ルラ氏、事前の予想を覆して勝利し、ラテンアメリカの左派に希望を取り戻す

セサル・ゴメス・チャコン

ついに、予想されていたことが現実となった……。

ブラジルで日曜日に行われた選挙で、ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ氏が勝利した。この勝利は、困難に負けずに努力を続けてきたことの成果であり、保守派の政治的な動きに対して国民の意思が勝ったことを意味する。また、ブラジルの選挙結果は、ラテンアメリカの左派勢力が、再び希望を持つ根拠となった。

間もなく81歳になる労働運動出身のルラ氏は、歴史的な逆転勝利を果たした。第1回投票では相手候補に後れを取ったものの、ブラジルの極右勢力の政治的な後継者であるフラビオ・ボルソナロ氏を破り、4期目の大統領の座を勝ち取った。ルラ氏の歩みは、国民が自らの将来を選ぶ力を持ち続ける限り、選挙の結果は事前に決まっているわけではないことを改めて示している。

今回の選挙結果は、米国政府からの圧力や保守勢力の台頭に直面しているラテンアメリカにおいて、特に大きな政治的意味を持っている。ルラ氏は、米国が覇権を広げようとする動きに対し、ブラジルの独立と自主性を強く守ってきた。最近、国連で述べた「ブラジルは、どの国の裏庭にも収まるような国ではない」という発言には、ラテンアメリカにとって重要な信念が表れている。それは、他国からどのような圧力を受けても、自国のことは自国で決めるという姿勢を貫くべきだという考え方だ。

◆キューバも今回の勝利を特に歓迎している

ルラ氏とキューバ革命とのつながり、そしてフィデル・カストロ最高司令官との個人的な関係には、社会正義やラテンアメリカの統合をめぐって交流を重ね、互いに尊重し、考えを共有してきた歴史がある。フィデル氏は、労働者の闘いの中から生まれた指導者としてルラ氏を評価していた。また、貧しい家庭に生まれた経験を、社会を変えるための政治的な力へと転換できる人物だと認めていた。

2003年にルラ氏がブラジル大統領に就任すると、キューバとブラジルの間で緊密な協力関係が始まった。両国は協力を強化するとともに、より公正な国際秩序の必要性を訴えるため、さまざまな分野で連携した。その目標は、グローバルサウスの国々が外部からの押し付けを受けず、自らの将来を決められるようにすることだった。

このため、ルラ氏の勝利は、単に右派勢力が選挙で敗北したことだけを意味するものではない。国民の利益を重視する政治勢力が、不利な選挙運動に直面しても持ちこたえ、市民の信頼を取り戻すことができるということも示している。

ルラ氏の人生は、貧困、労働組合での活動、投獄、そして政権への復帰によって形づくられてきた。その歩みは、困難に直面しても簡単には屈しない政治的な意志の強さを示している。

今回、選挙で4度目の勝利を収めたことで、ルラ氏が歴史に名を残すことは確実となった。そして、今回も改めて明らかになったことがある。それは、事前の予想や外部からの圧力がどうであろうと、最後に決定を下すのは国民だということだ。

セサル・ゴメス・チャコン(César Gómez Chacón)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年10月28日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼セサル・ゴメス・チャコン (César Gómez Chacón)
キューバのジャーナリスト、代表作にアンゴラ内戦を取材した『Cuito Cuanavale. Viaje al centro de los héroes(クイト・クアナバレ――英雄たちのただ中へ)』

Fuente:
https://www.cvi.icrt.cu/lula-derrota-los-pronosticos-y-devuelve-la-esperanza-a-la-izquierda-latinoamericana/

「日本ユネスコ運動全国大会 in 久留米」に参加して

江上武幸(弁護士 福岡・佐賀押し紙弁護団)

戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に「平和のとりで」を築かなければならない。(UNESCO憲章前文より)

去る10月3日、福岡県久留米市の石橋文化センターで「第82回日本ユネスコ運動全国大会 in 久留米」が開催されました。民間ユネスコ運動は市民の力で国際理解と平和の心を育むことを目的に日本から始まった草の根ボランティア活動です。

1947年7月に最初の国内民間ユネスコ団体「仙台ユネスコ協会」が設立されています。日本がユネスコに加盟したのはそれから4年後の1951年7月です。民間ユネスコは政府機関とは独立した非政府組織(NGO)として活動しており、世界93の国と地域で約5300の団体・組織が設立されています。日本には268の民間ユネスコが存在します。

今回、全国から200名を超える会員が久留米市に集い、第82回全国大会と懇親会が開かれました。久留米ユネスコは福岡県で最初に設立されたユネスコです。東京でユネスコ活動をしておられた中村静雄氏が故郷久留米に戻られてから親族に声をかけて1982年に結成され、今年で44年になります。(執筆者:弁護士)

私はユネスコの何たるかも知らずに誘われるまま入会し、毎年1月に久留米市役所の2階で開かれる小・中学生の「わたしの町のたからもの絵画展」の優秀作品に額縁をプレゼントする活動に協力するだけでした。今回、全国大会の成功のために2年間準備に専念してこられた白石会長(元久留米市長)が怪我のため急に参加されなくなり、懇親会の乾杯の挨拶を頼まれることになりました。

全体会は久留米市発祥のブリヂストンタイヤ(BS)の創業者石橋正二郎氏がスポーツ・文化・芸術の振興と市民の憩いの場として寄贈された石橋文化センターの一角にある音楽ホールで開かれました。

外務省・文部科学省、福岡県、久留米市、福岡県教育委員会、久留米市教育委員会、久留米大学等の後援を受けて開催された今大会は、善導寺の僧・賢順(けんじゅん)を祖とする箏曲の演奏と、地元出身のシンガーソングライター野田かつひこさんのオリジナル曲のギター演奏で幕を開けました。

大会のメイン行事は「わたしにとっての平和とは」と題する女性5名によるリレートークでした。92歳になる元秋月中学校長(日本遺族会女性部長)の戦争遺児としての体験、福岡市在住のウクライナ人女性の母国からの避難民受け入れの話、沖縄県在住の女性平和教育ファシリテーターの活動報告、ジュネーブの国連欧州本部に反核署名を届けた女子高校生の署名運動、それと「お義父さん、戦争ってどげんやった?」(竹書房・コミックエッセイ大賞受賞)で漫画デビューした地元作家の制作秘話など、それぞれの体験に基づき心の中に築いた平和への思いを話されました。

私は「心の中に『平和の砦』を築かねばならない」というユネスコ憲章の意味するところを今ひとつ実感できないまま漫然と過ごしてきましたが、リレートークを聞きながら自分の心の中に少しずつ「平和の砦」が築かれていく気がしました。

外務省キャリア官僚として長年中東の和平構築に携わってこられた久留米市出身の元久留米大学教授の宮原信孝氏から「一人ひとりにそれぞれの人生があり、一人ひとりの命と生活こそが、かけがえのない最も大切にするべきものであることを皆さんに伝えてもらいました。本日のこのような話を大会参加者個々人のネットワークを通じて世界の市民に伝えていくことを提案します。」との総括の言葉があり大会を終了しました。

私がこの投稿をしようと思ったのは、民間ユネスコの活動の一端を知ってもらいたいと考えたのと、シンガーソングライター野田かつひこさんの「大和桜」という歌と、ゆる山まげよさんの漫画本「お義父さん、戦争ってどげんやった?」を是非とも紹介したいと思ったからです。

「大和桜」の歌は、太平洋戦争の末期に戦艦大和を指揮して沖縄に出撃を命じられた艦隊司令官伊藤整一海軍中将(死後、海軍大将に昇進)の子孫の方たちが野田かつひこさんに頼んで作詞・作曲してもらった曲です。伊藤整一は部下に下船を命じて部下の命を助け自らは戦艦大和と運命をともにした福岡県三池郡高田町(現・みやま市)出身の軍人です。伊藤整一の生家の桜の木が枯れたあとに芽生えた若木が大きくなり、満開の花を咲かせるようになったことから子孫の方たちが伊藤整一の思いを曲にしてほしいと頼んだそうです。

伊藤整一には、毎日、片道3時間以上かけて柳川市にある旧制柳川中学校に通学し、行き帰りに歩きながら勉強したという逸話が残っています。その後、海軍兵学校・海軍大学、そしてアメリカのイェール大学に学び、アメリカと日本の圧倒的な国力の差を目にして帰国し、連合艦隊司令長官山本五十六らとともに日米開戦を避けるため懸命の努力をした軍人として知られています。

私は「大和桜」の歌を聞いて伊藤整一海軍中将のことを初めて知り、同時に軍人であった伊藤整一を偲ぶ「大和桜」が、世界平和を誓うユネスコの全国大会の舞台で歌われたことに深い感銘を受けました。

※ネットで「伊藤整一」を検索したからだと思われますが、最近、部下を助け、あるいは部下と運命をともにした海軍の高級将校らの情報が次々と出てくるようになりました。特攻隊を指揮した大西瀧治郎中将が終戦の翌日に割腹自決したことや、宇垣纏中将が終戦の日に自らの特攻機に乗って出撃したことなど知らない話を知ることができます。

それとは反対に、戦後、航空幕僚長から自民党参議院議員として84歳まで生き延びた源田実氏が特攻隊とのかかわりを徹底して隠しつづけたことや、統一教会や勝共連合と深い関係をもっていたこと、また、前記大西中将の自決を受けてあとに続くのではないかとみられていた中澤佑少将が幕僚たちを前にして「俺は死ぬ係じゃないから」と言い放って生き延び、その後、米海軍横須賀基地に勤めて83歳の長寿を全うした話なども知ることができます。

以前、「甲斐弦『GHQ検閲官』の読後感」や「裏千家玄室大宗匠お別れ会に参加して」の投稿でも触れましたが、死ぬべきでない人間が死に、死ぬべき人間がのうのうと生き残ってきてできたのが今の日本です。防衛大学生が制服姿で靖国神社に集団参拝している姿をネットで見るたびに、特攻で死んでいった10代後半から20代の戦中の若者たちのように、卑怯な大人たちに騙される自衛官がでないことを祈るばかりです。

大会終了後、ユネスコ活動の支援企業のホテルマリターレ創世に会場を移して懇親会が開かれました。偶然、隣りあわせになった「ゆる山まげよ」さんから「お義父さん、戦争ってどげんやった?」の漫画を頂戴しました。

年上のご主人と結婚した若いお嫁さんが義父から幼い頃の戦争の思い出話を聞き出しそれを素材にして描いた戦争漫画です。義父の父親は徴兵検査に合格したものの運よく軍用木材の切り出しと運搬の仕事を命ぜられたことから戦地に行くことも戦闘に巻き込まれることもなく生き延びることができました。

終戦に近い頃、B29が近くに墜落し一人の若い米兵が空腹に耐えかねて投降してきた時の話です。村人につかまえられ、木にくくりつけられた米兵に向かって息子を戦地で殺された父親が鎌を振りかざして襲いかかろうとしますが皆にとめられます。

B29爆撃機の編隊が日本上空に現れるようになってから、各地で撃墜された乗員がパラシュートで落下し住人に捕獲されるという事件が発生しています。中にはパラシュートで脱出した米兵に食べものを与えたり怪我の手当をした事例もあるようです。

戦後、墜落したB29の残骸の回収のために義父の村に進駐軍がやってきます。物珍しさに子供たちが近づくと米兵は角砂糖やガム・チョコレートなどをくれます。大人たちには温めたコーヒーを飲めと言います。それを見た義父の父親は軒先に縄でつるした干し柿をとって米兵に与えます。うまそうにほおばるのを見て残りの干し柿を縄ごと首にかけて渡します。作者は義父に「お爺さんは敵の兵隊さんになぜ干し柿をあげたりしたの。干し柿一個でも食糧難の時で大切な食べ物だったはずなのに。」と聞きます。すると、義父は「ただ、お返ししたかっただけじゃろ」と答えます。そこには、敵とか味方とかいう考えが入り込む余地はありません。戦争を無事に生き延びた人間同士が目の前にいるだけで十分ではないかと言いたげです。

作者は義父の答えを聞いて「人の『本質』は敵味方の枠を超えうるとてもシンプルなものかもしれない……」という思いに至ります。

この漫画はゆる山まげよさんの処女作ですがネット上では早くも高い評価を得ています。原爆漫画「はだしのゲン」(中沢啓治作)と同じように世代と国を超えて読み続けられてほしい作品です。

徴兵制という言葉が普通に聞かれるようになりました。ハガキ一枚で戦争に駆り出された「赤紙」の時代が昔語りといえなくなるような予感がします。しかし、歴史は確実に進歩しています。戦前と違い国の主権者は国民です。政治家も官僚も裁判官も自衛官も警察官も、また皇族も一人の国民であり他の国民の命や生活を奪うことはできません。国がなくとも人は友人・知人さえいれば世界のどこに行っても生きていける逞しさをもっていることが「ポツンと一軒家」や「YOUは何しに日本へ?」といったテレビ番組でわかります。

憲法で最初に学ぶのは条文ではなく憲法制定前から存在する自然権についてです。自然権は誰かから与えられるものでもなく人間として生まれた時から持っている権利です。他人に譲渡したり国家によって奪われたりすることのない権利です。この考えは、フランス人権宣言・アメリカ独立宣言以来、各国憲法に受け継がれて今日に伝わっています。

自然権の次に学ぶのは「抵抗権」です。抵抗権は国家や政府が不当に国民の権利・自由を侵害し、憲法や法の秩序を乱した場合には人民がそれに反抗することができる権利です。インドのガンジーや南アフリカのネルソン・マンデラが独立運動で指導した「市民的不服従」と異なり力をもってこれを打倒することをも認める権利です。

大日本帝国憲法には、「自然権」・「抵抗権」といった考えはありませんでした。国民は「臣民」と呼ばれており臣民の権利は天皇が与えたものでした。そのため天皇はいつでも法律で臣民の権利を制限することができました。治安維持法で死刑をもって思想・信条の自由を制限したのはその一例です。

日本国憲法はアメリカを中心とする連合国が人類の英知を結集して日本にその制定を求めた世界に誇るべき憲法です。自然権・抵抗権の権利も条文に定めがなくとも当然に含まれています。戦争に行って人を殺したり殺されたりするのが嫌な国民は法律がどうであれ自然権・抵抗権に基づいて戦争に行くのを拒否することができます。自衛官・警察官、その他の公務員であっても変わりはありません。

田中角栄元首相は人は「人相」で判断できるという考えをもっていたと言われています。新潟の農村出身であり高等小学校の学歴しか持たない首相の慧眼だと感服します。「人相見」は、古代中国や古代ギリシャ時代から伝わっている世俗の知恵です。テレビであまりにも酷い顔つきの政治家や官僚、時事評論家等の顔を見るたびに、誰か人相見ができる占い師はいないかと思ってしまいます。

宇宙から地球を眺めることができる神の目を持ちえた人類が21世紀を迎えてもなお戦争を続けていることの不思議さをつくづく感じます。むしろ、人間よりAIの方が戦争を防ぐ知恵を出してくれるかもしれません。アメリカでは日本の国家予算122兆円を軽く上回る166兆円の資産を一人の人物で所有しているそうです。完全に狂っているとしかいいようがない世界が出現しています。

核ミサイルや原子力発電もそうですがAIも人類を滅亡させかねないと言われています。これらの化け物と化した人類の科学の発展や社会構造を人間が理性によってコントロールできるかどうかが問われる時代に突入したように思います。広島・長崎の原爆被害と福島第一原子力発電所の事故を経験した日本がその役割の一端を担うことができれば良いのですが。

※ユーチューバーの金子吉友さんの「反DSあつまれニュースの森」の「郵政民営化の嘘 笹川財団、満州人脈、清和会、日本維新の会、ダボス、竹中平蔵すべてが裏でつながる」の番組は必見だと思います。参考まで。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年10月14日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼江上武幸(えがみ・たけゆき)
弁護士。福岡・佐賀押し紙弁護団。1951年福岡県生まれ。1973年静岡大学卒業後、1975年福岡県弁護士会に弁護士登録。福岡県弁護士会元副会長、綱紀委員会委員、八女市役所オンブズパーソン、大刀洗町政治倫理審査会委員、筑豊じんぱい訴訟弁護団初代事務局長等を歴任。著書に『新聞販売の闇と戦う 販売店の逆襲』(花伝社/共著)等。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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物価高騰の写真にだまされた ── 氾濫するAIによる偽造写真

黒薮哲哉

本稿の右側に掲載した写真は、フェイスブックに投稿されたものである。転載機能や写真のコピーによって、かなり広範囲に拡散されているため、最初の投稿者を特定することは難しい。わたしも写真の内容を事実だと思い、拡散した。

写真は、同じ系列のスーパーマーケットにおける商品の販売価格を、2002年と2026年で比較したものである。たとえば、「コシヒカリ5キロ」は980円から4200円に値上がりしている。「牛乳1リットル」は98円から260円に、「たまご10個」は78円から310円に、「食パン1斤」は68円から210円に、さらに「キャベツ1玉」は58円から230円になっている。

ところが、わたしが転載した画面に、「これはさすがにウソ」というコメントが書き込まれた。そこで、AIを使って2002年当時の推定価格を調べてみると、次のような数字が提示された。

「コシヒカリ5キロ」195円
「牛乳1リットル」201円
「たまご10個」204円
「食パン1斤」144円
「キャベツ1玉」170円

冒頭の給食の国際比較も事実ではない。あるいは日本の全体像ではない。

インターネット、特にSNSには、ウソの情報が多いことを物語っている。ネット上の情報は、公表した後でも削除や修正が簡単にできるため、裏付けのない情報が出回っているのだろう。車の運転免許を持たない人が車を運転し、周囲に迷惑をかけているのと同じような状況が生まれている。

余談になるが、先のブラジル大統領選挙(第1回投票)では、米IT大手のメタ(Meta Platforms)が介入し、極右候補を応援していたとの指摘がある。同社は、Facebook、Instagram、WhatsAppなどを運営している。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年10月16日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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ロシアで動員が行われるとすれば、どのような状況か。また、EUはどう対応するか

アンドリュー・コリブコ

ロシアがウクライナ軍の防衛線を突破できる見通しが立てば、攻勢を強めるために予備役の部分動員に踏み切る可能性がある。一方、欧州のNATO加盟国は、こうした動きを欧州への侵攻準備だと受け止めるよう世論を誘導し、軍備増強やEUの権限強化を進める口実にするかもしれない。さらに、ロシアの脅威を強調するため、偽旗作戦が行われる可能性もあるという。ロシアの動員が、欧州との軍事的な緊張を一段と高める事態につながる恐れもある。

※   ※   ※   ※

ロシアが動員に踏み切るとすれば、前線でウクライナ軍の防衛線を突破できる見通しが立ち、その機会を生かして攻勢を強めようとする場合である可能性が最も高い。しかし、EUは、ロシアが動員に踏み切れば、それを「ロシアが欧州への攻撃を準備している」と受け止めるよう世論を誘導し、EU指導部にとって都合のよい政策を進めようとするとみられる。

英紙テレグラフは最近、プーチン大統領が「秘密裏の動員」を準備していると報じた。それによると、プーチン氏が動員を決定した場合に備えて、行政上の準備が進められているという。

ただし、こうした話は以前から出ている。プーチン氏は9月初め、これについて次のように述べた。

「現時点で動員が必要になるような状況はない。これは国家院(下院)選挙を前に、選挙結果に影響を与えようとする敵側の情報攻撃だ」

プーチン氏の発言は、どちらの点についても正しい。ただし、今後、状況が変わる可能性は否定できない。そのため、ロシアがどのような場合に動員を行う可能性があり、EUがそれにどう対応するのかを考えてみる価値はある。

以前の記事「ロシアの機関車攻撃、ウクライナ軍の兵站をまひさせる恐れ」で指摘したように、ロシアが今後、冬にかけて機関車への攻撃を継続的に行い、さらにガソリンスタンドや港湾、発電所などのインフラも組織的に攻撃すれば、ウクライナ軍の物資や兵員の輸送能力に深刻な打撃を与える可能性がある。

ロシア軍の作戦立案者が、こうした攻撃によってウクライナ軍の防衛線を突破できると判断すれば、プーチン氏に対して、少なくとも4年前と同じように部分動員を行うよう進言するかもしれない。軍務経験のある予備役を招集し、防衛線を突破した後の攻勢をさらに強めるためだ。

その狙いは、ロシア軍にとって有利な状況を生かして投入する兵力を増やし、ウクライナに対する軍事的圧力を強めることにある。そして、戦争を終わらせる条件として、ロシア側の要求をすべて、あるいは可能な限り多く受け入れるようウクライナに迫り、ロシアの勝利という形で戦争を終結させようとするのである。

このように、ロシアが少なくとも部分動員に踏み切ることは、十分に考えられるシナリオだ。

欧州のNATO加盟国(E-NATO)は、すでにこうした事態を想定し、準備を進めているとも考えられる。その表れともいえるのが、最近、欧州のNATO加盟国の一部に対するロシアの攻撃が差し迫っているとして、危機感を過度にあおる動きが広がっていることだ。

ロシアがウクライナのインフラなどに対する組織的な攻撃を続け、戦況が急速に変化していることを考えると、こうした動きは、ロシアが動員に踏み切った場合に備え、欧州の人々がそれを脅威と受け止めるよう、あらかじめ世論を誘導するものだったと解釈できる。

つまり、ロシアが部分動員を行った場合、それを「バルト三国やポーランドへの侵攻準備だ」と一般市民に思わせようとしているということだ。

しかし、プーチン氏は、こうした国々への侵攻には関心がないと述べている。また、ロシアに敵対的な住民が暮らす地域を占領するために、第三次世界大戦を引き起こす危険を冒すことは、ロシアにとって合理的な選択とはいえない。

それでも、欧州のNATO加盟国が、こうした世論誘導に加えて、偽旗作戦を行う可能性はある。例えば、ポーランドで何らかの事件を起こし、それをロシアの仕業に見せかけるといったことだ。

そうすれば、ロシアに対する軍事的な対抗措置を強める口実にできる。また、EUの軍事・政治面での権限を中央に集中させ、EU全体としての統制を強める動きを加速させることもできる。

欧州のNATO加盟国では現在、政権を握るリベラル派の指導層が、保守派の野党勢力からかつてないほど強い圧力を受けている。

その背景には、燃料価格の高騰による経済の悪化がある。燃料価格が上昇しているのは、対ロシア制裁に加え、第三次湾岸戦争によって世界のエネルギー市場が混乱しているためだ。

こうした状況で、欧州の政権指導層には、ロシアの脅威をできる限り強調し、人々の不安をあおろうとする動機がある。

そうすることで、少なくとも有権者の支持を自分たちの側に集めることができる。また、ロシアの脅威への対応を理由に、EUの権限を中央に集中させる政策も進めやすくなる。

それでも政権への支持を回復できなければ、最も極端な場合には、ロシアに対する軍事的な対抗措置をさらに強め、危険な事態を招く可能性さえある。

以上をまとめると、ロシアが動員に踏み切るとすれば、ウクライナ軍の防衛線を突破できる見通しが立ち、その機会を生かして攻勢を強めようとする場合である可能性が最も高い。

しかし、欧州のNATO加盟国は、ロシアの動員を「欧州への攻撃が差し迫っている証拠」であるかのように説明し、政権指導層にとって都合のよい政策を進めるために利用するとみられる。その説明に信ぴょう性を持たせるため、偽旗作戦が行われる可能性さえある。

ただし、欧州のNATO加盟国は、そうした事件を口実にロシアへの軍事的な対抗措置を強める前に、ラブロフ外相の発言を思い起こすべきだろう。ラブロフ氏は、ロシアと欧州のNATO加盟国の間で戦争が起きれば、「非常に短期間で終わる」と述べている。これは、ロシアが自衛のために欧州のNATO加盟国に対して核兵器を使用する可能性を示唆した発言である。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

Source https://korybko.substack.com/p/in-what-scenario-might-mobilization

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年10月13日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

BRICSにおけるキューバ ―― 存在感を増す声

セサル・ゴメス・チャコン

キューバがBRICSで存在感を高めている。ニューデリーで開かれた第18回首脳会議では、ブルーノ・ロドリゲス外相が米国による経済・通商・金融封鎖の強化と、その国民生活への影響を訴えた。一方でキューバは、封鎖への非難にとどまらず、主権や多国間協力、国家間の平等を重視する立場を発信。グローバル・サウスの主要国が集まるBRICSを、新たな国際秩序をめぐる議論の重要な場と位置づけている。

※   ※   ※   ※

BRICSでキューバの存在感が高まっていることは、国際的な議論の場では、参加する国の大きさよりも、その国がどれだけ説得力のある主張を持っているかが重要であることを示している。

キューバはパートナー国として加わって以来、グローバル・サウスの主要な経済国が集まるこの枠組みの中で、少しずつ存在感を高めてきた。そして数日前にニューデリーで開かれた第18回BRICS首脳会議でも、キューバの主張が改めて注目された。

◆共感を得た訴え

ブルーノ・ロドリゲス・パリージャ外相は会議の参加者に対し、米国によるキューバへの経済・通商・金融封鎖がさらに強化されていると非難し、最近のエネルギー供給を締め付ける措置が国民に与えている影響について訴えた。

外相はこれを「集団的な懲罰」と呼び、人道面での影響は計り知れないと述べた。そして具体的な数字を挙げた。外相の説明によると、乳児死亡率は出生1000人当たり4人から9.9人に上昇し、がんを患うキューバの子どもの生存率は85%から65%に低下したという。

「人々に被害を与え、苦しみや不安を生み出すことこそ、この残酷な政策の目的であり、そのために意図的に設計されたものだ」と外相は強く批判した。

BRICSの声明には、キューバの状況への懸念が盛り込まれた。そこには、封鎖が経済やエネルギー供給に及ぼしている影響も含まれており、キューバに対する経済・通商・金融上の措置を終わらせる必要性が改めて示された。

◆非難だけではない

しかし、BRICSにおけるキューバの役割は、封鎖を非難することだけではない。

ブルーノ・ロドリゲス外相は、BRICSには、グローバル・サウスの平和と安全、発展、公正、進歩を支える存在となる可能性があり、新しい国際秩序を築くうえで欠かせない役割を果たすことができると強調した。

まさにこの点に、BRICSの中でキューバの存在感が高まっている意味がある。

反骨精神を持つこの島国は、自国が抱える問題をBRICSの場に持ち込むだけではない。主権、協力、多国間主義、そして国家間の平等に基づく国際関係について、自らの考え方も示している。

キューバに対して扉を閉ざそうとする動きがある一方で、キューバ国民の抵抗と勇気を評価する形で、新たな扉も開かれている。

BRICSへの参加を重ねるたびに、キューバ外交にとって、ここが自国の声を発することができるだけでなく、その声が敬意をもって聞かれる場であることが示されている。

キューバは、世界で起きている変化から取り残されているわけではない。キューバをますます積極的に受け入れるBRICSの中で、自らの考えと提案を示しながら、新しく形づくられようとしている世界をめぐる議論に参加している。それは、帝国主義勢力による圧力が日ごとに必死さを増す中でも続いている。

セサル・ゴメス・チャコン(César Gómez Chacón)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年10月1日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼セサル・ゴメス・チャコン(César Gómez Chacón)
キューバのジャーナリスト、代表作にアンゴラ内戦を取材した『Cuito Cuanavale. Viaje al centro de los heroes(クイト・クアナバレ――英雄たちのただ中へ)』

Fuente: Cuba en los BRICS: una voz que gana espacio

戦争開始から5年近く、プーチンはなぜ今、ウクライナを屈服させようとしているのか

アンドリュー・コリブコ

ウクライナ侵攻から5年近くになる。ロシアがこの冬、ウクライナの電力や暖房、水道などのインフラを徹底的に破壊する計画だとの見方が浮上している。プーチン大統領がこれまで避けてきた強硬策に踏み切るとすれば、その背景には何があるのか。筆者は、戦争終結後の制裁解除と、米国との大規模な資源取引への期待が、ロシアに早期決着を促す一因になっている可能性を指摘する。

※   ※   ※   ※

プーチンがなぜこれほど長い間、強硬策を控えてきたのかはともかく、現在の彼には、少なくとも一つの動機があると考えられる。それは、紛争が終わった後、米国との間で資源をめぐる大型取引を実現できるかもしれないという魅力的な可能性だ。その具体的な内容については、プーチンとトランプ双方の特使らが、すでに1年以上にわたって交渉を続けている。

『ニューヨーク・タイムズ』は、傍受されたとされるロシア側の通信を根拠に、ロシアがこの冬、ウクライナの電力、暖房、水道の各システムを徹底的に破壊する計画だと報じた。この主張を確認することはできない。しかし、ゼレンスキーによる攻撃作戦への対応として、プーチンが夏以降、穏やかな形ながら「事態を収束させるためにエスカレートする」という行動を取っていることとは一致する。その具体的な形が、ウクライナのインフラに対する攻撃の強化だ。もしこの報道が事実なら、ロシアの狙いはウクライナ軍の補給網を断つことだけではなく、ウクライナそのものを屈服させることにある。

プーチンはこれまで、そのようなやり方を避けてきた。おそらくその理由は、ロシア人とウクライナ人は同じ系統につながる近しい民族だと考えているためだ。一方、これまでロシアには、それを実行するだけのドローンやミサイルの能力がなかったのではないかという見方もある。

その理由としては、最近まで生産量そのものが少なかった可能性や、NATOとの直接戦争が起きる場合に備えて戦力を温存していた可能性が考えられる。いずれにしても現在のプーチンは、ロシア側の条件で戦争をできるだけ早く終わらせるためなら、それに伴う人道上の犠牲を受け入れる覚悟を固めたように見える。少なくとも、ロシア側の条件を可能な限り多く実現しようとしているようだ。

プーチンを動かしているのは、夏に米国の支援を受けて始まった、ウクライナによるロシアに対する「消耗戦」だけではないかもしれない。興味深いことに、フランスもこれを支援している。

報道によると、スコット・ベッセント米財務長官は夏、ロシア側の担当者に対し、紛争が続いている限り、いかなるビジネス上の取引も不可能だと伝えた。その後、スティーブ・ウィトコフとジャレッド・クシュナーがプーチンと会談し、ほかの問題とともに、こうした取引について話し合った。その後、キリル・ドミトリエフが米国を訪れ、この問題についてさらに協議した。

【黒薮注】スティーブ・ウィトコフ:米国の不動産投資家で、トランプ大統領の長年の友人。第2次トランプ政権で特使を務め、ロシアや中東との外交交渉を担当している。

【黒薮注】ジャレッド・クシュナー:トランプ大統領の娘婿で、実業家。第1次トランプ政権では大統領上級顧問を務め、中東外交などを担当した。

【黒薮注】キリル・ドミトリエフ:ロシア政府系ファンド「ロシア直接投資基金(RDIF)」の最高経営責任者(CEO)。プーチン政権に近く、米露間の経済・外交交渉でも重要な役割を担っている。

背景を説明すると、プーチンは2025年2月下旬、米国企業がロシアの資源産業に投資すれば「かなりの利益を上げるだろう」と誇示していた。また、トランプのベラルーシ担当特使ジョン・コールは最近、ベラルーシとの間で行われているのと同様の取引をプーチンに提案する許可を得たことを明らかにした。それは、「政治犯」の釈放と引き換えに制裁を緩和するというものだ。プーチンの盟友であるアレクサンドル・ルカシェンコは、すでにこうした取引をいくつか受け入れており、現在はカリ肥料をめぐる大規模な取引についてトランプと交渉している。

さらに先週、ルカシェンコは、ベラルーシ、ロシア、米国の3カ国による肥料工場の共同事業も提案した。ただし、これを実現するには、米国がガスプロムに対する制裁を解除する必要がある。

【黒薮注】ガスプロム(Gazprom)は、ロシア最大級のエネルギー企業で、主に天然ガスの生産・輸送・販売を手がける国営系企業。ロシア政府が株式の過半数を保有している。

プーチンをはじめとするロシア政府関係者は、西側諸国に対してロシアへの制裁を解除するよう繰り返し求めてきた。プーチンがベラルーシと同じような「見返りを伴う取引」に同意すれば、米国が一部の制裁を解除する可能性はある。しかし、大規模な制裁解除を実現するには、まずウクライナ紛争を終わらせる必要がある。その結果として、資源を中心とする米露の戦略的パートナーシップが生まれれば、世界の経済構造を大きく変える可能性がある。

ロシア経済は、西側諸国による前例のない規模の制裁攻勢をこれまで乗り切ってきた。それを可能にした大きな要因は、豊富な天然資源と独自の国内決済システムの組み合わせだ。しかし、ロシア経済発展省は、今年のGDP成長率をわずか0.6%と予測している。先月行われた下院選挙では、与党「統一ロシア」が圧勝した。ウクライナ紛争が大規模な戦闘段階に入って以来、初めての下院選挙だった。この結果によってプーチンは、戦争に勝利するために必要なことを実行し、その後、国民にさらなる豊かさをもたらすための政治的な信任を得たと言える。

したがって、これは十分にあり得る話だ。西側諸国による制裁の解除を要求してきたロシアの従来の政策とも一致している。つまりプーチンには、ロシア側の条件をできるだけ多く実現する形で紛争を早期に終わらせ、その後、米国との間で資源をめぐる大型取引を成立させたいという動機が、少なくとも部分的にはあるのかもしれない。

そうした取引が実現すれば、世界の経済構造を大きく変え、ロシア国民にさらなる豊かさをもたらす可能性がある。この点を踏まえることで、プーチンがウクライナを屈服させる計画を立てているという『ニューヨーク・タイムズ』の報道が、どのような背景の中に位置づけられるのかが見えてくる。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年10月6日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source:https://korybko.substack.com/p/why-might-putin-finally-decide-to?utm_campaign=post&utm_medium=web

ワシントンの主張を覆すコンテナの中身

セサル・ゴメス・チャコン

米国の圧力を受けて大手海運会社がキューバ向け輸送を停止し、食料や医薬品、医療機器などを積んだ数千個のコンテナが各地の港で足止めされている。そのために、がん・結核治療薬や小児集中治療室向けの太陽光パネルなどが届かない。米国は、キューバに対する経済封鎖は国民を対象としていないと主張しているが、実際には市民生活に深刻な影響を及ぼしている。

写真出典:La Radio de Sur「経済封鎖こそが脅威であり、キューバは脅威ではない」
写真出典:La Radio de Sur「経済封鎖こそが脅威であり、キューバは脅威ではない」

※   ※   ※   ※

経済封鎖の問題を指摘しているのはキューバだけではない。ニューヨーク・タイムズ紙もこのほど、食料や医薬品などキューバ向けの物資を積んだ数千個のコンテナが、カリブ海地域の港で足止めされていると報じた。米国による制裁の圧力や制裁措置を科すとの警告を受け、大手海運会社がキューバ向けのサービスを停止したためだ。

事態がとりわけ深刻なのは、これらの企業が食料を含むキューバの輸入品のかなりの部分を輸送していたからだ。影響は単なる貿易上の問題にとどまらない。海上輸送ルートが途絶えれば、人々の生活に必要な物資の供給網も途絶えることになる。

足止めされている一つひとつのコンテナの背後には、切迫した事情がある。ニューヨーク・タイムズ紙は、がんや結核の治療薬がキューバに届かなかった事例を報じている。また、小児集中治療室への電力供給を確保するために購入された太陽光パネルが、メキシコで留め置かれているケースも紹介している。

このほか、基本的な医療用品も足止めされている。同紙が引用したデータによると、10万人を超える患者が手術を待っているという。食料もまた、こうした封鎖の影響を受けている。キューバへ物資を運ぶために代替ルートを探し、より大きなリスクを負い、追加の輸送費を支払わなければならなくなれば、その負担は最終的に、すでに物資不足に苦しんでいる住民に及ぶことになる。

ワシントンが「人道上の例外」があると説明する際、見えなくなりがちなのが、まさにこうした人々への影響だ。その説明自体が矛盾を抱えている。

ブルーノ・ロドリゲス・パリージャ外相は、約7000個のコンテナが世界各地で留め置かれており、その多くに食料や医薬品、医療機器が積まれていると訴えている。キューバ側は、これらを個別の事例とはみておらず、封鎖の強化と第三国の企業に対する圧力がもたらした結果だとしている。

ドナルド・トランプ、マルコ(ナルコ)・ルビオをはじめとする米国の当局者は、自国の制裁はキューバ国民を対象にしたものではないと主張している。しかし、その主張は、事態の深刻さを考えれば笑い話では済まされない。

コンテナの中身を見れば、その影響が具体的な人々の生活に及んでいることが分かる。治療を必要とする子ども、手術を待つ患者、食料を求める家族、そして電力を必要とする病院がある。

まさにこの点で、「人道上の例外」という説明は現実と食い違っている。

足止めされたコンテナが示している現実を前にすれば、その説明の矛盾は国際社会の目にも明らかになっている。しかし、腕をこまねいて見ているだけの「傍観者」はあまりにも多い。また、混乱し粗暴な「北の支配者」の機嫌を損ねないよう、自分たちに都合のよい方向だけを見ている者たちもいる。

セサル・ゴメス・チャコン(César Gómez Chacón)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年10月5日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼セサル・ゴメス・チャコン(César Gómez Chacón)
キューバのジャーナリスト、代表作にアンゴラ内戦を取材した『Cuito Cuanavale. Viaje al centro de los héroes(クイト・クアナバレ――英雄たちのただ中へ)』

Fuente:Los contenedores que desmienten el discurso de Washington

Meta、Google、TikTokなどがブラジル大統領選挙で規則違反 ── 他国の問題ではない巨大IT企業による選挙介入の危険性

黒薮哲哉

メキシコの「ラ・ホルナダ」紙など、ラテンアメリカの主要メディアは、10月に行われたブラジル大統領選挙の第1回投票で、Meta、Google、TikTokなどの巨大IT企業が運営するプラットフォーム上で、選挙規則に違反する広告が多数配信されていたと報じた。

これらの報道によると、ブラジルのリオデジャネイロ連邦大学(UFRJ)の研究機関NetLabは、大統領選挙の期間中、複数のソーシャルメディアで500件以上の規則違反広告が確認されたと報告した。

ブラジルの高等選挙裁判所(TSE)の規則では、投票の48時間前から投票終了後24時間まで、インターネット上で有料広告などを利用した選挙運動が禁止されている。しかし、Instagram、Facebook、WhatsAppなど、Metaが運営するプラットフォームで、規則に違反する広告568件が確認された。

さらに、高等選挙裁判所の公式通知を装い、携帯電話や自宅から投票できるという架空の投票方法を宣伝する広告も6件見つかった。これらの広告は、健康上の問題や大雨などを理由に遠隔投票を促し、一部は利用者を外部サイトに誘導して、ブラジルの納税者番号(CPF)の入力を求めていた。

動画共有サービスのKwaiでも、投票日当日に配信されていた選挙広告18件と、掲載終了日が投票日まで延長されていた広告45件が確認された。

調査では、各プラットフォームの動画推薦システムも分析した。その結果、10月3日と4日に、TikTokは7人の候補者の動画18本を、YouTubeは6人の候補者の動画17本を利用者に推薦していたことが分かった。

◆日本でも定着したSNS選挙戦略

トランプ政権の発足以降、中南米では右派勢力が台頭し、左派政権への圧力が強まっている。チリやコロンビア、ホンジュラスなどでも、選挙をめぐる不正疑惑や政治的対立が繰り返し問題となってきた。

今回のブラジル大統領選挙では、巨大IT企業が運営するプラットフォーム上で、多数の選挙規則違反が発生していたことが具体的な数字で示された。IT企業が意図的に選挙に介入したかどうかは、さらに検証する必要があるが、選挙の公正さを揺るがしかねない重大な問題である。

今回指摘された問題は主に選挙広告に関するものだが、もう一つ、考えなければならない問題がある。それは、SNS上の情報の表示や拡散、アカウントの利用を制限する権限を、巨大IT企業が握っているという点である。

実際、SNSの運営企業は、投稿の削除やアカウントの停止だけでなく、情報の表示順位や推薦内容を決定するアルゴリズムを管理している。こうした仕組みが選挙期間中にどのように運用されているのか、外部から十分に検証することは難しい。

日本の選挙についても、今後、慎重に検証する必要があるのではないか。IT企業が情報の表示や拡散を恣意的に操作すれば、特定の候補者のSNSへのアクセス数を増やしたり、逆に減らしたりすることも技術的には可能だからだ。

選挙の公正さを守るためには、SNSの運営を巨大IT企業の裁量に任せるのではなく、厳格な規制と透明性の確保が必要である。

私は、選挙期間中のSNSの使用を禁止すべきだと考える。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年10月10日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

ウクライナは南欧で偽旗ドローン攻撃を計画している可能性がある

アンドリュー・コリブコ

筆者は、ウクライナが南欧で偽旗ドローン攻撃を行い、ロシアの犯行に見せかける可能性があると主張する。ウクライナには同地域でドローンを運用する能力と、NATOとロシアの対立を激化させる動機があると指摘。偶発的な戦争への発展を防ぐためには何が必要かを指摘する。

※   ※   ※   ※

ゼレンスキーには、NATOへの攻撃にロシアが関与したように見せかけなど、最近の過熱した対ロシア警戒論を利用する動機がある。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領とイタリアのグイド・クロセット国防相は、スペインのメディアによる最近の報道を否定した。その報道は、リトアニア国防省に近い匿名の情報源を引用し、CIAはロシアが南欧へのドローン攻撃を計画しているとみている、と主張していた。

その背景にあるのは、ロシアが近くNATOの決意を試すかもしれないという、一部の欧州首脳の間に広がるヒステリー的な観測だ。フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領は以前、こうした議論はEUの利益にとって逆効果だと明言していた。

したがって、前述の当局者たちが、どのような別の思惑があったにせよ、拡散されている論調に乗るのではなく、ストゥブ氏と同じ姿勢を示したことは歓迎すべきことだった。それでも、この話がそもそもメディアに流され、しかもその情報源がリトアニア国防省に近い匿名の人物だった事実は不安を抱かせる。特に、ウクライナによる偽旗作戦が間近に迫っているのではないかとの憶測があるなかでは、なおさらだ。キーウには、NATOへの攻撃にロシアが関与したように見せかけ、これら最近のヒステリーを利用する動機があるからだ。

今年の初め、ウクライナはリビアにあるドローン基地から、地中海にいたロシアの「影の船団」の船舶1隻を攻撃した。また、ウクライナの海上ドローン1機がイオニア海にあるギリシャ領の島に漂着した。この二つの出来事によって、キーウがこの地域で航空ドローンと海上ドローンの両方を運用する能力を持っていることが確認された。

したがってウクライナは、少なくとも欧州のNATO加盟国(E-NATO)にロシアの「影の船団」への取り締まりをさらに積極的に強化させようとして、南欧で偽旗攻撃を行うためにこれらを利用する可能性がある。

この問題に関連して、プーチン大統領は8月、ウラジオストクの太平洋艦隊司令部を訪問した際、「外国船を同じように拿捕する」と報復措置を警告した。こうした相互のエスカレーションは、E-NATOがさらにエスカレーションの段階を上げるために利用する可能性があり、その結果、偶発的に実際の戦争が起きる危険性が高まる。

しかし、ポーランドとベラルーシの外相が10年ぶりに会談したことで、両国関係には予想外の進展が生まれた。別の記事で詳しく説明したように、これは「新冷戦」の緊張緩和につながる可能性がある。

ゼレンスキーは、さまざまな理由から、そうなることを望んでいないかもしれない。その理由の中でも特に重要なのは、長期間延期されてきた選挙を実施する前に、西側から圧力をかけられ、プーチンに対していくつかの痛みを伴う妥協をするよう強要される可能性があることだ。そして、その選挙では、ゼレンスキーは不人気であるため、おそらく権力を失うことになる。したがって、ゼレンスキーには偽旗作戦を行う動機がある。

この動機と、この分析で先に述べたウクライナの能力を合わせて考えれば、ウクライナが南欧に対する偽旗ドローン攻撃を試みるというシナリオには、不安を感じさせるほどの現実味がある。ただし、この脅威には依然として対処可能だ。

たとえそれを未然に防ぐことができなかったとしても、以前引用した「新冷戦」の緊張緩和に関する記事(PDF)で触れられた別の記事が提案しているように、米国、E-NATO、ロシアの間に危機管理のための連絡ルートを設ければ、先に警告した偶発的な実際の戦争を防ぐことができる。

また、この連絡ルートが設置されたというニュースそのものが、ゼレンスキーへの抑止力になる可能性もある。ゼレンスキーが、実行が迫っている可能性のある自らの計画では部分的な緊張緩和を妨げることはできず、その後にウクライナの関与を示す証拠が出れば、かえって裏目に出る可能性さえあると考えるようになれば、計画を思いとどまるかもしれない。

とはいえ、現在、そのような危機管理の連絡ルートは存在していない。そのため、ロシアに責任を負わせるために、ゼレンスキーが南欧に対するウクライナの偽旗ドローン攻撃を承認する機会は、依然として残されている。

したがって、そのような連絡ルートを早急に設ける必要がある。そうしなければ、最悪の場合、ゼレンスキーはこうした手段によって第三次世界大戦を引き起こしかねない。ポーランドとベラルーシの関係に進展が見られるなか、フィンランド、フランス、イタリアが最近のヒステリーに異議を唱えていることで、米国がこの問題を仲介できる可能性は以前より高まっている。

アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年9月30日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼アンドリュー・コリブコ(Andrew Korybko)
モスクワ在住のアメリカ人政治アナリスト。MGIMO(モスクワ国際関係大学)で博士号を取得。著書に『ハイブリッド戦争―カラー革命からクーデターまで』

Source: https://korybko.substack.com/p/ukraine-might-be-plotting-a-false

新聞批判を超えて──「押し紙」が映し出すジャーナリズムの構造、延々と続いてきた精神論

黒薮哲哉

古い書棚に一冊の月刊誌がある。2005年4月号の『創』である。同号には、「新聞ジャーナリズムにいま何が問われているのか」と題する座談会が掲載されている。発言者は、原寿雄(共同通信編集主幹)、桂敬一(立正大学教授)、橋場義之(上智大学教授)の3氏である。

3人は、当時の新聞を厳しく批判している。例えば桂氏は、「『言論・表現の自由』は自分たちが闘って勝ち取るものであり、表現の自由への不当な侵害は許さないと、報道界は一致結束して言うべきなのに、指定公共機関問題に対する発言は弱い」と述べ、報道界の姿勢を批判している。

座談会全体を貫いているのは、新聞社や新聞記者の姿勢、あるいはジャーナリストとしての職業意識に対する強い不満である。暴力や恫喝を伴う新聞勧誘の問題にも言及している。

ところが、「押し紙」問題については触れていない。

これは奇妙である。2005年当時、「押し紙」は決して未知の問題ではなかった。特に福岡県では新聞販売をめぐる問題が表面化していた。新聞ジャーナリズムの危機を論じながら、新聞社の経営そのものにかかわる「押し紙」に踏み込まない。この欠落は、当時の新聞批判が抱えていた限界を象徴しているのではないか。

新聞に対する批判は、今に始まったことではない。詳細には立ち入らないが、1950年代にも新聞に対する強い批判があった。それから70年以上を経た2026年の現在も、新聞に対する風当たりは強い。新聞離れが進み、発行部数が減少し、新聞社の経営環境も大きく変わった。それでも、「押し紙」をめぐって新聞業界が積極的に自らの実態を検証してきたとは言い難い。

戦後、「押し紙」問題に研究者として本格的に踏み込んだ人物として、創価大学の新井直之教授がいる。しかし、この問題が新聞研究やジャーナリズム研究の中心的なテーマとして扱われてきたとは言い難い。

なぜなのか。ここに、日本における新聞批判の一つの特徴がある。

(※鹿児島大学の元准教授・宮下正昭氏には、「押し紙」について踏み込んだ論文がある。)

◆欠落した唯物論の視点

過去の新聞批判を読み返してみると、その多くは、結局のところ新聞記者の「精神」の問題に行き着く。記者魂がない。権力と闘わない。勉強不足である。取材力がない。使命感がない──。

もちろん、記者個人の資質や職業倫理は重要である。しかし、それだけで新聞ジャーナリズムの問題を説明できるだろうか。

例えば、優秀で良心的な記者が新聞社に入ったとしても、その記者が所属する企業の経営構造、広告主との関係、販売制度、記者クラブ制度、官公庁との関係などから完全に自由に取材・報道できるわけではない。個人の意思とは別のところで、報道を方向づける力が働くからである。

それにもかかわらず、問題の原因を記者の使命感や倫理観に求め続けるなら、批判はいつまでも「もっと勇気を持て」「もっと勉強せよ」「権力と闘え」という精神論の域を出ない。

このような思考方法を哲学的に整理すれば、観念論的な発想ということになる。

これに対して、唯物論的な視点に立てば、人間の意識や精神だけではなく、その意識を生み出し、行動を制約する物質的・社会的条件に目を向けることになる。マルクスとエンゲルスは、この視点を社会と歴史の分析に適用し、社会の政治や思想を、その背後にある経済的・社会的構造との関係から考察した。

新聞についても同じ視点が必要ではないか。その答えを記者個人の精神にだけ求めるのではなく、新聞社を取り巻く経済的・制度的な構造に求める必要がある。その構造を考えるうえで、「押し紙」は避けて通れない問題である。

◆何が原因なのか?

「押し紙」によって新聞社が得る収入は、最低限に見積もっても、業界全体で年間1000億円程度に上ると私は推計している。しかし、問題は金額の大きさだけではない。

新聞社の経営が「押し紙」による収入を前提として成り立っているとすれば、それを排除することは、単なる販売正常化では済まない。新聞社の収益構造そのものを揺さぶることになる。

仮に公正取引委員会が独占禁止法に基づいて「押し紙」を厳格に規制し、新聞社が販売店に実売部数を超える新聞を供給することが事実上できなくなれば、新聞社の販売収入は減少する。公称部数と実売部数との乖離が縮小すれば、広告媒体としての新聞の評価にも影響が及ぶ可能性がある。

その結果、新聞社によっては人員削減や組織再編を含む大幅な経営合理化を迫られるだろう。ここで重要なのは、公権力と新聞社の関係である。

新聞社の経営を左右しかねない問題について、行政機関が法執行の裁量を持っているとすれば、そこには権力関係が生まれる余地がある。行政機関が実際に新聞社へ圧力をかけているかどうかとは別に、新聞社側が「本格的な法執行を受ければ経営が揺らぐ」と認識しているだけでも、その関係は報道機関の権力監視機能を考えるうえで無視できない。

つまり問題は、政府が新聞社に対して直接「この記事を書くな」と命令するような単純な検閲だけではない。新聞社の経営基盤に影響を与え得る制度や法執行を公権力が握っていること自体が、報道機関と権力との関係を考えるうえで重要なのである。

実は、新聞社の経営基盤と公権力との関係という視点から歴史を振り返ると、戦前にも類似した問題があった。

戦時体制下では、新聞用紙の統制が新聞経営を左右する重要な手段となった。新聞を発行するには紙が必要である。その紙の供給を統制されれば、新聞社は政府の政策から完全に独立して経営することが難しくなる。言論統制は、記事そのものへの直接的な介入だけでなく、新聞を発行するための物質的条件を支配することによっても可能になる。

もちろん、戦前の新聞用紙統制と、戦後の「押し紙」を同一視することはできない。前者は戦時統制の一環として国家が直接関与した制度であり、後者は新聞社と販売店との取引関係の中で形成された商慣行である。成立の経緯も法的性格も異なる。

しかし、両者を「新聞社の経営基盤と公権力との関係」という視点から比較することには意味がある。戦前は、新聞を発行するために不可欠な「紙」が新聞経営の急所だった。戦後は、販売部数とそれに連動する収入が新聞経営の急所の一つになった。

もし「押し紙」が新聞社の収益構造に深く組み込まれ、その存否を左右し得る法執行権限を公権力が握っているとすれば、そこには新聞社が権力から完全には自由になれない構造的条件が存在することになる。

この視点に立てば、新聞ジャーナリズムの問題を「記者魂」の欠如だけで説明することが、いかに不十分であるかが分かる。記者に勇気を求めることは簡単である。しかし、記者が所属する新聞社の経営構造そのものが権力との緊張関係を弱める方向に作用しているのであれば、個々の記者に精神論を説くだけでは何も変わらない。

問うべきは、「なぜ記者は闘わないのか」だけではない。「記者が権力と対峙しにくくなる構造が、新聞社の内部と外部にどのように形成されているのか」なのである。その構造を解明し、変えない限り、新聞ジャーナリズムに対する批判は、10年後も20年後も同じ言葉を繰り返すことになるだろう。

※本稿は黒薮哲哉氏主宰のHP『メディア黒書』(2026年10月3日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu