、すでにそれらの国々に対する脅威だった(北朝鮮自身は、その軍事力は抑止目的だと主張している)。

むしろ、この協定によって北朝鮮の中国への依存が弱まるのであれば、それはアメリカの利益にもかなう。

◆天然資源

ロシアは、アメリカが「アンカレッジの精神」に沿って行動すれば、資源を軸とした戦略的パートナーシップを築けると本気で期待していた。その構想は以前の記事でも詳しく説明したが、要するに、アメリカとの資源協力によってロシアの中国依存を減らす一方、中国がロシア国内のあらゆる資源鉱区(エネルギー資源や鉱物資源)へアクセスすることを防ぐというものだった。

それらの鉱区には、アメリカだけでなく、インド、日本、韓国といったアメリカの近しいパートナー国も投資することが想定されていた。この構想は、理論上は今でも実現可能な選択肢として残っている。

◆左派思想

プーチン大統領は共産主義やスターリン時代の「大粛清」を批判している。一方で、ソ連が「大祖国戦争」と呼ぶ対ナチス・ドイツとの存亡を懸けた戦争に勝利するうえで、スターリン体制が果たした役割については認めている。

ロシアは近年、「ソヴィンテルン(Sovintern)」と呼ばれる現代版コミンテルンのような枠組みを立ち上げた一方で、右派系の運動とも関係を築いており、全体としてバランスを取っている。ロシア国営メディアが積極的に取り上げる著名な「ロシア人ではない親ロシア派」の中には左派が多い。しかし、それは意図した結果ではなく、単なる偶然にすぎない。

◆イスラム主義

ロシアは、各国がどのような社会・政治体制を採用するかには干渉しない立場を取っている。国際的なイスラム共同体(ウンマ)については、インドとともに、中国への過度な依存を減らすための重要な均衡勢力と位置づけている。

国内では、チェチェン共和国は、テロ・分離独立紛争を終結させた合意に基づき、イスラム法(シャリーア)の適用を認められている。その一方で、ロシア刑法第282条は、民族的・宗教的な憎悪をあおる行為を厳しく禁じている。西側の一部のイスラム主義勢力が行っているような扇動行為も、その対象となる。

◆「第三世界主義」

「第三世界主義」という言葉にはさまざまな意味がある。しかし、「植民地主義への報復として、非西側諸国が西側を破壊しようとする運動」という批判的な意味で使うのであれば、ロシアはそのような考え方を支持していない。むしろ、安全保障を強化し、発電所などのインフラを整備することで各国の主権を強め、国家を安定させることが、結果としてEUへの不法移民の減少につながると考えている。

サヘル地域では、ロシアの影響によってフランスが一部の資源開発事業を失ったものの、その損失は致命的なものではなく、他の西側諸国にまで悪影響を及ぼすものでもない。

◆「MAGAの異端派(MAGA Dissidents)」

ロシアのメディアが、ときどき「MAGAの異端派」を好意的に取り上げたり、その対立相手であるローラ・ルーマー氏らを、特にX(旧Twitter)上で批判的に扱ったりするのは、アメリカの読者の関心を引き、オンライン上で話題を集めるためにすぎない。

多くのMAGA支持者から見れば、それは誤ったやり方であり、結果的にはMAGAとの関係でも逆効果だったかもしれない。しかし、それがロシア側の本当の狙いだった。

また、タッカー・カールソン氏やキャンディス・オーウェンズ氏らがロシアに招かれたのも、彼らがロシアに敵対的ではなかったからで、それ以上の意味はない。

◆保守主義

プーチン政権下のロシアは、EUや民主党が目指すアメリカと比べれば保守的である。しかし、MAGAが目指す保守主義と比べると、一部の点で保守的であるにとどまる。それでも、EU全体よりは保守的だと言える。

また、他者の権利を侵害しない限り、公の場で宗教的信念を表明することを抑圧するような圧力はない。中絶は合法だが、政府はそれを推奨せず、代わりに出生率の向上を促す政策を進めている。

合法的な移民は受け入れているものの、国家は移民に同化を求めている。一方で、民族自治共和国には、それぞれ独自の文化的権利が認められている。

◆結び

MAGA支持者の多くは、自分たちにとって重要なこれら十数項目についてのロシアの実際の政策を知れば、驚くかもしれない。その理由は、彼らが私の言う「ポチョムキン主義(Potemkinism)」というロシアのソフトパワー戦略の影響を受けてきたからだ。

私のいう「ポチョムキン主義」とは、「戦略的目的」のためにロシアの政策について現実とは異なるイメージを作り出すこと、あるいは、誤った前提に基づいて人々にロシアへの好感を抱かせようとすることを指す。

その一例が、「プーチン大統領は反シオニストで、イスラエルを嫌っている」という、すでに事実ではないことが明らかになっている認識である。

私は、この手法は逆効果だったと考えている。ロシアに対する誤った期待を生み、それが支持者の失望につながっただけでなく、「ロシアはMAGAが反対するものをすべて支持している」という誤った認識まで広めてしまった。その結果、MAGAの間でロシアへの反感が強まるという、皮肉な結果を招いた。それでも、この手法は今も続けられている。

私はロシア外務省系のモスクワ国際関係大学(MGIMO)で国際関係学の修士号と政治学の博士号を取得した。だから、ロシアの外交政策については理解しているつもりだ。

私は、トランプ氏がエスカレーターを降りて出馬を表明した頃から(いくつか政策面で意見の違いはあるものの)MAGAの支持者であり、同時に「ロシア人ではない親ロシア派」であることにも誇りを持っている。だからこそ、MAGAの仲間に向けて、ロシアとその政策について新たに広まりつつある誤った認識を正したいという特別な責任を感じている。

私は「ポチョムキン主義」に一貫して反対してきた。そのため、「ロシア人ではない親ロシア派」として知られる著名なインフルエンサーたちから「キャンセル(排除)」されたこともある。このことについては、以前の記事でも書いた。だから、この問題は私にとって単なる政治論争ではない。極めて個人的な問題でもある。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月1日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

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ウクライナがロシア全土の上空でスターリンクやスターシールドの使用を許可される可能性はどの程度あるだろうか?

アンドリュー・コリブコ

ウクライナ戦争の勝敗を握るキーパーソンの一人は、疑いなくイーロン・マスクである。スターリンク(Starlink)とは、マスクが率いる SpaceX社が展開している衛星インターネット通信サービスのことで、スターシールド(Starshield)はStarlinkの軍事情報機関向けバージョンである。ドローン攻撃に不可欠だ。ゼレンスキー は、スターリンクをロシア領内への攻撃にも利用したいと考える一方、マスクは認めない。こうした状況に打開策はあるのか?アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)が解析する。

※   ※   ※   ※

マスクがこの案に難色を示すとしても、それは理解できる。プーチンを刺激し、自衛のためのエスカレーションを招き、その結果として第三次世界大戦の危険を高めたくないと考える可能性があるからだ。ただし、トランプも同じように慎重なのかは、まだ分からない。ポーランドのトゥスク首相の発言によれば、今後100日ほどで状況はかなり明らかになる可能性が高い。

『アトランティック』は先週後半、「ゼレンスキーがトランプに、イーロン・マスクに関する頼み事をした」と題する詳しい記事を掲載した。(【黒薮注】『アトランティック』(The Atlantic)は、米国の総合雑誌)

副題は「ウクライナは、ロシア国内の弾道ミサイル発射装置を攻撃するために、マスクのスターリンクを使い始めたいと考えている」というものだった。報道によれば、ゼレンスキーは先週のホワイトハウスでの会談で、この提案をトランプに伝えたという。入手数が限られているパトリオット迎撃ミサイルを受け取る代わりに、ウクライナに対するロシアの「組織的な攻撃」の発生源そのものを攻撃する案として提示したとされる。

同誌の情報源によると、マスクはこの提案について話し合うためのゼレンスキーからの面会要請を断った。一方、トランプは、マスクにこの案を受け入れるよう圧力をかけるかどうかについて、明確な態度を示さなかった。『アトランティック』はさらに、「ゼレンスキーは、マスクがロシアへの攻撃にスターリンクを使用することを認めない場合、国防総省が同じ目的のためにウクライナへスターシールド・ネットワークへのアクセスを提供できると提案した」と報じている。スターシールドはスターリンクの姉妹システムだが、「より高価で、より複雑であり、[ウクライナの]システムへの統合もより難しい」とされている。

同誌が取材したウクライナ側の情報源の一人は、トランプがゼレンスキーの「プランB」に同意することに懐疑的だった。(【黒薮注】「プランB」は代案の意味)

その人物は次のように述べている。「ウクライナが自国領内でこれを行うことと、ロシア領内で米国の技術を使い、ロシアの防空システムや弾道ミサイル発射装置を破壊することは別の話だ。これは非友好的な行為だ。ロシアがそれにどう反応するのか、私には分からない」。これはもっともな指摘だ。現在、西側諸国がウクライナを通じて進めていると筆者がみるロシアの産業力と軍事力の低下は、非常に大きな危険を伴うからだ。

トランプが最近、「エスカレートすることで緊張を緩和する」という方針を選んだ後、米国がロシアに対して進めていると筆者がみる「消耗戦」は、新たな段階に入っている。これは第二次世界大戦後の歴史でも前例のないものだ。この動きによってロシアの産業力や軍事力が一部でも大きく低下した場合、プーチンが最終的に耐えられなくなり、この作戦によってロシアが立ち行かなくなる前に抑止力を回復するための第一歩として、たとえ象徴的なものであってもNATOに対する行動を承認する可能性がある。その後、状況が簡単に制御不能になる可能性もある。

そのような展開を引き起こすきっかけになり得るのが、ゼレンスキーの提案どおり、ウクライナがロシア全土でスターリンク、またはその姉妹システムであるスターシールドを利用することだ。このような措置によって、戦略的インフラや軍事目標に対するウクライナのドローン攻撃の成功率が大幅に高まる可能性があるためだ。『アトランティック』は、マスクが紛争のエスカレーションにつながるような役割を担うことに消極的だったと指摘している。そのため、マスクはゼレンスキーの提案を拒否する可能性がある。そうなれば、トランプがマスクの判断を事実上覆し、ウクライナによるスターシールドの使用を認めるのかという問題が出てくる。

トランプがこれを避ける可能性がある理由は、エスカレーションを抑えるためだけではない。政治的な理由も考えられる。具体的には、マスクとの関係を悪化させ、11月の中間選挙を前に、あるいは時期によってはその後から2028年の次の選挙までの間に、X上で有力なMAGA系インフルエンサーの投稿が広まりにくくなる事態を避けたいと考える可能性がある。ポーランドのドナルド・トゥスク首相は先週、「今後100日がこの戦争の結果を決める可能性があり、確率は五分五分だ」と述べ、トランプ、マスク、そして「ほかの何人か」が重要な役割を果たすとしている。

この発言は、トゥスクがゼレンスキーの計画を把握しており、マスクがウクライナによるロシア全土でのスターリンク使用を認めるか、あるいはマスクが拒否した場合にトランプがその判断を覆し、代わりにスターシールドの使用を認めれば、ロシアの降伏につながると考えている可能性を示している。

マスクがこの案に難色を示すとしても、それは理解できる。プーチンを刺激し、自衛のためのエスカレーションを招き、その結果として第三次世界大戦の危険を高めたくないと考える可能性があるからだ。ただし、トランプも同じように慎重なのかは、まだ分からない。今後100日ほどで、その点を含めて状況はかなり明らかになる可能性が高い。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月4日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
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自民党内部文書が示す「しばき隊」利用戦略、「大声をあげていたのは自陣営側の人間」

黒薮哲哉

筆者は、先の衆議院選挙で落選した自民党の杉田水脈氏が、しばき隊による「落選運動」を逆手に取って、支持拡大を図ろうとしていたことをうかがわせる文書を入手した。この文書のタイトルは「第51回衆議院総選挙 総括報告」である。作成者は、水田氏の選挙運動を指揮した大阪市議である。同文書では、選挙敗因の一つとして、しばき隊への対応の失敗を挙げている。

「妨害に集まったプラカードを掲げた人達に囲まれるように自ら入り演説に立つ姿を、(注:杉田氏)自身の公式YouTubeで流した(地域支部からの要請で今は削除)。1月28日夜、塚本駅。なお、大声をあげていたのは自陣営側の人間であることを現地で確認した。」

同文書の記述からは、サクラを使ってまで、しばき隊と堂々と対峙している姿を演出することを意図していたとうかがえる。一種のメディアを使った戦略である。

「さらには、れいわ大石候補やシバキ隊へ敵意むき出しに本人が語る公式動画も流された」

「本来戦うべき相手の維新との対立姿勢が見えず、相手にもならないはずのれいわ新選組や共産党をはやし立てるばかりで、インターネット上の告知もシバキ隊を呼び寄せ、それと戦っている姿を演出するためのものとしか見えない状態であった」

結論として、同文書は、水田氏がしばき隊の暴力的な言動を逆手に取り、危険な現場に身を置きながら、暴力に屈せず正面から立ち向かう姿を演出することで、有権者の支持を集めようとする戦略を試みたが、失敗に終わったと総括している。この文書からは、自民党陣営がしばき隊を政治的な脅威というより、集票のための格好の材料として利用しようとしていたことがうかがえる。

一般の有権者は、罵声を浴びせたり、旗竿を振り回したり、地面に寝転がったりする人々に好感を抱きにくい。そのため、そうした相手と対峙する姿をアピールする戦略が成り立つと考えられていたのだろう。

【緊急報告】演説中に“しばき隊”が出現。選挙妨害を受けたことについて話します。【杉田みお】

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年8月7日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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組織犯罪はもはや国家に挑むのではなく、国家の統治権を巡って競い合っている

ビクトル・M・ロドリゲス

この記事は、コロンビアの犯罪学者ウィリアム・ヒメネス・ガルシア氏へのインタビューをまとめたものである。日本の暴力団についても重複する部分がある。ヒメネス氏は、このところ組織犯罪の性質が大きく変化していると論じる。今日の犯罪組織は国家と正面から対立するのではなく、行政や経済、政治に浸透し、地域社会の統治そのものを担おうとしている。住民への「保護」の提供や恐喝、違法経済の支配を通じて国家の役割を代替し、民主主義を内部から弱体化させることが最大の脅威だという。そのため、安全保障政策は逮捕者数や押収した麻薬量ではなく、国家が支配を回復した地域の広がり、市民の司法への信頼、犯罪組織の政治・行政への影響力の低下などで評価すべきだと指摘する。また、警察や司法だけでなく、情報分析や行政機関を含めた国家全体の連携を強化し、犯罪組織が勢力を固める前に予防的に対応する必要性を強調している。最大の危険は組織犯罪そのものではなく、その存在を社会が「当たり前」と受け入れ、腐敗や恐喝との共存を常態化させてしまうことだと警鐘を鳴らしている。(ビクトル・M・ロドリゲス)

コロンビアの犯罪学者 ウィリアム・ヒメネス・ガルシア氏

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

ラテンアメリカは、公共の安全の枠を超えた静かな変容に直面している。特定の地域を支配し、組織機関に浸透し、経済を掌握し、政治的決定を左右する能力を持つ犯罪ネットワークの存在は、私たちに不快な問いを突きつける。国家は依然として民主主義を完全に統治しているのか、それとも様々なレベルで、その権力を犯罪組織と共有し始めているのか、という問いである。

何十年もの間、ラテンアメリカは「組織犯罪はあくまで警察の問題に過ぎない」と信じ込んでいたが、その過ちの代償としてこのところ、暴力、汚職、そして制度的権威の漸進的な喪失という代償を払わされている。

政府が刑法を厳格化し、刑罰を重くし、武器を購入し、新たな専門部隊を創設し、作戦を拡大する一方で、犯罪組織はまったく異なる動きを見せていた。彼らは単なるギャングとしての考え方を捨て、正真正銘権の力構造として振る舞い始めたのだ。彼らが征服したのは麻薬密輸ルートだけではなかった。まず領土を、次に市場を、 続いて制度を掌握した。そしてついに、金よりもはるかに価値のあるもの――すなわち、社会のあり方を決定する能力――を巡って争い始めたのである。

これこそが、コロンビアの研究者ウィリアム・ヒメネス・ガルシアが提示する、おそらく最も不穏な分析である。彼は、国境を越えた組織犯罪の変遷と、それが地域の民主主義に与える影響を長年にわたり研究してきたラテンアメリカ有数の専門家の一人だ。

彼の警告は、何十年にもわたって定着していた常識を覆すものである。「組織犯罪は、とっくの昔に司法や強制措置のみで扱える問題ではなくなった」と彼は主張する。その拡大により、この現象は政治的、経済的、教育的、文化的、そして制度的な側面を深く帯びた問題へと変貌したと彼は説明する。

この主張は単純に見える。しかし、その帰結は単純ではない。なぜなら、この前提を受け入れることは、ラテンアメリカの各国政府が過去30年間に用いてきた戦略の多くが、もはや存在しない組織に対抗するために設計されたものであったことを認めざるを得なくなるからだ。

◆犯罪のスピードは国家のスピードを上回る

このインタビューの中で展開された最も説得力のある考えの一つは、国家の機能と犯罪組織の機能との間に構造的な違いが存在するという点である。

国家は審議を行う。マフィアは決断する。政府は予算を可決し、政治的合意を形成し、行政手続きを遵守し、制度的な監視に応じ、その決定を公に正当化する必要がある。

それに対し、犯罪組織は、ルートを変更し、指導部を入れ替え、活動を移転させ、資金洗浄を行い、公務員を買収し、ビジネスモデルを再構築する――そのスピードは、いかなる民主的な官僚機構も追いつくことができない。

これは単なる運用上の違いではない。本質的な違いである。制度が法的枠組みの中で対応する一方で、組織犯罪は、まさにそうした制限の欠如を最大の優位性に変えているのだ。ヒメネスは、インタビュー全体に通底する一つの考えをもって、この非対称性を要約している。すなわち、犯罪組織は、ラテンアメリカ諸国政府自身よりもはるかに早く、グローバル化の仕組みを学び取ったのだ。

国境は依然として政府の行動を制約している。一方、マフィアにとって国境は、単なる物流上の変数に過ぎない。ある国が規制を強化すれば、活動は別の国へと移る。ある法律によって特定のビジネスが困難になれば、新たなルートが現れる。

ある港で監視が強化されれば、貨物は単に目的地を変えるだけだ。犯罪の論理は、もはや領土的なものではなく、完全に国境を越えたものとなった。それにもかかわらず、国家の対応は依然として、大部分が国内的なものに留まっている。

そこに、ラテンアメリカにおける大きなパラドックスの一つが現れる。政府は依然として政治的な地図に基づいて物事を考えている。一方、犯罪組織は経済的な地図に基づいて活動している。

◆コロンビア:領土の奪還がもはや力だけに依存しなくなったとき

ヒメネスの分析において、コロンビアの事例は中心的な位置を占めている。なぜなら、コロンビアで起きていることが、他の国々でも再現され始めている現象をより明確に観察できるからである。彼は、議論は単に、特定の治安政策や交渉政策がより良い結果をもたらしたか、あるいは悪い結果をもたらしたかを判断することだけにあるのではないと主張する。

真の問いは別にある。「領土の広範な地域が、国家を主要な権威として認めなくなったとき、何が起こるのか?」。彼は、コロンビアにおいて、犯罪組織の定着が約150の自治体で確認されていた状態から、その約3倍の規模へと拡大したと警告している。

数字に関する正確な議論はさておき、この現象は領土支配の著しい喪失を反映しており、その回復には長年の時間を要すると彼は考えている。しかし、問題はそれだけにとどまらない。一世代全体が、民主主義とは異なるルールの下で成長し始めている。

武装勢力の常在を当たり前だと受け入れる子供たち。商売を始める上で、恐喝は避けられないコストとして受け入れる商人たち。恐怖に支配された社会指導者たち。国家が実効的な権威としての役割を果たさなくなったため、結局は並行する仕組みを通じて紛争を解決せざるを得なくなったコミュニティ。

最も深刻な結果は、単に暴力だけではない。それは、国家の漸進的な置き換えである。犯罪組織が違法な税金を徴収し、非公式な司法を行使し、誰が働き、誰が投資し、誰が商業競争に参加し、誰が政治活動を行えるかを決定するようになれば、それはもはや単なる犯罪組織ではなくなる。国家の機能を果たし始めるのだ。

そして、その領域を取り戻すことは、軍隊を派遣することよりもはるかに複雑である。なぜなら、もはや単に武装した男たちを追い出すことだけではすまないからだ。それは、正当性を再構築することなのである。

◆日常生活が恐怖によって支配され始めたとき、民主主義は敗北し始める

このインタビューでは、同地域の政治的変遷を理解する上で特に重要な概念が紹介されている。組織犯罪の真の勝利は、殺人事件の数が増加したときではない。

それは、恐怖が集団の行動を変容させたときに起こる。ヒメネスは、市民が恐喝されることを恐れて起業を諦めるような状況を説明している。家族は、子供たちを守るために地域社会のリーダーシップを阻害してしまう。小規模な事業者は、収入の大部分が犯罪組織への資金源になってしまうことを知っており、投資を断念する。その時点で、組織犯罪はもはや暴力によって恒常的に支配する必要がなくなる。

共有された認識を定着させるだけで十分だ。社会的自己検閲が残りを引き受ける。この現象は民主主義に深刻な影響を及ぼす。なぜなら、恐怖が経済的、政治的、地域社会の決定を左右するとき、選挙の決定もまた左右されるからだ。

選挙運動は暗黙の脅威の下で展開され始める。地元の指導者は姿を消す。市民団体は動員力を失う。そして市民は、必ずしも信念に基づいてではなく、保護を求めて投票し始める。

こうして組織犯罪は、もはや単に縄張りを争うだけにとどまらなくなる。社会の政治的行動そのものを争うようになる。

◆単なる治安問題などとは比べものにならないほど深刻な問題である

ウィリアム・ヒメネスによる分析の最大の強みは、おそらく、ラテンアメリカの公的議論の大部分を依然として支配している単純化された説明を、まさに解体している点にある。組織犯罪を単なる警察の問題に還元することは、病気が拡大し続ける中で、症状だけを対処することに等しい。

犯罪組織の背後には、根強い不平等、機会の欠如、確固たる人生設計を築くことのできない教育制度、人材募集の場と化した非公式経済、そして問題がすでに深く根付いた段階で初めて反応することが多い民主主義が存在する。

この見方によれば、組織犯罪は内務省や治安部隊だけの課題ではない。それは民主主義国家全体にとっての課題である。そして何よりも、自らが直面している現象の真の規模をまだ十分に理解しきれていない社会にとっての課題である。

というのも、もはや問題は「いかにして組織犯罪を打ち負かすか」ではないからだ。問題は、はるかに居心地の悪いものになりつつある。「私たちの民主主義は、組織犯罪と共存することに、どこまで適応し始めているのか?」

◆組織犯罪が政治のやり方を学ぶとき

組織犯罪について語る際には、人々の想像を支配するあるイメージがある。武装した男たち。密造工場。コカインを積んだ船。報復。暴力。

しかし、そのイメージは、現実のものであるとはいえ、もはや不十分になりつつある。犯罪組織の真の力は、もはや暴力を振るう能力だけに依存しているわけではない。何よりも、ガバナンスを生み出す能力にかかっているのだ。

これこそが、ウィリアム・ヒメネスの考察において最も挑発的な論点の一つである。犯罪組織はもはや、国家を完全に置き換える必要はない。国家に浸透すれば十分なのである。選挙に勝つ必要もない。勝者に影響力を及ぼせばよい。すべての省庁を掌握する必要もない。

不処罰の保証、機密情報へのアクセス、制度的な保護、そして事業の継続性を確保できる場を確保できれば十分なのである。これは静かな変容である。そして、まさにそのために、その兆候を察知することははるかに困難になっている。

何十年もの間、公の議論は、どれだけの麻薬の積荷が押収されたか、どれだけの首謀者が逮捕されたか、あるいはどれだけの密造工場が破壊されたかに集中していた。しかし、そうした指標は、犯罪組織の真の強さについてはほとんど何も語っていない。ある組織は、数トンの麻薬を失っても、拡大し続けることができる。指導者を失っても、数週間のうちに後任を補充できる。一つのルートが摘発されても、新たに三つのルートを開拓できる。

もはや重要な問いは、国家がどれだけの犯罪を阻止できたかではない。重要なのは、国家がそれらの組織がどれだけの政治的権力を蓄積するのを阻止できたかである。ヒメネスは、組織犯罪が多くの政府よりも早く、現代の権力関係がどのように機能するかを理解していたと主張する。

各省庁、機関、検察、警察組織の間で制度が分断されたままである一方で、犯罪経済は、物流、情報、技術、資金調達、汚職、マネーロンダリング、政治的関係を単一の戦略の下に統合できる、真のグローバルな企業ネットワークとして機能している。彼らは即興で行動するわけではない。計画を立てる。反応するのではなく、先を見越す。そして何よりも、学ぶのだ。

この現象を解釈する上で、もうひとつよくある誤解がある。それは、汚職が組織犯罪の結果として生じるものだと考えることだ。ヒメネスは、この考え方を逆転させることを提案している。ラテンアメリカの多くの状況において、汚職は単なる「巻き添え被害」ではない。

それこそが、主要な運営メカニズムなのである。情報を売り渡すことを厭わない公務員がいなければ……。圧力に屈しやすい裁判官がいなければ…..。見ぬふりをする警察官がいなければ…。資金洗浄ができる金融業者がいなければ…..。資本を合法化しようとする実業家がいなければ….。こうした層がいなければ、ビジネスは今日のような規模には到底達し得ないだろう。

だからこそ、発砲する者たちだけを取り締まっても、そのシステムの機能を支える者たちが見えないままであれば、それでは十分ではない。現代の犯罪組織は、あらゆる制度に潜り込む必要はない。

必要なのは、戦略的な要所を特定することだ。ある事務所。一つの港。一つの司法事務所。一つの税関局。一つの公共調達機関。一つの銀行。時には、たった一つの行政決定が、1トンのコカインよりもはるかに大きな価値を持つこともある。

この視点の転換こそが、一部の国々で暴力発生率が低いにもかかわらず、制度的乗っ取りの水準が高い理由を説明している。殺人事件がないからといって、必ずしも組織犯罪が存在しないわけではない。むしろ、まったく逆を意味している可能性もある。すなわち、そのビジネスが十分な安定性を獲得し、もはや恒常的に暴力に訴える必要がなくなったということだ。

◆民主主義の見えざる乗っ取り

民主主義が一夜にして崩壊することはめったにない。通常、それは日々の些細な妥協によって徐々に蝕まれていく。進展しない捜査。不正な入札。出所不明の資金で賄われた選挙運動。捜査を遅らせる検察。捜査対象を選別する警察。管理を怠る国境。沈黙することを学ぶ地域社会。

ヒメネスは、このように違法な行為が例外ではなく当たり前のものとなり、制度の通常の運営を支える仕組みとして機能し始めることこそが、組織犯罪の最大のゴールの一つであると指摘している。

なぜなら、社会が汚職に憤りを覚えなくなり、恐喝がビジネスを行う上での避けられないコストとして受け入れ、あるいは特定の地域に並行する権力構造が存在することを当然のことと見なすようになったとき、制度の乗っ取りのプロセスはすでに始まっているからだ。

民主主義は依然として機能している。選挙も行われる。議会も存在する。裁判所も開かれている。法律も有効である。しかし、実効的な権力は、市民によって一度も選出されたことのない主体へと移り始めている。この現象こそが、一部の民主主義国家において、形式上はすべての制度を維持しているにもかかわらず、実際の統治能力が年々低下し続けている理由を説明している。

◆お金は「合法」に見えなければならない

組織犯罪について最も理解されていない側面の一つは、そこで得られた利益が最終的にどこへ向かうのかという点である。麻薬密売は、現金の山を積み上げるために富を生み出しているわけではない。目的は、その資金を合法的な経済へと組み入れるための資本を生み出すことにある。

違法に得られたドルは、遅かれ早かれ、外見上は正当な資産へと姿を変えなければならない。そこで登場するのが、金融システムであり、企業であり、不動産市場であり、投資であり、輸出であり、公共調達であり、デジタルプラットフォームである。

犯罪経済は、生き残るために正規の経済と溶け合う必要がある。そのため、ヒメネスは、議論はもはや麻薬の積み荷を摘発したり、殺し屋を逮捕したりすることだけにとどまってはならないと主張する。

むしろ、資金の流れを追跡できる仕組み(トレーサビリティ)の整備、透明性を確保する制度の強化、国際協力、そして違法資金が流れ込む分野に対する監督を議論に組み込まなければならない。

本当に問うべきなのは、誰が麻薬を売っているのかだけではない。その金を誰が受け取り、誰が動かし、誰が管理し、最終的に誰が利益を得ているのかもまた重要なのである。

こうした問いへの答えが公の議論の外に置かれたままである限り、組織犯罪の活動の大部分は、市民の目の届かないところで進行し続けるだろう。

◆マフィアは誰よりも早く「信頼」の価値を理解していた

逆説的ではあるが、犯罪組織もまた、自らの正当性を築き上げている。それは選挙によってではなく、成果を出すことによってである。多くの地域では、銀行が融資しない場所で貸し付けを行い、司法が何年もかけて解決するような紛争を迅速に処理する。

また、正規の雇用市場が消え去った地域では仕事を生み出し、地域活動に資金を提供し、特定の商店を保護し、ルールを定め、それに従わない者を処罰し、違法な「税」を徴収し、秩序を管理する。

それは彼らがより公正だからではない。国家が空白を残した場所で、人々の必要に応えることができるからである。

この現実は、単純化された見方を捨てることを私たちに迫る。民主主義と組織犯罪との戦いは、もはや警察の検問所や軍事作戦だけで繰り広げられているのではない。

その本当の戦場は、国家が市民の信頼を取り戻す能力にある。なぜなら、制度への信頼が失われるところには、その空白を埋めようとする者が必ず現れるからだ。そして犯罪組織は、多くのラテンアメリカ諸国の政府がこの問題の深刻さを認識し始めるよりもずっと以前から、その論理を理解し、活用する卓越した能力を示してきたのである。

◆手遅れになる前に国家を再建する

ウィリアム・ヒメネス・ガルシアの分析が明らかにしていることがあるとすれば、それは、組織犯罪をめぐる議論はもはや公共の安全保障という枠組みだけに限定できないということである。そうした見方にとどまることは、その変容する力が、国家が従来用いてきた枠組みではもはや捉えきれない現象であるにもかかわらず、その目に見える側面だけを追い続けることを意味する。

暴力は依然として組織犯罪の最も痛ましい表れの一つである。しかし、それが必ずしも最も決定的な要素とは限らない。殺人やテロ、武力衝突が起こるよりもはるか以前から、犯罪組織は、より目立たず、それゆえに一層戦略的な領域をめぐる争いを始めている。すなわち、市民の信頼、経済、国家機関、情報、公共調達、金融システム、そして場合によっては政治的代表性までもが、その対象となるのである。

こうした変化は、ラテンアメリカの多くの国々に深く根付いている一つの前提を見直すことを迫っている。それは、警察力を強化しさえすれば、経済・技術・政治・文化という複数の次元で同時に活動するこの現象を抑え込めるという考え方である。

ヒメネスは、必要とされる対応ははるかに包括的なものでなければならないと強調する。それには、国境を越えた脅威に直面する国家間の協力を強化すること、犯罪ネットワークを捜査・摘発する機関の専門性を高めること、違法資金の流れに対する透明性と監督の仕組みを強化すること、司法の独立を守ること、そして同時に、違法経済が最も拡大しやすい地域で国家が人々に機会を提供できる能力を取り戻すことが含まれる。

しかし、このインタビューで最も深い示唆は、おそらく警察活動の枠を超えたところにある。

このコロンビア人研究者は、組織犯罪との戦いは、教室や大学、報道機関、地域社会、そして民主的制度の質をめぐる場でも繰り広げられていると指摘する。

腐敗を当たり前のものとして受け入れ、司法への信頼を失い、国家が日常生活の問題を解決できるという期待を抱かなくなった社会は、結果として、そうした空白を違法な主体が埋めるための条件を自ら作り出してしまう。

このような状況では、予防はもはや安全保障政策を補完する手段ではない。それ自体が国家の基本政策となるのである。

市民意識の育成、法を尊重する教育、公的倫理の確立、そして民主主義文化の強化は、国境や制度の枠をもはや超えて活動するこの現象に真剣に立ち向かうための、いずれも切り離すことのできない要素なのである。

◆国家は、もはや同じルールのままで競争を続けることはできない

対話全体を通じて一貫して浮かび上がる懸念がある。それは、犯罪組織が絶えず革新を続けている一方で、国家はいまだに、その性質がすでに変化してしまった脅威を想定して作られた手段で対応し続けているということである。

犯罪ネットワークは、新たな技術を取り入れ、資金源を多様化し、経済のデジタル化を巧みに利用し、組織構造を柔軟に変化させ、さらには国境を越えた連携を通じて活動を拡大している。その速度は、公的機関の官僚組織が追いつくことのできるものではない。

その結果は明白である。対応が遅れるたびに、「絶えず適応すること」を最大の強みとする犯罪組織との力の差は、さらに広がっていく。

ヒメネス氏によれば、課題は単に既遂犯罪を摘発することだけではない。将来起こり得る事態を予測し、組織犯罪の新たな動向を理解し、犯罪組織が新たな領域支配、経済支配、あるいは制度支配を確立する前に、国家として連携して行動できる能力を構築することにある。

◆民主主義が直面する、最も静かな試練

ラテンアメリカの公共政策をめぐる議論には、しばしば一つの誘惑がある。それは、安全保障政策の成功を、逮捕者数、押収された麻薬の量、あるいは実施された捜査・摘発作戦の件数によって測ろうとすることである。

しかし、ウィリアム・ヒメネス氏との対話は、はるかに本質的で厳しい問いを私たちに投げかける。民主的な制度は、実際にどれほどその権限と統治力を取り戻したのか。どれほど多くの地域が、違法経済ではなく国家によって再び統治されるようになったのか。市民は司法への信頼をどれほど回復したのか。犯罪組織が政治、経済、行政に影響力を及ぼす能力は、どれほど弱められたのか。

これらの問いは、警察統計の範囲を超え、民主主義そのものの質に深く関わるものである。なぜなら、ラテンアメリカが直面する最大の危険は、単に組織犯罪の拡大ではないからだ。それは、組織犯罪との共存に慣れてしまうことであり、腐敗を避けられないものとして受け入れ、恐喝やみかじめ料の要求を日常の一部として当然視することである。

また、特定の地域が事実上、国家ではなく並立する権力によって支配されていることを受け入れたり、民主的制度が本来果たすべき役割――すなわち、権利を守り、司法を執行し、いかなる違法な権力よりも法の支配を優先させること――を果たす能力を次第に失っていくことを諦めてしまうことである。

おそらく、この警鐘こそが今回のインタビューの最大の意義である。組織犯罪は、市民の安全に対する脅威であるだけではない。それは、民主的統治、法の支配、そして私たちの社会が自由を守り続ける能力に対する、現代最大級の挑戦なのである。犯罪組織は、クーデターによって民主主義を打倒しようとしているのではない。民主主義を内側から少しずつ空洞化させようとしているのである。

そして、それこそが、おそらく今後数十年にわたりラテンアメリカが直面し、戦わなければならない最も困難な闘いなのである。

ビクトル・M・ロドリゲス(Víctor M Rodríguez)

▼ビクトル・M・ロドリゲス(Víctor M Rodríguez)
ジャーナリスト兼ディレクター:Píldoras Digitales、ウルグアイ報道協会編集委員:APU

Fuente:https://siquesepuede.jimdofree.com/2026/07/27/el-crimen-organizado-ya-no-desaf%C3%ADa-al-estado-compite-por-gobernarlo/

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月29日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

西側メディアと「草の根ファシズム」を牛耳っている米国政府系の資金、2025年度はラテンアメリカ向けが60億、アジア向けが87億円

黒薮哲哉

米国の対外戦略、特にメディア戦略と「草の根ファシズム」について考察する際、米国政府系の全米民主主義基金(NED)の活動を軽視するわけにはいかない。2025年度のラテンアメリカ向けの支援金額は3,680万ドル(60億3000万円)である。また、アジア向けの支援金額は5,320万ドル(87億2000万円)である。

ラテンアメリカ向けの支援金額のうち、最も大きな比重を占めるのは、ベネズエラ、キューバ、ニカラグアの反政府勢力に対する支援である。同基金のウェブサイトは、これら3カ国について、次のように述べている。

「NEDとその中核機関は、この地域全体で現地主導の取り組みを支援し、地域社会が民主化の好機を捉え、強まる弾圧に抵抗し、不可欠な活動を維持できるよう、戦略的な助成金を提供しました。キューバ、ニカラグア、ベネズエラでは、市民団体が厳しい制約の下でも独立した情報流通を維持し、人権侵害を記録し、市民の声を上げるために残されたわずかな場を保護しました。中国とロシアが同地域への関与を深める中、NEDの支援を受けた研究者やジャーナリストは、こうした影響が国内のガバナンスにどのような影響を及ぼし、国家主権を侵食し得るかを市民が理解できるよう支援しました。」

一方、アジア向けの支援資金のうち、最も大きな比重を占めるのは中国向けである。チベットや新疆ウイグル地区に関する根拠のないニュースの資金源となっていると言っても過言ではない。

◆NEDと4つの中核機関

NEDは1983年に、米国のロナルド・レーガン大統領によって設立された。CIAから戦略上のアドバイスを受け、USAID(アメリカ合衆国国際開発庁)から資金援助を受けてきた。

同基金のウェブサイトによると、「NEDは、その4つの中核機関である国際民間企業センター(Center for International Private Enterprise=CIPE)国際共和研究所(International Republican Institute=IRI)全米民主国際研究所(National Democratic Institute=NDI)、およびソリダリティ・センター(Solidarity Center)とともに、中東欧、ラテンアメリカ、アジア太平洋地域、そしてアフリカ全域で高まる民主化運動のニーズに応えてきました」という。

引用した4つの関連団体については、今後調査する必要があるだろう。西側メディアや市民団体と深いつながりを持っている可能性が高い。メディアが世論誘導の道具へと変質したとき、最も直接的な被害を受けるのは、西側メディアが流す情報を過信している人々である。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月27日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
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だれがニカラグアを孤立させてきたのか ── オルテガ大統領、選挙中止宣言の背景

黒薮哲哉

7月19日のニカラグアの革命記念日の演説で、同国のダニエル・オルテガ大統領が、今後、選挙は実施しないと発言したことが波紋を広げている。たとえばコスタリカ、グアテマラ、パナマといった近隣諸国は、抗議の意思を示すために自国の大使を召還した。オルテガ大統領夫妻による独裁が始まったというのが西側メディアの報道である。

ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領

これを受けて、ニカラグア国民議会のグスタボ・ポラス議長は、

「重要なのは、この国において、クーデター犯や祖国への裏切り者が参加する選挙、あるいは外国の資金や外国の勢力、外国の組織から資金提供を受けている政党や団体が参加する選挙は容認できないことを、憲法上の規定として明確にしておくことだ」(スペインの国際通信EFE)

と弁解した。

ラテンアメリカで刻々と議会制民主主義が成熟している状況の下で、ニカラグアの方針が歓迎すべからぬものであることは言うまでもない。が、同時に筆者は、深い同情を感じる。誰がニカラグアを孤立させているのかという問題である。

言論の自由に関するニカラグアの状況を、1979年の革命の時期まで遡って検証してみよう。

◆文盲を撲滅キャンペーン

革命後、ニカラグア政府は言論の自由を全面的に認める方針を取った。独裁政権の時代にニカラグアの人々が最も手にしたかった宝のひとつであるからだ。まず、文盲を撲滅するためのキャンペーンを展開した。仕事を終えた農民や労働者が、夜間に文字の指導を受ける光景が全国に広がった。指導しているのは、大学生たちである。教師の一人がこんなふうに話していた。

「これらの人々は知力が劣っているから、文字が読めないのではありませんよ。独裁政権が教育の機会を与えなかったからに文字を習得していないのに過ぎません。被害者ですよ。学習すれば、だれでも読み書きができるようになります」

◆ユージン・ハーゼンファス事件

当時、わたしは米国にいた。米国のメディアは、ニカラグアには言論の自由がないと報じていた。あるときダニエル・オルテガ大統領が、米国を訪問して、講演した。その時、1人の青年が、ニカラグアで言論弾圧が行なわれるとして、大統領に釈明を求めた。大統領は、「そんなことはしていない」と、強く否定して、青年をニカラグアへ招待することを約束した。何の制限もしないので、自分の眼で言論弾圧が行われているかどうかを確かめてほしいと告げた。

1986年10月5日、ニカラグアの反政府ゲリラの支配する地区へ、武器を空輸していた米軍機が、地対空ミサイルで撃墜された。米国人のユージン・ハーゼンファスが捕虜となった。ハーゼンファスは裁判にかけられ、禁錮30年の判決を受けえた。しかし、3か月後、クリスマスの前に、ニカラグア政府は恩赦でハーゼンファスを釈放して、帰国された。当時の政府は、米国との和解を希望していた。その一環としての釈放だったと思われる。

ラテンアメリカの左派政権の国は、ニカラグアだけではなく、キューバも、ベネズエラも米国との良好な関係を望んでいた。それを常に否定して、「反米」のレッテルを張ってきたのは、西側である。

◆香港の雨傘運動と同じパターン、背景にNEDの影

1990年、ニカラグアの大統領選で野党連合が勝利して、オルテガ大統領は下野した。革命政府が構築した議会制民主主義のルールを重視したのである。オルテガ大統領は下野したことで、米国はコントラへの支援を中止した。その結果、ニカラグア内戦は終わったのである。逆説的にみるとニカラグアの人々は、野党連合の大統領に投票することで、平和を獲得したのである。従って、客観的にみれば公平な選挙ではなかったが、オルテガ大統領は投票結果を受け入れたのである。

その後も、ニカラグアは2代にわたり保守派の大統領が続き、2007年に再びオルテガ大統領の政権になった。その後、何の根拠もなく、ニカラグアはオルテガ大統領による独裁国家だという報道が行なわれるようになった。とりわけオルテガ大統領の妻であるロサリオ・ムリンニョが副大統領になってからは、独裁政権というレッテル張が激化した。

こうした流れと並行して、米国政府系の全米民主主義基金からニカラグアの市民団体やメディアに資金提供が行われた。オルテガ大統領を追放するためのメディア戦略が展開されるようになったのだ。そして2018年、香港の雨傘運動とまったく同じ事が起きた。「草の根ファシズム」が広がり、政府に対する暴動が起きた。世論誘導やフェイクニュースで世論を誘導し、混乱を起こし、政権の転覆を企てる試みが行われた。これに対してオルテガ大統領も強引な対抗策を取った。452人のニカラグア人を国籍を剥奪したのである。その中には、国際的に著名な作家のセルヒオ・ラミレス氏も含まれていた。

◆だれがニカラグアを孤立させてきたのか?

トランプ政権は、ラテンアメリカに対する干渉を強めた。ホンジュラスやチリの大統領戦況にトランプ政権が介入したことは、ほとんど公知の事実となっている。2007年1月には、ベネズエラに軍事介入して、ニコラス・マドゥロ大統領夫妻を拉致した。その後、キューバを標的にすることも公言した。さらにキューバの次のニカラグアという見方が定着している。

こうした状況の下で、オルテガ大統領が選挙の中止を宣言したのである。

繰り返しになるが、選挙の中止は、憂慮すべき事態だが、その背景を歴史的にさかのぼると、一方的にオルテガ大統領を非難するわけにはいかない。事態は複雑だ。だれがニカラグアを孤立させてきたのかを再検証する必用がある。

【参考記事】米国政府系の反共謀略組織・NEDからラテンアメリカ諸国の市民団体やメディアに63億円

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月25日)掲載の記事「ニカラグア、選挙中止宣言の背景に何があるのか?」を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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ドイツが計画する8,000億ユーロ規模の再軍備を進める要因とは何か

アンドリュー・コリブコ

日本で急速に進む軍事大国化の流れは、ウクライナをめぐる紛争を媒体として、ヨーロッパでも起きている。次のアナリシスは、かつての日本の同盟国ドイツの動きに焦点を当てたものである。

イデオロギー上の動機、経済的利益、そして個人的な利害が、支配層であるリベラル系の支配層による重大な決定の背景にある。この決定によって、ドイツはロシアによって、アメリカに代わる最大の脅威と見なされる存在になるとされている。

英紙フィナンシャル・タイムズは7月初め、「ドイツ、歴史的な方針転換として再軍備のため8,000億ユーロを借り入れへ」と報じた(【黒薮注】8,000億ユーロは、約144兆円)。その背景には、アメリカが進める「NATO 3.0」という構想がある。この構想では、NATO加盟国であるヨーロッパ諸国に自国の安全保障についてより大きな責任を負わせようとしている。

実際には、EUが西ユーラシアにおけるロシア封じ込めの中心的な役割を担うことを意味している。これは、トランプ第2次政権が過去1年間でロシアの周囲に築いた新たな「緩衝地帯(コルドン・サニテール)」構想に沿ったものであり、この地域ではドイツが主導的な役割を果たす計画となっている。

現在ドイツは、ウクライナと協力して、中・東欧地域(CEE)の主導権をめぐりポーランドと競争している。仮にポーランドが独自の「勢力圏」を築くことに成功したとしても、ドイツが計画する8,000億ユーロ規模の再軍備によって、ドイツが依然として大きな影響力を持つことに変わりはない。

すでにEUは「ロシアがEUに対して感じている以上の脅威を感じている」とされている。一方、今後ロシアは、「アメリカよりも、ドイツの方がより大きな脅威と感じるようになる可能性がある」とも指摘されている。

ロシア前大統領で現在は安全保障会議副議長を務めるドミトリー・メドベージェフは5月初め、ドイツの再軍備が1941年を想起させる脅威になると警告した。また、ロシアの著名な専門家ドミトリー・トレーニンは最近、ロシアとの戦争の危険をあおっているのは、もはやアメリカではなくEUだと主張している。

EUの事実上の指導国がドイツである以上、現在モスクワが2030年前後に起こり得ると見ているNATOとロシアの軍事的衝突への流れを作るうえで、ドイツが最も大きな責任を負っていることになる、というのがこの記事の見方である。

この動きを進める主な要因は、イデオロギーと経済の二つだとされる。

イデオロギーの面では、支配層であるリベラル・エリート層は、新冷戦を「民主主義と独裁主義の対立」と捉えている。一方、経済面では、比較的慎重な政治家たちに対して、軍需産業がこの分野への大規模な投資によってドイツの産業空洞化を防ぐと説得しているという。

しかし実際には、産業空洞化を招いている主な原因は、高いエネルギーコストと中国との競争だとしている。

それにもかかわらず、支配層であるリベラル・エリート層は、中・東欧地域、そして「NATO 3.0」のヨーロッパ側全体で主導権を握るため、ポーランドと競争する方針をすでに決めている。

ただし、その代償として国内の社会・経済の安定が損なわれていることは明らかだとされる。実際、イギリスのメディアも最近、「ドイツは静かに崩壊しつつある」と報じている。

ロシアは、核兵器を保有するアメリカがNATO第5条の義務を本当に果たすかどうかを試そうとは全く考えていないにもかかわらず、現在のドイツ政府は国民の生活を改善することよりも、ロシアの封じ込めを優先している、というのがこの記事の結論である。

※【黒薮注】NATO第5条:「加盟国の一国が武力攻撃を受けた場合、それを加盟国全体への攻撃とみなし、各国が支援する」という集団防衛の規定。北大西洋条約の第5条に定められている。

支配層であるリベラル・エリート層が前述のイデオロギーを重視している背景には、その一部が、それこそが低迷する自国経済を立て直す鍵だと思い込まされていることがあるという。また、このような地政学的な役割を担うことで得られると考えている名声も、その姿勢に影響している可能性がある。

この役割を果たすことで、ヨーロッパ各国のエリートから評価されること、さらに、自分たちが憧れの対象としているアメリカのエリートから公に認められることは、彼らにとって個人的にも重要な意味を持っている、とこの記事は述べている。

ロシアの立場から見ると、ドイツは西ユーラシアにおいて最も深刻な安全保障上の脅威へと急速に変わりつつあり、この流れが変わると政策担当者は考えるべきではない、としている。

一方で、NATO第5条があるため、ロシアによる先制攻撃は現実的ではない。また、現在のドイツ政府の政策によって一般のドイツ国民がロシアの核攻撃の対象になっていると訴えたとしても、それによって状況が変わることはないとしている。

それでも、ドイツ主導のEUがロシアを攻撃するような事態になれば、ロシアは核兵器による報復を行うことに疑いの余地はない、というのがこの記事の結論である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月22日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/whats-driving-germanys-planned-800?utm_campaign=post&utm_medium=web&triedRedirect=true

閉ざされた扉の向こうにある司法――日本における法廷アクセスの問題

黒薮哲哉

本記事は、世界ジャーナリスト評議会(GJC、トルコ)の国際誌『Global Media』に掲載した記事(筆者・黒薮)の日本語訳である。上写真 左ページはトルコ語、右ページは英語)

安倍晋三元首相を暗殺した罪に問われた山上徹也被告の裁判は、日本でこれまで十分に注目されてこなかった問題、すなわち一般市民による司法制度へのアクセスのあり方を浮き彫りにした。

2026年1月、奈良地方裁判所は山上被告に無期懲役を言い渡した。この事件は国内外から大きな関心を集めたが、実際に公判を傍聴できた人はごくわずかだった。

計15回の公判には、毎回700人から800人が傍聴を希望して裁判所を訪れた。しかし、用意された傍聴席はわずか64席だった。その半数は抽選で一般市民に割り当てられ、残りは裁判所の判断により、報道機関やフリーランスのジャーナリストに配分された。

外国人記者のうち、すべての公判に出席したのはただ一人、フランス人ジャーナリストで元AFP通信特派員のカリン・ニシムラ氏だけだった。ニシムラ氏は月刊誌『世界』への寄稿記事で、この裁判をきっかけに、日本の司法制度の透明性をめぐる、より広範な問題を提起した。

フランスでは、社会的関心の高い事件の裁判が行われる際、仮設法廷を設けたり、映像システムを使って複数の部屋をつないだりすることで、より多くの人が傍聴できるようにすることがある。2015年11月に発生したパリ同時多発テロ事件をめぐる裁判では、当局が約500席を備えた仮設法廷を設置した。それでも席が足りないことが明らかになると、映像中継と大型スクリーンを用いて、さらに11の法廷に審理の様子を中継し、数千人が裁判の経過を見守れるようにした。

日本では、社会的意義の大きな事件であっても法廷への入場が厳しく制限されているため、このような対応は想像しにくい。

◆福島原発事故とその法的余波

この問題は、山上被告の裁判に限ったものではない。原子力をめぐる訴訟でも、同様の傾向が見られる。

2011年の地震と津波によって引き起こされた福島第一原発事故の後、政府や東京電力を相手取った数多くの訴訟が提起された。その多くは現在も続いている。

例えば、福島県で実施された甲状腺検査では、子どもや若年層の間で多数の甲状腺がんが確認されており、その原因や法的責任をめぐる議論が続いている。日本が地震の多い国であることや、原子力エネルギーをめぐって長年議論が続いてきたことを考えれば、こうした訴訟に国民の関心が集まるのは当然だろう。

しかし、裁判へのアクセスは依然として制限されている。多くの市民は自ら公判を傍聴することができず、メディアの報道に頼らざるを得ない。小規模な週刊誌や月刊誌は、原告や被災地の視点に立った貴重な報道を行うことが多いものの、大手新聞やテレビ局ほどの発信力や影響力は持っていない。

◆法廷へのアクセスは問題の一部にすぎない

日本では、一般の傍聴人が法廷での審理を撮影したり、録音・録画したりすることは、原則として禁止されている。ジャーナリストも同様の制限を受ける。そのため、スマートフォンで社会のほぼあらゆる場面を即座に記録できる時代になっても、法廷スケッチは依然として裁判報道に欠かせないものとなっている。

さらに近年、新たな課題も浮上している。裁判所では、デジタルプラットフォームを通じて法廷と法律事務所をつなぎ、一部の手続きをオンラインで行うケースが増えている。こうした仕組みは効率を高める一方で、一般市民から裁判の過程を見えにくくする恐れもある。事件に直接関わっていない人にとっては、審理で何が起きたのかを知る現実的な手段がほとんどない場合も多い。

その結果、一般市民が裁判について理解するためには、審理への立ち入りを認められた比較的少数の記者に大きく頼らざるを得なくなる。重要な法的議論が、ごく限られた視点を通してしか伝わらないというリスクが生じるのである。

とはいえ、日本に表現の自由がないわけではない。法律上、言論の自由と報道の自由は強く保障されている。実際、第二次世界大戦後の日本は、概してジャーナリストを政治的迫害から守ってきた実績があり、この点では他の多くの国と比べても良好な状況にある。

◆国境を越えるジャーナリズム

民主主義社会は、法的に発言する権利だけでなく、情報を収集する能力によっても支えられている。裁判手続きへのアクセスが制限され、写真撮影や録音・録画が禁止され、公判がますます一般の人々の目の届かないところで行われるようになれば、市民は、自分たちの名の下に正義がどのように執行されているのかを理解するうえで、大きな障害に直面することになる。

こうした制限は長い間「当たり前」のものとして受け入れられてきたため、批判の対象になることはほとんどない。多くの日本人ジャーナリストは、キャリアを通じてこの制度の中で仕事をしてきた。慣れ親しんだ慣行は、時として問題として認識されにくくなるものだ。

だからこそ、ジャーナリスト同士の国際交流が重要になる。他国の制度に目を向けることで、自国では疑問を持たれないまま受け入れられている前提に気づくことがある。透明性、効率性、プライバシー、安全保障の間でどのようにバランスを取るかは、社会によって異なる。完璧な制度は存在しないが、他国との比較は、自国の制度を見つめ直すきっかけになる。

ジャーナリズムは、国境を越えることで豊かになる。他の民主主義国が共通の課題にどのように向き合っているかを検証することで、記者は自国社会に対する新たな視点を得ることができる。世界の相互依存がますます深まるなか、こうした知見や発想の交換は、ジャーナリズムが果たす最も価値ある役割の一つだと言えるだろう。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年7月24日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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