高市早苗首相の最大の嘘

孫崎享(紙の爆弾2026年7月号掲載)

「高市早苗首相は嘘つきである」ということが、にわかに大きな話題となっています。筆頭は、本人が語ってきた「米国連邦議会立法調査官」という経歴が事実ではなく、コングレッショナル・フェロー(研修生)どころかインターンにすぎなかったことでしょう。過去の雑誌のインタビューで、アメリカの下院議員の事務所に入る時に、「自分は軍事問題の権威だって嘘を書いたの」と自慢げに告白したことも明らかになっています。

政治家としても、総務相時代の放送法解釈変更問題をめぐる行政文書について「もし捏造でなければ大臣も議員も辞職する」と国会で発言しながら辞めなかったことや、旧統一教会との関係についても論理矛盾が指摘されています。

そのような中で、国民に対する「最大の嘘」といえるのが、「安倍晋三元首相の継承者である」という、彼女が掲げる根本的な政治理念です。

◆安倍外交と高市外交

高市首相は常々、安倍首相を「政治の師」と語り、仕事始めの1月5日に伊勢神宮を参拝した時には、遺影を胸に抱えた姿も話題になりました。ただ、その遺影が安っぽいクリアファイルに入れられていたことが物議をかもしています。

それでも、彼女は〝安倍後継〞を自身の軸としたことによって非常に明確な政治的立場を示し、自民党内で信頼を得て、国民からも支持を得る基盤となりました。
 しかし、実際に高市首相が行なってきた政治を見ると、疑問に思わざるをえません。

安倍元首相が2020年8月に辞任するまで、もっとも重視していた政治テーマの一つが外交です。中でも対ロシアに力を入れていたことは、首相として27回もプーチン大統領と直接会談を行なったことから明らかです。

辞任後の2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻して戦争が始まりました。その時にまず安倍氏が何を言ったかということから、分析を始めてみたいと思います。

日本では、このウクライナ戦争は「ロシアが悪い」の一辺倒であるためにあまり注目されなかったのですが、開戦3日後の2月27日、フジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」に出演した安倍氏は、次のように述べています。

「プーチンの意図はNATO(北大西洋条約機構)の拡大、それがウクライナに拡大するということは絶対に許さない、東部2州の論理でいえば、かつてボスニア・ヘルツェゴビナやコソボが分離・独立した際には西側が擁護したではないか。その西側の論理をプーチンが使おうとしているではないか」

「米ロ関係を語る時に(プーチン大統領は)基本的に米国に不信感を持っている。NATOを拡大しないことになっているのにどんどん拡大している。ポーランドにTHAADミサイルまで配備した。プーチンとしては領土的野心ということではなくて、ロシアの防衛、安全の確保という観点から行動を起こしていることと思います」

もちろん、安倍元首相を再評価しようというのではありません。しかし、彼がどう思っていたかを正確に把握する必要があると思います。

さらに興味深いことに、英「エコノミスト」が同年5月に安倍氏のインタビュー記事を掲載し、7月8日の安倍氏暗殺直後にも再掲しました。その中で安倍氏はこう述べました。

「侵略前、彼ら(ロシア)がウクライナを包囲していたとき、戦争を回避することは可能だったかもしれません。ゼレンスキー(ウクライナ大統領)が、彼の国がNATOに加盟しないことを約束し、東部の2州に高度な自治権を与えることは可能でした」

つまり、安倍氏は一方的にロシアを糾弾するのではなく、ロシアの言い分も我々は理解すべきだというポジションをとったわけです。

一方、高市首相はどうだったか。当時、自民党の政調会長だった彼女は、安倍氏が2月27日にフジテレビで発言した翌日の自民党役員会で、次のように発言しています。

「ロシアによるウクライナ侵攻に関し、今回の暴挙が高い代償を伴うことを国際社会と結束して示すことが必要です。昨日、(岸田文雄)総理が発表した制裁措置は大きな一歩です。あわせて、ウクライナに対する支援も表明していただき感謝申し上げます」

さらに、関連会合でも「国際社会と連携して対露制裁をとことん強めるべき」と強調しました。

したがって、「私は安倍元首相の一番の継承者」と自称する高市首相が、安倍氏の主張を完全否定するような、真逆の立場をとったのです。

いったいなぜなのか。ことは安倍氏の存命中です。高市氏に対し、安倍氏以上に影響を与える者がいたのかという疑問がわきます。ところが当時を見渡すと、安倍氏以上に力を持っている政治家は日本にいません。では、安倍氏が言ったことを覆せる政治家が、どこかにいたのか。

ここから先はhttps://note.com/famous_ruff900/n/nea422070d5da

月刊「紙の爆弾」4月号から一部記事を公開。独自視点のレポートや人気連載の詰まった「紙の爆弾」は全国書店で発売中です(毎月7日発売。定価800円)。書店でもぜひチェックしてください。最新号の記事タイトル一覧はホームページをご覧ください。

元自民党議員秘書が明かした「中傷動画」と「サナエトークン」の本当の目的

片岡亮(紙の爆弾2026年7月号掲載)

4月末から「週刊文春」が連続して報じた高市早苗首相の陣営による「中傷動画」拡散問題が、政界とネット社会に大きな衝撃を与えている。

高市首相は国会答弁で「一切行なっておりません」「週刊誌の記事を信じるか秘書を信じるかというと、私は秘書を信じます」と関与を否定したが、この問題は決して突如として降って湧いたものではない。高市首相に関しては、何年も前からSNS上やヤフーニュースのコメント欄で、異様といえる讃美アカウントが急増しては消える現象が指摘されてきた。

もっといえば、6年ほど前に明らかになった「Dappi」事件が、その源流といえる。Dappiという匿名アカウントが、平日の日中に、国会中継の動画を切り抜き、野党批判を驚異的なスピードで投稿し続けていた。一方で自民党(特に安倍政権)を大絶賛し、自民党の有力政治家たちもこのアカウントをフォローして、投稿をリツイート(拡散)。まさに日本のネット選挙における組織的な世論誘導の実態が明らかになった象徴的な事件だった。

2020年、森友事件で公文書改竄を強いられ自殺した財務省近畿財務局職員について、Dappiが「近財職員は杉尾秀哉や小西洋之が1時間吊るしあげた翌日に自殺」などとデマを投稿。名指しされた杉尾・小西両立憲民主党参院議員が発信者情報開示請求を行なって、運営元の特定に至った。

運営元は東京都内のウェブコンサルティング会社「ワンズクエスト」で、自民党本部や議員、東京都連などから、ホームページ制作やSNS分析などの名目で報酬を受け取っていた。さらに、同社の役員に自民党の「金庫番」と呼ばれる人物の親族が含まれていた。

杉尾・小西両議員が同社を相手に裁判を起こし、2023年に東京地裁が110万円の賠償を命じる判決を下す。それでも自民党側は「党として関与した事実は一切ない」と否定し、会社との取引についても「一般的なホームページ制作の発注」と白々しく言い逃れた。

これが放置されたからこそ、自民党の潤沢な資金を背景とするネット工作が野放しになり、さらに悪質化を遂げた。求人サイト上で堂々と、高市氏を礼賛するネット工作員が募集されていたことも判明しており、これこそが、不自然な「サナ活」の正体だ。

2024年の総裁選後、オンライン求人大手「クラウドワークス」上で、「高市早苗氏などの解説動画」や「日本称賛・中国批判系」の動画作成、SNS上での称賛ポストを有償で依頼する案件が複数確認されており、実際にX上では、同一の文面で同時刻に「#早苗あれば憂いなし」といったハッシュタグを伴う投稿が大量拡散された。

高市首相の政治資金収支報告書には、過去の総裁選でも8000万円を超える「宣伝費」が計上されていたが、その資金がどのようなルートでネット上の「インフルエンサー」や「工作業者」に流れていたのかの検証には至っていない。

結果、今年2月の衆院選で、自民党が公示前にユーチューブに投稿した高市首相のメッセージ動画が、わずか数日で1億回再生という、世界的大ヒット曲をも凌ぐ数字を記録。専門家からは「2億~7億円規模の広告費が投じられた結果」と算出されている。

公職選挙法では候補者個人の有料ネット広告を禁じているが、政党名義であれば選挙運動用サイトへのリンク付き広告が認められている。

つまり、潤沢な政党交付金(原資は国民の税金)を持つ与党がデジタル空間をジャックし、合法的に「圧倒的優勢」のムードを捏造することを可能にさせているのだ。

文春報道で公開された、昨年の総裁選後、高市首相の公設第一秘書・木下剛志氏が動画の作成者であるIT起業家の松井健氏に宛てたSNSメッセージでは、総選挙における野党候補を「害獣」と呼んで「駆除した」と報告していた。昨年9月の自民党総裁選の対立候補だった小泉進次郎氏や林芳正氏を「無能」「論外」などと貶めた動画とともに、これまで噂されていた自民党・高市陣営の工作の実態をより明確に示したものだった。

ネット上の熱狂が巨額資金とAI、顔の見えない工作員によって「買収」されたものであるならば、それは民主主義の死を意味する。国会が首相の白々しい答弁で終わらせず、第三者委員会によるログの解析や資金流転の徹底調査に踏み切れるかどうかが、今まさに問われている。

ここから先はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n579345e15e12

月刊「紙の爆弾」6月号から一部記事を公開。独自視点のレポートや人気連載の詰まった「紙の爆弾」は全国書店で発売中です(毎月7日発売。定価800円)。書店でもぜひチェックしてください。最新号の記事タイトル一覧はホームページをご覧ください。

『紙の爆弾』https://kaminobakudan.com/

《7月のことば》限界を越えろ

鹿砦社代表 松岡利康

《7月のことば》限界を越えろ(鹿砦社カレンダー2026より。龍一郎揮毫)

7月になりました ── 今年も半分が過ぎた恰好です。
本当に月日の経つのは速いです。
うかうかしていると木枯らしの季節になりかねません。

さてさて、「限界」とは何でしょうか。
勝手に自分で決めてしまっているかもしれません。
限界を、どう越えるか?

というよりか、限界がどうのこうのというよりも、がむしゃらに直面する一つ一つ難関を越えていき、結果、気づいたら限界を越えていたということではないでしょうか。

今年の夏も、例年通り猛暑のようです。まずはこの暑さを越えないといけません。

この夏、新しい挑戦として「成年後見制度」の悪弊といかに闘い、これをいかに突破するか ── があります。世の中にこんな酷い制度があるとは思ってもいませんでした。みずからの不明を恥じるばかりです。発行されたばかりの鈴木愼哉・編著『悪法「成年後見制度」は法に非ず』をぜひお読みください。

鈴木愼哉・編著『悪法「成年後見制度」は法に非ず』
A5判 本文118ページ 定価800円(税込み)
紙の爆弾8月号増刊  6月29日発売

緊急出版!! 社会問題化する成年後見制度の深刻な現実を、
被害者が満身の怒りを込めて喝破!
バブル崩壊後、士業(弁護士、司法書士)救済の目的で制定された制度の問題点、
食い物にされる被後見人、「改正」法案の問題点、
後見人の言いなりで人の人生を台無しにする裁判官……
25万被後見人の埋もれた声を聴け!

【内容】

三上道恵 
おてんとうさまは見ている ── 制度の中で見えなくなった夫婦の時間
はったり半蔵 
後見制度脱出から見えた対抗策
さくら 
成年後見制度の改正に関する要望書
尾﨑美代子 
成年後見制度の悲劇 ── 冤罪事件の視点から
鈴木愼哉 
「成年後見制度」という宿痾
鈴木愼哉 
成年後見制度に狂わされた私と妻の晩年 ── 怒り、悲しみ、想うことあれこれ

https://www.amazon.co.jp/dp/B0H2CGNX2L/

鈴木愼哉・編著『悪法「成年後見制度」は法に非ず』出版にあたって

鹿砦社代表 松岡利康

このたび鹿砦社では鈴木愼哉・編著『悪法「成年後見制度」は法に非ず』(紙の爆弾8月号増刊)を出版する運びになりました。書店発売は週明け6月29日(月)です。

ご承知の方もおありかと察しますが、「成年後見制度」の悪弊が多発し、2022年に国連が「意思決定を代行する制度を廃止する観点から」「民法を改正すること」を勧告し、政府としても「改正」を余儀なくされ、再審法などに隠れて議論の内容が伝わってこず、ひっそりと去る6月17日に参議院で可決→成立いたしました。とはいっても、これで本当に「改正」になるのかはなはだ疑問です。なぜなら、統轄審理する家庭裁判所(裁判官)が変わらなければ何も「改正」にはならないからです。家庭裁判所(裁判官)が変わることはありえるでしょうか? 現在の家庭裁判所の仕事量の膨大さ、裁判官の意識の低さなどから、こちらもはなはだ疑問です。

本書は、編著者みずからが成年後見制度の被害者の立場から、同じ被害者同士が切実に日々語り合い、本書の企画となり実現いたしました。実際に、編著者の鈴木さんは長年連れ添った夫婦間の絆を断ち切られ、これを嚆矢として第二弾、三弾……と世に問うていく所存です。

鈴木さんはこれまで奥様奪還のために訴訟を起こしたり諸々手を尽くされながらも、ことごとくうまくいかず、偶然に鹿砦社が刊行したジャニーズ追及30年の軌跡をまとめた『ジャニーズ帝国 60年の興亡』をご覧になり感銘を受けられ鹿砦社に連絡されました。私たちとしても、鈴木さんのお話を聞くにつけ黙っておれず、多くの方々を絶望に陥れている「成年後見制度」の実態に迫っていくことにいたしました。

これが第一歩ですが、この制度を悪用し私腹を肥やしている者らを弾劾しなければならないとの考えから、鈴木さんやお仲間(=被害者)の方々と共に制度の悪弊を糾弾し、何よりも意に反し長年断絶を強いられている奥様を奪還することに協力することにいたしました。

鈴木さんはかつて現役時代、経営コンサルタントとして日本を代表する数々の大手企業の社外役員を務めたり、著書も多く、さらにメディアにも頻繁に登場されていたそうです。本書巻末にまとめてみましたので参考にしてください。

きょうも、この制度によって絶望を味わっておられる方々も多いかと推察いたします。わが国のメディアは、ジャニーズ問題(未成年性的虐待)では、メディアタブーとして長年報じることを怠りました。手前味噌ながら、1990年代半ば、私たちがジャニーズ問題を採り上げ始めた頃、まさに「蟻の一穴」で、冷笑さえ受けました。その頃、マスメディアが私たちに共鳴し後に続いてくれたら被害はもっと少なかったでしょう。

この成年後見制度の問題もそのようで、日々悲劇が拡大しています。本書における鈴木さんらの悲痛な叫びに留意され、今からでも遅くはありません、この問題を追及いただきたく切望する次第です。   

株式会社鹿砦社 松岡利康

◆     ◆     ◆     ◆

鈴木愼哉・編著『悪法「成年後見制度」は法に非ず』
A5判 本文118ページ 定価800円(税込み)
紙の爆弾8月号増刊  6月29日発売

緊急出版!! 社会問題化する成年後見制度の深刻な現実を、
被害者が満身の怒りを込めて喝破!
バブル崩壊後、士業(弁護士、司法書士)救済の目的で制定された制度の問題点、
食い物にされる被後見人、「改正」法案の問題点、
後見人の言いなりで人の人生を台無しにする裁判官……
25万被後見人の埋もれた声を聴け!

【内容】

三上道恵 
おてんとうさまは見ている ── 制度の中で見えなくなった夫婦の時間
はったり半蔵 
後見制度脱出から見えた対抗策
さくら 
成年後見制度の改正に関する要望書
尾﨑美代子 
成年後見制度の悲劇 ── 冤罪事件の視点から
鈴木愼哉 
「成年後見制度」という宿痾
鈴木愼哉 
成年後見制度に狂わされた私と妻の晩年 ── 怒り、悲しみ、想うことあれこれ

悪法「成年後見制度」は法に非ず(月刊紙の爆弾増刊2026年8月号増刊)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0H2CGNX2L/

豊田直巳監督作品「サマショール 遺言 第6章」自主上映会にお集りを!

尾﨑美代子

福島県飯舘村の長谷川健一さんと出会ったのは、3・11後の8月、京都の講演会だった。「福島で起きていることを一人でも多くの人に知って欲しい」としわがれ声で訴える長谷川さん。私は休憩中楽屋を訪れ、大阪での講演を依頼した。すでに各地で講演会が入っており、私たち「西成青い空カンパ」が長谷川健一さん大阪2daysを開催したのは、暮れも押し迫る12月18、19日だった。「西成青い空カンパ」では支援ライブや上映会を行い、こつこつカンパを集め、長谷川さんの住む伊達東仮設住宅自治会へ送ってきた。2013年に来阪した際、長谷川さんは「もう関西の人は福島のことなんか忘れたのかな」と少し寂しそうだった。

翌年の春、長谷川さんから珍しく写真が添付されたメールが送られてきた。それは仮設住宅の自治会室に設置されたコピー機の写真だった。私たちの送ったカンパを使い買ったのだという。当時、飯舘村の人たちは、原発ADRを準備していた。毎週弁護士さんが手弁当で福島に通い、村の人々に訴訟に向けた聞き取り調査を行っていたそうだ。「ADRに向けて訴訟資料など大量にコピーする必要があるので、とても助かっています」と書かれていた。メールからは久々に元気そうな長谷川さんを感じられた。

私達は長谷川さんが住んでいた伊達東仮設住宅にカンパを送り続けていた。2014年春長谷川さんから珍しい写メが届いた。「カンパを使いコピー機を買った。秋に提訴する原発ADRの裁判資料を作るための非常に役立つてます」とメールがあった。

その後も何度か飯舘村を訪れた。あれは いつだったか? あれから何度飯舘村を訪れただろうか? いつだったか、飯舘村から福島駅に送って貰う車中、草ぼうぼうの田んぼを見ながら、長谷川さんが私にこう聞いてきた。

「尾崎さん、この田んぼ、このままでいたらどうなると思う?」。

秋の田んぼは枯れ草で覆われていた。枯れ草が枯れ、翌年春にはまた雑草がはえ、それがまた枯れて……その繰り返しではないかと私は言った。すると長谷川さんはまっすぐ前を向いたまま、こう言った。

「違うんだ。このままにしていたら田んぼは森に返るんだ」。

その少し前、長谷川さんのお父さんが私と同じ新潟県出身で、新潟から福島に入った開拓者だったことを知った。お父さんの出身は、私の実家がある「越後岩塚駅」から3つ目の「宮内駅」。長谷川さんのお父さんはその駅のある宮内から福島に入ったという。よその地域から福島へ開拓に入ったという方の苦労話は、飯舘村の人から何度も聞くことがあった。それこそ、鍬や鋤ひとつで入植し、森林の木を伐採し、土地を耕してきたのだろう。長谷川さんは、両親から受け継いだその土地が徐々に荒れ、森に戻るのをみたくなかったのだろう。長谷川さんは避難指示が解除された飯舘村前田地区に戻り、家の前の広大な土地にそばを植えはじめた。「夏になったらここいら一面が真っ白になるから……」。そういっていた長谷川さん。

「サマショール」とはウクライナ語で「自主帰還者」を意味するそうだ。避難指示が解除されたとき、長谷川さんは花子さんとご両親と飯舘村に帰ることを決めた。ひとつは、高齢と長い避難生活で認知症を患ったお母さんがそれを望んでいたこともあったそうだ。そして、長谷川さん自身、ご両親が必死で開拓してきた土地を守りたかったのだろう。

私は、けっきょく長谷川さんのそばの花を見ることはなかった。お父さんの田舎が私の故郷の近くなんですという話をするきっかけもなかった。長谷川さんの訃報を聞いたとき、あの日まっすぐ前を見て放った長谷川さんの言葉を思い出した。
 
「このままにしていたら、田んぼは森に返るんだ」。

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者X(はなままさん)https://x.com/hanamama58

季節2026年夏号
『NO NUKES voice』改題 通巻46号

紙の爆弾2026年7月増刊
2026年6月11日発行
A5判 132ページ 定価770円(税込み)

《グラビア》原発事故〈収束〉と被災地〈復興〉という欺瞞(北村敏泰)

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》なぜか、裁判官が辞めていく 

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《インタビュー》柏崎刈羽原発再稼働の不安 老朽原発は事故を起こす

木村英昭(ジャーナリスト)
《報告》原発を巡る三年間の動向 ── 時系列が可視化する統治の変化

高橋博子(奈良大学教授)
《報告》日米両政府の核兵器観 放射性降下物・残留放射線・内部被ばく

後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《報告》脱原発の思想 日本はなぜ脱原発に向かわないのか

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》東京電力「原子力中核企業化」戦略の内実

菅野みずえ(「ALPS処理水を海に流すな」裁判原告)
《インタビュー》私の15年、3・11はまだ続く

北村敏泰(ジャーナリスト)
《報告》まやかしだらけの「復興」
 十六年目も終わりはない東北三県の被災地から

和田央子(イノベーション・コースト構想を監視する会)
《報告》高市軍拡政権と福島イノベーション・コースト構想

末田一秀(関電株主代表訴訟原告/はんげんぱつしんぶん編集長)
《報告》関電株主代表訴訟の闘い
 原発地元への不正な金の流れを断ち切るために

守田敏也(フリーライター)
《報告》浜岡原発基準地震動捏造問題が示すもの
 原発再稼働は六層の点で認められない

中道雅史(核燃料廃棄物搬入阻止実行委員会事務局長)
《報告》《徹底解説》核と軍の拠点・青森県《後編》

森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
《報告》「『原発被害』って何だろう?」を共有する
 近畿三訴訟団「近畿訴訟団交流会」

木村三浩(一水会代表)×板坂 剛(作家/舞踊家)
《対談》民族派と左翼の融合は可能か《後編》

淀川乱歩(SF作家)
《奇想科学小説》マロ博士の島

平宮康広(元技術者)
《報告》石炭火力発電vs原発および再エネ発電〈1〉

再稼働阻止全国ネットワーク
司法は再稼働を推進するな! 市民運動と原発訴訟
《北海道》小野有五(北大名誉教授、行動する市民科学者の会・北海道)
泊原発の再稼働をめぐって
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
特重施設の猶予延長を許すな
《柏崎刈羽》小木曽茂子(再稼働を考える県民ネットワーク事務局)
新潟はあきらめない!
《東海第二》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
原電は水戸地裁判決に従い、東海第二原発の再稼働を断念せよ
《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
静岡地裁は原告の不正主張を看過し、浜岡原発訴訟を強行に終結
《志賀原発》藤岡彰弘(廃原発watchers能登・富山)
矜持の見られない二つの判決、審理進行にめげない!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「嘘・騙し」「データねつ造」「トラブル隠ぺい」「約束反故」なしには動かせない原発と決別し、自然エネルギーのみで成り立つ社会を!
《島根》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
住民の安全を脅かす島根原発2号機の再稼働 安全神話を復活させる国と思考停止する司法を許さない!
《四国》小倉正(原発さよなら四国ネットワーク)
伊方原発をめぐる四県の仮処分/本訴の闘いと市民運動
《佐賀》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会代表)
裁判に至るまでの道のりは突然ではなかった
《鹿児島》向原祥隆(ストップ川内原発!3・11鹿児島実行委員会共同代表)
敷地内乾式貯蔵を阻止して停止に追い込む
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
空しい規制委への異議申立・長引いて良かったテント裁判
《本の発掘④》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク)
『3・11と憲法』(森英樹・白藤博行・愛敬浩二編 日本評論社)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?group=new
◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0GZZQWL9T

復興へ16年目に入った福島、もうすぐ創刊12年を迎える本誌『季節』 明日への道は決して楽ではないが、共に歩き続けよう!

季節編集委員会

福島で原発事故が発生して本年3・11で15年を迎えました。その日に本誌を発行し、次のステップに歩み始めました。

また、本誌も、すでに一昨年創刊10周年を迎え、今年12年を迎えようとしています。なんとか10年を越えたことで、本来なら部数ももっと多くならなくてはなりませんが、私たちの非力で、そうはならず、逆に減りつつあります。

福島の現況も、事情あって故郷を離れた方々の実情も、本誌の現状も、また総体的な将来への展望も、厳しいものがあります。

福島の現況は、わが国の現況です。すなわち厄介者は切り捨てるという棄民政策が跋扈しています。15年経っても政府は脱原発への道筋を提起しえないでいます。むしろ、なし崩し的に原発回帰、そしてこれに対する諦めの気持ちが支配しているかのようです。

今夏も厳しい暑さが予想されますが、古くはオイルショック(1973年)後や3・11後のような節電の呼びかけもなされず、私たちもその気持ちを忘れたかのように思えます。

この国では、大地震はじめ多くの天災が毎年起きます。そのたびごとに節電、節約が叫ばれますが、いつか忘れられ今に至っています。

原発も老朽化が進み、このままでは大事故がいつ起きても不思議ではありません。

福島のこれまでの歩みや現況を顧みるに、原発は百害あるだけです。決して危機感を煽るわけではありませんが、いつ爆発するかわからない老朽原発は、爆弾を抱えているようなもので、即停止→廃炉にすべきです。

本誌に継続的にかかわってこられている小出裕章さん、今中哲二さん、また元裁判官で原発を止める判決を出された樋口英明さん、井戸謙一さんらが、私利私欲を棄て、なぜここまで反(脱)原発に奔走されるのか、非常に学ぶことが多々あり、私たちが本誌を継続しているエネルギーになっています。ありていに言えば、すべてはこの国、この社会、ここで生きる子や孫のためということでしょうが、やはりチェルノブイリや福島のような原発事故を繰り返してはならないという想いが残っています。この想いが残っている限り、困難は承知のうえで、唯一の反(脱)原発雑誌を継続していく決意ですので、今後ともよろしくお願いいたします。

昨年同様酷暑が予想される今夏、気持ちを強く持って共に頑張りましょう!

2026年6月 季節編集委員会

季節2026年夏号
『NO NUKES voice』改題 通巻46号
紙の爆弾2026年7月増刊
2026年6月11日発行
A5判 132ページ 定価770円(税込み)

《グラビア》原発事故〈収束〉と被災地〈復興〉という欺瞞(北村敏泰)

樋口英明(元福井地裁裁判長)
《報告》なぜか、裁判官が辞めていく 

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《インタビュー》柏崎刈羽原発再稼働の不安 老朽原発は事故を起こす

木村英昭(ジャーナリスト)
《報告》原発を巡る三年間の動向 ── 時系列が可視化する統治の変化

高橋博子(奈良大学教授)
《報告》日米両政府の核兵器観 放射性降下物・残留放射線・内部被ばく

後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
《報告》脱原発の思想 日本はなぜ脱原発に向かわないのか

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
《報告》東京電力「原子力中核企業化」戦略の内実

菅野みずえ(「ALPS処理水を海に流すな」裁判原告)
《インタビュー》私の15年、3・11はまだ続く

北村敏泰(ジャーナリスト)
《報告》まやかしだらけの「復興」
 十六年目も終わりはない東北三県の被災地から

和田央子(イノベーション・コースト構想を監視する会)
《報告》高市軍拡政権と福島イノベーション・コースト構想

末田一秀(関電株主代表訴訟原告/はんげんぱつしんぶん編集長)

《報告》関電株主代表訴訟の闘い 原発地元への不正な金の流れを断ち切るために

守田敏也(フリーライター)
《報告》浜岡原発基準地震動捏造問題が示すもの
 原発再稼働は六層の点で認められない

中道雅史(核燃料廃棄物搬入阻止実行委員会事務局長)
《報告》《徹底解説》核と軍の拠点・青森県《後編》

森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
《報告》「『原発被害』って何だろう?」を共有する
 近畿三訴訟団「近畿訴訟団交流会」

木村三浩(一水会代表)×板坂 剛(作家/舞踊家)
《対談》民族派と左翼の融合は可能か《後編》

淀川乱歩(SF作家)
《奇想科学小説》マロ博士の島

平宮康広(元技術者)
《報告》石炭火力発電vs原発および再エネ発電〈1〉

再稼働阻止全国ネットワーク
司法は再稼働を推進するな! 市民運動と原発訴訟
《北海道》小野有五(北大名誉教授、行動する市民科学者の会・北海道)
泊原発の再稼働をめぐって
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
特重施設の猶予延長を許すな
《柏崎刈羽》小木曽茂子(再稼働を考える県民ネットワーク事務局)
新潟はあきらめない!
《東海第二》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
原電は水戸地裁判決に従い、東海第二原発の再稼働を断念せよ
《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
静岡地裁は原告の不正主張を看過し、浜岡原発訴訟を強行に終結
《志賀原発》藤岡彰弘(廃原発watchers能登・富山)
矜持の見られない二つの判決、審理進行にめげない!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「嘘・騙し」「データねつ造」「トラブル隠ぺい」「約束反故」なしには動かせない原発と決別し、自然エネルギーのみで成り立つ社会を!
《島根》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
住民の安全を脅かす島根原発2号機の再稼働 安全神話を復活させる国と思考停止する司法を許さない!
《四国》小倉正(原発さよなら四国ネットワーク)
伊方原発をめぐる四県の仮処分/本訴の闘いと市民運動
《佐賀》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会代表)
裁判に至るまでの道のりは突然ではなかった
《鹿児島》向原祥隆(ストップ川内原発!3・11鹿児島実行委員会共同代表)
敷地内乾式貯蔵を阻止して停止に追い込む
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
空しい規制委への異議申立・長引いて良かったテント裁判
《本の発掘④》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク)
『3・11と憲法』(森英樹・白藤博行・愛敬浩二編 日本評論社)

反原発川柳(乱鬼龍 選)

◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?group=new
◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0GZZQWL9T/

『紙の爆弾』7月号に寄せて

『紙の爆弾』編集長 中川志大

「高市早苗首相のウソ」がにわかに話題となっています。その大きなきっかけとなったのが、ラジオ番組での適菜収氏による指摘だったわけですが、同番組で適菜氏は、「高市のウソ」を調べたきっかけとして、「なんで(電波停止発言や旧統一教会関連疑惑など問題ばかりの)こんな人間が政治家になって、ついには総理大臣になってしまったわけですよね。これがちょっと不思議で」と最初に話しています。この問い自体が重要で、本誌で特集した「ガーベラの風」イベント(5月16日)に登壇した孫崎享氏も、同じ問いを投げかけています。その答えが孫崎氏の記事にあります。

5月22日、ロシアが掌握するドンバス地方のルハンシク州スタロビルスクにある大学寮をウクライナ軍のドローンが攻撃。ロシア側の発表によれば21人が死亡、負傷者も多数。現場でロシア人権担当委員が英BBCや米CNNに加え、日本の記者が取材しないことを指摘し、ザハロワ報道官は「日ロ関係」を質問したNHK記者に「スタロビルスクをなぜ取材しないのか」と“逆質問”。記者が「上司から『取材をするな』といった命令があったわけではない」「単に時間がなかった」と弁明するシーンがSNSで注目を集めています。以前から報道官は、「日本の記者はモスクワで何をしているのか?」とたびたび問いかけていました。加えていえば、プーチン大統領は「我々はウクライナの背後にいるアメリカやヨーロッパとは対立しても、日本と対立しているような覚えはない」といった主旨を発言しています。なぜ無関係の日本がやたらと反ロシアにこだわるのか、という疑問が報道官の“逆質問”の背景にあるのでしょう。

西側諸国に従い人命・人権に関わる戦争の現場を取材せず、隣国ロシアとあえて対立することで、日本にどのようなメリットがあるのか、首を傾げるほかありません。そして、このことは、今月号の巻頭記事「高市首相の最大の嘘」とも関わります。「最大の嘘」が何であるかはぜひ本誌をお読みいただくとして、高市首相が「ナフサは足りている」と言わざるをえないことには理由が存在します。そして、冒頭の適菜氏の「なんでこんな人間が総理大臣になったのか」にもつながります。

ほか7月号では、2月総選挙における中道改革連合の敗北をはじめ日本政治を語った鳩山友紀夫元首相の講演を収録。政治経済学者の植草一秀氏が高市内閣の「究極の売国経済政策」を解説。「新・新党」も取り沙汰される中道については小川敏夫・元立憲民主党参院議員の“直言”も掲載しました。さらに、南極行きのクルーズ船で“集団感染”が報じられたハンタウイルスと旧日本陸軍731部隊の関係、「保守派」が「男系」にこだわる理由、国家情報会議やスパイ防止法の実態、高市首相が関与を否定した「サナエトークン」の本来の目的など、今月号も独自の視点からのレポートをお届けします。

『紙の爆弾』は全国の書店で発売中です。ぜひご一読ください。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

『紙の爆弾』2026年7月号
A5判 130頁 定価800円(税込み)
2026年6月6日発売

「現実」が高市政権を終わらせる 高市首相の最大の嘘 孫崎享
日本政治の対米隷属を打破するために 鳩山友紀夫
高市内閣デタラメノミクス 究極の売国政策 植草一秀
制約なき国家諜報体制「国家情報局」の実態 足立昌勝
スマホの中で起きている新しい戦争 デジタル主権戦争 昼間たかし
元自民党議員秘書が明かした「中傷動画」と「サナエトークン」の本当の目的 片岡亮
「保守派」が強調する「歴史と伝統」の欺瞞 皇室典範改正めぐる策謀 宮古諄三郎
成年後見制度改正 法制審議会にもの申す 鈴木慎哉
「中道改革連合」はどこに向かうのか 参院立憲の「中道」合流はない 小川敏夫
WHO総会直前の「集団感染」ハンタウイルス騒動と「パンデミック」の正体 早見慶子
日本よ自主外交を取り戻せ ロシア暴言王の遺訓 木村三浩
LGBT問題の現在 リベラルという陶酔 西園寺あかり
沖縄をなめるな!「最強の沖縄」に続く第三の道 下地幹郎
嘘つきサーニャの今週のハイライト! 佐藤雅彦

〈連載〉
例の現場
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け:西田健
「格差」を読む:中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座:東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER:Kダブシャイン
「絶望ニッポン」の近未来史:西本頑司
芸能界 深層解剖

◎鹿砦社 https://www.kaminobakudan.com/
◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0H38ZPMRW/

〝保護〞の名の下に同意なき親子分離 子どもたちが語った「児童相談所」の人権侵害

たかさん

◆千葉中央児相が強制した「婦人科検査」と親子分離

2025年8月6日、千葉県庁の記者会見室で、千葉中央児童相談所による「一時保護」を経験した3人の子どもたち(いずれも少女)が、自ら書いた原稿を手に持ち、報道陣に向かって1行ずつ読み上げていった。「児相と親子の架け橋千葉の会」が主催した会見の様子はユーチューブで観ることができるが、新聞やテレビなど主要メディアがこの証言を報じた形跡は、私が確認した限り見当たらない。

「同意なき親子分離」を経験した3人が共通して訴えたのは、単純な「親を庇いたい」という話ではない。児童相談所による突然の一時保護で、学校にも行けず友だちとも家族とも連絡が絶たれる、何も悪いことをしていないのに人生の重大な決定を他人に勝手に決められる、「子どもの安心・安全」の名の下に子どもの尊厳と未来が削られているという、制度そのものへの深い違和感だった。

まず、それぞれの事例を簡単に整理しておきたい。

①小学1年生のとき、父親に叩かれたことを学校で話した結果、「今日だけお泊まり」と言われて一時保護となり、家族と話せない生活を強いられ、解除条件として「両親の離婚」「父に知られない転居」「ランドセル以外の思い出の品の処分」を求められた。「見ず知らずの大人が表面的なことから勝手に虐待家庭と想像して話を進められた」というのが彼女の目に映る児相の対応で、「使い古しの下着を渡された」「勉強はドリルを渡され、職員から勉強を教えてもらうことはなかった」と、辛い想いを口にした。兄は転校先でいじめに遭い自殺未遂に追い込まれたという。

②小学4年生のとき、ゲームに興じていると、構ってほしがった父親が後ろから抱きつき胸に触れてしまったことを学校で話した。それが「性的虐待」とみなされ、一時保護・父子分離にされた。保護解除後も「父と2人きりにならない」「父に触れない」「必ず腕1本分の距離を空ける」などの条件が課された。彼女は「保護してくれてありがとうと思ったことは1度もない」と言い切った。

③小学6年生のとき、養護教諭への相談をきっかけに「性的虐待の疑い」とされ、「数日お泊まり」と説明されながら約70日の身柄拘束と、産婦人科での検査。「お父さんと暮らしたい」と訴えるも、父との別居・通信制限を一時保護の解除条件とされた。

3人は連名の要望書で、次のようなことを千葉県に求めた。

1 一時保護で子どもたちがどのような扱いを受けているのか国民に正確に知らせ、制度を根本から見直すこと。

2 一時保護所で家族との面会・勉強・自分の服・運動や趣味など人間として当たり前の生活を保障すること。

3 児相職員・親・子どもが「同じ場」で話し合い、子どもの意見を反映できる仕組みをつくること。

どれも「本来なら最初から備わっているべき最低ライン」と言っていい。

本稿では3人のうち、小学6年生のときに千葉中央児童相談所に一時保護された前記③の少女(以下、Aさん)のケースについて詳述する。もはや「相談所」の看板がふさわしいとはいえない現実が、そこにはあった。

◆「相談」と「疑い」がきっかけだった

Aさんが千葉中央児童相談所に一時保護されたのは、2024年4月15日。小学6年生だった。会見で語った保護のきっかけは、こうだ。

Aさんが「お父さんがふざけて胸を触ってくるのが嫌」だと、学校の養護教諭に相談すると、学校から「性的虐待の疑い」として児童相談所に通告がなされた。児相の職員から「数日お泊まりするがいいか?」と聞かれ、「数日ならいいかと思って『わかりました』と答えた」。すると、そのまま車に乗せられ、一時保護所での生活が始まった。

同日に始まった一時保護が解除されたのは6月26日。「数日お泊まり」といわれて連れて行かれたAさんは、実際には2カ月以上、約70日間、家に戻れなかった。児相は最初の一言から、すでに子どもとの信頼関係を裏切っている。Aさんにとって、この制度との出会いは「保護」ではなく「ウソ」として刻まれた。

刑事手続きの世界なら、人の身柄を数日以上拘束するには、勾留請求・裁判官の審査・弁護人の関与という厳格なステップが必要だ。

児相の一時保護は、「数日」という柔らかい言葉を入り口にしながら、現実には裁判官の顔が見えないまま、長期拘束へと姿を変えていく。

◆婦人科検査という「二次被害」

ここから先はhttps://note.com/famous_ruff900/n/nf2b48731cf8f

月刊「紙の爆弾」4月号から一部記事を公開。独自視点のレポートや人気連載の詰まった「紙の爆弾」は全国書店で発売中です(毎月7日発売。定価800円)。書店でもぜひチェックしてください。最新号の記事タイトル一覧はホームページをご覧ください。

イラン戦争が示す高市政権「トランプ媚従」の末路

堀茂樹 構成・本誌編集部(紙の爆弾2026年6月号掲載)

2月28日、イランの首都テヘランへの空爆に始まった米国の戦争は、そもそも目的が明確でない。しかし動機は見え透いている。米国は、今日なお自国が世界を仕切る超大国であることを示したいのである。

実は、第二次世界大戦後の米国は、世界各地で戦争を仕掛け、毎度敗退してきた。ただし本土を攻められたことがないため、ベトナム戦争のような明らかな例を除けば、世界の人々は米国が敗北したとは認識してこなかった。

しかし近年、歴史学者エマニュエル・トッドも指摘するとおり、米国はウクライナを介した代理戦争でロシアにはね返され、関税を武器にした経済戦争では中国に力負けした。そして今回、空爆やミサイルによる直接的な戦争をイランに仕掛けたが、戦場が米国本土から遠く離れた中東ということもあり、兵力の不足が隠せなくなってきている。わが国は、この基本的事実を踏まえて、今後の国防戦略を考え直さなければならない。

◆トランプとイランの間の「価値観」の隔絶

これまで米国は、政権転覆工作を含む他国への攻撃に際して、いつも「民主化」を大義名分としてきた。しかし、今回トランプは、「アメリカとイスラエルに対して友好的であればイランに民主化は必要ない」(3月7日)と言い放った。イランの核開発への懸念を語りながら、平和的な協議中にいきなりの騙し討ちでイランの最高指導者らを暗殺した。大義のない戦争、帝国主義的暴力をむき出しにする戦争であることを、米国は隠さなくなった。

こうなると、トランプの「アメリカファースト」は、他国とその国民を犠牲にしてでも米国の利益を図るエゴイズム以外の何物でもない。しかも、追求するのはカネばかり。連発される「ディール」という言葉がその象徴だ。カネ儲けを超える価値を、トランプは持ちあわせていないのではないか。

対照的なのがイラン側の人々で、彼らは少なく見積もっても、個人的な生命を超える価値にセンシブルだ。暗殺された最高指導者ハーメネイー師の最期は、殺される可能性を織り込み済みであったように見える。殉教ということのあり得る社会と、あり得ない社会の間には、途方もない隔絶がある。

ただし、個人を超える価値、生命を超える価値への感覚は、必ずしも宗教の教えに直接依存しているわけではない。宗教によって培われた形而上学的理念が、当該の宗教が下火になったあと、世俗化して人々を導くことがある。たとえば西洋近代の人権尊重は間違いなくキリスト教起源だが、宗教としてのキリスト教から離れ普遍化した。

エマニュエル・トッドの出色の指摘の一つによれば、西洋人一般が今のイランを原理主義的なイスラム教権国家と見做しがちなのは現実を知らないからである。モスクは熱気が溢れているとはいえない状態で、むしろふだんは「空いている」し、また、イラン人女性は非常に高い確率で高等教育を受けており、全員がヒジャブを被っているわけでは全くない。

かつて西洋諸国でキリスト教由来の世俗的価値観が公的なコンセンサスとなり、キリスト教会の権威を私的生活圏に追いやったのと似たプロセスで、実はイランも、1970年代末のイスラム革命にもかかわらず、ではなくむしろ、ほかでもないイスラム革命を契機として、しかもあの革命が打ち出した教義や戒律には反して、俄然近代国家に変貌しつつある、と捉えるべきであろう。

長い文明の推移がそのような途上にある国に、愚かにも西洋は外から力ずくで西洋風の民主制を押しつける。しかも、それは名目にすぎず、真の動機は覇権の誇示と金銭的利益の追求に尽きている。民主制を押しつけられた非西洋国の国内は通常、外からの圧力への対抗の必要に駆られ、一挙に保守化し、強権的な政体へと向かう。それが、2003年のイラク戦争を契機にイスラム国が誕生したのをはじめ、中東地域の多くで見られた経緯である。

ところが、今回イランは、反動に翻弄されるどころか、米国とイスラエルに対して冷静に、強靱に、そして自律的に対処しているように見える。米国とイスラエルは昨年6月に「12日間戦争」を仕掛け、今年2月末にはイランの最高指導者をいきなり暗殺した。そして得意の情報戦を仕掛け、イランによる核兵器製造や、国内のデモにおける4万人もの市民の殺害を吹聴した。しかし、内乱もレジームチェンジ(体制転換)も起こすことができなかった。イラン国民はむしろ団結している。

そこに如実なのは、蓄えられたリアルな戦力の充実に加えて、宗教自体というよりも、宗教をバックボーンとする倫理観の確かさ、個人の生命を超える集団的価値(=祖国)や形而上学的価値(=永遠)への信念の強さであるように思われる。

イランを支えるそんな思想を、トランプと、トランプが戯画的に代表する現代西洋は理解しない。対立は長期化しそうだ。

本誌発売時点の具体的な戦況を予測することはできない。それでも、かなり早い段階で、米国の敗北はすでに確定的であったと考えられる。少なくとも、私がしばしば参照するフランスの複数の独立系メディアは、3月末にはすでに米国の敗北を明白と判断して、分析・解説を行なっていた。

◆「自由」と「民主」のバリエーション

ここで、米国の掲げる「自由民主主義」について確認しておきたい。

民主主義における意思決定の基本は「多数決」、すなわちマジョリティの支配である。しかし「多数の暴力」という言葉があるように、多数で決めたことだからといって、個人の基本的人権を損なうことが許されるわけではない。そこに多数決の限界が考えられている。

一方で、個人の権利擁護を絶対化すると、意思の集約ができず、民主主義は成り立たない。それは自由主義的でリベラルではあるが、もはや民主主義とはいえない。
米国の自由民主主義は、何事につけ、個人の自由を優先的にする。裁判で金を持つ側が有利となるのも当然のことと考えるし、名門大学のグループであるアイビーリーグにも富裕層の子弟は財力で入り込みやすい。なんと学内で、富裕層の学生が、優秀な学生を家庭教師として雇っていることもあると聞く。米国は、個人の権利を中心に据えた新自由主義的な社会といえる。

ここから先はhttps://note.com/famous_ruff900/n/n91d9678ed5ca

月刊「紙の爆弾」6月号から一部記事を公開。独自視点のレポートや人気連載の詰まった「紙の爆弾」は全国書店で発売中です(毎月7日発売。定価800円)。書店でもぜひチェックしてください。最新号の記事タイトル一覧はホームページをご覧ください。

『紙の爆弾』6月号に寄せて

『紙の爆弾』編集長 中川志大

前号(5月号)ではジャーナリストの乗松聡子さんと木村朗・鹿児島大学名誉教授、今月号では堀茂樹・慶応大学名誉教授に、イラン戦争の分析をお願いしました。前号は情報戦・認知戦を中心に解説、今回は「西側」「非西側」そして「日本」の社会のありようと、「グローバリズム」への分析などにも焦点を当てました。さらに第二次世界大戦当時のアメリカと現代中国の比較は、ほかにない観点でありながら、誰もが納得できるものです。

高市首相の「媚米」ぶりが、日米関係を、これまでになくわかりやすく可視化しました。最近、「対米従属」という言葉をよく聞くようになったのは、そのためでしょう。ただし、「だからどうするか」ということでは、いまだ「日本の安全保障は米国抜きには成り立たない」との論から脱せていないように思います。もはや本誌では、「対米自立」はメインテーマの一つとなっています。「日米同盟は存在しない」とたびたび指摘してきたのが一水会・木村三浩代表で、中国脅威論しかり、幻想を打ち砕くことが必要です。

4月28日、「出光丸」のホルムズ海峡通過が代替的に報じられると、翌日に高市首相は「私自身も、(イランの)ペゼシュキアン大統領に対して、こうした我が国の立場を申し入れました」とXにポストし自身の手柄かに語りましたが、一方で同日の在日イラン大使館のポストは「出光興産が所有する日章丸の1953年の歴史的な任務─イラン産石油を日本へ輸送したこと─は、両国間の長年にわたる友情の証として残っています」。もし高市首相のアピールが正確であれば、出光以外の船舶も通過できるはず。またもや根拠のない、いい加減な発言が明らかになっています。さらに「高市人気」も、私たちが自ら考えることをあきらめさせる、ある種の幻想といえるのかもしれません。そう考えると、日本政府の「情報戦」は国内・国民に向けられているようで、それがもっともわかりやすく表れているのがスパイ防止法です。

そして、「パランティア」。その危険性をもっともわかりやすく解説したのが昼間たかし氏の記事で、デジタル主権の問題を正確に捉える必要があります。高市政権がスパイ防止法や国家情報局設置で対策するのは、中国・北朝鮮・ロシアといった「外国」だが、Google、Apple、META、Amazonなどの企業をまったく問題視しないと記事は指摘。むしろこれら巨大テックに、個人がその認知と行動を設計される段階にきています。

また今月号では、足立昌勝・関東学院大学名誉教授が再審制度見直し議論を解説。このテーマを掘り下げると見えてきたのが、日本の冤罪構造でした。自民党内の議論では稲田朋美衆院議員の言動が注目されています。弁護士として最低限の矜持を守ったと評価すべきではあるものの、のいう通り問題はこれからで、今後も主張を続けることができるかに注目する必要があります。

ほか、れいわ新選組が迎える“分岐点”、イスラエルの核攻撃戦略、岡山県警元警視の女性記者に対する「不同意わいせつ事件」冤罪の可能性、京大吉田寮をめぐる裁判と現在など、6月号も独自の視点からのレポートをお届けします。
「紙の爆弾」は全国の書店で発売中です。ぜひご一読ください。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

『紙の爆弾』2026年6月号
A5判 130頁 定価800円(税込み)
2026年5月7日発売

イラン戦争が示す高市政権「トランプ媚従」の末路 堀茂樹
日本政府「危機感ゼロ」という恐怖 CIA企業パランティアの危険性 昼間たかし
警察・検察・裁判所、そして法制審「再審制度見直し」に表れた冤罪構造の深層 足立昌勝
中東の核を独占する「ベギン・ドクトリン」イスラエルの核攻撃計画 青柳貞一郎
「弱者に寄り添う政党」が迎えた分岐点 れいわ新選組 騒乱の真相 鮫島浩
『USAを盗んだ男』が暴く国家私物化の実相 なぜ世界はトランプを止められないのか 白坂和哉
行政と成年後見制度に殺された私の父 富加見直子
“数字”が人間の思考を奪う AI管理される「人気」と「世論」 片岡亮
政府の対米従属を国民が批判すべし 世界多極化で高まる「日ロ相互理解」の重要性 木村三浩
大阪関西万博・安倍暗殺・鳩山政権…映画『ニッポン狂想曲』の真相追究 太田隆文×木村朗
兵庫県文書問題とトランスジェンダー問題 三浦俊彦
六年半続いた裁判が終結 京大吉田寮と学問の公共性 板谷めぐみ
サナエのイチ推し『ヒトラー選挙戦略』を読む2 佐藤雅彦
日本の冤罪 警視女性記者性加害事件 片岡健

〈連載〉
例の現場
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け:西田健
「格差」を読む:中川淳一郎
シアワセのイイ気持ち道講座:東陽片岡
The NEWer WORLD ORDER:Kダブシャイン
「絶望ニッポン」の近未来史:西本頑司
芸能界 深層解剖

◎鹿砦社 https://kaminobakudan.com/
◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0GZ6C2TVV/