新聞業界が自民党の清和政策研究会(安倍晋三代表)の議員らへ政治献金、山谷えりこへ40万円、中川雅治へ40万円、菅義偉にも10万円 黒薮哲哉

総務省は11月26日、2020年度分の政治資金収支報告書を公表した。それによると新聞業界が、自民党の清和政策研究会(安倍晋三代表)の議員を中心に146万円の政治献金を行っていることが分かった。

これらの政治献金の支出元は、日本新聞販売協会(日販協)の政治団体である日販協政治連盟である。日販協は新聞協会と連携して、再販制度を維持するロビー活動や新聞に対する軽減税率を適用させる活動の先頭に立ってきた団体である。両者は車の両輪関係にある。政治献金の詳細は次の通りである。(オレンジの背景で表示した議員は、清和政策研究会のメンバーである。)

日販協政治連盟からの献金一覧

献金額が最も多かったのは、山谷えりこ議員に対する40万円と、中川雅治議員に対する40万円である。山谷えりこ議員は、元産経新聞記者である。中川雅治議員は、国税庁調査査察部長などを経て政界に入った。国税局に強い人脈がある可能性が高い。

菅義偉首相(当時)に対しても10万円を献金している。支払いの名目はセミナー参加料である。そのセミナーはコロナウィルスの感染が拡大する昨年の12月11日に開かれた。

◆新聞1部に付き1円の募金

新聞業界による政界工作が始まったのは、1987年とする見方が有力だ。この年、中川秀直(自民、元日経新聞記者)議員らが、自民党新聞販売懇話会を結成した。この組織が、新聞業界によるロビー活動の窓口になったのである。当初のメンバーには、後に首相になる小渕恵三、森喜朗、羽田孜、小泉純一郎、と言った議員が含まれていた。石原慎太郎や小沢一郎、元NHK記者の水野清の名前もある。

日販協は、当時から新聞販売懇話会に対して政治献金を行ってきた。同会の会報『日販協月報』(1993年3月31日)によると、当時の理事が次のように政治献金の協力(募金)を販売店へ呼びかけている。

「自民党新聞販売懇話会の先生方には大変お世話になっているので、選挙の折には恩返しをするのが礼儀。そのためには交通費、文書通信費に相当な額が必要になるので、部当たり1円程度のご負担をお願いしたい」

「部当たり1円程度」とは、新聞1部に付き1円の募金という意味である。それゆえに、たとえば2000部を配達している販売店は、2000円の負担になる。3000部を配達している販売店は3000円の負担。

献金の目的は、当時導入されていた事業税の軽減措置を政治力で延長させることである。

◆メディアコントロールの温床とは

その後、自民党新聞販売懇話会の中心メンバーは、中川秀直から小渕恵三、山本一太、高市早苗といった議員になっていった。このうち山本議員と高市議員については、過去の政治資金収支報告書で、日販協政治連盟からの政治献金の受領を確認することができる。また小渕議員は、首相に就任していた時期に、新聞販売懇話会の会長を務めていた。

これらの議員は、再販制度の維持という新聞業界のアキレス腱の防衛に奔走してきた。新聞業界は経営上の弱点を政治家との関係を親密にすることによって、乗り切ってきたのである。

筆者は、このような客観的な構図が、日本の新聞ジャーナリズムを堕落させた客観的な原因だと考えている。記者個人の職能の評価や精神論は、枝葉末節であって本質的な問題ではない。癒着の構図こそが問題なのだ。

新聞研究者の故・新井直之氏は、『新聞戦後史』(栗田出版)の中で、戦前から戦中にかけて行われた言論統制のアキレス腱となっていたのが、公権力による新聞社の経営部門への介入であったことを指摘している。

販売店に山積みになった「押し紙」(広義の残紙)

新井氏は、日中戦争が原因で新聞用紙の生産高が減り続け、1938年に新聞用紙使用制限令ができたことを説明した後、「1940年5月、内閣に新聞雑誌統制委員会が設けられ、用紙の統制、配給が一段と強化されることになったとき、用紙統制は単なる経済的意味だけではなく、用紙配給の実権を政府が完全に掌握することによって言論界の死命を制しようとするものとなった」と指摘している。

新井氏は戦中の情況を現代に照らし合わせて、次のようにメディアコントロールの原理を指摘している。

「新聞の言論・報道に影響を与えようとするならば、新聞企業の存立を脅かすことが最も効果的であるということを、政府権力は知っていた。そこが言論・報道機関のアキレスのかかとであるということは、今日でも変わっていない」

◆「押し紙」が粉飾決算に該当する可能性

現在は、国策として新聞に対する軽減税率の適用、再販制度の維持、教育現場での新聞の使用を学習指導要領へ盛り込む政策、それに「押し紙」制度の黙認方針などが、メディアコントロールの温床になっている。

特に公権力が「押し紙」問題を逆手に取れば、強力なメディアコントロールの道具になる。と、いうのも新聞社の「押し紙」政策に本気でメスを入れれば、新聞社は販売収入の激減だけではなく、ABC部数の減少を招き、それに伴って広告収入の減少に直面するからだ。

さらに、「押し紙」の経理処理にも重大なグレーゾーンがある。「押し紙」が実際には販売していない新聞であるにもかかわらず、販売した新聞として経理処理しているわけだから、粉飾決算の疑惑がある。国税局から監視対象にされても不思議はない。国税局出身の中川雅治議員に献金をしてきた理由ではないか。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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最高裁長官を退任後に宮内庁参与へ、竹崎博允・元長官ら、「勤務実態」は闇の中、最高裁に関する2つの情報公開調査のレポート 黒薮哲哉

石棺のような窓のない建築物。出入口に配備された警備員。

 
最高裁判所(出典:ウィキペディア)

外界とは厚い壁で隔てられ、通信手段は郵便だけに限定され、メールもファックスも通じない。

最高裁判所には不可解なグレーゾーンがある。その中で何が進行しているのか──。

今年に入って、わたしは最高裁の実態を調べるための一歩を踏み出した。情報公開制度を利用して、複数の「役所」から最高裁に関連する情報を入手した。

◆元最高裁長官らが退官後に宮内庁参与に

最高裁長官を退任した寺田逸郎氏と竹崎博允氏が、宮内庁参与に就任したことは、人事に関する新聞記事などから判明している。両氏とも安倍晋三内閣の時代に宮内庁参与の「職」を得ている。今後も「最高裁長官から宮内庁参与」へのコースが準備されていく可能性がある。

筆者は、情報公開請求により、元最高裁長官の寺田・竹崎の両氏と宮内庁の関係を調査した。

ちなみに宮内庁参与とは、天皇家の相談役である。宮内庁の説明によると、内庁参与は国家公務員ではないが、賜与(日本国語大辞典:〈しよ〉、 身分の高い人が下の者に、金品を与えること)というかたちで内廷費の中から相談料を受け取っている。

【内廷費】皇室経済法に基づき天皇及び内廷にある皇族[1]の日常の費用その他内廷諸費[2]に充当されるため支出される費用。より具体的には、第4条第1項の条文を根拠とする。(ウィキペディア)

 情報公開請求の内容は、次の3項目である。

1、寺田逸郎宮内庁参与の就任から、2021年8月までの勤務実態を示す資料

2、竹崎博允(元宮内庁参与)の在任期間中の出勤実態を示す資料

3、宮内庁参与に対して内廷費から支給された経費が分かる文書。期間は、2011年度から2020年度の10年間

 宮内庁によると、「1」と「2」に関連した資料(勤務実態に関するもの)は、存在しないとのことだった。宮内庁参与と宮内庁との間には雇用関係がないからというのがその理由だ。あくまでも、「陛下」から宮内庁参与にプライベートに相談をお願いする形式を取っているという。従って宮内庁が、宮内庁参与の勤務実態を把握することはできないという論理である。

 
書面の例(令和2年6月の書面)

が、勤務実態がないにもかかわらず宮内庁は、次に示すように宮内庁参与に対して報酬を支給してきた。「3」については公開したのである。

◆支給日が不明なケースが多数

宮内庁が公開した資料は、稟議書の類である。各書面に次のような記述がある。

「天皇皇后両陛下から、下記のとおり賜ってよろしいか、お伺い申し上げます」

しかし、「決裁日」と「施行日」の欄の大半は空白にしている。他の箇所については、その大半を黒塗りにしている。これでは開示資料とはいえない。参考までに「令和2年」6月のものを紹介しよう。

●書面の例(令和2年6月の書面)
http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2021/11/R211127p.pdf

日本国憲法8条は、皇室関連の賜与に先立って、「国会の議決に基かなければならない」と述べている。従って国会議事録の中に金銭に関する記録が残っている可能性もある。

参考までに賜与の「提案日」「決裁日」「施行日」を一覧で示そう。ただし、日付けの混乱を避けるために、ここでは開示された資料で使用されている元号を例外的に使用する。

皇室の相談料の「起案日」「決裁日」「施行日」

なぜか年に2回、ほぼ定期的に相談会を開催している。支給された金額は、黒塗りで処理しているが、通常の日当(3万円程度)であれば公開できるのではないか。金額が尋常ではないから、宮内庁は、この部分を黒塗りにしたと考えるのが自然だ。

上記の資料に加えて、宮内庁参与のだれかが内廷会計主管に対して金銭請求をしたことを示す資料の存在も判明した。ただし、宮内庁は、請求者も請求額も黒塗りにしている。請求日は、「令和2年6月16日」である。

今後、筆者は宮内庁に対して、宮内庁参与に金銭を支払ったことを証明する書面の情報公開を求める方針だ。たとえば領収書である。領収書の有無を確認するのも金銭の流れを確認する上で不可欠だ。

◆「報告事件」の存在が判明

最高裁判所の実態調査の中で、筆者は最高裁事務総局に対して「報告事件」の存在を示す文書の情報開示を請求した。以下は、筆者のブログに掲載した内容だが、再度、その中身を紹介しておこう。

「報告事件」というのは、最高裁が下級裁判所(高裁、地裁、家裁など)に対して、審理の情況を報告させる事件のことである。それにより、下級裁判所で国策の方向性と異なる判決が下される可能性が浮上すると、最高裁事務総局は人事権を発動して、裁判官を交代させるなどして、国策と整合した判決を導き出すことができる。

原発訴訟などがその対象となると言われているが、本当に「報告事件」が存在するのか否かは現時点では不明だ。そこで「報告事件」の有無を確認するために、筆者は情報公開請求に踏み切ったのである。

請求内容は次の通りである。

「最高裁が下級裁判所に対して、審理の報告を求めた裁判の番号、原告、被告を示す文書。期間は、2018年4月から2021年2月。」

11月8日、わたしは最高裁判所の閲覧室で、A4判用紙で15センチほどに積み上げられた開示文書を閲覧した。次に示すのが、最高裁事務総局が開示した書面の一部である。結論から言うと、筆者は「報告事件」の存在を大量に確認することができた。しかし、最高裁事務総局は、それらの事件の事件番号については黒塗りにしていた。
 

読者に特に注目していただきたいのは、「3、勝訴可能性等について」の箇所である。最高裁が下級裁判所に対して、勝訴の可能性について報告させていることを示している。この部分についても、最高裁事務総局は黒塗りにして開示した。

従って報告内容を受けて、実際に下級裁判所の裁判官が交代させられたかどうかは判断できない。

今回の調査で、最高裁事務総局が報告事件に指定しているのは、国が被告、あるいは原告になっている裁判であることが分かった。それ以外の事件は、開示された資料には含まれていなかった。しかし、最高事務総局が全部の関連文書を開示したか否かは分からない。

半年ほどの調査で、最高裁のグレーゾーンから不可解なものが輪郭を現わし始めた。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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5Gの時代へ、楽天モバイルの通信基地局をめぐる3件のトラブル、懸念されるマイクロ波の使用、体調不良や発癌の原因、軍事兵器にも転用のしろもの 黒薮哲哉

5Gの普及に伴って、通信基地局の設置をめぐるトラブルが急増している。通信に使われるマイクロ波による人体影響を懸念して、基地局の設置・稼働に反対する住民。これに対して、あくまでも基地局を設置・稼働させる方針を貫く電話会社。両者の対立が水面下の社会問題になっている。基地局が稼働した後、自宅からの退去を検討せざるを得なくなった家族もある。これはマスコミが報じない深刻な社会問題にほかならない。

◆沖縄県読谷村のケース、「命どぅ宝」

読谷村は沖縄本土の中部に位置している人口4万人の地区である。村の36%を米軍基地が占める。その読谷村で楽天モバイルと住民の間で紛争がおきている。今年4月、読谷村字高志保にある賃貸マンションの屋上に楽天モバイルが通信基地局を設置する計画を打ち出したところ、マンション住民と近隣住民らが反対運動を立ち上げた。

無線通信に使われるマイクロ波に安全性のリスクがあるからだ。総務省は、自ら定めた電波防護指針(規制値、1990年に制定)の安全性を宣言しているが、海外の動物実験や疫学調査で、マイクロ波に遺伝子に対する毒性などが指摘されるようになっている。またマイクロ波による神経系統などの攪乱が引き起こすと思われる体調不良も問題になっている。

その結果、たとえば欧州評議会は、マイクロ波について、日本の規制値に比べて1万倍も厳しい勧告値を設けている。

読谷村住民の反対の声を受けて楽天は一旦、計画を延期したが、10月の終わりになって、工事の再開を告知した。そして11月8日に、抗議に集まった住民たちの声を押し切って工事に着手したのである。

基地局設置に反対する沖縄県読谷村の人々

 
◆埼玉県鴻巣市、欧州評議会の勧告値の約10倍を超える数値を観測

埼玉県鴻巣市でも、楽天の基地局設置をめぐるトラブルが起きている。

今年1月、Bさん(女性)の自宅の直近に、楽天モバイルは通信基地局を設置した。Bさんは事前説明を受けていなかったので、事業主がどの電話会社なのかも分からなかった。幸いに設置場所の地主が楽天の基地局だと教えてくれた。

しかし、地主に電磁波による健康被害についての認識はなく、基地局が住民トラブルの原因になるとは考えていなかったようだ。地主の自宅も基地局の直近にあり、基地局が稼働するとマイクロ波を被曝する。

Bさんは、インターネットで「電磁波からいのちを守る全国ネット」(以下、全国ネット)のウエブサイトをみつけ、同会の運営委員をしているわたしに相談してきた。わたしは基地局を撤去させる方向で、署名を集めるようにアドバイスした。そして署名用紙のひな型を提供した。

しかし、Bさんの住む地域では、住民運動や社会運動に対する偏見が強く、署名は集まったものの「反対運動」を活性化するまでには至らなかった。そこで「全国ネット」が、楽天モバイルの山田善久社長に対して、「すみやかに計画を中止して、基地局を撤去する」ように書面で申し入れた。

Bさんも、楽天モバイルの山田社長に私信を送るなどして、基地局の撤去をお願いした。しかし、山田社長は、撤去に応じなかった。回答すらしていない。

幸いに設置当初は、基地局の操業はペンディングになっていたようだ。Bさんは、マイクロ波の測定値からそう判断した。

賃貸住宅の場合、物件に基地局が設置されたら、転居することによって、マイクロ波に直近で被曝する住環境から逃れることができる。「退避」は積極的な対処方法ではないが、マイクロ波の被曝から逃れる最終手段である。

しかし、分譲マンションの屋上や、一戸建て自宅の近くに基地局が設置された場合、住民はそう簡単に転居するわけにはいかない。自宅を別の場所に購入することなど、普通の市民は簡単にはできない。泣き寝入りしたあげく、延々とマイクロ波の被曝下におかれる。健康被害が起きても、マイクロ波と体調不良の関係が医学的に立証されない限り、電話会社は何の補償もしない。被害者は泣き寝入りするしかない。

10月の終わりから11月にかけた時期に、楽天はBさんの自宅直近の基地局の稼働を開始したようだ。楽天は、この点についての事実関係を明らかにしていないが、Bさんが電磁波の値を測定したところ急激に高くなっていた。総務省の電波防護指針の範囲内だったとはいえ、欧州評議会の勧告値の約10倍を超える高い数値が観測された。

◆早稲田大の調査、日本人の場合3%から5.7%が電磁波過敏症

俗に「電磁波過敏症」と呼ばれる身体症状がある。 国際疾病分類(I C D10)には、含まれていないために、公式には存在しないが、電磁波によって人体が病的に反応する人々が一定の割合で存在する。人間の神経細胞はごく微弱な電気で制御されているわけだから、それ自体に不思議はない。

たとえば早稲田大学の応用脳科学研究所「生活環境と健康研究会」は、「電磁波過敏症」の有症率は、日本人の場合3%から5.7%であるとする研究結果を公表している。(『京都新聞』2017年2月7日)。問診による調査なので、数値そのものは慎重に検討する必要があるが、「電磁波過敏症」そのものは客観的な症状である。重症になると、電磁波の発生源が多い都市部では生活に困難をきたすこともある。

◆楽天モバイル、5度にわたる内容証明に応えず

群馬県〇〇市に住むCさんは、重度の「電磁波過敏症」である。 みずからの症状について、地元紙に次のような記事を投稿している。

「私は電磁波を発生する物に対して、頭痛やめまい、吐き気、動悸、胸の圧迫感などのさまざまな症状がでます。そのため、スマートフォンやパソコン、テレビ、炊飯器などが使えなくなりました。また、電線の下や携帯電話基地局の近くにもいられなくなりました。症状の改善に努めていますが、発症から約4年たった現在も、ほとんど変化は見られません」

電磁波・放射線の分類

そのCさんの自宅から130メートルほど離れたところに、楽天モバイルは、昨年の秋、基地局を設置した。Cさんは体調が急激に悪くなって、基地局の設置に気付いたという。ただしその時点では、基地局が本当に稼働していたかどかは確認できなかった。

その後、今年の6月になって、Cさんは、地主の奥さんから、「今年の4月から基地局が稼働している」と告げられたという。従って、現在は稼働している可能性が高い。

Cさんは、2020年11月を皮切りに、これまで5回に渡って、楽天モバイルの山田善久社長宛てに、基地局を撤去するように内容証明郵便で申し入れた。その中で、電磁波過敏症により耐えがたい苦痛を味わっていることを繰り返し述べている。たとえば、次の引用は8月31日付けの内容証明である。

「私は、ゴールデンウィークの頃から体調が極端に悪くなっていることを自覚し、自宅の東側周辺には長時間居られなくなりました。胸の圧迫感、動悸、特に目の痛みはひとく、目の奥をカミソリで切られたような痛みを感じ、家の中でもサングラスをし、カーテンを閉め切ったままで過ごしていました。」

山田善久社長宛ての署名も提出した。「携帯電話基地局撤去のお願い」が169筆で、「Cさんが現在住んでいる自宅で生活を続けていくための携帯電話基地局撤去のお願い」が272筆である。しかし、山田社長が方針を変更することはなかった。自社の事業を優先しているのである。

◆高市早苗議員とマイクロ波兵器

自民党総裁選の最中に高市早苗議員が、防衛政策としてマイクロ波で敵基地を無力化する必要性を説いた。軍の関係者は、古くからマイクロ波を兵器に転用する技術を秘密裡に研究してきた。マイクロ波が人体に有害な電磁波であるからにほかならない。旧ソ連は1970年代には、既にマイクロ波の武器を開発している。いわばマイクロ波は曰くつきの電磁波なのである。

マイクロ波による人体へのリスクは、「電磁波過敏症」だけではない。マイクロ波が遺伝子を傷つけて、癌を発症させる可能性も指摘されている。

住人の意に反して、自宅上に基地局が設置される悲劇が後を絶たない。(本文とは関係ありません)

電磁波・放射線は、図が示しているようにエネルギー、あるいは周波数の違いに基づいて、さまざまな種類に分類されている。周波数が高いものとしては、原発のガンマ線やレントゲンのエックス線がある。低いものでは、家電や送電線からもれる電磁波がある。紫の部分がマイクロ波である。

光も電磁波である。可視できる唯一の電磁波である。そのせいなのか、太陽を浴びすぎると人体への影響があるとする認識は定着している。しかし、それ以外の電磁波・放射線は可視できないので、ガンマ線やX線を除いて、そこに潜んでいるリスクはほとんど認識されていない。

マイクロ波も含めて、電磁波や放射線の安全性に関する論考は、近年、大きく変化している。40年ぐらい前までは、エネルギーが高い放射線は危険だが、エネルギーの低い電磁波は安全という常識が広く普及していた。(ただしマイクロ波を使った兵器開発は、それよりもはるか以前から始まっており、軍関係の専門家らは、その危険性を認識していた。)

1980年ごろからこの定説が変化してきた。最初に変電所や高圧電線などからもれる超低周波の電磁波が問題になった。変電所や高圧電線の近くで小児白血病などの発症率が高いことが分かったのだ。

最近ではすべての電磁波・放射線に遺伝子毒性があるとする考えが、欧米では主流になっている。

こうした学術上の見解の変化に応じて、欧州では無線通信で使われるマイクロ波の規制値を厳しく規制する動きが顕著になってくる。国に先立って自治体などが、独自の規制をはじめたのである。そのために国が定める基準値と、自治体などが定める基準値がダブルスタンダードになる傾向が見られる。それは人命を優先するのか、それとも産業を優先するのかの違いでもある。

日本の総務省は、規制値の更新を30年以上も怠っている。その結果、現在では米国と並んで世界一ゆるい電波防護指針になっている。たとえば次の数値を比較してほしい。日本の規制値は、欧州評議会の勧告値に比べて1万倍もゆるい。実質的にはまったく規制になっていない。

欧州評議会:0.1μw/cm2
日本:1000μw/cm2

ただ、実際に1000μw/cm2の数値で稼働している基地局は存在しない。たとえばわたしが住んでいる埼玉県朝霞市の中心街で、マイクロ波を測定したところ、1μw/cm2程度だった。

それにもかかわらず、なぜ異常に高い数値が設定されているのだろうか。わたしの推測になるが、それはひとつには将来、無線通信技術が更新されても、電波防護指針が開発の足枷にならないための配慮である。

たとえば「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム」と言う技術である。これは電波を無線通信だけでなく、スマホなどの充電にも利用するものだ。マイクロ波よりもさらにエネルギーが高いミリ波の使用が想定されている。

【参考記事】ソフトバンクも参入、10m級無線給電が21年度に国内解禁

◆深刻になる複合汚染

ちなみに電磁波による人体への影響を考える場合、電磁波だけを単独で捉えるのではなく、複合汚染との関連の中で考慮しなければならない。複合汚染とは、「2種類以上の汚染物質が環境中や生体内で,相乗的・相互干渉的に影響し合い,被害を大きくする汚染」(ブリタニカ国際大百科事典)である。

米国のケミカル・アブストラクト・サービス(CAS)が登録する新しい化学物質は、1日で1万件を超えると言われている。無論、そのすべてが有害というわけではないが、複合汚染を起こしている可能性が極めて高い。さらにそこに電磁波被曝が加わる。その電磁波も5Gが進化するにつれて、エネルギーの高いものへ更新される。複合汚染は一層複雑になる。

こうした状況下で総務省は、「予防原則」を優先して、基地局の設置を厳しく規制する必要があるのだ。沖縄の人々が使う「命どぅ宝」という言葉は、「命こそ宝」という意味である。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
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副流煙被害を診察する98人の医療関係者に問い合わせ、「受動喫煙症」の病名を付した診断書を交付しない医師が約37% 黒薮哲哉

「受動喫煙症」とは、第三者による煙草の煙によって引き起こさせる化学物質過敏症のことである。副流煙を避けるために、レストランなど公共の場で分煙措置が取られているのは周知の事実である。マンションの掲示板にも、煙草の煙に配慮するように注意書きが貼り出されていることが多い。「受動喫煙症」という言葉が、日常生活の中に入り込んできたのである。

しかし、ほとんど知られていないが、「受動喫煙症」という病名は、実は日本禁煙学会(作田学理事長)が独自に命名した病名で、国際疾病分類(ICD10)に含まれていない。公式には認められている病気ではない。従って、保険請求の対象にはならない。「そんな病気は存在しない」と言う医師も少なくない。

が、それにもかかわらず横浜副流煙裁判にみられるように、2017年に「受動喫煙症」と付された診断書を根拠とした高額訴訟が提起された。副流煙の被害者とされる家族が、隣人に対して「受動喫煙症」を根拠に4518万円の金銭支払いを請求したのである。請求は棄却された。

◎【関連記事】煙草を喫って4500万円、不当訴訟に対して「えん罪」被害者が損害賠償訴訟の提訴を表明、「スラップ訴訟と禁煙ファシズムに歯止めをかけたい」
 

日本禁煙学会の医師らは、この「受動喫煙症」についてどのように考えているのだろうか。患者が、「受動喫煙症」を立証する診断書を交付するように求めてきたとき、どう対処しているかを客観的に調査するために、筆者ら横浜副流煙裁判を取材してきた4人(黒薮哲哉、藤井敦子ら)は、98人の医師(若干看護士も含む)に問い合わせてみた。

98人の医師は、「受動喫煙症の診断可能な医療機関」(日本禁煙学会のウェブサイト)に登録されている。(2021年10月18日現在)

問い合わせは次の3点である。

①受動喫煙症の診断書を交付しているか?

②診断書を裁判に提出する方針はあるか?

③診断にあたっては、検査を実施するか?

ただし口頭でのやり取りなので、②や③の問い合わせに辿り着かなかった場合や、話が大きく逸れてしまった場合もある。

◆受動喫煙症の診断書を交付しているか?

まず、質問1「受動喫煙症の診断書を交付しているか」についての調査結果を公表しよう。

①受動喫煙症の診断書を交付するか?

約37%の医師が、「受動喫煙症」の病名を付した診断書を交付しないと回答した。

「交付しない」と答えた医師のコメントは、「受動喫煙症」の病名を付した診断書は、「裁判に使えない」からという趣旨のものが複数あった。「受動喫煙症」の証明が医学的に困難と答えた医師もいた。他に、「診断書を書いても法的拘束力がない」、「横浜副流煙裁判を機に、もう書かない」というコメントもあった。

◆診断書を裁判に提出する方針はあるか?

質問①で61人の医師が「受動喫煙症」という病名の診断書を交付すると答えた。これらの医師を対象に、診断書を裁判に提出する方針はあるのか否かを問うた。結果は次の通りだった。

②診断書を裁判に提出する方針はあるか?

「提出方針はない」と答えた13人の医師のうち、5人は、企業を被告とする裁判であれば、交付に応じると回答した。

◆診断にあたっては、検査を実施するか?

質問③は、「診断にあたっては、検査を実施するか」である。次のような結果になった。

③診断にあたっては、検査を実施するか?

診断書を作成するにあたって、「検査を実施する」と答えた医師はわずか12人だった。検査内容は、尿コチニン検査・呼気検査、spO2の測定などである。

われわれが③の質問を用意したのは、横浜副流煙裁判の判決が、「客観的証拠がなくとも患者の申告だけで受動喫煙症と診断してかまわない」とする日本禁煙学会の診断基準を批判したからである。実際、日本禁煙学会の作田学理事長や松崎道幸理事らは、横浜副流煙裁判の中で患者の問診のみによって受動喫煙症と診断を下したも問題ないと主張した。

検査をしない理由として、「高額だから」、「受動喫煙直後に検査しなければならないから」、「検査をして値が出ないことも多いから」、「客観的指標がないから」などのコメントがあった。これらは「検査は必要だが難しい」という見解といえるだろう。

◆「客観的証拠が出せないので、検査はしていない」

アンケート開始当初には④「オンライン、或いは委任状での診断書作成は可能か?」という質問事項を設けていた。この質問を設定したのは、横浜副流煙裁判の中で作田医師らが、副流煙による健康被害を診察する際に、オンラインによる診察・診断や委任状による診察・診断も認められるべきだという主張を展開したからである。

この質問について、ほとんどの医療機関は、「とんでもない」、「あり得ない」と強く否定した。そこでわれわれは途中でこの質問項目を外した。

この調査を通じて、医療関係者から多くの興味深い話を聞くことが出来た。そのいくつかを紹介しよう。

「(受動喫煙症の)客観的指標がないのでタバコが(体調不良の)原因とは(診断書に)書けない。症状しか書けない」

「メールで(患者の)状況を確認、メールでやりとりして診断内容を決める」

「受動喫煙症の裁判に必要なシビアな資料を作るのは無理、(裁判をしても)絶対負ける」

「(受動喫煙症の)客観的証拠が出せないので、検査はしていない」

「(副流煙についての)問い合わせが多くなって、本当に受動喫煙かどうか分からないので、書くのが難しい」

「病気には元々の素因もあるので、喫煙者の煙が(体調不良の)原因だと断定にはいかない」

「(患者さんに)精神的に問題がある場合は、そちらを紹介する」

「裁判以前に(副流煙問題を)解決するのが一番いいわけですね、今はそういう事例を積み重ねる段階。診断書を使わずに、内容証明を弁護士の名前で送ったりとか」

「問診だけだったら、そりゃ(診断に)客観性がないわな。コチニン検査は絶対要だけどやってくれる場所が検討つかない」

「近隣の場合は空気が分散するので(副流煙の)立証できない。職場の隣の人なら別」

「大学の先生に頼んで(受動喫煙症の)検査するならよいが、そんな厳密な診断書はクリニックの医師は書けないよ」

「(副流煙による)健康被害の医学的証明は出来ない。現場に行けないから」

問い合わせを通じて医療関係者の熱心な姿勢を感じた。しかし、診断書を喫煙者の個人糾弾に使うことを前提としている印象を与えた医師もいた。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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すでに崩壊か、日本の議会制民主主義? 神奈川県真鶴町で「不正選挙」、松本一彦町長と選挙管理委員会の事務局長が選挙人名簿などを3人の候補者へ提供  黒薮哲哉

10月31日に投票が行われた第49回衆院選は、自公政権が過半数を大きく上回る結果となった。一方、「野党連合」は失敗に終わった。自民党総裁選をめぐるテレビによる洪水のような自民党PRを考えると、このような結果を予測したひともかなりいるのではないか。権力構造の歯車としてのマスコミが現政権の維持に一定の役割を果たしていたのだ。

選挙の後には、かならず何件かの選挙違反が摘発されるのが通例だ。そこで意外に知られていないが、今後、考えなければならない「不正選挙」の手口を紹介しよう。今回の衆院選とは関係がないが、不正工作を考える格好の題材となる。

◆選挙人名簿と住民基本台帳が特定候補者の手に

真鶴は、神奈川県の太平洋岸の町である。人口、7000人。志賀直哉が短編小説『真鶴』で、陸と海の光景を、「沖へ沖へ低く延びている三浦半島が遠く薄暮の中に光った水平線から宙に浮かんでみられた」と描写している。

この真鶴町で、先月、議会制民主主義の信用を失墜させる「不正選挙」の手口が明らかになった。日本では選挙が公正に行われていると信じて疑わない人々を面食らわせる事件が発覚したのである。事件を告発した元真鶴町議の森敦彦氏が言う。

「選挙管理委員会の実態を公にするために告発に踏み切りました」

森氏によると、少なくとも2度にわたり選挙人名簿や住民基本台帳が町役場から外部へ流失した。それが選挙の道具として使われていた。

森氏が説明した不正選挙の手口は、真鶴町だけに限ったことなのか。それとも水面下で広域に広がっているのか。どのような経緯で書類が流出して、どう使われたのか。わたしは事件の深層に迫った。

真鶴町(出典=Wikipedia)

◆舞台は2020年9月の真鶴町長選

10月26日、真鶴町の松本一彦町長は、記者会見を開き、みずからが関与した「不正選挙」の手口を説明して謝罪し、辞任を表明した。

発端は、1年ほど前の2020年9月にさかのぼる。真鶴町で町長選挙が行われた。この町長選には、現職で3期目をめざす宇賀一章(68)氏のほか、新人の北沢あきお氏と松本一彦(54)氏の3人が立候補した。しかし、事実上、現職の宇賀氏と新人の松本氏の一騎打ちだった。

松本一彦氏のFacebook。牧島かれん・衆議院議員、松沢成文・元神奈川県知事、島村大・参議院議員が「必勝」のメッセージ。岸田内閣の下で、牧島議員はデジタル大臣を、島村議員は厚生労働大臣政務官兼内閣府大臣政務官を務めた

松本氏は、出馬までは真鶴町の役場に町民生活課長として勤務していた。職員を辞職して町長選に挑んだのである。投票結果は次の通りだった。

松本一彦:  2,812票
宇賀かずあき:1,673票
北沢あきお:  78票

◎出典 http://www.town.manazuru.kanagawa.jp/soshiki/soumubosai/senkyokanri/r2chouchousenkyo

新人の松本氏が現職町長に圧勝したのである。

この選挙では、元神奈川県知事の松沢成文氏が選挙戦初日から松本候補の応援に入った。(https://www.youtube.com/watch?v=E_baKYbhGco&t=328s

松本氏の事務所には、牧島かれん衆議院議員、島村参議院議員、松沢しげふみの3氏による「祈 必勝」の文字が入ったメッセージが張り出された。松本氏の当選は、ひとつには幅広い人脈を使って、活発な選挙活動を展開した結果だったが、別の勝因もあったようだ。

◆選挙人名簿で有権者のターゲットを絞る

この町長選に挑むために松本氏は、真鶴町の選挙管理委員会から選挙人名簿を盗み出していたのである。選挙人名簿は合理的な選挙戦略の格好の道具になるからだ。

地方自治体の選挙から国政選挙まで、立候補者が自分の推薦者名簿を作成することは当たり前に行われている。日頃の議員活動や「票読み」をしながら、支援者と思われる人を推薦者一覧に登録する。それ自体は、違法行為でもなんでもない。政党を問わずにあたりまえに行われていることである。

しかし、推薦者一覧は、投票権がある全住民を把握しているわけではない。従って選挙戦に突入して、議員の選挙事務所が「電話」を使ったローラー作戦を展開してみると、住民登録がなく、選挙権を有していないひとに行き当たることも少なくない。

こうした状況の下で、仮に選挙人名簿が手に入れば、議員の選挙事務所は、住民のうちだれに投票権があるかを即座に把握することができる。その結果、有権者だけにターゲットを絞った合理的な選挙活動が可能になる。選挙が短期決戦になればなるほど、選挙人名簿は威力を発揮する。

余談になるがこれに類似した手口は、実は2021年10月31日に投票が行われた衆院選でも発覚している。「FLASH」(10月26日)(https://smart-flash.jp/sociopolitics/161395/1)は、「立憲民主党・篠原豪氏 横浜市民の署名簿を自らの政治活動に不正流用! 元秘書が明かす“手口”」と題する記事を掲載した。「カジノの是非を決める横浜市民の会」が集めた約19万筆のIR反対の署名簿の一部を使って、「票読み」をしていたというのだ。

IRに反対するひとは、反自民の傾向があるわけだから、立憲民主党にとって署名簿は、格好の選挙道具になる。

◆松本一彦町長が選挙人名簿をコピー

朝日新聞(10月27日、電子)は、26日に行われた松本町長の謝罪会見を次のように報じている。

「会見での説明によると、松本町長は町民生活課長だった昨年2月ごろ、本庁舎の職員の引き出しから倉庫のかぎを取り出し、別棟の倉庫にあった選挙人名簿を持ち出した。他の職員がいない夜間に庁内のコピー機を使い名簿をコピーしたという。」

わたしがこの事件を知ったのは、松本市長が記者会見を開く1週間ほど前である。わたしは、事件を告発した真鶴町の元町議会議員・森あつひこ氏から、告発に至る事情を聞いた。

告発の発端は、松本氏が圧勝した町長選から1年後、2021年9月に行われた真鶴町議選だった。森氏は再選を目指して出馬することにした。森氏は、再選されるのを確信していた。自分の当選を楽観視していたのだ。

この時期に森氏は、松本町長から電話で奇妙な打診を受けた。森氏が言う。

「自分が町長選挙で使った時の推薦人名簿があるので提供したいと言ってきました。わたしだけではなく、他の候補にもそれを提供しているとのことでした。推薦者名簿であれば、違法ではないので、わたしは承知しました。もっともあまり役に立つと思っていませんでしたが。町長の言葉通り、わたしのもとに大きな封筒が届きました。それを届けたのは、なぜか町の選挙管理委員会事務局長である尾森正氏でした。わたしは推薦人名簿など使わなくても、当選できると思ったので、礼儀上、受け取ったものの中身を確認せずにそのまま放置しました」

松本町長が、「推薦人名簿」の提供を申し出たのは、森氏に「恩を売る」ことで、議会運営を優位に進める体制を構築しようという意図があった可能性が高い。「派閥」の形成の布石だったのではないか。実際、この資料は、森氏だけではなく他の2人の候補にも提供されていた。

しかし、この選挙で森氏だけが落選した。結果は、次の通りである。

当選  青木 たけし    534票
当選  田中 しゅんいち  526票
当選  岩本 かつみ    475票
当選  海野 弘幸     368票
当選  黒岩 のり子    351票
当選  高橋 あつし    330票
当選  天野 まさき    325票
当選  村田 ともあき   281票
当選  山下 あみ     272票
当選  木村 いさむ    263票
    加藤 りょう    255票
    森  あつひこ   156票
    北沢 あきお    27票
    島内 かずき    26票

落選後、森氏は選挙管理委員会の尾森事務局長が届けた封筒を開いてみた。そして中身が推薦人名簿ではなく、真鶴町の選挙管理委員会に保存させている選挙人名簿だったことを知ったのである。さらに別の3種類の書面も入っていた。「転出決定者一覧表」、「死亡者一覧表」、「職権消除者一覧表」である。これらは住民基本台帳である。

書面が網羅しているデータの登録日は、いずれも「平成31年4月7日~令和3年6月30日」である。つまり町議選の直前に、選挙人に関する最新データがプリントアウトされ、複数の候補者にばら撒かれたことになる。

◆事件告発の背景に選挙管理委員会に対する不信感

町議会選挙で当選した10人のうち、現職と元職が1位から8位を占めた。9位の山下あみ氏と10位の木村いさむ氏が新人だった。

森氏は、2人には真鶴町での生活実態がないとして、2人の当選の無効を申し立てた。選挙管理委員会は、それを受理した。

これに対して木村氏は、わたしの取材に対して「5月に真鶴に転入した。生活実態もある」と話している。また 山下氏も、「今年の春に真鶴に転入した。生活実態もあり根も葉もないこと」と話している。

その後、10月14日の午後9時ごろに、森氏は尾森事務局長から電話を受けたという。その中で、尾森氏は、次のような趣旨のことを言ったという。木村勇議員は、居住実態があるので、「白」で決まりだが、山下亜美議員は、「黒」だ。森氏は次点で落選したのではないから、当選無効を申し立てても「繰り上がり」で議員にはなれない。マスコミに騒がれて、かえって損をするとも付け加えたという。

この言葉を聞いたとき、森氏は選挙管理委員会が選挙結果をコントロールしているのではないかと疑ったという。その真実性はともかくとして、これが不正選挙の手口を告発するに至った引金である。

◆国際監視団の導入を

議会制民主主義の歴史が浅い地域、たとえば中央アメリカや南アメリカの国々は、国政レベルの選挙では、必ず国際監視団を入れて「不正選挙」を厳重に監視する。小選挙区制の下で、民主主義が劣化した日本では、そろそろ国際監視団の導入を検討する時期に来ているのではないか。真鶴町の事件が本当に一地方だけの問題なのか、再考する必要がある。

真鶴で発覚した「不正選挙」のメソッドが、アメーバーのように広がっている可能性もある。

もしそうであれば、「政権交代」など絶対に起こり得ないのである。

真鶴町は、関係者の処分について、「第3者委員会を設置して、事実関係を調査して、処分を決めたい」と話している。また、尾森氏と松本町長からはコメントがなかった。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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四半世紀で中央紙は1000万部減、東京新聞25紙分の部数が消えた、急増する新聞を読まない人々、電車の車両内で調査 黒薮哲哉

新聞崩壊が急速に進んでいる。1995年から2021年8月までの中央紙の発行部数(新聞販売店へ搬入された部数)の変化を調べたところ、この約26年のあいだに1000万部ほど新聞の部数が減ったことが分かった。これは発行部数が約40万部の東京新聞が25紙分消えたに等しい。中央紙は、坂を転げ落ちるよう衰退している。

特に2015年ごろから、発行部数は激減している。かつて「読売1000万部」、「朝日800万部」などと言われていたが、今年8月の時点で、朝日新聞は約460万部、読売新聞は約700万部に落ち込んでいる。毎日新聞と日経新聞は、200万部を切り、産経新聞はまもなく100万部のラインを割り込む可能性が濃厚になっている。次に示すのは、中央紙の5年ごとの部数(日本ABC協会が発表する新聞の公称部数)と、2021年8月の部数である。

1995年からの中央紙の部数

※5年ごとのデータは、各年度の1月~6月の販売店へ搬入された部数の平均。2021年8月のデータは、平均ではなくこの月のABC部数。

この1年間に限っていえば、朝日新聞と読売新聞も約5万部を減らしている。毎日新聞は約10万部を、日経新聞は約21万部を、産経新聞は約15万部をそれぞれ減らした。この速度で新聞離れが進めば、新聞社経営は、さらに多角化を進めない限り破綻する。

少しでも経営を好転させるために、新聞人らは文部科学省と連携して、NIE(学校の学習教材に新聞を使う運動)を進めている。2020年度から実施されている小・中・高等学校の学習指導要領には、新聞の使用が明記されている。

しかし、新聞記事そのものがインターネットで配信されており、あえて「紙」にする理由に説得性はない。新聞社と文部科学省との癒着関係が、教育内容を歪めたり、新聞を世論誘導の道具に変質させかねないという批判も出ている。

◆電車の車両内で「新聞を読む人」はゼロ

10月21日付けの『ディリー新潮』は、『新聞「紙」が消え「地上波テレビ」凋落の韓国最新メディア事情 ソウル打令』と題する記事を掲載した。それによると、韓国では、日本よりもメディアの電子化が進んでいて、新聞を売っているコンビニが激減しているという。記事は、「それはコンビニの問題ではなく、韓国人が紙の新聞を読まなくなっているから」だと結論づけている。

2021年10月22日、わたしは電車の車両内で新聞を広げている乗客がどの程度いるのかを調査してみた。車両内で新聞を読むのは、「昭和」・「平成」の光景だった。日経新聞を購読するのが、ビジネスマンの常識のように思われていた。

わたしが調査に選んだ鉄道は、自宅沿線の東武池袋線である。乗り込んだ電車は、成増駅を13時28分に出発する池袋駅ゆきの準急電車である。池袋駅まで途中に10駅あるが、準急電車は直通で、途中停車がない。従って成増駅を出発した時点で、池袋駅まで乗客数に変化がない。所要時間は10分。調査の条件が揃っている。

わたしは10両ある車両の最後部から先頭車両までを歩き、新聞を読んでいる乗客の人数を確認した。

結論を言えば、新聞を読んでいるひとは1人もいなかった。夕刊紙を読んでいる人もいなかった。本を読んでいるひとが数人いた。多くの人がスマホと向き合っていた。それでなければ、ぼんやりしていた。

次の写真は、2号車から通路の扉を通して撮影した1号車内の光景である。新聞を読んでいる人はひとりも写っていない。

車両内の様子。新聞を広げているひとはいなかった

復路でも同じ実験をしたが、新聞を読んでいる人はひとりもいなかった。成増駅で調査は終了した。緊張が解けたうえに、調査結果に衝撃を受けたこともあって、思考にふけり、下車予定だった駅を乗り過ごしてしまった。次の駅で下車して引き返した。その車中で、とうとう新聞を読んでいる人を発見した。

優先席に座った老婦人が、腕を前に延ばして新聞を広げていた。近づいて、興味津々に紙面を覗き込んでみると、『公明新聞』の文字が視界に飛び込んできた。

わたしは苦笑しながら、電車を降りた。

◆読売「押し紙」裁判に登場し続ける喜田村洋一弁護士

しかし、新聞社経営の行き詰まりは、ABC部数の激減が暗示するよりもはるかに深刻だ。と、言うのもABC部数の中には、大量の「押し紙」、あるいは「積み紙」が含まれているからだ。従ってABC部数も正確には新聞没落の実態を反映していない。実態ははるかに深刻なのだ。

「押し紙」というのは、端的に言えば、新聞社が販売店に対して課しているノルマ部数のことだ。たとえば新聞の購読者が2000人の販売店は、2000部と若干の予備紙(従来は搬入部数の2%とされた) があれば経営できる。ところが新聞社がかりに3000部を搬入すれば、約1000部が過剰になる。この過剰部数が「押し紙」である。

これに対して「積み紙」というのは、販売店が部数を多く見せかけて、折込み広告水増しなどをするために、みずから注文した新聞のことである。

「押し紙」と「積み紙」を総称して残紙と呼ぶ。

新聞販売店が新聞社に対して「押し紙」による損害賠償を求める裁判は、「押し紙」裁判と呼ばれる。「押し紙」裁判では、残紙の中身が「押し紙」か「積み紙」かが争点になる。

このところ「押し紙」裁判が多発している。特に読売新聞は、現在、東京本社、大阪本社、西部本社が「押し紙」裁判の被告として、法廷に立たされている。このうち西部本社を被告とする裁判では、次のような残紙の実態が明らかになっている。ひとつの例として、2015年度の実態を紹介しよう。

YC早岐中央(長崎県佐世保市)の部数内訳。「プラス2%」とは、予備部数が配達部数の2%の意味。配達部数+2%の予備紙が、販売店経営に真に必要な部数

読売新聞社の東京本社と西部本社を被告とする裁判では、読売新聞の代理人として、日本を代表する人権擁護団体・自由人権協会の喜田村洋一・代表理事が登場している。喜田村弁護士は、読売新聞社には1部も「押し紙」は存在しないと主張している。喜田村弁護士は、約20年前から読売新聞の「押し紙」

裁判にたびたび登場して、「押し紙」は存在しないと繰り返してきた。

しかし、残紙の中身が「押し紙」であろうと、「積み紙」であろうと、過剰な部数の新聞が販売店に搬入されていることは紛れもない事実である。当然、広告主に損害を与えている可能性も検証する必要がある。広告主の中には、広報紙の新聞折り込みを発注している地方自治体も含まれている。大阪府、滋賀県、東京都、埼玉県、千葉県などである。

◆残紙率およそ70%、毎日新聞・蛍が池販売所

毎日新聞の「押し紙」裁判では、わたしが把握している限り、残紙率が70%を超えるケースが過去に2件ある。このうち次に示すのは、大阪府豊中市の毎日新聞・蛍が池販売所の部数内訳である。

毎日新聞蛍が丘販売所(大阪府豊中市)の部数内訳。「プラス2%」とは、予備部数が配達部数の2%の意味。配達部数+2%の予備紙が、販売店経営に真に必要な部数

生前、元店主は残紙と一緒に折込広告を廃棄していたことに自責の念を感じていたようだ。それが新聞社のビジネスモデルだとも話していた。

産経新聞も朝日新聞も過去に「押し紙」裁判で、法廷に立たされている。

◆権力構造の歯車

新聞没落の背景には、インターネットの普及だけではなく、残紙問題や文部科学省との癒着に象徴されるジャーナリズムの信用失墜もあるのではないか。公正取引委員会が「押し紙」を独禁法違反で取り締まらないのも、新聞社が権力構造の歯車に、「広報部」として組み込まれているからである。少なくとも、わたしはそんなふうに考えている。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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前立腺癌の革命的な療法「岡本メソッド」が京都の宇治病院で再開、1年半の中断の背景に潜む大学病院の社会病理 黒薮哲哉

大学病院から追放された非凡な医師が医療現場に復活を果たした。前立腺癌治療のエキスパートとして知られる岡本圭生医師が、治療の舞台を滋賀医科大付属病院(大津市)から、宇治病院(京都市宇治市)に移して治療を再開したのだ。

この治療法は、岡本メソッドと呼ばれる小線源治療で、前立腺癌の治療で卓越した成果をあげてきた。しかし、後述する滋賀医科大病院の泌尿器科が起こしたある事件が原因で、1年7カ月にわたって治療の中断を余儀なくされていた。岡本医師が言う。

「8月から月に10件のペースで治療を再開しました。年間で120件の計画です。関東や九州、東北からもコロナ禍にもかかわらず受診される患者さんが大勢います」

名医が治療の舞台を移さなければならなかった背景になにがあったのか。

 
治療中の岡本圭生医師

◆中間リスクの前立腺癌、根治率は99%

小線源治療は、放射性物質を包み込んだカプセル状のシード線源を前立腺に埋め込んで、そこから放出される放射線でがん細胞を死滅させる治療法だ。1970年代に米国で誕生した。

その後、改良を重ねて日本でも今世紀に入るころから実施されるようになった。岡本医師は、従来の小線源治療に改良を加えて、独自の高精度治療を確立し、癌の根治を可能にした。放射線治療の国際的ガイドラインを掲載している『ジャーナル・オプ・アプライド・クリニカル・メディカル・フィイジックス』誌(Journal of Applied Clinical Medical Physics)[2021年5月](URLリンク)は、その岡本メソッドの詳細を紹介している。

前立腺癌の5年後生存率は100%と言われているが、最も標準的な治療である全摘手術の場合、再発率は予想外に高い。また合併症も克服されていない。最新のロボット機器の補助による全摘出手術を受けた場合でも、術後、高度の尿失禁で社会復帰できないことも珍しくない。生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)が大きく低下するといった課題が残されている。

岡本メソッドはこれらの問題を解決したのである。進行した癌でも、大きな副作用なく、前立腺癌を根治することに成功した。科学に裏打ちされた療法で、特に海外で評価が高い。

岡本医師が前出の医学誌『ジャーナル・オブ・コンテンポラリー・ブラキセラピー』(Journal of Contemporary Brachytherapy)[2020年1月]に発表した論文(URLリンク)によると、岡本メソッドの治療を受けた中間リスクの前立腺癌患者の手術後7年の非再発率は99.1%だった。

この論文は、2005年から2016年の期間に、岡本医師が中間リスクの前立腺がん患者397人に対して実施した小線源治療の成績を報告したものである。岡本メソッドでは、中間リスクの患者に対しては、ホルモン療法も外部照射療法も併用する必要がない。これも従来の小線源治療とは異なる治療法の革命だ。

今年の2月にも、岡本医師は同医学誌に新しい論文(URLリンク)を発表した。それは膀胱に浸潤した前立腺癌を完治させた医療記録で、世界に前例のない報告である。

最新の『メディカルレポート・アンド・ケーススタディーズ』(Medical Report and Case studies)[2021年9月]に掲載した総説論文(URLリンク)では、現在の前立腺癌治療の問題点を論理的かつ明確に指摘しつつ、中間リスク・高リスクの患者に対する岡本メソッドの利点を紹介している。そこにはリンパへ移転した「超高リスク前立腺癌」治療の論文もとりあげている。

この原著論文は2017年に『ジャーナル・オブ・コンテンポラリー・ブラキセラピー』誌に公表されたものだ。それによると被膜外浸潤や精嚢浸潤、リンパ節転移など症例を含む難治性前立腺癌の成績で、5年の非再発率は95.2%だった。

 
モルモット未遂事件を報じる朝日新聞の記事(2018年7月29日付け)

◆「術中患者が苦しみだしたら助けてくれ」

岡本医師は、宇治病院へ移籍する前は、滋賀医科大附属病院に勤務していた。2005年から2019年までの15年の間に、約1200件の小線源治療を実施している。2014年には、医薬品販売会社が岡本メソッドの実績に着目して、寄付講座の開設を求めてきた。滋賀医科大の塩田平学長もそれを歓迎して、滋賀医科大を日本における小線源治療の拠点にする方向で動きはじめた。

ところが予想もしない横やりが入った。日本で旧来からある「村社会」が大学病院にも蔓延していたのだ。岡本医師の元上司にあたる泌尿器科・河内明宏科長が、小線源治療の専門家である岡本医師を差し置き、自らしゃしゃり出て寄付講座の主導権を握ろうとしたのである。

しかし、塩田学長らの支援が得られなかった。そこで河内科長は、独自に寄付講座とは別に小線源治療の窓口を設けて、泌尿器科独自の小線源治療を計画したのだ。とはいえ小線源治療の経験はなかった。それを知らないままこの別窓口に誘導された患者は20名を超えた。

患者の中には、岡本医師を頼って滋賀医科大までやってきたのに、何を知らずに河内科長が設けた別の窓口に引きずり込まれた人もいた。

河内科長が最初の小線源治療を行うように命じたのは、部下の成田充弘准教授だった。この医師も小線源治療は未経験だった。成田准教授は、岡本医師に、

「術中患者が苦しみだしたら助けてくれ」 

と、岡本医師に要求した。

岡本医師は、塩田学長に対して患者をモルモットにした治療計画そのものを中止するように告げた。松末吉隆病院長に対しても患者に対する重大な人権侵害であるとして計画中止を進言した。

ところが、岡本医師は思わぬ報復を受ける。病院が寄付講座を2019年末で閉鎖する方向で動きはじめたのだ。泌尿器科による不正行為が公になることを恐れ、病院の幹部は、岡本医師さえ追放してしまえばそれを隠蔽できると考えたらしい。そして寄付講座を閉鎖すると宣言したのだ。治療は閉鎖の半年前に打ち切ると告知した。岡本医師は寄付講座の特任教授だったので、講座の閉鎖と共に除籍になる。大学病院を去らなければならない。

この緊急事態に対して 待機患者らが患者会の支援を受け、治療の実施期間を延長するように求めて裁判所に仮処分の申し立てた。大津市内や草津市内で200名にも及ぶ人員を動員して街宣活動も展開した。

幸いに大津地裁は、大学病院による治療妨害を禁止する命令を下した。治療の実施期間を5カ月間、延長するように命じた。しかし、それでも治療が受けられない待機患者が発生してしまった。

仮処分命令が認められた直後の待機患者、大津地裁前

◆内弁慶がはびこる日本社会の縮図

滋賀医科大の寄付講座が閉鎖された後、岡本医師の進退が注目されていたが、宇治病院へ移籍した。それから小線源治療のインフラを整え、スタッフを招聘して訓練し、岡本医師はこの8月に治療の再開にこぎつけたのである。

わたしがこの事件を取材したのは、寄付講座の最後の年、2019年に入ってからである。取材を通じて、過去に滋賀医科大病院が優秀な心臓外科医を追放したことがあるのを知った。この病院は、優秀な人材を活用できない。

その背景に前近代的な「村社会」の存在が垣間見える。内弁慶がはびこる日本社会の縮図が現れている。患者の生命がかかっていても、この体質は変わらない。

事件には始まりがあり終わりがある。そして終わりは、新たな始まりでもある。今後、岡本医師と患者会が、滋賀医科大事件の「戦後処理」をどう進めるかに注目したい。

※この事件の詳細は、『名医の追放』(緑風出版)に詳しい。http://www.ryokufu.com/isbn978-4-8461-1918-8n.html

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ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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東京23区を対象に新聞部数のノルマ制度を調査、際立つ毎日新聞の闇、全国では年間1400億円の「押し紙」資金が暗躍、汚点がメディアコントロールの温床に 黒薮哲哉

新聞部数のノルマ制度を東京23区を対象に調査した。その結果、「押し紙」政策の存在が裏付けられた。

調査は、各新聞社を単位として、各区ごとのABC部数(2016年~2020年の期間)をエクセルに入力し、ABC部数の変化を時系列に調べる内容だ。部数に1部の増減もなくABC部数が固定されている箇所は、新聞社が販売店に対してノルマを課した足跡である可能性が高い。

 
(上)人目を避けて、コンテナ型のトラックで「押し紙」を回収。(中)コンテナの内部。(下)紙の「墓場」

実例で調査方法を説明しよう。たとえば次に示すのは、東京都荒川区における2016年10月から、2018年4月までの朝日新聞のABC部数である。2年の期間があるにもかかわらず、1部の増減も観察できない。

2016年10月:8549部
2017年4月:8549部
2017年10月:8549部
2018年4月:8549部

グーグルマップによると、2021年10月の時点で荒川区にはASA(朝日新聞販売店)が4店ある。これら4店に対して、朝日新聞社が搬入した部数合計が、2年間に渡って1部の増減もなかったことが上記のデータから裏付けられる。つまり朝日新聞は、新聞購読者の増減とはかかわりなく同じ部数を搬入したのである。荒川区における朝日新聞の購読者数が、2年間、まったく増減しないことなど実際にはあり得ないが。

4店のうち、たとえ1店でも部数の増減があれば、上記のような数字にはならない。販売店サイドが2年間、自主的に同じ部数を注文し続けた可能性もあるが、たとえそうであっても、朝日新聞社サイドがその異常を認識できなかったはずがない。

このような部数のロックは、販売店に対して部数のノルマを課していた高い可能性を示唆している。新聞社が販売店に対して特定の部数を買い取らせる行為は、独禁法の新聞特殊指定で禁止されている。

◆調査方法の弱点について

なお、わたしが採用しているこの調査方法の弱点についても、言及しておこう。この調査は、ABC部数の公表単位である区・市・郡の部数を基礎データとして採用しているために、調査対象地区に店舗を構える販売店が多くなればなるほど、地区全体でのロック現象を確認できる確率が減ることだ。たとえば販売店が多い世田谷区などでは、ロック現象は確認できない。部数を減らすように新聞社と交渉して、減部数を勝ち取る販売店が存在する確率が高くなるからだ。

逆説的に言えば、地域全体としてはノルマの実態が浮上しなくても、差別的にノルマが課されている販売店が存在する可能性もあるのだ。

◆朝日、毎日でノルマ政策を顕著に確認

以上を前提として、調査結果を公表しよう。着色された箇所が、ロック部数とその期間を現わしている。また、赤文字の箇所は、100部単位で部数の増減を行われた不自然な箇所でる。どんぶり勘定で新聞の卸部数を決めている可能性もある。朝日、読売、毎日、産経、順番に表示する。

東京23区別の朝日新聞ABC部数の推移
東京23区別の読売新聞ABC部数の推移
東京23区別の毎日新聞ABC部数の推移
東京23区別の産経新聞ABC部数の推移

ちなみに大阪府堺市を対象とした同類の調査もある。大阪府の『府政だより』の水増し問題を取り上げた次の記事の後半で紹介している。東京都よりも顕著に、新聞社によるノルマ設定の実態を確認することができる。

◎[参考記事]「大阪府の広報紙『府政だより』、10万部を水増し、印刷は毎日新聞社系の高速オフセット、堺市で『押し紙』の調査」

◆「世論調査」なるものの欺まん

さて、「押し紙」の何が問題なのだろうか?これについて、わたしの考えを述べておこう。結論を先に言えば、それは新聞社による「押し紙」政策を公権力が把握していることである。把握したうえでそれを黙認し、新聞社経営を支える構図があることだ。このような配慮により、公権力は新聞社を権力構造の「広報機関」として歯車に組み込んでいる。

もちろんこの種の「アメとムチ」の構図は、「押し紙」問題だけに見られるものではない。他にも、新聞に対する軽減税率の適用、再販制度の維持、学校教育における新聞の使用(学習指導要領)、などの問題もある。

しかし、その中でも「押し紙」の放置は、中心的な問題なのである。と、いうのも「押し紙」を通じて想像を絶する規模の資金が動くからだ。

新聞1部の価格は、100円から150円ぐらいで、「高額」という印象はない。ところが全国の日刊紙の発行部数は、約3245万部(日本新聞協会の2020年度のデータ)にもなり、新聞1部に付き10円値上げするだけで、1日に約3億245万円の収入増となる。事業規模は想像以上に大きいのだ。
 
全国の「押し紙」の割合が20%と仮定したとき、649万部が「押し紙」という試算になる。新聞の仕入代金を1部60円で計算すると、全国の新聞社が得る1日の「押し紙」収入は、3億8940万である。ひと月(30日)に換算すると116億8200万円になる。年間では、1400億円を超えるのである。

念のための記しておくが、これは誇張を避けたシミュレーションである。

しかも、「押し紙」によるABC部数のかさあげにより、新聞社は紙面広告の媒体価値を引き上げる。販売店は折込広告の水増しをしている。従って、不正な金額は無限大に膨張する。公取委、警察、裁判所、通産省などはこの問題にメスを入れることもできるが、半世紀近く放置してきた。

その理由は単純で、新聞社の経営上の決定的な汚点を把握することで、暗黙のうちに報道内容に介入できるからだ。新聞人らは、自分が所属する企業を犠牲にしてまで、ジャーナリズムを守ることはしない。

わたしはマスコミが発表する「世論調査」なるものを全く信用していない。ジャーナリズムの土台の実態を知っているからだ。

◆客観的な事実の中に、新聞ジャーナリズムが腐敗した原因を探る

半世紀以上も前から、評論家たちは新聞批判を繰り返してきた。その論調の大半は、記者としての自覚が足りないからジャーナリズムが機能しないという批判だった。

【引用】たとえば、新聞記者が特ダネを求めて“夜討ち朝駆け”と繰り返せば、いやおうなしに家庭が犠牲になる。だが、むかしの新聞記者は、記者としての使命感に燃えて、その犠牲をかえりみなかった。いまの若い世代は、新聞記者であると同時に、よき社会人であり、よき家庭人であることを希望する。

この記述は、1967年、日本新聞協会が発行する『新聞研究』に掲載された「記者と取材」と題する記事から引用したものである。このような精神論の思考体系は今も変わっていない。従って、東京新聞の望月衣塑子記者のように有能な記者が次々に現れたら、ジャーナリズムは再生できるという論理体系になってしまう。

しかし、精神論ではなく客観的な経済上の事実の中に、新聞ジャーナリズムが機能しない原因を探らない限り、問題は解決しない。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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煙草を喫って4500万円、不当訴訟に対して「えん罪」被害者が損害賠償訴訟の提訴を表明、「スラップ訴訟と禁煙ファシズムに歯止めをかけたい」 黒薮哲哉

煙草の副流煙による健康被害の有無が争われた裁判で、原告から加害者の烙印を押された藤井将登さんが、裁判に加担した日本禁煙学会理事長の作田学医師らを相手取って、損害賠償裁判を起こすことが分かった。9月29日、将登さんの妻・敦子さんが代理人弁護士と話し合って、提訴の意志を固めた。原告には、敦子さんも加わる。提訴の時期は、年明けになる予定だ。「反訴」の方針を決めた敦子さんが、心境を語る。

「3年ものあいだ裁判対応に追われました。家族全員が喫煙者だという根拠のない噂を流され迷惑を受けました。ちゃんと『戦後処理』をして、訴権の濫用(広義のスラップ訴訟)と禁煙ファシズムに歯止めをかけたいと考えています」

藤井敦子さんは英語講師で、自宅で英語の発音を教えている

◆藤井家から副流煙が、団地に広がったウワサ

横浜副流煙裁判は、2017年11月にさかのぼる。横浜市郊外の青葉区・すすき野団地に住むミュージシャン・藤井将登さんは、同じマンションの2階に住む福田家(仮名)の3人から、4518万円の金銭を請求する裁判を起こされた。訴因は、将登さんの煙草の副流煙だった。将登さんが音楽室で喫った煙草が2階の福田家へ流入して、一家3人(夫・妻・娘)が「受動喫煙症」などの病気になったというものだった。

将登さんはヘビースモーカーではない。1日に2、3本の煙草を、喫う程度だった。それも喫煙場所は防音構造の音楽室で、煙が外部へもれることはなかった。しかも、仕事の関係で外出が多く、自宅に常時滞在しているわけではなかった。敦子さんと娘さんは、煙草を喫わない。

が、それにもかかわらず藤井家からもうもうと白い煙が発生しているかのような噂が団地に広がった。副流煙で娘が寝たきりになったということになっていた。藤井さん夫妻は2度にわたり警察の取り調べを受け、将登さんが「代表」で法廷に立たされたのである。

しかし、審理が進むにつれて、提起行為そのものに次々と疑問が浮上し始めた。まず最初に3人の原告家族のうち、夫に約25年の喫煙歴があった事実が分かった。煙草による健康被害を訴えていながら、実は、提訴の2年ほど前まで煙草を喫っていたのである。その事実を本人が法廷で認めた。この時点で、提訴の根拠がゆらぎ始めたのだ。

さらに別の重い事実が判明した。提訴の根拠となった3人の診断書のうち、娘の診断書が不正に作成・交付されていた疑惑が浮かび上がったのだ。この診断書を作成したのが日本禁煙学会の作田医師であった。作田医師は、娘本人を診察しないで、診断書を交付した。娘とは面識すらなかった。宮田幹夫医師(北里大学医学部名誉教授)らの診断書を参考にしたり、娘の両親から事情を聞いて、「受動喫煙症」などとする病名の診断書を交付したのである。それが訴訟に使われたのだ。

しかし、無診察による診断書の交付は医師法20条違反にあたる。それが司法認定されると、医師としての生命を失いかねない。それにもかかわらず作田医師は、大胆不敵な行為に及んだのである。

横浜地裁は2019年11月28日に、原告一家の請求を棄却する判決を下した。判決の中で横浜地裁は、作田医師による医師法20条違反を認定した。それが原因になったかどうかは不明だが、翌年の3月末に、作田医師は日本赤十字医療センターを除籍となった。同センターによると、それに伴い「受動喫煙外来」もなくなった。

原告は東京地裁へ控訴したが、高裁は2020年10月29日に控訴を棄却した。原告(控訴人)が上告しなかったので、東京高裁の判決が確定した。それを受けて敦子さんは告発人を募り、神奈川県警青葉署へ虚偽公文書行使罪で作田医師を刑事告発した。青葉署はすみやかに告発を受理して、関係者の捜査に入った。

こうした一連の流れの中で、藤井夫妻は「戦後処理」の一環として損害賠償を求める民事訴訟を提起するに至ったのである。その背景には、後述するように、広義のスラップ訴訟(訴権の濫用)に対する警鐘がある。スラップ訴訟は、水面下で社会問題になっている。ツイッターで「いいね」を押しただけで、提訴されかねない時代になっている。

◆「1年前から団地の1階でミュージシャンが」

わたしは藤井将登さんが法廷に立たされてから約1年後にこの事件の取材を始めた。その中で、日本禁煙学会の作田医師が、深く裁判に関わっていることを知った。福田家のために根拠に乏しい診断書を作成した事実はいうまでもなく、次々と新しい意見書を裁判所へ提出するなど、その奮闘ぶりは尋常ではなかった。第1審の判決日には、みずから法廷に足を運んだ。

自宅での禁煙禁止を命じる判例が誕生するのを期待していたのではないか?

作田医師は、福田家の妻の診断書の中では、医学的所見とは関係がない記述をしている。

 
藤井将人さんが喫っていたガラム

「1年前から団地の1階にミュージシャンが家にいてデンマーク産のコルトとインドネシアのガラムなど甘く強い香りのタバコを四六時中吸う(ママ)ようになり、徐々にタバコの煙に敏感になっていった」

現場を自分で確認することなく、このような事実摘示を行ったのである。

また、追加意見書(2019年3月28日)では、「現状でできることは、藤井氏側が直ちに自宅でのタバコを完全に止めることなのです」「これは日本禁煙学会としてのお願いでもあり、また、個人としてのお願いでもあります」などと述べている。原告3人の体調不良の原因を将登さんの副流煙だと決めつけているのである。

◆独り歩きしている病名「受動喫煙症」

裁判の中で、わたしは次々と興味深いことを知った。まず、日本禁煙学会が日本学術会議によって認定された「学会」ではない事実である。「学会」と付されているが、禁煙撲滅運動を進める市民運動の性質もある。

またわたしは、提訴の根拠となった3通の診断書に、作田医師が記した「受動喫煙症」という病名が、国際的には認められていないことを知った。WHO(世界保健機構)は、認定した病名に「ICD10」と呼ばれる分類コードを付すのだが、「受動喫煙症」は含まれていない。

つまり「受動喫煙症」という病名は、作田医師が理事長を務める日本禁煙学会が独自に命名したものであることを確認したのである。この病名を使うことが、法律に抵触するわけではないが、訴訟で4518万円を請求する根拠に使われた事実は重い。

◆スラップ防止法が存在しない日本

このように福田家が起こし、作田医師が加勢した訴訟そのものにグレーゾーンがあるわけだが、しかし過去に訴権の濫用が認定された裁判判例は極めて少ない。憲法が提訴権を優先している事情がその背景にある。

過去に訴権の濫用が認められたケースとしては、わたしが調べた限りでは、幸福の科学事件、武富士事件、長野太陽光発電パネル事件、DHC事件、N国党事件の5件である。

このうち長野太陽光発電パネル事件は、業者が太陽光発電のパネルを設置したところ、近隣住民から苦情が出たことに端を発する。太陽光パネルの撤去を求める住民に対して、業者は反対運動の中で名誉を毀損されたとして6000万円の損害賠償を求める裁判を提訴した。これに対抗して住民が、訴権の濫用で反訴した。裁判所は、住民の訴えを認めて、業者に50万円の支払を命じた。(長野地裁伊那支部平成27年10月28日、判決)

提訴しても勝訴の見込みがないことを認識しながら、あえて訴訟を起こした場合は、訴権の濫用とされるが、立証の壁は高い。

藤井さん夫妻が予定している裁判では、虚偽の診断書などを根拠として4518万円の巨額を請求した事実を、裁判所がどう判断するかに注目が集まりそうだ。まったく前例のないケースである。

藤井夫妻が予定している「反訴」は、スラップ防止法が存在しない日本の司法界に一石を投じそうだ。

※筆者は喫煙者ではない。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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大阪府の広報紙『府政だより』、10万部を水増し、印刷は毎日新聞社系の高速オフセット、堺市で「押し紙」の調査 黒薮哲哉

大阪府の広報紙『府政だより』が大幅に水増しされ、廃棄されていることが分かった。

わたしは、全国の地方自治体を対象に、新聞折り込みで配布される広報紙が水増しされ、一定の部数が配達されずに廃棄されている問題を調査してきた。

 
大阪府の広報紙『府政だより』

この記事では、情報公開請求で明らかになった大阪府の『府政だより』のケースを紹介しよう。悪質な事例のひとつである。

大阪府は、広報紙『府政だより』(月刊)を発行している。配布方法は、大阪府のウェブサイトによると、「新聞折り込み(朝日、毎日、読売、産経、日経)」のほか、「府内の市区町村をはじめ、公立図書館、府政情報センター、情報プラザ(府内10カ所)などに配備」している。さらに「民間施設にも配架」しているという。

このうちわたしは大阪府に対して、新聞折り込みに割り当てられた部数を示す資料を、過去10年にさかのぼって開示するように申し立てた。その結果、6年分が開示された。

データを解析した結果、『府政だより』の新聞折り込み部数が、大阪府における日刊紙の流通部数をはるかに超えていることが分かった。ここでいう流通部数とは、日本ABC協会が定期的に公表している新聞の発行部数のことである。新聞社が販売店に搬入する部数だ。

次の表に示すのが、ABC部数(朝日、毎日、読売、産経、日経)と『府政だより』の折込枚数の比較である。いずれの調査ポイントでも、『府政だより』の部数が、新聞の流通部数を大きく上回っている。

ABC部数(朝日、毎日、読売、産経、日経)と『府政だより』折込枚数の比較

上の表に示したように、2020年10月ごろには、少なくとも約10万部が水増しされている。

たとえ「押し紙」(新聞社が販売店に割り当てるノルマ部数で、残紙とも言う)が1部たりとも存在しなくても、『府政だより』が水増し状態になっている実態が判明した。「押し紙」が存在すれば、水増しの割合はさらに増える。

筆者が「水増枚数」として表で示した枚数は、「予備部数」に該当するという考え方もあるが、たとえそうであっても「予備部数」の割合がばらばらになっており、場当たり的に部数を決めたとしか思えない。

ちなみにこれらの部数には、販売店を通じてコンビニなどに卸される新聞部数も含まれている。これらの新聞に、『府政だより』は折り込まれない。従って新聞に折り込まれずに廃棄される『府政だより』の部数は、表で示した部数よりも多い。

◆堺市で5年にわたり新聞部数をロック

ABC部数に「押し紙」が含まれていれば、水増しの割合はさらに高くなる。そこでわたしは、大阪府に「押し紙」が存在するかどうかを調べることにした。

結論を先に言えば、全国のほとんどの新聞社が「押し紙」政策を採用している。ここ数年に限ってみても、読売新聞、毎日新聞、産経新聞で、元店主が「押し紙」による損害賠償を求める裁判を起こしている。

そこでわたしは、大阪府堺市をモデルとして、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、日経新聞の「押し紙」の実態を検証した。堺市を選んだのは、堺市が大阪府の大都市であり、ここに「押し紙」が多いという話を聞いたことがあったからだ。

「押し紙」の量は、販売店の内部資料を入手しない限り把握することはできないが、新聞社が販売店に搬入する部数が、新聞購読者の増減とは無関係にロック(固定)されていれば、「押し紙」政策が敷かれていると考え得る。 

新聞は「日替わり商品」であり、在庫にする価値がないので、毎月、販売店からの注文部数が変化しなければ不自然だ。

次に示すのは、大阪府堺市における読売新聞のABC部数の変化である。着色した部分は、部数に変化がなく、部数がロックされていると解釈できる。

大阪府堺市における読売新聞ABC部数の推移

東区では、5年間に渡って読者の増減が1部もない。常識ではありえないことである。残紙となった新聞は、『府政だより』と一緒に廃棄された可能性が高い。

朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、日経新聞についても、次に示すように同じようなロック状態が観察できる。

大阪府堺市における朝日新聞ABC部数の推移
大阪府堺市における毎日新聞ABC部数の推移
大阪府堺市における産経新聞ABC部数の推移
大阪府堺市における日本経済新聞ABC部数の推移

なお、堺市以外でも、同じような実態があちこちで確認できる。

◆「押し紙」のない熊本日日新聞

ちなみに次に示すのは、「押し紙」政策を導入していない熊本日日新聞の例である。ロックされている箇所は一ヶ所もない。正常な取り引きを反映した結果である。

熊本日日新聞は、「予備紙(残紙)」の割合を、搬入部数の1.5%とする販売政策を公表している。それゆえに取り引きが正常で、販売店主が部数の増減を決めることができる。

熊本市における熊本日日新聞ABC部数の推移

わたしは熊本県全域を調査したが、熊本市と同様に部数のロックは1件も発見できなかった。(この点に関しては、別に報告する機会があるかも知れない。)

◆ホープオフセット共同企業体

大阪府の『府政だより』の配布業務を請け負っている広告代理店は、年度により変わっている。最近は、福岡市に本社にあるホープオフセット共同企業体という団体が、『府政だより』の印刷と新聞販売店への配布を請け負っている。この共同企業体は、(株)ホープと毎日新聞社系の(株)高速オフセットで構成さている。

わたしが情報公開請求で入手した資料に、(株)ホープの連絡先が記されていたので、電話で事情を聞いた。次のような説明だった。

「弊社が広告販売を担当させていただき、高速オフセットさんが印刷を担当されています」

次に高速オフセットに事情を聞いた。しかし、応対した社員は、

「契約事項なのでお答えできません」

と、言って乱暴に電話を切った。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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