コロナ下の災害対応は「ボランティア頼み」ではなく、「現場公務員補充」重視の行政で! ── 広島水害ボランティアに参加してわかったこと さとうしゅういち

ご承知のとおり、2021年8月11日から14日頃にかけて、九州地方と広島県内では一時は大雨特別警報が発令されるほどの大雨となりました。広島県内では、広島市安佐南区の祇園山本という場所で総雨量が700ミリを突破。観測点近隣の安佐南区や西区では大規模な土砂災害が広島土砂災害2014(2014年8月20日)や西日本大水害2018(2018年7月6日)に続いて発生しました。周辺自治体でも、安芸高田市や北広島町、竹原市などで浸水などの被害が相次ぎました。

わたしは、8月29日、土砂の除去作業などのボランティアに政治活動上の事務所もある地元の安佐南区の被災現場に入りました。広島は8月に入って全国同様に新型コロナウイルス感染者が爆発的に増加、27日には緊急事態宣言が出されるありさまでした。今回は「コロナ」と「水害」のダブルパンチ状態の現場から報告・提言します。

◆2度の大水害による危機感で、人的被害は最小限に

2014年水害の安佐南区八木(筆者撮影)

今回の水害でも、田んぼの様子を見に行くなどして流されて亡くなられたり、行方不明になられたりした方はおられました。ただし、今回は2014年、2018年のような、大規模な土砂災害により多数の犠牲者が出る、という最悪はさけられたのは、不幸中の幸いです。

2014年の土砂災害は、広島市安佐南区東部の山沿いからJR可部線・国道54号線に沿うように、安佐北区の可部地区、さらには安芸高田市の一部に異常に強い雨雲がかかり、短時間に猛烈な雨が降ったことでもたらされ、関連死ふくめ77人が犠牲になりました。

2018年の西日本大水害は、広島、岡山、愛媛を中心に広い範囲で3日間の総雨量が400ミリ程度に達するという形でもたらされました。平野部に大きな川が流れる岡山(64人が死亡・不明)では洪水による犠牲者、山間部に住宅地があり、多くの人が住んでいる広島(114人が死亡・不明)では土砂災害による犠牲者が広範囲で顕著でした。

今回は広島の総雨量はおおかったものの、猛烈な雨が降る時間帯がほとんどありませんでした。わたしがボランティア活動で伺った場所でも、2018年や2014年のような「土砂が1m近くつもっている」という状況ではありませんでした。水分を含んで重いのには閉口しましたが、土砂の厚みは10数センチというところでした。

それでも、多くの砂防ダムが土砂で満杯となっていましたし、実際に物理的な土砂災害、浸水被害も多く出ており、犠牲者が出てもおかしくはありませんでした。

やはり、今回は2014年、そして2018年の大災害の教訓が生かされたといえるでしょう。

2018年水害南区似島の土砂(筆者撮影)

2014年の広島土砂災害の後も、被災地以外の県民や地方議員の間には「他人事」のような空気が感じられました。もちろん、多くの県民が、あの時はボランティアにかけつけました。ただ、まさか、自分のところでおきるということまでは具体的にイメージされていた方は少なかったようです。しかし、2018年の大水害では、2014年に被害がなかった安芸区、南区や東区でも大きな被害が出ました。

「2014年の災害の後、砂防ダムができて大丈夫と思っていた。だが、他方でそうはいっても、想定外の災害が続いているので、怖いから早めに避難した。」(今回うかがった被災地在住の30代男性)などの声を多くうかがいました。危機感の高揚が多くの命を救ったのはたしかです。

◆国・自治体の対応は改善も、引き続きチェックが不可欠

今回の水害にあたっては、以前よりは行政も迅速な支援をしています。広島市は、前回2018年の水害に続いて、民有地の土砂の撤去を市で行う、業者に頼んだ場合にはその費用を市が後払いすることを決めました。また、罹災証明書の発行手数料を無料にするなどしています。

国も激甚災害指定をいち早く表明しました。これには、主な被災地である広島3区の与党候補が国土交通大臣を擁する公明党大物であるという背景はあるでしょう。本来は選挙の思惑とは関係なく復旧支援はするのが筋ですが、前回の安倍晋三さんの「宴会三昧」よりは進歩です。

ただ、2度の水害がおきる前は、広島県もまるで「災害が起きない」ことを前提としたかのような新自由主義路線だったことは忘れてはいけません。そして、それが今回の大水害でも、そして今後起き得る災害でも不安材料です。広島県は河井案里さんと不倶戴天の政敵だった前知事のもと、86あった市町村を23に合併させました。そして、県職員は採用の異常な抑制などで削減して、県の仕事は市町村に渡したのです。

しかし、受け皿となる市町村も、合併後に地方交付税を減らされ、現場公務員を総体として減らさざるをえなかったのです。とくに、合併された側の旧市町村への公務員の配置が手薄になりました。その結果として、2018年の大水害からの復旧はすすんでいません。「予算がついても職員を減らしすぎて事業を回せない」(広島市内の県議)のが実態です。

2021年の参院選広島再選挙でわたしが回った際もいまだにブルーシートがかかったままの被災箇所がありました。また、ある2018年最大の被災地では「ここに来てくれた候補者はあなただけだ。あなたに投票する」というお言葉を頂きました。だが、そもそも二大政党の候補者が広島都市圏とは縁が浅い落下傘気味の方だったとはいえ、被災地に無関心だったのは大問題です。

引き続き、県民の皆様による、自治体や国政政党へのチェックは不可欠です。

[写真左]2021年水害の土嚢と土砂の跡、[写真右]2021年4月でも2018年西日本大水害のブルーシートが土砂崩れの山肌を隠すようにまだ残る(筆者撮影)

◆コロナで「ボランティア頼み」に限界――現場公務員補充・サンダーバード創設を

今回の水害の復旧にあたって、新型コロナウイルス感染爆発の中、県内各自治体とも、他の自治体からのボランティア受け入れはしない方針です。善意が感染爆発を加速させたら元も子もないので、仕方がないことです。わたし自身も、今回、安佐南区よりも被害が大きいと報道されている西区田方地区や、安芸高田市、北広島町に入りたい気持ちはありました。西日本大水害2018でもわたし自身、安佐北区口田南や南区似島、安芸区矢野地区、坂町小屋浦地区などにはいっています。しかし、今回は自重して事務所のある安佐南区限定の活動をさせていただきました。

とはいえ、もし、災害の規模が西日本大水害2018並みであった場合にはどうだったでしょうか? 考えるだけでぞっとします。土砂の除去作業なども進まず、衛生状態もさらに悪化するなど、悲惨な事態になったかもしれません。

1995年の阪神淡路大震災、そして2011年の東日本大震災。そして、西日本大水害2018などで、ボランティアの活躍が注目されました。

たしかに、ボランティア精神は素晴らしい。行政ではやりにくい、きめ細かなことを機動的におこなうなど、ボランティアは「自発的」(※本来、無償とは限らない)であるがゆえの優位性はあります。

しかし、とくにこの20数年間、行政の側が「ボランティア精神」にただのりして、本来付けるべき予算をつけなかったりしていたのではないでしょうか? とくに、西日本大水害2018の際に当時の安倍晋三総理が連日のように宴会やゴルフに興じて、被災地を軽視してきたのは、「ボランティアがなんとかしてくれるからそれにただのりしている」面もあったのではないでしょうか?

だが、コロナのもとで、それは通用しなくなりました。それぞれの自治体で現場公務員を補充するべきは補充していく必要があります。

そして、もうひとつは、気候変動の中で、こうした大規模災害は国内外とわずして増えています。これからも増えるのは避けられません。日本は災害超大国であり、災害に対応するノウハウはそれだけに蓄積されています。それをいかして国内外の災害に対応する災害救助隊=サンダーバードを創設することを改めて提案します。それこそが、日本がすべき国際貢献のひとつです。世界最初の戦争被爆地であり、この7年間で3度も激甚災害クラスの災害に見舞われた広島から訴えるものです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/29547261/

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なめられているのは広島市民! 根深い「政策不在」の広島政治 「河井夫妻」だけが問題なのか? さとうしゅういち 

河井案里さんが当選(有罪確定で無効)になった参院選広島2019。その後、夫の克行被告と共謀しての前代未聞の買収事件が発覚し、夫妻とも2020年6月18日、東京地検特捜部に逮捕され、案里さんは東京地裁での有罪判決を控訴せず、2月4日、当選無効が確定。克行被告は衆院議員をやめたものの、一審の実刑判決を不服として控訴しています。

両者ともきちんとした説明責任はいまだはたしていません。また、1億5,000万円のお金を案里さん陣営に出した側の当時の自民党総裁の安倍晋三さんもなんら責任をとっていません。4月25日執行の参院選再選挙においては、自民党候補は落選したものの、市議・県議はどこふく風です。とくに案里さんから直接もらった県議4人については、案里さんの有罪が確定した以上は、お辞めになったうえで、検察になにもいわれなくとも自首するのが筋です。しかし、8月28日現在、誰もなんのアクションも起こしていません。広島市内の有権者は、まだ、政治家になめられています。

2019年広島の参議院選挙

◆河井案里さん=政策不在・物量重視の選挙手法に真っ向から挑んで

買収事件をめぐる夫妻の金権政治については、多くのマスコミも切り込んでおり、ここでは多くはふれません。今回は広島の政治における「政策不在」についてお話しします。

まず、河井夫妻、とくに案里さんの政治手法は2003年に県議に初当選された直後は同期の女性議員とともに、県内の女性の声を聞いてあるく真面目な手法をとっておられました。

しかし、2009年に知事選(落選)に立候補したあたりからおかしくなってきました。わたしも、案里さんの街頭演説を2009年知事選、あるいは、2019参院選でも拝聴しました。しかし、「まったく新しい政治を」と叫ぶものの中身がないのです。おなじ自民党推薦の現知事や現市長を批判することで、現知事や市長に不満なひとたちを取り込もうとしている狙いはわかるのですが、肝心の彼女自身の政策が見えないのです。

こうした案里さんの政治姿勢に疑問をもったわたしは、2011年4月の県議選安佐南区選挙区で彼女と対決するために広島県を退職しました。選挙運動中に実感したのは、案里さん陣営のハンパない物量でした。とにかく、街中、案里さんのイメージカラーのピンクの看板やビラが洪水のように溢れているイメージです。

対するわたしは、最低限の費用で挑みました。彼女がわたし(4278票)の約5倍の票を取ってダントツのトップ当選。わたしは供託金は回収できたものの、当選にいたりませんでした。

◆「よくあれだけの票を取ったな」とびっくりされてびっくり

再選挙

選挙後、案里さんの地元のいろいろな方に「よくあれだけの票を取ったな?!」と驚かれました。

いや、わたしからしたら、「まったくといっていいほど政策がない案里さんがあんなに取った」ことが驚きなのですが。その、ギャップにまた二重にびっくりしました。

「広島の選挙や政治において、政策など、まったく関係ない」というのが実態なのです。

◆「地元・広島が一番政策不在」だった

わたしは、実は、「全国フェミニスト議員連盟」という団体に所属しています。仲間の女性議員・候補の応援に国政・地方関係なく、沖縄以外の全国にお邪魔した経験があります。「保守的」といわれる地域もみてきました。しかし、自分自身が立候補してみて、「地元の広島が一番政策不在だった」ということを実感しました。当時としても珍しく広島県議選と市議選には選挙公報がなかったことも影響していることもそれに拍車をかけました(2019県議選からようやく発行される。)。

◆広島の既成与野党へのアンチとして期待された案里さん

そして、さらに、複雑なのはそもそも、案里さん自体が既存の政治家、すなわち、「東大京大卒高級官僚出身のとくに男性国会議員」「世襲の腐りきった地元の政治家」「大手企業正社員・正規公務員中心の労働組合出身の野党議員」へのアンチテーゼとして、一世を風靡していたことです。わたしは、県議選安佐南区選挙区での敗北後も、政治活動を続ける中で以下のよう声をたくさんうかがいました。

「慶応ガールの河井なら東大京大卒男性高級官僚出身にはわからない女性の声も取り上げてくれそう。」

「女性の河井なら、大手企業正社員中心の組合出身の男性よりは、非正規労働者の味方をしてくれそう。」

「市町村合併を強行して地方を疲弊させた前知事にガツンと言った河井なら期待できそう。」

実際に、広島の既存の政治家もぱっとしなかったは事実です。

前知事(故人、1993-2009在任)は市町村合併を全国レベル以上に強行。86ある市町村を23に減らし、公務員も大幅に減らしました。保健所も全国の半減どころか3分の1にしました。大阪府知事ら「維新の会」がやっていることは広島県で前知事がとっくの昔にやっていたのです。

その結果、西日本大水害2018では復旧・復興にも苦労しています。広島県政の主流派もかくのごとくひどいのです。そして、その前知事の巨額買収疑惑をめぐって2006年に「男らしくやめなさい」と追及したのが案里県議でした。広島自民党の主流は新自由主義。野党も野党でとくに原発推進企業労組の影響がつよいなか、歯切れがわるい。そういうなかで、案里さんは頭角を現したのです。お金をばらまいたから当選した、安倍さんや菅さんの後押しがあったから当選した、というのは間違いではないが、一面的な見方です。

案里さんは「維新塾」にも参加されており、(中身がなくても)「ガツン」という物言いでウケをとることに磨きがかかったともいえます。

そもそも、買収であるならば、他の自民党国会議員も、表面上は合法な地方議員の政治資金団体へのカンパとしてやっていることではあるのです。それと引き換えに応援してもらってきたのです。

◆参院広島再選挙で「変わった部分」と「変わらぬ部分」

参院広島再選挙では、自民党もかつてのような地方議員を大々的に動員する、という手法はとれなくなりました。その結果、自民党の票が大幅に減るという形で投票率が下がりました。

一方で、「政策不在」については、与党はもちろん、野党もあまり変わっていないといわざるを得ません。

告示の数日前、地元の市民連合から「なんとか反自民で一本化できないか?」という打診をいただきました。

そこで、わたしは、(当選した)立憲民主党・連合広島など推薦の候補サイドに「伊方原発運転差し止めをふくむ原発ゼロ」を呑むなら「貴陣営への一本化もありうる」という話を持ちかけました。しかし、陣営の幹部の方からは「候補者は具体的な政策がわかる人ではない」という驚くべき回答(?)をいただきました。「これはだめだ。政策論争をきちんとしないと盛り上がらない」と考え、立候補を最終的に決断したものです。

しかし、マスコミも「与党対野党」の構図をおもしろおかしく伝えるだけで、公開討論会など、政策論争を盛り上げる仕掛けはまったくしませんでした。市民団体なども「まず、野党共闘ありき」で政策論争不在の政治を立て直すということには手が回らなかったように見えます。こうしたことから、結局、投票率は33%に留まりました。政策不在という部分は変わっていない広島の政治にうんざりの方が多いのです。

しかし、目前にせまった衆院選は核兵器禁止条約発効後、コロナ後、アメリカのアフガンでの敗北後、西日本大水害2018後、黒い雨裁判住民勝訴確定後、最初の衆院選挙です。大きな曲がり角にある中で、とくに核兵器禁止はもちろん、広い意味での平和でリードすべき広島が政策不在なままではいけん!

現在、さとうしゅういちは定例記者会見という名目でみなさまとかたりあうズームミーティングを毎週金曜日の20時から開催しています。広島・日本・世界をともにかたりあうことが、政策・政治姿勢本位の政治を広島からつくりなおすことではないでしょうか? お待ちしております。

◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/29547261/

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。

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