簡単に理解できる、絶対矛盾を一つ例示しよう。どうしてこの国では「経済再生担当大臣」が新型コロナウイルスの対策担当に当たっているのであろうか。疫病であるウイルスの蔓延と、「経済再生」がどのような関係にあるのか。

また、ワクチンの担当にどうして「行政改革大臣」が任じられるのか。ワクチン対応にも、旧来とは異なる行政対応を導入したい、との志あってのことなのか。そんなことはあるまい。元防衛大臣で「防衛大臣専用機が欲しい」とのたまった河野太郎は、相変わらず回らない滑舌で、ウイルスの遅滞弁解に忙しいだけだ。河野洋平だってそんなに評価に値する政治家ではなかったけれども、息子のできの悪さを嘆いているのではあるまいか。

行政改革は結構ではあるが、本来厚生省と労働省が担っていた業務には、水と油といってもいい利益相反の業務もあったのだ。それが無理やり合体させられてしまい、結果として医療行政や労働行政には大幅な後退が生じている。全国的な保健所の減少などもその結果である。横浜市はホームページで誇らしげに

《指揮命令系統の一元化により、広域的で緊急的な課題に迅速に対応するとともに、その基盤となる情報を一元管理できるよう18区に分散していた保健所を1か所に集約し、健康危機管理機能の強化を図りました。》

と書いているが、これはつまりかつて18か所あった横浜市の保健所が、現在は一か所だけになっていることをあらわす。

保健所は結核や、感染病が発生したときに、感染源を突き止め消毒を行ったり、医療への誘導を行うのが業務の一環だが、今次のコロナ蔓延には全国的に保健所の数が半数以下に減らされた「行政改革」のしわ寄せが遠因として働いている、ともいえる。京都市では保健所職員の中に昨年1年で2000時間(!)近くの残業を強いられている職員がいたことが判明した。

ひとつき20日の勤務で年間2000時間の残業は、一月あたり160時間の残業を意味するが、一日は誰にも平等に24時間しかない。この保健所勤務の職員さんはコロナでなくて「過労死」してしまっていないか、本当に心配になる。公務員の中には、とくに高級官僚の中には、不労所得や役得にあずかっているものが少なくない実態はあるにせよ、「行政改革」が結果として最低限の行政サービスをおろそかにしてしまっては本末転倒だ。

そもそも「改革」という言葉自体を近年は疑ったほうがよさそうでもある。「司法改革」は雨後の筍のように無意味で、既に半数以上が閉店した法科大学院と、法律の知識を持たない市民に、場合によっては「死刑」判決に立ち会わせる「裁判員裁判」さらには「司法取引」を生み出しただけであるし、企業における「意識改革」は労働者に確立された権利の忘却と、さらなる利益追求のための自己犠牲を強いる。

5月3日憲法記念日、コロナ禍の下とはいえ、いったいどんな営みや議論が交わされ、報じられたことだろうか。「批判する価値はない」とわたしが決めつけた報道各社は、期待にたがわず素っ頓狂な報道に明け暮れた。共同通信は改憲の必要性を誘引する世論調査を行い、わざわざ「改憲における緊急事態条項の必要性」までを質問項目に加えている。コロナにおける緊急事態宣言とを結びつけてある。現憲法で「緊急事態宣言」は発令可能であったのにどうして、改憲が必要なのか、また改憲に「緊急事態条項」を盛り込まなければならないのか。このような基本的な事項すら、論理的に理解できない頭脳が、今次この国におけるマスメディアの実態である。

あなたたちは、菅のイヌか?と罵倒されても仕方あるまい。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』7月号

「街灯を除き、全ての明かりを消すように徹底していきたい」

4月23日の記者会見で東京都の小池百合子知事はこう語った。夜間の外出を抑えるために、夜8時以降は、看板照明、ネオン、イルミネーションなどを消灯せよ、というのだ。

まさに戦時中の「灯火管制」だが、この小池知事の発言にあきれる声もある一方、支持する意見もある。そこに、医学や科学を超えた“疾病”=コロナ病の危険を感じざるを得ない。


◎[参考動画]小池知事「午後8時以降 看板、ネオン消灯を」(ANN 2021年4月23日)

多くの人々は、素朴な疑問をもつだろう。けた外れに感染者と死者が多いアメリカやヨーロッパ諸国が意外に持ちこたえ、はるかに少ない日本が、なぜ大阪のように医療が崩壊し、なぜ3回も緊急事態宣言を出し、経済や社会が崩れてかけているのだろうか、と。

少なくとも2021年4月末の時点では、このような素朴かつ重大な疑問が沸き上がるのは当然だ。

読売新聞オンラインの報道によると、2021年4月27日にまでの集計で、人口比に占める感染者の割合(カッコ内は感染者数)は次のようになっている。

・アメリカ 9.82%(3,212万4千人)
・フランス 8.31%( 556万5千人)
・イギリス 6.65%( 442万3千人)
・日本   0.45%( 57万2千人)
 
21年4月末日時点の日本の状況を考えれば、上にあげた米仏英などは、経済も医療も完全に崩壊しているはずである。反対にはるかに感染者数の少ない日本が今日の事態に陥ったのは、1年3ヶ月の間に政府が有効な対策を実行してこなかったからである。

感染症重傷者を治療できる設備を持つ大学病院や国立病院、地域の中核病院の病床や集中治療室を大幅に増やし、それに伴う人員増員と補償する予算措置を明確に実行しなかったのが大きな原因だ。

1年数カ月前に感染症や大規模災害に対応する医療システムの計画を策定し実行していれば、状況はまるで違っていたはずだろう。

つまり、いま私たちが直面しているコロナ危機は、医学的・科学的危機以上に政治危機(人災)の側面が大きいと見なければならないのではないか。


◎「参考動画」コロナによる国内の死者4687人 中国本土を上回る(ANN 2021年1月20日)

◆上と下からの圧力が人と社会を殺す

人災によってコロナ禍が増していくと同時に、マスク警察、自粛警察、通報、など戦中の隣組的発想が増長し、リアルの警察も去年のうちからマスクを付けない若者を交番に連行したり、繁華街で警棒を振り回して歩くなど社会の空気も悪化している。

国家総動員的な空気が蔓延する中で、小池都知事による灯火管制発言が出たわけだ。人々に恐怖を与えれば強権的な言動をとっても、大衆は従う(どころか、従わない人を攻撃もしくは通報)する性質を熟知してのことであろう。

灯火管制発言から週が明けたら、さっそくテレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』では、コメンテーターの玉川徹氏と司会の羽鳥慎一氏が、灯火管制に対する批判も「感情的にはわかるが」としながらも、人が集まらないようにするうえで有効であると、灯火管制に賛意を示していた。

灯火管制は、合理的なコロナ対策とは言えず、かつて日中全面戦争勃発後に展開された国民精神総動員運動のスローガンのようなものだろう。メディアが厳しく批判的に報じない限り、政治家の強権的発言や人権を制限する政策が下から支持されやすくなる。


◎[参考動画]燈火管制《前編》昭和15年 内務省製作映画

◆医療システムを脆弱化させた維新と吉村大阪府知事

東京から大阪に目をうつすと、似たような危険がある。大阪では「維新政治」が始まってから、無駄を省き、公務員を削減し、医療をはじめとする公共サービスを低下させてきた。

2020年12月20日付の『長周新聞』(電子版)が分かりやすく伝えている

《医療や衛生部門の職員数も大幅に減少した【表参照】。保健所の統合も進め、07年には748人いた大阪府の保健所職員は、19年には506人となり、12年間で3割以上削減されたことになる。

公的医療の根幹を担っていた府立病院と市立病院を統合して独立行政法人(民営化)へ移行させたことも背景にある。国の方針を先取りして病床数削減も進め、大阪府の病床数(病院)は07年の11万840床から18年の10万6920床と3920床減り、10万人あたりの総病床数は1197床であり、全国平均の1212.1床を下回っている【表参照】。》(引用終わり)

日本医師会の地域医療情報システムによると、コロナが始まる前の2018年11月時点で「結核・感染症」の10万人あたりの病床数は4・18床で全国平均の4・46床を下回る。

今回のような感染症対策に可能な保健師数は、人口10万人当たり25.9人で全国平均41.9人の6割しかおらず、全国ワースト2だ(2018年度)。

つまり、コロナ禍が始まるまでに医療システムが弱体化させられていた。その政策を推進してきた大阪維新の会の吉村洋文知事の言動は迷走している。

象徴的なのは、イソジン吉村のニックネームをつけられたように、昨年夏、うがい薬に含まれるイソジンがコロナ感染の重症化抑止に効果があるなどと発言した。そして「あごかけマスク」によるマスク会食を推奨するなど、その場その場でテレビ受け、一部大衆受けする言動を繰り返してきた。その挙句、3月7日が期限だった2回目の緊急事態宣言を大阪については解除するよう吉村は政府に要請し、2月末に解除された。

あるいは、感染を抑えすぎたから次の波が到来したなどという発言もしていた。極め付きは3度目の緊急事態宣言が決められた4月23日、「社会危機が生じた時に、個人の自由を大きく制限する場合があると国会の場で決めていくことが重要だ」と吉村知事は述べたのである。

これに対し兵庫県明石市の泉房穂視聴は、「大阪府知事は有害だ。自分が病床確保をしていないのに、それを国民に転嫁して私権制限するとは、まさに政治家の責任放棄だ。あの人こそ辞めてほしい」と正論を述べた。

これまで医療体制を脆弱化させてきた維新に所属し、その場限りの言動を繰り返してきた人間が「私権の制限」で国民の自由を奪うなど、犯罪者が被害者を抑圧するがごとき妄言である。


◎「参考動画」協力防空戦(焼夷弾の種類や対処を教育するためのアニメーション)

◆大阪吉村、東京小池はともに有害

話を東京に戻せば、小池知事も昨年、東京オリンピックの延期が決定された翌日から。突然コロナは大変だと騒ぎ始めたのは周知のとおり。前の日までは危機感を表す言動はなかったのに。

「オーバーシュート」「東京アラート」「ウィズコロナ」などというカタカナ語をまき散らし、「夜の街」などという言葉もはやらせた。レインボーブリッジや東京スカイツリーの電飾を操作して、言葉遊びをして「やってる感」を演出してきた。カタカナ標語の乱発やスカイツリー電飾操作は、「欲しがりません勝つまでは」、「一億一心」「撃ちてし止まん」(敵を打ち砕いたあとに戦いを止めよう)の思考回路に通じる。

それはエスカレートし、今回の「灯火管制」発言につながった。日中戦争開始の1937年に始まった国民精神総動員運動の再開をほうふつとさせる。いったい何様のつもりなのか。

基本的には、大阪の知事と同じだ。とくに吉村府知事は、過ちを認めない、誤らないという維新系政治家の特徴をよく表している。このような人たちが国民の自由を大幅に制限せよと息巻き、あるいは灯火管制で国民精神総動員まがいのことをしているのは、一種の倒錯であり危ない。

コロナ対策は急がれるが、東と西の知事を一刻も早くまともな人物に代えることも喫緊の課題だと私は考える。

▼林 克明(はやし まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

最新刊!タブーなき月刊『紙の爆弾』6月号

IOC会長トーマス・バッハは、17日から来日する予定であったが、表面的には緊急事態宣言の延長によって来日が見送られた。バッハ来日は、五輪強行のために日本政府の尻を叩くためか、あるいは現地をIOC会長が視察した結果「開催は無理」と宣言するか、どちらかが目標であろうが、どちらに転ぶかについての観測や予想をわたしは、持ち得ていなかった。


◎「参考動画」IOCバッハ会長の来日は「非常に難しい」橋本会長(ANN 2021年5月7日)

「東京五輪」は、既に膨大な「被害」を実際に生じさせている。わかりすいところで例を挙げれば、香川県では聖火リレーの警備をしていた警察官が新型コロナウイルスに感染していたことが判明したし、鹿児島ではやはり交通整理に当たっていた関係者6名が新型コロナウイルスに感染していたことが判明している。「密になるな」、「家から出るな」と政府は呼びかけ、要請しているいっぽうで、聖火リレーを行うちぐはぐさは、当然のように「感染拡大」を招く。

頭の悪い安倍晋三を長期にわたり、総理大臣の椅子に座らせてきた、日本人総体としての知的劣化は、いまさら嘆いても仕方がないけれども、第二次大戦にたとえれば、1945年の初旬が、今日に匹敵するかもしれない。つまり、既に全国の主要都市だけではなく、地方都市にも空襲が降り注ぎ、多くの非戦闘員がすでに犠牲になっている。そしてここで敗戦を選択したところで、膨大な被害は確定しているのであるけれども、このまま負け戦を続ければ、やがて8月には広島と長崎に原爆が投下されるのだ。

いまでも、散々な目にあっているが、このまま「猛進」すれば、「地獄図絵」が必ず待っている。それが2021年5月初旬の日本が置かれた状況ではないだろうか、とわたしは考える。


◎「参考動画」IOCが安倍前総理に「オリンピック功労章」(ANN 2020年11月14日)

バッハはドイツの弁護士であり、モントリオール五輪では旧西独のフェンシングの選手でもあった。アディダスをはじめとして、多数の企業で責任あるポストを歴任し、ゴルファ・アラブ・ドイツ商工会議所の会長も歴任している。スポーツから出発し、ビジネス、政治の世界へも踏み入れた経験のある人物らしい。法律を学んでいる最中に五輪選手として活躍、その後83年に博士論文を書き上げ、弁護士としての歩みをはじめたようだ。

運動能力にも、頭脳にも秀で輝かしい経歴を持つバッハ。しかし、IOCの会長とは、巨大利権の差配者である。世界的パンデミックにあって、スポンサーをはじめとする「利権集団」をどのようにコントロールするか、がバッハの最大命題なのであろう。

予定されていた来日には、五輪とは関係のない「広島訪問」の予定もあった。誰が広島に行こうと、文句を言われる筋合いはないが、被爆地を訪れてあたかもIOCや五輪が「平和」と親和性がある、との印象操作に広島を利用しようとしていたのであれば、「不謹慎だ」とわたしは断じる。


◎「参考動画」米紙 五輪中止を主張 バッハ会長の“悪い癖”批判(ANN 2021年5月7日)

実のところ、この先五輪が強行されようが、中止されようがわたしには、もう強い関心はない。既に可視・不可視の膨大な被害は既に生じているのであり、「敗戦後」はいずれにしても、焼け野原をこの国は甘受しなければならない、ということである。緊急事態宣言下でも本年冬季国体を愛知県は開催した。狂気の沙汰だと思って呆れていた。そして、いくらなんでも世界中が、波状攻撃のように変異株にのたうち回る状態での、五輪開催などは、どこかで誰かが「理性」によって止めるだろう、との甘い期待があった。

現生利益的あるいは、気まぐれと言えばその通りかもしれないが、インターネット上の調査では、五輪開催に反対の人の割合は8割を超えている。この精神はまともだと思う。

しかし「理性」は日本においても、世界を見渡しても権力者の中にはないのだ。
背理と反理性が生じさせる五輪被害。地獄図絵を見たくはない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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◆現場の状況を把握せずに、自分の希望だけでワクチン接種方針を宣言

もしかしたら、この人は高齢性の認知症なのかもしれない。そんな疑いすら感じさせる、菅義偉総理のコロナ対策(ワクチン接種方針)である。

医療従事者の接種も完了しない(4月末に484万人中、1回接種が300万人、2回接種が93万人)現段階で、高齢者(65歳以上)のワクチン接種を「7月末までに完了する」と宣言したのだ。

実態は4月末時点で全国民の1.3%、すなわちOECD加盟37か国中最下位(米英は30%台の後半)というのが日本の現状である。

菅総理の命令で「とにかくワクチンを打ちまくれ」「何とか接種率をあげろ」と、自治体に命じている田中良太総務相への反発が増えているという。言われるとおり接種率を上げようにも、肝心のワクチンが届いていないのである。

泉房穂明石市長は言う。

「明石市にはワクチンが1箱だけ届きました。接種できるのは300人くらいです。それで予約を受け付けると殺到して、現場が大変。十分なワクチンを供給できないのは、国、菅首相の責任です。これで何とかやってほしいというのは、無責任すぎる。ワクチンが届かないのですから、7月末に高齢者の接種が完了なんて、できるわけないわ」(AERAdot.5月2日)

これらは財政における医療費、および医療施設を減じてきた政策の負の反映、および日本の官僚機構の実務作業の愚鈍さゆえである。アベノマスクを思い起こしてみればよい。いまだにPCR検査の報告がFAXで行なわれている現状。あるいは消えた年金問題を想起してみれば、この国の官僚的事務システムが救いがたい怠惰と非効率的な現状にあるのが理解できようというものだ。日本の官僚機構は、一般に思われているほど効率的ではないのだ。

「菅首相は今や官邸で『裸の王様』状態。自分が直々に指示したんだから7月末までに高齢者接種は可能と思い込んでいる。コロナ感染拡大が収まらなくても、ワクチン接種が進めば、緊急事態宣言の早期解除と東京五輪開催の両立は可能と本気で考えているようです」(政府関係者、前掲記事)。

いま必要なのは、菅総理のような「願望」ではなく「現実性」なのである。そのためには、ありったけの財政出動を通じた国民生活の確保、そして無用な出費であるオリンピックの中止であろう。


◎[参考動画]東京五輪にスポーツドクター200人募集 医師から苦言(ANN 2021年5月3日)

◆「大規模接種センター」設置はクラスターを招かないか?

7月末までの高齢者ワクチン接種完了宣言の裏付けとして、菅総理は自衛隊が主体となった「大規模接種センター」を、東京と大阪に設置することを決定した。

東京は大手町の合同庁舎(千代田区大手町1丁目3?3)を会場に使用し、5月24日から3カ月をメドに、1日1万人の接種をめざすという。

だが、現状は空スペースになっているとはいえ、周辺は狭隘な土地である。1万人もの高齢者がここに並び、密な状態をつくることにコロナ対策としての現実性があるのだろうか。1971年建設の庁舎は、かならずしも医療実務に効率的な環境といえない。

この計画にクラスターの危険性はないのか。いや、そもそも実現できるのか。政府の分科会メンバーである釜萢敏日本医師会常任理事は「(1日1万人接種は)24時間体制でやるとしても、かなり難しいと思う」と語っている。


◎[参考動画]政府、ワクチン大規模接種センター公開 自衛隊から不安の声も(TBS 2021年4月28日)

◆500人の看護師をオリンピックに動員する?

東京都と大阪府で、連日1000人をこえる感染者が出て、重症者率が高くなるなかで、コロナ医療は施設よりも医療従事者の疲弊と不足が極限にせまっている。医療スタッフの不足で、重症患者が入院できないのである。その結果、自宅待機のまま迎える、悲劇的な死も増えている。これは医療崩壊の危機、というべきであろう。

にもかかわらず、菅総理は東京五輪組織委員会が日本看護協会に「約500人の看護師を確保」するよう要請した件について、こう言明したのだ。

「看護協会のなかで、現在、休まれている方もたくさんいると聞いている。そうしたことは可能だ」

そもそも、このオリンピックへの500人動員に対しては、医療団体からの抗議が殺到していた。

日本医療労働組合連合会は、4月30日に談話を発表。「オリンピック開会までにコロナ感染が落ち着く見通しなどまったくない」として「患者と看護師のいのちや健康を犠牲にしてまでオリンピック開催に固執しなければならないのかと、強い憤りを感じる」と明らかにしている。

愛知県の医療・看護・福祉労働組合連合会が4月28日から始めた「看護師の五輪派遣は困ります」というハッシュタグを付きのツイッターデモは、5日間で33万人を超えたという。患者の命を救うことよりもオリンピックという、政治家たちの利用主義的な思惑に、看護師たちは街頭デモまで行なっている。

こうした声を無視して、いや意識的に思考から除外してオリンピックのために、コロナ対応に切迫した医療現場から、500人もの看護師を引き抜くというのだ。たしかに形の上では、休職看護師からという言い方こそしているが、その担保はなにもないのだ。

じつは菅総理は、上記の発言をする前日に、日本看護協会の福井トシ子会長と会談を行なっている。その場で「離職中の看護師資格の保有者がワクチン接種業務への求人に応募して就業しているが、28日時点で298人にとどまっている」という説明を受けていたのだ。


◎[参考動画]オリパラに看護師派遣要望 新型コロナや暑さ対策で(ANN 2021年4月27日)

◆もはや認知症状ではないのか?

ひとつ確認しておこう。看護協会の幹部が「むつかしい」と言っていることを、総理が「休まれている方もたくさんいると聞いている。そうしたことは可能」と、ねじ曲げて会見しているのだ。いや、意識的に「ねじ曲げて」ではない可能性がある。

人の言っていることをその場で忘れてしまい、自分の希望を勝って気ままに言っているのだとしたら、それはもはや「認知症」という症状ではないのか?

政府関係者に「裸の王様」と批判され、看護師不足を訴える現状を、希望的観測として「可能」と言いなしてしまう。人の言葉をねじ曲げる悪意なのか、それとも健忘症なのか?

そこには国民とともにコロナ禍と戦い、困難を克服するために奮闘する宰相の姿はない。飄々と裏付けのない「展望」を口にして、批判をかわすが如く政治保身する菅総理には、指導者としての苦悩すらも感じられないではないか。

ただひたすら、ほぼ正常開催が不可能になったオリンピックを形だけでも強硬開催し、みずから描いた「コロナ禍に人類が打ち勝った証し」を示したい、老政治家の願望があるにすぎない。その願望に突き動かされた妄言を「認知症状」と呼ぶのに、もはやためらいは必要ないであろう。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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◆多数派になった「東京五輪反対」世論と権力の背離

2013年9月7日のブエノスアイレスで、長州の大法螺吹き安倍晋三が嘘八百の召致演説を行い、不幸にも決定してしまった「東京五輪」──。「福島復興五輪」だの、「レガシー作り」だの、空疎で犯罪的ですらある虚飾で固めた「東京五輪」開催に、わたしは招致決定直後から、その欺瞞と犯罪性について、極めて強い言葉で批判と開催反対の意を明らかにしてきた。


◎[参考動画]安倍晋三総理大臣プレゼンテーション IOC総会(2013年9月8日)


◎[参考動画]原発処理水の海洋放出を決定(2021年4月14日)

本通信だけではなく、鹿砦社の発刊する日本唯一の反原発季刊誌『NO NUKES voice』などでも、機会があれば「東京五輪反対」を書き続けてきた。統計を取ったわけでもなく、調査を行ってもいないけれども、原発に反対するひとびとの多くは、わたし同様に「東京五輪反対」に同意してくだっさる傾向にあったが、それ以外の皆さんは積極的であったかどうかはともかく、さして強い反対の意向を「東京五輪」」には持っておられなったように感じる。

本コラムでわたしの偏った原稿を読んでくださる読者の皆さんのなかにも、強硬な「東京五輪反対派」はそれほど多くの割合を占めはしなかったのではないかと思う。しかしこの1年で世論は激変した。大手新聞、テレビが煮え切らない態度でコロナの蔓延や、幾度もやってくる感染の波を伝えならが、「東京五輪まであと100日」と報道する姿勢たいして、新聞はただでも減っている部数をさらに減らし、テレビを視聴する人の平均年齢は、ますます上がる。

そして価値基準において絶対に両立しえない「コロナ対策」と「五輪開催」を同じ番組の中で扱うことに慣れた番組構成は、高齢者にすら飽きられてしまう。


◎[参考動画]IOC委員長は開催断言も世論調査7割以上が否定的(2021年4月14日)

◆ワクチン未接種者が多数の国で強行される「東京五輪」

どういう理由かワクチン接種率はイスラエルとモーリシャスが他国を引き離して高い。ワクチン接種が開始されてからこの傾向は一度も変化を見せておらず、日本の接種率は100位前後を行ったり来たりしている。

ワクチン接種については様々な観点から有効性に疑問があるので、わたしは読者の皆さんに積極医的な接種をすすめるものではない。でも、日本政府は数か月前に何と言っていただろう。「7月までには全国民の接種を終える」、「五輪までにワクチンは間に合う」こう語っていたのはよその国の閣僚ではない。それがどうだ。現在でも毎日新しくワクチン接種を受けている人の数は多くても1日あたり2万人を上回わらない。

このままのペースであれば、7月までに接種を希望する全国民にワクチンを行き渡らせることは、完全に無理だ。つまり「東京五輪」を強行するならばワクチン未接種者が多数の国で五輪を開くことになる。

こういうバカげた状態をさすがに、多数の国民は望みはしない。「宴会自粛」や「リモート講義」で家や下宿に閉じ込められた若者たちは、いまひそかに怒りはじめている。

「僕は通信教育を受けるために、大学受験の勉強をしたわけじゃないです」

都内の有名私立大学に昨春入学した若い知人は、昨年1コマしか対面講義はなかったそうだ。その1コマだけの対面講義も、感染者が出てリモートに切り替わった。なんのために下宿をしているのか。疫病が原因とはいえ、若い友人が怒りを感じるのは、無理なかろう。そんな東京で「五輪」を開こうとしている愚か者たちに、若い知人の怒りは向けられているのだ。

日々の感染者が1000人を超えて「医療崩壊」を医師会が宣言した大阪では4月13、14の両日、万博公園で観客を入れずに「聖火リレー」がおこなわれた。この際大阪府のスポーツ振興課員(常時13~14名在籍)は全員万博公園に出向いていたそうだ。維新・吉村府政は、しきりにコロナ対策に力を入れているようにふるまうが、「聖火リレー」における対応を見れば、その本質は推して知るべしである。

美しいほどに馬鹿げて、それでいて人の命を奪う背理が目の前で繰り広げられている。(つづく)


◎[参考動画]ワクチン接種後に60代女性が死亡 因果関係は?(2021年4月14日)

◎[カテゴリー・リンク]五輪・原発・コロナ社会の背理

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』5月号

『NO NUKES voice』Vol.27 《総力特集》〈3・11〉から10年 震災列島から原発をなくす道

季節のうつろいは早いもので、3月号の紹介ということはもう2月である。東北および北陸方面は豪雪に見舞われているというが、関東はいたって温暖な冬で、風雪に苦しむ人々には何だか申し訳ない気がする。

 

タブーなき月刊『紙の爆弾』2021年3月号!

政権発足当時こそ、苦労人宰相(菅義偉)がお坊ちゃま総理の限界に取って代わった、という好意的な評価で高支持率をほこった菅政権も失速。あっと言う間に支持率40%を割るところまで、政権への国民的な支持は落ち込んだ。その大半は失政によるところだ。

したがって3月号は、実質的に菅政権批判特集となった。

「菅義偉・小池百合子のダブル失政が『第四波』を招く」(横田一)、「『菅迷走』の根本原因」(山田厚俊)、「泥船と化した自公野合政権の断末魔」(大山友樹)、「『自助』と『罰則』だけの菅コロナ政策に終止符を」(立憲民主党・杉尾秀哉参議院議員に聞く、青木泰)といったラインナップである。

◆菅の懐刀という人物が画策する「政権延命計画」とは?

横田は「最初のミスは、新政権発足から間もない10月1日にGo To トラベルの東京除外を解除したことだった」と指摘する。菅と小池が責任をなすりつけ合いながら、年末まで感染を加速度的に拡大し、1月7日の緊急事態宣言に至ったのは、まさに失政といえよう。知事が判断するべきだったのか、国が判断するべきだったのか。ここでの尾身会長(コロナ対策分科会)および都医師会の尾崎会長の証言は、歴史に刻まれるべきであろう。政治家は医師たちの提言を無視したばかりか、相互に対立(菅と小池の不和)することで、国民の犠牲者を出したのだ。

さて菅がGo To に固執する理由だが、インバウンド需要を頼みにせざるを得ない日本経済の現実とともに、二階俊博の観光業界利権があるのは明白である。この点でのファクトが欲しいところだ。表題の「第四波」とは、菅総理の懐刀とされる人物の「五輪選挙」である。この人物の言動に注意だ。

◆菅には資質がない

山田は菅義偉が師と仰ぐ梶山静六の事績を紹介し、菅の「政治家の覚悟」のなさを指摘する。とりわけ「批判の排除」という、菅の小心さのなかに梶山とは比べ物にならない、いや教訓を守らなかった決定的な違いが見いだせる。

そしてもうひとつ、菅が梶山静六の教えを守っていない「説明の大切さ」を指摘する。菅のポンコツ答弁は、官房長官時代は切って捨てるようなものでも事足りたが、総理となればそうはいかない。官房長官時代の「逃げ」や「拒否」など、総じて事務的な答弁では済まないのだから。

とりわけ、メモ頼みにもかかわらず「読み間違い」が多いのが致命的である。この点を山田は、ドイツのメルケル首相との対比で明らかにしている。メルケルといえば、極右ポピュリズム運動で政権そのものが不安定に晒されてきた。きわめて困難な政治基盤のなかで、しかしこのコロナ危機を国母のごとく国民をまとめてきた。その会見は「真っすぐに正面を見据え、時折声を震わせ、顔を歪ませながら、コロナ禍の猛威のなか必死に現状打開の策として過酷な制度を強いるリーダーの姿がそこにあった」(本文から)。

かたや、わが菅総理と云えば、メモを見るために顔はうつむき、目はしょぼしょぼと、しかもたびたび誤読する、そして口ごもる。およそ訴える力は皆無なのである。そもそも演説や答弁の不得手な人間が、なぜ政治家をこころざしたのか。資質に問題があるとしか思えない。政治が必要とするのは、鮮やかなまでのパフォーマンスであり、聴くものを圧倒する演説力なのである。

たとえば、国民を分断する極右思想で、しかも政治哲学といえば戦後政治(民主主義)の一掃という、およそバランスを欠いた内容にもかかわらず、立ち姿の好感度と音楽のような演説力で選挙に圧勝してきた、安倍晋三前総理。少なくとも政治家にもとめられることを、かの政治名家の御曹司は知っていた。ようするに、菅には資質がない、のである。

携帯電話料金やマイナンバーカードの徹底など、省庁レベルの施策の音頭はとれても、大局感のある政治哲学は語れない。しょせんは国家レベルの政策がない政治屋なのだ。

◆創価学会の焦りとは?

大山は「泥船と化した野合政権」のうち、公明党の危機に焦点をしぼった。記事によると、創価学会の池田大作会長はこの1月2日に、93歳になったのだという。健康問題で学会員の前には姿を見せられないものの、健在であるという。その日、創価大学は箱根駅伝で往路優勝、復路ものこり2キロまでトップをまもり、総合2位に輝いたのである。

しかし、菅政権の支持率低下とともに、学会は危機感に駆られているという。自民党との長期政権のなかで、公明党の支持層が先細ってきたからだ。いっぽうでは自公政権への批判票として、共産党の票が伸びるという事態も起きている。自公政権への危機感は、自公選挙提携の見直しにつながる。

焦点になるのは、河井克行元法相の衆院広島三区ということになる。公明党はここに斎藤鉄夫副代表を、中国ブロックから鞍替え出馬させる。大山は『第三文明』(創価学会系総合誌)における、斎藤候補と佐藤優(作家)の対談を紹介し、学会から自民党へのメッセージとしている。自民のいいとこ取りだった自公連立を、公明党の側から積極的に変えていく。それはある意味で、自公政権の崩壊の序曲にほかならない。

◆高騰する株価の謎

このコロナ禍で、人々が不思議に思っているのは株価の高騰であろう。この記事を書いている2月8日の正午現在、株価は30年ぶりの2万9000円を突破した。30年前といえば、バブル経済の時期である。

このバブル株価を、広岡裕児は「『コロナと株価』の深層――広がり続ける実体経済との乖離」として解説する。

実質GDPが0.9%減(1~3月期)、7.9%減(4~6月期)と、コロナ禍のもとで衰退に向かった日本経済の、どこに株価が急騰する要素があるのか。広岡によれば、そのひとつは海外投資家の日本買いであり、今後のワクチン効果を見込んだ投資だという。もうひとつは、ファイナンスマシーンと化した株取引のIT化である。実体経済とは無関係に、あたかもゲームのような取引が日常化しているというのだ。「社会と市場(マーケット)の分離」がもたらすものは、経済の空洞化ではないだろうか。

◆部落解放同盟の見解をもとめる

巻末には「『士農工商ルポライター稼業』は『差別を助長する』のか?」の連載検証第5回として、鹿砦社編集部(鹿砦社および「紙の爆弾」編集部)の中間報告が掲載されている。ここまで、鹿砦社側の見解(依頼ライターをふくむ)で検証が進められてきたが、部落解放同盟としての見解を求めていると明らかにしている。今後の議論に注目したい。(文中敬称略)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

◆法律にもとづかない「お願い」

《スポーツジムの時間短縮営業は、本当に危険だ。3日ほど前から近所のジムが夜8時で閉まるようになった。閉まる直前に人が集中し、ほとんどコロナ前と同じ感じ。夜11時まで営業のときは、人が分散してまばらだった。なぜ人が密になるようなことをするのか。夜8時まで営業という同調圧力のせいだろう》

これは、新型コロナウイルスに感染リスクを心配した筆者が1月17日にFacebookに投稿した内容である。

2月2日、栃木県を除く10都府県を対象に緊急事態宣言を1か月延長すると政府は決めた。1月7日に11都府県に緊急事態宣言が出され、2月7日まで昼も夜も外出自粛を要請し、飲食店を中心に営業を夜8時までに短縮するように要請してきた。

なぜ、8時で営業を止めると感染者が減り、それ以降営業していると感染者が減らないのか。「なるほど」と納得するような根拠がわからない。

時短営業の対象者は主として飲食業である。とくに酒類を提供する事業者は夜7時にアルコール提供を止め、8時には店を閉めろという要請内容だ。

このほか、スポーツジムやパチンコ店、雀荘、映画館等にも営業時間短縮の「お願い」をしている。しかし、こうした業種に対しては、法律に基づかない「お願い」なので、協力金などの補償は出さない。

だから、飲食店ばかりか、広範囲のサービス業従事者が相当な打撃を受けるだろう。肉体的には生存していても、社会的・精神的に死ぬ人は膨大になると思う。


◎[参考動画]緊急事態宣言延長で分科会 「対策強化」提言(TBS 2021年2月2日)

◆8時営業停止でスポーツジムは人が密集

「8時以降の営業中止」に疑問を感じていた1月11日か12日の18時50分ころ、筆者は近くのスポーツジムに行った。受付で熱を測り会員カードチェックを経て館内に入ったとたん、いつものと違うとすぐ気づいた。

ロビーに人が多いのである。ロッカールームに行くとさらに驚いた。空いているロッカーをすぐ探せなかったのである。

というのは、感染拡大防止策として、一つおきにロッカーを封鎖し、隣どおしで利用できないようにしてあるからだ。空いている場所がほとんどなく、一番隅にある不便な場所のロッカーをようやく確保した。

トレーニングマシンやスタジオ、フリーウエイトのスペースがある階に行ってみると「いつもと景色が違う」とハッとした。

ランニングマシーンは、9割がた人で埋まっており、エアロバイクも空いているのは一つか二つ。

ダンベルやバーベルを使用するフリーウエイト・ゾーンに行くと人が多く、ダンベルなどを扱っているとほかの人にぶつかりそうで危ない。

ウエイトトレーニング・マシーンも、機械が空くのを待っている人がいる。

これは完全にコロナ以前の日常風景だ。というより、筆者が通っている時間帯に関しては、コロナ以前より混んでいる。いまこの時期にはありえない“幻影”を見ているようだ。

運動を終えて風呂に行ってみると「ああ、ダメだ」と思わず声に出しそうになった。カランは全く空いていないし、サウナの前には次に入ろうとする人が待っている。

浴槽も入るスペースがない(詰めて入れば可能ではあるが)。腰かけることもできず、浴槽にも入れない数人が、ただ立っている。

翌日以降も、同じような状態だった。政府や自治体の要請にしたがって営業時間短縮を実施したことで、感染リスクは高まったのだ。これは、他のスポーツジムでも同じだろう。

◆夕方5時から8時に顧客が集中

どの施設でもそうだと思うが、筆者が通っているジム(東急スポーツオアシス)では、新型コロナウイルス感染拡大のため、大変な努力をしてきた。

冬でも数か所の窓を開けて換気するのに加え、機械を使って室内の空気を外に出す。ロッカーは一つおきにしか使えない。あらゆる場所にアルコールとペーパータオルが用意され、スタッフや会員が頻繁に使用した器具や場所を吹いてウイルスを除去するようになっている。

もちろん、ランニングマシーンやエアロバイクは透明のパーテーションで区切ってある。スタジオを利用したレッスンも時間帯や人数を制限は当然のこととして行われてきた。風呂場には風呂内のマスクなしでの会話禁止を訴えるノボリも。

定期的に館内放送で、感染拡大防止のための具体的な行動を呼びかけ、利用者もこれに応じてきた。

せっかく、スタッフと利用者ともども創意工夫と努力を重ねてきたのに、8時営業終了によって、どう考えても感染リスクが高まってしまったのである。

おかしいと思っていたら、1月27日、スポーツジムから会員向けメールが届いた。2月1日から7日までを通常営業に戻すという内容である。

《ご利用状況を調査した結果、特に17時以降の利用率が顕著に高くなっておりました。 社内で検討した結果、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、混雑緩和へ向けた取り組みとして、ジム、プール、ロッカー、浴室のご利用を通常営業時間に変更させていただきます》(送信されたメールより抜粋)

きわめて妥当な判断だろう。日経電子版(1月8日付)によれば、スポーツジム大手のコナミスポーツ、ティップネス、セントラルスポーツ、RIZAPグループなども夜8時までの営業時間短縮を実施するとされていた。

スポーツジムにおける営業時間短縮は、経済的被害を拡大さるばかりか、感染拡大防止の観点からも誤りだったとみていいだろう。さっそく各社は方針転換をはかるべきではないか。

▼林 克明(はやし まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

◆コロナ無策の政府が国民に無理難題押し付け

人を殺すようなコロナ対策をしておいて何の反省もしない日本政府は、いま国民を刑務所に入れようとしている。

今国会の焦点になっている新型コロナウイルス対策としての特別措置法と感染症法などの改定の動きを見て、そう思わざるを得ない。

18日までに明らかになった政府案の骨子は次のとり。

(1)緊急事態宣言下で知事の営業時間短縮・休業の命令に違反した業者に50万円以下の過料。(特措法改定案)

(2)宣言をする前の予防措置として知事が営業時間の変更要請・命令が可能になり、違反した事業者には30万円以下の過料を科す(特措法改定案)

(3)入院を拒否したり入院先から逃げ出せば1年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑事罰を科す。(感染症法改定案)

(4)感染経路を割り出す積極的疫学調査に応じない感染者に対し50万円以下の罰金。(感染症法改定案)

日本で新型コロナウイルスの感染者が現れてまる1年が経過した。その間に政府が有効な対策をしてきたとは言い難い。

たとえば、台湾では中国の武漢で新型ウイルス感染者発症が明らかになるとほぼ同時に検疫の強化を実施した。

一方、日本政府がとった対応は対照的だった。一千万都市の武漢が完全封鎖された翌日の1月24日から1月30日まで、北京の日本大使館ホームページで、安倍首相(当時)が、春節の休日を利用して日本への旅行を歓迎する祝辞を掲載していた。

東京新聞WEB版(20年2月15日)によると、2月3日の衆院予算委員会で国民民主党の渡辺周氏は「あまりにもお粗末だ」として外務省の対応を批判。茂木敏充外相は「不安を与えた方に、おわび申し上げる」と謝罪した。


◎[参考動画]コロナで激減 訪日中国人 日本大使館が生配信でPR(ANNnewsCH 2020年12月20日)

◆「補償なき自粛要請」「Go To トラベル」「自宅療養9000人超(東京都)」の反省なし

初期の対応が遅れたことに加えて、昨年4月~5月の緊急事態宣言において、一人当たり10万円を給付しただけで、休業による損失補償は一部にとどまった。ロックダウン期間中に給与の6割から8割を政府が補償する国は何か国もある。

感染防止拡大に有効なのは、感染者と非感染者を接触させないことであり、そのうえで対策を講じた非感染者が社会や経済を回すのが効果的だ。そのためには感染の有無を調べる検査拡充が必須だが、PCR検査の拡充にも消極的だった。

「補償なき自粛」により、経済・生活がめちゃくちゃになって批判されたことを受け、Go To トラベルやGo To イートなどの政策に転じたものの、その効果や危険性を指摘されて撤回に至った。

コロナウイルスに感染し、高熱にうなされても入院できず命を落とす人が出ている。たとえば1月17日時点の東京都だけでも9043人が自宅療養を余儀なくされている。

NHKの報道によると、翌18日には、東京都3人、栃木県2人、神奈川県1人、群馬県1人が自宅療養中に死亡した。

そもそも昨年春先は、発熱しても4日間は医療機関を訪れず待機しろ、などという指示も出していた。

入院もできず死者まで出ているのに、入院を拒否あるいは入院先から逃げ出した人に懲役刑を科すという。

時間短縮に応じない業者へは罰金、積極的疫学調査に協力しない人にも罰金……。政府、自民党、公明党は、自らの失政を認めず、反省せず、謝罪せず。その挙句に国民を刑務所に送り込もうとしているのだ。

◆コロナが収束しても悪法は使われる恐れ

罰則導入を口にする前にやるべきことがたくさんある。生活や経済損失を徹底的に補填補償し、検査を実施して感染者と非感染者を分離し、臨時コロナ病棟などをつくるのが先決だろう。

発祥地の武漢ではプレハブの療養施設を突貫工事で建設し、ニューヨークでも広い空間を災害避難所のようにパーテーションで区切って感染者を療養させる大規模な施設も造営されている。


◎[参考動画]ニューヨーク1日2万人感染も医療崩壊しないワケ(ANNnewsCH 2021年1月17日)

特措法改正案や感染症法改正案が可決されれば、感染症対策に名を借りた人権・私権の制限が可能になる。

仮に法案が可決施行された場合、当面は感染症対策に適用されるだろう。しかし、近い将来に問題化する恐れがある。

廃止法案を可決しなければ法律は生き続けることになり、新型コロナウイルス禍が収束した後も、いつでもどこでも対象を微妙に変え、解釈を変えて適応可能になるからだ。

コロナ感染拡大や医療崩壊の危険に目が奪われ、安易に刑事罰を導入してしまえば、取り返しがつかない。

ところが、毎日新聞の1月16日実施の世論調査によれば、入院拒否した感染者への(罰則が「必要だ」との回答は51%、「必要ない」は34%、「わからない」は15%だった。

無責任でやるべきことをやらない政府がつくる罰則規定入りの法律で、自分や周囲が痛い目に遭わないとわからないのだろう。そうなっても自業自得だが、危険性を指摘している人々も巻き添えにするのは納得がいかない。

国民を刑務所に入れる前に一連の安倍晋三事件について法手続きをとり、コロナで苦しむ人々の手厚い補償をやれ、と言いたい。

▼林 克明(はやし まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他

◆衆院総選挙をどこに持ってくるのか

18日の国会再開をまえに、自民党内では総選挙の日程および政局の動きがかまびすしいという。

コロナ防疫の失敗(GoToの不手際)、桜を見る会の再審議、吉川元農水相をはじめとする鶏卵業者からの贈収賄疑獄という、政権が傷だらけになりかねない審議項目がならぶ。それに加えて、コロナ感染の爆発的な増加がオリンピックを風前の灯にするという、踏んだり蹴ったりの展開が予測されるからだ。


◎[参考動画]『緊急事態宣言』菅総理に聞く(ANN 2021年1月8日)

秋には任期満了をむかえる衆議院総選挙をどこに持ってくるのか、すでに「週刊ポスト」(1月15・22日号)では、自民党が40議席を減らして、過半数をギリギリでまもれるか、という政権維持の危険信号にちかい予測が立った。

「自民40議席減の惨敗となれば、菅首相は責任をとって総裁辞任と退陣は免れない」野上忠興(政治ジャーナリスト)というのは当然であろう。

総選挙の時期はいまのところ、5~6月は公明党が重視する都議選(投票は7月)があるので、その前か秋という観測が濃厚だ。コロナ感染の現状をみれば、10月の満期総選挙というのが現実的であろう。

そうすると、選挙前の菅退陣もありうる情勢ということになるのだ。今年全体の、内外にわたる政治スケジュールについては、別途に稿を起こす予定だが、菅おろしは意外に早いかもしれない。当面の政局を中心にまとめてみた。

◆都議選敗北でジリ貧に

今後の政局を左右するのは、おそらく自公の選挙協力であろう。

河井克行被告が議員辞職しないままの広島3区では、公明党が独自候補(斉藤鉄夫副代表)を立てている。自民党県連も独自の候補を立てることになれば、自公相打つ情勢が決定的だ。

しかも3区が宏池会の地盤であることから、公明党は「岸田(宏池会)会長が(自民党候補不出馬を)決定すべき。もしできないのなら、他の選挙区の岸田派候補は応援しない」と言明しているのだ。河井問題は県連と党本部の対立構造という矛盾であり、これが解消できない政権・党本部の求心力は低下する。

この自公対立は、東京都議選でも同じ構造になりつつある。すなわち、自民党都議団が小池知事に接近するいっぽう、都民ファーストの切り崩しに走るいっぽう、小池知事と公明党の急接近が顕在化しているのだ。

公明党は前回の選挙では都民ファーストと提携し、作年7月の都議補選ではみずからは擁立せず自民4候補を推薦した。いっぽうで小池氏との関係は良好で、次の都議選の選挙協力相手は「知事に対する姿勢次第だ」(会派幹部)と思わせぶりな態度を見せる。公明党は総選挙はともかく、参院と地方選挙は全員当選が至上命令なので、ここでの軋轢が自民の総敗北に帰結する可能性が高い。

選挙で勝てない総理ということにでもなれば、菅政権の命脈は早めに尽きると断言しておこう。

◆オリンピックの強硬開催で失敗

さて、菅政権にとって問題なのは東京オリンピックである。

スポーツは人々を鼓舞する。オリンピアは、とりわけ国民的な熱狂をもたらす。スポーツが嫌いな人でも、オリンピックに背を向ける人々でも、アスリートの努力に拍手するのは惜しまない。

だが、コロナ禍で失政をくり返し、その規模や構想において数々の失敗をかさねてきた五輪委員会やそれを後押しする政府に、国民がうんざりした気分をもっているのも現実である。アスリートの努力を惜しめばこそ、あるいは日常的にスポーツを愛するがゆえにこそ、安倍――菅政権のスポーツ利用主義、政治目的のオリンピック開催には疑義を呈する人も少なくはないのだ。

もしも、いまだ功罪不明のワクチンを頼りに、国際的な認知の展望がないオリンピック開催に踏み切った場合。それはおそらく無観客ないしは限定観客入場、テレビを主体とした開催になると思われるが、およそアリバイ的なものにしかならない。残されるのは、膨大な赤字と国民の空虚感だけではないだろうか。それは政権への侮蔑しか生まないはずだ。日本人選手と、わずかな招待選手だけの大会となったら、である。


◎[参考動画]『東京五輪』菅総理に聞く(ANN 2021年1月8日)

◆総選挙前の菅おろし

菅総理の「おろされ方」はどうなるのだろうか。

「私は菅氏は『平時の総理』であり、コロナ禍の非常時には不向きなのだと思います」と語るのは、政治アナリストの伊藤惇夫氏である。

「菅総理は『ブレない』ことを大事にしているようです。確かに官房長官時代から、どんな質問をされても答えはブレなかった。かつて菅さんから、『米軍普天間飛行場の辺野古移設が進まないのはなぜかわかりますか』と聞かれたことがあります。『わかりません』と言うと、『それは諦めたからです。私は諦めませんから移設を実現させます』と答えました」

「その姿勢は平時ならば良い結果を生むかもしれませんが、非常事態には、一つのことに固執するのではなく、柔軟に対応することのほうが大事です。Go To トラベルの休止判断の遅れなどは、まさに菅総理の悪い面が現れたのだと思います」

このあたりの評価は的確であると思う。官房長官として、政権の広報を事務的に行なうのであれば、頑固な立場でも何ら政治責任は問われなかった。

その意味では「粛々と」「お答えは差し引かせさせていただく」「その批判は当たらない」などという木で鼻をくくる答弁でも済ますことはできた。

だが、総理は政権と政策の総責任者なのである。質疑答弁が内容にふれるほど、活舌も悪くないようがなくなる、トホホ答弁に終始しているのは、その依怙地なまでの頑なさにあるのだ。

「菅政権を支えているのは二階派です。二階幹事長は菅政権の生みの親ですが、だからといって体を張って政権を守るとは思えません。二階さんは政局を見ながら変幻自在に動くタイプの政治家ですから」

そして伊藤氏は、党内にある菅おろしの筋書きを、かつての三木おろしになぞらえる。派閥の力ではなく、政局のキーパーソンが「裁定」をするという筋書きだ。その場合も総裁選挙という形式は踏むと思われるが、現在の自民党総裁選挙はかぎりなく「裁定」に近い。

「二人を見ていて思い出すのは、三木武夫・首相と椎名悦三郎・副総裁の関係です。田中内閣が金権批判で退陣した時、椎名は総裁選をせずに、いわゆる『椎名裁定』で三木を総理に指名します。ところがその後、三木の党改革や政治資金改革に対する反発から党内で『三木おろし』が起こると、椎名はそれに同調した。そして有名な、『生みの親だが育てると言ったことはない』という言葉を残しました。菅総理と二階幹事長は、なんとなく三木と椎名のような関係になる気がします」

実際の政治を周知するがゆえに、政権にやや批判的なスタンスをとる伊藤氏だけではない。保守系の論者からも菅おろしの現実性が指摘されている。

ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰する倉山満は、選挙の顔としての菅総理の問題点を指摘する。

「9月は、自民党総裁の任期切れだ。今の菅首相(自民党総裁でもある)は、安倍前総裁の任期を引き継いでいるだけだ。その時に支持率がどうなっているか? もし『選挙に勝てない総裁』と判断されたら、菅おろしの動きも見えてくる。その時の自民党は、10月の衆議院任期切れまでに新総理総裁に代え、その御祝儀相場で選挙をやって政権を維持する、と考える。日本の政治家の絶対の原則は『自分は落選したくない』だ。安倍前首相が長期政権を築けたのは、すべての国政選挙に勝ったからだ。つまり自分を当選させてくれる総理総裁だから、引きずり降ろすはずがない。そして安倍政権では、緩やかながらも景気回復をしていた。菅内閣で、景気回復の望みは薄い」(日刊SPA! 2021/01/11)

結局のところ、政治家とは選挙で勝てる人間なのである。安倍晋三元総理が、あれこれと批判を受けながら超長期政権を永らえたのも、選挙に勝てる総理だったからにほかならない。菅総理はすでに、国民的な人気という意味ではダメな総裁であることが判明した。国会答弁、記者会見は「トホホ」である。早めに退陣して、次期官房長官をめざすのが得策ではないか。


◎[参考動画]【役員会後】二階俊博 幹事長(自民党 2021年1月5日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。医科学系の著書・共著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)『ホントに効くのかアガリスク』(鹿砦社)『走って直すガン』(徳間書店)『新ガン治療のウソと10年寿命を長くする本当の癌治療』(双葉社)『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)など。

月刊『紙の爆弾』2021年2月号 日本のための7つの「正論」他

「Go To」一時停止を発表した足で、宴会に向かった菅。多くの国民はあきれ果てたが、側近ともいうべき内閣官房はどのように考えているのだろうか。2020年の師走、直接電話で取材した。(取材・構成=佐野宇)

内閣官房 お電話代わりました。コロナ対策室の○○○○と申します。
佐野   恐れ入ります。お尋ねしたいのですけれども、いま大臣あるいは各省庁、都道府県知事がいろんな形でコロナについてはこういうふうにしてくれと発信していらっしゃるのですが、国としては私たち国民はどのような態度を取ればいいということを要請なさっているのか、教えていただけますでしょうか。
内閣官房 まず、10月23日に分科会が開かれまして、そこでの提言として『感染リスクが高まる5つの場面』というのが出されているんですね。その5つの場面の中に、例えば飲酒を伴う懇親会だとか、大人数で長時間におよぶ飲食とか、マスクなしの会話とか、そういったことが示されていて、政府としてもそれについて注意を呼び掛けているところです。


◎[参考動画]感染リスクが高まる「5つの場面」(内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室 2020年11月17日)

佐野   以上ですか。
内閣官房 他にどのようなことがお知りになりたいのでしょうか。
佐野   だとすると、総理大臣がそのようなことを守ってないでしょ。
内閣官房 5人以上で会食をされたということですよね。
佐野   5人以上じゃなくたって、今おっしゃった中に5人以上っていう数は入ってなかったでしょ。
内閣官房 その具体的な数については……。
佐野   5人以上ってなんか科学的に根拠があるんですか?
内閣官房 5人以上というのは、特に根拠がなくて……。
佐野   ないでしょ。飲食を控えるってことを10月何日に決まったって、おっしゃいましたよね。
内閣官房 はい。
佐野   総理大臣守ってないじゃないですか。ねえ。
内閣官房 はい。
佐野   これは内閣府の方に申し上げてもしょうがないんですけれども、総理大臣が守ってなかったら困りますよね。
内閣官房 はい。
佐野   「なんだ!」っていう話になりますよね。
内閣官房 そうですね。感染防止策についてはどのような方でも守っていただきたいと思っておりますので。
佐野   昨日、一昨日も首相の動静を見たら、夕方複数の方と飲食されてますもんね。
内閣官房 はい。
佐野   これ、国民聞かないでしょう、こんなんじゃ。むちゃくちゃパンデミック広がってるでしょ。どういうふうに収束させるおつもりなんですか、政府は。
内閣官房 引き続き感染リスクが高まる場所につきましては、こちらとしてもいろいろな場面を捉えて、呼びかけていきたいと思っております。


◎[参考動画]菅総理“マスク会食”を「徹底したい」も実践せず(ANN 2020年12月18日)

佐野   呼びかけたって、総理大臣が守らなかったら、総理大臣だけじゃなくて自民党の各派閥も昨日忘年会予定してて、急遽取りやめてるってそんな状態でしょ。政府とか国会議員の人が守る気なかったら、市民は聞きませんよ。それをどう正したらいいと思われますか。
内閣官房 それは、こちらの呼びかけが足りないということについては……
佐野   そうではないと思いますよ。一生懸命なさってると思いますよ、内閣府の方は。内閣府の方がなさっても、政治家とか大臣がそれを遵守しないということじゃないんですか。
内閣官房 はい。
佐野   とても大変な板挟み状態にいらっしゃるということではないでしょうか。今お電話に出ていただいてる方たちは。
内閣官房 個別の個人に対してここで指導するということは……。
佐野   いやいや、総理大臣は公人じゃないですか。個人じゃなくて公人だから。どこぞのおじさんがとか民間の人だったらこういうことは言いませんよ。この国権の最高権力者でしょ。その人が皆さんが言ってることを守っていなければ、それより下の人が守るわけないじゃない。簡単な理屈で。
内閣官房 はい。
佐野   それはどうお考えになりますか。
内閣官房 それは先ほど申し上げたように、こちらの呼びかけが足りない部分もあると思いますので。
佐野   われわれは聞いてますよ。国民は、そういう呼びかけがあることは聞いてますよ。だからなるべく外で食事しないように心掛けてますよ。だけど、それを発信してる上の統括者の総理大臣が、そんなことほっといて、「Go Toやめます」と言った後に宴会に行っているわけでしょ。皆さんとしてもたまらないんじゃないですか、こんなの。
内閣官房 はい。それは私が謝る立場にあるのかわからないですけれど
佐野   いえいえ違います。今お電話いただいている方に謝罪を求めているわけではないんですよ。そうではなくて、おかしいと思われませんかと聞いているだけです。
内閣官房 はい。感染リスクを高めるようなことについては控えていただきたいと思っております。
佐野   わかりました、じゃあ、内閣官房も困り果ててるというお答えでよろしいですか。
内閣官房 ……感染防止策については、実施していただきたいと思っております。
佐野   いや、菅氏の行動については、呼びかけをしているにもかかわらず、それを遵守しないので、内閣官房としては困り果ててるという答えでよろしいでしょうか。
内閣官房 すみません、私はそのようなお答はしていなかったと思うのですけれども。ただ、どのような方でも感染防止策は実施していただきたいと思っております。
佐野   彼は協力しないわけでしょ。
内閣官房 はい。
佐野   実施しないわけでしょ。
内閣官房 はい。
佐野   だったら困りませんか。
内閣官房 そうですね。
佐野   呼びかけが足らないんじゃなくて。私たちは届いていますよ、下々のものには。
内閣官房 ありがとうございます。
佐野   聞かないのは、総理大臣とかそういう人たちだけですよ。
内閣官房 はい。
佐野   それはお困りになりませんか。お困りというのは、別に憎いとかそういうことじゃなくて、お仕事上お困りにはなりませんか、そういう人が遵守してくれないのは。
内閣官房 そうですね、もし感染防止策を実施していただけないような人がいれば、していただきたいと思っております。
佐野   実施してないじゃない。10月23日の会議のことからご説明いただいたけれども、10月23日よりはるかにあとの12月の、東京都でも600人700人感染が増えている時にね、宴会に行っているわけですから。
内閣官房 はい。
佐野   それは困った人でしょ。
内閣官房 はい。ただ申し訳ございません、私個人的な意見については
佐野   個人的にお伺いしているのではなくて、内閣府として呼びかけていることに従ってくれない人ですよね。
内閣官房 そうですね、それは。
佐野   どんな職業であろうがなかろうが。
内閣官房 それは、はいその通りです。
佐野   その通りですね。はい、ありがとうございました。失礼いたします。
内閣官房 よろしくお願いいたします。

昨年12月18日加藤官房長官は「夜の会食について、感染防止策に留意しつつ継続する方向だと説明した。『感染対策と同時に、いろいろな皆さんから話を聞くのは首相にとって大切だ。批判も考慮しながら進められるだろう』」と述べた。みのもんたや王貞治と会うのが、感染対策とどういう関係があったのだろうか。またいろいろな意見を聞くのは大切であろうが、それなら公務としてなぜ昼間に会わないのか。どうして食事をしながらでなければ「意見」が聞けないのか。まったく不思議な御仁である。

▼佐野 宇(さの・さかい) http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=34

月刊『紙の爆弾』2021年1月号 菅首相を動かす「影の総理大臣」他

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